説明

セルロースアシレート組成物、セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、並びに液晶表示装置

【課題】溶融流延したセルロースアシレートフィルムの厚みムラを抑制する。
【解決手段】220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)が、4〜50(msec)であるセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレート組成物、セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。特に、溶融流延法によってセルロースアシレートフィルムを製造すること、およびそれに用いる原料に関する。また、本発明は当該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置に使用されるセルロースエステルフィルムを製造する際に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶媒にセルロースエステルを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶媒の中でもジクロロメタンは、セルロースエステルの良溶媒であるとともに、沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから好ましく使用されている。一方、近年になり環境保全の観点から塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが、強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して製造工程から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、製膜工程から有機溶媒が漏れても外気に出す前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出には至らないため、さらなる改良が必要とされていた。
【0003】
そこで、有機溶媒を用いない製膜法として、セルロースエステルを溶融し、これを基材上に流延して製膜する溶融製膜法が開発されている(特許文献1参照)。この方法は、セルロースエステルのエステル基の炭素鎖を長くすることで融点を下げ、溶融製膜しやすくしたものである。具体的には、従来から用いられていたセルロースアセテートを、セルロースプロピオネート等に変更することで溶融製膜を可能にしている。
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載される方法でセルロースアセテートを溶融製膜したフィルムには、微細な厚みムラが存在する。この微細な厚みムラは、表面形状・粗さ測定器でフィルム表面を観察した際に確認される。そして微細な厚みムラは、フィルムをテレビ用途などの高画質液晶表示装置に使用したときに表示ムラを生じさせてしまうという問題がある。
そこで本発明者らは、このような従来技術の問題を解決することを課題とし、溶融流延したセルロースアシレートフィルムの表面上に発生する微細な厚みムラを抑制することを本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、見かけ上の活性化エネルギーと緩和時間を制御することによって従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0006】
(1) 220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)が4〜50(msec)であるセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレート組成物。
(2) 前記セルロースアシレートを220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)と最長緩和時間τ(5)、および、前記セルロースアシレートを220℃で溶融させて30分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(30)と最長緩和時間τ(30)が、以下の各式を満たすことを特徴とする(1)に記載のセルロースアシレート組成物。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 30(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 5(msec)
(3)前記セルロースアシレートを構成するセルロース中のヘミセルロースの含有量が0.1〜3質量%であり、前記セルロースアシレートの重量平均重合度(DPw)が300〜550であることを特徴とする(1)または(2)に記載のセルロースアシレート組成物。
(4)前記セルロースアシレートの重量平均重合度/数平均重合度(DPw/DPn)が1.7〜5.0であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
(5)前記セルロースアシレートが下記式(S−1)〜(S−3)を満足することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
式(S−1): 2.60≦X+Y<3.00
式(S−2): 0≦X≦1.80
式(S−3): 1.00≦Y<3.00
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yは、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
(6)前記セルロースアシレートが下記式(T−1)および(T−2)を満足することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
式(T−1):2.5≦X+Z<3.0
式(T−2):0.1≦Z<2
(式中、Xは、アセチル基の置換度を示し、Zは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。)
(7)Na,Ca,K,Mgの総含有量が300ppm以下であり、残留硫酸根量が300ppm以下であり、かつ、(Na+Ca+K+Mg)/Sのモル含有比が0.7〜2.0であること特徴とする(1)〜(6)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
(8)ヒドロキシフェニル基または亜リン酸エステル基の少なくとも一方を同一分子中に有する分子量500以上の熱安定剤を0.1〜3.0質量%含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
(9)形状がペレット状であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
(10)(1)〜(9)のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物を溶融して製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(11)前記セルロースアシレート組成物を、酸素濃度が0.1%〜19%の雰囲気下にて200℃〜250℃で溶融して製膜することを特徴とする、(10)に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(12)前記セルロースアシレート組成物を溶融後キャスティングドラム上に押出し、当該キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜する工程を含むことを特徴とする(10)または(11)に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(13)(10)〜(12)のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースアシレートフィルム。
(14)220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)が4〜50(msec)であり、かつ、残留溶媒量が0.01質量%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(15)(13)または(14)に記載のセルロースアシレートフィルムを、少なくとも1方向に延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(16)(13)〜(15)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、縦横比L/Wが2を超え50以下、或いは0.01〜0.3となるように延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(17)(13)〜(16)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、横延伸前に延伸温度より1℃〜50℃高い温度で予熱したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(18)(13)〜(17)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、横延伸後に延伸温度より1℃〜50℃低い温度で熱処理したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(19)(13)〜(18)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、縦延伸および/または横延伸後した後に、Tg−50℃〜Tg+30℃の温度で、0.1kg/m〜20kg/mの張力で搬送しながら熱緩和したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(20)(13)〜(19)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された偏光板。
(21)(13)〜(19)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された光学補償フィルム。
(22)(13)〜(19)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された反射防止フィルム。
(23)(13)〜(19)のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、(20)に記載の偏光板、(21)に記載の光学補償フィルム、(22)に記載の反射防止フィルムの少なくとも1つを用いて作製された液晶表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶融流延したセルロースアシレートフィルムの表面上に発生する微細な厚みムラを抑えることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて製造される偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムは光学特性に優れている。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて製造される液晶表示装置は、表示ムラが抑えられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
《本発明の特徴》
本発明は、溶融流延したセルロースアシレートフィルムの表面上に発生する微細な厚みムラを抑えることを目的として提供されたものである。ここでいう微細な厚みムラとは、直接肉眼では確認されないが、表面形状・粗さ測定器でフィルム表面を観察した際に、確認できる厚みムラである。この微細な厚みムラの発生原因を解析した結果、セルロースアシレートの混練性と流動性に起因していることが判明した。
【0010】
(材料の改良)
微細な厚みムラを抑えるためには、セルロースアシレートを良く混練し、均一に流動させることが重要である。そこで、本発明では見かけ上の活性化エネルギーと最長緩和時間を制御する。
すなわち、本発明では、220℃で溶融させてその5分後の流動の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、かつ最長緩和時間τ(5)が4〜50(msec)であるセルロースアシレートを用いる。活性化エネルギーE0(5)は170〜230(kJ/mol)であり、最長緩和時間τ(5)は4〜25(msec)であることが好ましく、活性化エネルギーE0(5)は180〜220(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)は5〜10(msec)であることがより好ましい。
また、本発明では、活性化エネルギーE0(5)、最長緩和時間τ(5)、220℃で溶融させてその30分後の活性化エネルギーE0(30)と最長緩和時間τ(30)が以下の式を満たすことが好ましい。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 30(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 5(msec)
また以下の式を満たすことがより好ましい。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 20(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 5(msec)
また以下の式を満たすことがさらに好ましい。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 10(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 4(msec)
さらに以下の式を満たすことが特に好ましい。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 5(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 4(msec)
【0011】
上記範囲に、溶融粘弾性を設定する理由は以下のとおりである。見かけ上の活性化エネルギーE0は、分子がその位置を変えるために必要なエネルギーであり、この値が小さいと、ポリマー同士の混練性が上昇する。しかし、あまりにこの値が低すぎると、小さな外乱でポリマーが移動してしまうため、フィルムの平滑性が悪化する原因となる。以上を勘案して、本発明では活性化エネルギーE0の最適域を見出して上記範囲内に設定した。
また、最長緩和時間τはポリマー主鎖が、絡み合いを抜けるせん断速度と対応し、このτ以下のせん断領域では分子差の絡み合いが抜けずに流動性は低い。よって、この値をなるべく小さくすることが重要である。しかし、あまりに低すぎると、不安定流動が起こりやすくなり、例えば、製膜時のフィルムのネックイン[ダイ出口幅をW0、ダイから吐出されたセルロースアシレート組成物がキャスティングドラムに最初に接触した地点における幅をW1としたとき(W0−W1)/W0で表される。]が大きくなる。すると、幅広のフィルムが製膜しにくくなり、工業的な生産性が下がる。以上を勘案して、本発明では最長緩和時間τの最適域を見出して上記範囲内に設定した。
さらに、活性化エネルギーE0と最長緩和時間τが製膜工程の間、変化しないことが、混錬性、流動性を保つために重要である。そこで、溶融後5分後と30分後の活性化E0と最長緩和時間τの変化量の最適域を見出して、上記範囲内に設定した。
【0012】
溶融粘弾性を上記の好ましい範囲に調整するには、以下のように、セルロースアシレート原料の化学組成を改良することが好ましい。本発明の研究者は、鋭意検討した結果、セルロースアシレートを構成するセルロース中のヘミセルロースの量と重量平均分子量を適切な範囲に制御すること等によって、見かけ上の活性化エネルギーと最長緩和時間を予想外に減少させることができることを突きとめた。なお、セルロースアシレート原料として用いられる木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)、綿花リンターなどは、通常はセルロース以外にヘミセルロース(グルコマンナン、キシラン、アラビノキシラン、グルクロノキシランなど)、リグニンなどの成分も含有している。本発明においてヘミセルロースとは、これらのセルロース以外の成分を含む総称として用いる。これらの好ましい範囲については、以下に詳しく説明する。
【0013】
(1)ヘミセルロース含有量
本発明では、セルロースアシレートを構成するセルロース中のヘミセルロースの量が好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%であるものを使用する。ヘミセルロースの量が3質量%以下であれば、活性化エネルギーE0と緩和時間τは急激に増大を回避でき、0.1質量%以上であれば、フィルムの平滑性、製膜時の不安定流動を回避しやすい。このような効果は、セルローストリアセテート(CTA)では見られず、CTAの置換基をプロピオニル(Pr)基、ブチリル(Bu)基などにすることで発現し、特にPr、Bu基の置換度が1.5以上で、重量平均重合度が250〜550の範囲であると、その効果が顕著である。
ヘミセルロースの含有量がセルロースアシレートの溶融物性に好ましい効果を与える原因は明らかではないが、セルロースアシレートの製造時に同時に精製するヘミセルロースアシレート(例えば、グルコマンナンアセテートプロピオネートなど)の融点、溶融物の粘弾性がセルロース単独のアシレートとは異なることが、その原因の一つではないかと推定される。
ヘミセルロースの量は、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のセルロース原料を適切な方法で精製することによりで調整することができる。詳しくは、パルプ原料をサルファイト蒸解法、クラフト蒸解法などによる蒸解処理、酸素系あるいは塩素系漂白剤による漂白処理、ならびにアルカリ精製処理、などの工程を組み合わせた精製漂白工程を強化することにより、リグニン、ヘミセルロースの含有量を上記範囲まで低減できる。ヘミセルロース量を上記の好ましい範囲に調整するためには、精製漂白工程の最終段階でアルカリ精製工程を実施する際に、3〜25質量%の強アルカリ水溶液を用い、20〜40℃の低温で精製処理することが好ましい。本発明においては、セルロース原料は単独で用いてもよいが、混合して用いることによりヘミセルロースの量を調整することもできる。ちなみに、常法により精製すると、ヘミセルロース量は5〜10%程度になる。
ヘミセルロースの含有量はアルジトール・アセテート法(Borchadt, L. G.; Piper, C. V.: Tappi, 53, 257〜260 (1970))による糖分析を行なうことにより、定量できる。
【0014】
(2)重合度
ヘミセルロース量を調整したセルロースアシレートの重量平均重合度(DPw)は300〜550であることが好ましく、より好ましくは300〜450であり、さらに好ましくは350〜400である。ヘミセルロース量と重量平均重合度の両方を調整することで、見かけ上の活性化エネルギーE0と最長緩和時間τの範囲を同時に好ましい範囲に調整しやすくなるため、特に好ましい。本願において、重量平均重合度とは、GPC法によって求めた重量平均分子量を、セルロースアシレートのグルコース繰り返し単位の平均分子量で除したものを意味する。
【0015】
(3)分子量分布
本発明で用いるセルロースアシレートの重量平均重合度/数平均重合度は1.7〜5.0であることが好ましく、より好ましくは、2.0〜4.0である。分子量分布をこれらの好ましい範囲に調整することによって、見かけ上の活性化エネルギーE0を上述のより好ましい範囲に最適化しやすい。
【0016】
(4)置換度
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記の置換度を満足することが好ましい。
2.60≦X+Y≦3.00
0.00≦X≦1.80
1.00≦Y≦3.00
(Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【0017】
また、下記の置換度を満足することがより好ましい。
2.70≦X+Y≦3.00
0.00≦X≦1.20
1.50≦Y≦3.00
【0018】
本発明では、下記式(T−1)および(T−2)を満たす組成を有するセルロースアシレートを用いることも好ましい。
式(T−1):2.5≦X+Z≦3.0
式(T−2):0.1≦Z≦2
より好ましくは、
式(T−3):2.6≦X+Z≦3.0
式(T−4):0.1≦Z≦1.5
さらに好ましくは、
式(T−3):2.7≦X+Z≦3.0
式(T−4):0.1≦Z≦1.0
である。
尚、式中Xは、アセチル基の置換度を示し、Zは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。
ここで置換もしくは無置換の芳香族アシル基としては後述する一般式(I)で表される基があげられる。
【0019】
さらに、下記の置換度を満足することがさらに好ましい。
2.70≦X+Y≦3.00
0.00≦X≦1.20
2.00≦Y≦3.00
【0020】
セルロースアシレートの置換度を調整することによって、最長緩和時間τをより好ましい範囲に最適化することができる。
本願でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位の全水酸基の水素原子がアシル基で置換された場合は、置換度が3となる。アシル基は置換基を有していてもよい。
【0021】
(5)金属および硫黄の含有量
このようにして最適化した見かけ上の活性化エネルギーE0と最長緩和時間τは、製膜工程において過度に変動しないようにすることが好ましい。そのためには、セルロースアシレートの化学組成が変化しないようにすること、より具体的には、セルロースアシレートの熱分解、架橋、着色を防ぐことが好ましい。
このような目的から、本発明に用いられるセルロースアシレートは、残留硫酸根量(S原子の含有量として)と残Na,Ca,K,Mgの総量が共に、0〜300ppmであることが好ましい。残留硫酸根量と残Na,Ca,K,Mgの総量は、より好ましくは、0〜200ppmであり、さらに好ましくは0〜100ppmである。さらに、その(Na+Ca+K+Mg)/Sのモル含有比が、0.7〜2.0であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.5、さらに好ましくは0.9〜1.2である。ここでいう残留硫酸根は、遊離の硫酸、塩、エステル、錯体などの形でセルロースアシレート中に存在している全量の合計をいい、その量は、硫黄原子の含有量で定義する。すなわち、例えば、硫酸98gは硫黄原子32gに換算して、硫黄原子の含量を求める。
【0022】
硫酸根、Na、Ca、K、Mgの含有量やモル含有比を上記の好ましい範囲に設定することによって、加熱したときにセルロースアシレートの酸化、分子量変化、化学組成変化、着色、ゲル化をより効果的に抑制して、一段と光学的性質が優れたセルロースアシレートフィルムを製造しやすくすることができる。
【0023】
(6)熱安定剤
上記組成をもつセルロースアシレートの熱安定性をさらに高めるために、本発明においては、熱安定剤を添加することが好ましい。本願において「熱安定剤」とは、加熱を原因とする樹脂の分解や着色を抑える性質を有するものを意味する。
熱安定剤としては、フェノール系安定剤の少なくとも一種、および分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種を添加することが好ましく、その添加量は0.1〜3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。熱安定剤の詳細や好ましい例については、後述する。
【0024】
(製膜工程の改良)
上記のように組成を改良したセルロースアシレートを用いて、溶融製膜法によりセルロースアシレートフィルムを製造する際に、工程の条件を改良することにより、一段と本発明の目的に合致するフィルムを製造することが可能になる。すなわち、微細な厚みムラを抑えるために、以下の調整を行うことが好ましい。
【0025】
セルロースアシレート組成物を溶融押出する際に用いる溶融押出ダイの温度は、200℃〜250℃であることが好ましく、より好ましくは210℃〜240℃、さらに好ましくは220℃〜235℃である。これは、セルロースアシレートの熱分解を抑えるには、溶融温度を下げる必要がある一方、見かけ上の活性化エネルギーE0と最長緩和時間τを本発明の範囲にするには溶融温度を上げることが必要であるためである。上記の溶融温度範囲ならば、本発明の目的をより効果的に達成することができる。
また、メルトは、低酸素濃度下で搬送するのが好ましく、その際の酸素濃度は、0.1%〜18%であることが好ましく、より好ましくは0.1%〜10%、さらに好ましくは0.1%〜5%以下である。このように、メルト搬送時に、僅かに酸素を混合させることが本発明では好ましい。酸素濃度が0.1%以上であれば、分子鎖の再結合反応が起こりにくいため微小ゲルの発生を抑えてより優れた光学的性質を発現させやすくなり、また、酸素濃度を18%以下であれば、熱分解による分子鎖の切断をより効果的に抑制することができる。
【0026】
また、本発明では溶融後ダイから押出した後、キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜することが好ましい。この方法はダイから出たメルトをキャスティングドラムとタッチロールで挟み込んで冷却固化するものである。このタッチロールによって、ダイ内部で発生したフィルム表面上の微小ゲルは、フィルム内部に埋め込むことができる。この結果、平滑性が高く光学ムラの無いセルロースアシレートフィルムを達成できる。
【0027】
さらにタッチロールを用いることで、意外なことに脆性を改良する効果も見られる。本発明のセルロースアシレートは結晶化が進みやすいため脆くなりやすい。上記のようなタッチロールを用いるとフィルムの両面から急冷されるため結晶化が進行し難いためである。本発明のように低重合度のセルロースアシレートを用いた場合、特に脆化が発生し易く効果的である。
このようなタッチロールは、金属シャフトの上に弾性体層を設け、その上に外筒を被せ、弾性体層と外筒の間に液状媒体層を満たしたものである。外筒の肉厚Zは、0.05mm〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.0mmである。キャスティングロール、タッチロールは、表面が鏡面であることが好ましく、算術平均高さRaが通常100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。具体的には例えば特開平11−314263号、特開2002−36332号、特開2002−235747号、特開2004−216717号、特開2003−145609号各公報、国際公開第97/28950号パンフレットに記載のものを利用できる。
【0028】
このようにタッチロールは薄い外筒の内側を流体が満たされているため、キャスティングロールと接触させるとその押圧で凹状に弾性変形する。従って、タッチロールとキャスティングロールは面接触するため押圧が分散され、低い面圧を達成することができる。このため、間に挟まれたフィルムに残留歪を残すことなく、表面の凹凸のみを矯正できる。好ましいタッチロールの線圧は3kg/cm〜100kg/cm、より好ましくは5kg/cm〜80kg/cm、さらに好ましくは5kg/cm〜60kg/cmである。ここでいう線圧とはタッチロールに加える力をダイの吐出口の幅で割った値である。タッチロール、キャスティングロールは好ましくは60℃〜160℃、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃に設定する。このような温度制御はこれらのロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
【0029】
《セルロースアシレート》
本発明で用いるセルロースアシレートの合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載を参考にすることができる。なお、ここでいう添加量はセルロースアシレートに対する質量%である。
【0030】
(原料)
セルロースアシレートを合成する際のセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。これらの原料を単独または2種以上混合して用いることによって、上記のようにヘミセルロース量を調整することができる。
【0031】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行っておくことが好ましい。活性化剤として好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。活性化剤の添加量は好ましくは5%〜10000%であり、より好ましくは10%〜2000%、さらに好ましくは30%〜1000%である。
添加方法は噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択できる。活性化時間は20分〜72時間以下が好ましく、特に好ましくは20分〜12時間である。活性化温度は0℃〜90℃が好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。さらに活性化剤に硫酸などのアシル化の触媒を0.1質量%〜10質量%加えることもできる。
【0032】
(アシル化)
セルロースとカルボン酸の酸無水物とをブレンステッド酸またはルイス酸(「理化学辞典」第五版(2000年)参照)を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
【0033】
アシル化の反応熱による温度上昇を制御するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。アシル化温度は−50℃〜50℃が好ましく、より好ましくは−30℃〜40℃、特に好ましく−20℃〜35℃である。反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。アシル化時間は0.5時間〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜10時間が特に好ましい。
【0034】
セルロース混合アシレートを得る方法は、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を形成させてセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0035】
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号、特開2002−338601号などの各公報に記載がある。
【0036】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜22のものを用いることができる。特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。酸無水物はセルロースの水酸基に対して1.1〜50当量添加することが好ましく、1.2〜30当量添加することがより好ましく、1.5〜10当量添加することが特に好ましい。
【0037】
(触媒)
アシル化触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましく、硫酸または過塩素酸がより好ましく、好ましい添加量は0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0038】
(溶媒)
アシル化溶媒としてカルボン酸が好ましく、さらに好ましくは、炭素数2〜7のカルボン酸であり、特に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0039】
(反応停止剤)
アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤は酸無水物を分解するものであればよく、水、アルコール(炭素数1〜3のもの)、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)が挙げられ、中でも水とカルボン酸(酢酸)との混合物がさらに好ましい。水とカルボン酸との組成は、水が好ましくは5質量%〜80質量%、さらに好ましくは10質量%〜60質量%、特に好ましくは15質量%〜50質量%である。
【0040】
(中和剤)
アシル化反応停止後に中和剤を添加してもよい。中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム、アルカリ金属、2族の金属、3〜12族金属、または13〜15族元素の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物または酸化物などを挙げることができる。特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。
【0041】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させる。この後、残存触媒を前記の中和剤を用いて、部分加水分解を停止させる。
【0042】
(ろ過)
ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0043】
(再沈殿)
セルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液と混合し再沈殿させる。再沈殿は連続式、バッチ式のいずれでもよい。
【0044】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが特に好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートに対する溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものであってもよいが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは25℃〜100℃であり、さらに好ましくは30℃〜90℃であり、特に好ましくは40℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用したりすることも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡してもよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。このような追跡を行うことによって、残留カルボン酸量を調整することができる。
上記の処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0045】
(芳香族アシル化セルロースアシレート)
本発明では、下記式(T−1)および(T−2)を満たす組成を有する芳香族アシル化セルロースアシレートを用いることも好ましい。
式(T−1):2.5≦X+Z<3.0
式(T−2):0.1≦Z<2
より好ましくは、
式(T−3):2.6≦X+Z<3.0
式(T−4):0.1≦Z<1.5
さらに好ましくは、
式(T−3):2.7≦X+Z<3.0
式(T−4):0.1≦Z<1.0
である。
尚、式中Xは、アセチル基の置換度を示し、Zは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。
ここで置換もしくは無置換の芳香族アシル基としては下記一般式(I)で表される基があげられる。
【0046】
【化1】

【0047】
まず、一般式(I)について説明する。Xは置換基で、置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基およびアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R)2、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R)2、−PH(=O)−R−P(=O)(−R)2、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R)2、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R)2−O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R)2、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R)2、−SiH2−R、−SiH(−R)2、−Si(−R)3、−O−SiH2−R、−O−SiH(−R)2および−O−Si(−R)3が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基である。置換基の数は、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがさらに好ましく、1または2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基およびウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基およびカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基およびアリールオキシ基がさらに好ましく、ハロゲン原子、アルキル基およびアルコキシ基が最も好ましい。
【0048】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が含まれる。
上記アルキル基は、環状構造または分岐構造を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基が置換基を有する場合は、該置換基の炭素原子数も含めた数が、前記炭素原子数であることが好ましい(以下、他の基についても同じ)。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基および2−エチルヘキシル基が含まれる。
上記アルコキシ基は、環状構造または分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、さらに別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基およびオクチルオキシ基が含まれる。
【0049】
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。アリール基の例には、フェニル基およびナフチル基が含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
上記アリールオキシ基の例には、フェノキシ基およびナフトキシ基が含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。
上記アシル基の例には、ホルミル基、アセチル基およびベンゾイル基が含まれる。
上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド基およびベンズアミド基が含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。
上記スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基およびp−トルエンスルホンアミド基が含まれる。
上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイド基が含まれる。
【0050】
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル基、フェネチル基およびナフチルメチル基が含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。
上記アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基が含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがより好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニル基が含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニル基が含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル基およびN−メチルカルバモイル基が含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル基およびN−メチルスルファモイル基が含まれる。
上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ基およびベンゾイルオキシ基が含まれる。
【0051】
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基およびイソプロペニル基が含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましい。
上記アルキニル基の例には、チエニル基が含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。
上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
【0052】
このような化合物は、セルロースの水酸基への芳香族アシル基の置換によって得られ、一般的には芳香族カルボン酸クラロイドあるいは芳香族カルボン酸から誘導される対称酸無水物および混合酸無水物を用いる方法等が挙げられる。特に好ましいのは芳香族カルボン酸から誘導した酸無水物を用いる方法(Journal of AppliedPolymer Science、Vol.29、3981-3990(1984)記載)が挙げられる。上記の方法として本発明のセルロース混合酸エステル化合物の製造方法としては、(1)セルロース脂肪酸モノエステルまたはジエステルを一旦製造したのち、残りの水酸基に前記一般式(I)で表される芳香族アシル基を導入する方法、(2)セルロースに直接に、脂肪族カルボン酸と芳香族カルボン酸の混合酸無水物を反応させる方法などが挙げられる。前記(1)の方法では、セルロース脂肪酸エステルまたはジエステルの製造方法自体は周知の方法を採用でき、これにさらに芳香族アシル基を導入する後段の反応は、該芳香族アシル基の種類によって適宜定めることができるが、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃で、反応時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜300分で行われる。また、前記(2)の混合酸無水物を用いる方法も、反応条件は混合酸無水物の種類によって適宜定めることができるが、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃、反応時間は、好ましくは30〜300分、より好ましくは60〜200分である。上記のいずれの反応も、反応を無溶媒または溶媒中のいずれで行ってもよいが、好ましくは溶媒を用いて行われる。溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、ジオキサンなどを用いることができる。
【0053】
以下に一般式(I)で表わされる芳香族アシル基の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
【化4】

【0056】
【化5】

【0057】
これらの置換基の中でも、1〜9、18〜19、27〜28の置換基が好ましく、より好ましく1〜3の置換基であり、最も好ましいのが1の置換基である。
【0058】
(安定化)
洗浄後のセルロースアシレートは、安定化のために、弱アルカリ(Na、K、Ca、Mg等の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物)を添加するのが好ましい。
【0059】
(乾燥)
50〜160℃でセルロースアシレートの含水率を2質量%以下にまで乾燥することが好ましい。
【0060】
《添加剤》
(熱安定剤)
セルロースアシレートの熱安定性をさらに高めるために、本発明においては、熱安定剤を添加することが特に有効である。特に、分子量500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種、および分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤または分子量500以上であるチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種を添加することが好ましい。
【0061】
好ましいフェノール系安定剤は、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好ましい。また、同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基を有する安定剤も好ましい素材として挙げられる。
【0062】
これらは、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することができる。
【0063】
分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤は、酸化防止効果を有しており、例えば特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物からも挙げることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材の中から選択して用いることができる。これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
【0064】
本発明では、チオエーテル系安定剤として、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。例えば、住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
【0065】
これらの安定剤の使用に際しては、フェノール系安定剤の少なくとも一種、および亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種がセルロースアシレートに対してそれぞれ0.02〜3質量%含まれるように使用することが好ましく、特には0.05〜1質量%含まれるようにすることである。フェノール系安定剤と、亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤の含有比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量比)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量比)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量比)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量比)である。
【0066】
さらに、本発明においては同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基を有する安定剤を使用することも推奨される。それらの素材は特開平10−273494号公報に記載されている。市販品として、スミライザーGP(住友化学工業株式会社)が挙げられる。
【0067】
さらに、特開昭61−63686号公報に記載の長鎖脂肪族アミン、特開平6−329830号公報に記載の立体障害アミン基を含む化合物、特開平7−90270号公報に記載のヒンダードピペリジニル系光安定剤、特開平7−278164号公報に記載の有機アミン等も使用し得る。
好ましいアミン系安定剤は、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。アミン類の安定剤に対する使用比率は、通常0.01〜25重量%程度である。
【0068】
(可塑剤)
セルロースアシレートに可塑剤を添加すれば、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)を下げることができる。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子量が挙げられ、例えば分子量500以上が好ましく、より好ましくは550以上であり、さらには600以上が好ましい。可塑剤の種類としては、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行なう場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0069】
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレートには、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0070】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
【0071】
(微粒子)
本発明では、セルロースアシレートに微粒子を添加することもできる。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる好ましい微粒子の平均一次粒子サイズは5nm〜3μmであり、好ましくは5nm〜2.5μmであり、特に好ましくは20nm〜2.0μmである。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0.005〜1.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0072】
前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましく、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、およびV25の少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。
【0073】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒)なども使用される。また、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業株式会社製品)も利用できる。SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、(株式会社アドマテックス 製)として利用する事もできる。さらに、モリテックス(株)製シリカ粒子(水分散物を粉体化)8050、同8070、同8100、同8150も利用できる。
【0074】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0075】
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースアシレートフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施してから用いることも好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。前記カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記シランカップリング剤としてはオルガノシラン化合物が使用可能である。前記カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
【0076】
(離型剤)
本発明におけるセルロースアシレートには、離型剤を添加することができる。離型剤としては、フッ素原子を有する化合物が好ましい。フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0077】
《セルロースアシレートフィルムの製造》
(ペレット化)
上記セルロースアシレートと添加物は溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。
ペレット化は上記セルロースアシレートと添加物を2軸或いは1軸押出機(混練押出機)を用いて150℃〜250℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。水中に直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法でペレット化を行ってもよい。混練押し出し機はベント式のものを用い減圧しながらペレットするのがより好ましい。さらに混練押し出し機中を窒素置換しながらペレット化するのもより好ましい。
好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。
押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは30rpm〜500rpm以下である。ペレット化における押出滞留時間は通常10秒〜30分、好ましくは30秒〜3分である。
【0078】
(乾燥)
溶融製膜に先立ちペレット中の水分を乾燥して含水率を0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下にすることが好ましい。
このための乾燥温度は40〜180℃が好ましく、乾燥風量は好ましくは20〜400m3/時間で有り、特に好ましくは100〜250m3/時間である。乾燥風の露点は好ましくは0〜−60℃で有り、より好ましくは−20〜−40℃である。
【0079】
(溶融押出し)
乾燥したセルロースアシレート樹脂を押出機の供給口からシリンダー内に供給する。
押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5が好ましく、より好ましくは3.0〜4.0である。L(スクリュー長)/D(スクリュー径)は20〜70が好ましい。より好ましくは24〜50である。溶融温度は上述の温度でおこなうことが好ましい。
スクリューは、フルフライト、マドック、ダルメージ等を用いることができる。
樹脂の酸化防止のために、押出機内を上記の好ましい酸素濃度になるように不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのがより
好ましい。
【0080】
(濾過)
押し出し機出口にブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。
高精度濾過のために、ギアポンプ通過後にリーフ型ディスクフィルター型を濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、単段で行っても、多段で行っても良い。濾材の濾過精度は3μm〜15μmが好ましく、さらに好ましくは3μm〜10μmである。濾材はステンレス鋼,スチールを用いることが好ましく、中でもステンレス鋼が望ましい。濾材は線材を編んだもの、金属焼結濾材が使用でき、特に後者が好ましい。
【0081】
(ギアポンプ)
厚み精度向上(吐出量の変動減少)のために、押出機とダイスの間にギアポンプを設置するのが好ましい。これにより、ダイ部分の樹脂圧変動巾を±1%以内にできる。
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も好ましい。3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。ギアポンプ内の滞留部分が樹脂劣化の原因となるため、滞留の少ない構造が好ましい。
押出機とギアポンプ、ギアポンプとダイ等をつなぐアダプタの温度変動を小さくすることが押出圧力安定のために好ましい。このためにアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。
【0082】
(ダイ)
ダイ内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。又、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍が良く、さらに好ましくは1.3〜2倍である。
ダイのクリアランスは40〜50mm間隔で調整可能であることが好ましく、より好ましくは25mm間隔以下である。また、下流のフィルム厚みを計測してダイの厚み調整にフィードバックさせる方法も厚み変動の低減に有効である。
機能層を外層に設けるため、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2分〜60分であり、好ましくは4分〜30分である。
【0083】
(キャスト)
ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂をキャスティングドラム上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、上述のようにタッチロールを用いることが好ましい。
キャスティングドラムは、好ましくは1〜8本、より好ましくは2〜5本用い、徐冷する方法が好ましい。キャスティングロール、タッチロールの直径は50mm〜5000mmが好ましく、より好ましくは150mm〜1000mmである。複数本あるキャスティングロールの間隔は、面間が0.3mm〜300mmであることが好ましく、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後、巻き取る。このようにして得た未延伸フィルムの製膜幅は、通常0.7m〜5mであり、好ましくは1m〜4mであり、より好ましくは1.3m〜3mである。未延伸フィルムの厚みは、20μm〜400μmが好ましく、25μm〜300μmがより好ましく、30μm〜200μmがさらに好ましい。特に延伸しないで使用するときは、30μm〜100μmが好ましく、30μm〜60μmがより好ましい。このような薄手フィルムは、溶融製膜時にダイから出た融体(メルト)がキャストドラム上で冷却固化する際に、キャストドラム側の面からその反体面までフィルム厚み方向に同時に均一に冷却されるため、フィルム内に残留歪が残りにくく経時でのレターデーション変化が発生しにくい。一方厚手フィルムは熱容量の大きなキャストドラム側から反対面に向かい徐冷されるため、キャストドラム側が反体面より熱収縮が大きく歪が発生し易い。この結果、経時でのレターデーション変化が大きくなり易い。
【0084】
(巻き取り)
巻き取り前に両端をトリミングすることが好ましい。トリミングされた部分はフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等何れを用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックを用いることができる。
好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは3kg/m幅〜20kg/m幅である。巻き取り張力は、一定の巻き取り張力で巻き取っても良いが、巻取り径に応じてテーパーをつけ巻取ることがより好ましい。
またニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けても良い。
【0085】
本発明において好ましく採用することができる溶融製膜を実施するための装置概略図を図1に示す。図中、101は押出機、102はギアポンプ、103は濾過部(フィルタ)、104はダイ、105はタッチロール、106はキャストドラム(キャスティング冷却ドラム)、107はセルロースアシレート、108は縦延伸部、109は横延伸部、110は巻取部を示す。延伸については後述する。
【0086】
《未延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムはRe=0〜20nm,Rth=0〜80nmが好ましく、さらに好ましくはRe=0〜10nm,Rth=0〜60nmである。
本願において、Re、Rthは各々、波長590±5nm(以後、波長λという)における面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRthは算出される。
Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(21)および式(22)よりRthを算出することもできる。
【0087】
【数1】

上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d −−− 式(22)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRthは算出される。
Rthは前記Reを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0088】
未延伸セルロースアシレートフィルムの全光透過率は90%〜100%が好ましい。ヘイズは通常0〜1%であり、好ましくは0〜0.6%である。
引張り弾性率は1.0kN/mm2〜3.5kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.4kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は好ましくは8%〜400%、より好ましくは10%〜300%、さらに好ましくは15%〜200%である。
Tgは95℃〜145℃が好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
40℃、相対湿度90%での透水率は300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。25℃、相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0089】
《延伸と延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
《延伸》
本発明のフィルムが延伸しやすい理由は、本発明のフィルムは見かけ上の活性化エネルギーが小さく、すなわち、ポリマー主鎖が小さなエネルギーで位置を変化させることができるため、低張力でポリマー主鎖を配向させることができる点にある。また、本発明で作製されたフィルムは厚みムラが小さく、均一に張力がかかるため、延伸工程での厚みムラの発生を抑えることもできる。
よって、本発明のセルロースアシレートフィルムは、縦延伸および/または横延伸することが好ましい。縦延伸および横延伸はいずれか一方でもよく、両方実施してもよい。また縦延伸、横延伸はそれぞれ1回で行ってもよく、複数回に亘って実施してもよく、縦延伸と横延伸を同時に行ってもよい。
【0090】
本発明における延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0091】
このような延伸は、出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0092】
具体的には下記のような延伸法を用いるのが好ましい。
(1)縦延伸
縦延伸は、2対のニップロールを設置し、この間を加熱しながら出口側のニップロールの周速を入口側のニップロールの周速より速くすることで達成できる。この際、ニップロール間の間隔(L)と延伸前のフィルム幅(W)を変えることで厚み方向のレターデーション(Rth)の発現性を変えることができる。L/W(縦横比と称する)が2を超え50以下(長スパン延伸)ではRthを小さくでき、縦横比が0.01〜0.3(短スパン延伸)ではRthを大きくできる。これらを目的(Rthの目標値)に応じて適宜使用する。以下に詳細を説明する。
【0093】
(1−1)長スパン延伸
延伸に伴いフィルムは伸張されるが、この時フィルムは体積変化を小さくしようと厚み、幅を減少させる。このときニップロールとフィルム間の摩擦により幅方向の収縮が制限される。このためニップロール間隔を大きくすると幅方向に収縮しやすくなり厚み減少を抑制できる。厚み減少が大きいとフィルムが厚み方向に圧縮されたことと同じ効果があり、フィルム面内に分子配向が進みRthが大きくなり易い。縦横比が大きく厚み減少が少ないとこの逆でRthは発現し難く低いRthを実現できる。
さらに縦横比が長いと幅方向の均一性を向上することができる。これは以下の理由による。
・縦延伸に伴いフィルムは幅方向に収縮しようとする。幅方向中央部では、その両側も幅方向に収縮しようとするため、綱引き状態となり自由に収縮できない。
・一方、フィルム幅方向端部は片側としか綱引き状態とならず、比較的自由に収縮できる。
・この両端と中央部の延伸に伴う収縮挙動の差が幅方向の延伸ムラとなる。
このような両端と中央部の不均一性により、幅方向のレターデーションむら、軸ズレ(遅相軸の配向角分布)が発生する。これに対し、長スパン延伸は長い2本のニップロール間でゆっくり延伸されるため、延伸中にこれらの不均一性の均一化(分子配向が均一になる)が進行する。これに対し、通常の縦延伸(縦横比=0.3を超え2未満)では、このような均一化は発生しない。
【0094】
縦横比は、2を越え50以下が好ましく、3〜40がより好ましく、4〜20がさらに好ましい。延伸温度は、好ましくは(Tg−5℃)〜(Tg+100)℃であり、より好ましくは(Tg)〜(Tg+50)℃であり、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃である。延伸倍率は、好ましくは1.05〜3倍であり、より好ましくは1.05〜1.7倍であり、さらに好ましくは1.05〜1.4倍である。このような長スパン延伸は3対以上ニップロールで多段延伸しても良く、多段のうち最も長い縦横比が上記範囲に入っていればよい。
このような長スパン延伸は所定の距離離した2対のニップロールの間でフィルムを加熱して延伸すればよく、加熱方法はヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等をフィルム上や下に設置し輻射熱で加熱)でも良く、ゾーン加熱法(熱風等を吹き込み所定の温度に調温したゾーン内で加熱)でもよい。本発明では延伸温度の均一性の観点からゾーン加熱法が好ましい。この時、ニップロールは延伸ゾーン内に設置してもよく、ゾーンの外に出してもよいが、フィルムとニップロールの粘着を防止するためにはゾーンの外に出すのが好ましい。このような延伸の前にフィルムを予熱することも好ましく、この場合の予熱温度は、(Tg−80℃)〜(Tg+100℃)が好ましい。
【0095】
このような延伸により、Re値が、好ましくは0〜200nmの、より好ましくは10〜200nmの、さらに好ましくは15nm〜100nmのフィルムが得られる。また、このような延伸により、Rth値が、好ましくは30〜500nmの、より好ましくは50〜400nmの、さらに好ましくは70〜350nmのフィルムが得られる。この延伸法により、RthとReの比(Rth/Re)を、例えば、0.4〜0.6、好ましくは0.45〜0.55とすることができる。さらに、このような延伸により、Re値およびRth値の変動がいずれも、例えば5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下にすることができる。
このような延伸により、延伸前後のフィルム幅の比(延伸後のフィルム幅/延伸前のフィルム幅)は、例えば0.5〜0.9、好ましくは0.6〜0.85、より好ましくは0.65〜0.83とすることができる。
【0096】
(1−2)短スパン延伸
縦横比(L/W)を、例えば、0.01を越え0.3未満、好ましくは0.03〜0.25、より好ましくは0.05〜0.2で縦延伸(短スパン延伸)を行う。このような範囲の縦横比(L/W)で延伸を行うことで、ネックイン(延伸に伴う延伸と直行する方向の収縮)を小さくすることができる。延伸方向の伸張を補うため幅、厚みが減少するが、このような短スパン延伸では幅収縮が抑制され厚み減少が優先的に進む。この結果、厚み方向に圧縮されたようになり、厚み方向の配向(面配向)が進む。この結果、厚み方向の異方性の尺度であるRth値が増大し易い。一方、従来は縦横比(L/W)が1前後(0.7〜1.5)で行われるのが一般的であった。これは、通常ニップロール間に加熱用ヒーターを設置して延伸するが、L/Wが大きくなりすぎるとヒーターでフィルムを均一に加熱できず、延伸むらが発生し易く、L/Wが小さすぎるとヒーターが設置しにくく加熱が十分に行えないためである。
上述の短スパン延伸は、2対以上のニップロール間で搬送速度を変えることにより実施できるが、通常のロール配置(図2)と異なり、2対のニップロールを斜めに(前後のニップロールの回転軸を上下にずらす)配置することで達成できる(図3)。これに伴いニップロール間に加熱用ヒーターは設置できないため、ニップロール中に熱媒を流しフィルムを昇温することが好ましい。さらに、入口側ニップロールの前に内部に熱媒を流した予熱ロールを設け、フィルムを延伸前に加熱することも好ましい。
延伸温度は、好ましくは、(Tg-5℃)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃であり、好ましい予熱温度はTg−80℃〜Tg+100℃である。
【0097】
ここで、長スパン延伸および短スパン延伸ついて詳細に説明する。
図2は、長スパン延伸を行う場合の、熱可塑性フィルムを溶融製膜で製造する場合のフィルム製造装置10の構成概略図である。
フィルム製造装置10は、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状のセルロースアシレート樹脂またはシクロオレフィン樹脂を乾燥機12に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機14によって押し出し、ギアポンプ16によりフィルタ18に供給する。次いで、フィルタ18により異物が濾過され、ダイ20から押し出される。その後、キャストドラム28とタッチロール24で挟まれ、キャストドラム26〜28の間を通過して固化し、所定の表面粗さの未延伸フィルムFaが形成される。そして、この未延伸フィルムFaが長スパン延伸を行う縦延伸部30に供給される。
縦延伸部30では、未延伸フィルムFaが入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34間で搬送方向に延伸され、縦延伸フィルムFbとされる。なお、図3は、縦延伸部30の斜視説明図であり、縦延伸の縦/横比(L/W)は、入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34間の距離Lと、入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34の長さ方向の幅Wとによって規定される。次いで、縦延伸フィルムFbは、予熱部36を通過することで所定の予熱温度に調整された後、横延伸部42に供給される。
横延伸部42では、縦延伸フィルムFbが搬送方向と直交する幅方向に延伸され、横延伸フィルムFcとされる。そして、横延伸フィルムFcは、熱固定部44に供給され、巻取部46によって巻き取られることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。なお、横延伸フィルムFcには熱固定部44を通過した後、さらに熱緩和処理を施してもよい。
【0098】
一方、図4は、図2および図3に示す長スパン延伸を行う縦延伸部30に代えて、短スパン延伸を行う縦延伸部30aとしたフィルム製造装置10aの概略構成図である。
このフィルム製造装置10aでは、未延伸フィルムFaが予熱ロール33、35によって所定の温度まで予熱された後、二組のニップロール37、39間に供給されて縦延伸が行われる。この場合、ニップロール37、39は、未延伸フィルムFaの搬送方向に近接して配置されるとともに、上下方向に所定距離だけ高さが異なるように配置されている。ニップロール37、39をこのように配置することにより、縦延伸部30aにおける未延伸フィルムFaの搬送距離を確保できるとともに、縦延伸部30aの前後に配置される機構間の距離を短縮して、フィルム製造装置10aの小型化を図ることができる。
なお、図5は、縦延伸部30aの斜視説明図であり、縦延伸の縦/横比(L/W)は、ニップロール37、39によってニップされる未延伸フィルムFaの搬送方向の距離Lと、ニップロール37、39の長さ方向の幅Wとによって規定される。
【0099】
(2)横延伸
縦延伸と横延伸を組み合わせることで、ReおよびRthを調整できる。縦延伸および横いずれか1軸延伸のみでもよいが、両方向の延伸を組み合わせることにより、延伸方向の配向が進みReの絶対値が増加し過ぎるのを調整しやすい。また、縦延伸と横延伸を組み合わせることで縦方向の配向と横方向の配向が相殺されReを小さくできる利点もある。さらに、縦および横の両方向に伸張されるため、厚み減少が大きくなり面配向が進みRthを大きくすることができる。
縦延伸および横延伸は、どちらを先に実施してもよく、同時に延伸しても良いが、より好ましいのは縦延伸後に横延伸を行う方法である。これにより設備をコンパクトにすることができる。縦延伸および横延伸は各々独立に実施しても、連続して実施しても良いが、連続して実施することがより好ましい。
横延伸は、例えば、テンターを用い実施することができる。即ちフィルムの幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に拡幅することで延伸する。この時、テンター内に所望の温度の風を送ることで延伸温度を制御できる。延伸温度は、(Tg−10)℃〜(Tg+60)℃が好ましく、(Tg−5)℃〜(Tg+45)℃がより好ましく、(Tg)〜(Tg+30)℃がさらに好ましい。好ましい延伸倍率は1.01倍〜4倍、より好ましく1.03倍〜3.5倍、さらに好ましくは1.05倍〜2.5倍である。横延伸と縦延伸の倍率比(横延伸倍率/縦延伸倍率)は、1.1〜100若しくは0.9〜0.01が好ましく、より好ましく2〜60若しくは0.5〜0.017、さらに好ましくは4〜40若しくは0.25〜0.025である。
【0100】
このような延伸の前に予熱、および、延伸の後に熱処理を行うことができる。このような手段を採用することにより、延伸後のReおよびRth分布を小さくし、ボーイングに伴う配向角のばらつきを小さくできる。予熱および熱処理はどちらか一方であってもよいが、両方行うのがより好ましい。これらの予熱、熱処理はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
予熱は、延伸温度より、好ましくは1℃〜50℃、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃高くする。予熱時間は、好ましくは1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分であり、さらに好ましくは10秒〜2分である。
熱処理は、延伸温度より、好ましくは1℃〜50℃、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃低くする。さらに好ましくは延伸温度以下かつTg以下にするのが好ましい。予熱時間は、好ましくは1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分であり、さらに好ましくは10秒〜2分である。
このような予熱、熱処理により配向角やReおよびRthのバラツキを小さくできるのは下記理由による。
・フィルムは幅方向に延伸され、直行方向(長手方向)に細くなろうとする(ネックイン)。
・このため横延伸前後のフィルムが引っ張られ応力が発生する。しかし幅方向両端はチャックで固定されており応力により変形を受けにくく、幅方向の中央部は変形を受け易い。この結果、ネックインによる応力は弓(bow)状に変形しボーイングが発生する。これにより面内のReおよびRthむらや配向軸の分布が発生する。
・これを抑制するために、予熱側(延伸前)の温度を高くし、熱処理(延伸後)の温度を低くすると、ネックインはより弾性率の低い高温側(予熱)で発生し、熱処理(延伸後)では発生しにくくなる。即ち、熱固定を行わない場合には、図6に示すように、横延伸後のフィルムFの横延伸ゾーン出口付近で、搬送方向上流側に凸なボーイングが発生するが、本発明では、横延伸部42の直後の熱固定部44において熱固定を行うことで、図7に示すように、搬送方向上流側に凸なボーイングの発生が抑制できる。また、横延伸部42の直前の予熱部36において予熱を行った場合には、横延伸部42の入口付近で搬送方向下流側に樹脂の分布が広がり易く、均一な横延伸が可能になり、横延伸部42の出口付近で搬送方向上流側に凸なボーイングが発生し難くなる。この結果、延伸後のボーイングを抑制できる。
【0101】
このような延伸によりさらに、Re、Rthの幅方向、長手方向の場所による変動をいずれも好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下にする。さらに、配向角を90°±5°以下または0°±5°以下とすることが好ましく、90°±3°以下または0°±3°以下とすることがより好ましく、90°±1°以下または0°±1°以下とすることがさらに好ましい。
【0102】
(3)緩和
さらにこれらの延伸の後に緩和処理を行うことで寸法安定性を改良できる。熱緩和は縦延伸後、横延伸後のいずれか、あるいは両方で行うことが好ましく、より好ましく横延伸後である。緩和処理は延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
熱緩和は、好ましくは(Tg−50)℃〜(Tg+30)℃、より好ましく(Tg−30)℃〜(Tg+20)℃、さらに好ましくは(Tg−15)℃〜(Tg+10)℃で、好ましくは1秒〜10分、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分、好ましくは0.1kg/m〜20kg/m、より好ましく1kg/m〜16kg/m、さらに好ましくは2kg/m〜12kg/mの張力で搬送しながら実施する。
【0103】
(延伸後の物性)
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。
引張り弾性率は、1.0kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.3kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
破断伸度は、3%〜200%が好ましく、より好ましくは8%〜150%である。
Tgは、95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは105℃〜135℃である。
80℃に1日静置した後の熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
40℃、相対湿度90%での透水率は、300g/m2・日〜1000g/m2・日が好ましく、さらに好ましくは500g/m2・日〜800g/m2・日である。
25℃、相対湿度80%での平衡含水率は1〜4質量%が好ましく、さらに好ましくは1.5〜2.5質量%である。
ヘーズは0%〜3%が好ましく、より好ましくは0%〜1%以下である。全光透過率は90%〜100%が好ましい。
残留溶媒量は0.01質量%以下であり、好ましくはゼロである。溶媒を用いる溶液流延法と異なり、上記の溶融流延法で製膜すれば溶媒を用いないため残留溶媒量はゼロになる。
ReおよびRthは、下式(R−1)および(R−2)を満足することが好ましい。
式(R−1):0nm≦Re≦200nm
式(R−2):0nm≦Rth≦600nm
(式中、Reは、熱可塑性フィルムの面内のレターデーションを表し、Rthは、熱可塑性フィルムの厚み方向レターデーションを示す。)
【0104】
より好ましくは、
Rth≧Re×1.1
180≧Re≧10
400≧Rth≧50
であり、さらに好ましくは、
Rth≧Re×1.2
150≧Re≧20
300≧Rth≧100
である。
【0105】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、具体的には、好ましくは0±3°であり、より好ましくは0±2°であり、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、90±2°あるいは−90±2°がより好ましく、90±1°あるいは−90±1°がさらに好ましい。
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みはいずれも15μm〜200μmが好ましく、20μm〜100μmがより好ましく、30μm〜60μmがさらに好ましい。厚みむらは、長手方向および幅方向のいずれも3%以内であることが好ましく、2%以内であることがより好ましく、1%以内であることがさらに好ましい。
薄手フィルムを用いることでよりフィルム内に残留歪が残りにくく経時でのレターデーション変化が発生しにくい。これは、延伸後に冷却する際、厚みが厚いと表面に比べ内部の冷却が遅れ、熱収縮量の差に起因する残留歪が発生し易いためである。
【0106】
《セルロースアシレートフィルムに対する処理》
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムに対して行うことができる処理について、好ましい態様を参照しながら説明する。
【0107】
(表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよいし、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理でもよい。プラズマ励起性気体とは、上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0108】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬してもよく、鹸化液を塗布してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分〜10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0109】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がさらに好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに記載されている。
【0110】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
【0111】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0112】
《本発明のセルロースアシレートフィルムの利用》
本発明のセルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。以下に順に説明する。
【0113】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作成)
(使用素材)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることによって作製するのが一般的である。偏光膜としては、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、発行日200
1年3月15日、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0114】
偏光膜のバインダーとしては、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0115】
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0116】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合してもよく、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与してもよい。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0117】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0118】
(延伸)
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
【0119】
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。延伸は下記方法で実施することができる。
【0120】
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、特に17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、特に1.5〜3.0倍である。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0121】
[貼り合せ]
上記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。
【0122】
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層の厚みは乾燥後で0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
【0123】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0124】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層からなるλ/4板を用いることが好ましい。
【0125】
(2)光学補償層の付与(光学補償シートの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0126】
(配向膜)
上記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
【0127】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0128】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0129】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0130】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0131】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0132】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
【0133】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0134】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0135】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0136】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0137】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0138】
配向膜は、透明支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0139】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0140】
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましい。45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0141】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0142】
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0143】
(棒状液晶性分子)
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0144】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0145】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
【0146】
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0147】
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報明細書中の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0148】
(円盤状液晶性分子)
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0149】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
【0150】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。
【0151】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0152】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0153】
(光学異方性層の他の組成物)
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0154】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0155】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0156】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0157】
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0158】
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0159】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0160】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0161】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0162】
(液晶性分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0163】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0164】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0165】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0166】
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0167】
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0168】
(3)反射防止層の付与(反射防止フィルム)
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体上に設けた構造を有する。
【0169】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。
【0170】
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
【0171】
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層からなる反射防止フィルムも挙げられる。
【0172】
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0173】
(塗布型反射防止フィルムの層構成)
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成からなる反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
【0174】
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。さらには、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなってもよい。
【0175】
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0176】
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0177】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなる。
【0178】
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0179】
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報に記載されるシランカップリング剤等:特開2001−310432号公報等に記載されるアニオン性化合物あるいは有機金属カップリング剤)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等)等が挙げられる。
【0180】
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0181】
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有する多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有する有機金属化合物およびその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0182】
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0183】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0184】
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0185】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層してなる。低屈折率層の屈折率は通常1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
【0186】
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等からなる薄膜層の手段を適用できる。
【0187】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
【0188】
例えば、特開平9−222503号公報明細書段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報明細書段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0189】
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0190】
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0191】
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
【0192】
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0193】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0194】
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
【0195】
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0196】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
【0197】
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0198】
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
【0199】
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
【0200】
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
【0201】
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
【0202】
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少な
いほど好ましい。
【0203】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
【0204】
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0205】
(その他の層)
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0206】
(塗布方法)
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0207】
(アンチグレア機能)
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0208】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0209】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置に好適に使用することができる。特に、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると有効である。なお、フィルムそのものを光学補償シートとして用いる場合は、偏光素子(後述)の透過軸と、セルロースアシレートフィルムからなる光学補償シートの遅相軸とを実質的に平行または垂直になるように配置することが好ましい。このような偏光素子と光学補償シートとの配置については、特開平10−48420号公報に記載がある。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成を有している。
以下に、本発明のセルロースアシレートフィルムを適用しうる液晶表示装置の種類について説明する。
【0210】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0211】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。
【0212】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0213】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0214】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードの液晶表示装置に対しては、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0215】
なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、本発明と下記特許公報に開示の技術を組合わせて使用することができる。
実開平3−110418号公報、特開平5−119216号公報、特開平5−162261号公報、特開平5−182518号公報、特開平5−19115号公報、特開平5−196819号公報、特開平5−264811号公報、特開平5−281411号公報、特開平5−281417号公報、特開平5−281537号公報、特開平5−288921号公報、特開平5−288923号公報、特開平5−311119号公報、特開平5−339395号公報、特開平5−40204号公報、特開平5−45512号公報、特開平6−109922号公報、特開平6−123805号公報、特開平6−160626号公報、特開平6−214107号公報、特開平6−214108号公報、特開平6−214109号公報、特開平6−222209号公報、特開平6−222353号公報、特開平6−234175号公報、特開平6−235810号公報、特開平6−258520号公報、特開平6−264030号公報、特開平6−305270号公報、特開平6−331826号公報、特開平6−347641号公報、特開平6−75110号公報、特開平6−75111号公報、特開平6−82779号公報、特開平6−93133号公報、特開平7−104126号公報、特開平7−134212号公報、特開平7−181322号公報、特開平7−188383号公報、特開平7−230086号公報、特開平7−290652号公報、特開平7−294903号公報、特開平7−294904号公報、特開平7−294905号公報、特開平7−325219号公報、特開平7−56014号公報、特開平7−56017号公報、特開平7−92321号公報、特開平8−122525号公報、特開平8−146220号公報、特開平8−171016号公報、特開平8−188661号公報、特開平8−21999号公報、特開平8−240712号公報、特開平8−25575号公報、特開平8−286179号公報、特開平8−292322号公報、特開平8−297211号公報、特開平8−304624号公報、特開平8−313881号公報、特開平8−43812号公報、特開平8−62419号公報、特開平8−62422号公報、特開平8−76112号公報、特開平8−94834号公報、特開平9−137143号公報、特開平9−197127号公報、特開平9−251110号公報、特開平9−258023号公報、特開平9−269413号公報、特開平9−269414号公報、特開平9−281483号公報、特開平9−288212号公報、特開平9−288213号公報、特開平9−292525号公報、特開平9−292526号公報、特開平9−294959号公報、特開平9−318817号公報、特開平9−80233号公報、特開平10−10320号公報、特開平10−104428号公報、特開平10−111403号公報、特開平10−111507号公報、特開平10−123302号公報、特開平10−123322号公報、特開平10−123323号公報、特開平10−176118号公報、特開平10−186133号公報、特開平10−264322号公報、特開平10−268133号公報、特開平10−268134号公報、特開平10−319408号公報、特開平10−332933号公報、特開平10−39137号公報、特開平10−39140号公報、特開平10−68821号公報、特開平10−68824号公報、特開平10−90517号公報、特開平11−116903号公報、特開平11−181131号公報、特開平11−211901号公報、特開平11−211914号公報、特開平11−242119号公報、特開平11−246693号公報、特開平11−246694号公報、特開平11−256117号公報、特開平11−258425号公報、特開平11−263861号公報、特開平11−287902号公報、特開平11−295525号公報、特開平11−295527号公報、特開平11−302423号公報、特開平11−309830号公報、特開平11−323552号公報、特開平11−335641号公報、特開平11−344700号公報、特開平11−349947号公報、特開平11−95011号公報、特開平11−95030号公報、特開平11−95208号公報、特開2000−109780号公報、特開2000−110070号公報、特開2000−119657号公報、特開2000−141556号公報、特開2000−147208号公報、特開2000−17099号公報、特開2000−171603号公報、特開2000−171618号公報、特開2000−180615号公報、特開2000−187102号公報、特開2000−187106号公報、特開2000−191819号公報、特開2000−191821号公報、特開2000−193804号公報、特開2000−204189号公報、特開2000−206306号公報、特開2000−214323号公報、特開2000−214329号公報、特開2000−230159号公報、特開2000−235107号公報、特開2000−241626号公報、特開2000−250038号公報、特開2000−267095号公報、特開2000−284122号公報、特開2000−304927号公報、特開2000−304928号公報、特開2000−304929号公報、特開2000−309195号公報、特開2000−309196号公報、特開2000−309198号公報、特開2000−309642号公報、特開2000−310704号公報、特開2000−310708号公報、特開2000−310709号公報、特開2000−310710号公報、特開2000−310711号公報、特開2000−310712号公報、特開2000−310713号公報、特開2000−310714号公報、特開2000−310715号公報、特開2000−310716号公報、特開2000−310717号公報、特開2000−321560号公報、特開2000−321567号公報、特開2000−338309号公報、特開2000−338329号公報、特開2000−344905号公報、特開2000−347016号公報、特開2000−347017号公報、特開2000−347026号公報、特開2000−347027号公報、特開2000−347029号公報、特開2000−347030号公報、特開2000−347031号公報、特開2000−347032号公報、特開2000−347033号公報、特開2000−347034号公報、特開2000−347035号公報、特開2000−347037号公報、特開2000−347038号公報、特開2000−86989号公報、特開2000−98392号公報、特開2001−100012号公報、特開2001−108805号公報、特開2001−108806号公報、特開2001−133627号公報、特開2001−133628号公報、特開2001−142062号公報、特開2001−142072号公報、特開2001−174630号公報、特開2001−174634号公報、特開2001−174637号公報、特開2001−179902号公報、特開2001−183526号公報、特開2001−188103号公報、特開2001−188124号公報、特開2001−188125号公報、特開2001−188225号公報、特開2001−188231号公報、特開2001−194505号公報、特開2001−228311号公報、特開2001−228333号公報、特開2001−242461号公報、特開2001−242546号公報、特開2001−247834号公報、特開2001−26061号公報、特開2001−264517号公報、特開2001−272535号公報、特開2001−278924号公報、特開2001−2797号公報、特開2001−287308号公報、特開2001−305345号公報、特開2001−311827号公報、特開2001−350005号公報、特開2001−356207号公報、特開2001−356213号公報、特開2001−42122号公報、特開2001−42323号公報、特開2001−42325号公報、特開2001−4819号公報、特開2001−4829号公報、特開2001−4830号公報、特開2001−4831号公報、特開2001−4832号公報、特開2001−4834号公報、特開2001−4835号公報、特開2001−4836号公報、特開2001−4838号公報、特開2001−4839号公報、特開2001−51118号公報、特開2001−51119号公報、特開2001−51120号公報、特開2001−51273号公報、特開2001−51274号公報、特開2001−55573号公報、特開2001−66431号公報、特開2001−66597号公報、特開2001−74920号公報、特開2001−81469号公報、特開2001−83329号公報、特開2001−83515号公報、特開2002−162628号公報、特開2002−169024号公報、特開2002−189421号公報、特開2002−201367号公報、特開2002−20410号公報、特開2002−258046号公報、特開2002−275391号公報、特開2002−294174号公報、特開2002−311214号公報、特開2002−311246号公報、特開2002−328233号公報、特開2002−338703号公報、特開2002−363266号公報、特開2002−365164号公報、特開2002−370303号公報、特開2002−40209号公報、特開2002−48917号公報、特開2002−6109号公報、特開2002−71950号公報、特開2003−105540号公報、特開2003−114331号公報、特開2003−131036号公報、特開2003−139952号公報、特開2003−172819号公報、特開2003−35819号公報、特開2003−43252号公報、特開2003−50318号公報、特開2003−96066号公報、特開2006−45501号公報、特開2006−45502号公報、特開2006−45499号公報、特開2006−45500号公報、特開2006−182008号公報、特開2006−241433号公報、特開2006−348123号公報、特開2005−325258、特開2006−2026、特開2006−2025、特開2006−183005号公報、特開2006−183004号公報、特開2006−143873号公報、特開2006−257204号公報、特開2006−205472号公報、特開2006−241428号公報、特開2006−251746号公報、特開2007−1198号公報、特開2007−1238号公報、国際公開WO2005/103122号公報、特開2006−176736号公報、特開2006−243688号公報、特開2006−327105号公報、特開2006−124642号公報、特開2006−205708号公報、特開2006−341443号公報、特開2006−199913号公報、特開2006−335050号公報、特開2007−8154号公報、特開2006−334840号公報、特開2006−341450号公報、特開2006−327162号公報、特開2006−341510号公報、特開2006−327161号公報、特開2006−327107号公報、特開2006−327160号公報、特開2006−328316号公報、特開2006−334839号公報、特開2007−8151号公報、特開2007−1286号公報、特開2006−327106号公報、特開2006−334841号公報、特開2006−334842号公報、特開2005−330411号公報、特開2006−116945号公報、特開2005−301225号公報、特開2007−1287号公報、特開2006−348268号公報、国際公開WO2006/132367号パンフレット、国際公開WO20

06/132367号パンフレット、特開2005−178194号公報、特開2006−336004号公報、特開2006−249418号公報、特開2007−2216号公報、特開2006−28345号公報、特開2006−215535号公報、特開2006−28387号公報、特開2007−2215号公報、特開2006−343479号公報、特開2006−263992号公報、特開2000−352620号公報、特開2005−088578号公報、特開2005−300978号公報、特開2005−342929号公報、特開2006−021459号公報、特開2006−030425号公報、特開2006−036840号公報、特開2006−045306号公報、特開2006−045307号公報、特開2006−058825号公報、特開2006−063169号公報、特開2006−77067号公報、特開2006−77113号公報、特開2006−82261号公報、特開2006−91035号公報、特開2006−91078号公報、特開2006−104374号公報、特開2006−106247号公報、特開2006−111796号公報、特開2006−111797号公報、特開2006−113175号公報、特開2006−113551号公報、特開2006−113567号公報、特開2006−116904号公報、特開2006−117714号公報、特開2006−119182号公報、特開2006−119183号公報、特開2006−123513号公報、特開2006−123177号公報、特開2006−124629号公報、特開2006−137821号公報、特開2006−142800号公報、特開2006−163033号公報、特開2006−163034号公報、特開2006−171404号公報、特開2006−178020号公報、特開2006−182020号公報、特開2006−182865号公報、特開2006−188663号公報、特開2006−195407号公報、特開2006−208934号公報、特開2006−219615号公報、特開2006−220814号公報、特開2006−224589号公報、特開2006−249221号公報、特開2006−256082号公報、特開2006−272616号公報、特開2006−290929号公報、特開2006−293201号公報、特開2006−301500号公報、特開2006−301592号公報。
【0216】
《測定方法および評価方法》
(1)厚みムラ
フィルムの全幅に亘り35mm幅でサンプリングする(TDサンプル)。幅方向中央部を35mm幅で2m長サンプリングする(MDサンプル)。次に、TDサンプル、MDサンプルの7mm×7mmの範囲を連続的に表面形状・粗さ測定器(Zygo社製 NewView 6000型)で測定し、最大高さ(最低谷底から最大山頂までの高さ)と、二乗平均粗さ(平均線から測定曲線の偏差の二乗を平均した値の平方根)の平均を厚みムラとした。
【0217】
(2)見かけ上の活性化エネルギーE0プレート型レオメーター(例えばPhysica社製、MCR301型)を用い、210、220、225、230、235、240℃の各温度で、サンプルセット後5分後に、貯蔵弾性率、損失弾性率を測定し、時間温度換算則を用いて、220℃でのマスターカーブを求める。そのマスターカーブの決定で用いた、各温度に対するシフトファクターの傾きから、見かけ上の活性化エネルギーE0を決定した。装置の実験条件は以下の通りである。
プレート:25mmφ平行板
ギャップ:1mm
周波数:0.1〜500(Hz)
なお、測定サンプルには、溶融製膜したフィルムを用いたが、これが上記の範囲であれば、製膜時における溶融押し出し機内のセルロースアシレートの混練性が適当となり、本発明の効果を調べることができる。
【0218】
(3)最長緩和時間τ
上記見かけ上の活性化エネルギーE0の測定で用いたのと同じ装置、実験条件において、220℃でサンプルをセットし、その5分後に、貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、その交点の周波数から最長緩和時間τを求める。
【0219】
(4)ヘミセルロース量
アルジトール・アセテート法(Borchadt, L. G.; Piper, C. V.: Tappi, 53, 257〜260(1970))による糖分析を行ない、ヘミセルロース量を決定する。
【0220】
(5)セルロースアシレートのアシル基置換度
ASTM D−817−91に準じた方法(セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸またはその塩をGC、LCで定量)で測定する。
【0221】
(6)重量平均重合度(DPw)および数平均重合度(DPn)
樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し0.5質量%のサンプル溶液を作る。このサンプル溶液を、GPCを用い下記条件で測定し、重量平均分子量(Mw)と数平均重合度(Mn)を求める。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作成する。重量平均分子量(Mw)と数平均重合度(Mn)を、それぞれ上記方法で決定した置換度から求めた1セグメントあたりの分子量で割った値を重量平均重合度(DPw)、数平均重合度(DPn)とする。
カラム:TSK GEL Super HZ4000、TSK GEL Super HZ2000、
TSK GEL Super HZM-M、TSK Guard Column Super HZ-L
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流量:1ml/分
検出器:RI
【0222】
(7)残留硫酸根量と残留金属(Ca、Na、K)量
硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定する。残留金属量は、イオンクロマトグラフィー、原子吸光スペクトル分析、ICP分析、ICP−MS分析などの方法で分析することより定量する。
【実施例】
【0223】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨に逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0224】
1.未延伸セルロースアシレートフィルムの製膜
(1)セルロースアシレートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)10質量部に、酢酸0.1質量部、プロピオン酸2.7質量部を噴霧した後、1時間室温で保存した。別途、無水酢酸1.2質量部、プロピオン酸無水物61質量部、硫酸0.7質量部の混合物を調製し、−10℃に冷却後に、前記前処理を行ったセルロースと反応容器内で混合した。30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器に25%含水酢酸46質量部を添加し、内温を60℃に上昇させて、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物と酢酸と水とを等重量ずつ混合した溶液を6.2質量部添加し、30分間攪拌した。反応液を、保留粒子サイズ40μm、10μm、5μmの各金属焼結フィルターにて順に加圧ろ過して異物を除去した。75%含水酢酸に濾過後の反応液を混合してセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた後、70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った。さらに、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌する処理を行った後に濾過した。得られたセルロースアセテートプロピオネートを70℃で乾燥した。1H−NMRの測定から、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル置換度0.15、プロピオニル置換度2.60、全置換度2.75、数平均重合度(DPn)118、質量平均重合度(DPw)380、残存硫酸量100ppm、マグネシウム含有量20ppm、カルシウム含有量50ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物はほとんど認められなかった。このセルロースアセテートプロピオネートは、表1に記載の実施例39のセルロースアシレートフィルムの製造原料として使用した。
さらに、上記無水酢酸、プロピオン酸無水物の仕込み量を変えることで、アセチル置換度0.40、プロピオニル置換度2.45、数平均重合度(DPn)136、質量平均重合度(DPw)380のセルロースアセテートプロピオネートを得た。残存硫酸量60ppm、マグネシウム含有量25ppm、カルシウム含有量54ppm、ナトリウム含有量2ppm、カリウム含有量2ppm、鉄含有量1ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物はほとんど認められなかった。このセルロースアセテートプロピオネートは、表1に記載の実施例1のセルロースアシレートフィルムの製造原料として使用した。
【0225】
また、セルロースにアシル化剤(表1に記載した各アシル置換度を達成するために、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物、吉草酸、吉草酸無水物からなる群より選択される1種または2種以上を組み合わせて使用する)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行って部分加水分解を行い、所望の全置換度(X+Y)に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表1に記載の実施例2〜38および比較例1〜5のアシル基の種類、置換度、重合度、残留カルボン酸量の異なるセルロースアシレートを得た。各セルロースアシレートに、熱安定剤(住友化学製、スミライザーGP)を0.3質量%、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%、吸収剤(旭電化工業(株)製、アデカスタブLA−31)1質量%を添加して良く撹拌した。また、熱安定剤として旭電化工業(株)製のアデカスカブAO−60とPEP−36Gをそれぞれ、0.15質量%混合した。さらに、セルロースアシレートも精製した。
また、置換もしくは無置換の芳香族アシル基を結合したセルロースアシレートとして、特開2002−32201号公報の実施例1に準じて安息香酸と酢酸でエステル化したセルロースアシレートを合成した。但し原料のセルロースアシレートとして、2.0置換、2.45置換のセルロースアセテートを用いた。この結果、酢酸置換度(アセチル基の置換度)2.0、安息香酸置換度(芳香族アシル基の置換度)1.0の芳香族アシル基置換セルロースアシレート、および酢酸置換度2.45、安息香酸置換度0.55の芳香族アシル基置換セルロースアシレートが得られた。これらのセルロースアシレートは、それぞれ、表1に記載の実施例40および41に用いた。
【0226】
(2)溶融製膜
上記セルロースアシレートを直径3mm、長さ5mmの円柱状のペレットに成形した後、110℃の真空乾燥機で乾燥して表1に記載される含水量の異なる原料を得た。これをTg−10℃になるように調整したホッパーに投入し、窒素気流下、表1記載の溶融温度(ダイ温度)と酸素濃度で、圧縮比4のフルフライトスクリューを用い、L(スクリュー長)/D(スクリュー径)=30で混練溶融した。さらに、押し出し機出口にてブレーカープレート式のろ過を行った後、ギアポンプ通過後に4μmのステンレス製リーフ型ディスクフィルター型ろ過装置を通した。
次いでTダイに通して押出し、特開平11−235747号公報の実施例1に記載のタッチロールを用いて表1記載の線圧で製膜した。その後、キャスティングロールから剥ぎ取り巻き取り、40μm〜300μmのフィルムを得た。なお、巻き取り直前にフィルムの両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、巻き取った。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
このようにして得た各未延伸セルロースアシレートフィルムの見かけ上の活性化エネルギー、最長緩和時間、ヘミセルロース量、重量平均重合度、数平均重合度、残留硫酸量、残留金属量、厚みムラを上記方法で測定した。なお、表1中、DPwは重量平均重合度、DPnは数平均重合度、厚みPVは最大高さ、厚みRMSは二乗平均粗さを表す。
【0227】
2.延伸セルロースアシレートフィルムの作製
上記で作製した本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムを(Tg+10)℃にて300%/分の条件で、表2に記載される倍率となるように延伸した。なお、Tgはフィルムのガラス転移温度であって、示差走査熱量測定(DSC)を用い10℃/分で測定し、低温側からベースラインが偏奇し始める温度を指す。
延伸後のフィルムのReとRthを自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%において測定して結果を表2に記載した。表2には、実施例1の未延伸セルロースアシレートフィルムを延伸した結果を示しているが、他の実施例の未延伸セルロースアシレートフィルムを用いた場合についても同様の結果が得られた。
(8)延伸フィルムの作製・評価
表1における本発明1の未延伸シートおよび、本発明41の未延伸シートを各フィルムのガラス転移温度(Tg+10)℃で3000%/分で下記倍率延伸し(縦延伸、横延伸とも同条件)、下記のReおよびRthを持ったフィルムを得た。ここでいう延伸倍率は、下記式で定義される。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0228】
なお、上記表中の幅方向、長手方向のRe、Rth変動(ばらつき)、配向角は以下の方法で測定した。
(1)MD方向(長手方向)サンプリングは、長手方向に0.5m間隔で100点、1cm角の大きさに切り出した。TD方向(幅方向)サンプリングは、製膜全幅にわたり1cm角の大きさに50点、等間隔で切り出した。
(2)ReおよびRthは上記方法に従い測定した。配向角は上記測定を行う際にサンプルフィルムのMD辺をサンプルホルダーの測定器挿入方向と平行にセットし測定することで求めることができる。
(3)ReおよびRth変動は、上記MD方向100点、TD方向50点の各最大値と最小値の差を、各平均値で割り、百分率で示したものをRe、Rth変動とした。配向角については、上記各点の絶対値の最大値と最小値の差を示した。
【0229】
また、表2に記載の熱寸法変化率は、下記の方法で測定した。
(1)サンプルをMDおよびTD方向に5cm×25cmに裁断し、20cm間隔の孔をあける。
(2)これを25℃、60%相対湿度で2時間調湿後、この環境下でピンゲージを用い2つの孔の間を測長する(これをL1とする)。
(3)サンプルを80℃の空気恒温槽に5時間入れる。
(4)これを取り出し25℃、60%相対湿度中に3時間調湿後、この環境下でピンゲージを用い2つの孔の間を測長する(これをL2とする)。
(5)100×(L1−L2)/L1を寸法変化率(%)とする。
なお、表2には、本発明1の未延伸シートおよび、本発明41の未延伸シートを伸した結果を示しているが、他の本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムを用いた場合についても同様の結果が得られた。
【0230】
3.偏光板の作成
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
未延伸セルロースアシレートフィルムと延伸セルロースアシレートフィルムに対して、下記の浸漬鹸化を行った。また、浸漬鹸化のかわりに塗布鹸化を行ったサンプルも用意した。いずれの方法で鹸化した場合も、以後の製造や効果確認試験では同様の結果が得られた。
(浸漬鹸化)
鹸化液として60℃に調温した1.5mol/LのNaOH水溶液を用意し、これにセルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。その後、0.05mol/L硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
(塗布鹸化)
イソプロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを1.5mol/Lとなるように溶解して60℃に調温したものを鹸化液とした。この鹸化液を60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2で塗布し、1分間鹸化した。その後、50℃の温水スプレーを10L/m2・分で1分間吹きかけて洗浄した。
【0231】
(2)偏光膜の作成
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸して厚み20μmの偏光膜を作成した。
【0232】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理した未延伸または延伸セルロースアシレートフィルムを、ポリビニルアルコール((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が45度となるように張り合わせた。このようにして作成した偏光板を特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に取り付け、最も投影平行スジが見え易い斜め32度から目視観察し、表示ムラの発生度合いを1(良)〜5(悪)の5段階で評価した。結果は表1に記載した。実用上問題のないレベルは1〜3である。
【0233】
4.光学補償フィルムの作成
(未延伸フィルム)
特開平11−316378号公報の実施例1の第1透明支持体として、実施例の各未延伸セルロースアシレートフィルムを使用したところ、良好な光学補償フィルムを作成できた。
【0234】
(延伸セルロースアシレートフィルム)
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、実施例の延伸セルロースアシレートフィルムを使用したところ、良好な光学補償フィルムを作成できた。
また、特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、実施例の延伸セルロースアシレートフィルムを使用したところ、良好な光学補償フィルターフィルムを作成できた。
一方、本発明の範囲外のフィルムを用いた場合は、得られた光学補償フィルムの光学特性が低下した。特に特開2000−352620号公報の実施例の試料No.3−1に準じて実施したものは、特に光学特性の低下が著しかった。
【0235】
5.反射防止フィルムの作成
発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)実施例47に従い、実施例の各延伸セルロースアシレートフィルムおよび各未延伸セルロースアシレートフィルムを用いて反射防止フィルム(低反射フィルム)を作成したところ、良好な光学性能が得られた。
【0236】
6.液晶表示素子の作成
上記実施例の偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置に用いた。さらに、実施例の反射防止フィルムをこれらの液晶表示装置の最表層に貼り目視評価を行ったところ、良好な視認性能が得られた。
【0237】
【表1】

【0238】
【表2】

【0239】
表1から明らかなように、本発明の条件を満たすセルロースアシレートフィルムは、厚みムラが小さくて、該フィルムを用いて製造した液晶表示装置は表示ムラが抑えられていた。これに対して、本発明の条件を満たさないセルロースアシレートフィルムは、厚みムラが大きく、液晶表示装置に用いたときに許容できない表示ムラを生じた。特に、特開2000−352620号公報(特許文献1)の実施例の試料No.5およびNo.6に準じて作成した比較例6および比較例7のフィルムは、厚みムラが特に大きく、またこれらのフィルムを用いた液晶表示装置の表示ムラはかなり大きかった。
また、厚みムラをより少なくし、液晶表示装置に用いたときの表示ムラを一段と低減するためには、セルロースアシレートフィルムの製造の際の金属量、残留硫酸根量、それらのモル含有比等を、本発明の好ましい範囲内に制御することが有効であることが確認された。さらに、タッチロールを用いて製膜することも好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明によれば、環境に優しい溶融製膜法によって厚みムラが小さいセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、光学特性に優れた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムや、表示ムラが抑えられた液晶表示装置を提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0241】
【図1】本発明の溶融製膜を実施するための装置例の概略図である。
【図2】長スパン延伸を行う場合の熱可塑性フィルムを製造するフィルム製造装置の概略構成図を示す。
【図3】図2の縦延伸部の斜視説明図を示す。
【図4】短スパン延伸を行う場合の熱可塑性フィルムを製造するフィルム製造装置の概略構成図を示す。
【図5】図4の縦延伸部の斜視説明図を示す。
【図6】熱固定を行わない製造方法によって発生するボーイングの説明図である。
【図7】熱固定による、ボーイングの発生の抑制を示す説明図である。
【符号の説明】
【0242】
101 押出機
102 ギアポンプ
103 濾過部(フィルタ)
104 ダイ
105 タッチロール
106 キャストドラム
107 セルロースアシレート
108 縦延伸部
109 横延伸部
110 巻取部
10、10a フィルム製造装置
12 乾燥機
14 押出機
16 ギアポンプ
18 フィルタ
20 ダイ
22 冷却部
24 タッチロール
26 ロール
28 キャストドラム
30、30a 縦延伸部
32 入口側ニップロール
33 予熱ロール
34 出口側ニップローラ
35 予熱ロール
36 予熱部
37 ニップロール
39 ニップロール
42 横延伸部
44 熱固定部
46 巻取部
Fa 未延伸フィルム
Fb 縦延伸フィルム
F 熱可塑性フィルム
Lb 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)が4〜50(msec)であるセルロースアシレートを含有することを特徴とするセルロースアシレート組成物。
【請求項2】
前記セルロースアシレートを220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)と最長緩和時間τ(5)、および、前記セルロースアシレートを220℃で溶融させて30分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(30)と最長緩和時間τ(30)が、以下の各式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレート組成物。
|E0(30)−E0(5)| ≦ 30(kJ/mol)
|τ(30)−τ(5)| ≦ 5(msec)
【請求項3】
前記セルロースアシレートを構成するセルロース中のヘミセルロースの含有量が0.1〜3質量%であり、前記セルロースアシレートの重量平均重合度(DPw)が300〜550であることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項4】
前記セルロースアシレートの重量平均重合度/数平均重合度(DPw/DPn)が1.7〜5.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項5】
前記セルロースアシレートが下記式(S−1)〜(S−3)を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
式(S−1): 2.60≦X+Y<3.00
式(S−2): 0≦X≦1.80
式(S−3): 1.00≦Y<3.00
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yは、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【請求項6】
前記セルロースアシレートが下記式(T−1)および(T−2)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
式(T−1):2.5≦X+Z<3.0
式(T−2):0.1≦Z<2
(式中、Xは、アセチル基の置換度を示し、Zは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。)
【請求項7】
Na,Ca,K,Mgの総含有量が300ppm以下であり、残留硫酸根量が300ppm以下であり、かつ、(Na+Ca+K+Mg)/Sのモル含有比が0.7〜2.0であること特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項8】
ヒドロキシフェニル基または亜リン酸エステル基の少なくとも一方を同一分子中に有する分子量500以上の熱安定剤を0.1〜3.0質量%含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項9】
形状がペレット状であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースアシレート組成物を溶融して製膜する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記セルロースアシレート組成物を、酸素濃度が0.1%〜19%の雰囲気下にて200℃〜250℃で溶融して製膜することを特徴とする、請求項10に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記セルロースアシレート組成物を溶融後キャスティングドラム上に押出し、当該キャスティングドラム上でタッチロールを用いて製膜する工程を含むことを特徴とする請求項10または11に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースアシレートフィルム。
【請求項14】
220℃で溶融させて5分後に測定した見かけ上の活性化エネルギーE0(5)が160〜240(kJ/mol)で、最長緩和時間τ(5)が4〜50(msec)であり、かつ、残留溶媒量が0.01質量%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項15】
請求項13または14に記載のセルロースアシレートフィルムを、少なくとも1方向に延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、縦横比L/Wが2を超え50以下、或いは0.01〜0.3となるように延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、横延伸前に延伸温度より1℃〜50℃高い温度で予熱したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、横延伸後に延伸温度より1℃〜50℃低い温度で熱処理したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを、縦延伸および/または横延伸後した後に、Tg−50℃〜Tg+30℃の温度で、0.1kg/m〜20kg/mの張力で搬送しながら熱緩和したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項20】
請求項13〜19のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された偏光板。
【請求項21】
請求項13〜19のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された光学補償フィルム。
【請求項22】
請求項13〜19のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いて作製された反射防止フィルム。
【請求項23】
請求項13〜19のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項20に記載の偏光板、請求項21に記載の光学補償フィルム、請求項22に記載の反射防止フィルムの少なくとも1つを用いて作製された液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−56890(P2008−56890A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96297(P2007−96297)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】