説明

アキシャルギャップ型電動機

【課題】複数のコアメンバーから構成されるステータと回路基板とがモールド樹脂の注入圧力によって位置ずれしないように保持できるアキシャルギャップ型電動機を提供する。
【解決手段】ステータ60と軸線方向に沿って対向的に配置される円板状の回路基板70と、ステータ60と回路基板70との間に配置され、軸線方向の一側面側にコアメンバー64と当接する第1当接部81を有するとともに、他側面側に回路基板70と当接する第2当接部82を有する環状のステータ押さえ部材80と、回路基板70を挟んで第2当接部82と軸線方向に沿って対向的に配置され、回路基板70と当接する回路基板押さえ部材90とを備え、ステータ60と回路基板70とが、ステータ押さえ部材80および回路基板押さえ部材90に対するモールド金型による軸線方向からの押圧によって相互に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型電動機に関し、特に、ステータと回路基板とをモールド樹脂で一体成形したアキシャルギャップ型電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ステータと回路基板とをモールド樹脂で一体成形したラジアルギャップ型電動機が知られている(例えば、特許文献1参照)。このラジアルギャップ型電動機におけるステータは、回路基板を位置決めする一対の位置決め柱を備えている。一対の位置決め柱は、固定子鉄心を覆うインシュレータから立設されている。回路基板は、一対の位置決め柱と当接する位置に一対の切欠部を備えている。回路基板は、一対の位置決め柱の間に嵌め込まれ、一対の切欠部によってステータに対して位置決めされている。
【0003】
このラジアルギャップ型電動機は、回路基板を位置決めしたステータを下金型と上金型とで挟んでモールド樹脂で一体成形される。上金型は、回路基板側に突出する6つの押さえ柱を備えている。モールド一体成形の際には、6つの押さえ柱のうちの2つが位置決め柱を押さえるとともに、残りの4つが回路基板を押さえるようになっている。
【0004】
しかしながら、ステータは2つの押さえ柱のみで下金型に押さえられるため、例えば、ステータが3つ以上のコアメンバー同士を環状に連結して構成される場合には、モールド樹脂の注入圧力によって、下金型に押さえられていないコアメンバーが位置ずれをおこすおそれがある。また、回路基板は4つの押さえ柱のみで押さえられてステータ側からは支持されていないため、回路基板がステータ側に撓んで変形するおそれがある。さらに、この構造はステータとロータとが径方向に対向するラジアルギャップ型電動機の構造であって、ステータとロータとが軸方向に対向するアキシャルギャップ型電動機にそのまま適用することができない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−102407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑み、ステータと回路基板とをモールド樹脂で一体成形する際、複数のコアメンバーから構成されるステータと回路基板とがモールド樹脂の注入圧力によって位置ずれしないように保持できるアキシャルギャップ型電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のアキシャルギャップ型電動機は、複数のコアメンバー同士を連結して環状化されたステータと円板状の回路基板との間に、ステータと回路基板に当接する環状のステータ押さえ部材を備え、ステータ押さえ部材に軸線方向に対向する位置に、回路基板に当接する回路基板押さえ部材を備えた構造になっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアキシャルギャップ型電動機によれば、ステータと回路基板とをステータ押さえ部材および回路基板押さえ部材によって相互に保持させて下金型と上金型とで挟むことができるため、ステータと回路基板とがモールド樹脂の注入圧力によって位置ずれしないように保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置を示す外観斜視図である。
【図2】本発明によるアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置を示す断面図である。
【図3】本発明によるアキシャルギャップ型電動機のステータをティース部側から見た状態を示す外観斜視図である。
【図4】本発明によるアキシャルギャップ型電動機のステータをバックヨーク側から見た状態を示す外観斜視図である。
【図5】本発明によるアキシャルギャップ型電動機に用いるステータ押さえ部材を示す図で、(A)は断面図、(B)は外観斜視図である。
【図6】本発明によるアキシャルギャップ型電動機に用いる回路基板を示す平面図である。
【図7】本発明によるアキシャルギャップ型電動機に用いる回路基板押さえ部材を示す図で、(A)は断面図、(B)は外観斜視図である。
【図8】ステータと回路基板とを保持した状態を示す外観斜視図である。
【図9】ステータと回路基板とを保持した組立品が金型内に収納された状態を示す断面図である。
【図10】ステータと回路基板とをモールド樹脂で一体成形した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1および図2に示すように、本実施形態におけるアキシャルギャップ型電動機を用いたポンプ装置は、樹脂製の仕切板110によってポンプ室Aと電動機室Bとに水密的に区画されている。
【0011】
ポンプ室Aは、ポンプ吸引口51およびポンプ吐出口52が一体的に形成されたポンプケーシング50内に、軸10、ロータ20、インペラ30および軸受40が収容された構成になっている。ロータ20とインペラ30は、カーボン製の軸受40を介して軸10に対して回転可能に支持されている。電動機室Bは、ステータ60、回路基板70、ステータ押さえ部材80および回路基板押さえ部材90がモールド樹脂67により一体成形された電動機ハウジング100となっている。
【0012】
ロータ20は、中心部が軸受40を介して軸10に回転可能に支持されると共に外郭を樹脂で覆われた円板である。円板の電動機室B側の面の内部には、仕切板110と対向するように、マグネット21が埋め込まれている。マグネット21は、円周方向に複数個が等角度ピッチで環状に配置されている。また、ロータ20は、ポンプケーシング50側の面にインペラ30が一体形成されている。なお、インペラ30はロータ20と別体であってもよい。
【0013】
ステータ60は、複数のコアメンバー64を有している。コアメンバー64は、ロータ20と対向するティース部613と、ティース部613から立設する巻胴部611と、巻胴部611の先端側に環状のバックヨークの一部を形成するヨーク部片612とを有するステータコア61と、ステータコア61のティース部613とヨーク部片612とを残して覆うインシュレータ62と、インシュレータ62を介して巻胴部611に巻回される巻線63とを備えている。コアメンバー64のティース部613は仕切板110と対面するように配置され、仕切板110に当接されている。各コアメンバー64は、後述する連結手段を備え、連結手段により相互に連結されることで、円周方向に等角度ピッチで環状に配置されている。
【0014】
回路基板70は、アキシャルギャップ型電動機の駆動制御を行う電動機駆動部が載置された円板状の基板である。回路基板70は、コアメンバー64のヨーク部片612と軸10の軸線方向に沿って所定の間隔で対向的に配置され、インシュレータ62に形成された回路基板支持部621で支持されている。
【0015】
アキシャルギャップ型電動機自体は、ステータ60のティース部613とロータ20のマグネット21とが仕切板110を挟んで軸10の軸線方向に沿って所定の空隙を介して対向的に配置されている。
【0016】
ステータ押さえ部材80は、ステータ60のコアメンバー64と回路基板70との間に配置された環状の部材である。ステータ押さえ部材80は、絶縁性や耐高温性などを持つABSやPPSなどの樹脂によって形成されている。ステータ押さえ部材80は、軸10の軸線方向の一側面側にコアメンバー64のヨーク部片612と当接する第1当接部81を有し、かつ、他側面側に回路基板70と当接する第2当接部82を有している。
【0017】
回路基板押さえ部材90は、回路基板70を挟んでステータ押さえ部材80の第2当接部82と軸線方向に沿って対向的に配置された複数の柱状の部材である。回路基板押さえ部材90は、ステータ押さえ部材80と同様に、絶縁性や耐高温性などを持つABSやPPSなどの樹脂によって形成されている。回路基板押さえ部材90は、軸線方向の一側面側に回路基板70と当接する当接部92を有し、かつ、他側面側に後述するモールド金型140によって軸10の軸線方向から押圧される押圧部93を有している。
【0018】
以上説明してきたステータ60、ステータ押さえ部材80、回路基板70および回路基板押さえ部材90は、この順に配置されており、後述するモールド金型140による回路基板押さえ部材90への押圧によって相互に保持されるようになっている。
【0019】
仕切板110は、開口を有する有底筒状の筒状部111と、筒状部111の底面中心から軸線方向の外側に向けて一体的に突出する軸支持部112と、筒状部111の開口から径方向に向かって円板状に一体形成される鍔部113と、鍔部113の外周側に形成される周囲部114とを備えている。鍔部113は、ステータ60のティース部613とロータ20のマグネット21が対向する位置にあり、磁気効率を良好にするために、強度が必要な軸支持部112や周囲部114の厚さよりも肉薄となっている。また、筒状部111の開口内は軸受支持部を兼ねており、この軸受支持部を介して軸受40が支持され、軸支持部112により軸10が支持されている。
【0020】
パッキン120は、周囲部114の凹みに装着されている。ポンプケーシング50と電動機ハウジング100とをパッキン120の外側にてネジ130で結合して締付けられることで、ポンプ室A内の流体がポンプ装置の外に漏れないようにしている。
【0021】
以上説明してきた構成からなるポンプ装置の動作を説明する。ポンプ装置では、巻線63に供給される電流が、回路基板70の電動機駆動部によって、ロータ20の回転位置に応じて切り換えられる。この電流の切り換えにより、ステータ60のティース部613とロータ20のマグネット21との間に磁気的な吸引/反発が起こり、ロータ20がインペラ30とともに所定の方向に回転する。このロータ20の回転により、ポンプ吸引口51から黒矢印のように水や湯などの流体を吸引し、その流体をポンプ吐出口52から黒矢印のように吐出することになる。
【0022】
次に、コアメンバー64について図3および図4を用いて詳細に説明する。なお、本実施例におけるステータ60は12個(12スロット)のコアメンバー64が相互に連結されて環状化されているが、各コアメンバー64は略同じ形状であるため、以下では1個のコアメンバー64を説明する。
【0023】
コアメンバー64に備えるステータコア61は、H字状に打ち抜かれた電磁鋼板を、図3および図4に示すように、ステータ60の半径方向に沿って積層することで形成されている。ステータコア61は積層以外の方法、例えば、強磁性体を微細な粉末にし、その表面を絶縁被膜で覆い、圧縮して固めた圧粉磁心や、切削加工などによって形成されてもよい。
【0024】
ステータコア61は、巻胴部611とヨーク部片612とティース部613とが一体的に設けられている。これにより、ステータコア61は、巻胴部611の両端にフランジ状のヨーク部片612とティース部613とを有するボビン状に形成されている。
【0025】
巻胴部611は内径側から外径側に向かうにつれて、周方向の幅が漸次大きくなるように形成されている。ヨーク部片612とティース部613は軸線方向から見ると、内径側から外径側に向かうにつれて周方向の幅が漸次大きくなる扇状に形成されている。なお、巻胴部611、ヨーク部片612およびティース部613の形状は本実施例に限られず、その形状は電動機の仕様に応じて任意であってよい。
【0026】
ヨーク部片612は、ステータ押さえ部材80の第1当接部81と当接するヨーク面612aおよび内周面612bとを有している。また、ヨーク部片612の径方向の両端には、隣接するコアメンバー64のヨーク部片612と当接する当接面が形成されている。ティース部613は、仕切板110の鍔部113と当接するティース面613aと、後述する下金型141の内周側支持部141aと当接する内周面613bとが形成されている。
【0027】
インシュレータ62は、図2に示す巻胴部611の外周面を覆う外筒部622と、ヨーク部片612およびティース部613の内周側と外周側とを覆うとともに、ヨーク部片612およびティース部613の両側から径方向に延びるフランジ部623とを備えている。これにより、インシュレータ62はステータコア61と同様に、外筒部622の両端にフランジ部623を有するボビン状に形成されている。
【0028】
インシュレータ62は樹脂成型品からなり、周方向に沿ってほぼ半分割されており、これらをステータコア61の周方向の両側から嵌め込むことで、ステータコア61に取付られるようになっている。なお、インシュレータ62はステータコア61に一体成形されるようにしてもよい。
【0029】
フランジ部623には、コアメンバー64同士を周方向に相互に連結するための2つの連結手段が設けられている。第1の連結手段としては、フランジ部623の周方向の外径側端面には、コアメンバー64同士を軸10を中心に環状に連結するためのフック部623aと、フック部623aが係止される係止軸623bとが形成されている。
【0030】
フック部623aは外径側端面の一端から周方向の外側に向けて突出された舌片からなる。フック部623aの先端側には、係止軸623bの外周面に引っ掛けられるフック溝が形成されている。係止軸623bは外径側端面の他端から軸線方向に向けて突出された円柱からなる。係止軸623bの高さは、ティース面613aがコアメンバー64の軸線方向の最外面となるように、ティース面613aよりも低く設定されている。
【0031】
第2の連結手段としては、フランジ部623の周方向の内径側端面には、係止リブ623cと係止リブ623cの受け手側の係止溝623dとが形成されている。係止リブ623cは内径側端面の一端から周方向に外側に向けて突出された凸状片からなる。係止溝623dは内径側端面の他端から軸線方向に向けて窪んだ凹溝からなる。係止リブ623cの凸状片が係止溝623dの凹溝に差し込まれることになる。
【0032】
フランジ部623のうち、ヨーク部片612側のフランジ部623の周方向の外径側端部および内径側端部には、回路基板支持部621がそれぞれ形成されている。回路基板支持部621は外径側支持部621aと内径側支持部621cとを有している。回路基板70の外径側を支持する外径側支持部621aは、外径側端部から軸線方向に向けて突出された支柱からなる。外径側支持部621aの先端側には、回路基板70に有する後述の係止部71に係止される係止爪621bが形成されている。回路基板70の内径側を支持する内径側支持部621cは、内径側端部から軸線方向に向けて突出された支柱からなる。内径側支持部621cの支柱の先端面は、回路基板70の内径側の側面と当接して回路基板70を支持する。
【0033】
また、ヨーク部片612側のフランジ部623の周方向の外径側端部には、端子ピン623eが立設されている。端子ピン623eは、外径側端部から軸線方向に向けて突出された端子台の先端に差し込まれている。
【0034】
以上説明してきたコアメンバー64同士を連結する際、図4に示すように、12個のコアメンバー64のうち、2個のコアメンバー64は、外径側支持部621a、内径側支持部621cおよび端子ピン623eを備えたコアメンバー64を用い、1個のコアメンバー64は、外径側支持部621aおよび内径側支持部621cを備えたコアメンバー64を用い、4個のコアメンバー64は、端子ピン623eを備えたコアメンバー64を用いる。残り5個のコアメンバー64は、外径側支持部621a、内径側支持部621cおよび端子ピン623eを備えていないコアメンバー64を用いる。
【0035】
そして、ステータ60は、外径側支持部621aおよび内径側支持部621cを備えた3個のコアメンバー64が120°の等角度ピッチで配置されるようにし、これらの3個のコアメンバー64の間に、端子ピン623eを備えた4個のコアメンバー64と、端子ピン623eを備えていない5個のコアメンバー64がそれぞれ連結される。これにより、ステータ60は12個のコアメンバー64が環状に配置された構造になっている。
【0036】
次に、ステータ押さえ部材80について図5を用いて詳細に説明する。図5に示すように、ステータ押さえ部材80は、環状に配置された12個のコアメンバー64に対して当接する断面L字状のリング部811と、リング部811の一側面から回路基板70側に軸線方向に向って立設される複数の支柱部821とを備えている。支柱部821は4個設けられており、90°の等角度ピッチで立設されている。支柱部821の先端側面には、回路基板70側に軸線方向に向って立設する凸部821aが形成されている。
【0037】
第1当接部81は、リング部811によって形成されており、コアメンバー64に対して軸線方向で当接する第1当接面811aと、コアメンバー64に対して径方向で当接する第2当接面811bとを備えている。第1当接面811aは、バックヨークの一部を形成するヨーク部片612の内周面612bに当接される。第2当接面811bは、バックヨークの一部を形成するヨーク部片612のヨーク面612aに当接される。
【0038】
第2当接部82は、凸部821aを除いた支柱部821の先端面によって形成されており、この先端面が回路基板70の一側面に当接される。このとき、支柱部821に立設された凸部821aが回路基板70の後述する凸部挿入孔72に挿入された状態となる。
【0039】
次に、回路基板70について図6を用いて詳細に説明する。図6に示すように、回路基板70は、円板の中心に孔が設けられたドーナツ形状になっており、この孔から仕切板110に備える軸支持部112が突出される。回路基板70は、外径側支持部621aに形成された係止爪621bで係止される係止部71が外周側に形成され、凸部821aに挿入される複数の凸部挿入孔72が内径側と外径側の間に形成されている。また、回路基板70は、端子ピン623eに挿入される複数の端子ピン挿入孔73が外周側に形成されている。
【0040】
係止部71は外径側支持部621aと同数で3つ設けられており、120°の等角度ピッチで形成された切欠きである。凸部挿入孔72は支柱部821と同数で4つ設けられており、90°の等角度ピッチで貫通した孔である。端子ピン挿入孔73は、図4に示す6個のコアメンバー64に設けられた端子ピン623eに対応するように6つ設けられており、30°の等角度ピッチで貫通した孔である。
【0041】
次に、回路基板押さえ部材90について図7を用いて詳細に説明する。図7に示すように、回路基板押さえ部材90は、複数の押さえ柱部91から構成されており、押さえ柱部91の基端側面には、支柱部821の凸部821aに嵌合する凹部92aが形成されている。また、押さえ柱部91の先端側には、モールド金型140の後述する上金型142によって押圧される円筒状に窪んだ押圧部93が形成されている。押さえ柱部91は支柱部821と同数で4個設けられている。
【0042】
当接部92は、凹部92aを除いた基端側面によって形成されており、この基端側面が回路基板70のコアメンバー64側と反対側の側面に当接される。このとき、押さえ柱部91に形成された凹部92aが支柱部821に立設された凸部821aに嵌合され、支柱部821と押さえ柱部91によって回路基板70が挟まれた状態となる。
【0043】
次に、12個のコアメンバー64が相互に連結された環状のステータ60と、ステータ押さえ部材80と、回路基板70と、回路基板押さえ部材90としての押さえ柱部91とを用いて、電動機ハウジング100を製造する手順について図8乃至図10を用いて説明する。なお、図8に示す12個のコアメンバー64には、図9に示すように、巻線63がインシュレータ62を介して巻胴部611に巻回されているものとする。また、ステータ60は、三相のアキシャルギャップ型電動機を構成するため、4個のコアメンバー64がU相、V相、W相の各相の巻線63で接続されたU相用コアメンバー組、V相用コアメンバー組、W相用コアメンバー組を構成しているものとする。
【0044】
図8および図9に示すように、第1工程としては、ステータ押さえ部材80をステータ60に組み付ける。まず、コアメンバー64のヨーク面612aが上面側になるように、ステータ60を図示しない組立台に載置させる。次に、ステータ押さえ部材80のリング部811により形成された第1当接部811に備えた第1当接面811aおよび第2当接面811bを、コアメンバー64のヨーク部片612の内周面612bおよびヨーク面612aに当接させる。これにより、ステータ押さえ部材80がステータ60に保持された状態となる。
【0045】
第2工程としては、回路基板70をステータ押さえ部材80が保持されたステータ60に組み付ける。ステータ押さえ部材80の凸部821aに、回路基板70に形成された凸部挿入孔72を位置合わせする。また、コアメンバー64の外径側支持部621aに形成された係止爪621bに、回路基板70に形成された係止部71を位置合わせする。同時に、コアメンバー64の端子ピン623eに、回路基板70に形成された端子ピン挿入孔72を位置合わせする。
【0046】
次に、位置合わせした回路基板70をステータ60側に押さえ込むことで、係止部71が外径側支持部621aの係止爪621bで係止される。このとき、凸部挿入孔72に凸部821aが差し込まれて回路基板70から突出された状態となるとともに、回路基板70のステータ60側の側面が支柱部821の先端側面に形成された第2当接部82に当接された状態となる。同時に、端子ピン挿入孔72に端子ピン623eが差し込まれて回路基板70から突出された状態となる。なお、回路基板70のステータ60側の側面はコアメンバー64の内径側支持部621cの先端側面にも当接された状態となる。
【0047】
第3工程としては、回路基板押さえ部材90としての押さえ柱部91を、回路基板70に載置する。このとき、押さえ柱部91の凹部92aをステータ押さえ部材80の凸部821aに嵌合させる。これにより、押さえ柱部91の基端側面に形成された当接部92が回路基板70のステータ60側の反対側の側面に当接された状態となるとともに、回路基板70が支柱部821と押さえ柱部91との間に挟まれて保持された状態となる。押さえ柱部91を回路基板70に載置し、回路基板70と端子ピン623eとを電気的に接続することで、図8に示すようなモールド成形前のステータ組立品が完成する。
【0048】
第4工程としては、上述のステータ組立品を、専用のモールド金型140に取付けてモールド樹脂67によって一体成形する。なお、モールド金型140は、図9に示すように、下金型141と上金型142とを備えている。下金型141には、コアメンバー64の内周面613bを支持する環状の支持部141aと、仕切板110に備えた筒状部111が挿入される凹部を形成する凸部141bと、ポンプ装置を他の装置に取付けるための取付孔を形成する取付孔形成部141cとが形成されている。また、上金型142には、押さえ柱部91の押圧部93を押さえる柱状の押さえ部142aが形成されている。
【0049】
まず、コアメンバー64のティース部613の内周面613bを内径側支持部141aに支持させることで下金型141内にステータ組立品を収納させる。このとき、コアメンバー64のティース部613のティース面613aは下金型141の底面に当接された状態となる。次に、上金型142の押さえ部142aを押圧部93の窪みに嵌合させた状態で、上金型142を下金型141に型締めする。これにより、ステータ60と回路基板とが相対位置を保持し、下金型141に向って上金型142によって押さえられた状態となる。
【0050】
更に、型締めされたモールド金型140内に図示しない注入口から溶融樹脂を注入することで、図10に示すように、ステータ60、ステータ押さえ部材80、回路基板70および押さえ柱部91がモールド樹脂67で一体成形される。これにより、回路基板70の絶縁と、ステータ60と回路基板70との防水および結露対策が施された電動機ハウジング100が完成する。なお、電動機ハウジング100の製造時に、仕切板110をステータ組立品とともに下金型141内に設置してモールド樹脂67で一体成形してもよい。
【0051】
以上説明してきた本発明のアキシャルギャップ型電動機によれば、12個のコアメンバー64同士を連結して環状化されたステータ60と円板状の回路基板70との間に、ステータ60と回路基板70のそれぞれに当接する環状のステータ押さえ部材80を備え、軸10の軸線方向にステータ押さえ部材80と対向する位置に、回路基板70に当接する柱状の回路基板押さえ部材90を備えた構造になっている。
【0052】
したがって、ステータ60と回路基板70とをステータ押さえ部材80および回路基板押さえ部材90によって相互に保持させて下金型141と上金型142とで挟むことができるため、ステータ60と回路基板70とがモールド樹脂の注入圧力によって位置ずれしないように保持することができる。
【0053】
また、ステータ押さえ部材80が、環状に配置された12個のコアメンバー64に対して当接する断面L字状のリング部811を備え、リング部811によって形成され、コアメンバー64のヨーク部片612に当接する第1当接部81を有する構造になっている。
【0054】
したがって、ヨーク部片612の内周面612bおよびヨーク面612aに、第1当接部81の第1当接面811aおよび第2当接面811bを当接することができるため、12個のステータコア61全体が下金型141に押さえられ、モールド樹脂の注入圧力によって12個のステータコア61同士の相対位置がずれしないように保持することができる。このため、12個のステータコア61の相対位置のずれによる磁気効率の低下につながらないようにすることができる。
【0055】
また、ステータ押さえ部材80を環状化されたステータ60に対して軸線方向および径方向に位置決めすることができ、かつ、ステータ押さえ部材80がステータ60の径方向の位置決めになり、12個のステータコア61によるコアの真円度を確保することができる。
【0056】
また、以上説明してきた本発明のアキシャルギャップ型電動機によれば、ステータ押さえ部材80が、リング部811の一側面から回路基板70側に軸線方向に向って立設する4個の支柱部821を備え、この支柱部821の先端側面から軸線方向に向って立設する凸部821aを備え、支柱部821の先端側面によって回路基板70に当接する第2当接部82が形成された構造になっている。これに対して、回路基板押さえ部材90が、4個の押さえ柱部91を備え、この押さえ柱部91の基端側面に凸部821aに嵌合する凹部92aを備えた構造になっており、回路基板70が、凸部821に挿入される凸部挿入孔72を備えた構造になっている。
【0057】
したがって、回路基板70は、凸部挿入孔72に支持部821の凸部821aが差し込まれた状態で第2当接部82によりステータ60側から支持されるため、モールド樹脂の注入圧力によって、回路基板70がステータ60側に撓んで変形することを防止できる。また、回路基板70は、凸部821aに凹部92aが嵌合された状態で支柱部821と押さえ柱部91によって挟まれるため、回路基板70の支持力を強化することができ、かつ、押さえ柱部91をステータ押さえ部材80に対して位置決めすることができる。
【0058】
更に、以上説明してきた本発明のアキシャルギャップ型電動機によれば、押さえ柱部91の先端側に押圧部93を備え、上金型142の押さえ部142aによって押圧部93が押さえられて、回路基板70およびステータ60を間接的に押さえる構造になっている。
【0059】
したがって、特許文献1のように、上金型に備えた複数の押さえ柱によって回路基板を直接的に押さえないため、ステータ60と回路基板70とをモールド樹脂で一体成形した後に、電動機ハウジング100に上金型142の押さえ部142aによる穴が形成されるが、回路基板70に到達する穴が形成されることがない。このため、回路基板70が外部に対して露出することがないので、回路基板70の絶縁や防水の効果を確保することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、ステータ押さえ部材80として、コアメンバー64に対して、軸線方向で当接する第1当接面811aと径方向で当接する第2当接面811bとを備えた第1当接部81を、断面L字状のリング部811によって形成するようにしたが、本発明はこれに限らず、ステータ押さえ部材80として、断面L字状のリング部811でなくても、コアメンバー64に対して軸線方向と径方向とに当接する2つの当接面を備えた第1当接部が形成された構造であればよい。
【0061】
また、本実施形態では、ステータ押さえ部材80として、支柱部821の先端面から立設する凸部821aを備え、回路基板押さえ部材90としての押さえ柱部91の基端側面に、凸部821aに嵌合する凹部92aを備えた構造になっているが、本発明はこれに限らず、ステータ押さえ部材80として、支柱部821の先端面から窪んだ凹部を備え、回路基板押さえ部材90としての押さえ柱部91の基端側面から立設する凸部を備え、支柱部821の凹部に押さえ柱部91の凸部を嵌合するようにした構造であってもよい。
【0062】
また、本実施形態では、ステータ押さえ部材80として、リング部811と支柱部821とを備えた構造になっているが、本発明はこれに限らず、例えば、ステータ押さえ部材80として、リング部から支柱部を立設せずに、リング部の厚さをステータ60と回路基板70との間を所定の間隔に保つ厚さに形成した構造であってもよい。また、回路基板押さえ部材90として、複数の押さえ柱部91を備える構造になっているが、本発明はこれに限らず、例えば、回路基板押さえ部材90として、ステータ押さえ部材80のような1個の環状化された部材であってもよい。
【0063】
これにより、上述の実施形態と同様に、ステータ60と回路基板70とがモールド樹脂の注入圧力によって位置ずれしないように保持することができ、かつ、12個のコアメンバー64の全てがモールド樹脂の注入圧力によって相互に位置ずれしないように保持することができる。
【符号の説明】
【0064】
A ポンプ室
B 電動機室
10 軸
20 ロータ
21 マグネット
30 インペラ
40 軸受
50 ポンプケーシング
51 ポンプ吸引口
52 ポンプ吐出口
60 ステータ
61 ステータコア
611 巻胴部
612 ヨーク部片
612a ヨーク面
612b 内周面
613 ティース部
613a ティース面
613b 内周面
62 インシュレータ
621 回路基板支持部
621a 外径側支持部
621b 係止爪
621c 内径側支持部
622 外筒部
623 フランジ部
623a フック部
623b 係止軸
623c 係止リブ
623d 係止溝
623e 端子ピン
63 巻線
64 コアメンバー
67 モールド樹脂
70 回路基板
71 係止部
72 凸部挿入孔
73 端子ピン挿入孔
80 ステータ押さえ部材
81 第1当接部
811 リング部
811a 第1当接面
811b 第2当接面
82 第2当接部
821 支柱部
821a 凸部
90 回路基板押さえ部材
91 押さえ柱部
92 当接部
92a 凹部
93 押圧部
100 電動機ハウジング
110 仕切板
111 筒状部(軸受支持部)
112 軸支持部
113 鍔部
114 周囲部
120 パッキン
130 ネジ
140 モールド金型
141 下金型
141a 支持部
141b 凸部
141c 取付孔形成部
142 上金型
142a 押さえ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータとが同ロータの軸線方向に沿って所定の空隙をもって対向的に配置され、前記ステータは前記軸線を中心に環状に配置される複数のコアメンバーを有し、同コアメンバーがコアメンバー同士を連結する連結手段で相互に連結されたアキシャルギャップ型電動機であって、
前記ステータと前記軸線方向に沿って所定の間隔をもって対向的に配置される円板状の回路基板と、
前記ステータと前記回路基板との間に配置される環状の部材であって、前記軸線方向の一側面側に前記コアメンバーと当接する第1当接部を有するとともに、他側面側に前記回路基板と当接する第2当接部を有するステータ押さえ部材と、
前記回路基板を挟んで前記第2当接部と前記軸線方向に沿って対向的に配置され、モールド金型で押圧することにより前記回路基板を押さえる回路基板押さえ部材とを備え、
前記ステータ、前記回路基板、前記ステータ押さえ部材および前記回路基板押さえ部材は、モールド樹脂により一体成形されていることを特徴とするアキシャルギャップ型電動機。
【請求項2】
前記ステータ押さえ部材の前記第1当接部は、前記コアメンバーに対して前記軸線方向で当接する第1当接面と、前記コアメンバーに対して径方向で当接する第2当接面とを備えることを特徴とする請求項1記載のアキシャルギャップ型電動機。
【請求項3】
前記ステータ押さえ部材の前記第2当接部と、前記回路基板押さえ部材とは、相互に嵌合するための凹部または凸部をそれぞれ備え、
前記回路基板は、前記凸部が挿入される挿入孔を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアキシャルギャップ型電動機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−139027(P2012−139027A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289580(P2010−289580)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】