説明

エンジンの制御装置

【課題】燃焼室内の燃焼特性を向上することができ且つマップを記憶する記憶部(メモリ)の容量増大を抑えたエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの燃焼室内の燃焼状態に影響を与えるパラメータ値が混合燃料のアルコール濃度に応じて規定された設定マップが記憶された記憶部と、混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度検出手段と、設定マップを適宜参照して、濃度検出手段が検出したアルコール濃度に応じて所定のパラメータ値を設定するパラメータ値設定手段と、を具備すると共に、記憶部には、設定マップの一つとして燃料噴射弁から噴射された混合燃料の前記燃焼室内への輸送遅れを補正するための補正係数を規定する輸送遅れ補正マップが記憶されており、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、低濃度側が高濃度側よりも細分化されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールが混合された混合燃料を使用可能なエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジンの一つとして、例えば、各気筒の燃焼室に繋がる吸気管(吸気ポート)内に燃料噴射弁によって燃料を噴射し、燃料(ガソリン)と吸気(空気)とが混合された混合気を燃焼室に供給するタイプのエンジン(いわゆる吸気管噴射型のエンジン)が知られている。
【0003】
このような吸気管噴射型のエンジンでは、燃料噴射弁によって噴射された燃料が吸気管の内壁、或いは吸気弁の弁傘部に付着してしまう。このように吸気管の内壁等に付着した燃料は、蒸発することで遅れて燃焼室内に供給される。このため、加速時、減速時等の過渡運転時には、燃焼室内に輸送される燃料に不足又は過剰が発生し、失火や空燃比変動、排ガス性能の悪化等を招来する虞がある。つまり、過渡運転時には、燃焼室内の燃焼特性が低下してしまう虞がある。
【0004】
このような問題を解消するために、例えば、吸気管及び吸気弁の温度を考慮した燃料の蒸発率に基づいて、燃料噴射弁による燃料噴射量を適宜補正するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特許3552255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車等の車両用のエンジンには、一般的に、燃料としてガソリンが使用されているが、アルコールが混合された混合燃料を使用することもできる。例えば、アルコールを任意の割合で(0%〜100%)混合した混合燃料を使用可能なエンジンを搭載した車両(FFV:Flexible Fuel Viehicle)が知られている。このようなFFV車用のエンジンにおいても、上述したような燃料の輸送遅れは生じるため、過渡運転時には燃料噴射量を適宜補正する必要がある。
【0007】
ここでガソリンの蒸発率は、低温から高温まで比較的コンスタントに増加する。これに対し、アルコールの蒸発率は、アルコールの沸点に達するまでほとんど増加せず、沸点を超えると著しく増加する傾向にある。このようにガソリン及びアルコールは、温度変化に伴う蒸発率の変化が全く違う。このため、混合燃料の蒸発率は、温度によっても変化するが、混合燃料のアルコール濃度によって大きく変化する。
【0008】
FFV用のエンジンで使用される混合燃料のアルコール濃度は、常に一定というわけではない。給油する混合燃料のアルコール濃度や給油量に応じて、エンジンで使用される混合燃料のアルコール濃度は変化する。
【0009】
このため、上述したような燃料の輸送遅れに伴って燃料噴射量を補正する場合にも、エンジン(吸気管や吸気弁)の温度と共に、混合燃料のアルコール濃度を適宜検出し、エンジンの温度及び混合燃料のアルコール濃度に応じて、燃料噴射量を適宜補正する必要がある。また上述したように混合燃料の蒸発率はアルコール濃度によって変化し、アルコール濃度によっては蒸発率の変化が比較的大きくなる。このため、燃料噴射量を補正する際には、アルコール濃度を可及的に細分化し、細分化した各アルコール濃度に応じて燃料噴射量を設定することが好ましい。
【0010】
ただし、このような燃料噴射量の補正は、一般的に、記憶部(メモリ)に予め記憶されている所定のマップを参照して行われるため、アルコール濃度をあまり細分化し過ぎると、記憶部(メモリ)の容量が増大しコストアップしてしまう虞がある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、燃焼室内の燃焼特性を向上することができ且つマップを記憶する記憶部(メモリ)の容量増大を抑えたエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、燃焼室に連通する吸気ポート内にアルコールが混合された混合燃料を噴射可能な燃料噴射弁を具備するエンジンの制御装置であって、前記エンジンの前記燃焼室内の燃焼状態に影響を与えるパラメータ値が前記混合燃料のアルコール濃度に応じて規定された設定マップが記憶された記憶部と、前記混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度検出手段と、前記設定マップを適宜参照して、前記濃度検出手段が検出したアルコール濃度に応じて所定の前記パラメータ値を設定するパラメータ値設定手段と、を具備すると共に、前記記憶部には、前記設定マップの一つとして前記燃料噴射弁から噴射された前記混合燃料の前記燃焼室内への輸送遅れを補正するための補正係数を規定する輸送遅れ補正マップが記憶されており、該輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、低濃度側が高濃度側よりも細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0013】
かかる第1の態様では、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸が、混合燃料の蒸発性の変動が大きいアルコール濃度低濃度側で細分化されているため、燃料噴射量を精密に制御して燃焼室内の燃焼特性を常に良好に維持することができる。また輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することなく、低濃度側のみを細分化するようにしたので、記憶部(メモリ)の容量の増大が抑えられる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様のエンジンの制御装置において、前記記憶部には、前記設定マップの一つとして、前記エンジンの暖機時における前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための補正係数を規定する暖機時燃料補正マップが記憶されており、前記輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、前記暖機時燃料補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸よりも、低濃度側が細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0015】
かかる第2の態様では、燃料噴射量を精密に制御してエンジンを良好に始動させることができると共に、記憶部(メモリ)の容量の増大がより確実に抑えられる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様のエンジンの制御装置において、前記記憶部には、前記設定マップの一つとしてエンジン始動時の前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を規定した始動時燃料マップが記憶されており、該始動時燃料マップのアルコール濃度のマップ軸は、高濃度側が低濃度側よりも細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0017】
かかる第3の態様では、始動時燃料マップのアルコール濃度のマップ軸が、アルコール濃度の変化に伴う着火性の変動が大きいアルコール濃度高濃度側で細分化されているため、燃料噴射量を精密に制御してエンジンを良好に始動させることができる。つまり、混合燃料のアルコール濃度に拘わらず、燃焼室内の燃焼特性を良好に維持することができる。また始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することなく、高濃度側のみを細分化するようにしたので、記憶部(メモリ)の容量の増大が抑えられる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れか一つの態様のエンジンの制御装置において、前記エンジンの水温を検出する水温検出手段をさらに具備すると共に、前記設定マップには、前記混合燃料のアルコール濃度及び前記エンジンの水温に応じて前記パラメータ値が規定されており、前記パラメータ値設定手段が、前記設定マップを参照して、前記濃度検出手段が検出した前記混合燃料のアルコール濃度及び前記水温検出手段が検出した前記エンジンの水温に応じて前記パラメータ値を設定することを特徴とするエンジンの制御装置にある。
【0019】
かかる第4の態様では、設定マップに基づいてパラメータ値をより精密に設定することができる。
【発明の効果】
【0020】
かかる本発明では、各設定マップに基づいて、燃焼室内の燃焼特性に影響を与える各種パラメータ値を適切に設定することができる。特に、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸を、アルコール濃度低濃度側で細分化するようにしたので、燃料噴射量を精密に制御して燃焼室内の燃焼特性を常に良好に維持することができる。また始動時燃料マップ等におけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することなく、一部のみを細分化するようにしたので、記憶部(メモリ)の容量増大を抑えてコストアップを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。以下、アルコールを混合した混合燃料を使用可能なエンジンとその制御装置とを含むエンジンシステムを例示して本発明を説明する。図1は、本発明に係る制御装置を含むエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【0022】
図1に示すエンジン11は、FFVに搭載される、いわゆる吸気管噴射型(Multi Point Injection)のエンジンであり、シリンダヘッド12とシリンダブロック13とを有している。シリンダブロック13の各シリンダ14内には、ピストン15が往復運動可能なように収容されている。このピストン15とシリンダ14とシリンダヘッド12とで燃焼室16が形成されている。ピストン15は、コンロッド17を介してクランクシャフト18に接続されている。ピストン15の往復運動は、コンロッド17を介してクランクシャフト18に伝達される。
【0023】
シリンダヘッド12には吸気ポート19が形成されている。この吸気ポート19には吸気マニホールド20が接続されている。吸気ポート19には吸気弁22が設けられており、この吸気弁22によって燃焼室16と吸気ポート19が連通・遮断されるようになっている。吸気マニホールド20には、例えば、電磁式の燃料噴射弁23が吸気ポート19内に混合燃料を噴射可能に設けられている。この燃料噴射弁23には、図示しないが、燃料パイプ及び燃料ポンプを介して燃料タンクを擁した燃料供給装置が接続されている。
【0024】
シリンダヘッド12には、さらに排気ポート24が形成されている。この排気ポート24には排気マニホールド25の一端が接続され、排気マニホールド25の他端には排気管26が接続されている。なお、排気ポート24には排気弁27が設けられており、吸気ポート19における吸気弁22と同様、燃焼室16と排気ポート24はこの排気弁27によって連通・遮断されるようになっている。
【0025】
シリンダヘッド12には、各気筒毎に点火プラグ28が取り付けられている。各点火プラグ28には、高電圧を出力する点火コイル29が接続されている。吸気マニホールド20の上流側には、吸気量を調整するスロットルバルブ31が設けられており、併せてスロットルバルブ31の開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)32が設けられている。なおスロットルバルブ31は、アクセルペダルの操作に連動して開度が調整される。スロットルバルブ31の上流には、吸気量を計測するエアフローセンサ33が介装されている。エアフローセンサ33としては、例えばカルマン渦流式やホットフィルム式のエアフローセンサが使用される。
【0026】
排気マニホールド25に接続された排気管26には、排気浄化用触媒である三元触媒34が介装されている。三元触媒34の上流側には、触媒通過前の排ガス中の酸素濃度、つまり排気空燃比を検出する排気空燃比検出手段であるOセンサ35が設けられている。このOセンサ35で検出された排気空燃比に基づいて、例えば、混合燃料のアルコール濃度が検出(推定)され(濃度検出手段)、詳しくは後述するが、検出された混合燃料のアルコール濃度に応じて、燃料噴射弁23からの燃料噴射量等の各種パラメータ値が設定されるようになっている(パラメータ値設定手段)。
【0027】
ECU(電子コントロールユニット)36は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU36によって、エンジン11の総合的な制御が行われる。ECU36の入力側には、上述したスロットルポジションセンサ32、エアフローセンサ33、Oセンサ35の他、エンジン11のクランク角を検出するクランク角センサ40、アクセルペダル41の操作開度を検出するアクセルポジションセンサ42、エンジン11の冷却水温を検出する(温度状態を検出する)水温センサ(水温検出手段)43等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。
【0028】
一方、ECU36の出力側には、上述の燃料噴射弁23、点火コイル29、スロットルバルブ31等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、ECU36で各種センサ類からの検出情報から演算された燃料噴射時間、点火時期、スロットル開度等のパラメータ値が出力されて、燃焼室16内の燃焼状態が制御されている。
【0029】
つまり、エンジン11の制御装置10は、このようなECU36と上記各種センサとで構成され、各種センサ類からの検出情報に基づき各種パラメータ値を設定し、このパラメータ値に基づいて燃焼室16内の燃焼状態を最適に制御している。具体的には、以下に説明するように、例えば、運転状態等に応じてパラメータ値として燃料噴射弁23による燃料噴射量を適宜設定することで、燃焼室16内の燃焼状態を良好に維持している。
【0030】
ここで、混合燃料に含まれるアルコールは、ガソリンに比べてエネルギー密度が2/3程度であるため、燃料噴射量が同一であっても混合燃料のアルコール濃度に応じて空燃比が変化する。また、燃料性状は、エンジン11の水温(温度)によっても変化する。したがって、アルコールが混合された混合燃料を使用する場合、燃料噴射量は、混合燃料のアルコール濃度及びエンジン11の水温に応じて適宜補正する必要がある。
【0031】
ところで、このように混合燃料のアルコール濃度等に応じて燃料噴射量を適宜補正したとしても、例えば、加速時、減速時等の過渡運転時には、燃焼室16内に輸送される燃料に不足又は過剰が発生し、燃焼特性の低下、例えば、失火や空燃比変動、排ガス性能の悪化等を招来する虞がある。これは、燃料噴射弁23から噴射された混合燃料の一部が吸気ポート21の内壁や吸気弁22等に付着することによって、いわゆる混合燃料の輸送遅れが生じるためである。
【0032】
そこで本発明では、以下に説明するように、過渡運転時等に所定の設定マップ(輸送遅れ補正マップ)を参照して燃料噴射量を設定することで、過渡運転時であっても燃焼室16内の燃焼特性を良好に維持させている。
【0033】
ECU36は、例えば、図2に示すように、混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度検出手段44と、燃焼室16内の燃焼状態に影響を与える各種パラメータ値を設定するパラメータ値設定手段45と、各種データが記憶される記憶部(記憶装置)46とを具備する。
【0034】
濃度検出手段44は、例えば、排気空燃比検出手段であるOセンサ35の検出情報に基づいて、混合燃料のアルコール濃度を適宜検出(推定)する。なお混合燃料のアルコール濃度は、このように排気空燃比等から検出(推定)するようにしてもよいが、例えば、燃料タンク内に配したアルコールセンサ等で直接検出するようにしてもよい。
【0035】
パラメータ値設定手段45は、記憶部46に記憶されている設定マップを参照して、エンジンの運転状態等に基づいて燃焼室16内の燃焼状態に影響を与えるパラメータ値を設定する。パラメータ値設定手段45は、エンジン11の運転状態等に応じて各種パラメータ値を設定するが、その一つとして、例えば、燃料噴射弁23による燃料噴射量を適宜設定している。
【0036】
ECU36の記憶部46には、例えば、パラメータ値設定手段45により燃料噴射量を設定する際に参照する複数の設定マップが記憶されている。記憶部46に記憶されている設定マップとして、例えば、図3に示すように、燃料噴射弁23から噴射された混合燃料の燃焼室16内への輸送遅れを補正するための補正係数を規定する輸送遅れ補正マップ、エンジン暖機時における燃料噴射弁23による燃料噴射量を補正するための補正係数を規定する暖機時燃料補正マップ、及びエンジン始動時の燃料噴射弁23による燃料噴射量を規定する始動時燃料マップが記憶されている。なお図3では、各設定マップは空欄になっているが、実際には各セルには補正係数又は燃料噴射量がそれぞれ書き込まれている。
【0037】
上述したように、アルコールが混合された混合燃料を使用する場合、燃料噴射量は混合燃料のアルコール濃度及びエンジン11の水温に応じて適宜補正する必要があり、これらの各設定マップには、混合燃料のアルコール濃度とエンジン11の水温とに応じて補正係数又は燃料噴射量がマッピングされている。そしてパラメータ値設定手段45は、濃度検出手段44の検出結果(混合燃料のアルコール濃度)と、水温検出手段である水温センサの検出結果(エンジン11の水温)とに基づいて、これら各設定マップを参照して燃料噴射量を適宜設定する。
【0038】
ちなみに上記暖機時燃料補正マップは、エンジン11を始動後、暖機する際に用いられる。エンジンの温度が低い(冷機状態の)場合、例えば、混合燃料の蒸発が不十分で燃焼不良(失火)が生じたり、有害排出ガス成分が増加することがある。このため、エンジン11を始動後、エンジン11の水温が所定温度になるまでは、暖機時補正マップに基づいて燃料噴射量を増量させる補正(いわゆる暖機時補正)が行われる。
【0039】
始動時燃料補正マップは、エンジンを始動するときに用いられる。エンジン11の始動性は、着火性が大きく影響するため、運転時よりも混合燃料を多めに噴射している。また着火性は、混合燃料のアルコール濃度によって大きく変化するため、混合燃料のアルコール濃度に応じて増加量を適宜調整している。
【0040】
なお本実施形態では、エンジン始動後に参照される始動後設定マップである暖機時燃料補正マップ及び輸送遅れ補正マップには、パラメータ値として補正係数が規定され、エンジン始動時に参照される始動時燃料マップには、パラメータ値として燃料噴射量自体が規定されている。これらのパラメータ値は、燃料噴射弁23の制御方法に対応したものであればよく、例えば、始動時燃料マップには補正係数が規定されていてもよいし、始動後設定マップに燃料噴射量自体が規定されていてもよい。
【0041】
このような各設定マップのうち、暖機時燃料補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、全体に亘って略均一な間隔で設定されている。例えば、図3(a)に示すように、アルコール濃度0%から100%まで10%刻みで均等に設定されている。
【0042】
これに対し、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、高濃度側よりも低濃度側が細分化されている。例えば、図3(b)に示すように、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、アルコール濃度30%から100%までの高濃度側では、暖機時補正マップと同様に10%刻みとなっているが、アルコール濃度0%から30%までの低濃度側では5%刻みと、高濃度側よりも細かく設定されている。また本実施形態では、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、高濃度側では、暖機時燃料補正マップと同様に設定されているが、低濃度側では暖機時燃料補正マップよりも細分化されている。
【0043】
このように輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸が細分化されていることで、過渡運転時などに混合燃料の輸送遅れを高精度に補正して、燃焼室16内の燃焼特性を良好に維持することができる。また輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することなく、低濃度側のみを細分化するようにしたので、記憶部(メモリ)の容量の増大を抑えることができる。
【0044】
混合燃料の輸送遅れは、混合燃料の蒸発率(蒸発し易さ)が大きく影響する。混合燃料のアルコール濃度が低い(ガソリン濃度が高い)場合には、混合燃料の蒸発率が比較的高い。特に、混合燃料のアルコール濃度が10〜20%程度である場合、いわゆる共沸現象により混合燃料の蒸発率はガソリン100%の燃料の蒸発率よりも高くなる。このため、アルコール濃度の変化に伴う混合燃料の蒸発率の変動も大きくなってしまう。しかしながら、アルコール濃度のマップ軸が細分化されているため、混合燃料の輸送遅れを高精度に補正して燃焼室16内の燃焼特性を良好に維持することができる。一方、混合燃料のアルコール濃度が高い(ガソリン濃度が低い)場合には、混合燃料の蒸発率は低く、アルコール濃度の変化に伴う蒸発率の変動も小さいため、アルコール濃度のマップ軸の設定間隔が比較的広くても燃焼室16内の燃焼特性を良好に維持することができる。
【0045】
勿論、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することによっても、燃焼室16内の燃焼特性は良好に維持することはできるが、記憶部(メモリ)の容量が増大してしまい、コストアップしてしまうため好ましくない。つまり本発明は、記憶部46の容量増大に伴うコストアップを抑えつつ、燃焼室16内の燃焼特性を向上することができるという効果を奏するものである。
【0046】
さらに本実施形態では、始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、輸送遅れ燃料マップとは逆に、高濃度側が低濃度側よりも細分化されている。例えば、図3(c)に示すように、アルコール濃度0%から40%までの低濃度側では10%刻みとなっているのに対し、アルコール濃度40%から100%までの高濃度側では5%刻みと低濃度側よりも細かく設定されている。特に本実施形態では、始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、低濃度側では、暖機時燃料補正マップと同様に設定されているが、高濃度側では暖機時燃料補正マップよりも細分化されている。
【0047】
このように始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸が細分化されていることで、エンジン始動時の燃料噴射量を、混合燃料のアルコール濃度に応じて精密に制御して、エンジンの始動性を向上することができる。つまり燃焼室16内の燃焼特性を良好に維持することができる。また始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することなく、高濃度側のみを細分化するようにしたので、記憶部(メモリ)の容量の増大を抑えることができる。
【0048】
混合燃料のアルコール濃度が高い場合、アルコール濃度の変化に伴う着火性の変動が大きいが、マップ軸が細分化されているため、燃料噴射量を精密に制御してエンジン11を良好に始動させることができる。一方、混合燃料のアルコール濃度が低い(ガソリン濃度が高い)場合には、燃焼室16に十分な量のガソリンが供給されるためアルコール濃度の変化に伴う着火性の変動は小さいため、アルコール濃度のマップ軸の設定間隔が比較的広くてもエンジン11の始動性は良好に維持される。
【0049】
なお始動時燃料マップにおけるアルコール濃度のマップ軸全体を細分化することによっても、エンジン11の始動性は向上することはできるが、記憶部(メモリ)の容量が増大してしまい、コストアップしてしまうため好ましくない。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論本発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、図3で例示した各設定マップは一例に過ぎず、アルコール濃度のマップ軸の設定間隔は、特に限定されるものではない。また例えば、アルコール濃度のマップ軸を細分化する境界も、特に限定されず、エンジン11の始動性、燃焼特性等に応じて適宜決定されればよい。
【0051】
また上述の実施形態では、輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、暖機時補正マップよりも、低濃度側が細分化されているが、これに限定されず、必ずしも暖機時補正マップよりも高濃度側が細分化されている必要はない。輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、例えば、点火時期を補正するための点火時期補正マップやオープンループ制御時の当量比を決定する目標当量比マップ等の他のマップよりも、低濃度側が細分化されていてもよい。さらに、必ずしも他のマップと比較して、低濃度側が細分化されている必要はなく、同一マップ内で、低濃度側が高濃度側よりも細分化されていればよい。さらに本実施形態では、輸送遅れ補正マップ及び始動時燃料マップについて、アルコール濃度のマップ軸の一部を細分化するようにしたが、少なくとも輸送遅れ補正マップについてアルコール濃度のマップ軸の低濃度側が細分化されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】一実施形態に係る制御装置を含むエンジンシステムの概略構成図である。
【図2】本発明の制御装置の概略を示す機能ブロック図である。
【図3】各種設定マップの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 制御装置
11 エンジン
12 シリンダヘッド
13 シリンダブロック
14 シリンダ
15 ピストン
16 燃焼室
17 コンロッド
18 クランクシャフト
19 吸気ポート
20 吸気マニホールド
22 吸気弁
23 燃料噴射弁
24 排気ポート
25 排気マニホールド
26 排気管
27 排気弁
28 点火プラグ
29 点火コイル
31 スロットルバルブ
32 スロットルポジションセンサ
33 エアフローセンサ
34 三元触媒
35 Oセンサ
36 ECU
40 クランク角センサ
41 アクセルペダル
42 アクセルポジションセンサ
43 水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に連通する吸気ポート内にアルコールが混合された混合燃料を噴射可能な燃料噴射弁を具備するエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの前記燃焼室内の燃焼状態に影響を与えるパラメータ値が前記混合燃料のアルコール濃度に応じて規定された設定マップが記憶された記憶部と、
前記混合燃料のアルコール濃度を検出する濃度検出手段と、
前記設定マップを適宜参照して、前記濃度検出手段が検出したアルコール濃度に応じて所定の前記パラメータ値を設定するパラメータ値設定手段と、を具備すると共に、
前記記憶部には、前記設定マップの一つとして前記燃料噴射弁から噴射された前記混合燃料の前記燃焼室内への輸送遅れを補正するための補正係数を規定する輸送遅れ補正マップが記憶されており、該輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、低濃度側が高濃度側よりも細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記記憶部には、前記設定マップの一つとして、前記エンジンの暖機時における前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正するための補正係数を規定する暖機時燃料補正マップが記憶されており、
前記輸送遅れ補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸は、前記暖機時燃料補正マップにおけるアルコール濃度のマップ軸よりも、低濃度側が細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンの制御装置において、
前記記憶部には、前記設定マップの一つとしてエンジン始動時の前記燃料噴射弁からの燃料噴射量を規定した始動時燃料マップが記憶されており、該始動時燃料マップのアルコール濃度のマップ軸は、高濃度側が低濃度側よりも細分化されていることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンの水温を検出する水温検出手段をさらに具備すると共に、前記設定マップには、前記混合燃料のアルコール濃度及び前記エンジンの水温に応じて前記パラメータ値が規定されており、
前記パラメータ値設定手段が、前記設定マップを参照して、前記濃度検出手段が検出した前記混合燃料のアルコール濃度及び前記水温検出手段が検出した前記エンジンの水温に応じて前記パラメータ値を設定することを特徴とするエンジンの制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−191806(P2009−191806A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35234(P2008−35234)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】