エンジンの排気浄化装置
【課題】ディーゼルエンジンにおいて、低エミッション性と燃費向上とを同時に達成する。
【解決手段】圧縮上死点近傍で燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段61と、燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、燃焼室4への排気の還流量を制御するEGR量制御手段63と、燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、燃焼室4内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段64と、排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段62と、を備える。吸気温度制御手段62は、排気混合後の吸気の温度を、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生が回避される下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、噴射制御手段61は、エンジン負荷が所定値以上のときには、主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行う。
【解決手段】圧縮上死点近傍で燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段61と、燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、燃焼室4への排気の還流量を制御するEGR量制御手段63と、燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、燃焼室4内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段64と、排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段62と、を備える。吸気温度制御手段62は、排気混合後の吸気の温度を、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生が回避される下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、噴射制御手段61は、エンジン負荷が所定値以上のときには、主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル燃焼の課題として、良好な燃費を維持したまま、NOxと煤を大幅に低減することが挙げられる。従来より、NOxと煤とを同時に且つ大幅に低減する燃焼形態の一つとして、EGRにより多量の排気を還流させて燃焼を低温化すると共に、比較的早期に燃料を噴射して空気と十分に混合し、この予混合気を圧縮行程の終わりに自着火させる形態が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−82233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、燃費の面からの理想的な燃焼の条件は、時間損失、冷却損失及び機械損失の総和を最小とすべく着火時期を圧縮上死点近傍に正確にコントロールすることである。しかしながら、前記特許文献1に記載の燃焼形態では、燃料の噴射時期を大幅に進角することに伴い着火遅れが長すぎることになっており、仮に燃料の噴射時期を多少変更しても着火時期は変更されない。また、仮にEGRの増加により着火遅れをさらに長くすることによって、着火時期を圧縮上死点付近にコントロールしようとすると、酸素不足によりHC・COの大幅な増加を招いて燃費が悪化する。結果として着火時期を適正な時期にコントロールすることができないという問題がある。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジンにおいて、低エミッション性と燃費向上とを同時に達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するために、排気混合後の吸気の温度を制御することによって、低エミッション性を維持しつつ、燃料の噴射時期を圧縮上死点近傍に設定することを可能にして着火制御性を確保することとし、さらに、エンジン負荷に応じて燃料の噴射を分割して行うことにより、前記の低エミッション性と着火制御性とを両立させた燃焼形態の適用領域を拡大させることとした。
【0006】
本発明の一側面によると、エンジンの排気浄化装置は、エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁により、圧縮上死点近傍において所定量の燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段と、燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、前記燃焼室への排気の還流量を制御するEGR量制御手段と、燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、前記燃焼室内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段と、前記燃焼室に供給する、前記排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段と、を備え、前記吸気温度制御手段は、前記排気混合後の吸気の温度を、前記主噴射の後、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生量が所定値以下となる下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、前記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以上のときには、前記主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行う。
【0007】
この構成によると、EGR量制御手段による排気還流によって、燃焼混合気の高温部分(局所温度)がNOx生成温度よりも低くなるようにして、NOxの生成を抑制する。
【0008】
また、吸気温度制御手段による吸気温度の制御(吸気冷却)と、前記の排気還流と、によって、所定の着火遅れを確保し、燃料と空気とを十分に混合して煤の生成を抑制する。尚、ここでいう着火は、熱発生が急激に立ち上がる熱炎着火を意味する。また、前記の吸気冷却により吸気密度を高めることに加えて、空気過剰率制御手段により燃焼室内の空気過剰率を比較的高く保つことによって、燃焼中期において生成された煤を燃焼後期において酸化させて煤の排出を低減させる。
【0009】
さらに、前記の吸気冷却により吸気密度を高めることと、前期の燃焼室内の空気過剰率を比較的高く保つこととによって、燃焼後期において混合気が局所的に低温且つ過濃な状態を回避し、HC及びCOの生成を抑制する。
【0010】
このように、本発明に係る燃焼形態では、吸気冷却と排気還流とを併せた効果によって煤の低減を図っているため過度な着火遅れは不要になり、燃料噴射弁による燃料の噴射時期(主噴射の時期)を圧縮上死点近傍に設定することが可能になる。その結果、着火の時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることができ、燃費の向上が図られる。
【0011】
そうして、エンジン負荷が所定値以上であって、要求される燃料噴射量が比較的多いときには、燃料の噴射を早期噴射と主噴射とで分割して行う。このことにより、圧縮上死点近傍で多量の燃料を1回で噴射した場合には、十分な混合時間が確保できずに煤の発生を招くところを、早期に燃料噴射を行うことでその分混合時間が長くなることと、主噴射の燃料噴射量が減ることで主噴射の噴き終わりが早まることとが相俟って、十分な混合時間が確保され、前述したように、煤の排出を抑制することができる。つまり、エンジン負荷に応じて主噴射のみを行うシングル噴射と、主噴射と早期噴射とを行う分割噴射とを切り換えることによって、前述の燃焼形態の適用領域が高負荷側に拡大する。
【0012】
尚、前記の早期噴射は、それによって噴射された燃料が自着火しないように制御され、着火時期は主噴射によって圧縮上死点付近にコントロールされる。
【0013】
また、この燃焼形態は、エンジンの高負荷側で燃料噴射量が所定量以上に増えたときには、分割噴射を行ったとしても所定の着火遅れ時間を確保することが不可能になる。つまり、本燃焼形態は部分負荷領域において可能な燃焼形態である。しかしながら、この燃焼形態は主噴射の時期が圧縮上死点近傍に設定されて着火時期の制御が可能であるため、燃焼形態が切り換わる過渡時においても圧縮上死点付近で着火時期を適正化することができ、それによって燃焼騒音の悪化等が防止されるという利点がある。
【0014】
前記噴射制御手段は、前記早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御する、ことが好ましい。
【0015】
早期噴射の噴射時期が早すぎるとき(例えばBTDC40°CAよりも前のとき)には、噴射した燃料がシリンダライナー等に衝突して未燃焼となり、燃費の面で不利になる。また、早期噴射の噴射時期が遅すぎるとき(例えばBTDC35°CAよりも後のとき)には、早期噴射の後、所定の混合時間を確保できなくなる。従って、早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御することが好ましい。
【0016】
前記噴射制御手段は、前記エンジン負荷が相対的に高いときには、前記エンジン負荷が相対的に低いときに比べて、前記早期噴射による燃料の噴射量を増量させる、ことが好ましい。
【0017】
エンジン負荷が相対的に高く、それに伴い燃料噴射量が相対的に多いときには、早期噴射による燃料の噴射量を増量させかつ、その分主噴射による燃料噴射量を低減させることによって、所定の混合時間が確保可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、EGR量の制御、空気過剰率の制御及び吸気温度の制御を組み合わせることによって低エミッション性を達成しつつ、主噴射の時期を圧縮上死点近傍に設定して着火時期を圧縮上死点付近で正確にコントロールすることができるから、燃費の向上をも併せて達成することができる。
【0019】
また、エンジン負荷が比較的高いときには、主噴射に先だって早期噴射を行うことによって、燃料噴射量が増えても所定の混合時間を確保することができ、前述の低エミッション性と燃費の向上とを両立させた燃焼形態の適用領域を高負荷側に拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置Aの一例を示し、1は車両に搭載されたディーゼルエンジンである。このエンジン1は複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)を有し、その各気筒2内に往復動可能にピストン3が嵌挿されていて、このピストン3により各気筒2内に燃焼室4が区画されている。また、燃焼室4の天井部にはインジェクタ5(燃料噴射弁)が配設されていて、その先端部の噴口から高圧の燃料を燃焼室4に直接、噴射するようになっている。
【0022】
尚、各気筒2毎のインジェクタ5に燃料を供給する構成は、図示は省略するが、各インジェクタ5が接続される共通の燃料分配管(コモンレール)を備えたいわゆるコモンレールタイプとされており、前記コモンレール内部の燃圧(コモンレール圧)を検出するための燃圧センサの出力信号が、後述するECU40に入力され、ECU40によりコモンレール圧の制御が行われる。
【0023】
エンジン1の上部には、吸気弁81及び排気弁82をそれぞれ開閉させる、図示省略の動弁機構が配設されている。
【0024】
エンジン1の一側(図の右側)の側面には、各気筒2の燃焼室4に対しエアクリーナ(図示省略)で濾過した空気(新気)を供給するための吸気通路16が接続されている。この吸気通路16には、上流側から下流側に向かって順に、バタフライバルブからなる吸気絞り弁22と、後述のタービン27により駆動されて吸気を圧縮するコンプレッサ20と、このコンプレッサ20により圧縮した吸気を冷却するインタークーラ21と、バタフライバルブからなるインタークーラ(I/C)経路絞り弁23とが設けられている。
【0025】
一方、エンジン1の反対側(図の左側)の側面には、各気筒2の燃焼室4からそれぞれ燃焼ガス(排気)を排出するための排気通路26が接続されている。この排気通路26の上流端部は各気筒2毎に分岐して、それぞれ排気ポートにより燃焼室4に連通する排気マニホルドであり、該排気マニホルドよりも下流の排気通路26には上流側から下流側に向かって順に、排気流を受けて回転されるタービン27と、排気中の有害成分(HC、CO、NOx、煤等)を浄化可能なディーゼル酸化触媒28及びキャタライズドDPF(Diesel Particulate Filter)29と、が配設されている。
【0026】
前記タービン27と吸気通路16のコンプレッサ20とからなるターボ過給機30は、この実施形態では、可動式のフラップ31,31,…によりタービン27への排気の通路断面積を変化させるようにした可変ターボ過給機(Variable Geometry Turbosupercharger:以下VGTという)であり、後述するECU40によってVGT30を制御することによって吸気の過給圧が制御される。
【0027】
前記排気通路26には、キャタライズドDPF29よりも排気下流側の部位に臨んで開口するように、排気の一部を吸気側に還流させるための第1の排気還流通路(以下第1のEGR通路という)34の上流端が接続されている。この第1のEGR通路34の下流端は吸気絞り弁22とコンプレッサ20との間で吸気通路16に接続されていて、排気通路26から取り出された排気の一部を吸気通路16に還流させるようになっている。また、第1のEGR通路34の途中には、その内部を流通する排気を冷却するためのEGRクーラ37と、開度調節の可能な排気還流量調節弁(以下第1のEGR弁という)35とが配置されている。
【0028】
また、前記排気マニホールドには、第2の排気還流通路(以下第2のEGR通路という)44の上流端が接続されている。この第2のEGR通路44の下流端はインタークーラ21(I/C経路絞り弁23)よりも下流側で吸気通路16に接続されている。また、第2のEGR通路44の途中には、開度調節の可能な第2の排気還流量調節弁(以下第2のEGR弁という)45が配置されている。
【0029】
そして、前記各インジェクタ5、吸気絞り弁22、I/C経路絞り弁23、VGT30、第1及び第2のEGR弁35,45等は、いずれもコントロールユニット(Electronic Control Unit:以下ECUという)40からの制御信号を受けて作動する。一方、このECU40には、少なくとも、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するクランク角センサ51、吸気の圧力状態を検出する吸気圧センサ52、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ53、外部からエンジン1に吸入される空気の流量を検出するエアフローセンサ54、EGRガス混合後の吸気の温度を検出する吸気温度センサ55、及び図示省略のアクセルペダルの踏み操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ56、等からの出力信号がそれぞれ入力される。
【0030】
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記ECU40によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて基本的な目標燃料噴射量を決定し、インジェクタ5の作動制御によって燃料の噴射量や噴射時期等を制御するというものである。また、吸気絞り弁22や第1のEGR弁35の開度の制御によって燃焼室4への排気の還流割合を制御し、VGT30のフラップ31,31,…の作動制御(VGT制御)によって吸気の過給効率を向上させる。さらに、本発明に係る燃焼形態に特徴的な制御として、第1及び第2のEGR弁35,45の開度の制御によってEGRガス混合後の吸気温度を調整する。
【0031】
ここで、本発明に係る燃焼形態について、図2に示す局所等量比−局所温度マップ(φ−Tマップ)を参照しながら説明する。このφ−Tマップは、局所温度Tと局所等量比φとに関する、HC及びCOの発生領域と、煤(Soot)の発生領域と、NOxの発生領域と、を示す。本発明に係る燃焼形態は、同図に太実線で示すように、EGRにより多量の排気を還流させて局所温度を低下させ、それによってNOxの発生を抑制すると共に、燃焼室4に供給する吸気を冷却してその密度を高めることによって高い空気過剰率を実現し、局所的に低温(T<1500K)且つ過濃(φ>1)な状態を回避してHC及びCOの発生を抑制する。
【0032】
そして、前記の吸気冷却とEGRとによって着火遅れを確保して煤の生成を抑制すると共に、空気過剰率を高く保つことによって、燃焼中期に生成した煤を、燃焼後期において酸化させる。すなわち、この燃焼形態では、燃焼中期においては一時的に煤の発生領域に入るものの、空気過剰率が比較的高く、燃焼後期に余剰の酸素が存在していることで煤の酸化が促進され、燃焼終了時には煤の発生領域から脱出するようになっている(同図の白抜きの矢印参照)。
【0033】
この燃焼形態では、着火遅れを過度に長くしなくても煤の排出が抑制されるため、詳しくは後述するが、燃料の噴射時期は所定の範囲(BTDC15〜10°CA)に設定される。このように燃料の噴射時期を圧縮上死点近傍に設定することが可能になることで、着火時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることを可能にしている。以下、この燃焼形態を「EGR冷却燃焼」と呼ぶこととする。
【0034】
次に、前記のEGR冷却燃焼を実現するための具体的な制御について、図3〜9を参照しながら説明する。この制御においては、第1及び第2のEGR弁35,45、吸気絞り弁22、及びVGT30を制御することによって、吸気温度、吸気O2濃度、及び空気過剰率をそれぞれ所定の範囲内になるように制御する。
【0035】
先ず吸気温度の制御は、図3に示すマップに従い、第1及び第2のEGR弁35,45を制御することによって行われる。つまり、第1及び第2のEGR弁35,45を制御することによって、EGRクーラ37を通過するEGRガス量と、EGRクーラ37を通過しないEGRガス量とを調整して、EGRガス混合後の吸気の温度を制御する。
【0036】
このマップは、燃料噴射量(つまり、エンジン負荷)に対する温度範囲を規定しており、マップにおける上限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる温度限界(煤の発生を抑制する上での局所等量比の限界から定まる)を示しているのに対し、下限値は、HC及びCOの発生が回避される温度限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所温度の限界から定まる)を示している。また、燃料噴射量が多いほど(換言すればエンジン負荷が高いほど)上限値及び下限値は低下するように設定されており、これは、燃料噴射量が増えるほど吸気をより冷却して着火遅れを延長させる必要があるためである。尚、下限値の燃料噴射量に対する低下率(マップ上の傾き)は、上限値の低下率よりも小さく設定されているが、この上限値の低下率及び下限値の低下率の相違は、上限値及び下限値を規定する要素が異なることに起因している。
【0037】
次に、吸気のO2濃度の制御は、図4に示すマップに従い、第1のEGR弁35及び吸気絞り弁22を制御することによって行われる。
【0038】
このマップは、燃料噴射量に対するO2濃度の範囲を規定しており、マップにおける上限値は、NOxの発生を回避するためのO2濃度限界(NOxの発生を抑制する上での局所温度の限界により定まる)を示しているのに対し、下限値は、HC及びCOの発生を回避するためのO2濃度限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所温度の限界により定まる)を示している。また、上限値及び下限値は、燃料噴射量に拘わらず一定に設定されている。ここで、前記の上限値は例えば12.5vol%、下限値は例えば11vol%に設定することが好ましい。これは実験により得られた値である。
【0039】
次に、空気過剰率の制御は、図5に示すマップに従い、VGT30を制御することによって行われる。
【0040】
このマップは、燃料噴射量に対する空気過剰率の範囲を規定しており、マップにおける上限値は、後述する早期噴射によって噴射された燃料が自着火しないための限界を示しているのに対し、下限値は、相対的に低負荷側はHC及びCOの発生を抑制するための限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所等量比の限界により定まる)を示し、相対的に高負荷側はNOxの発生を抑制するための限界(NOxの発生を抑制する上での局所等量比の限界により定まる)を示している。
【0041】
本実施形態ではまた、エンジン負荷(燃料噴射量)に応じて、インジェクタによる燃料の噴射を、1回のみ行うシングル噴射と、2回に分けて行う分割噴射とで切り換える制御を行い、このことによって、EGR冷却燃焼の適用領域を高負荷側に広げるようにしている。つまり、分割噴射を行わず1回で燃料を噴射する場合は、燃料噴射量が増大したときに十分な混合時間を確保することができなくなり、煤の生成を抑制することができなくなる(図3の一点鎖線参照、つまり吸気温度の上限値が下限値よりも低くなって実現し得なくなる)。これに対し、比較的早期に少量の燃料噴射を行う(早期噴射)と共に、圧縮上死点近傍において残りの燃料の噴射を行う(メイン噴射)ことによって、早期噴射から着火までが長時間になることと、メイン噴射の噴き終わりが早まることとで、燃料噴射量が増大したときでも十分な混合時間を確保することができ、前述のEGR冷却燃焼が可能になる(図3の実線参照)。尚、早期噴射によって噴射する燃料は自着火しないように制御され、着火時期はメイン噴射の噴射タイミングに応じてコントロールされる。
【0042】
先ず、メイン噴射の噴射タイミング(噴射開始のタイミング)T1は、図6に示すマップに従って設定される。尚、噴射タイミングの上限値は、例えばBTDC15°CA、下限値は例えばBTDC10°CAに設定することが好ましい。
【0043】
また、メイン噴射の噴射量Q1は、図7に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる限界を示し、下限値は早期噴射の上限噴射量によって定まるメイン噴射の限界を示している(後述するように、早期噴射の噴射量は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないように制限される)。
【0044】
次に、早期噴射の噴射タイミング(噴射開始のタイミング)T2は、図8に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないための進角限界(つまり、燃費を考慮して定まる進角限界)を示し、下限値は、早期噴射後に所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる早期噴射タイミングの遅角限界を示している。早期噴射タイミングの上限値は、例えばBTDC40°CA、下限値は例えばBTDC35°CAに設定することが好ましい。尚、良好な噴霧を得るために、早期噴射とメイン噴射との間は、所定の間隔を空けることが望ましい。
【0045】
また、早期噴射の噴射量Q2は、図9に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないための限界を示し、下限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となるようにメイン噴射を行う上での早期噴射の噴射量の限界を示している(つまり、早期噴射の噴射量が少なすぎると分割噴射の効果が得られない)。また、エンジン負荷が高いほど上限値及び下限値は増大するように設定されており、これは、エンジン負荷が高く、メイン噴射量及び早期噴射量をあわせたトータルの燃料噴射量が多いほど、早期噴射による燃料の噴射量を増やし、相対的にメイン噴射による燃料の噴射量を減らして十分な混合時間を確保するためである。
【0046】
次に、前記ECU40によるEGR冷却燃焼の制御について、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
先ずステップS1では、各種センサ51〜56等からのデータを読み込み、続くステップS2では、ステップS1で読み込んだエンジン回転速度N及びアクセル開度θに基づいて、予めECUに記憶されているマップ(図示省略)に従って要求トルクTrqを算出する。尚、要求トルクのマップは、アクセル開度が大きいほど、またエンジンの回転速度が高いほど、要求トルクが大きくなるように設定されている。また、以降のステップは、算出した要求トルクTrqに基づき、エンジン1の燃焼モードが前述のEGR冷却燃焼を実行するモードであるとする。
【0048】
ステップS3では、ステップS2で算出した要求トルクTrqが、所定値よりも小さいか否かを判定し、所定値よりも小さいのYESのときにはステップS4に移行する一方、所定以上であるのNOのときにはステップS6に移行する。
【0049】
ステップS4及びステップS5は、燃料噴射を1回のみ行うシングル噴射モードに係り、先ずステップS4でエンジン回転速度N及び要求トルクTrqに基づいて、図6,7に示すマップに従って、燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1をそれぞれ決定し、続くステップS5で、決定した燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1で、インジェクタ5より燃料の噴射を実行する。
【0050】
一方、ステップS6〜ステップS8は、燃料噴射を2回に分けて行う分割噴射モードに係り、先ずステップS6でエンジン回転速度N及び要求トルクTrqに基づいて、図8,9に示すマップに従って、早期噴射の燃料噴射量Q2及び噴射タイミングT2をそれぞれ決定すると共に、続くステップS7で、図6,7に示すマップに従って、メイン噴射の燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1をそれぞれ決定する。そうして、ステップS8で、決定した燃料噴射量Q2及び噴射タイミングT2で、インジェクタ5より燃料の早期噴射を実行すると共に、決定した燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1で、インジェクタ5より燃料のメイン噴射を実行する。
【0051】
ステップS9では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotal(シングル噴射モードでは燃料噴射量Q1、分割噴射モードでは、燃料噴射量Q1+Q2)に基づいて、図3に示すマップに従って目標の吸気温度を設定し、続くステップS10では、設定した目標吸気温度となるように、第1のEGR弁35及び第2のEGR弁45をそれぞれ制御する。
【0052】
ステップS11では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotalに基づいて、図4に示すマップに従って目標の吸気の酸素濃度を設定し、続くステップS12では、予め設定しているモデルに基づいて酸素濃度の予測を行う。そうして、ステップS13では、ステップS11で設定した目標の酸素濃度と、ステップS12で予測した酸素濃度とに基づいて、酸素濃度が目標値となるように、第1のEGR弁35及び吸気絞り弁22をそれぞれ制御する。
【0053】
ステップS14では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotalに基づいて、図5に示すマップに従って目標の空気過剰率を設定し、続くステップS15では、設定した目標空気過剰率となるようにVGT30を制御する。
【0054】
従って、前述のステップS4〜S8が、噴射制御手段61に対応し、ステップS9,S10が、吸気温度制御手段62に対応し、ステップS11〜13が、EGR量制御手段63に対応し、ステップS14,15が、空気過剰率制御手段64に対応する。
【0055】
以上説明したようにこのエンジンの排気浄化装置Aは、EGRにより多量の排気を還流させて局所温度を低下させることによってNOxの発生を抑制すると共に、燃焼室4に供給する吸気を冷却してその密度を高めることによって高い空気過剰率を実現し、局所的に低温(T<1500K)且つ過濃(φ>1)な状態を回避してHC及びCOの発生を抑制する。
【0056】
そして、前記の吸気冷却とEGRとによって必要な着火遅れを確保して煤の生成を抑制すると共に、空気過剰率を高く保つことによって、燃焼中期に生成した煤を、燃焼後期において酸化させて、煤の排出を防止する。
【0057】
そうして、着火遅れを過度に長くしなくても煤の排出が抑制されるため、燃料の噴射タイミング(メイン噴射のタイミング)を圧縮上死点近傍に設定することで、着火時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることが可能になる。その結果、低エミッション性と燃費向上とが同時に達成される。
【0058】
また、エンジン負荷に応じてシングル噴射と分割噴射とを切り換えることによって、EGR冷却燃焼の適用領域を高負荷側に拡大することができる。
【0059】
(他の実施形態)
本発明が適用可能なエンジンの排気浄化装置の構成は図1に示す構成Aに限らず、本発明は、例えば図11に示す構成Bにも適用可能である。すなわち、図11に示すエンジンの排気浄化装置Bは、第2のEGR通路44に代えて、吸気通路16におけるコンプレッサ20よりも吸気下流側と、インタークーラ21よりも吸気下流側(より正確にはI/C経路絞り弁23よりも吸気下流側)とを互いに接続して、インタークーラ21をバイパスするバイパス通路71を備えている。このバイパス通路71には、バタフライバルブからなるバイパス弁72が配置されている。
【0060】
この排気浄化装置Bでは、図10に示すフローチャートにおいて、第2のEGR弁45を制御する代わりに、バイパス弁72を制御することによって、インタークーラ21を通過する吸気の量と、インタークーラ21を通過しない吸気の量とを調整し、それによって吸気温度を制御することが可能であり、前述したEGR冷却燃焼を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、低エミッション性と燃費向上とを同時に達成することが可能であるから、例えば自動車等に搭載されるディーゼルエンジンの排気浄化装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】本発明の燃焼形態を示すφ−Tマップである。
【図3】吸気温度マップの一例を示す説明図である。
【図4】吸気O2濃度マップの一例を示す説明図である。
【図5】空気過剰率マップの一例を示す説明図である。
【図6】早期噴射量マップの一例を示す説明図である。
【図7】早期噴射時期マップの一例を示す説明図である。
【図8】メイン噴射量マップの一例を示す説明図である。
【図9】メイン噴射時期マップの一例を示す説明図である。
【図10】EGR冷却燃焼に係る制御手順を示すフローチャートである。
【図11】他の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0063】
A,B エンジンの排気浄化装置
1 エンジン
4 燃焼室
5 インジェクタ(燃料噴射弁)
61 噴射制御手段
62 吸気温度制御手段
63 EGR量制御手段
64 空気過剰率制御手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル燃焼の課題として、良好な燃費を維持したまま、NOxと煤を大幅に低減することが挙げられる。従来より、NOxと煤とを同時に且つ大幅に低減する燃焼形態の一つとして、EGRにより多量の排気を還流させて燃焼を低温化すると共に、比較的早期に燃料を噴射して空気と十分に混合し、この予混合気を圧縮行程の終わりに自着火させる形態が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−82233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、燃費の面からの理想的な燃焼の条件は、時間損失、冷却損失及び機械損失の総和を最小とすべく着火時期を圧縮上死点近傍に正確にコントロールすることである。しかしながら、前記特許文献1に記載の燃焼形態では、燃料の噴射時期を大幅に進角することに伴い着火遅れが長すぎることになっており、仮に燃料の噴射時期を多少変更しても着火時期は変更されない。また、仮にEGRの増加により着火遅れをさらに長くすることによって、着火時期を圧縮上死点付近にコントロールしようとすると、酸素不足によりHC・COの大幅な増加を招いて燃費が悪化する。結果として着火時期を適正な時期にコントロールすることができないという問題がある。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジンにおいて、低エミッション性と燃費向上とを同時に達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するために、排気混合後の吸気の温度を制御することによって、低エミッション性を維持しつつ、燃料の噴射時期を圧縮上死点近傍に設定することを可能にして着火制御性を確保することとし、さらに、エンジン負荷に応じて燃料の噴射を分割して行うことにより、前記の低エミッション性と着火制御性とを両立させた燃焼形態の適用領域を拡大させることとした。
【0006】
本発明の一側面によると、エンジンの排気浄化装置は、エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁により、圧縮上死点近傍において所定量の燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段と、燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、前記燃焼室への排気の還流量を制御するEGR量制御手段と、燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、前記燃焼室内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段と、前記燃焼室に供給する、前記排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段と、を備え、前記吸気温度制御手段は、前記排気混合後の吸気の温度を、前記主噴射の後、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生量が所定値以下となる下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、前記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以上のときには、前記主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行う。
【0007】
この構成によると、EGR量制御手段による排気還流によって、燃焼混合気の高温部分(局所温度)がNOx生成温度よりも低くなるようにして、NOxの生成を抑制する。
【0008】
また、吸気温度制御手段による吸気温度の制御(吸気冷却)と、前記の排気還流と、によって、所定の着火遅れを確保し、燃料と空気とを十分に混合して煤の生成を抑制する。尚、ここでいう着火は、熱発生が急激に立ち上がる熱炎着火を意味する。また、前記の吸気冷却により吸気密度を高めることに加えて、空気過剰率制御手段により燃焼室内の空気過剰率を比較的高く保つことによって、燃焼中期において生成された煤を燃焼後期において酸化させて煤の排出を低減させる。
【0009】
さらに、前記の吸気冷却により吸気密度を高めることと、前期の燃焼室内の空気過剰率を比較的高く保つこととによって、燃焼後期において混合気が局所的に低温且つ過濃な状態を回避し、HC及びCOの生成を抑制する。
【0010】
このように、本発明に係る燃焼形態では、吸気冷却と排気還流とを併せた効果によって煤の低減を図っているため過度な着火遅れは不要になり、燃料噴射弁による燃料の噴射時期(主噴射の時期)を圧縮上死点近傍に設定することが可能になる。その結果、着火の時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることができ、燃費の向上が図られる。
【0011】
そうして、エンジン負荷が所定値以上であって、要求される燃料噴射量が比較的多いときには、燃料の噴射を早期噴射と主噴射とで分割して行う。このことにより、圧縮上死点近傍で多量の燃料を1回で噴射した場合には、十分な混合時間が確保できずに煤の発生を招くところを、早期に燃料噴射を行うことでその分混合時間が長くなることと、主噴射の燃料噴射量が減ることで主噴射の噴き終わりが早まることとが相俟って、十分な混合時間が確保され、前述したように、煤の排出を抑制することができる。つまり、エンジン負荷に応じて主噴射のみを行うシングル噴射と、主噴射と早期噴射とを行う分割噴射とを切り換えることによって、前述の燃焼形態の適用領域が高負荷側に拡大する。
【0012】
尚、前記の早期噴射は、それによって噴射された燃料が自着火しないように制御され、着火時期は主噴射によって圧縮上死点付近にコントロールされる。
【0013】
また、この燃焼形態は、エンジンの高負荷側で燃料噴射量が所定量以上に増えたときには、分割噴射を行ったとしても所定の着火遅れ時間を確保することが不可能になる。つまり、本燃焼形態は部分負荷領域において可能な燃焼形態である。しかしながら、この燃焼形態は主噴射の時期が圧縮上死点近傍に設定されて着火時期の制御が可能であるため、燃焼形態が切り換わる過渡時においても圧縮上死点付近で着火時期を適正化することができ、それによって燃焼騒音の悪化等が防止されるという利点がある。
【0014】
前記噴射制御手段は、前記早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御する、ことが好ましい。
【0015】
早期噴射の噴射時期が早すぎるとき(例えばBTDC40°CAよりも前のとき)には、噴射した燃料がシリンダライナー等に衝突して未燃焼となり、燃費の面で不利になる。また、早期噴射の噴射時期が遅すぎるとき(例えばBTDC35°CAよりも後のとき)には、早期噴射の後、所定の混合時間を確保できなくなる。従って、早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御することが好ましい。
【0016】
前記噴射制御手段は、前記エンジン負荷が相対的に高いときには、前記エンジン負荷が相対的に低いときに比べて、前記早期噴射による燃料の噴射量を増量させる、ことが好ましい。
【0017】
エンジン負荷が相対的に高く、それに伴い燃料噴射量が相対的に多いときには、早期噴射による燃料の噴射量を増量させかつ、その分主噴射による燃料噴射量を低減させることによって、所定の混合時間が確保可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、EGR量の制御、空気過剰率の制御及び吸気温度の制御を組み合わせることによって低エミッション性を達成しつつ、主噴射の時期を圧縮上死点近傍に設定して着火時期を圧縮上死点付近で正確にコントロールすることができるから、燃費の向上をも併せて達成することができる。
【0019】
また、エンジン負荷が比較的高いときには、主噴射に先だって早期噴射を行うことによって、燃料噴射量が増えても所定の混合時間を確保することができ、前述の低エミッション性と燃費の向上とを両立させた燃焼形態の適用領域を高負荷側に拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置Aの一例を示し、1は車両に搭載されたディーゼルエンジンである。このエンジン1は複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)を有し、その各気筒2内に往復動可能にピストン3が嵌挿されていて、このピストン3により各気筒2内に燃焼室4が区画されている。また、燃焼室4の天井部にはインジェクタ5(燃料噴射弁)が配設されていて、その先端部の噴口から高圧の燃料を燃焼室4に直接、噴射するようになっている。
【0022】
尚、各気筒2毎のインジェクタ5に燃料を供給する構成は、図示は省略するが、各インジェクタ5が接続される共通の燃料分配管(コモンレール)を備えたいわゆるコモンレールタイプとされており、前記コモンレール内部の燃圧(コモンレール圧)を検出するための燃圧センサの出力信号が、後述するECU40に入力され、ECU40によりコモンレール圧の制御が行われる。
【0023】
エンジン1の上部には、吸気弁81及び排気弁82をそれぞれ開閉させる、図示省略の動弁機構が配設されている。
【0024】
エンジン1の一側(図の右側)の側面には、各気筒2の燃焼室4に対しエアクリーナ(図示省略)で濾過した空気(新気)を供給するための吸気通路16が接続されている。この吸気通路16には、上流側から下流側に向かって順に、バタフライバルブからなる吸気絞り弁22と、後述のタービン27により駆動されて吸気を圧縮するコンプレッサ20と、このコンプレッサ20により圧縮した吸気を冷却するインタークーラ21と、バタフライバルブからなるインタークーラ(I/C)経路絞り弁23とが設けられている。
【0025】
一方、エンジン1の反対側(図の左側)の側面には、各気筒2の燃焼室4からそれぞれ燃焼ガス(排気)を排出するための排気通路26が接続されている。この排気通路26の上流端部は各気筒2毎に分岐して、それぞれ排気ポートにより燃焼室4に連通する排気マニホルドであり、該排気マニホルドよりも下流の排気通路26には上流側から下流側に向かって順に、排気流を受けて回転されるタービン27と、排気中の有害成分(HC、CO、NOx、煤等)を浄化可能なディーゼル酸化触媒28及びキャタライズドDPF(Diesel Particulate Filter)29と、が配設されている。
【0026】
前記タービン27と吸気通路16のコンプレッサ20とからなるターボ過給機30は、この実施形態では、可動式のフラップ31,31,…によりタービン27への排気の通路断面積を変化させるようにした可変ターボ過給機(Variable Geometry Turbosupercharger:以下VGTという)であり、後述するECU40によってVGT30を制御することによって吸気の過給圧が制御される。
【0027】
前記排気通路26には、キャタライズドDPF29よりも排気下流側の部位に臨んで開口するように、排気の一部を吸気側に還流させるための第1の排気還流通路(以下第1のEGR通路という)34の上流端が接続されている。この第1のEGR通路34の下流端は吸気絞り弁22とコンプレッサ20との間で吸気通路16に接続されていて、排気通路26から取り出された排気の一部を吸気通路16に還流させるようになっている。また、第1のEGR通路34の途中には、その内部を流通する排気を冷却するためのEGRクーラ37と、開度調節の可能な排気還流量調節弁(以下第1のEGR弁という)35とが配置されている。
【0028】
また、前記排気マニホールドには、第2の排気還流通路(以下第2のEGR通路という)44の上流端が接続されている。この第2のEGR通路44の下流端はインタークーラ21(I/C経路絞り弁23)よりも下流側で吸気通路16に接続されている。また、第2のEGR通路44の途中には、開度調節の可能な第2の排気還流量調節弁(以下第2のEGR弁という)45が配置されている。
【0029】
そして、前記各インジェクタ5、吸気絞り弁22、I/C経路絞り弁23、VGT30、第1及び第2のEGR弁35,45等は、いずれもコントロールユニット(Electronic Control Unit:以下ECUという)40からの制御信号を受けて作動する。一方、このECU40には、少なくとも、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するクランク角センサ51、吸気の圧力状態を検出する吸気圧センサ52、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ53、外部からエンジン1に吸入される空気の流量を検出するエアフローセンサ54、EGRガス混合後の吸気の温度を検出する吸気温度センサ55、及び図示省略のアクセルペダルの踏み操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ56、等からの出力信号がそれぞれ入力される。
【0030】
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記ECU40によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて基本的な目標燃料噴射量を決定し、インジェクタ5の作動制御によって燃料の噴射量や噴射時期等を制御するというものである。また、吸気絞り弁22や第1のEGR弁35の開度の制御によって燃焼室4への排気の還流割合を制御し、VGT30のフラップ31,31,…の作動制御(VGT制御)によって吸気の過給効率を向上させる。さらに、本発明に係る燃焼形態に特徴的な制御として、第1及び第2のEGR弁35,45の開度の制御によってEGRガス混合後の吸気温度を調整する。
【0031】
ここで、本発明に係る燃焼形態について、図2に示す局所等量比−局所温度マップ(φ−Tマップ)を参照しながら説明する。このφ−Tマップは、局所温度Tと局所等量比φとに関する、HC及びCOの発生領域と、煤(Soot)の発生領域と、NOxの発生領域と、を示す。本発明に係る燃焼形態は、同図に太実線で示すように、EGRにより多量の排気を還流させて局所温度を低下させ、それによってNOxの発生を抑制すると共に、燃焼室4に供給する吸気を冷却してその密度を高めることによって高い空気過剰率を実現し、局所的に低温(T<1500K)且つ過濃(φ>1)な状態を回避してHC及びCOの発生を抑制する。
【0032】
そして、前記の吸気冷却とEGRとによって着火遅れを確保して煤の生成を抑制すると共に、空気過剰率を高く保つことによって、燃焼中期に生成した煤を、燃焼後期において酸化させる。すなわち、この燃焼形態では、燃焼中期においては一時的に煤の発生領域に入るものの、空気過剰率が比較的高く、燃焼後期に余剰の酸素が存在していることで煤の酸化が促進され、燃焼終了時には煤の発生領域から脱出するようになっている(同図の白抜きの矢印参照)。
【0033】
この燃焼形態では、着火遅れを過度に長くしなくても煤の排出が抑制されるため、詳しくは後述するが、燃料の噴射時期は所定の範囲(BTDC15〜10°CA)に設定される。このように燃料の噴射時期を圧縮上死点近傍に設定することが可能になることで、着火時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることを可能にしている。以下、この燃焼形態を「EGR冷却燃焼」と呼ぶこととする。
【0034】
次に、前記のEGR冷却燃焼を実現するための具体的な制御について、図3〜9を参照しながら説明する。この制御においては、第1及び第2のEGR弁35,45、吸気絞り弁22、及びVGT30を制御することによって、吸気温度、吸気O2濃度、及び空気過剰率をそれぞれ所定の範囲内になるように制御する。
【0035】
先ず吸気温度の制御は、図3に示すマップに従い、第1及び第2のEGR弁35,45を制御することによって行われる。つまり、第1及び第2のEGR弁35,45を制御することによって、EGRクーラ37を通過するEGRガス量と、EGRクーラ37を通過しないEGRガス量とを調整して、EGRガス混合後の吸気の温度を制御する。
【0036】
このマップは、燃料噴射量(つまり、エンジン負荷)に対する温度範囲を規定しており、マップにおける上限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる温度限界(煤の発生を抑制する上での局所等量比の限界から定まる)を示しているのに対し、下限値は、HC及びCOの発生が回避される温度限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所温度の限界から定まる)を示している。また、燃料噴射量が多いほど(換言すればエンジン負荷が高いほど)上限値及び下限値は低下するように設定されており、これは、燃料噴射量が増えるほど吸気をより冷却して着火遅れを延長させる必要があるためである。尚、下限値の燃料噴射量に対する低下率(マップ上の傾き)は、上限値の低下率よりも小さく設定されているが、この上限値の低下率及び下限値の低下率の相違は、上限値及び下限値を規定する要素が異なることに起因している。
【0037】
次に、吸気のO2濃度の制御は、図4に示すマップに従い、第1のEGR弁35及び吸気絞り弁22を制御することによって行われる。
【0038】
このマップは、燃料噴射量に対するO2濃度の範囲を規定しており、マップにおける上限値は、NOxの発生を回避するためのO2濃度限界(NOxの発生を抑制する上での局所温度の限界により定まる)を示しているのに対し、下限値は、HC及びCOの発生を回避するためのO2濃度限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所温度の限界により定まる)を示している。また、上限値及び下限値は、燃料噴射量に拘わらず一定に設定されている。ここで、前記の上限値は例えば12.5vol%、下限値は例えば11vol%に設定することが好ましい。これは実験により得られた値である。
【0039】
次に、空気過剰率の制御は、図5に示すマップに従い、VGT30を制御することによって行われる。
【0040】
このマップは、燃料噴射量に対する空気過剰率の範囲を規定しており、マップにおける上限値は、後述する早期噴射によって噴射された燃料が自着火しないための限界を示しているのに対し、下限値は、相対的に低負荷側はHC及びCOの発生を抑制するための限界(HC及びCOの発生を抑制する上での局所等量比の限界により定まる)を示し、相対的に高負荷側はNOxの発生を抑制するための限界(NOxの発生を抑制する上での局所等量比の限界により定まる)を示している。
【0041】
本実施形態ではまた、エンジン負荷(燃料噴射量)に応じて、インジェクタによる燃料の噴射を、1回のみ行うシングル噴射と、2回に分けて行う分割噴射とで切り換える制御を行い、このことによって、EGR冷却燃焼の適用領域を高負荷側に広げるようにしている。つまり、分割噴射を行わず1回で燃料を噴射する場合は、燃料噴射量が増大したときに十分な混合時間を確保することができなくなり、煤の生成を抑制することができなくなる(図3の一点鎖線参照、つまり吸気温度の上限値が下限値よりも低くなって実現し得なくなる)。これに対し、比較的早期に少量の燃料噴射を行う(早期噴射)と共に、圧縮上死点近傍において残りの燃料の噴射を行う(メイン噴射)ことによって、早期噴射から着火までが長時間になることと、メイン噴射の噴き終わりが早まることとで、燃料噴射量が増大したときでも十分な混合時間を確保することができ、前述のEGR冷却燃焼が可能になる(図3の実線参照)。尚、早期噴射によって噴射する燃料は自着火しないように制御され、着火時期はメイン噴射の噴射タイミングに応じてコントロールされる。
【0042】
先ず、メイン噴射の噴射タイミング(噴射開始のタイミング)T1は、図6に示すマップに従って設定される。尚、噴射タイミングの上限値は、例えばBTDC15°CA、下限値は例えばBTDC10°CAに設定することが好ましい。
【0043】
また、メイン噴射の噴射量Q1は、図7に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる限界を示し、下限値は早期噴射の上限噴射量によって定まるメイン噴射の限界を示している(後述するように、早期噴射の噴射量は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないように制限される)。
【0044】
次に、早期噴射の噴射タイミング(噴射開始のタイミング)T2は、図8に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないための進角限界(つまり、燃費を考慮して定まる進角限界)を示し、下限値は、早期噴射後に所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる早期噴射タイミングの遅角限界を示している。早期噴射タイミングの上限値は、例えばBTDC40°CA、下限値は例えばBTDC35°CAに設定することが好ましい。尚、良好な噴霧を得るために、早期噴射とメイン噴射との間は、所定の間隔を空けることが望ましい。
【0045】
また、早期噴射の噴射量Q2は、図9に示すマップに従って設定される。このマップにおける上限値は、早期噴射した燃料がシリンダライナーに衝突して未燃焼とならないための限界を示し、下限値は、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となるようにメイン噴射を行う上での早期噴射の噴射量の限界を示している(つまり、早期噴射の噴射量が少なすぎると分割噴射の効果が得られない)。また、エンジン負荷が高いほど上限値及び下限値は増大するように設定されており、これは、エンジン負荷が高く、メイン噴射量及び早期噴射量をあわせたトータルの燃料噴射量が多いほど、早期噴射による燃料の噴射量を増やし、相対的にメイン噴射による燃料の噴射量を減らして十分な混合時間を確保するためである。
【0046】
次に、前記ECU40によるEGR冷却燃焼の制御について、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
先ずステップS1では、各種センサ51〜56等からのデータを読み込み、続くステップS2では、ステップS1で読み込んだエンジン回転速度N及びアクセル開度θに基づいて、予めECUに記憶されているマップ(図示省略)に従って要求トルクTrqを算出する。尚、要求トルクのマップは、アクセル開度が大きいほど、またエンジンの回転速度が高いほど、要求トルクが大きくなるように設定されている。また、以降のステップは、算出した要求トルクTrqに基づき、エンジン1の燃焼モードが前述のEGR冷却燃焼を実行するモードであるとする。
【0048】
ステップS3では、ステップS2で算出した要求トルクTrqが、所定値よりも小さいか否かを判定し、所定値よりも小さいのYESのときにはステップS4に移行する一方、所定以上であるのNOのときにはステップS6に移行する。
【0049】
ステップS4及びステップS5は、燃料噴射を1回のみ行うシングル噴射モードに係り、先ずステップS4でエンジン回転速度N及び要求トルクTrqに基づいて、図6,7に示すマップに従って、燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1をそれぞれ決定し、続くステップS5で、決定した燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1で、インジェクタ5より燃料の噴射を実行する。
【0050】
一方、ステップS6〜ステップS8は、燃料噴射を2回に分けて行う分割噴射モードに係り、先ずステップS6でエンジン回転速度N及び要求トルクTrqに基づいて、図8,9に示すマップに従って、早期噴射の燃料噴射量Q2及び噴射タイミングT2をそれぞれ決定すると共に、続くステップS7で、図6,7に示すマップに従って、メイン噴射の燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1をそれぞれ決定する。そうして、ステップS8で、決定した燃料噴射量Q2及び噴射タイミングT2で、インジェクタ5より燃料の早期噴射を実行すると共に、決定した燃料噴射量Q1及び噴射タイミングT1で、インジェクタ5より燃料のメイン噴射を実行する。
【0051】
ステップS9では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotal(シングル噴射モードでは燃料噴射量Q1、分割噴射モードでは、燃料噴射量Q1+Q2)に基づいて、図3に示すマップに従って目標の吸気温度を設定し、続くステップS10では、設定した目標吸気温度となるように、第1のEGR弁35及び第2のEGR弁45をそれぞれ制御する。
【0052】
ステップS11では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotalに基づいて、図4に示すマップに従って目標の吸気の酸素濃度を設定し、続くステップS12では、予め設定しているモデルに基づいて酸素濃度の予測を行う。そうして、ステップS13では、ステップS11で設定した目標の酸素濃度と、ステップS12で予測した酸素濃度とに基づいて、酸素濃度が目標値となるように、第1のEGR弁35及び吸気絞り弁22をそれぞれ制御する。
【0053】
ステップS14では、エンジン回転速度N及び燃料噴射量Qtotalに基づいて、図5に示すマップに従って目標の空気過剰率を設定し、続くステップS15では、設定した目標空気過剰率となるようにVGT30を制御する。
【0054】
従って、前述のステップS4〜S8が、噴射制御手段61に対応し、ステップS9,S10が、吸気温度制御手段62に対応し、ステップS11〜13が、EGR量制御手段63に対応し、ステップS14,15が、空気過剰率制御手段64に対応する。
【0055】
以上説明したようにこのエンジンの排気浄化装置Aは、EGRにより多量の排気を還流させて局所温度を低下させることによってNOxの発生を抑制すると共に、燃焼室4に供給する吸気を冷却してその密度を高めることによって高い空気過剰率を実現し、局所的に低温(T<1500K)且つ過濃(φ>1)な状態を回避してHC及びCOの発生を抑制する。
【0056】
そして、前記の吸気冷却とEGRとによって必要な着火遅れを確保して煤の生成を抑制すると共に、空気過剰率を高く保つことによって、燃焼中期に生成した煤を、燃焼後期において酸化させて、煤の排出を防止する。
【0057】
そうして、着火遅れを過度に長くしなくても煤の排出が抑制されるため、燃料の噴射タイミング(メイン噴射のタイミング)を圧縮上死点近傍に設定することで、着火時期を圧縮上死点付近に正確にコントロールすることが可能になる。その結果、低エミッション性と燃費向上とが同時に達成される。
【0058】
また、エンジン負荷に応じてシングル噴射と分割噴射とを切り換えることによって、EGR冷却燃焼の適用領域を高負荷側に拡大することができる。
【0059】
(他の実施形態)
本発明が適用可能なエンジンの排気浄化装置の構成は図1に示す構成Aに限らず、本発明は、例えば図11に示す構成Bにも適用可能である。すなわち、図11に示すエンジンの排気浄化装置Bは、第2のEGR通路44に代えて、吸気通路16におけるコンプレッサ20よりも吸気下流側と、インタークーラ21よりも吸気下流側(より正確にはI/C経路絞り弁23よりも吸気下流側)とを互いに接続して、インタークーラ21をバイパスするバイパス通路71を備えている。このバイパス通路71には、バタフライバルブからなるバイパス弁72が配置されている。
【0060】
この排気浄化装置Bでは、図10に示すフローチャートにおいて、第2のEGR弁45を制御する代わりに、バイパス弁72を制御することによって、インタークーラ21を通過する吸気の量と、インタークーラ21を通過しない吸気の量とを調整し、それによって吸気温度を制御することが可能であり、前述したEGR冷却燃焼を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、低エミッション性と燃費向上とを同時に達成することが可能であるから、例えば自動車等に搭載されるディーゼルエンジンの排気浄化装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】本発明の燃焼形態を示すφ−Tマップである。
【図3】吸気温度マップの一例を示す説明図である。
【図4】吸気O2濃度マップの一例を示す説明図である。
【図5】空気過剰率マップの一例を示す説明図である。
【図6】早期噴射量マップの一例を示す説明図である。
【図7】早期噴射時期マップの一例を示す説明図である。
【図8】メイン噴射量マップの一例を示す説明図である。
【図9】メイン噴射時期マップの一例を示す説明図である。
【図10】EGR冷却燃焼に係る制御手順を示すフローチャートである。
【図11】他の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0063】
A,B エンジンの排気浄化装置
1 エンジン
4 燃焼室
5 インジェクタ(燃料噴射弁)
61 噴射制御手段
62 吸気温度制御手段
63 EGR量制御手段
64 空気過剰率制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁により、圧縮上死点近傍において所定量の燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段と、
燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、前記燃焼室への排気の還流量を制御するEGR量制御手段と、
燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、前記燃焼室内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段と、
前記燃焼室に供給する、前記排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段と、を備え、
前記吸気温度制御手段は、前記排気混合後の吸気の温度を、前記主噴射の後、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生量が所定値以下となる下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、
前記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以上のときには、前記主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行うエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気浄化装置において、
前記噴射制御手段は、前記早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御するエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1に記載の排気浄化装置において、
前記噴射制御手段は、前記エンジン負荷が相対的に高いときには、前記エンジン負荷が相対的に低いときに比べて、前記早期噴射による燃料の噴射量を増量させるエンジンの排気浄化装置。
【請求項1】
エンジンの燃焼室に臨む燃料噴射弁により、圧縮上死点近傍において所定量の燃料を噴射させる主噴射を行う噴射制御手段と、
燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、前記燃焼室への排気の還流量を制御するEGR量制御手段と、
燃焼後期における局所等量比が煤生成等量比よりも低くなるように、前記燃焼室内の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段と、
前記燃焼室に供給する、前記排気混合後の吸気の温度を制御する吸気温度制御手段と、を備え、
前記吸気温度制御手段は、前記排気混合後の吸気の温度を、前記主噴射の後、所定の着火遅れ時間を確保することが可能となる上限温度よりも低くかつ、HC及びCOの発生量が所定値以下となる下限温度よりも高い温度範囲内となるように制御し、
前記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以上のときには、前記主噴射に先だって、所定の噴射時期に所定量の燃料を噴射させる早期噴射を行うエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気浄化装置において、
前記噴射制御手段は、前記早期噴射の噴射時期を、当該早期噴射によって噴射された燃料が未燃焼となる限界時期よりも遅くかつ、前記早期噴射の後、所定の混合時間を確保することが可能となる限界時期よりも早いクランク角範囲内となるように制御するエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1に記載の排気浄化装置において、
前記噴射制御手段は、前記エンジン負荷が相対的に高いときには、前記エンジン負荷が相対的に低いときに比べて、前記早期噴射による燃料の噴射量を増量させるエンジンの排気浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−31875(P2008−31875A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203884(P2006−203884)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年5月24日 社団法人自動車技術会主催の「2006年春季学術講演会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構革新的次世代低公害車総合技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年5月24日 社団法人自動車技術会主催の「2006年春季学術講演会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構革新的次世代低公害車総合技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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