説明

ハイブリッド車の制御装置

【課題】発電要求がある場合における発電効率を向上させることの可能なハイブリッド車の制御装置を提供する。
【解決手段】動力分配装置の入力要素に接続された駆動力源と、動力分配装置の出力要素に接続された車輪と、動力分配装置の他の回転部材に接続された第1発電機と、出力要素に接続された第2発電機とを有し、駆動力源と駆動軸との間の回転速度比を無段階に変更可能に構成されているとともに、回転速度比を制御するモードとして、固定変速モードおよび無段変速モードとを切り替え可能に構成されているハイブリッド車の制御装置において、回転速度比を制御するモードとして固定変速モードが選択されている場合は、第1発電機または第2発電機のうち、発電効率が高い方の発電機で発電をおこなう発電制御手段(ステップS7,S8)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力分配装置の反力部材および出力部材に、共に発電機が接続されている構成のハイブリッド車の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料の燃焼によりトルクを出力するエンジンと、電力の供給によりトルクを出力するモータ・ジェネレータとを搭載し、エンジンおよびモータ・ジェネレータのトルクを車輪に伝達することのできるハイブリッド車が提案されている。このようなハイブリッド車においては、各種の条件に基づいて、エンジンおよびモータ・ジェネレータの駆動・停止を制御することにより、燃費の向上および騒音の低減および排気ガスの低減を図ることができるものとされている。
【0003】
上記のように、複数種類の駆動力源を搭載したハイブリッド車の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたハイブリッド車においては、エンジンのクランクシャフトが動力分配装置に連結されている。この動力分配装置は、第1遊星歯車機構および第2遊星歯車機構を有している。第1遊星歯車機構は、同軸上に配置された大サンギヤおよびリングギヤと、大サンギヤおよびリングギヤに噛合された大ピニオンギヤを支持するキャリヤとを有している。また、第2遊星歯車機構は、小サンギヤと、小サンギヤに噛合された小ピニオンギヤとを有している。小サンギヤと大サンギヤとが一体回転するように連結されてステップドピニオン機構となっている。つまり、小サンギヤおよび大ピニオンギヤが共にキャリヤにより、自転、かつ、公転可能に支持されている。そして、キャリヤが、入力軸を介してエンジンに動力伝達可能に接続され、大サンギヤが、第1モータ・ジェネレータのロータに接続されている。また、小サンギヤの回転・停止を制御するブレーキが設けられている。さらに、リングギヤには、動力分配装置の出力軸が接続されている。この出力軸が駆動輪に接続されている。また、出力軸には第2モータ・ジェネレータが接続されている。
【0004】
上記の動力分配装置は、入力軸と出力軸との間の変速比を無段階に制御可能な変速機であり、具体的には、無段変速状態とオーバードライブ状態とを切り替え可能である。ブレーキが解放された場合が無段変速状態であり、この無段変速状態でエンジントルクがキャリヤに入力されると、大サンギヤが反力部材となり、出力軸にトルクが伝達される。このとき、第1モータ・ジェネレータで回生制御(発電制御)または力行制御をおこなって、エンジントルクの反力を受け持つと共に、第1モータ・ジェネレータの回転数を制御することにより、動力分配装置の変速比を無段階に制御可能であり、かつ、その変速比を1未満、または1以上のいずれにも設定可能である。これに対して、ブレーキが係合されると、動力分配機構の変速比が「1」よりも小さい状態、つまり、オーバードライブ状態となる。このオーバードライブ状態でエンジントルクがキャリヤに入力されると、小サンギヤが反力部材となり、リングギヤからトルクが出力される。
【0005】
このようにして、エンジントルクが動力分配装置の出力軸に伝達され、そのトルクが駆動輪に伝達される。また、第2モータ・ジェネレータを電動機として駆動させ、そのトルクを駆動輪に伝達して駆動力を補助することも可能である。一方、エンジンから出力軸に伝達された動力の一部を第2モータ・ジェネレータに伝達し、第2モータ・ジェネレータで発電をおこなうことも可能である。なお、複数の駆動力源としてエンジンおよびモータ・ジェネレータが搭載されており、そのモータ・ジェネレータで発電をおこなうことの可能なハイブリッド車の制御装置の一例が、特許文献2にも記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−345527号公報
【特許文献2】特開平7−75207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されている第2モータ・ジェネレータは、車輪に伝達するトルクをアシストする機能を有するものであるため、大電力および大出力仕様に設計された体格が大きな装置である。このため、動力分配装置がオーバードライブ状態である場合のように、動力分配装置の出力要素が高回転数である条件で発電要求が発生した場合に、第2モータ・ジェネレータで発電をおこなうと、効率が低い発電となる恐れがあった。
【0008】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、発電機の発電効率を高めることの可能なハイブリッド車の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、車輪に伝達する動力を発生する駆動力源と、前記車輪と動力伝達可能に接続された駆動軸と、運動エネルギを電気エネルギに変換する第1発電機と、差動回転可能な複数の回転要素を有し、かつ、複数の回転要素のうちの3つの回転要素が前記駆動力源および前記第1発電機および前記駆動軸に別個に動力伝達可能に連結された動力分配装置とを有するとともに、前記駆動力源と前記駆動軸との間の回転速度比を無段階に変化させる無段変速モードと、前記複数の回転要素のうち、前記駆動力源および前記第1発電機および前記駆動軸のいずれにも接続されていない回転要素の回転を阻止することにより、前記回転速度比を固定する固定変速モードとを、切り替え可能に構成されているハイブリッド車の制御装置において、前記駆動軸に動力伝達可能に接続された第2発電機を有し、
前記駆動力源と前記駆動軸との間の回転速度比を制御するモードとして固定変速モードが選択されている場合は、前記第1発電機または第2発電機のうち、発電効率が高い方の発電機で発電をおこなう発電制御手段を備えていることを特徴とする。また、前記第1発電機と、この第1発電機に接続された回転要素との間における動力伝達経路を接続・遮断する動力断続装置が設けられていてもよい。さらに、前記第2発電機で発電をおこなう場合は、前記動力断続装置を制御することにより、前記第1発電機と、この第1発電機に接続された回転要素との間における動力伝達経路を遮断する遮断手段を備えていてもよい。さらにまた、前記第2発電機は、前記車輪に伝達する動力を発生する電動機としての機能を兼備した発電・電動機で構成されており、前記第2発電機の最大出力は前記第1発電機の最大出力よりも高く構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
このハイブリッド車の制御装置によれば、駆動力源と駆動軸の間の回転速度比を制御するモードとして、回転速度比が固定される固定変速モードと、回転速度比を無段階に変更可能な無段変速モードとを切り替え可能である。そして、固定変速モードが選択された場合は、発電効率が高い方の発電機で発電がおこなわれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明において、駆動力源は車輪に伝達する動力を発生する動力装置であり、駆動力源としては、エンジン、電動機、油圧モータ、フライホイールシステムなどのうちの少なくとも1つを用いることが可能である。この発明において、動力分配装置は、差動回転可能な複数の回転要素、例えば、4つの回転要素を有しており、いずれかの回転要素が入力要素であり、いずれかの回転要素が出力要素であり、残りの2つの回転要素が、選択的に反力要素となる。そして、入力要素が駆動力源に連結され、出力要素が駆動軸に連結される。さらに、反力要素となる一方の回転要素に発電機が接続され、反力要素となる他方の回転要素の回転を阻止することが可能である。動力分配装置としては、例えば、遊星機構を用いた無段変速機を用いることができる。遊星機構としては、歯車の噛み合い力により動力伝達をおこなう遊星歯車機構、または作動油のせん断力でトラクション伝動により動力伝達をおこなう遊星ローラ機構を用いることが可能である。さらに、第1の回転要素ないし第4の回転要素は、動力を伝達する機能を備えた要素であり、具体的には、ギヤ、キャリヤ、コネクティングドラム、回転軸、ローラなどの要素が含まれる。
【0012】
さらに、発電機として第1発電機および第2発電機が設けられており、駆動力源の動力が車輪に伝達されるとともに、その動力の一部が発電機に伝達されて、運動エネルギが電気エネルギに変換される。第1発電機および第2発電機は、その発電機能が異なる。具体的には、予め定められた回転数以上で発電する場合の発電効率は、第2発電機よりも第1発電機の方が高い特性を有する。さらに、第1発電機および第2発電機は、発電機としての機能に加えて、電動機としての機能をも兼備したモータ・ジェネレータを用いることが可能である。また、動力断続装置は、第1発電機と回転要素との間の動力伝達経路におけるトルク容量を制御する装置であり、具体的にはクラッチ機構を用いることができる。このクラッチ機構としては、摩擦力によりトルク容量を確保する摩擦式クラッチ、係合力によりトルク容量を確保する噛み合い式クラッチなどを用いることができる。また、クラッチ機構の動作部材を動作させるアクチュエータとしては、油圧アクチュエータまたは電磁アクチュエータを用いることが可能である。さらに、駆動力源の動力が前輪、または後輪のいずれか一方に伝達されるように構成された二輪駆動車、または、駆動力源の動力が、前輪および後輪の両方に伝達されるように構成された四輪駆動車のいずれであってもよい。
【0013】
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図2は、この発明の一実施形態であるF・R(フロントエンジン・リヤドライブ;エンジン前置き後輪駆動)形式のハイブリッド車(以下、「車両」と略記する)の概略構成図である。図2において、車両1は、駆動力源としてのエンジン2を有している。エンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。この実施例では、エンジン2として、トルク制御装置、例えば、電子スロットルバルブ、燃料噴射量制御装置、点火時期制御装置などを有するガソリンエンジンが用いられているものとする。エンジン2から車輪(後輪)3に至る動力伝達経路に動力分配装置4が設けられている。車両1のフロアー(図示せず)の空間にはケーシング5が配置されており、そのケーシング5内に動力分配装置4が配置されている。
【0014】
そして、動力分配装置4は2組の遊星歯車機構を有している。まず、第1遊星歯車機構6はシングルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第1遊星歯車機構6は、同軸上に配置されたサンギヤ7およびリングギヤ8と、サンギヤ7およびリングギヤ8に噛合するピニオンギヤ9を、自転、かつ公転可能に保持したキャリヤ10とを有している。キャリヤ10が動力分配装置4の入力部材である。そして、キャリヤ10にはインプットシャフト11が動力伝達可能に連結、具体的には一体回転するように連結されており、そのインプットシャフト11とエンジン2のクランクシャフト12とが、動力伝達可能に接続されている。クランクシャフト12とインプットシャフト11との間の動力伝達経路には、ダンパ機構、トルクリミッタ機構、クラッチ機構などを設けることも可能である。ダンパ機構は、トルク変動を吸収する機構であり、トルクリミッタは、伝達されるトルクを設定トルク以下に制限する機構であり、クラッチ機構はトルク容量を制御する機構である。
【0015】
図2の具体例では、インプットシャフト11およびクランクシャフト12の回転軸線(図示せず)が、車両1の前後方向に沿って配置されている。さらに、ケーシング5の内部には、第1モータ・ジェネレータMG1が設けられている。インプットシャフト11の回転軸線に沿った方向で、エンジン2と第1遊星歯車機構6との間に第1モータ・ジェネレータMG1が配置されている。この第1モータ・ジェネレータMG1は、エンジントルクの反力を受け持つ反力発生装置として設けられている。この第1モータ・ジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能(電動機としての機能)と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能(発電機としての機能)とを兼備している。第1モータ・ジェネレータMG1は、ステータ13およびロータ14を有しており、ステータ13はケーシング5に固定されている。ステータ13は、電磁鋼板を積層し、かつ、通電用コイルを巻いて構成されている。また、ロータ14とサンギヤ7との間に形成された動力伝達経路には、クラッチ機構35が設けられている。このクラッチ機構35は、ロータ14とサンギヤ7との間で伝達されるトルク容量を制御する機構である。このクラッチ機構35としては、例えば、摩擦式クラッチまたは噛み合い式クラッチなどを用いることが可能である。さらに、クラッチ機構35の一部を構成する動作部材を動作させるアクチュエータ36が設けられており、このアクチュエータ36としては油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータを用いることが可能である。
【0016】
動力分配装置4を構成する第2遊星歯車機構15は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構である。すなわち、第2遊星歯車機構15は、同軸上に配置されたサンギヤ16およびリングギヤ17と、サンギヤ16に噛合する第1ピニオンギヤ18と、リングギヤ17および第1ピニオンギヤ18に噛合する第2ピニオンギヤ19と、第1ピニオンギヤ18および第2ピニオンギヤ19を、自転、かつ公転可能に保持したキャリヤ20とを有している。そして、キャリヤ20とリングギヤ8とが一体回転するように連結され、リングギヤ17とキャリヤ10とが一体回転するように連結されている。そして、キャリヤ20と一体回転するアウトプットシャフト21が設けられている。このアウトプットシャフト21は、動力分配装置4から出力されたトルクを車輪3に伝達する要素であり、インプットシャフト11とアウトプットシャフト21とが同軸上に配置されている。さらに、回転軸線に沿った方向で、第1モータ・ジェネレータMG1と第2遊星歯車機構15との間に第1遊星歯車機構6が配置されている。さらに、サンギヤ16に制動力を与えるブレーキBKが設けられている。このブレーキBKとしては、摩擦ブレーキ、または噛み合いブレーキを用いることが可能である。そのブレーキBKの動作を制御するアクチュエータ32としては、電磁式アクチュエータまたは油圧式アクチュエータのいずれを用いてもよい。
【0017】
一方、アウトプットシャフト21は終減速機22に接続されており、終減速機22にはアクスルシャフト30を介して車輪3が接続されている。終減速機22は、アウトプットシャフト21の回転数よりも、アクスルシャフト30の回転数を低下させるように、その減速比が決定されている。また、回転軸線に沿った方向で第2遊星歯車機構15と終減速機22との間には、第2モータ・ジェネレータMG2が配置されている。この第2モータ・ジェネレータMG2は、ケーシング5の内部またはケーシング5の外部のいずれに配置されていてもよい。この第2モータ・ジェネレータMG2は、車輪3に伝達するトルクを発生させる第2駆動力源としての役割と、後述する蓄電装置に充電する電力を発生する発電機としての役割とを有している。この役割を満足するために、第2モータ・ジェネレータMG2は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備している。第2モータ・ジェネレータMG2は、ステータ23およびロータ24を有している。ステータ23は、電磁鋼板を積層し、かつ、通電用のコイルを巻いて構成されている。さらに、回転軸線に沿った方向で第2モータ・ジェネレータMG2との間には、変速機37が配置されている。
【0018】
この変速機37は、ケーシング5の内部またはケーシング5の外部のいずれに配置されていてもよい。この変速機37は、第2モータ・ジェネレータMG2のロータ24と、アウトプットシャフト21とを動力伝達可能に接続するものである。さらに、変速機37は、入力要素38および出力要素39を有しているとともに、その入力要素38と出力要素39との間の変速比を変更可能に構成されている。変速機37の変速比は、入力要素38の回転数を出力要素39の回転数で除して求められる。この変速機37は、変速比を段階的に変更可能な有段変速機、または、変速比を無段階に変更可能な無段変速機のいずれでもよい。また、変速機37の変速比は、「1」以上の値で変更可能に構成されている。この変速機37として、有段変速機を用いる場合、選択歯車式変速機、遊星歯車式変速機を採用することが可能である。これに対して、変速機37として、無段変速機を用いる場合、トロイダル型無段変速機、ベルト式無段変速機を採用することが可能である。そして、入力要素38がロータ24と動力伝達可能に接続され、出力要素39がアウトプットシャフト21と動力伝達可能に接続されている。なお、入力要素38および出力要素39は、共に動力伝達をおこなう回転要素であり、変速機37の構造や種類に応じて、回転軸、ギヤ、プーリ、スプロケット、チェーン、ベルトなどの要素が選択される。
【0019】
さらに、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2は、いずれもロータが回転運動をおこなうものであり、各モータ・ジェネレータは直流型または交流型のいずれでもよい。この具体例では、3相交流型のモータ・ジェネレータを用いる場合について説明する。また、第1モータ・ジェネレータMG1はインバータ27を介して蓄電装置28に接続され、第2モータ・ジェネレータMG2はインバータ40を介して蓄電装置28に接続されている。インバータ27,40は直流電力を交流電力に変換する装置である。蓄電装置28としては、キャパシタまたはバッテリを用いることが可能である。このように、各モータ・ジェネレータと蓄電装置28との間で、電力の授受をおこなう電気回路が形成されている。なお、蓄電装置28に加えて燃料電池を設け、その燃料電池から各モータ・ジェネレータに電力を供給する回路を設けてもよい。燃料電池は、酸素と水素とを反応させて起電力を発生させる装置である。また、蓄電装置28から補機装置29に電力を供給することが可能に構成されている。補機装置29とは、車両1に搭載され、かつ、車両1の走行に用いられる動力を発生する装置以外の装置であり、補機装置29を駆動もしくは作動させるため、および補機装置29で機能を発揮させるために、電力が用いられる。補機装置29には、例えば、照明装置、ワイパ、空調装置、音響装置、パワーウィンドなどが含まれる。なお、各モータ・ジェネレータ同士の間に、蓄電装置28を経由することなく、電力の授受を可能とする電気回路を形成することも可能である。
【0020】
さらに、第1モータ・ジェネレータMG1と第2モータ・ジェネレータMG2とを比較すると、その役割が異なるため、出力特性および発電特性が異なる。第1モータ・ジェネレータMG1は主として反力トルクを受け持つ役割を果たすものであるのに対して、第2モータ・ジェネレータMG2は車輪3に伝達するトルクを発生駆動力源であるため、第1モータ・ジェネレータMG1よりも第2モータ・ジェネレータMG2の方が最大出力および定格が大である。最大出力とは、トルク×回転数の上限値であり、定格とは、各モータ・ジェネレータの使用限度であり、この定格には、電圧・回転数・通電時の周波数などが含まれる。第1モータ・ジェネレータMG1と、第2モータ・ジェネレータMG2との構造上は、電磁鋼板の厚さおよび積層枚数、コイルの巻き数などが異なる。このような特性の相違に基づいて、予め定められた回転数(所定の高回転数)以上で発電する場合における発電効率は、第2モータ・ジェネレータMG2よりも第1モータ・ジェネレータMG1の方が高い。
【0021】
さらに、車両1の制御系統について説明すると、コントローラとしての電子制御装置33が設けられており、電子制御装置33には、エンジン回転数、各モータ・ジェネレータの回転数、車速、蓄電装置28の充電量、補機装置29における負荷、モータ・ジェネレータに対する発電要求、車両1における加速要求、車両1における制動要求、シフトポジションなどの信号が入力される。この電子制御装置33からは、クラッチ35を制御する信号、ブレーキBKを制御する信号、エンジン2を制御する信号、各モータ・ジェネレータを制御する信号が出力される。エンジン2を制御する信号には、エンジン2の停止・運転を制御する信号、エンジン回転数を制御する信号、エンジントルクを制御する信号が含まれる。モータ・ジェネレータを制御する信号には、モータ・ジェネレータを力行制御または回生制御させる信号、モータ・ジェネレータの回転数を制御する信号、モータ・ジェネレータのトルクを制御する信号が含まれる。クラッチ35を制御する信号には、サンギヤ7とロータ14との間における伝達トルクを制御する信号、ブレーキBKを制御する信号には、ブレーキBKからサンギヤ16に与える制動力を制御する信号が含まれる。
【0022】
つぎに、図2に示された車両1における動力の伝達原理を説明する。エンジン2が運転されて、そのエンジントルクが、インプットシャフト11およびキャリヤ10に伝達される。このキャリヤ10は動力分配装置4の入力部材であり、エンジントルクの反力が反力発生装置により受け持たれて、動力分配装置4の出力部材であるキャリヤ20からトルクが出力される。動力分配装置4を制御するモードとして、固定変速モードおよび無段変速モードを選択的に切り替え可能である。図3および図4の共線図は、動力分配装置4を構成する要素同士、およびその要素に連結された回転要素同士の位置関係および回転状態を示すものである。図3および図4において、「停止」は回転要素が停止することを示し、「正」は回転要素が正方向に回転することを示し、「逆」は回転要素が逆方向に回転することを示す。なお、正方向とは、エンジン2のクランクシャフト12の回転方向と同じ回転方向である。図3および図4の共線図において、第1遊星歯車機構6はシングルピニオン型の遊星歯車機構であるため、サンギヤ7とリングギヤ8との間にキャリヤ10が配置されている。
【0023】
これに対して、第2遊星歯車機構15は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構であるため、サンギヤ16とキャリヤ20との間にリングギヤ17が配置されている。また、キャリヤ10とリングギヤ17とが一体回転するように連結されているため、図3および図4の共線図上で、キャリヤ10およびリングギヤ17が同じ位置に示されている。また、キャリヤ20とリングギヤ8とが一体回転するように連結されているため、図3および図4の共線図上で、キャリヤ20およびリングギヤ8が同じ位置に示されている。さらに、図3および図4の共線図上において、サンギヤ7とリングギヤ8との間にサンギヤ16が配置され、このサンギヤ16とリングギヤ8との間に、キャリヤ10が配置されている。この図3および図4に示すように、動力分配装置4は、相互に差動回転可能な4個の回転要素を有している。さらに、第2モータ・ジェネレータMG2は、変速機37を介してアウトプットシャフト21に接続されているが、図3および図4においては、便宜上、キャリヤ20と同じ位置に(MG2)として示してある。
【0024】
まず、固定変速モードが選択された場合はブレーキBKの制動力が高められて、図3に示すようにサンギヤ16が固定(停止)される。また、動力分配装置4は、機構上、キャリヤ20およびリングギヤ8が一体回転するように連結され、かつ、リングギヤ17およびキャリヤ10が一体回転するように連結されている。このため、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10およびリングギヤ17に入力されると、ブレーキBKおよびサンギヤ16により反力が受け持たれ、キャリヤ20からトルクが出力される。このキャリヤ20のトルクは、アウトプットシャフト21および終減速機22およびアクスルシャフト30を経由して車輪3に伝達されて、駆動力が発生する。
【0025】
そして、エンジン回転数を制御することにより、動力分配装置4の入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変更可能である。また、固定変速モードが選択された場合はサンギヤ16が固定されるため、動力分配装置4の変速比は「1」未満に限定される。すなわち、動力分配装置4が増速機として機能するため、動力分配装置4への入力トルクよりも、動力分配装置4から出力されるトルクの方が低くなる。また、固定変速モードが選択されるとともに、エンジン回転数が正である場合は、エンジントルクにより第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転される。この場合、第1モータ・ジェネレータMG1では回生制御(発電制御)をおこなうか、または回生制御をおこなうことなくロータ14を空転させることが可能である。さらに、第2モータ・ジェネレータMG2では、アウトプットシャフト21の動力で回生制御(発電制御)をおこなうか、または第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して、第2モータ・ジェネレータMG2を電動機として駆動することも可能である。さらにまた、固定変速モードが選択された場合、第1モータ・ジェネレータMG1の回転数よりも、キャリヤ20の回転数の方が高い。さらにまた、変速機37の変速比は「1」以上に設定されるため、第2モータ・ジェネレータMG2の回転数は、アウトプットシャフト21の回転数以上となる。このため、第2モータ・ジェネレータMG2が力行制御され、かつ、変速機37の変速比が「1」よりも大である場合、第2モータ・ジェネレータMG2のトルクが増幅されてアウトプットシャフト21に伝達される。なお、クラッチ機構35が係合されている場合、第1モータ・ジェネレータMG1の回転数よりも第2モータ・ジェネレータMG2の回転数の方が、常に高い。
【0026】
これに対して、無段変速モードが選択された場合は、ブレーキBKからサンギヤ16に与えられる制動力が低下され、図4に示すようにサンギヤ16が回転可能となる。この無段変速モードが選択された場合において、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10に入力されると、第1モータ・ジェネレータMG1により反力が受け持たれ、リングギヤ8から出力されたトルクがアウトプットシャフト21に伝達される。第1モータ・ジェネレータMG1が正回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1が回生制御され、発生した電力が蓄電装置28に充電される。これに対して、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1に電力が供給されて、その第1モータ・ジェネレータMG1が電動機として駆動される。
【0027】
また、無段変速モードが選択された場合、第1モータ・ジェネレータMG1の回転数を制御することにより、動力分配装置4の入力回転数と出力回転数との間の変速比を、無段階(連続的)に変更可能である。さらに、無段変速モードが選択された場合、動力分配装置4の変速比として「1」未満、または「1」以上のいずれをも選択可能である。動力分配装置4の変速比が「1」を越える場合、動力分配装置4は減速機として機能し、動力分配装置4でトルクの増幅がおこなわれる。動力分配装置4の変速比が「1」未満である場合が、図4に破線で示されている。これに対して、動力分配装置4の変速比が「1」を越えている場合が、図4に一点鎖線で示されている。図4の共線図では、第1モータ・ジェネレータMG1が正回転である場合が示されているが、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転する場合、または停止する場合もある。さらに、図4に実線で示すすように、動力分配装置4の変速比を「1」に制御することも可能である。
【0028】
さらに、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択されている場合においても、第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して電動機として駆動させ、その第2モータ・ジェネレータMG2のトルクを、変速機37を経由させてアウトプットシャフト21に伝達することが可能である。なお、第2モータ・ジェネレータMG2に電力を供給して電動機として駆動させ、その第2モータ・ジェネレータMG2のトルクをアウトプットシャフト21に伝達する場合、エンジン2に燃料が供給されていてもよいし、エンジン2への燃料の供給が停止されていてもよい。この「エンジン2への燃料の供給が停止されている」には、エンジン2が空転する場合と、エンジン2が停止している場合とが含まれる。さらに、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択されている場合においても、エンジン2からアウトプットシャフト21に伝達される動力の一部を、第2モータ・ジェネレータMG2に伝達して発電をおこない、発生した電力を蓄電装置28に充電するか、またはその電力を第1モータ・ジェネレータMG1に供給することが可能である。
【0029】
つぎに、動力分配装置4を制御するモードを選択する条件について説明する。動力分配装置4を制御するモードは、エンジン2の燃費、およびエンジン2から車輪3に至る動力伝達経路における動力の伝達効率などに基づいて決定される。まず、エンジン2の燃費について説明する。車両1では、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1に対する要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて、エンジン2の目標出力および第2モータ・ジェネレータMG2の目標出力が求められる。エンジン2の目標出力に基づいてエンジン出力を制御する場合、基本的には、エンジン2の運転状態が、燃費最適燃線に沿ったものとなるように、エンジン2の目標回転数およびエンジンの目標トルクを求めることが可能である。図3および図4の共線図に基づいて説明したように、無段変速モードが選択された場合は、固定変速モードが選択された場合に比べて、動力分配装置4の変速比の制御範囲が広い。したがって、エンジン2の燃費を優先する場合は無段変速モードが選択される。
【0030】
これに対して、図3の共線図で説明したように、固定変速モードが選択された場合は、エンジントルクの反力をブレーキBKにより受け持つため、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2と、電気回路との間で流通する電力量が少なくなり、電気損失量の増加を抑制できる。したがって、エンジン2の燃費よりも電機損失量の増加を優先する場合は、固定変速モードを選択することができる。なお、固定変速モードまたは無段変速モードの何れが選択された場合も、動力分配装置4の変速比の制御と並行して、エンジン2の実際のトルクを目標トルクに近づけるために、電子スロットルバルブの開度の制御、点火時期の制御などがおこなわれる。
【0031】
上記の固定変速モードと無段変速モードとの切り替えに用いるマップの一例が、図5に示されている。この図5のマップでは、加速要求としてアクセル開度を用いている。図5のマップにおいては、予め定められた車速V1以上の車速であり、かつ、アクセル開度が所定値θ1未満である場合に、固定変速モードが選択される。つまり、高車速であり、かつ、低負荷である場合に、固定変速モードが選択される。このように、固定変速モードが選択された場合、エンジントルクの反力をサンギヤ16で受け持つため、第1モータ・ジェネレータMG1に電力を供給する制御、または第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなう制御をおこなう頻度が減少する。つまり、基本的にエンジンパワーを機械的に車輪3に伝達して駆動力を発生させることとなる。したがって、第1モータ・ジェネレータMG1に接続された電気回路内で電気パスが生じることはなく、動力循環を回避できる。言い換えれば、エンジン2から車輪3に至る動力伝達経路において、動力伝達効率が向上する。
【0032】
これに対して、予め定められた車速V1未満の車速である場合、または、予め定められた車速V1以上の車速であり、かつ、アクセル開度が所定値θ1以上である場合は、無段変速モードが選択される。すなわち、低車速であるか、または、高負荷要求がある場合に、無段変速モードが選択される。このように、無段変速モードが選択された場合は、ブレーキBKからサンギヤ16に与えられる制動力が低下され、図4に示すようにサンギヤ16が回転可能となる。この無段変速モードが選択された場合において、エンジントルクがインプットシャフト11を経由してキャリヤ10に入力されると、第1モータ・ジェネレータMG1により反力が受け持たれ、リングギヤ8から出力されたトルクがアウトプットシャフト21に伝達される。第1モータ・ジェネレータMG1が正回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1が回生制御され、発生した電力が蓄電装置28に充電される。これに対して、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転してエンジントルクの反力を受け持つ場合、第1モータ・ジェネレータMG1に電力が供給されて、その第1モータ・ジェネレータMG1が電動機として駆動される。
【0033】
ところで、蓄電装置28の充電量が不足している場合、または補機装置29に電力を供給する場合などのように、発電要求が発生した場合は、第1モータ・ジェネレータMG1または第2モータ・ジェネレータMG2により発電をおこなうことが可能である。ここで、無段変速モードが選択されている場合は、第1モータ・ジェネレータMG1の回転方向により、第1モータ・ジェネレータMG1または第2モータ・ジェネレータMG2のいずれで発電をおこなうかが決定される。まず、第1モータ・ジェネレータMG1が正回転する場合は、第1モータ・ジェネレータMG1が発電制御されて、エンジントルクの反力を受け持つ。これに対して、第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転する場合は、第1モータ・ジェネレータMG1が力行制御されてエンジントルクの反力を受け持つため、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなうこととなる。一方、固定変速モードが選択された場合、ブレーキBKが係合されて、そのブレーキBKにより反力が受け持たれるため、第1モータ・ジェネレータMG1または第2モータ・ジェネレータMG2のいずれでも発電をおこなうことが可能である。そこで、固定変速モードが選択されている場合におこなわれる発電制御の一例を順次説明する。
【0034】
(制御例1)
まず、制御例1を図1のフローチャートに基づいて説明する。この図1のフローチャートは、アクセルペダルが踏み込まれており(加速要求があり)、かつ、エンジントルクが動力分配装置4およびアウトプットシャフト21を経由して車輪3に伝達される場合を前提としておこなわれる制御である。まず、固定変速モード(ギヤ比固定モード)が選択されているか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1で肯定的に判断された場合は、第1モータ・ジェネレータMG1および第2モータ・ジェネレータMG2の発電特性を示すマップが読み込まれる(ステップS2)。ステップS2で読み込まれるマップの一例を、図6に示す。
【0035】
この図6において、縦軸には発電時のエネルギ損失量(例えば、鉄損(渦電流損失)および銅損)が示され、横軸には車速が示されている。そして、第1モータ・ジェネレータMG1の特性および第2モータ・ジェネレータMG2の特性が線で示されている。図6のマップにおいて、車速V2以上である場合は、第1モータ・ジェネレータMG1の方が、第2モータ・ジェネレータMG2よりもエネルギ損失量が小さい。つまり、車速V2以上である場合は、第1モータ・ジェネレータMG1の方が、第2モータ・ジェネレータMG2よりも発電効率が高いことになる。これに対して、車速V2未満である場合は、第2モータ・ジェネレータMG2の方が、第1モータ・ジェネレータMG1よりもエネルギ損失量が小さい。つまり、車速V2未満である場合は、第2モータ・ジェネレータMG2の方が、第1モータ・ジェネレータMG1よりも発電効率が高いことになる。このように、第1モータ・ジェネレータMG1と第2モータ・ジェネレータMG2とで発電特性が異なる理由は、前述のように、第1モータ・ジェネレータMG1よりも第2モータ・ジェネレータMG2の方が、最大出力および定格が大に構成されているからである。図6に示すマップを読み込むことを、図1では「車速−損失マップ引き」と記載してある。
【0036】
このステップS2についで、第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなう場合のエネルギ損失量(MG1損失)が、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなう場合のエネルギ損失量(MG2損失)を越えているか否かが判断される(ステップS3)。このステップS3で肯定的に判断された場合は、発電用ジェネレータとして、第2モータ・ジェネレータMG2を仮に選択する処理がおこなわれる(ステップS4)。このステップS4の処理が、図1では「発電用ジェネレータ仮=MG2」と記載されている。このステップS4についで、第2モータ・ジェネレータMG2の温度が、MG2用のしきい値以上、またはインバータ40の温度が、インバータ用のしきい値以上であるか否かが判断される(ステップS5)。このステップS5で用いる「MG2用のしきい値」は、現時点で第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなうと、第2モータ・ジェネレータMG2がその温度以上になり、第2モータ・ジェネレータMG2が破損する可能性がある温度を意味しており、車速などを基準として実験的に求められた「MG2用のしきい値」が電子制御装置33に記憶されている。またステップS5で用いる「インバータ用のしきい値」は、現時点でインバータ40を電流が流れるとインバータ40がその温度以上になり、インバータ40が破損する可能性がある温度を意味しており、実験的に求められた「インバータ用のしきい値」が電子制御装置33に記憶されている。
【0037】
このステップS5で否定的に判断された場合は、第2モータ・ジェネレータMG2の発電機能が、既に故障しているか(MG2故障中)否かが判断される(ステップS6)。このステップS6で否定的に判断された場合は、発電用のジェネレータとして、第2モータ・ジェネレータMG2を正式に決定する処理をおこない(ステップS7)、この制御ルーチンを終了する。これに対して、ステップS6で肯定的に判断された場合は、発電用のジェネレータとして、第1モータ・ジェネレータMG1を正式に決定する処理をおこない(ステップS8)、この制御ルーチンを終了する。このステップS8の処理が、図1では「発電用ジェネレータ=MG2」と記載されている。
【0038】
一方、ステップS3で否定的に判断された場合は、発電用のジェネレータとして、第1モータ・ジェネレータMG1を仮に決定する処理をおこなう(ステップS9)。このステップS9の処理が、図1では「発電用ジェネレータ=MG1」と記載されている。このステップS9についで、第1モータ・ジェネレータMG1の温度が、MG1用のしきい値以上、またはインバータ27の温度が、インバータ用のしきい値以上であるか否かが判断される(ステップS10)。このステップS10で用いる「MG1用のしきい値」は、現時点で第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなうと、その第1モータ・ジェネレータMG1がその温度以上になり、第1モータ・ジェネレータMG1が破損する可能性がある温度を意味しており、実験的に求められた「MG1用のしきい値」が電子制御装置33に記憶されている。またステップS10で用いる「インバータ用のしきい値」は、現時点でインバータ27を電流が流れるとその温度以上になり、インバータ40が破損する可能性がある温度を意味しており、実験的に求められた「インバータ用のしきい値」が電子制御装置33に記憶されている。
【0039】
ステップS10で否定的に判断された場合は、第1モータ・ジェネレータMG1の発電機能が、既に故障しているか(MG1故障中)否かが判断される(ステップS11)。このステップS11で否定的に判断された場合は、発電用のジェネレータとして、第1モータ・ジェネレータMG2を正式に決定する処理をおこない(ステップS8)、この制御ルーチンを終了する。このステップS8の処理が、図1では「発電用ジェネレータ=MG1」と記載されている。これに対して、ステップS11で肯定的に判断された場合は、ステップS7に進む。また、ステップS10で肯定的に判断された場合は、ステップS6に進む。なお、ステップS5で肯定的に判断された場合は、ステップS11に進む。さらに、ステップS1で否定的に判断された場合は、通常時制御を実行し(ステップS12)、この制御ルーチンを終了する。この通常時制御では、エンジントルクを受け持つ第1モータ・ジェネレータMG1が正回転する場合は、その第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなう。これに対して、エンジントルクを受け持つ第1モータ・ジェネレータMG1が逆回転し、かつ、力行制御する場合は、第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなう。以上のように、制御例1によれば、補機装置29に電力を供給するような発電要求が発生した場合、第1モータ・ジェネレータMG1または第2モータ・ジェネレータMG2のうち、発電効率が高い方を用いて発電をおこなうことができる。したがって、エネルギ損失量が減少し、エンジン2の燃費の低下を抑制できる。また、発電をおこなうとモータ・ジェネレータやインバータが破損する可能性がある場合、あるいは、既にモータ・ジェネレータやインバータが故障している場合は、他のモータ・ジェネレータおよびインバータを用いて発電をおこなうことができる。
【0040】
(制御例2)
つぎに、発電制御例2を、図7のフローチャートに基づいて説明する。この制御例2は、単独で実行してもよいし、制御例1と組み合わせて実行してもよい。この制御例2も、アクセルペダルが踏み込まれ、かつ、エンジントルクがアウトプットシャフト21に伝達されていることを前提として実行される。まず、固定変速モード(ギヤ比固定モード)が選択されているか否かが判断される(ステップS21)。このステップS21で肯定的に判断された場合は、発電要求があるか否かが判断される(ステップS22)。このステップS22で肯定的に判断された場合は、発電用ジェネレータとして、第2モータ・ジェネレータMG2が正式に決定されたか否かが判断される(ステップS23)。このステップS23で肯定的に判断された場合は、クラッチ機構35のトルク容量が低下され(ステップS24)、この制御ルーチンを終了する。このステップS24の処理が、図7では「クラッチ機構解放」と記載されている。このステップS24の制御により、ロータ14とサンギヤ7との間における動力伝達経路が遮断される。このため、エンジン2の動力の一部を第2モータ・ジェネレータMG2に伝達し、その第2モータ・ジェネレータMG2で発電をおこなう場合に、エンジン2の動力の一部が、第1モータ・ジェネレータMG1のロータ14の空転(連れ回り)に消費されることを防止でき、発電効率が一層向上する。
【0041】
一方、ステップS22で否定的に判断された場合は、ステップS24に進む。また、ステップS23で否定的に判断された場合は、第1モータ・ジェネレータMG1で発電をおこなうため、クラッチ機構35のトルク容量を高め(ステップS25)、この制御ルーチンを終了する。このステップS25の処理が、図7では「クラッチ機構係合」と記載されている。このステップS25の制御により、サンギヤ7とロータ14との間の動力伝達経路が接続され、エンジン2の動力の一部が第1モータ・ジェネレータMG1のロータ14に伝達される。なお、ステップS21で否定的に判断された場合も、ステップS25に進み、第1モータ・ジェネレータMG1により、エンジントルクの反力が受け持たれる。
【0042】
この具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、エンジン2が、この発明の駆動力源に相当し、一体回転するように連結されたキャリヤ10およびリングギヤ17、一体回転するように連結されたキャリヤ20およびリングギヤ8、サンギヤ7、サンギヤ16が、この発明における複数の回転要素に相当し、第1モータ・ジェネレータMG1が、この発明の第1発電機に相当し、第2モータ・ジェネレータMG2が、この発明の第2発電機に相当し、クラッチ機構35が、この発明における動力断続装置に相当する。また、上記の動力分配装置4においては、リングギヤ8とアウトプットシャフト21とが動力伝達可能に、具体的には一体回転するように連結されており、キャリヤ10とエンジン2とが動力伝達可能に連結されている。したがって、動力分配装置4の変速比が、この発明における「駆動力源と駆動軸との間の回転速度比」と等価の値となる。
【0043】
また、図1に示された機能的手段と、この発明の対応関係を説明すると、ステップS1,S3,S4,S6を経由してステップS7に進むルーチン、およびステップS1,S3,S9,S11を経由してステップS8に進むルーチンが、この発明における発電制御手段に相当する。また、図7のステップS23,S24が、この発明における遮断手段に相当する。なお、図2に示された動力分配装置4を、2組の遊星ローラ機構で構成することも可能である。すなわち、各サンギヤをサンローラとし、リングギヤをリングローラとし、ピニオンギヤをピニオンローラとする構成である。このように、2組の遊星ローラ機構を用いる場合、作動油のせん断力によるトラクション伝動がおこなわれる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明のハイブリッド車の制御装置でおこなわれる制御例1を示すフローチャートである。
【図2】この発明を適用したハイブリッド車のパワートレーンおよび御系統を示す概念図である。
【図3】図2に示された動力分配装置を固定変速モードにより制御する場合における回転要素の状態を示す共線図である。
【図4】図2に示された動力分配装置を無段変速モードにより制御する場合における回転要素の状態を示す共線図である。
【図5】図2に示された動力分配装置の制御に用いるマップの一例を示す図である。
【図6】図1のフローチャートにおいて、第1モータ・ジェネレータおよび第2モータ・ジェネレータの発電特性を比較するために用いるマップの一例である。
【図7】この発明のハイブリッド車の制御装置でおこなわれる制御例2を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1…車両、 2…エンジン、 7,16…サンギヤ、 8…リングギヤ、 10,20…キャリヤ、 35…クラッチ機構、 MG1…第1モータ・ジェネレータ、 MG2…第2モータ・ジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に伝達する動力を発生する駆動力源と、前記車輪と動力伝達可能に接続された駆動軸と、運動エネルギを電気エネルギに変換する第1発電機と、差動回転可能な複数の回転要素を有し、かつ、複数の回転要素のうちの3つの回転要素が前記駆動力源および前記第1発電機および前記駆動軸に別個に動力伝達可能に連結された動力分配装置とを有するとともに、
前記駆動力源と前記駆動軸との間の回転速度比を無段階に変化させる無段変速モードと、前記複数の回転要素のうち、前記駆動力源および前記第1発電機および前記駆動軸のいずれにも接続されていない回転要素の回転を阻止することにより、前記回転速度比を固定する固定変速モードとを、切り替え可能に構成されているハイブリッド車の制御装置において、
前記駆動軸に動力伝達可能に接続された第2発電機を有し、
前記駆動力源と前記駆動軸との間の回転速度比を制御するモードとして固定変速モードが選択されている場合は、前記第1発電機または第2発電機のうち、発電効率が高い方の発電機で発電をおこなう発電制御手段を備えていることを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
【請求項2】
前記第1発電機と、この第1発電機に接続された回転要素との間における動力伝達経路を接続・遮断する動力断続装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項3】
前記第2発電機で発電をおこなう場合は、前記動力断続装置を制御することにより、前記第1発電機と、この第1発電機に接続された回転要素との間における動力伝達経路を遮断する遮断手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
前記第2発電機は、前記車輪に伝達する動力を発生する電動機としての機能を兼備した発電・電動機で構成されており、前記第2発電機の最大出力は前記第1発電機の最大出力よりも高く構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド車の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−132187(P2009−132187A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307956(P2007−307956)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】