説明

スイングジョイントを有する柔軟なリアアクスル及び対応する自動車

本発明は、縦方向のアーム(12)とクロスビーム(24)を有し、クロスビーム(24)を横切って伸び、クロスビーム(24)の中央部へ連結された、スイングジョイント(26)を形成するアームと、スイングジョイントの車両の前部へ向けられた前端部(30)を、縦方向のアームの車体への連節部に近接して上記アームへ、または縦方向のアームの車体への連節部の高さで車体(20)へ連結し、クロスビーム(24)に概ね平行な連結部材(42、50)と、車両の後部へ向けられたスイングジョイントの後端部(32)を、それぞれ車輪の支持(16)へ連結する2つの連接棒(34)とからなる、自動車用の柔軟なリアアクスルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2輪または4輪操舵の自動車用の柔軟なリアアクスルと、このリアアクスルを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の柔軟なリアアクスルは、一般に、それらの一端でそれぞれ車輪を支持し、他端が車体へ回動可能に連結された、揺動する縦方向の2つのアームを有する。これらのアームに支持された弾性緩衝手段が車体を弾性的に支え、捩り弾性変形可能な横方向のアンチロールバーの端部が、それぞれ2つのアームに剛に連結される。
【0003】
車輪の操舵角度を、水平面内において、車輪の面と車両の縦方向の面との間に形成される角度と定義する。操舵の際に、車輪の前部が内側に向けて移動するときにトーインと呼び、車輪の前部が外側に向けて移動するときにトーアウトと呼ぶ。方向転換においては、車両の後輪は、方向転換する方向の横方向の力を受ける。従って、柔軟なリアアクスルの場合に、右方向転換のときには、左外側車輪はトーアウトの傾向を有し、左方向転換のときには、右外側の車輪はトーアウトの傾向を有する。この車輪の操舵角度は、車両の安定性に影響を及ぼすファクタである。
【0004】
前輪2輪操舵の車両については、良好な安定性を得るために、方向転換の際の後輪のトーインの量を制限する必要がある。4輪操舵の車両については、装置が方向転換に応じて後輪の回転を制御し、このことが安定性も改善する。
【0005】
これらの2つの場合に、マルチアームのリアアクスルを使用することができる。しかしながら、マルチアームのリアアクスルは必要空間が大で、車両の構造、例えばスペアタイヤの搭載スペースと両立しないことは明らかであり、柔軟なアクスルよりも重くてコストが大きいという二重の問題を呈する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アンダーステア効果をもたらす、方向転換の際の前輪と同じ向きにおける後輪の制限された回転を可能とし、このことが2輪または4輪操舵の自動車の安定性を改善する、柔軟なリアアクスルを提供することによって、上記の問題を緩和することを目的とする。柔軟なリアアクスルの構造は、例えばスペアタイヤの搭載箇所のために、マルチアームのアクスルの必要空間によって課される拘束を取り除くことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の対象は、車両の後部へ向けられた後端部が車輪の支持にそれぞれ回動可能に連結され、前端部が車体にそれぞれ回動可能に連結された、揺動する縦方向の2つのアームを有し、2つの上記アームは、クロスビームを介して連結された、自動車用の柔軟なリアアクスルにおいて、
−上記クロスビームを横切って伸び、概ね垂直な継ぎ手軸を介して上記クロスビームの中央部へ連結された、スイングジョイントを形成するアームと、
−上記スイングジョイントの上記車両の前部へ向けられた前端部を、縦方向の上記アームの上記車体への連節部に近接して上記アームへ、または縦方向の上記アームの上記車体への連節部の高さで上記車体へ連結し、上記クロスビームに概ね平行な連結部材と、
−上記車両の後部へ向けられた上記スイングジョイントの後端部を、それぞれ上記車輪の支持へ連結する2つの連接棒と、
を含んでなることを特徴とする、自動車用の柔軟なリアアクスルに関する。
【0008】
このように縦方向のアームまたは車体へ連結されることによって、連結部材は、方向転換の際に、車輪の回転の制限または制御の少なくとも一方を可能にする。また、連結部材のクロスビームとの平行状態は、アクスルの釣り合いに有害な寄生運動の生成を回避することを可能にする。
【0009】
有利には、2つの上記連接棒は、概ね垂直な回転軸を介して、上記スイングジョイントと、上記車輪の支持へ回動可能に連結される。
【0010】
2つの上記連接棒の、上記スイングジョイント上の回転軸は、例えば別々になっている。
【0011】
有利には、寄生運動の生成を回避するように、上記連結部材の端部は、上記スイングジョイントと、縦方向の上記アームまたは上記車体へ、概ね垂直な軸の周りに回動可能に連結される。
【0012】
有利には、上記連接棒は、上記クロスビームと概ね平行に伸びる。例えば、各上記車輪の支持は、概ね水平な面内を車輪の面に概ね平行に伸び、車両の前部へ向けられた自由端が2つの上記連接棒の1つの端部へ回動可能に連結されたアームを有する。
【0013】
1実施の形態においては、上記連結部材は、ジャッキである。有利には、上記ジャッキは、上記ジャッキの変位を操作することに適したモータに接続される。従って、アクスルに取り付けられた車輪の回転を、方向転換に応じて制御することが可能である。モータは、例えば電子制御装置によって、前輪の操舵角度及びその他のあらゆる軌跡パラメータ(例えば、道路のカーブ)に応じて操作される。このようにして、ジャッキの変位がスイングジョイントの、その軸の周りの回転を引き起こし、このことが連接棒を介して、車輪の支持、従って車輪の、概ね垂直の軸の周りの回転を引き起こす。この実施の形態は、特に4輪操舵の車両に適応される。
【0014】
他の1つの実施の形態においては、上記連結部材は、リンクロッドである。この処置は、車輪の垂直な軸の周りの回転は、リンクロッドを介した車体、または車体へ連結された縦方向のアームへの連結によって運動が抑制されるスイングジョイントを駆動するので、後輪の垂直な軸の周りの回転量を制限する。この実施の形態は、特に2輪操舵の車両に適応される。
【0015】
本発明の他の1つの対象は、本発明によるリアアクスルを有する自動車に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
さて、非限定的な添付図面を参照して本発明を説明する。これらの図において:
−図1は、本発明の第1の実施の形態による柔軟なアクスルの左部分の斜視図であり;
−図2は、本発明の第2の実施の形態による柔軟なアクスルの模式図である。
【0017】
本発明による柔軟なアクスル10を、図1、2を参照して説明する。アクスル10は、揺動する縦方向の2つのアーム12を有する。各アーム12は、車両の後方へ向かって延ばされた後端部14によって車輪の支持16へ連結される。図2には、これらの車輪は楕円形で象徴的に示されている。車両の前方へ向かって延ばされたアーム12の前端部18は、図2に象徴的に示された車体20に、回動可能に連結される。2つのアーム12は、車両の縦方向の軸に対して横方向の、同じ回転軸22の周りに回動可能に車体へ連結される。
【0018】
周知のように、車輪の支持16は、例えばトグル継ぎ手のような2つの関節継ぎ手17a、17bを介して、アーム12へそれぞれ接続される。
【0019】
弾性的に捩り変形可能なクロスビーム24が、回転軸22に平行に、かつ回転軸22に近接して、その両端を介してアーム12へ剛に接続される。クロスビームは、例えば、開口部が車両の前方へ向けられた、横向きのV字状の断面形状を呈する。勿論、他の形状のクロスビームを用いてもよい。
【0020】
スイングジョイント26を形成するアームが、クロスビーム24を横切って伸びる。スイングジョイント26は、概ね垂直な継ぎ手軸28によってクロスビーム24の中央部へ連結される。スイングジョイント26の前端部30は、連結部材を介して、縦方向のアーム12の車体20への連節部に近接して、縦方向のアーム12へ連結されるか、あるいは、縦方向のアーム12の車体20への連節部と同じ高さで、車体20へ連結される。連結部材は、クロスビーム24に概ね平行に伸びる。連結部材は、縦方向のアーム12の車体20への連節点と、クロスビーム24の捩り中心とを含む面内に含まれることが望ましい。この連結部材については、後に詳細に説明する。
【0021】
スイングジョイントの車両の後方へ向けた後端部32は、連接棒34を介して各車輪の支持16へ連結される。このため、各車輪の支持16は、車両の前方へ車輪の面に沿って概ね水平に伸びるアーム36を有する。このアーム36は、連接棒34がクロスビーム24と概ね平行になるように充分長い。各連接棒34の一端は、アーム36の自由端へ、概ね垂直な軸38の周りに回動可能に連結され、一方、各連接棒34の他端は、スイングジョイント26の後端部32へ、概ね垂直な回転軸40の周りに回動可能に連結される。示された実施の形態において、連接棒の2つの回転軸40は別々になっている。
【0022】
スイングジョイント26は、図1に示すような、例えば柄の先端が後端部32を形成し、歯が前端部30を形成する、フォーク形状をなす。継ぎ手軸(回転軸)28は、このフォーク形状体の2つの歯に取り付けられる。勿論、クロスビーム24の形状に応じて、その他の形状を考慮してもよい。例えば、それぞれ連結部材と連接棒を支持するために、前端と後端が平たくなったリング形状を考慮することもできる。
【0023】
さて、連結部材の2つの実施の形態を説明する。
【0024】
連結部材がジャッキである第1の実施の形態を、図1を参照して説明する。この図には、アクスルの左部分のみが示されている。スイングジョイント26と車輪の支持16との間の連結は、両側のアクスルについて同一である。
【0025】
スイングジョイント26の前端部30は、ジャッキ42を介して左のアーム12へ連結される。ジャッキの軸の先端部は、スイングジョイント26の前端部30へ、概ね垂直な軸44の周りに回動可能に連結される。ジャッキの反対側の端部は、ジャッキ42がクロスビーム24と概ね平行であるように、アーム12の前端部18へ、アーム12の車体への連節部に近接して位置する概ね垂直な軸46を介して、回動可能に連結される。アーム12の車体への連節部に近接してアーム12へ取り付けられ、ジャッキ42のシリンダに連結されたモータ48が、ジャッキの変位、従って車輪の向きを制御することを可能にする。
【0026】
図示しない変形においては、ジャッキ42は、車両の右側に位置するアーム12に連結することができ、あるいは、縦方向のアームの車体への連節部と同じ高さで、左または右側の車体へ連結することもできる。
【0027】
図2を参照して、第2の実施の形態を説明する。スイングジョイントの前端部30は、リンクロッド50を介して車体の左側へ連結される。リンクロッドの一端は、スイングジョイントの前端部30へ、概ね垂直な軸44の周りに回動可能に連結される。リンクロッドの他端は、アーム12の車体への連節部と同じ高さで、概ね垂直な軸52の周りに回動可能に、車体20へ連結される。リンクロッド50は、クロスビーム24と概ね平行に取り付けられる。第1の実施の形態と同様に、リンクロッド50は、車両の右側へ連結することができ、あるいは、車体への連節部の側の縦方向のアームの1つの端部へ直接連結することもできる。
【0028】
連結部材及び連接棒のさまざまな連節部は、弾性的な連節部、例えばトグル継ぎ手であることが望ましい。
【0029】
第1の実施の形態は、次のように動作する。モータ48の作用によるジャッキ42の延伸は、スイングジョイント26の、軸28の周りの時計の針の方向の回転をもたらす。この回転は、スイングジョイントの後端部32を車両の左の方へ移動させ、この移動が、連接棒34を介して、車輪の支持16、従って車輪の、概ね垂直な軸の周りの左へ向けた回転を引き起こす。ジャッキ42の収縮は、スイングジョイントを逆の向きに回転させ、車輪の右へ向けた回転を引き起こす。モータを制御装置へ接続することによって、例えば車両の方向転換に応じて、このように後輪を方向付けることができる。同様な効果は、ジャッキが縦方向のアームの車体への連節点と同じ高さで、車体へ直接連結される場合にも得られる。
【0030】
第2の実施の形態は、車両の方向転換の際の受動的な動作モードに対応する。右への方向転換の際には、左右の後輪は、車体に対して相対的に右へ移動させる力を受ける。この移動は、クロスビーム24に取り付けられているスイングジョイントの継ぎ手軸28の右へ向けた変位をもたらす。スイングジョイントの前端部30は、リンクロッド50を介して車体へほぼ連結されているので、スイングジョイントの前端部30自身は右へ移動させられない。この結果、スイングジョイントの後端部32が、継ぎ手軸28に対して相対的に右へ移動し、車輪の右へ向けた僅かな方向転換をもたらす。この構造のために、車輪が方向転換の際に制限されたトーインになることを可能にすることによって、アクスルがアンダー−ステア効果を提供し、このことは自動車の安定性を改善する。この効果は、方向転換の旋回の外側の車輪の下部に対する横方向の力が、関節継ぎ手17a−17bの軸の周りのトーインの偶力を生じるような、車両の縦方向の面内における関節継ぎ手17a、17bの配置によって補完されることに留意するべきである。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後部へ向けられた後端部(14)が車輪の支持(16)にそれぞれ回動可能に連結され、前端部(18)が車体にそれぞれ回動可能に連結された、揺動する縦方向の2つのアーム(12)を有し、2つの上記アーム(12)は、クロスビーム(24)を介して連結された、自動車用の柔軟なリアアクスルにおいて、
−上記クロスビーム(24)を横切って伸び、概ね垂直な継ぎ手軸(28)を介して上記クロスビーム(24)の中央部へ連結された、スイングジョイント(26)を形成するアームと、
−上記スイングジョイントの上記車両の前部へ向けられた前端部(30)を、縦方向の上記アームの上記車体への連節部に近接して上記アームへ、または縦方向の上記アームの上記車体への連節部の高さで上記車体(20)へ連結し、上記クロスビーム(24)に概ね平行な連結部材(42、50)と、
−上記車両の後部へ向けられた上記スイングジョイントの後端部(32)を、それぞれ上記車輪の支持(16)へ連結する2つの連接棒(34)と、
を含んでなることを特徴とする、自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項2】
2つの上記連接棒(34)は、概ね垂直な回転軸(38、40)を介して、上記スイングジョイント(26)と、上記車輪の支持(16)へ回動可能に連結されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項3】
2つの上記連接棒(34)の、上記スイングジョイント(26)上の回転軸(40)は、別々になっていることを特徴とする、請求項1または2に記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項4】
上記連結部材(42、50)の端部は、上記スイングジョイント(26)と、縦方向の上記アーム(12)または上記車体(20)へ、概ね垂直な軸(44、52、46)の周りに回動可能に連結されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項5】
上記連接棒(34)は、上記クロスビーム(24)と概ね平行に伸びることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項6】
各上記車輪の支持(16)は、概ね水平な面内を車輪の面に概ね平行に伸び、車両の前部へ向けられた自由端が2つの上記連接棒(34)の1つの端部へ回動可能に連結されたアーム(36)を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項7】
上記連結部材は、ジャッキ(42)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項8】
上記ジャッキ(42)は、上記ジャッキの動きを操作することに適したモータに接続されることを特徴とする、請求項7に記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項9】
上記連結部材は、リンクロッド(50)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスル。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリアアクスルを有することを特徴とする自動車。

【公表番号】特表2006−521963(P2006−521963A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505777(P2006−505777)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000832
【国際公開番号】WO2004/089665
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【出願人】(503166506)オート シャシ インターナショナル (3)
【Fターム(参考)】