説明

SMCの製造方法

【課題】樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率の幅方向のバラツキを抑えることができるSMCの製造方法を提供する。
【解決手段】連続的に供給される2枚のフィルム2,2’上に樹脂コンパウンド1,1’を供給して塗布し、一方のフィルム2の樹脂コンパウンド1上にガラス繊維3を散布し、その上に他方のフィルム2’上の樹脂コンパウンド1’の塗布面を合わせて上下2枚のフィルム2,2’間に樹脂コンパウンド1,1’とガラス繊維3を挟み込んだ状態で上下から加圧してガラス繊維3間に樹脂コンパウンド1,1’を含浸させるSMCの製造方法において、フィルム2,2’上に樹脂コンパウンド1,1’を供給するに際して、樹脂コンパウンド1,1’の粘度に応じて樹脂コンパウンド1,1’の供給幅を調整してフィルム2,2’上の樹脂コンパウンド1,1’のフィルム幅方向の樹脂幅を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SMCの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、不飽和ポリエステル等の樹脂にフィラー、低収縮剤、硬化剤、内部離型剤等を配合した樹脂コンパウンドとガラス繊維とを含むシートモールディングコンパウンド(Sheet Molding Compound:SMC)の製造方法として、例えば、図5に示すようなSMCの製造装置を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図5に示す方法では、2つの巻出ロール30,30’から供給される各フィルム31,31’上に、ペースト状の樹脂コンパウンド32,32’を供給し塗布し、ガラスロービング33のガラス糸をロービングカッター34で一定の長さに切断したガラス繊維35を、樹脂コンパウンド32が塗布された下側のフィルム31上に散布し、その上に上側のフィルム31’上の樹脂コンパウンド32’の塗布面を合わせている。次いで、上下2枚のフィルム31,31’間に樹脂コンパウンド32,32’及びガラス繊維35とからなるSMC材料を挟み込んだ状態でSMC材料の材質に応じて連続的に強弱変動する予備押えロール36を通過させて含浸機37まで搬送し、含浸機37の下側及び上側の押圧ロール38,38’で押圧含浸を行う。含浸機37を通過した積層物39は回収手段40でロール状(またはつづら折れ状)に重ねられて梱包される。梱包された積層物39は、以後、熟成され、裁断機によって所定の大きさにカットされ、上下2枚のフィルムが剥がされて成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−66956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法において、含浸機では、樹脂コンパウンドとガラス繊維が均一になるように上下から加圧されてガラス繊維間に樹脂コンパウンドが含浸されるが、SMC材料のフィルム幅方向の両端部における樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率が中央部における比率と異なり、樹脂コンパウンドリッチまたはガラス繊維リッチになる場合があった。これは、フィルム上に塗布された樹脂コンパウンドの幅方向の拡がりの程度が想定していた範囲よりも過度に拡がったり、または拡がらなかったりすることが原因の一つとして考えられる。すなわち、樹脂コンパウンドをフィルム上に塗布した後の、フィルム上に塗布された樹脂コンパウンドの樹脂幅の拡がりの程度はその樹脂コンパウンドの粘度に応じて変わり、その拡がりの程度を考慮してガラス繊維を一定の幅で散布しているが、樹脂コンパウンドが拡がりすぎると樹脂コンパウンドの端部にはガラス繊維が散布されず、樹脂コンパウンドリッチになる。逆にあまり拡がらなかった場合には樹脂コンパウンドの端部の外側にガラス繊維が散布され、含浸工程でガラス繊維が混合されて端部がガラス繊維リッチになる。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率の幅方向のバラツキを抑えることができるSMCの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1には、連続的に供給される2枚のフィルム上に樹脂コンパウンドを供給して塗布し、一方のフィルムの樹脂コンパウンド上にガラス繊維を散布し、その上に他方のフィルム上の樹脂コンパウンドの塗布面を合わせて上下2枚のフィルム間に樹脂コンパウンドとガラス繊維を挟み込んだ状態で上下から加圧してガラス繊維間に樹脂コンパウンドを含浸させるSMCの製造方法において、フィルム上に樹脂コンパウンドを供給するに際して、樹脂コンパウンドの粘度が基準値より高い場合には供給幅を拡げ、基準値より低い場合には供給幅を狭めて、樹脂コンパウンドの粘度に応じて樹脂コンパウンドの供給幅を調整してフィルム上の樹脂コンパウンドのフィルム幅方向の樹脂幅を調整する。
【0009】
第2には、上記第1の発明において、フィルム上に樹脂コンパウンドを供給する前段の樹脂コンパウンドの送りポンプのモータの負荷から、既知の送りポンプのモータの負荷と樹脂コンパウンドの粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンドの粘度を求め、その求めた粘度と基準値とを比較する。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、樹脂コンパウンドの粘度に応じて樹脂コンパウンドの供給幅を調整してフィルム上の樹脂コンパウンドのフィルム幅方向の樹脂幅を調整しているので、SMC材料の幅方向の端部が過度に樹脂コンパウンドリッチまたはガラス繊維リッチにならず、樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率の幅方向のバラツキを抑えることができる。
【0011】
第2の発明によれば、送りポンプのモータの負荷から、既知の送りポンプのモータの負荷と樹脂コンパウンドの粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンドの粘度を求めるので、樹脂コンパウンドの粘度を粘度計等で直接測定する手間を省くことができ、SMC材料を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態であるSMCの製造方法を行うSMCの製造装置の概要構成図である。
【図2】樹脂コンパウンドのディップパンからフィルム上への塗布とその後のガラス繊維の散布を説明するための模式図である。
【図3】送りポンプのモータの負荷と樹脂コンパウンドの粘度との関係、及び、仕切り板間の間隔と樹脂コンパウンドの粘度との関係を示す図である。
【図4】ディップパンの仕切り板間の間隔の調整機構を示す模式図である。
【図5】従来のSMCの製造装置の一実施形態を示した概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に図面に沿って実施形態を示し、本発明のSMCの製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0014】
本実施形態は、例えば、図1に示すSMCの製造装置を用いて行う方法であり、フィルム2,2’上に樹脂コンパウンド1,1’とガラス繊維3とからなるSMC材料を供給して得られたフィルム2,2’とSMC材料からなるシート状の積層物4を搬送しつつ積層物4の上面側及び下面側から加圧してガラス繊維3間に樹脂コンパウンド1,1’を含浸させる。
【0015】
より詳しくは、巻出ロール5,5’から連続的に供給されるポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる離型性のフィルム2,2’を搬送ベルト6よりなる搬送装置7で搬送し、フィルム2,2’上にペースト状の樹脂コンパウンド1,1’をディップパン8,8’から供給して塗布し、一方のフィルム2の樹脂コンパウンド1上にガラス繊維3を散布する。ガラス繊維3は、ガラスロービング9から送り出されたガラス糸をロービングカッター10で一定の大きさに裁断して得ている。ガラス繊維3を散布した後、さらにその上に、他方のフィルム2’上の樹脂コンパウンド1’の塗布面を合わせている。これにより、下から順にフィルム2、樹脂コンパウンド1、ガラス繊維3、樹脂コンパウンド1’、フィルム2’の層構造を有するシート状の積層物4が形成される。
【0016】
樹脂コンパウンド1,1’は、不飽和ポリエステルなどのベース樹脂に、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどのフィラー、ポリスチレンやポリエチレン系の低収縮剤、ステアリン酸亜鉛などの内部離型剤、過酸化物系の硬化剤、スチレンなどの希釈剤が攪拌タンク11において攪拌混合されてペースト状のものとして得られる。さらに増粘剤タンク12から酸化マグネシウムが、トナータンク13からトナーが樹脂コンパウンド1,1’に添加されて、送りポンプ14により一定流量で送り出されてスタティックミキサー15を経てディップパン8,8’に投入される。
【0017】
ディップパン8,8’は下側と上側にそれぞれ設けられ、連続的に供給されるフィルム2,2’上に設置される。下側のディップパン8と上側のディップパン8’の構成は同じであるので、以下に、下側のディップパン8について説明し、上側のディップパン8’の説明は省略する。
【0018】
ディップパン8は、図2に示すように、フィルム2の搬送方向側にドクターナイフ16を備え、幅方向に仕切り板17,17’を備えている。ドクターナイフ16はその先端部がフィルム面から0.5〜2mm程度の間隔をもってフィルム2表面に対向して配置され、仕切り板17,17’はフィルム2表面に当接して配置されており、ドクターナイフ16の先端部とフィルム2表面との間にディップパン8に連通する隙間が形成されている。樹脂コンパウンド1はこの隙間からフィルム2上に供給されて塗布される。
【0019】
フィルム2上に塗布された樹脂コンパウンド1は、前記隙間から供給したときの塗布幅よりもフィルム2の搬送方向の下流側の樹脂コンパウンド1の樹脂幅xがフィルム2の幅方向に拡がり、その状態でガラス繊維3散布、含浸工程に進んでいく。樹脂コンパウンド1の幅方向の拡がりの程度は、樹脂コンパウンド1の粘度に左右され、粘度が低いときは拡がり、粘度が高いときはその拡がりの程度は小さくなる。
【0020】
樹脂コンパウンド1の粘度は、配合材料の種類や配合比率によって変わり、品種毎に異なっている。同じ品種であっても、配合比率のバラツキ、配合材料の特性のバラツキ、樹脂コンパウンド温度によっても粘度が変動する。また、増粘剤である酸化マグネシウムが投入されると、投入直後から徐々に樹脂コンパウンド1が増粘していき、フィルム2上に塗布されるときには、投入直後よりも粘度が高くなっている。しかも、樹脂コンパウンド1の水分率によってその初期増粘挙動が大きく変動する特性があるので、同じ品種の製造でも樹脂コンパウンド1の粘度がその都度異なり、前記隙間からの塗布幅A、すなわちディップパン8の左右の仕切り板17,17’間の間隔を樹脂コンパウンド1の粘度に応じて調整する必要がある。
【0021】
そこで、本実施形態では、ディップパン8の仕切り板17,17’を幅方向に可動自在にして仕切り板17,17’間の間隔を調整可能にするとともに樹脂コンパウンド1の粘度を検出する手段と検出した粘度に基づいて仕切り板17,17’の可動を制御するコンピュータ等の制御手段20を設け、樹脂コンパウンド1の粘度が予め設定した基準値と比較して高い場合には仕切り板17,17’間の間隔を拡げ、基準値と比較して低い場合には間隔を狭めて、樹脂コンパウンド1の粘度に応じて樹脂コンパウンド1の供給幅(塗布幅A)を調整し、フィルム2上の樹脂コンパウンド1のフィルム2幅方向の樹脂幅xを調整することとしている。
【0022】
樹脂コンパウンド1の粘度の検出は、ディップパン8に投入された樹脂コンパウンド1を粘度計等で直接測定するようにしてもよいが、送りポンプ14のモータの負荷状態から求めるようにしてもよい。ディップパン8には、上述したように、増粘剤やトナーが添加された樹脂コンパウンド1が送りポンプ14により一定流量で送液される。このとき、送りポンプ14から樹脂コンパウンド1が一定流量で送液されるように送りポンプ14のモータの回転数が制御されるが、そのときのモータの負荷が樹脂コンパウンド1の粘度により変動する。すなわち、粘度が高いときにはモータの負荷が大きくなり、粘度が低いときにはモータの負荷が小さくなる。このため送りポンプ14のモータの負荷の情報から、予め予備試験等によって求めた送りポンプ14のモータの負荷と樹脂コンパウンド1の粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンド1の粘度を知ることができる。
【0023】
送りポンプ14のモータの負荷と樹脂コンパウンド1の粘度との関係、及び、仕切り板17,17’間の間隔と樹脂コンパウンド1の粘度との関係は、図3に示すような関係にある。例えば、送りポンプ14のモータの負荷と樹脂コンパウンド1の粘度との関係は、モータの負荷が大きくなるほど樹脂コンパウンドの粘度が高くなる。仕切り板17,17’間の間隔と樹脂コンパウンド1の粘度との関係は、樹脂コンパウンドの粘度が高くなるほど仕切り板17,17’間の間隔が大きくなる。これらの関係は予め予備試験等によって求めておく。そしてこれらの関係をデータとしてコンピュータに読み込ませておき、実際のSMC材料製造時において、送りポンプ14のモータの負荷から、既知の送りポンプ14のモータの負荷と樹脂コンパウンド1の粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンド1の粘度を計算する。その計算値がコンピュータで予め設定した基準値と比較して差がある場合には、既知の仕切り板17,17’間の間隔と樹脂コンパウンド1の粘度との関係に基づいて仕切り板17,17’間の間隔を所定の間隔に調整する。
【0024】
仕切り板間の間隔の調整は、図4に示すように、仕切り板17,17’に接続された回転軸18,18’を駆動モータ19,19’で回転させることにより行われる。例えば、回転軸18,18’を正回転させると仕切り板17,17’間の間隔が拡がり、逆回転させると仕切り板17,17’間の間隔が狭まる。駆動モータ19,19’には制御手段20であるコンピュータを介して送りポンプ14が接続されており、送りポンプ14のモータの負荷の情報に基づいてコンピュータにより仕切り板17,17’間の間隔の調整が行われるようになっている。
【0025】
以上のように、樹脂コンパウンド1の粘度に応じてフィルム2上の樹脂コンパウンド1の樹脂幅xを調整した後、ガラス繊維3を散布し、さらにその上に、もう一方のフィルム2’上の樹脂コンパウンド1’の塗布面を合わせて、シート状の積層物4を得る。そして積層物4を搬送装置7で含浸機21に搬送し、下側及び上側の押圧ロール22,22’で積層物4の押圧含浸を行い、ガラス繊維3間に樹脂コンパウンド1,1’を含浸させる。含浸機21を通過後、積層物4を巻き取りロール等の回収手段23によってロール状またはつづら折れ状に重ねて回収する。
【0026】
回収した積層物4は熟成室で所定の粘度に増粘するまで熟成される。その後、裁断機で所定の長さにカットし、フィルムを剥がした後、SMC材料を所定量計量し、120℃〜150℃の温度で金型で熱プレスして成形品を得る。
【0027】
以上のSMCの製造方法では、樹脂コンパウンドの粘度に応じて樹脂コンパウンドの供給幅を調整してフィルム上の樹脂コンパウンドのフィルム幅方向の樹脂幅を調整しているので、SMC材料の幅方向の端部が過度に樹脂コンパウンドリッチまたはガラス繊維リッチにならず、樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率が幅方向において略一定の状態のSMC材料を得ることができる。このようなSMC材料を用いて得た成形品は高品質であり、しかも不良品の製造を抑制することができる
また、本発明では、送りポンプのモータの負荷から、既知の送りポンプのモータの負荷と樹脂コンパウンドの粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンドの粘度を求めているので、樹脂コンパウンドの粘度を粘度計等で直接測定する手間を省くことができ、SMC材料を低コストで製造することができる。
【0028】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。例えば、本実施形態では上側のディップパンと下側のディップパンにおいて樹脂コンパウンドの粘度に応じて樹脂コンパウンドの供給幅を調整しているが、樹脂コンパウンドとガラス繊維の比率が幅方向において略一定の状態のSMC材料を得ることができる限り、いずれか一方のディップパンのみにおいて樹脂コンパウンドの供給幅を調整するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1,1’ 樹脂コンパウンド
2,2’ フィルム
3 ガラス繊維
14 送りポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に供給される2枚のフィルム上に樹脂コンパウンドを供給して塗布し、一方のフィルムの樹脂コンパウンド上にガラス繊維を散布し、その上に他方のフィルム上の樹脂コンパウンドの塗布面を合わせて上下2枚のフィルム間に樹脂コンパウンドとガラス繊維を挟み込んだ状態で上下から加圧してガラス繊維間に樹脂コンパウンドを含浸させるSMCの製造方法において、フィルム上に樹脂コンパウンドを供給するに際して、樹脂コンパウンドの粘度が基準値より高い場合には供給幅を拡げ、基準値より低い場合には供給幅を狭めて、樹脂コンパウンドの粘度に応じて樹脂コンパウンドの供給幅を調整してフィルム上の樹脂コンパウンドのフィルム幅方向の樹脂幅を調整することを特徴とするSMCの製造方法。
【請求項2】
フィルム上に樹脂コンパウンドを供給する前段の樹脂コンパウンドの送りポンプのモータの負荷から、既知の送りポンプのモータの負荷と樹脂コンパウンドの粘度との関係に基づいて樹脂コンパウンドの粘度を求め、その求めた粘度と基準値とを比較することを特徴とする請求項1に記載のSMCの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46811(P2011−46811A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195835(P2009−195835)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】