説明

ダイカスト金型およびその表面処理方法

【課題】Al、Mg、またはZn、あるいはこれらの合金の溶湯を鋳造するに際し、優れた耐溶損特性および耐焼付特性を併有するダイカスト金型、および、上記各特性を確実に併有させるための表面処理方法を提供する。
【解決手段】溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型1であって、係るダイカスト金型1における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面2に被覆され、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる第1層4と、係る第1層を酸化処理して表層に形成されたIVA、VA、VIA族の金属、Si、および、Alの酸化層5の少なくとも一種以上を含む第2層6と、を備えている、ダイカスト金型1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al、Mg、またはZnの溶湯を鋳造するに際し、優れた耐溶損特性および耐焼付特性を奏するダイカスト金型およびその表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダイカスト金型は、熱間工具鋼(例えば、SKD61)により製造されている。しかし、代表的なダイカスト用金属のアルミニウム(アルミニウム合金を含む、以下も同じ)は、Feと反応して、次第に上記金型材料がアルミニウム溶湯中に溶け出すアルミ溶損を招くため、金型寿命の低下の一因となっている。
上記アルミ溶損を防ぐため、ダイカスト金型の表面に対し、イオンプレーティングによりTiやCrなどの炭化物、窒化物、または炭窒化物を被覆する方法が採られている。係る炭化物などの硬質被膜は、化学的に安定であり、アルミニウム溶湯と殆んど反応しないため、前記溶損を防止することができる。
【0003】
しかし、前記炭化物などの硬質被膜であっても、鋳抜きピンや薄肉部のように、ダイカスト金型の表面において高温となる部位では、アルミニウム溶湯との濡れを生じることで、焼付きが生じる。係る焼付き部分を介して、金型の表面にアルミニウム溶湯が付着すると、鋳造した製品を離型する際に、当該製品が変形したり、焼付き状態で強引に製品を取り出すと、金型の一部を破損することがある。
このため、通常は、焼付きが生じた比較的初期の段階で、ダイカスト金型の表面に付着したアルミニウムの凝固片を、砥石などを用いて除去している。しかし、係る除去作業は、前記炭化物などの硬質皮膜までも除去してしまうため、新たな溶損や焼付きを招く原因となっている。
【0004】
一方、前記焼付きを防ぐため、熱間工具金型鋼の基材の表面を窒化して窒化層を形成し、その表面をガス酸化処理して水酸化鉄を含まない酸化層を形成した耐アルミ浸食性材料とその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に開示のアルミ浸食性材料は、耐酸化性に優れた前記硬質皮膜を表面に被覆しているダイカスト金型には、適用されていない。たとえ、酸化処理しても、その表面は、前記硬質皮膜が劣化し、更に溶損特性も低下してしまう、という懸念があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−28398号公報(第1〜8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、Al、Mg、またはZn、あるいは、これらの何れかをベースとする合金の溶湯を鋳造するに際し、優れた耐溶損特性および耐焼付特性を併有するダイカスト金型、および、係る各特性を確実に併有させるための表面処理方法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、ダイカスト金型の耐焼付き性を改善すべく、前述した酸化処理を積極的に活用するには、あえて最表面をFe以外の酸化層で被覆する、という発想により成されたものである。
即ち、本発明による第1のダイカスト金型(請求項1)は、溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型であって、係るダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に被覆され、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層と、係る第1層を酸化処理して表層に形成されたIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化層の少なくとも一種以上を含む第2層と、を備えている、ことを特徴とする。
また、本発明による第2のダイカスト金型(請求項2)は、溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型であって、係るダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に被覆され、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層と、係る第1層の表面上に被覆したIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの少なくとも一種以上の金属層を酸化処理して形成されたIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化層の少なくとも一種以上を含む第2層と、を備えている、ことを特徴とする。
【0008】
これらによれば、化学的に安定な第1層の表層または表面上に、IVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化層の少なくとも一種以上で且つFe以外の酸化層を含む第2層が被覆されている。このため、Alなどの溶融金属との濡れによるダイカスト金型の焼け付きを抑制できる。しかも、係る第2層および第1層は、化学的に安定であるため、ダイカスト金型の耐溶損特性を付与することも可能となる。従って、優れた耐溶損特性と耐焼付特性を併有するダイカスト金型となる。
尚、本発明では、金属間化合物のTiAlもTiなどと同等にして扱われる。
また、前記IVA族には、Ti、Zr、Hfが含まれ、前記VA族は、V、Nb、Taが含まれ、VIA族には、Cr、Mo、Wが含まれる。
更に、前記第1層が異なる種類の2層以上の炭化物、窒化物、炭窒化部からなる形態や、前記第2層が異なる種類の2層以上の酸化層からなる形態も含まれる。
加えて、前記酸化層は、IVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化物の一種または二種以上で構成され、表面酸素濃度が20〜80原子%のものである。
【0009】
一方、本発明による第1のダイカスト金型の表面処理方法(請求項3)は、溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に対し、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含むの炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、上記第1層の表層を酸化処理して酸化層を形成する工程と、を含む、ことを特徴とする。
これによれば、ダイカスト金型における所要の表面に対しイオンプレーティングを施すことにより、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物の何れかからなる第1層を被覆し、係る第1層の表層を酸化処理することで、Tiなどの酸化層を含む第2層を生成して被覆することができる。従って、比較的簡素で且つ少ない工程数によって、所要の厚みを有する前記第1層および第2層を被覆することが可能となる。
【0010】
尚、前記イオンプレーティングは、PVDの一種であり、CVDに比べて比較的低温で被覆処理できため、金型の熱影響による軟化や歪みが少ない点で有効である。係るイオンプレーティングは、蒸発した金属や合金をイオン化し、得られた金属イオンを反応性ガスなどの雰囲気下で、電界により加速して金型の表面に被覆するが、金属などを蒸発させる方法は、カソードアーク放電を用いる方法、あるいはホロカソード放電を用いる方法の何れでも良い。
また、予め、ダイカスト金型の表面に対しイオン照射する場合は、Ti、Cr、V、Nb、Zrなどの金属イオンやArイオンを用いる際において、係るイオンを加速する電界電圧は、500〜2000Vが望ましい。
更に、金型の表面に対し、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物の単層または複層をイオンプレーティングで被覆する場合、イオン化した金属を加速する電界電圧は、10〜500Vが望ましい。この際に用いる反応ガスとして、窒素やメタンなどの炭化水素系ガスを用い、その分圧は、0.1〜10Paの範囲から適宜選択される。
加えて、前記酸化処理は、後述する炉内での加熱・保持、あるいはソルトバス中への浸漬によって行われる。
【0011】
また、本発明による第2のダイカスト金型の表面処理方法(請求項4)は、溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に対し、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、前記第1層の表面上に、IVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの少なくとも一種以上からなる金属層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、上記金属層の少なくとも表層を酸化処理して酸化層を形成する工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0012】
これによれば、ダイカスト金型における所要の表面に対しイオンプレーティングを施すことにより、前記第1層を被覆し、係る第1層の表面上にTiなどの金属層を更に被覆した後、係る金属層またはその表層を酸化処理することで、前記第2層が被覆される。従って、所要の厚みの第1層および第2層を、ダイカスト金型の表面に確実に被覆することが可能となる。
尚、前記第1層の表面上に、Tiなどの金属層をイオンプレーティングで被覆する場合、イオン化した金属を加速する電界電圧は、10〜500Vが望ましい。
【0013】
更に、本発明には、前記第1層の厚みは、1〜20μmであり、前記金属層の厚みは、2μm以下である、ダイカスト金型(請求項5)も含まれる。
これによれば、第2層の酸化層による耐溶損特性を保ち易くし、且つ加熱・冷却の繰り返しによる表面亀裂を防止できると共に、金属層の厚みを適正化し、コスト高を防ぐことも可能となる。
前記第1層の厚みが1μm未満では、係る第1層の表層を酸化処理して得られる第2層中の酸化層が劣化し易く、耐溶損特性が低下し、一方、第1層の厚みが20μm超では、加熱および冷却を繰り返し受けた際に表面亀裂(いわゆるヒートチェック)が生じ易くなるため、これらを除いた前記範囲としたものである。
また、前記金属層の厚みが2μmを越えると、その効果が飽和し且つコスト高になり易いため、これを除いた前記範囲としたものである。
【0014】
加えて、本発明には、前記酸化処理する工程は、500〜600℃の酸化性雰囲気の炉内で保持するか、あるいは500〜600℃のソルトバス中に浸漬することで行われる、ダイカスト金型の表面処理方法(請求項6)も含まれる。
これによれば、前記第1層の表層、前記第2層、または第2層の表層に対し、酸化層を確実に生成ないし被覆でき、且つ耐溶損特性の低下を防止できると共に、ダイカスト金型の硬度を保つことも可能となる。
上記加熱温度の下限が500℃未満では、第2層となるダイカスト金属の酸化が不十分となって耐焼き付き性が改善できず、一方、上限が600℃超では、金型の硬度が低下し、且つ酸化層が劣化して耐溶損性が低下する。このため、加熱温度帯を上記範囲とした。
尚、上記炉には、加熱炉のほか、水蒸気を付加するホモ処理炉も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明による第1のダイカスト金型の表面処理方法を示す。
図1の左側に示すように、ダイカスト金型1は、例えば、JIS:SKD61からなり、図示しないキャビティおよび湯道を含む表面2を含んでいる。
上記表面2に対し、図1の中央に示すように、IVA、VA、VIA族の金属(例えば、Ti、Cr、V、Nb、Zr)の炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属(例えば、TiAl)を含む窒化物からなる第1層4をイオンプレーティングにより被覆する。係る第1層4の厚みは、1〜20μmであり、上記炭化物、窒化物、炭窒化物の単層または複層からなる。
尚、上記イオンプレーティングする場合、イオン化した金属を加速する電界電圧は、望ましくは10〜500Vであり、この際に用いる反応ガスには、窒素やメタンなどの炭化水素系ガスが用いられ、その分圧は、0.1〜10Paの範囲から適宜選択される。また、予め、ダイカスト金型1の表面2に対しイオン照射する場合、Ti、Cr、V、Nb、またはZrの金属イオンやArイオンを用いる際、係るイオンを加速する電界電圧は、望ましくは500〜2000Vである。
【0016】
次いで、前記第1層4の表層に対して、酸化処理を施す。
係る酸化処理は、第1層4が被覆されたダイカスト金型1を、500〜600℃の酸化性雰囲気の炉内で保持するか、あるいは500〜600℃のソルトバス(塩浴)中に浸漬することで行われる。
その結果、図1の右側に示すように、第1層4の表層に、係る第1層4を構成していたIVA、VA、VIA族の金属、Si、またはAlの何れかの酸化層5からなる第2層6が生成・被覆される。
尚、上記酸化層5は、IVA、VA、VIA族の金属、Si、またはAlの酸化物の一種または二種以上で構成され、表面酸素濃度が20〜80原子%のものである。
以上のような第1の表面処理方法によれば、比較的簡素で且つ少ない工程数により、所要の厚みを有する第1層4および第2層6を被覆することが可能となる。
更に、得られた第1層4と第2層6が被覆された第1のダイカスト金型1は、Alなどの溶融金属との濡れによる焼け付きを抑制できると共に、第2層6および第1層4が化学的に安定であるため、耐溶損特性を確実に奏することができる。
【0017】
図2は、本発明による第2のダイカスト金型の表面処理方法を示す。
図2の左側に示すように、前記同様のダイカスト金型1の表面2に対し、前記同様のイオンプレーティングを施す。その結果、図2の中央に示すように、金型1の表面2に、Tiなどの炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、TiなどにSiまたはAlを含む窒化物、例えば、TiAlの窒化物からなる前記同様の第1層4が、1〜20μmの厚みで被覆される。
次いで、図2の右側に示すように、前記第1層4の表面上に、IVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの少なくとも一種以上からなる金属層7をイオンプレーティングによって被覆する。係る金属層7の厚みは、2μm以下に調整されている。尚、上記イオンプレーティングに際し、イオン化したTiなどの金属を加速する電界電圧は、10〜500Vの範囲で適宜選択される。
【0018】
更に、第1層4と金属層7とが被覆されたダイカスト金型1を、前記同様の炉内で保持するか、またはソルトバス中に浸漬して、上記金属層7を酸化処理する。
その結果、前記図2の右下で示すように、金属層7が酸化され、IVA、VA、VIA族の金属、Si、またはAlの何れかの酸化物で構成され、その表面酸素濃度が20〜80原子%である酸化層8を含む第2層9が生成される。
以上のような第2の表面処理方法によれば、所要の厚みを有する第1層4と酸化層8を含む第2層9を確実に被覆できる。しかも、得られた第2のダイカスト金型1は、耐焼付き特性および耐溶損特性を併有するため、安定したダイカスト鋳造が行える。
【実施例】
【0019】
以下において、本発明の具体的な実施例について、比較例と併せて説明する。
予め、JIS:SKD61(熱間工具鋼)からなり、直径11mm×長さ40mmで且つ全体が円柱形を呈する複数の試験片を用意した。
次いで、上記各試験片の硬度が43HRCになるように、同じ調質を施した。
次に、上記調質された各試験片の表面に対し、アーク式イオンプレーティング法により、表1中に示す単層または複層の窒化物、炭化物、または炭窒化物からなり、( )内の厚みを有する第1層を被覆した。上記イオンプレーティングでの電界電圧は、50〜300V、反応ガスの窒素やメタンの分圧は、1〜10Paであった。また、一部の試験片には、表1に示す厚みの金属層を更に被覆した。
更に、第1層などが被覆された各試験片の一部を、加熱炉内に装入し、大気中で、あるいはソルトバス中に、表1中に示す温度・時間に加熱・保持して、上記第1層の表層に対して酸化処理を行った。尚、係る酸化処理の前における各試験片の表面酸素濃度は、0〜約10原子%であった。
上記酸化処理された試験片を実施例1〜18とし、これらの最表層に生成された酸化層の表面酸素濃度を表1中に示した。尚、係る酸素濃度は、発光分光分析によって測定した。一方、酸化処理を省略した試験片を比較例1〜3とした。
【0020】
【表1】

【0021】
前記実施例1〜18および比較例1〜3に対し、図3に示す溶損試験装置10を用いて、それぞれ溶損試験を行った。
溶損試験装置10は、図3に示すように、フロアFLから垂直に立設する支柱11と、係る支柱11にスライダ12を介して昇降自在に支持されたアーム13と、係るアーム13の先端付近から垂下し、モータMによって回転される回転軸14と、係る回転軸14の下端に固定した円盤15に対し、偏心した位置で下向きに取り付けられたホルダ16を備えている。係るホルダ16を含む円盤15の下方には、フロアFL上に設置された断熱槽18の内側に、ヒータhを外周面に沿って螺旋状に巻き付けた保持炉17が位置している。係る保持炉17では、アルミニウム合金(ダイカスト合金)の溶湯Lが一定温度に加熱・保持されている。
【0022】
図3に示すように、前記ホルダ16に試験片pの上端部を固定し、係る試験片pを円盤15および回転軸14と共に回転し、これらをスライダ12により下降させ、上記溶湯L中に試験片pを所定時間浸漬して、溶損した重量を測定した。
溶損試験において、溶湯Lには、JIS:ADC12の鋳造用アルミニウム合金を用い、これを750℃に加熱・保持すると共に、回転軸14の回転数を200回/分とし、各例の試験片pを全て5時間にわたり溶湯L中に浸漬した。
浸漬前と上記浸漬後とにおける各例の試験片pの重量を測定し、重量差の有無および重量差の割合(wt%)を表1中に示した。
【0023】
更に、別途に用意した前記と同じ実施例1〜18および比較例1〜3の試験片pを、前記アルミニウム合金の溶湯L中に、30秒間浸漬してから引き上げ、それらの表面に付着したアルミニウム合金の凝固膜を、ウェスによって可能な限り除去した後に、上記凝固膜が残っていたか否かを目視で観察することで、耐焼付き特性を評価した。
表1によれば、溶損率(wt%)では、実施例1が2.4wt%、実施例2が1.3wt%、実施例4が0.1wt%、実施例17が5.3wt%と少なく、実施例3,5〜16,18では全く溶損を生じていなかった。
これに対し、比較例2,3の溶損率は、13wt%,48wt%と顕著に高かった。尚、比較例1には、溶損が生じていなかった。
【0024】
また、表1によれば、実施例1〜16では、全てが凝固したアルミニウム合金の凝固膜が殆ど除去され(表面積で10%以下:表1中で○)、実施例17,18でも僅かな付着(表面積で20%以下:表1中で△)に留まったのに対し、比較例1〜3では、係る凝固膜が顕著に残っていた(表面積で80%以上:表1中で×)。
以上の結果は、実施例1〜16は、表面に前記第1層および第2層を被覆されていたため、優れた耐焼付き特性および耐溶損性を発揮した、ものと推定される。
また、実施例17は、酸化処理温度が650℃と高過ぎたため、焼付き部分で僅かな溶損を生じ、実施例18は、酸化処理温度が470℃と低過ぎたため、十分な酸化層が生成されず、僅かな焼付きを生じた、ものと推定される。
一方、比較例1〜3は、表面に前記第1層のみが被覆されことにより、耐焼付き特性および耐溶損性の一方または双方を発揮することができなかった、ものと推定される。
係る実施例1〜18によって、本発明の効果が裏付けられたことが容易に理解されよう。
尚、本発明は、実施例1〜18で示した第1層および第2層に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による第1の表面処理方法とこれにより得られるダイカスト金型との概略を示す部分断面図。
【図2】本発明による第2の表面処理方法の概略を示す部分断面図。
【図3】実施例および比較例に用いた溶損試験装置を示す概略図。
【符号の説明】
【0026】
1………ダイカスト金型
2………表面
4………第1層
5,8…酸化層
6,9…第2層
7………金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型であって、
上記ダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に被覆され、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層と、
上記第1層を酸化処理して表層に形成されたIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化層の少なくとも一種以上を含む第2層と、を備えている、
ことを特徴とするダイカスト金型。
【請求項2】
溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型であって、
上記ダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に被覆され、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層と、
上記第1層の表面上に被覆したIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの少なくとも一種以上の金属層を酸化処理して形成されたIVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの酸化層の少なくとも一種以上を含む第2層と、を備えている、
ことを特徴とするダイカスト金型。
【請求項3】
溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に対し、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む炭窒化物からなる単層または複層の第1層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、
上記第1層の表層を酸化処理して酸化層を形成する工程と、を含む、
ことを特徴とするダイカスト金型の表面処理方法。
【請求項4】
溶融金属の鋳造に用いられるダイカスト金型における表面のうち、少なくともキャビティを含む表面に対し、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物、あるいは、IVA、VA、VIA族の金属の一種または二種以上にSiまたはAlを含む窒化物からなる単層または複層の第1層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、
上記第1層の表面上に、IVA、VA、VIA族の金属、Si、およびAlの少なくとも一種以上からなる金属層をイオンプレーティングにより被覆する工程と、
上記金属層の少なくとも表層を酸化処理して酸化層を形成する工程と、を含む、
ことを特徴とするダイカスト金型の表面処理方法。
【請求項5】
前記第1層の厚みは、1〜20μmであり、前記金属層の厚みは、2μm以下である、
ことを特徴とする請求項4に記載のダイカスト金型の表面処理方法。
【請求項6】
前記酸化処理する工程は、500〜600℃の酸化性雰囲気の炉内で保持するか、あるいは500〜600℃のソルトバス中に浸漬することで行われる、
ことを特徴とする請求項3〜5の何れか一項に記載のダイカスト金型の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−188608(P2008−188608A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23660(P2007−23660)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(592199593)大同アミスター株式会社 (14)
【Fターム(参考)】