説明

エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】 ハロゲン系難燃剤、アンチモン化合物を含まず、難燃性、高温保管特性、高温通電特性に優れた特性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】150℃を超える高温環境下での動作保証を要求される電子部品に使用される半導体装置を封止するために用いられるエポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、(E)一般式(1)で示される水酸化アルミニウム及び(F)一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
Al23(H2O)n (1)
(nは2<n<3の数)
Mg(1-x)2+x(OH)2 (2)
(式中M2+は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群から選ばれた少なくとも1種の二価金属イオンを示し、xは0.01≦x≦0.5の数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の電子部品は、主にエポキシ樹脂組成物で封止されている。これらのエポキシ樹脂組成物には難燃性を付与するために、通常ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物が配合されている。ところが、環境・衛生の観点からハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を使用しないで、難燃性に優れたエポキシ樹脂組成物の開発が求められている。
又ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を含むエポキシ樹脂組成物で封止された半導体装置を高温下で保管した場合、これらの難燃剤成分から熱分解したハロゲン化物が遊離し、半導体素子の接合部を腐食し、半導体装置の信頼性を損なうことが知られており、難燃剤としてハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物を使用しなくとも難燃グレードUL−94のV−0を達成できるエポキシ樹脂組成物が要求されている。
【0003】
このように、半導体装置を高温下(例えば、185℃等)に保管した後の半導体素子の接合部(ボンディングパッド部)の耐腐食性のことを高温保管特性といい、この高温保管特性を改善する手法としては、五酸化二アンチモンを使用する方法(例えば、特許文献1参照。)や酸化アンチモンと有機ホスフィンとを組み合わせる方法(例えば、特許文献2参照。)等が提案され、効果が確認されているが、最近の半導体装置に対する高温保管特性の高い要求レベルに対しては、エポキシ樹脂の種類によってはまだ不満足なものもある。
【0004】
これらの問題に対して、水酸化アルミニウムを使用すること(例えば、特許文献3,4参照。)が提案されており、多量に添加することによりUL−94のV−0を達成でき、高温保管特性も向上するが、近年自動車産業用途では更なるレベルアップが必要とされている。
また近年パッケージを高温領域に放置しただけでなく、実際に高温領域化でパッケージに通電する試験も高い要求レベルを必要とされ、エポキシ樹脂組成物のレベルアップが必要である。
即ちハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を使用しなくとも成形性、難燃性を維持し、高温保管特性だけでなく、高温通電特性に優れた特性を有するエポキシ樹脂組成物が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−146950号公報
【特許文献2】特開昭61−53321号公報
【特許文献3】特開平10−152547号公報
【特許文献4】特開平2002−187999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を含まず成形性、難燃性、高温保管特性及び高温通電特性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物及びこれを用いて半導体素子を封止してなる半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を含まず成形性、難燃性、高温保
管特性及び高温通電特性を向上させるべく、鋭意検討した結果、特定の難燃剤と特定の化合物を用いたエポキシ樹脂組成物が極めて優れた特性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、
[1] 150℃を超える高温環境下での動作保証を要求される電子部品に使用される半導体装置を封止するために用いられるエポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、(E)一般式(1)で示される水酸化アルミニウム及び(F)一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
Al23(H2O)n (1)
(nは2<n<3の数)
Mg(1-x)2+x(OH)2 (2)
(式中M2+は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群から選ばれた少なくとも1種の二価金属イオンを示し、xは0.01≦x≦0.5の数を示す。)
[2]一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体のM2+がZn2+又はNi2+である第[1]項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[3]一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体の含有量が1〜15重量%である第[1]又は[2]項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物、
[4]第[1]、[2]又は[3]項のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置、
である。
以下詳細について説明する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うと、ハロゲン系難燃剤及びアンチモン化合物を含まず、成形性に優れた特性を有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られ、これを用いた半導体装置は難燃性、高温保管特性及び高温通電特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を言い、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えばビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(フェニレン骨格又はジフェニレン骨格等を有する)等が挙げられ、これらは単独でも併用しても差し支えない。
【0010】
本発明に用いるフェノール樹脂としては、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を言い、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(フェニレン骨格又はジフェニレン骨格等を有する)等が挙げられ、これらは単独でも併用しても差し支えない。
これらの配合量としては、全エポキシ樹脂のエポキシ基数と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数の比が0.8〜1.3が好ましい。
【0011】
本発明に用いる硬化促進剤としては、エポキシ基とフェノール性水酸基との硬化反応を促進させるものであればよく、一般に封止材料に使用するものを用いることができる。例
えば1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリフェニルホスフィン、2−メチルイミダゾール、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。
【0012】
本発明に用いる無機充填材としては、一般に封止材料に使用されているものを用いることができるが、(E)一般式(1)で示される水酸化アルミニウムは除いたものである。例えば溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、窒化珪素等が挙げられ、これらは単独でも併用しても差し支えない。無機充填材の配合量は、一般式(1)で示される水酸化アルミニウムと無機充填材との合計量が、成形性と耐半田性のバランスから、全エポキシ樹脂組成物中60〜95重量%とすることが好ましく、更に好ましくは70〜92重量%である。下限値を下回ると、吸水率の上昇に伴う耐半田性が低下し、上限値を越えると、ワイヤースィープ及びパッドシフト等の成形性の問題が生じ好ましくない。
【0013】
本発明に用いる一般式(1)で示される水酸化アルミニウムは、難燃剤として作用するものである。一般式(1)で示される水酸化アルミニウムは、従来難燃剤として用いられている結晶水が3の水酸化アルミニウムに比べ、一般式(1)で示される水酸化アルミニウムを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は熱膨張率が小さく、耐半田性の向上に効果があり、近年の無鉛半田化による半田処理温度の上昇にも対応できる。また添加することにより高温保管特性も向上する。一般式(1)中のnが3だと耐半田性は低下し、nが2以下だと脱水する水分量が少なくなるため難燃性が低下する。
【0014】
本発明に用いる一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体は、難燃剤として作用し、その難燃機構としては、燃焼時に金属水酸化物固溶体が脱水を開始し、吸熱することによって燃焼反応を阻害し、又、硬化した樹脂成分の炭化が促進して硬化物表面に酸素を遮断する難燃層を形成すると考えられる。
更に、本発明の金属水酸化物固溶体は、吸熱開始温度を適度に下げ、難燃性能を向上する効果がある。吸熱開始温度が低いと成形性、信頼性に悪影響を及ぼし、又、吸熱開始温度が樹脂成分の分解温度より高いと難燃性が低下するが、本発明の金属水酸化物固溶体の吸熱開始温度は、300〜350℃近辺で適度な値である。これらの内で特に好ましいM2+としては、Ni2+、Zn2+である。
本発明の金属水酸化物固溶体は単独で使用した場合、添加量が多いと高温保管特性は向上する反面、高温通電特性は反対に劣化するという欠点がある。
本発明の金属水酸化物固溶体の配合量としては、全エポキシ樹脂組成物中に1〜15重量%が好ましく、更に好ましくは1〜10重量%である。下限値を下回ると難燃性が不足し、上限値を越えると耐半田クラック性、成形性、高温通電特性が低下するので好ましくない。本発明の金属水酸化物固溶体の平均粒径としては、0.5〜30μmが好ましく、更に好ましくは0.5〜10μmである。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(F)成分の他に、必要に応じて臭素化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン等の難燃剤を含有することは差し支えないが、150〜200℃での半導体装置の高温保管特性が要求される用途では、臭素原子、アンチモン原子の含有量は、各々0.1重量%未満であることが好ましく、更に好ましくは零が望ましい。各々が0.1重量%以上だと高温下に放置したときに半導体装置の抵抗値が時間と共に増大し、最終的には半導体素子の金線が断線する不良が発生するおそれがある。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(F)成分を必須成分とするが、これ以外に必要に応じてシランカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤及びシリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤等の種々の添加剤を適宜配合しても差し支えない。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)〜(F)成分及びその他の添加剤等をミキサー
等を用いて充分に均一に混合した後、更に熱ロール又はニーダー等で溶融混練し、冷却後粉砕して得られる。
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造するには、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の従来からの成形方法で硬化成形すればよい。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。配合割合は重量部とする。
実施例1
ビフェニル型エポキシ樹脂(融点105℃、エポキシ当量195、ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−4000) 7.6重量部
フェノールアラルキル樹脂(軟化点77℃、水酸基当量170、三井化学(株)製、XLC−4L) 6.9重量部
1、8−ジアザビシクロ(5、4、0)ウンデセン−7(以下、DBUという)
0.2重量部
溶融球状シリカ(平均粒径 20μm) 77.0重量部
水酸化アルミニウム1(特性を表1に示す) 6.0重量部
金属水酸化物固溶体1(Mg0.8Zn0.2(OH)2) 1.0重量部
エポキシシランカップリング剤 0.5重量部
カーボンブラック 0.3重量部
カルナバワックス 0.5重量部を常温でスーパーミキサーを用いて混合し、70〜100℃でロール混練し、冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0018】
評価方法
スパイラルフロー:EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で測定した。
ショアD硬度:トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間90秒で成形し、金型開いた後10秒後の熱時硬度をショアD硬度計にて測定した。
難燃性:トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒で試験片(127mm×12.7mm×3.2mm)を成形し、後硬化として175℃、8時間処理した後、UL−94垂直法に準じてΣF、Fmaxを測定し
、難燃性を判定した。
高温保管特性:模擬素子を25μm径の金線で配線した16ピンSOPを、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間2分でトランスファー成形し、175℃、8時間で後硬化した。175℃の恒温槽で処理し、一定時間毎にピン間の抵抗値を測定した。初期の抵抗値から10%以上抵抗値が増大したパッケージ数が、15個中8個以上になった恒温槽処理時間を高温保管特性として表示した。この時間が長いと、高温安定性に優れていることを示す。単位は時間。
高温通電特性:模擬素子を25μm径の金線で配線した16ピンSOPを、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間2分でトランスファー成形し、175℃、8時間で後硬化した。150℃の恒温槽内でバイアス20Vの電圧をかけ通電処理し、10個中5個以上不良になった処理時間を高温通電特性として表示した。この時間が長いと、高温通電特性に優れていることを示す。単位は時間。
【0019】
実施例2〜7、比較例1〜3
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得て、実施例1と同様
にして評価した。結果を表2に示す。
なお、実施例、比較例に用いた水酸化アルミニウムの特性は、表1に示す。
比較例3及び4に用いた臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、365g/eq.である。
実施例に使用した金属水酸化物固溶体2は、Mg0.8Ni0.2(OH)2、金属水酸化物固
溶体3は、Mg0.8Mn0.2(OH)2である。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によると、高温保管特性、高温通電特性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られるので、自動車用半導体装置等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150℃を超える高温環境下での動作保証を要求される電子部品に使用される半導体装置を封止するために用いられるエポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材、(E)一般式(1)で示される水酸化アルミニウム及び(F)一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
Al23(H2O)n (1)
(nは2<n<3の数)
Mg(1-x)2+x(OH)2 (2)
(式中M2+は、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+及びZn2+からなる群から選ばれた少なくとも1種の二価金属イオンを示し、xは0.01≦x≦0.5の数を示す。)
【請求項2】
一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体のM2+がZn2+又はNi2+である請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(2)で示される金属水酸化物固溶体の含有量が1〜15重量%である請求項1又は2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれかに記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2006−8769(P2006−8769A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185004(P2004−185004)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】