説明

ハイブリッド自動車

【課題】発電機用インバータのスイッチングに伴うノイズの変化により運転者に違和感を与えるのを抑制する。
【解決手段】第1モータは車速Vに同期せずに回転する構成であり、車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0より大きいときには(S150)、第1モータの回転数Nm1に同期して変更されるキャリア周波数を用いたPWM制御方式でインバータをスイッチングする同期キャリアPWM制御方式によって第1モータが駆動されるようインバータを制御する(S170)。また、車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0以下のときには、予め固定されたキャリア周波数を用いたPWM制御方式でインバータをスイッチングする固定キャリアPWM制御方式によって第1モータが駆動されるようインバータを制御する(S160)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関し、詳しくは、内燃機関と、車軸に連結された駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、複数のスイッチング素子を有し電動機を駆動する電動機用インバータと、電動機用インバータを介して電動機に接続された二次電池と、を備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車や電気自動車が備えるモータを駆動するためのインバータの制御装置として、モータに印加すべき正弦波状の電圧指令の1周期を三角波であるキャリアの数周期分などと定めることで、モータの回転数に同期して変更されるキャリア周波数を用いたパルス幅変調(PWM)制御方式である同期PWM制御方式や、モータの回転に同期しないキャリアを用いたPWM制御方式である非同期PWM制御方式によって、モータを駆動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このインバータの制御装置では、モータで発生させるトルクがしきい値よりも大きい場合には同期PWM制御を行なうことにより、比較的小さいキャリア周波数でも制御性を良好なものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−57243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したインバータの制御装置が採用する同期PWM制御方式は、車速に同期せずに回転するモータ用のインバータの制御に採用すると、運転者に違和感を与える場合がある。車両の加速や減速に応じて通常想定される傾向でインバータのスイッチングに伴うノイズが変化する場合はよいが、例えば、車速が上昇しているにも拘わらずインバータからのノイズの周波数が低くなると、運転者に違和感を与える場合が生じる。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、内燃機関の出力軸と発電機の回転軸と駆動軸との3軸にそれぞれキャリアとサンギヤとリングギヤとが接続された遊星歯車機構を備えるものにおいて、発電機用インバータのスイッチングに伴うノイズの変化により運転者に違和感を与えるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関と、車軸に連結された駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、複数のスイッチング素子を有し前記電動機を駆動する電動機用インバータと、前記電動機用インバータを介して前記電動機に接続された二次電池と、を備えるハイブリッド自動車において、
動力を入出力可能な発電機と、
複数のスイッチング素子を有し、前記バッテリと前記発電機とに接続されて前記発電機を駆動する発電機用インバータと、
前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸と前記駆動軸との3軸にそれぞれキャリアとサンギヤとリングギヤとが接続された遊星歯車機構と、
前記発電機の回転数に同期して変更されるキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で前記発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする同期キャリアPWM制御方式および予め固定されたキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で前記発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする固定キャリアPWM制御方式を含む複数の制御方式のいずれかによって前記発電機が駆動されると共に、前記電動機用インバータの複数のスイッチング素子のスイッチングにより前記電動機が駆動され、走行に要求される駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機用インバータと前記電動機用インバータとを制御する制御手段と、
を備え
前記制御手段は、車速の所定時間あたりの変化量である車速変化量と前記発電機の回転数の前記所定時間あたりの変化量である発電機回転数変化量との両方が正の値または負の値である同期変化時には、前記同期キャリアPWM制御方式によって前記発電機が駆動されるよう前記発電機用インバータを制御し、前記同期変化時でないときには、前記固定キャリアPWM制御方式によって前記発電機が駆動されるよう前記発電機用インバータを制御する手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、発電機は車速に同期せずに回転する構成であり、車速の所定時間あたりの変化量である車速変化量と発電機の回転数の所定時間あたりの変化量である発電機回転数変化量との両方が正の値または負の値である同期変化時には、発電機の回転数に同期して変更されるキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする同期キャリアPWM制御方式によって発電機が駆動されるよう発電機用インバータを制御する。また、同期変化時でないときには、予め固定されたキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする固定キャリアPWM制御方式によって発電機が駆動されるよう発電機用インバータを制御する。これにより、車速と発電機の回転数とのうち一方が増加して他方が減少するときには、発電機用インバータのキャリア周波数が変更されずに固定されるから、発電機用インバータのスイッチングに伴うノイズの変化により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】インバータ41,42の構成の概略を示す構成図である。
【図3】エンジン22からパワーを出力している状態で走行しているときのプラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図4】モータECU40により実行されるインバータ制御方式選択ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】車速Vが上昇すると共に正回転領域でモータMG1が回転上昇しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図6】車速Vが上昇すると共に正回転領域でモータMG1が回転低下しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図7】車速Vが上昇すると共に負回転領域でモータMG1が回転上昇しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、インバータ41,42の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とする内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号などエンジン22の状態を検出する各種センサからの信号を入力してエンジン22を運転するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置検出センサからの信号などモータMG1,MG2やインバータ41,42の状態を検出する各種センサからの信号を入力すると共にインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン電池などの二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。なお、エンジンECU24は、図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数即ちエンジン22の回転数Neを演算しており、モータECU40は、図示しない回転位置検出センサからの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算しており、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために図示しない電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算すると共に、演算した残容量(SOC)とバッテリ50の温度とに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0012】
インバータ41,42は、図2に示すように、それぞれ、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26とにより構成されている。なお、インバータ41,42が共用する正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0013】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0014】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸32に要求される要求トルクTr*を設定し、要求トルクTr*に駆動軸32の回転数(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数kを乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算する。続いて、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて設定されるバッテリ50を充放電するのに必要なパワーとしての充放電要求パワーPb*と走行用パワーPdrv*と損失Lossとの和としてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を計算する。そして、要求パワーPe*をエンジン22を始動したり停止したりするための始動停止閾値と比較し、エンジン22の運転を停止しているときに要求パワーPe*が始動停止閾値以上となったときにはエンジン22を始動し、エンジン22を運転しているときに要求パワーPe*が始動停止閾値未満となったときにはエンジン22の運転を停止する。
【0015】
エンジン22の運転を継続しているときやエンジン22を始動した後は、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数とトルクとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数と目標トルクとを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定する。次に、要求トルクTr*からモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータMG2のトルク指令Tm2*として設定する。図3にエンジン22からパワーを出力している状態で走行しているときのプラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤの回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリアの回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2に等しいリングギヤ32の回転数Nr(駆動軸32の回転数)を示す。また、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1からトルクTm1を出力したときに駆動軸32に作用するトルク(−Tm1/ρ)と、モータMG2からトルクTm2を出力したときに駆動軸32に作用するトルクとを示す。この共線図から分かるように、モータMG2のトルク指令Tm2*は、基本的には、モータMG1のトルク指令Tm1*を用いて、駆動軸32に要求される要求トルクTr*からトルク(−Tm1*/ρ)を減じて得られるトルクとして設定される。そして、設定したエンジン22の目標回転数と目標トルクとについてはエンジンECU24に送信し、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数と目標トルクとを受信したエンジンECU24は、目標回転数と目標トルクとによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行し、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜T26をスイッチング制御する。これにより、アクセル開度Accに対応する走行用パワーPdrv*を駆動軸32に出力して要求トルクTr*により走行することができる。
【0016】
一方、エンジン22の運転停止を継続しているときやエンジン22の運転を停止した後は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*をモータMG2のトルク指令Tm2*に設定し、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。これにより、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの動力のみを用いて要求トルクTr*により走行することができる。実施例のハイブリッド自動車20は、こうした制御により、エンジン22の間欠運転を伴ってバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でバッテリ50を充放電しながらアクセル開度Accに対応する走行用パワーPdrv*を駆動軸32に出力して要求トルクTr*により走行する。
【0017】
ここで、インバータ41,42のスイッチング制御について説明する。実施例では、モータECU40は、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2とトルク指令Tm1*,Tm2*とに基づいてそれぞれ複数の制御モードから1つの制御モードを選択してインバータ41,42をスイッチング制御する。ここで、インバータ41,42の制御モードは、それぞれ図示しないマップにより、モータの回転数およびトルクが低い領域から順に、三角波比較によるパルス幅変調(PWM)制御における三角波の振幅以下の振幅で正弦波状の出力電圧指令値を生成して変換した擬似的三相交流電圧としてのPWM信号でインバータをスイッチングする正弦波制御モード,三角波の振幅を超えた振幅で正弦波状の出力電圧指令値を生成して変換した過変調電圧としてのPWM信号でインバータをスイッチングする過変調制御モード,トルク指令に応じた電圧位相の矩形波電圧でインバータをスイッチングする矩形波制御モードが選択されるように予め定められている。さらに、インバータ41,42の正弦波制御モードには、それぞれ、モータの回転数に同期(比例)してキャリアとしての三角波の周波数(キャリア周波数)を変更させる方式である同期キャリアPWM制御方式や、予め固定されたキャリア周波数を用いる方式である固定キャリアPWM制御方式などがある。実施例の同期キャリアPWM制御方式では、インバータを良好に制御可能な範囲内で予め定められた比較的少ない数周期分の三角波形が正弦波状の出力電圧指令値の1周期に丁度含まれるようにキャリア周波数を定めるものとし、これにより、インバータによるモータの制御性を良好にすると共にインバータのスイッチング損失を小さくすることができる。
【0018】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にモータMG1を駆動するためのインバータ41の制御方式を選択する際の動作について説明する。図4は、モータECU40により実行されるインバータ制御方式選択ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、インバータ41の制御モードとして正弦波制御モードが選択されたときに所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。なお、モータMG2を駆動するためのインバータ42の制御モードとして正弦波制御モードが選択されたときには、実施例では、同期キャリアPWM制御方式が選択されるものとした。
【0019】
インバータ制御方式設定ルーチンが実行されると、モータECU40の図示しないCPUは、まず、予め定められた所定時間ts前の車速Vと所定時間ts前のモータMG1の回転数Nm1とを入力してそれぞれ車速Vsと回転数Nm1sとに設定する処理を実行する(ステップS100)。ここで、所定時間tsは、実施例では、車両の走行に応じて車速センサ88からの車速VとモータMG1の回転数Nm1とがそれぞれ増加しているか又は減少しているかを判断するのに必要な時間として予め実験や解析により定められたものを用いるものとした。また、所定時間ts前の車速Vは、所定時間ts前に車速センサ88により検出されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信により入力して図示しないRAMに記憶したものを入力するものとし、所定時間ts前のモータMG1の回転数Nm1は、所定時間ts前に回転位置検出センサからの信号に基づいて演算されて図示しないRAMに記憶したものを入力するものとした。なお、インバータ41の制御モードとして正弦波制御モードが選択されて最初に本ルーチンが実行されたときには、所定時間tsが経過するのを待って所定時間ts前の車速Vと回転数Nm1とを入力するものとした。
【0020】
こうして車速Vsと回転数Nm1sとを設定すると、現在の車速VとモータMG1の現在の回転数Nm1とを入力し(ステップS110)、入力した回転数Nm1と設定した回転数Nm1sとが同符号であるか否か、即ち共に正の値または共に負の値であるか否かを判定し(ステップS120)、回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号でないときには、固定キャリアPWM制御方式を選択して(ステップS160)、インバータ制御方式選択ルーチンを終了する。回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号でないときに固定キャリアPWM制御方式を選択する理由については、後述する。こうして固定キャリアPWM制御方式が選択されると、予め固定されたキャリア周波数を用いたインバータ41の制御によってトルク指令Tm1*に相当するトルクが出力されるようモータMG1が駆動される。
【0021】
ステップS120でモータMG1の回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号であるときには、入力した車速Vの絶対値から設定した車速Vsの絶対値を減じたものを車速変化量ΔVとして設定すると共に(ステップS130)、入力したモータMG1の回転数Nm1の絶対値から設定した回転数Nm1sの絶対値を減じたものを回転数変化量ΔNm1として設定する(ステップS140)。続いて、設定した車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0より大きいか否かを判定し(ステップS150)、この積が値0以下のときには、固定キャリアPWM制御方式を選択し(ステップS160)、この積が値0より大きいときには、同期キャリアPWM制御方式を選択して(ステップS170)、インバータ制御方式選択ルーチンを終了する。こうして同期キャリアPWM制御方式が選択されると、モータMG1の回転数Nm1に比例するキャリア周波数を用いたインバータ41の制御によってトルク指令Tm1*に相当するトルクが出力されるようモータMG1が駆動される。こうして同期キャリアPWM制御方式を用いることにより、インバータ41によるモータMG1の制御性を良好にすると共にインバータ41のスイッチング損失を小さくすることができる。
【0022】
ここで、ステップS150で車速変化量ΔVとモータMG1の回転数変化量ΔNm1との積が値0より大きいときに同期キャリアPWM制御方式を選択し、この積が値0以下のときに固定キャリアPWM制御方式を選択する理由について説明する。図5に車速Vが上昇すると共に正回転領域でモータMG1が回転上昇しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示し、図6に車速Vが上昇すると共に正回転領域でモータMG1が回転低下しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示し、図7に車速Vが上昇すると共に負回転領域でモータMG1が回転上昇しているときのプラネタリギヤ30の回転要素の回転数が変化する様子を示す共線図の一例を示す。図5に示すように、車速変化量ΔVが値0より大きく且つ正回転領域で回転数変化量ΔNm1が値0より大きいときには、同期キャリアPWM制御方式を用いると、モータMG1の回転数Nm1の上昇に応じてインバータ41のキャリア周波数が高くなるために、インバータ41のスイッチングにより生じるノイズ(電磁音)は車速Vの上昇に応じて高周波数側に変化するノイズとなる。こうしたノイズの変化は、モータMG2用のインバータ42を同期キャリアPWM制御方式によって制御する場合に車速Vの変化に応じて生じるインバータ42からのノイズの変化と同様であり、運転者に違和感を与えにくい。これに対し、図6に示すように、車速変化量ΔVが値0より大きく且つ正回転領域で回転数変化量ΔNm1が値0より小さいときには、同期キャリアPWM制御方式を用いると、インバータ41のスイッチングにより生じるノイズは車速Vの上昇に反して低周波数側に変化するノイズとなるため、運転者に違和感を与えやすい。このため、実施例では、車速Vの変化に反してインバータ41からのノイズが変化することのないように、車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との両方が正の値また負の値のときに同期キャリアPWM制御方式を選択し、そうでないときに固定キャリアPWM制御方式を選択するのである。したがって、ステップS150の判定は、車速Vの変化の方向がモータMG1の回転変化の方向と同じであるか否かを判定するためのものであるということができる。なお、図7に示すように、車速変化量ΔVが値0より大きく且つ負回転領域で回転数変化量ΔNm1が値0より大きいときは、図5の例と同様に、インバータ41からのノイズは車速Vの上昇に応じて高周波数側に変化するノイズとなるとき、即ち車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との両方が正の値となるときであるため、同期キャリアPWM制御方式が用いられる。
【0023】
さらに、ステップS120でモータMG1の回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号でないときに固定キャリアPWM制御方式を選択する理由について説明する。これらの符号が異なるときは、モータMG1の回転数Nm1が値0をまたいで変化するときであり、インバータ41の制御方式として同期キャリアPWM制御方式を用いると、車速Vの変化に反してインバータ41からのノイズが変化する場合が生じる。こうした場合が生じるのを抑制するため、実施例では、モータMG1の回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号でないときには、車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との関係に拘わらず、固定キャリアPWM制御方式を用いるものとした。
【0024】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、モータMG1は図3等の共線図から分かるように車速Vに同期せずに回転する構成であり、車速Vの所定時間tsあたりの変化量である車速変化量ΔVとモータMG1の回転数Nm1の所定時間tsあたりの変化量である回転数変化量ΔNm1との両方が正の値または負の値であるとき(車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0より大きいとき)には、モータMG1の回転数Nm1に同期して変更されるキャリア周波数を用いたPWM制御方式でインバータ41をスイッチングする同期キャリアPWM制御方式によってモータMG1が駆動されるようインバータ41を制御するから、インバータ41の制御性を良好なものとする範囲内でインバータ41のスイッチングの頻度を少なくすることができ、インバータ41のスイッチング損失を抑制することができる。また、車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0以下のときには、予め固定されたキャリア周波数を用いたPWM制御方式でインバータ41をスイッチングする固定キャリアPWM制御方式によってモータMG1が駆動されるようインバータ41を制御するから、車速VとモータMG1の回転数Nm1とのうち一方が増加して他方が減少するときには、インバータ41のキャリア周波数が変更されずに固定され、インバータ41のスイッチングに伴うノイズの変化により運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【0025】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、インバータ42が「電動機用インバータ」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、モータMG1が「発電機」に相当し、インバータ41が「発電機用インバータ」に相当し、プラネタリギヤ30が「遊星歯車機構」に相当し、駆動軸32に要求される要求トルクTr*に応じた要求パワーPe*を出力する運転ポイントとしてエンジン22の目標回転数と目標トルクを設定すると共にエンジン22が目標回転数で回転するようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し且つ駆動軸32に要求トルクTr*が出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定して各設定値を送信するハイブリッド用電子制御ユニット70と、目標回転数と目標トルクとでエンジン22を運転するエンジンECU24と、トルク指令Tm1*,Tm2*でモータMG1,MG2が駆動されるよう正弦波制御モードでインバータ41,42を制御する際にインバータ42については同期キャリアPWM制御方式によってモータMG2が駆動されると共にインバータ41については図4のインバータ制御方式選択ルーチンを実行して回転数Nm1と回転数Nm1sとが同符号であり車速変化量ΔVと回転数変化量ΔNm1との積が値0より大きいときには同期キャリアPWM制御方式によってモータMG1が駆動されそうでないときには固定キャリアPWM制御方式によってモータMG1が駆動されるようインバータ41,42を制御するモータECU40とが「制御手段」に相当する。
【0026】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0027】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、46 コンデンサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、D11〜D16,D21〜D26 ダイオード、T11〜T16,T21〜T26 トランジスタ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、車軸に連結された駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、複数のスイッチング素子を有し前記電動機を駆動する電動機用インバータと、前記電動機用インバータを介して前記電動機に接続された二次電池と、を備えるハイブリッド自動車において、
動力を入出力可能な発電機と、
複数のスイッチング素子を有し、前記バッテリと前記発電機とに接続されて前記発電機を駆動する発電機用インバータと、
前記内燃機関の出力軸と前記発電機の回転軸と前記駆動軸との3軸にそれぞれキャリアとサンギヤとリングギヤとが接続された遊星歯車機構と、
前記発電機の回転数に同期して変更されるキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で前記発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする同期キャリアPWM制御方式および予め固定されたキャリア周波数を用いたパルス幅変調制御方式で前記発電機用インバータの複数のスイッチング素子をスイッチングする固定キャリアPWM制御方式を含む複数の制御方式のいずれかによって前記発電機が駆動されると共に、前記電動機用インバータの複数のスイッチング素子のスイッチングにより前記電動機が駆動され、走行に要求される駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機用インバータと前記電動機用インバータとを制御する制御手段と、
を備え
前記制御手段は、車速の所定時間あたりの変化量である車速変化量と前記発電機の回転数の前記所定時間あたりの変化量である発電機回転数変化量との両方が正の値または負の値である同期変化時には、前記同期キャリアPWM制御方式によって前記発電機が駆動されるよう前記発電機用インバータを制御し、前記同期変化時でないときには、前記固定キャリアPWM制御方式によって前記発電機が駆動されるよう前記発電機用インバータを制御する手段である、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−162113(P2012−162113A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22091(P2011−22091)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】