説明

ガスタンクの製造方法

【課題】ガスタンクの製造において、誘導加熱を用いて繊維強化樹脂層を全体に亘り十分に熱硬化する。
【解決手段】ガスタンクの製造方法であって、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を内容器20の外周部に巻回して内容器20の外周部に繊維強化樹脂層21を形成する第1の工程と、繊維強化樹脂層21を熱硬化する第2の工程と、を有する。第1の工程において、熱硬化性樹脂には、導電性材料Bが添加されている。第2の工程は、内容器20の周囲に巻かれた誘導加熱コイル40により繊維強化樹脂層21を誘導加熱することにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧ガスタンクが用いられている。
【0003】
この種のガスタンクの製造時には、略楕円体状の内容器の外周部に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維が巻き付けられて、厚みのある繊維強化樹脂(FRP(Fiber Reinforced Plastics))層が形成される。その後当該繊維強化樹脂層が熱硬化されている(特許文献1参照)。この熱硬化は、オーブンにガスタンクを収容し、熱風により繊維強化樹脂層を加熱することにより行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−191904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようにオーブンにより熱硬化を行う場合、熱硬化処理に数時間程度と時間がかかる。特に大型のガスタンクの場合には非常に時間がかかり、大型のガスタンクの量産には向いていない。
【0006】
そこで、熱硬化時間を短縮するため、発明者らは、熱風に代えて誘導加熱により繊維強化樹脂層を熱硬化することを提案する。この誘導加熱は、誘導加熱コイルを内容器の周囲に配置し、当該誘導加熱コイルに電流を流すことによって行われる。しかしながら、この誘導加熱を用いた場合、繊維強化樹脂層の内層側(内容器側)が十分に熱硬化されないことがある。この理由として、繊維強化樹脂層の内層側に行くにつれ、誘導加熱コイルから離れるため、誘導加熱効率が低下すること、繊維強化樹脂層の厚み方向の繊維間には、絶縁体である熱硬化性樹脂が入り込んでおり導電性が弱いため、繊維強化性樹脂層の内層側では誘導電流による渦電流が十分に生じないことなどが考えられる。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ガスタンクの製造において、誘導加熱を用いて繊維強化樹脂層を全体に亘り十分に熱硬化することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、ガスタンクの製造方法であって、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を内容器の外周部に巻回して内容器の外周部に繊維強化樹脂層を形成する第1の工程と、前記繊維強化樹脂層を熱硬化する第2の工程と、を有し、前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂には、導電性材料が添加されており、前記第2の工程は、前記内容器の周囲に巻かれた誘導加熱コイルにより前記繊維強化樹脂層を誘導加熱することにより行われる。
【0009】
本発明によれば、繊維強化樹脂層の熱硬化が誘導加熱を用いて行われるため、繊維強化樹脂層内に生じる渦電流により繊維強化樹脂層を短時間で加熱して熱硬化できる。また、熱硬化性樹脂に導電性材料が添加されているため、繊維強化樹脂層の厚み方向の繊維間の導電性が向上する。これにより繊維強化樹脂層の内層側にも十分に渦電流が生じ、繊維強化樹脂層の全体を加熱できる。この結果、誘導加熱を用いて繊維強化樹脂層を全体に亘り十分に熱硬化することができる。
【0010】
前記導電性材料には、線状片、面状片、又は不定形粒子が用いられてもよい。かかる場合、繊維強化樹脂層の厚み方向の繊維間において、導電性の線状片同士、面状片同士或いは不定形粒子同士が互いに接触しやすくなるため、少量の導電性材料で繊維強化樹脂層の導電性が向上し十分な熱硬化を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘導加熱を用いて繊維強化樹脂層を全体に亘り十分に熱硬化できるので、ガスタンクの製造時間を短縮し、なおかつガスタンクの強度を向上できる。この結果、大型のガスタンクの量産を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガスタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】ガスタンクの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】ガスタンクの繊維強化樹脂層の拡大縦断面図である。
【図4】ガスタンクの外周に誘導加熱コイルが巻かれた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るガスタンクを搭載した燃料電池自動車1の模式図である。
【0014】
燃料電池自動車1には、例えば3つのガスタンク2が車体のリア部に搭載されている。ガスタンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各ガスタンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。ガスタンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば水素ガスである。なお、ガスタンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0015】
図2は、ガスタンク2の構成の概略を示す縦断面図である。ガスタンク2は、例えば略楕円体状に形成され、径の同じ円筒状の胴部2aと、当該胴部2aの両端に接続され当該胴部2aから離れるにつれて縮径する略半球体状のドーム部2bを有している。ガスタンク2のタンク軸上の両端部には、口金10が設けられている。
【0016】
ガスタンク2は、内側に略楕円体状の樹脂製の内容器(ライナ)20を有している。内容器20は、例えばナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド系樹脂、及び、ポリエチレン系樹脂により成形されている。なお、本実施の形態では、ガスタンク2の内容器は、樹脂製であるが、アルミ製であってもよい。内容器20の外周部のほぼ全面(口金10を除いた部分)には、繊維強化樹脂層21が形成されている。
【0017】
なお、繊維強化樹脂層21の樹脂として、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂などが用いられている。また、繊維としては、例えば炭素繊維が用いられている。
【0018】
次に、ガスタンク2の製造方法について説明する。先ず熱硬化性樹脂が含浸された繊維を内容器20の外周部に巻回して、内容器20の外周部に厚みのある繊維強化樹脂層21が形成される(第1の工程)。この際、熱硬化性樹脂には、導電性材料、例えばアスペクト比が10以上の短繊維などの線状片、フレーク状粒子などの面状片、或いは、多様な形状の粒子が混在する不定形粒子が添加されている。この結果、例えば図3に示すように繊維強化樹脂層21の繊維30間には、熱硬化性樹脂Aと共に導電性材料Bが充填される。
【0019】
次に、図4に示すように内容器20の周囲に、タンク軸周りに巻かれた誘導加熱コイル40が配置される。なお、誘導加熱コイル40は、繊維強化樹脂層21の繊維と同方向に巻かれている。その後、誘導加熱コイル40に電流が流され、繊維強化樹脂層21が誘導加熱される。これにより、熱硬化性樹脂が硬化し、繊維強化樹脂層21が熱硬化される(第2の工程)。
【0020】
以上の実施の形態によれば、繊維強化樹脂層21の熱硬化が誘導加熱を用いて行われるため、繊維強化樹脂層21内に生じる渦電流により繊維強化樹脂層21を短時間で加熱して熱硬化できる。また、熱硬化性樹脂に導電性材料Bが添加されているため、繊維強化樹脂層21の厚み方向の繊維30間の導電性が向上する。これにより、繊維強化樹脂層21の内層側にも十分に渦電流が生じ、繊維強化樹脂層21の全体を加熱できる。この結果、誘導加熱を用いて繊維強化樹脂層21を全体に亘り十分に熱硬化することができる。
【0021】
また、上記実施の形態によれば、導電性材料Bに、線状片、面状片、又は不定形粒子が用いられているので、繊維強化樹脂層21の厚み方向の繊維30間において、導電性の線状片同士、面状片同士或いは不定形粒子同士が互いに接触しやすくなる。よって、少量の導電性材料で繊維強化樹脂層21の導電性が向上し十分な熱硬化を行うことができる。
【0022】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0023】
1 燃料電池自動車
2 ガスタンク
20 内容器
21 繊維強化樹脂層
40 誘導加熱コイル
A 熱硬化性樹脂
B 導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタンクの製造方法であって、
熱硬化性樹脂が含浸された繊維を内容器の外周部に巻回して内容器の外周部に繊維強化樹脂層を形成する第1の工程と、
前記繊維強化樹脂層を熱硬化する第2の工程と、を有し、
前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂には、導電性材料が添加されており、
前記第2の工程は、前記内容器の周囲に巻かれた誘導加熱コイルにより前記繊維強化樹脂層を誘導加熱することにより行われる、ガスタンクの製造方法。
【請求項2】
前記導電性材料には、線状片、面状片、又は不定形粒子が用いられる、請求項1に記載のガスタンクの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76391(P2012−76391A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224647(P2010−224647)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】