説明

タービン構成部品及びその製造方法

【課題】金属基体と該金属基体を覆うセラミック耐食皮膜とを有する、翼形部以外のタービン構成部品を含む物品を提供する。
【解決手段】本皮膜64は、最大127ミクロンまでの厚さを有し、かつジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含む。また、この皮膜64は、金属基体60を含み、タービン翼形部38、42以外のタービン構成部品30とセラミック金属酸化物前駆体を含むゲル形成溶液とを準備し、ゲル形成溶液を第1の予め選択した時間にわたって第1の予め選択した温度に加熱してゲルを形成し、ゲルを金属基体60上に被着させ、ゲルを第1の予め選択した温度よりも高い第2の予め選択した温度で焼成することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、その上にセラミック耐食皮膜を有する、タービンディスク、タービンシール及び他の固定構成部品のような、翼形部以外のタービン構成部品に関する。本発明はさらに、広くは、タービン構成部品上にそのような皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機ガスタービンエンジンにおいて、空気は、エンジン前部に引き込まれ、シャフト支持圧縮機によって加圧され、燃料と混合される。混合物は燃焼され、高温排気ガスが、同一シャフト上に取付けられたタービンを通って流れる。燃焼ガスの流れは、タービンブレードの翼形部セクションに対して衝突することによってタービンを回転させ、それによって、シャフトを回転させて圧縮機に動力を供給する。高温排気ガスはエンジン後部から流出して、エンジン及び航空機を前方に推し進める。燃焼ガス及び排気ガスが高温になればなるほど、ジェットエンジンの作動効率がより高くなる。従って、燃焼ガス温度を上昇させることに対する動機付けがある。
【0003】
タービンエンジンの圧縮機及びタービンは、タービンディスク(「タービンロータ」と呼ばれることもある)又はタービンシャフトとタービンディスク/シャフトに取付けられかつそこから半径方向外向きにガス流路内に延びる多数のブレードとを含むことができる。タービンエンジン内にはまた回転及び固定シール要素が含まれ、シール要素は、タービンブレード及びベーンのような一部の構成部品を冷却するのに用いる空気流を導く。タービンエンジンの最高作動温度が上昇するにつれて、タービンディスク/シャフト及びシール要素は、より高い温度に曝される。その結果、ディスク/シャフト及びシール要素の酸化及び腐食が、より大きな関心事となってきた。
【0004】
吸い込んだ埃、フライアッシュ、コンクリートダスト、砂、海塩などから生じたアルカリ硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酸化物及びその他の腐食性塩付着物のような金属塩が、腐食の主要な原因であるが、侵食性の抽気環境(例えば、エンジンの高温構成部品を冷却するために圧縮機から抽出した空気)内の他の要素もまた、腐食を加速させる。関心のある温度範囲及び大気領域内のアルカリ硫酸塩腐食は、一般的にほぼ1200°F(649℃)あたりから始まる温度においてタービンディスク/シャフト及びシール要素の基体に孔食を引き起こす。この孔食は、臨界タービンディスク/シャフト及びシール要素で発生することが判っている。酸化及び腐食損傷は、損傷を軽減又は補修しなければ、ディスク/シャフト及びシール要素の早期廃棄及び交換を招くことになる。
【0005】
最高作動温度で使用するタービンディスク/シャフト及びシール要素は一般的に、優れた高温強靭性及び耐疲労性で選択したニッケル基超合金で作られる。これらの超合金は、酸化及び腐食損傷への耐性はあるが、その耐性は、今やガスタービンエンジンが達するますます高くなる作動温度において超合金を保護するには不十分である。最新世代の合金で作られたディスク及び他のロータ構成部品はまた、低レベルのアルミニウム及び/又はクロムを含み、従って腐食侵食をますます受けやすくなるおそれがある。
【0006】
耐食拡散皮膜はまた、アルミニウム又はクロム、或いはそれぞれの酸化物(すなわち、アルミナ又はクロミア)で形成することができる。例えば、1994年11月29日に登録された同一出願人による米国特許第5,368,888号(Rigney)(アルミナイド拡散皮膜)及び2001年9月4日に登録された同一出願人による米国特許第6,283,715号(Nagaraj他)(クロム拡散皮膜)を参照されたい。また、タービンディスク/シャフト及びシール要素に使用するものとして、多くの耐食皮膜が考えられてきた。例えば、2004年1月22日に公開された米国特許出願第2004/0013802号(Ackerman他)を参照されたく、この米国特許出願は、保護皮膜を形成するためのタービンディスク及びシール要素へのアルミニウム、シリコン、タンタル、チタン又はクロム酸化物の有機金属化学気相蒸着(MOCVD)を開示している。これら従来の耐食皮膜は幾つかの欠点を有する可能性があり、それら欠点には、(1)それら従来の皮膜は下にある金属基体中に拡散するので、タービンディスク/シャフト及びシール要素の疲労寿命に悪影響を及ぼす可能性があること、(2)皮膜と下にある金属基体との間の熱膨張率(CTE)不一致により、皮膜が剥離する傾向がより強くなるおそれがあること、及び(3)金属基体上に耐食皮膜を被着させる処理(例えば、化学気相蒸着)がより複雑かつ高価であることが含まれる。
【特許文献1】米国特許第5,368,888号公報
【特許文献2】米国特許第6,283,715号公報
【特許文献3】公開米国特許出願第2004/0013802号公報
【特許文献4】米国特許第4,957,567号公報
【特許文献5】米国特許第6,521,175号公報
【特許文献6】米国特許第5,723,078号公報
【特許文献7】米国特許第4,563,239号公報
【特許文献8】米国特許第4,353,780号公報
【特許文献9】米国特許第4,411,730号公報
【特許文献10】公開米国特許出願第2004/0081767号公報
【特許文献11】米国特許第5,332,598号公報
【特許文献12】米国特許第5,047,612号公報
【特許文献13】米国特許第4,741,286号公報
【特許文献14】米国特許第3,540,878号公報
【特許文献15】米国特許第3,598,638号公報
【特許文献16】米国特許第3,667,985号公報
【非特許文献1】Kirk-Othmer's Encyclopedia of Chemical Technology,3rd Ed., Vol. 24, pp. 882-883 (1984) ; 3rd Ed., Vol. 12, pp. 417-479 (1980) ; 3rd Ed., Vol. 15, pp. 787-800 (1981) ; 3rd Ed., Vol. 15, page 255
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、(1)特により高い又は上昇した温度での耐食性をもたらし、(2)下にある金属基体の他の機械特性に影響するか或いは剥離のような他の望ましくない作用を引き起こす可能性がなく、かつ(3)比較的複雑でなくかつ安価な方法によって形成することができる、タービンディスク、タービンシャフト、タービンシール要素及び他の非翼形部タービン構成部品の皮膜に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、広くは、金属基体と該金属基体を覆うセラミック耐食皮膜とを有する、タービン翼形部以外のタービン構成部品を含む物品に関し、このセラミック耐食皮膜は、最大約5ミル(127ミクロン)までの厚さを有し、かつジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含む。
【0009】
本発明の別の実施形態は、広くは、タービン構成部品の下にある金属基体上にこのセラミック耐食皮膜を形成する方法に関する。本方法の1つの実施形態は、
金属基体を含む、タービン翼形部以外のタービン構成部品を準備するステップと、
セラミック金属酸化物前駆体を含むゲル形成溶液を準備するステップと、
ゲル形成溶液を第1の予め選択した時間にわたって第1の予め選択した温度に加熱してゲルを形成するステップと、
ゲルを金属基体上に被着させるステップと、
被着したゲルを第1の予め選択した温度よりも高い第2の予め選択した温度で焼成して、ジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含むセラミック耐食皮膜を形成するステップと、
を含む。
【0010】
この皮膜を形成する本方法の別の実施形態は、
(a)金属基体を含む、翼形部以外のタービン構成部品を準備するステップと、
(b)セラミック金属酸化物を含むセラミック組成物を物理気相蒸着によって金属基体上に被着させて、ジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含みかつ歪み耐性円柱状組織を有するセラミック耐食皮膜を形成するステップと、
を含む。
【0011】
この皮膜を形成する本方法のさらに別の実施形態は、
(a)金属基体を含む、翼形部以外のタービン構成部品を準備するステップと、
(b)セラミック金属酸化物を含むセラミック組成物を金属基体上に溶射して、ジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含むセラミック耐食皮膜を形成するステップと、
を含む。
【0012】
本発明のセラミック耐食皮膜は、幾つかの大きな利益及び利点をもたらす。セラミック耐食皮膜は、セラミック金属酸化物としてジルコニア及び/又はハフニアを含むので、下にある金属基体中に拡散しない。その結果、セラミック耐食皮膜は、被覆したタービンディスク/シャフト、シール要素及び他のタービン構成部品の疲労特性に悪影響を及ぼさない。
【0013】
セラミック金属酸化物と下にある金属基体との間の熱膨張率のより大きな一致が得られるので、本発明のセラミック耐食皮膜は、基体へのより大きな密着性、従って剥離に対するより大きな耐性をもたらす。また、この増大した密着性はさらに、皮膜の厚さを通して金属基体中に割れが伝播するのに抗することによって、被覆タービンディスク/シャフト、シール要素及び他のタービン構成部品の疲労特性を改善する。
【0014】
これらセラミック耐食皮膜は、比較的複雑でなくかつ安価な本発明の方法の実施形態によって形成することができる。加えて、セラミック耐食皮膜は、本発明の方法の実施形態によって金属基体上に比較的薄い層として形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書で用いる場合、「セラミック金属酸化物」という用語は、ジルコニア、ハフニア、又はジルコニアとハフニアとの組合せ(すなわち、それらの混合物)を意味する。これらのセラミック金属酸化物は、物品の下にある金属基体への熱流量を減少させる、すなわち断熱層を形成することができ、典型的には少なくとも約2600°F(1426℃)、より典型的には約3450°〜約4980°F(約1900°〜約2750℃)の範囲にある融点を有する断熱皮膜においてこれ迄は用いられていた。セラミック金属酸化物は、100モル%のジルコニア、100モル%のハフニア、又は所望のジルコニアとハフニアとのあらゆるパーセンテージの混合物を含むことができる。一般的に、セラミック金属酸化物は、約85〜100モル%のジルコニアと0〜約15モル%のハフニアと、より典型的には約95〜100モル%のジルコニアと0〜約5モル%のハフニアとを含む。
【0016】
本明細書で用いる場合、「セラミック金属酸化物前駆体」という用語は、例えばセラミック耐食皮膜の形成までの及び形成を含むあらゆる時点でそれぞれのセラミック金属水酸化物からセラミック金属酸化物に転換されるか又はセラミック金属酸化物を形成するあらゆる組成物、化合物、分子などを意味する。
【0017】
本明細書で用いる場合、「セラミック耐食皮膜」という用語は、吸い込んだ埃、フライアッシュ、コンクリートダスト、砂、海塩などから生じた金属(アルカリ)硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酸化物及びその他の腐食性塩付着物を含む様々な腐食性物質によって引き起こされる腐食に対して、典型的には少なくとも約1000°F(538℃)、より典型的には少なくとも約1200°F(649℃)の温度で耐性をもたらし、かつセラミック金属酸化物を含む本発明の皮膜を意味する。本発明のセラミック耐食皮膜は通常、少なくとも約60モル%のセラミック金属酸化物を、典型的には約60〜約98モル%のセラミック金属酸化物を、より典型的には約94〜約97モル%のセラミック金属酸化物を含む。本発明のセラミック耐食皮膜はさらに、一般的にセラミック金属酸化物のための安定量の安定化金属酸化物を含む。これら安定化金属酸化物は、イットリア、カルシア、スカンジア、マグネシア、インジア、ガドリニア、ネオジミア、サマリア、ジスプロシア、エルビア、イッテルビア、ユウロピア、プラセオジミア、ランタナ、タンタラなど及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。「安定化」させるこの安定化金属酸化物の特定の量は、用いる安定化金属酸化物、用いるセラミック金属酸化物などを含む様々な要因に応じて決まることになる。一般的に、安定化金属酸化物は、約2〜約40モル%、より典型的には約3〜約6モル%のセラミック耐食皮膜を含む。本明細書で用いるセラミック耐食皮膜は一般的に、安定化金属酸化物としてイットリアを含む。本発明のセラミック耐食皮膜に用いることができる適当なイットリア安定化ジルコニア含有セラミック組成物の説明については、例えばKirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology第3版24巻882−883ページ(1984年)を参照されたい。
【0018】
本明細書で用いる場合、「セラミック組成物」という用語は、本発明のセラミック耐食皮膜を形成するのに用いられ、かつセラミック金属酸化物、任意選択的であるが一般的には安定化金属酸化物などを含む組成物を意味する。
【0019】
本明細書で用いる場合、「翼形部以外のタービン構成部品」という用語は、金属又は金属合金で形成された翼形部(例えば、ブレード、ベーンなど)ではないタービン構成部品であって、タービンディスク(「タービンロータ」と呼ばれることもある)、タービンシャフト、回転又は固定のいずれかである前部、段間及び後部タービンシールを含むタービンシール要素、タービンブレードリテーナ、他の固定タービン構成部品などを含むタービン構成部品を意味する。本発明のセラミック耐食皮膜が特に有利になるタービン構成部品は、少なくとも約1000°F(538℃)、より典型的には少なくとも約1200°F(649℃)、典型的には約1000°〜約1600°F(約538°〜約871℃)の範囲の実使用作動温度を受けることになる構成部品である。これら構成部品は通常、該構成部品の表面上に付着する可能性がある吸い込んだ腐食性成分、典型的には金属硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、炭酸塩などを有するタービン抽気(例えば、エンジン内の高温構成部品を冷却するために圧縮機から抽出された空気)に曝される。本発明のセラミック耐食皮膜は、タービンディスク/シャフト及びタービンシール要素の表面のような構成部品の表面の全て又は選択部分上に形成される場合に特に有用である。例えば、タービンディスクのハブの中間から外側までの部分は、本発明のセラミック耐食皮膜を有することができるが、ボア領域、ハブの内側部分及びブレードスロットはこの皮膜を有することができる場合と有することができない場合とがある。加えて、ディスクポスト圧力面(すなわち、ディスクポストとタービンブレードダブテールとの間の合わせ面)及びディスクとシールとの間の接触点のようなこれら構成部品間の接触点又は合わせ面は、製造寸法として所望又は指定した状態に保つためにセラミック耐食皮膜を欠いた状態又はセラミック耐食皮膜が全くない状態にする場合がある。
【0020】
本明細書で用いる場合、「含む」という用語は、様々な皮膜、組成物、金属酸化物、構成部品、層、ステップなどが、本発明で一緒に使用することができることを意味する。従って、「含む」という用語は、より限定的な用語「本質的に〜からなる」及び「〜からなる」を含む。
【0021】
本明細書で用いる全ての量、部、比率及びパーセンテージは、他に特定しない場合はモル%によるものである。
【0022】
本発明のセラミック耐食皮膜を有するタービン構成部品の様々な実施形態を、以下に記載するように図面を参照してさらに説明する。図1を参照すると、タービンエンジンロータ構成部品30を示しており、このタービンエンジンロータ構成部品30は、例えばタービンディスク32又はタービンシール要素34のようなあらゆる実施可能なタイプのものとすることができる。図1は、第1段タービンディスク36、タービンディスク36に取付けられた第1段タービンブレード38、第2段タービンディスク40、タービンディスク40に取付けられた第2段タービンブレード42、ブレード38の前部ブレードリテーナとしても機能する前部タービンシール44、後部タービンシール46、ブレード42の前部ブレードリテーナとしても機能する段間タービンシール48、シール48によって所定位置に保持されたブレード38の後部ブレードリテーナ50、及びブレード42の後部ブレードリテーナ52を概略的に示す。これらタービンディスク32(例えば、第1段タービンディスク36及び第2段タービンディスク40)、タービンシール要素34(例えば、前部タービンシール44、後部タービンシール46及び段間タービンシール48)及び/又はブレードリテーナ50/52のいずれか又は全て、或いはそれらの何らかの選択部分には、腐食が予想されるか又は観察されるかどうかに応じて、本発明のセラミック耐食皮膜を設けることができる。
【0023】
図2を参照すると、タービンエンジンロータ構成部品30の金属基体60は、様々な金属、或いはより典型的にはニッケル、コバルト及び/又は鉄合金をベースにしたものを含む金属合金のいずれかを含むことができる。基体60は一般的に、ニッケル、コバルト及び/又は鉄をベースにした超合金を含む。そのような超合金は、例えば、1990年9月18日に登録された同一出願人による米国特許第4,957,567号(Krueger他)、及び2003年2月18に登録された米国特許第6,521,175号(Mourer他)などの様々な参考文献に開示されており、これら特許の関連部分は参考文献として本明細書に組み入れている。超合金はまた、Kirk−Othmer’s Encyclopedia of Chemical Technology第3版12巻417−479ページ(1980年)及び15巻787−800ページ(1981年)に全体的に記載されている。実例的なニッケル基超合金は、商品名Inconel(登録商標)、Nimonic(登録商標)、Rene(登録商標)(例えば、Rene(登録商標)88、Rene(登録商標)104、ReneN5合金)及びUdimet(登録商標)によって指定される。
【0024】
基体60は、より典型的にはニッケル基合金、より具体的にはあらゆる他の元素よりも多いニッケルを有するニッケル基超合金を含む。ニッケル基超合金は、ガンマプライム又は関連相の析出によって強化することができる。本発明のセラミック耐食皮膜が特に有用であるニッケル基超合金は、商品名Rene88によって入手可能であり、それは、重量で13%のコバルト、16%のクロム、4%のモリブデン、3.7%のチタン、2.1%のアルミニウム、4%のタングステン、0.70%のニオブ、0.015%のホウ素、0.03%のジルコニウム及び0.03%の炭素と、残部のニッケル及び微量の不純物を含む公称組成を有する。
【0025】
本発明のセラミック耐食皮膜64を金属基体60の表面62上に形成する際に、表面62は一般的に、機械的、化学的又はその両方で前処理してその表面が皮膜64をより受けやすくなるようにする。適当な前処理方法には、グリットブラストを受けない表面をマスキングした状態又はマスキングしない状態でのグリットブラスト(1998年3月3日に登録されたNiagara他の米国特許第5,723,078号の特に第4欄46−66行を参照されたく、この特許は、参考文献として本明細書に組み入れている)、ミクロ機械加工、レーザエッチング(1998年3月3日に登録されたNagaraj他の米国特許第5,723,078号の特に第4欄67行から第5欄3行まで及び第5欄14−17行を参照されたく、この特許は、参考文献として本明細書に組み入れている)、塩酸、フッ酸、硝酸、重フッ化アンモニウム及びそれらの混合物を含む化学エッチング液のような化学エッチング液を用いる処理(例えば、1998年3月3日に登録されたNagaraj他の米国特許第5,723,078号の特に第5欄3−10行、1986年1月7日に登録されたAdinolfi他の米国特許第4,563,239号の特に第2欄67行から第3欄7行まで、1982年10月12日に登録されたFishter他の米国特許第4,353,780号の特に第1欄50−58行、及び1983年10月25日に登録されたFishter他の米国特許第4,411,730号の特に第2欄40−51行を参照されたく、これら特許は全て参考文献として本明細書に組み入れている)、研磨粒子を加えた状態又は加えない状態での圧力下の水を用いる処理(すなわち、水噴射処理)、並びにそれら方法の様々な組合せが含まれる。一般的に、金属基体60の表面62は、該表面62が炭化ケイ素粒子、スチール粒子、アルミナ粒子又は他のタイプの研磨粒子の研磨作用を受けるようにグリッドブラストによって前処理される。グリッドブラストに用いるこれら粒子は一般的に、アルミナ粒子であり、典型的には約600〜約35メッシュ(約25〜約500マイクロメートル)、より典型的には約400〜約300メッシュ(約38〜約50マイクロメートル)の粒子サイズを有する。
【0026】
金属基体60上にセラミック耐食皮膜64を形成する本発明の方法の実施形態は、ソル・ゲル法の使用によるものである。2004年4月29日に公開された同一出願人による米国特許出願第2004/0081767号(Pfaendtner他)を参照されたく、この特許出願は参考文献として本明細書に組み入れている。ソル・ゲル法は、セラミック酸化物(例えば、ジルコニア)を生成する化学溶液法である。一般的にはアルコキシド前駆体又は金属塩を含む化学ゲル形成溶液は、セラミック金属酸化物前駆体材料及び何らかの安定化金属酸化物前駆体材料などと混合される。ゲル形成溶液を僅かにそれを乾燥させるように第1の予め選択した時間にわたって第1の予め選択した温度で加熱すると、ゲルが形成される。ゲルは次に、金属基体60の表面62を覆って塗布される。セラミック金属酸化物前駆体材料を適当に加えかつ適当に乾燥させることにより、表面62を覆って連続フィルムが形成される。ソル・ゲルは、あらゆる都合のよい方法によって基体60の表面62に塗布することができる。例えばソル・ゲルは、少なくとも1つの薄層、例えば単一の薄層、又はより典型的には薄膜を皮膜64の所望の厚さまで堆積させるような複数の薄層をスプレイすることによって塗布することができる。ゲルは次に、第2の予め選択した時間にわたって第1の上昇温度以上の第2の予め選択した上昇温度で焼成されて皮膜64を形成する。セラミック耐食皮膜64は、最大約5ミル(127ミクロン)まで、典型的には約0.01〜約1ミル(約0.2〜約25ミクロン)、より典型的には約0.04〜約0.5ミル(約1〜約13ミクロン)の厚さを有する緻密マトリックスを含む。任意選択的に、不活性酸化物充填粒子をソル・ゲル溶液に加えて、基体に施工される層ごとの厚さをより大きくことが可能になるようにすることができる。
【0027】
セラミック耐食皮膜64を形成する別の方法は、電子ビームPVD(EB−PVD)、フィルタアーク蒸着などの物理気相蒸着(PVD)によるか、又はスパッタリングによるものである。本明細書で用いる適当なスパッタリング法には、それに限定されないが、直流ダイオードスパッタリング、高周波スパッタリング、イオンビームスパッタリング、反応性スパッタリング、マグネトロンスパッタリング及びステアードアークスパッタリングが含まれる。PVD法は、垂直マイクロクラック組織のような耐歪み性又は耐性ミクロ組織を有するセラミック耐食皮膜64を形成することができる。EB−PVD法は、高い耐歪み性があって皮膜密着性をさらに高める円柱状組織を形成することができる。これらの耐歪み性又は耐性組織は、皮膜表面66と基体60との間に直接経路を有するが、この経路は、部分溶融又は高粘性腐食性塩が、垂直マイクロクラック組織の割れ又は円柱状組織の円柱ギャップに全く侵入しない又は最小限度の侵入しかしないほど十分に狭い。
【0028】
これらセラミック耐食皮膜を形成する別の適当な方法には、溶射、エアゾールスプレイ、化学気相蒸着(CVD)及びパックセメンテーションが含まれる。本明細書で用いる場合、「溶射」という用語は、被覆皮膜材料を加熱しかつ一般的にその被覆皮膜材料を少なくとも部分的に又は完全に熱溶融させるステップと一般的に加熱ガス流内の同伴によって加熱/溶融材料を被覆対象の金属基体上に被着させるステップとを含む、セラミック組成物を溶射し、施工し又は他の方法で被着させるあらゆる方法を意味する。適当な溶射被着法には、空気プラズマ溶射(APS)及び真空プラズマ溶射(VPS)などのプラズマ溶射、高速ガス式(HVOF)溶射、爆発溶射、線爆溶射など並びにそれらの方法の組合せが含まれる。本明細書で用いる場合の特に適当な溶射被着法は、プラズマ溶射である。適当なプラズマ溶射法は、当業者にはよく知られている。例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology第3版15巻255ページ及びその中に記載された参考文献、並びに1994年7月26日に登録された米国特許第5,332,598号(Kawasaki他)、1991年9月10に登録された米国特許第5,047,612号(Savkar他)及び1998年5月3日に登録された米国特許第4,741,286号(Itoh他)(これらは参考文献として本明細書に組み入れている)を参照されたく、これらは本明細書で用いるのに適したプラズマ溶射の様々な態様に関して非常に役立つ。
【0029】
化学気相蒸着及び/又はパックセメンテーションを実施する適当な方法は、例えば、1970年11月17日に登録された同一出願による米国特許第3,540,878号(Levine他)、1971年8月10日に登録された同一出願人による米国特許第3,598,638号(Levine)、及び1972年6月6日に登録された同一出願人による米国特許第3,667,985号(Levine他)に開示されており、これら特許の関連する開示内容は参考文献として本明細書に組み入れている。有機金属化学気相蒸着(MOCVD)法もまた本明細書で用いることができる。2004年1月22日に公開された同一出願による米国特許出願第2004/0013802号(Ackerman他)を参照されたく、この特許出願の関連する開示内容は参考文献として本明細書に組み入れている。
【0030】
図3に示すように、一般的に、これらタービンディスク/シャフト、シール及び/又はブレードリテーナの表面の一部分のみに、本発明のセラミック耐食皮膜64が設けられる。図3は、符号74で示したほぼ円形の内側ハブ部分及び符号78で示したほぼ円形の外周又は外径と、符号38、42などのタービンブレードの根元部分を受けるための符号86で示した複数の円周方向に間隙を置いて配置されたスロットを備えた符号82で示した周辺部とを有するタービンディスク32を示す。セラミック耐食皮膜64は、ディスク70の表面全体に施工することができるが、一般的には外径78の表面上にのみ必要とされる。
【0031】
上記の実施形態は、タービンエンジンディスクを被覆することに関して説明してきたが、上述のように、本発明を用いて、圧縮機ディスク、シール及びシャフトを含む様々なタービンエンジンロータ構成部品の表面上にセラミック耐食皮膜64を形成することができ、構成部品は次に、高温で腐食性要素に露出させることができる。本発明のセラミック耐食皮膜はまた、構成部品の最初の製造(すなわち、OEM構成部品)の時に、構成部品をある期間作動させた後に、構成部品から他の皮膜を除去した後に(例えば、補修状況時)、構成部品を組み立てている間に、又は構成部品を分解した後などに施工することができる。
【0032】
以下の実施例は、本発明のセラミック耐食皮膜をソル・ゲル法によって金属基体上に形成する実施形態及びそれによって得られる利点を示す。
【0033】
ReneN5合金の1インチ円形試料は、ソル・ゲルにより被着させた7重量%のイットリア安定化ジルコニアの約5ミクロンの層で被覆されている。硫酸含有腐食性物質(腐食剤)を皮膜の表面に塗布し、1300°F(704℃)において2時間サイクルでテストを行う。2時間サイクルの最初の1時間は、還元性雰囲気を用いて腐食剤と被覆試料の表面との間に反応を引き起こさせることを試みる一方、次の1時間は、空気を用いて腐食スケール成長を引き起こさせる。水洗浄によって腐食剤を除去し、次に被覆試料は損傷を検査される。この腐食剤塗布、熱露出、洗浄及び検査のサイクルは、被覆試料が損傷の兆候を示すまで反復される。8サイクル後に、被覆試料上には明らかな損傷は全く見られない。10サイクル後に、皮膜は依然として合金に密着しているが、変色が見られ、被覆試料は評価のため切断される。切断後に、皮膜の下には約10ミクロン厚さの腐食生成層が見られる。ちなみに、これは、裸の合金試料(すなわち、皮膜してない)のこのようなテストの約2サイクル後の典型的な状態である。
【0034】
本発明の特定の実施形態を説明してきたが、特許請求の範囲に記載した本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱することなく、実施形態に対する様々な変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ガスタービンエンジンのタービンセクションの一部分の概略断面図。
【図2】タービンロータ構成部品の金属基体上に被着させた、本発明のセラミック耐食皮膜の実施形態の断面図。
【図3】本発明のセラミック耐食皮膜を設置するのが望ましい場所を示す、タービンディスクの正面図。
【符号の説明】
【0036】
30 タービンエンジンロータ構成部品
32 タービンディスク
34 タービンシール要素
36 第1段タービンディスク
38 第1段タービンブレード
40 第2段タービンディスク
42 第2段タービンブレード
44 前部タービンシール
46 後部タービンシール
48 段間タービンシール
52 ブレードリテーナ
60 基体
62 基体60の表面
64 セラミック耐食皮膜
66 皮膜64の表面
74 ディスク32の内側ハブ
78 ディスク32の外周又は外径
82 ディスク32の周辺部
86 ブレード38、42の根元を受けるための複数のスロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン翼形部(38、42)以外のタービン構成部品(30)であって、金属基体(60)と前記金属基体(60)を覆うセラミック耐食皮膜(64)とを有するタービン構成部品(30)を備える物品であって、
前記セラミック耐食皮膜(64)が、最大127ミクロンまでの厚さを有し、かつジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含むことを特徴とする物品。
【請求項2】
前記タービン構成部品(30)が、圧縮機又はタービンディスク(32)或いは圧縮機又はタービンシール要素(44、46、48)であることを特徴とする請求項1記載の物品(30)。
【請求項3】
前記セラミック耐食皮膜(64)が、60〜98モル%のセラミック金属酸化物と2〜40モル%の安定化金属酸化物とを含むことを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項記載の物品(30)。
【請求項4】
前記セラミック金属酸化物が、85〜100モル%のジルコニアと0〜15モル%のハフニアとを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の物品(30)。
【請求項5】
前記安定化金属酸化物が、イットリア、カルシア、スカンジア、マグネシア、インジア、ガドリニア、ネオジミア、サマリア、ジスプロシア、エルビア、イッテルビア、ユウロピア、プラセオジミア、ランタナ、タンタラ及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の物品(30)。
【請求項6】
前記耐食皮膜(64)が、94〜97モル%のセラミック金属酸化物と3〜6モル%のイットリアとを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項記載の物品(30)。
【請求項7】
前記セラミック耐食皮膜(64)が、前記構成部品(30)の選択部分上に形成されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の物品(30)。
【請求項8】
(a)金属基体(60)を含み、タービン翼形部(38、42)以外のものであるタービン構成部品(30)を準備するステップと、
(b)セラミック金属酸化物前駆体を含むゲル形成溶液を準備するステップと、
(c)前記ゲル形成溶液を第1の予め選択した時間にわたって第1の予め選択した温度に加熱してゲルを形成するステップと、
(d)前記ゲルを前記金属基体(60)上に被着させるステップと、
(e)前記被着したゲルを前記第1の予め選択した温度よりも高い第2の予め選択した温度で焼成して、ジルコニア、ハフニア及びそれらの混合物からなる群から選択されたセラミック金属酸化物を含むセラミック耐食皮膜(64)を形成するステップと、
を具備するタービン構成部品の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(d)が、前記ゲルの複数の層を前記金属基体(60)上に施工することによって行われることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(e)の後に、前記セラミック耐食皮膜(64)が、0.2〜25ミクロンの厚さを有することを特徴とする請求項8及び請求項9のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−283759(P2006−283759A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93435(P2006−93435)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】