説明

ハイブリッド自動車およびその制御方法

【課題】内燃機関と電動機との双方からの動力を用いて走行可能なハイブリッド自動車において効率優先モードが選択された際に内燃機関と電動機とをより適正に制御してエネルギ効率を向上させる。
【解決手段】ハイブリッド自動車20では、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOスイッチ88がオンされている場合には、要求トルクTr*に基づいてステップS120にて設定された目標運転ポイントでエンジン22が運転されると共にモータMG2により出力される動力がECOスイッチ88のオフ時に比べて低下するようにエンジン22とモータMG1,MG2とが制御される(ステップS130〜S150,S170〜S200)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車およびその制御方法に関し、特に、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いて走行可能なハイブリッド自動車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モード選択スイッチの操作により高出力モードと低出力モードとを切り換え可能な電気自動車が知られている(例えば、特許文献1参照)。この電気自動車では、低出力モードでの走行中に走行モータの出力不足により実加速度が要求加速度を所定の比率で下回ると、高出力モードにおける出力を越えない程度に走行モータの出力が増加される。また、従来から、内燃機関を走行駆動源とすると共に通常モードと省エネルギモードとを運転モードとして有する車両も知られている(例えば、特許文献2参照)。この車両では、アクセルポジションセンサの所定の同一の出力に対し、内燃機関に対する燃料供給量が通常モードの選択時よりも省エネルギモードの選択時において減少させられる。
【特許文献1】特開平10−248106号公報
【特許文献2】特開2006−151309号公報(図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いて走行可能なハイブリッド自動車が広く普及しているが、このようなハイブリッド自動車に対してモード選択スイッチを設け、運転モードを通常モードと低出力モードや省エネルギモードといった効率を優先したモードとの何れかに切り換えることができるようにすれば、更なるエネルギ効率の改善を図ることが可能となる。ただし、上記各特許文献は、ハイブリッド自動車において効率を優先したモードが選択された際に、どのような制御を行うかを何ら開示していない。
【0004】
そこで、本発明は、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いて走行可能なハイブリッド自動車において効率優先モードが選択された際に、内燃機関と電動機とをより適正に制御してエネルギ効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるハイブリッド自動車およびその制御方法は、上述の目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0006】
本発明によるハイブリッド自動車は、
走行用の動力を出力可能な内燃機関と、
走行用の動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
エネルギ効率を優先する効率優先モードを選択するための効率優先モード選択スイッチと、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づいて前記内燃機関の目標運転ポイントを設定する目標運転ポイント設定手段と、
前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオフされている場合には、前記設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合には、前記設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記電動機により出力される動力が前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下するように前記内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるものである。
【0007】
このハイブリッド自動車では、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モード選択スイッチがオフされている場合には、走行に要求される要求駆動力に基づいて設定された目標運転ポイントで内燃機関が運転されると共に要求駆動力に基づく動力が得られるように内燃機関と電動機とが制御される。また、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モード選択スイッチがオンされている場合には、要求駆動力に基づいて設定された目標運転ポイントで内燃機関が運転されると共に電動機により出力される動力が効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下するように内燃機関と電動機とが制御される。このように、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モードが選択されている場合に、電動機により出力される動力を効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下させれば、走行用の動力が効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて若干低下することになるが、電動機による電力消費量や電動機等における損失を低減させて車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。また、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モード選択スイッチがオンされている場合に、内燃機関の出力を低下させるとすると却って内燃機関の効率を低下させてしまうおそれがあるが、このハイブリッド自動車では、ある要求駆動力に対する内燃機関の目標運転ポイントが効率優先モード選択スイッチの操作状態に拘わらず同一に設定されることになるので、このような内燃機関の効率の低下を抑制することができる。従って、このハイブリッド自動車では、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モードが選択されている場合に、内燃機関と電動機とをより適正に制御してエネルギ効率を向上させることが可能となる。
【0008】
また、前記制御手段は、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合、前記電動機に対するトルク指令値を前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて所定量だけ小さくするものであってもよい。
【0009】
更に、上記ハイブリッド自動車は、所定の車軸に接続される車軸側回転要素と前記内燃機関の機関軸に接続されると共に前記車軸側回転要素に対して差回転可能な機関側回転要素とを有し、前記機関軸からの動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な動力伝達手段を更に備えるものであってもよい。この場合、前記動力伝達手段は、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力すると共に前記蓄電手段と電力をやり取り可能な電力動力入出力手段であってもよい。
【0010】
そして、前記電力動力入出力手段は、動力を入出力可能な発電用電動機と、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸と前記発電用電動機の回転軸との3軸に接続され、これら3軸のうちの何れか2軸に入出力される動力に基づく動力を残余の軸に入出力するものであってもよい。この場合、前記制御手段は、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合、前記蓄電手段から前記電動機に供給される電力を前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて所定割合だけ低下させるものとして前記電動機に対するトルク指令を設定するものであってもよい。すなわち、電動機と発電用電動機との間で電力の収支を調整することができるハイブリッド自動車においては、蓄電手段からの放電電力による電動機の駆動時に効率優先モード選択スイッチがオンされている場合に、蓄電手段から電動機に供給される電力を効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて所定割合だけ低下させるものとして電動機に対するトルク指令を設定すれば、電動機による電力消費量や電動機や蓄電手段等における損失を低減させて車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記動力伝達手段は、無段変速機であってもよい。
【0012】
本発明によるハイブリッド自動車の制御方法は、走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、エネルギ効率を優先する効率優先モードを選択するための効率優先モード選択スイッチとを備えたハイブリッド自動車の制御方法であって、
(a)走行に要求される要求駆動力に基づいて前記内燃機関の目標運転ポイントを設定するステップと、
(b)前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオフされている場合には、ステップ(a)にて設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合には、ステップ(a)にて設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記電動機により出力される動力が前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下するように前記内燃機関と前記電動機とを制御するステップと、
を含むものである。
【0013】
この方法のように、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モードが選択されている場合に電動機により出力される動力を効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下させれば、走行用の動力が効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて若干低下することになるが、電動機による電力消費量や電動機等における損失を低減させて車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。また、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モード選択スイッチがオンされている場合に、内燃機関の出力を低下させるとすると却って内燃機関の効率を低下させてしまうことがあるが、この方法のもとでは、ある要求駆動力に対する内燃機関の目標運転ポイントが効率優先モード選択スイッチの操作状態に拘わらず同一に設定されることになるので、このような内燃機関の効率の低下を抑制することができる。従って、この方法によれば、内燃機関と電動機との双方からの動力を用いる走行時に効率優先モードが選択されている場合に、内燃機関と電動機とをより適正に制御してエネルギ効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸であるクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された車軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに接続されたモータMG2と、ハイブリッド自動車20の全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70等とを備えるものである。
【0016】
エンジン22は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料の供給を受けて動力を出力する内燃機関であり、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により燃料噴射量や点火時期、吸入空気量等の制御を受けている。エンジンECU24には、エンジン22に対して設けられて当該エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される。そして、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0017】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行う遊星歯車機構として構成されている。機関側回転要素としてのキャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、車軸側回転要素としてのリングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、動力分配統合機構30は、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側とにそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して最終的に駆動輪である車輪39a,39bに出力される。
【0018】
モータMG1およびモータMG2は、何れも発電機として作動すると共に電動機として作動可能な周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介して二次電池であるバッテリ50と電力のやり取りを行う。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の何れか一方により発電される電力を他方のモータで消費できるようになっている。従って、バッテリ50は、モータMG1,MG2の何れかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになり、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されないことになる。モータMG1,MG2は、何れもモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号等が出力される。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンを実行し、モータMG1,MG2の回転子の回転数Nm1,Nm2を計算している。また、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信しており、ハイブリッドECU70からの制御信号等に基づいてモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からのバッテリ温度Tb等が入力されている。バッテリECU52は、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッドECU70やエンジンECU24に出力する。更に、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量SOCも算出している。
【0020】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置であるシフトポジションSPを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBS、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力される。また、本実施例のハイブリッド自動車20の運転席近傍には、走行時の制御モードとして、ドライバビリティよりも燃費等のエネルギ効率を優先するECOモード(効率優先モード)を選択するためのECOスイッチ(効率優先モード選択スイッチ)88が設けられており、このECOスイッチ88もハイブリッドECU70に接続されている。ECOスイッチ88が運転者等によりオンされると、通常時(スイッチオフ時)には値0に設定される所定のECOフラグFecoが値1に設定されると共に、予め定められた効率優先時用の各種制御手順に従ってハイブリッド自動車20が制御されることになる。そして、ハイブリッドECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と各種制御信号やデータのやり取りを行っている。
【0021】
上述のように構成された第1の実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクが計算され、この要求トルクに対応する動力がリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1とモータMG2とが制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御モードとしては、要求トルクに見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2から要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するように運転制御するモータ運転モード等がある。
【0022】
次に、上述のように構成されたハイブリッド自動車20の動作について説明する。図2は、ハイブリッドECU70により所定時間毎(例えば、数msec毎)に実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0023】
図2の駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70のCPU72は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ87からの車速V、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2、充放電要求パワーPb*、バッテリ50の充放電に許容される電力である入出力制限Win,Wout、ECOスイッチフラグFecoの値といった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、モータECU40から通信により入力するものとした。また、充放電要求パワーPb*は、バッテリ50の残容量SOC等に基づいてバッテリECU52によってバッテリ50を充放電すべき電力として設定されるものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。同様に、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の温度Tbとバッテリ50の残容量SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。ステップS100のデータ入力処理の後、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動輪たる車輪39a,39bに連結された車軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定した上で、エンジン22に要求される要求パワーPe*を設定する(ステップS110)。本実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係が予め定められて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶されており、要求トルクTr*としては、与えられたアクセル開度Accと車速Vとに対応したものが当該マップから導出・設定される。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。また、本実施例において、要求パワーPe*は、設定した要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものと充放電要求パワーPb*(ただし放電要求側を正とする)とロスLossとの総和として計算される。なお、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、図示するようにモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除するか、あるいは車速Vに換算係数kを乗じることによって求めることができる。続いて、ステップS110にて設定した要求パワーPe*に基づいてエンジン22が効率よく運転されるようにエンジン22の目標運転ポイントとしての目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する(ステップS120)。本実施例では、予め定められたエンジン22を効率よく動作させるための動作ラインと要求パワーPe*とに基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定するものとした。図4に、エンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する。同図に示すように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とは、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定となることを示す相関曲線との交点として求めることができる。
【0024】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定したならば、目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)と動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)とを用いて次式(1)に従いモータMG1の目標回転数Nm1*を計算した上で、計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づく式(2)の計算を実行してモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS130)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。また、動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図5に例示する。図中、左側のS軸はモータMG1の回転数Nm1に一致するサンギヤ31の回転数を示し、中央のC軸はエンジン22の回転数Neに一致するキャリア34の回転数を示し、右側のR軸はモータMG2の回転数Nm2を変速機60の現在のギヤ比Grで除したリングギヤ32の回転数Nrを示す。また、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1からトルクTm1を出力したときにこのトルク出力によりリングギヤ軸32aに作用するトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2が減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。モータMG1の目標回転数Nm1*を求めるための式(1)は、この共線図における回転数の関係を用いれば容易に導出することができる。そして、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。ステップS130にてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定したならば、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと、トルク指令Tm1*と現在のモータMG1の回転数Nm1との積として得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で除することによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(3)および式(4)を用いて計算する(ステップS140)。
【0025】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) …(1)
Tm1*=前回Tm1*+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt …(2)
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(3)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(4)
【0026】
次いで、ステップS100にて入力したECOフラグFecoが値1であるか否か、すなわち運転者等によりECOスイッチ88がオンされているか否かを判定する(ステップS150)。ECOスイッチ88がオフされており、ECOフラグFecoが値0である場合には、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρと減速ギヤ35のギヤ比Grとに基づいてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを次式(5)を用いて計算し(ステップS160)、モータMG2のトルク指令Tm2*をステップS140にて計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値として設定する(ステップS190)。このようにしてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、車軸としてのリングギヤ軸32aに出力するトルクをバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。なお、式(5)は、図5の共線図から容易に導出することができる。こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS200)、再度ステップS100以降の処理を実行する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを得るための制御を実行する。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*を用いてモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*を用いてモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0027】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr …(5)
【0028】
一方、ステップS150にてECOフラグFecoが値1であると判断した場合、すなわち運転者等によりECOスイッチ88がオンされている場合には、更にステップS100にて入力した充放電要求パワーPb*が所定値Pref(正の比較的小さな値または値0)以上であるか、つまり、充放電要求パワーPb*が放電電力として値Pref以上であるか否かを判定する(ステップS170)。充放電要求パワーPb*が所定値Pref未満であり、主にモータMG1により発電された電力を用いてモータMG2を駆動することになる場合には、上記式(5)を用いて仮モータトルクTm2tmpを設定し(ステップS160)、更にステップS190およびS200の処理を実行する。これに対して、ステップS170にて充放電要求パワーPb*が所定値Pref以上であると判断した場合、すなわち、ECOスイッチ88がオンされていると共に主にバッテリ50からの放電電力によりモータMG2を駆動する場合には、次式(6)を用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算する(ステップS180)。ここで、式(6)は、バッテリ50からモータMG2に供給される電力をECOスイッチ88のオフ時に比べて所定割合rだけ低下させることによるトルクの減少分を図5の共線図よりモータMG2に本来要求されるものとして導出されるトルクから差し引いた値を仮モータトルクTm2tmpとするものである。こうしてステップS180にて仮モータトルクTm2tmpを設定したならば、ECOスイッチ88がオフされている場合と同様に、ステップS190およびS200の処理を実行した上で、再度ステップS100以降の処理を実行する。これにより、ハイブリッド自動車20では、バッテリ50からの放電電力によりモータMG2を駆動すると共にECOスイッチ88がオンされている場合、モータMG2により出力されるトルクがECOスイッチ88のオフ時に比べて低下することになり、車軸としてのリングギヤ軸32aに出力されるトルクは要求トルクTr*よりも小さくなる。このように、本実施例のハイブリッド自動車20では、ECOスイッチ88がオンされている際に運転者により要求されているトルク(要求トルクTr*)よりも小さい走行用のトルクが出力される可能性があるが、運転者は基本的にECOモードを選択した際に比較的穏やかな運転を実行するであろうから、このように走行用のトルクが要求トルクTr*よりも小さくなったとしても、運転者等が違和感を感じることは少ないと考えられる。そして、上記割合rは、このような走行用のトルクの減少に伴う違和感を感じさせない程度の値として実験等を経て設定されるとよい。
【0029】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ-r・Pb*/Nm2)/Gr …(6)
【0030】
以上説明したように、第1の実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOスイッチ88がオフされている場合には、要求トルクTr*(要求パワーPe*)に基づいてステップS120にて設定された目標運転ポイント(目標回転数Ne*および目標トルクTe*)でエンジン22が運転されると共に要求トルクTr*に基づく動力が得られるようにエンジン22とモータMG1,MG2とが制御される(ステップS130〜S160,S190,S200)。また、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOスイッチ88がオンされている場合には、要求トルクTr*に基づいてステップS120にて設定された目標運転ポイントでエンジン22が運転されると共にモータMG2により出力される動力がECOスイッチ88のオフ時に比べて低下するようにエンジン22とモータMG1,MG2とが制御される(ステップS130〜S150,S170〜S200)。このように、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOモードが選択されている場合に、モータMG2の出力トルクをECOスイッチ88のオフ時に比べて低下させれば、車軸としてのリングギヤ軸32aに出力される走行用のトルクがECOスイッチ88のオフ時に比べて低下してドライバビリティが若干低下することになるが、モータMG2による電力消費量やモータMG2、インバータ42、バッテリ50における損失を低減させて車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。また、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOスイッチ88がオンされている場合に、エンジン22の出力を低下させるとすると却ってエンジン22の効率を低下させてしまうおそれがあるが、ハイブリッド自動車20では、ある要求トルクTr*に対するエンジン22の目標運転ポイントがECOスイッチ88の操作状態に拘わらず同一に設定されることになるので、エンジン22の効率の低下を抑制することができる。従って、本実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22とモータMG2との双方からの動力を用いる走行時にECOモードが選択されている場合に、エンジン22とモータMG2とをより適正に制御してエネルギ効率を向上させることが可能となる。
【0031】
なお、第1の実施例のハイブリッド自動車20は、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに接続された車軸に出力するものであるが、本発明の適用対象は、これに限られるものでもない。すなわち、本発明は、図6に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Aのように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aに接続された車軸(車輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図6における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものに適用されてもよい。また、上記実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して車輪39a,39bに接続される車軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものであるが、本発明の適用対象は、これに限られるものでもない。すなわち、本発明は、図7に示す変形例としてのハイブリッド自動車20Bのように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と車輪39a,39bに動力を出力する車軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を車軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えたものに適用されてもよい。
【0032】
更に、上記ハイブリッド自動車20は、車軸側回転要素としてのリングギヤ32および機関側回転要素としてのキャリア34を有する動力分配統合機構30を有するものであるが、本発明は、動力分配統合機構30の代わりに、エンジン22の動力を車軸側に伝達する動力伝達手段として無段変速機(以下「CVT」という)を備えた車両に適用されてもよい。このような車両の一例であるハイブリッド自動車20Cを図8に示す。同図に示す変形例のハイブリッド自動車20Cは、エンジン22からの動力をトルクコンバータ130や前後進切換機構135、ベルト式のCVT140、ギヤ機構37、デファレンシャルギヤ38等を介して例えば前輪である車輪39a,39bに出力する前輪駆動系と、同期発電電動機であるモータMGからの動力をギヤ機構37′、デファレンシャルギヤ38′等を介して例えば後輪である車輪39c,39dに出力する後輪駆動系と、車両全体を制御するハイブリッドECU70とを備える。この場合、トルクコンバータ130は、ロックアップ機構を有する流体式トルクコンバータとして構成される。また、前後進切換機構135は、例えばダブルピニオンの遊星歯車機構とブレーキとクラッチとを含み、前後進の切り換えやトルクコンバータ130とCVT140との接続・切離を実行する。CVT140は、機関側回転要素としてのインプットシャフト141に接続された溝幅を変更可能なプライマリプーリ143と、同様に溝幅を変更可能であって車軸側回転要素としてのアウトプットシャフト142に接続されたセカンダリプーリ144と、プライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝に巻き掛けられたベルト145とを有する。そして、CVT140は、CVT用電子制御ユニット146により駆動制御される油圧回路147からの作動油によりプライマリプーリ143およびセカンダリプーリ144の溝幅を変更することにより、インプットシャフト141に入力した動力を無段階に変速してアウトプットシャフト142に出力する。なお、CVT140は、トロイダル式のCVTとして構成されてもよい。そして、モータMGは、インバータ45を介してエンジン22により駆動されるオルタネータ29や、当該オルタネータ29からの電力ラインに出力端子が接続されたバッテリ(高圧バッテリ)50に接続されている。これにより、モータMGは、オルタネータ29やバッテリ50からの電力により駆動されたり、回生を行って発電した電力によりバッテリ50を充電したりする。このように構成されたハイブリッド自動車20Cは、運転者のアクセルペダル83の操作に応じて主としてエンジン22からの動力を例えば前輪である車輪39a,39bに出力して走行し、必要に応じて車輪39a,39bへの動力の出力に加えてモータMGからの動力を例えば後輪である車輪39c,39dに出力して4輪駆動により走行する。
【実施例2】
【0033】
引き続き、図9および図10等を参照しながら、本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Dについて説明する。なお、第2の実施例のハイブリッド自動車20Dを構成する要素のうち、第1の実施例のハイブリッド自動車20と共通する要素については、重複した説明を回避するために第1実施例と同一の符号を用いるものとし、詳細な説明を省略する。図9は、第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Dの概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20Dでは、クラッチC1を介してエンジン22のクランクシャフト26と同期発電電動機であるモータMG(ロータ)とが接続されると共に、モータMG(ロータ)が例えば無段式の自動変速機90のインプットシャフト91に接続される。そして、自動変速機90のアウトプットシャフト92からの動力は、デファレンシャルギヤ38を介して最終的に駆動輪である車輪39a,39bに出力される。また、ハイブリッド自動車20Dも第1の実施例のハイブリッド自動車20と同様に図示しないECOスイッチを有しており、ECOスイッチをオンすることによりドライバビリティよりも燃費等のエネルギ効率を優先するECOモードを選択することができる。このようなハイブリッド自動車20Dは、基本的にエンジン22からの動力を車輪39a,39bに出力して走行し、例えば加速時等の所定条件下でバッテリ50からの電力を用いてモータMGにアシストトルクを出力させ、エンジン22とモータMGとの双方からの動力により走行する。そして、第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Dでは、車両全体を制御する図示しないハイブリッドECUにより、図10に例示する駆動制御ルーチンが所定時間毎(例えば、数msec毎)に実行される。
【0034】
図10の駆動制御ルーチンの開始に際して、ハイブリッド自動車20DのハイブリッドECUに含まれるCPU(図示省略)は、アクセル開度Accや車速V、自動変速機90のインプットシャフト91の回転数Ni、自動変速機90のアウトプットシャフト92の回転数No、バッテリ50の残容量SOC、ECOフラグFecoの値といった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS300)。ここで、回転数NiおよびNoは、インプットシャフト91およびアウトプットシャフト92に設けられた図示しない回転位置検出センサにより検出されるものであり、残容量SOCは、バッテリ50を管理する図示しないバッテリECUから送信されるものである。ステップS300のデータ入力処理の後、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車輪39a,39bに連結された車軸としてのアウトプットシャフト92に出力すべき要求トルクTr*を設定した上で、車両全体に要求される車両要求パワーP*を設定する(ステップS310)。本実施例においても、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係が予め定められて要求トルク設定用マップとしてハイブリッドECUのROMに記憶されており、要求トルクTr*としては、与えられたアクセル開度Accと車速Vとに対応したものが当該マップから導出・設定される。また、本実施例において、車両要求パワーP*は、設定した要求トルクTr*とステップS300にて入力したアウトプットシャフト92の回転数Noとの積として計算される。
【0035】
次いで、ステップS300にて入力したアクセル開度Accと図10のルーチンの前回実行時におけるアクセル開度Accとの偏差であるアクセル開度偏差ΔAccが所定値α以上であるか否かを判定する(ステップS320)。そして、アクセル開度偏差ΔAccが所定値α未満である場合には、走行用の動力をエンジン22のみによりまかなうものとして、ステップS310にて設定した車両要求パワーP*をエンジン22に出力させるべきエンジン要求パワーPe*として設定する(ステップS330)。また、アクセル開度偏差ΔAccが所定値α以上であり、運転者による加速要求がある程度大きいものである場合には、更にステップS300にて入力したバッテリ50の残容量SOCが所定値Sref以上であるか否かを判定する(ステップS340)。ステップS340にてバッテリ50の残容量SOCが所定値Sref未満であると判断した場合には、走行用の動力をエンジン22のみによりまかなうものとして、ステップS310にて設定した車両要求パワーP*をエンジン22に要求されているエンジン要求パワーPe*として設定する(ステップS330)。これに対して、ステップS340にてバッテリ50の残容量SOCが所定値Sref以上であると判断した場合には、ステップS310にて設定した車両要求パワーP*や車両要求パワーP*の前回値に基づくなまし処理あるいはレート処理を実行してエンジン22に出力させるべきエンジン要求パワーPe*を設定する(ステップS350)。すなわち、ハイブリッド自動車20Dでは、加速要求がなされた場合、運転者による加速要求に対する応答性を考慮して、モータMGに比べてトルク指令に対する応答性が低いエンジン22に対するエンジン要求パワーPe*を急峻に変化させず、不足する動力をより高い応答性を有するモータMGに出力させることとしている。
【0036】
ステップS330またはS350にてエンジン要求パワーPe*を設定したならば、設定したエンジン要求パワーPe*に基づいて図4と同様のマップを用いてエンジン22が効率よく運転されるようにエンジン22の目標トルクTe*と自動変速機90のインプットシャフト91の目標回転数Ni*とを設定する(ステップS360)。ここで、本実施例のハイブリッド自動車20Dでは、エンジン22(クランクシャフト26)の回転数とインプットシャフト91の回転数とが同一となるから、目標トルクTe*と目標回転数Ni*とはエンジン22の目標運転ポイントを示すことになる。ステップS360の処理の後、インプットシャフト91の目標回転数Ni*をステップS300にて入力したアウトプットシャフト92の回転数で除した値を自動変速機90の目標変速比γ*として設定する(ステップS370)。次いで、車両要求パワーP*とエンジン要求パワーPe*との偏差が値0を上回っているか否か判定し(ステップS380)、車両要求パワーP*とエンジン要求パワーPe*とが一致していればモータMGに動力を出力させる必要がないことから、モータMGに対するトルク指令Tm*を値0に設定する(ステップS390)。そして、上述のようにして設定した目標トルクTe*、目標回転数Ni*、目標変速比γ*、トルク指令Tm*を何れも図示しないエンジン用電子制御ユニット、変速機用電子制御ユニット、モータ用電子制御ユニットに適宜送信し(ステップS430)、再度ステップS300以降の処理を実行する。
【0037】
一方、ステップS380にて車両要求パワーP*とエンジン要求パワーPe*との偏差が値0を上回っていると判断した場合には、エンジン22とモータMGとの双方から動力を出力させることになるが、この場合には、まずステップS300にて入力したECOフラグFecoが値0であるか否か、すなわち運転者等によりECOスイッチがオフされているか否かを判定する(ステップS400)。そして、ECOスイッチがオフされており、ECOフラグFecoが値0である場合には、車両要求パワーP*に対するエンジン要求パワーPe*の不足分をモータMGからの動力によりまかなうべく、次式(7)に従い車両要求パワーP*とエンジン要求パワーPe*との偏差を目標回転数Ni*で除した値をモータMGに対するトルク指令Tm*として設定する(ステップS410)。これに対して、ECOスイッチがオンされており、ECOフラグFecoが値1である場合には、次式(8)を用いてモータMGに対するトルク指令Tm*を設定する(ステップS420)。ここで、式(8)は、モータMGに対するトルク指令値をECOスイッチのオフ時に比べて所定割合rだけ小さく設定するものである。こうしてステップS410またはS420にてトルク指令Tm*を設定したならば、設定した目標トルクTe*、目標回転数Ni*、目標変速比γ*、トルク指令Tm*をエンジン用電子制御ユニット、変速機用電子制御ユニット、モータ用電子制御ユニットに適宜送信し(ステップS430)、再度ステップS300以降の処理を実行する。
【0038】
Tm*=(P*-Pe*)/Ni* …(7)
Tm*=(1-r)・(P*-Pe*)/Ni* …(8)
【0039】
このように、本発明は、エンジン22と専らバッテリ50からの電力により駆動されるモータMGとを備え、エンジン22とモータMGとの双方からの動力を用いて走行可能なハイブリッド自動車20Dに適用されもよい。すなわち、ハイブリッド自動車20Dにおいても、エンジン22とモータMGとの双方からの動力を用いる走行時にECOモードが選択されている場合、モータMGの出力トルクをECOスイッチのオフ時に比べて低下させれば、車軸としてのアウトプットシャフト92に出力される走行用のトルクがECOスイッチのオフ時に比べて低下してドライバビリティが若干低下することになるが、モータMGによる電力消費量やモータMG、インバータ45、バッテリ50等における損失を低減させると共にエンジン22の効率の低下を抑制して車両のエネルギ効率を向上させることが可能となる。なお、図10に示すルーチンを応用した処理は、図8に例示したCVT140を備えたハイブリッド自動車20Cをエンジン22からの動力とバッテリ50からの電力により駆動されるモータMGからの動力とを用いて加速させる際に利用されてもよい。
【0040】
ここで、上記実施例および変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明しておく。すなわち、リングギヤ軸32a等に動力を出力可能なエンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG,MG2、あるいは対ロータ電動機230が「電動機」に相当し、バッテリ50が「蓄電手段」に相当し、ECOモードを選択するためのECOスイッチ88が「効率優先モード選択スイッチ」に相当し、図2あるいは図10の駆動制御ルーチンを実行するハイブリッドECU70等が「要求駆動力設定手段」、「目標運転ポイント設定手段」および「制御手段」に相当する。また、車軸側回転要素としてのリングギヤ32と機関軸側回転要素としてのキャリア34とを有する動力分配統合機構30や車軸側回転要素としてのインプットシャフト141と機関軸側回転要素としてのアウトプットシャフト142とを有するCVT140が「動力伝達手段」に相当し、モータMG1および動力分配統合機構30や対ロータ電動機230が「電力動力入出力手段」に相当し、モータMG1、オルタネータ29あるいは対ロータ電動機230が「発電用電動機」に相当し、動力分配統合機構30が「3軸式動力入出力手段」に相当する。なお、これら実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行われるべきものである。
【0041】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、自動車の製造産業等において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】第1の実施例のハイブリッドECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22の動作ラインと目標回転数Ne*と目標トルクTe*との相関曲線とを例示する説明図である。
【図5】動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を例示する説明図である。
【図6】第1の実施例の変形例に係るハイブリッド自動車20Aの概略構成図である。
【図7】第1の実施例の他の変形例に係るハイブリッド自動車20Bの概略構成図である。
【図8】第1の実施例の更に他の変形例に係るハイブリッド自動車20Cの概略構成図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るハイブリッド自動車20Dの概略構成図である。
【図10】第2の実施例のハイブリッドECUにより実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
20,20A,20B,20C,20D ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、29 オルタネータ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、37,37′ ギヤ機構、38,38′ デファレンシャルギヤ、39a〜39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,45 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、87 車速センサ、88 ECOスイッチ、90自動変速機、91,141 インプットシャフト、92,142 アウトプットシャフト、130 トルクコンバータ、135 前後進切換機構、140 CVT、143 プライマリプーリ、144 セカンダリプーリ、145 ベルト、146 CVT用電子制御ユニット、147 油圧回路、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力を出力可能な内燃機関と、
走行用の動力を出力可能な電動機と、
前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、
エネルギ効率を優先する効率優先モードを選択するための効率優先モード選択スイッチと、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記設定された要求駆動力に基づいて前記内燃機関の目標運転ポイントを設定する目標運転ポイント設定手段と、
前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオフされている場合には、前記設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記設定された要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合には、前記設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記電動機により出力される動力が前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下するように前記内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるハイブリッド自動車。
【請求項2】
前記制御手段は、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合、前記電動機に対するトルク指令値を前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて所定量だけ小さくする請求項1に記載のハイブリッド自動車。
【請求項3】
所定の車軸に接続される車軸側回転要素と前記内燃機関の機関軸に接続されると共に前記車軸側回転要素に対して差回転可能な機関側回転要素とを有し、前記機関軸からの動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力可能な動力伝達手段を更に備える請求項1または2に記載のハイブリッド自動車。
【請求項4】
前記動力伝達手段は、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸とに接続されて電力と動力との入出力を伴って前記内燃機関の動力の少なくとも一部を前記車軸側に出力すると共に前記蓄電手段と電力をやり取り可能な電力動力入出力手段である請求項3に記載のハイブリッド自動車。
【請求項5】
前記電力動力入出力手段は、動力を入出力可能な発電用電動機と、前記車軸と前記内燃機関の前記機関軸と前記発電用電動機の回転軸との3軸に接続され、これら3軸のうちの何れか2軸に入出力される動力に基づく動力を残余の軸に入出力する3軸式動力入出力手段とを含む請求項4に記載のハイブリッド自動車。
【請求項6】
前記制御手段は、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合、前記蓄電手段から前記電動機に供給される電力を前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて所定割合だけ低下させるものとして前記電動機に対するトルク指令を設定する請求項5に記載のハイブリッド自動車。
【請求項7】
前記動力伝達手段は、無段変速機である請求項3に記載のハイブリッド自動車。
【請求項8】
走行用の動力を出力可能な内燃機関と、走行用の動力を出力可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、エネルギ効率を優先する効率優先モードを選択するための効率優先モード選択スイッチとを備えたハイブリッド自動車の制御方法であって、
(a)走行に要求される要求駆動力に基づいて前記内燃機関の目標運転ポイントを設定するステップと、
(b)前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオフされている場合には、ステップ(a)にて設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記要求駆動力に基づく動力が得られるように前記内燃機関と前記電動機とを制御し、前記内燃機関と前記電動機との双方からの動力を用いる走行時に前記効率優先モード選択スイッチがオンされている場合には、ステップ(a)にて設定された目標運転ポイントで前記内燃機関が運転されると共に前記電動機により出力される動力が前記効率優先モード選択スイッチのオフ時に比べて低下するように前記内燃機関と前記電動機とを制御するステップと、
を含むハイブリッド自動車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−162490(P2008−162490A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356259(P2006−356259)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】