説明

エンコーダおよびこれを備えた装置

【課題】エンコーダにおいて、三角関数演算の回数を削減する。
【解決手段】エンコーダは、周期パターン11が設けられたスケール10と、スケールとの相対移動が可能であり、周期パターンを読み取って、それぞれ周期パターンに応じた変化周期を有し、かつ互いに位相が異なる複数のアナログ信号を出力するセンサ20と、該センサから出力された複数のアナログ信号を時分割でアナログ−デジタル変換して複数のデジタル信号を生成するA/D変換部30と、複数のデジタル信号から位相を検出する位相検出部60と、スケールとセンサとの相対移動速度と位相検出部により検出された位相とを用いて補正値を算出し、該補正値と位相検出部により検出された位相とから補正位相を算出する補正部70と、該補正位相を用いて、スケールとセンサとの相対移動方向での位置を求める位置検出部80とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器等の各種装置に用いられ、該装置内の可動部材の移動に応じたスケールとセンサとの相対移動に伴って位置を示す信号を出力するエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
可動部材の位置や速度を検出するためにエンコーダが使用される。エンコーダは、例えば可動部材に周期パターンを設けたスケールを取り付ける一方、固定された部材にセンサを取り付け、センサによって周期パターンを読み取ることで可動部材の位置に応じた信号を出力する。このようなエンコーダでは、スケールとセンサとの相対移動量に応じてセンサから出力される2相又は3相以上の複数の周期信号から位相を求めることにより内挿処理を行う。
【0003】
複数の周期信号を読み取る際に、これらを同時に読み取るのではなく、順次読み取る場合、複数の周期信号の読み取り時刻に差が生じる。スケールとセンサとが相対移動しているときには、複数の周期信号のそれぞれの読み取り時刻においてスケールとセンサの相対位置が異なる。この場合、読み取った複数の周期信号の位相が互いに異なってしまい、そのまま内挿処理を行っても、本来求めるべき正しい位相を求めることができない。
【0004】
特許文献1には、スケールとセンサの相対位置が異なる状態で読み取った2相の周期信号のうち一方の位相を、他方を読み取った位置の位相に補正してから内挿処理を行うエンコーダが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2000/28283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて開示されたエンコーダでは、補正のために三角関数演算を多数回行う必要があり、信号処理の負荷が大きく、信号処理回路も高価になり易い。たた、位相の検出処理中に補正のための処理を挿入する必要があるため、既存の信号処理回路をそのまま使用することが難しい。
【0007】
本発明は、三角関数演算の回数を削減でき、既存の信号処理回路を利用し易いエンコーダを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としてのエンコーダは、周期パターンが設けられたスケールと、該スケールとの相対移動が可能であり、周期パターンを読み取って、それぞれ周期パターンに応じた変化周期を有し、かつ互いに位相が異なる複数のアナログ信号を出力するセンサと、該センサから出力された複数のアナログ信号を時分割でアナログ−デジタル変換して複数のデジタル信号を生成するA/D変換部と、複数のデジタル信号から位相を検出する位相検出部と、スケールとセンサとの相対移動速度と位相検出部により検出された位相とを用いて補正値を算出し、該補正値と位相検出部により検出された位相とから補正位相を算出する補正部と、該補正位相を用いて、スケールとセンサとの相対移動方向での位置を求める位置検出部とを有することを特徴とする。
【0009】
なお、上記エンコーダと、該エンコーダを用いて位置が検出される可動部材とを有する装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、三角関数演算の回数を削減できるので、信号処理の負荷を低減することができるとともに、位相の検出処理を行った後にその補正を行うことにより既存の信号処理回路に補正機能を追加するだけの簡単な構成で高精度な位置検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1であるエンコーダの構成を示すブロック図。
【図2】実施例1のエンコーダにおける位相と誤差との関係を示す図。
【図3】本発明の実施例2であるエンコーダの構成を示すブロック図。
【図4】本発明の実施例3であるエンコーダの構成を示すブロック図。
【図5】本発明の実施例4である撮像装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
図1には、本発明の実施例1であるエンコーダの構成を示す。本実施例のエンコーダは、周期パターンが形成されたスケール10と、スケール10との相対移動が可能であり、周期パターンを読み取る検出部としてのセンサ20とを有する。また、エンコーダは、A/Dコンバータ(A/D変換部)30と、カウンタ40と、記憶部50と、位相検出部60と、位相補正部70と、位置検出部80とを有する。
【0014】
本実施例のエンコーダは、スケール10とセンサ20との相対位置を検出する反射型光学式インクリメンタルエンコーダである。また、本実施例では、エンコーダが搭載される装置の可動部材にスケール10を取り付け、該装置において固定された(不動の)部材にセンサ20を取り付けて、可動部材の位置を検出する場合について説明する。このことは、後述する他の実施例でも同じである。ただし、可動部材にセンサ20を取り付け、固定された部材にスケール10を取り付けてもよい。また、本実施例では、リニア型エンコーダについて説明するが、ロータリー型エンコーダも本実施例と同様に構成することができる。
【0015】
さらに、以下に説明する本実施例を応用して、後述する実施例3にて説明するように、スケール10とセンサ20のうち一方の絶対位置を検出するアブソリュートエンコーダを構成することも可能である。インクリメンタルエンコーダにより検出する相対位置も、アブソリュートエンコーダにより検出する絶対位置のいずれも、スケール10とセンサ20の相対移動方向での位置である。
【0016】
スケール10には、所定の周期(ピッチ)で反射部と非反射部とが交互に配置された周期パターン11が設けられている。スケール10(周期パターン11)がセンサ20に対して周期パターン11の1周期(1ピッチ)だけ移動するごとに、センサ20から互いに90度の位相差を持つ2相の正弦波信号(以下、単に2相信号という)A1,B1が1周期だけ出力される。2相信号A1,B1はそれぞれ、周期パターン11に応じた変化周期を有し、かつ互いに位相が異なる余弦波信号と正弦波信号としてのアナログ信号である。
【0017】
センサ20には、光源21と受光部22とが設けられており、光源21からスケール10に照射された光のうち周期パターン11の反射部で反射した検出光を受光部22で光電変換する。光源21は、LED等の発光素子により構成され、受光部22は、複数の光電変換素子(受光素子)により構成されている。
【0018】
センサ20から出力された2相信号は、A/Dコンバータ30およびカウンタ40に入力される。A/Dコンバータ30に入力された2相信号は該A/Dコンバータ30によってデジタル信号に変換された後、位相検出部60に入力され、周期パターン11の1周期内での位相(位置)が求められる。ここで、A/Dコンバータ30は、時分割でアナログ−デジタル変換を行う。つまり、2相信号は互いに同時にデジタル信号に変換されるのではなく、時刻差を持って交互にデジタル信号に変換される。
【0019】
一方、カウンタ40は、入力された正弦波信号の周期数をカウントして、2相信号の位相の関係(すなわち、スケール10とセンサ20の相対移動方向)に応じてカウンタをアップ又はダウンする構成を有する。これにより、任意の基準位置からの相対移動量を周期パターン11の1周期単位で検出することができる。以下の説明では、周期パターン11の一端に対応する位置を基準位置と設定したものとする。このような構成により、周期パターン11の1周期内における位置とカウンタ値とを用いて、スケール10(つまりは可動部材)の位置を算出することができる。
【0020】
A/Dコンバータ30にてデジタル信号に変換された2相信号は、位相検出部60に入力される。前述したように2相信号は正弦波信号と余弦波信号であるから、arctan演算により位相(以下、検出位相という)θが求められる。
【0021】
ここで、前述したようにA/Dコンバータ30は、時分割でアナログ−デジタル変換を行う。センサ20から出力される2相信号は、センサ20とスケール10との相対位置関係に依存しており、相対位置関係が同じであれば異なる時刻であっても同じ信号が出力される。したがって、スケール10とセンサ20が相対的に静止している場合は2相信号が変化しないため、アナログ‐デジタル変換される時刻にずれがある場合にも、検出位相θは誤差を持たない。
【0022】
しかし、スケール10とセンサ20が相対移動している場合には、時刻が異なるとスケール10とセンサ20との相対位置関係も異なる。その結果、2相信号が異なる位置でアナログ−デジタル変換され、arctan演算による検出位相θが誤差を持つ。
【0023】
本実施例では、A/Dコンバータ30は、それぞれ余弦波信号および正弦波信号である2相信号A1,B1を、A1→B1の順でデジタル変換を行う。したがって、2相信号A1,B1から変換されたデジタル信号をa,bとすると、a,bは以下の式(1),(2)で表される。ただし、余弦波信号がデジタル変換された時刻の2相信号の位相をΘとし、周期パターン11における反射部の周期(以下、単に周期パターン11のピッチという)をPとする。また、スケール10とセンサ20の相対移動速度をVとし、2相信号A1,B1のデジタル変換の時刻差をΔTとする。さらに、検出位相θは、以下の式(3)で表される。ただし、MOD(x,y)はxを被除数とし、yを除数としたときの剰余を表す。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
次に、位相検出部60にて得られた検出位相θとカウンタ40の値mとを用いて位置検出部71において、スケール10とセンサ20との相対位置xが求められる。位置xは、周期パターン11のピッチPと、検出位相θと、カウンタ40の値mとから、以下の式(4)で求められる。
【0028】
【数4】

【0029】
初回の位置検出時を除き、記憶部50には、過去のある時刻tにおける位置xが記憶されている。そこで、速度検出部72において、余弦波信号A1をデジタル変換した時刻tと位置xとを用いて以下の式(5)で表される、スケール10とセンサ20との相対移動速度uを算出(検出)する。なお、初回の位置検出時の相対移動速度uは0とする。
【0030】
【数5】

【0031】
ここで、算出(検出)された相対移動速度(以下、検出速度という)uは過去のある時刻tから余弦波信号A1をデジタル変換した時刻tまでの平均速度であるため、可動部材が加速または減速していると、該検出速度uは実際の相対移動速度Vとは異なる値となる。このため、検出速度uが誤差を持つ。しかし、可動部材の加速度に対して十分に小さな時刻間隔で検出速度uを求めることで、誤差を低減することが可能である。
【0032】
また、一般的に本実施例のようなエンコーダは、A/Dコンバータ30の変換時間がセンサ20から検出される2相信号の位相の変化速度に対して十分に小さい環境で使用される。そして、デジタル変換の時刻差ΔTは、A/Dコンバータ30の変換時間とほぼ同じであり、位相の変化速度はスケール10とセンサ20の相対移動速度Vに比例する。さらに、周期パターン11のピッチPは、設計上の定数である。したがって、VΔT/Pは十分に小さく、このとき検出位相θに含まれる誤差をEとすると、誤差Eは以下の式(6)で近似され、グラフに表すと図2のようになる。
【0033】
【数6】

【0034】
そこで、補正値生成部73では、速度検出部72で得られた検出速度uを使用して、以下の式(7)で表される補正値sを生成する。式(6)および式(7)を比較すると分かるように、補正値sは誤差Eの近似値である。
【0035】
【数7】

【0036】
そして、補正処理部74において、検出位相θと補正値sとから補正位相θを求める。補正位相θは、以下の式(8)で表される。なお、補正値sは検出速度uに比例するため、u=0となる初回の位置検出時の初期補正値はs=0であり、補正を行わないことと同義である。
【0037】
【数8】

【0038】
以上により、位相検出部60で求めた検出位相θよりも誤差の少ない補正位相θが求められる。そして、位置検出部80は、位置検出部71と同様に、補正位相θとカウンタ40の値mから、以下の式(9)に示すようにスケール10とセンサ20との相対位置xを算出する。
【0039】
【数9】

【0040】
最後に、位置検出部80で求めた位置xを出力するとともに、記憶部50に位置xと余弦波信号Aがデジタル変換された時刻tを記憶する。
以上説明したように、本実施例によれば、三角関数演算の回数を少なくとすることができるので、信号処理の負荷を低減することができる。また、位相の検出処理を行った後にその補正を行うので、既存の信号処理回路に位相の補正機能を追加するだけの簡単な構成で高精度な位置検出を行うことができる。
【0041】
ところで、式(9)によって求めた位置xは、式(4)で求めた位置xよりも精度が高いが、式(5)において位置xを用いて検出速度uを求めているため、位置xには検出速度uの検出誤差の影響が残存している。そこで、より高精度な位置を求めたい場合には、位置xを用いてより高精度な速度を求め、再度位置を求めるとよい。一連の算出式の反復処理回数をiとして、以下の式(10)に示すようにu,s,θ,xを求めると、iが大きくなるにしたがって、速度、補正値、位相および位置に含まれる誤差が小さくなる。ただし、u=u,s=s,θ=θ,θ=θ,x=x,x=xである。
【0042】
【数10】

【0043】
本実施例では速度uを2回の検出位相から求めているが、3回以上の検出位相から求めてもよい。この場合は線形近似でなく、高次の近似を用いることもできる。速度を求めるために使用する位相の検出回数を増やすとより高精度に求められる。
また、本実施例では、エンコーダ内において検出位相から速度を算出する場合について説明したが、エンコーダを搭載した装置のシステムから、スケール10とセンサ20との相対移動速度に相当する速度の情報を入力し、これを検出速度uと同様に用いてもよい。この場合、記憶部50、位置検出部71および速度検出部72が不要となる。
【0044】
また、式(6)に示す誤差E(つまりは式(7)に示す補正値s)が同じ値となる複数の位相と時刻から速度を求めれば、位置x,xに含まれる誤差Eがx−xの演算により相殺されて小さくなる。このため、より誤差の少ない検出速度uが得られ、位相補正後の位置検出精度をより向上させることができる。
また、相対移動速度Vが一定である場合等の特定の場合に異なる時刻に検出した複数(2つ)の位相について、ΔT(cos2θ−1)の値が同じ(又は同じとみなせるほど十分に近い)であれば、その位相を用いて検出速度uを算出することが望ましい。これにより、検出速度uに含まれる誤差を十分低減することができ、位相補正後の位置検出精度をより向上させることができる。もちろん、デジタル変換の時刻差ΔTが固定値のA/Dコンバータを使用する場合は、cos2θの値が同じである(又は十分に近い)だけで検出速度uの誤差を低減することができる。
【0045】
また、式(7)と図2に示すように、θ≒0,πのときにE≒0となる。したがって、θ≒0,πとなるときの時刻から検出速度uを求めることで、検出速度uに含まれる誤差はより少なくなる。さらに言えば、θ≒0,πにおいて位置検出を行えば、速度状態にかかわらず位相誤差成分が小さくなり、検出位置精度の向上を図ることも可能である。
【0046】
また、本実施例では、記憶部50に、位置xとデジタル変換時刻tとを記憶する場合について説明したが、デジタル変換される時刻の間隔が一定であれば、設計値として速度を求めることが可能となるため、位置xのみを記憶するだけでもよい。
【実施例2】
【0047】
本発明の実施例2のエンコーダについて説明する。なお、実施例1と重複する説明は省略する。図3には、本実施例のエンコーダの構成を示している。実施例1とは、センサ20が、互いに120度の位相差を有する3相の正弦波信号(以下、3相信号という)A,B,Cを出力する点が異なる。
【0048】
3相信号は、A/Dコンバータ30により時分割でデジタル信号に変換される。デジタル信号をそれぞれa,b,cとすると、これらは以下の式(11),(12),(13)でそれぞれ表される。ただし、デジタル信号bがデジタル変換された時刻における3相信号の位相をΘとし、周期パターン11のピッチをPとし、スケール10とセンサ20の相対移動速度をVとし、デジタル変換の時刻差をΔTとする。デジタル信号a,b,cへのA/D変換は、同一の時刻差で行われるものとする。
【0049】
【数11】

【0050】
【数12】

【0051】
【数13】

【0052】
ここで、以下の式(14)に示すように、デジタル信号a,cの差から、デジタル信号bに対して90度の位相差を持つ信号を求めることができる。
【0053】
【数14】

【0054】
そこで、実施例1と同様に、以下の式(15)に示すようにarctan演算により検出位相θを求める。そして、検出位相θに含まれる誤差をEとすると、誤差Eは、VΔT/Pが十分に小さいとき、以下の式(16)により近似される。
【0055】
【数15】

【0056】
【数16】

【0057】
誤差Eは、V,ΔT,P,θの関数となるため、実施例1と同様に、以下の式(17)に示す補正値sを生成し、検出位相θの補正を行って補正位相を算出することができる。
【0058】
【数17】

【0059】
また、本実施例の場合も実施例1と同様に、θ≒0,πのときにE≒0となる。したがって、θ≒0,πとなるときの時刻から速度を求めることで、速度に含まれる誤差はより少なくなる。また、θ≒0,πに限られず、Eがほぼ同じ値をとる位相と時刻から速度を求めても同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0060】
本発明の実施例3のエンコーダについて説明する。なお、実施例1と重複する説明は省略する。図4には、本実施例のエンコーダの構成を示している。実施例1とは、スケール10に2つの周期パターン11,12を設けている点と、センサ20に2つの受光部22,23が設けられている点が異なる。また、本実施例のエンコーダは、アブソリュートエンコーダであり、2つの周期パターン11,12に対応する位相から絶対位置検出部90において、スケール10の絶対位置(前述したようにスケール10とセンサ20との相対移動方向での位置)を検出する。
【0061】
周期パターン11,12は、互いに異なるピッチP1,P2で形成されており、スケール10とともにセンサ20と相対移動する。センサ20の受光部22,23は、共通の光源21から射出されて周期パターン11,12の反射部にて反射した検出光をそれぞれ光電変換する。そして、各受光部は、スケール10とセンサ20との相対移動量に応じて、互いに90度の位相差を有する2相信号を出力する。このため、2つの受光部22,23からは2組の2相信号が出力される。周期パターン11,12は全長が同じであり、反射部の数がそれぞれ、N個とN−1個となっている。したがって、周期パターン11に対応して受光部22から出力される2相信号の位相と、周期パターン12に対応して受光部23から出力される2相信号の位相との差(位相差)が、スケール10(が取り付けられた可動部材)の絶対位置を示す。
【0062】
A/Dコンバータ30は、2組の2相信号(合計4つのアナログ信号である周期信号)を、受光部22からの余弦波信号A1→受光部22からの正弦波信号B1→受光部23からの余弦波信号A2→受光部23からの正弦波信号B2の順でデジタル信号に変換する。これら周期信号A1,B1,A2,B2から変換されたデジタル信号をa,b,a,bすると、以下の式(18),(19),(20),(21)で表される。ただし、信号aがデジタル変換された時刻tにおける周期パターン11,12に対応する位相をそれぞれ、ΘおよびΦとし、スケール10とセンサ20の相対移動速度をVとし、デジタル変換の時刻差をΔTとする。デジタル信号a,b,a,bへのA/D変換は、同一の時刻差で行われるものとする。
【0063】
【数18】

【0064】
【数19】

【0065】
【数20】

【0066】
【数21】

【0067】
デジタル信号a,bの位相は、実施例1と同様に、位相検出部60において検出位相θとして求められ、位置検出部71において該検出位相θから位置xが求められた後、速度検出部72において検出速度uが求められる。ただし、本実施例はアブソリュートエンコーダであるため、初回はカウンタの値が不定であり、位置検出部71において位置検出は行われない。また、初回の検出速度uは、実施例1と同様に0とする。
【0068】
これ以降、補正値生成部73および補正処理部74でも実施例1と同様の処理が行われて補正位相θが算出される。一方、デジタル信号a,bについても同様に位相検出部60において、以下の式(22)で示されるarctan演算により検出位相φが求められる。
【0069】
【数22】

【0070】
そして、補正値生成部73において、検出位相θから求められた検出速度uを用いて検出位相φの補正値を生成する。ここで、周期パターン11に対応する2相信号がデジタル変換された時刻tと周期パターン12に対応する2相信号がデジタル変換された時刻とには2ΔTのずれがある。このため、検出位相φを補正するための補正値には、時間2ΔTに対応する位相の変化量も加える。したがって、検出位相φの補正値をsとすると、sは以下の式(23)で表される。そして、補正処理部74において、以下の式(24)に示すように、検出位相φを補正した補正位相φを求める。
【0071】
【数23】

【0072】
【数24】

【0073】
さらに、絶対位置検出部90は、こうして算出された補正位相θ,φから絶対位置を算出する。前述したように、周期パターン11,12の反射部の個数はそれぞれ、N個とN−1個であり、補正位相θ,φの位相差は位置を表す。位相差をyとすると、yは以下の式(25)で求められる。
【0074】
【数25】

【0075】
位相差yは補正位相θ、φに含まれる誤差の影響を受けるため、反射部1個分の範囲で見ると、位相差yよりも補正位相θの方が高精度である。そこで、位相差yと補正位相θから、補正位相θの精度を持った位置xを求める。位相差yは、周期パターン11の全長を0から2πまでの値で表しているため、以下の式(26)により、インクリメンタルエンコーダのカウンタに相当する値mを求めることができる。したがって、実施例1と同様に以下の式(27)で位置xを求めることができる。ただし、ROUND(x)は小数点以下を四捨五入してxを整数に丸めることを表す。
【0076】
【数26】

【0077】
【数27】

【0078】
そして、絶対位置検出後にカウンタ40にmの値をセットし、記憶部50に位置xと余弦波信号Aがデジタル変換された時刻tとが記憶される。
【0079】
本実施例では、位置の変化量を用いて検出速度uを求めているが、記憶部50に過去の位相を記憶しておき、過去の位相と現在の位相とから位相の変化量を求めて検出速度uを求めてもよい。この場合はカウンタ40および位置検出部71が不要となる。
【0080】
また、本実施例では、周期パターン11のみから検出速度uを求めているが、2つの周期パターン11,12の両方から検出速度を求めてもよい。この場合は、2つの検出速度を平均してより高精度な速度を得ることが可能であり、また2つの検出速度の差が上限値(閾値)を超えた場合に速度検出エラーを検知したりすることも可能となる。
【0081】
また、本実施例では、2組の2相信号から絶対位置を求める場合について説明したが、3相以上の信号から絶対位置を求めてもよい。この場合は、アブソリュートエンコーダの信頼性を高め、アライメントの許容範囲やエンコーダの位置検出範囲を拡大することが可能となる。
【0082】
さらに、本実施例では、周期パターンが設けられたスケールを可動部材(又は固定された部材)に取り付ける場合について説明したが、可動部材とは別部材としてのスケールを用いずに、可動部材に周期パターンが直接形成されていてもよい。この場合、可動部材自体がスケールに相当する。
【0083】
さらに、上記各実施例では、反射部と非反射部が交互に設けられた周期パターンからの反射光を用いる光学式エンコーダについて説明したが、本発明は、透過部と非透過部が交互に設けられた周期パターンからの透過光を用いる光学式エンコーダに適用できる。さらに、本発明は、磁気スケールと磁気センサとにより構成される磁気式エンコーダにも適用することができる。
【実施例4】
【0084】
図5には、上述した実施例1で説明したエンコーダを搭載した装置の一例として、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置(光学機器)を示している。この撮像装置では、エンコーダをレンズ鏡筒内での可動レンズの位置を検出するために用いている。なお、実施例1のエンコーダに代えて、実施例2,3のエンコーダを用いることもできる。
【0085】
図5において、10はスケール、20はセンサであり、A/Dコンバータ30、カウンタ40、記憶部50、位相検出部60、位相補正部70および位置検出部80はセンサ20と一体化して図示している。
【0086】
スケール10は、レンズ鏡筒内において光軸回りで回転する円筒形状の可動部材としてのカム環500の内周面に取り付けられている。カム環500は、不図示のアクチュエータによって回転駆動される。
【0087】
レンズ鏡筒内には、撮影光学系510が収容されている。撮影光学系510は、カム環500が回転することで、該カム環500に形成されたカムによって光軸方向に移動可能な可動レンズ(例えば、変倍レンズやフォーカスレンズ)520を含む。
【0088】
550は撮像装置のシステム全体を制御するCPUである。560は撮影光学系510により形成された被写体像を光電変換するイメージセンサ(撮像素子)であり、CCDセンサやCMOSセンサ等の光電変換素子により構成されている。
【0089】
可動レンズ520を移動させるためにカム環500が回転すると、エンコーダによりカム環500の回転位置(つまりは可動レンズ520の光軸方向での位置)が検出され、その情報がCPU550に出力される。
【0090】
CPU550は、その位置情報に基づいてカム環500を回転させるアクチュエータを駆動し、可動レンズ520を目標とする位置に移動させる。
【0091】
本発明のエンコーダは、上述した撮像装置に限らず、プリンタ(光学機器)における印字ヘッドや給紙ローラの位置検出、複写機(光学機器)の感光ドラムの回転位置検出をはじめ、ロボットアームの位置検出等、様々な装置に適用することができる。
【0092】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
信号処理の負荷を低減しつつ、高精度な位置検出が可能なエンコーダを提供できる。
【符号の説明】
【0094】
10 スケール
11,12 周期パターン
20 センサ
30 A/Dコンバータ
60 位相検出部
70 位相補正部
80 位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期パターンが設けられたスケールと、
該スケールとの相対移動が可能であり、前記周期パターンを読み取って、それぞれ前記周期パターンに応じた変化周期を有し、かつ互いに位相が異なる複数のアナログ信号を出力するセンサと、
該センサから出力された複数のアナログ信号を時分割でアナログ−デジタル変換して複数のデジタル信号を生成するA/D変換部と、
前記複数のデジタル信号から前記位相を検出する位相検出部と、
前記スケールと前記センサとの相対移動速度と前記位相検出部により検出された前記位相とを用いて補正値を算出し、該補正値と前記位相検出部により検出された前記位相とから補正位相を算出する補正部と、
該補正位相を用いて、前記スケールと前記センサとの相対移動方向での位置を求める位置検出部とを有することを特徴とするエンコーダ。
【請求項2】
前記補正部は、前記相対移動速度を0として初期の前記補正値を生成することを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記位相検出部により互いに異なる時刻に検出された前記位相を用いて前記相対移動速度を求める速度検出部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のエンコーダ
【請求項4】
前記速度検出部は、前記補正値が同じとなる複数の前記位相を用いて前記相対移動速度を求めることを特徴とする請求項3に記載のエンコーダ。
【請求項5】
前記速度検出部は、前記検出部から出力された前記複数のアナログ信号がアナログ‐デジタル変換されるときの時刻差をΔTとし、前記位相検出部により検出される前記位相をθとするとき、
ΔT(cos2θ−1)
が同じ値となる前記複数の位相を用いて前記相対移動速度を求めることを特徴とする請求項4に記載のエンコーダ。
【請求項6】
前記検出部から出力される前記複数のアナログ信号の周期をPとし、該複数のアナログ信号がアナログ‐デジタル変換されるときの時刻差をΔTとし、前記位相検出部により検出された前記位相をθとし、前記相対移動速度をuとし、前記補正値をsとするとき、
前記補正値sを、
s=(πuΔT/P)・(cos2θ−1)
として算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のエンコーダ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のエンコーダと、
該エンコーダを用いて位置が検出される可動部材とを有することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88152(P2013−88152A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226417(P2011−226417)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】