説明

シフトレンジ切換装置、パーキングロック装置、及び係合切換装置

【課題】運転者が操作を行う前に駆動源の異常を検出することができる技術を提供
【解決手段】モータ13が、自動変速機3のシフトレンジを切り換えるためのシフト切換機構12を駆動するための動力源となる。そしてシフトバイワイヤECU15が、自動変速機3のシフトレンジを、シフトレバー2を用いた選択操作に対応したシフトレンジとなるように、モータ13を制御する。さらに、シフトレンジがDレンジである場合には、車両の走行速度が異常判定速度以上であるときに、またシフトレンジがPレンジである場合には、パーキングブレーキが作動し且つイグニッションスイッチ7がオフであるときに、シフトレンジが切り換わらない程度にモータ13を回転させる。すなわち、車両の運転者がシフトレバー2を操作する可能性が低い状況になると、モータ13が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された自動変速機のシフトレンジを切り換えるシフトレンジ切換装置と、パーキングロック装置と、係合切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載された自動変速機に取り付けられるシフトレンジ切換機構と、このシフトレンジ切換機構を駆動するための駆動源(例えば、モータ)とを備え、車両の運転者によるシフトレバー操作に基づいて駆動源を制御することによりシフトレンジ切換機構を駆動させて、自動変速機のシフトレンジを切り換えるシフトレンジ切換装置が利用されている。
【0003】
このように駆動源を用いてシフトレンジ切換機構を駆動させる方式のシフトレンジ切換装置において、従来、運転者のシフトレバー操作が行われると、このシフトレバー操作による指示通りにシフトレンジが切り換わったか否かを判断することにより、駆動源の異常を検出するものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、自動変速機を搭載しない電気自動車やハイブリッド自動車の駆動装置に取り付けられるパーキングロック機構を備え、運転者によるパーキングロック操作に基づいて駆動源を制御することにより、パーキングロックおよびパーキングロック解除の何れかに切り換えるパーキングロック装置が利用されている。さらに、電気自動車の動力源がインホイールモータとなる車両の駆動装置についても、車軸の回転を停止させるパーキングロック装置が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−32819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の技術では、シフトレバー操作が行われない限り、駆動源の異常を検出することができないという問題があった。
また、自動変速機を搭載しない電気自動車やハイブリッド自動車では、運転者のシフトレバー操作だけではなく、パーキングロック操作が行われない限り、駆動源の異常を検出することができないという問題もあった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、運転者が操作を行う前に駆動源の異常を検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載のシフトレンジ切換装置では、シフト駆動手段が、車両に搭載された自動変速機のシフトレンジを切り換えるためのシフトレンジ切換機構を駆動するための動力源となる。またシフトレンジ操作部材が、シフトレンジを選択するために車両の運転者により操作される。そしてシフト制御手段が、自動変速機のシフトレンジを、シフトレンジ操作部材を用いた選択操作に対応したシフトレンジとなるように、シフト駆動手段を制御する。
【0009】
さらにシフトレンジ異常検出駆動手段は、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定されたシフトレンジ異常検出条件が成立すると、シフト駆動手段を駆動させる。そしてシフトレンジ駆動検出手段は、シフトレンジ異常検出駆動手段がシフト駆動手段を駆動させた後に、シフト駆動手段の駆動状況を検出するとともに、シフトレンジ異常判断手段は、シフトレンジ駆動検出手段の検出結果に基づいて、シフト駆動手段が異常であるか否かを判断する。
【0010】
なお、シフトレンジ異常検出駆動手段は、シフトレンジが切り換わらないようにシフト駆動手段を駆動させる必要がある。
また、シフトレンジ駆動検出手段が検出する上記駆動状況としては、シフトレンジ異常検出駆動手段がシフト駆動手段を駆動させた後の駆動量が、予め設定された正常判定範囲内にあるか否かということが挙げられる。そしてシフトレンジ異常判断手段は、この駆動量が正常判定範囲外である場合に、シフト駆動手段が異常であると判断するようにしてもよい。
【0011】
このように構成されたシフトレンジ切換装置では、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する可能性が低い状況になると、シフト駆動手段が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。すなわち、シフト駆動手段に異常が発生した場合に、この異常を、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する前に検出することができる。
【0012】
なお、車両駐車中において、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する可能性が低い状況としては、車両のパーキングブレーキが作動していることと、車両のイグニッションスイッチがオフであることが挙げられる。
【0013】
このため、請求項1に記載のシフトレンジ切換装置では、請求項2に記載のように、自動変速機のシフトレンジがパーキングレンジであるときのシフトレンジ異常検出条件は、車両のパーキングブレーキが作動しており、且つ、車両のイグニッションスイッチがオフであることであるようにするとよい。
【0014】
そして、請求項2に記載のシフトレンジ切換装置において、シフト駆動手段が異常であるとシフトレンジ異常判断手段が判断した場合には、請求項3に記載のように、第2異常時処理手段が、自動変速機のシフトレンジをパーキングレンジに保持するとともに、車両のエンジン始動時に、当該シフトレンジ切換装置に異常が発生した旨を報知する処理を行うようにするとよい。
【0015】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、エンジン始動時に報知を行うことにより、車両駐車状態から車両を発進させようとして車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する前に、シフト駆動手段に異常が発生した旨を車両の乗員に知らせることができる。
【0016】
また、車両走行中において、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する可能性が低い状況としては、車両の走行速度、車両のエンジン負荷、及び車両のスロットル開度が大きいことと、車両が高速道路を走行中であることが挙げられる。
【0017】
このため、請求項1に記載のシフトレンジ切換装置では、請求項4に記載のように、自動変速機のシフトレンジがドライブレンジであるときのシフトレンジ異常検出条件は、車両の走行速度、車両のエンジン負荷、車両のスロットル開度、および車両が高速道路を走行中であるか否か、の少なくとも一つを用いて設定されるようにするとよい。
【0018】
そして、請求項4に記載のシフトレンジ切換装置において、シフト駆動手段が異常であるとシフトレンジ異常判断手段が判断した場合には、請求項5に記載のように、第1シフトレンジ異常時処理手段が、自動変速機のシフトレンジをドライブレンジに保持するとともに、車両の停止と車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知を行い、さらに車両のパーキングブレーキの作動後に、車両のエンジンを停止させる処理を行うようにするとよい。
【0019】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、車両の停止と車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知によって、車両の運転者がシフトレンジ操作部材を操作する前に、シフト駆動手段に異常が発生した旨を車両の乗員に知らせることができる。また、パーキングブレーキの作動後に車両のエンジンを停止させるので、車両を停止させてパーキングブレーキを作動させた後に、運転者の意図しない車両発進が起こることを防ぐことができる。
【0020】
また、請求項1〜請求項5の何れかに記載のシフトレンジ切換装置では、請求項6に記載のように、シフトレンジ異常検出駆動手段が、予め設定された異常検出時間が経過する毎に動作をするようにするとよい。
【0021】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、シフト駆動手段の異常を検出するために常時シフト駆動手段を駆動させることがなくなり、シフト駆動手段に掛かる負荷を低減させることができる。
【0022】
なお、請求項1〜請求項6の何れかに記載のシフトレンジ切換装置において、シフトレンジ異常検出駆動手段がシフト駆動手段を駆動させた後におけるシフト駆動手段の駆動状況を検出するために、請求項7に記載のように、シフトレンジ異常判断手段は、シフトレンジ異常検出駆動手段が動作を開始してから予め設定された異常判断時間が経過した後に動作するようにするとよい。
【0023】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、駆動手段がシフト駆動手段を駆動させてから異常判断時間が経過するまでの間、シフト駆動手段の異常を常時検出することがなくなり、異常検出のための処理負荷を低減させることができる。
【0024】
また、請求項1〜請求項7の何れかに記載のシフトレンジ切換装置において、シフト駆動手段がモータである場合には、請求項8に記載のように、シフトレンジ異常検出駆動手段が、モータとモータのモータ軸との間で発生する機械的ガタに起因した回転量より大きくなるように、且つシフトレンジが切り換わらないように、モータの回転量の目標値を示す回転目標値を設定して、シフト駆動手段を駆動させるようにするとよい。
【0025】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、機械的ガタのためにモータが回転することによりモータが異常であるにもかかわらず正常であると判断してしまうという事態の発生を抑制することができる。さらに、シフトレンジ異常検出駆動手段によるシフト駆動手段の駆動によりシフトレンジが切り換わってしまうという事態の発生を抑制することができる。
【0026】
また、請求項1〜請求項8の何れかに記載のシフトレンジ切換装置において、シフト駆動手段がモータである場合には、請求項9に記載のように、シフトレンジ異常検出駆動手段が、モータの回転量の目標値を示す回転目標値を設定して、シフト駆動手段を駆動させ、シフトレンジ駆動検出手段が、シフト駆動手段の駆動状況として、回転目標値とモータの回転量との差であるモータ回転ずれ量を検出し、異常報知手段が、駆動検出手段の検出結果に基づいて、シフトレンジ駆動検出手段がモータ回転ずれ量を検出する毎にモータ回転ずれ量が増加する傾向がある場合に、その旨を報知するようにするとよい。
【0027】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、シフト駆動手段が正常であっても異常になる傾向があるということを、車両の乗員に知らせることができる。
また、請求項1〜請求項9の何れかに記載のシフトレンジ切換装置は、請求項10に記載のように、シフトバイワイヤシステムで用いられるようにするとよい。
【0028】
また、請求項3に記載のシフトレンジ切換装置では、請求項11に記載のように、自動変速機のシフトレンジがドライブレンジであるときのシフトレンジ異常検出条件は、車両の走行速度、車両のエンジン負荷、車両のスロットル開度、および車両が高速道路を走行中であるか否か、の少なくとも一つを用いて設定されるようにするとよい。
【0029】
そして、請求項11に記載のシフトレンジ切換装置において、シフト駆動手段が異常であるとシフトレンジ異常判断手段が判断した場合には、請求項12に記載のように、第1シフトレンジ異常時処理手段が、自動変速機のシフトレンジをドライブレンジに保持するとともに、車両の停止と車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知を行い、さらに車両のパーキングブレーキの作動後に、車両のエンジンを停止させる処理を行うようにするとよい。
【0030】
このように構成されたシフトレンジ切換装置によれば、請求項5に記載のシフトレンジ切換装置と同様の効果を得ることができる。
また、請求項13に記載のパーキングロック装置では、パーキングロック駆動手段が、車両の車輪を駆動させるための駆動装置の駆動を車両の駐車時に阻止するパーキングロック状態と、パーキングロック状態が解除された状態であるパーキングロック解除状態との何れかに切り換え可能なパーキングロック切換機構の動力源となる。またパーキングロック操作部材が、パーキングロック状態またはパーキングロック解除状態を選択するために車両の運転者により操作される。そしてパーキングロック制御手段が、パーキングロック切換機構を、パーキングロック操作部材を用いた選択操作に対応して、パーキングロック状態またはパーキングロック解除状態となるように、パーキングロック駆動手段を制御する。
【0031】
さらにパーキングロック異常検出駆動手段は、車両の運転者がパーキングロック操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定されたパーキングロック異常検出条件が成立すると、パーキングロック駆動手段を駆動させる。そしてパーキングロック駆動検出手段は、パーキングロック異常検出駆動手段がパーキングロック駆動手段を駆動させた後に、パーキングロック駆動手段の駆動状況を検出するとともに、パーキングロック異常判断手段は、パーキングロック駆動検出手段の検出結果に基づいて、パーキングロック駆動手段が異常であるか否かを判断する。
【0032】
なお、パーキングロック異常検出駆動手段は、パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態が切り換わらないようにパーキングロック駆動手段を駆動させる必要がある。
【0033】
また、パーキングロック駆動検出手段が検出する上記駆動状況としては、パーキングロック異常検出駆動手段がパーキングロック駆動手段を駆動させた後の駆動量が、予め設定された正常判定範囲内にあるか否かということが挙げられる。そしてパーキングロック異常判断手段は、この駆動量が正常判定範囲外である場合に、パーキングロック駆動手段が異常であると判断するようにしてもよい。
【0034】
このように構成されたパーキングロック装置では、車両の運転者がパーキングロック操作部材を操作する可能性が低い状況になると、パーキングロック駆動手段が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。すなわち、パーキングロック駆動手段に異常が発生した場合に、この異常を、車両の運転者がパーキングロック操作部材を操作する前に検出することができる。
【0035】
なお、車両駐車中において、車両の運転者がパーキングロック操作部材を操作する可能性が低い状況としては、車両のパーキングブレーキが作動していることと、車両のイグニッションスイッチがオフであることが挙げられる。
【0036】
また、車両走行中において、車両の運転者がパーキングロック操作部材を操作する可能性が低い状況としては、車両の走行速度、車両のエンジン負荷、及び車両のスロットル開度が大きいことと、車両が高速道路を走行中であることが挙げられる。
【0037】
また、車両をパーキングロック状態またはパーキングロック解除状態に切り換えるパーキングロック装置は、自動変速機を搭載しない電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されるため、請求項13に記載のパーキングロック装置を、請求項14に記載のように、自動変速機を搭載しない電気自動車、またはハイブリッド自動車で用いられるようにするとよい。これにより、自動変速機を搭載しない電気自動車やハイブリッド自動車において、請求項13に記載のパーキングロック装置と同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、インホイールモータにより車輪を駆動させる車両においても、車両をパーキングロック状態またはパーキングロック解除状態に切り換えるパーキングロック装置が搭載されるため、請求項13に記載のパーキングロック装置において、請求項15に記載のように、駆動装置は、インホイールモータの動力を伝達する装置であるようにするとよい。これにより、インホイールモータにより車輪を駆動させる車両において、請求項13に記載のパーキングロック装置と同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、請求項16に記載の係合切換装置では、1つまたは複数の凹部が外周に形成され、回転軸を中心に回転可能な板状部材と、凹部に係合可能な係合部材と、板状部材または係合部材のいずれか一方を駆動させる切換駆動手段と、凹部と係合部材との係合または非係合を選択するために操作される選択操作部材とを備え、選択操作部材を用いた選択操作に対応して、板状部材または係合部材のいずれか一方を駆動させて、凹部と係合部材との係合または非係合を切り換える。
【0040】
そして、当該係合切換装置は、車両に搭載され、さらに切換異常検出駆動手段は、車両の運転者が選択操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定された切換異常検出条件が成立すると、係合部材と凹部とが係合されている場合には、係合部材と凹部との係合が維持される駆動量で、係合部材と凹部とが非係合である場合には、係合部材と凹部との非係合が維持される駆動量で、切換駆動手段を駆動させる。そして切換駆動検出手段は、切換異常検出駆動手段が切換駆動手段を駆動させた後に、切換駆動手段の駆動状況を検出するとともに、切換異常判断手段は、切換駆動検出手段の検出結果に基づいて、切換駆動手段が異常であるか否かを判断する。
【0041】
このように構成された係合切換装置では、車両の運転者が選択操作部材を操作する可能性が低い状況になると、切換駆動手段が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。すなわち、切換駆動手段に異常が発生した場合に、この異常を、車両の運転者が選択操作部材を操作する前に検出することができる。
【0042】
なお、切換異常検出駆動手段は、係合部材と凹部とが係合されている場合には、係合部材と凹部との係合が維持される駆動量で、係合部材と凹部とが非係合である場合には、係合部材と凹部との非係合が維持される駆動量で、切換駆動手段を駆動させるため、切換異常検出駆動手段の動作により、係合部材と凹部との係合・非係合は切り換わらない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1実施形態のシフトレンジ切換装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態のシフト切換機構12の構成を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態の異常検出処理を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態のモータ異常判断処理を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態のフェールセーフ処理を示すフローチャートである。
【図6】シフトレンジとモータ13の回転位置との対応関係についてDレンジ近傍を詳細に示す図である。
【図7】シフトレンジとモータ13の回転位置との対応関係についてPレンジ近傍を詳細に示す図である。
【図8】第2実施形態のパーキングロック装置101の構成を示すブロック図である。
【図9】第2実施形態のパーキングロック切換機構112の構成を示す正面図である。
【図10】第2実施形態の異常検出処理を示すフローチャートである。
【図11】第2実施形態のモータ異常判断処理を示すフローチャートである。
【図12】第2実施形態のフェールセーフ処理を示すフローチャートである。
【図13】パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態とモータ113の回転位置との対応関係についてパーキングロック解除状態近傍を詳細に示す図である。
【図14】パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態とモータ113の回転位置との対応関係についてパーキングロック状態近傍を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(第1実施形態)
以下に本発明の第1実施形態を図面とともに説明する。
図1はシフトレンジ切換装置1の構成を示すブロック図、図2はシフト切換機構12の構成を示す斜視図である。
【0045】
本実施形態のシフトレンジ切換装置1は、車両に搭載されており、図1に示すように、運転者が操作するシフトレバー2の操作位置(本実施形態ではPレンジ、Rレンジ、Nレンジ、及びDレンジ)を検出するシフトスイッチ11と、自動変速機3に連結されて自動変速機3のシフトレンジ(Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、及びDレンジの何れか)を切り換えるシフト切換機構12と、シフト切換機構12を駆動させるモータ13と、モータ13の回転位置を検出するエンコーダ14と、モータ13の回転を制御するシフトバイワイヤECU15とを備えている。
【0046】
なおシフトバイワイヤECU15には、車両のエンジン4の運転を制御するエンジンECU5と、インストルメントパネル(不図示)に設けられて車両の各種状態を表示する表示部(不図示)を制御するメータECU6とが、データ通信可能に接続される。さらにシフトバイワイヤECU15には、車両のイグニッションスイッチ7からの出力信号と、車両のパーキングブレーキ(不図示)の作動状態を検出するパーキングブレーキスイッチ8からの出力信号と、車両の走行速度を検出する車速センサ9からの出力信号とが入力される。
【0047】
またシフトバイワイヤECU15は、電力が供給されない状態でも記憶されたデータを保持可能なEEPROM15aを備える。そしてEEPROM15aには、シフトレンジがDレンジであるときにモータ13に異常が発生したことを示すDレンジ時モータ異常フラグF1と、シフトレンジがPレンジであるときにモータ13に異常が発生したことを示すPレンジ時モータ異常フラグF2とが設けられている。尚、以下の説明において、フラグをセットするとは、そのフラグの値を1にすることを示し、フラグをクリアするとは、そのフラグの値を0にすることを示す。
【0048】
またメータECU6には、インストルメントパネル(不図示)に設けられて、車両停止とパーキングブレーキの作動を促す警告を行う警告灯10aと、シフトレンジ切換装置1の異常を報知する警告灯10bと、シフトレンジ切換装置1が異常になる傾向にある旨を報知する警告灯10cとが接続される。
【0049】
そしてシフト切換機構12は、図2に示すように、駆動軸31、ディテントプレート32、ディテントスプリング33、およびピン34から構成される。
これらのうち駆動軸31は、モータ13の出力軸に固定されており、モータ13により回転駆動される。
【0050】
またディテントプレート32は、略扇形状の板状部材であり、その扇面が駆動軸31の軸方向に略直交するようにして、扇形状の扇頂部分において駆動軸31に固定されている。さらにディテントプレート32は、その扇形状の円弧部において、円周方向に沿って、複数(本実施形態では4個)の凹部41,42,43,44を備える。なお凹部41,42,43,44はそれぞれ、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジに対応する。
【0051】
またディテントスプリング33は、板バネであり、その一端に自動変速機3が固定されるとともに、他端に、ローラ33aが取り付けられる。ローラ33aは、凹部41,42,43,44と嵌合可能な形状に形成されており、駆動軸31の軸方向に略平行な軸を回転軸として回転可能にディテントスプリング33に支持される。そしてディテントスプリング33は、ローラ33aを介して、ディテントプレート32の扇形状の円弧部を上方から押圧するように配置される。
【0052】
またピン34は、その一端が、ディテントプレート32の扇面に固定されるとともに、他端が、自動変速機3のマニュアルバルブ51に固定される。なおマニュアルバルブ51は、自動変速機3内を往復移動可能に設けられており(移動方向D1を参照)、自動変速機3は、その移動位置に応じてシフトレンジが切り換わるように構成されている。
【0053】
このように構成されたシフト切換機構12では、モータ13により駆動軸31を回転させることにより、ディテントプレート32の回転位置を変更させ、マニュアルバルブ51を移動方向D1に沿って往復移動させることができる。そしてローラ33aは、ディテントプレート32の回転位置に応じて、ディテントプレート32の円弧部においてディテントプレート32と当接する位置を変動させることができ、ローラ33aを凹部41,42,43,44の何れかに嵌合させた状態(以下、ローラ嵌合状態ともいう)にすることができる。さらに、ローラ嵌合状態でモータ13の回転を停止させると、このローラ嵌合状態が保持され、ディテントプレート32の回転位置が固定される。すなわち、マニュアルバルブ51の移動位置が決定され、マニュアルバルブ51の移動位置の応じたシフトレンジに固定される。
【0054】
このように構成されたシフトレンジ切換装置1において、シフトバイワイヤECU15は、モータ13の異常を検出する異常検出処理と、モータ13に異常が発生したときにこの異常が車両に及ぼす影響を最小限に抑えるフェールセーフ処理とを実行する。
【0055】
まず、シフトバイワイヤECU15が実行する異常検出処理の手順を、図3を用いて説明する。図3は異常検出処理を示すフローチャートである。この異常検出処理は、シフトバイワイヤECU15が起動しているときに繰り返し実行される処理である。
【0056】
この異常検出処理が実行されると、シフトバイワイヤECU15は、まずS10にて、S70のモータ異常判断処理(後述)が実行されてから予め設定された所定異常検出時間(本実施形態では例えば4時間)が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判断処理が実行されてから所定異常検出時間が経過していない場合には(S10:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、モータ異常判断処理が実行されてから所定異常検出時間が経過した場合には(S10:YES)、S20にて、シフトスイッチ11の検出結果に基づいて、自動変速機3のシフトレンジがDレンジであるか否かを判断する。
【0057】
ここで、シフトレンジがDレンジでない場合には(S20:NO)、S40に移行する。一方、シフトレンジがDレンジである場合には(S20:YES)、S30にて、車速センサ9の検出結果に基づいて、車両の走行速度が予め設定された異常判定速度(本実施形態では例えば70km/h)以上であるか否かを判断する。ここで、車両の走行速度が異常判定速度未満である場合には(S30:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、車両の走行速度が異常判定速度以上である場合には(S30:YES)、S70に移行する。
【0058】
またS40に移行すると、シフトスイッチ11の検出結果に基づいて、自動変速機3のシフトレンジがPレンジであるか否かを判断する。ここで、シフトレンジがPレンジでない場合には(S40:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、シフトレンジがPレンジである場合には(S40:YES)、S50にて、パーキングブレーキスイッチ8の検出結果に基づいて、パーキングブレーキが作動しているか否かを判断する。
【0059】
ここで、パーキングブレーキが作動していない場合には(S50:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、パーキングブレーキが作動している場合には(S50:YES)、S60にて、イグニッションスイッチ7からの出力信号に基づいて、イグニッションスイッチ7がオフであるか否かを判断する。ここで、イグニッションスイッチ7がオフでない場合には(S60:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、イグニッションスイッチ7がオフである場合には(S60:YES)、S70に移行する。
【0060】
そしてS70に移行すると、モータ異常判断処理(後述)を実行し、このモータ異常判断処理が終了すると、異常検出処理を一旦終了する。
次に、S70で実行されるモータ異常判断処理の手順を、図4を用いて説明する。図4はモータ異常判断処理を示すフローチャートである。
【0061】
このモータ異常判断処理が実行されると、シフトバイワイヤECU15は、まずS210にて、自動変速機3のシフトレンジがDレンジであるか否かを判断する。ここで、シフトレンジがDレンジでない場合には(S210:NO)、S290に移行する。一方、シフトレンジがDレンジである場合には(S210:YES)、S220にて、Dレンジから隣のシフトレンジ(すなわちNレンジ)に変化させるために必要な回転量と比較して十分に小さい回転量の回転駆動をモータ13に実行させる制御を行う。
【0062】
ここで、S220でのモータ13の指示回転量を図6を用いて説明する。図6は、シフトレンジとモータ13の回転位置との対応関係を示す図であり、Dレンジ近傍を詳細に示している。
【0063】
図6に示すように、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジであるときのモータ13の回転位置をそれぞれ、Pレンジ回転位置Pp、Rレンジ回転位置Pr、Nレンジ回転位置Pn、Dレンジ回転位置Pdとして(但し、Pp<Pr<Pn<Pd)、Nレンジ回転位置PnとDレンジ回転位置Pdとの間には、NレンジとDレンジとの境界となる回転位置Bnd(以下、N・D境界回転位置Bndという)が存在する。また、Nレンジ回転位置PnとDレンジ回転位置Pdとの間には、モータ13とモータ13のモータ軸との間で発生する機械的ガタのためにモータ13の回転が停止しているにもかかわらずモータ13の回転位置が変化してその変化量が最大となる回転位置Gd(以下、Dガタ回転位置Gdという)が存在する。
【0064】
そして、S220での回転駆動によってモータ13の回転位置を移動させる際の目標位置Td(以下、Dレンジ目標回転位置Tdという)は、N・D境界回転位置BndとDガタ回転位置Gdとの間に設定されており、且つ、Dレンジ目標回転位置Tdは、N・D境界回転位置Bndと比較して十分に大きい値に設定されている。したがって、S220でのモータ13の指示回転量は、|Td−Pd|である。
【0065】
またS220の処理が終了すると、図4に示すように、S230にて、S220でモータ13の回転を開始してから予め設定されたモータ異常判定時間(本実施形態では例えば1秒)が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判定時間が経過していない場合には(S230:NO)、S230の処理を繰り返し、モータ異常判定時間が経過するまで待機する。一方、モータ異常判定時間が経過した場合には(S230:YES)、S240にて、モータ13の回転位置を検出して、さらにS250にて、モータ13の回転位置が予め設定されたDレンジ正常判定範囲Rd内であるか否かを判断する。なおDレンジ正常判定範囲Rdは、N・D境界回転位置BndとDガタ回転位置Gdとの間でDレンジ目標回転位置Tdが含まれるように設定されている(図6を参照)。
【0066】
ここで、モータ13の回転位置がDレンジ正常判定範囲Rd内である場合には(S250:YES)、S270に移行する。一方、モータ13の回転位置がDレンジ正常判定範囲Rd外である場合には(S250:NO)、S260にて、Dレンジ時モータ異常フラグF1をセットして、S270に移行する。
【0067】
そしてS270に移行すると、S240で検出したモータ13の回転位置と、Dレンジ目標回転位置Tdとの差(以下、Dレンジ回転ずれ量という)を算出して、このDレンジ回転ずれ量をEEPROM15aに記憶し、S350に移行する。
【0068】
またS290に移行すると、Pレンジから隣のシフトレンジ(すなわちRレンジ)に変化させるために必要な回転量と比較して十分に小さい回転量の回転駆動をモータ13に実行させる制御を行う。
【0069】
ここで、S290でのモータ13の指示回転量を図7を用いて説明する。図7は、シフトレンジとモータ13の回転位置との対応関係を示す図であり、Pレンジ近傍を詳細に示している。
【0070】
図7に示すように、Pレンジ回転位置PpとRレンジ回転位置Prとの間には、PレンジとRレンジとの境界となる回転位置Bpr(以下、P・R境界回転位置Bprという)が存在する。また、Pレンジ回転位置PpとRレンジ回転位置Prとの間には、モータ13とモータ13のモータ軸との間で発生する機械的ガタのためにモータ13の回転が停止しているにもかかわらずモータ13の回転位置が変化してその変化量が最大となる回転位置Gp(以下、Pガタ回転位置Gpという)が存在する。
【0071】
そして、S290での回転駆動によってモータ13の回転位置を移動させる際の目標位置Tp(以下、Pレンジ目標回転位置Tpという)は、P・R境界回転位置BprとPガタ回転位置Gpとの間に設定されており、且つ、Pレンジ目標回転位置Tpは、P・R境界回転位置Bprと比較して十分に小さい値に設定されている。したがって、S270でのモータ13の指示回転量は、|Tp−Pp|である。
【0072】
またS290の処理が終了すると、図4に示すように、S300にて、S290でモータ13の回転を開始してからモータ異常判定時間が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判定時間が経過していない場合には(S300:NO)、S300の処理を繰り返し、モータ異常判定時間が経過するまで待機する。一方、モータ異常判定時間が経過した場合には(S300:YES)、S310にて、モータ13の回転位置を検出して、さらにS320にて、モータ13の回転位置が予め設定されたPレンジ正常判定範囲Rp内であるか否かを判断する。なおPレンジ正常判定範囲Rpは、Pガタ回転位置GpとP・R境界回転位置Bprとの間でPレンジ目標回転位置Tpが含まれるように設定されている(図7を参照)。
【0073】
ここで、モータ13の回転位置がPレンジ正常判定範囲Rp内である場合には(S320:YES)、S340に移行する。一方、モータ13の回転位置がPレンジ正常判定範囲Rp外である場合には(S320:NO)、S330にて、Pレンジ時モータ異常フラグF2をセットして、S340に移行する。
【0074】
そしてS340に移行すると、S310で検出したモータ13の回転位置と、Pレンジ目標回転位置Tpとの差(以下、Pレンジ回転ずれ量という)を算出して、このPレンジ回転ずれ量をEEPROM15aに記憶し、S350に移行する。
【0075】
そしてS350に移行すると、Dレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量の少なくとも一方が増加する傾向にあるか否かを、EEPROM15aに記憶されたDレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量を用いて判断する。
【0076】
ここで、Dレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量の両方が増加する傾向にない場合には(S350:NO)、モータ異常判断処理を終了する。一方、Dレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量の少なくとも一方が増加する傾向にある場合には(S350:YES)、S360にて、警告灯10cをメータECU6に点灯させて、モータ異常判断処理を終了する。
【0077】
次に、シフトバイワイヤECU15が実行するフェールセーフ処理の手順を、図5を用いて説明する。図5はフェールセーフ処理を示すフローチャートである。このフェールセーフ処理は、シフトバイワイヤECU15が起動しているときに繰り返し実行される処理である。
【0078】
このフェールセーフ処理が実行されると、シフトバイワイヤECU15は、まずS410にて、Dレンジ時モータ異常フラグF1がセットされているか否かを判断する。ここで、Dレンジ時モータ異常フラグF1がセットされていない場合には(S410:NO)、S430に移行する。一方、Dレンジ時モータ異常フラグF1がセットされている場合には(S410:YES)、S420にて、Dレンジ時フェールセーフ処理を実行して、フェールセーフ処理を一旦終了する。
【0079】
なおDレンジ時フェールセーフ処理では、具体的には、以下の3つの処理を行う。まず第1の処理は、モータ13の回転駆動を禁止する処理である。これにより、運転者がシフトレバー2を操作してシフトレバー2の操作位置が変化した場合であっても、シフトレンジが切り換わらずDレンジを保持する。また第2の処理は、車両停止とパーキングブレーキの作動を促す警告を行う警告灯10aをメータECU6に点灯させる処理である。また第3の処理は、車両が停止するとともにパーキングブレーキが作動したときにエンジンECU5にエンジン4を停止させる処理である。
【0080】
またS430に移行すると、Pレンジ時モータ異常フラグF2がセットされているか否かを判断する。ここで、Pレンジ時モータ異常フラグF2がセットされていない場合には(S430:NO)、フェールセーフ処理を一旦終了する。一方、Pレンジ時モータ異常フラグF2がセットされている場合には(S410:YES)、S440にて、Pレンジ時フェールセーフ処理を実行して、フェールセーフ処理を一旦終了する。
【0081】
なおPレンジ時フェールセーフ処理では、具体的には、以下の2つの処理を行う。まず第1の処理は、モータ13の回転駆動を禁止する処理である。これにより、運転者がシフトレバー2を操作してシフトレバー2の操作位置が変化した場合であっても、シフトレンジが切り換わらずPレンジを保持する。また第2の処理は、シフトレンジ切換装置1の異常を報知する警告灯10bを、エンジン4が始動したときにメータECU6に点灯させる処理である。
【0082】
なお、Dレンジ時モータ異常フラグF1とPレンジ時モータ異常フラグF2のクリアは、車両用の故障診断装置(いわゆるダイアグテスタ。不図示)とシフトバイワイヤECU15とをデータ通信可能に接続して、故障診断装置からシフトバイワイヤECU15にフラグクリア指令を送信することにより実行される。すなわち、異常が発生したモータ13を作業者が修理または交換することによりモータ13の異常を解消したのちに、この作業者が故障診断装置を操作してフラグクリア指令を入力することにより、フラグF1,F2をクリアすることができる。
【0083】
このように構成されたシフトレンジ切換装置1では、モータ13が、車両に搭載された自動変速機3のシフトレンジを切り換えるためのシフト切換機構12を駆動するための動力源となる。またシフトレバー2が、シフトレンジを選択するために車両の運転者により操作される。そしてシフトバイワイヤECU15が、自動変速機3のシフトレンジを、シフトレバー2を用いた選択操作に対応したシフトレンジとなるように、モータ13を制御する。
【0084】
さらに、シフトレンジがDレンジである場合には(S20:YES)、車両の走行速度が異常判定速度(本実施形態では例えば70km/h)以上であるときに(S30:YES)、またシフトレンジがPレンジである場合には(S40:YES)、パーキングブレーキが作動し(S50:YES)、且つイグニッションスイッチ7がオフである(S60:YES)ときに、モータ13を回転させる(S220,S290)。そして、モータ13を回転させた後に、モータ13の回転位置を検出する(S240,S310)とともに、モータ13の回転位置がDレンジ正常判定範囲Rd内またはPレンジ正常判定範囲Rp内であるか否かにより、モータ13の異常を判断する(S250,S320)。
【0085】
このため、車両の運転者がシフトレバー2を操作する可能性が低い状況になると、モータ13が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。すなわち、モータ13に異常が発生した場合に、この異常を、車両の運転者がシフトレバー2を操作する前に検出することができる。
【0086】
なお、S220及びS290の処理では、ディテントプレート32の凹部41(Pレンジ),凹部44(Dレンジ)とディテントスプリング33のローラ33aとが嵌合されている場合において、この嵌合が維持される回転量でモータ13を回転させる。
【0087】
また、シフトレンジがDレンジである場合にモータ13が異常であると判断された場合には(S410:YES)、自動変速機3のシフトレンジをDレンジに保持するとともに、車両の停止と車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知を行い、さらに車両が停止するとともにパーキングブレーキが作動したときに車両のエンジンを停止させる処理を行う(S420)。
【0088】
このため、車両の停止と車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知によって、車両の運転者がシフトレバー2を操作する前に、モータ13に異常が発生した旨を車両の乗員に知らせることができる。また、パーキングブレーキの作動後に車両のエンジンを停止させるので、車両を停止させてパーキングブレーキを作動させた後に、運転者の意図しない車両発進が起こることを防ぐことができる。
【0089】
また、シフトレンジがPレンジである場合にモータ13が異常であると判断された場合には(S430:YES)、自動変速機のシフトレンジをPレンジに保持するとともに、車両のエンジン始動時に、シフトレンジ切換装置1に異常が発生した旨を報知する処理を行う(S440)。
【0090】
このため、エンジン始動時に報知を行うことにより、車両駐車状態から車両を発進させようとして車両の運転者がシフトレバー2を操作する前に、シフトレンジ切換装置1に異常が発生した旨を車両の乗員に知らせることができる。
【0091】
また、所定異常検出時間が経過する毎にモータ異常判断処理が実行される(S10)ため、モータ13の異常を検出するために常時モータ13を駆動させることがなくなり、モータ13に掛かる負荷を低減させることができる。
【0092】
また、モータ13を回転させて(S220,S290)からモータ異常判定時間が経過した後に(S230,S300)、モータ13の異常を判断する(S250,S320)。このため、モータ13を回転させてからモータ異常判定時間が経過するまでの間、モータ13の異常を常時判断することがなくなり、異常検出のための処理負荷を低減させることができる。
【0093】
また、モータ13とモータ13のモータ軸との間で発生する機械的ガタに起因した回転量より大きくなるように、且つシフトレンジが切り換わらないように、Dレンジ目標回転位置TdおよびPレンジ目標回転位置Tpを設定して、モータ13を回転させる(S220,S290)。このため、機械的ガタのためにモータ13が回転することによりモータが異常であるにもかかわらず正常であると判断してしまうという事態の発生を抑制することができる。さらに、モータ13の異常検出のためのモータ13の回転によりシフトレンジが切り換わってしまうという事態の発生を抑制することができる。
【0094】
また、Dレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量の少なくとも一方が増加する傾向にある場合に(S350:YES)、警告灯10cを点灯させて、その旨を報知する(S360)。このため、モータ13が正常であっても異常になる傾向があるということを、車両の乗員に知らせることができる。
【0095】
以上説明した実施形態において、シフト切換機構12は本発明におけるシフトレンジ切換機構、モータ13は本発明におけるシフト駆動手段、シフトレバー2は本発明におけるシフトレンジ操作部材、シフトバイワイヤECU15は本発明におけるシフト制御手段、S220,S290の処理は本発明におけるシフトレンジ異常検出駆動手段、S240,S310の処理は本発明におけるシフトレンジ駆動検出手段、S250,S320の処理は本発明におけるシフトレンジ異常判断手段、S420の処理は本発明における第1シフトレンジ異常時処理手段、S440の処理は本発明における第2シフトレンジ異常時処理手段、S350,S360の処理は本発明における異常報知手段である。
【0096】
また、S240,S310の処理で検出されるモータ13の回転位置は本発明におけるシフト駆動手段の駆動状況、S30の処理の判断条件は本発明におけるシフトレンジがドライブレンジであるときのシフトレンジ異常検出条件、S50およびS60の処理の判断条件は本発明におけるシフトレンジがパーキングレンジであるときのシフトレンジ異常検出条件、所定異常検出時間は本発明における異常検出時間、モータ異常判断時間は本発明における異常判断時間、Dレンジ目標回転位置TdおよびPレンジ目標回転位置Tpは本発明における回転目標値、Dレンジ回転ずれ量およびPレンジ回転ずれ量は本発明におけるモータ回転ずれ量である。
【0097】
また、シフトレンジ切換装置1は本発明における係合切換装置、凹部41,42,43,44は本発明における凹部、ディテントプレート32は本発明における板状部材、ディテントスプリング33は本発明における係合部材、モータ13は本発明における切換駆動手段、シフトレバー2は本発明における選択操作部材、S220,S290の処理は本発明における切換異常検出駆動手段、S240,S310の処理は本発明における切換駆動検出手段、S250,S320の処理は本発明における切換異常判断手段、S30の処理の判断条件およびS50とS60の処理の判断条件は本発明における切換異常検出条件である。
【0098】
(第2実施形態)
以下に本発明の第2実施形態を図面とともに説明する。
図8は第2実施形態のパーキングロック装置101の構成を示すブロック図、図9はパーキングロック切換機構112の構成を示す正面図である。
【0099】
本実施形態のパーキングロック装置101は、自動変速機を搭載しない電気自動車(以下、単に車両という)に搭載されており、図8に示すように、車両の動力源104に連結されて動力源104の駆動力を車両の車輪に伝達する駆動軸103の回転を阻止するパーキングロック状態または、パーキングロック状態が解除された状態(以下、パーキングロック解除状態という)に切り換え可能なパーキングロック切換機構112と、パーキングロック状態またはパーキングロック解除状態の何れかに切り換えるために運転者が操作するパーキングロックスイッチ111と、パーキングロック切換機構112を駆動させるモータ113と、モータ113の回転位置を検出するエンコーダ114と、モータ113の回転を制御するパーキングロックECU115とを備えている。
【0100】
なおパーキングロックECU115には、車両の動力源104の運転を制御する動力源ECU105と、インストルメントパネル(不図示)に設けられて車両の各種状態を表示する表示部(不図示)を制御するメータECU106とが、データ通信可能に接続される。さらにパーキングロックECU115には、車両のイグニッションスイッチ107からの出力信号と、車両のパーキングブレーキ(不図示)の作動状態を検出するパーキングブレーキスイッチ108からの出力信号と、車両の走行速度を検出する車速センサ109からの出力信号とが入力される。
【0101】
またパーキングロックECU115は、電力が供給されない状態でも記憶されたデータを保持可能なEEPROM115aを備える。そしてEEPROM115aには、パーキングロック解除状態であるときにモータ113に異常が発生したことを示すパーキングロック解除時モータ異常フラグF11と、パーキングロック状態であるときにモータ113に異常が発生したことを示すパーキングロック時モータ異常フラグF12とが設けられている。
【0102】
またメータECU106には、インストルメントパネル(不図示)に設けられて、車両停止とパーキングブレーキの作動を促す警告を行う警告灯110aと、パーキングロック装置101の異常を報知する警告灯110bと、パーキングロック装置101が異常になる傾向にある旨を報知する警告灯110cとが接続される。
【0103】
そしてパーキングロック切換機構112は、図9に示すように、駆動軸103を回転軸として駆動軸103と一体に回転するパーキングロックギア130と、ロックギア130と係合可能なパーキングロックピン140とから構成される。
【0104】
パーキングロックギア130は、外周に複数(本実施形態では7個)の凹部131が形成された円形状の板状部材であり、その平面が駆動軸103の軸方向に略直交するようにして、円形状の中央部において駆動軸103に固定されている。またパーキングロックピン140は、パーキングロックギア130の外周近傍に配置され、一端が、モータ113の駆動軸に連結された回転軸141に固定されるとともに、他端が、凹部131に係合可能な形状に形成されている。
【0105】
このように構成されたパーキングロック切換機構112では、モータ113により回転軸141を中心にしてパーキングロックピン140を回転させることにより、パーキングロックギア130とパーキングロックピン140とが係合したパーキングロック状態(図9における実線のパーキングロックピン140を参照)、またはパーキングロックギア130とパーキングロックピン140との係合が解除されたパーキングロック解除状態(図9における破線のパーキングロックピン140を参照)に切り換えることができる。
【0106】
このように構成されたパーキングロック装置101において、パーキングロックECU115は、モータ113の異常を検出する異常検出処理と、モータ113に異常が発生したときにこの異常が車両に及ぼす影響を最小限に抑えるフェールセーフ処理とを実行する。
【0107】
まず、パーキングロックECU115が実行する異常検出処理の手順を、図10を用いて説明する。図10は異常検出処理を示すフローチャートである。この異常検出処理は、パーキングロックECU115が起動しているときに繰り返し実行される処理である。
【0108】
この異常検出処理が実行されると、パーキングロックECU115は、まずS1010にて、S1070のモータ異常判断処理(後述)が実行されてから予め設定された所定異常検出時間(本実施形態では例えば4時間)が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判断処理が実行されてから所定異常検出時間が経過していない場合には(S1010:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、モータ異常判断処理が実行されてから所定異常検出時間が経過した場合には(S1010:YES)、S1020にて、パーキングロックスイッチ111の検出結果に基づいて、パーキングロック解除状態であるか否かを判断する。
【0109】
ここで、パーキングロック解除状態でない場合には(S1020:NO)、S1040に移行する。一方、パーキングロック解除状態である場合には(S1020:YES)、S1030にて、車速センサ9の検出結果に基づいて、車両の走行速度が予め設定された異常判定速度(本実施形態では例えば70km/h)以上であるか否かを判断する。ここで、車両の走行速度が異常判定速度未満である場合には(S1030:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、車両の走行速度が異常判定速度以上である場合には(S1030:YES)、S1070に移行する。
【0110】
またS1040に移行すると、パーキングロックスイッチ111の検出結果に基づいて、パーキングロック状態であるか否かを判断する。ここで、パーキングロック状態でない場合には(S1040:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、パーキングロック状態である場合には(S1040:YES)、S1050にて、パーキングブレーキスイッチ108の検出結果に基づいて、パーキングブレーキが作動しているか否かを判断する。
【0111】
ここで、パーキングブレーキが作動していない場合には(S1050:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、パーキングブレーキが作動している場合には(S1050:YES)、S1060にて、イグニッションスイッチ107からの出力信号に基づいて、イグニッションスイッチ107がオフであるか否かを判断する。ここで、イグニッションスイッチ107がオフでない場合には(S1060:NO)、異常検出処理を一旦終了する。一方、イグニッションスイッチ107がオフである場合には(S1060:YES)、S1070に移行する。
【0112】
そしてS1070に移行すると、モータ異常判断処理(後述)を実行し、このモータ異常判断処理が終了すると、異常検出処理を一旦終了する。
次に、S1070で実行されるモータ異常判断処理の手順を、図11を用いて説明する。図11はモータ異常判断処理を示すフローチャートである。
【0113】
このモータ異常判断処理が実行されると、パーキングロックECU115は、まずS1210にて、パーキングロック解除状態であるか否かを判断する。ここで、パーキングロック解除状態でない場合には(S1210:NO)、S1290に移行する。一方、パーキングロック解除状態である場合には(S1210:YES)、S1220にて、パーキングロック解除状態からパーキングロック状態に変化させるために必要な回転量と比較して十分に小さい回転量の回転駆動をモータ113に実行させる制御を行う。
【0114】
ここで、S1220でのモータ113の指示回転量を図13を用いて説明する。図13は、パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態とモータ113の回転位置との対応関係を示す図であり、パーキングロック解除状態近傍を詳細に示している。
【0115】
図13に示すように、パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態であるときのモータ113の回転位置をそれぞれ、パーキングロック状態回転位置Pplおよびパーキングロック解除状態Pnplとして(但し、Ppl<Pnpl)、パーキングロック状態回転位置Pplとパーキングロック解除状態Pnplとの間には、パーキングロック状態とパーキングロック解除状態との境界となる回転位置Bpl(以下、パーキングロック境界回転位置Bplという)が存在する。また、パーキングロック解除状態Pnplとパーキングロック境界回転位置Bplとの間には、モータ113とモータ113のモータ軸との間で発生する機械的ガタのためにモータ113の回転が停止しているにもかかわらずモータ113の回転位置が変化してその変化量が最大となる回転位置Gnpl(以下、ロック解除状態ガタ回転位置Gnplという)が存在する。
【0116】
そして、S1220での回転駆動によってモータ113の回転位置を移動させる際の目標位置Tnpl(以下、ロック解除状態目標回転位置Tnplという)は、パーキングロック境界回転位置Bplとロック解除状態ガタ回転位置Gnplとの間に設定されており、且つ、ロック解除状態目標回転位置Tnplは、パーキングロック境界回転位置Bplと比較して十分に大きい値に設定されている。したがって、S1220でのモータ113の指示回転量は、|Tnpl−Pnpl|である。
【0117】
またS1220の処理が終了すると、図11に示すように、S1230にて、S1220でモータ113の回転を開始してから予め設定されたモータ異常判定時間(本実施形態では例えば1秒)が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判定時間が経過していない場合には(S1230:NO)、S1230の処理を繰り返し、モータ異常判定時間が経過するまで待機する。一方、モータ異常判定時間が経過した場合には(S1230:YES)、S1240にて、モータ113の回転位置を検出して、さらにS1250にて、モータ113の回転位置が予め設定されたパーキングロック解除状態正常判定範囲Rnpl内であるか否かを判断する。なおパーキングロック解除状態正常判定範囲Rnplは、パーキングロック境界回転位置Bplとロック解除状態ガタ回転位置Gnplとの間でロック解除状態目標回転位置Tnplが含まれるように設定されている(図13を参照)。
【0118】
ここで、モータ113の回転位置がパーキングロック解除状態正常判定範囲Rnpl内である場合には(S1250:YES)、S1270に移行する。一方、モータ113の回転位置がパーキングロック解除状態正常判定範囲Rnpl外である場合には(S1250:NO)、S1260にて、パーキングロック解除時モータ異常フラグF11をセットして、S1270に移行する。
【0119】
そしてS1270に移行すると、S1240で検出したモータ113の回転位置と、ロック解除状態目標回転位置Tnplとの差(以下、ロック解除状態回転ずれ量という)を算出して、このロック解除状態回転ずれ量をEEPROM115aに記憶し、S1350に移行する。
【0120】
またS1290に移行すると、パーキングロック状態からパーキングロック解除状態に変化させるために必要な回転量と比較して十分に小さい回転量の回転駆動をモータ113に実行させる制御を行う。
【0121】
ここで、S1290でのモータ113の指示回転量を図14を用いて説明する。図14は、パーキングロック状態およびパーキングロック解除状態とモータ113の回転位置との対応関係を示す図であり、パーキングロック状態近傍を詳細に示している。
【0122】
図14に示すように、パーキングロック状態回転位置Pplとパーキングロック境界回転位置Bplとの間には、モータ113とモータ113のモータ軸との間で発生する機械的ガタのためにモータ113の回転が停止しているにもかかわらずモータ113の回転位置が変化してその変化量が最大となる回転位置Gpl(以下、ロック状態ガタ回転位置Gplという)が存在する。
【0123】
そして、S1290での回転駆動によってモータ113の回転位置を移動させる際の目標位置Tpl(以下、ロック状態目標回転位置Tplという)は、パーキングロック境界回転位置Bplとロック状態ガタ回転位置Gplとの間に設定されており、且つ、ロック状態目標回転位置Tplは、パーキングロック境界回転位置Bplと比較して十分に小さい値に設定されている。したがって、S1290でのモータ113の指示回転量は、|Tpl−Ppl|である。
【0124】
またS1290の処理が終了すると、図11に示すように、S1300にて、S1290でモータ113の回転を開始してからモータ異常判定時間が経過したか否かを判断する。ここで、モータ異常判定時間が経過していない場合には(S1300:NO)、S1300の処理を繰り返し、モータ異常判定時間が経過するまで待機する。一方、モータ異常判定時間が経過した場合には(S1300:YES)、S1310にて、モータ113の回転位置を検出して、さらにS1320にて、モータ113の回転位置が予め設定されたパーキングロック状態正常判定範囲Rpl内であるか否かを判断する。なおパーキングロック状態正常判定範囲Rplは、ロック状態ガタ回転位置Gplとパーキングロック境界回転位置Bplとの間でロック状態目標回転位置Tplが含まれるように設定されている(図14を参照)。
【0125】
ここで、モータ113の回転位置がパーキングロック状態正常判定範囲Rpl内である場合には(S1320:YES)、S1340に移行する。一方、モータ113の回転位置がパーキングロック状態正常判定範囲Rpl外である場合には(S1320:NO)、S1330にて、パーキングロック時モータ異常フラグF12をセットして、S1340に移行する。
【0126】
そしてS1340に移行すると、S1310で検出したモータ113の回転位置と、ロック状態目標回転位置Tplとの差(以下、ロック状態回転ずれ量という)を算出して、このロック状態回転ずれ量をEEPROM115aに記憶し、S1350に移行する。
【0127】
そしてS1350に移行すると、ロック解除状態回転ずれ量およびロック状態回転ずれ量の少なくとも一方が増加する傾向にあるか否かを、EEPROM115aに記憶されたロック解除状態回転ずれ量およびロック状態回転ずれ量を用いて判断する。
【0128】
ここで、ロック解除状態回転ずれ量およびロック状態回転ずれ量の両方が増加する傾向にない場合には(S1350:NO)、モータ異常判断処理を終了する。一方、ロック解除状態回転ずれ量およびロック状態回転ずれ量の少なくとも一方が増加する傾向にある場合には(S1350:YES)、S1360にて、警告灯110cをメータECU106に点灯させて、モータ異常判断処理を終了する。
【0129】
次に、パーキングロックECU115が実行するフェールセーフ処理の手順を、図12を用いて説明する。図12はフェールセーフ処理を示すフローチャートである。このフェールセーフ処理は、パーキングロックECU115が起動しているときに繰り返し実行される処理である。
【0130】
このフェールセーフ処理が実行されると、パーキングロックECU115は、まずS1410にて、パーキングロック解除時モータ異常フラグF11がセットされているか否かを判断する。ここで、パーキングロック解除時モータ異常フラグF11がセットされていない場合には(S1410:NO)、S1430に移行する。一方、パーキングロック解除時モータ異常フラグF11がセットされている場合には(S1410:YES)、S1420にて、パーキングロック解除時フェールセーフ処理を実行して、フェールセーフ処理を一旦終了する。
【0131】
なおパーキングロック解除時フェールセーフ処理では、具体的には、以下の3つの処理を行う。まず第1の処理は、モータ113の回転駆動を禁止する処理である。これにより、運転者がパーキングロックスイッチ111を操作しても、パーキングロック解除状態を保持する。また第2の処理は、車両停止とパーキングブレーキの作動を促す警告を行う警告灯110aをメータECU106に点灯させる処理である。また第3の処理は、車両が停止するとともにパーキングブレーキが作動したときに動力源ECU105に動力源104を停止させる処理である。
【0132】
またS1430に移行すると、パーキングロック時モータ異常フラグF12がセットされているか否かを判断する。ここで、パーキングロック時モータ異常フラグF12がセットされていない場合には(S1430:NO)、フェールセーフ処理を一旦終了する。一方、パーキングロック時モータ異常フラグF12がセットされている場合には(S1430:YES)、S1440にて、パーキングロック時フェールセーフ処理を実行して、フェールセーフ処理を一旦終了する。
【0133】
なおパーキングロック時フェールセーフ処理では、具体的には、以下の2つの処理を行う。まず第1の処理は、モータ113の回転駆動を禁止する処理である。これにより、運転者がパーキングロックスイッチ111を操作しても、パーキングロック状態を保持する。また第2の処理は、パーキングロック装置101の異常を報知する警告灯110bを、動力源104が始動したときにメータECU106に点灯させる処理である。
【0134】
なお、パーキングロック解除時モータ異常フラグF11とパーキングロック時モータ異常フラグF12のクリアは、車両用の故障診断装置(いわゆるダイアグテスタ。不図示)とパーキングロックECU115とをデータ通信可能に接続して、故障診断装置からパーキングロックECU115にフラグクリア指令を送信することにより実行される。すなわち、異常が発生したモータ113を作業者が修理または交換することによりモータ113の異常を解消したのちに、この作業者が故障診断装置を操作してフラグクリア指令を入力することにより、フラグF11,F12をクリアすることができる。
【0135】
このように構成されたパーキングロック装置101では、モータ113が、車両に搭載されたパーキングロック切換機構112を駆動するための動力源となる。またパーキングロックスイッチ111が、パーキングロック状態またはパーキングロック解除状態の何れかに切り換えるために車両の運転者により操作される。そしてパーキングロックECU115が、パーキングロックスイッチ111を用いた選択操作に対応して、パーキングロック状態またはパーキングロック解除状態となるように、モータ113を制御する。
【0136】
さらに、パーキングロック解除状態である場合には(S1020:YES)、車両の走行速度が異常判定速度(本実施形態では例えば70km/h)以上であるときに(S1030:YES)、またパーキングロック状態である場合には(S1040:YES)、パーキングブレーキが作動し(S1050:YES)、且つイグニッションスイッチ107がオフである(S1060:YES)ときに、モータ113を回転させる(S1220,S1290)。そして、モータ113を回転させた後に、モータ113の回転位置を検出する(S1240,S1310)とともに、モータ113の回転位置がパーキングロック解除状態正常判定範囲Rnpl内またはパーキングロック状態正常判定範囲Rpl内であるか否かにより、モータ113の異常を判断する(S1250,S1320)。
【0137】
このため、車両の運転者がパーキングロックスイッチ111を操作する可能性が低い状況になると、モータ113が異常であるか否かの検出するための動作を実行することができる。すなわち、モータ113に異常が発生した場合に、この異常を、車両の運転者がパーキングロックスイッチ111を操作する前に検出することができる。
【0138】
なお、S1220及びS1290の処理では、ロックギア130の凹部131とパーキングロックピン140とが係合されている場合には、この係合が維持される回転量で、ロックギア130の凹部131とパーキングロックピン140とが非係合である場合には、この非係合が維持される回転量で、モータ113を回転させる。
【0139】
以上説明した実施形態において、駆動軸103は本発明における駆動装置、パーキングロック切換機構112は本発明におけるパーキングロック切換機構、モータ113は本発明におけるパーキングロック駆動手段、パーキングロックスイッチ111は本発明におけるパーキングロック操作部材、パーキングロックECU115は本発明におけるパーキングロック制御手段、S1220,S1290の処理は本発明におけるパーキングロック異常検出駆動手段、S1240,S1310の処理は本発明におけるパーキングロック駆動検出手段、S1250,S1320の処理は本発明におけるパーキングロック異常判断手段、S1030の処理の判断条件およびS1050とS1060の処理の判断条件は本発明におけるパーキングロック異常検出条件である。
【0140】
また、パーキングロック装置101は本発明における係合切換装置、凹部131は本発明における凹部、パーキングロックギア130は本発明における板状部材、パーキングロックピン140は本発明における係合部材、モータ113は本発明における切換駆動手段、パーキングロックスイッチ111は本発明における選択操作部材、S1220,S1290の処理は本発明における切換異常検出駆動手段、S1240,S1310の処理は本発明における切換駆動検出手段、S1250,S1320の処理は本発明における切換異常判断手段、S1030の処理の判断条件およびS1050とS1060の処理の判断条件は本発明における切換異常検出条件である。
【0141】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記第1実施形態においては、シフトレンジがDレンジでない場合に、車両の走行速度が異常判定速度以上であるときに、S70のモータ異常判断処理を実行するものを示した。しかし、車両の運転者が操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す条件であれば、上記の条件に限られるものではない。例えば、車両のエンジン負荷または車両のスロットル開度が所定判定値以上である場合、または車両が高速道路を走行中である場合に、モータ異常判断処理を実行するようにしてもよい。また、車両の走行速度、車両のエンジン負荷、車両のスロットル開度、および車両が高速道路を走行中であるか否か、の少なくとも2つ以上を組み合わせて、モータ異常判断処理を実行するための条件を設定するようにしてもよい。
【0142】
さらに、図4に示したモータ異常判断処理では、Dレンジの判断処理(S210〜S270)を、Pレンジの判断処理(S290〜S340)よりも先に行っていた。しかしながら、Pレンジの判断処理を、Dレンジの判断処理よりも先に行っても良い。
【0143】
また、Dレンジ時フェールセーフ処理で、エンジンECU5がエンジン4を停止させる処理を行った後にイグニッションスイッチ7によりエンジン4を再始動させる場合には、図示しない着座センサでドライバが運転席に着座している場合にのみ、エンジン4の再始動を許可する構成としても良い。この場合、Dレンジの状態でエンジン4が再始動されるが、ドライバが運転席に着座しているため、安全に車両を運用することができる。
【0144】
また上記第1実施形態においては、シフト切換機構12を駆動するための動力源としてモータを用いたものを示した。しかし、シフト切換機構12を駆動することができるものであれば、モータに限られるものではない。
【0145】
また上記第2実施形態においては、パーキングロック装置101が、自動変速機を搭載しない電気自動車に搭載されているものを示した。しかし、パーキングロック装置101は、自動変速機を搭載しないハイブリッド自動車に搭載されていてもよい。またパーキングロック装置101は、インホイールモータにより車輪を駆動させる車両に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0146】
1…シフトレンジ切換装置、2…シフトレバー、3…自動変速機、4…エンジン、5…エンジンECU、6…メータECU、7…イグニッションスイッチ、8…パーキングブレーキスイッチ、9…車速センサ、10a,10b,10c…警告灯、11…シフトスイッチ、12…シフト切換機構、13…モータ、14…エンコーダ、15…シフトバイワイヤECU、15a…EEPROM、31…駆動軸、32…ディテントプレート、33…ディテントスプリング、33a…ローラ、34…ピン、41,42,43,44…凹部、51…マニュアルバルブ、101…パーキングロック装置、103…駆動軸、104…動力源、105…エンジンECU、106…メータECU、107…イグニッションスイッチ、108…パーキングブレーキスイッチ、109…車速センサ、110a,110b,110c…警告灯、111…パーキングロックスイッチ、112…パーキングロック切換機構、113…モータ、114…エンコーダ、115…パーキングロックECU、115a…EEPROM、130…パーキングロックギア、131…凹部、140…パーキングロックピン、141…回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された自動変速機のシフトレンジを切り換えるためのシフトレンジ切換機構と、
前記シフトレンジ切換機構を駆動するための動力源となるシフト駆動手段と、
前記シフトレンジを選択するために前記車両の運転者により操作されるシフトレンジ操作部材と、
前記自動変速機の前記シフトレンジを、前記シフトレンジ操作部材を用いた選択操作に対応した前記シフトレンジとなるように、前記シフト駆動手段を制御するシフト制御手段と
を備えたシフトレンジ切換装置であって、
前記車両の運転者が前記シフトレンジ操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定されたシフトレンジ異常検出条件が成立すると、前記シフト駆動手段を駆動させるシフトレンジ異常検出駆動手段と、
前記シフトレンジ異常検出駆動手段が前記シフト駆動手段を駆動させた後に、前記シフト駆動手段の駆動状況を検出するシフトレンジ駆動検出手段と、
前記シフトレンジ駆動検出手段の検出結果に基づいて、前記シフト駆動手段が異常であるか否かを判断するシフトレンジ異常判断手段と
を備えることを特徴とするシフトレンジ切換装置。
【請求項2】
前記自動変速機の前記シフトレンジがパーキングレンジであるときの前記シフトレンジ異常検出条件は、
前記車両のパーキングブレーキが作動しており、且つ、前記車両のイグニッションスイッチがオフであることである
ことを特徴とする請求項1に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項3】
前記シフト駆動手段が異常であると前記シフトレンジ異常判断手段が判断した場合に、前記自動変速機の前記シフトレンジをパーキングレンジに保持するとともに、前記車両のエンジン始動時に、当該シフトレンジ切換装置に異常が発生した旨を報知する処理を行う第2シフトレンジ異常時処理手段を備える
ことを特徴とする請求項2に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項4】
前記自動変速機の前記シフトレンジがドライブレンジであるときの前記シフトレンジ異常検出条件は、
前記車両の走行速度、前記車両のエンジン負荷、前記車両のスロットル開度、および前記車両が高速道路を走行中であるか否か、の少なくとも一つを用いて設定される
ことを特徴とする請求項1に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項5】
前記シフト駆動手段が異常であると前記シフトレンジ異常判断手段が判断した場合に、前記自動変速機の前記シフトレンジをドライブレンジに保持するとともに、前記車両の停止と前記車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知を行い、さらに前記車両のパーキングブレーキの作動後に、前記車両のエンジンを停止させる処理を行う第1シフトレンジ異常時処理手段を備える
ことを特徴とする請求項4に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項6】
前記シフトレンジ異常検出駆動手段は、
予め設定された異常検出時間が経過する毎に動作をする
ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れかに記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項7】
前記シフトレンジ異常判断手段は、
前記シフトレンジ異常検出駆動手段が動作を開始してから予め設定された異常判断時間が経過した後に動作する
ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れかに記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項8】
前記シフト駆動手段はモータであり、
前記シフトレンジ異常検出駆動手段は、
前記モータと前記モータのモータ軸との間で発生する機械的ガタに起因した回転量より大きくなるように、且つ前記シフトレンジが切り換わらないように、前記モータの回転量の目標値を示す回転目標値を設定して、前記シフト駆動手段を駆動させる
ことを特徴とする請求項1〜請求項7の何れかに記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項9】
前記シフト駆動手段はモータであり、
前記シフトレンジ異常検出駆動手段は、前記モータの回転量の目標値を示す回転目標値を設定して、前記シフト駆動手段を駆動させ、
前記シフトレンジ駆動検出手段は、前記シフト駆動手段の駆動状況として、前記回転目標値と前記モータの回転量との差であるモータ回転ずれ量を検出し、
前記シフトレンジ駆動検出手段の検出結果に基づいて、前記シフトレンジ駆動検出手段が前記モータ回転ずれ量を検出する毎に前記モータ回転ずれ量が増加する傾向がある場合に、その旨を報知する異常報知手段を備える
ことを特徴とする請求項1〜請求項8の何れかに記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項10】
当該シフトレンジ切換装置は、シフトバイワイヤシステムで用いられる
ことを特徴とする請求項1〜請求項9の何れかに記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項11】
前記自動変速機の前記シフトレンジがドライブレンジであるときの前記シフトレンジ異常検出条件は、
前記車両の走行速度、前記車両のエンジン負荷、前記車両のスロットル開度、および前記車両が高速道路を走行中であるか否か、の少なくとも一つを用いて設定される
ことを特徴とする請求項3に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項12】
前記シフト駆動手段が異常であると前記シフトレンジ異常判断手段が判断した場合に、前記自動変速機の前記シフトレンジをドライブレンジに保持するとともに、前記車両の停止と前記車両のパーキングブレーキの作動とを促す報知を行い、さらに前記車両のパーキングブレーキの作動後に、前記車両のエンジンを停止させる処理を行う第1シフトレンジ異常時処理手段を備える
ことを特徴とする請求項11に記載のシフトレンジ切換装置。
【請求項13】
車両の車輪を駆動させるための駆動装置の駆動を車両の駐車時に阻止するパーキングロック状態と、前記パーキングロック状態が解除された状態であるパーキングロック解除状態との何れかに切り換え可能なパーキングロック切換機構と、
前記パーキングロック切換機構を駆動するための動力源となるパーキングロック駆動手段と、
前記パーキングロック状態または前記パーキングロック解除状態を選択するために前記車両の運転者により操作されるパーキングロック操作部材と、
前記パーキングロック切換機構を、前記パーキングロック操作部材を用いた選択操作に対応して、前記パーキングロック状態または前記パーキングロック解除状態となるように、前記パーキングロック駆動手段を制御するパーキングロック制御手段と
を備えたパーキングロック装置であって、
前記車両の運転者が前記パーキングロック操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定されたパーキングロック異常検出条件が成立すると、前記パーキングロック駆動手段を駆動させるパーキングロック異常検出駆動手段と、
前記パーキングロック異常検出駆動手段が前記パーキングロック駆動手段を駆動させた後に、前記パーキングロック駆動手段の駆動状況を検出するパーキングロック駆動検出手段と、
前記パーキングロック駆動検出手段の検出結果に基づいて、前記パーキングロック駆動手段が異常であるか否かを判断するパーキングロック異常判断手段と
を備えることを特徴とするパーキングロック装置。
【請求項14】
当該パーキングロック装置は、自動変速機を搭載しない電気自動車、またはハイブリッド自動車で用いられる
ことを特徴とする請求項13に記載のパーキングロック装置。
【請求項15】
前記駆動装置は、インホイールモータの動力を伝達する装置である
ことを特徴とする請求項13または請求項14に記載のパーキングロック装置。
【請求項16】
1つまたは複数の凹部が外周に形成され、回転軸を中心に回転可能な板状部材と、
前記凹部に係合可能な係合部材と、
板状部材または係合部材のいずれか一方を駆動させる切換駆動手段と、
前記凹部と前記係合部材との係合または非係合を選択するために操作される選択操作部材とを備え、
前記選択操作部材を用いた選択操作に対応して、板状部材または係合部材のいずれか一方を駆動させて、前記凹部と前記係合部材との係合または非係合を切り換える係合切換装置であって、
当該係合切換装置は、車両に搭載され、
前記車両の運転者が前記選択操作部材を操作する可能性が低い状況であることを示す予め設定された切換異常検出条件が成立すると、前記係合部材と前記凹部とが係合されている場合には、前記係合部材と前記凹部との係合が維持される駆動量で、前記係合部材と前記凹部とが非係合である場合には、前記係合部材と前記凹部との非係合が維持される駆動量で、前記切換駆動手段を駆動させる切換異常検出駆動手段と、
前記切換異常検出駆動手段が前記切換駆動手段を駆動させた後に、前記切換駆動手段の駆動状況を検出する切換駆動検出手段と、
前記切換駆動検出手段の検出結果に基づいて、前記切換駆動手段が異常であるか否かを判断する切換異常判断手段と
を備えることを特徴とする係合切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図6】
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【図7】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−12804(P2011−12804A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5008(P2010−5008)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】