説明

シリンダブロックの製造方法

【課題】 良好な磨耗特性の部分的変化が確保できるシリンダブロックの製造方法を提供する。
【解決手段】 作動ガス供給装置40からプラズマ溶射装置10に供給された作動ガスが電力供給装置30から供給される電流の印加による放電によってプラズマアーク41となってプラズマ溶射装置10の溶射ガン13のノズル13aから噴射され、このノズル13aから噴射するプラズマアーク41によって溶射材料供給装置20から送給された溶射材料の粉末を加熱溶融してシリンダライナ101のボア内周面101aに吹き付けて溶射皮膜103を形成する。その際、予め設定された溶射皮膜103の部分的に変化する要求磨耗特性に基づいて溶射条件を制御し、溶射皮膜103の空孔率、酸化物量、硬度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロックの製造方法に関し、特に溶射法によりボア内周面に溶射皮膜を形成するシリンダブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジンのシリンダブロック本体に設けられるシリンダライナのボア内周面には、ピストンピン及びコンロッドを介してクランク軸に連結されたピストンがボア中心線方向に沿って往復動自在に装着されている。このシリンダライナのボア内周面はピストンリングやピストンに対する摺動特性を確保するために基本的に均一な面粗度に加工されている。
【0003】
しかし、このようなエンジンにおいては、クランク軸の回転運動に伴いピストンピンに対してボア中心線方向へのピストンスラスト力が作用することから、ピストンがピストンピン廻りに首振り挙動を起こす。そのためピストンとシリンダライナとの接触は、ピストンリングとシリンダライナのボア内周面との摺動の他にピストンスカート部とシリンダライナのボア内周面との衝突も生じる。
【0004】
そこで、最近では摩擦損失、燃費の向上、耐スカッフ性を高めるためにシリンダライナのボア内周面の面粗度を部分的に変えることがある。例えば、ピストンリングが摺動するシリンダライナのボア内周面部分の面粗度を、ピストンスカートが摺動するシリンダライナのボア内周面部分の面粗度に対して小さくし、面粗度を大きくしたボア内周面部分にオイルを保持することによって摺動特性及び耐スカッフ性を向上させたものがある。
【0005】
一方、シリンダライナのボア内周面における上端部分となるピストンリングが摺動するボア内周面部分よりシリンダヘッド側のボア内周部分が粗面度であると、この部分に未燃焼ガスが溜まり、NOxが発生しやすくなることから、ボア内周面の上端部分と上死点のピストンリングの上部との間の面粗度を他の部分の面粗度より小さくすることがある。
【0006】
このように面粗度が部分的に変わるシリンダライナのボア内周面をホーニングヘッドの先端に備えられた砥石でホーニング加工するときには、面粗度の小さい領域における砥石の砥石拡張圧を、面粗度の大きい領域の砥石の砥石拡張圧より低くしてホーニング加工する方法が知られている。また、面粗度の小さい領域に相当する砥石の粒度を面粗度の大きい領域に相当する砥石の粒度より細かくしてホーニング加工する方法や、面粗度の小さい領域と面粗度の大きい領域を共にホーニング加工した後に、面粗度の小さい領域のみをローラーバニッシュ仕上げ加工するシリンダブロックの仕上げ方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、ピストンリングやピストンスカート部に対する耐スカッフ性を高めるために、シリンダライナのボア内周面に溶射材料の粉末を吹き付けて溶射皮膜を形成する溶射法がある。この溶射法によって溶射皮膜を形成する際に、耐スカッフ性が要求されるピストンスカート部が摺動するボア内周面部分を高硬度領域とし、他の部分を低硬度領域とするシリンダブロックの製造方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開平7−54707号公報
【特許文献2】特開平8−246944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載のシリンダブロックの仕上げ方法によると、シリンダライナの内面を砥石でホーニング加工するときに、シリンダライナのボア内周面の面粗度に相応してホーニングヘッドの先端に備えられた砥石の砥石拡張圧を変えることによって、或いはボア内周面の面粗度に相応した粒度の砥石を用いたホーニング加工によって、更にボア内周面をホーニング加工した後に面粗度の小さい領域のみをローラーバニッシュ仕上げ加工することによって、面粗度が部分的に変わるシリンダライナのボア内周面を加工することができる。
【0010】
しかし、ボア内周面の面粗度領域に応じて砥石拡張圧を変え、或いはボア内周面の面粗度領域に応じた粒度の砥石を使用することによって、更にボア内周面をホーニング加工した後に面粗度の小さい領域をローラーバニッシュ仕上げすることから、その加工が複雑になると共に面粗度が変化する部分に段差が生じるおそれがある。またホーニング加工は、ホーニングヘッドの先端に備えた砥石をボア中心線方向に所定のストロークで往復動させて行うことから、部分的に面粗度が変化する場合には、そのストロークが極めて小範囲に限定されて作業性が低下して製造コストの増加を招くことが懸念される。
【0011】
一方、特許文献2によると、溶射皮膜により耐スカッフ性が要求されるボア内周面を高硬度領域とし、他の部分を低硬度領域とすることによって耐スカッフ性が確保でき、かつ加熱溶融した溶射材料の粉末を吹き付けて溶射皮膜を形成することから高硬度領域と低硬度領域との間に中間硬度領域を形成することによって高硬度領域と低硬度領域の間の段差が抑制できる。
【0012】
しかし、溶射皮膜の空孔率が高硬度領域から低硬度領域に移行するに従って増加し、この空孔がオイル溜まりとなることから空孔率が大きい低硬度領域ではオイルの保持量が過剰になる一方、空孔率が小さな高硬度領域ではオイルの保持量が減少して磨耗を誘発する要因となる。即ち、磨耗特性が部分的に変化する場合には十分に対応できず、ボア内周面の良好な磨耗特性が確保できないことが懸念される。
【0013】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、ボア内周面の部分的な変化を有する磨耗特性が確保できるシリンダブロックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する請求項1に記載のシリンダブロックの製造方法の発明は、プラズマ溶射装置と、異なった複数種類の溶射材料の粉末を搬送ガスによって上記プラズマ溶射装置に送給する溶射材料供給装置と、異なった複数種類の作動ガスを上記プラズマ溶射装置に送給する作動ガス供給装置と、上記プラズマ溶射装置に電力供給する電力供給装置とを備え、上記作動ガス供給装置から上記プラズマ溶射装置に供給された作動ガスが上記電力供給装置から供給される電流の印加による放電によってプラズマアークとなって上記プラズマ溶射装置の溶射ガンに開口するノズルから噴射され、該ノズルから噴射するプラズマアークによって上記溶射材料供給装置からプラズマ溶射装置に送給された溶射材料の粉末を加熱溶融してボア内周面に吹き付けてボア内周面に溶射皮膜を形成するシリンダブロックの製造方法において、予め設定された溶射皮膜の部分的において変化する要求磨耗特性に基づく上記溶射材料供給装置、作動ガス供給装置、電力供給装置の少なくとも1つの制御により溶射条件を制御してボア内周面に形成される溶射皮膜の空孔率、酸化物量、硬度を制御することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1のシリンダブロックの製造方法において、 上記溶射条件の制御が、上記溶射材料供給装置による上記プラズマ溶射装置に送給される複数種類の溶射材料の粉末配合比率の制御、上記溶射材料供給装置による溶射材料の粉末の供給量制御、上記溶射材料供給装置による搬送ガス供給量の制御、上記作動ガス供給装置による上記プラズマ溶射装置に供給される作用ガスの種類の切り換え制御、上記作動ガス供給装置による複数の作用ガスの配合比率の制御、上記電力供給装置による上記プラズマ溶射装置に送給される電力供給量の制御の内の少なくとも1つの制御であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によると、予め設定された溶射皮膜の部分的に変化する要求磨耗特性に基づいて溶射条件を制御して、ボア内周面に形成される溶射皮膜の空孔率、酸化物量、硬度を制御することによって、ボア内周面に部分的に変化する磨耗特性が確保できる溶射皮膜が形成されたシリンダブロックを製造することができる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の溶射条件の具体的な制御を例示するものであって、要求磨耗特性に応じて各制御を単独或いは複数の制御を並行して行うことによって要求に応じた磨耗特性を有する溶射皮膜をボア内周面に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明によるシリンダブロックの製造方法の実施の形態を、図1及び図2を参照して説明する。
【0019】
図1は本実施の形態に係る溶射皮膜形成装置の概略構成図、図2は溶射皮膜形成装置の要部を示す図である。
【0020】
溶射皮膜形成装置1は、エンジンのシリンダブロック本体に設けられるシリンダライナ101のボア内周面101aに溶射皮膜103を形成するものである。
【0021】
この溶射皮膜形成装置1は、シリンダライナ101のボア内周面101aに向けて溶射材料を噴射して溶射皮膜103を形成するプラズマ溶射装置10と、プラズマ溶射装置10に溶射材料の粉末を供給する溶射材料供給装置20と、溶射材料を溶融する電流をプラズマ溶射装置10に印加する電力供給装置30と、溶融した溶射材料を飛行させる作動ガスをプラズマ溶射装置10に供給する作動ガス供給装置40と、溶射材料供給装置20、電力供給装置30及び作動ガス供給装置40の作動を制御する溶射制御装置50と、溶射ガン姿勢制御装置60とを備えている。
【0022】
プラズマ溶射装置10は、溶射ガン保持ロボット11と、溶射ガン保持ロボット11に支持されて上下方向に延在する溶射ガン13を支持すると共に、その軸線Lを中心に回転駆動する溶射ガン回転装置12を備え、溶射ガン保持ロボット11によって溶射ガン回転装置12を軸線Lに沿って下降することにより図示しない保持治具にセットされたシリンダライナ101のボア中心線に沿って溶射ガン13の先端がシリンダライナ101のボア102内に挿入される。この溶射ガン保持ロボット11による溶射ガン13の昇降及び下降速度、即ちガン送り速度及び溶射ガン回転装置12による溶射ガン13の回転速度は、予め溶射すべきシリンダライナ101の種類及び仕様に応じて設定された溶射条件に従って溶射ガン姿勢制御装置60からの制御信号によって制御される。
【0023】
溶射材料供給装置20は、異なった複数の種類の溶射材料の粉末、本実施の形態では2種類の溶射材料、即ち比較的低融点の粉末Aと比較的高融点の粉末Bをそれぞれ単独で、或いは設定された配合比率で混合された粉末Aと粉末Bを共に搬送ガスによってプラズマ溶射装置10に送給する。
【0024】
この溶射材料供給装置20における粉末A及び粉末Bの供給量、粉末Aと粉末Bの配合比率、搬送ガスの供給量は、予め溶射すべきシリンダライナ101の種類及び仕様に応じて設定された溶射条件に従って溶射制御装置50からの制御信号によって制御される。
【0025】
作動ガス供給装置40は、Ar、N、H等の複数種類の作動ガス、本実施の形態では2種類の第1ガス及び第2ガスをそれぞれ単独で、或いは設定された配合比率で第1ガスと第2ガスをプラズマ溶射装置10に送給する。この作動ガス供給装置40におけるプラズマ溶射装置10へ供給される第1ガスと第2ガスの切り換え、第1ガス及び第2ガスの供給量、第1ガスと第2ガスの配合比率等は、予め溶射すべきシリンダライナ101の種類及び仕様に応じて設定された溶射条件に従って溶射制御装置50からの制御信号によって制御される。
【0026】
また、プラズマ溶射装置10に溶射材料を溶融する電流を印加する電力供給装置30からの電気関係制御は、予め溶射すべきシリンダライナ101の種類及び仕様に応じて設定された溶射条件に従って溶射制御装置50からの制御信号に従って行われる。
【0027】
次に、このように構成された溶射皮膜形成装置1を用いたシリンダブロックの製造方法について説明する。
【0028】
まず、溶射皮膜形成装置1による溶射皮膜103を形成する溶射工程の前処理工程として、溶射皮膜103の密着強さを向上させるために、シリンダライナ101のボア内周面101aに圧縮空気と共に粒状のブラスト材を吹き付けてショットブラスト処理を行い、シリンダライナ101のボア内周面101aを清浄化すると共に粗面化する前処理を施す。
【0029】
次に、前処理が施されたシリンダライナ101を、溶射皮膜形成装置1の図示しない保持治具にセットする。
【0030】
溶射工程において、プラズマ溶射装置10の溶射ガン保持ロボット11によって溶射ガン13が、保持治具にセットされたシリンダライナ101のボア中心線の同軸上となる所期位置に位置決めする。
【0031】
そして、図1及び図2に示すように予め設定された溶射条件に従って溶射ガン姿勢制御装置60からの制御信号によって作動制御される溶射ガン保持ロボット11によって溶射ガン13が軸線Lに沿って下降してシリンダライナ101のボア102内に挿入される。更に、溶射ガン13は、溶射ガン回転装置12による回転と溶射ガン保持ロボット11による軸線L方向に沿う送りとが与えられる。
【0032】
一方、溶射制御装置50からの制御信号により作動ガス供給装置40から第1ガスまたは第2ガス、或いは第1ガスと第2ガスが設定された配合比率で混合した作動ガスがプラズマ溶射装置10に供給され、かつ電力供給装置30により電流を印加すると作動ガス供給装置40から供給された作動ガスが放電によりプラズマアーク41となって溶射ガン13の先端に開口するノズル13aから高速でシリンダライナ101のボア内周面103aに向かって噴射される。
【0033】
溶射材料供給装置20から供給される溶射材料の粉末Aまたは粉末B、或いは設定された配合比率で混合された粉末Aと粉末Bは、搬送ガスによって溶射ガン13の先端近傍に送給され、プラズマアーク41によって加熱溶融されて微粒化しつつ飛行してシリンダライナ101のボア内周面101aに溶着する。これによりボア内周面101aに所定厚さの溶射皮膜103が形成される。
【0034】
ここで、溶射皮膜103の空孔率、酸化物量、硬度は溶射途中において溶射制御装置50からの制御信号によって溶射材料供給装置20からプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料を変えることによって、即ち、溶射材料供給装置20からプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料である粉末A、粉末Bのそれぞれを単独、或いは粉末Aと粉末Bを設定された配合比率で混合して供給することによって空孔率、酸化物の生成量、硬度が簡単に制御できる。
【0035】
また、溶射するときの溶射温度を下げるような溶射条件の変更、例えば、溶射制御装置50からの制御信号によって、電力供給装置30からプラズマ溶射装置10に供給する電流値を下げ、或いは作動ガス供給装置40からプラズマ溶射装置10に供給される作動ガスを、例えば第1ガスがAr(アルゴン)、第2ガスがH(水素)の場合、第2ガスを減少させることによって、或いは第1ガスを増加させることによって溶射皮膜103の空孔率を増加させる制御ができる。また、溶射材料供給装置20からプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料を比較的低融点の粉末Aから比較的高融点の粉末Bに変えることによって粉末の溶融状態が変化して溶射皮膜103の空孔率が増加する。更に、粉末Aと粉末Bの配合比率を比較的低融点の粉末Aが減少し比較的高融点の粉末Bが増加する側に変更することによっても粉末の溶融状態が変化して溶射皮膜103の空孔率が増加する。
【0036】
一方、溶射するときの溶射温度を上げるような溶射条件の変更、例えば、溶射制御装置50からの制御信号によって、電力供給装置30からプラズマ溶射装置10に供給する電流値を上げ、或いは作動ガス供給装置40からプラズマ溶射装置10に供給される作動ガスの第2ガスを増加することによって、或いは第1ガスを減少させることによって溶射皮膜103の空孔率を低減することができる。また、溶射材料供給装置20からプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料を比較的高融点の粉末Bから比較的低融点の粉末Aに変えることによって、更に、粉末Aと粉末Bの配合比率を比較的低融点の粉末Aが増加し比較的高融点の粉末Bが減少する側に変更することによって溶射皮膜103の空孔率を低減することができる。
【0037】
なお、溶射材料供給装置20における搬送ガスを増加させることによってプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料を増加させ、或いは溶射ガン保持ロボット11による溶射ガン13の送り速度を減速及び溶射ガン回転装置12による溶射ガン13の回転速度を減速することで、溶射皮膜13の厚さが増大制御される。
【0038】
一方、溶射材料供給装置20における搬送ガスを減少させることによってプラズマ溶射装置10に供給される溶射材料を減少し、或いは溶射ガン保持ロボット11による溶射ガン13の送り速度を増速及び溶射ガン回転装置12による溶射ガン13の回転速度を増速することで、溶射皮膜13の厚さが減少制御される。
【0039】
従って、プラズマ溶射装置10の溶射ガン13を軸線L方向に送りながら回転を与え、シリンダライナ101のボア内周面101aに溶射材料を溶着させて溶射皮膜103を形成する溶射工程において、予め実験やシミュレーション等によって設定された溶射皮膜103の部分的に変化する要求磨耗特性に基づいて、溶射条件を制御して溶射皮膜103の空孔率、酸化物量、硬度の制御が可能になり、要求に応じた磨耗特性を有する溶射皮膜103をボア内周面101aに形成することができる。
【0040】
即ち、予め実験やシミュレーション等によって設定された溶射皮膜103の部分的に変化する要求磨耗特性に基づく溶射制御装置50から制御信号により、溶射材料供給装置20によるプラズマ溶射装置10に送給される溶射材料の粉末Aと粉末Bの粉末配合比率の制御、溶射材料の粉末A及び粉末Bのプラズマ溶射装置10への供給量の制御、搬送ガス供給量の制御、作動ガス供給装置40によるプラズマ溶射装置10に供給される第1ガスと第2ガスとの切り換え制御、プラズマ溶射装置10に供給される第1ガスと第2ガスの供給量の制御、電力供給装置30によるプラズマ溶射装置10に送給される電力供給量の各制御の1つ或いはこれら制御の内の適宜複数の制御を並行して行うことによって、更に溶射ガン姿勢制御装置60からの制御信号によってプラズマ溶射装置10の溶射ガン保持ロボット11による溶射ガン13の送り速度及び溶射ガン回転装置12による溶射ガン13の回転速度を制御することによって溶射皮膜103の空孔率、酸化物量、硬度の制御が可能になり、要求に応じた磨耗特性を有する溶射皮膜103をボア内周面101aに形成することができる。
【0041】
このボア内周面101aの溶射皮膜103が形成されたシリンダライナ101は、鋳包み工程において、アルミニウム合金等のシリンダブロック本体に鋳包まれてシリンダブロックが形成され、これにより、ボア内周面101aの部分的な変化を有する磨耗特性が確保できるシリンダブロックが得られる。
【0042】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態で溶射材料が粉末Aと粉末Bの2種類の場合を例に説明したが3種類以上の異なった複数種であってもよい。同様に作動ガスが第1ガスと第2ガスの2種類の場合を例に説明したが3種類以上の異なった複数種に設定することもできる。更に、上記実施の形態では、シリンダライナ101のボア内周面101aに溶射皮膜103を形成する場合を例に説明したが、シリンダライナを用いることなくシリンダブロック本体にボアを形成したボア内周面に上記同様に溶射皮膜103を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るシリンダブロックの製造方法の実施の形態を説明する溶射皮膜形成装置の概略構成図である。
【図2】溶射皮膜形成装置の要部を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 溶射皮膜形成装置
10 プラズマ溶射装置
11 溶射ガン保持ロボット
12 ガン回転装置
13 溶射ガン
13a ノズル
20 溶射材料供給装置
30 電力供給装置
40 作動ガス供給装置
41 プラズマアーク
50 溶射制御装置
60 溶射ガン姿勢制御装置
101 シリンダライナ
101a ボア内周面
102 ボア
103 溶射皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ溶射装置と、異なった複数種類の溶射材料の粉末を搬送ガスによって上記プラズマ溶射装置に送給する溶射材料供給装置と、異なった複数種類の作動ガスを上記プラズマ溶射装置に送給する作動ガス供給装置と、上記プラズマ溶射装置に電力供給する電力供給装置とを備え、上記作動ガス供給装置から上記プラズマ溶射装置に供給された作動ガスが上記電力供給装置から供給される電流の印加による放電によってプラズマアークとなって上記プラズマ溶射装置の溶射ガンに開口するノズルから噴射され、該ノズルから噴射するプラズマアークによって上記溶射材料供給装置からプラズマ溶射装置に送給された溶射材料の粉末を加熱溶融してボア内周面に吹き付けてボア内周面に溶射皮膜を形成するシリンダブロックの製造方法において、
予め設定された溶射皮膜の部分的において変化する要求磨耗特性に基づく上記溶射材料供給装置、作動ガス供給装置、電力供給装置の少なくとも1つの制御により溶射条件を制御してボア内周面に形成される溶射皮膜の空孔率、酸化物量、硬度を制御することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。
【請求項2】
上記溶射条件の制御が、
上記溶射材料供給装置による上記プラズマ溶射装置に送給される複数種類の溶射材料の粉末配合比率の制御、上記溶射材料供給装置による溶射材料の粉末の供給量制御、上記溶射材料供給装置による搬送ガス供給量の制御、上記作動ガス供給装置による上記プラズマ溶射装置に供給される作用ガスの種類の切り換え制御、上記作動ガス供給装置による複数の作用ガスの配合比率の制御、上記電力供給装置による上記プラズマ溶射装置に送給される電力供給量の制御の内の少なくとも1つの制御であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−57163(P2006−57163A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242492(P2004−242492)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】