説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、積層板、および多層板

【課題】銅箔等との接着力および靭性に優れ、さらに耐熱性にも優れており、難燃性も満足するエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、積層板、および多層板を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂、アミン硬化剤、およびエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を含有し、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分におけるエポキシ樹脂由来の臭素含有量が8質量%以下であり、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分における臭素含有量が10質量%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、積層板、および多層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の材料として用いられるプリプレグは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶媒で希釈してワニスとし、このワニスをガラスクロス等の基材に含浸した後、これを乾燥して、樹脂を未硬化状態(A−ステージ)から半硬化状態(B−ステージ)にすることにより作製されている。
【0003】
そして、このようにして得たプリプレグを所定寸法に切断した後、所要枚数重ねると共にこの片面または両面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧して積層成形することによりプリント配線板に加工される金属張積層板を作製することができる。この段階において樹脂は、半硬化状態(B−ステージ)から完全硬化状態(C−ステージ)へと変化し、基材と共に絶縁層を形成する。
【0004】
従来、プリント配線板用のプリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物における硬化剤として、銅箔等との接着力や靭性に優れていることからジシアンジアミド等のアミン硬化剤が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3216291号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では鉛フリー半田の使用に伴いプリント配線板への半導体素子の実装温度が上昇しているが、エポキシ樹脂組成物にアミン硬化剤を用いた場合、このような実装温度では耐熱性不足による不具合が生じる場合がある。
【0007】
一方、鉛フリー半田に対応して耐熱性を高めるためにフェノール硬化剤が用いられる場合があるが、フェノール硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物は銅箔等との接着力および靭性に劣るために、プリント配線板の加工時等に問題が生じる場合がある。
【0008】
また、プリント配線板には難燃性も要求されており、UL規格94V−0に相当する難燃性も満足することが必要とされる。
【0009】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、銅箔等との接着力および靭性に優れ、さらに耐熱性にも優れており、難燃性も満足するエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、積層板、および多層板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、アミン硬化剤、およびエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を含有し、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分におけるエポキシ樹脂由来の臭素含有量が8質量%以下であり、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分における臭素含有量が10質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
第2に、上記第1のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、ベンゼン環を分子構造内に含みベンゼン環の置換基として臭素を有する化合物を含有することを特徴とする。
【0013】
第3に、上記第1または第2のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、熱分解温度330℃以上の臭素化合物を含有することを特徴とする。
【0014】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかのエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタンを含有することを特徴とする。
【0015】
第5に、上記第1ないし第4のいずれかのエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂は、窒素を含まないエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して90質量%以上含有することを特徴とする。
【0016】
第6に、上記第1ないし第5のいずれかのエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂は、2官能のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して45〜75質量%含有することを特徴とする。
【0017】
第7に、上記第1ないし第6のいずれかのエポキシ樹脂組成物において、アミン硬化剤は、ジシアンジアミドを含有することを特徴とする。
【0018】
第8に、上記第1ないし第7のいずれかのエポキシ樹脂組成物において、無機充填材を含有することを特徴とする。
【0019】
第9に、本発明のプリプレグは、上記第1ないし第8のいずれかのエポキシ樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られたものであることを特徴とする。
【0020】
第10に、本発明の積層板は、上記第9のプリプレグを所要枚数重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする。
【0021】
第11に、本発明の多層板は、上記第9のプリプレグを内層用回路板に重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記第1の発明によれば、アミン硬化剤を用いることで銅箔等との接着力および靭性が高く、さらにエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を用いることで、耐熱性を向上させると共に所要の難燃性も確保することができる。
【0023】
上記第2の発明によれば、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、ベンゼン環を分子構造内に含みベンゼン環の置換基として臭素を有する化合物を用いることで、上記第1の発明の効果に加え、耐熱性を特に向上させることができ、所要の難燃性も確保することができる。
【0024】
上記第3の発明によれば、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、熱分解温度330℃以上の臭素化合物を用いることで、上記第1および第2の発明の効果に加え、耐熱性を特に向上させることができ、所要の難燃性も確保することができる。
【0025】
上記第4の発明によれば、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタンを用いることで、上記第1ないし第3の発明の効果に加え、耐熱性を特に向上させることができ、所要の難燃性も確保することができる。
【0026】
上記第5の発明によれば、エポキシ樹脂として窒素を含まないものを上記の特定範囲の量で用いることで、上記第1ないし第4の発明の効果に加え、特に高い耐熱性が得られる。
【0027】
上記第6の発明によれば、エポキシ樹脂として2官能のエポキシ樹脂を上記の特定範囲の量で用いることで、上記第1ないし第5の発明の効果に加え、特に高い靭性とガラス転移温度が得られる。
【0028】
上記第7の発明によれば、アミン硬化剤としてジシアンジアミドを用いることで、上記第1ないし第6の発明の効果に加え、銅箔等との接着力および靭性を特に高いものとすることができる。
【0029】
上記第8の発明によれば、無機充填材を含有することで、上記第1ないし第7の発明の効果に加え、耐熱性をより高めることができる。
【0030】
上記第9の発明によれば、上記第1ないし第8の発明のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られたものであるので、銅箔等との接着力および靭性が高く、さらに耐熱性が高く所要の難燃性も確保することができる。
【0031】
上記第10の発明によれば、上記第9の発明のプリプレグを所要枚数重ねて加熱加圧し積層成形したものであるので、銅箔等との接着力および靭性が高く、さらに耐熱性が高く所要の難燃性も確保することができる。
【0032】
上記第11の発明によれば、上記第9の発明のプリプレグを内層用回路板に重ねて加熱加圧し積層成形したものであるので、銅箔等との接着力および靭性が高く、さらに耐熱性が高く所要の難燃性も確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
本発明において、エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限なく用いることができる。このようなエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能フェノールのジグリシジルエーテル化合物、多官能アルコールのジグリシジルエーテル化合物、臭素含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明では、高い耐熱性が得られる点から、窒素を含まないエポキシ樹脂が全エポキシ樹脂中の90質量%以上であることが好ましい。
【0036】
また、2官能のエポキシ樹脂の割合が、エポキシ樹脂全量に対して45〜75質量%であることが好ましい。2官能のエポキシ樹脂の割合を当該範囲内とすることで、ガラス転移温度を低下させることなく靭性を高めることができる。2官能のエポキシ樹脂の割合が45質量%未満であると、靭性が低下する場合がある。2官能のエポキシ樹脂の割合が75質量%を超えると、ガラス転移温度が低下する場合がある。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、硬化剤としてアミン硬化剤が含有される。アミン硬化剤を用いることで、銅箔等との接着力および靭性を高めることができる。アミン硬化剤としては、ジシアンジアミドが好ましい。
【0038】
アミン硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂に対して当量比が0.3〜1.0、特に0.4〜0.7となるように調整することが好ましい。エポキシ樹脂に対するアミン硬化剤の当量比がこの範囲外であると、硬化不足や物性低下を生じる場合がある。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上、好ましくは330℃以上の臭素化合物が含有される。エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を用いることで、アミン硬化剤を用いても耐熱性を高いものとすることができる。
【0040】
エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、好ましくは、ベンゼン環を分子構造内に含みベンゼン環の置換基として臭素を有する化合物が用いられる。中でも、2〜4個のベンゼン環を有し、ベンゼン環同士が直接に結合するか、あるいは炭素原子または酸素原子等のヘテロ原子を介して結合した化合物が好ましい。特に、ベンゼン環の水素が全て臭素に置換された4置換または5置換のベンゼン環構造を有する化合物が好ましい。このような臭素化合物としては、例えば、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、デカブロモジフェニルオキサイド等が挙げられる。
【0041】
なお、「エポキシ樹脂と相溶しない」とは、エポキシ樹脂と臭素化合物との間で微細な海島構造を形成し互いに分子レベルで混ざり合わないことを意味する。一方、クラスターを形成することなくエポキシ樹脂と分子相溶する臭素化合物を用いても耐熱性を向上させることはできない。
【0042】
本発明では、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分におけるエポキシ樹脂由来の臭素含有量が8質量%以下であり、かつ、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分における臭素含有量が10質量%以上である。エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物の配合量を調整して臭素含有量をこの範囲内にすることで、耐熱性を高めると共に、所要の難燃性も確保することができる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、硬化促進剤を含有させることができる。硬化促進剤の具体例としては、2−エチル4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填材を含有させることができる。無機充填材を含有させることで、耐熱性を高めることができる。
【0045】
無機充填材の具体例としては、水酸化アルミニウム、シリカ、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機充填材の粒子の大きさは、特に制限はないが、例えば平均粒子径0.1〜5μmのものが用いられる。
【0046】
無機充填材の含有量は、好ましくはエポキシ樹脂組成物全量に対して5〜120質量%である。この範囲内で無機充填材を含有することで、他の物性を損なわずに耐熱性を高めることができる。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂、アミン硬化剤、臭素化合物、および必要に応じて他の成分を配合し、ワニスとして調製することができる。ワニスとして調製する際には、溶媒で希釈してもよい。溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0048】
本発明のプリプレグを作製する際には、ワニスとして調製したエポキシ樹脂組成物を基材に含浸する。そして、例えば乾燥機中で130〜170℃、3〜15分間の加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(B−ステージ)にしたプリプレグを作製することができる。
【0049】
基材としては、ガラスクロス、ガラスペーパー、ガラスマット等のガラス繊維を用いることができ、その他、クラフト紙、天然繊維布、有機合成繊維布等も用いることができる。
【0050】
本発明の積層板は、上記のようにして得られたプリプレグを所要枚数重ね、例えば140〜200℃、0.5〜5.0MPa、40〜240分間の条件下で加熱加圧して積層成形することによって作製することができる。
【0051】
この際、片面側または両面側の最外層のプリプレグに金属箔を重ね、これらを加熱加圧して積層成形することにより、金属張積層板を作製することができる。金属箔としては、銅箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等を用いることができる。
【0052】
本発明の多層板は、次のようにして作製することができる。予め金属張積層板の片面または両面の金属箔にアディティブ法やサブトラクティブ法等により内層用の回路を形成すると共に、酸溶液等を用いてこの回路の表面に黒化処理を施すことにより、内層用回路板を作製しておく。
【0053】
そして、この内層用回路板の片面または両面に、上記のプリプレグを所要枚数重ね、さらに必要に応じてその外面に金属箔を重ねて、これを加熱加圧して積層成形することにより多層板を作製することができる。
【0054】
そして、上記のようにして作製した積層板や多層板の片面または両面にアディティブ法やサブトラクティブ法等によって回路を形成し、必要に応じて、レーザ加工やドリル加工等により穴あけを行い、この穴にめっきを施してバイアホールやスルーホールを形成する等の工程を行うことによって、プリント配線板や多層プリント配線板を作製することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の配合成分として以下のものを用いた。
(エポキシ樹脂)
・DIC株式会社製「N690」、エポキシ当量 190〜240g/eq、臭素含有率 0質量%、分子内平均エポキシ基含有量 5〜3個、分子内に窒素も臭素も含有しないエポキシ樹脂
・DIC株式会社製「エピクロン1050」、エポキシ当量 450〜500g/eq、臭素含有率 0質量%、分子内平均エポキシ基含有量 2個、分子内に窒素も臭素も含有しないエポキシ樹脂
・ダウケミカル株式会社製「DER514L」、エポキシ当量 479〜495g/eq、臭素含有率 21.5質量%、分子内平均エポキシ基含有量 2個、分子内に窒素を含有せず臭素を含有するエポキシ樹脂
・旭化成ケミカル株式会社製「AER4100」、エポキシ当量 320〜380g/eq、臭素含有率 16.5質量%、分子内平均エポキシ基含有量 2個、分子内に窒素および臭素を共に含有するエポキシ樹脂
・DIC株式会社製「エピクロン153」、エポキシ当量 390〜410g/eq、臭素含有率 48質量%、分子内平均エポキシ基含有量 2個、分子内に窒素を含有せず臭素を含有するエポキシ樹脂
(硬化剤)
・アミン硬化剤(ジシアンジアミド、当量 21g/eq)
・フェノール硬化剤(フェノールノボラック樹脂、DIC株式会社製「TD2090」、水酸基当量105g/eq)
(臭素化合物)
・1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、アルベルマール社製「SAYTEX8010」、熱分解温度344℃
・テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、アルベルマール社製「SAYTEX120」、熱分解温度 402℃
・デカブロモジフェニルオキサイド、アルベルマール社製「SAYTEX102E」、熱分解温度 326℃
・テトラブロモビスフェノールA、アルベルマール社製「SAYTEXCP−2000」、熱分解温度 241℃
(硬化促進剤)
・2−エチル−4メチルイミダゾール、四国化成工業株式会社製「キュアゾール2E4MZ」
(無機充填材)
・水酸化アルミニウム、住友化学工業株式会社製「C−303」、平均粒子径約4μm
[樹脂ワニスの調製]
上記の配合成分を表1の配合量(質量部)で配合し、溶媒で希釈したものをディスパー等で攪拌、均一化した。このとき溶媒以外の配合成分(エポキシ樹脂、硬化剤を含む固形分)が60〜75質量%となるように溶媒の量を調整し、実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物をワニスとして得た。なお、無機充填材を配合する際には、所定配合量投入した後、さらにディスパーにて2時間攪拌を行いエポキシ樹脂組成物を得た。
[プリプレグ作製条件]
基材として、ガラスクロス(日東紡績株式会社製「7628タイプクロス」)を用い、このガラスクロスにエポキシ樹脂組成物のワニスを室温にて含浸させ、その後、非接触タイプの加熱ユニットにより、約130〜170℃で加熱することにより、ワニス中の溶媒を乾燥除去し、エポキシ樹脂組成物を半硬化させることによってプリプレグを作製した。プリプレグにおける樹脂量は、ガラスクロス100質量部に対して樹脂100質量部(樹脂50質量%)となるように調整した。
[銅張積層板成形条件]
上記において作製したプリプレグ4枚(340mm×510mm)を2枚の銅箔(厚み35μm、JTC箔、日鉱グールドフォイル株式会社製)の粗化面の間に挟んで170℃、2.94MPaで90分間積層成形して銅張積層板を得た。
[樹脂板成形条件]
上記において作製したプリプレグから樹脂分のみを落として樹脂粉を得た後、20cm×20cmの型枠に必要量の樹脂粉を入れ銅箔(厚み35μm、JTC箔、日鉱グールドフォイル株式会社製)の粗化面の間に挟んで170℃、2.94MPaで90分間積層成形して樹脂板を得た。
〈熱分解温度〉
熱重量変化測定装置(TG−DTA)にて、上記において作製した銅張積層板の銅箔を剥離して測定を行い(昇温速度5℃/分)、重量減が初期に対して5%である温度を熱分解温度とした。
〈オーブン耐熱性〉
上記において作製した厚み約0.4mmの銅張積層板をオーブンで60分間加熱した後、目視によって膨れまたは剥がれのない限界(最高)オーブン温度にて評価した。
〈接着力〉
上記において作製した銅張積層板の銅箔の無粗化面をマクダーミッド社製BO200で処理後、この内層処理面の間にプリプレグを挟んで成形した銅張積層板の銅箔を引き剥がし、JISC6481に従って90度ピールを測定した。
〈靭性〉
上記において作製した厚さ1.2mmの樹脂板を用いてJIS C6481に従って曲げ試験を行い、破断距離[mm]を靭性とした。
〈ガラス転移温度〉
上記において作製した銅張積層板について、JIS C6481に従ってTMA法(Thermo-mechanical analysis)によりガラス転移温度(Tg)を測定した。
〈難燃性〉
上記において作製した銅張積層板を用いてUL法に従って評価した。
【0057】
実施例および比較例について行った上記の各測定、評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1より、エポキシ樹脂組成物の配合成分としてアミン硬化剤、およびエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を用いた実施例1〜10では、銅箔等との接着力および靭性が高く、さらに耐熱性(熱分解温度、オーブン耐熱性)も高く所要の難燃性も確保することができた。特に、窒素を含まないエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して90質量%以上含有する実施例1〜7、9、10では耐熱性が高いものであった。中でも、2官能のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して45〜75質量%含有する実施例1〜5、9、10では、靭性が高くガラス転移温度も高いものであった。特に、臭素化合物としてエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度330℃以上のものを用いた実施例1〜5、9では耐熱性が高いものであった。
【0060】
一方、エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を配合せずに、エポキシ樹脂のみにより臭素含有量を実施例1〜10と同一量とした比較例1では、耐熱性が低下した。そしてエポキシ樹脂組成物の樹脂成分におけるエポキシ樹脂由来の臭素含有量が8質量%を超えると同様の傾向が見られた。
【0061】
硬化剤としてアミン硬化剤ではなくフェノール硬化剤を用いた比較例2では、耐熱性は得られたものの、銅箔等との接着力および靭性が低下した。
【0062】
エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物の1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタンを実施例3と同量配合したがエポキシ樹脂との合計の臭素含有量が10質量%未満であった比較例3では、所要の難燃性が得られなかった。
【0063】
臭素化合物として、硬化時にエポキシ樹脂と反応し相溶する化合物を用いた比較例4では、耐熱性が大きく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、アミン硬化剤、およびエポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物を含有し、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分におけるエポキシ樹脂由来の臭素含有量が8質量%以下であり、エポキシ樹脂組成物の樹脂成分における臭素含有量が10質量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、ベンゼン環を分子構造内に含みベンゼン環の置換基として臭素を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、熱分解温度330℃以上の臭素化合物を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂と相溶しない熱分解温度320℃以上の臭素化合物として、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタンを含有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂として、窒素を含まないエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して90質量%以上含有することを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂として、2官能のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂全量に対して45〜75質量%含有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
アミン硬化剤として、ジシアンジアミドを含有することを特徴とする請求項1ないし6いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
無機充填材を含有することを特徴とする請求項1ないし7いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られたものであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグを所要枚数重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする積層板。
【請求項11】
請求項9に記載のプリプレグを内層用回路板に重ねて加熱加圧し積層成形したものであることを特徴とする多層板。

【公開番号】特開2010−163589(P2010−163589A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77525(P2009−77525)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】