説明

ハイブリッド車両用動力伝達装置及びその制御方法

【課題】内燃機関の再始動前に、出力軸に動力が伝達させることなく、セレクタを遮断状態に切替えることが可能なハイブリッド車両用動力伝達装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】リングギヤ8gにワンウェイクラッチOWCが設けられ、差動回転機構8は、エンジン2及び電動機3に連結された主入力軸11に接続されたサンギヤ8sが逆方向に回転すると、主入力軸11に連結可能な第1副入力軸12に接続されたキャリア8cは回転不能となるように、構成されている。アイドリングストップが行われたとき、セレクタSが動力伝達可能な状態にある場合、主入力軸11が逆方向に回転するように電動機3を運転してオイルポンプ32を駆動させることにより、セレクタSを遮断状態に切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両用動力伝達装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力発生源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両において、内燃機関に接続された主入力軸と、出力軸に連結された副入力軸とがセレクタを介して結合された動力伝達装置を備えるものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、内燃機関にクラッチ(エンジンクラッチ)を介して接続された入力軸(主入力軸)と、電動機に接続された軸(副入力軸)が同軸に配置され、これら入力軸と軸とが同期装置(セレクタ)を介して連結された動力伝達装置が開示されている。この動力伝達装置では、同期装置を接続状態にさせて内燃機関の動力を出力部(出力軸)に伝達する。
【0004】
ところで、近年、燃費及び環境性能の向上のために、車両停止時に内燃機関を自動停止するアイドルストップ制御を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−114063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された動力伝達装置においてアイドルストップ制御を行った場合、同期装置が接続状態のまま、内燃機関が自動停止する。しかしながら、その後、内燃機関を再始動させアイドル運転を行ったとき、同期装置が接続状態であると、内燃機関の動力が出力部に伝達されるという問題が生じる。
【0007】
そのため、内燃機関を再始動させる前に、予め同期装置を遮断状態に切替える必要があるが、同期装置を駆動させるオイルポンプを前記電動機で作動させた場合も、同様に、電動機の動力が出力部に伝達されるという問題が生じる。
【0008】
そこで、同期装置を駆動させるオイルポンプを作動させるために、電動オイルポンプ等を別途設ける必要があった。しかし、この場合、システムが巨大化、複雑化し、コストが上昇し、且つ、この電動オイルポンプを作動させるバッテリを確保する必要があるという問題が生じる。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、内燃機関の再始動前に、出力軸に動力が伝達させることなく、セレクタを遮断状態に切替えることが可能なハイブリッド車両用動力伝達装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、前記内燃機関及び前記電動機に連結された主入力軸と、前記主入力軸に連結可能な副入力軸と、被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記主入力軸が正方向又は逆方向の何れかの方向に回転するように前記電動機を運転させることにより駆動するオイルポンプと、前記オイルポンプにより駆動され、前記副入力軸から前記出力軸への動力の伝達又は遮断の選択が可能な選択装置と、前記主入力軸に接続された第1回転要素、前記副入力軸に接続された第2回転要素、及び、ワンウェイクラッチを設けた第3回転要素が互いに差動回転可能であると共に、前記第1回転要素が逆方向に回転すると、前記第2回転要素が回転不能となるように構成した差動回転機構と、 アイドルストップ要求が発生したとき、前記内燃機関を停止させ、アイドルストップ解除要求が発生したとき、前記内燃機関を始動させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき、前記選択装置が前記副入力軸から前記出力軸へ動力伝達可能な状態にある場合、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転して前記オイルポンプを駆動させることにより、前記選択装置を前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替え、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転させながら、前記内燃機関を始動することを特徴とする(第1発明)。
【0011】
本発明によれば、制御手段は、アイドルストップ要求が発生し、内燃機関を停止させたとき、選択装置が副入力軸から出力軸へ動力伝達可能な状態にある場合、主入力軸が逆方向に回転するように電動機を運転してオイルポンプを駆動させる。そして、差動回転機構の第3回転要素にワンウェイクラッチが設けられており、第1回転要素が逆方向に回転しても、第2回転要素は回転しない。そのため、主入力軸が逆方向に回転するように電動機を運転しても、第2回転要素に接続された副入力軸は回転せず、該副入力軸を介して出力軸に動力が伝達されることがない。従って、選択装置を駆動するために前記電動機以外の動力発生源により駆動するオイルポンプを別途設けることなく、出力軸に動力が伝達されることなく、選択装置の状態を切替えることができる。
【0012】
そして、選択装置を出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替え、内燃機関に連結された主入力軸が正方向に回転するように電動機を運転させながら内燃機関を始動させる。そのため、出力軸に動力が伝達されることなく、内燃機関を始動することができる。
【0013】
また、本発明において、前記制御手段は、前記選択装置が前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替えられた後、前記電動機の運転を一旦停止してから、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転することが好ましい。
【0014】
この場合、出力軸への動力伝達が遮断される状態になる前に、主入力軸が正方向に回転するように電動機が運転されることを確実に防止することが可能となる。そのため、出力軸に動力が伝達されることなく、内燃機関を始動することが確実となる。
【0015】
また、本発明において、前記主入力軸を前記内燃機関に選択的に連結する断接装置を備え、前記制御手段は、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を遮断状態にすることが好ましい。
【0016】
この場合、主入力軸が逆方向に回転するように電動機を運転する際、断接装置により主入力軸と内燃機関との接続を遮断状態にするので、内燃機関による主入力軸の負荷がなくなる。そのため、主入力軸が逆方向に回転する際に必要な電動機の出力を抑制することが可能となる。
【0017】
また、本発明において、前記制御手段は、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記内燃機関のクランクシャフト角を制御することによりピストン位置を調整した後、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を遮断状態にすることが好ましい。
【0018】
この場合、内燃機関のピストン位置を予め適宜調整しておくことにより、内燃機関の始動時のショックを低減することが可能となる。
【0019】
また、本発明において、前記制御手段は、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を徐々に行うことが好ましい。
【0020】
この場合、主入力軸と内燃機関とが徐々に接続されるので、内燃機関の始動時のショックを低減することが可能となる。
【0021】
また、本発明において、前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき、前記選択装置が前記出力軸への動力伝達が遮断される状態にある場合、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転しないことが好ましい。
【0022】
この場合、アイドリングストップが行われたとき、選択装置が出力軸への動力伝達が遮断される状態にある場合、オイルポンプを駆動させて選択装置の状態を切替える必要がない。そのため、主入力軸が逆方向に回転するように電動機を運転することなく、そのまま、主入力軸が正方向に回転するように電動機を運転させながら、内燃機関を始動する。これにより、電動機によるエネルギー消費を抑制することが可能となる。また、内燃機関を始動するまでの時間を短縮することができる。
【0023】
さらに、本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置のアイドルストップ制御方法であって、前記動力伝達装置は、前記内燃機関及び前記電動機に連結された主入力軸と、前記主入力軸に連結可能な副入力軸と、被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記主入力軸が正方向又は逆方向の何れかの方向に回転するように前記電動機を運転させることにより駆動するオイルポンプと、前記オイルポンプにより駆動され、前記副入力軸からの動力を前記出力軸へ伝達又は遮断することが選択可能な選択装置と、前記主入力軸に接続された第1回転要素、前記副入力軸に接続された第2回転要素、及び、ワンウェイクラッチを設けた第3回転要素が互いに差動回転可能であると共に、前記第1回転要素が逆方向に回転すると、前記第2回転要素が回転不能となるように構成した差動回転機構と、アイドルストップ要求が発生したとき、前記内燃機関を停止させ、アイドルストップ解除要求が発生したとき、前記内燃機関を始動させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき、前記選択装置が前記副入力軸から前記出力軸へ動力伝達可能な状態にある場合、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転して前記オイルポンプを駆動させることにより、前記選択装置を前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替え、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転させながら、前記内燃機関を始動することを特徴とする(第2発明)。
【0024】
本発明によっても、第1発明と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置の構成を概略的に示す図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置のアイドルストップ制御を示すフローチャート。
【図3】図2に続くアイドルストップ制御を示すフローチャート。。
【図4】本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置のアイドルストップ制御を示すタイムチャート。
【図5】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置のアイドルストップ制御を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置のアイドルストップ制御を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用動力伝達装置1及びそのアイドルストップ制御について図面を参照して説明する。
【0027】
まず、動力伝達装置1の構成について図1を参照して説明する。動力伝達装置1は、動力発生源として、内燃機関であるエンジン2と電動機(モータ・ジェネレータ)3とを備えるハイブリッド車両に搭載される。動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力(駆動力)を被駆動部である一対の駆動輪4,4に伝達して、該駆動輪4,4を駆動し得るように構成されている。
【0028】
エンジン2は、ガソリン、軽油、アルコールなどの燃料を燃焼させることにより動力(トルク)を発生する内燃機関であり、発生した動力を外部に出力するためのエンジン出力軸2aを有する。このエンジン2は、通常の自動車のエンジンと同様に、図示しない吸気路に備えたスロットル弁の開度を制御する(エンジン2の吸入空気量を制御する)ことによって、該エンジン2がエンジン出力軸2aを介して出力する動力が調整される。
【0029】
電動機3は、本実施形態では3相のDCブラシレスモータであり、そのハウジング(図示省略)内に回転自在に支承された中空のロータ(回転体)3aと、該ロータ3aの周囲でハウジングに固定されたステータ(固定子)3bとを有する。ロータ3aには、複数の永久磁石が装着され、ステータ3bには、3相分のコイル(電機子巻線)3baが装着されている。なお、電動機3のステータ3bは、動力伝達装置1の外装ケース等、車体に対して静止した不動部に設けられたハウジングに固設されている。
【0030】
この電動機3のコイル3baは、インバータ回路を含む駆動回路であるパワー・ドライブ・ユニット(以下、PDUという)5を介して直流電源としてのバッテリ(二次電池)6に電気的に接続されている。また、PDU5は、電子制御ユニット(以下、ECUという)7に電気的に接続されている。
【0031】
ECU7は、PDU5の他に、図示しないがエンジン2等に電気的に接続されており、エンジン2を含む動力伝達装置1の動作制御を行う。ECU7は、車速やエンジン2の回転数等から駆動輪4,4に伝達することが要求される動力を設定すると共に、設定した要求動力に応じて、エンジン2や電動機3を含む動力伝達装置1の各部を駆動制御する制御手段として機能する。
【0032】
ECU7により、PDU5を介してコイル3baに流れる電流を制御することによって、電動機3がロータ3aから出力する動力(トルク)が調整される。この場合、PDU5を制御することにより、電動機3は、バッテリ6から供給される電力によってロータ3aに力行トルクを発生する力行運転を行い、モータとして機能する。即ち、ステータ3bに供給された電力が、動力に変換され、ロータ3aに出力される。また、PDU5を制御することにより、電動機3は、外部からロータ3aに与えられる回転エネルギーによって発電し、その発電エネルギーをバッテリ6に充電しつつ、ロータ3aに回生トルクを発生する回生運転を行い、ジェネレータとして機能する。即ち、ロータ3aに入力された動力が、ステータ3bで電力に変換される。
【0033】
なお、ECU7は、CPU、RAM、ROM、インターフェイス回路等を含む電子回路ユニットであり、予め実装されたプログラムにより規定される制御処理を実行することで、動力伝達装置1の動作制御を行う。この場合、ECU7の制御処理により実現される機能として、電動機3の運転をPDU5を介して制御する機能の他、エンジン2の運転を図示しないスロットル弁用のアクチェエータ等のエンジン制御用のアクチュエータを介して制御する機能、後述するクラッチCM,C1,C2及びセレクタSの動作を図示しないアクチュエータもしくは駆動回路を介して制御する機能などが含まれる。
【0034】
動力伝達装置1は、エンジン2の動力と電動機3との動力を合成すると共にエンジン2の動力を電動機3に分配する合成・分配手段として、減速機構でもある差動回転機構8を備える。
【0035】
差動回転機構8は、電動機3の内側に設けられている。なお、電動機3を構成するロータ3a、ステータ3b及びコイル3baの一部又は全部を、主入力軸11の軸線方向と直交する方向(周方向)に差動回転機構8と重なるように配置することにより、動力伝達装置1の小型化を図ることが可能となり、好ましい。
【0036】
差動回転機構8は、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能に構成されている。差動回転機構8は、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、3つの回転要素として、サンギヤ(第1回転要素)8sと、リングギヤ(第3回転要素)8rと、これらのサンギヤ8s及びリングギヤ8rの間で当該両ギヤ8r,8sに噛合された複数のプラネタリギヤ8pを回転自在に支持するキャリア(第2回転要素)8cとを同軸心に備えている。これらの3つの回転要素8s,8r,8cは、周知のように、互いの間で動力を伝達可能であると共に、それぞれの回転数(回転速度)の間の関係を一定の共線関係に保ちつつ回転する。
【0037】
エンジン出力軸2aには、エンジン2側から電動機3側に亘って延在する主入力軸11が連結されている。主入力軸11は、エンジン出力軸2aに平行に配置され、エンジン2からの動力がエンジンクラッチ(断接装置)CMを介して入力される。主入力軸11は、エンジンクラッチCMにより、エンジン出力軸2aと接続、遮断される。
【0038】
エンジンクラッチCMは、ECU7の制御の下で、エンジン出力軸2aが主入力軸11と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構(接続状態と遮断状態とに選択的に動作可能なクラッチ機構)である。エンジンクラッチCMを接続状態に動作させると、主入力軸11がエンジン出力軸2aと結合され、エンジン出力軸2aから主入力軸11への動力伝達が可能となる。また、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させると、主入力軸11とエンジン出力軸2aとの接続が遮断され、エンジン出力軸2aから主入力軸11への動力伝達が遮断される。
【0039】
主入力軸11に対して、2本の副入力軸、即ち第1副入力軸12及び第2副入力軸13がそれぞれ同軸心に配置されている。第1副入力軸12と第2副入力軸13とは並び合って配置され、第1副入力軸12が電動機3側に、第2副入力軸13がエンジン2側に位置している。なお、主入力軸11のエンジン2側部と第1副入力軸12の電動機3側部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
【0040】
第1副入力軸12に対して、副軸14が同軸心に配置されている。第1副入力軸12と副軸14とは、セレクタ(選択装置)Sを介して接続されている。セレクタSは、第1副入力軸12に設けられ、低速ギヤ14a又は後退ギヤ14bと第1副力軸12との接続、切断が切替可能に構成されている。
【0041】
セレクタSは、シンクロクラッチなどの周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを第1副入力軸12の軸方向に移動させることによって、低速ギヤ14a又は後退ギヤ14bを第1副入力軸12と選択的に連結させる。スリーブを図中右側位置(以下、D位置という)へ移動させた状態(以下、D状態という)の場合、低速ギヤ14aと第1副入力軸12とが連結される。スリーブが図中左側位置(以下、R位置という)へ移動した状態(以下、R状態という)の場合、後退ギヤ14bと第1副入力軸12とが連結される。一方、スリーブが図中位置(以下、N位置という)に存する状態(以下、N状態という)の場合、低速ギヤ14a及び後退ギヤ14bは何れも第1副入力軸12と連結されない。
【0042】
そして、主入力軸11と副軸14とは、第1クラッチC1を介して連結される。また、主入力軸11と第2副入力軸13とは、第2クラッチC2を介して連結される。
【0043】
第1クラッチC1は、ECU7の制御の下で、主入力軸11が副軸14と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。第2クラッチC2は、ECU7の制御の下で、主入力軸11が第2副入力軸13と接続又は遮断するように動作するクラッチ機構である。第1クラッチC1と第2クラッチC2が共に接続状態に動作することはなく、第1クラッチC1と第2クラッチC2の何れか一方のみが選択的に接続状態に動作する。
【0044】
第1クラッチC1を接続状態に動作させると、副軸14が主入力軸11と接続される。この状態では、主入力軸11から副軸14への動力伝達のみが可能となり、主入力軸11から第2副入力軸13へ動力伝達は遮断される。また、第2クラッチC2を接続状態に動作させると、第2副入力軸13が主入力軸11と接続される。この状態では、主入力軸11から第2副入力軸13へ動力伝達が可能となり、主入力軸11から副軸14へは動力伝達は遮断される。
【0045】
主入力軸11の電動機3側の一端部に、サンギヤ8sが固定されている。さらに、サンギヤ8sは、エンジン2側の反対側でロータ3aと固定されている。これにより、サンギヤ8s、主入力軸11及びロータ3aは連動して回転する。
【0046】
第1副入力軸12の電動機3側の一端部に、キャリア8cが固定されている。これにより、キャリア8c、プラネタリギヤ8p及び第1副入力軸12は連動して回転する。
【0047】
リングギヤ8rには、ワンウェイクラッチOWCが配置されている。ワンウェイクラッチOWCは、リングギヤ8rの逆方向の回転のみを許容し、リングギヤ8rの正方向の回転を阻止する。即ち、リングギヤ8rを正方向に回転させる動力がリングギヤ8rに伝達されたとき、リングギヤ8rはワンワイクラッチOWCによりロックされる。なお、正方向とは、エンジン2の駆動時にエンジン出力軸2aが回転する方向を意味し、逆方向とは、正方向と反対方向を意味する。
【0048】
主入力軸11に対して平行に出力軸15が配置されている。出力軸15と副軸14とは、低速ギヤ対16を介して結合されている。この低速ギヤ対16は、出力軸15上に固定された低速ギヤ15aと前記低速ギヤ14aとが噛合して構成されている。また、出力軸15と第2副入力軸13とは、高速ギヤ対17を介して結合されている。この高速ギヤ対17は、出力軸15上に固定された高速ギヤ15bと第2副入力軸13上に固定された高速ギヤ13aとが噛合して構成されている。そして、出力軸15上にはファイナルギヤ15cが固定されている。なお、出力軸15の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
【0049】
また、主入力軸11に対して平行に後退中間軸18が配置されている。後退中間軸18と副軸14とは、後退ギヤ対19を介して結合されている。この後退ギヤ対19は、後退中間軸18上に固定された後退ギヤ18aと前記後退ギヤ14bとが噛合して構成されている。そして、後退中間軸18と出力軸15とは、後退ギヤ対20を介して結合されている。この後退ギヤ対20は、前記後退ギヤ18aと出力軸15上に固定された後退ギヤ15dとが噛合して構成されている。
【0050】
なお、ファイナルギヤ15c以降の構成として、例えば、出力軸15に対して、カウンタ軸21が平行に配置されている。そして、出力軸15とカウンタ軸21とは、カウンタギヤ対22を介して結合されている。このカウンタギヤ対22は、ファイナルギヤ15cとカウンタ軸21に固定されたギヤ21aとが噛合して構成されている。
【0051】
カウンタ軸21は、駆動輪4,4の間の差動歯車ユニット23を介して該駆動輪4,4に連結されている。差動歯車ユニット23は、駆動輪4,4にそれぞれ車軸を介して連結された図示しないサイドギヤを内蔵するギヤケース23aと、このギヤケース23aの外周に固定されたギヤ23bとを備える。そして、差動歯車ユニット23のギヤ23bに、カウンタ軸21上に固定されたギヤ21bが噛合されている。これにより、カウンタ軸21は、駆動輪4,4と連動して回転するように、差動歯車ユニット23を介して駆動輪4,4に連結されている。
【0052】
カウンタ軸21上には、図示しないパーキング機構のギヤと噛合するパーキングギヤ21cも固定されている。なお、カウンタ軸21の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
【0053】
さらに、動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力を、駆動輪4,4だけでなく、車両に搭載された補機31及びオイルポンプ32に伝達して、これら補機31及びオイルポンプ32を駆動し得るように構成されている。補機31は、例えばエアコンのコンプレッサ、ウォータポンプであり、オイルポンプ32は、作動油によりセレクタSの前記アクチュエータを駆動させてスリーブ位置を移動させることが少なくとも可能な機械式オイルポンプである。
【0054】
主入力軸11に対して、補機31及びオイルポンプ32の補機入力軸33が平行に配置されている。そして、主入力軸11と補機入力軸33とは、補機駆動機構34を介して結合されている。この補機駆動機構34は、主入力軸11又はエンジン出力軸2aが回転しているとき、即ち、エンジン2又は電動機3が運転しているとき、補機入力軸33が常に回転するように構成されている。
【0055】
エンジンクラッチCMに固定されたギヤ35と、補機入力軸33上に固定されたギヤ33aとがベルト36を介して連結されている。そして、主入力軸11に固定されたギヤ11aと、補機入力軸33上に固定されたギヤ33bとがベルト37を介して連結されている。なお、補機31は、クラッチ38を介して補機入力軸33に接続されている。
【0056】
このように補機駆動機構34を構成したので、主入力軸11又はエンジン出力軸2aが正方向に回転するとき補機入力軸33も正方向に回転し、主入力軸11が逆方向に回転するとき補機入力軸33も逆方向に回転する。そのため、オイルポンプ32は、その補機入力軸33の回転方向に拘わらず同様に作動可能に構成されているものを用いる必要がある。
【0057】
ただし、補機駆動機構34の構成は、上記説明した構成に限定されない。例えば、補機31とオイルポンプ32との入力軸をそれぞれ設けてもよい。また、複数のワンウェイクラッチを適宜組み合わせる等によって、主入力軸11が正方向又は逆方向の何れかの方向に回転する場合であっても、オイルポンプ32の補機入力軸が正方向に回転するように構成してもよい。これにより、オイルポンプ32を、その入力軸が正方向に回転するときのみ作動可能に構成されているものを用いることが可能となる。
【0058】
さらに、車両には、ブレーキペダルへの踏み込みの有無を検知するブレーキペダルセンサ41、アクセスペダルの開度を検知するアクセスペダルセンサ42、車速を測定する車速センサ43、シフトレバーのレンジを検知するレンジセンサ44を備えている。また、エンジン2には、クランクシャフト角を検出するクランク角センサ45が設けられている。これら各センサ41〜45の検知信号は、ECU7に入力される。
【0059】
以上のように構成された動力伝達装置1において、エンジン2から出力された動力は、エンジンクラッチCMが接続状態(以下、ON状態という)にあるとき、主入力軸11に伝達され、その後、第1、第2クラッチC1,C2及びセレクタSの状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸15に伝達される。
【0060】
そして、電動機3から出力された動力も、主入力軸11に伝達され、その後、第1、第2クラッチC1,C2及びセレクタSの状態に応じた動力伝達経路を経由して、出力軸15に伝達される。
【0061】
これにより、動力伝達装置1は、エンジン2のみを動力発生源とするエンジンモードと、電動機3のみを動力発生源とするEVモードと、エンジン2と電動機3との双方を運転するHEVモードとの3つの動作モードにおいて、前進3段後進1段の変速を確保している。なお、HEVモードには、エンジン2の出力に電動機3の出力を合成するアシストモードと、エンジン2の出力を電動機3に分配して電動機3が回生運転を行う回生モードとがある。回生モードでは、電動機3の回生運転によりバッテリ6の充電が行われる。EVモードでは、バッテリ6に蓄積された電気エネルギーを消費して電動機3が動力を出力する。
【0062】
具体的には、第1クラッチC1をON状態に、第2クラッチC2をOFF状態に、セレクタSをN状態に設定した場合、エンジン2や電動機3から出力された動力は、主入力軸11から第1クラッチC1、第1副入力軸12、副軸14、低速ギヤ対16等を介して出力軸15に伝達され、低速段が確立される。このとき、サンギヤ8sとキャリア8cとは連動して回転する。
【0063】
第1クラッチC1をOFF状態に、第2クラッチC2をON状態に、セレクタSをN状態に設定した場合、エンジン2や電動機3から出力された動力は、主入力軸11から第2クラッチC2、第2副入力軸13、高速ギヤ対17等を介して出力軸15に伝達され、高速段が確立される。このとき、サンギヤ8sとキャリア8cとは連動して回転する。
【0064】
第1クラッチC1及び第2クラッチC2をOFF状態に、セレクタSをD状態に設定した場合、エンジン2や電動機3から出力された動力は、主入力軸11からサンギヤ8s、プラネタリギヤ8pに伝達されて減速され、その後、キャリア8c、第1副入力軸12、低速ギヤ対16等を介して出力軸15に伝達され、低速段より変速比が低い超低速段(スーパーロー段)が確立される。このとき、リングギヤ8rはワンウェイクラッチOWCによりロックされる。
【0065】
さらに、第1クラッチC1及び第2クラッチC2をOFF状態に、セレクタSをR状態に設定した場合、エンジン2や電動機3から出力された動力は、主入力軸11からサンギヤ8s、プラネタリギヤ8pに伝達されて減速され、その後、キャリア8c、第1副入力軸12、後退ギヤ対19,20等を介して出力軸15に伝達され、後退段が確立される。
【0066】
また、第1クラッチC1及び第2クラッチC2をOFF状態に、セレクタSをD状態に設定し、電動機3から主入力軸11を逆方向に回転させる動力が出力された場合、主入力軸11からギヤ11a、ベルト37、ギヤ33bを介して補機入力軸33に伝達されて、該補機入力軸33が逆方向に回転し、オイルポンプ32を作動させることが可能となる。
【0067】
このとき、主入力軸11からサンギヤ8s及びプラネタリギヤ8pを介してリングギヤ8pに伝達される動力は、該リングギヤ8rを逆方向に回転させるように作用するので、リングギヤ8rはワンウェイクラッチOWCによりロックされることなく、自由に動作する。そのため、キャリア8cは回転せず、第1副入力軸12等を介して出力軸15に動力を伝達されない。
【0068】
以下、上述した動力伝達装置1のアイドルストップ制御の第1実施形態について図2及び図3のフローチャートを参照して説明する。なお、以下の処理は、ECU7が実行する。
【0069】
アイドリングストップ要求が発生したとき(STEP1:YES)、エンジンクラッチCMが接続されている場合には、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させた後(STEP2)、アイドルストップ制御(STEP3)を行う。アイドルストップ制御直前の走行がエンジンモード又はHEVモードの場合、エンジンクラッチCMが接続されているので、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させて、エンジン2と主入力軸11との接続を遮断させる。
【0070】
なお、ブレーキペダルセンサ41がブレーキペダルへの踏み込みがあることを検知していること、バッテリ6の蓄電レベルSOCが所定レベル以上であること、車速センサ43が測定した車速が0であること(車両が停止していること)など、周知の所定の条件が全て満たされた場合に、アイドルストップ要求が発生したと判定する。
【0071】
アイドルストップ制御は、燃料供給を停止してエンジン2を自動停止させると共に電動機3を自動停止させる処理を行う。運転者が操作するシフトレバー(セレクトレバー)のレンジはドライブ(D)レンジやスポーツモード(S)レンジなど走行を指示するレンジから変化しておらず、セレクタSのスリーブの位置変更も行われないので、即、アイドリングストップ制御に入る。
【0072】
ところで、エンジン2及び電動機3の停止時は、オイルポンプ32が停止し、セレクタSのスリーブを作動させる前記アクチュエータの作動油圧が抜け、スリーブ位置を変更させることができない。そして、セレクタSのスリーブがD位置にある状態で、アイドルストップ制御が行われた場合、スリーブ位置がD位置のままでは、動力伝達装置1は走行状態であり、エンジンクラッチCMを接続しエンジン2を再始動させると、そのまま車両が走行を開始するおそれがある。そのため、エンジン2を再始動させる前に、スリーブ位置をN位置に移動させ、動力伝達装置1をニュートラル(N)状態にさせる必要がある。
【0073】
そこで、アイドルストップ制御が行われている状態(STEP3)で、アイドルストップ解除要求が発生したとき(STEP4:YES)、セレクタSのスリーブ位置がN位置でない場合(STEP5:NO)には、まず、逆方向に回転するように電動機3を運転させる(STEP6)。電動機3を逆方向に回転させると、主入力軸11が逆方向に回転し、ギヤ11a、ベルト37及びギヤ33aを介して補機入力軸33が回転する。これにより、オイルポンプ32を駆動させ、セレクタSのスリーブを駆動する前記アクチュエータに作動油圧を供給することが可能となる。
【0074】
なお、アイドルストップ解除要求は、ブレーキペダルセンサ41がブレーキペダルへの踏み込みがないことを検知していること、エアコンディショナーやデフロスター等の作動時にはアイドルストップ状態が所定時間以上経過した場合、バッテリ6の蓄電レベルSOCが所定レベル未満の場合などの条件を含む周知の所定の再始動条件が満たされた場合に、発生したと判定する。
【0075】
そして、オイルポンプ32による作動油圧が、セレクタSのスリーブを作動させることが可能な程度の所定の油圧値以上に上昇させた後(STEP7:YES)、セレクタSのスリーブ位置をD位置からN位置へ移動させる指令を送信して(STEP8)、オイルポンプ32の作動油圧を前記アクチュエータに供給させ、スリーブ位置をN位置に変更させる(STEP9:YES)。
【0076】
そして、セレクタSのスリーブ位置がN位置に変更された後(STEP9:YES)、正方向に回転するように電動機3を運転させる(STEP10)。なお、セレクタSのスリーブ位置が元々N位置である場合(STEP5:YES)には、電動機3を一旦逆方向に回転させることなく、正方向に回転させるように電動機3を運転させる(STEP10)。変速段が低速段又は高速段で車両が停止してアイドルストップ制御が行われた場合、セレクタSのスリーブ位置はN位置となる。このような場合、スリーブ位置を移動させる必要がないので、電動機3を逆方向に回転させる必要がない。
【0077】
そして、電動機3の回転数を上昇させて、その回転数がエンジン2を始動可能な回転数以上になったとき(STEP11:YES)、エンジンクラッチCMを接続状態に動作させて(STEP12)、エンジン始動制御(STEP13)を行う。エンジン2を始動した後、アイドル充電制御(STEP14)に移行する。
【0078】
その後、発進要求が発生したとき(STEP15:YES)、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させて(STEP16)、セレクタSのスリーブをN位置からD位置に移送させ(STEP17)、エンジンクラッチCMを徐々に締結状態に動作させて所定の発進制御を行い(STEP18)、その後、アクセルペダルの踏込度(開度)や車速等に応じて適宜通常の走行制御を行う(STEP19)。
【0079】
なお、発進要求は、アクセスペダルセンサ42がアクセルペダルの開度が所定値以上であることを検知している、ブレーキペダルセンサ41がブレーキペダルへの踏み込みがないことを検知する状態が所定時間以上連続しているなど所定の周知の条件が満たされた場合に、発生したと判定する。
【0080】
以下、動力伝達装置1のアイドルストップ制御の第1実施形態について図4のタイムチャートを参照して説明する。
【0081】
車両走行中にブレーキが踏まれて停止する直前には、通常変速段は超低速段となり、セレクタSのスリーブはD位置に存する。そして、エンジンモード又はHEVモードで走行している場合には、エンジンクラッチCMはON状態であり、主入力軸11に接続されたエンジン2と電動機3のロータ3aとは同じ回転数で回転している。
【0082】
そして、車両が停止し、アイドリングストップ要求が発生したとき、エンジンクラッチCMが遮断状態に動作され、エンジン2及び電動機3の運転が停止し、アイドルストップ状態となる。
【0083】
その後、アイドルストップ解除要求が発生したとき、電動機3は逆方向に回転するように運転する。これにより、主入力軸11が逆方向に回転し、オイルポンプ32が駆動され、セレクタSの前記アクチュエータに作動油圧を供給する。
【0084】
そして、オイルポンプ32による作動油圧が、セレクタSのスリーブを作動させることが可能な程度の所定の油圧値以上に上昇した後、セレクタSのスリーブ位置をD位置からN位置に変更させる。それから、電動機3を正方向に回転するように運転する。
【0085】
そして、電動機3の回転数を上昇させて、その回転数がエンジン2を始動可能な回転数以上になったとき、エンジンクラッチCMを接続状態に動作させて、エンジン始動制御を行う。エンジン2始動後は、車両はアイドル充電状態に移行する。
【0086】
発進要求が発生したとき、エンジンクラッチCMが遮断状態に動作させ、セレクタSのシフター位置をN位置からD位置に変更させることにより、発進準備状態となる。そして、エンジンクラッチCMを徐々に締結状態に動作させることにより車両は発進され、その後、通常の走行状態となる。
【0087】
以下、動力伝達装置1のアイドルストップ制御の第2実施形態について図5のフローチャートを参照して説明する。なお、以下の処理は、ECU7が実行する。
【0088】
アイドリングストップ要求が発生したとき(STEP21:YES)、エンジンクラッチCMが接続されている場合には、アイドルストップ制御(STEP22)を行う。
【0089】
ところで、エンジン2のピストン位置が不適切であると、エンジン2始動時のショックが大きくなる。そのため、エンジン2のピストン位置が適切となるようにクランクシャフト角を調整する必要がある。しかし、エンジンクラッチCMを遮断状態にすると、クランクシャフトを回転させてその角度を調整することが不可能となる。
【0090】
そこで、アイドルストップ解除要求が発生したとき(STEP23:YES)、セレクタSのスリーブ位置がN位置でない場合(STEP24:YSE)には、まず、逆方向に回転するように電動機3を運転させ(STEP25)、これに伴い逆方向に回転する主入力軸11を介してクランクシャフト角の調整制御を行って(STEP26)から、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させる(STEP27)。
【0091】
また、電動機3を逆方向に回転させると、主入力軸11が逆方向に回転し、ギヤ11a、ベルト37及びギヤ33aを介して補機入力軸33が回転する。これにより、オイルポンプ32を駆動させ、セレクタSの前記アクチュエータに作動油圧を供給することが可能となる。そして、オイルポンプ32による作動油圧が、セレクタSのスリーブを作動させることが可能な程度の所定の油圧値以上に上昇させた後(STEP28:YES)、セレクタSのスリーブ位置をD位置からN位置へ移動させる指令を送信して(STEP29)、オイルポンプ32の作動油圧を前記アクチュエータSに供給させ、スリーブ位置をN位置に変更させる(STEP30:YES)。
【0092】
セレクタSのスリーブ位置がN位置に変更された後(STEP9:YES)、図3に示した第1実施形態に係るフローチャートと同様に、STEP10からSTEP19の各処理を行う。
【0093】
以下、動力伝達装置1のアイドルストップ制御の第2実施形態について図6のタイムチャートを参照して説明する。
【0094】
車両走行中にブレーキが踏まれて停止する直前には、通常変速段は超低速段となり、セレクタSのスリーブ位置はD位置に存する。そして、エンジンモード又はHEVモードで走行している場合には、エンジンクラッチCMはON状態であり、主入力軸11に接続されたエンジン2と電動機3のロータ3aとは同じ回転数で回転している。
【0095】
そして、車両が停止し、アイドリングストップ要求が発生したとき、エンジン2及び電動機3の運転が停止され、アイドルストップ状態となる。
【0096】
その後、アイドルストップ解除要求が発生したとき、電動機3を逆方向に回転するように運転させて主入力軸11を逆方向に回転させる。そして、クランク角センサ45が検知するクランクシャフト角が適宜な値となるクランクシャフト角の調整を行ってから、エンジンクラッチCMを遮断状態に動作させる。
【0097】
これと共に、オイルポンプ32を駆動させ、セレクタSの前記アクチュエータに作動油圧を供給させる。そして、オイルポンプ32による作動油圧が、セレクタSのスリーブを作動させることが可能な程度の所定の油圧値以上に上昇させた後、セレクタSのスリーブ位置をD位置からN位置に変更させる。それから、電動機3を正方向に回転するように運転する。
【0098】
そして、電動機3の回転数を上昇させて、その回転数がエンジン2が始動可能な回転数以上になったとき、エンジンクラッチCMを接続状態に動作させて、エンジン始動制御を行う。エンジン2始動後は、車両はアイドル充電状態に移行する。
【0099】
発進要求が発生したとき、エンジンクラッチCMが遮断状態に動作させ、セレクタSのシフター位置をN位置からD位置に変更させることにより、発進準備状態となる。そして、エンジンクラッチCMを徐々に締結状態に動作させることにより車両は発進され、その後、通常の走行状態となる。
【0100】
なお、本発明に係る動力伝達装置は、上述した動力伝達装置1に限定されない。
【0101】
例えば、差動回転機構8は、シングルピニオン型の遊星歯車装置により構成する場合について説明したが、遊星歯車装置以外の差動装置を使用してもよい。例えば、差動回転機構8は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置や電磁クラッチ式の差動装置により構成してもよい。また、サンギヤ8sに主入力軸11を、キャリア9cに第1副入力軸12をそれぞれ接続し、リングギヤ8rにワンウェイクラッチOWCを設ける場合について説明した。しかし、これらに限定されるものではなく、その接続等を変更してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…動力伝達装置、 2…エンジン(内燃機関)、 3…電動機、 4…駆動輪(被駆動部)、 5…PDU、 6…バッテリ、 7…ECU(制御手段)、 8…差動回転機構、 8c…キャリア(第2回転要素)、 8p…プラネタリギヤ、 8r…リングギヤ(第3回転要素)、 8s…サンギヤ(第1回転要素)、 11…主入力軸、 12…第1副入力軸(副入力軸)、 13…第2副入力軸、 13a…高速ギヤ、 14…副軸、 14a…低速ギヤ、 15…出力軸、 15a…低速ギヤ、 15b…高速ギヤ、 16…低速ギヤ対、 17…高速ギヤ対、 31…補機、 32…オイルポンプ、 33…補機入力軸、 34…補機駆動機構、 C1…第1クラッチ、 C2…第2クラッチ、 CM…エンジンクラッチ(断接装置)、 OWC…ワンウェイクラッチ、 S…セレクタ(選択装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、
前記内燃機関及び前記電動機に連結された主入力軸と、
前記主入力軸に連結可能な副入力軸と、
被駆動部に動力を出力する出力軸と、
前記主入力軸が正方向又は逆方向の何れかの方向に回転するように前記電動機を運転させることにより駆動するオイルポンプと、
前記オイルポンプにより駆動され、前記副入力軸から前記出力軸への動力の伝達又は遮断の選択が可能な選択装置と、
前記主入力軸に接続された第1回転要素、前記副入力軸に接続された第2回転要素、及び、ワンウェイクラッチを設けた第3回転要素が互いに差動回転可能であると共に、前記第1回転要素が逆方向に回転すると、前記第2回転要素が回転不能となるように構成した差動回転機構と、
アイドルストップ要求が発生したとき、前記内燃機関を停止させ、アイドルストップ解除要求が発生したとき、前記内燃機関を始動させる制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき、前記選択装置が前記副入力軸から前記出力軸へ動力伝達可能な状態にある場合、前記アイドルストップ解除要求が発生したとき、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転して前記オイルポンプを駆動させることにより、前記選択装置を前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替え、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転させながら、前記内燃機関を始動することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記選択装置が前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替えられた後、前記電動機の運転を一旦停止してから、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記主入力軸を前記内燃機関に選択的に連結する断接装置を備え、
前記制御手段は、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を遮断状態にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記内燃機関のクランクシャフト角を制御することによりピストン位置を調整した後、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を遮断状態にすることを特徴とする請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転する際、前記断接装置により前記主入力軸と前記内燃機関との接続を徐々に行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき前記選択装置が前記出力軸への動力伝達が遮断される状態にある場合、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転しないことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置の制御方法であって、
前記動力伝達装置は、
前記内燃機関及び前記電動機に連結された主入力軸と、
被駆動部に動力を出力する出力軸と、
前記主入力軸に連結可能な副入力軸と、
前記主入力軸が正方向又は逆方向の何れかの方向に回転するように前記電動機を運転させることにより駆動するオイルポンプと、
前記オイルポンプにより駆動され、前記副入力軸からの動力を前記出力軸へ伝達又は遮断することが選択可能な選択装置と、
前記主入力軸に接続された第1回転要素、前記副入力軸に接続された第2回転要素、及び、ワンウェイクラッチを設けた第3回転要素が互いに差動回転可能であると共に、前記第1回転要素が逆方向に回転すると、前記第2回転要素が回転不能となるように構成した差動回転機構と、
アイドルストップ要求が発生したとき、前記内燃機関を停止させ、アイドルストップ解除要求が発生したとき、前記内燃機関を始動させる制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記アイドルストップ要求が発生し、前記内燃機関を停止させたとき、前記選択装置が前記副入力軸から前記出力軸へ動力伝達可能な状態にある場合、前記主入力軸が逆方向に回転するように前記電動機を運転して前記オイルポンプを駆動させることにより、前記選択装置を前記出力軸への動力伝達が遮断される状態に切替え、前記主入力軸が正方向に回転するように前記電動機を運転させながら、前記内燃機関を始動することを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178280(P2011−178280A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44527(P2010−44527)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】