トラクタ
【課題】副変速部による車速帯域切替えの操作性改善のみならず、操作性改善を図った主変速部による多段階変速に適用することによってその利点を生かして幅広い車速範囲をカバーした操作性向上を可能とする作業車両の走行変速伝動装置を提供する。
【解決手段】作業車両の走行変速伝動装置は、走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部Cを備えるとともに、これら両者の間に前後進切替部Dと、複数段の主変速部Aと、少なくとも2段の付加変速部Bとを直列伝動していずれも切替クラッチを備えて構成され、上記付加変速部Bは、上記副変速部Cの動力入力位置に配置するとともに、副変速部Cの変速時には、前記付加変速部Bのいずれかの切替クラッチ76を切り動作可能に構成したものである。
【解決手段】作業車両の走行変速伝動装置は、走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部Cを備えるとともに、これら両者の間に前後進切替部Dと、複数段の主変速部Aと、少なくとも2段の付加変速部Bとを直列伝動していずれも切替クラッチを備えて構成され、上記付加変速部Bは、上記副変速部Cの動力入力位置に配置するとともに、副変速部Cの変速時には、前記付加変速部Bのいずれかの切替クラッチ76を切り動作可能に構成したものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を受ける走行用主クラッチと走行車軸に変速動力を出力する副変速部と、その間に前後進切替部、主変速部、付加変速部とを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に示されるように、前後進切替部、主変速部、副変速部を直列構成した走行変速伝動装置をエンジンと走行車軸との間に備える作業車両が知られている。前後進切替部と主変速部は、伝動方向が異なるギヤ列と対応する多板クラッチにより伝動系統を切替え選択して走行方向と変速比を選択でき、また、副変速部は、ギヤシフト操作によりギヤ比の異なる伝動系列をギヤのスライド動作により切替えて速度帯域を切替えることができる。
【0003】
この作業車両の変速伝動装置は、作業内容に応じて副変速部の速度帯域をギヤシフト操作により選択した上で、前後進切替部のクラッチ調節によって発進走行し、主変速部による多段階の速度調節によりその速度帯域における走行速度を選択して適切な車速で作業走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、副変速部のギヤ切替に際しては、その入力側と副変速部との間で回転速度差があるとギヤシフトができないので、回転慣性として作用する副変速部の入力側の主変速部と前後進切替部の回転部分の回転が収まってギヤシフトできるまで時間を要するという問題があり、迅速な操作の妨げとなっていた。
【0006】
この問題は、スイッチ操作によって走行調節できるように主変速部を油圧制御クラッチによって多段階切替えが可能に構成した場合についても同様であり、その上に、多板クラッチによる連れ回りを受けて更に副変速部における操作性の悪化を招くこととなることから、このような副変速部における操作性の問題により、主変速部についてスイッチ操作による操作性の改善効果が生かし切れないという問題を生じていた。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、副変速部による車速帯域切替えの操作性改善のみならず、操作性改善を図った主変速部による多段階変速に適用することによってその利点を生かして幅広い車速範囲をカバーした操作性向上を可能とする作業車両の走行変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、原動機出力を受けてその回転伝動を制御する走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部を備えるとともに、これら両者の間に回転方向を切替える前後進切替部と、複数段階の変速伝動をする主変速部と、少なくとも2段階の変速伝動をする付加変速部とを直列していずれもギヤ比の異なる複数の伝動系列を切替える切替クラッチを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置において、上記付加変速部は、上記副変速部の動力入力位置に配置するとともに、副変速部の変速時には、前記付加変速部のいずれかの切替クラッチを切り動作可能に構成してなることを特徴とする。
【0009】
上記付加変速部における伝動遮断により、直近の副変速部の入力側の回転慣性が小さく抑えられる。
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記副変速部には非伝動の中立状態を検出する中立検出手段を設け、かつ、前記付加変速部の中の副変速部に近い側の切替クラッチについて上記中立検出手段の検出動作に応じて伝動遮断制御することを特徴とする。
【0010】
上記副変速部が中立状態になると、それを検出する中立検出手段を介して付加変速部の出力側の切替クラッチの伝動が遮断され、直近の副変速部の入力側の回転慣性が最小限度に抑えられる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成の作業車両の走行変速伝動装置は、付加変速部における伝動遮断によって副変速部の入力側の回転慣性が小さく抑えられることから、副変速部の変速の際の入力側回転差の調節が容易となるので、副変速部の変速切替がスムーズとなる。したがって、副変速部による車速帯域切替えの操作性の改善のみならず、油圧制御等による主変速部の多段階変速と合わせて適用することによりその利点を生かすことができ、幅広い車速範囲をカバーした操作性向上が可能となる。
【0012】
請求項2の構成の作業車両の走行変速伝動装置は、副変速部が中立状態になると付加変速部の出力側の切替クラッチで伝動が遮断されることから、副変速部の入力側回転慣性が最小限度まで抑えられるので、副変速部の変速の際は、迅速かつスムーズな切替ができる上に、その伝動遮断が副変速部の中立動作と対応することから、走行加減速中における不用意な動力切断を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】作業車両の機体側面図である。
【図2】作業車両の変速伝動装置の伝動系統展開図である。
【図3】ギヤシフト駆動部の平面図である。
【図4】図3のギヤシフト駆動部の正面図である。
【図5】レバーガイドのパターン(a)、操作系構成図(b)である。
【図6】ギヤ比の組合せリストである。
【図7】変速操作部の別の構成例(a)〜(c)である。
【図8】切替レバーの分解斜視図(a)およびその部分拡大図(b)である。
【図9】切替レバーの別の構成例の分解斜視図(a)、部分拡大図(b)、要部拡大構成図である。
【図10】切替えレバーの別の構成例の要部斜視図である。
【図11】変速伝動装置の油圧制御図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の作業車両の1例としての農用トラクタは、機体側面図を図1に示すように、前輪61,61と後輪63,63とを備えた機体前部のボンネット内に原動機としてのエンジン62を搭載し、このエンジン62の回転動力を変速伝動装置Tであるトランスミッションに伝達し、この変速伝動装置Tで適宜変速された動力を前輪61,61と後輪63、63とに伝達するとともに、後部のPTO軸14を介して図示せぬ作業機に出力するように構成している。また、オペレータによる操作のために、変速伝動装置Tの上部に操縦部Hを構成し、不図示の前後進切替レバー、クラッチペダル等の操作部が配置され、制御部により変速制御可能に構成される。
【0015】
変速伝動装置Tは走行動力と作業機動力を変速制御する機構部であり、図2の伝動系統展開図に示すように、走行系はエンジン62から動力を受ける前後進切替部D、主変速部A、付加変速部B、副変速部Cにより差動機構45を介して後輪63,63に伝達し、また、前輪伝動クラッチ(二駆四駆切替クラッチ)67を備えて二駆四駆切替制御可能に差動機構47を介して前輪61,61用動力を分ける。作業機系は、エンジン62から作業機動力を分岐して後部のPTO軸18に伝達制御するPTOクラッチ66、PTO変速部32等から構成される。
【0016】
上記前後進切替部Dは、2つの切替クラッチ60によって前進・後進を切替え、主変速部Aは、4つの切替クラッチ76,76により4段切替え可能に構成し、付加変速部Bは2つの切替クラッチ76によって低速と高速を切替える。これら変速部を含め、変速伝動装置Tの伝動構成およびその油圧制御構成については、別途、詳述する。
(副変速部)
副変速部Cは、図3、図4にギヤシフト駆動部の平面図、正面図をそれぞれ示すように、油圧制御または電磁式のアクチュエータCaによるギヤシフト駆動部を設け、アクチュエータ動作によって切替可能な高低2速のシンクロメッシュ式接続切替えと超低速のクリープ用の各ギヤ35の伝動をシフト切替え可能に構成する。これら作業走行のための「高」「低」「クリープ」の速度帯域のほか、動力伝達のない中立状態である「中立」を切替え可能に構成し、また、中立状態を含むシフトポジションの検出が可能なセンサSを設ける。
【0017】
センサSは、副変速部Cの伝動遮断位置である中立状態を検出する中立検出手段であり、レバーや押しボタンスイッチ等による変速操作によって副変速部Cが「中立」に切替えられた場合は、中立検出手段の検出動作に応じて付加変速部Bを伝動遮断制御し、必要により、前後進切替部Dを合わせて中立位置に切替えるように制御を構成する。
【0018】
上記のように構成した走行変速伝動装置は、副変速部Cの動力入力位置に付加変速部Bを配置するとともに、そのギヤ伝動が、好ましくはその変速出力側で、随時、伝動遮断可能に構成し、さらに、副変速部Cには伝動遮断の中立状態を検出する中立検出手段Sを設け、その中立検出に応じて付加変速部Bを伝動遮断制御することにより、副変速部Cが中立状態においては付加変速部Bの出力側で伝動が遮断される。
【0019】
したがって、直近位置の副変速部Cの入力側の回転慣性が小さく抑えられて副変速部Cの変速の際の入力側回転差の調節が容易となるので、その変速切替がスムーズとなり、副変速部Cによる車速帯域切替えの操作性改善のみならず、油圧制御等による主変速部の多段階変速と合わせて適用することによってその利点を生かすことができ、幅広い車速範囲をカバーした操作性向上が可能となる。
【0020】
この場合、付加変速部Bの伝動遮断が副変速部Cの中立動作と対応させることにより、走行伝動中における不用意な動力切断を防止することができる。
(変速操作部)
変速操作部の構成については、副変速部Cをレバーで操作する場合は、図5(a)に示すように、HパターンのレバーガイドPとし、図5(b)の操作系構成図に示すグリップ部Gに増減スイッチB1,B2を設けた切替レバーLの前後の傾動によって高低2速を切替えるガイドケーブルCcで連結することにより、操作レバー数の低減と操作の簡易を図ることができる。
【0021】
その具体的な変速動作は、主変速部Aを増減ボタンスイッチB1,B2で操作し、付加変速部Bはスイッチで操作し、副変速部Cはレバー操作で切替え、この副変速部CをレバーLで「低速」から「高速」に切替えると、まず、主変速部Aを現在位置から最高速の8速位置に自動変速した後に副変速部Cをアクチュエータ駆動によって切替える。低速に切替える場合は、主変速部Aを現在位置から最低速の1速位置に自動変速した後に副変速部Cをアクチュエータ駆動によって切替える。このような制御処理により、急激な変速ショックを防止することができる。
【0022】
また、クラッチペダルを踏んで入り切りする主クラッチをエンジン62の出力位置に設けて構成する場合においては、クラッチペダル操作の間について自動変速制御を停止することにより、オペレータの意図を反映することができる。そのほか、副変速部Cの変速中においては、主変速部Aの増減変速制御を停止することにより、不用意な変速を防止することができる。
(別の変速操作部)
また、別の構成として、構成例を図7(a)〜(c)に示すように、副変速切替えレバーLに主変速部Aの増減ボタンスイッチB1,B2と、さらに、付加変速部Bの高低切替えスイッチB3を設けることにより、操作性を向上することができる。図7(a)は、押すと「高」に変速される高低切替えスイッチB3をレバーLに集合配置し、図7(b)は、前後方向の操作で「高」「低」交互切替えの高低切替えスイッチB3をレバーLの頂部に配置し、図7(c)は、押すと「高」に変速される高低切替えスイッチB3をレバーLの頂部に配置した例である。
【0023】
副変速部Cの切替レバーLは、図8の分解斜視図(a)およびその部分拡大図(b)に示すように、操縦部HのオペレータシートHaに取付けて構成することにより、シートを前後、上下に動かしても、シートと切替レバーLとの位置関係が維持されてレバーの操作性を向上することができる。スイッチは、増減ボタンスイッチB1,B2と、押すと「高」の高低切替えスイッチB3を集合配置した例である。
【0024】
また、図9の切替レバーの別の構成例の分解斜視図(a)、部分拡大図(b)、要部拡大構成図に示すように、切替レバーLは直線操作とし、中立(N)位置には誤操作防止のためレバーガイド部Gに牽制溝を形成するとともにリミットスイッチSを設け、N位置の時に2段モーション構成として乗降時等の接触による誤操作を防止する。このように、直線操作とすることにより操作性の向上と誤操作の防止を図ることができる。
【0025】
付加変速部Bの変速ギヤ比については、図6のギヤ比の組合せリストに示すように、副変速部Cと一体的な組合せによって「LL」「L」「M」「H」の4段切替えのHパターンのレバーガイドによる一体副変速部として制御構成することができる。
【0026】
この場合において、切替えレバーLは、図10の要部斜視図に示すように、その操作は、付加変速部Bの切替えと対応して直線の操作とすることにより、違和感の無い操作が可能となる。
(変速伝動装置)
以下において、変速伝動装置の伝動構成およびその油圧制御構成について詳細に説明する。
【0027】
本実施例のトラクタの動力伝動系統図を示す前出の図2において、エンジン62は後側に突出のエンジン軸1を有し、このエンジン軸1をクラッチハウジング部の入力軸2に連結する。ミッションケース内の伝動機構を介して後端部の出力軸3及びPTO軸14を連動すると共に、ミッションケースの下部に設けた前輪出力軸5を連動する構成としている。この出力軸3はミッションケース内の後部の略中央部において前後方向に沿うように軸受されて後端にドライブピニオンギヤ53を有し、リヤデフ45のデフリングギヤ46に噛合し、リヤアクスルハウジングに沿って軸装されたリヤデフ軸10と後輪軸11を遊星減速機構を介して連動する。また、前輪出力軸5はミッションケースの下部からエンジン62の下部を経て、フロントアクスルハウジングの中央部に設けられるフロントデフ47の入力軸26に連結され、このフロントアクスルハウジングに沿って軸装されるフロントデフ軸12及び遊星減速機構等を介して前輪軸13へ連動する構成としている。なお、入力軸2から油圧ポンプ80(図11)への動力取り出し用のギヤ駆動軸15,17が入力軸2に並列配置されている。
【0028】
本実施例のトランスミッションは、エンジン軸1によって駆動される入力軸2から入力ギヤ31に連動されるPTO変速カウンタギヤ44を有するPTOカウンタ軸9上にPTOクラッチパック66を設けている。また入力軸2には前後進切替用の前後進切替ギヤ42、42が遊転状態に設けられ、一方の後進側の前後進切替ギヤ42には入力軸2と並列配置されたバックカウンタ軸8に設けられたバックカウンタギヤ43が噛合し、他方の前進側の前後進切替ギヤ42には主変速軸19上に固定した入力ギヤ48と該主変速軸19上に遊転自在に設けた有効径の異なる4つの主変速ギヤ33を設ける。これら4つの主変速ギヤ33は、四段変速に構成され、クラッチパック76によって切替シフトされ、4つの主変速ギヤ33から構成される変速装置を主変速装置Aということにする。
【0029】
前記主変速軸19上には、前記主変速装置Aの4つの主変速ギヤ33のうち、最も有効径の小さい主変速ギヤ33(第1速用)と3番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第3速用)との間にクラッチパック76を固定して設け、2番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第2速用)と最も有効径の大きい主変速ギヤ33(第4速用)との間にクラッチパック76を固定して設ける。前記2つのクラッチパック76には、各主変速ギヤ33を主変速軸19と一体回転するように連結する摩擦クラッチが各々設けられている。
【0030】
また、前後進切替ギヤ42の前進側のギヤと噛合可能な入力ギヤ48は、前後進切替ギヤ42の後進側のギヤともバックカウンタ軸8上のバックカウンタギヤ43と噛み合っており、該前後進切替ギヤ42のうちの前進側のギヤ42と後進側のギヤ42とを、前後独立した摩擦クラッチから成る2つの前後進切替クラッチパック60の切替によって択一的に入力軸2と一体化して、前進走行と後進走行とに切替えられる構成である。後述する油圧シリンダ85(図11)を含めこれらギヤ42とクラッチパック60などからなる構成を前後進クラッチDということにする。
【0031】
また、前後進クラッチDの切替を手動で行う前後進切替レバー115をステアリングハンドル73のポスト部分に設け、クラッチベダル119はハンドルポスト73の足下に設け、クラヅチペダル121はハンドル近傍に設けている。
【0032】
主変速軸19と同軸芯位置に設けられた副変速軸20にはクラッチパック76によって切替シフトされる有効径の異なる2つの高低速切替ギヤ34が設けられており、主変速後の駆動力を更に減速して高速と低速とに切り替えることができる。この高速と低速とに切り替え可能なギヤ構成をハイ・ロー変速装置Bということにする。
【0033】
さらに副変速軸20と同軸上には有効径の異なる3っの副変速ギヤ35を有する出力軸3が配置されている。出力軸3は副変速ギヤ35により三段変速する構成としている。この三段変速可能なギヤ35の構成を副変速装置Cということにする。
【0034】
また、副変速ギヤ35に噛合するクリープカウンタギヤ49を備えたクリープカウンタ軸21が出力軸3に並列位置に設けられている。また主変速ギヤ33や高低速切替ギヤ34等と噛合する主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を有する走行カウンタ軸6が主変速軸19や副変速軸20と並列位置に配置されており、主変速軸19から伝動される回転が主変速ギヤ33で変速されて、その回転が主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を順次経由して副変速軸20に設けられた高低速切替ギヤ34に伝達される。高低速切替ギヤ34に伝達された動力はクラッチパック76を介して副変速軸20上に設けた副変速ギヤ35による変速機構を介して出力軸3に伝達される。
【0035】
本実施例の走行動力伝達系では、PTO正逆切替ギヤ37機構を備えたPTO連動軸4を回転する伝動形態である正逆転PTOを設けている。
また、前記副変速ギヤ35と噛み合う副変速カウンタギヤ38の副変速カウンタ軸27を回転自在に支持すると共に、出力軸3から前輪取出ギヤ36を介して連動される前輪連動ギヤ51を有する前輪連動軸28を設け、この前輪連動軸28の前方延長軸芯上にはPTO減速ギヤ50を有するPTO減速軸23を設けている。さらに、前輪連動軸28の並行位置にPTO連動軸4を設け、該PTO連動軸4と同軸芯上前端部にPTO連動軸4を正転と逆転に切替えるPTO正逆切替ギヤ37のPTO正逆切替軸22と、PTO変速ギヤ32のPTO変速軸18を配置している。
【0036】
また、PTO正逆切替ギヤ37と噛合するPTO逆回転カウンタギヤ52を有するPTO逆回転カウンタ軸24が前記PTO正逆切替軸22の側部に設けられ、PTOクラッチパック66の入りによって、入力軸2からPTO変速ギヤ32、PTO変速カウンタギヤ44及びPTO正逆切替ギヤ37等を介してPTO正逆切替軸22へ動力が伝動するように構成している。前記正逆切替ギヤ37は前記PTO変速ギヤ32と同形態のクラッチリングを用いる形態としている。このPTO正逆切替軸22の側方にはPTO逆回転カウンタギヤ52を有する逆回転カウンタ軸24を設け、PTO逆回転カウンタギヤ52は、PTO減速ギヤ50からの連動を受けてPTO正逆切替ギヤ37を逆回転することができる。なお、前記PTOカウンタ軸9の後方に減速軸23が配置される。
【0037】
更に、ミッションケース内の下段部に配置された前輪出力軸5は、ミッションケースの後部底部に軸装されて、前輪連動軸25やカップリング等を介して前記フロントデフ47の入力軸26へ連結する。この前輪出力軸5の横側には前輪駆動軸7が配置されている。前輪駆動軸7の後端には前輪ギヤ55が設けられている。また、前記出力軸3の後端部の前輪取出ギヤ36に前輪連動軸28上の第1の前輪連動ギヤ51が噛合し、該第1の前輪連動ギヤ51を介して前輪連動軸28に伝達される出力軸3の駆動力は、前輪連動軸28と一体回転する第2の前輪連動ギヤ54に伝達されて、該前輪連動ギヤ54から前輪駆動軸7に伝達される。
【0038】
また前輪駆動クラッチパック67を前輪駆動軸7上に設け、この駆動軸7の前端部から前輪出力軸5ヘギヤ連動する。また、有効径の異なる2つの前輪駆動切替ギヤ41が前輪駆動クラッチパック67の左右に配置されており、該2つの前輪駆動切替ギヤ41は、カウンタ軸59に設けた有効径の異なる2つの切替駆動カウンタギヤ56に各々噛み合わされ、前輪駆動クラッチパック67を択一的に接続することにより、2つの減速比のうちのいずれか一方の減速比で前輪駆動軸7を駆動することができる。
【0039】
前輪駆動クラッチパック67を中立位置にシフトするときは前輪61を駆動させない後輪駆動の二駆形態とし、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて低速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約1倍の等速駆動させる四駆形態とし、また、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて高速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約2倍に増速駆動させる四駆形態とすることによって走行することができる。
【0040】
上記構成からなる噛合式変速装置により、エンジン62の回転動力は主クラッチを構成する前後進クラッチDを経由して4段の変速段からなる主変速装置Aと2段の変速段からなるハイ・ロー変速装置B及び3段の変速段からなる副変速装置Cで合計24段のうちのいずれかの変速段に変速され、得られた回転動力はリヤデフ45を経て後輪63が駆動される。また、前記副変速装置Cで変速された回転動力は前輪駆動クラッチパック(二駆四駆切替クラッチ)67にも伝達され、該クラッチパック67により前輪61が「等速」もしくは「増速」に切り換えられた後、フロントデフ47を経て前輪61が駆動される。
【0041】
また、PTO変速ギヤ32、走行系の主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び副変速ギヤ35等を、ドライブピニオンギヤ53を有する出力軸3の軸芯上に沿って配置する構成とする。走行系の伝動は、入力軸2から出力軸3の軸芯上に配置される主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び複変速ギヤ35等を介してドライブピニオンギヤ53へ多段変速連動される。また、PTO系の変速は、この出力軸3の軸芯上の前端部に設けられるPTO変速ギヤ32を介して連動される。
【0042】
次に本実施例のトラクタの油圧回路図を図11に示す。
図11の油圧回路図では左右の後輪63を独立して制動する左右のブレーキシリンダ83、前輪61へ伝達する動力を「等速」もしくは「増速」に切り換える四駆切換クラッチシリンダ99、ステアリングハンドル73の回転操作により作動するパワーステアリング装置103、PTOクラッチシリンダ104、PTOクラッチ圧力コントロール用バルブ105,106などが設けられている。なお、一点鎖線部分の回路101はメイン油圧回路(作業機昇降・作業機水平や外部油圧取出しなど)となり、サブ回路(走行・ブレーキ・デフロック・PTO側回路)とあまり関係がないため、回路図の図示を省略している。
【0043】
油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81aを介して主変速装置Aの第4速用と第2速用の各ギヤ33をクラッチパック76を介してそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ87と油圧クラッチシリンダ88を切り替える4−2速切替用の変速制御弁89に供給され、さらに主変速装置Aの第1速用と第3速用の各ギヤ33をそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ91と油圧クラッチシリンダ92を切り替える1−3速切替用の変速制御弁93に供給される。
【0044】
減圧弁81aを経由する作動油は、前後進クラッチシリンダ85のオン・オフ制御弁129を介して前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側のクラッチDを切り替える切替弁86に供給される。該前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側のクラッチDのいずれに作動油が供給されているかは前進側クラッチ圧カセンサ110と後進側クラッチ圧カセンサ111で検出できる。
【0045】
同様に、上記及び下記油圧クラッチシリンダに供給される作動油はそれぞれの油圧クラッチシリンダへの入口側の油路に設けた圧カセンサで検知できる構成になっている。
また、油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81bを介してブレーキバルブ82aを経由して左右のブレーキシリンダ83に分岐供給される。前記ブレーキバルブ82aは後輪63を選択する切替制御弁であり、該ブレーキバルブ82aはブレーキカを調整する圧力制御弁82bと一体構成となっている。
【0046】
さらに、減圧弁81bを経由する作動油は、前記第1速〜第4速用の各ギヤ33で変速された速度を「高速」と「低速」の二つのギヤ40のいずれかにクラッチパック76を介して作動させるハイ・ロー油圧クラッチシリンダ95を切り替えるための制御弁96a,96bに供給される。
【0047】
また、減圧弁81bを経由する作動油は、デフロック制御弁97を経てフロントデフ47用の前輪デフロックシリンダ98a及びリアデフ45用の後輪デフロックシリンダ98bに分岐される。
【0048】
さらに、前輪駆動クラッチパック67のギヤ41の切替用の油圧シリンダ99には切替制御弁94を経て前記減圧弁81bを経由する作動油が供給される。
同様に、減圧弁81bを経由する作動油は、PTO用バルブ105,106を介してPTOクラッチシリンダ104に供給され、PTOクラッチの圧力を調整する。
【0049】
また図11に示す油圧ポンプ80からの油圧は、パワステアリングハンドルの操作で作動されるオービットロール107に作動油を供給する構成である。
【符号の説明】
【0050】
35 ギヤ
62 エンジン(原動機)
76 切替クラッチ
A 主変速部
B 付加変速部
B1,B2 増減ボタンスイッチ
B3 高低切替ボタン
C 副変速部
Ca アクチュエータ
D 前後進切替部
L 切替レバー
S センサ(中立検出手段)
T 変速伝動装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を受ける走行用主クラッチと走行車軸に変速動力を出力する副変速部と、その間に前後進切替部、主変速部、付加変速部とを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に示されるように、前後進切替部、主変速部、副変速部を直列構成した走行変速伝動装置をエンジンと走行車軸との間に備える作業車両が知られている。前後進切替部と主変速部は、伝動方向が異なるギヤ列と対応する多板クラッチにより伝動系統を切替え選択して走行方向と変速比を選択でき、また、副変速部は、ギヤシフト操作によりギヤ比の異なる伝動系列をギヤのスライド動作により切替えて速度帯域を切替えることができる。
【0003】
この作業車両の変速伝動装置は、作業内容に応じて副変速部の速度帯域をギヤシフト操作により選択した上で、前後進切替部のクラッチ調節によって発進走行し、主変速部による多段階の速度調節によりその速度帯域における走行速度を選択して適切な車速で作業走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、副変速部のギヤ切替に際しては、その入力側と副変速部との間で回転速度差があるとギヤシフトができないので、回転慣性として作用する副変速部の入力側の主変速部と前後進切替部の回転部分の回転が収まってギヤシフトできるまで時間を要するという問題があり、迅速な操作の妨げとなっていた。
【0006】
この問題は、スイッチ操作によって走行調節できるように主変速部を油圧制御クラッチによって多段階切替えが可能に構成した場合についても同様であり、その上に、多板クラッチによる連れ回りを受けて更に副変速部における操作性の悪化を招くこととなることから、このような副変速部における操作性の問題により、主変速部についてスイッチ操作による操作性の改善効果が生かし切れないという問題を生じていた。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、副変速部による車速帯域切替えの操作性改善のみならず、操作性改善を図った主変速部による多段階変速に適用することによってその利点を生かして幅広い車速範囲をカバーした操作性向上を可能とする作業車両の走行変速伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、原動機出力を受けてその回転伝動を制御する走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部を備えるとともに、これら両者の間に回転方向を切替える前後進切替部と、複数段階の変速伝動をする主変速部と、少なくとも2段階の変速伝動をする付加変速部とを直列していずれもギヤ比の異なる複数の伝動系列を切替える切替クラッチを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置において、上記付加変速部は、上記副変速部の動力入力位置に配置するとともに、副変速部の変速時には、前記付加変速部のいずれかの切替クラッチを切り動作可能に構成してなることを特徴とする。
【0009】
上記付加変速部における伝動遮断により、直近の副変速部の入力側の回転慣性が小さく抑えられる。
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記副変速部には非伝動の中立状態を検出する中立検出手段を設け、かつ、前記付加変速部の中の副変速部に近い側の切替クラッチについて上記中立検出手段の検出動作に応じて伝動遮断制御することを特徴とする。
【0010】
上記副変速部が中立状態になると、それを検出する中立検出手段を介して付加変速部の出力側の切替クラッチの伝動が遮断され、直近の副変速部の入力側の回転慣性が最小限度に抑えられる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成の作業車両の走行変速伝動装置は、付加変速部における伝動遮断によって副変速部の入力側の回転慣性が小さく抑えられることから、副変速部の変速の際の入力側回転差の調節が容易となるので、副変速部の変速切替がスムーズとなる。したがって、副変速部による車速帯域切替えの操作性の改善のみならず、油圧制御等による主変速部の多段階変速と合わせて適用することによりその利点を生かすことができ、幅広い車速範囲をカバーした操作性向上が可能となる。
【0012】
請求項2の構成の作業車両の走行変速伝動装置は、副変速部が中立状態になると付加変速部の出力側の切替クラッチで伝動が遮断されることから、副変速部の入力側回転慣性が最小限度まで抑えられるので、副変速部の変速の際は、迅速かつスムーズな切替ができる上に、その伝動遮断が副変速部の中立動作と対応することから、走行加減速中における不用意な動力切断を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】作業車両の機体側面図である。
【図2】作業車両の変速伝動装置の伝動系統展開図である。
【図3】ギヤシフト駆動部の平面図である。
【図4】図3のギヤシフト駆動部の正面図である。
【図5】レバーガイドのパターン(a)、操作系構成図(b)である。
【図6】ギヤ比の組合せリストである。
【図7】変速操作部の別の構成例(a)〜(c)である。
【図8】切替レバーの分解斜視図(a)およびその部分拡大図(b)である。
【図9】切替レバーの別の構成例の分解斜視図(a)、部分拡大図(b)、要部拡大構成図である。
【図10】切替えレバーの別の構成例の要部斜視図である。
【図11】変速伝動装置の油圧制御図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の作業車両の1例としての農用トラクタは、機体側面図を図1に示すように、前輪61,61と後輪63,63とを備えた機体前部のボンネット内に原動機としてのエンジン62を搭載し、このエンジン62の回転動力を変速伝動装置Tであるトランスミッションに伝達し、この変速伝動装置Tで適宜変速された動力を前輪61,61と後輪63、63とに伝達するとともに、後部のPTO軸14を介して図示せぬ作業機に出力するように構成している。また、オペレータによる操作のために、変速伝動装置Tの上部に操縦部Hを構成し、不図示の前後進切替レバー、クラッチペダル等の操作部が配置され、制御部により変速制御可能に構成される。
【0015】
変速伝動装置Tは走行動力と作業機動力を変速制御する機構部であり、図2の伝動系統展開図に示すように、走行系はエンジン62から動力を受ける前後進切替部D、主変速部A、付加変速部B、副変速部Cにより差動機構45を介して後輪63,63に伝達し、また、前輪伝動クラッチ(二駆四駆切替クラッチ)67を備えて二駆四駆切替制御可能に差動機構47を介して前輪61,61用動力を分ける。作業機系は、エンジン62から作業機動力を分岐して後部のPTO軸18に伝達制御するPTOクラッチ66、PTO変速部32等から構成される。
【0016】
上記前後進切替部Dは、2つの切替クラッチ60によって前進・後進を切替え、主変速部Aは、4つの切替クラッチ76,76により4段切替え可能に構成し、付加変速部Bは2つの切替クラッチ76によって低速と高速を切替える。これら変速部を含め、変速伝動装置Tの伝動構成およびその油圧制御構成については、別途、詳述する。
(副変速部)
副変速部Cは、図3、図4にギヤシフト駆動部の平面図、正面図をそれぞれ示すように、油圧制御または電磁式のアクチュエータCaによるギヤシフト駆動部を設け、アクチュエータ動作によって切替可能な高低2速のシンクロメッシュ式接続切替えと超低速のクリープ用の各ギヤ35の伝動をシフト切替え可能に構成する。これら作業走行のための「高」「低」「クリープ」の速度帯域のほか、動力伝達のない中立状態である「中立」を切替え可能に構成し、また、中立状態を含むシフトポジションの検出が可能なセンサSを設ける。
【0017】
センサSは、副変速部Cの伝動遮断位置である中立状態を検出する中立検出手段であり、レバーや押しボタンスイッチ等による変速操作によって副変速部Cが「中立」に切替えられた場合は、中立検出手段の検出動作に応じて付加変速部Bを伝動遮断制御し、必要により、前後進切替部Dを合わせて中立位置に切替えるように制御を構成する。
【0018】
上記のように構成した走行変速伝動装置は、副変速部Cの動力入力位置に付加変速部Bを配置するとともに、そのギヤ伝動が、好ましくはその変速出力側で、随時、伝動遮断可能に構成し、さらに、副変速部Cには伝動遮断の中立状態を検出する中立検出手段Sを設け、その中立検出に応じて付加変速部Bを伝動遮断制御することにより、副変速部Cが中立状態においては付加変速部Bの出力側で伝動が遮断される。
【0019】
したがって、直近位置の副変速部Cの入力側の回転慣性が小さく抑えられて副変速部Cの変速の際の入力側回転差の調節が容易となるので、その変速切替がスムーズとなり、副変速部Cによる車速帯域切替えの操作性改善のみならず、油圧制御等による主変速部の多段階変速と合わせて適用することによってその利点を生かすことができ、幅広い車速範囲をカバーした操作性向上が可能となる。
【0020】
この場合、付加変速部Bの伝動遮断が副変速部Cの中立動作と対応させることにより、走行伝動中における不用意な動力切断を防止することができる。
(変速操作部)
変速操作部の構成については、副変速部Cをレバーで操作する場合は、図5(a)に示すように、HパターンのレバーガイドPとし、図5(b)の操作系構成図に示すグリップ部Gに増減スイッチB1,B2を設けた切替レバーLの前後の傾動によって高低2速を切替えるガイドケーブルCcで連結することにより、操作レバー数の低減と操作の簡易を図ることができる。
【0021】
その具体的な変速動作は、主変速部Aを増減ボタンスイッチB1,B2で操作し、付加変速部Bはスイッチで操作し、副変速部Cはレバー操作で切替え、この副変速部CをレバーLで「低速」から「高速」に切替えると、まず、主変速部Aを現在位置から最高速の8速位置に自動変速した後に副変速部Cをアクチュエータ駆動によって切替える。低速に切替える場合は、主変速部Aを現在位置から最低速の1速位置に自動変速した後に副変速部Cをアクチュエータ駆動によって切替える。このような制御処理により、急激な変速ショックを防止することができる。
【0022】
また、クラッチペダルを踏んで入り切りする主クラッチをエンジン62の出力位置に設けて構成する場合においては、クラッチペダル操作の間について自動変速制御を停止することにより、オペレータの意図を反映することができる。そのほか、副変速部Cの変速中においては、主変速部Aの増減変速制御を停止することにより、不用意な変速を防止することができる。
(別の変速操作部)
また、別の構成として、構成例を図7(a)〜(c)に示すように、副変速切替えレバーLに主変速部Aの増減ボタンスイッチB1,B2と、さらに、付加変速部Bの高低切替えスイッチB3を設けることにより、操作性を向上することができる。図7(a)は、押すと「高」に変速される高低切替えスイッチB3をレバーLに集合配置し、図7(b)は、前後方向の操作で「高」「低」交互切替えの高低切替えスイッチB3をレバーLの頂部に配置し、図7(c)は、押すと「高」に変速される高低切替えスイッチB3をレバーLの頂部に配置した例である。
【0023】
副変速部Cの切替レバーLは、図8の分解斜視図(a)およびその部分拡大図(b)に示すように、操縦部HのオペレータシートHaに取付けて構成することにより、シートを前後、上下に動かしても、シートと切替レバーLとの位置関係が維持されてレバーの操作性を向上することができる。スイッチは、増減ボタンスイッチB1,B2と、押すと「高」の高低切替えスイッチB3を集合配置した例である。
【0024】
また、図9の切替レバーの別の構成例の分解斜視図(a)、部分拡大図(b)、要部拡大構成図に示すように、切替レバーLは直線操作とし、中立(N)位置には誤操作防止のためレバーガイド部Gに牽制溝を形成するとともにリミットスイッチSを設け、N位置の時に2段モーション構成として乗降時等の接触による誤操作を防止する。このように、直線操作とすることにより操作性の向上と誤操作の防止を図ることができる。
【0025】
付加変速部Bの変速ギヤ比については、図6のギヤ比の組合せリストに示すように、副変速部Cと一体的な組合せによって「LL」「L」「M」「H」の4段切替えのHパターンのレバーガイドによる一体副変速部として制御構成することができる。
【0026】
この場合において、切替えレバーLは、図10の要部斜視図に示すように、その操作は、付加変速部Bの切替えと対応して直線の操作とすることにより、違和感の無い操作が可能となる。
(変速伝動装置)
以下において、変速伝動装置の伝動構成およびその油圧制御構成について詳細に説明する。
【0027】
本実施例のトラクタの動力伝動系統図を示す前出の図2において、エンジン62は後側に突出のエンジン軸1を有し、このエンジン軸1をクラッチハウジング部の入力軸2に連結する。ミッションケース内の伝動機構を介して後端部の出力軸3及びPTO軸14を連動すると共に、ミッションケースの下部に設けた前輪出力軸5を連動する構成としている。この出力軸3はミッションケース内の後部の略中央部において前後方向に沿うように軸受されて後端にドライブピニオンギヤ53を有し、リヤデフ45のデフリングギヤ46に噛合し、リヤアクスルハウジングに沿って軸装されたリヤデフ軸10と後輪軸11を遊星減速機構を介して連動する。また、前輪出力軸5はミッションケースの下部からエンジン62の下部を経て、フロントアクスルハウジングの中央部に設けられるフロントデフ47の入力軸26に連結され、このフロントアクスルハウジングに沿って軸装されるフロントデフ軸12及び遊星減速機構等を介して前輪軸13へ連動する構成としている。なお、入力軸2から油圧ポンプ80(図11)への動力取り出し用のギヤ駆動軸15,17が入力軸2に並列配置されている。
【0028】
本実施例のトランスミッションは、エンジン軸1によって駆動される入力軸2から入力ギヤ31に連動されるPTO変速カウンタギヤ44を有するPTOカウンタ軸9上にPTOクラッチパック66を設けている。また入力軸2には前後進切替用の前後進切替ギヤ42、42が遊転状態に設けられ、一方の後進側の前後進切替ギヤ42には入力軸2と並列配置されたバックカウンタ軸8に設けられたバックカウンタギヤ43が噛合し、他方の前進側の前後進切替ギヤ42には主変速軸19上に固定した入力ギヤ48と該主変速軸19上に遊転自在に設けた有効径の異なる4つの主変速ギヤ33を設ける。これら4つの主変速ギヤ33は、四段変速に構成され、クラッチパック76によって切替シフトされ、4つの主変速ギヤ33から構成される変速装置を主変速装置Aということにする。
【0029】
前記主変速軸19上には、前記主変速装置Aの4つの主変速ギヤ33のうち、最も有効径の小さい主変速ギヤ33(第1速用)と3番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第3速用)との間にクラッチパック76を固定して設け、2番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第2速用)と最も有効径の大きい主変速ギヤ33(第4速用)との間にクラッチパック76を固定して設ける。前記2つのクラッチパック76には、各主変速ギヤ33を主変速軸19と一体回転するように連結する摩擦クラッチが各々設けられている。
【0030】
また、前後進切替ギヤ42の前進側のギヤと噛合可能な入力ギヤ48は、前後進切替ギヤ42の後進側のギヤともバックカウンタ軸8上のバックカウンタギヤ43と噛み合っており、該前後進切替ギヤ42のうちの前進側のギヤ42と後進側のギヤ42とを、前後独立した摩擦クラッチから成る2つの前後進切替クラッチパック60の切替によって択一的に入力軸2と一体化して、前進走行と後進走行とに切替えられる構成である。後述する油圧シリンダ85(図11)を含めこれらギヤ42とクラッチパック60などからなる構成を前後進クラッチDということにする。
【0031】
また、前後進クラッチDの切替を手動で行う前後進切替レバー115をステアリングハンドル73のポスト部分に設け、クラッチベダル119はハンドルポスト73の足下に設け、クラヅチペダル121はハンドル近傍に設けている。
【0032】
主変速軸19と同軸芯位置に設けられた副変速軸20にはクラッチパック76によって切替シフトされる有効径の異なる2つの高低速切替ギヤ34が設けられており、主変速後の駆動力を更に減速して高速と低速とに切り替えることができる。この高速と低速とに切り替え可能なギヤ構成をハイ・ロー変速装置Bということにする。
【0033】
さらに副変速軸20と同軸上には有効径の異なる3っの副変速ギヤ35を有する出力軸3が配置されている。出力軸3は副変速ギヤ35により三段変速する構成としている。この三段変速可能なギヤ35の構成を副変速装置Cということにする。
【0034】
また、副変速ギヤ35に噛合するクリープカウンタギヤ49を備えたクリープカウンタ軸21が出力軸3に並列位置に設けられている。また主変速ギヤ33や高低速切替ギヤ34等と噛合する主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を有する走行カウンタ軸6が主変速軸19や副変速軸20と並列位置に配置されており、主変速軸19から伝動される回転が主変速ギヤ33で変速されて、その回転が主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を順次経由して副変速軸20に設けられた高低速切替ギヤ34に伝達される。高低速切替ギヤ34に伝達された動力はクラッチパック76を介して副変速軸20上に設けた副変速ギヤ35による変速機構を介して出力軸3に伝達される。
【0035】
本実施例の走行動力伝達系では、PTO正逆切替ギヤ37機構を備えたPTO連動軸4を回転する伝動形態である正逆転PTOを設けている。
また、前記副変速ギヤ35と噛み合う副変速カウンタギヤ38の副変速カウンタ軸27を回転自在に支持すると共に、出力軸3から前輪取出ギヤ36を介して連動される前輪連動ギヤ51を有する前輪連動軸28を設け、この前輪連動軸28の前方延長軸芯上にはPTO減速ギヤ50を有するPTO減速軸23を設けている。さらに、前輪連動軸28の並行位置にPTO連動軸4を設け、該PTO連動軸4と同軸芯上前端部にPTO連動軸4を正転と逆転に切替えるPTO正逆切替ギヤ37のPTO正逆切替軸22と、PTO変速ギヤ32のPTO変速軸18を配置している。
【0036】
また、PTO正逆切替ギヤ37と噛合するPTO逆回転カウンタギヤ52を有するPTO逆回転カウンタ軸24が前記PTO正逆切替軸22の側部に設けられ、PTOクラッチパック66の入りによって、入力軸2からPTO変速ギヤ32、PTO変速カウンタギヤ44及びPTO正逆切替ギヤ37等を介してPTO正逆切替軸22へ動力が伝動するように構成している。前記正逆切替ギヤ37は前記PTO変速ギヤ32と同形態のクラッチリングを用いる形態としている。このPTO正逆切替軸22の側方にはPTO逆回転カウンタギヤ52を有する逆回転カウンタ軸24を設け、PTO逆回転カウンタギヤ52は、PTO減速ギヤ50からの連動を受けてPTO正逆切替ギヤ37を逆回転することができる。なお、前記PTOカウンタ軸9の後方に減速軸23が配置される。
【0037】
更に、ミッションケース内の下段部に配置された前輪出力軸5は、ミッションケースの後部底部に軸装されて、前輪連動軸25やカップリング等を介して前記フロントデフ47の入力軸26へ連結する。この前輪出力軸5の横側には前輪駆動軸7が配置されている。前輪駆動軸7の後端には前輪ギヤ55が設けられている。また、前記出力軸3の後端部の前輪取出ギヤ36に前輪連動軸28上の第1の前輪連動ギヤ51が噛合し、該第1の前輪連動ギヤ51を介して前輪連動軸28に伝達される出力軸3の駆動力は、前輪連動軸28と一体回転する第2の前輪連動ギヤ54に伝達されて、該前輪連動ギヤ54から前輪駆動軸7に伝達される。
【0038】
また前輪駆動クラッチパック67を前輪駆動軸7上に設け、この駆動軸7の前端部から前輪出力軸5ヘギヤ連動する。また、有効径の異なる2つの前輪駆動切替ギヤ41が前輪駆動クラッチパック67の左右に配置されており、該2つの前輪駆動切替ギヤ41は、カウンタ軸59に設けた有効径の異なる2つの切替駆動カウンタギヤ56に各々噛み合わされ、前輪駆動クラッチパック67を択一的に接続することにより、2つの減速比のうちのいずれか一方の減速比で前輪駆動軸7を駆動することができる。
【0039】
前輪駆動クラッチパック67を中立位置にシフトするときは前輪61を駆動させない後輪駆動の二駆形態とし、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて低速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約1倍の等速駆動させる四駆形態とし、また、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて高速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約2倍に増速駆動させる四駆形態とすることによって走行することができる。
【0040】
上記構成からなる噛合式変速装置により、エンジン62の回転動力は主クラッチを構成する前後進クラッチDを経由して4段の変速段からなる主変速装置Aと2段の変速段からなるハイ・ロー変速装置B及び3段の変速段からなる副変速装置Cで合計24段のうちのいずれかの変速段に変速され、得られた回転動力はリヤデフ45を経て後輪63が駆動される。また、前記副変速装置Cで変速された回転動力は前輪駆動クラッチパック(二駆四駆切替クラッチ)67にも伝達され、該クラッチパック67により前輪61が「等速」もしくは「増速」に切り換えられた後、フロントデフ47を経て前輪61が駆動される。
【0041】
また、PTO変速ギヤ32、走行系の主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び副変速ギヤ35等を、ドライブピニオンギヤ53を有する出力軸3の軸芯上に沿って配置する構成とする。走行系の伝動は、入力軸2から出力軸3の軸芯上に配置される主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び複変速ギヤ35等を介してドライブピニオンギヤ53へ多段変速連動される。また、PTO系の変速は、この出力軸3の軸芯上の前端部に設けられるPTO変速ギヤ32を介して連動される。
【0042】
次に本実施例のトラクタの油圧回路図を図11に示す。
図11の油圧回路図では左右の後輪63を独立して制動する左右のブレーキシリンダ83、前輪61へ伝達する動力を「等速」もしくは「増速」に切り換える四駆切換クラッチシリンダ99、ステアリングハンドル73の回転操作により作動するパワーステアリング装置103、PTOクラッチシリンダ104、PTOクラッチ圧力コントロール用バルブ105,106などが設けられている。なお、一点鎖線部分の回路101はメイン油圧回路(作業機昇降・作業機水平や外部油圧取出しなど)となり、サブ回路(走行・ブレーキ・デフロック・PTO側回路)とあまり関係がないため、回路図の図示を省略している。
【0043】
油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81aを介して主変速装置Aの第4速用と第2速用の各ギヤ33をクラッチパック76を介してそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ87と油圧クラッチシリンダ88を切り替える4−2速切替用の変速制御弁89に供給され、さらに主変速装置Aの第1速用と第3速用の各ギヤ33をそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ91と油圧クラッチシリンダ92を切り替える1−3速切替用の変速制御弁93に供給される。
【0044】
減圧弁81aを経由する作動油は、前後進クラッチシリンダ85のオン・オフ制御弁129を介して前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側のクラッチDを切り替える切替弁86に供給される。該前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側のクラッチDのいずれに作動油が供給されているかは前進側クラッチ圧カセンサ110と後進側クラッチ圧カセンサ111で検出できる。
【0045】
同様に、上記及び下記油圧クラッチシリンダに供給される作動油はそれぞれの油圧クラッチシリンダへの入口側の油路に設けた圧カセンサで検知できる構成になっている。
また、油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81bを介してブレーキバルブ82aを経由して左右のブレーキシリンダ83に分岐供給される。前記ブレーキバルブ82aは後輪63を選択する切替制御弁であり、該ブレーキバルブ82aはブレーキカを調整する圧力制御弁82bと一体構成となっている。
【0046】
さらに、減圧弁81bを経由する作動油は、前記第1速〜第4速用の各ギヤ33で変速された速度を「高速」と「低速」の二つのギヤ40のいずれかにクラッチパック76を介して作動させるハイ・ロー油圧クラッチシリンダ95を切り替えるための制御弁96a,96bに供給される。
【0047】
また、減圧弁81bを経由する作動油は、デフロック制御弁97を経てフロントデフ47用の前輪デフロックシリンダ98a及びリアデフ45用の後輪デフロックシリンダ98bに分岐される。
【0048】
さらに、前輪駆動クラッチパック67のギヤ41の切替用の油圧シリンダ99には切替制御弁94を経て前記減圧弁81bを経由する作動油が供給される。
同様に、減圧弁81bを経由する作動油は、PTO用バルブ105,106を介してPTOクラッチシリンダ104に供給され、PTOクラッチの圧力を調整する。
【0049】
また図11に示す油圧ポンプ80からの油圧は、パワステアリングハンドルの操作で作動されるオービットロール107に作動油を供給する構成である。
【符号の説明】
【0050】
35 ギヤ
62 エンジン(原動機)
76 切替クラッチ
A 主変速部
B 付加変速部
B1,B2 増減ボタンスイッチ
B3 高低切替ボタン
C 副変速部
Ca アクチュエータ
D 前後進切替部
L 切替レバー
S センサ(中立検出手段)
T 変速伝動装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機出力を受けてその回転伝動を制御する走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部(C)を備えるとともに、これら両者の間に回転方向を切替える前後進切替部(D)と、複数段階の変速伝動をする主変速部(A)と、少なくとも2段階の変速伝動をする付加変速部(B)とを直列していずれもギヤ比の異なる複数の伝動系列を切替える切替クラッチを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置において、
上記付加変速部(B)は、上記副変速部(C)の動力入力位置に配置するとともに、副変速部(C)の変速時には、前記付加変速部(B)のいずれかの切替クラッチ(76)を切り動作可能に構成してなることを特徴とする作業車両の走行変速伝動装置。
【請求項2】
前記副変速部(C)には非伝動の中立状態を検出する中立検出手段(S)を設け、かつ、前記付加変速部(B)の中の副変速部(C)に近い側の切替クラッチ(76)について上記中立検出手段(S)の検出動作に応じて伝動遮断制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の走行変速伝動装置。
【請求項1】
原動機出力を受けてその回転伝動を制御する走行用主クラッチおよび走行車軸側にギヤ変速可能に動力を出力する副変速部(C)を備えるとともに、これら両者の間に回転方向を切替える前後進切替部(D)と、複数段階の変速伝動をする主変速部(A)と、少なくとも2段階の変速伝動をする付加変速部(B)とを直列していずれもギヤ比の異なる複数の伝動系列を切替える切替クラッチを備えてなる作業車両の走行変速伝動装置において、
上記付加変速部(B)は、上記副変速部(C)の動力入力位置に配置するとともに、副変速部(C)の変速時には、前記付加変速部(B)のいずれかの切替クラッチ(76)を切り動作可能に構成してなることを特徴とする作業車両の走行変速伝動装置。
【請求項2】
前記副変速部(C)には非伝動の中立状態を検出する中立検出手段(S)を設け、かつ、前記付加変速部(B)の中の副変速部(C)に近い側の切替クラッチ(76)について上記中立検出手段(S)の検出動作に応じて伝動遮断制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の走行変速伝動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−32056(P2010−32056A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250525(P2009−250525)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【分割の表示】特願2007−159404(P2007−159404)の分割
【原出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【分割の表示】特願2007−159404(P2007−159404)の分割
【原出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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