説明

バネ構造体、物理量センサー、電子機器

【課題】枠体に支持された錘部に作用する複数の変位を許容できるバネ構造体、物理量センサー、電子機器を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のバネ構造体10は、接続部12と、前記接続部12を中心に直交する軸を第1軸および第2軸としたときに、前記接続部から第1軸の方向に延出し、第1折曲部24で折り返され、端部に第1支持部26を有する第1バネ20と、前記接続部12から前記第2軸の方向に延出し、第2折曲部34で折り返され、端部に第2支持部36を有する第2バネ30と、前記第1軸および前記第2軸に平面視で交差する方向であり且つ前記第1及び第2バネ20,30から離間する斜め方向に、前記接続部12からビームが延出し、前記ビームは前記斜め方向に交差する方向に分岐され、一方のビームは第3折曲部44で折り曲げられ第3支持部45を端部に有し、他方のビームは第4折曲部46で折り曲げられ第4支持部47を端部に有する第3バネ40と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2以上の方向に変位可能な錘を支持するバネ構造体、物理量センサー、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro−Mechanical Systems)技術を利用した検出素子が知られている。検出素子は、一例として、圧力センサー、加速度センサー、角速度センサーなどがある。また、モバイル機器に搭載し複雑な動きを検出するため、複数の軸を1つの素子で検出可能な多軸センサーがある。
【0003】
このような検出素子として特許文献1には、第一の軸方向に延びる第一の梁部と、第二の軸方向に延びる第二の梁部と、第一及び第二の梁部に支持されて少なくとも2以上の方向に変位する錘部と、錘部の変位に基づいて錘部に作用する力学量を検出する検出部とを備え、錘部が第一の軸方向回りにおける回転し易さと第二の軸方向回りにおける回転し易さとに差が生じる態様で前記第一の梁部と、前記第二の梁部に支持されている検出素子が開示されている。
【0004】
また特許文献2の角速度センサーは、平面振動体を直角四辺形状の枠体の内側に連結梁を介して錘振動体を連結した結合体により構成し、支持梁でX方向に振動可能に支持している。連結梁は錘振動体の検出振動方向となるZ軸方向の剛性を平面振動体の振動方向であるX方向よりも小さく形成し、支持梁はX方向の剛性をZ軸方向の剛性よりも小さく形成している。これにより、平面振動体をX方向に励振させてY軸回りの回転によりZ軸方向のコリオリ力が発生したとき、平面振動体の錘振動体だけがZ軸方向に振動し、Y軸回りの角速度を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−169401号公報
【特許文献2】特開平11−64001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示の検出素子は、いずれも錘部とそれを支える4本の梁部を基本構成としている。梁部は梁部幅又は梁厚みを制御してバネ定数を最適化している。
通常、梁部の厚みは錘部よりも薄く加工されている。1枚のシリコンウエハから厚みの異なる錘部と梁部をエッチングにより形成する場合、錘部と比べて極端に厚みの薄い梁部を均一の厚みで、バラツキなくエッチング調整することは困難であった。
【0007】
また錘部を備えたウエハと梁部を備えたウエハを直接接合等により接合する場合、梁部を構成する数十μmのウエハを取り扱う工程が複雑化し、歩留りの低下の虞があった。
また薄いSi層と厚いSi層の間にSiO層を挿入したSOI(Silicon on Insulater)基板を用いて梁部の厚みを調整することができる。しかし、このSOI基板は高価であり量産化には適用できないという問題があった。
【0008】
そこで上記従来技術の問題点を解決するため、本発明は枠体に支持された錘部に作用する複数の変位を許容できるバネ構造体、物理量センサー、電子機器を提供することを目的としている。また本発明は枠体に支持された錘部に作用する複数の変位を許容して物理量を高感度に検出できる物理量センサー、電子機器を提供することを目的としている。
また本発明は、枠体に支持される錘部を備えた物理量センサーを一体的に形成できる物理量センサー、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1]接続部と、前記接続部を中心に直交する軸を第1軸および第2軸としたときに、前記接続部から前記第1軸の方向に延出し、第1折曲部で折り返され、端部に第1支持部を有する第1バネと、前記接続部から前記第2軸の方向に延出し、第2折曲部で折り返され、端部に第2支持部を有する第2バネと、前記第1軸および前記第2軸に平面視で交差する方向であり且つ前記第1及び第2バネから離間する斜め方向に、前記接続部からビームが延出し、前記ビームは前記斜め方向に交差する方向に分岐され、一方のビームは第3折曲部で折り曲げられ第3支持部を端部に有し、他方のビームは第4折曲部で折り曲げられ第4支持部を端部に有する第3バネと、を備えたことを特徴とするバネ構造体。
上記構成によれば、接続部を中心としてX,Y,Z軸方向の3軸の動きを許容することができる。また錘部と枠体と一体的に形成することができ、製造が容易で、かつバネ力の調整の容易なバネ構造体が得られる。
【0010】
[適用例2]前記第3バネの前記ビームは、前記接続部から前記斜め方向に沿って分割していることを特徴とする適用例1に記載のバネ構造体。
上記構成によれば、Z軸方向の変位に対して捩れ易くなり、この変位を許容することができる。
【0011】
[適用例3]前記第1ないし第4折曲部の少なくとも1つは、複数有することを特徴とする適用例1又は適用例2に記載のバネ構造体。
上記構成によれば、応力に対して変位し易い構造とすることができる。
【0012】
[適用例4]前記第1ないし第4折曲部の少なくとも1つは、曲線形状に折り曲げたことを特徴とする適用例1ないし適用例3のいずれか1例に記載のバネ構造体。
上記構成によれば、折り曲げ部分に局所的な応力が集中することを回避することができる。
【0013】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれか1例に記載のバネ構造体と、枠体と、前記枠体の内部に複数の前記バネ構造体を介して取り付けられ、互いに直交する3軸方向に変位可能な錘部と、前記錘部の変位に基づいて前記錘部に作用する物理量を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする物理量センサー。
上記構成によれば、バネ構造体により錘部に作用するX,Y,Z軸方向の3軸の動きを許容することができる。また錘部と枠体と一体的に形成することができ、製造が容易で小型かつ高精度な物理量センサーが得られる。
【0014】
[適用例6]前記錘部は平面視して矩形であり、前記錘部の四隅と前記枠体の内側の四隅との間に前記バネ構造体を取り付けたことを特徴とする適用例5に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、錘部と枠体との隙間を小さくすることができ、センサー全体の小型化を図ることができる。
【0015】
[適用例7]適用例5又は適用例6に記載の物理量センサーを備えたことを特徴とする電子機器。
上記構成によれば、物理量を高精度で検出することができる物理量センサーを備えた電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係るバネ構造体の平面図である。
【図2】第1実施形態に係る物理量センサーの説明図であり、(1)は平面図、(2)は(1)のA−A断面図である。
【図3】第3ビームの変形例の説明図である。
【図4】第1実施形態に係るバネ構造体の作用の説明図であり、(1)は+X軸方向、(2)は+Y軸方向、(3)は−Z軸方向の変位である。
【図5】第2実施形態に係るバネ構造体の説明図であり、(1)は鋭角に折り曲げたバネ構造体であり、(2)は鈍角に折り曲げたバネ構造体である。
【図6】第3実施形態に係るバネ構造体の説明図であり、(1)は第3及び第4折曲部を曲線形状に折り曲げたバネ構造体であり、(2)は(1)の構造に、さらに支持部と折曲部の間を曲線状に折り曲げたバネ構造体であり、(3)は第1〜第4折曲部を曲線形状に折り曲げたバネ構造体である。
【図7】第4実施形態に係るバネ構造体の説明図である。
【図8】第2実施形態に係る物理量センサーの平面図である。
【図9】第3実施形態に係る物理量センサーの平面図である。
【図10】第4実施形態に係る物理量センサーの平面図である。
【図11】本発明の物理量センサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のバネ構造体、物理量センサー、電子機器の実施形態を添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。図1は第1実施形態に係るバネ構造体の平面図である。図2は第1実施形態に係る物理量センサーの説明図であり、(1)は平面図、(2)は(1)のA−A断面図である。図2に示すように、実施形態に係るバネ構造体10は、略矩形の錘部60と、前記錘部60の外周を囲む枠体70とを連結する部材である。またバネ構造体10は枠体70と錘部60の同一平面上で錘部60を支持する部材である。なお各図では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、Z軸を図示している。また以下では、X軸(第1軸)に平行な方向をX軸方向、Y軸(第2軸)に平行な方向をY軸方向、Z軸(第3軸)に平行な方向をZ軸方向という。
【0018】
バネ構造体10は、略矩形の錘部60の四隅と、前記錘部60を囲む略矩形の枠体70の内側4つの角部とを結ぶ直線方向、即ち錘部60の四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線L方向に配置されている。
実施形態に係るバネ構造体10は、接続部12と、第1バネ20と、第2バネ30と、第3バネ40とを主な基本構成としている。
【0019】
接続部12は、第1及び第2バネ20,30と、第3バネ40の間に形成されている。接続部12は第1〜第3バネ20,30,40よりも幅を広く形成して互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸方向の応力によって、変形しない強度を備えている。接続部12は、略矩形の錘部の四隅と、前記錘部を囲む略矩形の枠体の内側4つの角部とを結ぶ直線方向、即ち錘部の四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線L方向に配置させている。
【0020】
第1バネ20は、第1ビーム22と、第1折曲部24と、第1支持部26とを主な基本構成とし、直交するX軸又はY軸の何れか一方の変位を許容している。図1に示す第1バネ部20はY軸方向の変位を許容している。
第1ビーム22は、一端を接続部12に接続させて、他端を接続部12から、接続部12を中心に直交するX軸及びY軸のX軸方向に平行に延出させている。
【0021】
第1折曲部24は、一端を第1ビーム22の他端と接続させて、他端を第1ビーム22の端部からY軸方向に少なくとも1以上折り曲げている。図1に示す第1折曲部24は、2回折り曲げている。
【0022】
第1支持部26は、一端を第1折曲部24の端部と接続させて、他端をY軸方向へ延出させている。第1支持部26の他端は、錘部60の直交するX軸又はY軸のいずれか一方の側面と接続させている。図1に示す第1支持部26は錘部60のX軸方向の側面に接続させている。
【0023】
第2バネ30は、第2ビーム32と、第2折曲部34と、第2支持部36とを主な基本構成とし、直交するX軸又はY軸の何れか他方の変位を許容している。図1に示す第2バネ部30はX軸方向の変位を許容している。
第2ビーム32は、一端を接続部12に接続させて、他端を接続部12から、接続部12を中心に直交するX軸及びY軸のY軸方向に平行に延出させている。
【0024】
第2折曲部34は、一端を第2ビーム32の他端と接続させて、他端を第2ビーム32の端部からX軸方向に少なくとも1以上折り曲げた形状にしている。図1に示す第2折曲部34は2回折り曲げた形状にしている。
【0025】
第2支持部36は、一端を第2折曲部34の端部と接続させて、他端をX軸方向へ延出させている。第2支持部36の他端は、錘部60の直交するX軸又はY軸のいずれか他方の側面と接続させている。図1に示す第2支持部36は錘部60のY軸方向の側面に接続させている。
【0026】
第3バネ40は、第3ビーム42と、第3及び第4折曲部44、45と、第3及び第4支持部46,47とを主な基本構成と、Z軸方向の変位を許容している。
第3ビーム42は、一端を接続部12に接続させて、他端を接続部12からX軸及びY軸の角度を二分した対角線L方向であって第1及び第2バネ20,30と離間する方向(反対側)に延出させている。バネ構造体10の第3ビーム42aは、第3又は第4折曲部44,45に夫々接続するように2分割したスリット43を形成している。このような構成によりZ軸方向の応力に対して変位し易い構成とすることができる。
【0027】
なお、図3に示すように、第3ビーム42aは、スリットを設けずに接続部12から対角線方向に延出させるような構成とすることもできる。これにより第3ビーム42aの剛性を高めることができ、Z軸方向の外力に対してのみ変位し難い構成とすることができる。
【0028】
第3及び第4折曲部44,45は、一端を前記第3ビーム42の端部に接続させて、他端を前記第3ビーム42の端部から対角線Lと交差する方向Mに枝分かれ(分岐)して少なくとも1以上折り曲げた形状にしている。図1に示す第3及び第4折曲部44,45は、2回折り曲げた形状にしている。
【0029】
第3支持部46は、一端を前記第3折曲部44の他端と接続させて、他端を対角線Lと交差する方向Mに延出させている。第3支持部46の他端は、枠体70の直交するX軸又はY軸のいずれか一方の側面と接続させている。図1に示す第3支持部46は枠体70のX軸方向の側面に接続させている。
【0030】
第4支持部47は、一端を前記第4折曲部45の他端と接続させて、他端を対角線Lと交差する方向Mに延出させている。第4支持部47の他端は、枠体70の直交するX軸又はY軸のいずれか他方の側面と接続させている。図1に示す第4支持部47は枠体70のY軸方向の側面に接続させている。
【0031】
このようなバネ構造体11は、対角線Lを中心線として、第1及び第2バネ20,30が線対称となるように形成されている。また第3バネ40の第3折曲部44及び第3支持片46と、第4折曲部45及び第4支持部47が線対称となるように形成されている。このような構成によりバネ間の変位量を合わせることができる。従って、外力が一部のバネに対して局所的に集中することを回避できる。
【0032】
実施形態に係るバネ構造体の製造方法は、所定の厚みのウエハをエッチング加工して枠体70と、バネ構造体10と、錘部60を一体に形成することができる。また錘部60の厚みを厚くして質量を増加させて検出素子の感度を高める場合、バネ構造体10の厚みも厚くなるが、バネ幅を狭めるなどによりバネ強度を調整することができる。
バネ構造体10は、ビーム又は折曲部の長さ、幅を任意に変更して、バネ強度の調整を行うことができる。従って、バネ構造体10の厚みのみの調整に拘束されることがない。
【0033】
第1実施形態に係る物理量センサー100は加速度センサーである。物理量センサー100は、第1基板110と第2基板120から構成されている。第1基板110には、略矩形の錘部60と、当該錘部60を囲む枠体70と、バネ構造体10が形成されている。第2基板120には検出部80が形成されている。
第1基板110の錘部60はZ軸を法線とする平面視において略矩形状に形成されている。錘部60は厚み又は幅を調整することにより任意の質量に設定している。
【0034】
枠体70はZ軸を法線とする平面視において前記錘部60よりも大きい略矩形状に形成されて、前記錘部60の外周を囲う部材である。
バネ構造体10は、略矩形の錘部60の四隅と、前記錘部60を囲む略矩形の枠体70の内側4つの角部とを結ぶ直線方向、即ち錘部60の四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線方向に4つ配置されている。
【0035】
第1及び第3バネ構造体10a,10cは、前記第1支持部26を、X軸方向の前記錘部60の側面と接続させている。第2支持部36は、Y軸方向の前記錘部60の側面と接続させている。第3支持部46は、Y軸方向の前記枠体70の側面と接続させている。第4支持部47は、X軸方向の前記枠体70の側面と接続させている。
【0036】
第2及び第4バネ構造体10b,10dは、前記第1支持部26を、Y軸方向の前記錘部60の側面と接続させている。第2支持部36は、X軸方向の前記錘部60の側面と接続させている。第3支持部46は、X軸方向の前記枠体70の側面と接続させている。第4支持部47は、Y軸方向の前記枠体70の側面と接続させている。
【0037】
このような構成の錘部60と枠体70とバネ構造体10a,10b,10c,10dは半導体からなる第1基板110上に一体的に形成されている。
第1基板110はシリコンを主材料として構成されていて、シリコン基板(シリコンウエハ)上に薄膜形成技術(例えば、エピタキシャル成長技術、化学気相成長技術等の堆積技術)や各種加工技術(例えばドライエッチング、ウェットエッチング等のエッチング技術)を用いて、所望の外形形状に加工することにより、前述した各部が一体的に形成されている。
【0038】
第2基板120には検出部80が形成されている。第2基板120は、一例としてガラス基板を用いることができる。検出部80は、Z軸を法線とする平面視において錘部60よりも大きく、4つに分割した下部電極82a,82b,82c,82dから構成されている。検出部80は錘部60に作用する外力を静電容量の変化によって検出している。
【0039】
第1基板110と第2基板120は、枠体70と枠部122を接合手段により固定させている。また第1基板110の枠体70と第2基板120の間にアンカーを用いて接続させるように構成してもよい。このとき検出部80と錘部60は互いに平行であって、静電容量が最適となる間隔で形成されている。
【0040】
上記構成による第1実施形態に係る物理量センサー100による加速度の検出は次のように行う。
図4は第1実施形態に係るバネ構造体の作用の説明図であり、(1)は+X軸方向、(2)は+Y軸方向、(3)は−Z軸方向の変位である。
【0041】
図4(1)は、+X軸方向に変位した場合の第1及び第4バネ構造体10a,10dの折れ曲がりを示した図である。図示のように錘部60が+X軸方向へ変位した場合、第1バネ構造体10aの第2ビーム32が接続部12を基点として+X軸方向へ撓み、第2折曲部34も縮小する。このとき第1バネ20は+X軸方向へ変位する錘部60に伴って僅かに変形する。また第4バネ構造体10dの第1ビーム22が接続部12を基点として+X軸方向へ撓み、第1バネ24も伸長する。このとき第2バネ20は+X軸方向へ変位する錘部60に伴って僅かに変形する。
【0042】
+X軸方向へ錘部60が変位すると検出部80では、Z軸を法線とする平面視において、錘部60と下部電極82a,82bの投影面積が増加して静電容量が増加する。一方、下部電極82c,82dでは前記投影面積が減少して静電容量が減少する。これにより+X軸方向の加速度を検出することができる。なお、−X軸方向へ変位した場合には、第1及び第4バネ構造体10a,10dは正反対の動きをする。第2及び第3バネ構造体10b,10cについても同様に変位する。
【0043】
図4(2)は、+Y軸方向に変位した場合の第1及び第2バネ構造体10a,10bの折れ曲がりを示した図である。図示のように錘部60が+Y軸方向へ変位した場合、第1バネ構造体10aの第1ビーム22が接続部12を基点として+Y軸方向へ撓み、第1バネ24も縮小する。このとき第2バネ30は+Y軸方向へ変位する錘部に伴って僅かに変形する。また第2バネ構造体10bの第2ビーム32が接続部12を基点として+Y軸方向へ撓み、第2バネ34も伸長する。このとき第1バネ20は+Y軸方向へ変位する錘部60に伴って僅かに変形する。
【0044】
+Y軸方向へ錘部60が変位すると検出部80では、Z軸を法線とする平面視において、錘部60と下部電極80a,80dの投影面積が増加して静電容量が増加する。一方、下部電極80b,80cでは前記投影面積が減少して静電容量が減少する。これにより+Y軸方向の加速度を検出することができる。なお−Y軸方向へ変位した場合には、第1及び第2バネ構造体10a,10bは正反対の動きをする。第3及び第4バネ構造体10c,10dについても同様に変位する。
【0045】
図4(3)は、−Z軸方向に変位した場合の第1バネ構造体10aの折れ曲がりを示した図である。錘部が−Z軸方向へ変位した場合、枠体70に接続する第3及び第4支持部46,47と、錘部60と第1及び第2バネ20,30を介して接続する接続部12の間で、第3及び第4折曲部44,45がZ軸方向に捩れて伸長する。第3折曲部44と接続する第3支持部46の一端側も第3折曲部44の伸長に伴って−Z軸方向に撓み、第3ビーム42も−Z軸方向へ撓む。また第4折曲部45と接続する第4支持部47の一端側も第4折曲部45の伸長に伴って−Z軸方向に撓む。
【0046】
−Z軸方向へ錘部60が変位すると検出部80では、錘部60と下部電極82a〜82dとの隙間が狭まって、静電容量が増加する。これにより−Z軸方向の加速度を検出することができる。なお第2〜第4バネ構造体10b,10c,10dについても同様の変位をする。
【0047】
このような物理量センサー100によれば、バネ構造体により錘部に作用するX,Y,Z軸方向の3軸の動きを許容することができる。錘部と枠体と一体的に形成することができ、製造が容易で小型かつ高精度な物理量センサーが得られる。
【0048】
図5は第2実施形態に係るバネ構造体の説明図であり、(1)は鋭角に折り曲げたバネ構造体であり、(2)は鈍角に折り曲げたバネ構造体である。
図5(1)に示すように、バネ構造体101は、第3支持部46と第3折曲部44の間を鋭角に折り曲げている。また第4支持部47と第4折曲部45の間も鋭角に折り曲げている。これにより第3バネ40の長さを短くすることができる。このような構成によれば、第3バネ40の長さを短くして、Z軸方向の応力に対して変位し難い構成とすることができる。
【0049】
図5(2)に示すように、バネ構造体102は、第3支持部46と第3折曲部44の間を鈍角に折り曲げている。また第4支持部47と第4折曲部45の間も鈍角に折り曲げている。これにより第3バネ30の長さを長くすることができる。このような構成によれば、第3バネ30の長さを長くして、Z軸方向の応力に対して変位し易い構成とすることができる。
【0050】
このようにバネ構造体の第3支持部46及び第3折曲部44と、第4支持部47及び第4折曲部45の間を鈍角又は鋭角に折り曲げることにより、バネの剛性バランスを任意に制御することができる。
【0051】
図6は第3実施形態に係るバネ構造体の説明図であり、(1)は第3及び第4折曲部を曲線形状に折り曲げたバネ構造体であり、(2)は(1)の構造に、さらに支持部と折曲部の間を曲線形状に折り曲げたバネ構造体であり、(3)は第1〜第4折曲部を曲線形状に折り曲げたバネ構造体である。
【0052】
図6(1)に示すように、バネ構造体103は、第3及び第4折曲部44a,45aを曲線形状に折り曲げている。このような構成によれば、第3及び第4折曲部44,45を直角に折り曲げている構成に比べて、応力が局所的に集中することを回避できる。
【0053】
図6(2)に示すように、バネ構造体104は、第3支持部46の一端と第3折曲部44bの他端が接続する箇所を曲線形状に折り曲げている。また第4支持部47の一端と第4折曲部45bの他端が接続する箇所を曲線形状に折り曲げている。このような構成によれば、図6(1)に示すバネ構造体に比べて、さらに応力が局所的に集中することを回避できる。
【0054】
図6(3)に示すように、バネ構造体105は、バネ構造体104に加えて、さらに第1及び第2折曲部24a、34aを曲線形状に折り曲げている。すなわち第1〜第4折曲部24a,34a,44b,45bをすべて曲線形状に折り曲げている。このような構成によれば、図6(2)に示すバネ構造体に比べて、さらに応力が局所的に集中することを回避でき、外力に対して変位し易い構造とすることができる。
【0055】
図7は第4実施形態に係るバネ構造体の平面図である。図8は第2実施形態に係る物理量センサーの平面図である。
第2実施形態の物理量センサー200は、基本構成は第1実施形態の物理量センサー100と同一であるが、略矩形の錘部60aの四隅に切り欠き部62a,62b,62c,62dを形成している。第4実施形態のバネ構造体11は、この切り欠き部62a,62b,62c,62dと、錘部60aを囲む略矩形の枠体70の内側4つの角部を結ぶ直線方向、即ち錘部60aの四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線方向に配置されている。
【0056】
第4実施形態のバネ構造体11は、第1実施形態のバネ構造体10と基本構成は同一であるが、第1及び第2折曲部240,340の折り曲げ数を増やしている。図7に示す第1及び第2折曲部240,340は、3回折り曲げている。そして第1支持部26は、他端を切り欠き部62aのY軸方向の側面に接続させている。第2支持部36は、他端を切り欠き部62aのX軸方向の側面に接続させている。
【0057】
このような構成の第4実施形態に係るバネ構造体11を用いた第2実施形態に係る物理量センサー200は、第1実施形態に係る物理量センサー100と同様にX軸、Y軸、Z軸の3方向の変位を許容して加速度を検出することができる。第2実施形態に係る物理量センサー200は第1及び第2折曲部240,340を複数折り曲げているため、X軸方向又はY軸方向に曲がり易く、X軸方向又はY軸方向に作用する錘部60aの変位を感度良く検出することができる。
【0058】
図9は第3実施形態に係る物理量センサーの平面図である。第3実施形態に係る物理量センサー300はX軸又はY軸又はZ軸のいずれか1軸まわりの角速度を検出可能なセンサーである。以下、一例として、X軸方向に沿って振動可能とし、Y軸まわりに作用する回転を検出可能な角速度センサーの構成について説明する。
【0059】
第3実施形態の物理量センサー300は、振動部64と、枠体70と、バネ構造体10と、駆動部90と、検出部80を主な基本構成としている。
振動部64は、Z軸を法線とする平面視において略矩形状に形成されている。振動部64は厚み又は幅を調整することにより任意の質量に設定している。
【0060】
枠部70は、Z軸を法線とする平面視において振動部64よりも大きい略矩形状に形成されて、振動部64の外周を囲う部材である。
バネ構造体10は、略矩形の振動部64の四隅と、振動部64を囲む略矩形の枠体70の内側4つの角部とを結ぶ直線方向、即ち振動部64の四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線方向に4つ配置されている。
【0061】
駆動部90は、固定電極92と、可動電極94と、アンカー96を主な基本構成としている。駆動部90は振動部64の外端部に形成している。本実施形態では、一例としてX軸方向に沿って一対形成している。可動電極94は振動部64の端部に櫛歯状に形成されている。固定電極92は、アンカー96から櫛歯状に形成されている。可動電極94と固定電極92はそれぞれ対をなし、振動部64を静電力によってX軸方向に振動させることができる。本実施形態の駆動部90は、X軸方向に沿って一対形成しているが、いずれか一方を形成するだけの構成でもよい。
このような構成の振動部64と枠体70とバネ構造体10と駆動部90は半導体からなる第1基板110上に一体的に形成されている。
【0062】
第2基板には検出部80が形成されている。第2基板は、一例としてガラス基板を用いることができる。検出部80は、Z軸を法線とする平面視において振動部64よりも大きく、4つに分割した下部電極82a,82b,82c,82dから構成されている。検出部80は振動部64に作用する外力を静電容量の変化によって検出している。
【0063】
第1基板110と第2基板は、枠体70と枠部を接合手段により固定させている。このとき検出部80と振動部64は互いに平行であって、静電容量が最適となる間隔で形成されている。
【0064】
上記構成による物理量センサー300による角速度の検出は次のように行う。
振動部64が駆動部90により±X軸方向へ振動し、Y軸まわりに角速度が入力された場合のコリオリ力Fcoriは、
【数1】

であらわすことができる。
【0065】
ここでm:質量、v:速度、Ω:角速度をそれぞれ示している。コリオリ力によって振動部64がZ方向に変位する。振動部64のZ軸方向の変位は、バネ構造体10の第3バネ40によって許容される。そして振動部64と下部電極82a,82b,82c,82dとの間の静電容量の変化に基づいてY軸回りの回転角速度を検出することができる。
【0066】
図10は第4実施形態に係る物理量センサーの平面図である。第4実施形態の物理量センサー400は、基本構成は第3実施形態の物理量センサー300と同一であるが、略矩形の振動部64aの四隅に切り欠き部62a,62b,62c,62dを形成している。バネ構造体11は、この切り欠き部62a,62b,62c,62dと、前記振動部64aを囲む略矩形の枠体70の内側4つの角部を結ぶ直線方向、即ち振動部64aの四隅から、直交するX軸とY軸の角度を二分した対角線方向に配置されている。
【0067】
このような構成の第4実施形態に係る物理量センサー400は、第3実施形態に係る物理量センサー300と同様にX軸方向に振動させた状態で、Y軸回りの回転角速度を検出することができる。第4実施形態に係る物理量センサー400は第1及び第2折曲部を複数折り曲げているため、X軸方向又はY軸方向に曲がり易く、X軸方向又はY軸方向に作用する振動部の動きを許容することができる。
【0068】
図11は本発明の物理量センサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。図示のように携帯電話機500は、複数の操作ボタン502、受話口504、および送信口506を備え、操作ボタン502と受話器504との間には、表示部508が配置されている。このような携帯電話機500には加速度又は角速度の検出手段として機能する物理量センサー100,200,300,400が内蔵されている。
【符号の説明】
【0069】
10,11,101,102,103,104,105………バネ構造体、12………接続部、20………第1バネ、22………第1ビーム、24………第1折曲部、26………第1支持部、30………第2バネ、32………第2ビーム、34………第2折曲部、36………第2支持部、40………第3バネ、42………第3ビーム、43………スリット、44………第3折部、45………第4折曲部、46………第3支持部、47………第4支持部、60………錘部、62………切り欠き部、64………振動部、70………枠体、80………検出部、82a,82b,82c,82d………下部電極、90………駆動部、92………固定電極、94………可動電極、96………アンカー、100,200,300,400………物理量センサー、110………第1基板、120………第2基板、122………枠部、500………携帯電話機、502………操作ボタン、504………受話口、506………送信口、508………表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続部と、
前記接続部を中心に直交する軸を第1軸および第2軸としたときに、前記接続部から前記第1軸の方向に延出し、第1折曲部で折り返され、端部に第1支持部を有する第1バネと、
前記接続部から前記第2軸の方向に延出し、第2折曲部で折り返され、端部に第2支持部を有する第2バネと、
前記第1軸および前記第2軸に平面視で交差する方向であり且つ前記第1及び第2バネから離間する斜め方向に、前記接続部からビームが延出し、前記ビームは前記斜め方向に交差する方向に分岐され、一方のビームは第3折曲部で折り曲げられ第3支持部を端部に有し、他方のビームは第4折曲部で折り曲げられ第4支持部を端部に有する第3バネと、
を備えたことを特徴とするバネ構造体。
【請求項2】
前記第3バネの前記ビームは、前記接続部から前記斜め方向に沿って分割していることを特徴とする請求項1に記載のバネ構造体。
【請求項3】
前記第1ないし第4折曲部の少なくとも1つは、複数有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバネ構造体。
【請求項4】
前記第1ないし第4折曲部の少なくとも1つは、曲線形状に折り曲げたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のバネ構造体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のバネ構造体と、
枠体と、
前記枠体の内部に複数の前記バネ構造体を介して取り付けられ、互いに直交する3軸方向に変位可能な錘部と、
前記錘部の変位に基づいて前記錘部に作用する物理量を検出する検出部と、
を備えたことを特徴とする物理量センサー。
【請求項6】
前記錘部は平面視して矩形であり、前記錘部の四隅と前記枠体の内側の四隅との間に前記バネ構造体を取り付けたことを特徴とする請求項5に記載の物理量センサー。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の物理量センサーを備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−229989(P2012−229989A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98417(P2011−98417)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】