説明

カチオン硬化性組成物

【課題】無機部分の割合が大きく、製造時の安定性および保存安定性が良好であり、オキセタニル基を有する、縮合されたケイ素化合物を含有するカチオン硬化性組成物を提供する。
【解決手段】オキセタニル基を有する特定のケイ素化合物(A)と1個のケイ素原子および4個のシロキサン結合生成基を有するケイ素化合物(B)とを、ケイ素化合物(A)1モルに対してケイ素化合物(B)0.3〜2.8モルの割合で、アルカリ性条件において加水分解・縮合反応させて得られるケイ素化合物(C)、およびカチオン重合開始剤を含有するカチオン硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキセタニル基を有するケイ素化合物およびカチオン重合開始剤を含有するカチオン硬化性組成物およびその製造方法に関するものである。詳しくは、オキセタニル基を有し2個または3個の加水分解性基を有するケイ素化合物と、4個のシロキサン結合生成基を有するケイ素化合物とを加水分解・縮合させて得られる、オキセタニル基を有する縮合されたケイ素化合物およびカチオン重合開始剤を含有するカチオン硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オキセタニル基を有し3個の加水分解性基を有するケイ素化合物と、4個のシロキサン結合生成基を有するケイ素化合物とを、酸性触媒存在下で加水分解・縮合させて、オキセタニル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法およびこの有機ケイ素化合物を含有する組成物は知られている(特許文献1)。しかし、酸性触媒存在下で加水分解・縮合させて得られた化合物は、保存条件によっては保存中にゲル化することもあり、この有機ケイ素化合物またはこの化合物を含有する組成物の使用目的によっては用途が制限される。
また、特許文献1の方法を用いて、オキセタニル基を有し3個のOR基(Rは炭化水素基である)を有するケイ素化合物(s1)と、4個のOR基(Rは炭化水素基である)を有するケイ素化合物(s2)とを、酸性条件下で加水分解・縮合させて、オキセタニル基を有する有機ケイ素化合物を製造した場合、この有機ケイ素化合物中のOR基の割合は、ケイ素化合物(s1)中のOR基およびケイ素化合物(s2)中のOR基の合計量に対して、少なくとも9%と高かった。これにより、ゲルの生成や、硬度、耐摩耗性等が不十分な硬化物を招くこととなった。
【0003】
また、オキセタニル基を有し3個の加水分解性基を有するケイ素化合物をアルカリ性条件下で加水分解・縮合させて、オキセタニル基を有する有機ケイ素化合物を製造する方法およびこの有機ケイ素化合物を含有する組成物も知られている(特許文献2、3)。しかし、硬度、耐摩耗性等を向上させるために、得られた有機ケイ素化合物において無機部分の割合を高めることについては開示されていない。
なお、特許文献1の実施例1によると、オキセタニル基を有し3個の加水分解性基を有するケイ素化合物と、3個のシロキサン結合生成基を有するケイ素化合物(メチルトリエトキシシラン)とを、酸性条件下で加水分解・縮合させ、ゲル化しない縮合物が得られている。一方、特許文献1の比較例1によると、これらの化合物をアルカリ性条件下で加水分解・縮合させようとしてゲル化したという開示がある。即ち、特許文献1と、特許文献2または3とを組み合わせることの阻害要因を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開パンフレットWO2004/076534
【特許文献2】特開平11−029640号公報
【特許文献3】特開平11−199673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、無機部分の割合が大きく、製造時の安定性および保存安定性が良好であり、オキセタニル基を有する、縮合されたケイ素化合物を含有するカチオン硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、以下に示される。
1.本発明は下記式(1)で表されるケイ素化合物(A)と下記式(2)で表されるケイ素化合物(B)とを、ケイ素化合物(A)1モルに対してケイ素化合物(B)0.3〜2.8モルの割合で、アルカリ性条件において加水分解・縮合反応させて得られるオキセタニル基を有するケイ素化合物、およびカチオン重合開始剤、を含有するカチオン硬化性組成物である。
【化1】

[式中、R0はオキセタニル基を有する有機基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基またはオキセタニル基を有する有機基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である。]

SiY4 (2)

[式中、Yはシロキサン結合生成基である。]
2.[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位とを含む上記1に記載のオキセタニル基を有する有機ケイ素化合物、およびカチオン重合開始剤、を含有するカチオン硬化性組成物。
3. R0が下記式(3)で表される有機基である、上記1または2に記載のカチオン硬化性組成物。
【化2】

(式(3)において、R3は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、R4は炭素数2〜6のアルキレン基である。)
4. 式(1)におけるXがアルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基である、上記1〜3のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
5. オキセタニル基を有するケイ素化合物を得るための加水分解・縮合条件は、アルカリ性条件とするための塩基性物質が水酸化テトラアルキルアンモニウムである上記1〜4のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
6. オキセタニル基を有するケイ素化合物を得るための加水分解・縮合条件は、アルカリ性条件とするための塩基性物質の使用量が、上記ケイ素化合物(A)および上記ケイ素化合物(B)の合計モル数を100モルとした場合に、1〜20モルである、上記1〜5のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
7. 上記1〜6のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物において、さらに他のカチオン重合性化合物を含有し、該カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物、他のオキセタニル基含有化合物、および、ビニルエーテル化合物、から選ばれた少なくとも1種である、カチオン硬化性組成物。
8. 上記1〜7のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物において、カチオン重合開始剤は光カチオン重合開始剤である、光カチオン硬化性組成物。
9. 上記1〜7のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物を基材の表面に塗布し、得られた組成物被膜をカチオン硬化させる工程を備える、硬化膜被膜の製造方法。
10. ポリカーボネート樹脂を含む基板に、上記9の方法で硬化物被膜を被覆する、硬化膜を有する物品の製造方法。
11. ポリカーボネート樹脂を含む基板に、上記10に記載の方法で硬化物被膜を被覆した、硬化物被膜を有する物品。
【発明の効果】
【0007】
無機部分の割合が大きく、製造時の安定性および保存安定性が良好な、オキセタニル基を有する、縮合されたケイ素化合物、すなわちオキセタニル基を有するポリシロキサンを含有するカチオン硬化性組成物が得られた。無機部分の割合とは、化合物を構成する原子として炭素原子を含まない部分が化合物全体に占める割合を意味する。無機部分の割合が大きいオキセタニル基を有するポリシロキサンを含有する本発明のカチオン硬化性組成物は、表面硬度が大きく、耐磨耗性に優れた硬化物被膜を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.オキセタニル基を有する有機ケイ素化合物およびその製造方法
本発明の必須構成成分であるオキセタニル基を有する有機ケイ素化合物(以下、「有機ケイ素化合物(C)」という。)は、アルカリ性条件下、下記一般式(1)で表されるケイ素化合物(A)と、下記一般式(2)で表されるケイ素化合物(B)とを、上記ケイ素化合物(A)1モルに対して上記ケイ素化合物(B)0.3〜2.8モルの割合で加水分解・縮合する工程を備える方法により得られたことを特徴とする。
【化3】

[式中、R0はオキセタニル基を有する有機基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基またはオキセタニル基を有する有機基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である。]
SiY4 (2)
[式中、Yはシロキサン結合生成基である。]
上記ケイ素化合物(A)は、1つのみ用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いることができる。上記ケイ素化合物(B)もまた、1つのみ用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
1−1.ケイ素化合物(A)
このケイ素化合物(A)は、上記一般式(1)で表される、オキセタニル基を有する化合物である。このケイ素化合物(A)は、得られる有機ケイ素化合物(C)にカチオン硬化性を付与するための成分である。
【0010】
上記一般式(1)において、R0はオキセタニル基を有する有機基であり、この有機基は炭素数が20以下であるものが好ましい。
また、特に好ましいR0は、下記一般式(3)で表される構造を有する有機基である。
【化4】

[式中、R3は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、R4は炭素数2〜6のアルキレン基である。]
【0011】
上記一般式(3)において、R3は、好ましくはエチル基である。R4は、好ましくは直鎖状のアルキレン基であり、特に好ましくはプロピレン基(トリメチレン基)である。その理由は、このような有機官能基を形成するオキセタン化合物の入手または合成が容易なためである。
上記一般式(3)におけるR3またはR4の炭素数が大きすぎると、得られる有機ケイ素化合物(C)において無機部分の割合が高いものになりにくく、得られる硬化物の表面硬度が十分でない場合がある。
【0012】
また、上記ケイ素化合物(A)を表す一般式(1)において、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基またはオキセタニル基を有する有機基である。R1がオキセタニル基を有する有機基である場合、特に好ましいR1は、上記一般式(3)で表される構造を有する有機基である。
【0013】
上記一般式(1)におけるXは加水分解性基であり、複数存在するXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。Xとしては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基等が例示される。好ましいXは、アルコキシ基、シクロアルコキシ基およびアリールオキシ基である。Xがハロゲン原子である場合には、後述する加水分解反応においてハロゲン化水素が生じるので、反応液がアルカリ性を維持できるように管理する必要がある。反応液が酸性雰囲気となるのを防ぎアルカリ性を維持できるようにするため、あらかじめXの当量以上の塩基性物質を加えておくこともよい。
【0014】
アルコキシ基は、好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基であり、その例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜3のアルコキシ基が特に好ましい。
シクロアルコキシ基は、好ましくは、炭素数3〜8のシクロアルコキシ基であり、その例としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アラルキルオキシ基は、好ましくは、炭素数7〜12のアラルキルオキシ基であり、その例としては、ベンジルオキシ基、2−フェニルエチルオキシ等挙げられる。
アリールオキシ基は、好ましくは、炭素数6〜10のアリールオキシ基であり、その例としては、フェニルオキシ基、o−トルイルオキシ基、m−トルイルオキシ基、p−トルイルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
アルコキシ基の加水分解性が良好であることから、本発明において、上記一般式(1)のXは、炭素数1〜3のアルコキシ基であることが好ましい。また、原料の入手が容易であり安価であること、加水分解反応が制御しやすいことから、特に好ましいXはメトキシ基である。
【0015】
上記一般式(1)において、nは0または1である。nが0である場合のケイ素化合物(A)は、加水分解性基Xを3個有しており、「Tモノマー」とも呼ばれる。また、nが1である場合のケイ素化合物(A)は、加水分解性基Xを2個有しており、「Dモノマー」とも呼ばれる。
得られる有機ケイ素化合物(C)において無機部分の割合がより高いものにするためには、nは0であるケイ素化合物(A)を用いることが好ましい。
得られる有機ケイ素化合物(C)を、後述する溶剤への溶解性により優れたものにするためには、nは1であることが好ましい。
上記効果のバランスをとるために、nが0のケイ素化合物(A)と、nが1のケイ素化合物(A)とを併用してもよい。
【0016】
1−2.ケイ素化合物(B)
このケイ素化合物(B)は、上記一般式(2)で表される、ケイ素原子1個およびシロキサン結合生成基4個を有する化合物である。このケイ素化合物(B)は、シロキサン結合生成基Yを4個有するもの(「Qモノマー」とも呼ばれる。)であり、得られる有機ケイ素化合物(C)における無機部分の割合を高くするための成分である。シロキサン結合生成基は、ケイ素化合物(A)における加水分解性基との反応により、シロキサン結合を生成する。
【0017】
上記一般式(2)におけるYは、シロキサン結合生成基であり、複数存在するYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。シロキサン結合生成基Yとしては、水酸基、加水分解性基等が挙げられる。加水分解性基としては、上記一般式(1)におけるXと同様のものが使用できる。
シロキサン結合生成基Yは、好ましくはハロゲン原子以外のものであり、即ち、水酸基、水素原子、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、シクロアルコキシ基(シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基、2−フェニルエチルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェニルオキシ基、o−トルイルオキシ基、m−トルイルオキシ基、p−トルイルオキシ基、ナフチルオキシ基等)等である。これらのうち、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基およびアリールオキシ基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。
尚、シロキサン結合生成基Yがハロゲン原子であるケイ素化合物(B)を用いると、上記一般式(1)における加水分解性基Xの説明と同様に、反応の進行とともに反応液の液性が変化し、管理が煩雑となる場合がある。
【0018】
上記ケイ素化合物(B)としては、以下に例示される。
(i)シロキサン結合生成基Yの4個が、互いに同一または異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基であるケイ素化合物
(ii)シロキサン結合生成基Yの1個がアルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基であり、3個が、互いに同一または異なって、水酸基または水素原子であるケイ素化合物
(iii)シロキサン結合生成基Yの2個が、互いに同一または異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基であり、2個が、互いに同一または異なって、水酸基または水素原子であるケイ素化合物
(iv)シロキサン結合生成基Yの3個が、互いに同一または異なって、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アラルキルオキシ基またはアリールオキシ基であり、1個が、水酸基または水素原子であるケイ素化合物
(v)シロキサン結合生成基Yの4個が、互いに同一または異なって、水酸基または水素原子であるケイ素化合物
これらのうち、態様(i)が好ましい。
【0019】
上記態様(i)のケイ素化合物としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等が挙げられる。アルコキシ基を形成する炭化水素基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、分岐したものは立体障害が起きやすくなるので、直鎖状の炭化水素基であることが好ましい。
【0020】
上記態様(ii)のケイ素化合物としては、H3SiOCH3、H3SiOC25、H3SiOC37等が挙げられる。
上記態様(iii)のケイ素化合物としては、H2Si(OCH32、H2Si(OC252、H2Si(OC372等が挙げられる。
【0021】
上記態様(iv)のケイ素化合物としては、HSi(OCH33、HSi(OC253、HSi(OC373等が挙げられる。
また、上記態様(v)のケイ素化合物としては、HSi(OH)3、H2Si(OH)2、H3Si(OH)、SiH4、Si(OH)4等が挙げられる。
【0022】
上記ケイ素化合物(B)としては、すべてのシロキサン結合生成基がアルコキシ基である化合物が好ましく、特に好ましい化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびテトラプロポキシシランである。
上記ケイ素化合物(B)としてテトラプロポキシシランを使用すると、有機ケイ素化合物(C)の製造中の増粘、ゲル化等を起こりにくくすることができる。従って、テトラプロポキシシランはケイ素化合物(B)として最も好ましいものである。
【0023】
1−3.有機ケイ素化合物(C)の製造方法
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)の製造方法は、アルカリ性条件下、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物(A)と、上記一般式(2)で表されるケイ素化合物(B)とを、ケイ素化合物(A)1モルに対してケイ素化合物(B)0.3〜2.8モルの割合で加水分解・縮合する工程(以下、「第1工程」という。)を含む。この第1工程では、通常、ケイ素化合物(A)、ケイ素化合物(B)、水、および、アルカリ性条件とするための塩基性物質が用いられる。本発明は、第1工程の後、更に、以下の工程を含むことができる。
(第2工程)第1工程で得られた反応液を、酸により中和する工程。
(第3工程)第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去する工程。
(第4工程)第3工程で得られた濃縮液と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも有機ケイ素化合物(C)を洗浄用有機溶剤に溶解する工程。
(第5工程)第4工程で得られた有機系液を水により洗浄した後、有機ケイ素化合物(C)を含む有機溶液を得る工程。
(第6工程)第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程。
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)の製造方法は、第1工程、第2工程および第5工程を含むことが好ましい。
【0024】
1−3−1.第1工程
第1工程は、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)とを、上記のように、特定の割合で使用してアルカリ性条件において加水分解・縮合させる工程である。
反応に使用されるケイ素化合物(A)1モルに対するケイ素化合物(B)の割合の下限は、0.3モルであり、好ましくは0.4モル、より好ましくは0.5モル、更に好ましくは0.9モルである。また、反応に使用されるケイ素化合物(A)1モルに対するケイ素化合物(B)の割合の上限は、2.8モルであり、好ましくは2.6モル、より好ましくは2.5モル、更に好ましくは2.1モルである。
上記ケイ素化合物(B)の使用割合が上記範囲にあると、得られる有機ケイ素化合物(C)を含有する組成物が硬化するときの体積収縮が抑制される。尚、上記ケイ素化合物(B)の使用割合が0.9モル以上である場合には、体積収縮の抑制効果のみならず、有機ケイ素化合物(C)を含有する組成物を基材上で硬化させたときに、硬化物と基材との優れた密着性を得ることができる。
【0025】
上記第1工程において、ケイ素化合物(B)の使用割合が少なすぎると、得られる有機ケイ素化合物(C)において無機部分の割合が低くなり、ケイ素化合物(C)を含有する組成物を用いて得られた硬化物が表面硬度や耐熱性の不十分なものとなる。一方、ケイ素化合物(B)の使用割合が多すぎると、有機ケイ素化合物(C)の製造中に増粘またはゲル化して製造ができなかったり、得られた有機ケイ素化合物(C)が増粘またはゲル化しやすく保存安定性の悪いものになったりする。
【0026】
第1工程において用いられる水は、原料ケイ素化合物(ケイ素化合物(A)および加水分解性基を有する場合のケイ素化合物(B))に含まれる加水分解性基を加水分解するために必要な成分である。使用される水の量は、上記加水分解性基1モルに対して、好ましくは0.5〜10モル、より好ましくは1〜5モルである。
水の使用量が少なすぎると、反応が不十分となる場合がある。水の使用量が多すぎると、反応後に水を除去する工程が長くなり経済的ではない。
【0027】
第1工程における反応条件は、反応系をアルカリ性にすることであり、即ち、pHは7を超えることが必須であり、好ましくはpH8以上、より好ましくはpH9以上である。尚、上限は、通常、pH13である。反応系を上記pHとすることにより、保存安定性に優れた有機ケイ素化合物を高い収率で製造することができる。
第1工程における反応条件が、酸性条件下(pH7未満)である場合には、加水分解・縮合させて得られる有機ケイ素化合物は、保存安定性に劣るものとなり、保存中にゲル化することもある。
また、中性条件下(pH7付近)では、加水分解・縮合反応が進行しにくく、有機ケイ素化合物を収率よく得ることができない。
尚、pH13を超える条件で製造する場合には、pH8〜pH13の場合と同様、有機ケイ素化合物を高収率で得ることができるが、その条件とするための塩基性物質の使用量が多くなるため、経済的ではなく、また反応終了後に反応液を中和するコストもアップする。
【0028】
第1工程において、反応系をアルカリ性にするために用いられる塩基性物質は、ケイ素化合物(A)とケイ素化合物(B)との加水分解・縮合反応を円滑に進行させるための反応触媒として作用する。上記塩基性物質の例としては、アンモニア、有機アミン類、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、コリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらのうち、触媒活性の良好な第4級窒素原子を有するアンモニウム化合物が好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウムがより好ましい。
【0029】
第1工程における塩基性物質の使用量は、反応系を、上記好ましいpHに調整するために、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)の合計モル数を100モルとして、1〜20モルであることが好ましい。塩基性物質の量が少なすぎると加水分解・縮合反応の進行が遅く、反応時間が長くなる場合もある。塩基性物質の使用量が多すぎても、反応効率の向上効果は顕著でなく、経済的ではない。
【0030】
第1工程において、反応溶媒として有機溶剤が使用されることが好ましい。反応溶媒として好適な有機溶剤の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;リグロイン等が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で用いてよいし、2種類以上が併用されてもよい。アルコール類は、原料ケイ素化合物および生成物の溶解性が良好であり、好ましい有機溶剤である。
【0031】
第1工程における反応温度は、好ましくは0℃〜120℃、より好ましくは10℃〜100℃、更に好ましくは40℃〜80℃である。反応温度が40℃〜80℃である場合には、高分子量成分等の副生を抑制することができるとともに、ゲル化しにくく、後述する数平均分子量を有し且つ分子量分布がよりシャープである有機ケイ素化合物(C)を得ることができる。
また、第1工程における反応時間は、好ましくは1〜30時間、より好ましくは4〜24時間である。
【0032】
第1工程の加水分解・縮合反応で得られる、本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、ケイ素化合物(A)における加水分解性基およびケイ素化合物(B)におけるシロキサン結合生成基によって形成されたシロキサン結合を有するポリシロキサンである。上記第1工程において、ケイ素化合物(A)における加水分解性基およびケイ素化合物(B)におけるシロキサン結合生成基の大部分は、シロキサン結合に転化される。
【0033】
1−3−2.第2工程
第2工程は、第1工程で得られた、有機ケイ素化合物(C)を含む反応液を、酸により、中和する工程である。酸の例としては、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸や、酢酸、蟻酸、乳酸、アクリル酸、シュウ酸等のカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸が挙げられる。これらのうち、硝酸および硫酸は、オキセタニル基の安定性に悪影響を及ぼしにくく(オキセタニル基への付加反応が起こりにくく)、水洗により比較的除去されやすいので好ましい酸である。酸の使用量は、有機ケイ素化合物(C)を含む反応液のpHに応じて、適宜、選択されるが、塩基性物質1当量に対して、好ましくは1〜1.1当量、より好ましくは1〜1.05当量である。
【0034】
1−3−3.第3工程
第3工程は、第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去する工程である。この工程では、常圧(大気圧)または減圧の条件における蒸留が行われる。第3工程において除去される揮発性成分としては、第1工程の反応溶媒として使用された有機溶剤が主である。反応溶媒として、例えば、メタノールのように水と混和する有機溶剤が使用された場合には、後述する水による洗浄(第5工程)に支障があるため、通常、この第3工程が実施される。
尚、第1工程における反応溶媒が、アルコール等の水と混和する有機溶剤であったとしても、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤を多量に追加することで有機ケイ素化合物(C)の洗浄を行うことが可能な場合には、この第3工程及び第4工程を省略することができる。
また、第1工程における反応溶媒が、水と混和しないものであり、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤である場合、および、上記反応溶媒が、アルコール等の水と混和する溶媒であったとしても、中和液の水による洗浄に適した有機溶剤を多量に追加することで有機ケイ素化合物(C)の洗浄を行うことが可能な場合には、第3工程および第4工程を省略することができる。
【0035】
1−3−4.第4工程
第4工程は、第3工程で得られた濃縮液と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも有機ケイ素化合物(C)を洗浄用有機溶剤に溶解する工程である。洗浄用有機溶剤としては、有機ケイ素化合物(C)を溶解し、水と混和しない化合物を使用する。水と混和しないとは、水と洗浄用有機溶剤とを十分混合した後、静置すると、水層及び有機層に分離することを意味する。
好ましい洗浄用有機溶剤としては、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;トルエン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。
上記洗浄用有機溶剤は、第1工程において用いられた反応溶媒と同一であってよいし、異なってもよい。
【0036】
1−3−5.第5工程
第5工程は、第4工程で得られた有機系液を水により洗浄した後、有機ケイ素化合物(C)を含む有機溶液を得る工程である。尚、この有機系液は、第3工程および第4工程が省略された場合、第2工程で得られた液を意味する。この第5工程によって、第1工程において使用された塩基性物質および第2工程において使用された酸ならびにそれらの塩は、水層に含まれ、有機層から実質的に除かれる。
【0037】
尚、上記第5工程は、水と有機系液とを混合および接触させる工程、ならびに、水層と有機層(有機ケイ素化合物(C)を含む層)とを分離し、有機層(有機溶液)を回収する工程を含む。これらの工程において、水と有機系液との混合および接触が不十分であったり、水層と有機層との分離が不十分であったりすると、得られる有機ケイ素化合物(C)は、不純物を多く含むものとなったり安定性の劣るものになったりする。
第5工程における、水と有機系液とを混合および接触させる工程の温度は、特に制限されないが、好ましくは0℃〜70℃、より好ましくは10℃〜60℃である。また、水層と有機層とを分離する工程の温度もまた、特に限定されないが、好ましくは0℃〜70℃、より好ましくは10℃〜60℃である。2つの工程における処理温度を40℃〜60℃程度とすることは、水層及び有機層の分離時間の短縮効果があるため、好ましい。
【0038】
1−3−6.第6工程
第6工程は、第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程である。この工程では、常圧(大気圧)または減圧の条件における蒸留が行われる。第6工程において除去される揮発性成分としては、第4工程で用いた洗浄用有機溶剤であるが、他に揮発性成分が含まれていれば、この工程において、すべて同時に除去される。
以上の工程によって、本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は単離される。
尚、この有機ケイ素化合物(C)が有機溶剤に溶解されてなる溶液とする場合には、上記第4工程で用いた洗浄用有機溶剤を、そのまま有機ケイ素化合物(C)の溶媒として使用することができ、第6工程は省略することができる。
【0039】
本発明の製造方法において、第1工程により得られた有機ケイ素化合物(C)は、その後の各工程における処理中または処理後において、変質又は変性することなく、安定である。
【0040】
本発明の製造方法において、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)の縮合率は、92%以上とすることができ、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上である。シロキサン結合生成基(加水分解性基を含む)は実質的に全てが縮合されていることが最も好ましいが、縮合率の上限は、通常、99.9%である。
【0041】
上記のように、公知の方法によるQモノマーとTモノマーとの共重縮合反応においては、両者を均一に反応させることは難しく、ゲルが生じやすい。このため、トリメチルアルコキシシランやヘキサメチルジシロキサン等の、シロキサン結合生成基を1つのみ有するケイ素化合物(「Mモノマー」とも呼ばれる)を、末端封止剤として作用させることでゲル化を回避する方法が知られている。
しかしながら、所定量以上のMモノマーを併用することで、ゲル化は回避できても、得られる有機ケイ素化合物の無機的性質は低下する傾向にある。本発明では、アルカリ性条件下、ケイ素化合物(A)であるTモノマー及び/又はDモノマーと、ケイ素化合物(B)であるQモノマーとをゲル化させずに共重縮合させているが、無機的性質を下げない程度の低い割合でMモノマーを併用することは可能である。具体的には、第1工程の際に、Mモノマーの使用量を、ケイ素化合物(A)及びケイ素化合物(B)の合計モル数100モルに対して、10モル以下とすることができる。
【0042】
1−4.有機ケイ素化合物(C)
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、オキセタニル基を有し、シロキサン結合を有するポリシロキサンである。そして、この有機ケイ素化合物(C)は、[SiO4/2]で表されるシリケート単位を含む化合物である。このシリケート単位は、1個のケイ素原子に4個の酸素原子が結合した構成単位であり、ケイ素化合物(B)に由来する構成単位である。
また、本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、更に、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位、および/または、[R01SiO2/2]で表されるジオルガノシロキサン単位を含んでもよい。シルセスキオキサン単位およびジオルガノシロキサン単位は、それぞれ、1個のケイ素原子に3個および2個の酸素原子が結合した構成単位であり、ケイ素化合物(A)に由来する構成単位である。
【0043】
従って、本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)としては、[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位とを含む化合物、[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R01SiO2/2]で表されるジオルガノシロキサン単位とを含む化合物、および、[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位と、[R01SiO2/2]で表されるジオルガノシロキサン単位とを含む化合物、が挙げられる。各構造単位の含有割合は、ケイ素化合物(A)及び(B)の使用割合によって決定される。
【0044】
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、得られる硬化膜の表面硬度等に優れることから、[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位とを含む化合物であることが好ましい。
【0045】
また、本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、その構造中において、有機部分および無機部分を有する。ケイ素化合物(A)を表す上記一般式(1)におけるR0およびR1は有機部分を形成する。また、ケイ素化合物(A)に由来する加水分解性基(アルコキシ基等)、および、ケイ素化合物(B)に由来する加水分解性基(アルコキシ基等)、の少なくとも一方のうちの一部が残存する場合は、これも有機部分である。上記有機部分以外の部分は、炭素原子を含まない無機部分である。
【0046】
上記のように、本発明の製造方法において、縮合率を92%以上とすることができるので、無機部分の割合が高く、ポリシロキサン構造が十分に形成された有機ケイ素化合物(C)が得られる。縮合率が低い場合、この有機ケイ素化合物を用いて得られる硬化膜の硬度が低下する傾向がある。また、有機ケイ素化合物の貯蔵安定性が低下する傾向がある。
【0047】
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)が、シロキサン結合生成基(加水分解性基を含む)を有する場合には、その残存割合は、1H NMR(核磁気共鳴スペクトル)チャートから算出することができる。尚、「加水分解性基の全てが実質的に縮合されている」ことは、例えば、得られた有機ケイ素化合物(C)の1H NMRチャートにおいてシロキサン結合生成基に基づくピークがほとんど観察されないことにより確認することができる。
【0048】
例えば、有機ケイ素化合物(C)の製造に用いられるケイ素化合物(A)が、上記一般式(1)におけるnが0である化合物(加水分解性基を3個有するTモノマー)である場合には、ケイ素化合物(B)(シロキサン結合生成基を4個有するQモノマー)との加水分解・縮合反応の結果、得られる有機ケイ素化合物(C)は、構成単位としてシルセスキオキサン単位およびシリケート単位を有する化合物となる。
上記の場合、有機ケイ素化合物(C)は、部分的にラダー(はしご)状、かご状またはランダム状の構造をとることができる。
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)は、オキセタニル基を有するため、カチオン硬化性を備える。有機ケイ素化合物(C)をカチオン硬化させることにより、表面硬度が大きく耐熱性に優れた硬化膜を与えることができる。
【0049】
本発明で用いる有機ケイ素化合物(C)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは1,000〜20,000、より好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは2,000〜6,000である。
【0050】
本発明において、好ましい有機ケイ素化合物(C)(以下、「有機ケイ素化合物(C1)」という。)は、上記一般式(1)においてR0が上記一般式(3)で表される有機基であり、nが0であり、且つ、少なくとも1個、好ましくは2個、より好ましくは3個のXがOR基(Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基およびアリール基から選ばれた炭化水素基である。)であるケイ素化合物(A)と、上記一般式(2)において少なくとも1個、好ましくは2個、より好ましくは3個、特に好ましくは4個のYがOR基(Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基およびアリール基から選ばれた炭化水素基である。)であるケイ素化合物(B)とを、アルカリ性条件下、加水分解・縮合して得られた化合物である。そして、この有機ケイ素化合物(C1)に含まれる、製造原料であるケイ素化合物(A)および(B)に由来するOR基の割合は、製造前のこれらの化合物に含まれるOR基の合計量に対して、好ましくは0〜8%、より好ましくは0.1〜6%であり、更に好ましくは0.5〜5%である。上記製造原料を、酸性条件下、加水分解・縮合して得られた有機ケイ素化合物における上記割合は8%を超えることが多く、製造後の安定性が十分ではなく、また、硬化性組成物としたときに得られる硬化物の硬度等も十分ではなかった。
しかしながら、上記有機ケイ素化合物(C1)によると、保存安定性に優れ、上記有機溶剤に対する溶解性が高いことで作業性に優れ、硬化性組成物としたときに得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等にも優れる。
【0051】
2.カチオン硬化性組成物
本発明のカチオン硬化性組成物は、上記の有機ケイ素化合物(C)と、カチオン重合開始剤とを含有することを特徴とする。
本発明のカチオン硬化性組成物は、更に、他のカチオン重合性を有する化合物(以下、「カチオン重合性化合物(D)」という。)、増感剤、チクソトロピー性付与剤、シランカップリング剤、消泡剤、充填剤、無機ポリマー、有機ポリマー、有機溶剤等を含有してもよい。
有機ケイ素化合物(C)は、カチオン硬化性組成物の硬化性、得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等の観点から、好ましくは、上記有機ケイ素化合物(C1)である。
【0052】
2−1.カチオン重合開始剤
カチオン重合開始剤は、紫外線等の光が照射されてカチオンを生成する化合物(光カチオン重合開始剤)または加熱されてカチオンを生成する化合物(熱カチオン重合開始剤)であり、公知の化合物を用いることができる。以下、光カチオン重合開始剤を含有する組成物を、光カチオン硬化性組成物といい、熱カチオン重合開始剤を含有する組成物を、熱カチオン硬化性組成物という。
【0053】
2−1−1.光カチオン重合開始剤
光カチオン重合開始剤としては、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ジアゾニウム塩、セレニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。これらのうち、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩が好ましく、特に、芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩は、熱的に比較的安定であり、これらを含有する硬化性組成物が保存安定性のよいものとなりやすいため、好ましい光カチオン重合開始剤である。
光カチオン重合開始剤がヨードニウム塩またはスルホニウム塩である場合、対アニオンの例としては、BF4-、AsF6-、SbF6-、PF6-、B(C654-等が挙げられる。
【0054】
上記芳香族ヨードニウム塩としては、(トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム・ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウム・テトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム・テトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム・ヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム・テトラフルオロボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
上記芳香族ヨードニウム塩としては、市販品を用いることができ、GE東芝シリコーン社製「UV−9380C」(商品名)、ローディア社製「RHODOSIL PHOTOINITIATOR2074」(商品名)、和光純薬工業株式会社製「WPI-016」、「WPI−116」および「WPI−113」(商品名)等が挙げられる。
【0055】
上記芳香族スルホニウム塩としては、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム・ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム・ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム・テトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・ビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
上記芳香族スルホニウム塩としては、市販品を用いることができ、例えば、市販のトリアリールスルホニウム塩(芳香族スルホニウム塩)としては、ダウ・ケミカル日本株式会社製の、「サイラキュアUVI−6990」、「サイラキュアUVI−6992」および「サイラキュアUVI−6974」(商品名)、株式会社アデカ製の「アデカオプトマーSP−150」、「アデカオプトマーSP−152」、「アデカオプトマーSP−170」および「アデカオプトマーSP−172」(商品名)、和光純薬工業株式会社製の「WPAG−593」、「WPAG−596」、「WPAG−640」および「WPAG−641」(商品名)、等が挙げられる。
【0056】
上記芳香族ジアゾニウム塩としては、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロボーレート等が挙げられる。
【0057】
光カチオン硬化性組成物に含有される光カチオン重合開始剤の含有量は、上記有機ケイ素化合物(C)を含むカチオン重合性化合物の全体100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜7質量部、更に好ましくは0.2〜5質量部である。上記光カチオン重合開始剤の含有量がこの範囲にあると、硬化性組成物の硬化性(短時間で硬化でき、エネルギーコストを抑制できる)、得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等に優れる。
【0058】
2−1−2.熱カチオン重合開始剤
熱カチオン重合開始剤としては、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、第4アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、スルホニウム塩が好ましい。
熱カチオン重合開始剤における対アニオンの例としては、AsF6-、SbF6-、PF6-、B(C654-等が挙げられる。
【0059】
上記スルホニウム塩としては、トリフェニルスルホニウム四フッ化ホウ素、トリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン、トリフェニルスルホニウム六フッ化ヒ素、トリ(4−メトキシフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム六フッ化ヒ素等が挙げられる。
上記スルホニウム塩としては、市販品を用いることができ、アデカ社製「アデカオプトンCP−66」および「アデカオプトンCP−77」(商品名)、三新化学工業社製「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」および「サンエイドSI−100L」(商品名)、等が挙げられる。
【0060】
上記ホスホニウム塩としては、エチルトリフェニルホスホニウム六フッ化アンチモン、テトラブチルホスホニウム六フッ化アンチモン等が挙げられる。
上記アンモニウム塩型化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−ベンジルアニリニウム四フッ化ホウ素、N,N−ジメチル−N−ベンジルピリジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−ベンジルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)ピリジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)ピリジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウム六フッ化アンチモン、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウム六フッ化アンチモン等が挙げられる。
【0061】
熱カチオン硬化性組成物に含有される熱カチオン重合開始剤の含有量は、上記有機ケイ素化合物(C)を含むカチオン重合性化合物の全体100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜7質量部、更に好ましくは0.2〜5質量部である。上記熱カチオン重合開始剤の含有量がこの範囲にあると、硬化性組成物の硬化性、得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等に優れる。
【0062】
2−2.カチオン重合性化合物(D)
このカチオン重合性化合物(D)は、有機ケイ素化合物(C)以外のカチオン重合性を有する化合物であり、例えば、エポキシ化合物(エポキシ基を有する化合物)、他のオキセタニル基を有する化合物(他のオキセタニル基含有化合物)、ビニルエーテル基を有する化合物(ビニルエーテル化合物)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。エポキシ化合物のうち、脂環構造を有するエポキシ化合物は、上記有機ケイ素化合物(C)におけるオキセタニル基のカチオン重合を円滑に進める効果を奏するため、特に好ましい。
【0063】
上記エポキシ化合物としては、単官能エポキシ化合物、多官能エポキシ化合物等が挙げられる。
多官能エポキシ化合物としては、ジシクロペンタジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(例えば、ダイセル化学工業社製「セロキサイド2021P」(商品名))、ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンの両末端がグリシジルエーテル化された化合物、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、m−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、p−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ポリブタジエンの内部エポキシ化物、ダイセル化学工業社製「エポフレンド」(商品名)等の、スチレン−ブタジエン共重合体における、二重結合が一部エポキシ化された化合物、KRATON社製「L−207」(商品名)等の、エチレン−ブチレン共重合体部およびイソプレン重合体部を備えるブロック共重合体における、イソプレン重合体部の一部がエポキシ化された化合物、ダイセル化学工業社製「EHPE3150」(商品名)等の、4−ビニルシクロヘキセンオキサイドの開環重合体において、ビニル基をエポキシ化した構造の化合物、Mayaterials社製「Q8シリーズ」における「Q−4」等の、グリシジル基を有するかご状シルセスキオキサン、Mayaterials社製「Q8シリーズ」における「Q−5」等の、エポキシ基を有する脂環タイプのかご状シルセスキオキサン、エポキシ化植物油等が挙げられる。
【0064】
また、単官能エポキシ化合物としては、1,2−エポキシヘキサデカン等のα−オレフィンエポキサイド、フェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0065】
上記他のオキセタニル基含有化合物としては、単官能オキセタン化合物、多官能オキセタン化合物等が挙げられる。
多官能オキセタン化合物としては、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン(XDO)、ジ[2−(3−オキセタニル)ブチル]エーテル(DOX)、1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(HQOX)、1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(RSOX)、1,2−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン(CTOX)、4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル(4,4’−BPOX)、2,2’−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕ビフェニル(2,2’−BPOX)、3,3’,5,5’−テトラメチル〔4,4’−ビス(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル(TM−BPOX)、2,7−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ナフタレン(2,7−NpDOX)、1,6−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロヘキサン(OFH−DOX)、3(4),8(9)−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル〕−トリシクロ[5.2.1.02.6]デカン、1,2−ビス[2−[(1−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]エチルチオ]エタン、4,4’−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メチル]チオジベンゼンチオエーテル、2,3−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル]ノルボルナン(NDMOX)、2−エチル−2−[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル]−1,3−0−ビス[(1−エチル−3−オキセタニル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール(TMPTOX)、2,2−ジメチル−1,3−0−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール(NPGOX)、2−ブチル−2−エチル−1,3−0−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−プロパン−1,3−ジオール、1,4−0−ビス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]−ブタン−1,4−ジオール、2,4,6−0−トリス[(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル]シアヌル酸、ビスフェノールAおよび3−エチル−3−クロロメチルオキセタン(以下、「OXC」と略す)のエーテル化物(BisAOX)、ビスフェノールFおよびOXCのエーテル化物(BisFOX)、フェノールノボラックおよびOXCのエーテル化物(PNOX)、クレゾールノボラックおよびOXCのエーテル化物(CNOX)、オキセタニルシルセスキオキサン(OX−SQ)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのシリコンアルコキサイド(OX−SC)等が挙げられる。
【0066】
また、単官能オキセタン化合物としては、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(EHOX)、3−エチル−3−(ドデシロキシメチル)オキセタン(OXR−12)、3−エチル−3−(オクタデシロキシメチル)オキセタン(OXR−18)、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(POX)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(OXA)等が挙げられる。
【0067】
上記ビニルエーテル化合物としては、単官能ビニルエーテル化合物、多官能ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
多官能ビニルエーテル化合物としては、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ノボラック型ジビニルエーテル等が挙げられる。
また、単官能ビニルエーテル化合物としては、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート、シクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0068】
本発明のカチオン硬化性組成物が、カチオン重合性化合物(D)を含有する場合、このカチオン重合性化合物(D)の含有量は、上記有機ケイ素化合物(C)100質量部に対して、好ましくは0.1〜1,000質量部、より好ましくは1〜300質量部、更に好ましくは2〜100質量部である。上記カチオン重合性化合物(D)の含有量がこの範囲にあると、硬化性組成物の硬化性、得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等に優れる。
【0069】
2−3.増感剤
本発明のカチオン硬化性組成物が、光カチオン硬化性組成物である場合、光増感剤を含有することができる。
光増感剤としては、光ラジカル重合開始剤が好適に使用できる。本発明において用いることができる典型的な光増感剤は、クリベロがアドバンスド イン ポリマーサイエンス(Adv.in Polymer.Sci.,62,1(1984))で開示している化合物である。具体的には、ピレン類、ペリレン類、アクリジンオレンジ類、チオキサントン類、2−クロロチオキサントン類、ペンゾフラビン類等が挙げられる。これらのうち、チオキサントン類が、オニウム塩等の光カチオン重合開始剤の活性を高める効果を奏するため、特に好適である。
【0070】
本発明の光カチオン硬化性組成物が、光増感剤を含有する場合、この光増感剤の含有量は、上記有機ケイ素化合物(C)を含むカチオン重合性化合物の全体100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜8質量部、更に好ましくは3〜6質量部である。上記カチオン重合性化合物(D)の含有量がこの範囲にあると、硬化性組成物の硬化性、得られる硬化物の硬度、耐摩耗性等に優れる。
【0071】
2−4.有機溶剤
この有機溶剤としては、上記有機ケイ素化合物(C)を溶解する化合物、および、上記有機ケイ素化合物(C)を溶解しない化合物のいずれでもよく、また両者を併用してもよい。上記有機溶剤が、上記のような、有機ケイ素化合物(C)を溶解する化合物である場合や両者を併用して有機ケイ素化合物(C)を溶解する混合物である場合には、得られるカチオン硬化性組成物を用いた作業性、成膜性等に優れる。
【0072】
本発明に係る光カチオン硬化性組成物および熱カチオン硬化性組成物は、原料成分を混合することにより得ることができる。混合の際には、従来、公知の混合機等を用いればよい。具体的には、反応用フラスコ、チェンジ缶式ミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、インクロール、押出機、3本ロールミル、サンドミル等が挙げられる。
【0073】
本発明のカチオン硬化性組成物は、活性エネルギー線を照射する方法、加熱する方法、活性エネルギー線照射および加熱を併用する方法等の方法によってカチオン硬化させることができる。
活性エネルギー線の具体例としては、電子線、紫外線、可視光等が挙げられるが、紫外線が特に好ましい。
【0074】
3.硬化膜の製造方法ならびにこの硬化膜を有する物品およびその製造方法
本発明の硬化膜の製造方法は、上記本発明のカチオン硬化性組成物を基材の表面に塗布し、得られた被膜を硬化させる工程を備えることを特徴とする。
また、本発明の硬化膜を有する物品の製造方法は、上記本発明のカチオン硬化性組成物を基材の表面に塗布し、得られた被膜を硬化させる工程を備えることを特徴とする。
カチオン硬化性組成物が有機溶剤を含有する場合は、通常、塗膜形成後、有機溶剤を揮発させてから硬化させる。
【0075】
基材としては、特に限定されず、その構成材料は、有機材料及び無機材料のいずれでもよい。具体的には、金属、合金、ガラス、セラミックス、樹脂、紙、木、コンクリート等を使用することができる。また、その形状としては、フィルム、シート、板(平板、曲板)、立方体、直方体、角錐、円錐、線状体(直線、曲線等)、環状体(円形、多角形等)、管、球等の定形体、凹凸、溝、貫通孔、角部等を有する不定形体が挙げられる。
上記基材は、樹脂を含む基板(通常、平板である)であることが好ましい。この樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂;ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂等が挙げられるが、好ましくはポリカーボネート樹脂である。
【0076】
被膜の形成方法もまた、特に限定されず、基材の構成材料、形状等に応じて、適宜、選択される。基材がフィルム、シート等の平板状である場合には、アプリケーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター等を用いて、被膜を形成することができる。また、ディップコート法、スキャット法、スプレー法等を用いることもできる。
【0077】
本発明において、カチオン硬化性組成物が、光硬化性であるか、熱硬化性であるかにより、その硬化方法および硬化条件が選択される。また、硬化条件(光硬化の場合、光源の種類、光照射量等であり、熱硬化の場合、加熱温度、加熱時間等である。)は、カチオン硬化性組成物に含有されるカチオン重合開始剤の種類、量、他のカチオン重合性化合物の種類等によって、適宜、選択される。
【0078】
上記カチオン硬化性組成物が、光カチオン硬化性組成物である場合、その硬化方法としては、従来、公知の光照射装置等によって光照射を行えばよい。この光照射装置としては、例えば、波長400nm以下に発光分布を有する、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ、LED等が挙げられる。
上記被膜への光照射強度は、目的、用途等に応じて選択すればよく、光カチオン重合開始剤の活性化に有効な光波長領域(光カチオン重合開始剤の種類によって異なるが、通常、300〜420nmの波長の光が用いられる。)における光照射強度は、好ましくは0.1〜100mW/cm2である。
また、照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、上記被膜への光照射時間も、目的、用途等に応じて選択すればよく、上記光波長領域における光照射強度および光照射時間の積として表される積算光量が10〜5,000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。より好ましくは500〜3,000mJ/cm2であり、更に好ましくは2,000〜3,000mJ/cm2である。従って、積算光量が上記範囲にあれば、組成物の硬化が円滑に進行し、均一な硬化物を容易に得ることができる。
尚、光照射後0.1〜数分後には、ほとんどの被膜成分は、カチオン重合により指触乾燥するが、カチオン重合反応を促進するために、加熱を併用してもよい。
【0079】
上記カチオン硬化性組成物が、熱カチオン硬化性組成物である場合、その硬化方法及び硬化条件は、特に限定されない。
硬化温度は、好ましくは80℃〜200℃であり、より好ましくは100℃〜180℃である。上記範囲内で、温度を一定としてもよいし、昇温させてもよい。更には、昇温と降温とを組み合わせてもよい。硬化時間は、熱カチオン重合開始剤の種類、他の成分の含有割合等により適宜、選択されるが、通常、30〜300分であり、好ましくは60〜240分である。上記好ましい条件で被膜を硬化させることにより、膨れ、クラック等のない均一な硬化膜を形成することができ、この硬化膜を有する物品を得ることができる。
【0080】
本発明の硬化膜を有する物品において、硬化膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、更に好ましくは5〜20μmである。
【実施例】
【0081】
1.オキセタニル基を有する有機ケイ素化合物の製造および評価
(製造例1)
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール400gと、下記式(4)で表される3−エチル−3−((3−(トリメトキシシリル)プロポキシ)メチル)オキセタン(以下、「TMSOX」という。)55.68g(0.2mol)と、テトラメトキシシラン(以下、「TMOS」という。)30.44g(0.2mol)とを仕込んだ後、1.7質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液53.64g(水3mol、水酸化テトラメチルアンモニウム10mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH9で24時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液を6.61g(10.5mmol)加えて、反応液を中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノール)および水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をメチルイソブチルケトンに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下でメチルイソブチルケトン溶液から溶剤(メチルイソブチルケトン)を留去し、無色の半固体の有機ケイ素化合物(C−1)を得た。収量は48.5gであった。
【化5】

【0082】
有機ケイ素化合物(C−1)を1H NMR分析およびIR(赤外吸収)分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
1H NMR分析は、有機ケイ素化合物(C−1)約1gおよび内部標準物質であるヘキサメチルジシロキサン(以下、「HMDSO」という)約100mgを、それぞれ精秤して混合し、HMDSOのプロトンを基準として行った。この1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)、即ち、TMSOXに由来する構造単位(Tモノマー単位)の含有量および有機ケイ素化合物(C−1)のアルコキシ基の含有量を求め、これらを基にしてケイ素化合物(B)、即ち、TMOSに由来する構造単位(Qモノマー単位)の含有量を計算した。その結果、得られた有機ケイ素化合物(C−1)は、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−1)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して1.0%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−1)において、無機部分の割合は42%であった。
【0083】
また、上記有機ケイ素化合物(C−1)の数平均分子量(Mn)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したところ、Mn4,000(ポリスチレン換算値)であった(表1参照)。
【0084】
上記有機ケイ素化合物(C−1)を、大気中、60℃の暗所に3日間保管後、25℃におけるTHF及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」という。)への溶解性を確認したところ、溶解性はいずれも良好であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−1)を、PGMEAに溶解させて、50質量%の溶液を調製した後、60℃暗所で静置した。一定時間経過後の数平均分子量および粘度は、表2に示すとおりであり、経時変化は、ほとんどなかった。粘度は、東京計器社製E型粘度計「VISCONIC−EMD」(型式名)により測定した。
【0085】
製造例2
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール56.6gと、TMSOX8.35g(0.03mol)と、TMOS2.28g(0.015mol)とを仕込んだ後、2.5質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液4.1g(水0.225mol、水酸化テトラメチルアンモニウム1.13mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH9で、2時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液を0.72g(1.14mmol)加えて、反応液を中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノール)および水を留去して、得られた残渣(反応生成物)を酢酸エチルに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下で酢酸エチル溶液から溶剤(酢酸エチル)を留去し、無色透明な液体の有機ケイ素化合物(C−2)を得た。収量は7.34gであった。
【0086】
有機ケイ素化合物(C−2)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−2)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−2)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して1.5%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−2)において、無機部分の割合は34%であった。
【0087】
また、上記有機ケイ素化合物(C−2)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表2に示した。
【0088】
製造例3
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール60gと、TMSOX8.35g(0.03mol)と、テトラプロポキシシラン19.8g(0.075mol)とを仕込んだ後、1.2質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液20.5g(水1.13mol、水酸化テトラメチルアンモニウム2.6mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH9で、2時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液を1.7g(2.7mmol)加えて、反応液を中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノールおよびプロパノール)と水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をメチルイソブチルケトンに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下でメチルイソブチルケトン溶液から溶剤(メチルイソブチルケトン)を留去し、無色透明な半固体の有機ケイ素化合物(C−3)を得た。収量は11.4gであった。
【0089】
有機ケイ素化合物(C−3)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−3)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−3)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して3.0%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−3)において、無機部分の割合は56%であった。
【0090】
また、上記有機ケイ素化合物(C−3)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表2に示した。
【0091】
製造例4
攪拌機および温度計を備えた反応器に、1−プロパノール41gと、テトラメトキシシラン6.23g(0.04mol)とを仕込んだ後、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液0.3g(メタノール8mmol、水酸化テトラメチルアンモニウム0.8mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH9で1時間反応させた。その後、TMSOX5.52g(0.02mol)を加え、更に水4.07gを加えた。次いで、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液1.24g(メタノール29mmol、水酸化テトラメチルアンモニウム3.4mmol)を加え、撹拌しながら、温度23℃、pH9で24時間、そして、60℃で4時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液2.78g(4.4mmol)加え、反応液を中和した。次いで、この反応液を、酢酸エチル160gと水180gの混合液の中に加え抽出を行い、反応生成物を含む酢酸エチル層を回収した。この酢酸エチル層を水洗することで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下で酢酸エチル溶液から溶剤(酢酸エチル)を留去し、無色透明な固体の有機ケイ素化合物(C−4)を得た。収量は6.5gであった。
【0092】
有機ケイ素化合物(C−4)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−4)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−4)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して1.0%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−4)において、無機部分の割合は53%であった。
【0093】
また、上記有機ケイ素化合物(C−4)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表2に示した。
【0094】
製造例5
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール203.41gと、TMSOX27.98g(0.1mol)と、TMOS22.84g(0.15mol)とを仕込んだ後、水酸化テトラメチルアンモニウムの25質量%メタノール溶液6.38g(メタノール0.15mol、水酸化テトラメチルアンモニウム17.5mmol)と、水16.22g(0.9mol)と、メタノール22.6gとからなる混合液を徐々に加えた。この混合物を、撹拌しながら、温度20℃、pH9で2時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液11.60g(18.4mmol)を加えて中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノール)および水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をPGMEAに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下でPGMEA溶液からPGMEA等を留去し、無色の固体の有機ケイ素化合物(C−5)を得た。収量は27.25g(収率91%)であった。
【0095】
有機ケイ素化合物(C−5)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−5)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−5)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して3.2%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−5)において、無機部分の割合は47%であった。
【0096】
有機ケイ素化合物(C−5)をGPC分析したところ、カラムの検出限界(分子量40万)を超える成分が含まれていることが分かった。GPCクロマトグラムにおいて、カラムの検出限界を超える成分(保持時間=6〜10分)の面積と、検出限界を超えない成分(保持時間=11〜16分:この範囲のMn=2,900)の面積との比は5:5であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−5)の粘度およびその経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表2に示した。
【0097】
製造例6
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール203.41gと、TMSOX27.98g(0.1mol)と、TMOS22.84g(0.15mol)とを仕込んだ後、水酸化テトラメチルアンモニウムの25質量%メタノール溶液6.38g(メタノール0.15mol、水酸化テトラメチルアンモニウム17.5mmol)と、水16.22g(0.9mol)と、メタノール22.6gとからなる混合液を徐々に加えた。この混合物を、撹拌しながら、温度60℃、pH9で2時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液11.60g(18.4mmol)を加えて中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノール)および水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をPGMEAに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下でPGMEA溶液からPGMEA等を留去し、無色の固体の有機ケイ素化合物(C−6)を得た。収量は27.55(収率92%)であった。
【0098】
有機ケイ素化合物(C−6)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−6)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−6)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して3.0%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−6)において、無機部分の割合は47%であった。
【0099】
また、上記有機ケイ素化合物(C−6)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表2に示した。
【0100】
比較製造例1
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール430gと、TMSOX55.68g(0.2mol)と、TMOS30.44g(0.2mol)とを仕込んだ後、0.7質量%塩酸水溶液25.5g(水1.4mol、塩化水素4.8mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH5で18時間反応させた。反応液に酸が残存していなかったため、塩基性物質による中和は行わなかった。その後、減圧下で溶剤(メタノール)を留去し、無色透明な液体の有機ケイ素化合物(C−7)を得た。酸が残存していなかったため、反応生成物の水洗浄は行わなかった。収量は60.2gであった。
【0101】
有機ケイ素化合物(C−7)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−7)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−7)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して9.0%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−7)において、無機部分の割合は39%であった。
【0102】
また、上記有機ケイ素化合物(C−7)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表3に示した。
【0103】
比較製造例2
酸触媒である塩化水素の量を10mmolに変えた以外は、比較製造例1と同様にして、有機ケイ素化合物(C−8)を製造した。
【0104】
有機ケイ素化合物(C−8)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−8)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−8)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して9.1%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−8)において、無機部分の割合は39%であった。
【0105】
また、上記有機ケイ素化合物(C−8)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表3に示した。
【0106】
比較製造例3
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール60gと、TMSOX8.35g(0.03mol)と、テトラプロポキシシラン23.8g(0.09mol)とを仕込んだ後、1.1質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液24.5g(水1.35mol、水酸化テトラメチルアンモニウム3mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH9で2時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液を1.92g(3.06mmol)加えて、反応液を中和した。次いで、減圧下で有機溶剤(メタノール)と水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をメチルイソブチルケトンに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。その後、減圧下でメチルイソブチルケトン溶液から溶剤(メチルイソブチルケトン)を留去したところ、ゲル化してしまい有機ケイ素化合物は得られなかった。
【0107】
比較製造例4
攪拌機および温度計を備えた反応器に、TMSOX133.6g(0.48mol)と、イソプロピルアルコール118.4gとを仕込んだ後、窒素でバブリングし、混合原料の内温を80℃に調整した。その後、この混合原料を、撹拌しながら、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウム4.38g(12mmol)および水22.66gを滴下し、温度80℃、pH9で1時間反応させた。次いで、反応液に、25質量%硫酸2.47gを加えて、反応液を中和した。その後、減圧下で有機溶剤(メタノール)と水を留去して、得られた残渣(反応生成物)をメチルイソブチルケトンに溶解させ、水洗を行うことで塩類や過剰の酸を除去した。次いで、減圧下でメチルイソブチルケトン溶液から溶剤(メチルイソブチルケトン)を留去し、無色透明な粘性液体の有機ケイ素化合物(C−10)を得た。収量は101.3gであった。
上記有機ケイ素化合物(C−10)において、無機部分の割合は25%であった。
【0108】
また、上記有機ケイ素化合物(C−10)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表3に示した。
【0109】
比較製造例5
攪拌機および温度計を備えた反応器に、メタノール56.6gと、TMSOX8.35g(0.03mol)と、TMOS2.28g(0.015mol)とを仕込んだ後、0.7質量%塩酸水溶液25.5g(水1.4mol、塩化水素4.8mmol)を徐々に加えた。この混合物を、攪拌しながら、温度25℃、pH5で18時間反応させた。反応液に酸が残存していなかったため、塩基性物質による中和は行わなかった。その後、減圧下で溶剤(メタノール)を留去し、無色透明な液体の有機ケイ素化合物(C−11)を得た。酸が残存していなかったため、反応生成物の水洗浄は行わなかった。収量は5.44gであった。
【0110】
有機ケイ素化合物(C−11)を1H NMR分析およびIR分析し、オキセタニル基が存在することを確認した。
また、この有機ケイ素化合物(C−11)についても、製造例1と同様にした1H NMR分析により、ケイ素化合物(A)およびケイ素化合物(B)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることが確認された。
有機ケイ素化合物(C−11)の1H NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したメトキシ基)の含有量は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して9.3%に相当する量であった。
また、上記有機ケイ素化合物(C−11)において、無機部分の割合は31%であった。
【0111】
また、上記有機ケイ素化合物(C−11)の数平均分子量及び粘度並びにこれらの経時変化を、製造例1と同様にして測定し、それぞれ、表1及び表3に示した。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
2.硬化性組成物の製造および評価
実施例1
有機ケイ素化合物(C−1)90質量部と、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート10質量部と、光カチオン重合開始剤である(トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート2質量部とを、溶剤であるPGMEA102質量部に溶解させて、50質量%のPGMEA溶液(光カチオン硬化性組成物)を調製した。
【0116】
上記光カチオン硬化性組成物について、硬化性、硬度および耐摩耗性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0117】
(1)硬化性試験
バーコーターを用いて、光カチオン硬化性組成物をガラス基板および鋼板に塗布し、約50℃で5分間加熱して溶剤(PGMEA)を揮発させて約15μmの厚さの被膜を形成させた。その後、大気中、下記条件により紫外線照射を行って硬化させ、表面のタックがなくなるまでの照射回数を測定した。
[紫外線照射条件]
ランプ:80W/cm高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:10m/min
【0118】
(2)鉛筆硬度試験
光カチオン硬化性組成物を、ガラス板および鋼板に塗布し、約50℃で5分間加熱して溶剤(PGMEA)を揮発させて約15μmの厚さの被膜を形成させた。その後、上記(1)硬化性試験と同じ条件で紫外線硬化(紫外線照射回数3回)させて硬化膜を得た。
この硬化膜を、温度23℃、湿度60%の恒温室内に24時間静置した後、JIS K5600−5−4に準じて表面の鉛筆硬度を測定した。
【0119】
(3)ユニバーサル硬度試験
光カチオン硬化性組成物を、ガラス板および鋼板に塗布し、約50℃で5分間加熱して溶剤(PGMEA)を揮発させて約15μmの厚さの被膜を形成させた。その後、上記(1)硬化性試験と同じ条件で紫外線硬化(紫外線照射回数3回)させて硬化膜を得た。
この硬化膜を、温度23℃、湿度60%の恒温室内に24時間静置した後、最大荷重1mN/20secでユニバーサル硬度を測定した。
【0120】
(4)テーバー摩耗試験
バーコーターを用いて、光カチオン硬化性組成物を、ポリカーボネート板に塗布し、約50℃で5分間加熱して溶剤(PGMEA)を揮発させて約15μmの厚さの被膜を形成させた。その後、上記(1)硬化性試験と同じ条件で紫外線硬化(紫外線照射回数5回)させて硬化膜を得た。
この硬化膜を、温度23℃、湿度60%の恒温室内に24時間静置した後、以下の条件においてテーバー摩耗試験を実施した。
試験条件は、摩耗輪として「CS−10F」を使用し、各250gの荷重をかけ、500回転で摩耗減量を測定した。尚、測定ごとに「ST−11」(砥石)にて摩耗輪のリフェーシングを実施した。
【0121】
また、上記条件におけるテーバー摩耗試験の前後の硬化膜のヘイズを、23℃±2℃、50%±5%RHの恒温室内に設置された日本電色工業(株)製ヘーズメーター「NDH2000」(型式名)を用いて、JIS K7105、JIS K7361−1およびJIS K7136に準拠して測定した。
【0122】
実施例2
有機ケイ素化合物(C−1)に代えて、有機ケイ素化合物(C−4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン硬化性組成物を調製し、鉛筆硬度試験、ユニバーサル硬度試験及び摩耗減量測定を除く各種評価を行った(表4参照)。尚、テーバー摩耗試験用硬化膜の製造に際しては、紫外線照射回数を15回とした。
【0123】
実施例3
有機ケイ素化合物(C−1)に代えて、有機ケイ素化合物(C−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン硬化性組成物を調製し、鉛筆硬度試験、ユニバーサル硬度試験及び摩耗減量測定を除く各種評価を行った(表4参照)。尚、テーバー摩耗試験用硬化膜の製造に際しては、紫外線照射回数を15回とした。
【0124】
実施例4
有機ケイ素化合物(C−1)100質量部と、光カチオン重合開始剤である(トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート2質量部とを、溶剤であるPGMEA102重量部に溶解させて、50質量%のPGMEA溶液(光カチオン硬化性組成物)を調製し、鉛筆硬度試験、ユニバーサル硬度試験及び摩耗減量測定を除く各種評価を行った。(表4参照)。尚、テーバー摩耗試験用硬化膜の製造に際しては、紫外線照射回数を15回とした。
【0125】
実施例5
有機ケイ素化合物(C−1)90質量部と、下記式(5)で表されるエポキシ化合物Q−4(Mayaterials社製「Q8シリーズ」のうちの1種、グリシジル基を有するかご状シルセスキオキサン)10質量部と、カチオン重合開始剤である(トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート2質量部とを、溶剤であるPGMEA102重量部に溶解させて、50質量%のPGMEA溶液(光カチオン硬化性組成物)を調製し、鉛筆硬度試験、ユニバーサル硬度試験及び摩耗減量測定を除く各種評価を行った。(表4参照)。尚、テーバー摩耗試験用硬化膜の製造に際しては、紫外線照射回数を15回とした。
【化6】

【0126】
実施例6
有機ケイ素化合物(C−1)に代えて、有機ケイ素化合物(C−4)を用いた以外は、実施例5と同様にして、光カチオン硬化性組成物を調製し、鉛筆硬度試験、ユニバーサル硬度試験及び摩耗減量測定を除く各種評価を行った(表4参照)。尚、テーバー摩耗試験用硬化膜の製造に際しては、紫外線照射回数を15回とした。
【0127】
比較例1
有機ケイ素化合物(C−1)に代えて、有機ケイ素化合物(C−7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、光カチオン硬化性組成物を調製し、各種評価を行った(表4参照)。
【0128】
【表4】

【0129】
表4から分かるように、本発明の製造方法により得られた有機ケイ素化合物を含有する組成物(実施例1〜6)は、硬度及び耐摩耗性に優れた硬化膜を与えた。その理由は、有機ケイ素化合物(C)が、4官能シランの加水分解物(Qモノマー単位)を構成単位として含み、無機部分の割合が高いためと考えられる。また、実施例1〜6の硬化膜における、ヘイズの増加量(ΔH)が小さいのは、硬化膜に傷がつきにくいことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の硬化性組成物は、表面硬度が大きく、耐摩耗性に優れた硬化物を与えることができる。そして、この組成物は、カチオン硬化性を有し、該組成物の硬化物は、ハードコート、各種基材の保護膜、レジスト被膜、各種高分子材料の改質剤、プラスチックの強化剤、各種コーティング材料の改質剤、コーティング材料用原料、低誘電率材料、絶縁膜材料、耐熱性付与材料、液晶用原料、半導体封止材料、光導波路用材料、ハードマスク材料等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるケイ素化合物(A)と下記式(2)で表されるケイ素化合物(B)とを、ケイ素化合物(A)1モルに対してケイ素化合物(B)0.3〜2.8モルの割合で、アルカリ性条件において加水分解・縮合反応させて得られるオキセタニル基を有するケイ素化合物、およびカチオン重合開始剤、を含有するカチオン硬化性組成物。
【化1】

[式中、R0はオキセタニル基を有する有機基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数6〜10のアリール基またはオキセタニル基を有する有機基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である。]
SiY4 (2)
[式中、Yはシロキサン結合生成基である。]
【請求項2】
[SiO4/2]で表されるシリケート単位と、[R0SiO3/2]で表されるシルセスキオキサン単位とを含む請求項1に記載のオキセタニル基を有する有機ケイ素化合物、およびカチオン重合開始剤、を含有するカチオン硬化性組成物。
【請求項3】
0が下記式(3)で表される有機基である、請求項1または2に記載のカチオン硬化性組成物。
【化2】

(式(3)において、R3は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、R4は炭素数2〜6のアルキレン基である。)
【請求項4】
式(1)におけるXがアルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリールオキシ基である、請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項5】
オキセタニル基を有するケイ素化合物を得るための加水分解・縮合条件は、アルカリ性条件とするための塩基性物質が水酸化テトラアルキルアンモニウムである請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項6】
オキセタニル基を有するケイ素化合物を得るための加水分解・縮合条件は、アルカリ性条件とするための塩基性物質の使用量が、上記ケイ素化合物(A)および上記ケイ素化合物(B)の合計モル数を100モルとした場合に、1〜20モルである、請求項1〜5のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物において、さらに他のカチオン重合性化合物を含有し、該カチオン重合性化合物が、エポキシ化合物、他のオキセタニル基含有化合物、および、ビニルエーテル化合物、から選ばれた少なくとも1種である、カチオン硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物において、カチオン重合開始剤は光カチオン重合開始剤である、光カチオン硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のカチオン硬化性組成物を基材の表面に塗布し、得られた組成物被膜をカチオン硬化させる工程を備える、硬化物被膜の製造方法。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂を含む基板に、請求項9の方法で硬化物被膜を被覆する、硬化膜を有する物品の製造方法。
【請求項11】
ポリカーボネート樹脂を含む基板に、請求項10に記載の方法で硬化物被膜を被覆した、硬化物被膜を有する物品。

【公開番号】特開2009−209358(P2009−209358A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21528(P2009−21528)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】