説明

エレクトロルミネセントプラスチック窓上に耐磨耗層を堆積する方法

プラスチック自動車窓(100)へ真空蒸着技術を用いて耐磨耗層(60)を適用する方法を提供する。プラスチック自動車窓(100)はプラスチックパネル(30)、エレクトロルミネセント層(40)及び耐候性層(50)を包含する。第1耐磨耗サブ層(63)が耐候性層(50)の上面に付着され、次に第2耐磨耗サブ層(66)が前記第1耐磨耗サブ層(63)上に適用される。耐磨耐磨耗サブ層(63、66)の付着は、エレクトロルミネセント層(40)内の接着損失を減少させ、そしてその層(40)の電場発光機能を維持する制御された温度条件下に行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に自動車のプラスチック窓の分野に関する。さらに詳細にはエレクトロルミネセントプラスチック窓の内側及び/又は外側表面に耐磨耗層を適用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界において、プラスチック窓システムは、伝統的なガラス窓の代替物となり始めている。プラスチック材料は、無機(例えばガラス)材料とは異なる性質を示すので、これらの窓システムを製造するためには種々の新しい方法を開発しなければならない。そのような方法のひとつは、エクサテックLLC(Exatec,LLC)(ミシガン州、ウィクソム(Wixom))により提供されるExatec(登録商標)900及び900vtプラスチック嵌め込みシステム(glazing system)を製造するために使用される多工程法である。この方法は、(1)プラスチック樹脂から窓を成形し;(2)3−Dプリントの手順を用いて任意に装飾又は付加機能(例えば除氷(霜)性等)層をプリントし、(3)慣用のフローコーティング、浸漬コーティング又はスプレーコーティング技術を用いて耐候性層を適用し、そして(4)プラズマ強化化学蒸着(PECVD)を用いて耐磨耗層を適用することを包含する。
【0003】
異なる材料層間の多重界面領域を含むプラスチック窓システムの製造において、重要な要素は層間に存在する化学質と性質との両方においての相容性である。2つの材料層間の相容性を最適にするために開発された方法は、もし材料層の一つを異なる材料層と置き換えたなら機能しない可能性がある。例えば、Exatec(登録商標)900vt嵌め込みシステムにおいて、耐摩耗性層は、ポリカーボネート窓とシリコーン耐候性層との両方に対し、光学的清澄性、硬さ及び接着性を示すように最適化されている。しかしながら、エレクトロルミネセント層のような他の層が耐磨耗層とポリカーボネート基板との間に置かれると接着の不足が生じる。観察される接着損失は、エレクトロルミネセント層を含む多重サブ層(multiple sub−layers)を横断する不均一な加熱により生じる。さらに、PECVDにより耐磨耗層を適用する間、アルゴンと酸素との混合物のような不活性ガスに曝露されるのでエレクトロルミネセント層の性能の損失が助長される可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の点からみて、接着損失又はエレクトロルミネセンスの損失を何ら起こすことなしに、エレクトロルミネセント層を含むプラスチック窓システムへ耐磨耗層を適用するために適当な方法を提供する必要性が当業界において存在することが明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの面において、エレクトロルミネセント層を含むプラスチック自動車窓へ耐磨耗層を適用するための方法が提供される。他の面において、エレクトロルミネセント自動車窓の耐磨耗性は、耐磨耗層の最適化された適用によって強化される。さらに他の面において、エレクトロルミネセント層の電場発光の性質を維持しながら、エレクトロルミネセント層を含む種々の層間で何らかの接着損失が起こるのを最小にしながら耐磨耗層が堆積(deposit)される。
【0006】
本発明の原理を具体化するプラスチック自動車窓は、他の層と共に、特にプラスチックパネル、エレクトロルミネセント層、耐候性層及び耐磨耗層を有する多重層嵌め込みシステムである。エレクトロルミネセント層は、フィルム挿入成形(FIM)法の使用によりプラスチックパネルの部分として封入されることができる。さらに、耐候性層はエレクトロルミネセント層内の何らかの接着損失の機会を減少させ、そしてプラスチック自動車窓のひずみ(warpage)を防止する諸条件(例えば、温度、等)下に適用され、且つ硬化される。耐磨耗層は接着損失を減少させ、そして高い水準の耐磨耗性を提供する層を堆積させるために多数サブ層を含むことができる。本発明の種々の態様は、プラスチック自動車窓がエレクトロルミネセント層を含む場合に実施することができる耐磨耗層の適用のための有利な方法を提供するものである。
【0007】
本発明の他の目的及び利点は、以下の詳細な記載及び特許請求の範囲を考慮した際に、そして添付図面を参照した際に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の原理に従う、プラスチック自動車窓を導入している自動車の部分側面図を表す。
【図2】本発明の1態様に従う、プラスチック自動車窓を構成する種々の層を例示する略図である。
【図3】フィルム挿入成形(FIM)法を使用する、本発明の他の態様に従うプラスチック自動車窓を構成する種々の層を例示する略図である。
【図4】図の上方部分及び下方部分においてそれぞれ、本発明の好ましい態様に従う部品搬送体、膨張熱プラズマPECVD反応器システムの水平(側面)図及び垂直(上面)図の両方を提供する。
【図5】本発明の1つの態様に従う、エレクトロルミネセント層を含むプラスチック自動車窓上に耐磨耗層を堆積させるための方法を例示するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な記載
本発明の種々の態様は、プラスチック自動車窓への耐磨耗層の適用のための方法(method)又は処理(process)を提供する。自動車窓は、プラスチックパネル、エレクトロルミネセント層、耐候性層及び耐磨耗層を有する多層嵌め込みシステムである。以下にさらに詳細に記載するように、エレクトロルミネセント層はプラスチックパネル表面上に堆積されてもよく、又はフィルム挿入成形(FIM)の使用によりプラスチックパネルの部分として封入されてもよい。
【0010】
図1は本発明の1態様に従う、プラスチック自動車窓100を有する自動車の部分側面図を示す。そのプラスチック自動車窓100は自動車の種々の位置に置くことができ、図示しているように自動車の構造部材AとBとの間に配置することができる。その自動車窓100は、2つの表面、即ち第1表面10及び第2表面20を含む。本明細書において使用されるものとして第1表面10は自動車の外側に面し、一方、第2表面20は自動車の内側に面する。
【0011】
本発明の1つの態様において、自動車窓100はその上にエレクトロルミネセント層40を堆積させているプラスチックパネル30を含み、図2に示されるように該エレクトロルミネセント層40は該窓の第2表面20に向かって配向するように配置されている。本発明の他の態様において、図3に示されるようにエレクトロルミネセント層40は該窓の第1表面10に向かって配向するようにプラスチックパネル30上に堆積されている。
【0012】
エレクトロルミネセント層40は、例えば電場を適用したときに光を発する電場発光を受ける多層システムである。エレクトロルミネセント層40は、窓の一部又は全体のボーダー(border)又はフレーム(frame)であっても、またはアートワーク及び/又は文字のようなデザインであってもよく、窓の透明な可視領域中に又はそこを通ってフレーム又はボーダー又はトランジション(transition)の部分として置かれる中実バンド又はラインであることもできる。スクリーン印刷、インクジェット印刷、膜画像転写及びマスキング及びスプレイを包含するがそれらに限定されない、当業者に知られている任意の技術を用いて、そのエレクトロルミネセントを堆積させるか又は印刷することができる。
【0013】
エレクトロルミネセント層40は、蛍光体サブ層(sub−layer)、誘電体サブ層、導電性ペーストサブ層、装飾インクサブ層又は他のサブ層のような幾つかのサブ層を含んでよい。蛍光体サブ層はそれを横切って電場を適用したときに光を発するのに応答性であるサブ層であり、誘電体サブ層は必要な電気容量を提供し、導電性ペーストサブ層は上記サブ層の全てを横切っての最適な熱転送を提供する。エレクトロルミネセント層は、「Light Emissive Plastic Grazing(光放出性プラスチック嵌め込み)」と題する、2005年12月23日に出願された米国特許出願11/317,587号(この全体を参照することにより本明細書に組み入れる)にいっそう詳細に記載されている。
【0014】
本発明の他の態様において、フィルム挿入成形(FIM)として成形の技術分野においての当業者に周知である方法により、エレクトロルミネセント層40をプラスチックパネル30とプラスチックフィルム70との間に封入することができる。フィルム挿入成形法は、押し出し又は他の手段によりフィルムを形成し、フィルム70上にエレクトロルミネセント層40をスクリーン印刷し、任意に1つの鋳型表面の幾何学形状にフィルムを熱成形し、フィルムをトリミングし、型の空洞中にフィルムを挿入し、そしてプラスチックフィルム70と溶融結合する溶融プラスチック樹脂を射出し、そして冷却によりプラスチックパネル30にプラスチック樹脂を固化させることを包含するが、しかしそれらに限定されない一連の準処理(sub−processes)を包含することを意味する。スクリーン印刷準処理(sub−process)は、誘電性インクを用いてエレクトロルミネセント層40上に図形のような追加の任意のサブ層を印刷することをまた含む。熱成形準処理は型の空洞に適当に適合する幾何学形状にエレクトロルミネセント層40を成形することを包含する。熱成形準処理の例は真空成形及び圧力助力成形を包含するが、しかしそれらに限定されない。トリミング準処理は過剰なプラスチックフィルム70を除去し、この処理は射出成形の器具中にフィルムの正確な挿入を確実にするために必要である。トリミング準処理の例は、整合−金属トリミング(match−metal trimming)、溝かんながけ(routering)及びレーザートリミングを包含するが、しかしそれらに限定されない。射出成形準処理は、型の空洞中に置かれているエレクトロルミネセント層40及びプラスチックフィルム70にプラスチック樹脂層を強制的に接触させることを包含する。溶融プラスチック樹脂を型中に射出し溶融プラスチック樹脂を冷却する際に、固化するプラスチックパネルとプラスチックフィルム70との溶融結合が起こる。本発明の1つの態様において射出成形処理は約85℃未満の型温度で行われる。
【0015】
スプレーコーティング、浸漬コーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング及びカーテンコーティング法を包含するが、しかしそれらに限定されない当業者に知られているいずれかの湿式コーティング法を用いて耐候性層50を適用することができる。図2及び3に示されるように、耐候性層50をエレクトロルミネセント層40、プラスチックパネル30及びプラスチックフィルム70上に堆積させる。耐候性層の適用は、窓の内側側面20(第2表面)と窓の外側側面10(第1表面)との両方又は窓の外側側面10(第1表面)に行われるのが好ましい。したがって、窓の内側側面20(第2表面)上の耐候性層は任意のものである。
【0016】
耐候性層50は、シリコーン、ポリウレタン、アクリル、ポリアリーレート、エポキシ、及びそれらの混合物又は共重合体を包含するが、しかしそれらに限定されない。耐候性層50は薄いフィルムとして押し出されるか又はキャスティングされるか又は個々のコーティングとして適用することができる。耐候性層50はプラスチックパネルの保護を高めるために、アクリルプライマー及びシリコーンハードコーティング、又はポリウレタンコーティングのような多数コーティングサブ層含むことができる。多数コーティングサブ層を含む耐候性層50の1つの特定の例は、アクリルプライマー53(ニューヨーク州、ウォーターフォード(waterford)のGEシリコーンズ社(GE Silicones)のSHP401)とシリコーンハードコーティング56(GEシリコーンズ社のAS4000)との組み合わせを包含する。着色剤(薄い色合い)、レオロジー制御剤、酸化防止剤、紫外線吸収性(UVA)分子及びIR吸収性又は反射性顔料のような種々の添加剤を耐候性層50に加えることができる。
【0017】
プラスチックパネル30及びプラスチックフィルム70は、任意の熱可塑性又は熱硬化性重合体樹脂から構成されることができる。プラスチックパネル30又はプラスチックフィルム70は実質的に透明であるべきであるが、しかし不透明のフレーム又はボーダーのような、しかしそれらに限定されない半透明又は不透明領域を包含してもよい。重合体樹脂は、ポリカーボネート、アクリル、ボリアリーレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリウレタン、シリコーン、エポキシ、ポリアミド、ポリアルキレン、及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)並びにそれらの共重合体、ブレンドおよび混合物を包含するが、しかしそれらに限定されない。好ましい透明な熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、アクリル、ポリアリーレート、ポリエステル及びポリスルホン、ならびにそれらの共重合体及び混合物を包含するが、しかしそれらに限定されない。プラスチックパネルは、とりわけ、着色剤、レオロジー制御剤、離型剤、酸化防止剤、UVA分子、及びIR吸収性又は反射性顔料のような種々の添加剤をさらに含むことができる。
【0018】
耐磨耗層60は多数のサブ層の組み合わせを含み、そのサブ層の数は少なくとも2である。第1の耐磨耗サブ層63は耐候性層50の表面上に適用されるのが好ましい。第2の耐磨耗サブ層66は、第1の耐磨耗サブ層63の表面上に適用される。
【0019】
耐磨耗層60は、酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素、オキシ窒化珪素、オキシ炭化珪素、水素添加オキシ炭化珪素、炭化珪素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム錫、酸化イットリウム、酸化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、あるいはそれらの混合物又はブレンドから構成されることができる。好ましくは、耐磨耗層60は一酸化珪素、二酸化珪素、オキシ炭化珪素又は水素添加オキシ炭化珪素の組成物から構成される。したがって、耐磨耗層60を「ガラス様(glass−like)」コーティングと称することができる。
【0020】
プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、膨張熱プラズマPECVD、イオン助力プラズマデポジション、マグネトロンスパッタリング、電子ビーム蒸発およびイオンビームスパッタリッグを包含するが、しかしそれらに限定されない当業者に知られている任意の真空蒸着技術により耐磨耗層60を適用することができ、PECVDが好ましく、膨張熱プラズマPECVDが特に好ましい。
【0021】
本発明の1つの態様において、第1耐磨耗サブ層63は第2耐磨耗サブ層66より一層「有機体−様」である。この態様において、両方のサブ層は、珪素、炭素、水素及び酸素原子の混合物を含むけれども、第1耐磨耗サブ層63は第2耐磨耗サブ層66が含むよりもいっそう多量の炭素及び水素原子を含む。このいっそう多量又は多数の炭素及び水素原子は、第1耐磨耗サブ層63を第2耐磨耗層66よりもいっそう「有機体−様」にさせてこの層とその下にある耐候性層50との間の接着を高める。
【0022】
本発明の1つの態様において、第2耐磨耗サブ層66は、良好な耐磨耗性を提供する「無機体−様」層である。第2耐磨耗サブ層66は第1耐磨耗サブ層63に比較してより多くの酸素及び珪素原子、そしてより少ない炭素及び水素原子を含み、それにより改良された、又は高められた耐磨耗性を提供する。化学的性質ならびに各々の耐磨耗サブ層を構成する種々の原子の数又は量は材料特性化又は表面分析の当業者に周知であるTEM、SIMS及びAugerのような技術により容易に決定することができる。
【0023】
本発明の1つの好ましい態様において、耐磨耗層は膨張熱プラズマPECVD反応器システムを用いて堆積される。この反応器システムは予備加熱され、耐摩耗性層60を自動車窓100の第1表面及び第2表面に適用するように計画された種々の室を含む。図4において概略的に描かれている膨張熱プラズマPECVD反応器システム200は、(2004年6月28日に出願された)米国特許出願第10/881,949号及び(2005年3月8日に出願された)米国特許出願第11/075,343号(これらの出願の全体を参照することにより本明細書に組み入れる)において説明されている。膨張熱プラズマPECVD法において、150トルより高い圧力、例えば大気圧近くで不活性ガス環境において対応するアノードプレートにアークするカソードへ直流(DC)電圧を適用することによってプラズマを生成する。大気圧近くの熱プラズマは、次ぎに処理圧がプラズマ発生器においての圧力未満、例えば約20〜約100ミリトルであるプラズ処理室中に超音波的に膨張する。
【0024】
図4は、本発明の1つの態様に従う、部品搬送体202及び膨張熱プラズマPECVD反応器システム200の水平面(側面)図及び垂直面(上面)図の両方を提供する。部品搬送体202は、例えば部分的に製造されたプラスチック自動車窓100のような部品を、反応器システム中を通過して運搬する。膨張熱プラズマPECVD反応器システム200は、積荷固定(load lock)室204、予熱室206、複数のコーティング堆積室208、210及び出口ロック室212を包含する。コーティング堆積室は第1耐磨耗サブ層(sub−layer)63の堆積のための室208、及び第2耐磨耗サブ層66の堆積のための室210を包含する。2つより多いサブ層が耐磨耗層60を構成するために用いられるときは追加のコーティング堆積室が必要である。各々の堆積室は複数のアーク214、216を包含する。
【0025】
部品搬送体202は、膨張熱プラズマPECVD反応器システム200の種々の室中を通過してプラスチック自動車窓100を運搬する。部品搬送体202は最初に積荷固定室204に入る。積荷固定室204は、コーティング堆積室208、210において存在する環境に実質的に類似の真空を作りだすために、積荷固定室204中の圧力を減少させる積荷固定ポンプを包含する。次ぎに部品搬送体202は予熱室206中にプラスチック自動車窓を移動させる。
【0026】
予熱室206において、種々の加熱素子を使用してプラスチック自動車窓100を加熱する。加熱素子の例は、赤外線、マイクロ波、抵抗及び非反応性プラズマ流を包含するが、しかしそれらに限定されない。本発明の1つの態様において、予熱室206は、反応器壁に沿って置かれた加熱用棒材(抵抗加熱)を含む。プラスチック自動車窓100の表面を加熱した後に、部品搬送体202は第1コーティング堆積室208中を通過して自動車窓を移動させる。
【0027】
本発明の1つの態様において、コーティング堆積室208にて第1耐磨耗サブ層(63を適用し、そしてコーティング堆積室210にて第2耐磨耗サブ層66を適用する。各々の堆積室はアーク214及び216の配列を含む。アークの各々は、中心にあるカソードチップを有するカソードプレート及びアノードプレートを含む。1種のガス又は複数種のガスの混合物の存在下に対応するアノードプレートにアークするカソードプレートに直流電圧を適用することによりプラズマが発生する。ガスの例はアルゴン、窒素、アンモニア、酸素、水素及びそれらの任意の組み合わせを包含する。約150トルよりも高い圧力でプラズマを発生させる。次にプラズマをアーク214、216から超音波的に発生させ、そしてコーティング堆積室208、210中に膨張させる。本発明の1つの態様において、コーティング堆積室208、210は、例えば約20ミリトル〜約100ミリトルの範囲のような低い圧力を有している。反応性試薬を酸化し、分解し、そしてプラズマ中で重合して、プラスチック自動車窓100上に堆積させて耐磨耗層60を形成する。反応性試薬の例は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)又は他の揮発性有機珪素化合物を包含するが、しかしそれらに限定されない。
【0028】
最後に、耐磨耗層60でコーティングされたプラスチック自動車窓100を運搬している部品搬送体202は、出口ロック室212中に移動する。出口ロック室212は積荷固定室204に存在する真空化に類似の真空化のための出口ロックポンプを含む。出口ロック室212中に部品搬送体202が入った際は、その室はコーティング堆積室208、210と同じ低い圧力水準にある。部品搬送体202がいったん出口ロック室212内部に存在すると、圧力は大気圧にまで高められ、部品搬送体は膨張熱プラズマPECVD反応器システム200を出て行くことが可能になる。
【0029】
本発明者は、エレクトロルミネセント層40内に存在する多数の界面が耐磨耗層60の適用に対して非常に感受性であることを発見した。さらに詳細には、耐磨耗層60の適用の際にエレクトロルミネセント層40内の種々の界面間で激変的に接着の欠陥が生じることを経験した。耐磨耗層60の堆積の間に用いられる条件によって接着欠陥は蛍光体/誘電体サブ層間、導電性/誘電性サブ層間、又は誘電性サブ層とプラスチックパネルとの間で起る可能性がある。エレクトロルミネセント層40の種々の界面間の接着欠陥は、所望の電場発光の性質の実質的な損失を生ずる。本発明者は、エレクトロルミネセント層40の多数のサブ層を横切る均一な加熱プロフィールを維持することが、耐磨耗層60の適用の間及びその後、層間の接着を維持するために必須であることをさらに発見した。均一な加熱は、第1耐磨耗サブ層63の堆積の前に35℃〜65℃の温度、好ましくは約50℃の温度にプラスチック自動車窓を予備加熱することにより可能であることが発見された。図4に示される膨張熱プラズマPECVD反応器システムにおいて、プラスチック自動車窓100の予備加熱を該窓が第1コーティング堆積室208に入る前に該反応器システムの予熱室206中で行なう。
【0030】
本発明者はまた、耐候性層の適用及び硬化中、又はフィルム挿入成形処理中に、エレクトロルミネセント層40の温度曝露を制限することによって層の接着完全性が高められ、そしてエレクトロルミネセント機能の維持が助長されることを発見した。したがって、耐候性層の適用及び硬化は、好ましくは約125℃未満の温度に制限すべきである。フィルム挿入成形(FIM)処理を使用する場合、型の表面温度を約85℃を超えない温度で維持すべきである。
【0031】
図5は本発明の1つの好ましい態様に従って、完全性(例えばサブ層間の接着)及びエレクトロルミネセント層40の機能を維持する、プラスチック自動車窓100上への耐磨耗層60を堆積するための方法を例示するフローチャートを示す。工程300において、フィルム挿入成形法を使用する。この場合において、プラスチックフィルム70及びエレクトロルミネセント層40がさらされる型の表面温度を約85℃を超えない温度に維持すべきである。フィルム挿入成形法は必ずしも使用されないので、この処理工程300は任意のものである。
【0032】
工程302で、耐候性層50をプラスチック自動車窓100上に適用する。本発明のこの態様において、耐候性層50を、約30〜約75分の時間期間にわたって約125℃未満の温度で適用し且つ硬化する。約60分未満が特に好ましい。この処理工程302はエレクトロルミネセント層40の完全性及び機能を高めるが、しかしそれ以降の3処理工程304〜308ほどは重要でない点で任意であると考えられる。
【0033】
工程304で、第1耐磨耗サブ層63の堆積の前に、プラスチック自動車窓100を予備加熱する。特に、プラスチック自動車窓100を、約35℃〜約65℃の範囲の表面温度に予備加熱し、約50℃の表面温度が特に好ましい。
【0034】
工程306で、約85℃を超えない、エレクトロルミネセント層を横切る均一な温度を維持している耐候性層50の表面に第1耐磨耗サブ層63を適用する。耐磨耗層60を、膨張熱プラズマPECVD反応器システム200を用いて堆積させる本発明の1つの好ましい態様において、約30アンペア/アーク〜約45アンペア/アークの範囲のアーク電流、約110標準立方センチ/分(sccm)〜約140sccmの範囲の反応性試薬(例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン、D4)流、及び約250sccm〜約350sccmの範囲の酸素流を用いて、第1耐磨耗サブ層63を堆積させたときに、均一な温度が生ずることが発見され、約37アンペア/アーク、約125sccmの反応性試薬流及び約300sccmの酸素流が特に好ましい。工程304で記載されたような予備加熱温度は、該第1耐磨耗サブ層63を工程306において適用する場合に、プラスチック自動車窓100の表面温度が約85℃を超えて上昇することを防止する。
【0035】
工程308で、約110℃を超えない、エレクトロルミネセント層を横切る均一な温度を維持している第1耐磨耗サブ層63の上面上に、第2耐磨耗サブ層66を適用する。膨張熱プラズマPECVD反応器システムを用いて耐磨耗層60を堆積する本発明の1つの好ましい態様において、約30アンペア/アーク〜約40アンペア/アークの範囲のアーク電流、約110sccm〜約140sccmの範囲の反応性試薬(例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン、D4)流、及び約700sccm〜約900sccmの範囲の酸素流を用いて第2耐磨耗サブ層66を堆積させる場合に均一な温度が起こることが発見され、約34アンペア/アーク、約125sccmの反応性試薬流、及び約800sccmの酸素流が特に好ましい。工程306において第1耐磨耗サブ層63の堆積後に、工程304で記載されたような予備加熱温度、及び約85℃未満の温度は、第2耐磨耗サブ層66を工程308において適用する場合にプラスチック自動車窓100の表面温度が110℃を超えて上昇することを防止する。
【0036】
本発明の種々の態様は、エレクトロルミネセント層40を含むプラスチック自動車窓100に、少なくとも2つのサブ層63、66を含む耐磨耗層60を適用するための有利な方法(method)及び処理(process)を提供する。本発明において記載されているような多層嵌め込みシステムは、エレクトロルミネセントサブ層間の接着完全性及び光発光自動車窓として機能を果すために必要な外側面耐磨耗性の両方を確立する。さらに、フィルム挿入成形法において型の表面の温度を制限することにより、耐候性層を硬化するために用いられる温度を制限することにより、そして耐磨耗層60の堆積の前にプラスチック自動車窓を予備加熱することにより、エレクトロルミネセント層40の複数のサブ層間の何らかの接着損失が起こるのを減少させるか、又は排除する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着により耐磨耗層をプラスチック自動車窓へ適用する方法であって、
プラスチックパネル(30)、プラスチックパネル(30)の表面上に堆積されたエレクトロルミネセント層(40)、並びにエレクトロルミネセント層(40)及びプラスチックパネル(30)の表面上に堆積された耐候性層(50)を有するプラスチック自動車窓(100)を用意する工程;
約35℃〜約65℃の範囲内の表面温度にプラスチック自動車窓(100)を予備加熱する工程;
自動車窓(100)の表面温度を約85℃未満に維持しながら耐候性層(50)の表面上に第1耐磨耗サブ層(63)を適用する工程;及び
自動車窓(100)の表面温度を約110℃未満に維持しながら、第1耐磨耗サブ層(63)上に第2耐磨耗サブ層(66)を適用する工程;を含む、上記方法。
【請求項2】
プラスチック自動車窓(100)を組み立てる工程が、型の表面温度を約85℃未満に維持する工程、プラスチックパネル(70)の表面上にプラスチックフィルム(70)を堆積する工程、プラスチックパネルの一方の表面にプラスチックフィルム(70)を溶融結合する工程、及び、プラスチック自動車窓(100)を75分間未満、約125℃未満の温度にさらすことにより耐候性層(50)を硬化させる各工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラスチック自動車窓(100)を約50℃の表面温度に予備加熱する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
プラスチックパネル(30)がポリカーボネート、アクリル、ポリアリーレート、ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタン及びポリスルホン並びにそれらの共重合体及び混合物の群から一つとして選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
耐候性層(50)がシリコーン、ポリウレタン、アクリル、ポリアリーレート、エポキシ、及びそれらの混合物又は共重合体の群から一つとして選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
第1耐磨耗サブ層(63)が一酸化珪素、二酸化珪素、オキシ炭化珪素又は水素添加オキシ炭化珪素の群から一つとして選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
第2耐磨耗サブ層(66)が一酸化珪素、二酸化珪素、オキシ炭化珪素、又は水素添加オキシ炭化珪素の群から一つとして選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
第1耐磨耗サブ層(63)が第2耐磨耗サブ層(66)より多数の炭素及び水素原子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
第2耐磨耗サブ層(66)が第1耐磨耗サブ層(63)より多数の珪素及び酸素原子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
耐候性層(50)が硬化される温度が、約75分未満の時間にわたる約125℃未満の温度に制限される工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
膨張熱プラズマPECVDシステムを介して第1及び第2耐磨耗サブ層(63、66)を適用する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
約30アンペア/アーク〜約45アンペア/アークの範囲のアーク電流、約110標準立方センチ/分(sccm)〜約140sccmの範囲の反応性試薬流及び約250sccm〜約350sccmの範囲の酸素流を用いて第1耐磨耗サブ層(63)が適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
約37アンペア/アークのアーク電流、約125sccmの反応性試薬流及び約300sccmの酸素流を用いて第1耐磨耗サブ層(63)が適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
約30アンペア/アーク〜約40アンペア/アークの範囲のアーク電流、約110sccm〜約140sccmの範囲の反応性試薬流、及び約700sccm〜約900sccmの範囲の酸素流を用いて、第2耐磨耗サブ層(66)が適用される、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−540124(P2009−540124A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514465(P2009−514465)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/069555
【国際公開番号】WO2007/146569
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(505365404)エクスアテック、エル.エル.シー. (51)
【Fターム(参考)】