説明

エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】 耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与える半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (a)エポキシ樹脂成分として、(a−1)ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂であって、式(1)
【化1】


で表されるビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であるエポキシ樹脂;5〜50重量%、(a−2)(a−1)成分以外の常温で固形のエポキシ樹脂;50〜95重量%、(b)エポキシ樹脂硬化剤、
を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れた新規なエポキシ樹脂組成物及び、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与える新規な半導体封止用エポキシ樹脂組成物、さらに耐ハンダクラック性に優れた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、その優れた硬化物性や取扱いの容易さから、接着、注型、封止、積層、成型、塗装、絶縁等の広い分野で使用されている。また、エポキシ樹脂には、多くの種類があり、その選択により硬化物性が大きく変わるため、使用分野目的に応じて使い分けられている。
近年、高分子材料の使用条件が苛酷になるに従って、高分子材料に対して要求される諸特性は厳しくなり、一般に用いられている各種のエポキシ樹脂では、要求特性を充分に満足できなくなってきた。
【0003】
例えば、エポキシ樹脂組成物は、半導体封止用に用いられているが、この分野でも、要求性能は厳しくなっている。すなわち、半導体装置の高集積化が進み、半導体素子の大型化が著しいとともに、パッケージそのものが小型化、薄型化している。また、半導体装置の実装も表面実装へと移行している。表面実装においては半導体装置がハンダ浴に直接浸漬され、高温にさらされるため、吸湿された水分が急速に膨張し、パッケージ全体に大きな応力がかかり、封止材にクラックが入る。そのために、耐ハンダクラック性の良好な封止材用のエポキシ樹脂組成物には、耐熱性、低吸湿性、低応力性などが要求される。
【0004】
溶融シリカ粉末のような無機充填剤を高充填することにより、低吸湿性及び低応力性(すなわち低熱膨張率)を改良することは広く行われており、耐ハンダクラック性の改良に大きな効果があるが、無機充填剤を高充填すると成型時の流動性が損なわれるため、封止材用のエポキシ樹脂には低溶融粘度であることが要求されてきた。
【0005】
一方、超小型、超薄型のパッケージに用いられる封止材用エポキシ樹脂組成物には、高流動性も要求されており、エポキシ樹脂の溶融温度をいくら下げても無機充填剤の充填量には限界があるため、エポキシ樹脂硬化物自体の吸湿性を低下させる必要がでてきた。さらに、自動車用途などの高温条件下で使用される半導体装置には、さらなる耐熱性が要求されてきている。
【0006】
現在、主として用いられているノボラック型エポキシ樹脂(特にクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)は、耐熱性には優れるが、低溶融粘度や低吸湿の点において充分なものとは言えなくなってきた。
低溶融粘度のビフェニル型エポキシ樹脂を用いることも広く検討されているが、耐熱性や低吸湿に劣り、溶融粘度も十分には低くない。
【0007】
特許文献1(特開平8−157560公報)には、分子蒸留によりビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量を90重量%以上に高めたエポキシ樹脂を総エポキシ樹脂中90重量%以上使用することが示されている。低分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂は低粘度であるが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂だけでは、耐熱性や低吸湿性に対する要求が厳しい用途には使用できない。
また、同様のエポキシ樹脂を用いた組成物は、粉体塗料、粉体絶縁材料等にも使用されているが、これらの分野でも耐熱性、低吸湿性及び高流動性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−157560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れた新規なエポキシ樹脂組成物及び、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与える新規な半導体封止用エポキシ樹脂組成物、さらに耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記の課題を解決するために種々研究を重ねた結果、エポキシ樹脂として純度を高めた特定のビスフェノールA型エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂を特定の割合で使用することによりその目的を達成できたのである。
本発明は、以下の各発明を包含する。
【0011】
(1) (a) エポキシ樹脂成分として、
(a−1) ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂であって、式(1)
【化1】

で表されるビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であるエポキシ樹脂;5〜50重量%、
(a−2) (a−1)成分以外の常温で固形のエポキシ樹脂;50〜95重量%、
(b) エポキシ樹脂硬化剤、
を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【0012】
(2) 前記(a−1)のエポキシ樹脂が、前記式(1)のビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であり、融点が44℃以上の結晶であるエポキシ樹脂であることを特徴とする1項記載のエポキシ樹脂組成物。
【0013】
(3) 前記(a−2)成分の全部あるいは一部が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Qは、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のアラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、Xは、互いに同一であっても異なっていても良く、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−CO−、−OCO−、又は、炭素数1〜20の2価の有機基であり、jは、平均値で0〜8の数であり、kは、互いに同一であっても異なっていても良く、0〜3の整数である。)
又は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のアラルキル基、アルコキシ基又は、ハロゲン原子であり、Yは、炭素数1〜20の3又は4価の有機基であり、nは、3又は4の整数であり、mは、互いに同一であっても異なっていても良く、0〜3の整数である。)
で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応で得られる常温で固形のエポキシ樹脂であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0014】
(4) 前記(b)のエポキシ樹脂硬化剤が、フェノール樹脂類であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0015】
(5) 前記(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物に加えて、(c)無機充填剤成分として、溶融及び/又は結晶シリカ粉末充填剤を組成物全体の80〜95重量%配合してなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【0016】
(6) 前記(5)項記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物による硬化物で封止されている半導体素子及び/又は半導体集積回路を有することを特徴とする樹脂封止型半導体装置。
【0017】
(作用)
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、そのエポキシ樹脂成分として、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量を非常に高め、超低溶融粘度とした高純度のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、耐熱性及び/又は低吸湿性に優れた他の構造のエポキシ樹脂とを特定の割合で併用することにより、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性を両立させることができる。また、そこに無機充填剤を高充填し、耐熱性又は低吸湿性、流動性及び耐ハンダクラック性のすべての要求性能を満足する半導体封止用エポキシ樹脂組成物とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れるので、封止材料、粉体塗料、粉体絶縁材料等に使用することができる。また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与えるので半導体封止の分野で有利に使用することができる。さらに本発明の半導体装置は耐ハンダクラック性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとをアルカリの存在下に、縮合反応させエポキシ樹脂としたものである。一般にビスフェノールA型エポキシ樹脂中には、前記式(1)で表されるビスフェノールAジグリシジルエーテルに加えて、下記一般式(4)で表される高分子化合物等が含まれる。
【0020】
【化4】

【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物で用いられる前記(a−1)成分は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であり、好ましくは97重量%以上であるビスフェノールA型エポキシ樹脂である。その製造は常法に従って行うことができるが、そのような高純度のビスフェノールA型エポキシ樹脂を製造するためには、エピハロヒドリンをビスフェノールAに対して大過剰に用いるなどの反応条件の最適化を行ったり、いったん製造したビスフェノールA型エポキシ樹脂を蒸留、晶析、抽出などの方法で精製し、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量を高める必要がある。それらの方法の中では、蒸留又は晶析が得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂の純度や、操作の容易性の点から好ましい。ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が低いと溶融粘度が充分に低くならないうえ、後述する結晶化が困難となる。
【0022】
半導体の封止は、常温で固形の成形材料を使用した低圧トランスファー成形法が通常用いられる。そのため、その成形材料(組成物)に用いられるエポキシ樹脂も、常温で固形であることが好ましい。
通常のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、高純度であっても常温では液状となるため、結晶化させることにより固形化し、常温で固形のエポキシ樹脂とする必要がある。一般にビスフェノールA型エポキシ樹脂は、純度を高めても結晶化速度が非常に遅いため、結晶核を加えて良く混合するなどの結晶化促進の操作を行うことが好ましい。結晶核としては別途用意したビスフェノールAジグリシジルエーテルの結晶粉末が好ましいが、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いられる無機充填材であるシリカ粉末等も使用できる。その結晶核の使用量は液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂に対して0.1〜10重量%である。
【0023】
また、結晶化の温度は0〜30℃が好ましく、より好ましくは5〜25℃である。結晶化の温度が低すぎても高すぎても結晶化速度が遅く、完全な結晶化が起こりにくい。
さらに、その結晶の融点は、44℃以上が好ましく、より好ましくは46℃以上である。融点が低すぎると粉砕作業や粉体としての取り扱いなどの固形としての取り扱いが困難になる。
【0024】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には(a−2)成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂以外の常温で固形のエポキシ樹脂を混合使用する。
その混合することができる他のエポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、テトラメチルビスフェノールF、ジヒドロキシジフェニルエーテル、チオジフェノール類、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシスチルベン類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ビフェニルフェノール樹脂などの種々のフェノール類や、種々のフェノール類と、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂類、重質油又はピッチ類とフェノール類とホルムアルデヒド類との共縮合樹脂等の各種のフェノール系化合物と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂やジアミノジフェニルメタン、アミノフェノール、キシレンジアミンなどの種々のアミン化合物と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、メチルヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸などの種々のカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0025】
常温で固形として取り扱うには、樹脂が非晶質の場合は、軟化点として50℃以上、好ましくは55℃以上である必要がある。樹脂が結晶の場合は、融点として30℃以上、好ましくは35℃以上である必要がある。
また、組成物に難燃性を付与するために、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂や臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂のような臭素化エポキシ樹脂を添加することができ、このような難燃性樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物も本発明の範囲に包含される。
【0026】
その他のエポキシ樹脂の中で、本発明の(a−2)成分として好ましい物は、前記一般式(2)又は前記一般式(3)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応で得られる常温で固形のエポキシ樹脂である。前記一般式(2)において、jの平均値が1以上のフェノール化合物又は前記一般式(3)で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂を(a−2)成分として使用すると得られたエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性が特に向上する。一般式(2)においてXが炭素数5〜20の2価の炭化水素基であるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂を(a−2)成分として使用すると得られたエポキシ樹脂組成物の硬化物の低吸湿性が特に向上する。
【0027】
本発明の前記(a−2)成分は、一種単独で用いても良いし、二種以上混合して用いても良い。二種以上混合して使用する場合は、各成分は常温で液状であっても(a−2)成分としての混合物として常温で固形であれば使用できる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物における(a−1)成分と(a−2)成分の使用割合は、使用する各成分の種類や目的とする特性により調整されなければならないが、一般的には、(a−1)成分が5〜50重量%であり、好ましくは、10〜50重量%である。(a−1)成分の使用割合が少なすぎると得られたエポキシ樹脂組成物の流動性が充分ではなく、(a−1)成分の使用割合が多すぎると、耐熱性及び/又は低吸湿性が充分ではなくなる。
【0029】
次に、本発明のエポキシ樹脂組成物には、(b)のエポキシ樹脂硬化剤成分が必須成分として配合されるが、このエポキシ樹脂硬化剤には、特に制約は無く一般的なエポキシ樹脂用の硬化剤が使用できる。
【0030】
(b)のエポキシ樹脂硬化剤の例としては、エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する基を持つ化合物としては、たとえば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、チオジフェノール類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ビフェニルフェノール樹脂、臭素化ビスフェノールA、臭素化フェノールノボラック樹脂などの種々の多価フェノール類や、種々のフェノール類とベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂類、重質油又はピッチ類とフェノール類とホルムアルデヒド類との共縮合樹脂等の各種のフェノール樹脂類、それら各種のフェノール(樹脂)類のフェノール性水酸基の全部もしくは一部をベンゾエート化あるいはアセテート化などのエステル化することによって得られる活性エステル化合物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド等のアミン類などが挙げられる。
【0031】
また、エポキシ基の重合を開始するタイプの硬化剤としては、たとえば、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのホスホニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジシアノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−S−トリアジンなどのイミダゾール類、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、2−メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2−エチル−4−メチルイミダゾリウムテトラフェニルボレート、2−エチル−1,4−ジメチルイミダゾリウムテトラフェニルボレートなどのイミダゾリウム塩、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミンなどのアミン類、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレートなどのアンモニウム塩、1,5−ジアザビシクロ(5,4,0)−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)−5−ノネンなどのジアザビシクロ化合物、それらジアザビシクロ化合物のテトラフェニルボレート、フェノール塩、フェノールノボラック塩、2−エチルヘキサン酸塩など。さらにトリフル酸(Triflic Acid)塩、三弗化硼素エーテル錯化合物、金属フルオロ硼素錯塩、ビス(ペルフルオルアルキルスルホニル)メタン金属塩、アリールジアゾニウム化合物、芳香族オニウム塩、IIIA〜VA族元素のジカルボニルキレート、チオピリリウム塩、MF陰イオン(ここでMはリン、アンチモン及び砒素から選択される)の形のVIb元素、アリールスルホニウム錯塩、芳香族ヨードニウム錯塩、芳香族スルホニウム錯塩、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロ金属塩(例えばリン酸塩、砒酸塩、アンチモン酸塩等)、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族スルホニウム又はヨードニウム塩等を用いることができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体の封止に使用する場合には、それら各種のエポキシ樹脂硬化剤の中では、硬化物性や取り扱いのしやすさなどから、フェノール樹脂類が好ましく、より好ましくは、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ビフェニルフェノール樹脂である。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物で使用される(b)成分の使用量は、エポキシ基と反応する基を持つ化合物の場合は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1モルに対して、全エポキシ樹脂硬化剤成分中のエポキシ基と反応する基の合計が0.5〜2.0モルになる量が好ましく、より好ましくは、0.7〜1.5モルになる量である。
エポキシ基の重合を開始するタイプの硬化剤の場合は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは、0.3〜5重量部である。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて無機充填剤、硬化促進剤、カップリング剤、可塑剤、顔料、溶剤、強化用繊維、離型剤、難燃(助)剤、イオン捕捉剤等を適宜に配合することができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体の封止に使用する場合には、(c)成分として無機充填剤が必須成分として配合される。その無機充填剤の種類としては、たとえば、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス粉、アルミナ、炭酸カルシウムなどが挙げられる。その形状としては、破砕型又は球状である。各種の無機充填剤は、単独で又は、2種以上混合して用いられるが、それらの中では溶融シリカ又は結晶性シリカが好ましい。その使用量は、組成物全体の80〜95重量%であり、より好ましくは、85〜95重量%である。
(c)成分の使用量が少なすぎると、低吸湿性及び低応力性の改良効果が少なく、結果的に耐ハンダクラック性に劣る。(c)成分の使用量が多すぎると、成型時の流動性が損なわれる。
【0036】
硬化促進剤としては、たとえば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(シアノエチル)ホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリシアノエチルホスホニウムテトラフェニルボレートなどのホスホニウム塩、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジシアノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジシアノ−6−[2−ウンデシルイミダゾリル−(1)]−エチル−S−トリアジンなどのイミダゾール類、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、2−メチルイミダゾリウムイソシアヌレート、2−エチル−4−メチルイミダゾリウムテトラフェニルボレート、2−エチル−1,4−ジメチルイミダゾリウムテトラフェニルボレートなどのイミダゾリウム塩、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、テトラメチルブチルグアニジン、N−メチルピペラジン、2−ジメチルアミノ−1−ピロリンなどのアミン類、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレートなどのアンモニウム塩、1,5―ジアザビシクロ(5,4,0)−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)−5−ノネン、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)−オクタンなどのジアザビシクロ化合物、それらジアザビシクロ化合物のテトラフェニルボレート、フェノール塩、フェノールノボラック塩、2−エチルヘキサン酸塩などが挙げられる。
【0037】
また、難燃(助)剤として、三酸化アンチモン、リン化合物、窒素化合物、酸化モリブデン、水酸化アルミニウムなどを適宜に配合することができる。
【0038】
本発明の樹脂封止型半導体装置は、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオードなどの半導体素子及び/又は半導体集積回路が本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止されている半導体装置であり、半導体素子及び/又は半導体集積回路の種類、封止方法、パッケージ形状などには特に限定されない。
【0039】
その封止方法としては、低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法、プレス成形法などである。
成形時及び/又は成形後の硬化条件は、エポキシ樹脂組成物の各成分の種類や、配合量により異なるが、通常、150〜220℃の温度で30秒から10時間である。
樹脂封止型半導体装置のパッケージ形状は、DIP、ZIP、SOP、SOJ、QFPなどのリードフレームタイプ、BGAなどの片面封止タイプ、TAB、CSPなどである。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れるので、封止材料、粉体塗料、粉体絶縁材料等に使用することができる。また本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与えるので半導体封止の分野で有利に使用することができる。さらに本発明の半導体装置は耐ハンダクラック性に優れる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明のエポキシ樹脂組成物で用いられるエポキシ樹脂の製造例、さらに本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の実施例及び比較例を挙げてさらに詳述する。
【0042】
各製造例で用いた分析方法は次のとおりである。
エポキシ当量:JIS K−7236による。
ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量:HPLCの面積%。
融点:DSCの吸熱ピーク温度。
【0043】
(エポキシ樹脂の製造例1)
温度計、撹拌装置、冷却管を備えた内容量3リッターの三つ口フラスコに、ビスフェノールA 114g、エピクロルヒドリン 1300gを仕込み、80℃に昇温して均一に溶解させたのち、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液82.5gを2時間かけて滴下した。その間に徐々に昇温し、93〜98℃でエピクロルヒドリンと水を共沸させ、凝縮液を分離し、エピクロルヒドリンだけを反応系に戻して脱水した。滴下終了後、30分間脱水を継続して反応を行わせた。次いで、生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンを留去して、粗製エポキシ樹脂を得た。
【0044】
この粗製エポキシ樹脂をメチルイソブチルケトン200gに溶解させ、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液50gを加え、80℃の温度で1時間反応させた。その反応終了後に、第一リン酸ナトリウムを加えて過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去して、常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を得た。
このエポキシ樹脂のエポキシ当量は、178g/eq.、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量は、91.2%であった。
【0045】
(エポキシ樹脂の製造例2)
エポキシ樹脂の製造例1で製造したビスフェノールA型エポキシ樹脂をメチルエチルケトンとメタノールの1:1混合液に40℃で完全に溶解し、濃度50重量%とした。この溶液を5℃に冷却し、1週間保持した。析出した結晶を濾別した後、減圧下150℃で溶媒を完全に除去して、常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を収率39%で得た。
このビスフェノールA型エポキシ樹脂に別途用意したビスフェノールAジグリシジルエーテルの結晶粉末を3重量%添加し、良く混合した。このものを10℃で3日間保持して完全に結晶化させた。
このエポキシ樹脂のエポキシ当量は、173g/eq.、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量は、96.5%、融点は、45.0℃であった。また、その結晶化はほぼ完全であり、粉砕や粉体での取り扱いなど常温で固形のエポキシ樹脂として使用可能であった。
【0046】
(エポキシ樹脂の製造例3)
エポキシ樹脂の製造例1で製造したビスフェノールA型エポキシ樹脂を内部コンデンサー型フィルムエバポレーターを用い、0.1mmHg、180〜200℃で蒸留した。収率は68%であった。
得られた常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂に別途用意したビスフェノールAジグリシジルエーテルの結晶粉末を1重量%添加し、良く混合した。このものを15℃で1日間保持して完全に結晶化させた。
このエポキシ樹脂のエポキシ当量は、171g/eq.、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量は、98.3%、融点は、48.5℃であった。また、その結晶化はほぼ完全であり、粉砕や粉体での取り扱いなど常温で固形のエポキシ樹脂として使用可能であった。
【0047】
(エポキシ樹脂の製造例4)(比較例)
エポキシ樹脂の製造例1で製造した常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂に別途用意したビスフェノールAジグリシジルエーテルの結晶粉末を3重量%添加し、良く混合した。このものを8℃で5日間保持して結晶化させた。
このエポキシ樹脂の融点は、42.9℃であった。また、その結晶化は不完全であり、一部液状の部分があるため、粉砕や粉体での取り扱いなどが困難で常温で固形のエポキシ樹脂として使用不可能であった。
【0048】
(半導体封止用エポキシ樹脂組成物実施例1〜4及び比較例1及び2)
表1に示したように、(a−1)成分として、製造例2又は3で製造した各エポキシ樹脂、(a−2)成分として、市販のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、市販のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、市販のジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂又は市販の3官能型エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂硬化剤として市販のフェノールノボラック樹脂又は市販のフェノールアラルキル樹脂、(c)無機充填剤として球状溶融シリカ粉末を比較例1以外は組成物全体の87重量%、比較例1は組成物全体の83重量%、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用い、さらに充填剤表面処理剤としてエポキシシラン、離型剤としてカルナバワックスをそれぞれ用いて、各エポキシ樹脂組成物を配合した。
次いで、各配合物をミキシングロールを用いて70〜100℃の温度で5分間溶融混合した。得られた各溶融混合物はシート状に取り出し、粉砕して各成形材料を得た。
【0049】
これらの各成形材料を用い低圧トランスファー成形機で金型温度180℃、成形時間180秒で成形して、各試験片を得、180℃で8時間ポストキュアーさせた。また、各成形材料のスパイラルフローを測定した。
各成形材料のゲルタイム、スパイラルフロー及び各試験片のポストキュアー後のガラス転移温度、吸湿率及び耐ハンダクラック性を試験した結果は表1に示すとおりであり、実施例1〜4の各成形材料は、比較例1及び2の成形材料に較べて流動性(即ち高スパイラルフロー)、耐熱性、低吸湿性及び耐ハンダクラック性のバランスに優れていた。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の註
*1:A;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔一般式(2)〕において、
Q=−CH、X=−CH−、j=2.1(平均値)、k=1の化合物とエピクロルヒドリンとの反応で得られたエポキシ樹脂;ジャパンエポキシ レジン社商品名 エピコ−ト180S65、軟化点:67℃、エポキシ当量:214)
*2:B;テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂〔一般式(2)〕において、
Q=−CH、X=直接結合、j=0、k=2の化合物とエピクロルヒドリンとの反応で得られたエポキシ樹脂;ジャパンエポキシ レジン社商品名 エピコ−トYX4000H、融点:108℃、エポキシ当量:193)
*3:C;ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂〔一般式(2)〕において、
X=化学式(5)、
【化5】

j=1.1、k=0の化合物とエピクロルヒドリンとの反応で得られたエポキシ樹脂;大日本インキ化学工業社商品名 エピクロンHP7200L、軟化点:59℃、エポキシ当量:248)
*4:d;3官能型エポキシ樹脂〔一般式(3)〕において、
Y=>CH−、n=3、m=0の化合物とエピクロルヒドリンとの反応で得られたエポキシ樹脂;ジャパンエポキシ レジン社商品名 エピコート1032H60,エポキシ当量:168)
*5:E;フェノールノボラック樹脂(群栄化学社製,水酸基当量:105,軟化点:85℃)
*6:F;フェノールアラルキル樹脂(三井化学社商品名 XL225−3L,水酸基当量:170,軟化点:71℃)
*7:球状溶融シリカ粉末(日本アエロジル社商品名 ELSIL BF100)
*8:エポキシシラン(信越化学工業社商品名 KBM−403)
*9:TMAを用いて熱膨張曲線の転移点より求めた。
*10:85℃、85%RH168時間後の吸湿率
*11:80ピンQFP16個を85℃、85%RHにおいて168時間吸湿後、260℃赤外線ハンダリフローを行い、クラックの発生した個数を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れるので、封止材料、粉体塗料、粉体絶縁材料等に使用することができる。また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、耐熱性又は低吸湿性、及び流動性に優れ、かつ耐ハンダクラック性に優れた半導体装置を与えるので半導体封止の分野で有利に使用することができる。さらに本発明の半導体装置は耐ハンダクラック性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) エポキシ樹脂成分として、
(a−1) ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応で得られるエポキシ樹脂であって、式(1)
【化1】

で表されるビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であるエポキシ樹脂;5〜50重量%、
(a−2) (a−1)成分以外の常温で固形のエポキシ樹脂;50〜95重量%、
(b) エポキシ樹脂硬化剤、
を必須成分として配合してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a−1)のエポキシ樹脂が、前記式(1)のビスフェノールAジグリシジルエーテルの含有量が95重量%以上であり、融点が44℃以上の結晶であるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a−2)の固形エポキシ樹脂の全部あるいは一部が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Qは、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のアラルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、Xは、互いに同一であっても異なっていても良く、直接結合、−O−、−S−、−SO−、−CO−、−OCO−、又は炭素数1〜20の2価の有機基であり、jは、平均値で0〜8の数であり、kは、互いに同一であっても異なっていても良く、0〜3の整数である。)
又は、下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、置換又は無置換のフェニル基、置換又は無置換のアラルキル基、アルコキシ基又は、ハロゲン原子であり、Yは、炭素数1〜20の3又は4価の有機基であり、nは、3又は4の整数であり、mは、互いに同一であっても異なっていても良く、0〜3の整数である。)
で表されるフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応で得られる常温で固形のエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b)のエポキシ樹脂硬化剤が、フェノール樹脂類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物に、さらに(c)溶融及び/又は結晶シリカ粉末からなる無機充填剤を組成物全体の80〜95重量%の割合で配合してなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記請求項5記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物による硬化物で封止されている半導体素子及び/又は半導体集積回路を有する樹脂封止型半導体装置。

【公開番号】特開2011−17018(P2011−17018A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203332(P2010−203332)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願2001−140936(P2001−140936)の分割
【原出願日】平成13年5月11日(2001.5.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】