説明

シリコン構造体

【課題】シリコン基板上に基板上構造体がブリッジ状に浮いていて、かつ、高い強度を備えた構造を有する、シリコン構造体を提供する。このようなシリコン構造体を製造する上で、エッチングによってシリコン基板の基板上構造体の直下部分が除去される際に、基板上構造体が受ける衝撃が少ない、シリコン構造体製造方法を提供する。
【解決手段】曲線状の基板上構造体の下部のシリコン基板に異方性エッチングを施す。この時、曲線状の基板上構造体の各部位において、結晶方位の各面に対する方向によって、異方性エッチングの進行速度は大きく異なる。エッチング時間を調節してエッチング速度が遅い部分を残し、シリコン基板の上にブリッジ状に浮いた基板上構造体を下から支える支柱とする。また、曲線状の基板上構造体の方向を連続的に変化させて、曲線状の基板上構造体のうち、ブリッジ状に浮く部分を、シリコン基板から徐々に分離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン構造体に係り、特に、シリコン基板上にシリコン化合物による基板上構造体を具備するシリコン構造体に係る発明である。
【背景技術】
【0002】
シリコン構造体の応用の一つとして、平面光波回路(PLC:Planner Light−wave Circuit)がある。光通信を実現する様々な光デバイスの中で、平面光波回路を利用したデバイスは、半導体回路の製造プロセスを利用できることから、デバイスの小型化、高機能化、集積化に優れるという特長を持つ。
【0003】
通常、PLC製造技術で作製される光導波路は、次のようにして実現される。まず、シリコン基板上に下クラッド層を成膜し、続いて光が導波するコア膜を成膜する。ここで様々な機能を実現するために設計されたフォトマスクを用い、フォトリソグラフィおよびドライエッチングによって、所望するレイアウトでコアを形成する。その後、場合によってはコアを埋め込むためのリフロー層成膜を経た後、上クラッド層を成膜する。
【0004】
このようにして作製された光導波回路は、例えば、複数の波長を合分波するAWG(Arrayed Waveguides Grating)、入射光を所望する量だけ減衰させるVOA(Variable Optical Attenuator)や、入射光を所望のポートに出力させる光スイッチなど、コアのレイアウトによって様々な機能を持たせることができる。
【0005】
光導波路そのものの光学的特徴を表す特性は、挿入損失(あるいは伝播損失)、PDL(Polarization Dependent Loss:偏波依存性ロス)、に代表される。通常、両者は小さければ小さいほど好ましいとされる。
【0006】
ここでPDLとは、光の偏光状態によって光導波路の挿入損失が異なる現象であり、TEモードにおける挿入損失と、TMモードにおけるそれとの乖離量として表される。このような乖離は光導波路が有する複屈折が大きく寄与する。複屈折とは、光導波路が方向によって異なった屈折率を有することを言う。複屈折が発生する支配的原因は、光導波路が有する内部応力(換言すれば外部から受ける応力と均衡するように働く応力)である。
【0007】
前述したように光導波路は、基板上にクラッドやコアとなるシリコン酸化膜を積層させていくことで作製される。この時、通常、そのプロセスは1000℃前後という非常に高い温度での熱処理を必要とする。このため、基板がシリコンなどの場合には、堆積したシリコン酸化膜と基板との熱膨張係数の差によって、ウェハは反り、作製される光導波路はウェハから大きな応力を受けることになる。この応力はPDLを発生させる。そこで、様々な工夫によって、応力を軽減する、あるいは方向性を持たないように均衡させる技術が利用されている。
【0008】
その中の一手段として、光導波路をシリコン基板から分離する構造が提案されている。これは光導波路を部分的にシリコン基板からブリッジ状に浮かせ、基板からの応力を開放することでPDLを軽減する技術である。このような構造をブリッジ構造と呼ぶこととする。
【0009】
以下、このブリッジ構造を説明するに当たり、この構造によってPDL低減以外の効果も得ることができる、「熱光学位相シフタ」を例に説明する。
【0010】
光導波回路においては、TO(Thermo−Optic:熱光学)効果を利用して機能を付加する手法がよく用いられる。これは、光導波回路を構成するガラス材料が、熱によって屈折率変化する物理現象を積極的に利用した技術である。例えば、光導波回路による方向性結合器で構成されるマッハツェンダ干渉計は、入力した光を二分岐し、互いに同一長伝播した後に再度結合する構造を有する。ここで分岐した一方の導波路上部に金属ヒータを設けておき、ヒータに電力を投入することで発生する熱によって、導波する光の位相を変えることができる。このようにすると、分岐した両導波路が結合する際、両者を導波した光の位相差に応じて干渉状態が変化し、出力される光強度を変化させることができる。例えば、位相差を光の半波長分とすれば、分岐された両導波光は結合時に互いに打ち消しあうため、出力はほぼゼロとなる。また、位相差がゼロ又は波長の整数倍とすれば、入力された光強度をほぼそのまま取り出すことができる。ここで、位相を変化させる部分を熱光学位相シフタと呼ぶ。
【0011】
これらの現象を利用して、マッハツェンダ干渉計を光スイッチとして機能させることが可能である。また、位相差は任意に与えることができるため、連続的な位相変化を利用して光減衰器として利用することも可能となる。
【0012】
このようにして実現される光デバイスを動作させるには、ヒータに電力を投入して制御することになるため、動作に必要な消費電力が小さいことが望まれる。通常、光通信で利用される1550nmの波長を持つ光を半波長分シフトさせるに必要な電力は、光導波路に何ら工夫のない場合は400mW程度となる。しかし、これらが例えば40ch分の制御が必要となると、およそ16Wの電力が必要となる。この電力は非常に大きいため、一般的には光導波回路に様々な工夫が施されることで、消費電力が低減されている。
【0013】
平面光波回路で実現される熱光学位相シフタの一般的な低消費電力化の手段として、次のような構造を有する光導波路が代表的である。位相シフタとして機能する部分の光導波路を挟み込むように溝が形成された構造である。溝は、空気が充填されたり、真空にされたりすることになるが、気体の熱伝導率はクラッドを形成するシリコン酸化膜よりも十分に小さいため、ヒータから発生する熱がクラッドに拡散することを防ぐことができる。このため、消費電力を格段に小さくすることができる。このような構造をリッジ構造と呼ぶことにする。また、溝で挟み込まれて形成される光導波路部を単にリッジと呼ぶこととする。
【0014】
通常、このようなリッジ構造を備えた熱光学位相シフタは次のような製造方法で実現される。前述した通りに光導波路を形成した後、上クラッド層上にヒータとなる金属膜をスパッタ装置あるいは蒸着装置などで成膜する。次にフォトマスクを用いたフォトリソグラフィとミリング装置などによって、所望するレイアウトでヒータを形成する。次にコアを形成する工程と同様に、ドライエッチ装置によって所望の位置に溝を形成する。このとき、ドライエッチングによってヒータが損傷しないように、ヒータはレジストで十分に保護されている必要がある。
【0015】
リッジ構造において、より熱効率を上げるためには、次のような方法が一般的である。
(1)光導波路の下クラッド層を厚くする。これによってコアとシリコン基板間の熱抵抗が高くなり、Si基板への熱の流出が抑制される。
(2)リッジの幅を狭める。リッジ構造の場合、熱拡散はリッジからシリコン基板へ流出が支配的となる。このため、リッジの幅を狭めるほどリッジとシリコン基板の接合面積は小さくなり、熱拡散が抑制される。
【0016】
しかしながら、以下の理由により、これらの方法にはそれぞれに限界がある。
(1)下クラッド層を厚くするほど、膜に加わる応力は強くなり、ウェハにクラックが発生し易くなる。また、強い応力によって複屈折が大きくなり光導波路のPDLが大きくなる。さらに、厚くなるほど製造工程時間が長くなる。
(2)リッジ幅を細くし過ぎると、導波光がリッジ側壁の荒れを感じ、散乱による損失が増加する。
【0017】
可能な限りにおいてこのような施策を投じたとしても、通常、リッジ構造で実現できる消費電力化の効果は、通常の場合に比較しておよそ半分程度までの抑制であり、40chにして8Wという値は十分小さいとは言えない。
【0018】
そこで、リッジ構造に加えて、さらに消費電力を低減する方法として提案されている手段が、冒頭で記したブリッジ構造の採用である。前述した通りブリッジ構造は、光導波路をシリコン基板から分離し、ブリッジ状に浮かせる構造である。既にリッジ構造を具備した熱位相シフタの場合、リッジをシリコン基板から分離することで実現する。リッジ構造がクラッドへの熱拡散を抑制するのと同様に、ブリッジ構造はシリコン基板への熱拡散を抑制するため、さらに大幅な消費電力低減の効果が得られる。また、そもそも前述した通り、ブリッジ構造は、光導波路膜と基板との線膨張係数差から発生する基板からの応力が開放されることによる、PDLの低減という特長を持つ。このため、熱光学位相シフタにおけるブリッジ構造の採用は、低消費電力化、低PDL化という二つの大きな効果をもたらす。以下、このような構造を改めてブリッジ構造と呼ぶ。また、ブリッジ状に浮いた導波路部分をブリッジと呼ぶこととする。
【0019】
ブリッジ構造は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術としてよく知られている犠牲層エッチングという技術によって実現できる。これは、特許文献2(特開2004−37524号公報)に開示されているように、予め基板上に犠牲層を堆積させておき、最終的にこの層だけ等方的にエッチングする方法である。この方法は、シリコン基板を使用し、PSG(PhosphoSilicate Glass:燐ガラス)などを犠牲層とすることで、フッ化水素水によるエッチングで実現される。シリコン酸化膜にリンをドープするとフッ化水素水に対して早いエッチングレートを持つようになるため、PSGだけを選択的にエッチングすることが可能となるのである。
【0020】
この方法は特殊な装置を必要としない利点があるが、犠牲層となる種膜を、下クラッド層とシリコン基板の間に成膜することが必須となる。この方法の課題は単に成膜工程が増えてしまうだけではない。犠牲層上に積層するシリコン酸化膜は、犠牲層に対して高いエッチング選択性を保ちつつ、導波路として機能する屈折率や軟化温度を調整しなければならない。これは、製造プロセス全体の設計自由度を大きく奪ってしまうことを意味する。また、フッ化水素は犠牲層膜以外のシリコン酸化膜も多かれ少なかれエッチングしてしまうため、光導波路としてダメージなく作製するための設計と技術が必要となる。
【0021】
そこで、代替手段としてシリコン基板をエッチングする方法がある。この場合には、犠牲層は不要であるため、従来の確立された光導波路製造プロセスに何ら影響なくブリッジ構造を実現することができる。このような方法は例えば、非特許文献1(Bridge−Suspended Silica−Waveguide Thermo−Optic Phase Shifter and Its Application to Mach−Zehnder Type Optical Switch, A.Sugita et al., Trans. IEICE,Vol.E73(1990) pp.105−109)に開示されている。
【0022】
非特許文献1にも開示されているが、通常、シリコン基板のエッチングは、リッジ構造を形成した後に、シリコンをエッチングするガス又は溶液に晒すことで実現される。非特許文献1にはドライエッチングによってシリコン基板をエッチングするとだけ記されているが、フッ化キセノンなどのガスを使用することでシリコン基板の等方的なエッチングが実現可能である。
【0023】
なお、上記に関連して、特許文献3(特開2004−133130号公報)には、光回路に係る発明が開示されている。
特許文献3発明の光回路は、シリコン基板と、光導波路層と、温度制御手段とを有する。ここで、光導波路層は、シリコン基板上に形成されたコアとクラッドとを有する。温度制御手段は、光導波路層上に形成されてコアの一部の温度を局所的に可変制御する。温度制御手段の形成部位を挟む両側の光導波路層はコアと間隔を介した領域がコアの長手方向に沿って光導波路層表面からシリコン基板表面に至るまで除去されている。光導波路層除去部の下部に対向する全領域を包含するシリコン基板表面部位に断面矩形状の凹部が設けられている。シリコン基板の表面がシリコン{100}結晶面を成している。凹部はコアの長手方向に沿って形成されている側面がシリコン基板表面に対して略垂直なシリコン{100}結晶面を成している。凹部の底面はシリコン基板表面に対して略平行なシリコン{100}結晶面を成している。
【0024】
【特許文献1】特表2001−521180号公報
【特許文献2】特開2004−37524号公報
【特許文献3】特開2004−133130号公報
【非特許文献1】Bridge−Suspended Silica−Waveguide Thermo−Optic Phase Shifter and Its Application to Mach−Zehnder Type Optical Switch, A.Sugita et al., Trans. IEICE,Vol.E73(1990) pp.105−109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、上記のようなシリコン基板をエッチングする方法に限らず、犠牲層エッチングにおいても同様に、等方性エッチングによるブリッジ構造作製には大きな課題が二つある。
【0026】
まず、第一の課題について説明する。
【0027】
例えば、非特許文献1において、光導波路直下のシリコン基板は等方的なドライエッチングで除去されていることが示されている。図10は、非特許文献1に示される、シリコン基板が等方的ドライエッチングで部分的に除去される様子を説明する図である。等方的なエッチングの場合、シリコンの結晶方向には無関係にエッチングが進行するため、光導波路の直下のシリコン基板は、図10(c)のように、部分的に除去されるに止まり、光導波路がシリコン基板から完全に分離する部分が全くない構造となるか、図10(a)のように、すべて除去されて光導波路がシリコン基板から完全に分離する構造となるか、のどちらかである。
【0028】
前者の場合、光導波路とシリコン基板は分離していないため、熱伝導率の高いシリコン基板を通して、大きな熱拡散が発生し、消費電力低減という目的は果たせない。また、シリコン基板からの応力は完全に開放されないため、PDL低減の目的も果たせない。
【0029】
一方、後者のように、光導波路をシリコン基板から完全に分離した場合、シリコン基板への熱拡散は大幅に抑制されるが、光導波路は下方から支えられていないため、機械的に脆弱な構造となる。エッチングするシリコン基板の領域が狭い場合には、図10に示されるように、光導波路に垂直に作製された複数の梁を設けることで機械的強度を補うことはできる。しかしエッチング領域が大きい場合には、光導波路を下方から支柱が無いため、外力によって容易に破損してしまう。さらにまた、このような梁が存在する場合、梁を通して熱拡散が発生し、消費電力低減の効果を低減するだけでなく、これによって例えばマッハツェンダ型に代表されるような干渉構造を持つような場合、熱光学位相シフタに加えた熱が、他方の光導波路に熱干渉しないように、十分に考慮した光導波路設計が施される必要がある。
【0030】
そこで、等方性エッチングによってブリッジ構造を作製する場合において、梁でなく支柱を設ける手段がある。それは、例えば図11に示されているように、光導波路において支柱を設けたい箇所だけリッジの幅を太くする、または島を設ける方法である。なお、図11は特許文献2に開示された図である。ここでは、リッジ幅の太い部分、あるいは島の部分24cの直下に残ったシリコン12aが支柱としても役割を果たすことになる。そのためには、まず、光導波路24直下のシリコン基板が完全にエッチングされてシリコン基板11と光導波路24が分離されなければならない。さらに、リッジの幅が太い部分あるいは島24cが存在する部分の直下のシリコン基板12aがすべてエッチングされてはならない。そして、光導波路24とシリコン基板11が分離されない状態でエッチングが終了しなければならない。
【0031】
ところが、この場合にも次のような課題がある。リッジを太くした部分、あるいは島を設けた部分24cのクラッド層3、5は、そのままエッチングされず残ることになる。このため、残ったクラッド3、5への熱拡散が生じ、熱効率を低下させてしまう。また、前述のような熱干渉の影響に配慮した設計を施さねばならず、導波路24のレイアウトの自由度を大きく奪ってしまう。例えば、リッジと同じ幅のシリコンの支柱12aを残すためには、支柱12aとなる部分のリッジ幅を倍にしなければならなく、これらを考慮して互いが構造的、熱的に干渉しないよう配慮した設計をしなければならない。
【0032】
次に、等方性エッチングによるブリッジ構造作製における第二の課題について説明する。
【0033】
例えば、非特許文献1に示される方法において、光導波路直下のシリコン基板は、リッジを挟む両方向から同一の速度で進行する。シリコン基板がエッチングされ続けると、図10(a)のように、光導波路はシリコン基板から分離される結果となるが、光導波路の全長において、同時かつ瞬間的に分離されることに注目されたい。通常、光導波路を構成する膜は800〜1300℃程度の高温処理が施されるため、導波路を構成するシリカ膜とシリコン基板の熱膨張係数差に起因する熱応力によってウェハは大きく反る。つまり、シリカ膜はシリコン基板から強い応力を受けており、両者は互いに均衡している。このため、ここで瞬間的にシリコン基板からの応力が開放されてしまうと、ブリッジが破断してしまう場合がある。
【0034】
実のところ、この問題は等方性エッチングに限った話ではない。例えば、特許文献1(特表2001−521180号公報)や特許文献3(特開2004−133130号公報)では、シリコン基板の、直線状の光導波路層の直下に位置する部分を、異方性エッチングによって除去する方法が開示されている。KOH(水酸化カリウム)に代表されるシリコンの異方性エッチングは特殊な装置を必要としないため、容易にブリッジ構造を作製できる。また異方性エッチング溶液には水酸化カリウム(KOH)、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)、エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)などに代表されるが、特にKOHは酸化膜に対して数百倍程度の選択性でシリコンをエッチングするため、光導波路を構成するシリコン酸化膜へのダメージを大幅に軽減できるという特長をもつ。しかしながら、例えば特許文献3の場合においても同様に、シリコン基板のエッチングは、光導波路を挟む両側から、光導波路のどの部分でも同一の速度で進行するため、光導波路をシリコン基板の分離は瞬間的な現象となり、問題の解決には至らない。
【0035】
なお、当然ながら、これらの課題が解決されるようなブリッジ構造は、光導波回路に限らず、犠牲層エッチングによるブリッジ構造に代わって他の分野にも、例えばMEMS分野などにおけるカンチレバーの作製などにも、応用可能である。
【0036】
本発明の目的は、作成が容易で、かつ、機械的強度が良好な、シリコン基板上ブリッジ構造体(または「基板上構造体」)を提供し、また、その製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、作成が容易で、かつ、機械的強度が良好な、シリコン基板上ブリッジ構造体を用いた光導波回路を提供し、また、その製造方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、作成が容易で、かつ、機械的強度が良好な、シリコン基板上ブリッジ構造体を用いた光導波回路を応用した熱光学移相シフタを提供し、また、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
以下に、(発明を実施するための最良の形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための最良の形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0038】
シリコン構造体は、シリコン基板(2)と、基板上構造体(3)とを具備する。ここで、基板上構造体(3)は、シリコン基板(2)上に形成されたシリコン化合物膜を含む。シリコン基板(2)のうち、基板上構造体(3)の直下部分には、少なくとも1つの被除去部(6)と、少なくとも1つの支柱(5)とが含まれる。ここで、被除去部(6)は、異方性エッチングを経て除去されている。支柱(5)は、異方性エッチングを経て残されて、基板上構造体(3)を下から支持する。
【0039】
本発明のシリコン構造体において、基板上構造体(3)は、シリコン基板(2)平面に平行な平面に属する所定の線(7)に沿って形成されている部分を具備する。
【0040】
本発明のシリコン構造体において、異方性エッチングのエッチング速度は、異方性エッチングが進行する方向によって異なる。少なくともシリコン基板(2)平面への直交射影において、異方性エッチングの進行方向が、基板上構造体(3)の被除去部(6)直上部分が沿う所定の線(7)の曲率半径方向と一致する場合よりも、基板上構造体(3)の支柱(5)直上部分が沿う所定の線(7)の曲率半径方向と一致する場合の方が、エッチング速度が遅い。
【0041】
本発明のシリコン構造体において、基板上構造体(3)の被除去部(6)直上部分が沿う所定の線(7)は、曲率半径方向が連続的に変化する曲線(7)を含む。異方性エッチングのエッチング速度は、異方性エッチングが進行する方向に応じて連続的に変化する。
【0042】
本発明のシリコン構造体において、シリコン基板(2)平面は、シリコン{100}型結晶面を具備する。
【0043】
本発明のシリコン構造体において、シリコン基板(2)平面は、シリコン{110}型結晶面を具備する。
【0044】
本発明のシリコン構造体において、シリコン基板(2)平面は、シリコン{111}型結晶面を具備する。
【0045】
本発明のシリコン構造体において、シリコン化合物は、シリコン酸化物を含む。
【0046】
本発明のシリコン構造体において、シリコン化合物は、シリコン炭化物を含む。
【0047】
本発明のシリコン構造体において、シリコン化合物は、シリコン窒化物を含む。
【0048】
本発明のシリコン構造体において、異方性エッチングは、水酸化カリウムを用いるウェットエッチングである。
【0049】
本発明の光導波回路は、本発明のシリコン構造体において、基板上構造体(3)が、クラッド(3)と、コア(1)とを具備するものである。ここで、クラッド(3)は、シリコン酸化膜で形成されている。コア(1)は、屈折率がクラッド(3)とは異なるように所定のドーピングが施されたシリコン酸化膜で形成されている。
【0050】
本発明の熱光学移相シフタは、本発明のシリコン構造体において、基板上構造体(3)が、クラッド(3)と、コア(1)とを具備するものである。ここで、クラッド(3)は、シリコン酸化膜で形成されている。コア(1)は、屈折率がクラッドとは異なるように所定の不純物添加が施されたシリコン酸化膜で形成されている。また、本発明の熱光学移相シフタは、基板上構造体(3)の上に形成された金属製の薄膜ヒータ(4)をさらに具備する。
【0051】
本発明のシリコン構造体製造方法は、(a)基板上構造体(3)を下から支持するシリコン基板(2)の一部が異方性エッチングによって除去されたシリコン構造体を製造することと、(b)基板上構造体(3)が、シリコン基板(2)が有する複数の結晶面と異方性エッチングによるエッチング進行速度との関係が考慮された所定の線(7)に沿った形状に設計されることと、(c)基板上構造体(3)が、シリコン基板(2)上に形成されることと、(d)シリコン基板(2)が、異方性エッチングを受けることとを具備する。
【0052】
本発明のシリコン構造体製造方法において、ステップ(b)は、(b−1)基板上構造体(3)が、シリコン基板(2)平面に平行な平面に属する所定の線(7)に沿って形成されている部分を具備するように設計されることと、(b−2)少なくともシリコン基板(2)平面への直交射影において、異方性エッチングの進行方向が、基板上構造体(3)の被除去部(6)直上部分が沿う所定の線(7)の曲率半径方向と一致する場合よりも、基板上構造体(3)の支柱(5)直上部分が沿う所定の線(7)の曲率半径方向と一致する場合の方が、エッチング速度が遅くなるように、基板上構造体(3)が設計されることとを具備する。
【0053】
本発明のシリコン構造体製造方法において、ステップ(b)は、(b−3)基板上構造体(3)の被除去部(6)直上部分が沿う所定の線(7)が、曲率半径方向が連続的に変化する曲線(7)を含むように、基板上構造体(3)が設計されることをさらに具備する。
【0054】
本発明のシリコン構造体製造方法において、ステップ(d)は、(d−1)シリコン基板(2)の、基板上構造体(3)の直下に位置する部分のうち、異方性エッチングによるエッチング進行速度がより速い部分がより早く除去されて、被除去部(6)となることと、(d−2)被除去部(6)の、基板上構造体(3)の長さ方向に沿った長さが、徐々に増えることと、(d−3)異方性エッチングが終了することと、(d−4)シリコン基板(2)の、基板上構造体(3)の直下に位置する部分のうち、異方性エッチングの進行速度がより遅い部分が残されて、構造体構造体(3)を下から支持する支柱(5)となることとを具備する。
【0055】
本発明のシリコン構造体製造方法において、異方性エッチングは、水酸化カリウムを用いたウェットエッチングである。
【0056】
本発明の光導波回路製造方法は、本発明のシリコン構造体製造方法において、ステップ(c)が、(c−1)基板上構造体(3)が、光導波路(3)としてシリコン基板(2)上に形成されることを具備するものである。
【0057】
本発明の熱光学移相シフタ製造方法は、本発明の光導波回路製造方法において、ステップ(c)が、(c−2)基板上構造体(3)の上に、金属製の薄膜ヒータ(4)が形成されることをさらに具備するものである。
【発明の効果】
【0058】
本発明によるシリコン構造体製造方法では、基板上のブリッジ構造体が曲線状に形成されていて、その直下のシリコン基板が異方性エッチングによって除去される。シリコン基板を形成するシリコン結晶の面方位によって、異方性エッチングの進行速度は大きく異なる。基板上のブリッジ構造体が描く曲線は、その地点によって、曲率半径方向が異なるので、異方性エッチングの進行速度も同様に異なる。その結果、曲線状のブリッジ構造体の直下のシリコン基板は、エッチング進行速度が早い部分から遅い部分へと徐々に除去される。これは基板上のブリッジ構造体のブリッジ化がその地点の曲率半径方向に応じて徐々に進むことに等しく、ブリッジ化によってブリッジ構造体が受ける衝撃が長い時間をかけて徐々に伝わることを意味する。このように、本発明によるシリコン構造体製造方法では、ブリッジ化において基板上のブリッジ構造体が一度に受ける衝撃が少なく、基板上のブリッジ構造体が破損する危険性が激減する。
【0059】
また、シリコン構造体製造方法の応用として、基板上のブリッジ構造体に光導波路を用いた光導波回路の製造方法と、さらに光導波路に金属製の薄膜ヒータを設けた熱光学移相シフタの製造方法も実現される。
【0060】
また、本発明によるシリコン構造体では、シリコン基板上にブリッジ状に浮いていて、かつ、任意の地点においてシリコン基板の支柱によってシリコン基板上に下から支えられている、高い強度を有するブリッジ構造体が実現されている。この支柱は、シリコン基板の中でも直上のブリッジ構造体の接線ベクトルに応じてエッチング進行速度が一番遅い部分に、異方性エッチング時間が調整されて形成されるものである。
【0061】
また、シリコン構造体の応用として、ブリッジ構造体に光導波路を用いた光導波回路と、さらに光導波路に金属製の薄膜ヒータを設けた熱光学移相シフタも実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
添付図面を参照して、本発明によるシリコン構造体を実施するための最良の形態を以下に説明する。
なお、ここではシリコン構造体の一つの応用分野として、光導波回路に係る実施形態について説明する。光導波回路においては、ブリッジ構造体はコアとクラッドとを具備する光導波路である。光導波路のコアとクラッドとは、屈折率の異なる2種類のシリコン酸化膜として形成される。したがって、光導波路は異方性エッチングを受けてもほとんど除去されない。
【0063】
図1は、結晶方位に対する各結晶面の概念図である。本発明の説明を始める前に、まず、結晶方位に対する各面の方向性を定義する。
単結晶のシリコン基板はダイヤモンド構造をしている。ダイヤモンド構造の単位格子は、立方体である。この立方体を構成する正方形が含まれる平面に平行な平面は、「{100}型面」と呼ばれる。また、ダイヤモンド構造の単位格子である立方体を構成する正方形の対角線と、この対角線に直交する立方体の辺とからなる長方形に平行な平面は、{110}型面と呼ばれる。さらに、立方体の1つの頂点を共有する3つの正方形のそれぞれの対角線から成る正三角形に平行な平面は、{111}型面と呼ばれる。
本発明は、各結晶面、{100}型面、{110}型面、{111}型面、においてそれぞれ異方性エッチングの進行速度が異なることを利用する。また、これらの結晶面に限らず、シリコン基板内の任意の面において、異方性エッチングの速度が異なることを利用する。
【0064】
図2は、{100}基板上に{100}型面に平行な溝が形成された、従来の例を示す。
ダイヤモンド構造の単位格子である立方体を真上から見た正方形の、4本の辺は{100}型面であり、2本の対角線は{110}型面である。ここで異方性エッチングを考えると、{100}型面に平行な表面に行なわれるエッチングは、速度が最も速い。言い方を変えれば、{100}型面に垂直な進行方向に行われるエッチングは、速度が最も速い。また、{100}型面に垂直な方向成分と他の方向成分とを含む方向に行なわれるエッチングは、それらの方向成分の比率に応じて、速度が連続的に変化する。
【0065】
図3は、{100}基板上に{110}型面に平行な溝が形成された、従来の例を示す。
図2と同様に、異方性エッチングにおいて、対角線方向の{110}型面に平行な表面に行なわれるエッチングは、速度が遅い。具体的には、{100}型面に平行な表面に行なわれるエッチングよりも、100倍程度遅い場合がある。これは、その方向へのエッチングが、同時に、最もエッチングのされにくい{111}型面を露出させるためである。
【0066】
図4は、本発明による、{100}基板上に曲線状光導波路が形成された場合の例を示す。ここで、光導波路3は所定の線(以下「基礎曲線」)7に沿って形成されている。
シリコン基板上に曲線状に設計された光導波路のシリコンが異方性エッチングされると、導波路側壁に対して垂直かつ基板に対して平行な方向へのエッチングにおいて、導波路の接線が{100}型面となす角θ100がゼロ(つまり両者が平行関係)なる点においてエッチングが最も速く進行する。また、導波路の接線が{110}型面となす角θ110がゼロ(このときθ100は45°、ただし補角なら135°)になる点において、エッチング速度は最も遅くなる。ここまでは上述した従来例と同じであるが、その間の角度では、異方性エッチングの進行速度は連続的に変化する。
【0067】
図4の例では、シリコンのエッチング速度は点A、E、Iにおいて最も速く、点C、Gに近づくに連れて、連続的に遅くなる。したがって、光導波路直下のシリコン基板が除去されるブリッジ構造化は、徐々に進行してくことになる。つまり、異方性エッチングによって、点A、E、Iのシリコン基板が最初に除去され、シリコン基板の除去範囲は点C、Gに向って徐々に広がることになる。ここで、点A、E、Iにおいて、エッチングによって光導波路がほぼまったく除去されずに、光導波路の直下に位置するシリコン基板が除去されることを、アンダーカットとも言う。
【0068】
異方性エッチングの進行速度は、導波路接線角度に対して指数関数的に増加するため、異方性エッチングが終了するまで時間、例えばシリコン基板がKOHに浸漬される時間、が調節されることによって、高い選択性で点C、Gのシリコンをエッチングせずに残すことができる。すると、点C、Gは、シリコン基板の中でも異方性エッチングの進行速度がより遅い部分であるので、除去されずに残されて、光導波路を下から支持する支柱の役割を担うことができる。
【0069】
つまり、光導波路3が瞬間的な応力開放によって破断することなく、シリコン基板2上にブリッジ状に支持される構造が実現される。さらに、このように曲線的なブリッジ構造は外部応力を基礎曲線7の曲率半径方向に逃がす余地があるため、先行事例のように直線的なブリッジよりも応力耐性が高い。また、エッチング速度が結晶方向によって大きく異なることを利用すれば、シリコンの支柱5を容易に作製することが可能となる。
【0070】
より具体的には、まず、光導波路3は曲線的な形状に設計されることが好ましい。このとき、光導波路3の長さ方向に沿って、基礎曲線7の曲率半径方向が連続的に変化することが好ましい。これは、基礎曲線7の曲率半径方向が連続的に変化するとき、異方性エッチングの進行速度も連続的に変化するからである。具体例としては、異方性エッチングの進行方向が、基板上構造体の被除去部直上部分が沿う所定の線の曲率半径方向と一致する場合は、エッチング速度がより速い。反対に、異方性エッチングの進行方向が、基板上構造体の支柱直上部分が沿う所定の線の曲率半径方向と一致する場合は、エッチング速度がより遅い。ただし、実際のエッチング速度の方向をベクトルとして捉えると、基板上構造体の基準となる線が属するシリコン基板に平行な平面には収まらない場合がある。すなわち、エッチング速度のベクトルは、シリコン基板に垂直なベクトル成分をも含んでいる場合がある。したがって、シリコン基板に垂直なベクトル成分を省いて考えることで、基板上構造体の設計がより容易となる。厳密に表現するなら、少なくともシリコン基板に平行な平面への直交射影においてエッチング速度を比べた時、基板上構造体の被除去部直上部分が沿う所定の線の曲率半径方向と一致する場合は、エッチング速度がより速い。同様に、少なくともシリコン基板に平行な平面への直交射影において、異方性エッチングの進行方向が、基板上構造体の支柱直上部分が沿う所定の線の曲率半径方向と一致する場合は、エッチング速度がより遅い。
【0071】
その結果、シリコン基板2の、光導波路3の直下に位置する部分のうち、まずは異方性エッチングの進行速度がより速い部分がより早く除去されて被除去部となる。つまり、異方性エッチングの進行速度の連続性に対応して、被除去部6が徐々に増える。これはすなわち、光導波路3の長さ方向に沿って、被除去部6の長さが徐々に増えることを意味する。光導波路3のシリコン基板2からの分離が、一気にではなく少しずつ進むので、光導波路3に一度に加わる力は少なくて済み、クラックが生じる危険性が大幅に減ることになる。
【0072】
次に、光導波路3を下から支持するブリッジ構造を設計するにあたって、次のような条件を満たす必要がある。ブリッジ構造とは、光導波路3を下から支持する支柱5と、光導波路3と直下のシリコン基板2との間に設けられた空間である被除去部6からなる。異方性エッチングによって、被除去部6が先に除去されて、支柱5が残っている間に異方性エッチングが終了しなければならない。したがって、被除去部6の表面の法線が、異方性エッチングの進行速度がより速いシリコン結晶面の法線に近い方向を向くように、被除去部6を配置する必要がある。
【0073】
反対に、支柱5は異方性エッチングが終了しても除去されてはならないので、支柱5の側面は、異方性エッチングの進行速度がより遅いシリコン結晶面、またはこれに近い面でなければならない。具体的には、{110}型面や{111}型面である。したがって、支柱5表面の法線が異方性エッチングの進行速度がより遅い結晶面の法線に近い方向を向くように、支柱5を配置する必要がある。
【0074】
図5は、本発明によって、{100}基板上にリング導波路が形成された場合の例を示す。
{110}型面に平行な点E〜Hにおいてシリコン基板2の支柱5が残り、{100}型面に平行な点A〜Dにおいてリング導波路はブリッジ状に浮いている。
【0075】
図6は、本発明によって、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
{110}型面に平行な点I〜Nにおいてシリコン基板2の支柱5が残り、{100}型面に平行な点A〜Hにおいてリング導波路はブリッジ状に浮いている。
【0076】
図7は、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
{110}型面に平行な点E、Fにおいてシリコン基板2の支柱5が残り、{100}型面に平行な点A〜Dにおいてリング導波路はブリッジ状に浮いている。
図6と図7とを比較すると分かるように、本発明の曲線状導波路だけを用いて、同様の支柱配置構造を持つマッハツェンダ導波路でも、導波路の長さを自由にデザインすることが可能である。
【0077】
図8は、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
{110}型面に平行な点C〜Fにおいてシリコン基板2の支柱5が残り、{100}型面に平行な点A、Bにおいてリング導波路はブリッジ状に浮いている。
図7と図8とを比較すると分かるように、本発明の曲線状導波路だけを用いて、同じ長さの導波路を持つマッハツェンダ導波路でも、異なる支柱配置構造を自由にデザインすることが可能である。
【0078】
図9は、本発明がリング導波路に適用された場合の例を示す。
ここで、リング導波路は、シリコン基板2と、光導波路3と、薄膜ヒータ4とを具備する。
光導波路3は、直線部分とリング部分とを具備し、いずれも、中央のコア1と、コア1周辺のクラッドとを具備する。光導波路3のコア1およびクラッドは酸化シリコンであり、コア1にはさらに例えばリンがドープされることで両者の屈折率に差が設けられている。
【0079】
ここでは、基板上構造体としてシリコン酸化物を例に取るが、その他のシリコン化合物が用いられても良い。例えば、シリコン炭化物や、シリコン窒化物なども、シリコン基板2に対する異方性エッチングに十分な耐性を持っており、本発明のシリコン構造体に応用可能である。
【0080】
なお、光導波路3におけるコア1およびクラッドは、シリコン基板2が異方性エッチングを施される前に、以下のようにして形成される。まず、クラッドのうちコア1より下に位置する部分が、シリコン基板2上にCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)によるシリコン酸化膜などとして形成される。クラッドのこの部分は下層クラッドと呼ばれる。次に、コア1が、所定のドーピングをされたシリコン酸化膜として、下層クラッドの上に形成される。最後に、下層クラッドとコア1との上に、コア1を包み込むようにして、残りのクラッドが形成される。残りのクラッドは上層クラッドと呼ばれる。
【0081】
シリコン基板2は、光導波路3の直線部分の全てを下から支える部分と、同じくリング部分の一部を下から支える支柱5部分とを具備する。
薄膜ヒータ4は、光導波路3の上にスパッタリング法などで堆積された金属膜である。光導波路3のリング部分とほぼ同じ形状をした部分と、図示されない電力供給回路に接続されるための2つの端子とを具備している。
【0082】
シリコン基板2は、光導波路3を下から支えている。ただし、光導波路3の直線部分はその全部がシリコン基板2の上に支えられているのに対して、リング部分は、一部のみがシリコン基板2の支柱5部分に支えられている。光導波路3において、リング部分は、左右に伸びる2本の直線部分の両方に接続されている。薄膜ヒータ4は、光導波路3のリング部分の上に形成されている。
【0083】
薄膜ヒータ4は、図示されない電力供給回路から電力を供給されて、ジュール熱によって光導波路3のリング部分を熱する。リング導波路は、その屈折率が熱光学的に変化することによって、そのフィルタ特性が所望の値にされる。ここで、リング導波路の大部分がシリコン基板2からブリッジ状に浮いていることによって、薄膜ヒータ4に供給される消費電力が大幅に節約される。
【0084】
このようなリング導波路が形成されるために、結晶構造は上述した図5に示されるように光導波路3に配置されている。すなわち、異方性エッチングによって点E〜Hにシリコン基板2の支柱5が残り、点A〜Dにおいてリング導波路はブリッジ状に浮いている。
【0085】
これまでは、{100}基板を用いて、異方性エッチングの進行速度が他の面方位よりも{100}型面において最も速いことを利用する方法を中心に説明した。すなわち、{100}型面がシリコン基板2の表面である場合について論じた。しかし、本発明は、{110}基板を用いても、{111}基板を用いても、利用可能である。{110}基板を利用する場合は、基板表面に対して垂直な{111}型面が露出するため、表面がこの型面に対して平行になるほどエッチングされにくくなる。また、{111}基板を利用する場合は、既に表面がエッチングされにくい{111}型面であるため、最初にドライエッチングなど任意の手法で{111}型面をエッチングするなどして、{100}型面と{110}型面とを露出させる必要がある。また、{100}型面と{110}型面との速度差は、{100}型面または{110}型面と{111}型面との速度差よりもずっと小さい。そこで、これらの速度差を利用する場合には、例えばKOHなどの異方性エッチング液を十分に希釈して使用し、異方性エッチング全体の速度を落とし、エッチング除去の時間差を十分に確保することが望ましい。
【0086】
繰り返しになるが、この実施形態は、本発明のシリコン構造体の一つの応用例であり、応用可能な分野は光導波回路または熱光学移相シフタに限られない。特に、MEMSの分野への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、結晶方位に対する各基板の概念図である。
【図2】図2は、従来技術によって、{100}基板上に{100}型面に平行な溝が形成された場合の例を示す。
【図3】図3は、従来技術によって{100}基板上に{110}型面に平行な溝が形成された、場合の例を示す。
【図4】図4は、本発明によって、{100}基板上に曲線導波路が形成された場合の例を示す。
【図5】図5は、本発明によって、{100}基板上にリング導波路が形成された場合の例を示す。
【図6】図6は、本発明によって、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
【図7】図7は、本発明によって、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
【図8】図8は、本発明によって、{100}基板上に対象マッハツェンダ導波路が形成された場合の例を示す。
【図9】図9は、本発明がリング導波路に適用された場合の例を示す。
【図10】図10は、非特許文献1に示される、シリコン基板が等方的ドライエッチングで部分的に除去される様子を説明する図である。
【図11】図11は、特許文献2に示される、光導波路において支柱を設けたい箇所だけリッジの幅を太くする、または島を設ける方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0088】
1:コア
2:シリコン基板
3:光導波路
4:薄膜ヒータ
5:支柱
6:被除去部
7:基礎曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたシリコン化合物膜を含む基板上構造体と
を具備し、
前記シリコン基板のうち、前記基板上構造体の直下部分には、
異方性エッチングを経て除去された、少なくとも1つの被除去部と、
前記異方性エッチングを経て残されて、前記基板上構造体を下から支持する、少なくとも1つの支柱と
が含まれる
シリコン構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン構造体において、
前記基板上構造体は、
前記シリコン基板平面に平行な平面に属する所定の線に沿って形成されている部分
を具備する
シリコン構造体。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン構造体において、
前記異方性エッチングのエッチング速度は、前記異方性エッチングが進行する方向によって異なり、
少なくとも前記シリコン基板平面への直交射影において、前記異方性エッチングの進行方向が、前記基板上構造体の前記被除去部直上部分が沿う前記所定の線の曲率半径方向と一致する場合よりも、前記基板上構造体の前記支柱直上部分が沿う前記所定の線の曲率半径方向と一致する場合の方が、エッチング速度が遅い
シリコン構造体。
【請求項4】
請求項2または3に記載のシリコン構造体において、
前記基板上構造体の前記被除去部直上部分が沿う前記所定の線は、曲率半径方向が連続的に変化する曲線を含み、
前記異方性エッチングのエッチング速度は、前記異方性エッチングが進行する方向に応じて連続的に変化する
シリコン構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン基板平面は、
シリコン{100}型結晶面
を具備する
シリコン構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン基板平面は、
シリコン{110}型結晶面
を具備する
シリコン構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン基板平面は、
シリコン{111}型結晶面
を具備する
シリコン構造体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン化合物は、シリコン酸化物を含む
シリコン構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン化合物は、シリコン炭化物を含む
シリコン構造体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記シリコン化合物は、シリコン窒化物を含む
シリコン構造体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記異方性エッチングは、水酸化カリウムを用いるウェットエッチングである
シリコン構造体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記基板上構造体は、
シリコン酸化膜で形成されたクラッドと、
屈折率が前記クラッドとは異なるように所定のドーピングが施されたシリコン酸化膜で形成されたコアと
を具備する
光導波回路。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載のシリコン構造体において、
前記基板上構造体は、
シリコン酸化膜で形成されたクラッドと、
屈折率が前記クラッドとは異なるように所定の不純物添加が施されたシリコン酸化膜で形成されたコアと
を具備し、
前記基板上構造体の上に形成された金属製の薄膜ヒータ
をさらに具備する
熱光学移相シフタ。
【請求項14】
(a)基板上構造体を下から支持するシリコン基板の一部が異方性エッチングによって除去されたシリコン構造体を製造することと、
(b)前記基板上構造体が、前記シリコン基板が有する複数の結晶面と前記異方性エッチングによるエッチング進行速度との関係が考慮された所定の線に沿った形状に設計されることと、
(c)前記基板上構造体が、前記シリコン基板上に形成されることと、
(d)前記シリコン基板が、前記異方性エッチングを受けることと
を具備する
シリコン構造体製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のシリコン構造体製造方法において、
前記ステップ(b)は、
(b−1)前記基板上構造体が、前記シリコン基板平面に平行な平面に属する所定の線に沿って形成されている部分を具備するように設計されることと、
(b−2)少なくとも前記シリコン基板平面への直交射影において、前記異方性エッチングの進行方向が、前記基板上構造体の前記被除去部直上部分が沿う前記所定の線の曲率半径方向と一致する場合よりも、前記基板上構造体の前記支柱直上部分が沿う前記所定の線の曲率半径方向と一致する場合の方が、エッチング速度が遅くなるように、前記基板上構造体が設計されることと
を具備する
シリコン構造体製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載のシリコン構造体製造方法において、
前記ステップ(b)は、
(b−3)前記基板上構造体の前記被除去部直上部分が沿う前記所定の線が、曲率半径方向が連続的に変化する曲線を含むように、前記基板上構造体が設計されること
をさらに具備する
シリコン構造体製造方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載のシリコン構造体製造方法において、
前記ステップ(d)は、
(d−1)前記シリコン基板の、前記基板上構造体の直下に位置する部分のうち、前記異方性エッチングによるエッチング進行速度がより速い部分がより早く除去されて、被除去部となることと、
(d−2)前記被除去部の、前記基板上構造体の長さ方向に沿った長さが、徐々に増えることと、
(d−3)前記異方性エッチングが終了することと、
(d−4)前記シリコン基板の、前記基板上構造体の直下に位置する部分のうち、前記異方性エッチングの進行速度がより遅い部分が残されて、前記構造体構造体を下から支持する支柱となること
を具備する
シリコン構造体製造方法。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれかに記載のシリコン構造体製造方法において、
前記異方性エッチングは、水酸化カリウムを用いたウェットエッチングである
シリコン構造体製造方法。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれかに記載のシリコン構造体製造方法において、
前記ステップ(c)は、
(c−1)前記基板上構造体が、光導波路として前記シリコン基板上に形成されること
を具備する
光導波回路製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の光導波回路製造方法において、
前記ステップ(c)は、
(c−2)前記基板上構造体の上に、金属製の薄膜ヒータが形成されること
をさらに具備する
熱光学移相シフタ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−8900(P2009−8900A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170292(P2007−170292)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】