説明

ハイブリッド車両の駆動制御装置

【課題】例えばEV走行からパラレルHV走行に切り替える際のエンジンの始動時にハイブリッド車両の走行能力が低下することを抑制する。
【解決手段】ハイブリッド車両の駆動制御装置は、ハイブリッド車両(1)の走行モードを、第2回転電機(MG2)のみから駆動軸(OUT)に駆動力を出力する第1走行モード(EV走行)から内燃機関(20)及び第2回転電機から駆動軸に駆動力を出力する第2走行モード(パラレルHV走行)に切り替える際、内燃機関を始動させるために第1回転電機(MG1)の動力によって内燃機関の回転数を増大させるときに、クラッチ(CR)を滑らせる制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。 例えば特許文献1には、EV(electric vehicle)走行中のエンジンの始動時にその反力によって出力の回転速度(言い換えれば、駆動軸に出力される駆動力)が低下することを回避するために、エンジンを始動させる時に要求されるモータのトルク増のための電力を残してEV走行を行う技術が開示されている。例えば特許文献2には、走行モードを、エンジンからの動力を発電機によって全て電力に変換するシリーズハイブリッド走行(以下、適宜「シリーズHV走行」と称する)と、エンジンから出力された動力を2つに分配し、一部を機械的な動力のまま駆動軸に出力するパラレルハイブリッド走行(以下、適宜「パラレルHV走行」と称する)とで切り替え可能なハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−278856号公報
【特許文献2】特開2003−237392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した特許文献1に開示された技術によれば、トルク増のための電力を残してEV走行を行うので、EV走行の走行能力が低下してしまうおそれがあるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば前述した問題点に鑑みなされたものであり、例えばEV走行からパラレルHV走行に切り替える際のエンジンの始動時にハイブリッド車両の走行能力が低下することを抑制可能なハイブリッド車両の駆動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関と、第1及び第2回転電機と、前記内燃機関に連結された第1回転要素、前記第1回転電機に連結された第2回転要素、及び前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力分割機構とを備えたハイブリッド車両に搭載され、前記ハイブリッド車両の走行モードを、前記第2回転電機のみから前記駆動軸に駆動力を出力する第1走行モードから前記内燃機関及び前記第2回転電機から前記駆動軸に駆動力を出力する第2走行モードに切り替える際、前記内燃機関を始動させるために前記第1回転電機の動力によって前記内燃機関の回転数を増大させるときに、前記クラッチを滑らせる制御手段を備える。
【0007】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動輪に連結される駆動軸に対して駆動力を出力可能な駆動力源として、内燃機関(エンジン)と、それぞれ例えばモータジェネレータ等で構成される第1及び第2回転電機とを備えている。更に、本発明に係るハイブリッド車両は、例えば遊星歯車機構で構成される動力分割機構を備え、例えばEV走行等である第1走行モードと例えばパラレルHV走行等である第2走行モードとの間で走行モードを切り替え可能に構成されている。第1走行モードは、内燃機関、第1及び第2回転電機のうち第2回転電機のみから駆動軸に駆動力を出力する走行モードである。第1走行モードでは、動力分割機構の第3回転要素(例えばリングキヤ)と駆動軸との間に設けられた例えば湿式多板クラッチ等であるクラッチが解放状態にされ、内燃機関が停止された状態で、駆動軸と例えば減速機構を介して連結された第2回転電機のみから駆動軸に駆動力が出力される。第2走行モードは、内燃機関、第1及び第2回転電機のうち内燃機関及び第2回転電機から駆動軸に駆動力を出力する走行モードである。第2走行モードでは、動力分割機構の第3回転要素と駆動軸との間に設けられたクラッチが結合状態にされると共に内燃機関が動作することにより、内燃機関から出力される機械的な動力の少なくとも一部が動力分割機構及びクラッチを介して駆動軸に駆動力として出力され、且つ、第2回転電機からも駆動軸に駆動力が出力される。
【0008】
尚、クラッチが結合状態になることで、動力分割機構の第3回転要素と駆動軸とが連結され、クラッチが解放状態になることで、動力分割機構の第3回転要素と駆動軸とが切り離される。
【0009】
本発明では特に、制御手段は、走行モードを、例えばEV走行等である第1走行モードから例えばパラレルHV走行等である第2走行モードに切り替える際、内燃機関を始動させるために第1回転電機の動力によって内燃機関の回転数を増大させるときに、クラッチを滑らせる。即ち、制御手段は、第1走行モードから第2走行モードに走行モードを切り替える場合において、第1回転電機の動力によって内燃機関のクランキングを行うときに、動力分割機構の第3回転要素と駆動軸との間に設けられたクラッチを滑らせる。
【0010】
よって、内燃機関を始動させるために、第1回転電機の動力によって内燃機関の回転数を増大させたときに、内燃機関の慣性(例えばピストンの慣性)や内燃機関で発生する摩擦力(例えばピストン及びシリンダ間の摩擦力)によって駆動軸に出力される駆動力が低下してしまうことを抑制或いは防止できる。即ち、本発明では特に、第1回転電機の動力によって内燃機関の回転数を増大させるときに、クラッチを滑らせるので、仮に例えばクラッチを結合状態にして、第1回転電機の動力によって内燃機関の回転数を増大させる場合に発生し得る、内燃機関の慣性や内燃機関で発生する摩擦力に起因する駆動力の低下を抑制或いは防止できる。従って、走行モードを例えばEV走行等の第1走行モードから例えばパラレルHV走行等の第2走行モードに切り替える際の内燃機関の始動時にハイブリッド車両の走行能力が低下することを抑制或いは防止できる。
【0011】
更に、例えば、内燃機関の始動時の駆動力の低下を補償するために第2回転電機からの駆動力を増大させる必要性を低減或いは無くすことができる。即ち、本発明によれば、前述したように、クラッチを滑らせることにより、内燃機関の慣性や内燃機関で発生する摩擦力に起因する駆動力の低下を抑制或いは防止できるので、第2回転電機の動力を増大させなくてもよい。従って、内燃機関の始動時に第2回転電機の動力を増大させる場合と比較して、内燃機関の始動時に必要となる電力を低減できるので、例えばEV走行等の第1走行モードでのハイブリッド車両の走行能力の低下を抑制或いは防止できる。
【0012】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置によれば、例えばEV走行等の第1走行モードから例えばパラレルHV走行等の第2走行モードに走行モードを切り替える際のエンジンの始動時にハイブリッド車両の走行能力が低下することを抑制或いは防止できる。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記クラッチを滑らせながら前記第1回転電機の動力によって前記内燃機関の回転数を増大させて、前記内燃機関を始動させた後に、前記クラッチを結合状態にする。
【0014】
この態様によれば、クラッチを滑らせながら第1回転電機の動力によって内燃機関の回転数を増大させた後に、クラッチを結合状態にする。よって、駆動力を殆ど或いは実践上は全く低下させることなく、走行モードを第1走行モードから第2走行モードに確実に切り替えることができる。
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の他の態様では、締結状態において、前記第2回転要素を固定可能なブレーキを更に備え、前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記走行モードを、前記内燃機関の動力を前記第1回転電機により全て電力に変換する第3走行モードにする。
【0016】
この態様によれば、走行モードとして、例えばシリーズHV走行等である第3走行モードを好適に実現できる。
【0017】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係るハイブリッド駆動装置の概略構成図である。
【図3】走行モードをEV走行からパラレルHV走行に切り替える際の制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】走行モードがEV走行である場合の動作状態の一例を示す共線図である。
【図5】走行モードがEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる際の動作状態の一例を示す共線図である。
【図6】走行モードがEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる際の動作状態の他の例を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0020】
<第1実施形態>
先ず、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置が適用された本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両の構成を示す概略構成図である。
【0022】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ECU(Electronic Controlled Unit)100、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13及び車速センサ14を備えている。
【0023】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「制御手段」の一例として機能する。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制御を実行可能に構成されている。
【0024】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動する駆動装置である。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については図2を参照して後述する。
【0025】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0026】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0027】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0028】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0029】
次に、図2を参照して、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。
【0030】
図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、図2において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0031】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン20、動力分割機構30、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、入力軸40、クラッチCR、ブレーキBR、減速機構60及びオイルポンプ70を備えている。
【0032】
エンジン20は、本発明に係る「内燃機関」の一例であり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する。エンジン20の出力動力たるエンジントルクTeは、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸40に連結されている。
【0033】
モータジェネレータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた、本発明に係る「第1回転電機」の一例たる電動発電機である。
【0034】
モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1よりも体格の大きい本発明に係る「第2回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えている。モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1及びエンジン20と異なり、ハイブリッド車両1の駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以下、適宜「MG2トルクTmg2」と称する)を作用させることが可能である。従って、モータジェネレータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータジェネレータMG1の入出力トルク(以下、適宜「MG1トルクTmg1」と称する)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0035】
尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として機能し、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備えている。
【0036】
動力分割機構30は、本発明に係る「動力分割機構」の一例たる複合型遊星歯車機構である。動力分割機構30は、中心部に設けられた、本発明に係る「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた本発明に係る「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤP1の回転軸(ピニオンシャフト)を軸支する本発明に係る「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えている。また、ピニオンギヤP1と、ピニオンシャフトとの間には、図示しないピニオンニードルベアリングが設けられている。
【0037】
ここで、サンギヤS1は、モータジェネレータMG1のロータに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータジェネレータMG1の回転数(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。リングギヤR1は、クラッチCRを介して減速機構60に連結されている。また、リングギヤR1の回転数は、クラッチCRが結合状態の場合、駆動軸OUTの回転数(以下、適宜「出力回転数Nout」と称する)と等価である。更に、リングギヤR1は、ブレーキBRと接続する。そして、リングギヤR1は、ブレーキBRが締結状態の場合、その回転が制止されて固定される。キャリアC1は、エンジン20のクランク軸に連結された入力軸40と連結されており、その回転数は、エンジン20の回転数(以下、適宜「エンジン回転数Ne」と称する)と等価である。
【0038】
動力分割機構30は、前述した構成の下で、エンジン20から入力軸40に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構30は、エンジン20の動力を2系統に分割する。
【0039】
減速機構60は、モータジェネレータMG2のロータと連結すると共に、クラッチCRを介してリングギヤR1と連結する。そして、減速機構60は、駆動軸OUTの回転を、減速機構60を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形でモータジェネレータMG2に伝達する。よって、モータジェネレータMG2の回転数(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)は、車速Vに応じて一義的に定まる。また、減速機構60は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤと、デファレンシャルとを含んでいる。そして、各車軸の回転数は、減速機構60により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。
【0040】
オイルポンプ70は、ハイブリッド駆動装置10の各部に潤滑油を供給する。オイルポンプ70は、入力軸40にて伝達された動力にて駆動される。
【0041】
尚、本発明に係る「動力分割機構」に係る実施形態上の構成は、動力分割機構30のものに限定されない。例えば、本発明に係る動力分割機構は、複数の遊星歯車機構が組み合わされた複合型遊星歯車機構であってもよい。
【0042】
次に、ECU100が実行する、ハイブリッド車両1の走行モードを切り替えるモード切替制御について説明する。尚、以後では、モータジェネレータMG1とモータジェネレータMG2とを特に区別しない場合、これらを「モータジェネレータ」と総称する。
【0043】
ECU100は、エンジン20及びモータジェネレータに加えてブレーキBR及びクラッチCRのそれぞれの状態を制御することで、ハイブリッド車両1の走行モードを「EV走行」、「パラレルHV走行」及び「シリーズHV走行」間で切り替えるモード切替制御を実行する。
【0044】
EV走行は、本発明に係る「第1走行モード」の一例であり、エンジン20が停止された状態で、モータジェネレータMG2のみから駆動軸OUTに駆動力を出力する走行モードである。EV走行では、ECU100は、ブレーキBRを解放状態とすると共にクラッチCRを解放状態とし、エンジン20及びモータジェネレータMG1を停止状態として、モータジェネレータMG2のみから駆動軸OUTに駆動力を出力させる。尚、このようにEV走行では、クラッチCRが解放状態であり、駆動軸OUTは、動力分割機構30と切り離されている。即ち、EV走行では、駆動軸OUTと動力分割機構30との動力伝達が遮断されている。
【0045】
パラレルHV走行は、本発明に係る「第2走行モード」の一例であり、エンジン20及びモータジェネレータMG2から駆動軸OUTに駆動力を出力する走行モードである。パラレルHV走行では、ECU100は、ブレーキBRを解放状態とすると共にクラッチCRを結合状態とし、エンジン20及びモータジェネレータMG2から駆動軸OUTに駆動力を出力させる。尚、このようにパラレルHV走行では、クラッチCRが結合状態であり、駆動軸OUTは、動力分割機構30を介してエンジン20のクランク軸と連結されている。パラレルHV走行では、エンジン20からの動力は、動力分割機構30によって2つに分割され、一方の動力は機械的な動力のまま駆動軸OUTに出力されると共に、残余の動力はモータジェネレータMG1により電力に変換される。
【0046】
シリーズHV走行は、本発明に係る「第3走行モード」の一例であり、エンジン20の動力をモータジェネレータMG1により全て電力に変換する走行モードである。シリーズHV走行では、ECU100は、ブレーキBRを締結状態とすると共にクラッチCRを解放状態とし、エンジン20を動作させる。これにより、モータジェネレータMG1は、エンジン20の動力に基づいて発電する。
【0047】
次に、モード切替制御のうち、走行モードをEV走行からパラレルHV走行に切り替える際の制御について、図3から図6を参照して説明する。
【0048】
図3は、走行モードをEV走行からパラレルHV走行に切り替える際の制御の流れを示すフローチャートである。
【0049】
図3において、ハイブリッド車両1の走行モードがEV走行である場合、バッテリ12のSOC(State Of Charge:充電状態)のレベルが所定の閾値よりも小さい、又は、要求駆動力が所定の閾値よりも大きいか否かがECU100によって判定される(ステップS10)。尚、要求駆動力は、駆動軸OUTに出力されるべき駆動力(即ち、駆動トルク)であり、アクセル開度センサ13によって検出されるアクセル開度Taに応じてECU100によって設定される。
【0050】
バッテリ12のSOCのレベルが所定の閾値よりも小さくない(即ち、バッテリ12のSOCのレベルが所定の閾値以上である)、且つ、要求駆動力が所定の閾値よりも大きくない(即ち、要求駆動力が所定の閾値以下である)と判定された場合には(ステップS10:No)、ハイブリッド車両1の走行モードはEV走行のまま維持され、その後、再びステップS10に係る処理が行われる。
【0051】
バッテリ12のSOCのレベルが所定の閾値よりも小さい、又は、要求駆動力が所定の閾値よりも大きいと判定された場合には(ステップS10:Yes)、ハイブリッド車両1の走行モードはEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる(ステップS20からステップS50)。
【0052】
即ち、この場合には(ステップS10:Yes)、先ず、モータジェネレータMG1の回転により、クラッチCRのリングキヤR1側の回転数がクラッチCRの駆動軸OUT側の回転数に同期され、解放状態であったクラッチCRが係合状態にされる(ステップS20)。即ち、ECU100は、クラッチCRのリングキヤR1側の回転数が駆動軸OUT側の回転数に殆ど或いは実践上同じになるようにモータジェネレータMG1を回転させた後に、クラッチCRを解放状態から係合状態に切り替える。この際、エンジン20は停止状態のまま維持される。
【0053】
ここで、ステップS20に係る処理について、図4及び図5を参照して詳細に説明する。
【0054】
図4は、走行モードがEV走行である場合の動作状態の一例を示す共線図である。尚、図4では、縦軸は回転数を表わし、横軸は、左から順に、サンギヤS1(一義的に、モータジェネレータMG1)、キャリアC1(一義的に、エンジン20)、クラッチCRのリングギヤR1側(一義的に、リングギヤR1)、クラッチCRの駆動軸OUT側(一義的に、駆動軸OUT)及びモータジェネレータMG2を表わしている。この点に関しては、図5及び図6についても同様である。
【0055】
図4において、前述したように、EV走行では、ブレーキBRが解放状態とされると共にクラッチCRが解放状態とされ、エンジン20及びモータジェネレータMG1が停止状態とされる。よって、エンジン20及びモータジェネレータMG1のいずれの回転数もゼロであり、リングキヤR1の回転数もゼロである。この際、モータジェネレータMG2が回転し、MG2トルクTmg2が駆動トルクToutとして駆動軸OUTに作用することにより、駆動軸OUT及びクラッチCRの駆動軸OUT側がモータジェネレータMG2の回転数に応じた回転数で回転する。
【0056】
図5は、走行モードがEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる際の動作状態の一例を示す共線図である。
【0057】
図5において、走行モードがEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる際には、先ず、前述したように、モータジェネレータMG1の回転により、クラッチCRのリングキヤR1側の回転数がクラッチCRの駆動軸OUT側の回転数に同期される(ステップS20)。この際、エンジン20は停止状態のまま維持される。よって、エンジン20の回転数はゼロのままである。このようにクラッチCRのリングキヤR1側の回転数が駆動軸OUT側の回転数に同期された後に、クラッチCRが係合状態にされる(ステップS20)。
【0058】
図3において、ステップS20に係る処理が行われた後、ECU100は、クラッチCRを滑らせながら、エンジン20の回転数をモータジェネレータMG1の回転により増大させる(ステップS30)。即ち、クラッチCRが滑らされた状態で、モータジェネレータMG1の回転によるエンジン20のクランキングが行われる。
【0059】
ここで、ステップS30に係る処理について、図6を参照して詳細に説明する。
【0060】
図6は、走行モードがEV走行からパラレルHV走行に切り替えられる際の動作状態の他の例を示す共線図である。
【0061】
図6において、ECU100は、クラッチCRを滑らせながら、エンジン20の回転数をモータジェネレータMG1の回転により増大させる(ステップS30)。即ち、ECU100は、結合状態であったクラッチCRを滑り状態とした後、モータジェネレータMG1の回転数を増大させる。これにより、エンジン20の回転数は、モータジェネレータMG1の回転数の増大に応じて増大する。
【0062】
ここで、仮に、何らの対策も施さず、クラッチCRを結合状態にしたままで、エンジン20の回転数をモータジェネレータMG1の回転により増大させる場合には、エンジン20の慣性(例えばピストンの慣性)やエンジン20で発生する摩擦力(例えばピストン及びシリンダ間の摩擦力)によって駆動軸OUTに出力される駆動力が低下してしまうおそれがある。即ち、エンジン20の慣性やエンジン20で発生する摩擦力に起因してリングギヤR1に発生する、駆動トルクToutとは逆向きのトルクTfeが、結合状態とされたクラッチCRを介して、駆動軸OUTに出力されることにより、駆動軸OUTに出力される駆動力が低下してしまうおそれがある。
【0063】
しかるに、本実施形態では特に、前述したように、ECU100は、クラッチCRを滑らせながら、エンジン20の回転数をモータジェネレータMG1の回転により増大させる(ステップS30)。よって、エンジン20の慣性やエンジン20で発生する摩擦力に起因してリングギヤR1に発生する、駆動トルクToutとは逆向きのトルクTfeが、クラッチCRを介して、駆動軸OUTに出力されることを抑制或いは防止できる。従って、駆動軸OUTに出力される駆動力の低下を抑制或いは防止できる。尚、駆動軸OUTには、減速機構60を介してMG2トルクTmg2が駆動トルクToutとして出力される。
【0064】
図3において、ステップS30に係る処理が行われた後、ECU100は、エンジン20を始動させる(ステップS40)。即ち、クラッチCRが滑らされた状態で、モータジェネレータMG1の回転によるエンジン20のクランキングが行われた(ステップS30)後には、ECU100は、エンジン20の点火を行う、つまり、エンジン20内の燃料に着火する。
【0065】
次に、ECU100は、クラッチCRを結合状態にする(ステップS50)。即ち、ECU100は、エンジン20を始動させた後に、滑らせていたクラッチCRを結合状態にする。これにより、MG2トルクTmg2が減速機構60を介して駆動軸OUTに出力されるのに加えて、エンジン20の出力トルクの少なくとも一部が動力分割機構30及びクラッチCRを介して駆動軸OUTに駆動力として出力される。即ち、ハイブリッド車両1の走行モードのEV走行からパラレルHV走行への切り替えが完了する。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、EV走行からパラレルHV走行に走行モードを切り替える際のエンジン20の始動時に駆動軸OUTに出力される駆動力が低下することを抑制或いは防止できる。従って、EV走行からパラレルHV走行に走行モードを切り替える際のエンジン20の始動時にハイブリッド車両1の走行能力が低下することを抑制或いは防止できる。
【0067】
更に、本実施形態によれば、例えば、エンジン20の始動時の駆動力の低下を補償するためにモータジェネレータMG2からの駆動力を増大させる必要性を低減或いは無くすことができる。即ち、本実施形態によれば、前述したように、クラッチCRを滑らせることにより、エンジン20の慣性やエンジン20で発生する摩擦力に起因する駆動力の低下を抑制或いは防止できるので、モータジェネレータMG2の動力を増大させなくてもよい。従って、エンジン20の始動時にモータジェネレータMG2の動力を増大させる場合と比較して、エンジン20の始動時に必要となる電力を低減できるので、EV走行でのハイブリッド車両1の走行能力の低下を抑制或いは防止できる。
【0068】
本発明は、前述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、20…エンジン、30…動力分割機構、60…減速機構、100…ECU、BR…ブレーキ、CR…クラッチ、MG1、MG2…モータジェネレータ、OUT…駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
第1及び第2回転電機と、
前記内燃機関に連結された第1回転要素、前記第1回転電機に連結された第2回転要素、及び前記第2回転電機と駆動軸とにクラッチを介して連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力分割機構と
を備えたハイブリッド車両に搭載され、
前記ハイブリッド車両の走行モードを、前記第2回転電機のみから前記駆動軸に駆動力を出力する第1走行モードから前記内燃機関及び前記第2回転電機から前記駆動軸に駆動力を出力する第2走行モードに切り替える際、前記内燃機関を始動させるために前記第1回転電機の動力によって前記内燃機関の回転数を増大させるときに、前記クラッチを滑らせる制御手段を備える
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記クラッチを滑らせながら前記第1回転電機の動力によって前記内燃機関の回転数を増大させて、前記内燃機関を始動させた後に、前記クラッチを結合状態にする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項3】
締結状態において、前記第2回転要素を固定可能なブレーキを更に備え、
前記制御手段は、前記クラッチを解放状態かつ前記ブレーキを締結状態にすることで、前記走行モードを、前記内燃機関の動力を前記第1回転電機により全て電力に変換する第3走行モードにする
請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71694(P2012−71694A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218282(P2010−218282)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】