説明

トルクロッド及びエンジンユニット

【課題】こもり音領域での振動伝達特性を悪化させることなく、アイドル振動領域での振動伝達特性を向上させることを目的とする。
【解決手段】ロッド本体5の一端部に取付部60と取付部60とロッド本体5とを弾性的に連結する本体弾性体61とを備える第一ブッシュ6が設けられ、ロッド本体5の他端部に第二ブッシュ7が設けられたトルクロッド4において、封入液が封入された液室80、及び液室80の壁部の一部を構成する液封弾性体83を有する液封機構8が備えられ、液室80が、液封弾性体側の主液室80aと副液室80bとに区画され、液封機構8に、主液室80aと副液室80bとを連通する制限通路87が形成され、液封弾性体83及び第一ブッシュ6のうちの何れか一方に連係部82が突設され、連係部82の先端部が液封弾性体83及び第一ブッシュ6のうちの何れか他方に離間可能に当接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封入式のトルクロッド、及びそのトルクロッドを用いたエンジンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジンユニットとして、例えば下記特許文献1に示されているような、ペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステムによってエンジンを支持した構成が提案されている。このペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステムは、エンジンの慣性主軸方向の両側にそれぞれ配設されてエンジンの荷重を支持する一対のエンジンマウントと、エンジンと車体の間に介装されてエンジンのロール方向の振動を制振するトルクロッドと、によってエンジンを3点支持するマウントシステムである。
【0003】
また、従来、トルクロッドとして、例えば下記特許文献2に示されているような、液体封入式のトルクロッドが提案されている。このトルクロッドは、ロッド本体の一端部に、振動発生部及び振動受部のうちのいずれか一方に取り付けられる第一ブッシュが設けられ、ロッド本体の他端部に、前記振動発生部及び振動受部のうちのいずれか他方に取り付けられる第二ブッシュが設けられ、ロッド本体の中間部に、封入液が封入された液室を有する液封機構が設けられた構成となっている。前記した液室は、主液室と副液室とに区画されており、液封機構には、主液室と副液室とを連通するオリフィス通路(制限通路)が形成されている。
【0004】
また、従来、エンジンマウントとして、例えば下記特許文献3に示されているような、取付部材と弾性体とがセパレート構造となったエンジンマウントが提案されている。このエンジンマウントは、パワーユニット側ブラケットを介してパワーユニット(エンジン)に取り付けられる第一取付部材と、ボディ側ブラケットを介してボディ(車体)に取り付けられる筒状の第二取付部材と、第一取付部材と第二取付部材とを弾性的に連結する弾性体と、を備えている。そして、前記した第一取付部材が、弾性体に対して離間可能に当接されている。このエンジンマウントによれば、初期荷重の作用方向と反対方向(リバウンド方向)の大入力時に第一取付部材と弾性体とが離間するので、弾性体の引張変形が回避され、弾性体の耐久性の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−114226号公報
【特許文献2】特開2005−291448号公報
【特許文献3】特開2005−23972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来のトルクロッドを上記したペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステムに用いると、アイドル振動の入力時に液封機構のオリフィス通路中に液柱共振が生じ、アイドル振動領域におけるトルクロッドのばね定数が低下(低ばね化)し、車体に伝達されるアイドル振動を低減させることができる。しかしながら、こもり音領域(100〜200Hz程度)の高周波振動が入力されたときに、液封機構のオリフィス通路が目詰まりを起し、トルクロッドのばね定数が高くなり、上記した高周波振動が車体に伝達されやすくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、こもり音領域での振動伝達特性を悪化させることなく、アイドル振動領域での振動伝達特性を向上させることができるトルクロッド及びエンジンユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るトルクロッドは、ロッド本体の一端部に、振動発生部及び振動受部のうちのいずれか一方に取り付けられる取付部と、該取付部と前記ロッド本体とを弾性的に連結する本体弾性体と、を備える第一ブッシュが設けられ、前記ロッド本体の他端部に、前記振動発生部及び振動受部のうちのいずれか他方に取り付けられる第二ブッシュが設けられたトルクロッドにおいて、封入液が封入された液室、及び該液室の壁部の一部を構成する液封弾性体を有する液封機構が備えられており、前記液室が、液封弾性体側の主液室と副液室とに区画され、前記液封機構に、前記主液室と前記副液室とを連通する制限通路が形成されており、前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか一方に連係部が突設され、該連係部の先端部が前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか他方に離間可能に当接されていることを特徴としている。
【0009】
このような特徴により、振動発生部の振動が入力されると、本体弾性体が弾性変形し、本体弾性体が振動吸収主体として作用し、本体弾性体の内部摩擦等に基づく吸振作用によって振動が吸収され、振動発生部からトルクロッドを介して振動受部に伝達される振動が低減される。このとき、振動発生部の振動がアイドル振動の場合には、連係部の先端部が液封弾性体若しくは第一ブッシュに当接しているため、アイドル振動の入力によって液封弾性体が弾性変形する。このとき、液室内の液体は、液封弾性体の弾性変形に伴って制限通路を通って主液室と副液室との間を往来し、当該制限通路を流通する液体に液柱共振が生じる。この液柱共振によりトルクロッドが低ばね化し、トルクロッドに入力されたアイドル振動が減衰され、振動受部側に伝達されるアイドル振動は低減される。
【0010】
また、第一ブッシュと第二ブッシュとが互いに離間する方向に振動発生部及び振動受部のうちの少なくとも一方が変位すると、連係部の先端部が液封弾性体若しくは第一ブッシュから離間し、液封機構が第一ブッシュから分離される。これにより、上述した液柱共振による低ばね化が回避され、本体弾性体の特性に基づいて振動が吸収されるので、こもり音領域での振動伝達特性が悪化しない。
【0011】
また、仮に、第一ブッシュの一方側に液封機構が配設されて他方側に第二ブッシュが配設された構成、つまり、液封機構、第一ブッシュ、第二ブッシュの順で並設された構成の場合、トルクロッドの重心位置が液封機構側に寄った位置になるため、ピッチングの動きが大きくなる。
そこで、本発明に係るトルクロッドは、前記液封機構が、前記ロッド本体のうちの前記第一ブッシュと第二ブッシュとの間の部分に配設されていることが好ましい。
これにより、トルクロッドの重心位置がロッド本体の長手方向の中央付近になるため、ピッチングが抑制される。
【0012】
また、本発明に係るトルクロッドは、前記本体弾性体が、前記連係部の軸線延長線に対して対称に配設された一対の弾性脚部を備えており、該一対の弾性脚部が、前記取付部から前記連係部の反対側に向かって拡がる方向に延設されていることが好ましい。
これにより、アイドル振動の入力時に、一対の弾性脚部及び連係部によって取付部が3方向から押し付けられるので、上下左右の動きが安定する。
【0013】
また、本発明に係るトルクロッドは、前記ロッド本体に、前記液封機構が設けられた第一ロッド部材と、前記第一ブッシュが設けられた第二ロッド部材と、が備えられており、前記第一ロッド部材と前記第二ロッド部材とが接合されることで前記連係部の先端部が前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか他方に圧接され、前記本体弾性体及び前記液封弾性体のうちの少なくとも一方が予圧縮されていることが好ましい。
これにより、アイドル振動時に連係部の先端部が液封弾性体若しくは第一ブッシュに確実に当接した状態となる。
【0014】
また、本発明に係るトルクロッドは、前記液封機構の中心軸線が前記ロッド本体の中心軸線に対して間隔をあけて平行するように前記液封機構がオフセットされていることが好ましい。
これにより、液封機構が干渉ラインから離れ、トルクロッドと周辺機器や車体などとの干渉が防止される。
【0015】
また、本発明に係るエンジンユニットは、エンジンと、該エンジンの慣性主軸方向の両側にそれぞれ配設されて該エンジンの荷重を支持する一対のエンジンマウントと、前記エンジンと車体の間に介装されて前記エンジンのロール方向の振動を制振するトルクロッドと、を備えるエンジンユニットであって、前記エンジンとして、二気筒エンジンが備えられ、前記トルクロッドとして、上記した本発明に係るトルクロッドが備えられていることが好ましい。
【0016】
二気筒エンジンでは、アイドリング時のエンジン振動の主な成分が回転一次成分となるが、二気筒エンジンを一対のエンジンマウント及びトルクロッド(いわゆるペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステム)でマウントすると、前記したアイドリング時の回転一次成分の周波数とエンジンユニットのロール方向の固有振動数とが近似となり、アイドリング時に車体に伝達される振動が大きくなるおそれがある。また、トルクロッドの長手方向の動的なばねを低くすることでエンジンユニットのロール方向の固有振動数が低くなるが、トルクロッドの長手方向の動的なばねを低くすると、エンジンの揺動抑制に必要な静的なばねも低下するため、エンジンの揺動が十分に抑制できないおそれがある。
【0017】
そこで、上述したようにトルクロッドとして上記した本発明に係るトルクロッドを用いると、エンジン揺動抑制に必要なトルクロッドの静的なばねを維持しつつ、トルクロッドの動的なばねが低くなるため、エンジンユニットのロール方向の固有振動数が低くなってアイドリング時の回転一次成分の周波数から離され、アイドリング時に車体に伝達される振動が抑えられると共に、エンジンの揺動が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るトルクロッド及びエンジンユニットによれば、こもり音領域での振動伝達特性を悪化させることなく、アイドル振動領域での振動伝達特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジンユニットを模式的に表した平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るトルクロッドの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るトルクロッドの側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るエンジンユニットを模式的に表した側面図である。
【図5】本発明の実施の形態を説明するためのエンジン振動の周波数と振動レベルとの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の変形例を説明するためのトルクロッドの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るトルクロッド及びエンジンユニットの実施の形態について、図面に基いて説明する。
なお、図1に示すY1方向が車両前方側であり、図1に示すY2方向が車両後方向であり、車両前後方向(Y1−Y2方向)に直交するX1−X2方向が車両左右方向である。
【0021】
図1に示すエンジンユニット1は、ペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステムでエンジン2をマウントするエンジンユニットであり、その概略構成としては、エンジン2と、エンジン2の両端部分(慣性主軸O方向の両端部)にそれぞれ配設された一対のエンジンマウント3,3と、エンジン2の下側部分に配設されたトルクロッド4と、を備えている。なお、上記した慣性主軸Oは、エンジン2のロール方向の主軸である。
【0022】
エンジン2は、横置きの二気筒エンジンであり、公知のエンジンからなる。このエンジン2は、慣性主軸Oが車両左右方向に沿って延在する向きに配設されている。
【0023】
エンジンマウント3は、エンジン2の荷重を支持する支持部材であり、車体Aとエンジン2との間に介装されている。一対のエンジンマウント3,3は、エンジン2の慣性主軸Oの近傍にそれぞれ配設されており、エンジン2の慣性主軸O方向の両端部のうちの慣性主軸O近傍の部分をそれぞれ支持している。
【0024】
上記したエンジンマウント3としては、例えば、車体A及びエンジン2のうちの何れか一方に連結される外筒と、他方に連結される内筒と、外筒と内筒とを弾性的に連結する弾性体と、を備える防振装置を用いることができる。なお、エンジンマウント3として、前記した外筒内に液室が形成された液封式の防振装置を用いることも可能であり、また、一対のプレートの間に弾性体が介在された構成のゴムマウントを用いることも可能であり、その他の構成の防振装置を用いることが可能である。
【0025】
トルクロッド4は、エンジン2のロール方向の振動を制振する制振部材であり、車体Aとエンジン2との間に介装されている。このトルクロッド4は、エンジン2の慣性主軸O方向の中央付近に配設されており、車両前後方向(Y1−Y2方向)に延在されている。そして、このトルクロッド4の前方側の端部(第一ブッシュ6)は、エンジン2の慣性主軸O方向中央部分の下端面に垂設されたエンジンブラケット20を介してエンジン2に連結されており、トルクロッド4の後方側の端部(第二ブッシュ7)は、車体Aに突設された車体ブラケットBを介して車体Aに連結されている。
【0026】
このトルクロッド4は、エンジン2のアイドル振動の入力によって液柱共振が生じるようにチューニングされた液封機構8(図2に示す。)を備え、アイドル振動時にトルクロッド軸方向に低ばね化する液体封入式トルクロッドである。
詳しく説明すると、図2、図3に示すように、トルクロッド4は、ロッド本体5と、ロッド本体5の一端部に設けられた第一ブッシュ6と、ロッド本体5の他端部に設けられた第二ブッシュ7と、ロッド本体5の中間部に設けられた液封機構8と、を備えている。
【0027】
ロッド本体5は、鋳造された金属部材であり、その概略構成としては、第一ロッド部材50と、第一ロッド部材50の一端面に接合された第二ロッド部材51と、からなる。
なお、図2、図3に示すように、第一ブッシュ6の中心と第二ブッシュ7の中心とを結ぶ鎖線Lは、ロッド本体5の中心軸線であり、この中心軸線Lに沿った方向を「軸方向」とする。また、ロッド軸方向の一方側、つまり、第一ロッド部材50からみて第二ロッド部材51側(図2における右側)を「前方側」とし、ロッド軸方向の他方側、つまり、第二ロッド部材51からみて第一ロッド部材50側(図2における左側)を「後方側」とする。また、図2における縦方向(X1−X2方向)が左右方向であり、図3における縦方向(Z1−Z2方向)が上下方向である。
【0028】
第一ロッド部材50の前方側の部分には、液封機構8を収容する液封機構収容部52が設けられている。液封機構収容部52は、軸方向に沿って延設された円筒形状の筒状部であり、液封機構収容部52の前端は開口され、液封機構収容部52の後端部は後方側に向かってテーパー状に漸次縮径されて閉塞されている。また、図3に示すように、液封機構収容部52の中心軸線Lは、ロッド本体5の中心軸線Lに対して上下方向に偏心している。具体的に説明すると、液封機構収容部52は上側にオフセットされており、液封機構収容部52の中心軸線Lが、ロッド本体5の中心軸線Lの上方に位置している。
【0029】
また、第一ロッド部材50の前端部には、液封機構収容部52の外周面から液封機構収容部52の径方向(中心軸線Lに直交する方向)外側に向かって突出した一対のフランジ部53,53が設けられている。これら一対のフランジ部53,53は、ロッド本体5の中心軸線Lを挟んで左右対称に配設されている。
【0030】
第一ロッド部材50の後方側の端部には、第二ブッシュ7が嵌合されるブッシュ取付孔55が形成されている。このブッシュ取付孔55は、中心軸線Lに直交する方向(左右方向)に沿って延在する貫通孔である。
【0031】
第二ロッド部材51は、内側に第一ブッシュ6が設けられた筒状の部材であり、中心軸線Lに直交する方向(上下方向)に沿って延設されている。具体的に説明すると、第二ロッド部材51は、平面視半長円形状の筒状部材であり、トルクロッド4の中心軸線Lに対して垂直に配設されていると共に左右方向に延設された平壁部56と、平壁部56の前方側に配設されて両端が平壁部56にそれぞれ連結された略U字状のU壁部57と、を備えている。平壁部56には、第二ロッド部材51の内側と第一ロッド部材50の内側とを連通する貫通孔54が形成されている。
【0032】
また、第二ロッド部材51の後端部には、上記した平壁部56の両端部からそれぞれ突出した一対のフランジ部58,58が設けられている。これら一対のフランジ部58,58は、ロッド本体5の中心軸線Lを挟んで左右対称に配設されており、第一ロッド部材50のフランジ部53,53にそれぞれ重ね合わせられている。そして、第一ロッド部材50のフランジ部53,53と第二ロッド部材51のフランジ部58,58とがボルト59,59によって締結されることで、第一ロッド部材50と第二ロッド部材51とが接合されている。
【0033】
第一ブッシュ6は、上記した第二ロッド部材51の内側に配設されたゴムブッシュであり、第二ロッド部材51と一体的に形成されている。この第一ブッシュ6の概略構成としては、図1に示すエンジンブラケット20を介してエンジン2に取り付けられる第一取付部60と、第一取付部60とロッド本体5の第二ロッド部材51とを弾性的に連結する第一本体弾性体61と、を備えている。
【0034】
第一取付部60は、鋳造された柱状の金属部材であり、第二ロッド部材51の内側に配設されていると共に中心軸線Lに直交する方向(上下方向)に沿って延設されている。この第一取付部60には、エンジンブラケット20に締結するための取付孔62が第一取付部60の軸方向に沿って延設されている。また、第一取付部60の後端部には、左右両側に向かってそれぞれ突出したフランジ部67,67が設けられている。
【0035】
第一本体弾性体61は、第二ロッド部材51の内周面と第一取付部60の外周面との間に介在された弾性体であり、ゴム材料からなるゴム弾性体である。この第一本体弾性体61は、上記した第二ロッド部材51及び第一取付部60と共に加硫成形することで第二ロッド部材51の内周面及び第一取付部60の外周面にそれぞれ接着されている。また、この第一本体弾性体61には、中心軸線Lに対して左右対称に配設された一対の弾性脚部64,64が備えられている。これら一対の弾性脚部64,64は、平面視ハ字状に配設されており、第一取付部60から前方側に向かって拡がる方向に延設されている。
【0036】
また、第一本体弾性体61のうち、第一取付部60の前方側の部分には、中心軸線Lに直交する方向(上下方向)に貫通するスグリ63が形成されており、第一取付部60の前端面、及び、第二ロッド部材51のU壁部57の前端部の内周面には、緩衝ゴム部65,66がそれぞれ被覆されている。そして、第一取付部60の前方には、第二ロッド部材51のU壁部57の前端部とその内周面に接着した緩衝ゴム部66とからなる第一ストッパー部10が配設されており、この第一ストッパー部10に第一取付部60が係止されることで、第一取付部60のロッド本体5に対する相対的な前方変位が制限される。
【0037】
また、上記した第一取付部60のフランジ部67,67の後方側の表面には、緩衝ゴム部68,68がそれぞれ被覆されており、第一ブッシュ6には、これらフランジ部67,67と緩衝ゴム部68,68とからなる第二ストッパー部11,11が備えられている。この第二ストッパー部11は、第二ロッド部材51の平壁部56に係止されることで、第一取付部60のロッド本体5に対する相対的な後方変位が制限するストッパー部である。
また、第一取付部60の後端面には、上記した緩衝ゴム部68,68の間に配設されて緩衝ゴム部68,68よりも薄肉の緩衝ゴム部69が被覆されている。
【0038】
第二ブッシュ7は、上記した第一ロッド部材50のブッシュ取付孔55の内側に圧入嵌合されるゴムブッシュであり、その概略構成としては、図1に示す車体ブラケットBを介して車体Aに取り付けられる筒状の第二取付部70と、第二取付部70の外周に周設された第二本体弾性体71と、を備えている。
【0039】
第二取付部70は、鋳造された円筒形状の金属部材であり、ブッシュ取付孔55の内側に同軸に配設されて中心軸線Lに直交する方向(左右方向)に沿って延設されている。
第二本体弾性体71は、ブッシュ取付孔55の内周面と第二取付部70の外周面との間に介在された円筒形状の弾性体であり、ゴム材料からなるゴム弾性体である。この第二本体弾性体71は、第二取付部70と共に加硫成形することで第二取付部70の外周面に接着されている。
【0040】
液封機構8は、封入液が封入された液室80が内部に形成された機構であり、上記したその第一ブッシュ6と第二ブッシュ7との間に配置されている。この液封機構8の概略構成としては、内部に液室80が形成された筒状の周壁部81と、周壁部81の前端部の内側に配設された連係部82と、周壁部81と連係部82とを弾性的に連結すると共に周壁部81の前端部を閉塞する液封弾性体83と、液室80を液封弾性体83側(前方側)の主液室80aとその反対側(後方側)の副液室80bとに区画する仕切り部材84と、周壁部81の後端部を閉塞するダイヤフラム85と、を備えている。
【0041】
周壁部81は、円筒形状の金属部材であり、上記した液封機構収容部52の内側に嵌合されて軸方向に沿って延設されている。この周壁部81は、液封機構収容部52の中心軸線Lを中心軸線にして配設されており、この周壁部81(液封機構8)の中心軸線Lがロッド本体5の中心軸線Lに対して間隔をあけて平行するように液封機構8がオフセットされている。
【0042】
連係部82は、鋳造された円柱形状の金属部材であり、周壁部81の前端部の内側から軸方向に沿って周壁部81の前方側に向かって延在している。この連係部82は、液封弾性体83から前方側に向かって突設されており、連係部82の後端部(基端部)は液封弾性体83の内側に埋設されている。また、連係部82の前端部(先端部)は、第二ロッド部材51の貫通孔54の内側に貫通されており、連係部82の前端面(先端面)は、上記した第一取付部60の後端面に緩衝ゴム部69を介して離間可能に当接されている。
【0043】
液封弾性体83は、筒状の周壁部81の前端部の内側に配設されて周壁部81の前方側の開口端を閉塞すると共に主液室80aの壁部の一部を構成する弾性体であり、ゴム材料からなるゴム弾性体である。この液封弾性体83は、前方側に向かうに従い漸次縮径された略円錐台形状に形成されており、液封弾性体83の前端から前記した連係部82が突出されている。また、液封弾性体83は、周壁部81及び連係部82と共に加硫成形することで周壁部81の内周面及び連係部82の基端部の外周面に接着されている。また、この液封弾性体83には、周壁部81の内周面を被覆する被覆ゴム部83aと、連係部82の外周面を被覆して連係部82と第二ロッド部材51の貫通孔54の内周面とを緩衝する緩衝ゴム部83bと、が一体となって形成されている。
【0044】
仕切り部材84は、主液室80aと副液室80bとを連通するオリフィス通路87(制限通路)が形成されたオリフィス部材であり、周壁部81の内側に圧入嵌合されている。詳しく説明すると、仕切り部材84は、中心軸線Lに対して垂直に配設された円形部材であり、外周面にオリフィス通路87となる周溝が形成されている。この周溝の外周側の開放部分は、仕切り部材84が周壁部81の内側に圧入嵌合されることで、周壁部81の内周面に被覆された被覆ゴム部83aによって閉塞されている。これにより、周壁部81の内周面に沿って周方向に延在するオリフィス通路87が形成されている。このオリフィス通路87の流路長及び断面積(すなわち流路抵抗)は、エンジン2のアイドリング時の振動周波数で液柱共振が生じるように設定(チューニング)されている。
【0045】
ダイヤフラム85は、副液室80bの壁部の一部を構成する変形可能な膜体であり、周壁部81の後端部の内側に嵌合されている。このダイヤフラム85の概略構成としては、略円筒形状のダイヤフラムリング88と、ダイヤフラムリング88の内側を閉塞する膜状のダイヤフラムゴム89と、を備えている。ダイヤフラムゴム89は、椀状のゴム膜であり、このダイヤフラムゴム89をダイヤフラムリング88と一体に加硫することで、ダイヤフラムゴム89の外縁部がダイヤフラムリング88の内周面に対して接着されている。
【0046】
上記したダイヤフラム85は、周壁部81の後端部の内側に嵌合された状態で、周壁部81の後端部をダイヤフラムリング88と共に全周に亘って径方向内側に加締ることによって固定されている。なお、ダイヤフラムリング88の外周面と周壁部81の内周面との間には、上記した被覆ゴム部83aが介在されており、これにより、ダイヤフラム85と周壁部81との嵌合箇所の水密性が確保されている。
【0047】
ところで、上記した第一ロッド部材50と第二ロッド部材51とがボルト59,59によって接合された状態では、連係部82の先端面が第一取付部60の後端面(緩衝ゴム部69)に圧接され、上記した第一本体弾性体61及び液封弾性体83のうちの少なくとも一方が予圧縮されている。この予圧縮力の大きさは、例えば、第一取付部60の最大変位量で動く際の力の分と、エンジン2のクリープトルク分と、流体の逆位相で動く際の力の分と、の合計値とする。
【0048】
次に、上記した構成からなるトルクロッド4の作用について説明する。
【0049】
図1に示すエンジン2がアイドリングすると、そのアイドル振動がエンジンブラケット20を介して図2に示す第一取付部60に伝達され、図2に示す第一本体弾性体61が弾性変形する。これにより、第一本体弾性体61が振動吸収主体として作用し、第一本体弾性体61の内部摩擦等に基づく吸振作用によって上記アイドル振動が吸収され、エンジン2からトルクロッド4を介して車体Aに伝達されるアイドル振動が低減される。
【0050】
このとき、連係部82の先端が第一取付部60に当接しているため、第一取付部60にアイドル振動が入力されると、その振動が連係部82に伝達されて液封弾性体83が弾性変形する。その結果、液室80内の封入液が、オリフィス通路87を通って主液室80aと副液室80bとの間で往来する。このとき、オリフィス通路87は、その流路長及び断面積がアイドル振動の周波数帯で液柱共振が生じるようにチューニングされているので、オリフィス通路87を流通する封入液に共振現象(液柱共振)が生じる。これにより、トルクロッド4が低ばね化し、トルクロッド4に入力されたアイドル振動が減衰され、車体A側に伝達されるアイドル振動が低減される。
【0051】
また、図1に示すエンジン2を駆動させて車両が加速する際には、図4に示すように、エンジン2が慣性主軸O周りに回動し、第一ブッシュ6が第二ブッシュ7に対して相対的に離間する方向に変位する。これにより、連係部82の先端部が第一取付部60の後端面(緩衝ゴム部69)から離間し、液封機構8が第一ブッシュ6から分離される。その結果、上述した液柱共振による低ばね化が回避され、第一本体弾性体61の特性に基づいて振動が吸収されるので、こもり音領域での振動伝達特性が悪化しない。
【0052】
上記したトルクロッド4によれば、車両加速時のこもり音領域での振動伝達特性を悪化させることなく、アイドル振動領域での振動伝達特性を向上させることができる。
【0053】
また、上記したトルクロッド4では、液封機構8がロッド本体5のうちの第一ブッシュ6と第二ブッシュ7との間の部分に配設されているため、トルクロッド4の重心位置がロッド本体5の長手方向の中央付近になる。これにより、トルクロッド4のピッチングを抑制することができ、ピッチングによる振動伝達特性の悪化を防止することができる。
【0054】
また、上記したトルクロッド4では、第一本体弾性体61の一対の弾性脚部64,64が、第一取付部60から前方側に向かって拡がる方向に延設され、連係部82が第一取付部60の後端面に当接されているので、アイドル振動の入力時に、一対の弾性脚部64,64及び連係部82によって第一取付部60が3方向から押し付けられる。これにより、第一取付部60の上下左右の動きを安定化させることができる。
【0055】
また、上記したトルクロッド4では、第一ロッド部材50と第二ロッド部材51とがボルト59,59で締結されることで連係部82の先端部が第一取付部60に圧接され、第一本体弾性体61及び液封弾性体83のうちの少なくとも一方が予圧縮されているので、アイドル振動時に連係部82の先端部が第一取付部60に確実に当接した状態となる。しかも、予圧縮力を容易に付与することができ、予圧縮力の調整も容易である。これにより、アイドル振動領域での振動伝達特性を確実に向上させることができる。
【0056】
また、上記したトルクロッド4では、液封機構8の中心軸線Lがロッド本体5の中心軸線Lに対して間隔をあけて平行するように液封機構8がオフセットされているため、液封機構8が車体Aとの干渉ラインから離され、トルクロッド4と車体Aとの干渉が防止される。これにより、狭小なスペースにエンジンユニット1を搭載することができる。
【0057】
また、上記したエンジンユニット1によれば、エンジン2の揺動抑制に必要なトルクロッド4の静的なばねを維持しつつ、トルクロッド4の動的なばねが低くなるため、図5に示すように、エンジンユニット1のロール方向の固有振動数が約7〜8Hz付近まで低くなってアイドリング時の回転一次成分の周波数(約10Hz)から離される。これにより、アイドリング時に車体Aに伝達される振動を抑えることができると共に、エンジン2の揺動を抑制することができる。その結果、ペンデュラム懸架方式のエンジンマウントシステムで二気筒のエンジン2をマウントしたエンジンユニット1において、エンジン2の揺動抑制性能を維持しつつ、車体Aに伝達されるアイドル振動を小さくすることができる。
【0058】
以上、本発明に係るトルクロッド及びエンジンユニットの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図6(a)に示すように、第一取付部60の後端面に凹部169が設けられ、この凹部169の内側に連係部182の先端部が挿入された構成であってもよい。この凹部169は、第一取付部60に加硫接着されたゴム体からなり、第一本体弾性体61と一体に形成されている。また、連係部182の先端面は略半球状に丸まった凸曲面となっている。そして、凹部169の底面は、連係部182の先端面の形状に対応した凹曲面となっており、この凹部169の底面に連結部182の先端面が離間可能に当接されている。このような凹部169及び連係部182を有するトルクロッド4によれば、連係部182の軸直方向のズレを防止することができ、また、大変位時の連係部182の抜けを防止することができ、さらに、凹部169によって連係部182の軸方向移動を案内することができる。連係部182の先端面が凸曲面状に形成され、凹部169の底面が凹曲面状に形成されていることで、連係部182を凹部169内に挿入することで連係部182を調芯することができ、また、連係部182が凹部169内に挿入する際に連係部182の先端面によって案内されて挿入し易く、さらに、ゴム製の凹部169の折損を防止することができる。
【0059】
また、図6(b)に示すように、連係部282が第一ブッシュ6に突設され、連係部282の先端部が液封弾性体283に離間可能に当接された構成であってもよい。詳しく説明すると、第一取付部60には、後方側に向かって軸方向に沿って延びた連係部282が突設されており、これら連係部282と第一取付部60とは一体に形成されている。この連係部282の先端には、略円錐台形状の拡径部282aが形成されている。液封弾性体283の前端面には、略円錐台形状の凹部283aが形成されており、この凹部283aの内側に連係部282の先端の拡径部282aが挿入され、凹部283aの底面に拡径部282aの先端面が離間可能に当接されている。このように連係部282を第一取付部60と一体に形成することで、部品点数を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0060】
また、上記した実施の形態では、トルクロッド4が1本だけ備えられたエンジンユニット1について説明しているが、本発明は、複数のトルクロッドを備えるエンジンユニットであってもよい。
【0061】
また、上記した実施の形態では、ロッド本体5の中間部分に液封機構8が配設されているが、本発明は、液封機構の位置を変更することも可能である。例えば、ロッド本体5の前方側に液封機構を配設し、前方側から後方側に向かって液封機構、第一ブッシュ6、第二ブッシュ7の順番で配設された構成であってもよい。
【0062】
また、上記した実施の形態では、一対の弾性脚部64,64を備える第一本体弾性体61が備えられているが、本発明における本体弾性体の形状は変更可能であり、例えば、第一取付部60から左右両側に向かって弾性脚部がそれぞれ突設された構成であってもよい。
【0063】
また、上記した実施の形態では、ロッド本体5が第一ロッド部材50と第二ロッド部材51とからなり、これら第一ロッド部材50と第二ロッド部材51とを接合させることで、第一本体弾性体61及び液封弾性体83のうちの少なくとも一方に予圧縮力が付与されているが、本発明は、一部品からなるロッド本体であってもよい。この場合、例えば、ロッド本体の一端部に形成されたブッシュ取付孔に第一ブッシュを圧入嵌合することで本体弾性体や液封弾性体に予圧縮力を付与することができる。なお、本体弾性体や液封弾性体に予圧縮力が付与されていない構成にすることも可能である。
【0064】
また、上記した実施の形態では、液封機構8の中心軸線Lがロッド本体5の中心軸線Lに対して間隔をあけて平行するように液封機構8がオフセットされているが、本発明は、液封機構8がオフセットされていなくてもよく、液封機構8がロッド本体5と同軸上に配設されていてもよい。
【0065】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 エンジンユニット
2 エンジン
3 エンジンマウント
4 トルクロッド
5 ロッド本体
6 第一ブッシュ
7 第二ブッシュ
8 液封機構
50 第一ロッド部材
51 第二ロッド部材
60 第一取付部(取付部)
61 第一本体弾性体(本体弾性体)
64 一対の弾性脚部
80 液室
80a 主液室
80b 副液室
82 連係部
83 液封弾性体
87 オリフィス通路(制限通路)
A 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド本体の一端部に、振動発生部及び振動受部のうちのいずれか一方に取り付けられる取付部と、該取付部と前記ロッド本体とを弾性的に連結する本体弾性体と、を備える第一ブッシュが設けられ、
前記ロッド本体の他端部に、前記振動発生部及び振動受部のうちのいずれか他方に取り付けられる第二ブッシュが設けられたトルクロッドにおいて、
封入液が封入された液室、及び該液室の壁部の一部を構成する液封弾性体を有する液封機構が備えられており、
前記液室が、液封弾性体側の主液室と副液室とに区画され、前記液封機構に、前記主液室と前記副液室とを連通する制限通路が形成されており、
前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか一方に連係部が突設され、該連係部の先端部が前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか他方に離間可能に当接されていることを特徴とするトルクロッド。
【請求項2】
請求項1に記載のトルクロッドにおいて、
前記液封機構が、前記ロッド本体のうちの前記第一ブッシュと第二ブッシュとの間の部分に配設されていることを特徴とするトルクロッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトルクロッドにおいて、
前記本体弾性体が、前記連係部の軸線延長線に対して対称に配設された一対の弾性脚部を備えており、該一対の弾性脚部が、前記取付部から前記連係部の反対側に向かって拡がる方向に延設されていることを特徴とするトルクロッド。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のトルクロッドにおいて、
前記ロッド本体に、前記液封機構が設けられた第一ロッド部材と、前記第一ブッシュが設けられた第二ロッド部材と、が備えられており、
前記第一ロッド部材と前記第二ロッド部材とが接合されることで前記連係部の先端部が前記液封弾性体及び前記第一ブッシュのうちの何れか他方に圧接され、前記本体弾性体及び前記液封弾性体のうちの少なくとも一方が予圧縮されていることを特徴とするトルクロッド。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のトルクロッドにおいて、
前記液封機構の中心軸線が前記ロッド本体の中心軸線に対して間隔をあけて平行するように前記液封機構がオフセットされていることを特徴とするトルクロッド。
【請求項6】
エンジンと、該エンジンの慣性主軸方向の両側にそれぞれ配設されて該エンジンの荷重を支持する一対のエンジンマウントと、前記エンジンと車体の間に介装されて前記エンジンのロール方向の振動を制振するトルクロッドと、を備えるエンジンユニットであって、
前記エンジンとして、二気筒エンジンが備えられ、
前記トルクロッドとして、請求項1から5の何れか一項に記載のトルクロッドが備えられていることを特徴とするエンジンユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13192(P2012−13192A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152337(P2010−152337)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】