説明

インホイールモータ車用転舵装置

【課題】転舵アクチュエータを用いて、アッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに車輪を回転させるインホイールモータ車用転舵装置において、転舵の際の抵抗を小さくする。
【解決手段】車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸20周りに転舵手段33を備え、前記転舵手段33は、転舵アクチュエータ10の動作によりホイールwを前記転舵軸20周りに回転させて転舵する機能を有し、前記転舵アクチュエータ10の動作は、前記転舵手段33とは別に設けた操舵入力装置31からの入力信号に基づき制御手段32が制御し、前記制御手段32は、前記ホイールwが転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイールwに設けた制動手段35の制動を解除又は弛緩する制御を行うインホイールモータ車用転舵装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動輪にインホイールモータを備えた車両に使用されるインホイールモータ車用転舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の車輪(操舵輪)を動作させる転舵装置として、例えば、図6に示すものがある。この転舵装置は、操舵アクチュエータによって動作するものである。
すなわち、操舵アクチュエータとしてのモータ1から、ボールネジ機構2を駆動することによって、車幅方向のねじ軸3に対してナット軸4をその軸方向に進退させるようになっている。このナット軸4の進退により、操舵リンク機構7のタイロッドアーム5を経てナックルアーム6を車幅方向に押し引きし、車幅方向両側の車輪8に操舵角を与える構成である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年の電動自動車では、走行用駆動手段としての電動モータを、前輪や後輪、あるいは、前後輪の車輪にそれぞれ備えたインホイールモータ車が知られている。インホイールモータ車では、各車輪が走行用駆動手段としての走行用モータを備えている。
【0004】
インホイールモータ車において、走行用モータは、一般に、各車輪のホイール内側の空間に収容される。このため、ホイールとロアアームとの接続点であるロアジョイントを、ホイール内側の空間に配置することができないという制約が生じやすい。つまり、ロアジョイントの位置は、車輪よりも内方(車体幅方向中央側)へ押しやられ、オフセットすることとなる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ロアジョイントの位置は、転舵操作上は、車輪の幅方向中心と一致していることが理想であり、このロアジョイントの位置と車輪の幅方向中心とのオフセット量が大きくなると、転舵(操舵)が重くなるという弊害が大きくなる。
【0006】
ところで、インホイールモータ車に用いられるインホイールモータ車用転舵装置として、本件出願人は、特願2010−187805において、ホイールハウスに収まるコンパクトな構造を提案している。
【0007】
このインホイールモータ車用転舵装置は、アッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに固定ギヤを配置し、ホイール側には、各ホイール毎に転舵アクチュエータを配置している。
【0008】
例えば、図5(a)に示すように、転舵アクチュエータ10の駆動軸11は、ギヤケース12に支持されたウォーム13に連結されており、そのウォーム13が、転舵軸20側のウォームホイール21に噛み合っている。ウォームホイール21は転舵軸20に固定であり、且つ、ギヤケース12に対してフリーである。また、ギヤケース12は、ホイール連結部材14を介して車輪8のホイールwに固定されている。
【0009】
転舵アクチュエータ10の駆動力によりウォーム13が回転すると、そのウォーム13はウォームホイール21側から反力を受けて、ギヤケース12とともに転舵軸20周りを回転する。車輪8は、ホイール連結部材14、ギヤケース12、転舵アクチュエータ10等とともに転舵軸20周りを回転し、一定の操舵角αが与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−326459号公報
【特許文献2】特開2006−62388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記転舵アクチュエータ10を用いた転舵軸20周りのインホイールモータ車用転舵装置では、図5(a)に示すように、転舵軸20の軸中心cが、車輪8の幅方向中心線dに対して内方へ距離L1だけオフセットしている。
【0012】
このため、例えば、図5(a)(b)に示す実線位置から鎖線位置に向かって、矢印Aのように車輪8を転舵させようとすると、その車輪8の接地点は、転舵軸20周りの周方向に沿って、同図に示す距離L2だけ移動しようとする。このため、車輪8と地面との間の摩擦が抵抗となって、転舵操作が重くなるという問題がある。この転舵の際の抵抗は、特に、車輪8に設けられた制動装置が作動し、車輪8が回転しないようにロックされている場合に顕著である。
【0013】
そこで、この発明は、転舵アクチュエータを用いて、アッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに車輪を回転させるインホイールモータ車用転舵装置において、転舵の際の抵抗を小さくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明は、車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに転舵手段を備え、前記転舵手段は、転舵アクチュエータの動作により前記ホイールを前記転舵軸周りに回転させて転舵する機能を有し、前記転舵アクチュエータの動作は、前記転舵手段とは別に設けた操舵入力装置からの入力信号に基づき制御手段が制御し、前記制御手段は、前記ホイールが転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイールに設けた制動手段の制動を解除又は弛緩する制御を行うことを特徴とするインホイールモータ車用転舵装置を採用した。
【0015】
この構成によれば、ホイールが転舵する際に、制動手段の制動が解除されてホイールが自由に回転できる状態に、又は、その制動が緩められてホイールがある程度回転できる状態となるため、転舵の際の車輪と地面との間の摩擦による抵抗を減らし、転舵操作を軽くすることができる。
【0016】
この構成において、前記制御手段は、前記ホイールが転舵する際には前記制動手段による制動を解除又は弛緩し、前記ホイールの転舵が終了した際には、再度、前記制動手段を制動状態に制御する構成とすることができる。
【0017】
この構成によれば、転舵前に制動状態であった場合において、転舵に伴って一時的に制動が解除又は弛緩されても、転舵が終了すれば自動的に元の制動状態に復帰できるので、より安全である。
【0018】
また、他の手段として、車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに転舵手段を備え、前記転舵手段は、転舵アクチュエータの動作により前記ホイールを前記転舵軸周りに回転させて転舵する機能を有し、前記転舵アクチュエータの動作は、前記転舵手段とは別に設けた操舵入力装置からの入力信号に基づき制御手段が制御し、前記制御手段は、前記ホイールが転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイールに設けたインホイールモータをその転舵に伴って前記ホイールが回転しようとする方向に駆動させる制御を行う構成を採用することができる。
【0019】
この構成によれば、ホイールが転舵する際に、その転舵を補助する方向にホイールが駆動力によって回転するので、前述のブレーキの解除又は弛緩の場合と同様、転舵の際の車輪と地面との間の摩擦による抵抗を減らし、転舵操作を軽くすることができる。
【0020】
なお、前述のように、制御手段がブレーキの解除又は弛緩の制御を行う構成において、その制御手段が、前記ホイールが転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイールに設けたインホイールモータをその転舵に伴って前記ホイールが回転しようとする方向に駆動させる制御を行う構成を併用することができる。
【0021】
これらの各構成において、転舵の際にインホイールモータの駆動を制御する場合には、前記ホイールの転舵角に対応する前記ホイールの回転角度に対応して、そのインホイールモータの駆動が制御される構成とすることができる。すなわち、転舵時に補助するインホイールモータの駆動によるホイールの回転角度は、その転舵に伴ってホイールが移動する転舵軸周りの円周方向への移動距離に合致した角度とすることが望ましい。この移動距離とは、ホイールの幅方向中心線上における接地点の前記移動距離とすることができる。
ただし、転舵時に補助するインホイールモータの駆動によるホイールの回転角度を、前記接地点の移動距離以下に設定することも可能である。
【0022】
これらの各構成は、前記転舵軸の軸心の延長上に、車両のロアアームと前記ホイールとの接続点であるロアジョイントが位置し、前記ロアジョイントは、前記ホイールの幅方向中心よりも車両の幅方向中心側へオフセットしている構成である場合に特に有効である。
ロアジョイントの位置と車輪の幅方向中心とが車両の幅方向に対して偏心していると、操舵が重くなるという弊害が大きくなるからである。
【0023】
これらの各構成における前記転舵手段として、例えば、以下の構成を採用することができる。すなわち、車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りにウォームホイールを配置し、ホイールにはホイール連結部材を介してギヤケースを固定し、そのギヤケースに転舵アクチュエータを配置して、その転舵アクチュエータの駆動軸を前記ギヤケースに支持されたウォームに連結してそのウォームを前記ウォームホイールに噛み合わせて構成され、前記転舵アクチュエータによる前記駆動軸の回転により、前記ウォームが前記ギヤケースとともに前記転舵軸周りを回転して前記ホイールを転舵する構成である。
【0024】
なお、転舵手段としては、この構成以外にも、ホイール側に設けた転舵アクチュエータによって、ホイールを、車体側に設けた転舵軸周りに回転させることで転舵する種々の構成を採用することができる。
【0025】
これらの各構成において、インホイールモータによる駆動輪の数は自由であるが、特に、車両が四輪車である場合において、前記インホイールモータが全てのホイールに設けられている構成を採用することができる。また、また、転舵手段を設けた車輪(操舵輪)の数も自由であるが、特に、車両が四輪車である場合において、前記転舵手段が全てのホイールに設けられている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、転舵アクチュエータを用いて、アッパアームに設けた上下方向の転舵軸周りに車輪を回転させるインホイールモータ車用転舵装置において、転舵の際の抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は側面図
【図2】同実施形態の作用を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図
【図3】(a)〜(d)は、四輪車の各車輪の操舵状態を示す模式図
【図4】同実施形態の装置の構成を示すブロック図
【図5】インホイールモータ車の転舵時の作用を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は正面図
【図6】従来例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態は、走行用駆動手段としてのインホイールモータ34を、各車輪8にそれぞれ備えた電気自動車に用いられるインホイールモータ車用転舵装置30に関するものである。この実施形態の車両は、前後輪の全ての車輪8にインホイールモータ34及び転舵手段33が設けられており、すなわち、全ての車輪8が駆動輪及び操舵輪となっている。
【0029】
インホイールモータ34は、図1に示すように、各車輪8のホイールwのリム内側の空間に収容される。また、そのリム内側には、ホイールwを制動する制動手段35が組み込まれている。なお、装置を動作させるための配線類は、その一部を図示省略している。ホイールwにはタイヤが嵌められている。
【0030】
インホイールモータ34は、そのインホイールモータ34の駆動時に回転しないホイール連結部材14を備える。また、このホイール連結部材14は、車体幅方向内側へ突出するアッパステー14a及びロアステー14bを備える。
【0031】
アッパステー14aは、その先端に設けたアッパジョイント43を介して、アッパアーム41の先端に連結される。また、ロアステー14bは、その先端に設けたロアジョイント44を介して、ロアアーム42の先端に連結される。
これらのアッパジョイント43及びロアジョイント44の中心間を通る直線Kは、サスペンション(図示せず)のキングピン中心線に一致する。この直線Kを、以下、キングピン中心線Kと称する。
【0032】
このように、ホイールw及びインホイールモータ34は、車体のフレームF(図3参照)に対して、アッパアーム41側のアッパジョイント43、ロアアーム42側のロアジョイント44を介して固定されている。また、制動手段35は、ホイールwの支持軸に取付けられている。また、インホイールモータ34及び制動手段35は、ホイールwの支持軸と同心に配置されている。
【0033】
ホイールwとロアアーム42との接続点であるロアジョイント44は、図1(b)に示すようにインホイールモータ34を避けて、ホイールwよりも内方(車体幅方向中央側)へ距離L1だけオフセットしている。
【0034】
また、この実施形態では、アッパジョイント43は、アッパアーム41と、そのアッパアーム41の先端に取付けられたT字状部材45とによって構成されている。
すなわち、T字状部材45は、水平方向へ伸びる軸状の横部材45aと、その横部材45aの長さ方向中心から突出する軸状の縦部材45bとを備える。横部材45aは、アッパアーム41の先端に設けたブラケットに対して、その向きが車体前後方向へ向くように固定される。また、縦部材45bは、その軸方向が、前記キングピン中心線Kに一致する向きに配置される。
【0035】
ただし、T字状部材45は、横部材45aがブラケットに対して軸周り回転可能に支持されているので、縦部材45bは、車体幅方向に対して揺動可能である。この縦部材45bが、転舵手段33に対応する上下方向の転舵軸20として機能する。
【0036】
転舵手段33の構成は、図5(a)に示す構成と同様のものを採用している。すなわち、転舵アクチュエータ(モータ)10の駆動軸11は、ギヤケース12に支持されたウォーム13に連結されており、そのウォーム13が、転舵軸20側のウォームホイール21に噛み合っている。ウォームホイール21は転舵軸20に固定であり、且つ、ギヤケース12に対してフリーである。また、ギヤケース12は、ホイール連結部材14を介して車輪8のホイールwに固定されている。
【0037】
転舵アクチュエータ10の駆動力によりウォーム13が回転すると、そのウォーム13はウォームホイール21側から反力を受けて、ギヤケース12とともに転舵軸20周りを回転する。車輪8は、ホイール連結部材14、ギヤケース12、転舵アクチュエータ10等とともに転舵軸20周りを回転し、一定の操舵角αが与えられる。なお、図2では、転舵手段33等の図示を省略している。
【0038】
図3に、この実施形態における車輪8の操舵例を示す。図3(a)は、図中左側に示す左右の前輪を、運転席から見て左方向に操舵した状態である。図3(b)は、同じく右方向に操舵した状態である。図3(c)は、全輪を車体の中心から放射状に向けたパーキング状態である。
図3(d)は、全輪を車体の中心周りに形成される仮想円周の接線方向に沿って操舵した状態である。全ての車輪8を仮想円周に沿って同方向に駆動すれば、車体はその場に留まりながら、360度回転することが可能である。各車輪8の駆動方向を別々に制御出来るインホイールモータ34を搭載しているので、このような動作が可能である。
【0039】
この実施形態のインホイールモータ車用転舵装置30の構成を、図4のブロック図に示す。
【0040】
インホイールモータ車用転舵装置30は、ホイールw側に設けられた前記転舵手段33、インホイールモータ34、制動手段35とを備える。また、その転舵手段33とは別に車体側に設けられた操舵入力装置31、その操舵入力装置31からの入力信号に基づき、前記転舵手段33、インホイールモータ34、制動手段35の操作を制御する制御手段32を備える。操舵入力装置31は、運転席に備えられたステアリング装置の動作を電気信号に変換し、その電気信号を制御手段32に伝達する機能を有する。
【0041】
インホイールモータ34は、通常走行時には、車上に設けた走行用駆動手段コントローラ装置36(図4参照)により駆動される。この走行用駆動手段コントローラ装置36を介して、運転者が行うアクセル操作に連動して、インホイールモータ34の回転方向、回転速度、回転角度等の駆動が制御される。なお、インホイールモータ34は、3相電流で駆動される同期モータ等からなる。
【0042】
この走行用駆動手段コントローラ装置36は、上位の制御手段となる電気制御ユニット(ECU)38から与えられるモータ駆動指令に応じて、インホイールモータ34を制御する装置である。電気制御ユニット38は、アクセルの操作量や、その他システムによる補正を勘案してモータ駆動指令を出力する機能を備える。
【0043】
制動手段35は、図1(a)(b)に示すように、ホイールwの支持軸に取付けられたブレーキディスクと、そのブレーキディスクに当接するブレーキパッドを備えたキャリパー、ブレーキパッドを押圧する制動用電動アクチュエータ等を備える。
【0044】
制動手段35は、車上に設けた制動手段コントローラ装置37(図4参照)によりその制動の開始、解除、制動の強弱の加減等が制御される。この制動手段コントローラ装置37は、前記電気制御ユニット38から与えられる制動指令に応じて、制動手段35を制御する装置である。電気制御ユニット38は、運転者が行うブレーキペダルの操作量や、その他システムによる補正を勘案して制動指令を出力する機能を備える。
【0045】
転舵手段33の転舵アクチュエータ10の動作は、その転舵手段33とは別に設けた操舵入力装置31からの入力信号に基づき、制御手段32がその転舵の開始、終了、転舵角等を制御する。
【0046】
この操舵入力装置31からの入力信号は、例えば、パワーステアリングのトルクセンサ出力や、アシストモータの電流値や電気信号が利用できる。この実施形態のように、転舵アクチュエータ10として電動アクチュエータを採用した場合は、後者のアシストモータの電流値や電気信号が利用できる。
【0047】
また、制御手段32は、ホイールwが転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイールwに設けた制動手段35の制動を解除又は弛緩する制御を行う。この制御は、図4に示すように、電気制御ユニット38、制動手段コントローラ装置37を通じて行われる。
【0048】
この制動手段35による制動の解除又は弛緩により、ホイールwが転舵する際において、ホイールwが自由に回転できる状態に、又は、その制動が緩められてホイールwがある程度回転できる状態となる。このため、転舵の際の車輪8と地面との間の摩擦による抵抗を減らし、転舵操作を軽くすることができる。
【0049】
また、この実施形態では、制動手段35は、ホイールwが転舵する際にはその制動が解除又は弛緩され、ホイールwの転舵が終了した際には、再度、制動状態になるように制御される。
このため、転舵前に制動状態であった場合において、転舵に伴って一時的に制動が解除又は弛緩されても、転舵が終了すれば自動的に元の制動状態に復帰できるので、より安全である。
【0050】
また、制御手段32は、ホイールwが転舵する際に前記入力信号に基づいて、インホイールモータ34の制御も行う。この制御は、図4に示すように、制御手段32からの信号に基づいて、電気制御ユニット38、走行用駆動手段コントローラ装置36を通じて行われる。
【0051】
すなわち、制御手段32は、ホイールwが転舵する際に、そのホイールwに設けたインホイールモータ34をその転舵に伴ってホイールwが回転しようとする方向に駆動させる制御を行う。
【0052】
このとき、インホイールモータ34によるホイールwの駆動量は、図2に示すホイールwの転舵角αに対応するホイールの回転角度、すなわち、図中矢印Bに示す車輪8の支持軸周りの回転角度に合致するように制御され、必要な回転が終了すれば自動的に停止する。
すなわち、転舵時に補助するインホイールモータ34の駆動によるホイールwの回転角度は、その転舵に伴ってホイールwの接地点が移動する転舵軸20周りの円周方向への移動距離L2に合致した角度とされる。
ただし、転舵時に補助するインホイールモータ34の駆動によるホイールwの回転角度を、前記接地点の移動距離L2以下に対応した角度に設定することも可能である。
【0053】
このインホイールモータ34による補助的な駆動により、ホイールwが転舵する際に、その転舵を補助する方向にホイールwが駆動力によって回転するので、前述のブレーキの解除又は弛緩の作用に加えて、転舵の際の車輪8と地面との間の摩擦による抵抗を減らし、また、モータの引きずりトルクを解消し、転舵操作を軽くすることができる。
【0054】
なお、前述の制御手段がブレーキの解除又は弛緩の制御を行う構成と、その制御手段が、そのホイールwに設けたインホイールモータ34を補助的に駆動させる制御を行う構成とは、その両方を併用することが望ましいが、いずれか一方のみを採用した構成を採用することも可能である。
【0055】
これらの各構成は、キングピン中心線K上、すなわち、転舵軸20の軸心の延長上に、車両のロアアーム42とホイールwとの接続点であるロアジョイント44が位置し、そのロアジョイント44が、ホイールwの幅方向中心よりも車両の幅方向中心側へオフセットしている構成である場合に特に有効である。ロアジョイント44の位置と車輪8の幅方向中心とが車両の幅方向に対して偏心していると、操舵が重くなるという弊害が大きくなるからである。
【0056】
なお、転舵手段33としては、この実施形態の構成には限定されず、ホイールw側に設けた転舵アクチュエータ10によって、ホイールwを、車体側に設けた転舵軸20周りに回転させることで転舵する種々の構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 モータ
2 ボールネジ機構
3 ねじ軸
4 ナット軸
5 タイロッドアーム
6 ナックルアーム
7 操舵リンク機構
8 車輪(操舵輪)
10 転舵アクチュエータ
11 駆動軸
12 ギヤケース
13 ウォーム
14 ホイール連結部材
14a アッパステー
14b ロアステー
20 転舵軸(キングピン)
21 ウォームホイール
30 インホイールモータ車用転舵装置
31 操舵入力装置
32 制御手段
33 転舵手段
34 インホイールモータ(走行用駆動手段)
35 制動手段
36 走行用駆動手段コントローラ装置
37 制動手段コントローラ装置
38 電気制御ユニット(ECU)
41 アッパアーム
42 ロアアーム
43 アッパジョイント
44 ロアジョイント
w ホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸(20)周りに転舵手段(33)を備え、前記転舵手段(33)は、転舵アクチュエータ(10)の動作によりホイール(w)を前記転舵軸(20)周りに回転させて転舵する機能を有し、
前記転舵アクチュエータ(10)の動作は、前記転舵手段(33)とは別に設けた操舵入力装置(31)からの入力信号に基づき制御手段(32)が制御し、前記制御手段(32)は、前記ホイール(w)が転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイール(w)に設けた制動手段(35)の制動を解除又は弛緩する制御を行うことを特徴とするインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項2】
前記制御手段(32)は、前記ホイール(w)が転舵する際には前記制動手段(35)による制動を解除又は弛緩し、前記ホイール(w)の転舵が終了した際には、再度、前記制動手段(35)を制動状態に制御することを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項3】
車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸(20)周りに転舵手段(33)を備え、前記転舵手段(33)は、転舵アクチュエータ(10)の動作により前記ホイール(w)を前記転舵軸(20)周りに回転させて転舵する機能を有し、
前記転舵アクチュエータ(10)の動作は、前記転舵手段(33)とは別に設けた操舵入力装置(31)からの入力信号に基づき制御手段(32)が制御し、前記制御手段(32)は、前記ホイール(w)が転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイール(w)に設けたインホイールモータ(34)をその転舵に伴って前記ホイール(w)が回転しようとする方向に駆動させる制御を行うことを特徴とするインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項4】
前記制御手段(32)は、前記ホイール(w)が転舵する際に前記入力信号に基づいて、そのホイール(w)に設けたインホイールモータ(34)をその転舵に伴って前記ホイール(w)が回転しようとする方向に駆動させる制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項5】
前記インホイールモータ(34)の駆動は、前記ホイール(w)の転舵角(α)に対応する前記ホイール(w)の回転角度に対応して制御されることを特徴とする請求項3又は4に記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項6】
前記転舵軸(20)の軸心の延長上に、車両のロアアームと前記ホイール(w)との接続点であるロアジョイントが位置し、前記ロアジョイントは、前記ホイールの幅方向中心よりも車両の幅方向中心側へオフセットしていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項7】
前記転舵手段(33)は、車両のアッパアームに設けた上下方向の転舵軸(20)周りにウォームホイール(21)を配置し、ホイール(w)にはホイール連結部材(14)を介してギヤケース(12)を固定し、そのギヤケース(12)に転舵アクチュエータ(10)を配置して、その転舵アクチュエータ(10)の駆動軸(11)を前記ギヤケース(12)に支持されたウォーム(13)に連結してそのウォーム(13)を前記ウォームホイール(21)に噛み合わせて構成され、前記転舵アクチュエータ(10)による前記駆動軸(11)の回転により、前記ウォーム(13)が前記ギヤケース(12)とともに前記転舵軸(20)周りを回転して前記ホイール(w)を転舵することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項8】
前記車両は四輪車であり、前記インホイールモータ(34)は全てのホイール(w)に設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のインホイールモータ車用転舵装置。
【請求項9】
前記車両は四輪車であり、前記転舵手段(33)は全てのホイール(w)に設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のインホイールモータ車用転舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112112(P2013−112112A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258948(P2011−258948)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】