説明

エンジンオイル循環装置

【課題】オイルタンクの油量を適切に保持し、始動時におけるオイル循環ポンプの各部の摩耗や焼付きの発生が防止できるエンジンオイル循環装置を提供する。
【解決手段】オイルパン15に貯留されたオイルをオイル通路を介して潤滑部に送るオイル供給ポンプ21と、ターボ過給機90を潤滑したオイルを回収するオイルタンク17と、オイルタンク17からオイル吸引通路29を介して吸引しかつオイルパン15に送り出すオイル循環ポンプ31を備え、オイル供給ポンプ21の作動によるオイル通路の油圧上昇に応動してロータ収容部41にオイルを供給し、かつオイル供給ポンプ21の作動停止よるオイル通路の油圧低下に応動してロータ収容部41内から退避してオイル潤滑路内のオイルとロータ収容部41内のオイルを空気を介在して分離するバルブ70を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのオイル循環装置に関し、特にオイルを循環させるポンプの信頼性を確保するエンジンオイル循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ターボ過給機を備える車両用エンジンは、エンジン本体の内部に配置されたオイル供給ポンプによってクランクケースの直下に取り付けられたオイルパン内のオイルを吸い上げて動弁機構等の潤滑部に供給し、潤滑部の潤滑に使用されたオイルは再びオイルパンに回収される。一方、潤滑部の潤滑に使用されたオイルの一部はエンジン本体の下方に配置されたターボ過給機に供給され、ターボ過給機の潤滑及び冷却に使用されたオイルはターボ過給機の下方に配設されたオイルタンクに回収された後に、オイルタンクに接続されたオイル吸入通路を介してスカベンジングポンプ等のオイル循環ポンプによって吸い上げられてオイルパンに送られる。
【0003】
しかし、この種のオイルタンク及びオイル循環ポンプを備えたエンジンにおいては、車両の傾斜路走行時や旋回走行時にオイルタンク内のオイルが一方側に偏在し、オイルタンクに接続されたオイル吸入通路の吸込口が空気中に露出する状態になると、オイル循環ポンプ内にオイルが導入されなくなりオイルの循環動作が円滑に行えなくなるばかりでなく、オイル循環ポンプ内の摺動部の潤滑性が悪化してポンプ構成部品の摩耗を招くと共にシール箇所のシール性が確保できなくなり、ポンプの信頼性を損なうことが懸念される。
【0004】
この対策として、例えば特許文献1には、オイル供給ポンプの吐出口側とオイル循環ポンプの吸込口側との間をバイパス管により接続して、エンジン運転時にオイル供給ポンプ側からオイル循環ポンプ側にオイルを供給してオイル循環ポンプのポンプ室内に常にオイルを存在させて、ポンプ機構の各摺動部の潤滑性やシール箇所のシール性を確保する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−266235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1によると、オイル供給ポンプの吐出口側とオイル循環ポンプの吸込口側との間をバイパス管により接続してオイル供給ポンプ側からオイル循環ポンプ側にオイルを供給することから、車両の傾斜路走行時や旋回走行時にオイルタンク内のオイルが一方側に偏在してオイル吸入通路の吸込口が空気中に露出する状態においても、オイル供給ポンプ側からオイル循環ポンプ側にオイルが供給されてポンプ機構の各摺動部の潤滑性やシール箇所のシール性が確保できる。
【0007】
しかし、エンジンの停止時に、停止したオイル循環ポンプ内に残存するオイルがオイルタンク側に流下すると、その流下するオイルに起因するサイフォン現象によってオイル循環ポンプ内を介してオイルギャラリ及びオイル供給ポンプ、更にはオイルパン内のオイルがバイパス管及び停止した循環ポンプ等を介してオイルタンク側に戻されることが懸念される。
【0008】
これによりオイルタンク内のオイルがオーバフローしてターボ過給機、例えばターボ軸受部等からオイル洩れに至る要因となる。また、オイル循環ポンプ内に配置されたポンプ機構の各摺動部には、油膜が十分に形成されず潤滑不足となり再始動時に該部に摩耗や焼付きが発生する要因となる。特に、オイルタンクとオイル循環ポンプとの間に高低差があると、オイル循環ポンプとオイルタンクを結ぶオイル吸入通路が長く、オイル循環ポンプの始動からオイルタンク内のオイルがオイル循環ポンプに供給されるまでのタイムラグが大きくなり、オイル循環ポンプの潤滑不足により摩耗や焼付きの発生が懸念される。
【0009】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、オイルタンクの油量を適切に保持し、始動時におけるオイル循環ポンプの各部の摩耗や焼付きの発生を防止するエンジンオイル循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する請求項1に記載のエンジンオイル循環装置の発明は、オイルを貯留するオイル貯留部と、該オイル貯留部に貯留されたオイルをオイル通路を介して潤滑部に送るオイル供給ポンプと、上記潤滑部を潤滑したオイルを回収するオイルタンクと、該オイルタンク内のオイルを吸引しかつオイル貯留部に送り出すポンプ機構がポンプ機構収容部に収容されたオイル循環ポンプを備えたオイル循環装置において、上記オイル供給ポンプの作動による油圧上昇に応動してポンプ機構収容部内に突出して連通し、オイル供給ポンプの作動停止よるオイル通路の油圧低下に応動してポンプ機構収容部内から退避するバルブを備えたことを特徴とする。
【0011】
この発明によると、エンジンが停止された時には、オイル供給ポンプの停止によるオイル通路内の油圧低下に伴い、バルブがポンプ機構収容部内から退避してオイル供給が停止すると共にオイル通路のオイルとポンプ機構収容部内にオイルが空気を介在して分離されることから、オイル循環ポンプ内のオイルがオイル吸入通路を介してオイルタンク側に流下してもそのサイフォン現象によってオイル通路内のオイルが吸い出されることなく、オイルタンクの油量が適切に保持されてオイルタンクのオイルがオーバフローすることが防止できる。
【0012】
一方、エンジンの始動後瞬時にオイル供給ポンプからオイル通路を介してポンプ機構収容部内に突出するバルブのオイル孔からポンプ機構収容部内にオイルが噴出して供給され、オイル循環ポンプの始動からオイルタンク内のオイルがオイル吸入通路を介してオイル循環ポンプに供給されるまでにタイムラグがある場合でも、始動後迅速にポンプ機構収容部内の摺動部が潤滑されて始動時における各部の摩耗や焼付きの発生が防止できる。また、ポンプ機構収容部内にオイルが供給されることでポンプ摺動部の密閉性が向上し、オイルの吸い上げが迅速に開始する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1のエンジンオイル循環装置において、上記オイル循環ポンプは、上記ポンプ機構収容部に連通するオイル導入通路を備え、上記オイル通路は、上記オイル導入通路と連通するギャラリを備え、上記バルブは、上記オイル導入通路内に摺動自在に嵌装されて上記オイル供給ポンプの作動による上記ギャラリから供給される油圧上昇によって上記オイル導入通路内を前進移動して上記ポンプ機構収容部内に突出して連通する一方、上記オイル供給ポンプの作動停止による上記ギャラリ内の油圧低下によって上記オイル導入通路内を後退移動して上記ポンプ機構収容部内から後退するバルブ本体を備えたことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、エンジンが停止された時には、オイル供給ポンプの停止によるオイルギャラリ内の油圧低下に伴いバルブ本体がオイル導入通路内を後退移動してポンプ機構収容部内から退避してオイル導入通路内のオイルとポンプ機構収容部内のオイルが空気を介在して分離され、オイル循環ポンプ内のオイルがオイル吸入通路を介してオイルタンク側に流下してもサイフォン現象によってオイル導入通路及びオイルギャラリ内のオイルが吸い出されることなく、オイルタンク内の油量は適切に保持される。一方、エンジンの始動後瞬時にバルブ本体がオイル導入孔内を前進移動してポンプ機構収容部内に突出してポンプ機構収容部内にオイルを供給することができ、始動後迅速にポンプ機構収容部内の摺動部が潤滑されて始動時における各部の摩耗や焼付きの発生が防止できる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のエンジンオイル循環装置において、上記オイルタンクは、上記オイル貯留部に貯留されるオイルの油面より下方に位置し、上記オイル循環ポンプはスカベンジングポンプであり、上記オイル供給ポンプはフィードポンプであることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、停止状態から再始動されるとき、オイル通路を介してオイル循環ポンプ内に供給されるオイルによって、ポンプ機構収容部内の摺動部に油膜が確実に形成され、摺動部の摩耗や焼付きを確実に防止できる。更に、再始動直後瞬時にオイル通路から供給されるオイルがオイルタンクからオイル供給通路を介してポンプ機構収容部内に供給されるオイルの呼び水となり、再始動直後の吸上げ性能を確保することも可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、エンジンが停止された時にはオイル供給ポンプの停止によるオイル通路内の油圧低下に伴い、オイル通路からオイル循環ポンプのポンプ機構収容部へのオイル供給が停止すると共にオイル通路内のオイルとポンプ機構収容部内のオイルが空気を介在して分離され、オイル循環ポンプ内のオイルがオイルタンク側に流下してもサイフォン現象によってオイル導入通路内のオイルが吸い出されることがなくなり、オイルタンク内の油量が適切に保持される。
【0018】
一方、エンジンの始動後瞬時にオイル供給ポンプからオイル通路を介してオイル循環ポンプのポンプ機構収容部内にオイルが供給され、始動後迅速にポンプ機構収容部内の摺動部が潤滑されて始動時における各部の摩耗や焼付きの発生が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明によるエンジンのオイル循環装置の実施の形態を、縦置き配置された車両用水平対向式エンジンを例に図1乃至図7を参照して説明する。
【0020】
図1は、水平対向式エンジンの概略を示す一部断面正面図であり、図2は模式的に示す説明図である。
【0021】
図1及び図2に示すようにエンジン10は、エンジン本体11の中央に配置されたクランクケース12に左右のバンク13L、13Rが設けられている。クランクケース12の直下にオイル貯留部となるオイルパン15が取り付けられ、一方のバンク、例えば右のバンク13Rの下面にターボ過給機90が配置される。ターボ過給機90はオイルパン15内のオイルOLの油面Laより下方に位置している。
【0022】
エンジン本体11の内部にエンジン10の始動と共に作動するフィードポンプによるオイル供給ポンプ21が配置され、オイル供給ポンプ21の吸込側となるオイルストレーナ22及びオイル吸引通路23を介してオイルパン15内のオイルOLを吸引し、オイルOLをエンジン本体11内のオイルギャラリから各潤滑部に圧送すると共に、一部を分岐してターボ過給機90の潤滑及び冷却のためにターボ過給機90のオイル入口91に送油するオイル通路が形成されている。
【0023】
ターボ過給機90の下部に開口するオイル出口92が、オイルドレン連通路16を介してオイルタンク17の上部に連通し、オイルタンク17の下部はオイル吸入通路29を介してオイル循環ポンプ31の吸入ポート47に連通し、オイル循環ポンプ31の吐出ポート42がシリンダヘッド14Lに形成されたオイル吐出通路となるカムシャフト孔14b及びバンク13Lに形成されたドレン通路13bを介在してオイルパン15に連通する。また、オイルタンク17の上部は、圧力調整パイプ27によって常時正圧に維持されるクランクケース12内に連通している。
【0024】
このオイル循環ポンプ31は、左側のバンク13Lのシリンダヘッド14Lに配設され、シリンダヘッド14Lに配置された動弁機構65Lの図示しないカムシャフトに動力伝達可能に連結されて駆動される。
【0025】
オイル循環ポンプ31の概要を図3乃至6を参照して説明する。図3はオイル循環ポンプ31の概要を示す断面図、図4はオイル循環ポンプ31のポンプハウジング部35の概要を示す図3のI−I線断面図である。なお、図4にはインナロータ33及びアウタロータ34等は仮想線で示されている。
【0026】
オイル循環ポンプ31は、内接形歯車タイプのスカベンジングポンプであって、一端部が動弁機構65Lの図示しないカムシャフトに動力伝達可能に連結される駆動軸32と、駆動軸32の他端部に結合されたポンプ機構となるインナロータ33と、アウタロータ34と、インナロータ33及びアウタロータ34を収容するポンプ機構収容部となるロータ収容部41が形成されるポンプハウジング部35を有し、ポンプハウジング部35はポンプハウジング部36とポンプカバー部45から形成される。
【0027】
ポンプハウジング部36は、図3及び図4に示すようにシリンダヘッド14Lの側面14aに端面37aが当接して取り付けられる板状のベース部37及びベース部37から有底円筒状に突出してカムシャフト孔14bに嵌入する突部38を有し、突部38の中央部に駆動軸32が貫通する駆動軸孔39が形成されている。ベース部37にシリンダヘッド14Lの側面14aに開口するギャラリ68に連通するオイル供給孔40が形成される。
【0028】
ポンプハウジング部36には、ベース部37の第1接合面37bに開口し周面41a及び底面41bを有するロータ収容部41が形成され、底面41bに駆動軸孔39が連続形成されている。ロータ収容部41の底面41bから突部38の先端に連通する吐出ポート42が形成されている。更に、ポンプハウジング部36には、オイル供給孔40とロータ収容部41とを連通するオイル導入孔50が形成される。
【0029】
ポンプカバー部45は、ポンプハウジング部36のベース部37の形状に倣った板状でポンプハウジング部36のベース部37の第1接合面37bに接合可能な第2接合面46bを有するベース部46及びポンプハウジング部36に形成されたロータ収容部41に対応した第2接合面46bの部位から外部に連通する吸入ポート47が形成されている。このオイル導入孔50、吐出ポート42及び吸入ポート47の詳細については後述する。
【0030】
これらポンプハウジング部36に形成されたベース部37の第1接合面37bと、ポンプカバー部材45のベース部46の第2接合面46bとを対向させて図示しないボルト結合することによってポンプハウジング部36にポンプカバー部45が取り付けられてポンプハウジング部36に形成されたロータ収容部41の開口がポンプカバー部45により閉塞されたポンプハウジング部35が形成される。このように構成されたハウジング部35は、オイル導入孔50及び吐出ポート42が近接してロータ収容部41の上部に開口し吸入ポート42がロータ収容部41の下部に開口し、かつオイル導入孔50と吸入ポート47、吐出ポート42とが直接的に連通することなく、互いにロータ収容部41を介在して連通する。
【0031】
インナロータ33は、駆動軸32の他端に嵌合して同軸上に固着させる軸孔33bを有し、外周に複数個、例えば6個の歯部33aが等間隔で周方向に沿って形成されている。この歯部33aの歯形は、例えばトロコイド歯形に形成されている。
【0032】
アウタロータ34は、インナロータ33の中心軸に対し、所定の偏心量をもってポンプハウジング部36のロータ収容部41内に回転自在に配置され、アウタロータ34の半径方向の移動は、その外周面34bがロータ収容部41の周面41aに摺動自在に嵌合することによって規制され、軸方向の移動は両端面がロータ収容部41の底面41bとポンプカバー部材45の第2接合面46aとに摺動自在に当接することによって規制される。アウタロータ34の内周には、インナロータ33の歯部33aと噛み合う複数個、例えば7個の歯溝34aが周方向に等間隔で形成されている。そして、インナロータ33が矢印方向に回転されるとき、アウタロータ34はインナロータ33の回転に伴って相対的に同方向にロータ収容部41内で回転する。
【0033】
アウタロータ34の歯溝34aとインナロータ33の隣り合う歯部33aとに囲まれる空間によって複数の閉込部が形成され、各閉込部の容積はインナロータ33の回転によって変化する。この閉込部の容積が増加する部位に対応してポンプカバー部45の吸入ポート47が開口している。一方、閉込部の容積が減少する部位に対応してポンプハウジング部材36の吐出ポート42が開口している。更に、ロータ収容部41に開口するオイル導入通路50にバルブ70が配設される。
【0034】
図5及び図6を参照してオイル導入通路50にバルブ70が配設されるバルブ機構を説明する。
【0035】
オイル導入通路50の先端には、円筒状のバルブ嵌合部50a及びネジ部50bが形成される。更に、このネジ部50bに螺合するネジ部が形成され筒部51a及びフランジ部51bが一体形成されると共に軸芯に沿ってバルブガイド孔51cが穿設されたストッパ部材51を備える。
【0036】
バルブ70は、バルブ本体71及び付勢手段となるスプリング81を備えている。バルブ本体71は、ノズル本体72とノズルピース77によって構成される。ノズル本体72は、オイル導入通路50のバルブ嵌合部50aより小径の円柱状に形成され基部72a、基部72aに環状の段部72bを介して連続形成されてバルブ嵌合部50aに摺動自在に嵌合する大径の嵌合部72c、嵌合部72cに段部72dを介して連続形成される円柱状のガイド部72eが同軸上に連続形成された略円柱状に形成される。
【0037】
ノズル本体72の基部72aに、その外周に開口部74aが開口する比較的大径のオイル導入孔74が穿設され、更にノズル本体72の軸心に沿って延在して基端がオイル導入孔74に連通し先端がガイド部72eの先端面72fに開口する比較的小径でオリフィス状のオイル通路孔75が穿設されている。先端面72fにオイル通路孔75と同軸上のネジ孔76が形成される。
【0038】
ノズルピース77は、ストッパ部材51に形成されたバルブガイド孔51cに挿入可能な外径を有する円柱状のノズル部78及びノズル本体72のネジ孔76に螺合するネジ部79が一体形成される。更にノズルピース77の軸心に沿ってネジ部79からノズル部78の先端78aに亘って貫通するノズル孔80が穿設されている。
【0039】
このノズルピース77のネジ部79をノズル本体72のネジ孔76に螺合してノズル本体72のガイド部72eに取り付けることによって、ノズル本体72とノズルピース77とが一体結合されたバルブ本体71が形成される。また、オイル導入孔74、オイル通路76、ノズル孔80によって基端72aから先端78aに連通するオイル孔73が形成される。
【0040】
このバルブ本体71は、図4及び図7に示すように、その嵌合部72cがバルブ嵌合部50aに嵌合し、かつガイド部72eがストッパ部材51のバルブガイド孔51cに嵌合してオイル導入通路50に装着され、バルブ本体71の段部72dとストッパ部材51の端部51cとの間にスプリング81が装着される。
【0041】
このように構成されたバルブ70は、オイル供給孔40を介してオイル導入通路50へのオイルOLの供給が停止し、油圧が作用していない状態では、図4に示すようにスプリング81の伸長によってバルブ本体71がオイル導入通路50内に押し込まれた後、後退位置に保持され、ノズルピース77がロータ収容部41から退避した状態に保持される。一方、オイル導入通路50にオイルOLが供給されると、バルブ本体71の基部72a及び段部72bに上昇した油圧が作用し、図6に示すようにスプリング81の付勢力に抗してスプリング81を収縮させつつバルブ本体71が前進移動し、スプリング81が最も収縮した前進位置に保持される。この前進位置においてはノズルピース77がストッパ部材51のバルブガイド孔51cからロータ収容部41内に突出すると共に、オイル導入通路50内のオイルOLがバルブ本体71の基部72aに開口する開口部74aからオイル導入孔74に導入され、オイル連通孔75、ノズル孔80を経てロータ収容部41内に噴出して供給される。
【0042】
図7に示すオイル系統図を参照してオイルOLの各部への送油を説明する。エンジンの運転によりエンジン本体11の内部に配置されたオイル供給ポンプ21の作動により、オイルパン15内のオイルOLがオイルストレーナ22及びオイル吸引通路23を介して吸引されてオイルクーラ60によって油温が適正化されてクランクケース12側の左右のメインギャラリ61L及び61Rに導かれる。
【0043】
左側のメインギャラリ61Lに供給されたオイルOLは、クランク軸部63Lを潤滑すると共に、メインギャラリ61Lから分岐してギャラリ64Lを介して動弁機構65Lに送油され、動弁機構65Lを潤滑してオイルパン15に回収される。
【0044】
右側のメインギャラリ61Rに供給されたオイルOLは、クランク軸部63Rを潤滑すると共に、メインギャラリ61Rから分岐して右側のバンク13Rのシリンダヘッド14Rに配置されたギャラリ64Rを介して動弁機構65Rを潤滑し、オイルパン15に回収される。更に、シリンダヘッド14R内でギャラリ64Rから分岐したギャラリ66を経てオイル連通路67にオイルOLが供給され、オイル通路67を介してターボ過給機90のオイル入口91からターボ過給機90に供給されて、ターボ過給機90のタービンホイール側軸受及びコンプレッサホイール側軸受等を潤滑及び冷却したオイルOLは、オイル出口92からオイルドレン連通路16を介してオイルタンク17に回収される。
【0045】
ここで、ターボ過給機90において、各タービン室内でタービンホイールによって加圧されたエア及びコンプレッサ室内のコンプレッサホイールによって加圧されたエアがセンタハウジング内に漏れ出したターボブローバイガスは高圧であり、オイルドレン連通路16から高圧でオイルタンク17内に排出され、オイルタンク17内を加圧する。一方、オイルタンク17内はオイルドレン連通路16からオイルタンク17に排出されるターボブローバイガスの排出圧力より低圧のクランクケース12内に圧力調整パイプ27によって連通されて減圧され、オイルタンク17に供給されたオイル及びターボブローバイガスはオイルタンク17の上部よりターボブローバイガスが圧力調整パイプ27を介してクランクケース12内に供給される。
【0046】
一方、エンジンの運転に伴い、回転駆動される動弁機構65Rのカムシャフトに動力伝達可能に連結されたオイル循環ポンプ31の駆動軸32が回転駆動され、互いに回転するインナロータ33の歯部33aとアウタロータ34の歯溝34aによって形成される閉込部によって吸入ポート47からオイル吸入通路29を介してオイルタンク17内のオイルが吸引され、吐出ポート42からカムシャフト孔14b及びドレン通路13bを介してオイルパン15内に回収される。
【0047】
また、ギャラリ64から分岐したギャラリ68にオイルが供給され、ギャラリ68からオイル供給孔40を介してオイル導入通路50に供給される。オイル導入通路50の油圧によりオイル導入通路50に設けられたバルブ70は、バルブ本体71の基部72a及び段部72bに上昇した油圧が作用し、スプリング81の付勢力に抗してスプリング81を収縮させつつバルブ本体71が前進移動しスプリング81が最も収縮した前進位置に保持される。この前進位置においてはノズルピース77がストッパ部材51のバルブガイド孔51cからロータ収容部41内に突出すると共に、オイル導入通路50内のオイルOLがバルブ本体71の基部72aに開口する開口部74aからオイル導入孔74に導入され、オイル連通孔75、ノズル孔80を経てロータ収容部41内に噴出して供給される。
【0048】
これにより、車両が傾斜路を走行する場合や旋回に伴って横G(遠心力)が作用して、オイルタンク17に貯留されているオイルOLがオイルタンク17の一方に偏在してオイルタンク17に接続するオイル吸入通路29の吸込口が空気中に露出する状態となっても、ギャラリ68側からオイル供給孔40及びオイル導入通路50を介してロータ収容部41内にオイルOLが供給され、ロータ収容部41内のオイルOLが存在しなくなるといった状況が生じることはない。その結果、オイル循環ポンプ31の各摺動部分の潤滑性が悪化してポンプ構成部品の摩耗を招くことがなくなり、また、シール箇所のシール性が損なわれる状態が回避することができてオイル循環ポンプ31の信頼性が確保できる。
【0049】
このようにエンジン10が運転された後に、エンジン10が停止された時には、エンジン10の停止に伴い、オイル供給ポンプ21及びオイル循環ポンプ31が停止する。
【0050】
オイル供給ポンプ21の停止によりギャラリ68からオイル供給孔40へのオイル供給が停止してオイル導入通路50内の油圧が低下する。オイル導入通路50内の油圧低下に伴い、バルブ本体71の基部72a及び段部72bへの油圧作用が減少してスプリング81の付勢力によりバルブ本体71が前進位置から後退位置に移動してノズルピース77がロータ収容部41内から退避する。一方、オイル循環ポンプ31の停止に伴いロータ収容部41内に残存するオイルの一部は吐出ポート47から流出してロータ収容部41の上部に空気が存在する。
【0051】
これにより、ノズルピース77とロータ収容部41内に残存するオイルとが空気を介在して互いに分離される。
【0052】
このオイル導入通路50内のオイルとロータ収容部41内のオイルとの分離によりロータ収容部41内に残存するオイルがオイル供給通路29を介してオイルタンク17側に流下しても、その流下するオイルに起因するサイフォン現象によるオイル導入通路50及びオイル供給孔40を介してギャラリ内のオイルの吸い出しがなくなる。そのためオイルタンク17内のオイルが過剰に増大することなく適切な油量が保持されてオイルタンク17からオーバーフローしてターボ過給機90からオイルが漏れ出す等の不具合が防止できる。
【0053】
ここで、停止状態からエンジン10を再始動されると、エンジン10の始動に伴い、回転駆動される動弁機構65Lのカムシャフトによってオイル循環ポンプ31の駆動軸32が回転駆動され、インナロータ33とアウタロータ34が回転してオイル循環ポンプ31も始動する。一方、エンジン10の始動により、上記同様にオイル供給ポンプ21が作動し、オイルOLがクランクケース12内及び左右のメインギャラリ61L、61R、バンク13L、13R内のギャラリ64L、64Rに導かれてクランク軸部63L、63R及び動弁機構65L、65RにオイルOLを供給して潤滑すると共に、再始動後瞬時にギャラリ64Lから分岐したギャラリ68にもオイルOLが供給され、ギャラリ68からオイル供給孔40を介してオイル導入通路50にオイルOLが供給される。
【0054】
オイル導入通路50へのオイル供給により、オイル導入通路50に設けられたバルブ70は、バルブ本体71の基部72a及び段部72bに上昇した油圧が作用し、スプリング81の付勢力に抗してバルブ本体71が前進移動しスプリング81が最も収縮した前進位置に移動してノズルピース77がストッパ部材51のバルブガイド孔51cからロータ収容部41内に突出すると共に、オイル導入通路50内のオイルOLがバルブ本体71の基部72aに開口する開口部74aからオイル導入孔74に導入され、オイル連通孔75、ノズル孔80を経てロータ収容部41内に供給される。
【0055】
これにより、停止状態から再始動されるとき、オイルタンク17内のオイルOLがオイル吸入通路29を経て吸入ポート47からロータ収容部41内に導入される前に、再始動直後瞬時にギャラリ68からオイル供給孔40、及びオイル導入通路50を介してロータ収容部41内に供給されるオイルOLによって、インナロータ33の歯部33aとアウタロータ34の歯溝34aとの間の摺動部、及びアウタロータ34の外周面34bとロータ収容部41の周面41aとの間の摺動部に油膜が確実に形成されることとなる。その結果、再始動時においてインナロータ33及びアウタロータ34に関連する摺動部の摩耗や焼付きを確実に防止できる。更に、再始動直後瞬時にギャラリ68からオイル導入通路50を介してロータ収容部41内に供給されるオイルOLが呼び水となり、再始動直後の吸上げ性能を確保することも可能となる。
【0056】
従って、本実施の形態によると、エンジン10が停止された時には、オイル供給ポンプ21の停止によるオイル導入通路50の油圧低下に伴い、オイル導入通路50からオイル循環ポンプ31のロータ収容部41内へのオイル供給が停止すると共に、スプリング81の付勢力によりバルブ本体71のノズルピース77がロータ収容部41内から退避してオイル導入通路50とロータ収容部41のオイルが空気を介在して分離され、ロータ収容部41内のオイルがオイル吸入通路29を介してオイルタンク17側に流下しても、その流下するオイルに起因するサイフォン現象によるオイル導入通路50及びオイル供給孔40を介してギャラリ内のオイルの吸い出しがなくなり、オイルタンク17内のオイルが適切に保持される。
【0057】
一方、エンジンの始動後瞬時にオイル供給ポンプ21から圧送されるオイルをギャラリ68、オイル導入通路50及びバルブ70を介してオイル循環ポンプ31のロータ収容部41内に供給することができ、オイル循環ポンプ31より下方に配置されたオイルタンク17内のオイルがロータ収容部41に供給されるまでにタイムラグがある場合でも、始動後迅速にロータ収容部41内のアウタロータ33やインナロータ34等の摺動部が潤滑されて始動時における各部の摩耗や焼付きの発生が防止できる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態ではバルブ本体71を別体に形成したノズル本体72とノズルピース77とにより構成したが、予めノズル本体72とノズルピール77を一体に形成することもできる。
【0059】
また、実施の形態では、駆動軸32を動弁機構65Lのカムシャフトと動力伝達可能に連結し、カムシャフトの回転によってオイル循環ポンプ31を駆動する場合を例に説明したが、駆動軸32を電動モータ等によって駆動することもできる。
【0060】
上記実施の形態でターボ過給機を備えた水平対向式エンジンを例に説明したが、ターボ過給機を備えたV型エンジンや他の形式のエンジンに適用することも、また、他の種々のオイルポンプに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態の概要を示すオイルポンプが装着された水平対向式エンジンの概略を示す一部断面正面図である。
【図2】同じく、模式的に示す説明図である。
【図3】オイル循環ポンプの説明図である。
【図4】図3のI−I線断面図である。
【図5】バルブ機構の作動説明図である。
【図6】バルブ機構の作動説明図である。
【図7】オイル系統図である。
【符号の説明】
【0062】
10 エンジン
15 オイルパン(オイル貯留部)
17 オイルタンク
21 オイル供給ポンプ
23 オイル吸引通路
29 オイル吸入通路
31 オイル循環ポンプ
33 インナロータ(ポンプ機構)
34 アウタロータ(ポンプ機構)
35 ポンプハウジング部
41 ロータ収容部(ポンプ機構収容部)
42 吐出ポート
45 ポンプカバー部
47 吸入ポート
50 オイル導入通路
70 バルブ
71 バルブ本体
72 ノズル本体
77 ノズルピース
81 スプリング
73 オイル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを貯留するオイル貯留部と、該オイル貯留部に貯留されたオイルをオイル通路を介して潤滑部に送るオイル供給ポンプと、上記潤滑部を潤滑したオイルを回収するオイルタンクと、該オイルタンク内のオイルを吸引しかつオイル貯留部に送り出すポンプ機構がポンプ機構収容部に収容されたオイル循環ポンプを備えたオイル循環装置において、
上記オイル供給ポンプの作動による上記オイル通路の油圧上昇に応動して上記オイル通路内を移動して上記ポンプ機構収容部内に突出し、上記オイル供給ポンプの作動停止よる上記オイル通路の油圧低下に応動して上記オイル通路内を移動して上記ポンプ機構収容部内から退避するバルブを備えたことを特徴とするエンジンオイル循環装置。
【請求項2】
上記オイル循環ポンプは、ポンプ機構収容部に連通するオイル導入通路を備え、
上記オイル通路は、上記オイル導入通路と連通するギャラリを備え、
上記バルブは、上記オイル導入通路内に摺動自在に嵌装されて上記オイル供給ポンプの作動による上記ギャラリから供給される油圧上昇によって上記オイル導入通路内を前進移動して上記ポンプ機構収容部内に突出して連通する一方、上記オイル供給ポンプの作動停止による上記ギャラリ内の油圧低下によって上記オイル導入通路内を後退移動して上記ポンプ機構収容部内から後退するバルブ本体を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンオイル循環装置。
【請求項3】
上記オイルタンクは、上記オイル貯留部に貯留されるオイルの油面より下方に位置し、上記オイル循環ポンプはスカベンジングポンプであり、上記オイル供給ポンプはフィードポンプであることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンオイル循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−197636(P2009−197636A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38606(P2008−38606)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】