説明

エンジンの制御装置

【課題】各気筒群の燃焼状態が揃った状態での可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出し、運転状態に左右されることなく各気筒群の燃焼状態のズレを補正可能とする。
【解決手段】バルブオーバラップを無くしたときのノック点火時期ADV1と、右バンクの吸気バルブタイミングを設定量進角させたときのノック点火時期ADV2とを比較し(S7)、ADV1>ADV2の場合、右バンクの吸気バルブタイミングを遅角させながら点火時期の変化を監視し(S8〜S11)、ADV1≦ADV2の場合、右バンクの吸気バルブタイミングを進角させながら点火時期の変化を監視する(S13〜S16)ことで、左右バンクの吸気カム角の位相差を記録する。同様の処理を排気バルブタイミングに関しても行い、左右バンクの排気カム角の位相差を記録する。これにより、運転状態に左右されることなく各バンクの燃焼状態のズレを補正可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気弁のバルブタイミングを可変する吸気側の可変バルブタイミング機構と排気弁のバルブタイミングを可変する排気側の可変バルブタイミング機構とを気筒群毎に備えるエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンのクランク軸とカム軸との間の回転位相を可変する可変バルブタイミング機構システムを備えたエンジンが実用化されている。この可変バルブタイミング機構は、エンジン運転状態に応じて吸気弁と排気弁との少なくとも一方のバルブタイミングを連続的に変更するものであるが、V型エンジンや水平対向エンジン等のように複数の気筒群(バンク)を有するエンジンでは、各気筒群毎に、吸気側の可変バルブタイミング機構と排気側の可変バルブタイミング機構とを備えることで、バルブタイミングをより精密に制御し、燃費向上や排気エミッションの向上を図るものが知られている。
【0003】
このようなエンジンでは、各バンクの実圧縮比のバラツキや、各バンクの動弁系部品の寸法誤差等によるバルブタイミングの相違から生じる空気量のバラツキにより、エンジンの燃焼状態が変動する虞がある。このため、従来から、可変バルブタイミング機構を動かしてV型エンジンのバンク毎の圧縮比バラツキや空気量バラツキを揃える技術が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、タイミングベルト又はチェーンの経時変化による形状変化量を検出し、この形状変化量に基づいてバルブタイミング可変機構の制御量を補正することで、各バンクの間におけるバルブタイミングのズレを補正する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、各バンクの吸気管の圧力が等しくなるようにバルブタイミング機構の制御量を補正することで、バンク間の燃焼状態を等しくする技術が開示されている。
【0006】
更に、特許文献3には、各バンク毎のノッキング検出結果に基づいて各バンクにおけるバルブタイミングに係る制御量を算出し、両バンクの制御量を比較してバルブタイミング機構の制御量を補正することで、バンク間の実圧縮比のズレによる燃焼状態のズレを補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−136404号公報
【特許文献2】特開平6−229212号公報
【特許文献3】特開平10−141097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、或る運転状態(エンジン負荷、回転数等)で可変バルブタイミング機構を運転した結果に基づいて各バンクの燃焼状態を揃えるだけであり、回転数や負荷等、燃焼状態が変化すると、その都度、可変バルブタイミング機構を運転し直して各バンクの燃焼状態を揃える必要があり、その調整のための工数が大となる。更には、従来の技術による燃焼状態の揃え方では、非ノック域の燃焼状態を揃えることは困難である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、各気筒群の燃焼状態が揃った状態での可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出し、運転状態に左右されることなく各気筒群の燃焼状態のズレを補正可能とすることのできるエンジンの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によるエンジンの制御装置は、エンジンの気筒群毎に、吸気弁のバルブタイミングを可変する吸気側の可変バルブタイミング機構と排気弁のバルブタイミングを可変する排気側の可変バルブタイミング機構とを備えるエンジンの制御装置であって、上記吸気弁と上記排気弁とのバルブオーバラップを無くした状態で、同一点火時期におけるエンジンの不正燃焼の発生を基準にして上記気筒群毎の吸気側の可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出する吸気位相差検出部と、上記吸気弁と上記排気弁とのバルブオーバラップを所定量以上に設定した状態で、同一点火時期におけるエンジンの不正燃焼の発生を基準にして上記気筒群毎の排気側の可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出する排気位相差検出部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各気筒群の燃焼状態が揃った状態での可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出することで、運転状態に左右されることなく各気筒群の燃焼状態のズレを補正可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】可変バルブタイミング機構付エンジンの全体構成図
【図2】左右バンクの可変バルブタイミング機構に対する位相差検出制御のフローチャート
【図3】左右バンクの可変バルブタイミング機構に対する位相差検出制御のフローチャート(続き)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、可変バルブタイミング機構付きエンジン(以下、単に「エンジン」と略記する)である。図1においては、エンジン1は、シリンダブロック1aがクランク軸1bを中心として左右2つのバンク(図の右側が左バンク、左側が右バンク)の気筒群に分割される水平対向型エンジンを示している。
【0014】
先ず、エンジン1の吸排気系について説明する。エンジン1のシリンダブロック1aの左右両バンクには、シリンダヘッド2がそれぞれ設けられている。シリンダヘッド2の各吸気ポートには、インテークマニホルド3が連通され、このインテークマニホルド3の各気筒の吸気ポート直上流に、インジェクタ11が配設されている。尚、シリンダヘッド2の各気筒毎には、放電電極を燃焼室に露呈する点火プラグ12が配設されている。
【0015】
インテークマニホルド3は、各気筒の吸気通路が集合するエアチャンバ4を介してスロットルチャンバ5に連通されている。スロットルチャンバ5には、スロットルアクチュエータ10によって駆動されるスロットルバルブ5aが介装されている。更に、スロットルチャンバ5の上流には、吸気管6を介してエアクリーナ7が取付けられ、このエアクリーナ7に接続されるエアインテーク通路にチャンバ8が連通されている。
【0016】
一方、シリンダヘッド2の各排気ポートには、エキゾーストマニホルド14が連通され、このエキゾーストマニホルド14の集合部に排気管15が連通されている。排気管15には触媒コンバータ16が介装され、マフラ17に連通されている。
【0017】
次に、エンジン1の動弁系について説明する。エンジン1の左右バンクの各シリンダヘッド2内には、それぞれ吸気カム軸19、排気カム軸20が配設され、各カム軸19,20にクランク軸1bの回転が伝達される。このクランク軸1bの吸気カム軸19、排気カム軸20への回転の伝達は、クランク軸1bに固設されたクランクプーリ21、タイミングベルト22、吸気カム軸19に介装された吸気カムプーリ23、排気カム軸20に固設された排気カムプーリ24等を介して行われる。そして、吸気カム軸19に設けられた吸気カム、及び排気カム軸20に設けられた排気カムにより、それぞれクランク軸1bと2対1の回転角度に維持される各カム軸19,20の回転に基づいて、吸気弁25、排気弁26が開閉駆動される。
【0018】
また、左右バンクの各動弁系には、吸気カム軸19のクランク軸1bに対する回転位相(変位角)を連続的に変更する可変バルブタイミング機構27inと、排気カム軸20のクランク軸1bに対する回転位相を連続的に変更する可変バルブタイミング機構27exとが設けられている。吸気側の可変バルブタイミング機構27inは、吸気カム軸19と吸気カムプーリ23との間に設けられ、吸気カムプーリ23と吸気カム軸19とを相対回転させる。一方、排気側の可変バルブタイミング機構27exは、排気カム軸20と排気カムプーリ24との間に設けられ、排気カムプーリ24と排気カム軸20とを相対回転させる。
【0019】
これらの可変バルブタイミング機構27in,27exは、例えば、周知の油圧駆動式バルブタイミング機構により構成されている。吸気側の可変バルブタイミング機構27inで代表して説明すると、可変バルブタイミング機構27inは、吸気カムプーリ23に連結されるハウジング内に、吸気カム軸19に連結されるベーン体を収納して構成され、このベーン体を油圧によって相対回転させることで、吸気カムプーリ23に対する吸気カム軸19の相対回転位相を変更する。排気側の可変バルブタイミング機構27exも同様である。
【0020】
また、可変バルブタイミング機構27in,27exには、オイルパン1cから図示しないオイルポンプを介して供給される作動油圧を調整してカム角を制御するためのカム角制御弁28in,28exがそれぞれ備えられている。カム角制御弁28in,28exは、例えば電磁スプール弁等からなり、マイクロコンピュータ等からなる電子制御装置(以下、「ECU」と略記する)50によってデューティ制御され、可変バルブタイミング機構27in,27exの油圧室(ハウジング内にベーン体によって区画・形成される油圧室)に供給する油圧の大きさを調整する。
【0021】
すなわち、デューティ制御による通電電流に比例してカム角制御弁28in,28exのスプールが軸方向に移動すると、可変バルブタイミング機構27in,27exの進角室(進角作動の油圧室)、遅角室(遅角作動の油圧室)に連通する各ポートが切換えられ、オイルの流れ方向が切換えられると共にパッセージの開度が調整される。その結果、可変バルブタイミング機構27in,27exの進角室、遅角室に供給する油圧の大きさが調整され、吸気弁25や排気弁26の開閉タイミングが進角或いは遅角側に制御される。
【0022】
次に、エンジン1の状態を検出するためのセンサ類について説明する。スロットルチャンバ5のスロットルバルブ5aには、スロットルバルブ5aの開度を検出するスロットルセンサ30が介装され、吸気管6のエアクリーナ7の直下流には、吸入空気量センサ31が介装されている。一方、排気管15の触媒コンバータ16の上下流側には、空燃比センサ32,33がそれぞれ配設されている。
【0023】
また、シリンダブロック1aのクランク軸1bに軸着するクランクロータ34の外周に、クランク角センサ35が対設され、シリンダブロック1aの左右両バンクを連通する冷却水通路36に、水温センサ37が臨まされている。更に、シリンダブロック1aには、左バンク或いは左バンクで発生するノッキングによってシリンダブロック1aに伝わる振動を検出するピエゾ式センサ等からなるノックセンサ38が配設されている。
【0024】
尚、本実施の形態においては、ノッキングの検出は左右バンクで独立しては行わない。これは、シリンダブロック1aの振動を右バンクと左バンクで区別するようにすると、ノッキングの検出タイミングと燃焼タイミングとを比較する等の処理が必要となって煩雑化するためである、従って、点火時期についても左右バンク同時に変更される。
【0025】
また、吸気側の可変バルブタイミング機構27inの作動位置を検出するためのセンサとして、吸気カム軸19の後端に固設されたカムロータ39の外周に、吸気カム位置検出用のカム位置センサ40が対設されている。更に、排気側の可変バルブタイミング機構27exの作動位置を検出するためのセンサとして、排気カム軸20の後端に固設されたカムロータ41の外周に、排気カム位置検出用のカム位置センサ42が対設されている。
【0026】
以上の各センサ類の出力信号は、ECU50に入力されて処理され、エンジン運転状態が検出される。ECU50は、予め内部に格納されている制御プログラムに従って、各センサ類・スイッチ類等からの信号を処理し、前述のインジェクタ11、スロットルアクチュエータ10、吸気側の可変バルブタイミング機構27inのカム角制御弁28in、排気側の可変バルブタイミング機構27exのカム角制御弁28ex等に対する制御量を演算し、燃料噴射制御、点火時期制御、スロットル制御、バルブタイミング制御等のエンジン制御を行う。
【0027】
また、ECU50は、左右バンクの実圧縮比やバルブオーバラップのズレを把握することで、左右バンクの燃焼状態を揃える。そのため、ECU50は、所定の条件下で一方のバンクの可変バルブタイミング機構27in,27exを意図的に操作し、同一点火時期での不正燃焼の発生を基準として各バンクの燃焼状態が揃った状態でのバルブタイミングの位相差を検出することにより、左右バンクの圧縮比のズレやバルブタイミングのズレによる燃焼変動を抑制可能とする。左右バンクの位相差の検出は、吸気側と排気側との双方で行い、基準とする不正燃焼の発生を、ノックセンサ38によるノッキングの検出によって判定する。
【0028】
詳細には、ECU50は、先ず、吸気位相差検出部としての機能により、吸排気のバルブオーバラップを無くした状態で一方のバンクの吸気側の可変バルブタイミング機構27inを制御して吸気弁25のタイミングを所定量ずつ進角或いは遅角させ、そのときのノック限界を調べることにより、左右バンクの「空気量+圧縮比」の違いを把握する。
【0029】
更に、ECU50は、排気位相差検出部としての機能により、一方のバンクの排気側の可変バルブタイミング機構27exを制御してバルブオーバラップを所定値以上に設定し、内部EGR量を変化させる。このとき、他方のバンクとの間にバルブオーバラップ量の違いがあると内部EGR量に違いが生じ、左右バンクでノック限界が異なってくる(内部EGR量の多い方がノック限界が低く、ノックが発生し易い)。
【0030】
すなわち、内部EGR量を意図的に操作する前に、元々内部EGR量を増やそうとした側のバンクでノックが発生していれば、意図的に内部EGRを増加させると、ノックが激しくなる(ノック限界の低下)。逆に、ノック感度が変わらないのであれば、意図的に操作した側のバルブオーバラップ量が他方のバンクに対して少ないことになる。
【0031】
このような現象を利用して、一方のバンクのバルブタイミングを意図的にオーバラップが生じるように設定して内部EGRを増加させ、ノック限界の低下を判断することで、左右バンクのバルブオーバラップ量の差異を明確にすることができる。
【0032】
具体的には、左右バンクのバルブタイミングの相違は、図2,図3のフローチャートに示す左右バンクの可変バルブタイミング機構に対する位相差検出制御のプログラムを実行することで検出される。次に、この位相差検出制御について説明する。
【0033】
図2,図3の位相差検出制御は、アイドリング運転或いは定常走行状態等の運転状態に変化が生じない状態で開始される処理であり、図2は、左右バンクの「空気量+圧縮比」のバラツキに起因する左右バンクの可変バルブタイミング機構によるカム角の位相差を検出するステージ1の処理を示し、続く図3のフローチャートは、左右バンクの可変バルブタイミング機構によるバルブオーバラップ量の相違を検出するためのステージ2の処理を示している。
【0034】
本実施の形態においては、ステージ1の処理は、基本的に右バンクの吸気側の可変バルブタイミング機構27inを対象として制御を行い、吸気弁25のバルブタイミングの左右バンクの相違を検出する。また、ステージ2の処理は、基本的に右バンクの排気側の可変バルブタイミング機構27exを対象として制御を行い、吸排気のバルブオーバラップ量の左右バンクの相違を検出する。
【0035】
この位相差検出制御が開始されると、先ず、ステップS1で、エンジンの運転領域がノッキングの発生する領域(ノック領域)であるかどうかを判定する。ノック領域でない場合には、ステップS2でノック領域となるようにエンジン制御における運転状態の設定を変更した後、ノック領域に入ったか否かを再度判定する。尚、ノック領域へのエンジン制御の変更ができない場合には、本制御による位相差検出は実質的に実行されない。
【0036】
ステップS1においてノッキングの発生する領域である場合、ステップS1からステップS3へ進み、吸気弁25と排気弁26とのバルブオーバラップを無くすように制御する。この吸排気のバルブオーバラップを無くす制御では、右バンクの排気側の可変バルブタイミング機構27exを介して排気弁26の閉弁タイミングを進角させ、バルブオーバラップが発生しない領域となるように設定する。
【0037】
次に、ステップS4へ進み、ノッキングが発生する直前の限界の点火時期(ノック点火時期)ADV1を把握・記録する。尚、点火時期は、本制御とは独立して実行される周知の点火時期制御により、ノックセンサ38の信号からノッキング発生を検出したときに遅角され、ノッキングが生じないときにはノッキングが生じる直前まで進角するよう制御されている。また、ここでの点火時期は、上死点前(BTDC)のクランク角度で示し、その値が大きいほど進角していることを示している。
【0038】
その後、ステップS5へ進んで右バンクの吸気側の可変バルブタイミング機構27inを制御し、吸気弁25のバルブタイミングをノッキングが発生しやすい方向に設定量Δvvtだけ進角する。そして、ステップS6で吸気バルブタイミングを進角した後のノック点火時期ADV2を把握・記録し、ステップS7において、吸気バルブタイミングを進角する前のノック点火時期ADV1と吸気バルブタイミングを進角した後のノック点火時期ADV2とを比較する。
【0039】
ステップS7での点火時期の比較結果、ADV1>ADV2である場合には、ノック点火時期が遅角側に変化している、すなわち右バンクの吸気バルブタイミングの進角により右バンクのノック限界が低下し、右バンクでノッキングが発生しているものとしてステップS8以降へ進む。ステップS8では、ノック点火時期ADV1を右バンクのノック限界調査用の初期値ADVR0として(ADVR0←ADV1)、ステップS9〜ステップS11で右バンクの吸気弁25のタイミングを遅角させながら点火時期の変化を監視する。
【0040】
すなわち、ステップS9で右バンクの吸気弁25のバルブタイミングを設定量Δvvtだけ遅角し、ステップS10で吸気バルブタイミングの遅角に対応して変化する点火時期ADVRi(i=1,2,…)を記録する。次に、ステップS11で、吸気バルブタイミング遅角前の点火時期ADVRi-1と吸気バルブタイミング遅角後の点火時期ADVRiとを比較する。
【0041】
その結果、ADVRi-1≦ADVRiである場合には、吸気バルブタイミングの遅角によって右バンクのノック限界が上がったと判断して、ステップS9へ戻り、吸気バルブタイミングを設定量Δvvtだけ更に遅角する。そして、この吸気バルブタイミングの遅角に対応する点火時期ADVRiを記録し(ステップS10)、再度、点火時期ADVRi-1,ADVRiを比較する(ステップS11)。
【0042】
その後、ステップS11においてADVRi-1>ADVRiとなり、点火時期ADVRiが直前の点火時期ADVRi-1より遅角されたとき、ステップS11からステップS12へ進んで右バンクの吸気バルブタイミングを、最後の遅角量Δvvtだけ戻す(進角させる)。このとき、左右バンクの吸気バルブタイミングが合ったものとして、この状態での左右バンクの吸気カム角の位相差を記録し、ステップS18以降のステージ2の処理へ進む。
【0043】
これは、右バンクの吸気バルブタイミングの遅角により右バンクのノック限界が上がることで、独立して制御されている点火時期制御により点火時期が進角され、この点火時期の進角によりノッキングが発生するような場合、右バンクはノック限界が上がっている筈であることから、ノッキング発生は左バンクであると判断できるためである。
【0044】
一方、ステップS7においてADV1≦ADV2の場合には、右バンクのノック限界が左バンクよりも高く、ノッキング発生は左バンクであるとして、ステップS7からステップS13へ進み、ノック点火時期ADV1を左バンクのノック限界調査用の初期値ADVL0として(ADVL0←ADV1)、ステップS14〜ステップS16で右バンクの吸気弁25のタイミングを進角させながら点火時期の変化を監視する。
【0045】
ステップS14〜S16は、前述したステップS9〜ステップS11の処理に対して、吸気バルブタイミングを進角側に進めることで右バンクのノック限界を下げ、左バンクのノック限界と合わせるための処理である。すなわち、ステップS14で右バンクの吸気弁25のバルブタイミングを設定量Δvvtだけ進角させ、ステップS15で吸気バルブタイミングの進角に対応して変更された点火時期ADVLi(i=1,2,…)を記録する。次に、ステップS16で、吸気バルブタイミング進角前の点火時期ADVLi-1と吸気バルブタイミング進角後の点火時期ADVLiとを比較する。
【0046】
その結果、ADVLi-1≦ADVLiである場合には、右バンクの吸気バルブタイミングを進角させても、未だ右バンクのノック限界が左バンクよりも高いとして、ステップS9へ戻り、吸気バルブタイミングを設定量Δvvtだけ更に進角する。そして、この吸気バルブタイミングの進角に伴って変更された点火時期ADVLiを記録し(ステップS15)、再度、点火時期ADVLi-1,ADVLiを比較する(ステップS16)。
【0047】
その後、ステップS16においてADVLi-1>ADVLiとなり、点火時期ADVLiが直前の点火時期ADVLi-1より遅角されたとき、右バンクのノック限界と左バンクのノック限界とがほぼ同じになったと判断して、ステップS16からステップS17へ進んで吸気バルブタイミングを、最後の進角量Δvvtだけ戻す(遅角させる)。このとき、左右バンクの吸気バルブタイミングが合ったものとして、この状態での左右バンクの吸気カム角の位相差を記録し、次のステップS18以降のステージ2の処理へ進む。
【0048】
ステップS18以降のステージ2の処理では、ステージ1での吸気バルブタイミングの操作と同様の操作を、排気バルブタイミングに関して行う。このため、先ず、ステージ1と同様、ステップS18で、エンジンの運転領域がノッキングの発生するノック領域であるかどうか判定する。
【0049】
ノック領域でない場合には、ステップS18からステップS19へ進んでノック領域となるようにエンジン制御における運転状態の設定を変更した後、ステップS18でノック領域に入ったか否かを再度判定する。このとき、ノック領域へのエンジン制御の変更ができない場合には、ステージ2の処理は実質的に実行されない。
【0050】
次に、ステップS18でノッキングの発生する領域である場合、ステップS20へ進み、吸排気のバルブオーバラップが所定値以上生じる領域にバルブタイミングを設定する。このバルブオーバラップは、右バンクの排気側の可変バルブタイミング機構27exによって排気弁26の閉弁タイミングを遅角することで設定する。
【0051】
続くステップS21では、排気バルブタイミングを遅角してバルブオーバラップをつけたときのノック点火時期ADV1’を把握・記録すると、ステップS22で右バンクの排気弁26のバルブタイミングをノッキングの発生しやすい方向に設定量Δvvt’だけ遅角する。そして、ステップS23で排気バルブタイミングを遅角した後のノック点火時期ADV2’を把握・記録し、ステップS23において、吸気バルブタイミングを遅角する前のノック点火時期ADV1’と排気バルブタイミングを遅角した後のノック点火時期ADV2’とを比較する。
【0052】
ステップS24での比較の結果、ADV1’>ADV2’である場合には、ノック点火時期が遅角側に変化している、すなわち右バンクの排気バルブタイミングの遅角により右バンクのノック限界が低下し、右バンクでノッキングが発生しているものとしてステップS25以降へ進む。ステップS25では、ノック点火時期ADV1’を右バンクのノック限界調査用の初期値ADVR0として(ADVR0←ADV1’)、ステップS26〜ステップS28で右バンクの排気弁26のタイミングを進角させながら点火時期の変化を監視する。
【0053】
すなわち、ステップS26で右バンクの排気弁26のバルブタイミングを設定量Δvvt’だけ進角し、ステップS27で排気バルブタイミングの進角に対応して変化する点火時期ADVRi(i=1,2,…)を把握・記録する。次に、ステップS28で、排気バルブタイミング進角前の点火時期ADVRi-1と排気バルブタイミング進角後の点火時期ADVRiとを比較する。
【0054】
その結果、ADVRi-1≦ADVRiである場合には、排気バルブタイミングの進角によって右バンクのノック限界が上がったと判断して、ステップS26へ戻り、排気バルブタイミングを設定量Δvvt’だけ更に進角する。そして、この排気バルブタイミングの進角に対応する点火時期ADVRiを記録し(ステップS27)、再度、点火時期ADVRi-1,ADVRiを比較する(ステップS28)。
【0055】
その後、ステップS28においてADVRi-1>ADVRiとなり、点火時期ADVRiが直前の点火時期ADVRi-1より遅角されたとき、ステップS28からステップS29へ進んで右バンクの排気バルブタイミングを、最後の進角量Δvvt’だけ戻す(遅角させる)。このとき、左右バンクの吸気バルブタイミングが合ったものとして、この状態での左右バンクの排気カム角の位相差を記録し、本制御を抜ける。
【0056】
これは、右バンクの排気バルブタイミングの進角により右バンクのノック限界が上がることで、独立して制御されている点火時期制御により点火時期が進角され、この点火時期の進角によりノッキングが発生するような場合、右バンクはノック限界が上がっている筈であることから、ノッキング発生は左バンクであると判断できるためである。
【0057】
一方、ステップS24においてADV1’≦ADV2’の場合には、右バンクのノック限界が左バンクよりも高く、ノッキング発生は左バンクであるとして、ステップS24からステップS30へ進み、ノック点火時期ADV1’を左バンクのノック限界調査用の初期値ADVL0として(ADVL0←ADV1’)、ステップS31〜ステップS33で右バンクの排気弁26のタイミングを遅角させながら点火時期の変化を監視する。
【0058】
ステップS31〜S33は、ステップS26〜ステップS28の処理に対して、排気バルブタイミングを遅角することで右バンクのノック限界を下げ、左バンクのノック限界と合わせるための処理を行う。すなわち、ステップS31で右バンクの排気弁26のバルブタイミングを設定量Δvvt’だけ遅角させ、ステップS32で吸気バルブタイミングの遅角に対応して変更された点火時期ADVLi(i=1,2,…)を把握・記録する。次に、ステップS33で、排気バルブタイミング遅角前の点火時期ADVLi-1と排気バルブタイミング遅角後の点火時期ADVLiとを比較する。
【0059】
その結果、ADVLi-1≦ADVLiである場合には、右バンクの排気バルブタイミングを遅角させても、未だ右バンクのノック限界が左バンクよりも高いとして、ステップS31へ戻り、排気バルブタイミングを設定量Δvvt’だけ更に遅角する。そして、この排気バルブタイミングの遅角に伴って変更された点火時期ADVLiを記録し(ステップS32)、再度、点火時期ADVLi-1,ADVLiを比較する(ステップS33)。
【0060】
その後、ステップS33においてADVLi-1>ADVLiとなり、点火時期ADVLiが直前の点火時期ADVLi-1より遅角されたとき、右バンクのノック限界と左バンクのノック限界とがほぼ同じになったと判断して、ステップS33からステップS34へ進んで排気バルブタイミングを最後の遅角量Δvvt’だけ戻す(進角させる)。このとき、左右バンクの吸気バルブタイミングが合ったものとして、この状態での左右バンクの排気カム角の位相差を記録し、本制御を抜ける。
【0061】
以上の位相差検出制御によって検出された左右バンクの吸気カム角の位相差及び排気カム角の位相差により、左右バンクの可変バルブタイミング機構27in,27exに対する制御量が補正され、左右バンクの圧縮比や吸入空気量の相違による燃焼変動を抑制することが可能となる。
【0062】
尚、本実施の形態においては、水平対向型エンジンを例に取って説明したが、本発明は、水平対向型エンジンに限らずV型エンジン等の複数組の可変バルブタイミング機構を備えるエンジンにも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン
1b クランク軸
19 吸気カム軸
20 排気カム軸
27in 吸気側の可変バルブタイミング機構
27ex 排気側の可変バルブタイミング機構
50 電子制御装置(吸気位相差検出部、排気位相差検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの気筒群毎に、吸気弁のバルブタイミングを可変する吸気側の可変バルブタイミング機構と排気弁のバルブタイミングを可変する排気側の可変バルブタイミング機構とを備えるエンジンの制御装置であって、
上記吸気弁と上記排気弁とのバルブオーバラップを無くした状態で、同一点火時期におけるエンジンの不正燃焼の発生を基準にして上記気筒群毎の吸気側の可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出する吸気位相差検出部と、
上記吸気弁と上記排気弁とのバルブオーバラップを所定量以上に設定した状態で、同一点火時期におけるエンジンの不正燃焼の発生を基準にして上記気筒群毎の排気側の可変バルブタイミング機構の動作位相差を検出する排気位相差検出部と
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
上記エンジンの不正燃焼はノッキングであり、該ノッキングの発生を点火時期の遅角によって判定することを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
上記気筒群毎の可変バルブタイミング機構は、エンジンの各気筒がクランク軸を中心に二位置に分けて配置されるバンク毎の吸気側及び排気側の可変バルブタイミング機構であることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−94594(P2011−94594A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252141(P2009−252141)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】