説明

キャリア付き極薄銅箔

【課題】 高温でキャスティングまたは熱圧着して製造する銅張積層板から、キャリア箔を容易に剥離できるキャリア付き極薄銅箔を提供すること。
【解決手段】 本発明は、拡散防止層と、剥離層と、電気銅めっきにより形成された極薄銅箔をこの順序に積層してなるキャリア付き極薄銅箔、及び極薄銅箔の表面が粗化処理されているキャリア付き極薄銅箔である。本発明はまた、キャリア付き極薄銅箔が、樹脂基材に積層されている銅張積層板、前記銅張積層板の極薄銅箔上に、配線パターンが形成されたプリント配線板、並びにプリント配線板を複数積層して形成される多層プリント配線板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファインパターン用途のプリント配線基板の製造時に用いるキャリア付き極薄銅箔に関し、特に高温でキャスティングまたはプレスして製造する樹脂基材においても、銅張積層板を製造することが可能であり、さらに、COガスレーザを用いて銅箔上から直接穴あけ加工が可能なキャリア付き極薄銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、次のようにして製造されている。
まず、ガラス・エポキシ樹脂やガラス・ポリイミド樹脂などから成る電気絶縁性の基板の表面に、表面回路形成用の薄い銅箔を置いたのち、加熱・加圧して銅張積層板を製造する。
【0003】
ついで、この銅張積層板に、スルーホールの穿設、スルーホールめっきを順次行ったのち、該銅張積層板の表面にある銅箔にエッチング処理を行って所望の線幅と所望の線間ピッチを備えた配線パターンを形成し、最後に、ソルダレジストの形成やその他の仕上げ処理が行われる。
【0004】
このとき用いる銅箔に対しては、基材に熱圧着される側の表面を粗化面とし、この粗化面で該基材に対するアンカー効果を発揮させ、これにより、該基材と銅箔との接合強度を高めてプリント配線基板としての信頼性を確保することがなされている。
【0005】
さらに最近では、銅箔の粗化面をあらかじめエポキシ樹脂のような接着用樹脂で被覆し、該接着用樹脂を半硬化状態(Bステージ)の絶縁樹脂層にした樹脂付き銅箔を表面回路形成用の銅箔として用い、その絶縁樹脂層の側を基材に熱圧着してプリント配線基板、とりわけビルドアップ配線基板を製造することが行われている。
【0006】
また、各種電子部品の高度集積化に対応して、こうしたビルドアップ配線基板では、配線パターンも高密度化が要求され、微細な線幅や線間ピッチの配線から成る配線パターン、いわゆるファインパターンのプリント配線基板が要求されるようになってきた。たとえば、半導体パッケージに使用されるプリント配線基板の場合は、線幅や線間ピッチがそれぞれ30μm前後という高密度極微細配線を有するプリント配線基板が要求されている。
【0007】
このようなプリント配線形成用の銅箔として、厚い銅箔を用いると、基材の表面までエッチングするために必要な時間が長くなり、その結果、形成される配線パターンにおける側壁の垂直性が崩れて、次式:
Ef=2H/(B−T)
ここで、Hは銅箔の厚さ、Bは形成された配線パターンのボトム幅、
Tは形成された配線パターンのトップ幅である、
で示されるエッチングファクタ(Ef)が小さくなる。
【0008】
このような問題は、形成する配線パターンにおける配線の線幅が広い場合にはそれほど深刻な問題にならないが、線幅が狭い配線パターンの場合には断線に結びつくことも起こり得る。
【0009】
一方、通常の9μm銅箔、或いは12μm銅箔といった比較的薄い銅箔をハーフエッチングによって、さらに3〜5μm程度に薄くした銅箔の場合は、確かにEf値を大きくすることができる。しかしながら、基材との接合強度を確保するために、この銅箔の基材側の表面は、通常、Rzで5〜6μm程度の粗さをもった粗化面になっている。この粗化面の突起部が基材に喰い込むため、この喰い込んだ突起部を完全にエッチング除去するためには長時間のエッチング処理が必要とされる。ここで、表面粗さRzとは、JIS−B−0601−1994「表面粗さの定義と表示」の「5.1 十点平均粗さ」の定義において規定されたRzを意味する。
【0010】
該喰い込んだ突起部を完全に除去しないと、それが残銅となり、配線パターンの線間ピッチが狭い場合には絶縁不良を引き起こす。
【0011】
したがって、該喰い込んだ突起部をエッチング除去する過程で、既に形成されている配線パターンの側壁のエッチングも進行するので、結局はEf値が小さくなってしまう。
【0012】
また、9μmや12μmといった比較的薄い銅箔の場合は、その機械的強度が低いので、プリント配線基板の製造時に皺や折れ目が発生しやすく、さらには銅箔切れを起こすこともあり、取り扱いに細心の注意を払わなければならないという問題もある。
【0013】
このように、Ef値が大きく、かつ基材との接合強度も高いファインな配線パターンが形成されているプリント配線基板を製造することは、実際問題として、かなり困難である。とくに、市販されている銅箔を用いて、線間や線幅が30μm前後の高密度極微細配線の配線パターンを形成することは事実上不可能であり、それを可能にする銅箔の開発が強く望まれているのが実状である。
【0014】
こうしたファインパターン用途に使われる銅箔としては、厚さ9μm以下、特に5μm以下の銅箔が好適である。
【0015】
このようなファインパターン用途に使われる極薄銅箔としては、キャリア銅箔の片面に剥離層を介して極薄銅箔層を直接電着させた複合箔が提案されている(特許文献1)。また、粗面を有するキャリア銅箔の粗面側にクロメート被覆層、銅−ニッケル合金層及び極薄銅箔層が設けられた複合箔が提案されている(特許文献2)。
【0016】
また、本件出願人は先に、キャリア付き極薄銅箔であって、表面粗さ:Rzが1.5μm以下の銅箔をキャリアとし、その表面に剥離層と電気銅めっき層をこの順序で積層してなり、該電気銅めっき層の最外層表面が粗化面とされていることを特徴とする銅箔(特許文献3)、ならびに、銅箔をキャリアとし、その表面に剥離層と電気銅めっき層をこの順序に積層してなるキャリア付き極薄銅箔であって、該キャリア箔と該電気銅めっき層との左右エッジ近傍部分がそれらの中央部に比較して強く結合せしめられていること、および該電気銅めっき層の最外層表面が粗面化とされていること、を特徴とするキャリア付き極薄銅箔(特許文献4)を出願した。
【0017】
これらのキャリア付き極薄銅箔の使用例を第1図に示す。キャリア付き極薄銅箔は、キャリアとしての箔1(以下、「キャリア箔」という)の片面に、剥離層2と電気銅めっき層4がこの順序で形成されたものであって、該電気銅めっき層の最外層表面4aが粗化面になっている。そして、その粗化面4aをガラスエポキシ基材(図示せず)に重ね合わせたのち全体を熱圧着し、ついでキャリア箔1を剥離・除去して該電気銅めっき層の該キャリア箔との接合側を露出せしめ、そこに所定の配線パターンを形成するという態様で使用される。
【0018】
キャリア箔1は、前記の薄い電気銅めっき層4を基板と接合するまで、バックアップする補強材(キャリア)として機能する。さらに、剥離層2は、前記の電気銅めっき層4と該キャリア箔を分離する際の剥離をよくするための層であり、該キャリア箔を剥離除去する際に該キャリア箔と一体的に除去されるので、該キャリア箔をきれいにかつ容易に剥がすことができるようになっている。
【0019】
一方、ガラスエポキシ基材と張り合わされた電気銅めっき層4は、スルーホールの穿設及びスルーホールめっきが順次行われる。次いで、該銅張積層板の表面にある銅箔にエッチング処理を行って所望の線幅と所望の線間ピッチを備えた配線パターンを形成し、最後に、ソルダレジストの形成やその他の仕上げ処理が行われる。
【0020】
こうしたキャリア付き極薄銅箔は、ファインパターンを形成することが可能で、しかも、取り扱い時のハンドリング性に優れるという理由から、特にビルドアップ配線板を製造する際に適しているとの評価を得ている。しかし、その一方で、以下のような問題点が顕在化してきた。
【0021】
(1)FR−4グレードのような耐熱性ガラスエポキシ樹脂積層板の場合は、熱圧着温度が170℃前後であり、キャリア付き銅箔を樹脂基材に積層したのち、キャリア箔を剥がすことができないということはあり得ない。しかし、高耐熱性樹脂、とりわけポリイミド樹脂を基材とする場合は、加工温度がキャスティング法または熱圧着法のいずれの場合も300℃以上の高温であるため、剥離層として、特許文献1に示されたクロムめっき層を使用すると、クロムがキャリア銅中に拡散して、キャリア箔と極薄銅箔とが密着してしまい、剥離ができなくなってしまうという問題がある。
【0022】
この場合の剥離ができなくなるという現象の機構は、次のように考えられる。
高温加熱による極薄銅箔側へのクロムの拡散は発生するが、キャリア箔中への拡散に比べ少ないようである。これは、クロム層表面が薄いクロム水和酸化物層により覆われているためであると考えられる。これに対して、キャリア箔側へはクロムの拡散が起こり、キャリア箔表面は銅含有量が多い銅−クロム合金表面となる。この銅−クロム合金中の銅と、極薄銅箔の銅が金属結合により結合し、その結果、キャリア箔と極薄銅箔が密着してしまうと推測される。
【0023】
また、特許文献2に示されたクロメート被覆層、銅−ニッケル合金層の剥離層の場合も同様であって、この場合も銅−ニッケル合金中の銅と極薄銅箔の銅が金属結合により結合し、その結果、キャリア箔と極薄銅箔とが密着してしまうと推測される。
【0024】
(2)ビルドアップ配線板のビア(バイアホール)形成には、高生産性等の理由からレーザビア法が主流である。レーザの種類としては、COガスレーザ、Xeレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、Arレーザなどが好ましい。
【0025】
このうち、現在、主に使用されているのはCOガスレーザである。しかし、COガスレーザが発振する光の波長は10,600nm前後の赤外線の領域であるため、銅箔表面は、この領域の光および電磁波はほとんど反射してしまう。従って、銅箔の上から直接穴あけ加工ができない。このため、穴あけ加工部分の銅箔を前もってエッチングにて除去し、その後、基材に穴あけ加工を行うコンフォーマルマスク法が取られている。
【0026】
コンフォーマルマスク法は、第1図の電気銅めっき層4のビヤホールを開けたい部分を残してエッチングレジストを被覆し、一度銅箔をエッチングして除去してから、COガスレーザで樹脂部分を燃焼により穴あけ加工をするという煩雑な工程をとる。したがって、COガスレーザを用いて、銅箔上から直接穴明け加工ができれば、穴明け加工を簡略化することが可能である。
【特許文献1】特公昭53−16329号号公報
【特許文献2】特公平8−18401号号公報
【特許文献3】特開2000−269637号公報
【特許文献4】特開2000−331537号公報
【0027】
本発明は、上記2つの問題点を解決する、ファインパターン用途のプリント配線基板の製造時に用いるキャリア付き極薄銅箔を提供することを目的とする。すなわち、高温でキャスティングまたは熱圧着して製造する銅張積層板から、キャリア箔を容易に剥離でき、また、COガスレーザを用いて極薄銅箔上から直接穴あけ加工ができる、キャリア付き極薄銅箔を提供することである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、キャリア箔の表面に、剥離層と、拡散防止層と、電気銅めっき層をこの順序に積層してなり、該電気銅めっきの表面が粗面化されているキャリア付き極薄銅箔である。また、キャリア箔の表面に、拡散防止層と、剥離層と、電気銅めっき層をこの順序に積層してなり、該電気銅めっきの表面が粗面化されているキャリア付き極薄銅箔という構成もとることができる。なお、本明細書における「電気銅めっき層」とは、電気銅めっきで形成された極薄銅箔を意味し、以下では、単に、「極薄銅箔」という場合もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明において使用されるキャリア箔には、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、銅箔、銅合金箔等が使用可能であるが、コストの点から、電解銅箔、電解銅合金箔、圧延銅箔又は圧延銅合金箔などが好ましい。
【0030】
剥離層は、クロム層またはクロム水和酸化物層であることが好ましい。また、拡散防止層は、COガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい層であることが好ましい。このCOガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい層は、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タングステン、銅、アルミニウム及びリンからなる群より選ばれ、単一金属の層でもよく、或いは2種以上の金属の合金層又は1種以上の金属酸化物層であることが好ましい。
【0031】
本発明の、キャリア付き極薄銅箔の一例を第2図に示す。このキャリア付き極薄銅箔Aは、キャリア箔1の片面に、剥離層2と、拡散防止層3と、電気銅めっき層4とをこの順序で積層したものであり、該電気銅めっき層4の最外層表面4aが粗化面になっている。そして、キャリア付き極薄銅箔Aは、その粗化面4aを基材(図示せず)に重ね合わせたのち全体を熱圧着し、ついでキャリア箔1を剥離・除去して、該電気銅めっき層の該キャリア側との接合面を露出せしめ、そこに所定の配線パターンを形成する態様で使用される。
【0032】
キャリア箔1は、前記の薄い電気銅めっき層4が基材に接合されるまで、バックアップする補強材(キャリア)として機能する。キャリア箔自体は、厚さが1mm以下であることが好ましく、さらに、7μmから70μm程度が好ましい。これより薄い場合は、キャリアとしての機能をなさなくなる。一方、これより厚い場合は、キャリアとして機能上、問題はないが、剥離層の形成および電気銅めっき層の形成のために連続してめっきする場合、連続めっきライン内での箔の張力を大きくする必要があり、大がかりな設備が必要となり好ましくない。
【0033】
本発明における剥離層2は、電気銅めっき層4と該キャリア箔を剥離する際の剥離性をよくするための層であり、該キャリア箔をきれいにかつ容易に剥がすことができるようになっている。この剥離層は、該キャリア箔と一体的に除去される。剥離層2は、クロム層またはクロム水和酸化物層であることが好ましい。
【0034】
クロム層の場合は、公知のクロムめっき浴、例えば、サージェント浴と呼ばれるめっき浴により、電気めっきにより形成されることが好ましい。
【0035】
キャリア箔を剥離する際の剥離強度は、クロム層の付着量により影響される。これは、めっき付着量が多いと、キャリア箔表面を完全にクロムめっきが覆った状態になり、剥離強度は、クロムめっき表面とこの後に付着される金属めっき、合金めっき或いは酸化物との結合を引き剥がす力になると考えられる。
【0036】
これに対して、めっき付着量が少ない場合には、キャリア箔表面が完全にクロムめっきで覆われておらず、剥離強度は、僅かに露出している下地の金属及びクロムめっきと、この上に付着させる金属めっき、合金めっき、或いは酸化物との結合力を引き剥がす力になると考えられる。
【0037】
従って、クロムめっきの付着量によりキャリアの剥離強度は変化するが、ある程度、クロムめっきを付着させるとそれ以上は変化しなくなる。クロムめっきの付着量としては、50mg/dm2以下とすることが好ましい。これは、これ以上めっき付着量を多くしてもキャリアの剥離強度が変化しないからである。
【0038】
クロム水和酸化物層の場合は、pH7より大のアルカリの処理液に浸漬または電解により形成することが必要である。これは、この後、拡散防止層と、電気銅めっき層をめっきするが、pH7未満の酸性領域の処理液に浸漬または電解により形成したものの上にめっきすると、拡散防止層と、電気銅めっき層のピンホールの数が多くなるからである。
【0039】
電気銅めっき層のピンホールの数が多いと、樹脂基材に貼り合わせ、キャリアを引き剥がしてプリント配線板を製造する場合、不良が発生するケースが多くなる。
【0040】
その不良とは、配線をエッチングにより形成した時に、極薄銅箔にピンホールがあると、大きなピンホールの場合には、その部分の配線が断線になったりする不良である。
【0041】
pH7より大のアルカリの処理液に浸漬または電解により形成したものの上にめっきすると、拡散防止層と、電気銅めっき層のピンホールの数は著しく減少する。これは、アルカリの処理液を使用すると、酸性の処理液を使用した場合に比較して、クロム水和酸化物層の厚さが薄く均一になり、また、クロム酸化物と水分子の結合の割合が異なり、導電性が改良されるためではないかと推測される。
【0042】
剥離層にクロムめっき層を使用した場合には、拡散防止層と、電気銅めっき層のピンホールの数が非常に少なくなる。これは、クロムめっき層は導電性を有するため、この上にめっきを行う際に、めっき電流がクロムめっき層に均一に流れ、その上に形成されるめっき層も均一に析出が起こり、ピンホールが出来にくいと考えられる。
【0043】
これに対して、pH7未満の酸性の処理液に浸漬または電解により形成したものの上にめっきする場合は、クロム水和酸化物層がpH7より大のアルカリの処理液で処理した場合に比べて、皮膜そのものの絶縁性が高いためか、さらにその上に拡散防止層と、電気銅めっき層を被覆すると、めっき電流が均一に流れず、ピンホールの発生数が多くなる。
【0044】
また、このピンホールの数は、pH7より大のアルカリの処理液に浸漬または電解により形成した場合でも、付着量により影響を受ける。ピンホールの発生しにくいクロム水和酸化物の付着量は、Crに換算して0.1mg/dm2以下とすることが好ましい。これより付着量が多いと、ピンホールの発生数が多くなるためである。
【0045】
該剥離層2の上に形成する拡散防止層3は、キャリア付き極薄銅箔を樹脂基材に載せ、プレス積層するときに、該剥離層の拡散を防ぐ層である。この拡散防止層3を設けることなくクロム層またはクロム水和酸化物層2の上に電気銅めっき層4を電着すると、高温に加熱されたときにキャリア箔と電気銅めっき層との間で金属結合が起こり、強固な結合力が生ずるため、剥離層を介して、該キャリア箔を剥離することが困難になる。一方、クロム層またはクロム水和酸化物層2を析出した上に、拡散を防止し、COガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい層3をめっきし、さらに銅をめっきした場合には、クロム層またはクロム水和酸化物層2と拡散防止層3の界面部分からきれいに剥がれ、層3の側にクロムおよびクロム水和酸化物はまったく残らない。
【0046】
本発明における加熱時の拡散を防止し、COガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい層3は、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タングステン、銅、アルミニウム及びリンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、単一金属の層でもよく、2種以上の金属の合金層または1種以上の金属酸化物の層でもよい。
【0047】
単一金属のめっきとしては、ニッケルめっき、コバルトめっき、鉄めっき、アルミニウムめっき等が挙げられる。
【0048】
二元系合金めっきとしては、ニッケル−コバルトめっき、ニッケル−鉄めっき、ニッケル−クロムめっき、ニッケル−モリブデンめっき、ニッケル−タングステンめっき、ニッケル−銅めっき、ニッケル−リンめっき、コバルト−鉄めっき、コバルト−クロムめっき、コバルト−モリブデンめっき、コバルト−タングステンめっき、コバルト−銅めっき、コバルト−リンめっき等が挙げられる。
【0049】
三元系合金めっきとしては、ニッケル−コバルト−鉄めっき、ニッケル−コバルト−クロムめっき、ニッケル−コバルト−モリブデンめっき、ニッケル−コバルト−タングステンめっき、ニッケル−コバルト−銅めっき、ニッケル−コバルト−リンめっき、ニッケル−鉄−クロムめっき、ニッケル−鉄−モリブデンめっき、ニッケル−鉄−タングステンめっき、ニッケル−鉄−銅めっき、ニッケル−鉄−リンめっき、ニッケル−クロム−モリブデンめっき、ニッケル−クロム−タングステンめっき、ニッケル−クロム−銅めっき、ニッケル−クロム−リンめっき、ニッケル−モリブデン−タングステンめっき、ニッケル−モリブデン−銅めっき、ニッケル−モリブデン−リンめっき、ニッケル−タングステンモ−銅めっき、ニッケル−タングステン−リンめっき、ニッケル−銅−リンめっき、コバルト−鉄−クロムめっき、コバルト−鉄−モリブデンめっき、コバルト−鉄−タングステンめっき、コバルト−鉄−銅めっき、コバルト−鉄−リンめっき、コバルト−クロム−モリブデンめっき、コバルト−クロム−タングステンめっき、コバルト−クロム−銅めっき、コバルト−クロム−リンめっき、コバルト−モリブデン−タングステンめっき、コバルト−モリブデン−銅めっき、コバルト−モリブデン−リンめっき、コバルト−タングステン−銅めっき、コバルト−タングステン−リンめっき、コバルト−銅−リンめっき等を挙げることができる。
【0050】
また、酸化物としては、ニッケル酸化物、コバルト酸化物、鉄酸化物、クロム酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、銅酸化物、アルミニウム酸化物、リン酸化物等を挙げることができる。さらに2種以上の上記酸化物の混合物を挙げることができる。
さらに、単一金属のめっき層、合金めっき層及び酸化物層から選択されるいずれかの層を2層以上設けることもできる。
【0051】
これらのめっき層または酸化物層は、ポリイミド樹脂基材の場合の加工条件である300℃以上の温度が付加される場合であっても、これらの層が拡散を防止するため、加工後にキャリア箔と極薄銅箔は容易に剥離することが可能である。
【0052】
また、これら単一金属のめっき層、合金めっき層、酸化物層の処理を行う場合、その処理液のpHが重要である。本発明においては、pH2以上に保った処理液で処理を行うことが好ましい。
【0053】
剥離層に金属クロム層を使用する場合には、上記の処理は必要ないが、クロム水和酸化物層を使用する場合には、この範囲のpHを有する処理液で処理しないと、キャリア付き極薄銅箔を樹脂基材に積層した後、キャリア箔の剥離が困難になるからである。
【0054】
上記範囲を外れたpHを有する処理液で処理を行うと、クロム水和酸化物が処理液中で溶解してしまうためにキャリア箔の剥離が困難になると推定される。
【0055】
キャリア箔1の表面に、剥離層2と、拡散防止層3と、電気銅めっき層4とをこの順序に積層してなり、該電気銅めっき層4の最外層表面が粗面化されていることを特徴とするキャリア付き極薄銅箔の場合は、キャリア箔1を剥離・除去するとき、剥離層2はキャリア箔1と一体的に除去されるので、拡散防止層3が極薄銅箔を覆う形となる。この拡散防止層3は、レーザ光の吸収率が良いため、この表面にCOガスレーザを直接照射した場合には、拡散防止層3上から極薄銅箔を通して基板に穴あけが可能となる。
【0056】
剥離層2がクロムめっき層の場合、高温加熱による電気銅めっき層4側へのクロムの拡散は拡散防止層3で防がれる。これに対してキャリア箔1側へは、クロムの拡散が起こり、キャリア箔1の表面は、銅含有量が多い銅−クロム合金表面になる。しかし、銅−クロム合金中の銅は、電気銅めっき層4の表面を覆う拡散防止層3がバリヤーになって、電気銅めっき層4の銅と金属結合により結合することがない。その結果、キャリア箔1と電気銅めっき層4とが密着することがないと考えられる。
【0057】
剥離層2がクロメート水和酸化物層の場合も同様で、キャリア箔1の銅は、拡散防止層3がバリヤーとなって、電気銅めっき層4の銅と金属結合により結合することがない。その結果、キャリア箔1と電気銅めっき層4とが密着することがないと考えられる。
【0058】
また、キャリア箔1の表面に、拡散防止層3と、剥離層2と、電気銅めっき層4とをこの順序に積層してなり、該電気銅めっき層4の最外層表面が粗面化されていることを特徴とするキャリア付き極薄銅箔の場合は、キャリア箔1を剥離・除去するとき、拡散防止層3は、剥離層2及びキャリア箔1と一体的に除去されるので、拡散防止層3が極薄銅箔を覆わず、極薄銅箔がそのまま残る。
【0059】
剥離層2がクロムめっき層の場合、高温加熱によるキャリア箔1側へのクロムの拡散は拡散防止層3で防がれる。電気銅めっき層4側へのクロムの拡散は、クロム層表面が薄いクロム水和酸化物層により覆われているため、それほど進まない。その結果、拡散防止層3がバリヤーとなって、キャリア箔1と電気銅めっき層4とが密着することがないと考えられる。
【0060】
剥離層2がクロメート水和酸化物層の場合も、キャリア箔1の銅は、拡散防止層3がバリヤーとなって、電気銅めっき層4の銅と金属結合により結合することがない。その結果、キャリア箔1と極薄銅箔とが密着することがないと考えられる。
【0061】
但し、この場合には、COガスレーザの穴明けを行う前に、COガスレーザの吸収がよい物質を被覆するか、表面をさらに荒らしたりして、COガスレーザの吸収をよくすることが好ましい。
【0062】
キャリア箔1には、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、銅箔または銅合金箔が使用可能であるが、コストの点から、電解銅箔、電解銅合金箔、圧延銅箔または圧延銅合金箔を使用することが好ましい。
【0063】
また、前記キャリア箔の表面が、未処理電解銅箔または未処理電解銅合金箔のマット面またはシャイニイ面、圧延銅箔または圧延銅合金箔の圧延上がりの面であることが好ましく、さらに好ましくは、未処理電解銅箔または未処理電解銅合金箔のマット面またはシャイニイ面に粗化処理を施した箔、または圧延銅箔または圧延銅合金箔の圧延上がりの面の少なくとも一方の面に粗化処理を施した箔である。
【0064】
粗化処理は、化学的または電気化学的に表面を荒らしたり、電気めっきにより、粗化粒子を付着させる方式のいずれかを採用することが好ましい。特に電気めっきにより粗化粒子を付着させる場合には、粗化処理の粒径としては、0.01μm〜5.0μmの範囲のものが適している。本発明による銅箔は、COガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい拡散防止層3により、レーザ光の吸収率は良好であるが、キャリア箔に凹凸のある面を用いると、形状的効果が加わるので、レーザ光の吸収率が一層高まる。
【0065】
但し、0.01μmより小さい粒径では、ことさら粗化処理を行う効果がなく、5.0μmを超えると、この後に付ける電気銅めっき層の凹凸が大きくなり、銅箔自体が極薄であっても、表面粗さが大きい極薄銅箔となり、ファインパターン用の銅箔には適さないものになってしまう。
【0066】
レーザ穴あけの後、COガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい拡散防止層3は、多層プリント配線板の製造工程におけるソフトエッチング工程において溶解され、除去される。ソフトエッチング液としては、通常、硫酸−過酸化水索、過硫酸塩等のエッチング液が使用される。
【0067】
ついで、電気銅めっき層4を形成し、その後、その表面4aを粗化面にする。具体的には、該電気銅めっき層4の形成における最終段階で、浴組成や浴温、電流密度や電解時間などを変化させることにより、既に形成されている銅めっき層の表面に0.2〜2.0μm程度の銅粒子を突起物として析出させる(この処理を通常「粗化処理」と呼んでいる)。このような処理により電気銅めっき層の表面を粗化面にするのは、このキャリア付き極薄銅箔Aを基材に熱圧着したときに、基材との間の接合強度を高めるためである。
【0068】
このキャリア付き極薄銅箔Aにおいては、粗化面4aの上にさらにニッケル層、亜鉛層をこの順序で形成することが好ましい。
【0069】
この亜鉛層は、キャリア付き極薄銅箔Aと基材とを熱圧着したときに、電気銅めっき層4と基材樹脂との反応による該基材樹脂の劣化や電気銅めっき層4の表面酸化を防止して、基材との接合強度を高める働きをする。また、ニッケル層は、該キャリア付き極薄銅箔Aの基板への熱圧着時に、該亜鉛層の亜鉛が該電気銅めっき側へ熱拡散することを防止し、もって亜鉛層の上記機能を有効に発揮させる働きをする。
【0070】
なお、これらのニッケル層や亜鉛層は、公知の電気めっき法や無電解めっき法を適用して形成することができる。また、該ニッケル層は、純ニッケルで形成してもよいし、6重量%以下のリンを含有する含リンニッケル合金で形成してもよい。
【0071】
また、亜鉛層の表面にさらにクロメート処理を行うと、該表面に酸化防止層が形成されるので一層好ましい。適用するクロメート処理としては、公知の方法に従えばよく、たとえば、特開昭60−86894号公報に開示されている方法をあげることができる。クロム量に換算して0.01〜0.2mg/dm2程度のクロム酸化物またはその水和物などを付着させることにより、銅箔に優れた防錆機能を付与することができる。
【0072】
また、前記のクロメート処理した表面に対し、さらにシランカップリング剤を用いて表面処理を行うと、基板との接合側の表面である銅箔表面には、接着剤との親和力の強い官能基が付与されるので、該銅箔と基材との接合強度は一層向上し、銅箔の防錆性、耐熱性をさらに向上するので好適である。
【0073】
使用するシランカップリング剤としては、たとえばビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどをあげることができる。これらのシランカップリング剤は、通常0.001〜5%の水溶液にし、これを銅箔の表面に塗布したのち、そのまま加熱乾燥すればよい。なお、シランカップリング剤に代えて、チタネート系、ジルコネート系などのカップリング剤を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0074】
キャリア付き極薄銅箔Aは、上記したような構成になっているので、基材との接合強度は大きく、またファインな配線パターンの形成も可能である。そして、回路形成用の銅箔は9μm以下という極薄の銅箔であっても、剛性に富んだキャリア箔により補強されているので、取り扱い時に皺や折れ目を生ずることはない。
【0075】
次に、本発明の、キャリア付き極薄銅箔の第2の例として、キャリア付き極薄銅箔の粗化面をさらに接着用樹脂で被覆した、樹脂付き銅箔Bを第3図に示す。この樹脂付き銅箔Bは、第2図に示したキャリア付き極薄銅箔Aにおける粗化面4aをさらに接着用樹脂で被覆し、該接着用樹脂の半硬化状態の絶縁樹脂層5が該銅箔に密着・接合した構造になっている。ここでいう半硬化状態とは、いわゆるBステージ樹脂の状態であり、その表面に指で触れても粘着感はなく、該絶縁樹脂層を重ね合わせて保管することができ、さらに加熱処理を受けると硬化反応が起こる状態のことをいう。
【0076】
この絶縁樹脂層5の形成には熱硬化性樹脂が用いられる。その種類は、特に限定されるものではなく、たとえば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、多官能性シアン酸エステル化合物などを好適なものとしてあげることができる。
【0077】
これらの樹脂を、たとえばメチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどの溶剤に溶解して樹脂液とし、これを電気銅めっき層4の粗化面4aに、たとえばロールコータ法などによって塗布し、ついで必要に応じて加熱乾燥して溶剤を除去しBステージ樹脂の状態にする。乾燥には、たとえば熱風乾燥炉を用いることができ、乾燥温度は100〜250℃、好ましくは130〜200℃である。
【0078】
この樹脂付き銅箔Bは、その絶縁樹脂層5を基材(図示せず)に重ね合わせたのち、全体を熱圧着して該絶縁樹脂層を熱硬化せしめ、ついでキャリア箔1を剥離して、該電気銅めっき層外側の拡散防止層3側の表面である電気銅めっき層4を露出せしめ、そこに所定の配線パターンを形成するという態様で使用される。
【0079】
この絶縁樹脂層5の厚さは、20〜80μmであることが好ましい。絶縁樹脂層5の厚さを20μmより薄くすると、接着力が低下するので、内層材を備えた基材にプリプレグ材を介在させることなくこの樹脂付き銅箔を積層したときに、内層材の回路との間の層間絶縁を確保することが困難になる。一方、絶縁樹脂層5の厚さを80μmより厚くすると、1回の塗布工程で目的の厚さの絶縁樹脂層を形成することが困難となり、余分な材料費と工数がかかるので、経済的に不利となる。さらに、形成された絶縁樹脂層の可撓性が劣るので、ハンドリング時にクラックなどが発生しやすくなり、また内層材との熱圧着時に、過剰な樹脂流れが起こり円滑な積層が困難になる。
【0080】
さらに、この樹脂付き銅箔のもう一つの製品形態としては、粗化面4aを絶縁樹脂層で被覆し、半硬化状態とした後、ついでキャリア箔1を剥離して、キャリア箔1が存在しない樹脂付き銅箔の形で製造することも可能である。この場合はCOガスレーザが発振する波長の光を吸収しやすい拡散防止層3が、防錆処理の役割をはたす。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0082】
実施例1
厚さ35μmの未処理電解銅箔(キャリア箔1)のシャイニイ面(シャイニイ面粗さRz=1.4μm)に、クロムの電気めっきを連続的に行い、付着量0.50mg/dm2のクロムめっき層(剥離層2)を形成した。ついで、このクロムめっき層の上に、Ni:40.0g/l、P:1.5g/lを含有するpH:4.0の水溶液中で、電流密度:6A/dm2の条件で、電気Ni−Pめっきを行い、拡散防止層を形成した。このときの付着量は、Ni:9.1mg/dm2、P:0.9mg/dm2であった。
さらに、この拡散防止層の上に、銅:80g/l、硫酸:160g/lを含む硫酸銅めっき液を用いて、電流密度:30A/dm2で3μmの厚さの極薄銅層を電気めっきした。そして、この極薄銅層上に、公知の方法により、銅の粒子を付着させる粗化処理を施した。
防錆処理および表面処理として、粗化処理を施した極薄銅層上に、公知の方法により、亜鉛めっきおよびクロメート処理を行い、ついで、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン:2.0g/lの水溶液に5秒間浸漬したのち取り出し、温度100℃の温風で乾燥してシランカップリング剤処理を行い、第2図に示すキャリア箔付き極薄銅箔Aを得た。
【0083】
実施例2
拡散防止層を、Ni:40.0g/l及びCo:7.5g/lを含有するpH:3.5の水溶液中で、電流密度:6A/dm2の条件で、電気Ni−Coめっきで形成した以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。拡散防止層3のめっき付着量は、Ni:3.9mg/dm2及びCo:6.1mg/dm2であった。
【0084】
実施例3
拡散防止層を、Co:8.0g/l、Cu:4.0g/lを含有するpH3.5の水溶液中で、電流密度2.0A/dm2の条件で、電気Co−Cuめっきで形成した以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。拡散防止層のめっき付着量は、Co:8.8mg/dm2、Cu:1.2mg/dm2であった。
【0085】
実施例4
厚さ35μmの未処理電解銅箔(キャリア箔1)のマット面(マット面粗さRz=3.1μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0086】
実施例5
厚さ35μmの未処理電解銅箔(キャリア箔1)のシャイニイ面に従来公知の方法により銅の粒子(銅の粒子径は、平均粒径=2.3μmであった。ここでいう平均粒径とは、表面を走査電子顕微鏡で撮影し、ランダムに10点を選び、粒径を測定し、平均した値である。)を付着させる粗化処理(粗化処理後粗さRz=3.2μm)を行ったキャリア箔を用いた以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0087】
実施例6
厚さ35μmの圧延銅箔(キャリア箔1)の圧延上がりの面(粗さRz=0.6μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0088】
実施例7
厚さ35μmの圧延銅箔(キャリア箔1)の圧延上がり面に従来公知の方法により銅の粒子(銅の粒子径は、平均粒径=1.0μmであった。ここでいう平均粒径とは、表面を走査電子顕微鏡で撮影し、ランダムに10点を選び、粒径を測定し、平均した値である。)を付着させる粗化処理(粗化処理後粗さRz=0.8μm)を行ったキャリア箔を用いた以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0089】
実施例8
厚さ35μmの未処理電解銅箔(キャリア箔1)のシャイニイ面(シャイニイ面粗さRz=1.4μm)にCrO3=10g/l、pH:11.0のアルカリクロメート溶液を用い、0.1A/dm2の条件で、クロメート処理を行った以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。キャリア箔に付着しているクロム量は0.010mg/dm2であった。
【0090】
実施例9
厚さ35μmの圧延銅箔(キャリア箔1)の圧延上がり面に従来公知の方法により銅の粒子(銅の粒子径は、平均粒径=1.0μmであった。ここでいう平均粒径とは、表面を走査電子顕微鏡で撮影し、ランダムに10点を選び、粒径を測定し、平均した値である。)を付着させる粗化処理(粗化処理後粗さRz=0.8μm)を行ったキャリア箔を用いた以外は、実施例1と同様にして、拡散防止層3の形成、剥離層2の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0091】
実施例10
拡散防止層として、黒色酸化処理法として公知の、黒色銅酸化物を生成させる電解液中で、電流密度:1.5A/dm2で陽極酸化を行ない、銅酸化物を形成させた以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、拡散防止層3の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0092】
実施例11
実施例1と同様にして、シランカップリング剤処理が終了したキャリア箔付き極薄銅箔Aの表面に、ロールコータを用いて、樹脂ワニスを厚さ6.0mg/dm2となるように塗布したのち、温度160℃で5分間熱処理して、Bステージの絶縁樹脂層とし、第3図に示した樹脂付き銅箔Bを製造した。
ここで、樹脂ワニスは、エピクロン1121−75M(商品名、大日本インキ化学工業(株)製のビスフェノールA型エポキシ樹脂)130重量部と、ジシアンジアミド2.1重量部と、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.1重量部と、メチルセロソルブ20重量部とを混合して調製した。
【0093】
比較例1
剥離層2の上に拡散防止層3を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、剥離層2の形成、銅電着、粗化処理、防錆処理および表面処理を行った。
【0094】
比較例2
厚さ35μmの未処理電解銅箔(キャリア箔1)のシャイニイ面(シャイニイ面粗さRz=1.4μm)に、該銅箔をNa2Cr2O7=20g/l、pH:4.1の処理液に浸漬することにより、剥離層2を形成した。キャリア箔1に付着しているクロム量は、0.028mg/dm2であった。続いて、このクロメート層の上に、Cu:5g/l、Ni:10g/lを含有するpH:5.2の水溶液中で、電流密度3.0A/dm2の条件で銅−ニッケル合金層を形成させた。銅−ニッケル合金層のめっき付着量は、Cu:7.5mg/dm2、Ni:2.5mg/dm2であった。
【0095】
評価試料の作製
(1)キャリアピール測定用片面銅張積層板の作製
前記のキャリア箔付き極薄銅箔A(実施例1〜10、比較例1〜2)および樹脂付き銅箔B(実施例11)を縦250mm、横250mmに切断したのち、その粗化面4aの側の面を、熱圧着後に厚さ1mmとなる枚数のガラス繊維エポキシプレプリグシート(FR−4)の上に載置し、全体を2枚の平滑なステンレス鋼板で挟み、温度170℃、圧力50kg/cm2で60分間熱圧着し、その後、剥離層2と共にキャリア箔1を剥離して、厚さ1mmのFR−4キャリアピール用片面銅張積層板を製造した。
また、前記のキャリア銅箔付き極薄銅箔A(実施例1〜10、比較例1〜2)を、縦250mm、横250mmに切断したのち、その粗化面4aの側の面を厚さ50μmのポリイミドシート(宇部興産製UPILEX−VT)の上に載置し、全体を2枚の平滑なステンレス鋼板で挟み、20torrの真空プレスにより、温度330℃、圧力2kg/cm2で10分間熱圧着し、その後、温度330℃、50kg/cm2で5分間熱圧着して、キャリア箔1付きのポリイミドキャリアピール用片面銅張積層板を製造した。
【0096】
(2)ピンホール測定用片面銅張積層板の作製
上記のFR−4用キャリアピール用片面銅張積層板と同じ工程で、ピンホール測定用片面銅張積層板を作成した。
【0097】
(3)レーザ穴あけ用片面銅張積層板の作製
上記のFR−4キャリアピール用片面銅張積層板と同じ工程で、レーザ穴あけ用片面銅張積層板を作製した。
【0098】
特性評価
(1)キャリアピール:
上記(1)の方法により作製したキャリア銅箔1付きの片面銅張積層板から試料を切りだし、JISC6511に規定する方法に準拠して、測定試料幅10mmで電気銅めっき層4からキャリア銅箔1を引き剥がし、ピール強度を測定した。ただし、実施例11は、エポキシ樹脂付き銅箔であるため、ポリイミドキャリアピールの測定は行なわなかった。評価結果を表1に示す。測定値が0.02〜0.10kN/mであるものは剥離容易であるが、FR−4キャリアピールの場合は、熱圧着温度が170℃のため、拡散防止層3の有無にかかわらず、剥離容易である。しかしながら、ポリイミドキャリアピールの場合は、熱圧着温度が330℃の高温であるため、拡散防止層の有無で剥離性が大きく異なり、該層を設けていない比較例1は剥離できず、また、比較例2はところどころ剥離できないので、電気銅めっき層4の一部が基材から剥離して、キャリア箔に付着してくる現象が見られた。これに対し、実施例1乃至10の剥離性は良好であった。
【0099】
(2)ピンホール測定:
上記(2)の方法で作成した縦250mm、横250mmの片面銅張積層板を、暗室内で樹脂基材側から光を当て、透過してくる光により、ピンホールの個数を数えた。
実施例1乃至10は全てピンホールが0であった。これに対して、比較例1及び2では、ピンホールが見られ、特に比較例2においては、ピンホールが多く、ファインパターン用の銅箔としては使用不可能なレベルであった。
【表1】

【0100】
(3)レーザ穴あけ:
上記(3)の方法により作製した片面銅張積層板を、以下の加工条件によりCOガスレーザを用いて、マスク1.4φ、パルス幅13μsecに設定し、パスルエネルギーをかえて1ショット加工による銅箔の貫通性を評価した。
結果を表2に示す。実施例1乃至11は、比較例2に比べ、低パルスエネルギーで穴あけが可能であった。一方、比較例1では10mJ〜18mJの範囲のパルスエネルギーでは、100μmの穴あけができなかった。
【表2】

【0101】
加工条件
・装置 :三菱電気(株)社製 ML605GTXII−5100U
・条件 :加工穴径 100μm
・パルス幅 :13μsec
・マスク :φ1.4mm
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上の説明で明らかなように、本発明のキャリア付き極薄銅箔および樹脂付き銅箔は、いずれも、剥離層と拡散防止層を組合せて設けたものであり、これにより、高温で熱圧着して製造するポリイミド樹脂基材の場合であっても、キャリアと電気銅めっき層との剥離が容易である。また、該拡散防止層は、COガスレーザが発振する波長の光をよく吸収する材料をめっきしているので、従来のコンフォーマルマスク法を使用することなく、該拡散防止層の上から電気銅めっき層を通して、基材樹脂の穴あけ加工を可能にするので、銅張積層板の製造工程の簡略化が図れるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】拡散防止層を含まない従来のキャリア付き極薄銅箔の断面構造を示す断面図である。
【図2】本発明のキャリア付き極薄銅箔Aの断面構造を示す断面図である。
【図3】本発明の樹脂付き銅箔Bの断面構造を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア箔の表面に、拡散防止層と、剥離層と、電気銅めっきにより形成された極薄銅箔とをこの順序に積層してなることを特徴とするキャリア付き極薄銅箔。
【請求項2】
前記極薄銅箔の表面が粗化処理されている、請求項1記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項3】
前記剥離層が、クロム層またはクロム水和酸化物層である、請求項1または2記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項4】
前記拡散防止層が、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、タングステン、銅、アルミニウム及びリンからなる群より選ばれる金属の単一金属層、合金層または1種以上の酸化物層である請求項1〜3のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項5】
前記キャリア箔が、銅または銅合金の箔である、請求項1〜4のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項6】
前記キャリア箔が、電解銅箔、電解銅合金箔、圧延銅箔又は圧延銅合金箔である、請求項1〜5のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項7】
前記キャリア箔の表面が、未処理電解銅箔または未処理電解銅合金箔のマット面またはシャイニイ面である、請求項1〜6のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項8】
前記キャリア箔が、未処理電解銅箔または未処理電解銅合金箔のマット面またはシャイニイ面に粗化処理を施した箔である、請求項1〜7のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項9】
前記キャリア箔が、圧延銅箔又は圧延銅合金箔の圧延仕上がりの少なくとも一方の面に粗化処理を施した箔である、請求項1〜8のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項10】
前記粗化処理が、化学的または電気化学的に表面を荒らしたものであるか、または電気めっきにより粗化粒子を付着させたものである、請求項8または9記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項11】
前記電気めっきによる粗化処理の粒径が、5μm以下の粒径である、請求項10記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項12】
前記キャリア箔が、1mm以下の厚さの箔である、請求項1〜11のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項13】
前記キャリア箔が、7μm〜70μmの厚さの箔である、請求項12記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項14】
前記極薄銅箔が、12μm以下の厚さである、請求項1〜13のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項15】
前記粗化処理された極薄銅箔の表面が、銅以外の金属めっき、クロメート処理及びシランカップリング剤処理から選択される少なくとも一つの処理を施されたものである、請求項1〜14のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項16】
前記粗化処理された極薄銅箔の表面が、Bステージ状態の絶縁樹脂層で被覆されている、請求項1〜15のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔が、樹脂基材に積層されている銅張積層板。
【請求項18】
前記キャリア箔が、前記銅張積層板のキャリア付き極薄銅箔から剥離されている、請求項17記載の銅張積層板。
【請求項19】
請求項18記載の銅張積層板の極薄銅箔上に、配線パターンが形成されたプリント配線板。
【請求項20】
請求項19記載のプリント配線板を複数積層して形成される多層プリント配線板。
【請求項21】
予め配線パターンが形成された内層板の少なくとも片面に、請求項1〜16のいずれか1項記載のキャリア付き極薄銅箔を積層して銅張積層板を形成し、該銅張積層板から前記キャリア箔を剥離して前記極薄銅箔を露出させ、かつ該極薄銅箔上に配線パターンを形成したプリント配線基板を複数積層した多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−22406(P2006−22406A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210826(P2005−210826)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【分割の表示】特願2002−528488(P2002−528488)の分割
【原出願日】平成13年9月21日(2001.9.21)
【出願人】(591056710)古河サーキットフォイル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】