説明

ハイブリッド車両

【課題】電気モータのロータの回転が一時的に停止して、補機の作動が停止しても、車両の乗員に不快感を与えることを抑制可能なハイブリッド車両の制御技術を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50を有し、デュアルクラッチ式変速機10と、ロータ52が所定方向に回転している場合に作動し、且つそのコンプレッサ容量を変化可能な補機としてのA/Cコンプレッサ90と、コンプレッサ容量を制御可能なECU100とを備えている。ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態に基づいて、A/Cコンプレッサ90の作動の停止を予測する機能を含み、A/Cコンプレッサ90の作動の停止を予測した場合、当該A/Cコンプレッサ90の作動が停止する前に、当該A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を、予測した時点に比べて増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機として内燃機関と電気モータを有し、当該電気モータのロータが所定の方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機を備えたハイブリッド車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、通常、原動機等の外部から機械的動力を受けて作動して、当該機械的動力を所定の仕事に変換して出力する被駆動機械(以下、「補機」と記す)が設けられている。このような補機には、例えば、エアコンディショナに圧縮された冷媒を供給するコンプレッサ(以下、A/Cコンプレッサと記す)等がある。
【0003】
ところで、原動機として内燃機関と電気モータとを有するハイブリッド車両においては、燃料消費を抑制するため、車両停止中や車両走行中において、内燃機関の作動を停止する(非作動状態にする)ことが多々あり、電気モータは、内燃機関に比べて比較的容易に、作動/非作動状態を切替可能である。したがって、ハイブリッド車両には、電気モータのロータからの機械的動力を受けて作動するよう補機が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、原動機としてエンジン(内燃機関)とモータジェネレータ(電気モータ)とを有し、デュアルクラッチ式変速機(Dual Clutch Transmission)を備え、モータジェネレータの軸(ロータ)に、補機としてのA/Cコンプレッサが接続されたハイブリッド車両が開示されている。なお、原動機としてエンジン(内燃機関)とモータジェネレータ(電気モータ)とを有し、デュアルクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両には、例えば、特許文献2に記載のものがある。
【0005】
【特許文献1】特許第3647399号公報
【特許文献2】特開2006−118590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、電気モータ(モータジェネレータ)のロータからの機械的動力を受けて作動する補機を備えたハイブリッド車両においては、電気モータのロータの回転が一時的に停止すると、補機の作動が停止して、所定の仕事を出力することができなくなるという問題がある。例えば、補機がA/Cコンプレッサである場合、エアコンディショナに冷媒を供給することができなくなり、A/Cコンプレッサの作動の停止に応じて、エアコンディショナの冷却(空調)能力(以下、A/C冷却能力と記す)が低下して、車両の乗員に不快感を与える虞がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電気モータのロータの回転が一時的に停止して、補機の作動が停止しても、車両の乗員に不快感を与えることを抑制可能なハイブリッド車両の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド車両は、原動機として内燃機関と電気モータを有し、複数の変速段のうちいずれか1つにより、電気モータのロータに係合する第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つにより、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチと、を有するデュアルクラッチ式変速機と、前記ロータが所定方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機と、補機の出力を制御可能な制御手段と、を備えたハイブリッド車両であって、制御手段は、ハイブリッド車両の運転状態に基づいて、補機の作動の停止を予測する補機停止予測手段を含み、補機の作動の停止を予測した場合、当該補機の作動が停止する前において、当該補機の出力を、予測した時点に比べて増大させることを特徴とする。
【0009】
上記のハイブリッド車両において、補機停止予測手段は、第1変速機構において変速段の係合動作が行われる場合に、補機の作動の停止を予測するものとすることができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両において、第1変速機構は、最も減速比の大きい前進用の変速段である第1速ギア段を含み、制御手段は、車両停止中において、第1変速機構の変速段を全て解放状態にするものであり、補機停止予測手段は、第1速ギア段の係合動作が行われる場合に、補機の作動の停止を予測するものとすることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両において、前記補機は、作動することによりエアコンディショナに圧縮した冷媒を吐出して供給し、且つ前記ロータの1回転あたりの冷媒の吐出量であるコンプレッサ容量を変化可能な可変容量式のA/Cコンプレッサであり、制御手段は、A/Cコンプレッサの作動の停止を予測した場合、A/Cコンプレッサの作動が停止する前に、A/Cコンプレッサのコンプレッサ容量を、予測した時点に比べて増大させるものとすることができる。
【0012】
また、本発明に係るハイブリッド車両は、原動機として内燃機関と電気モータを有し、当該電気モータのロータが所定の方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機と、当該補機の出力を制御可能な制御手段と、を備えたハイブリッド車両であって、制御手段は、ハイブリッド車両の運転状態に基づいて、補機の作動の停止を予測する補機停止予測手段を含み、補機の作動の停止を予測した場合、補機の作動が停止する前において、当該補機の出力を、予測した時点に比べて増大させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御手段は、ハイブリッド車両の運転状態に基づいて、補機の作動の停止を予測する補機停止予測手段を含み、補機の作動の停止を予測した場合、当該補機の作動が停止する前に、当該補機の出力を予測した時点に比べて増大させることで、その後、電気モータのロータの回転が一時的に停止して、補機の作動が停止しても、予めなされた補機の出力により、車両の乗員に不快感を与えることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態(以下、実施形態と記す)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
まず、本実施形態に係る制御技術が適用されるハイブリッド車両の構成について、図1〜図5を用いて説明する。図1は、ハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。図2は、ハイブリッド車両が有するデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。図3は、変形例のデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。図4は、ハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行する補機制御を示すフローチャートである。図5は、ハイブリッド車両の制御手段(ECU)が補機制御を実行する場合のハイブリッド車両の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【0016】
ハイブリッド車両1は、駆動輪88を回転駆動するための原動機(動力源)として、内燃機関5と、電気モータ50とを備えている。電気モータ50は、デュアルクラッチ式変速機10と共に駆動装置(10,50)を構成している。駆動装置(10,50)は、内燃機関5と結合されて、ハイブリッド車両1に搭載される。ハイブリッド車両1には、内燃機関5及び電気モータ50と、デュアルクラッチ式変速機10と、A/Cコンプレッサ90とを協調して制御する制御手段として、車両用の電子制御装置(以下、ECUと記す)100が設けられている。ECU100には、各種制御定数を記憶する記憶手段としてROM(図示せず)が設けられている。
【0017】
内燃機関5は、燃料のエネルギを燃焼により機械的動力に変換して出力する熱機関であり、ピストン6がシリンダ内を往復運動するピストン往復動機関である。内燃機関5は、図示しない燃料噴射装置、点火装置、及びスロットル弁装置を備えている。これら装置は、ECU100により制御される。内燃機関5は、発生した機械的動力を、機関出力軸(クランク軸)8から出力する。機関出力軸8には、後述するデュアルクラッチ式変速機10のデュアルクラッチ機構20の入力側、例えば、クラッチハウジング14a(図2参照)が結合される。ECU100は、内燃機関5の機関出力軸8から出力する機械的動力を調整することが可能となっている。内燃機関5には、機関出力軸8の回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサ(図示せず)が設けられており、クランク角に係る信号をECU100に送出している。内燃機関5の作動により機関出力軸8に生じるトルク(以下、機関トルクと記す)は、ECU100により制御される。
【0018】
電気モータ50は、供給された電力を機械的動力に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換して回収する発電機としての機能とを兼ね備えた回転電機、いわゆるモータジェネレータである。電気モータ50は、永久磁石型交流同期電動機で構成されており、後述するインバータ110から三相の交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するステータ54と、回転磁界に引き付けられて回転する回転子であるロータ52とを有しており、当該ロータ52から機械的動力を入出力可能となっている。電気モータ50には、ロータ52の回転角位置を検出するレゾルバ(図示せず)が設けられており、ロータ52の回転角位置に係る信号をECU100に送出している。
【0019】
また、ハイブリッド車両1には、電気モータ50に電力を供給する電力供給装置として、インバータ110と二次電池120が設けられている。インバータ110は、二次電池120から供給される直流電力を交流電力に変換して電気モータ50に供給することが可能に構成されている。また、インバータ110は、電気モータ50からの交流電力を直流電力に変換して二次電池120に回収することも可能に構成されている。このようなインバータ110から電気モータ50への電力供給、及び電気モータ50からの電力回収は、ECU100により制御される。
【0020】
なお、以下の説明において、電気モータ50を電動機として機能させて、電気モータ50がロータ52から機械的動力を出力することを「力行」と記す。これに対して、電気モータ50を発電機として機能させて、駆動輪88から電気モータ50のロータ52に伝達された機械的動力を電力に変換して二次電池120に回収すると共に、このときロータ52に生じる回転抵抗により、ロータ52及びこれに係合する部材(例えば、駆動輪88)の回転を制動することを「回生制動」と記す。電気モータ50の電動機/発電機としての機能の切替えと、電気モータ50においてロータ52から入力又は出力されるトルク(以下、モータトルクと記す)は、ECU100により制御される。
【0021】
また、ハイブリッド車両1は、内燃機関5及び電気モータ50からの機械的動力を駆動輪88に伝達する動力伝達装置として、機関出力軸8及び電気モータ50からの機械的動力を変速しトルクを変化させて、駆動輪88に係合する推進軸66に向けて伝達可能なデュアルクラッチ式変速機10と、推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70とを有している。
【0022】
デュアルクラッチ式変速機10は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1群の変速段31,33,35のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に係合する推進軸66に伝達可能な第1変速機構30と、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に係合する推進軸66に伝達可能な第2変速機構40とを有しており、加えて、内燃機関5の機関出力軸8と第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22とにより構成されるデュアルクラッチ機構20を有している。
【0023】
デュアルクラッチ式変速機10は、前進用に第1速ギア段31から第5速ギア段35までの5つの変速段を有しており、後進用に1つの変速段、後進ギア段49を有している。第1速〜第5速ギア段31〜44の減速比は、第1速ギア段31、第2速ギア段42、第3速ギア段33、第4速ギア段44、第5速ギア段35の順に小さくなるよう設定されている。
【0024】
第1変速機構30は、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第1群の変速段は、奇数段すなわち第1速ギア段31と、第3速ギア段33と、第5速ギア段35により構成されている。第1変速機構30において変速段31,33,35のうち、第1速ギア段31が、最も減速比が大きい、即ち低速側の変速段となっている。第1変速機構30の入力軸である第1入力軸27には、電気モータ50のロータ52が、後述する減速機構56を介して係合している。
【0025】
第1速ギア段31は、第1入力軸27に結合されている第1速メインギア31aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第1速メインギア31aと噛み合う第1速カウンタギア31cとを有している。第1変速機構30には、第1速ギア段31に対応して、第1速カウンタギア31cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第1速カップリング機構31eが設けられている。第1速カップリング機構31eにより第1速カウンタギア31cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第1速ギア段31を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1速ギア段31により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0026】
同様に、第3速ギア段33は、第1入力軸27に結合されている第3速メインギア33aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第3速メインギア33aと噛み合う第3速カウンタギア33cとを有している。第1変速機構30には、第3速ギア段33に対応して、第3速カウンタギア33cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第3速カップリング機構33eが設けられている。第3速カップリング機構33eにより第3速カウンタギア33cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第3速ギア段33を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第3速ギア段33により変速し、トルクを変化させて第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0027】
また、第5速ギア段35は、第1入力軸27に結合されている第5速メインギア35aと、第1出力軸37を中心に回転可能に設けられ、第5速メインギア35aと噛み合う第5速カウンタギア35cとを有している。第1変速機構30には、第5速ギア段35に対応して、第5速カウンタギア35cと第1出力軸37とを係合させることが可能な第5速カップリング機構35eが設けられている。第5速カップリング機構35eにより第5速カウンタギア35cと第1出力軸37を係合させる、すなわち第5速ギア段35を係合状態にすることで、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第5速ギア段35により変速し、トルクを変化させて、第1出力軸37に伝達することが可能となっている。
【0028】
第1変速機構30の第1出力軸37には、第1駆動ギア37cが結合されており、当該第1駆動ギア37cは、動力統合ギア58と噛み合っている。動力統合ギア58には、推進軸66が結合されている。推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88が結合された駆動軸80と係合している。つまり、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35の出力側にある第1出力軸37と、駆動輪88は係合している。
【0029】
第1変速機構30における各変速段31,33,35の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35のうちいずれか1つを選択して係合状態にすることで、第1変速機構30が第1入力軸27で受けた機械的動力を、選択されて係合状態にある変速段により変速し、第1出力軸37から駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第1変速機構30は、減速比がそれぞれ異なる第1群の変速段31,33,35のうちいずれか1つの変速段により、電気モータ50のロータ52に係合する第1入力軸27と駆動輪88とを係合させることが可能なものとなっている。
【0030】
一方、第2変速機構40は、第1変速機構30と同様に、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、第2群の変速段は、偶数段すなわち第2速ギア段42及び第4速ギア段44と、後進用の変速段である後進ギア段49から構成されている。第2変速機構40において、変速段42,44のうち、第2速ギア段42が、最も減速比が大きい、即ち低速側の変速段となっている。
【0031】
第2速ギア段42は、第2入力軸28に結合されている第2速メインギア42aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第2速メインギア42aと噛み合う第2速カウンタギア42cとを有している。第2変速機構40には、第2速ギア段42に対応して、第2速カウンタギア42cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第2速カップリング機構42eが設けられている。第2速カップリング機構42eにより第2速カウンタギア42cと第2出力軸48とを係合させる、すなわち第2速ギア段42を係合状態にすることで、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2速ギア段42により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0032】
同様に、第4速ギア段44は、第2入力軸28に結合されている第4速メインギア44aと、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられ、第4速メインギア44aと噛み合う第4速カウンタギア44cとを有している。第2変速機構40には、第4速ギア段44に対応して、第4速カウンタギア44cと第2出力軸48とを係合させることが可能な第4速カップリング機構44eが設けられている。第4速カップリング機構44eにより第4速カウンタギア44cと第2出力軸48とを係合させる、すなわち第4速ギア段44を係合状態にすることで、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第4速ギア段44により変速し、トルクを変化させて、第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0033】
また、後進ギア段49は、第2入力軸28に結合されている後進メインギア49aと、後進メインギア49aと噛み合う後進中間ギア49bと、後進中間ギア49bと噛み合い、第2出力軸48を中心に回転可能に設けられた後進カウンタギア49cとを有している。第2変速機構40には、後進ギア段49に対応して、後進カウンタギア49cと第2出力軸48とを係合させることが可能な後進カップリング機構49eが設けられている。後進カップリング機構49eにより後進カウンタギア49cと第2出力軸48とを係合させる、すなわち後進ギア段49を係合状態にすることで、第2変速機構40は、第2入力軸28から受けた機械的動力を、後進ギア段49により、回転方向を逆方向に変えると共に変速し、トルクを変化させて第2出力軸48に伝達することが可能となっている。
【0034】
第2変速機構40の第2出力軸48には、第2駆動ギア48cが結合されており、当該第2駆動ギア48cは、動力統合ギア58と噛み合っている。動力統合ギア58には、推進軸66が結合されており、推進軸66は、後述する終減速装置70を介して、駆動輪88に結合された駆動軸80と係合している。つまり、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,49の出力側を構成する第2出力軸48と、駆動輪88は係合している。
【0035】
第2変速機構40における各変速段42,44,49の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つの変速段を選択して係合状態にすることで、第2変速機構40が第2入力軸28で受けた機械的動力を、選択されて係合状態にある変速段により変速し、第2出力軸48から駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第2変速機構40は、減速比がそれぞれ異なる第2群の変速段42,44,49のうちいずれか1つの変速段により、第2入力軸28と駆動輪88とを係合させることが可能なものとなっている。
【0036】
デュアルクラッチ機構20は、内燃機関5の機関出力軸8と第1変速機構30の第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、内燃機関5の機関出力軸8と第2変速機構40の第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22とを有している。第1クラッチ21及び第2クラッチ22は、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等の摩擦式ディスククラッチ装置で構成される。
【0037】
第1クラッチ21が係合状態となることで、機関出力軸8と第1入力軸27が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第1変速機構30の変速段31,33,35のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第1クラッチ21は、第1変速機構30の第1群の変速段31,33,35に対応して設けられている。
【0038】
一方、第2クラッチ22を係合状態にすることで、機関出力軸8と第2入力軸28が一体に回転して、機関出力軸8からの機械的動力を、第2変速機構40の変速段42,44,49のうちいずれか1つにより変速して駆動輪88に向けて伝達することが可能となっている。つまり、第2クラッチ22は、第2変速機構40の第2群の変速段42,44,49に対応して設けられている。
【0039】
第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合状態と解放状態(非係合状態)との切替えは、図示しないアクチュエータを介してECU100により制御される。ECU100は、デュアルクラッチ機構20において、第1クラッチ21又は第2クラッチ22のうちいずれか一方を係合状態にして、他方を解放状態にすることで、内燃機関5からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうちいずれか一方に伝達させることが可能となっている。
【0040】
ここで、デュアルクラッチ機構20の詳細な構造の一例について図2を用いて説明する。図2に示すように、デュアルクラッチ機構20において、機関出力軸8には、図示しないダンパ等を介してデュアルクラッチ機構20のクラッチハウジング14aが結合されている。すなわち、クラッチハウジング14aは、機関出力軸8と一体に回転する。クラッチハウジング14aは、摩擦板(クラッチディスク)27a,28aを収容可能に構成されている。
【0041】
これに対して、第1変速機構30の第1入力軸27と、第2変速機構40の第2入力軸28は、同軸に配置されており、2重軸構造となっている。具体的には、第2入力軸28は、中空シャフトとして構成されており、第2入力軸28内には、第1入力軸27が延びている。内側の軸である第1入力軸27は、外側の軸である第2入力軸28に比べて軸方向に長く構成されている。機関出力軸8側から駆動輪88側に向かうに従って、まず、第2変速機構40の各変速段のメインギア42a,44a,49aが配設されており、第1変速機構30の各変速段のメインギア31a,33a,35aが配設されている。
【0042】
第1入力軸27の端には、円板状の摩擦板27aが結合されており、一方、第2入力軸28の端にも、同様の摩擦板28aが結合されている。第1クラッチ21は、摩擦板27aと対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)と、摩擦相手板を駆動するアクチュエータ(図示せず)とを有している。摩擦相手板が摩擦板27aをクラッチハウジング14aに結合された部材に押し付けることで、第1クラッチ21は、機関出力軸8と、第1変速機構30の第1入力軸27とを係合することが可能となっている。
【0043】
これと同様に、第2クラッチ22は、摩擦板28aに対向して設けられた摩擦相手板(図示せず)が、摩擦板28aをクラッチハウジング14aに結合された部材に押し付けることで、機関出力軸8と、第2変速機構40の第2入力軸28とを係合することが可能となっている。デュアルクラッチ機構20における、第1及び第2クラッチ21,22にそれぞれ対応して設けられた摩擦相手板のアクチュエータによる駆動は、ECU100により制御される。
【0044】
なお、上述のデュアルクラッチ機構20の詳細な構造において、第1変速機構30の第1入力軸27と第2変速機構40の第2入力軸28は同軸に配置されるものとしたが、デュアルクラッチ機構20の詳細な構造は、これに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、第1入力軸27と第2入力軸28は、所定の間隔を空けて平行に延びるよう配置されるものとしても良い。この変形例のデュアルクラッチ機構20においては、機関出力軸8の端に、駆動ギア14cが結合されている。駆動ギア14cには、第1ギア16と、第2ギア18が噛み合っており、第1ギア16は、第1クラッチ21に結合されており、第2ギア18は、第2クラッチ22に結合されている。第1クラッチ21は、第1変速機構30の第1入力軸27と、機関出力軸8に係合する第1ギア16とを係合させることが可能に構成されている。一方、第2クラッチ22は、第2変速機構40の第2入力軸28と、機関出力軸8に係合する第2ギア18とを係合させることが可能に構成されている。
【0045】
第1及び第2クラッチ21,22は、それぞれ摩擦式クラッチ等の任意のクラッチ機構で構成することができる。第1クラッチ21及び第2クラッチ22において交互に係合状態と解放状態を切替ることで、機関出力軸8から出力される内燃機関5の機械的動力は、駆動ギア14cから、第1変速機構30の第1入力軸27、又は第2変速機構40の第2入力軸28のいずれかに伝達されることとなる。
【0046】
また、ハイブリッド車両1には、原動機から推進軸66に伝達された機械的動力を、減速すると共に、駆動輪88に係合する左右の駆動軸80に分配する終減速装置70が設けられている。終減速装置70は、推進軸66に結合された駆動ピニオン68と、駆動ピニオン68とリングギア72が直交して噛み合う差動機構74とを有している。終減速装置70は、原動機すなわち内燃機関5及び電気モータ50のうち少なくとも一方から推進軸66に伝達された機械的動力を、駆動ピニオン68及びリングギア72により減速し、差動機構74により左右の駆動軸80に分配して、駆動軸80に結合されている駆動輪88に伝達することで、当該駆動輪88の接地面に、ハイブリッド車両1を駆動する駆動力[N]を生じさせることが可能となっている。
【0047】
また、ハイブリッド車両1には、駆動輪88の回転速度を検出する車輪速センサ(図示せず)が設けられており、検出した駆動輪88の回転速度に係る信号をECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、電気モータ50に電力を供給する二次電池120の蓄電状態(state-of-charge:SOC)を検出する電池監視ユニット(図示せず)が設けられており、検出した二次電池120の蓄電状態に係る信号を、ECU100に送出している。
【0048】
電気モータ50のロータ52は、減速機構56を介して第1変速機構30の第1入力軸27に係合している。減速機構56は、第1入力軸27に結合されているメインギア56aと、モータ軸56eに結合され、メインギア56aと噛み合うカウンタギア56cとを有している。モータ軸56eは、ロータ52に結合されている。減速機構56は、電気モータ50のロータ52から出力されてカウンタギア56cに伝達された機械的動力を、回転速度を減速し、トルクを増大させて、メインギア56aから第1入力軸27に伝達する。このように、デュアルクラッチ式変速機10を構成する第1変速機構30及び第2変速機構40にそれぞれ対応して設けられた第1入力軸27及び第2入力軸28のうち、第1入力軸27には、電気モータ50のロータ52が係合している。
【0049】
また、本実施形態において、第1変速機構30の第1入力軸27には、減速機構56を介して電気モータ50のロータ52が係合しているものとしたが、本発明が適用可能なハイブリッド車両の態様は、これに限定されるものではない。第1入力軸27と、電気モータ50のロータ52が係合していれば良く、例えば、第1入力軸27に電気モータ50のロータ52が結合されているものとしても良い。
【0050】
また、ハイブリッド車両1には、外部からの機械的動力を受けて作動する被駆動機械(以下、補機と記す)として、図示しないエアコンディショナにおいて冷媒を圧縮するエアコンディショナ用のコンプレッサ(以下、A/Cコンプレッサと記す)90が設けられている。A/Cコンプレッサ90は、ロータ52からの機械的動力を受けて作動することにより、図示しないエバポレータから吸入した冷媒を圧縮してコンデンサー(図示せず)に向けて吐出する。
【0051】
A/Cコンプレッサ90は、電気モータ50の力行の有無に拘らず、ロータ52が「正方向」に回転している場合、ロータ52から伝達される機械的動力を受けて作動することが可能となる。なお、「正方向」とは、第1及び第2変速機構30,40の前進用の変速段31〜44により、ロータ52と駆動輪88を係合させた場合に、車両1が前進するよう駆動輪88が回転するロータ52の回転方向(向き)である。これに対して、ロータ52が「逆方向」に回転している場合や、回転していない(静止している)場合、A/Cコンプレッサ90は、その作動を停止して非作動状態となる。つまり、A/Cコンプレッサ90は、電気モータ50のロータ52が、所定の「正方向」に回転している場合に、作動することとなる。
【0052】
A/Cコンプレッサ90は、連続可変容量式のコンプレッサであり、ロータ52の1回転あたりの冷媒の吐出量(以下、コンプレッサ容量と記す)を連続的に変化させることが可能に構成されている。A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量、すなわち補機の出力(仕事率)は、ECU100により制御可能となっている。A/Cコンプレッサ90は、ロータ52が同一の回転速度で回転している場合、ECU100によりコンプレッサ容量を大きく制御するに従って、時間あたりの冷媒の吐出量が増大して、A/C冷却能力が増大する。
【0053】
また、ハイブリッド車両1には、運転者が、エアコンディショナの冷房装置として作動を選択するため、ECU100にA/Cコンプレッサ90の作動を要求するスイッチ(以下、「A/Cスイッチ」と記す)94が設けられている。A/Cスイッチ94は、車室内のインスツルメントパネル等、運転者により操作可能な場所に設けられており、運転者の操作により、オン(ON)状態と、オフ(OFF)状態とを切替可能に構成されている。A/Cスイッチ94は、オン/オフ状態に係る信号を、ECU100に送出している。
【0054】
また、ハイブリッド車両1には、運転者に対して、エアコンディショナの冷房装置としての作動を告知するランプ(以下、「A/Cランプ」と記す)96が設けられている。A/Cランプ96は、基本的に、エアコンディショナが冷房装置として作動している場合に点灯して、その作動を運転者に認識させることが可能となっている。A/Cランプ96の点灯/消灯は、ECU100により制御される。
【0055】
また、ハイブリッド車両1には、運転者により操作されるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ(図示せず)が設けられており、検出したアクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量と記す)に係る信号を、ECU100に送出している。また、ハイブリッド車両1には、運転者により操作されたブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルストロークセンサ(図示せず)が設けられており、検出したブレーキペダルの操作量(以下、ブレーキ操作量と記す)に係る信号を、ECU100に送出している。
【0056】
また、ハイブリッド車両1には、運転者により選択された走行レンジを検出するシフトポジションセンサ(図示せず)が設けられている。走行レンジには、主に駐車時に用いられデュアルクラッチ式変速機10を機械的にロックして駆動輪88が回転しない状態にするPレンジと、デュアルクラッチ式変速機10において後進の変速段49を選択して車両1の後進走行を可能にするRレンジと、デュアルクラッチ式変速機10を中立状態すなわち内燃機関5及び電気モータ50からの機械的動力を駆動輪88に伝達させない状態にするNレンジと、デュアルクラッチ式変速機10において前進の変速段31,33,35,42,44を選択させて車両1の前進走行を可能にするDレンジなどがある。シフトポジションセンサは、運転者により選択された走行レンジに係る信号をECU100に送出している。
【0057】
以上のように構成されたハイブリッド車両1において、ECU100は、第1変速機構30及び第2変速機構40における各変速段の係合/解放状態と、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態とを検出している。また、ECU100は、クランク角センサ(図示せず)からの機関出力軸8の回転角位置(クランク角)に係る信号を検出しており、レゾルバからの電気モータ50のロータ52の回転角位置に係る信号を検出している。また、ECU100は、車輪速センサ(図示せず)からの駆動輪88の回転速度に係る信号と、アクセルペダルポジションセンサ(図示せず)からのアクセル操作量に係る信号と、ブレーキペダルストロークセンサ(図示せず)からのブレーキ操作量に係る信号と、シフトポジションセンサからの走行レンジに係る信号と、電池監視ユニット(図示せず)からの二次電池120のSOCに係る信号を検出している。また、ECU100は、A/Cスイッチ94のオン/オフ状態に係る信号を検出している。
【0058】
これら信号に基づいて、ECU100は、各種の制御変数を算出して推定している。ECU100は、制御変数には、内燃機関5の機関出力軸8の回転速度(以下、機関回転速度と記す)と、内燃機関5が機関出力軸8から出力するトルク(以下、機関トルクと記す)とを推定しており、当該機関回転速度及び機関トルクに基づいて内燃機関5が機関出力軸8から出力する機械的動力(以下、機関出力と記す)を制御変数として推定している。また、ECU100は、電気モータ50のロータ52の回転速度(以下、モータ回転速度と記す)と、電気モータ50のロータ52に生じるトルク(以下、モータトルクと記す)を推定しており、当該モータ回転速度及びモータトルクに基づいて電気モータ50がロータ52から出力する機械的動力(以下、モータ出力と記す)を推定している。
【0059】
加えて、ECU100は、上述の信号に基づいて、ハイブリッド車両1の走行速度(以下、車速と記す)と、二次電池120のSOCと、インバータ110を介して電気モータ50と二次電池120との間において授受される充放電電力と、運転者により操作されたブレーキ操作量及びアクセル操作量とを推定している。また、ECU100は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態と、第1変速機構30及び第2変速機構40における各変速段31〜49の係合/解放状態と、運転者により選択された走行レンジとを判別している。
【0060】
これら制御変数に基づいて、ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態を制御することが可能となっている。当該「運転状態」には、ブレーキ操作量、アクセル操作量、及び走行レンジに加え、車速と、二次電池120のSOCと、内燃機関5の運転状態(機関回転速度及び機関トルク)と、電気モータ50の運転状態(モータ回転速度及びモータトルク)と、第1及び第2クラッチ21,22の係合/解放状態と、及び第1及び第2変速機構30,40の各変速段31〜49の係合/解放状態と、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量(すなわち補機の出力)等が含まれている。また、ECU100は、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量と、A/Cランプ96の点灯/消灯とを協調して制御することが可能となっている。
【0061】
なお、以下の説明において、内燃機関5からの機械的動力を変速して駆動輪88に向けて伝達する変速段を「機関出力変速段」と記す。また、ハイブリッド車両1の運転状態を、ある状態から他の状態に遷移させるために、ECU100が実行する制御を「運転状態遷移制御」と記す。加えて、運転状態を遷移させる際に、内燃機関5、電気モータ50、デュアルクラッチ式変速機10、及びA/Cコンプレッサ90において行われる動作を、以下に「運転状態遷移動作」と記す。
【0062】
このように構成されたハイブリッド車両1は、第1クラッチ21及び第2クラッチ22を交互に係合状態にすることで、内燃機関5の機関出力軸8からの機械的動力(機関出力)を変速して駆動輪88に向けて伝達する変速段(機関出力変速段)を、第1変速機構30の変速段31,33,35と、第2変速機構40の変速段42,44,49との間で切替えるときに、機関出力軸8から駆動輪88への動力伝達に途切れが生じることを抑制することが可能となっている。
【0063】
また、ハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50とを併用又は選択使用することで、様々な車両走行(走行モード)を実現することができる。例えば、内燃機関5の機関出力軸8から出力される機関出力のみを駆動輪88に伝達して駆動力を生じさせる車両走行である「エンジン走行」と、内燃機関5の機関出力軸8から出力される機関出力と、電気モータ50のロータ52から出力されるモータ出力とを統合して駆動輪88に伝達することで駆動力を生じさせる車両走行である「HV走行」、電気モータ50のロータ52から出力されるモータ出力のみを駆動輪88に伝達して駆動力を生じさせる車両走行である「EV走行」等がある。これら車両走行は、運転者が要求する車両駆動力や、電気モータ50に供給する電力を貯蔵する二次電池120の蓄電状態に応じて、ECU100により、逐次、自動的に切替えられる。
【0064】
ハイブリッド車両1がEV走行やHV走行を行っている場合、電気モータ50のロータ52は、車速に比例した回転速度で回転しており、(A/Cスイッチ94がオン状態である場合)A/Cコンプレッサ90は、作動することができる。また、ハイブリッド車両1がエンジン走行を行っている場合、機関出力変速段が、第1変速機構30の変速段31,33,35である場合はもちろん、第2変速機構40の前進用の変速段42,44である場合にも、第1変速機構30において、いずれか1つの変速段が係合状態にある場合には、第1入力軸27は、前進方向に回転しており、第1入力軸27に係合するロータ52は、正方向に回転しており、A/Cコンプレッサ90を、作動させることができる。このように、ハイブリッド車両1が、前進して走行している場合(以下、車両前進走行中と記す)には、第1クラッチ21が解放状態であり且つ第1変速機構30の変速段31,33,35が全て解放状態となっている場合を除いて、A/Cコンプレッサ90を、作動させることができる。
【0065】
一方、ハイブリッド車両1が停止している場合(以下、車両停止中と記す)においては、第1変速機構30の変速段31,33,35を全て解放状態にすると共に、第1クラッチ21を解放状態にすることで、電気モータ50のロータ52を機関出力軸8及び駆動輪88が静止した状態で、ロータ52及び第1入力軸27は回転可能となり、電気モータ50によりA/Cコンプレッサ90を駆動して作動させることが可能となる。
【0066】
このように電気モータ50のロータ52から伝達される機械的動力を受けて作動する補機(A/Cコンプレッサ90)を備えたハイブリッド車両1においては、上述の運転状態遷移制御及び運転状態遷移動作が行われている間に、ロータ52の回転が止まる、又は「逆方向」に回転することがある。例えば、車両停止中において、内燃機関5を非作動状態にすると共に、電気モータ50によりA/Cコンプレッサ90を駆動して、当該A/Cコンプレッサ90を作動させる運転状態(以下、「停車中A/C作動状態」と記す)から、ハイブリッド車両1をEV走行により発進させて当該EV走行を行いながらA/Cコンプレッサ90を作動させる運転状態(以下、「EV走行中A/C作動状態」と記す)に、ハイブリッド車両1の運転状態を遷移させる場合がある。
【0067】
このように運転状態遷移制御、及びその動作を行っている間に、電気モータ50のロータ52の回転が一時的に停止すると、A/Cコンプレッサ90の作動が停止して、圧縮した冷媒をエアコンディショナに供給することができなくなり、A/Cコンプレッサ90の作動の停止に応じて、A/C冷却能力が低下してハイブリッド車両1の乗員に不快感を与える虞がある。
【0068】
そこで、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、制御手段としてのECU100は、補機としてのA/Cコンプレッサ90の作動が停止するか否かを予測して判定する機能を含み、A/Cコンプレッサ90の作動が停止すると予測した場合、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する前に、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量(補機の出力)を、それまでに比べて増大させており、以下に図1、図4及び図5を用いて説明する。
【0069】
図4は、ハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するA/Cコンプレッサ容量制御を示すフローチャートである。図5は、制御手段(ECU)によりA/Cコンプレッサ容量制御を行う場合のハイブリッド車両の動作の一例を示すタイミングチャートである。なお、以下の説明において、一例として図5に示すように、上述の停車中A/C作動状態から、EV走行中A/C作動状態に、ハイブリッド車両1の運転状態を遷移させる運転状態遷移制御、及びその作動を行う場合について説明する。
【0070】
図4に示すように、ECU100は、ステップS100において、各種の制御変数を取得する。制御変数には、A/Cスイッチ94のオン/オフ状態と、内燃機関5の運転状態を示す機関回転速度及び機関トルクと、電気モータ50の運転状態を示すモータ回転速度及びモータトルクと、ハイブリッド車両1の車速と、運転者により操作されたブレーキ操作量及びアクセル操作量と、運転者により選択された走行レンジと、二次電池120のSOCと、第1クラッチ21及び第2クラッチ22の係合/解放状態と、第1変速機構30及び第2変速機構40における各変速段31〜49の係合/解放状態等が含まれている。
【0071】
時点t1以前に示すように、ハイブリッド車両1の運転状態が、停車中A/C作動状態にある場合、電気モータ50のロータ52が駆動輪88及び機関出力軸8に係合しない状態を作り出すため、ECU100は、第1クラッチ21を解放状態にすると共に、第1変速機構30の変速段31,33,35を全て解放状態にしている。さらに、ECU100は、モータ回転速度(すなわちA/Cコンプレッサ90の回転速度)が、所定の回転速度Nmとなるように、電気モータ50を力行させて、A/Cコンプレッサ90を駆動している。
【0072】
なお、このとき、運転者により、A/Cスイッチ94は、オン状態に操作されており、走行レンジは、Dレンジが選択されている。加えて、運転者により操作されて、アクセル操作量はゼロとなっており、且つブレーキ操作量は、車両停止に必要な値となっている。
【0073】
そして、ステップS102において、ECU100は、エアコンディショナ(A/C)が使用中であるか否かを判定する。具体的には、運転者により操作されたA/Cスイッチ94がオン状態である場合に、ECU100は、A/C使用中であると判定する。A/C使用中ではない(No)と判定した場合、ステップS100に戻る。
【0074】
一方、A/C使用中である(S102:Yes)と判定した場合、ECU100は、ステップS104において、A/Cコンプレッサ90の作動が、現時点(図5の時点t1参照)から所定の期間内に停止するか否かを予測(判定)する。詳細には、ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態を遷移させる運転状態遷移動作を行うことにより、A/Cコンプレッサ90の作動が停止するか否かを予測する。
【0075】
A/Cコンプレッサ90の作動が停止しない(S104:No)と予測した場合、ECU100は、ステップS118において、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を、予め設定された通常値Vac_cとなるよう制御する「コンプレッサ容量通常制御」を行う。後述するコンプレッサ容量増大制御を行わない場合、ECU100は、コンプレッサ容量を、当該通常値Vac_cに設定してA/Cコンプレッサ90を制御する。
【0076】
一方、A/Cコンプレッサ90の作動が、停止すると予測される場合には、例えば、図5に示すように、ハイブリッド車両1の運転状態が「停車中A/C作動状態」にある場合において、且つブレーキ操作量がゼロとなった場合やアクセル操作量がゼロから増大した場合など運転者による車両発進の意図がある場合、ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態を「停車中A/C作動状態」から「EV走行中A/C作動状態」に遷移させる運転状態遷移制御を開始して、電気モータ50及びデュアルクラッチ式変速機10に運転状態遷移動作を行わせる。
【0077】
この運転状態遷移動作には、ハイブリッド車両1をEV走行で発進させるために、全て解放状態にある第1変速機構30の変速段31,33,35のうちいずれか1つを係合状態にする係合動作と、当該係合動作を行うために、A/Cコンプレッサ90の作動のため回転しているロータ52及び第1入力軸27が一旦静止するよう、電気モータ50の回転速度をゼロまで低下させる動作が含まれている。
【0078】
このように、車両停止中において、第1変速機構30の変速段31,33,35の係合/解放動作を行うために電気モータ50のロータ52を静止させることが必要となる場合など、運転状態遷移動作にロータ52の回転速度がゼロ以下となる動作が含まれている場合に、ECU100は、ステップS104において、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する(Yes)ものと判定する。なお、前進用の変速段31,33,35,42,44を用いてハイブリッド車両1を後進させる場合など、ロータ52を「逆方向」に回転させることが必要となる場合においても、ECU100は、A/Cコンプレッサ90の作動が停止するものと判定することができる。
【0079】
A/Cコンプレッサ90の作動が停止する(S104:Yes)と予測した場合、ステップS106において、ECU100は、運転状態遷移動作を開始する時点t2から、運転状態遷移動作を完了する時点t4までの一連の動作に必要な時間(以下、運転状態遷移時間と記す)Tacを推定する。運転状態遷移時間Tacは、下記の式(1)により求めることができる。
Tac=T1+T2+T3+T4+T5+T6 ・・・(1)
当該式(1)において、
T1は、第1入力軸27の回転速度及び第1入力軸27に作用するトルクを調整するのに必要な時間、すなわち電気モータ50のモータ回転速度及びモータトルクの調整に要する時間である。
T2は、第1変速機構30において変速段の係合動作を行うのに必要な時間である。
T3は、第1変速機構30において変速段の解放動作を行うのに必要な時間である。
T4は、第1クラッチ21の係合動作を行うのに必要な時間である。
T5は、第1クラッチ21の解放動作を行うのに必要な時間である。
T6は、非作動状態にある内燃機関5を始動するのに必要な時間である。
【0080】
図5に示すように、ハイブリッド車両1の運転状態を、停車中A/C作動状態(時点t3以前)からEV走行中A/C作動状態(時点t4以降)に遷移させる場合、運転状態遷移時間Tacには、モータ回転速度をゼロまで低下させる時間T1と、第1変速機構30において解放状態にある第1速ギア段31を係合状態にする係合動作を行う時間T2が含まれることとなる。この場合、運転状態遷移時間Tac=T1+T2となる。
【0081】
そして、ステップS108において、ECU100は、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する(時点t3)前に、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を一時的に(時点t1から)増大させるにあたって、通常値に設定されている現在(時点t1)のコンプレッサ容量Vac_cからの増大分であるコンプレッサ容量増大分ΔVacを予め設定する。コンプレッサ容量増大分ΔVacは、下記の式(2)により求めることができる。
ΔVac=Vac_c×Tac/Tc ・・・(2)
【0082】
当該式(2)において、
Tcは、A/Cコンプレッサ90の作動の停止が予測された時点、即ちコンプレッサ容量の増大を開始する時点(時点t1)から、上述の運転状態遷移動作が開始される時点、即ちモータ回転速度の低下(調整)が開始される時点t2までの時間長さである。
【0083】
この時間Tcは、ハイブリッド車両1の運転状態や、運転者による操作から予測することができる。例えば、車両停止中においては、運転者によるブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え操作に要する時間であり、当該踏み替え操作時間は、ECU100が、予め運転者の踏み替え操作を学習して、制御変数として記憶しておくことで取得することができる。また、車両加速走行中においては、現在の加速走行状態から、変速段の切替えが行われる車速に到達するまでの到達時間とすることができる。
【0084】
そして、ステップS110において、ECU100は、コンプレッサ容量を現在値Vac_cから、コンプレッサ容量増大分ΔVacを加えた値に増大させる「コンプレッサ容量増大制御」を行う。ECU100は、運転状態遷移動作が開始される時点t2より、上述の時間Tc前の時点t1からコンプレッサ容量の増大を開始する。これにより、図5に示すように、時点t1からモータ回転速度がゼロとなる時点t3より前において、A/C冷却能力が、時点t1以前の値Cac_cから増大する。
【0085】
そして、ステップS112において、ECU100は、電気モータ50のロータ52が正方向に回転しなくなる運転状態遷移動作を開始させる制御指示、すなわちA/Cコンプレッサ90の作動が停止するような制御指示が、実際にあるか否かを判定する。具体的には、運転状態遷移制御から、第1変速機構30において変速段の係合/解放動作を行わせるために、電気モータ50のモータ回転速度をNmからゼロまで低下させる制御指示があるか否かを判定する。この制御指示がない(S112:No)場合、ステップS118に進み、ECU100は、コンプレッサ容量が、予め設定された通常値となるよう制御する「コンプレッサ容量通常制御」を行う。すなわち、上述のコンプレッサ容量増大制御(S110)において増大させたコンプレッサ容量を、通常値Vac_cに戻す。
【0086】
一方、A/Cコンプレッサ90の作動が停止するような制御指示がある(Yes)場合、ステップS114において、図5に時点t3〜t4に示すように、モータ回転速度がゼロとなり、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する、すなわちA/C冷却能力がゼロとなって、エアコンディショナが一時的にオフ状態(A/C OFF)となる。このとき、ECU100は、A/Cスイッチ94がオン状態であれば、エアコンディショナが一時的にオフ状態となっていても、A/Cランプ96の点灯をそのまま継続させる。
【0087】
そして、ステップS116において、ECU100は、電気モータ50のロータ52が正方向に回転するような制御指示、すなわちA/Cコンプレッサ90が作動可能となる制御指示があるか否かを判定する。具体的には、上述の運転状態遷移動作のうち第1変速機構30の第1速ギア段31の係合動作が完了したか否かを判定する。この制御指示がない場合、すなわち第1速ギア段31の係合動作が未だ完了していない場合、エアコンディショナのオフ状態が継続される。
【0088】
A/Cコンプレッサ90が作動可能となる制御指示がある(S116:Yes)場合、ECU100は、ステップS118において「コンプレッサ容量通常制御」を行う。すなわち、上述のコンプレッサ容量増大制御(S110)において増大させたコンプレッサ容量を、通常値Vac_cに戻す。
【0089】
以上のようなコンプレッサ容量制御(S100〜S118)により、ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態、詳細には、ECU100が行う運転状態遷移制御においてロータ52が所定の正方向に回転しなくなる運転状態遷移動作がある場合には、A/Cコンプレッサ90の作動が停止するものと予測する(時点t1)。そして、実際にロータ52が正方向に回転しなくなる(時点t3〜t4)前に、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を、予測した時点t1の通常値Vac_cから、設定された増大分ΔVacだけ増大させることで、A/C冷却能力を、それまでの値Cac_cから増大させる。
【0090】
その後、運転状態遷移動作により、モータ回転速度がNmからゼロに低下し、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する(時点t3〜t4)ことで、A/C冷却能力が通常値Cac_cから図5にハッチングBで示すように低下しても、当該低下分を、予め増大させておいたA/C冷却能力(図5にハッチングAで示す)により補うことができる。つまり、A/Cコンプレッサ90の作動の停止が予測され、コンプレッサ容量の増大が開始された時点t1から、第1速ギア段31の係合動作(運転状態遷移動作)が完了した時点t5にかけて、A/C冷却能力の時間平均値を、通常値Cac_cにすることができる。
【0091】
以上に説明したように本実施形態に係るハイブリッド車両1は、原動機として内燃機関5と電気モータ50を有し、複数の変速段31,33,35のうちいずれか1つにより、電気モータ50のロータ52に係合する第1入力軸27と駆動輪88とを係合させることが可能な第1変速機構30と、複数の変速段42,44,49のうちいずれか1つにより、第2入力軸28と駆動輪88とを係合させることが可能な第2変速機構40と、内燃機関5の機関出力軸8と第1入力軸27とを係合させることが可能な第1クラッチ21と、当該機関出力軸8と第2入力軸28とを係合させることが可能な第2クラッチ22と、を有するデュアルクラッチ式変速機10と、前記ロータ52が所定方向(正方向)に回転している場合に作動し、且つその出力(コンプレッサ容量)を変化可能な補機としてのA/Cコンプレッサ90と、A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を制御可能な制御手段としてのECU100とを備えている。
【0092】
ECU100は、ハイブリッド車両1の運転状態に基づいて、A/Cコンプレッサ90の作動が停止するか否かを予測する機能(補機停止予測手段)を含み、A/Cコンプレッサ90の作動の停止を予測した場合、当該A/Cコンプレッサ90の作動が停止する前に、当該A/Cコンプレッサ90のコンプレッサ容量を、それまで(予測した時点t1)に比べて増大させて、予めA/C冷却能力を増大させておくことで、その後、A/Cコンプレッサ90の作動が停止する際に低下し、当該作動が停止している間にゼロとなるA/C冷却能力の通常値からの低下分を補うことができる。これにより、電気モータ50のロータ52の回転が一時的に停止して、A/Cコンプレッサ90の作動が停止しても、車両の乗員に不快感を与えることを抑制することができる。
【0093】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両1において、ECU100の補機停止予測手段は、運転状態遷移動作として、第1変速機構30において変速段31,33,35の係合動作が行われる場合に、補機としてのA/Cコンプレッサ90の作動が停止すると予測するものとした。第1変速機構30において変速段31,33,35の係合動作が行われる場合、ロータ52に係合する第1入力軸27の回転速度を、車速に応じた回転速度にする必要があり、車両停止中や後進中においては、ロータ52の回転を静止させるか、所定方向(正方向)とは逆向きに回転させる必要が生じるため、ECU100は、A/Cコンプレッサ90の作動の停止を予測することが可能となる。
【0094】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両1において、第1変速機構30は、最も減速比の大きい前進用の変速段である第1速ギア段31を含み、制御手段としてのECU100は、車両停止中において、第1変速機構30の変速段31,33,35を全て解放状態にするものであり、ECU100の補機停止予測手段は、第1速ギア段31の係合動作が行われる場合に、A/Cコンプレッサ90の作動の停止を予測するものとした。車両停止中においては、第1変速機構30の変速段31,33,35を全て解放状態にすることで、駆動輪88を静止させた状態で、第1入力軸27に係合するロータ52を所定方向(正方向)に回転させることが可能となり、車両停止中においても、電気モータ50によりA/Cコンプレッサ90を駆動してA/C冷却能力を生じさせることができる。そして、ハイブリッド車両1を発進させるため、第1速ギア段31の係合動作が行われる場合には、ロータ52の回転速度をゼロにする必要があり、このとき、A/Cコンプレッサ90の作動が停止すると予測する。これにより、車両停止中の運転状態から、発進後の運転状態に遷移する場合において、一時的にA/Cコンプレッサ90の作動が停止するものの、その停止前にA/C冷却能力を増大させることで、車両の乗員に不快感を与えることを抑制することができる。
【0095】
なお、本実施形態に係るハイブリッド車両1において、補機は、作動することによりエアコンディショナに圧縮した冷媒を吐出して供給し、且つ前記ロータ52の1回転あたりの冷媒の吐出量であるコンプレッサ容量を変化可能な可変容量式のA/Cコンプレッサ90であるものとしたが、補機は、A/Cコンプレッサ90に限定されるものではない。補機は、前記ロータ52が所定方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能なものであれば良く、例えば、負圧式のブレーキ倍力装置の負圧タンクに負圧を供給する可変容量式の負圧ポンプであるものとしても良い。制御手段としてのECU100が、負圧ポンプの作動が停止すると予測した場合、負圧ポンプの作動が停止する前に、負圧ポンプの負圧供給能力を、それまで(予測した時点)に比べて増大させることで、負圧タンク内の負圧を、より確実に確保することが可能となる。
【0096】
なお、本実施形態において、電気モータ50のロータ52が入力軸(第1入力軸27)に係合する変速機構である第1変速機構30の変速段31,33,35は、奇数段(第1速ギア段、第3速ギア段、第5速ギア段)で構成されているものとしたが、本発明が適用可能なデュアルクラッチ式変速機10の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30の変速段が、偶数段で構成されており、一方、第2変速機構40の変速段が、奇数段で構成されていても良いことは勿論である。
【0097】
また、本実施形態に係る第1及び第2変速機構30,40の各変速段31〜49において、メインギア31a〜49aは、それぞれ第1入力軸27又は第2入力軸28に結合されており、メインギア31a〜49aとそれぞれ噛み合うカウンタギア31c〜49cは、第1出力軸37又は第2出力軸48を中心に回転可能に設けられており、カップリング機構31e〜49eは、カウンタギア31c〜49cと、これに対応する出力軸37,48とを係合させるものとしたが、カップリング機構の態様は、これに限定されるものではない。第1及び第2変速機構30,40の各変速段31〜49のうち少なくとも一部の変速段において、メインギアが、これに対応する入力軸を中心に回転可能に設けられ、カウンタギアが、これに対応する出力軸に結合されており、カップリング機構がメインギアと入力軸とを係合させるものにしても良い。
【0098】
また、本実施形態において、第1変速機構30の第1入力軸27には、電気モータ50のロータ52が結合されているものとしたが、本発明が適用可能なデュアルクラッチ式変速機10の態様は、これに限定されるものではない。第1入力軸27は、電気モータ50のロータ52と係合していれば良い。例えば、第1入力軸27とロータ52との間に、ロータの回転速度を減速して第2入力軸28に伝達する減速機構や、変速機構を設けることも好適である。
【0099】
また、本実施形態において、第1変速機構30は、第1入力軸27で受けた機械的動力を、第1出力軸37から駆動輪88と係合する動力統合ギア58に伝達し、第2変速機構40は、第2入力軸28で受けた機械的動力を、第2出力軸48から動力統合ギア58に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40の態様は、これに限定されるものではない。第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ入力軸27,28で受けた機械的動力を、駆動輪88に向けて伝達可能であれば良く、例えば、第1変速機構30と第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27、第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88と係合する共通の出力軸に伝達するものとしても良い。
【0100】
また、本実施形態において、デュアルクラッチ式変速機10は、内燃機関5の機関出力軸8及び電気モータ50のロータ52からの機械的動力を、第1変速機構30及び第2変速機構40のうち少なくとも一方により変速して、動力統合ギア58から、推進軸66、終減速装置70の差動機構74を介して駆動輪88に伝達するものとしたが、第1変速機構30及び第2変速機構40から駆動輪88に向けての動力伝達の態様は、これに限定されるものではない。デュアルクラッチ式変速機10において、第1変速機構30及び第2変速機構40は、それぞれ第1入力軸27及び第2入力軸28で受けた機械的動力を、駆動輪88に向けて伝達可能であれば良く、例えば、動力統合ギア58、又は当該動力統合ギア58と噛み合う第1及び第2駆動ギア37c,48cが、直接に差動機構74のリングギア72を駆動するものとしても良い。
【0101】
なお、本実施形態においては、車両停止中において内燃機関5を非作動状態にすると共に、電気モータ50によりA/Cコンプレッサ90を駆動して当該A/Cコンプレッサ90を作動させる「停車中A/C作動状態」から、ハイブリッド車両1を発進させて当該EV走行を行いながらA/Cコンプレッサ90を作動させる「EV走行中A/C作動状態」に、ハイブリッド車両1の運転状態を遷移させる場合について説明したが、本発明が適用される運転状態遷移制御は、これに限定されるものではない。ロータ52が所定方向に回転しなくなる、即ちロータ52の回転が静止する又は逆方向に回転する動作が含まれる運転状態遷移制御であれば、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のように、本発明は、原動機として内燃機関と電気モータを有するハイブリッド車両に有用であり、電気モータのロータが所定の方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機を備えたハイブリッド車両に適している。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る多段変速機としてのデュアルクラッチ式変速機が有するデュアルクラッチ機構の構造を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係る変形例のデュアルクラッチ機構の構造を説明する模式図である。
【図4】本実施形態に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)が実行するA/Cコンプレッサ容量制御を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係るハイブリッド車両の制御手段(ECU)によりA/Cコンプレッサ容量制御を行う場合のハイブリッド車両の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0104】
1 ハイブリッド車両
5 内燃機関
8 機関出力軸
10 デュアルクラッチ式変速機
20 デュアルクラッチ機構
21 第1クラッチ
22 第2クラッチ
27 第1入力軸
28 第2入力軸
30 第1変速機構
31,33,35 ギア段(変速段、歯車対)
40 第2変速機構
42,44,49 ギア段(変速段、歯車対)
50 電気モータ(モータジェネレータ)
52 電気モータのロータ
66 推進軸
70 終減速装置
74 差動機構
80 駆動軸
88 駆動輪
90 可変容量式A/Cコンプレッサ
94 A/Cスイッチ
96 A/Cランプ
100 ハイブリッド車両用の電子制御装置(ECU、制御手段、記憶手段、補機停止予測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機として内燃機関と電気モータを有し、
複数の変速段のうちいずれか1つにより、電気モータのロータに係合する第1入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第1変速機構と、複数の変速段のうちいずれか1つにより、第2入力軸と駆動輪とを係合させることが可能な第2変速機構と、内燃機関の機関出力軸と第1入力軸とを係合させることが可能な第1クラッチと、当該機関出力軸と第2入力軸とを係合させることが可能な第2クラッチと、を有するデュアルクラッチ式変速機と、
前記ロータが所定方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機と、
補機の出力を制御可能な制御手段と、
を備えたハイブリッド車両であって、
制御手段は、
ハイブリッド車両の運転状態に基づいて、補機の作動の停止を予測する補機停止予測手段を含み、
補機の作動の停止を予測した場合、当該補機の作動が停止する前において、当該補機の出力を、予測した時点に比べて増大させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
補機停止予測手段は、
第1変速機構において変速段の係合動作が行われる場合に、補機の作動の停止を予測する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両において、
第1変速機構は、最も減速比の大きい前進用の変速段である第1速ギア段を含み、
制御手段は、車両停止中において、第1変速機構の変速段を全て解放状態にするものであり、
補機停止予測手段は、第1速ギア段の係合動作が行われる場合に、補機の作動の停止を予測する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、
前記補機は、作動することによりエアコンディショナに圧縮した冷媒を吐出して供給し、且つ前記ロータの1回転あたりの冷媒の吐出量であるコンプレッサ容量を変化可能な可変容量式のA/Cコンプレッサであり、
制御手段は、A/Cコンプレッサの作動の停止を予測した場合、A/Cコンプレッサの作動が停止する前に、A/Cコンプレッサのコンプレッサ容量を、予測した時点に比べて増大させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
原動機として内燃機関と電気モータを有し、当該電気モータのロータが所定の方向に回転している場合に作動し、且つその出力を変化可能な補機と、当該補機の出力を制御可能な制御手段と、を備えたハイブリッド車両であって、
制御手段は、
ハイブリッド車両の運転状態に基づいて、補機の作動の停止を予測する補機停止予測手段を含み、
補機の作動の停止を予測した場合、補機の作動が停止する前において、当該補機の出力を、予測した時点に比べて増大させる
ことを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−64551(P2010−64551A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231012(P2008−231012)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】