説明

アルコキシド化合物、薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法

本発明のアルコキシド化合物は、下記一般式(I)で表されるものであり、CVD法等の化合物を気化させて薄膜を形成する方法に用いられる薄膜形成用原料に適するものである。また、本発明の薄膜形成用原料は、該アルコキシド化合物を含有してなるものであり、本発明の薄膜の製造方法は、該薄膜形成用原料を気化させて得たアルコキシド化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアミノアルコールを配位子とした新規なアルコキシド化合物(珪素アルコキシド化合物、ハフニウムアルコキシド化合物)、該アルコキシド化合物を含有してなる薄膜形成用原料、並びに該薄膜形成用原料を用いた珪素及び/又はハフニウムを含有した薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素又はハフニウムを含有する薄膜は、主に高誘電体キャパシタ、強誘電体キャパシタ、ゲート絶縁膜、バリア膜等の電子部品の部材として用いられている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、火焔堆積法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法等が挙げられるが、組成制御性及び段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長法が最適な製造プロセスである。
【0004】
MOD法やCVD法においては、薄膜に珪素や金属を供給するプレカーサとして、有機配位子を用いた化合物が使用されている。有機配位子としては、比較的大きい蒸気圧を与え、CVDによる薄膜の製造に適している末端にエーテル基又はジアルキルアミノ基を有するアルコールが報告されている。珪素については、末端にアルコキシ基を有するアルコールを配位子とした珪素のアルコキシド化合物が、特許文献1に報告されている。また、末端に金属原子に配位するドナー基であるアミノ基を有するアルコールを配位子として用いた金属化合物は、特許文献2及び特許文献3にチタニウム化合物及びジルコニウム化合物が報告されており、非特許文献1にランタニド化合物が報告されている。
【0005】
珪素及びハフニウムについては、特許文献4に、1級のアミノアルコールを配位子としたアルコキシ化合物が報告されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−321824号公報
【特許文献2】特開2000−351784号公報
【特許文献3】特開2003−119171号公報
【特許文献4】韓国公開特許2003−74986号公報
【非特許文献1】Inorganic Chemistry, Vol.36, No.16, 1997, p3545-3552
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CVD法等の化合物を気化させて薄膜を形成する方法に用いられる原料に適する化合物(プレカーサ)に求められる性質は、融点が低く液体の状態で輸送が可能であること、蒸気圧が大きく気化させやすいことである。また、多成分系の薄膜製造に使用する場合には、混合時或いは保存時に配位子交換や化学反応により変質しないこと、熱及び/又は酸化による薄膜堆積時の分解挙動が類似していることが求められる。珪素及びハフニウムについては、これらの点で充分に満足し得る化合物はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定のアミノアルコールを配位子に用いたアルコキシド化合物が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(I)で表されるアルコキシド化合物、これを含有してなる薄膜形成用原料、並びにこの薄膜形成用原料を気化させて得たアルコキシド化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に珪素及び/又はハフニウム含有薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【0010】
【化1】

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の薄膜の製造方法に用いられるCVD装置の一例を示す概要図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアルコキシド化合物は、上記一般式(I)で表されるものであり、CVD法やALD法等の気化工程を有する薄膜製造方法のプレカーサとして特に好適なものである。
【0013】
上記一般式(I)において、Mが珪素原子である珪素アルコキシド化合物は、周知の珪素アルコキシド化合物と比較すると、熱及び/又は酸素による分解性が大きく、化学反応に対する安定性が大きい。また、類似構造の1級のアミノアルコールを配位子としたアルコキシド化合物よりも蒸気圧が大きい。このため、単独で使用する場合は、薄膜製造においてエネルギー的に優位であり、また、他のプレカーサと併用する場合は、分解挙動を合せることが容易なので薄膜組成の制御面で優位である。更には、混合して使用することが可能である等、操作面でも優位である。
【0014】
上記一般式(I)において、Mがハフニウム原子であるハフニウムアルコキシド化合物は、周知のハフニウムアルコキシド化合物と比較すると、熱及び/又は酸素による分解性が同等か良好であり、化学反応に対する安定性が大きい。また、類似構造の1級のアミノアルコールを配位子としたアルコキシド化合物よりも蒸気圧が大きい。このため、単独で使用する場合は、薄膜製造においてエネルギー的に優位であり、また、他のプレカーサと併用する場合には、分解挙動を合せることが容易なので、薄膜の組成の制御面で優位である。更には、混合して使用することが可能である等、操作面でも優位である。
【0015】
上記一般式(I)において、R1、R2、R3及びR4で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第2ブチル、第3ブチル、イソブチルが挙げられる。また、上記一般式(I)におけるAで表されるアルカンジイル基は、炭素数の合計が1〜8のものであれば、直鎖でもよく、任意の位置に1以上の分岐を有していてもよい。該アルカンジイル基としては、末端のドナー基であるジアルキルアミノ基が珪素原子又はハフニウム原子に配位したときにエネルギー的に安定な構造である5員環又は6員環構造を与える基が好ましい。好ましいアルカンジイル基としては、下記一般式(II)で表される基が挙げられる。また、本発明のアルコキシド化合物は、光学異性体を有する場合もあるが、その光学異性により区別されるものではない。
【0016】
【化2】

【0017】
配位子中の末端ドナー基が珪素原子又はハフニウム原子に配位して環構造を形成した場合を下記一般式(III)に表す。本発明のアルコキシド化合物は、上記一般式(I)で代表して表しているが、下記一般式(III)で表される化合物と区別されるものではなく、両方を含む概念である。
【0018】
【化3】

【0019】
本発明のアルコキシド化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜No.22が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
化合物を気化させる工程を有する薄膜の製造方法において本発明のアルコキシド化合物を用いる場合は、上記のR1〜R4及びAは、分子量が小さいものが蒸気圧が大きいので好ましく、具体的には、R1〜R2は水素原子又はメチル基が好ましく、R3〜R4はメチル基が好ましく、Aはメチレン基が好ましい。また、気化工程を伴わないMOD法による薄膜の製造方法において本発明のアルコキシド化合物を用いる場合は、R1〜R4及びAは、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応等によって任意に選択することができる。
【0023】
本発明のアルコキシド化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造することができる。製造方法としては、該当するアミノアルコールを用いた周知一般のアルコキシド化合物の合成方法を応用することができ、例えば、珪素又はハフニウムのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物とを、ナトリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、アンモニア、アミン等の塩基の存在下で反応させる方法、珪素又はハフニウムのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩又はその水和物と、該当するアルコール化合物のナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属アルコキシドとを反応させる方法、珪素又はハフニウムのメトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等の低分子アルコールのアルコキシド化合物と、該当するアルコール化合物とを交換反応させる方法、珪素又はハフニウムのハロゲン化物、硝酸塩等の無機塩と反応性中間体を与える誘導体とを反応させて、反応性中間体を得てから、これと該当するアルコール化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0024】
上記の反応性中間体としては、テトラキス(ジアルキルアミノ)珪素、テトラキス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)珪素、テトラキス(ジアルキルアミノ)ハフニウム、テトラキス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)ハフニウム等の珪素又はハフニウムのアミド化合物が挙げられる。
【0025】
本発明の薄膜形成用原料は、本発明のアルコキシド化合物を薄膜のプレカーサとして含有するものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される薄膜の製造方法(例えば、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、ALD法を含むCVD法)によって異なる。本発明のアルコキシド化合物は、その物性から、薄膜形成用原料の中でもCVD用原料に特に有用である。
【0026】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長(CVD)用原料である場合、その形態は、使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0027】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、CVD用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるアルコキシド化合物そのものがCVD用原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(I)で表されるアルコキシド化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0028】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、本発明のアルコキシド化合物のみによる混合物或いは混合溶液、又は本発明のアルコキシド化合物と他のプレカーサとの混合物或いは混合溶液がCVD用原料である。
【0029】
上記のCVD用原料に使用する有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で又は二種類以上混合溶媒として用いることができる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における本発明のアルコキシド化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0030】
また、多成分系のCVD法の場合において、本発明のアルコキシド化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0031】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物及び有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と珪素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0032】
上記の有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、第3ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第3アミルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−第2ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;本発明のアルコキシド化合物を与えるジアルキルアミノアルコール等が挙げられる。
【0033】
上記の有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0034】
上記の有機配位子として用いられるβ−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、5−メチルヘプタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルオクタン−3,5−ジオン、2,9−ジメチルノナン−4,6−ジオン2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
【0035】
上記の有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。また、上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、ダイサンブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0036】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0037】
チタニウム又はジルコニウムのプレカーサとしては、例えば、本発明のアルコキシド化合物と同じ配位子を有するテトラキスアルコキシチタニウムや下記[化6]に示す一般式で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化6】

【0039】
上記の[化6]に示す一般式において、Ra及びRbで表されるハロゲン原子で置換されてもよく、鎖中に酸素原子を含んでもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第二アミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、トリフルオロメチル、パーフルオロヘキシル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−ブトキシエチル、2−(2−メトキシエトキシ)エチル、1−メトキシ−1,1−ジメチルメチル、2−メトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−エトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエチル、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエチル、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエチル挙げられる。また、Rcで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第二アミル、第三アミル、ヘキシル、1−エチルペンチル、シクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシルが挙げられる。また、Rdで表される炭素数2〜18の分岐してもよいアルキレン基は、グリコールにより与えられる基であり、該グリコールとしては、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。また、Re及びRfで表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、2−プロピルが挙げられ、Rgで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチルが挙げられる。
【0040】
具体的には、チタニウムプレカーサとしては、テトラキス(エトキシ)チタニウム、テトラキス(2−プロポキシ)チタニウム、テトラキス(ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第2ブトキシ)チタニウム、テトラキス(イソブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3ブトキシ)チタニウム、テトラキス(第3アミル)チタニウム、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)チタニウム等のテトラキスアルコキシチタニウム類;テトラキス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のテトラキスβ−ジケトナトチタニウム類;ビス(メトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(ペンタン−2,4−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3アミロキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(メトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(エトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(2−プロポキシ)ビス(2,6,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3ブトキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、ビス(第3アミロキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のビス(アルコキシ)ビス(βジケトナト)チタニウム類;(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム、(2−メチルペンタンジオキシ)ビス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオナト)チタニウム等のグリコキシビス(βジケトナト)チタニウム類等が挙げられ、ジルコニウムプレカーサとしては、上記チタニウムプレカーサとして例示した化合物のチタニウムをジルコニウムに置き換えた化合物が挙げられる。
【0041】
アルミニウムプレカーサとしては、例えば、本発明のアルコキシド化合物と同じ配位子を有するトリスアルコキシアルミニウムや下記[化7]に示す一般式で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化7】

【0043】
上記の[化7]の化学式におけるLで表される配位性複素環状化合物としては、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類;サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類;ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等が挙げられ、Ra、Rc、Re、Rf及びRgとしては、前記のチタニウム、ジルコニウムプレカーサで例示した基が挙げられ、Rhで表される炭素数1〜8のアルコキシ基としては、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、第二ブチルオキシ、第三ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、第二アミルオキシ、第三アミルオキシ、ヘキシルオキシ、1−エチルペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、1−メチルシクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、第三ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、第三オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシが挙げられ、Riとしては、Rgで例示の基が挙げられる。
【0044】
ビスマスプレカーサとしては、トリフェニルビスマス、トリ(o−メチルフェニル)ビスマス、トリ(m−メチルフェニル)ビスマス、トリ(p−メチルフェニル)ビスマス等のトリアリールビスマス化合物;トリメチルビスマス等のトリアルキルビスマス化合物;トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)ビスマス等のβ−ジケトン系錯体;トリス(シクロペンタジエニル)ビスマス、トリス(メチルシクロペンタジエニル)ビスマス等のシクロペンタジエニル錯体;トリス(第三ブトキシ)ビスマス、トリス(第三アミロキシ)ビスマス、トリス(エトキシ)ビスマス等の低分子アルコールとのアルコキシド、下記[化8]に示す一般式で表されるアルコキシド化合物、本発明のアルコキシド化合物と同じ配位子を有するトリスアルコキシビスマス化合物等が挙げられる。
【0045】
【化8】

【0046】
上記の[化8]に示す一般式におけるRe、Rf及びRgとしては、前記のチタニウムプレカーサ及びジルコニウムプレカーサで例示した基が挙げられる。
【0047】
希土類プレカーサとしては、例えば、本発明のアルコキシド化合物と同じ配位子を有するトリスアルコキシド化合物や下記[化9]に示す一般式で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化9】

【0049】
上記[化9]に示す一般式で表わされる希土類供給源化合物において、M2で表される希土類原子としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられ、Ra、Rb、Rc、Re、Rf及びRgで表される基としては、前記のチタニウムプレカーサ及びジルコニウムプレカーサで例示した基が挙げられ、Rjで表される炭素数1〜4のアルキル基としては、前記のRgで例示のものが挙げられる。
【0050】
また、上記のCVD用原料には、必要に応じて、本発明のアルコキシド化合物及び他のプレカーサに安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類が挙げられ、安定剤としてのこれらの求核性試薬は、プレカーサ1モルに対して通常0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0051】
本発明の薄膜の製造方法は、本発明のアルコキシド化合物及び必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気、並びに必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、プレカーサを基板上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基板上に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法等を用いることができる。
【0052】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられる。
【0053】
また、上記の輸送供給方法としては、前記の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0054】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスとを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱及びプラズマを使用するプラズマCVD、熱及び光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD(Atomic Layer Deposition)が挙げられる。
【0055】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明のアルコキシド化合物が充分に反応する温度である160℃以上が好ましく、250℃〜800℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD又は光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、10〜2000Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度及び反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.5〜5000nm/分が好ましく、1〜1000nm/分がより好ましい。また、ALDの場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0056】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために、不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常400〜1200℃であり、500〜800℃が好ましい。
【0057】
本発明の薄膜形成用原料を用いた本発明の薄膜の製造方法により製造される薄膜は、他の成分のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の組成としては、例えば、酸化珪素、酸化ハフニウム、珪素−チタニウム複合酸化物、珪素−ジルコニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム複合酸化物、珪素−ビスマス複合酸化物、ハフニウム−アルミニウム複合酸化物、ハフニウム−希土類元素複合酸化物、珪素−ビスマス−チタニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム−アルミニウム複合酸化物、珪素−ハフニウム−希土類元素複合酸化物、窒化珪素、窒素化ハフニウムが挙げられ、これらの薄膜の用途としては、高誘電キャパシタ膜、ゲート絶縁膜、ゲート膜、強誘電キャパシタ膜、コンデンサ膜、バリア膜等の電子部品部材、光ファイバ、光導波路、光増幅器、光スイッチ等の光学ガラス部材が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、製造例、評価例、実施例等をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
尚、下記製造例1〜3は、本発明のアルコキシド化合物の実施例を示し、評価例1及び2においては、本発明のアルコキシド化合物及び比較化合物の熱酸化分解性評価を行ない、評価例3及び4においては、本発明のアルコキシド化合物及び比較化合物の揮発特性評価を行なった。また、下記実施例1〜3は、本発明の薄膜形成用原料の実施例及び本発明の薄膜の製造方法の実施例を示し、下記比較例1は、本発明のアルコキシド化合物ではない化合物を用いた薄膜形成用原料の実施例及び薄膜の製造方法の実施例を示す。
【0059】
[製造例1]化合物No.1の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコに1−ジメチルアミノ−2−プロパノール0.687モル、脱水処理を行ったトルエン500ml及びナトリウム0.481モルを仕込み、固体ナトリウムが消失するまで攪拌した。系内の温度を4℃にした後、これに乾燥トルエン50mlと四塩化珪素0.1145molの混合液を滴下した。この際、系内の温度を30℃以下にコントロールした。滴下終了後、120℃で27時間還流した。反応液を0.2μmのフィルターでろ過した後、減圧留去により溶媒と未反応アルコールを除いた濃縮液を減圧蒸留した。25〜30Pa、塔頂温度108〜109℃のフラクションから無色液体を収率46%で得た。これについて更に減圧蒸留により精製を行い、無色透明液体を得た。この精製よる回収率は95%であった。得られた無色透明液体は、目的物である化合物No.1と同定された。得られた無色透明液体についての分析値を以下に示す。
【0060】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
珪素;6.49質量%(理論値6.43%)、Na; 1ppm未満、Cl; 5ppm未満
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.46:d:12)(2.18:s:24)(2.27:m:4)(2.53:m:4)(4.44:m:4)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量7.762mg)
50質量%減少温度217℃
【0061】
[製造例2]化合物No.2の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコに1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール0.687モル、脱水処理を行ったトルエン500ml及びナトリウム0.481モルを仕込み、固体ナトリウムが消失するまで攪拌した。系内の温度を4℃にした後、これに乾燥トルエン50mlと四塩化珪素0.1145molの混合液を滴下した。この際、系内の温度を30℃以下にコントロールした。滴下終了後、120℃で27時間還流した。反応液を0.2μmのフィルターでろ過した後、減圧留去により溶媒と未反応アルコールを除いた濃縮液を減圧蒸留した。25〜30Pa、塔頂温度115〜118℃のフラクションから無色液体を収率52%で得た。これについて更に減圧蒸留により精製を行い、無色透明液体を得た。この精製よる回収率は95%であった。得られた無色透明液体は、目的物である化合物No.2と同定された。得られた無色透明液体についての分析値を以下に示す。
【0062】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
珪素;6.10質量%(理論値6.04%)、Na; 1ppm未満、Cl; 5ppm未満
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.56:s:24)(2.32:s:24)(2.44:s:8)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.199mg)
50質量%減少温度233℃
【0063】
[製造例3]化合物No.13の製造
乾燥アルゴンガス雰囲気下で、反応フラスコにテトラキス(2−プロポキシ)ハフニウム・2−プロパノール0.100mol、脱水処理を行ったキシレン60ml及び1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール0.600molを滴下し、副生する2−プロパノールを留去しながら、140℃で8時間反応を行った。キシレンを留去して得た残渣について減圧蒸留を行った。25〜28Pa、塔頂温度154〜150℃のフラクションから無色液体を収率32%で得た。これについて更に減圧蒸留により精製を行い、無色透明液体を得た。この精製よる回収率は93%であった。得られた無色透明液体は、目的物である化合物No.13と同定された。得られた無色透明液体についての分析値を以下に示す。
【0064】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
ハフニウム;28.2質量%(理論値27.7%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.45:s:24)(2.36:s:24)(2.53:s:8)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量7.695mg)
50質量%減少温度250℃
【0065】
[評価例1]珪素化合物の熱酸化分解性評価
上記製造例1で得られた化合物No.1、テトラエトキシシラン(TEOS)及び以下に示す比較化合物1について、熱酸化分解性の評価を行った。化合物No.1及び比較化合物1については、30℃から10℃/分の昇温速度、乾燥酸素(100ml/分)気流下の測定条件による示差熱分析(TG−DTA)を行い、DTAの発熱ピークトップの温度及び450℃の残分を測定して評価した。結果を表1に示す。
なお、TEOSについては、上記方法では測定できなかったので、密閉容器中で酸素と混合し、500℃で1分間加熱し、酸化分解の有無を確認した。その結果、酸化分解を確認することはできなかった。
【0066】
【化10】

【0067】
【表1】

【0068】
上記表1より、化合物No.1と比較化合物1とを比較すると、発熱ピークトップについては、化合物No.1は比較化合物1よりも低温である。450℃の残量については、化合物No.1はSiO2としての理論値に近い値であり、比較化合物1は理論値よりもはるかに小さい値である。このことから、化合物No.1は、TEOS及び比較化合物1に比べて、熱酸化分解反応が低温で進行するため、薄膜に酸化珪素を供給するプレカーサとして優れていることが確認できた。
【0069】
[評価例2]ハフニウム化合物の熱酸化分解性評価
上記製造例3で得られた化合物No.13及び以下に示す比較化合物2について、上記評価例1と同様に熱酸化分解性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
【化11】

【0071】
【表2】

【0072】
上記表2より、化合物No.13と比較化合物2とを比較すると、発熱ピークトップについては、化合物No.13は比較化合物2よりも低温である。450℃残量については、化合物No.13はHfO2としての理論値に近い値であり、比較化合物2は理論値よりも小さい値である。このことから、化合物No.13は、比較化合物2に比べて、熱酸化分解反応が低温で進行するため、薄膜に酸化ハフニウムを供給するプレカーサとして優れていることが確認できた。
【0073】
[評価例3]珪素化合物の揮発特性評価
化合物No.1及び2並びに以下に示す比較化合物3について、蒸気圧測定により揮発特性を評価した。蒸気圧測定は、系を一定の圧力に固定して液面付近の蒸気温度を測定する方法により行った。系の圧力を変えて蒸気温度を3〜4点測定し、クラジウス−クラペイロンプロットにより、蒸気圧の式を適用して、120℃及び150℃における蒸気圧を算出した。結果を表3に示す。
【0074】
【化12】

【0075】
【表3】

【0076】
上記の表3より、一般式(I)におけるMが珪素である本発明のアルコキシド化合物は、比較化合物3よりも蒸気圧が大きく、揮発特性に優れることが確認できた。
【0077】
[評価例4]ハフニウム化合物の揮発特性評価
化合物No.13及び以下に示す比較化合物4について、上記評価例3と同様の方法により、蒸気圧測定を行い150℃及び200℃における蒸気圧を算出し、揮発特性を評価した。
尚、比較化合物4は、210℃でも揮発しなかったので蒸気相を得ることができず、蒸気圧の測定は不可能であった。比較化合物4について、乾燥アルゴン気流下での示差熱分析(TG−DTA)を行ったところ、熱のみにより徐々に分解が起こることが確認できた。
化合物No.13についての結果を表4に示す。
【0078】
【化13】

【0079】
【表4】

【0080】
上記の表4より、一般式(I)におけるMがハフニウムである本発明のアルコキシド化合物は、CVD用原料として十分な蒸気圧を示すことが確認できた。これに対して、比較化合物4は、蒸気の状態とすることができず、CVD用原料としては不適であった。
【0081】
[実施例1]
エチルシクロヘキサンを金属ナトリウム線で乾燥した後、アルゴン気流下で、前留分10質量%及び釜残分10質量%をカットし、蒸留精製を行い水分量が1ppm未満の溶媒を得た。この溶媒500mlに化合物No.2を0.02mol、化合物No.13を0.1molアルゴン気流下で配合して珪素−ハフニウムのカクテルソースを得た。図1に示すCVD装置及び上記カクテルソースを用いて、シリコンウエハ上に下記条件にて、ハフニウム珪素複合酸化物薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚及び組成の測定を蛍光X線を用いて行なった。それらの結果を以下に示す。
(条件)
気化室温度:170℃、原料流量:20mg/分、反応圧力:667Pa、反応時間:20分、基板温度:450℃、キャリアAr:200sccm、堆積後のアニール条件:酸素流量100sccm中600℃で10分
(結果)
膜厚:63nm、組成比(モル):Hf/Si=1.00:0.17
【0082】
[実施例2]
エチルシクロヘキサンを金属ナトリウム線で乾燥した後、アルゴン気流下で、前留分10質量%及び釜残分10質量%をカットし、蒸留精製を行い水分量が1ppm未満の溶媒を得た。この溶媒500mlに化合物No.1を0.02mol、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ハフニウムを0.1molアルゴン気流下で配合して珪素−ハフニウムのカクテルソースを得た。図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に以下の条件で、上記カクテルソースを用いてハフニウム珪素複合酸化物薄膜を製造した。製造した薄膜について、上記実施例1と同様に膜厚及び組成の測定を行った。それらの結果を以下に示す。
(条件)
気化室温度:170℃、原料流量:20mg/分、反応圧力:667Pa、反応時間:30分、基板温度:450℃、キャリアAr:200sccm
堆積後のアニール条件:酸素流量100sccm中600℃で10分
(結果)
膜厚:98nm、組成比(モル):Hf/Si=1.00:0.22
【0083】
[比較例1]
エチルシクロヘキサンを金属ナトリウム線で乾燥した後、アルゴン気流下で、前留分10質量%及び釜残分10質量%をカットし、蒸留精製を行い水分量を1ppm未満の溶媒を得た。この溶媒500mlにテトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)珪素を0.1mol、テトラキス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)ハフニウムを0.1molアルゴン気流下で配合して珪素−ハフニウムの比較用カクテルソースを得た。図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に以下の条件で、上記比較用カクテルソースを用いてハフニウム珪素複合酸化物薄膜を製造した。製造した薄膜について、上記実施例1と同様に膜厚及び組成の測定を行った。それらの結果を以下に示す。
(条件)
気化室温度:170℃、原料流量:20mg/分、反応圧力:667Pa、反応時間:30分、基板温度:450℃、キャリアAr:200sccm、堆積後のアニール条件:酸素流量100sccm中600℃で10分
(結果)
膜厚:87nm、組成比(モル):Hf/Si=1.00:0.05
【0084】
[実施例3]
エチルシクロヘキサンを金属ナトリウム線で乾燥した後、アルゴン気流下で、前留分10質量%及び釜残分10質量%をカットし、蒸留精製を行い水分量が1ppm未満の溶媒を得た。この溶媒500mlに、化合物No.13を0.1mol、トリス(1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロポキシ)イットリウム化合物を0.03molアルゴン気流下で配合してハフニウム−イットリウムのカクテルソースを得た。図1に示すCVD装置を用いて、シリコンウエハ上に以下の条件で、上記カクテルソースを用いてハフニウム−イットリウム複合酸化物薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚及び組成の測定を蛍光X線を用いて行なった。それらの結果を以下に示す。
(条件)
気化室温度:170℃、原料流量:20mg/分、反応圧力:667Pa、反応時間:30分、基板温度:450℃、:キャリアガス;アルゴン200sccm、酸化ガス:酸素300sccm
(結果)
膜厚:100nm、組成比(モル):Hf/Y=1.00:0.25
【0085】
上記実施例1〜3では、薄膜形成原料の組成と得られる薄膜の組成とがよく一致している。これに対し、比較例1では、薄膜形成原料の組成と得られる薄膜の組成とが一致していない。このことは、本発明のアルコキシド化合物が良好な組成制御を与えることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のアルコキシド化合物を含有する本発明の薄膜形成用原料を用いると、組成制御性等に優れた薄膜の製造を実現することができ、特に多成分薄膜をCVD法により製造する場合に優れた効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルコキシド化合物。
【化1】

【請求項2】
上記一般式(I)において、Aがメチレン基である請求の範囲第1項記載のアルコキシド化合物。
【請求項3】
上記一般式(I)において、Mが珪素原子である請求の範囲第1又は2項記載のアルコキシド化合物。
【請求項4】
上記一般式(I)において、Mがハフニウム原子である請求の範囲第1又は2項記載アルコキシド金属化合物。
【請求項5】
請求の範囲第1〜4項のいずれかに記載のアルコキシド化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【請求項6】
請求の範囲第5項記載の薄膜形成用原料を気化させて得たアルコキシド化合物を含有する蒸気を基体上に導入し、これを分解及び/又は化学反応させて基体上に薄膜を形成する薄膜の製造方法。


【図1】
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【国際公開番号】WO2005/085175
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510628(P2006−510628)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002118
【国際出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】