ディーゼルエンジンの排気浄化装置
【課題】DPF再生を一時中断してアイドルストップを実施することで、アイドルストップの機会・頻度の低下を抑制しつつ、アイドルストップ中にDPFを高温に保持して、アイドルストップからのエンジンの自動再始動時に速やかにDPF再生を再開できるようにする。
【解決手段】DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開する。アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくともアイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるように、アイドル運転への移行時期a0からアイドルストップの開始時期a1までの間、アイドルストップの実行を遅らせる。
【解決手段】DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開する。アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくともアイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるように、アイドル運転への移行時期a0からアイドルストップの開始時期a1までの間、アイドルストップの実行を遅らせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し、特に、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFとも呼ぶ)の再生に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アイドル運転ではエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンにおいて、ポスト噴射によるDPF再生中にアイドル運転へ移行した場合には、DPF再生が完了するまでアイドルストップを禁止し、アイドル運転でのDPF再生を継続している。この理由は、DPF再生中にアイドルストップを行い、DPF再生を中断すると、DPFの温度が著しく低下するために、DPF再生を完了するまでに多大な時間やエネルギーを要する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4012043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようにDPF再生中にアイドル運転へ移行した場合、DPF再生が完了するまでアイドルストップを禁止するものでは、アイドルストップを行う機会・頻度が低下し、アイドルストップによる排気浄化や燃費向上の効果が目減りしてしまう。
【0005】
ところで、DPF再生中にアイドルストップへ移行した場合、上記の特許文献1ではDPF温度は著しく低下すると記載されているが、本発明者等の鋭意研究により、実際には、DPF再生中にアイドル運転へ移行すると、直前までDPF再生が行われているためにDPF温度は既に再生可能温度まで高まっており、かつ、アイドル運転では空気過剰率が高く酸素濃度が高くなるために、DPF内に残存する煤(soot)等を含むパティキュレートの酸化反応が促進されて一時的に温度が上昇し、その後にDPF温度が低下していくことを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明では、アイドル運転中に所定のアイドルストップ条件が成立するとエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置において、排気中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタが排気系に設けられ、所定のDPF再生条件が成立すると、上記ディーゼルパティキュレートフィルタを昇温してディーゼルパティキュレートフィルタのDPF再生を行う。このDPF再生中にアイドル運転へ移行する場合には、上記DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開する。そして、DPF再生中にアイドル運転へ移行したときには、上記アイドルストップ条件が成立していても、上記アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくとも上記アイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるまで、アイドルストップの実行を遅らせることを特徴としている。
【0007】
このように本発明では、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF再生を一時的に中断するとともに、DPF温度が上昇するようにアイドルストップの実行を遅らせて、所定の遅延時間、アイドル運転を継続した後にアイドルストップを行う。これにより、アイドルストップ開始時のDPF温度を高温状態とすることが可能となる。アイドルストップ中にはガス流れがないためにDPF温度が大きく低下することはなく、その後のエンジンの自動再始動後には、DPF温度が比較的高い温度に維持されることとなるために、DPF再生を速やかに再開することが可能となり、DPF再生可能温度に昇温するための時間やエネルギーを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合にも、DPF再生を一時的に中断してアイドルストップを行うようにしたので、アイドルストップを行う機会・頻度が高くなり、アイドルストップによる所期の排気浄化効果や燃費向上効果を得ることができる。
【0009】
更に本発明では、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF温度が上昇するようにアイドルストップの実行を遅らせて、所定の遅延時間、アイドル運転を継続した後にアイドルストップを行うことで、DPF温度が比較的高い温度に維持されるため、その後のエンジンの自動再始動後に、DPF再生を速やかに再開することが可能となり、DPFの昇温に必要な時間やエネルギーを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置を示す概略構成図。
【図2】上記実施例の制御の流れを示すフローチャート。
【図3】図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図4】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図5】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図6】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図7】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図8】DPF温度(上段)とエンジン回転速度(下段)の変化を示すタイミングチャート。
【図9】DPF温度に応じた結晶性の成長を示す説明図。
【図10】DPF温度と燃料性状に応じた結晶性が結晶性しきい値に達するまでの時間を示す説明図。
【図11】DPF温度低下促進制御におけるDPF温度(上段)とエンジン回転速度(下段)の変化を示すタイミングチャート。
【図12】DPF再生時における目標吸入空気量の設定マップを示す特性図。
【図13】DPF再生終了(開始)時期の排気圧力の判定値を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態を適用するディーゼルエンジンのシステム構成図である。1はディーゼルエンジン本体、2は各気筒の燃料噴射弁、3は高圧の燃料を蓄える蓄圧室を有する燃料噴射装置(以下、コモンレール式燃料噴射装置という)、4は吸気コレクタ、5は吸気通路、10は排気通路、9は目標再生温度の設定や再生処理時の昇温制御等、後述するような種々の制御を記憶及び実行するコントロールユニット、14はディーゼルエンジン本体1の駆動力を駆動軸に伝達する変速機である。なお、変速機14は有段変速機、無段変速機のいずれであっても構わない。
【0012】
燃料噴射弁2には、コモンレール式燃料噴射装置3によって高圧燃料が供給される。また、各燃料噴射弁2はコントロールユニット(ECU)9からの噴射信号に応じて開閉動作し、高圧燃料を気筒内に噴射する。ディーゼルエンジン本体1の各吸気ポートに接続する吸気コレクタ4には、吸気通路5が接続し、吸気通路5には、上流側からの過給のための可変ノズル式ターボチャージャ6のコンプレッサ6a、加圧されて高温となった空気を冷却するインタークーラ7、吸気量を制御する吸気絞り弁8を配置する。また、排気通路10には、その上流側から、可変ノズル式ターボチャージャ6のタービン6b、排気中の未燃焼成分を酸化処理する貴金属を担時した酸化触媒11、排気中のNOxをトラップする吸着型NOx触媒12、排気中のPM(パティキュレート)を補集するパティュレートフィルタ(DPF)13を順次配置する。また、排気通路10のタービン6bの上流から分岐して吸気コレクタ4に接続するEGR通路15を設け、このEGR通路15にはEGR弁16を設置し、運転条件に応じて吸気中に還流する排気量を制御する。
【0013】
ECU9には、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ17、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ18、また排気通路10の酸化触媒11とDPF13との間の排気圧力、つまりDPF13の上流側の排気圧力を検出する排気圧センサ19、DPF13の下流の排気空燃比を検出する排気空燃比センサ20、DPF13の触媒床下温度、すなわちDPF温度を検出する温度センサ21、吸着型NOx触媒12の温度を検出する温度センサ22からの各検出信号の他、DPF13内のPM堆積量などが入力される。そして、これら検出信号に基づいて可変ノズル式ターボチャージャ6の可変ノズルベーンの開度を制御するための信号、EGR弁16の開度を制御するための信号、吸気絞り弁8の開度を制御するための信号、燃料噴射弁2による燃料噴射量を制御するための信号、DPF13の再生時期を判断し、DPF再生のための排気温度上昇に必要な燃料供給をする燃料噴射弁2を作動させるための信号等をそれぞれ演算し、出力する。
【0014】
次に、DPF13の再生制御、特に、アイドルストップを行う場合のDPF13の再生・中断制御について、図2〜図7を参照して説明する。図2はDPF13の再生制御のためのECU9が実行するメインルーチンを表すフローチャートである。なお、この制御ルーチンは一定周期毎、例えば10msごとに繰り返し実行される。
【0015】
ステップS1では、エンジン運転状態としてエンジン回転速度センサ17及びアクセル開度センサ18の検出信号などを読み込む。
【0016】
ステップS2では、DPF13内のPM堆積量を推定する。推定方法は一般的に知られている方法を用いることができ、例えば、排気圧力とPM堆積量との関係を予めマップ化しておき、排気圧センサ19により検出される排気圧力を用いてマップ検索する方法や、エンジン回転速度及びエンジン負荷(燃料噴射量)とPM排出量との関係を予めマップ化しておき、前回のDPF再生からのPM排出量を積算する方法等を用いることができる。
【0017】
ステップS3では、アイドル運転フラグST_IDELが「0」であるかを判定する。このアイドル運転フラグST_IDELは、アイドル運転時には「1」に設定され、非アイドル運転時には「0」に設定される。アイドル運転中であればステップS3が否定されて図3のサブルーチンへ進み、アイドル運転中でなければ、ステップS3が肯定されて、ステップS4へ進む。
【0018】
ステップS4では、DPF再生モード中であるか否かを示すフラグ(reg)が「0」であるか否かを判定する。このフラグregは、DPF再生中には「1」に設定され、非DPF再生中には「0」に設定される。DPF再生は、周知のように、DPFを継続的に使用するために、捕集されたPM(主に煤)を燃焼などの手法により定期的に除去するものであって、この実施例では公知の酸化触媒11とポスト噴射とを組み合わせたDPF再生を行っている。ポスト噴射は、圧縮上死点付近での燃料のメイン噴射後に圧縮上死点よりも遅い非着火タイミングでポスト噴射を行い、排気温度を高めるものである。但し、DPF再生の手法としてはこれに限らず、ヒータなどを用いた手法などであっても良い。DPF再生モード中であればステップS4が否定されて図4のサブルーチンへ進み、DPF再生モード中でなければ、ステップS4が肯定されて、ステップS5へ進む。
【0019】
ステップS5では、低温化促進処理中に「1」とされる低温化促進フラグDPF_T_downが「0」であるか否かを判定する。ここで、低温化促進処理とは、PMの結晶性の急激な成長を抑制するために、DPF再生からのアイドル運転中におけるDPFの温度低下を促進するものであり、この実施例では、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を高めることで、低温のガスを多くDPFに供給し、DPF温度をすばやく低下させている。低温化促進中であればステップS5が否定されて図5のサブルーチンへ進み、低温化促進中であれば、ステップS5が肯定されて、ステップS6へ進む。
【0020】
ステップS6では、機関停止(アイドルストップ)要求のあるとき、つまりアイドルストップ条件が成立するときに「1」とされる機関停止フラグが「0」であるか否かを判定する。アイドルストップによる機関停止要求があればステップS6が否定されて図6のサブルーチンへ進み、機関停止要求がなければステップS6が肯定されてステップS7へ進む。図6を参照して、機関停止フラグが「1」であれば、ステップS401において、機関停止すなわちアイドルストップを開始する。すなわち、燃料噴射を停止する。そして、ステップS402において、この機関停止フラグを「0」に設定する。なお、このステップS6及び図6のサブルーチンに関する処理内容は、ステップS3,S4が肯定された状況、すなわち非アイドル運転かつ非DPF再生中の状況で、機関停止要求が出力される場合を想定したものであって、後述するようにDPF再生を一時中断して行われるアイドルストップに関する処理内容については、図3のステップS103〜S106のものとなる。また、後述するDPFのPMの結晶性の推定に用いるために、DPF再生からのアイドルストップ中にはDPF温度及びアイドルストップ期間が終始モニタされ、適宜なメモリに格納される。
【0021】
ステップS7では、DPFの再生開始時期を判定するために、PM堆積量が所定値PM1以下であるかを判定する。PM堆積量が所定値PM1を超えていると、DPFの再生時期であると判断し、ステップS7が否定されて図7のサブルーチンへ進み、ステップS501において、DPF再生モードフラグregを「1」に設定する。これによりDPFの再生要求が出力されて、DPF再生が開始することになる。PM堆積量が所定値PM1以下であれば、ステップS7が肯定されて本ルーチンを終了する。
【0022】
図3は、アイドル運転中における処理内容を示すサブルーチンである。ステップS101では、上記のDPF再生モードのフラグregが「0」であるか否かを判定する。DPF再生モード中でなければ、このステップS101が否定されてステップ102へ進み、DPF再生モード中であれば、ステップS103へ進む。
【0023】
ステップS102では、機関停止フラグを「1」に設定する。すなわち、非DPF再生中におけるアイドル運転時には、速やかにアイドルストップ要求が出力されて、アイドルストップが開始されることとなる。
【0024】
ステップS103では、PMの結晶性の成長・進行度合いに相当するPM結晶性T_issが所定の結晶性しきい値T_iss_OK未満であるかを判定する。PMの結晶性は、DPF中のPMが受ける熱量・熱暴露量の総量に対応するもので、高温化でのアイドルストップ時間が長くなると、PMの結晶性がある時点(結晶性しきい値T_iss_OKの近傍)を境に急激に成長・進行し、PMの難燃性が高くなって、DPF再生に悪影響を与える。つまり、この結晶性しきい値T_iss_OKは、PMの結晶性が急激に成長・進行してDPF再生効率に悪影響を及ぼすことのないように、このPMの結晶性が急激に成長・進行する値よりも適宜に低い値に設定されるものである。PM結晶性T_issが結晶性しきい値T_iss_OK未満であればステップS105へ進み、PM結晶性T_issが結晶性しきい値T_iss_OK以上であればステップS104へ進む。
【0025】
ステップS104では、PM結晶度が結晶性しきい値T_iss_OK以上であり、これ以上アイドルストップを継続すると、PMの結晶性が急激に成長すると判断して、DPF温度を低下させるために、低温化促進フラグDPF_T_downを「1」に設定する。これにより、アイドルストップを行うことなく、つまりアイドル運転を継続しつつ、DPFの低温化促進処理が実施されることになる。
【0026】
ステップS105では、DPF再生状態からアイドル運転への移行時に、DPF温度T_DPFが、少なくともアイドル運転へ以降したときのDPF温度よりも高い所定温度T_DPF_Idを超えているか否かを判定する。
【0027】
DPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idを超えていなければ、DPF温度が十分に高まっていないとして、アイドル運転を継続し、DPF温度を上昇させる。つまり本実施例では、DPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idよりも高くなるように、アイドル運転への移行時期からアイドルストップの開始時期までの間に、所定の遅延期間ΔT1を設けている(図8参照)。
【0028】
そして、アイドル運転を行うことによってDPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idに達すると、ステップS105が否定されてステップS106へ進み、機関停止フラグが「1」に設定され、これによりアイドルストップが開始されることとなる。
【0029】
なお、上記のステップS105においては、例えば現在のDPF温度と一演算前のDPF温度との比較により、DPF温度が上昇から下降に変化する時点、つまりアイドル運転によるDPF温度が最も上昇するピーク温度を検出し、このピーク温度の時点でアイドルストップを開始するようにしても良い。あるいは、より簡易的に、アイドル運転への移行から一定の遅延時間ΔT1が経過した時点でアイドルストップを開始するようにしても良い。
【0030】
図4は、DPF再生中の処理内容についてのサブルーチンである。ステップS201では、DPFのPM堆積量(捕集量)に応じて排気空燃比(排気λ)を制御する。例えば、目標の排気λが得られるように、図12に示すようなマップを参照して、エンジン回転速度NeとトルクTeに応じて吸気絞り弁8を使って吸入空気量を制御する。
【0031】
ステップS202では、DPF温度が再生中の上限値T1以下であるかを判定する。DPF温度が上限値T1を超えている場合、ステップS208へ進み、DPF温度を下げるために、DPF再生のためのポスト(Post)噴射量を所定量減量する。ステップS203では、DPF温度が再生中の下限値T2以上であるかを判定する。DPF温度が下限値T2よりも低くなると、ステップS207へ進み、DPF温度を上げるために、ポスト(Post)噴射量を所定量増量する。このようにDPF再生中にはDPF温度が適正な温度範囲(T1−T2)に収まるように、ポスト噴射量の増減が行われる。
【0032】
ステップS204では、DPF再生時間t1が所定時間tdpfreg以上となったかを判定する。DPF再生時間t1が所定時間tdpfregに達すると、DPFに捕集されたPMが十分に燃焼除去されたと判断して、ステップS205に進み、ポスト噴射を中止して、DPF再生を終了し、ステップS206においてDPF再生モードフラグを「0」に設定する。なお、DPF再生の終了判定は、これに限らず、例えば排気圧力が所定値より低下したらDPFの再生を終了するようにしても良い。
【0033】
なお、図13は、DPF再生開始時期(あるいは、DPF再生終了時期)判定用の排気圧力のしきい値の設定マップの一例を示している。なお、DPF再生開始時期判断用とDPF再生終了時期判断用とでしきい値の値は異なるため、個別の設定マップが与えられることとなる。
【0034】
図5は、PMの結晶性の急激な成長・進行を抑制するための、DPF温度の低下促進処理を示すサブルーチンである。ステップS301では、DPFを通流する排気ガス量を増加させてDPF温度の低下を促進するために、アイドル回転速度を高める。つまり、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を増加側へ補正する。
【0035】
ステップS302では、DPF温度T_DPFが、結晶性の成長を抑制し得る所定温度T_stop_ok(例えば500〜550度)以下になったかを判定する。DPF温度T_DPFが所定温度T_stop_ok以下まで低下したら、ステップS303において、温度抑制フラグDPF_T_downを「0」とし、ステップS304において、機関停止フラグを「1」として、アイドルストップを開始する。このように、DPF再生中にアイドル運転へ移行した場合で、かつ、DPF温度が所定の結晶性しきい値を超えている場合には、DPF温度が所定温度に低下するまでの期間ΔT2(図8参照)、アイドル運転を継続し、かつ、このアイドル運転でのアイドル回転速度を高めて、DPF温度の低下促進を行うことで、DPF温度を速やかに低下させて、DPFの結晶性の成長を抑制・回避することができる。
【0036】
このような本実施例の特徴的な構成及び作用効果について、図面を参照して以下に列記する。
【0037】
(1)図8は、このような本実施例の制御を適用した場合のタイミングチャートである。同図の特性α1に示すように、本実施例においては、DPF再生中にアイドルストップ要求を受けた時期a0からアイドルストップを開始する時期a1までの所定の遅延期間ΔT1、アイドルストップ条件が成立していても、アイドルストップの開始を禁止し、つまりアイドルストップの実行を遅らせて、アイドル運転を継続している。上述したように、アイドル運転では空気過剰率が高いため、過剰な酸素がDPF中のPM、特に煤と酸化反応して、DPF温度が一時的に上昇する。そして、DPF温度が少なくともアイドルストップ要求を受けた時期a0でのDPF温度よりも上昇した時期a1において、アイドルストップを開始する。ポスト噴射によるDPF再生は、少なくともアイドルストップの開始時a1には強制的に中断されることとなるが、アイドルストップ要求を受けた時期a0から中断するようにしても良い。
【0038】
アイドルストップ状態へ移行すると、DPFを排気ガスが流れることがなく、DPFの温度が大きく低下することはないため、高温状態に保持される。従って、アイドルストップからのエンジン自動再始動時には、DPF温度が既にDPF再生温度に達しているか、あるいは十分に高い温度に維持されていることとなり、DPF温度を大幅に昇温させる必要がなく、速やかにDPF再生処理を再開することが可能となる。このように、DPF再生中であってもアイドルストップ要求に応じてアイドルストップを行うことで、DPF再生によってアイドルストップを行う機会・頻度が減少することを抑えつつ、アイドルストップからのエンジン再始動時に、DPF温度を高い温度に維持することで、DPF再生処理を速やかに開始することが可能となり、かつ、DPF温度を再度上昇させるためのエネルギーの損失を抑制することができる。
【0039】
(2)但し、上述したようにDPF温度が高温状態のままでアイドル運転が長く継続されて、DPF中のPMが長い時間、高温状態に晒されると、例えばPM中の煤がアモルファスから難燃性の高いグラファイトへと結晶化して、かえってDPF再生を困難にするおそれがある。そこで本実施例においては、PMの結晶性を推定し、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合であって、かつ、結晶性が急激に成長・進行する所定の結晶性しきい値以下の場合に限り、図8の特性α1に示すように、アイドル運転の開始時期a0から所定の遅延期間ΔT1を設けてDPF温度を上昇させるようにしている。言い換えると、結晶性が結晶性しきい値を超えている場合には、アイドルストップ中におけるDPF温度の昇温処理を禁止している。これにより、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPFの温度上昇によりかえってPMの結晶性が高まってDPF再生が困難になるという事態を確実に抑制・回避することができる。
【0040】
(3)図9に示すように、PMの結晶性(酸化温度)は、PMが受けた累積の熱量・熱暴露時間に大きく依存しており、その特性は、ある値(結晶性しきい値の近傍の値)を境に結晶性が急激に成長する特性となっている。ここで、PM結晶性は、DPF温度によって変化し、DPF温度が高くなるほど大きくなる。従って、図10に示すように、結晶性は、DPF温度が高くなるほど大きくなるように、DPF温度に応じて推定される。例えば、DPF温度が高くなるほど大きくなる係数を乗じて単位時間当たりの結晶性を求め、これをアイドルストップ期間中に積算していくことで、結晶性を精度良く推定することができる。この結果、図9に示すように、DPF温度が高い場合β1(例えば、700℃付近)には、DPF温度が低い場合β2(例えば、550℃付近)に比して、短期間で結晶性が急激に成長することとなり、結晶性しきい値に到達するまでの時間ΔT3が短くなる。
【0041】
(4)また、PMの結晶性は、燃料性状によっても変化し、例えば燃料性状が軽質な(つまり、比重が小さい)ほど、結晶性の成長感度が鈍く、重質な(つまり、比重が大きい)ほど、結晶性の成長が速くなる。そこで、結晶性は、燃料性状が軽質なほど小さくなるように、燃料性状に応じて推定される。従って、図10に示すように、燃料性状が軽質な場合γ1、燃料性状が重質な場合γ2に比して、結晶性の成長・進行が遅くなり、結晶性しきい値に到達するまでの時間が長くなる。
【0042】
(5)更に、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、結晶性が既に結晶性しきい値を超えている場合には、アイドルストップ中におけるDPF温度の昇温処理を禁止して、図8のα2に示すように、DPF温度が、結晶性が大きく成長することのない所定温度T_stop_ok(例えば500〜550度)に低下するまでの所定期間ΔT2、アイドルストップを開始することなくアイドル運転を継続し、DPF温度が所定温度T_stop_okに低下した時点a2で、アイドルストップを開始している(図3のステップS103,S104及び図5参照)。これによって、上述したDPF温度の昇温処理によって、かえってアイドルストップ中にPMの結晶性が急激に成長するという事態を招くことを確実に抑制・回避することができる。
【0043】
(6)更に、このように結晶性が結晶性しきい値を超えている場合には、より積極的にDPF温度を速やかに低下させるために、DPF温度低下促進制御として、アイドル運転におけるエンジン回転速度を高めるようにしている(図5のステップS301参照)。つまり、図11に示すように、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を所定量ΔNe増加させている。これによって、アイドル運転中にDPFを通過するガス量が増えて、DPFの温度低下を促進することができ、DPF温度が所定温度に低下するまでの時間を所定時間ΔT4短縮することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…ディーゼルエンジン本体
2…燃料噴射弁
8…吸気絞り弁
10…コントロールユニット
12…酸化触媒
14…ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し、特に、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFとも呼ぶ)の再生に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アイドル運転ではエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンにおいて、ポスト噴射によるDPF再生中にアイドル運転へ移行した場合には、DPF再生が完了するまでアイドルストップを禁止し、アイドル運転でのDPF再生を継続している。この理由は、DPF再生中にアイドルストップを行い、DPF再生を中断すると、DPFの温度が著しく低下するために、DPF再生を完了するまでに多大な時間やエネルギーを要する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4012043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようにDPF再生中にアイドル運転へ移行した場合、DPF再生が完了するまでアイドルストップを禁止するものでは、アイドルストップを行う機会・頻度が低下し、アイドルストップによる排気浄化や燃費向上の効果が目減りしてしまう。
【0005】
ところで、DPF再生中にアイドルストップへ移行した場合、上記の特許文献1ではDPF温度は著しく低下すると記載されているが、本発明者等の鋭意研究により、実際には、DPF再生中にアイドル運転へ移行すると、直前までDPF再生が行われているためにDPF温度は既に再生可能温度まで高まっており、かつ、アイドル運転では空気過剰率が高く酸素濃度が高くなるために、DPF内に残存する煤(soot)等を含むパティキュレートの酸化反応が促進されて一時的に温度が上昇し、その後にDPF温度が低下していくことを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明では、アイドル運転中に所定のアイドルストップ条件が成立するとエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置において、排気中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタが排気系に設けられ、所定のDPF再生条件が成立すると、上記ディーゼルパティキュレートフィルタを昇温してディーゼルパティキュレートフィルタのDPF再生を行う。このDPF再生中にアイドル運転へ移行する場合には、上記DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開する。そして、DPF再生中にアイドル運転へ移行したときには、上記アイドルストップ条件が成立していても、上記アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくとも上記アイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるまで、アイドルストップの実行を遅らせることを特徴としている。
【0007】
このように本発明では、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF再生を一時的に中断するとともに、DPF温度が上昇するようにアイドルストップの実行を遅らせて、所定の遅延時間、アイドル運転を継続した後にアイドルストップを行う。これにより、アイドルストップ開始時のDPF温度を高温状態とすることが可能となる。アイドルストップ中にはガス流れがないためにDPF温度が大きく低下することはなく、その後のエンジンの自動再始動後には、DPF温度が比較的高い温度に維持されることとなるために、DPF再生を速やかに再開することが可能となり、DPF再生可能温度に昇温するための時間やエネルギーを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合にも、DPF再生を一時的に中断してアイドルストップを行うようにしたので、アイドルストップを行う機会・頻度が高くなり、アイドルストップによる所期の排気浄化効果や燃費向上効果を得ることができる。
【0009】
更に本発明では、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPF温度が上昇するようにアイドルストップの実行を遅らせて、所定の遅延時間、アイドル運転を継続した後にアイドルストップを行うことで、DPF温度が比較的高い温度に維持されるため、その後のエンジンの自動再始動後に、DPF再生を速やかに再開することが可能となり、DPFの昇温に必要な時間やエネルギーを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置を示す概略構成図。
【図2】上記実施例の制御の流れを示すフローチャート。
【図3】図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図4】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図5】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図6】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図7】同じく図2のサブルーチンを示すフローチャート。
【図8】DPF温度(上段)とエンジン回転速度(下段)の変化を示すタイミングチャート。
【図9】DPF温度に応じた結晶性の成長を示す説明図。
【図10】DPF温度と燃料性状に応じた結晶性が結晶性しきい値に達するまでの時間を示す説明図。
【図11】DPF温度低下促進制御におけるDPF温度(上段)とエンジン回転速度(下段)の変化を示すタイミングチャート。
【図12】DPF再生時における目標吸入空気量の設定マップを示す特性図。
【図13】DPF再生終了(開始)時期の排気圧力の判定値を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態を適用するディーゼルエンジンのシステム構成図である。1はディーゼルエンジン本体、2は各気筒の燃料噴射弁、3は高圧の燃料を蓄える蓄圧室を有する燃料噴射装置(以下、コモンレール式燃料噴射装置という)、4は吸気コレクタ、5は吸気通路、10は排気通路、9は目標再生温度の設定や再生処理時の昇温制御等、後述するような種々の制御を記憶及び実行するコントロールユニット、14はディーゼルエンジン本体1の駆動力を駆動軸に伝達する変速機である。なお、変速機14は有段変速機、無段変速機のいずれであっても構わない。
【0012】
燃料噴射弁2には、コモンレール式燃料噴射装置3によって高圧燃料が供給される。また、各燃料噴射弁2はコントロールユニット(ECU)9からの噴射信号に応じて開閉動作し、高圧燃料を気筒内に噴射する。ディーゼルエンジン本体1の各吸気ポートに接続する吸気コレクタ4には、吸気通路5が接続し、吸気通路5には、上流側からの過給のための可変ノズル式ターボチャージャ6のコンプレッサ6a、加圧されて高温となった空気を冷却するインタークーラ7、吸気量を制御する吸気絞り弁8を配置する。また、排気通路10には、その上流側から、可変ノズル式ターボチャージャ6のタービン6b、排気中の未燃焼成分を酸化処理する貴金属を担時した酸化触媒11、排気中のNOxをトラップする吸着型NOx触媒12、排気中のPM(パティキュレート)を補集するパティュレートフィルタ(DPF)13を順次配置する。また、排気通路10のタービン6bの上流から分岐して吸気コレクタ4に接続するEGR通路15を設け、このEGR通路15にはEGR弁16を設置し、運転条件に応じて吸気中に還流する排気量を制御する。
【0013】
ECU9には、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ17、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ18、また排気通路10の酸化触媒11とDPF13との間の排気圧力、つまりDPF13の上流側の排気圧力を検出する排気圧センサ19、DPF13の下流の排気空燃比を検出する排気空燃比センサ20、DPF13の触媒床下温度、すなわちDPF温度を検出する温度センサ21、吸着型NOx触媒12の温度を検出する温度センサ22からの各検出信号の他、DPF13内のPM堆積量などが入力される。そして、これら検出信号に基づいて可変ノズル式ターボチャージャ6の可変ノズルベーンの開度を制御するための信号、EGR弁16の開度を制御するための信号、吸気絞り弁8の開度を制御するための信号、燃料噴射弁2による燃料噴射量を制御するための信号、DPF13の再生時期を判断し、DPF再生のための排気温度上昇に必要な燃料供給をする燃料噴射弁2を作動させるための信号等をそれぞれ演算し、出力する。
【0014】
次に、DPF13の再生制御、特に、アイドルストップを行う場合のDPF13の再生・中断制御について、図2〜図7を参照して説明する。図2はDPF13の再生制御のためのECU9が実行するメインルーチンを表すフローチャートである。なお、この制御ルーチンは一定周期毎、例えば10msごとに繰り返し実行される。
【0015】
ステップS1では、エンジン運転状態としてエンジン回転速度センサ17及びアクセル開度センサ18の検出信号などを読み込む。
【0016】
ステップS2では、DPF13内のPM堆積量を推定する。推定方法は一般的に知られている方法を用いることができ、例えば、排気圧力とPM堆積量との関係を予めマップ化しておき、排気圧センサ19により検出される排気圧力を用いてマップ検索する方法や、エンジン回転速度及びエンジン負荷(燃料噴射量)とPM排出量との関係を予めマップ化しておき、前回のDPF再生からのPM排出量を積算する方法等を用いることができる。
【0017】
ステップS3では、アイドル運転フラグST_IDELが「0」であるかを判定する。このアイドル運転フラグST_IDELは、アイドル運転時には「1」に設定され、非アイドル運転時には「0」に設定される。アイドル運転中であればステップS3が否定されて図3のサブルーチンへ進み、アイドル運転中でなければ、ステップS3が肯定されて、ステップS4へ進む。
【0018】
ステップS4では、DPF再生モード中であるか否かを示すフラグ(reg)が「0」であるか否かを判定する。このフラグregは、DPF再生中には「1」に設定され、非DPF再生中には「0」に設定される。DPF再生は、周知のように、DPFを継続的に使用するために、捕集されたPM(主に煤)を燃焼などの手法により定期的に除去するものであって、この実施例では公知の酸化触媒11とポスト噴射とを組み合わせたDPF再生を行っている。ポスト噴射は、圧縮上死点付近での燃料のメイン噴射後に圧縮上死点よりも遅い非着火タイミングでポスト噴射を行い、排気温度を高めるものである。但し、DPF再生の手法としてはこれに限らず、ヒータなどを用いた手法などであっても良い。DPF再生モード中であればステップS4が否定されて図4のサブルーチンへ進み、DPF再生モード中でなければ、ステップS4が肯定されて、ステップS5へ進む。
【0019】
ステップS5では、低温化促進処理中に「1」とされる低温化促進フラグDPF_T_downが「0」であるか否かを判定する。ここで、低温化促進処理とは、PMの結晶性の急激な成長を抑制するために、DPF再生からのアイドル運転中におけるDPFの温度低下を促進するものであり、この実施例では、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を高めることで、低温のガスを多くDPFに供給し、DPF温度をすばやく低下させている。低温化促進中であればステップS5が否定されて図5のサブルーチンへ進み、低温化促進中であれば、ステップS5が肯定されて、ステップS6へ進む。
【0020】
ステップS6では、機関停止(アイドルストップ)要求のあるとき、つまりアイドルストップ条件が成立するときに「1」とされる機関停止フラグが「0」であるか否かを判定する。アイドルストップによる機関停止要求があればステップS6が否定されて図6のサブルーチンへ進み、機関停止要求がなければステップS6が肯定されてステップS7へ進む。図6を参照して、機関停止フラグが「1」であれば、ステップS401において、機関停止すなわちアイドルストップを開始する。すなわち、燃料噴射を停止する。そして、ステップS402において、この機関停止フラグを「0」に設定する。なお、このステップS6及び図6のサブルーチンに関する処理内容は、ステップS3,S4が肯定された状況、すなわち非アイドル運転かつ非DPF再生中の状況で、機関停止要求が出力される場合を想定したものであって、後述するようにDPF再生を一時中断して行われるアイドルストップに関する処理内容については、図3のステップS103〜S106のものとなる。また、後述するDPFのPMの結晶性の推定に用いるために、DPF再生からのアイドルストップ中にはDPF温度及びアイドルストップ期間が終始モニタされ、適宜なメモリに格納される。
【0021】
ステップS7では、DPFの再生開始時期を判定するために、PM堆積量が所定値PM1以下であるかを判定する。PM堆積量が所定値PM1を超えていると、DPFの再生時期であると判断し、ステップS7が否定されて図7のサブルーチンへ進み、ステップS501において、DPF再生モードフラグregを「1」に設定する。これによりDPFの再生要求が出力されて、DPF再生が開始することになる。PM堆積量が所定値PM1以下であれば、ステップS7が肯定されて本ルーチンを終了する。
【0022】
図3は、アイドル運転中における処理内容を示すサブルーチンである。ステップS101では、上記のDPF再生モードのフラグregが「0」であるか否かを判定する。DPF再生モード中でなければ、このステップS101が否定されてステップ102へ進み、DPF再生モード中であれば、ステップS103へ進む。
【0023】
ステップS102では、機関停止フラグを「1」に設定する。すなわち、非DPF再生中におけるアイドル運転時には、速やかにアイドルストップ要求が出力されて、アイドルストップが開始されることとなる。
【0024】
ステップS103では、PMの結晶性の成長・進行度合いに相当するPM結晶性T_issが所定の結晶性しきい値T_iss_OK未満であるかを判定する。PMの結晶性は、DPF中のPMが受ける熱量・熱暴露量の総量に対応するもので、高温化でのアイドルストップ時間が長くなると、PMの結晶性がある時点(結晶性しきい値T_iss_OKの近傍)を境に急激に成長・進行し、PMの難燃性が高くなって、DPF再生に悪影響を与える。つまり、この結晶性しきい値T_iss_OKは、PMの結晶性が急激に成長・進行してDPF再生効率に悪影響を及ぼすことのないように、このPMの結晶性が急激に成長・進行する値よりも適宜に低い値に設定されるものである。PM結晶性T_issが結晶性しきい値T_iss_OK未満であればステップS105へ進み、PM結晶性T_issが結晶性しきい値T_iss_OK以上であればステップS104へ進む。
【0025】
ステップS104では、PM結晶度が結晶性しきい値T_iss_OK以上であり、これ以上アイドルストップを継続すると、PMの結晶性が急激に成長すると判断して、DPF温度を低下させるために、低温化促進フラグDPF_T_downを「1」に設定する。これにより、アイドルストップを行うことなく、つまりアイドル運転を継続しつつ、DPFの低温化促進処理が実施されることになる。
【0026】
ステップS105では、DPF再生状態からアイドル運転への移行時に、DPF温度T_DPFが、少なくともアイドル運転へ以降したときのDPF温度よりも高い所定温度T_DPF_Idを超えているか否かを判定する。
【0027】
DPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idを超えていなければ、DPF温度が十分に高まっていないとして、アイドル運転を継続し、DPF温度を上昇させる。つまり本実施例では、DPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idよりも高くなるように、アイドル運転への移行時期からアイドルストップの開始時期までの間に、所定の遅延期間ΔT1を設けている(図8参照)。
【0028】
そして、アイドル運転を行うことによってDPF温度T_DPFが所定温度T_DPF_Idに達すると、ステップS105が否定されてステップS106へ進み、機関停止フラグが「1」に設定され、これによりアイドルストップが開始されることとなる。
【0029】
なお、上記のステップS105においては、例えば現在のDPF温度と一演算前のDPF温度との比較により、DPF温度が上昇から下降に変化する時点、つまりアイドル運転によるDPF温度が最も上昇するピーク温度を検出し、このピーク温度の時点でアイドルストップを開始するようにしても良い。あるいは、より簡易的に、アイドル運転への移行から一定の遅延時間ΔT1が経過した時点でアイドルストップを開始するようにしても良い。
【0030】
図4は、DPF再生中の処理内容についてのサブルーチンである。ステップS201では、DPFのPM堆積量(捕集量)に応じて排気空燃比(排気λ)を制御する。例えば、目標の排気λが得られるように、図12に示すようなマップを参照して、エンジン回転速度NeとトルクTeに応じて吸気絞り弁8を使って吸入空気量を制御する。
【0031】
ステップS202では、DPF温度が再生中の上限値T1以下であるかを判定する。DPF温度が上限値T1を超えている場合、ステップS208へ進み、DPF温度を下げるために、DPF再生のためのポスト(Post)噴射量を所定量減量する。ステップS203では、DPF温度が再生中の下限値T2以上であるかを判定する。DPF温度が下限値T2よりも低くなると、ステップS207へ進み、DPF温度を上げるために、ポスト(Post)噴射量を所定量増量する。このようにDPF再生中にはDPF温度が適正な温度範囲(T1−T2)に収まるように、ポスト噴射量の増減が行われる。
【0032】
ステップS204では、DPF再生時間t1が所定時間tdpfreg以上となったかを判定する。DPF再生時間t1が所定時間tdpfregに達すると、DPFに捕集されたPMが十分に燃焼除去されたと判断して、ステップS205に進み、ポスト噴射を中止して、DPF再生を終了し、ステップS206においてDPF再生モードフラグを「0」に設定する。なお、DPF再生の終了判定は、これに限らず、例えば排気圧力が所定値より低下したらDPFの再生を終了するようにしても良い。
【0033】
なお、図13は、DPF再生開始時期(あるいは、DPF再生終了時期)判定用の排気圧力のしきい値の設定マップの一例を示している。なお、DPF再生開始時期判断用とDPF再生終了時期判断用とでしきい値の値は異なるため、個別の設定マップが与えられることとなる。
【0034】
図5は、PMの結晶性の急激な成長・進行を抑制するための、DPF温度の低下促進処理を示すサブルーチンである。ステップS301では、DPFを通流する排気ガス量を増加させてDPF温度の低下を促進するために、アイドル回転速度を高める。つまり、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を増加側へ補正する。
【0035】
ステップS302では、DPF温度T_DPFが、結晶性の成長を抑制し得る所定温度T_stop_ok(例えば500〜550度)以下になったかを判定する。DPF温度T_DPFが所定温度T_stop_ok以下まで低下したら、ステップS303において、温度抑制フラグDPF_T_downを「0」とし、ステップS304において、機関停止フラグを「1」として、アイドルストップを開始する。このように、DPF再生中にアイドル運転へ移行した場合で、かつ、DPF温度が所定の結晶性しきい値を超えている場合には、DPF温度が所定温度に低下するまでの期間ΔT2(図8参照)、アイドル運転を継続し、かつ、このアイドル運転でのアイドル回転速度を高めて、DPF温度の低下促進を行うことで、DPF温度を速やかに低下させて、DPFの結晶性の成長を抑制・回避することができる。
【0036】
このような本実施例の特徴的な構成及び作用効果について、図面を参照して以下に列記する。
【0037】
(1)図8は、このような本実施例の制御を適用した場合のタイミングチャートである。同図の特性α1に示すように、本実施例においては、DPF再生中にアイドルストップ要求を受けた時期a0からアイドルストップを開始する時期a1までの所定の遅延期間ΔT1、アイドルストップ条件が成立していても、アイドルストップの開始を禁止し、つまりアイドルストップの実行を遅らせて、アイドル運転を継続している。上述したように、アイドル運転では空気過剰率が高いため、過剰な酸素がDPF中のPM、特に煤と酸化反応して、DPF温度が一時的に上昇する。そして、DPF温度が少なくともアイドルストップ要求を受けた時期a0でのDPF温度よりも上昇した時期a1において、アイドルストップを開始する。ポスト噴射によるDPF再生は、少なくともアイドルストップの開始時a1には強制的に中断されることとなるが、アイドルストップ要求を受けた時期a0から中断するようにしても良い。
【0038】
アイドルストップ状態へ移行すると、DPFを排気ガスが流れることがなく、DPFの温度が大きく低下することはないため、高温状態に保持される。従って、アイドルストップからのエンジン自動再始動時には、DPF温度が既にDPF再生温度に達しているか、あるいは十分に高い温度に維持されていることとなり、DPF温度を大幅に昇温させる必要がなく、速やかにDPF再生処理を再開することが可能となる。このように、DPF再生中であってもアイドルストップ要求に応じてアイドルストップを行うことで、DPF再生によってアイドルストップを行う機会・頻度が減少することを抑えつつ、アイドルストップからのエンジン再始動時に、DPF温度を高い温度に維持することで、DPF再生処理を速やかに開始することが可能となり、かつ、DPF温度を再度上昇させるためのエネルギーの損失を抑制することができる。
【0039】
(2)但し、上述したようにDPF温度が高温状態のままでアイドル運転が長く継続されて、DPF中のPMが長い時間、高温状態に晒されると、例えばPM中の煤がアモルファスから難燃性の高いグラファイトへと結晶化して、かえってDPF再生を困難にするおそれがある。そこで本実施例においては、PMの結晶性を推定し、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合であって、かつ、結晶性が急激に成長・進行する所定の結晶性しきい値以下の場合に限り、図8の特性α1に示すように、アイドル運転の開始時期a0から所定の遅延期間ΔT1を設けてDPF温度を上昇させるようにしている。言い換えると、結晶性が結晶性しきい値を超えている場合には、アイドルストップ中におけるDPF温度の昇温処理を禁止している。これにより、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、DPFの温度上昇によりかえってPMの結晶性が高まってDPF再生が困難になるという事態を確実に抑制・回避することができる。
【0040】
(3)図9に示すように、PMの結晶性(酸化温度)は、PMが受けた累積の熱量・熱暴露時間に大きく依存しており、その特性は、ある値(結晶性しきい値の近傍の値)を境に結晶性が急激に成長する特性となっている。ここで、PM結晶性は、DPF温度によって変化し、DPF温度が高くなるほど大きくなる。従って、図10に示すように、結晶性は、DPF温度が高くなるほど大きくなるように、DPF温度に応じて推定される。例えば、DPF温度が高くなるほど大きくなる係数を乗じて単位時間当たりの結晶性を求め、これをアイドルストップ期間中に積算していくことで、結晶性を精度良く推定することができる。この結果、図9に示すように、DPF温度が高い場合β1(例えば、700℃付近)には、DPF温度が低い場合β2(例えば、550℃付近)に比して、短期間で結晶性が急激に成長することとなり、結晶性しきい値に到達するまでの時間ΔT3が短くなる。
【0041】
(4)また、PMの結晶性は、燃料性状によっても変化し、例えば燃料性状が軽質な(つまり、比重が小さい)ほど、結晶性の成長感度が鈍く、重質な(つまり、比重が大きい)ほど、結晶性の成長が速くなる。そこで、結晶性は、燃料性状が軽質なほど小さくなるように、燃料性状に応じて推定される。従って、図10に示すように、燃料性状が軽質な場合γ1、燃料性状が重質な場合γ2に比して、結晶性の成長・進行が遅くなり、結晶性しきい値に到達するまでの時間が長くなる。
【0042】
(5)更に、DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、結晶性が既に結晶性しきい値を超えている場合には、アイドルストップ中におけるDPF温度の昇温処理を禁止して、図8のα2に示すように、DPF温度が、結晶性が大きく成長することのない所定温度T_stop_ok(例えば500〜550度)に低下するまでの所定期間ΔT2、アイドルストップを開始することなくアイドル運転を継続し、DPF温度が所定温度T_stop_okに低下した時点a2で、アイドルストップを開始している(図3のステップS103,S104及び図5参照)。これによって、上述したDPF温度の昇温処理によって、かえってアイドルストップ中にPMの結晶性が急激に成長するという事態を招くことを確実に抑制・回避することができる。
【0043】
(6)更に、このように結晶性が結晶性しきい値を超えている場合には、より積極的にDPF温度を速やかに低下させるために、DPF温度低下促進制御として、アイドル運転におけるエンジン回転速度を高めるようにしている(図5のステップS301参照)。つまり、図11に示すように、アイドル回転速度制御における目標アイドル回転速度を所定量ΔNe増加させている。これによって、アイドル運転中にDPFを通過するガス量が増えて、DPFの温度低下を促進することができ、DPF温度が所定温度に低下するまでの時間を所定時間ΔT4短縮することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…ディーゼルエンジン本体
2…燃料噴射弁
8…吸気絞り弁
10…コントロールユニット
12…酸化触媒
14…ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のアイドルストップ条件が成立した場合にエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
排気中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタが排気系に設けられ、所定のDPF再生条件が成立すると、上記ディーゼルパティキュレートフィルタを昇温するDPF再生を行うDPF再生手段と、
上記DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開するDPF再生中断・再開手段と、
DPF再生中にアイドル運転へ移行したときには、上記アイドルストップ条件が成立しても、アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくともアイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるまで、アイドルストップの実行を遅延するアイドルストップ遅延手段と、
を有することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
上記ディーゼルパティキュレートフィルタ内のパティキュレートの熱暴露量に対応するパティキュレートの結晶性を推定する結晶性推定手段を有し、
上記アイドルストップ遅延手段は、上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合であって、かつ、上記結晶性が、結晶成長が急速に進行する所定の結晶性しきい値以下の場合に、上記遅延によりDPF温度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
上記結晶性推定手段は、DPF温度が高くなるほど結晶性が大きくなるように、DPF温度に応じて結晶性を推定することを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
上記結晶性推定手段は、燃料性状が軽質なほど結晶性が小さくなるように、燃料性状に応じて結晶性を推定することを特徴とする請求項2又は3に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、上記結晶性が上記結晶性しきい値を超えていれば、上記DPF温度が所定温度以下に低下するまで、上記アイドルストップを開始することなくアイドル運転を継続することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、上記結晶性が上記結晶性しきい値を超えていれば、上記アイドル運転におけるエンジン回転速度を高めることを特徴とする請求項5に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項1】
所定のアイドルストップ条件が成立した場合にエンジンを自動停止するアイドルストップを行うディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
排気中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタが排気系に設けられ、所定のDPF再生条件が成立すると、上記ディーゼルパティキュレートフィルタを昇温するDPF再生を行うDPF再生手段と、
上記DPF再生を中断してアイドルストップを行い、その後のエンジンの自動再始動後にDPF再生を再開するDPF再生中断・再開手段と、
DPF再生中にアイドル運転へ移行したときには、上記アイドルストップ条件が成立しても、アイドルストップの開始時のディーゼルパティキュレートフィルタのDPF温度が、少なくともアイドル運転への移行時のDPF温度よりも高くなるまで、アイドルストップの実行を遅延するアイドルストップ遅延手段と、
を有することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
上記ディーゼルパティキュレートフィルタ内のパティキュレートの熱暴露量に対応するパティキュレートの結晶性を推定する結晶性推定手段を有し、
上記アイドルストップ遅延手段は、上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合であって、かつ、上記結晶性が、結晶成長が急速に進行する所定の結晶性しきい値以下の場合に、上記遅延によりDPF温度を上昇させることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
上記結晶性推定手段は、DPF温度が高くなるほど結晶性が大きくなるように、DPF温度に応じて結晶性を推定することを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
上記結晶性推定手段は、燃料性状が軽質なほど結晶性が小さくなるように、燃料性状に応じて結晶性を推定することを特徴とする請求項2又は3に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項5】
上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、上記結晶性が上記結晶性しきい値を超えていれば、上記DPF温度が所定温度以下に低下するまで、上記アイドルストップを開始することなくアイドル運転を継続することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
上記DPF再生中にアイドル運転へ移行する場合に、上記結晶性が上記結晶性しきい値を超えていれば、上記アイドル運転におけるエンジン回転速度を高めることを特徴とする請求項5に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−7540(P2012−7540A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144512(P2010−144512)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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