説明

エッチング液およびそれを用いたトレンチ・アイソレーション構造の形成方法

【課題】トレンチ構造の影響を受けにくいエッチング液とそれを用いたアイソレーション構造の形成方法の提供。
【解決手段】フッ酸と有機溶媒とを含んでなるエッチング液。前記有機溶媒の、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義されるδHは4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5%以上である。このエッチング液は、従来の半導体素子形成プロセスに用いられるエッチング液の代わりに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造プロセスにおける、絶縁膜であるスピンオン誘電体膜(spin−on dielectric layer; 以下、SOD膜という)をエッチングするためのエッチング液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の様な電子デバイスにおいては、半導体素子、例えばトランジスタ、抵抗、およびその他、が基板上に配置されているが、これらは電気的に絶縁されている必要がある。したがって、これら素子の間には、素子を分離するための領域が必要であり、これをアイソレーション領域と呼ぶ。従来は、このアイソレーション領域を半導体基板の表面に選択的に絶縁膜を形成させることにより行うことが一般的であった。
【0003】
一方、電子デバイスの分野においては、近年、高密度化、および高集積化が進んでいる。このような高密度および高集積度化が進むと、必要な集積度に見合った、微細なアイソレーション構造を形成させることが困難となり、そのようなニーズに合致した新たなアイソレーション構造が要求される。そのようなものとして、トレンチ・アイソレーション構造が挙げられる。この構造は、半導体基板の表面に微細なトレンチを形成させ、そのトレンチの内部に絶縁物を充填して、トレンチの両側に形成される素子の間を電気的に分離する構造である。このような素子分離のための構造は、従来の方法に比べてアイソレーション領域を狭くできるため、昨今要求される高集積度を達成するために有効な素子分離構造である。
【0004】
このようなトレンチ・アイソレーション構造を形成させるための方法のひとつとして、自己整合シャロー・トレンチ・アイソレーションプロセスがある。この方法によれば、絶縁材料(以下、SOD材料という)を含む組成物をトレンチ構造が形成された基板表面に塗布してトレンチ内に組成物を充填し、次いでSOD材料を焼成などにより硬化させて絶縁材料に転化させ、基板表面に形成された余剰のSOD膜を化学的機械的研磨方法(Chemical Mechanical Polishing:以下、CMPという)によって除去し、さらに基板表面が平坦になるようにウェットエッチングを行うのが一般的である。
【0005】
このような方法に用いられるエッチング液としては、各種のものが検討されている。最も簡単なものとしては、フッ酸水溶液や、フッ酸緩衝液があり、さらには、イソプロピルアルコールを添加したフッ酸水溶液(特許文献1)や、フッ酸塩を有機溶媒に溶解させた溶液(特許文献2)なども挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0145009号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/126583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、このような従来の方法には改良の余地があった。すなわち、ウェットエッチングの際のエッチングレートがトレンチ・アイソレーション構造の影響を受けて不均一になることがあった。具体的には、比較的狭いトレンチ部においては、トレンチ周囲部のエッチングレートが相対的に大きく、中間部が凸状になったり、トレンチ幅がひろい部分では凹凸になったりすることがあった。このような構造の欠陥は、絶縁特性の不良や機械的強度の点で好ましくないため、改良の必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるエッチング液は、フッ酸と有機溶媒とを含んでなり、前記有機溶媒の、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義されるδHが4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5%以上のものであることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明によるシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法は、
トレンチ構造を有する基板表面に絶縁材料を含む組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
塗布済みの基板を焼成して、絶縁材料を硬化させ、絶縁膜を形成させる焼成工程、
研磨後の絶縁膜を、フッ酸と有機溶媒とを含んでなり、前記有機溶媒の、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義されるδHが4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5%以上であるエッチング液で処理するエッチング工程
を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、半導体素子製造プロセス、特にシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成において、基板上に混在する異なった幅のトレンチに絶縁材料を充填して絶縁膜を形成させる際に、すべてのトレンチを均一に、またトレンチ内は平坦にエッチングすることが可能なエッチング液が提供される。このエッチング液を用いることにより、欠陥が少なく、絶縁特性や機械的強度に優れたシャロー・トレンチ・アイソレーション構造を形成させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のエッチング液を用いたシャロー・トレンチ・アイソレーションのプロセスを示す断面概念図。
【図2】従来のエッチング液を用いたシャロー・トレンチ・アイソレーションのプロセスを示す断面概念図。
【図3】エッチング後のトレンチ部断面概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明によるエッチング液を用いた自己整合シャロー・トレンチ・アイソレーションプロセスを図1を参照しながら説明すると以下の通りである。
【0014】
まず、基板1上に金属薄膜からなる回路2等を形成させる。基板はシリコンなどの半導体材料やその他の任意のものから選択することができる。また回路などは基板上に、エッチングや印刷などの任意の方法で形成させることができる。そして、その回路等の上に、必要に応じてキャップ3を形成させる(図1(a))。このキャップ3は、のちに行うエッチングの際に回路等を保護するためのものであり、例えばフォトレジストなどを用いて形成させることができる。また、回路等を形成させてからキャップ3を形成させるばかりではなく、基板表面に均一な金属薄膜を形成させてから、フォトレジストなどにより金属薄膜上にキャップ3、すなわちマスクを形成させ、それを利用して金属薄膜をエッチングすることにより回路2を形成させることもできる。
【0015】
このように形成されたキャップ3をマスクとして、基板1をエッチングする。この操作によって基板1に所望のパターンが転写され、トレンチ・アイソレーション構造が形成される(図1(b))。
【0016】
本発明によるエッチング液を用いてトレンチ・アイソレーション構造を形成させる場合、トレンチの幅、および深さは特に限定されないが、幅は一般に0.02〜10μm、好ましくは0.02〜5μm、であり、深さは200〜1000nm、好ましくは300〜700nmである。
【0017】
トレンチが形成された基板表面に、さらにCVD法やALD(Atomic Layer Deposition)法などにより窒化シリコンライナー膜、ポリシリコン膜、または酸化シリコン膜等を形成させることもできる。
【0018】
次に、表面にトレンチが形成されたシリコン基板上にSOD膜の材料となるSOD材料を含む組成物を塗布する。この塗布によって、トレンチ内にSOD材料が充填される。このSOD材料は、ポリシラザン、水素化シルセスキオキサン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものが好ましく、ポリシラザンがより好ましい。
【0019】
ポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、最も好ましいものとして下記一般式(Ia)〜(Ic)で表される単位の組み合わせからなるものが挙げられる:
【化1】

(式中、m1〜m3は重合度を表す数である)
このうち、特に好ましいものとしてスチレン換算重量平均分子量が700〜30,000であるものが好ましい。
【0020】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として一般式:
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であり、nは重合度を表す数である)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
本発明に用いられるSOD材料を含む組成物は、前記のSOD材料を溶解し得る溶媒を含んでなる。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0022】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0023】
本発明に用いられるSOD材料を含む組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えばポリシラザンなどのSOD材料の架橋反応を促進する架橋促進剤等、SOD材料を絶縁体に転化させる反応の触媒、組成物の粘度を調製するための粘度調整剤などが挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0024】
また、前記の各成分の含有率は、塗布条件や焼成条件などによって変化する。ただし、SOD材料の含有率が組成物の総重量を基準として1〜30重量%であることが好ましく、2〜20重量%とすることがより好ましい。ただし、組成物に含まれるSOD材料の濃度はこれに限定されるものではなく、本発明において特定されたトレンチ・アイソレーション構造を形成できるのであれば、任意濃度の組成物を用いることができる。また、SOD材料以外の各種添加剤の含有率は、添加剤の種類などによって変化するが、SOD材料に対する添加量が0.001〜40重量%であることが好ましく、0.005〜30重量%であることがより好ましく、0.01〜20重量%であることがさらに好ましい。
【0025】
前記の組成物は、任意の方法で基板上に塗布することができる。具体的には、スピンコート、カーテンコート、ディップコート、およびその他が挙げられる。これらのうち、塗膜面の均一性などの観点からスピンコートが特に好ましい。塗布される塗膜の厚さ、すなわち基板表面のトレンチのない部分における塗膜の厚さは、20〜150nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。
【0026】
塗布後、組成物が塗布された基板をプリベーク処理をすることができる。この工程では、塗膜中に含まれる溶媒の少なくとも一部を除去することを目的とする。
【0027】
通常、溶媒を除去するためには、実質的に一定温度で加熱する方法がとられる。このとき、実質的にSOD材料の酸化または重合反応が起こらない条件で溶媒除去を行うべきである。したがって、溶媒の除去をする場合、温度は通常50〜250℃、好ましくは80〜200℃、の範囲内であり、所要時間は一般に0.5〜10分、好ましくは1〜5分、である。
【0028】
SOD材料を含む組成物を塗布し、必要により溶媒を除去した後、塗膜を焼成して、塗膜全体を絶縁体膜4に転化させる(図1(c))。焼成は、硬化炉やホットプレートを用いて、水蒸気を含んだ、不活性ガスまたは酸素雰囲気下で行うことが好ましい。水蒸気は、ポリシラザン化合物等のSOD材料を絶縁体に十分に転化させるのに重要であり、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、最も好ましくは20%以上とする。特に水蒸気濃度が20%以上であると、SOD材料の絶縁体への転化が進行しやすくなり、ボイドなどの欠陥の発生が少なくなり、絶縁膜の特性が改良されるので好ましい。雰囲気ガスとして不活性ガスを用いる場合には、窒素、アルゴン、またはヘリウムなどを用いる。
【0029】
硬化させるための温度条件は、用いるSOD材料の種類や、工程の組み合わせ方によって変化する。しかしながら、温度が相対的に高い場合にSOD材料が絶縁体膜に転化される速度が速くなる傾向にあり、また、温度が低いほうがシリコンなどの基板の酸化または結晶構造の変化によるデバイス特性への悪影響が小さくなる傾向がある。このような観点から、本発明による方法では、通常1000℃以下、好ましくは300〜900℃で加熱を行う。ここで、目標温度までの昇温時間は一般に1〜100℃/分であり、目標温度に到達してからの硬化時間は一般に1分〜10時間、好ましくは15分〜3時間、である。
必要に応じて硬化温度または硬化雰囲気の組成を段階的に変化させることもできる。
【0030】
SOD材料を絶縁体膜に転化させた後、形成された絶縁体膜4の不要な部分を除去する。そのために、必要応じて、まず研磨処理により、基板上のトレンチ部内側に形成された絶縁体膜を残し、基板表面の平坦部上に形成された絶縁体膜を研磨により除去する。この研磨処理により、キャップ3の表面よりも上部にある絶縁体膜が除去される(図1(d))。この研磨処理は、硬化処理の後に行うほか、プリベーク工程を組み合わせる場合には、プリベーク直後に行うこともできる。
【0031】
研磨は、一般的にCMPにより行う。このCMPによる研磨は、一般的な研磨剤および研磨装置により行うことができる。具体的には、研磨剤としてはシリカ、アルミナ、またはセリアなどの研磨材と、必要に応じてその他の添加剤とを分散させた水溶液などを用いることができる、研磨装置としては、市販の一般的なCMP装置を用いることができる。
【0032】
前記の研磨処理により、キャップ3表面の平坦部上に形成されたポリシラザン組成物に由来する二酸化ケイ素膜はほとんど除去されるが、隣接する回路2の間に残っている絶縁体膜を除去するために、さらに本発明によるエッチング液を用いてエッチング処理を行う。このエッチング処理は、本発明において特定されたエッチング液を用いるほかは、従来の方法と同様にして行うことができる。
【0033】
ここで用いられるエッチング液は、水と、フッ酸と、特定の有機溶媒を水に対する溶解度以下の含有率で含むものである。フッ酸の含有率は、エッチングしようとするSOD膜の種類などによって変化するが、エッチング液の総重量を基準として、好ましくは0.06〜2重量%、より好ましくは0.1〜1重量%の割合で含まれる。
【0034】
また、特定の有機溶媒とは、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義される水素結合の強さの指標であるδHが4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5重量%以上のものである。このような有機溶媒としては、具体的には表1に示すものが挙げられる。
【表1】

表中、「任意」との記載は、水に対してその有機溶媒が任意の割合で混合することを意味している。これらの有機溶媒は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
従来のエッチング液において使用されていたイソプロピルアルコール(δH=16.4)、乳酸エチル(δH=12.5)、酢酸(δH=13.5)などは、δHが大きすぎて本発明の効果を十分に得ることができない。
【0036】
表1に記載された溶媒のうち、δHが11.6以下であるものがより好ましい。一方、δHが5以上であるものが好ましく、7以上であるものがより好ましい。また、20℃の水に対する飽和溶解度は8重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。これらのうち、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルアセトアセテート、アセトン、ジメチルエーテル、メチルエチルケトン、およびエチレングリコールジメチルエーテルが取り扱い性およびコストの観点から好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびアセトンは本発明の効果が強く発現するので特に好ましい。
【0037】
エッチング液中に含まれる特定の有機溶媒の含有率は、一般にエッチング液に含まれる成分が均一に混合される範囲で選択され、特に限定されない。しかしながら、含有率が多いほど、本願発明の効果を強く発現する傾向にある。このような観点から、有機溶媒の水に対する飽和溶解度を超えない範囲で、エッチング液の総重量に対して、有機溶媒の含有率が1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることが好ましい。また、水に対する溶解度が有限である有機溶媒を用いる場合には、飽和溶解度により近い割合で有機溶媒を含むことが好ましい。具体的には、エッチング液に含まれる有機溶媒の含有率が飽和溶解度に対して、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0038】
一方で、エッチング処理を行う際に、エッチング液の有機溶媒の含有率が高くなるとエッチング速度が低下する傾向にあるので、エッチング速度の確保の観点から有機溶媒の含有率は過度に高くないことが好ましい。水に対する溶解度が有限である有機溶媒を用いる場合には、飽和溶解度以下の含有率であればよい。水に対して任意の割合で混合できる有機溶媒を用いる場合には、エッチング液の総重量に対する有機溶媒の含有率が95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明によるエッチング液は、前記したフッ酸と特定の有機溶媒とを含むものであるが、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。このようなその他の成分としては、エッチング作用を補助すると考えられるフッ化アンモニウムやリン酸、エッチング液の濡れ性などを改善すると考えられる界面活性剤などを挙げることができる。
【0040】
このようなエッチングにより、図1(e)に示されるように、回路2の間にある絶縁体膜4が均一にエッチングされ、適切なタイミングでエッチングを完了することで、基板1の表面までを絶縁体膜で充填した構造を得ることができる。本発明によれば、図1(e)に示されるように、回路間の間隔、言い換えるとトレンチ幅が異なっても、エッチングにより均一に絶縁体膜を除去することができる。
【0041】
引き続き、キャップ3を除去することにより、回路間がトレンチにより分離された構造を得ることができる(図1(f))。
【0042】
従来、エッチング液にはフッ化アンモニウムを含有するフッ酸水溶液などが用いられていた。この場合のトレンチ・アイソレーションプロセスは図2に示す通りである。すなわち、図2(a)〜図2(d)までは、前記した場合と同様であるが、ウェットエッチングに従来のエッチング液を用いると、場所によってエッチングレートが変化し、図2(e)に示す通り、トレンチ内部の中央部分が盛り上がってしまう。これはキャップ3を除去しても変化しない(図2(f))。したがって、最終的な半導体装置において絶縁不良や機械的強度不足を引き起こしてしまうことが多かったのである。
【0043】
本発明によるエッチング液によって、均一なエッチング処理が可能になる理由は明らかにはなっていないが、以下のようなメカニズムが推定されている。
基板表面に形成された絶縁膜のトレンチ内側側面に接触している部分は、引っ張り応力が強いため、エッチングされやすい傾向にある。そのため、トレンチ内側側面に近い部分におけるエッチング速度が速くなり、図2(e)に示されるように、トレンチ内部の中央部が盛り上がる。
【0044】
一方、フッ酸を含むエッチング液において、エッチング反応に主として寄与するのはHFイオンと考えられる。このHFイオンの寄与が大きすぎると前記したような不均一なエッチングが進行するのに対し、本願発明においては特定の有機溶媒が水素結合によってHFと会合し、HFイオンへの電離を抑制することにより、HFの有効濃度を適切に下げるものと考えられる。このような効果により、トレンチ内側側面に近い部分におけるエッチング速度が下げられ、一方でトレンチ内部の中央部のエッチング速度は大きく変化しないために均一なエッチングが可能となるものと考えられる。このような効果はフッ酸濃度を下げるだけでは達成できず、本願発明に特定されているエッチング液を用いることが必要である。
【0045】
本発明によるエッチング液は、上記のようなシャロー・トレンチ・アイソレーションの形成に適したものであるが、その他の用途にも応用し得るものである。具体的には、半導体装置の製造過程において、金属配線層間絶縁膜(IMDとも呼ばれる)、プリメタル絶縁膜(PMDとも呼ばれる)を形成させる際の、コンタクトホールの洗浄などにも利用可能である。径の小さいコンタクトホールなどでは、ホール内側に露出している膜が膜厚方向で不均一である場合があり、本発明によるエッチング液を用いると、膜質が不均一であっても均一にクリーニングすることができる。このために、本発明によるエッチング液をコンタクトホールの洗浄に用いると、従来のようにコンタクトホールの形状を保つために、エッチング液の組成やエッチング時間を制御する必要が無い。
【0046】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0047】
実施例1〜19および比較例1〜5
まず、表面にトレンチ構造を有するシリコン基板を準備した。そのトレンチの幅は80nm、190nm、および1800nmであり、深さは540nmであった。
【0048】
ポリシラザンのジブチルエーテル溶液(組成物の総重量を基準とした固形分濃度が19重量%)を前記の基板に回転数1000rpmの条件でスピンコートし、150℃で3分間の条件で溶媒の一部を除去した。このとき、基板表面のトレンチ構造以外の部分におけるポリシラザン組成物塗膜の膜厚は600nmであった。
【0049】
さらにこの基板を、水蒸気酸化炉VF−1000(商品名:光洋サーモシステム株式会社製)にて、酸素/水蒸気混合ガス(HO/(O+HO)=80mol%)を8.34リットル/分の速度で流した雰囲気下、350℃で2時間、焼成した。これによりポリシラザンに由来するSOD膜を形成させた。
【0050】
引き続き、CMPにより、基板表面が露出するまで研磨した。研磨後の基板を、23℃でエッチング処理した。このとき、エッチング処理の時間を変化させてサンプリングを行った。用いたエッチング液は、表2に示す通りであった。エッチング後に、その断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−4700型(商品名))で観察し、80nm幅および1800nm幅のトレンチにおけるエッチングレートと、190nm幅のトレンチにおける起伏高さを測定した。起伏高さは、図3に示す通り、トレンチ内においてエッチングによるSOD膜の除去が最も多い部分と、最も少ない部分の高さの差hとした。
【0051】
得られた結果は表2に示す通りであった。
【表2】

表中、
PGMEAはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、
PGMEはプロピレングリコールモノメチルエーテル、
EAAはエチルアセトアセテート、
MEKはメチルエチルケトン、
EGMEAはエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、
CAはクロトン酸、
PDは2,4−ペンタンジオン、
IPAはイソプロパノールを表す。
また、膜形状は、起伏高さが57nm未満をA(優れる)、57nm以上76nm未満をB(良好)、76nm以上をC(劣る)とした。
【0052】
なお、各実施例に対して、フッ酸を除いた溶液を用いてエッチング処理を行った場合には、エッチングが全くできなかった。
【符号の説明】
【0053】
1 基板
2 回路
3 キャップ
4 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ酸と有機溶媒とを含んでなり、前記有機溶媒の、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義されるδHが4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5重量%以上のものであることを特徴とするエッチング液。
【請求項2】
前記エッチング液の総重量を基準とした前記フッ酸の含有率が0.06〜2重量%である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記有機溶媒が、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、およびエチルアセトアセテートからなる群から選択される、請求項1または2に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記エッチング液の総重量を基準とした前記有機溶媒の含有率が1重量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項5】
トレンチ構造を有する基板表面に絶縁材料を含む組成物を塗布して塗膜を形成させる塗布工程、
塗布済みの基板を焼成して、絶縁材料を硬化させ、絶縁膜を形成させる焼成工程、
研磨後の絶縁膜を、フッ酸と有機溶媒とを含んでなり、前記有機溶媒の、ハンセンの溶解度パラメーターによって定義されるδHが4以上12以下であり、20℃の水に対する飽和溶解度が5%以上であるエッチング液で処理するエッチング工程
を含んでなることを特徴とするシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法。
【請求項6】
前記絶縁材料がポリシラザン化合物であり、前記絶縁膜がシリカ質膜である、請求項5に記載のシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法。
【請求項7】
焼成工程の後、基板上に形成された絶縁膜を研磨する研磨工程をさらに含んでなる、請求項5または6に記載のシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法。
【請求項8】
研磨を化学的機械的研磨により行う、請求項7に記載のシャロー・トレンチ・アイソレーション構造の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−9685(P2011−9685A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255960(P2009−255960)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】