説明

キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法

【課題】車両に搭載されている撮像装置の交換場所等に関する制限を軽減または解消しながら、撮像装置のキャリブレーションを実行しうる装置等を提供する。
【解決手段】第1状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢が認識される。第2状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢とが認識される。そして、当該認識結果に基づき、第2状態における前方カメラ11(または後方カメラ12)の光軸姿勢の変化態様が認識される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されている撮像装置のキャリブレーションを実行する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両に搭載されたカメラのキャリブレーションを実行するいくつかの手法が提案されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−116515号公報
【特許文献2】特開2007−209354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車両に搭載されている撮像装置が交換された場合、交換後の新たな撮像装置のキャリブレーションのためには、キャリブレーション用の特殊なパターンまたはターゲットが置かれている工場等の指定箇所に当該車両が立ち寄る必要がある。これは、車両に搭載されている撮像装置が車両から一時的に取り外された上で再び車両に取り付けられた場合等、キャリブレーションが必要になる状況についても同じである。このため、撮像装置の交換場所等から当該指定箇所までの間は、車両座標系における撮像装置の光軸の姿勢が不明であるため、撮像装置を通じた画像の使用が制限または禁止された状態で車両が走行するまたは輸送される必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、車両に搭載されている撮像装置の交換場所等に関する制限を軽減または解消しながら、撮像装置のキャリブレーションを実行しうる装置および方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための発明のキャリブレーション装置は、車両に搭載されている、前記車両の前方範囲および後方範囲のそれぞれを撮像範囲とする前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションを実行する装置であって、前記前方撮像装置を通じて撮像された前記車両の前方道路を含む前方画像に基づき、前方道路に存在する前方レーンマークを抽出し、かつ、前記後方撮像装置を通じて撮像された前記車両の後方道路を含む後方画像に基づき、後方道路に存在する後方レーンマークを抽出した上で、前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢を認識する第1演算処理要素と、前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のそれぞれの光軸姿勢が判明している第1状態における、前記前方画像および前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢と、前記第1状態と比較して前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢が変化している可能性がある第2状態における前記前方画像および前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識する第2演算処理要素とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明のキャリブレーション装置によれば、車両に搭載されている前方撮像装置を通じて得られた前方画像に基づいて前方レーンマークが抽出され、その位置および姿勢が認識される。また、車両に搭載されている後方撮像装置を通じて得られた後方画像に基づいて後方レーンマークが抽出され、その位置および姿勢が認識される。さらに、第1状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢が認識される。「第1状態」とは前方撮像装置および後方撮像装置のそれぞれの光軸姿勢が判明している状態を意味する。
【0008】
また、第2状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢が認識される。「第2状態」とは第1状態と比較して前方撮像装置または後方撮像装置の光軸姿勢が変化している可能性がある状態を意味する。そして、これらの認識結果に基づき、第2状態における前方撮像装置または後方撮像装置の光軸姿勢が認識される。
【0009】
この結果、レーンマークが存在する道路を車両が走行している過程で、キャリブレーション用の特殊なパターン等が置かれている指定箇所に行く必要なく、当該車両に搭載されている前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションが実行されうる。
【0010】
なお、本発明の構成要素がある情報を「認識する」とは、当該構成要素が情報またはこれを表わすデータをメモリから読み出すこと、データベースから検索すること、受信すること、受信等された基礎データに基づいて演算処理することにより情報を測定、算定、推定、予測等すること、算定等された情報をメモリに保存すること等、当該情報を必要とするさらなる演算処理のために当該情報を準備するためのあらゆる情報演算処理を実行することを意味する。
「前方」という記載は、車両の前方にあることを意味し、「後方」という記載は車両の後方にあることを意味する。
【0011】
前記第1演算処理要素が前記車両の走行状態と、第1時点における前記前方画像に基づいて認識した前記前方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第1時点より後の第2時点において前記前方レーンマークが前記後方レーンマークとして認識された場合における当該後方レーンマークの位置および姿勢を推定し、前記第2演算処理要素が、前記第1状態において前記後方レーンマークの前記第2時点における推定位置および推定姿勢のそれぞれと、前記第2時点における前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記後方レーンマークの位置および姿勢のそれぞれとの偏差と、前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢との関係を決定し、前記第2状態における前記偏差に基づき、前記関係にしたがって、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識してもよい。
【0012】
前記第2演算処理要素が、前記第1状態における前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの相対位置および相対姿勢と、前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢との関係を決定し、前記第2状態における前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの相対位置および相対姿勢に基づき、前記関係にしたがって、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識してもよい。
【0013】
前記第2演算処理要素が、前記前方撮像装置の光軸および前記後方撮像装置の光軸の相対的な姿勢関係の変化態様が指定条件を満たしているか否かを判定し、前記第1演算処理手段が、前記第2演算処理手段により前記変化態様が前記指定条件を満たしていると判定されたことを要件として、前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの一方または両方を抽出してもよい。
【0014】
前記第1演算処理要素が、前記第2演算処理手段により認識された前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢の変化態様に基づき、前記前方レーンマークまたは前記後方レーンマークの位置および姿勢を補正してもよい。
【0015】
前記第2演算処理要素が、前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のうち一方が交換されたこと、または、前記車両に対する取り付け箇所から取り外された上で再び前記取り付け箇所に取り付けられたことを表わす信号を検知したことを要件として、前記車両が前記第1状態から前記第2状態に変化したことを認識してもよい。
【0016】
前記課題を解決するための本発明のキャリブレーション方法は、車両に搭載されている、前記車両の前方範囲および後方範囲のそれぞれを撮像範囲とする前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションを実行する方法であって、前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のそれぞれの光軸姿勢が判明している第1状態における、前記前方画像および前記後方画像に基づいて認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢と、前記第1状態と比較して前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢が変化している可能性がある第2状態における前記前方画像および前記後方画像に基づいて認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識することを特徴とする。
【0017】
本発明のキャリブレーション方法によれば、レーンマークが存在する道路を車両が走行している過程で、キャリブレーション用の特殊なパターン等が置かれている指定箇所に行く必要なく、当該車両に搭載されている前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションが実行されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のキャリブレーション装置が搭載されている車両の構成説明図。
【図2】本発明の一実施形態としてのキャリブレーション装置の構成説明図。
【図3】キャリブレーション方法の手順に関する説明図。
【図4】前方レーンマークおよび後方レーンマークの認識方法に関する説明図。
【図5】後方レーンマークの位置の推定方法に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のキャリブレーション装置等の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1に示されている車両(四輪自動車)1には、車両走行支援装置(キャリブレーション装置)10と、前方カメラ(前方撮像装置)11と、後方カメラ(後方撮像装置)12とが搭載されている。前方カメラ11および後方カメラ12のそれぞれはCCDカメラ、CMOSイメージセンサまたは近赤外線カメラである。前方カメラ11は車両1の前方道路を含む範囲をフロントウィンドウ越しに撮像するように車内空間に取り付けられている。後方カメラ12は車両1の後方にある範囲を撮像するように車両1の後端部に配置されている。なお、前方カメラ11および後方カメラ12の配置箇所は適宜変更されてもよい。
【0021】
車両1には図2に示されているように、車速センサ122、加速度センサ124およびヨーレートセンサ126等のセンサと、操舵装置14と、制動装置16とがさらに搭載されている。車速センサ122、加速度センサ124およびヨーレートセンサ126のそれぞれは車両1の速度、加速度およびヨーレートのそれぞれに応じた信号を出力する。
【0022】
車両走行支援装置10はECU(電子制御ユニット(CPU,ROM,RAMならびにI/O回路およびA/D変換回路等の電子回路等により構成されている。))により構成されている。車両走行支援装置10にはカメラ12および速度センサ122等からの出力信号が入力される。CPUにより車両走行支援プログラムがメモリから読み出され、かつ、読み出されたプログラムにしたがって後述する種々の処理が実行される。なお、プログラムは任意のタイミングでサーバからネットワークや衛星を介して車両1に配信または放送され、車載コンピュータのメモリに保存されてもよい。
【0023】
車両走行支援装置10は第1演算処理要素110と、第2演算処理要素120と、車両制御装置100とを備えている。なお、第1演算処理要素11および第2演算処理要素12のそれぞれを構成する演算回路等のハードウェア資源は、物理的に一部または全部が共通であってもよく、物理的に完全に別個であってもよい。第1演算処理要素110および第2演算処理要素120を備えている車両環境認識ECUと、車両制御装置100を構成するECUとが別個に設けられていてもよい。
【0024】
第1演算処理要素110は前方カメラ11を通じて撮像された車両1の前方道路を含む前方画像に基づき、前方道路に存在する前方レーンマークを抽出する。第1演算処理要素110は後方カメラ12を通じて撮像された車両1の後方道路を含む後方画像に基づき、後方道路に存在する後方レーンマークを抽出する。第1演算処理要素110は前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、後方レーンマークの位置および姿勢を認識する。
【0025】
第2演算処理要素120は第1状態および第2状態のそれぞれにおける前方画像および後方画像に基づいて認識された前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、後方レーンマークの位置および姿勢に基づき、第2状態における前方カメラ11の光軸姿勢を認識する
【0026】
車両制御装置100は、左右のレーンマークにより左右が画定される走行帯から車両1が逸脱しないまたは外れないように操舵装置14および制動装置16の一方または両方の動作を制御する。
【0027】
前記構成の車両走行支援装置10の機能(キャリブレーション方法)について説明する。
【0028】
まず、前方カメラ11を通じて車両1の前方道路を含む前方画像(ディジタル画像)が取得される。第1演算処理要素110により前方画像に基づき、車両1の前方走行帯の左右を画定する前方レーンマークが抽出される(図3/STEP002)。具体的には前方画像に対してエッジ抽出処理が施されることによりエッジ画像が生成される。続いてエッジ画像に対してハフ変換処理が実行され、ハフ空間(ρ−θ空間)において標準的なレーンマークを画定する直線(線分)の存在領域に存在する線または線分が前方レーンマークとして抽出される。
【0029】
画像の走査方向(たとえば右方向)について、前の画素と比較して輝度が閾値を超えて低下するような画素が負エッジ点として抽出される。前の画素と比較してその輝度が閾値を超えて上昇するような画素が正エッジ点として抽出される。左側レーンマークの右側の輪郭線に相当する負エッジ点を含む線分が、当該左側レーンマークとして抽出される。右側レーンマークの左側の輪郭線に相当する正エッジ点を含む線分が、当該右側レーンマークとして抽出される。これにより、たとえば図4に「×」で示されている複数のエッジ点を含む線分が左右それぞれの前方レーンマークとして認識される。異なる時刻に取得された複数の前方画像のそれぞれについてレーンマークが逐次抽出され、タイムスタンプ(基礎となった前方画像の撮像時刻)が付された上でメモリに逐次保存される。
【0030】
同様に後方カメラ12を通じて車両1の後方道路を含む後方画像(ディジタル画像)が取得される。また、第1演算処理要素110により後方画像に基づき、車両1の前方走行帯の左右を画定する後方レーンマークが抽出される(図3/STEP004)。異なる時刻に取得された複数の後方画像のそれぞれについてレーンマークが逐次抽出され、タイムスタンプ(基礎となった後方画像の撮像時刻)が付された上でメモリに逐次保存される。
さらに、第1演算処理要素110により前方レーンマークの位置および姿勢が認識される(図3/STEP006)。
【0031】
具体的には、まず前方レーンマークを表わす線分が画像座標系から車両座標系に座標変換される。これにより、図4に示されている画像座標系(u,v)における前方レーンマークが、図5に示されているように車両1に対して固定された車両座標系(X,Y,Z)における線分として認識される。車両座標系は車両1の幅方向または左右方向をX方向とし、車両1の前後方向をY方向とし、かつ、車両1の上下方向をZ方向として定義されている。車両1の中心または重心とX座標値およびY座標値を共通にし、かつ、路面とZ座標値を共通にする点が車両座標系の原点Oとして定義されている。
【0032】
前方カメラ11の車両座標系におけるピッチ角度θ、パン角度φおよびロール角度ρならびに焦点距離fに基づき、関係式(1)にしたがって座標変換が実行される。
X=(w/f){(uαcosρ+vαsinρ)sinφ+cosφ},
Y=(w/f){−(uαcosρ+vαsinρ)cosφ+sinφ},
Z=(w/f)(−uαsinρ+vαcosρ)cosθ+wsinφ=0‥(1)
ここで、αは画像座標系における各画素の大きさであり、wは(u2+v2)1/2で表わされる。
【0033】
そして、車両座標系における左側および右側のそれぞれの前方レーンマークの近似直線または近似曲線を表わす方程式Y=FL(X)およびY=FR(X)が決定され、当該方程式が各前方レーンマークの位置および姿勢として認識される。
【0034】
同様に、第1演算処理要素110により車両座標系における左側および右側のそれぞれの後方レーンマークの近似直線または近似曲線を表わす方程式Y=RL(X)およびY=RR(X)が決定され、当該方程式が各後方レーンマークの位置および姿勢として認識される(図3/STEP008)。
【0035】
続いて、第1演算処理要素110により、車両1の挙動状態、ならびに、第1時点t1において撮像された前方画像に基づいて認識された前方レーンマークの位置および姿勢に基づき、第1時点t1から時間δtだけ後の第2時点t2(=t1+δt)において認識されると予測される後方レーンマークの位置および姿勢が推定される(図3/STEP010)。
【0036】
第1時点t1において図5に実線で示されているような車両1の位置および姿勢は、第1時点t1における車両1の挙動状態に応じて、第2時点t2において図5には線で示されているような位置および姿勢に変化する。このような車両1の位置および姿勢の変化に鑑みて、車両座標系における同一のレーンマークの位置および姿勢の変化態様が予測される。具体的には、第1時点t1における車速センサ122の出力信号に応じた車速V(t)およびヨーレートセンサ126の出力信号に応じたヨーレートω(t)が車両1の挙動状態として測定される。また、第1時点t1から指定時間δtだけ後の第2時点t2までの車両1のX方向およびY方向のそれぞれの変位量δXおよびδY、ならびに、方位角ξの変化量δξのそれぞれは、関係式(2)にしたがって算定される。車両1の変位量δXおよびδYの算定に際して、車速Vに加えて、加速度センサ124の出力信号に応じた車両1の加速度αが用いられてもよい。指定時間δtは、車両1が前方レーンマークを後方に臨む程度に変位するために要する時間以上に設定され、車速Vまたは車速Vおよび加速度αに基づいて流動的に設定されうる。
δX=∫dt・V(t)cosω(t),
δX=∫dt・V(t)sinω(t),
δξ=∫dt・ω(t) ‥(2)
【0037】
そして、当該変位量δXおよびδYならびに方位角変化量δξに基づき、第1時点t1における車両座標系から第2時点t2における車両座標系への座標変換式が決定される。さらに、第1時点t1における各前方レーンマークの位置および姿勢を表わす方程式Y=FL(X,t1)およびY=FR(X,t1)のそれぞれが、当該座標変換式にしたがって座標変換された結果の方程式Y=ERL(X,t2)およびY=ERR(X,t2)が、第2時点t2における各後方レーンマークの推定位置および推定姿勢として認識される。
【0038】
次に、第2演算処理要素120により、第2時点t2における後方レーンマークの推定位置および実際位置の位置偏差と、推定姿勢および実際姿勢の姿勢偏差とが認識される(図3/STEP012)。
【0039】
たとえば、左側の後方レーンマークの推定位置および推定姿勢を表わす式Y=ERL(X,t2)と、後方画像から抽出された左側の後方レーンマークの位置および姿勢を表わす式Y=RR(X,t2)とのそれぞれが直線方程式である場合、X軸またはY軸の切片の偏差が位置偏差として算定され、傾きの偏差が姿勢偏差として認識される。
【0040】
また、第2演算処理要素120により、第1状態における前方カメラ1の車両座標系における光軸姿勢と、後方レーンマークの位置偏差および姿勢偏差との関係、具体的には当該関係を表わす式が認識される(図3/STEP014)。「第1状態」とは、車両1の出荷または検査直後等の状態であって、車両座標系における前方カメラ11の光軸姿勢、すなわち、前方カメラ11のピッチ角度θ、パン角度φおよびロール角度ρが判明している状態を意味する。
【0041】
そして、第2状態における後方レーンマークの位置偏差および姿勢偏差に基づき、前記関係にしたがって、第2状態における前方カメラ11の光軸姿勢が認識される(図3/STEP016)。「第2状態」とは、前方カメラ11が交換された状態または前方カメラ11が取り外された上で再び同じ箇所に取り付けられた状態等、前方カメラ11の光軸姿勢が第1状態から変化した可能性がある状態を意味する。
【0042】
第2演算処理手段120により、前方カメラ11が交換されたこと、または、車両1から取り外された上で再び車両1に取り付けられたことを表わす信号が検知されたことを要件として、車両1が第1状態から第2状態に変化したことが認識されてもよい。当該信号は前方カメラ11の交換時に用いられるテスター等の器具から出力され、あるいは、車両1に設けられている所定のボタン(図示略)が操作されたことに応じて出力されてもよい。
【0043】
第2状態における後方レーンマークの位置偏差および姿勢偏差は、前方カメラ11の光軸姿勢が第1状態から変化していないという仮定にしたがって認識される。そして、第1状態と比較して、第2状態における後方レーンマークの位置偏差および姿勢偏差が相違する場合、当該相違を解消するように前記関係を表わす式が補正される。そして、第2状態における後方レーンマークの位置偏差および姿勢偏差に基づき、当該補正後の関係式にしたがって、第2状態における前方カメラ11の光軸姿勢が認識される。
【0044】
さらに、第2状態における前方カメラ11の光軸姿勢に基づき、前方レーンマークの位置および姿勢が高精度で認識されうる(関係式(1)および図5参照)。そして、左右両側の前方レーンマークにより左右が画定される走行帯から車両1が逸脱しないように、操舵装置14および制動装置16の一方または両方の動作が制御される。前方カメラ11の光軸姿勢を表わす各角度が指定範囲に収まっていることを要件として、当該制御が実行されてもよい。
【0045】
なお、前方カメラ11に代えて後方カメラ12の第2状態における光軸姿勢が認識されてもよい。この場合、第2状態とは、後方カメラ12が交換等されたことにより、車両座標系における後方カメラ12の光軸姿勢が変化した可能性がある状態を意味する。
【0046】
前記機能を発揮する車両走行支援装置10によれば、前方カメラ11を通じて得られた前方画像に基づいて前方レーンマークが抽出され、その位置および姿勢が認識される(図3/STEP002、STEP006、図5参照)。また、後方カメラ12を通じて得られた後方画像に基づいて後方レーンマークが抽出され、その位置および姿勢が認識される(図3/STEP004、STEP008、図5参照)。さらに、第1状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢が認識される。また、第2状態において撮像された前方画像および後方画像に基づいて認識された前方および後方レーンマークのそれぞれの位置および姿勢が認識される。そして、これらの認識結果に基づき、第2状態における前方カメラ11の光軸姿勢が認識される(図3/STEP016参照)。
【0047】
この結果、レーンマークが存在する道路を車両1が走行している過程で、キャリブレーション用の特殊なパターン等が置かれている指定箇所に行く必要なく、前方カメラ11のキャリブレーションが実行されうる。
【0048】
なお、第1状態における後方レーンマークに対する前方レーンマークの相対位置および相対姿勢と、前方カメラ11または後方カメラ12の光軸姿勢との関係が認識された上で、第2状態における後方レーンマークに対する前方レーンマークの相対位置および相対姿勢と、当該関係とに基づき、第2状態における前方カメラ11または後方カメラ12の光軸姿勢が認識されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1‥車両、10‥車両走行支援装置(キャリブレーション装置)、11‥前方カメラ、12‥後方カメラ、14‥操舵装置、16‥制動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されている、前記車両の前方範囲および後方範囲のそれぞれを撮像範囲とする前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションを実行する装置であって、
前記前方撮像装置を通じて撮像された前記車両の前方道路を含む前方画像に基づき、前方道路に存在する前方レーンマークを抽出し、かつ、前記後方撮像装置を通じて撮像された前記車両の後方道路を含む後方画像に基づき、後方道路に存在する後方レーンマークを抽出した上で、前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢を認識する第1演算処理要素と、
前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のそれぞれの光軸姿勢が判明している第1状態における、前記前方画像および前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢と、前記第1状態と比較して前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢が変化している可能性がある第2状態における前記前方画像および前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識する第2演算処理要素と
を備えていることを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項2】
請求項1記載のキャリブレーション装置において、
前記第1演算処理要素が前記車両の走行状態と、第1時点における前記前方画像に基づいて認識した前記前方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第1時点より後の第2時点において前記前方レーンマークが前記後方レーンマークとして認識された場合における当該後方レーンマークの位置および姿勢を推定し、
前記第2演算処理要素が、前記第1状態において前記後方レーンマークの前記第2時点における推定位置および推定姿勢のそれぞれと、前記第2時点における前記後方画像に基づいて前記第1演算処理要素により認識された前記後方レーンマークの位置および姿勢のそれぞれとの偏差と、前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢との関係を決定し、前記第2状態における前記偏差に基づき、前記関係にしたがって、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識することを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項3】
請求項1記載のキャリブレーション装置において、
前記第2演算処理要素が、前記第1状態における前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの相対位置および相対姿勢と、前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢との関係を決定し、前記第2状態における前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの相対位置および相対姿勢に基づき、前記関係にしたがって、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識することを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載のキャリブレーション装置において、
前記第2演算処理要素が、前記前方撮像装置の光軸および前記後方撮像装置の光軸の相対的な姿勢関係の変化態様が指定条件を満たしているか否かを判定し、
前記第1演算処理要素が、前記第2演算処理手段により前記変化態様が前記指定条件を満たしていると判定されたことを要件として、前記前方レーンマークおよび前記後方レーンマークの一方または両方を抽出することを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載のキャリブレーション装置において、
前記第1演算処理要素が、前記第2演算処理要素により認識された前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢の変化態様に基づき、前記前方レーンマークまたは前記後方レーンマークの位置および姿勢を補正することを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載のキャリブレーション装置において、
前記第2演算処理手段が、前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のうち一方が交換されたこと、または、前記車両に対する取り付け箇所から取り外された上で再び前記取り付け箇所に取り付けられたことを表わす信号を検知したことを要件として、前記車両が前記第1状態から前記第2状態に変化したことを認識することを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項7】
車両に搭載されている、前記車両の前方範囲および後方範囲のそれぞれを撮像範囲とする前方撮像装置および後方撮像装置のうち一方のキャリブレーションを実行する方法であって、
前記前方撮像装置および前記後方撮像装置のそれぞれの光軸姿勢が判明している第1状態における、前記前方画像および前記後方画像に基づいて認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢と、前記第1状態と比較して前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢が変化している可能性がある第2状態における前記前方画像および前記後方画像に基づいて認識された前記前方レーンマークの位置および姿勢、ならびに、前記後方レーンマークの位置および姿勢とに基づき、前記第2状態における前記前方撮像装置または前記後方撮像装置の光軸姿勢を認識することを特徴とするキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223619(P2010−223619A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68585(P2009−68585)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】