説明

スリーブ弁装置

【課題】電気を使用できない場所や弁体の移動操作をする人がいない場所でも動作可能なスリーブ弁装置を提供する。
【解決手段】スリーブ弁装置1は、多孔スリーブ2、筒状弁体5、フロート30及び連結機構20を具備している。多孔スリーブ2には、貯水槽50内に水を流出させるテーパ孔からなる複数の流出孔3が設けられている。弁体5は、多孔スリーブ2に内嵌されるとともにその軸方向の一方向及び他方向に移動することにより複数の流出孔3の開口度を増減させるものである。フロート30は、貯水槽50内の水位の変動に伴って昇降動作するものである。連結機構20は、フロート30の昇降動作により弁体5が多孔スリーブ2の軸方向の一方向及び他方向に移動されるようにフロート30と弁体5とを連結している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯水槽(特に減圧水槽)に用いられるスリーブ弁装置、これを備えた貯水槽及びスリーブ弁装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貯水槽に用いられる弁装置には様々な種類が存在している。通常は操作の簡単なバタフライ弁が用いられている。ここで、貯水槽のうち特に減圧水槽にバタフライ弁を用いた場合、弁に加わる差圧が大きく、キャビテーションによる騒音、振動、エロージョンの発生が問題となることが多い。そこで、特開2004−36705号公報(特許文献1)には、そのようなキャビテーションの発生を抑制可能なバタフライ弁が開示されている。
【0003】
一方、一般的にキャビテーションの発生抑制を図るためには、バタフライ弁ではなく、許容キャビテーション係数がバタフライ弁よりも小さな弁装置であるスリーブ弁を用いるのが良いとされている。このようなスリーブ弁として、例えば特開昭61−218871号公報(特許文献2)に開示されたものが公知である。このスリーブ弁では、その多孔スリーブに多数穿設されたテーパ孔からなる流出孔(小孔)の形状について改良が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36705号公報
【特許文献2】特開昭61−218871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、上記のスリーブ弁では、多孔スリーブに内嵌された筒状弁体が多孔スリーブ内をその軸方向の一方向及び他方向に移動することにより、多数の流出孔の開口度を増減させるものであるが、このような弁体の移動操作は電動式又は手動式の駆動装置により行われるように構成されている。そのため、山奥等の電気を使用できない場所や、弁体の移動操作をする人がいない場所では、弁体の移動操作を行うことができないという難点があった。
【0006】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、電気を使用できる場所はもとより電気を使用できない場所や弁体の移動操作をする人がいない場所でも動作可能なスリーブ弁装置、これを備えた貯水槽及びスリーブ弁装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1] 貯水槽内に水を流出させるテーパ孔からなる複数の流出孔が設けられた多孔スリーブと、
前記多孔スリーブに内嵌されるとともにその軸方向の一方向及び他方向に移動することにより前記複数の流出孔の開口度を増減させる筒状弁体と、
貯水槽内の水位の変動に伴って昇降動作するフロートと、
前記フロートの昇降動作により前記弁体が前記多孔スリーブの軸方向の一方向及び他方向に移動されるように前記フロートと前記弁体とを連結する連結機構と、を具備していることを特徴とするスリーブ弁装置。
【0009】
[2] 前記開口度を0に減少させる位置に移動してきた前記弁体の先端周縁部がシート面に突き当たることにより、前記多孔スリーブ内の水の前記流出孔への流れを閉止する環状の弁シートを更に具備しており、
前記開口度を減少させる弁体の移動方向を閉方向とするとき、
前記弁体は、前記フロートの上昇動作により閉方向に移動されるように構成されており、
前記弁体の先端周縁部が前記弁シートのシート面に突き当たった状態のもとで、貯水槽内の水位の上昇に伴って前記フロートに作用するフロートの上昇力が、前記連結機構を介して、前記弁体の先端周縁部を前記弁シートのシート面に対して密着方向に押し付ける力として前記弁体に付与されるように構成されている前項1記載のスリーブ弁装置。
【0010】
[3] 前記弁体の先端周縁部には、前記弁体の閉方向に対して弁体の内側へ傾斜した傾斜面が形成されており、
前記弁シートのシート面には、前記開口度を0に減少させる位置に移動してきた前記弁体の先端周縁部の傾斜面に当接する閉止部が形成されている前項2記載のスリーブ弁装置。
【0011】
[4] 前記連結機構は、前記弁体に一端側が接続された弁棒と、支点部で揺動自在に軸支された梃子棒とを備えるとともに、前記梃子棒の力点部に前記フロートが接続されるとともに、前記梃子棒の作用点部に前記弁棒の他端側が接続されている前項1〜3のいずれかに記載のスリーブ弁装置。
【0012】
[5] 前項1〜4のいずれかに記載のスリーブ弁装置を備えている貯水槽。
【0013】
[6] 前項1〜4のいずれかに記載のスリーブ弁装置の製造方法であって、
多孔スリーブ形成用素板にテーパ孔からなる複数の流出孔を形成した後、該素板を筒状に屈曲する工程を含むことを特徴とするスリーブ弁装置の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下の効果を奏する。
【0015】
上記[1]のスリーブ弁装置は、テーパ孔からなる複数の流出孔が設けられた多孔スリーブと、多孔スリーブに内嵌されるとともにその軸方向の一方向及び他方向に移動することにより複数の流出孔の開口度を増減させる筒状弁体とを具備したものなので、キャビテーションの発生を大幅に抑制することができる。そのため、キャビテーションの発生に伴う騒音、振動、エロージョン等の不具合の発生を大幅に抑制することができる。
【0016】
さらに、フロートと連結機構とを具備しているので、貯水槽内の水位の変動に伴ってフロートが昇降動作することにより弁体が自動的に移動される。そのため、電気を使用できない場所や弁体の移動操作をする人がいない場所でも動作可能である。
【0017】
上記[2]のスリーブ弁装置によれば、弁シートは、開口度を0に減少させる位置に移動してきた弁体の先端周縁部が弁シートのシート面に突き当たることにより、多孔スリーブ内の水の流出孔への流れを閉止するものであるから、次のような効果を奏する。
【0018】
すなわち、もし仮に、開口度を0に減少させる位置、即ち閉止位置に移動してきた弁体の先端周縁部ではなく弁体の先端側の外周面に弁シートのシート面が当接することで多孔スリーブ内の水の流出孔への流れを閉止するように、スリーブ弁装置が構成されている場合には、閉止位置の弁体が開方向へ移動するときに弁シートのシート面と弁体の先端側の外周面との間に作用する摺接摩擦力によって弁体が移動しにくくなり、弁体のスムーズな移動が阻害されるという難点がある。これに対して、上記[2]のスリーブ弁装置では、閉止位置に移動してきた弁体の先端周縁部が弁シートのシート面に突き当たることにより、多孔スリーブ内の水の流出孔への流れを閉止するものであるから、そのような難点はなく、閉止位置の弁体はスムーズに開方向へ移動することができる。
【0019】
さらに、弁体の先端周縁部が弁シートのシート面に突き当たった状態のもとで、貯水槽内の水位の上昇に伴いフロートに作用するフロートの上昇力が、連結機構を介して、弁体の先端周縁部を弁シートのシート面に対して密着方向に押し付ける力として弁体に付与されるように構成されているから、次のような効果を奏する。
【0020】
すなわち、このスリーブ弁装置では、貯水槽内の水位が上昇して最高水位に到達したとき、弁体の先端周縁部が弁シートのシート面に突き当たり、これにより、多孔スリーブ内の水の流出孔への流れが閉止されるが、この状態から、もし仮に多孔スリーブ内の水が弁体の先端周縁部と弁シートのシート面との間に生じた僅かな隙間から流出孔側へ漏出した場合には、貯水槽内の水位が更に上昇し、これに伴ってフロートには上昇力が作用するから、この上昇力が、連結機構を介して、弁体の先端周縁部を弁シートのシート面に対して密着方向に押し付ける力として弁体に付与されるようになる。その結果、弁体の先端周縁部と弁シートのシート面との間に生じた僅かな隙間が閉塞されることとなる。したがって、このスリーブ弁装置によれば、多孔スリーブ内の水の流出孔への流れを確実に閉止することができる。
【0021】
上記[3]のスリーブ弁装置によれば、開口度を0に減少させる位置、即ち閉止位置に弁体が移動すると、その先端周縁部の傾斜面に弁シートのシート面の閉止部が当接する。この状態では、多孔スリーブ内の水は弁体の先端周縁部と弁シートのシート面との間の隙間から流出しようとし、この際の水圧によって閉止部が多孔スリーブの内側から外向きに押されて当該閉止部が弁体の先端周縁部の傾斜面に密着する。その結果、弁体の先端周縁部と弁シートのシート面との間の隙間が確実に閉塞される。そのため、多孔スリーブ内の水の流出孔への流れをより確実に閉止することができる。
【0022】
上記[4]のスリーブ弁装置によれば、連結機構の梃子棒の力点部にフロートが接続されるとともに、梃子棒の作用点部に弁棒の他端側が接続されているので、弁体を小さな力で確実に移動させることができるし、更に、連結機構の構造の簡素化を図ることができ、これにより、スリーブ弁装置の製造コストを引き下げることができる。
【0023】
上記[5]の貯水槽は、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のスリーブ弁装置を備えているので、スリーブ弁装置の効果と同じ効果を有する。
【0024】
上記[6]のスリーブ弁装置の製造方法は、多孔スリーブ形成用素板に複数の流出孔を形成した後、該素板を筒状に屈曲する工程を含んでいるので、次のような効果を奏する。
【0025】
すなわち、多孔スリーブに形成される流出孔はテーパ孔からなるので、流出孔の形成は容易ではなく、そのような流出孔の形成を筒状に屈曲された素板に対して行うことは困難な作業を要する。そこで、素板を筒状に屈曲した後で流出孔を形成するのではなく、筒状に屈曲する前の状態の素板に複数の流出孔を形成し、その後、該素板を筒状に屈曲することとした。これにより、テーパ孔からなる流出孔の形成を容易に行うことができ、もって多孔スリーブを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るスリーブ弁装置の弁体が開位置に配置されたときのスリーブ弁装置の断面図である。
【図2】図2は、同スリーブ弁装置の弁体が閉位置に配置されたときのスリーブ弁装置の断面図である。
【図3】図3は、図2の同スリーブ弁装置の拡大断面図である。
【図4】図4は、図3の同スリーブ弁装置における弁体の先端周縁部と弁シートとを中心に示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0028】
図1〜4において、1は本発明の一実施形態に係るスリーブ弁装置である。60は、水の流れ方向を示す矢印である。
【0029】
本実施形態のスリーブ弁装置1は、貯水槽として、山間地や丘陵地に設置される減圧水槽50においてその貯水量の調整(水位の調整)のために好適に用いられるものであり、即ち減圧水槽50用の水位調節弁として用いられるものである。本実施形態では、貯水槽は減圧水槽50であるとする。
【0030】
このスリーブ弁装置1は、図1及び2に示すように、多孔スリーブ2、弁体5、弁シート10、フロート30、連結機構20などを具備しており、減圧水槽50内に水を供給する給水管29の出口側端部に取り付けられて用いられるものである。
【0031】
多孔スリーブ2は、下流側の弁胴として機能する円筒状のものであり、減圧水槽50内の貯留水51中において該多孔スリーブ2の軸が鉛直になるように配置されている。この多孔スリーブ2には、給水管29からの水を多孔スリーブ2内から減圧水槽50内へ流出させる多数の流出孔3が径方向に貫通して穿設されている。
【0032】
各流出孔3は、図4に示すように、流出孔3内における水の流出方向61において漸次径小に形成されたテーパ孔からなるものであり、これによりキャビテーションの発生を抑制しうるものとなされている。さらに、これらの流出孔3は、図1に示すように、多孔スリーブ2の外周面においてその軸方向に螺旋状に並んで配設されている。
【0033】
この多孔スリーブ2は、該多孔スリーブ形成用素板が円筒状に屈曲された後で多数の流出孔3が形成されたものではなく、円筒状に屈曲される前の状態の素板に多数の流出孔3が形成され、その後、該素板が円筒状に屈曲されて得られたものである。すなわち、略平板状の素材にテーパ孔からなる多数の流出孔3を所定の孔あけ加工手段(例:ドリル加工)により形成し、その後、この素板を円筒状に屈曲してその端部同士を溶接により固着し、次いでフランジ加工等の所定の最終形状加工を施すことにより、多孔スリーブ2を製造したものである。
【0034】
図3に示すように、多孔スリーブ2の上流側には、該多孔スリーブ2の内径と同寸の内径を有する円筒状の上流側弁胴9がその軸が鉛直になるように配置されている。また、多孔スリーブ2と上流側弁胴9との間には、円環状の弁体用シールベアリング部材18が配置されている。このシールベアリング部材18は、弁体5の外周面5aに当接して水の漏出を防止するシール材としてのパッキン18a(例:Uパッキン)を有している。そして、多孔スリーブ2と上流側弁胴9とがこのシールベアリング部材18を挟んで複数の連結ボルト40により連結一体化されている。
【0035】
さらに、上流側弁胴9の上流側には、上側から下方向に延びた給水管29がその軸が鉛直になるように配置されている。そして、給水管29の出口側端部と上流側弁胴9とが複数の連結ボルト41により連結一体化されている。
【0036】
多孔スリーブ2の下流側端部には円板状の弁蓋4が複数の連結ボルト42により取り付けられており、この弁蓋4によって多孔スリーブ2の下流側開口が閉塞されており、その結果、多孔スリーブ2が有底円筒状に形成されている。これにより、給水管29からの水は、上流側弁胴9の内側及び多孔スリーブ2の内側を順次通って各流出孔3から流出されるようになっている。弁蓋4の外面には、後述する連結機構20の梃子棒25を軸支する支持板4aが下方突出状に固着されている。
【0037】
弁体5は、円筒状に形成されたものである。弁体5の外径は多孔スリーブ2の内径と略同寸に設定されており、この弁体5が多孔スリーブ2にその軸方向70に摺動自在に内嵌されている。そして、弁体5が多孔スリーブ2内をその軸方向70の一方向及び他方向に移動することにより、多孔スリーブ2の多数の流出孔3の開口度を増減させるものとなされている。
【0038】
なお、開口度とは、多数の流出孔3の全開口面積に対する弁体5で閉塞されていない開口面積の占める割合であり、全開口面積の全部が弁体5で閉塞されているとき開口度は0(又は0%)であり、弁体5で全く閉塞されていないとき開口度は1(又は100%)である。
【0039】
本実施形態では、弁体5が多孔スリーブ2内をその軸方向70の上流方向(即ち上方向)に移動するのに伴って開口度が漸次増加し、一方、弁体5が多孔スリーブ2内をその軸方向70の下流方向(即ち下方向)に移動するのに伴って開口度が漸次減少するように、弁体5が多孔スリーブ2内に配置されている。
【0040】
弁シート10は、例えば合成ゴム製の弾性を有する円環板状のものであり、図4に示すように、多孔スリーブ2内において弁体5が開口度を0に減少させる位置に移動したときに該弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たる位置に弁体5の閉方向65に対して垂直に配置されている。さらに、この弁シート10がその下流側から多孔スリーブ2内に配置された円環状の受け部材16によって受けられるとともに、弁シート10における多孔スリーブ2中心側の内周縁部が円環板状の押さえ板15と受け部材16との間に挟まれ、この状態で複数のボルト43によって弁シート10が受け部材16に固定されている。
【0041】
この弁シート10は、開口度を0に減少させる位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たることにより、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを閉止するものである。ここで、弁体5が開口度を0に減少させる位置を「閉止位置」という。
【0042】
図1及び2に示すように、フロート30は、減圧水槽50内の貯留水51の水面52上に浮かぶとともに、その水位(即ち水面52の位置)の上下変動に伴って昇降動作するものである。
【0043】
連結機構20は、フロート30の昇降動作により弁体5が多孔スリーブ2の軸方向70の一方向(上方向)及び他方向(下方向)に移動されるようにフロート30と弁体5とを連結している。その構造は次のとおりである。
【0044】
すなわち、この連結機構20は、弁棒21と梃子棒25とを備えている。梃子棒25は、その長さ方向中間部における一端部(作用点部28)寄りの箇所を支点部26とするものであり、この支点部26で弁蓋4の支持板4aに梃子棒25の両端部が上下に揺動自在になるように軸支されている。さらに、この梃子棒25は、その両端部のうち支点部26からの距離が長い一端部を力点部27とし、一方、支点部26からの距離が短い他端部を作用点部28とするものである。フロート30は、鉛直に配置される接続棒31にその長さ方向に固定位置を変更可能に取り付けられており、フロート30から下方向に接続棒31が延びている。そして、この接続棒31の下端部が梃子棒25の力点部27に回転自在に軸着されており、これにより、フロート30と梃子棒25の力点部27とが接続棒31を介して接続されている。ここで、フロート30が接続棒31にその長さ方向に固定位置を調節可能に取り付けられているから、減圧水槽50内の水位とその貯留水51中に配置された弁体5の深さ位置との距離に応じてフロート30の位置を適切に調節することができる。弁棒21は、図3に示すように、真直に形成されたものであり、弁蓋4の中央部にて弁棒ガイド22a及び弁棒シール22bを有する円筒状シールボックス22を介して上下方向に貫通して鉛直に配置されるとともに、その一端部(詳述すると上端部)が弁体5に固定状態に接続されている。23は弁棒シール押さえである。図1及び2に示すように、弁棒21の他端部(詳述すると下端部)には断面円形状の軸ピン21aが設けられるとともに、この軸ピン21aが梃子棒25の作用点部28に形成された長孔28a内に配置されており、これにより、弁棒21の他端部が梃子棒25の作用点部28に回転自在に且つ梃子棒25の長さ方向に移動自在に接続されている。これにより、連結機構20における弁棒21の他端部と梃子棒25の作用点部28との接続構造の簡素化が図られている。なお本発明では、弁棒21の他端部(他端側)は、リンク機構やその他の機構を介して梃子棒25の作用点部28に接続されることを排除するものではない。
【0045】
ここで、説明の便宜上、多孔スリーブ2の多数の流出孔3の開口度を減少させる弁体5の移動方向を「閉方向65」、開口度を増加させる弁体5の移動方向を「開方向66」という。
【0046】
本実施形態の連結機構20では、フロート30が下降動作すると、図1に示すように、梃子棒25の力点部27が接続棒31により下方向に押されることで梃子棒25の作用点部28が上方向に移動し、これにより弁体5が弁棒21により押し上げられて上方向(つまり開方向66)に移動し、その結果、開口度が増加する。すなわち、弁体5は、連結機構20を介することによって、フロート30の下降動作により開方向66に移動されるように構成されている。一方、図2に示すように、フロート30が上昇動作すると、梃子棒25の力点部27が接続棒31により上方向に引き上げられることで梃子棒25の作用点部28が下方向に移動し、これにより弁体5が弁棒21により引き下げられて下方向(つまり閉方向65)に移動し、その結果、開口度が減少する。すなわち、弁体5は、さらに、連結機構20を介することによって、フロート30の上昇動作により閉方向65に移動されるように構成されている。
【0047】
さらに、この連結機構20においては、図2〜4に示すように、弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たった状態のもとで、減圧水槽50内の水位が上昇すると、フロート30には浮力からなる上昇力が作用するが、この上昇力が、連結機構20を介して、弁体5の先端周縁部6を弁シート10のシート面11に対して密着方向に押し付ける力として弁体5に付与されるように、フロート30と弁体5とが連結されている。
【0048】
さらに、図4に示すように、弁体5の先端周縁部6には、弁シート10のシート面11に突き当たる突き当て面として、弁体5の閉方向65に対して弁体5の内側へ傾斜した傾斜面7が形成されている。弁シート10の外周側面は、多孔スリーブ2の内周面2aに当接している。さらに、弁シート10のシート面11の外周縁部には、開口度を0に減少させる位置、即ち閉止位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6の傾斜面7に当接する閉止部13が形成されている。この閉止部13は、弁体5の先端周縁部6側(即ち弁体5の開方向66)に断面円弧状に膨出して形成されている。
【0049】
本実施形態のスリーブ弁装置1は次のように動作する。
【0050】
すなわち、図1では、減圧水槽50内の貯留水51の水位(水面52の位置)が低水位であり、そのため貯留水51の水面52上に浮かんだフロート30も低位置に配置されている。このとき、弁体5は多孔スリーブ2の多数の流出孔3よりも上側に配置されており、つまり多数の流出孔3は弁体5で全く閉塞されておらず、開口度は1(100%)である。そのため、給水管29内の水は多孔スリーブ2の内側から多孔スリーブ2の流出孔3を通って減圧水槽50内へ流出する。これにより、減圧水槽50内の水位が上昇する。
【0051】
水位の上昇に伴ってフロート30も上昇動作する。このフロート30の上昇動作が連結機構20を介して弁体5に伝達されて該弁体5が閉方向65に移動する。この弁体5の閉方向65への移動に伴い開口度は漸次減少していく。そして、図2〜4に示すように、弁体5の先端周縁部6の突き当て面としての傾斜面7が弁シート10のシート面11の閉止部13に突き当たると、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れが閉止され、開口度が0(0%)になる。このときの減圧水槽50内の水位が、このスリーブ弁装置1による減圧水槽50における最高水位となる。
【0052】
この状態から減圧水槽50内の貯留水51が減少してその水位が最高水位よりも低くなると、フロート30が下降動作する。このフロート30の下降動作が連結機構20を介して弁体5に伝達されて該弁体5が開方向66に移動し、弁体5による閉止状態が解除されて多孔スリーブ2内の水が多孔スリーブ2の内側から弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間及び流出孔3を順次通って減圧水槽50内へ排出される。これにより、減圧水槽50内の貯留水51の水位が上昇することとなる。
【0053】
本実施形態のスリーブ弁装置1は次のような利点を有している。
【0054】
すなわち、このスリーブ弁装置1の多孔スリーブ2には多数の流出孔3が穿設されているので、多孔スリーブ2内の水が多数の流出孔3で分散されて流出するすとともに、各流出孔3がテーパ孔からなるので、バタフライ弁よりもキャビテーションの発生を大幅に抑制することができる。そのため、キャビテーションの発生に伴う騒音、振動、エロージョン等の不具合の発生を大幅に抑制することができる。
【0055】
さらに、このスリーブ弁装置1では、フロート30の昇降動作により弁体5が多孔スリーブ2の軸方向70の一方向及び他方向に移動されるようにフロート30と弁体5とを連結する連結機構20を具備しているので、減圧水槽50内の水位の変動に伴ってフロート30が昇降動作することにより弁体5が自動的に移動されて、水位が所定の高さ位置(最高水位)に自動調整される。そのため、電気を使用できない場所や弁体5の移動操作をする人がいない場所でも動作可能である。
【0056】
さらに、弁シート10は、開口度を0に減少させる位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たることにより、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを閉止するものであるから、次のような利点がある。
【0057】
すなわち、もし仮に、開口度を0に減少させる位置、即ち閉止位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6ではなく弁体5の先端側の外周面5aに、図示していないが弁シートのシート面が当接することにより、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを閉止するようにスリーブ弁装置が構成されている場合には、閉止位置の弁体5が開方向66へ移動するときに弁シートのシート面と弁体5の先端側の外周面5aとの間に作用する摺接摩擦力によって弁体5が移動しにくくなり、弁体5のスムーズな移動が阻害されるという難点がある。これに対して、本実施形態のスリーブ弁装置1では、閉止位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たることにより、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを閉止するものであるから、そのような難点はなく、閉止位置の弁体5はスムーズに開方向66へ移動することができる。
【0058】
さらに、弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たった状態のもとで、減圧水槽50内の水位の上昇に伴いフロート30に作用するフロート30の上昇力が、連結機構20を介して、弁体5の先端周縁部6を弁シート10のシート面11に対して密着方向に押し付ける力として弁体5に付与されるように構成されているから、次のような利点がある。
【0059】
すなわち、このスリーブ弁装置1では、減圧水槽50内の貯留水51の水位が上昇して最高水位に到達したとき、図2〜4に示すように、弁体5の先端周縁部6が弁シート10のシート面11に突き当たり、これにより、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れが閉止されるが、この状態から、もし仮に多孔スリーブ2内の水が弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間に生じた僅かな隙間から流出孔3側へ漏出した場合には、減圧水槽50内の水位が更に上昇し、これに伴ってフロート30には上昇力が作用するから、この上昇力が、連結機構20を介して、弁体5の先端周縁部6を弁シート10のシート面11に対して密着方向に押し付ける力として弁体5に付与されるようになる。その結果、弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間に生じた僅かな隙間が閉塞される。したがって、このスリーブ弁装置1によれば、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを確実に閉止することができる。
【0060】
さらに、図4に示すように、弁体5の先端周縁部6には、弁体5の閉方向65に対して弁体5の内向きに傾斜した傾斜面7が形成されており、弁シート10のシート面11には、開口度を0に減少させる位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6の傾斜面7に当接する閉止部13が形成されているから、次のような利点がある。
【0061】
すなわち、同図に示すように、開口度を0に減少させる位置、即ち閉止位置に弁体5が移動すると、その先端周縁部6の傾斜面7に弁シート10のシート面11の閉止部13が当接する。この状態では、多孔スリーブ2内の水は弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間の隙間から流出しようとし、この際の水圧によって閉止部13が多孔スリーブ2の内側から外向きに押されて当該閉止部13が弁体5の先端周縁部6の傾斜面7に密着する。その結果、弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間の隙間が確実に閉塞される。そのため、多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れをより確実に閉止することができる。
【0062】
しかも、本実施形態では、閉止部13が弁体5の先端周縁部6側に膨出しているので、閉止位置に移動してきた弁体5の先端周縁部6の傾斜面7に閉止部13が確実に当接するようになっているし、更には、多孔スリーブ2内の水による外向きの水圧を閉止部13が確実に受けうるようになっている。そのため、この水圧によって閉止部13が外向きに確実に押されて当該閉止部13が弁体5の先端周縁部6の傾斜面7に確実に密着するものとなる。その結果、弁体5の先端周縁部6と弁シート10のシート面11との間の隙間が更に一層確実に閉塞され、もって多孔スリーブ2内の水の流出孔3への流れを更に一層確実に閉止することができる。
【0063】
さらに、図1及び2に示すように、連結機構20の梃子棒25の力点部27にフロート30が接続棒31を介して接続されるとともに、梃子棒25の作用点部28に弁棒21の他端部が接続されているので、弁体5を小さな力で確実に移動させることができるし、更に、連結機構20の構造の簡素化を図ることができ、これにより、スリーブ弁装置1の製造コストを引き下げることができる。
【0064】
さらに、このスリーブ弁装置1では、多孔スリーブ形成用素板に多数の流出孔3を形成した後、該素板を円筒状に屈曲して多孔スリーブ2が製造されているので、次のような利点がある。
【0065】
すなわち、多孔スリーブ2に形成される流出孔3はテーパ孔からなるので、流出孔3の形成は容易ではなく、そのような流出孔3の形成を円筒状に屈曲された素板に対して行うことは困難な作業を要する。そこで、円筒状に屈曲する前の状態の素板にテーパ孔からなる多数の流出孔3を形成し、その後、該素板を円筒状に屈曲することとした。これにより、テーパ孔からなる流出孔3の形成を容易に行うことができ、もって多孔スリーブ2を容易に製造することができる。
【0066】
なお、多孔スリーブ2は、上記実施形態で示した工程で製造されるのが特に望ましいが、本発明では、必ずしも多孔スリーブ2はそのような工程で製造される必要はなく、その他に例えば、素板を円筒状に屈曲した後で該素板にテーパ孔からなる多数の流出孔3を形成するという工程で多孔スリーブ2を製造することを排除するものではない。
【0067】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能である。
【0068】
また、スリーブ弁装置1の多孔スリーブ2は、上記実施形態では、その軸が鉛直になるように配置されているが、本発明では、その他に例えば、その軸が水平になるように配置されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、貯水槽(特に減圧水槽)に用いられるスリーブ弁装置、これを備えた貯水槽及びスリーブ弁装置の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1:スリーブ弁装置
2:多孔スリーブ
3:流出孔
5:弁体
6:弁体の先端周縁部
7:突き当て面
10:弁シート
11:弁シートのシート面
13:閉止部
20:連結機構
21:弁棒
25:梃子棒
26:支点部
27:力点部
28:作用点部
29:給水管
30:フロート
50:減圧水槽(貯水槽)
65:閉方向
66:開方向
70:多孔スリーブの軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水槽内に水を流出させるテーパ孔からなる複数の流出孔が設けられた多孔スリーブと、
前記多孔スリーブに内嵌されるとともにその軸方向の一方向及び他方向に移動することにより前記複数の流出孔の開口度を増減させる筒状弁体と、
貯水槽内の水位の変動に伴って昇降動作するフロートと、
前記フロートの昇降動作により前記弁体が前記多孔スリーブの軸方向の一方向及び他方向に移動されるように前記フロートと前記弁体とを連結する連結機構と、を具備していることを特徴とするスリーブ弁装置。
【請求項2】
前記開口度を0に減少させる位置に移動してきた前記弁体の先端周縁部がシート面に突き当たることにより、前記多孔スリーブ内の水の前記流出孔への流れを閉止する環状の弁シートを更に具備しており、
前記開口度を減少させる弁体の移動方向を閉方向とするとき、
前記弁体は、前記フロートの上昇動作により閉方向に移動されるように構成されており、
前記弁体の先端周縁部が前記弁シートのシート面に突き当たった状態のもとで、貯水槽内の水位の上昇に伴って前記フロートに作用するフロートの上昇力が、前記連結機構を介して、前記弁体の先端周縁部を前記弁シートのシート面に対して密着方向に押し付ける力として前記弁体に付与されるように構成されている請求項1記載のスリーブ弁装置。
【請求項3】
前記弁体の先端周縁部には、前記弁体の閉方向に対して弁体の内側へ傾斜した傾斜面が形成されており、
前記弁シートのシート面には、前記開口度を0に減少させる位置に移動してきた前記弁体の先端周縁部の傾斜面に当接する閉止部が形成されている請求項2記載のスリーブ弁装置。
【請求項4】
前記連結機構は、前記弁体に一端側が接続された弁棒と、支点部で揺動自在に軸支された梃子棒とを備えるとともに、前記梃子棒の力点部に前記フロートが接続されるとともに、前記梃子棒の作用点部に前記弁棒の他端側が接続されている請求項1〜3のいずれかに記載のスリーブ弁装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスリーブ弁装置を備えている貯水槽。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のスリーブ弁装置の製造方法であって、
多孔スリーブ形成用素板にテーパ孔からなる複数の流出孔を形成した後、該素板を筒状に屈曲する工程を含むことを特徴とするスリーブ弁装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−172684(P2012−172684A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31749(P2011−31749)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(593031986)株式会社大和鉄工所 (3)
【Fターム(参考)】