説明

パネルの洗浄方法及び洗浄装置、並びにフラットパネルディスプレイの製造方法

【課題】透明基板の表面にこびりついた粘着剤や接着剤、その他の有機物質や固形異物等を、パネルに対してダメージを与えずに、確実に洗浄し除去する。
【解決手段】パネル1のガラス基板3に貼り付けた偏光膜8を剥離した後に、その表面にこびりついている有機物質を含む汚損物を洗浄により取り除くために、搬送手段10に搬送されているパネル1は、温水ジェット噴射ステージ11で温水が噴射された後、スチーム噴射ステージ13に設けたスチームノズル14からスチームが噴射されて、有機物質を膨潤化させ、かつ固着強度を低下させ、その後にブラシ洗浄ステージ20に移行して、スチームを噴射させた面をブラシ21により擦動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶パネル(LCD),プラズマディスプレイパネル(PDP),有機ELパネル等といったフラットパネルディスプレイ(FPD)を製造するに当って、パネルの少なくともいずれかの一面に樹脂フィルムからなる薄膜が粘着剤または接着剤を用いて貼り付けられるが、この薄膜の貼り付けに欠陥がある場合、一度この薄膜を剥離して、再度貼り付けるために、薄膜剥離後にパネルに付着する汚損物を除去して清浄化するためのパネルの洗浄方法及び洗浄装置に関するものであり、またフラットパネルディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイの一例として、例えば透過型TFT液晶パネルは、接合された2枚のガラス等で形成した透明基板から構成されるものであり、これら2枚の透明基板のうち、一方側の透明基板には透明導電膜からなる画素電極が積層されており、他方の透明基板にはカラーフィルタ及び対向電極が積層されている。これら2枚の透明基板の間には液晶が封入されており、両透明基板間にはシール材が介装されて、この液晶封入空間を密閉している。さらに、パネルの表裏両面には偏光膜が積層されることになる。この偏光膜は粘着剤または接着剤からなる固着剤を介して透明基板の表面に貼り付けられる。
【0003】
ここで、偏光膜の透明基板の表面への貼り付けは、例えば特許文献1に示されているようにして行われる。即ち、パネルを水平状態に配置して、所定の位置に位置決めするようになし、偏光膜はセパレータ紙に保持されており、貼り付け時にはセパレータ紙から剥離して、パネルにおける透明基板に偏光膜を当接させて、この偏光膜の上部から貼り付けローラでしごくようにして透明基板の表面に押し付けることにより、強固に固着する。
【0004】
偏光膜の貼り付けは以上のようにして行われるが、この偏光膜は透明基板の全面にわたって完全に密着させ、その間に異物等が挟み込まれないようにする必要がある。一般に、透明基板は光学ガラスから構成され、パネルの画面サイズにもよるが、製造時には複数枚のパネルを形成した大判のものとなし、偏光膜を貼り付ける前の段階で、所定の画面サイズとなるように切断される。従って、この切断時にカレットと呼ばれる切断ガラス粉がこの透明基板の表面に付着することがあり、このように付着したカレットは洗浄しただけでは完全に取り除けないことがある。このために、偏光膜を貼り付ける前の段階で、例えば特許文献2に示されているように、透明基板の表面からカレットを含む異物を除去するようにしている。このようなカレットやそれ以外の異物を除去するための装置としては、基板の表面全体を研磨するものであって、研磨布に水分を含ませた状態で、若しくは水分を供給しながら、基板表面に一定の加圧力で押し付け、基板または研磨布を相対回転させるようにして研磨が行われる。
【特許文献1】特開2003−98520号公報
【特許文献2】特開平11−64835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、研磨布を用いた異物除去装置によっては、必ずしも完全に異物を除去できない場合がある。例えば、微粉状のカレットが透明基板の表面に残存するのを完全には防止できない場合がある。また、カレット以外にも、偏光膜の貼り付け時に基板と偏光膜との間に空気の巻き込みによる気泡が介在している可能性もある。特に、フラットパネルディスプレイの表示画像の高画質化という点から、たとえ僅かなものであっても、カレット等の異物の混入や、気泡の巻き込みを防止しなければならない。従って、偏光膜の貼り付け工程の後には、異物や気泡の巻き込みによる欠陥がないことを検査するが、この検査を偏光膜貼り付け工程の直後、つまり固着剤が未硬化乃至未乾燥の状態で行えば、欠陥パネルがあると、その偏光膜を剥離して、再度偏光膜を貼り付けることによってリペアが可能となる。
【0006】
しかしながら、偏光膜と基板との間に極めて微小な異物が介在している場合や、極小の気泡が巻き込まれている場合には、目視検査等によっては容易に検出することができないことがある。ただし、パネルが形成された後に行われる点灯試験を行うと、極めて微小なものであっても、異物や気泡等の存在が確認でき、つまり点灯試験の段階になって、ようやく欠陥を発見することができる場合がある。この段階では、偏光膜の貼り付けのための固着剤は既に乾燥・硬化している。この段階においても、偏光膜を剥離することは可能であるが、剥離した後における固着剤が一部分パネル側にこびりついた状態で残ることになって、粘着剤や接着剤を含む有機物質を除去するのは困難である。
【0007】
ところで、偏光膜の貼り付けた後には、ドライバ回路のTAB搭載及びPCBの接続が行われて、パネルが完成することから、偏光膜の貼り付け不良だけでパネルそのものを廃棄するのは得策ではない。貼り付けた偏光膜を透明基板から剥離した後に、前述した特許文献2にあるように、研磨布を用いて研磨して異物除去装置によって、パネルを構成する透明基板の表面を研磨布で研磨して、こびりついた有機物質を除去することが考えられる。しかしながら、この研磨による固着有機物質の除去を行うのは多大な時間が必要となり、しかも透明基板の表面やパネル自体に対してダメージを与えるおそれがある。
【0008】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、透明基板の表面にこびりついた粘着剤や接着剤その他の有機物質やカレットを含む固形異物等を、パネルに対してダメージを与えずに、確実に洗浄し除去できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、第1の発明によるパネルの洗浄方法は、硬化した粘着剤または接着剤からなる有機物質を含む汚損物が表面に付着しているパネルを洗浄して汚損物質を除去するために、パネルの汚損表面に向けてスチームを噴射させて、このスチームにより少なくとも固化した有機物を膨潤化させるスチーム噴射工程と、前記パネルのスチームと接触させた表面に洗浄液を流すと共にブラシで擦動することによって、膨潤化させた表面の汚れを除去するブラシ洗浄工程と、前記パネルのすすぎ及び乾燥工程とからなることを特徴とするものである。
【0010】
また、第2の発明は、相互に接合された2枚の透明なガラス基板を含むパネルの表裏両面に、それぞれフィルムからなる薄膜が粘着剤または接着剤により貼り付けられており、これらの薄膜の貼り付け精度を検査して、貼り付け不良であると判断したときに、このパネルに薄膜を貼り直すために、薄膜を剥離した後に、このパネルを清浄化するパネルの洗浄方法であって、前記薄膜を剥離した後の前記ガラス基板の表面に付着している粘着剤または接着剤を含む固化した有機物質を膨潤化させ、かつ前記ガラス基板への固着強度を低下させるために、前記ガラス基板に表面にスチームを噴射させるスチーム噴射工程と、前記パネルの汚損表面をブラシ洗浄することによって、表面の汚れを除去するブラシ洗浄工程と、汚れを除去した前記パネルのすすぎ及び乾燥を行う工程とを含むものである。
【0011】
さらに、第3の発明は、パネルの洗浄装置に関するものであり、パネルを搬送する搬送手段と、スチーム発生器と、このスチーム発生器に接続した配管と、この配管に接続されて、前記パネルの汚損された面に向けてスチームを噴射させるスチームノズルとからなり、前記パネルの表面にスチームを噴射させるスチーム噴射装置と、前記パネルのスチームが噴射された面に対して、洗浄液を供給しながら擦動するブラシ洗浄するブラシ洗浄手段とから構成したことを特徴としている。
【0012】
本発明におけるパネルはFPDを構成するLCD,PDP,有機ELパネル等であり、その表面に形成したフィルム等の薄膜の貼り付け時に発生した欠陥、つまり異物の挟み込み、気泡の巻き込み等といった欠陥が存在する場合には、この薄膜を剥離した後、パネルの表面にこびりついている粘着剤や接着剤からなる固着剤を含む有機物質及びカレットを含む固形異物等を除去するが、本発明はこのような薄膜を剥離した後のパネルの洗浄方法及び洗浄装置に関するものである。ここで、パネルの一例として、LCD、つまり液晶パネルの場合には、その表裏両面に偏光膜が貼り付けられる。そして、このようにして洗浄したパネルを用いてフラットパネルディスプレイを製造する方法も本発明の対象としている。そこで、以下の説明においては、フラットパネルディスプレイの一例として、LCDパネルであって、貼り付けられる薄膜は偏光膜とし、さらに偏光膜は接着剤を用いてパネルを構成する透明基板に固着しているものとして説明する。ただし、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0013】
パネルを洗浄するに当っては、パネルの表面にこびりついている有機物質を、スチームを噴射して、その潜熱の作用によって、膨潤化させると共に固着強度を低下させる。パネルに作用させるスチームの温度としては、できるだけ高い方が望ましいが、スチーム温度をあまり高くすると、消費エネルギが膨大になってしまう。一方、あまり低い温度では接着剤の膨潤化による固着強度の低下という機能が十分果たさなくなる。従って、偏光膜の接着に用いられる一般的な接着剤が硬化したときに、それを膨潤化させてブラシによる擦動で除去できる程度にまで固着強度を低下させることができる温度、即ち80℃〜120℃程度とするのが望ましく、より具体的には90℃前後の温度とすることがさらに望ましい。このスチームの温度を正確に管理するために、必要に応じて、スチーム発生器からスチームノズルまでの間の配管に2次加熱手段を設けることもできる。また、パネルのスチームとの接触時間は3〜10秒程度で良い。
【0014】
ところで、溶剤を用いれば、乾燥・硬化した接着剤を容易に溶解させて、除去することができる。しかしながら、例えばLCDにあっては、両透明基板間に液晶を封入するシール材が介在しており、溶剤はこのシール材等にも作用することになって、シール材の劣化を来たすことから、溶剤の使用は避ける。洗剤についても同様であるが、低濃度に希釈した洗剤であれば、スチーム発生器に水と共に充填することも可能である。
【0015】
偏光膜を剥離した後のパネルは搬送手段により搬送されて、洗浄装置に導入されることになるが、まず前処理段階として、好ましくは搬送中の基板に対して温水のジェット噴射を行う。これによって、透明基板上に固着している接着剤を含む有機物質が加温及び加湿されて、ある程度まで軟化させることができる。
【0016】
パネルは固定的に保持することもできるが、搬送手段によりパネルを搬送する間に洗浄処理を行うのが望ましい。従って、パネルは搬送手段により前述した前処理ステージからスチームを噴射するステージに送り込まれ、スチームノズルと対面する位置まで搬送される。そこで、スチームノズルから噴射されるスチームがパネルの表面と接触する。このスチームにより透明基板に付着している有機物質は、接着剤を含めて、膨潤化すると共に、固着強度が低下することになり、透明基板から遊離しやすい状態となる。勿論、スチームだけで透明基板の表面から有機物質を除去することも考えられるが、そうすると膨大なエネルギを消費することになる。このために、スチームの噴射だけで有機物質を除くのではなく、後述するブラシ洗浄と併用してパネルの洗浄を行う。このスチームの噴射は、顕熱を作用させる温水ジェット噴射とは異なり、スチームの噴射による蒸発潜熱が接着剤等の有機物質に直接作用することになるから、透明基板からの遊離を促進される。
【0017】
スチームを噴射した後に次のブラシ洗浄ステージに移行させて、またはスチームを噴射するステージに保持させて、スチームを噴射しながらブラシにより透明基板の表面を擦動することによって、遊離した有機物質を除去する。ここで、透明基板に付着しているカレット等の固形異物は、ほぼ接着剤に混入されるから、ブラシの擦動によりこれら固形異物は接着剤と共に透明基板の表面から除去されることになる。ここで、ブラシの擦動時には、このブラシと透明基板との接触部に給水するが、この給水時に希釈した洗剤を混合させても良い。そして、透明基板がガラスである場合には、ブラシとしてはスチールブラシを用いることができる。一方、透明基板が合成樹脂から形成されている場合には、表面に傷が付かないようにするために、ある程度柔軟な刷毛または布等でブラシを構成する。
【0018】
パネルには、偏光膜が表裏両面に貼り付けられるが、一方側の偏光膜には欠陥があるために剥離されているものの、他方の偏光膜にはこのような欠陥がない場合には、欠陥のない偏光膜は貼り付けられたまま残して、欠陥のある側のみを剥離して、この面に残存する接着剤を含む汚損物をスチーム洗浄するのが望ましい。ここで、スチームの熱が偏光膜に作用すると、この偏光膜が収縮したり、変形したりする等のダメージを受けるおそれがある。このような場合には、スチーム洗浄時の熱がパネルの他側面に貼り付けられた偏光膜に及ばないようにする。このためには、偏光膜を貼り付けた面に冷却水のシャワーを噴射させて、スチームの熱が及ぶのを防止する。従って、パネルの搬送経路において、スチームノズルが臨んでいる部位には、パネルの反対側を冷却するための冷却手段、例えば冷却水または冷却風からなる冷却用流体を噴射するノズルを対向配設して、パネルの片面にスチームが噴射される際に、反対側の面に貼り付けられている偏光膜に冷却水を供給するのが望ましい。
【0019】
洗浄対象とするパネルには、表面側の偏光膜に欠陥があるために取り除かれ、裏面側には偏光膜が残されているものと、裏面側の偏光膜に欠陥があるために取り除かれて、表面側の偏光膜が残されているものとがあり、また両面の偏光膜が取り除かれているものもある。これらのいずれにも対処できるようにするには、パネルの搬送方向の前後の位置において、スチームノズルを上下に配置する。また、このスチームノズルと冷却手段とを組み合わせて用いる場合には、これらスチームノズルと冷却手段との対を2組設け、それぞれのスチームノズルと冷却手段との位置関係を上下逆にする。そして、パネルにおける汚損物が固着している面にスチームを噴射させ、また必要に応じてスチームが噴射されていない面には冷却用流体を供給する。
【0020】
ブラシ洗浄が終了した後には、パネルはすすぎ工程に導かれて、パネルの付着物は完全に除去され、さらに乾燥される。これによって、パネルは偏光膜の再貼り付けが可能な状態になる。
【発明の効果】
【0021】
パネルを構成する透明基板の表面にこびりついている粘着剤または接着剤を含む有機物質やカレットを含む固形異物等を、パネルに対してダメージを与えずに、迅速かつ確実に、しかも円滑に除去できるように洗浄できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態では、LCDを構成するパネルに偏光膜を接着剤により貼り付けたときに、パネルを構成する透明なガラス基板と偏光膜との間に異物が混入したり、気泡が巻き込まれたりして欠陥を生じているときに、この欠陥のある偏光膜を剥離し、次いでガラス基板の表面から汚損物、特に接着剤等の有機物質や、カレット等の粒子を完全に除去できるように洗浄するものとして説明する。
【0023】
まず、図1にLCDのパネル1の構成を示す。パネル1は、シール材を介して接合された2枚の透明ガラス基板2,3を含む積層構造のものであり、ガラス基板2,3のうち、一方側のガラス基板、つまり裏面側のガラス基板2には多数の画素電極及び駆動トランジスタからなる透明導電膜4が積層されており、表面側のガラス基板3にはカラーフィルタ5及び対向電極6が積層されている。そして、これら2枚のガラス基板2,3の間のセルギャップには液晶が封入されており、この液晶封入空間はシール材により密閉している。さらに、パネル1を構成する表面側及び裏面側のガラス基板2,3の外面側には偏光膜7,8が積層される。
【0024】
偏光膜7,8は、ガラス基板2,3に積層される側の面には接着剤が塗布されており、この接着剤を介してガラス基板2,3に接着・固定される。偏光膜7,8とガラス基板2,3の表面との間にガラス基板2,3の切断時に発生するカレットを含む固形異物や有機物質が介在していたり、気泡が巻き込まれていたりすると、たとえそれらが極めて微小なものであっても欠陥となり、その偏光膜を剥離した上で、ガラス基板の表面を洗浄して、接着剤を含む有機物質及びカレット等の固形異物からなる汚損物を除去するように洗浄し、再度偏光膜8を貼り付けることによって、パネル1をリペアする。ここで、偏光膜の剥離は、例えば手作業でパネル1から引き剥がすことができる。
【0025】
その後、偏光膜を剥離したパネル1の表面を洗浄することにより汚損物を除去する。このためのパネル洗浄装置のステージ構成を図2に示す。ここで、例示したパネル1には、そのガラス基板3の偏光膜8が剥離され、ガラス基板2側に貼り付けた偏光膜7は欠陥がないために、そのまま残しておく。つまり、洗浄されるのは、ガラス基板3の表面であって、ガラス基板2側は洗浄の必要はない。
【0026】
パネル1はローラコンベアからなる搬送手段10によって、図2に矢印で示した方向に搬送されるようになっている。ここで、パネル1は搬送手段10において、搬送経路Cに沿って水平搬送されるようになっており、かつ偏光膜が剥離されて、表面に汚損物が付着しているガラス基板3の表面が上側に向けられているものとする。なお、パネル1の搬送時の姿勢は必ずしも水平状態とする必要はなく、傾斜搬送乃至垂直状態で搬送することもできる。また、必ずしも汚損されている表面を上向きにする必要はない。
【0027】
パネル洗浄装置における最初のステージは、温水ジェット噴射ステージ11である。このステージ11には、搬送手段10による搬送経路Cの上下に1または複数の温水噴射ノズル12,12が装着されている。ここで、温水噴射ノズル12からは、パネル1の表面または裏面の全面に対して、例えば50〜60℃程度に加熱した温水を所定の噴射圧で噴射させるようにしている。ここで、温水噴射ノズル12は上下に配置されているが、温水を噴射させるのは、パネル1の汚損されている側であるから、少なくとも上部位置の温水噴射ノズル12のみが設けられておれば良い。この温水ジェット噴射ステージ11は前処理ステージであって、必須ではないが、接着剤を加温及び加湿することで、汚損物の除去の迅速化が図られる。
【0028】
温水ジェット噴射ステージ11を通過したパネル1は、次に、スチーム噴射ステージ13に搬入される。このスチーム噴射ステージ13では、スチームノズル14が設けられており、このスチームノズル14からパネル1に向けて所定温度のスチームが噴射される。このようにして噴射されたスチームはパネル1のガラス基板3に作用することになり、このスチームによる潜熱によって、このガラス基板3の表面にこびりついている汚損物である接着剤を含む固形化した有機物質を膨潤化させると共に、接着剤の固着強度が低下して、ガラス基板3から遊離するか、少なくとも遊離しやすい状態になる。ここで、スチームの温度は、汚損物の除去能力と消費エネルギとを勘案して、概略90℃前後とする。
【0029】
このために、図3に示したように、スチームノズル14に接続した配管15の他端はスチーム発生器16に接続されており、このスチーム発生器16にはヒータ16aが内蔵されており、このヒータ16aによってスチーム発生器16内の水が加熱されて、蒸気を発生させる。そして、配管15には開閉弁17が設けられており、搬送手段10による搬送経路Cの途中位置には通過センサ18が設けられており、パネル1がこの通過センサ18の位置を通過した後に、開閉弁17が開いて、スチームノズル14からスチームが噴射されることになる。
【0030】
ここで、パネル1に噴射されるスチームは90℃という高温であるために、ガラス基板2に貼り付けられている偏光膜7に熱が作用すると、この偏光膜7に熱収縮を生じるおそれがある。この点を考慮して、スチームノズル14と対向するように、冷却水噴射ノズル19を設けて、パネル1がスチームノズル14と対面する位置まで搬送されたときに、この冷却水噴射ノズル19からガラス基板2に貼り付けられている偏光膜7に向けて冷却水を噴射させる。ただし、スチームの温度と偏光膜7の耐熱性との関係によっては、つまり偏光膜7が噴射されたスチームの影響で変形や収縮等を起こさない場合には、冷却水噴射ノズル19は設けなくても良い。
【0031】
なお、スチームの温度はパネル1との接触時のものであり、このときには断熱膨張による温度降下が生じることを考慮して、図4に示したように、ヒータ160aを付設したスチーム発生器160からの配管150の途中における開閉弁170より手前側の位置に2次加熱手段としてのヒータ100を設け、またスチームノズル140に温度センサ(図示せず)を付設して、この温度センサにより噴射後のスチームの温度を検出して、スチームの温度が設定温度より低下するときには、ヒータ100により2次加熱を行うこともできる。
【0032】
さらに、パネル1のスチームとの接触時間は、搬送手段10によるパネル1の搬送速度により制御することができる。具体的には、パネル1がスチームと5秒程度接触できる程度の速度で搬送するのが望ましい。
【0033】
スチームの噴射によって、ガラス基板3の表面に付着している接着剤を含む汚損物が膨潤化され、かつ固着強度が低下して、ガラス基板3から容易に遊離し得る状態で、ブラシ洗浄ステージ20に移行する。このブラシ洗浄ステージ20には、例えば回転軸にブラシとして多数の金属線材を植設したロール式のブラシ21が装着されており、このブラシ21によりパネル1のガラス基板3が擦動される。このときに、洗浄水をブラシ21に供給するのが望ましい。また、洗浄水には希釈された洗剤を混合すると、汚損物の洗い流しが促進される。ここで、ガラス基板3に付着している有機物質は、接着剤を含めて、前ステージのスチーム噴射ステージ13によるスチームの作用により容易に落ちる状態となっており、またブラシ21は固形異物の除去機能も有することから、この段階でパネル1から接着剤を含む有機物質及びカレット等の固形異物は完全に除去される。特に、ガラス基板3には、一度偏光膜8が接着剤により貼り付けられているから、カレットは微細なものを含めて、接着剤側に付着することになるので、ガラス基板3から接着剤を除去すると、カレットも同時に取り除かれることになる。
【0034】
ブラシ洗浄ステージ20を経たパネル1は、リンスステージ22に移行して、シャワー23から噴射されるリンス液により洗浄水や洗剤等を洗い流し、さらに乾燥ステージ24に移行して、パネル1が乾燥される。ここで、乾燥ステージ24には、乾燥手段の一例としてエアナイフノズル25が設けられており、このエアナイフノズル25の作用で、パネル1の表裏両面から水分を剥離するようにして乾燥される。
【0035】
ところで、パネル1には、前述したガラス基板3が偏光膜8を剥離することにより汚損物が付着しており、ガラス基板2側には偏光膜7が貼り付けられたまま残されている場合だけでなく、これとは逆にガラス基板2側の偏光膜7が剥離され、ガラス基板3側は偏光膜8が貼り付けられたまま残されている場合がある。さらに、パネル1の表裏両側のガラス基板2,3から偏光膜7,8が剥離された場合もある。
【0036】
これら3つの場合に対処するためには、図5に示したようなスチーム噴射ステージ30を設ける。即ち、搬送手段10による搬送経路Cにおいて、スチームノズルと冷却水噴射ノズルとの対を2組設ける。そして、一方の対(例えば搬送方向の上流側)では、スチームノズル31Uが上方側、冷却水噴射ノズル32Uが下方側に配置される。また、他方の対(搬送方向の下流側)では冷却水噴射ノズル32Dを上方側、スチームノズル31Dを下方側に配置している。従って、上面側のガラス基板が汚損されているパネル1が搬送手段10により搬送されている場合には、搬送方向上流側のスチームノズル31Uと冷却噴射ノズル32Uとを作動させ、また下面側のガラス基板が汚損されている場合には、搬送方向下流側のスチームノズル31D,冷却水噴射ノズル32Dを作動させる。以上の作動は、前述した第1の実施の形態で説明したと同様である。
【0037】
パネル1の両ガラス基板2,3から偏光膜7,8を剥離した場合には、搬送手段10に搬送されて、スチーム噴射ステージ30に導入されたときに、まず搬送方向上流側のスチームノズル31Uと冷却噴射ノズル32Uとを作動させて、上方を向いた表面側のガラス基板3の汚損物にスチームを作用させる。次いで、パネル1が搬送方向下流側のスチームノズル31D,冷却水噴射ノズル32Dと対面する位置に到達すると、これらスチームノズル31D,冷却水噴射ノズル32Dを作動させて、裏面側のガラス基板2の表面の汚損物にスチームを作用させる。
【0038】
このように、スチームノズル31Uと31Dからのスチームの噴射については、それぞれ独立に制御しなければならないので、これらスチームノズル31U,31Dからの配管33U,33Dを開閉弁ユニット34から共通配管35を介してスチーム発生器36と接続する。そして、搬送されるパネル1に応じて、開閉弁ユニット34によりスチームノズル31Uと31Dとのうち、いずれか一方または両方からスチームを噴射させるように制御する。
【0039】
そして、洗浄処理が行われるのは、パネル1の表面側でもあり、また裏面側でもあり、さらには両面もあることから、スチーム噴射ステージ30の前段階の処理を行う温水ジェット噴射ステージには上下に温水噴射ノズルを設けるようにする。また、スチーム噴射工程の後段の処理ステージであるブラシ洗浄ステージには、上下にそれぞれ1または複数のブラシ37を設けるようにする。そして、パネル1の両面を擦動する場合には、上下に配置した両方のブラシ37を作用させるが、いずれか片面をブラシ37で擦動する際には、反対側のブラシ37はパネル1から離間する位置に退避できる構成とする。このために、ブラシ37は昇降部材38に取り付けるようになし、この昇降部材38を上下動させることによって、ブラシ37をパネル1に作用する位置と、それから退避する位置とに変位できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】フラットパネルディスプレイの一例としての液晶パネルの積層構造を示す構成説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示すパネル洗浄装置のステージ構成を示す説明図である。
【図3】図2のステージ構成において、スチーム噴射ステージの具体的な一例を示す構成説明図である。
【図4】図3のスチーム噴射ステージの変形例を示す構成説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示すパネル洗浄装置のスチーム噴射ステージの構成説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 パネル
2,3 ガラス基板
7,8 偏光膜
10 搬送手段
11 温水ジェット噴射ステージ
12 温水噴射ノズル
13,30 スチーム噴射ステージ
14,31U,31D,140 スチームノズル
16,36,160 スチーム発生器
16a,100 ヒータ
19,32U,32D 冷却水噴射ノズル
20 ブラシ洗浄ステージ
21,37 ブラシ
22 リンスステージ
24 乾燥ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化した粘着剤または接着剤からなる有機物質を含む汚損物が表面に付着しているパネルを洗浄して汚損物質を除去する方法であって、
パネルの汚損表面に向けてスチームを噴射させて、このスチームにより少なくとも固化した有機物を膨潤化させるスチーム噴射工程と、
前記パネルのスチームと接触させた表面に洗浄液を流すと共にブラシで擦動することによって、膨潤化させた表面の汚れを除去するブラシ洗浄工程と、
前記パネルのすすぎ及び乾燥工程と
からなることを特徴とするパネルの洗浄方法。
【請求項2】
前記スチーム噴射工程の前に、この汚損表面に対して温水をジェット噴射させることを特徴とする請求項1記載のパネルの洗浄方法。
【請求項3】
前記パネルの一面側が汚損されているときに、この汚損側の表面にスチームを噴射させ、かつこのスチームが噴射される面とは反対側の面には冷却水または冷却風を噴射させることを特徴とする請求項1または請求項2記載のパネルの洗浄方法。
【請求項4】
前記スチーム噴射工程では前記パネルの両面にスチーム噴射を行い、前記ブラシ洗浄工程ではこのパネルの両面に対してブラシによる擦動を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載のパネルの洗浄方法。
【請求項5】
相互に接合された2枚の透明なガラス基板を含むパネルの表裏両面に、それぞれフィルムからなる薄膜が粘着剤または接着剤により貼り付けられており、これらの薄膜の貼り付け精度を検査して、貼り付け不良であると判断したときに、このパネルに薄膜を貼り直すために、薄膜を剥離した後に、このパネルを清浄化するパネルの洗浄方法であって、
前記薄膜を剥離した後の前記ガラス基板の表面に付着している粘着剤または接着剤を含む固化した有機物質を膨潤化させ、かつ前記ガラス基板への固着強度を低下させるために、前記ガラス基板に表面にスチームを噴射させるスチーム噴射工程と、
前記パネルの汚損表面をブラシ洗浄することによって、表面の汚れを除去するブラシ洗浄工程と、
汚れを除去した前記パネルのすすぎ及び乾燥を行う工程と
を含むことを特徴とするパネルの洗浄方法。
【請求項6】
前記スチーム噴射工程の前段階処理として、前記パネルの少なくとも汚損表面に温水ジェット噴射を行うことを特徴とする請求項5記載のパネルの洗浄方法。
【請求項7】
パネルを搬送する搬送手段と、
スチーム発生器と、このスチーム発生器に接続した配管と、この配管に接続されて、前記パネルの汚損された面に向けてスチームを噴射させるスチームノズルとからなり、前記パネルの表面にスチームを噴射させるスチーム噴射装置と、
前記パネルのスチームが噴射された面に対して、洗浄液を供給しながら擦動するブラシ洗浄するブラシ洗浄手段と
からなることを特徴とするパネルの洗浄装置。
【請求項8】
前記スチーム発生器からの配管に、その内部を通るスチームを加熱する2次加熱手段を備える構成としたことを特徴とする請求項7記載のパネルの洗浄装置。
【請求項9】
前記パネル搬送手段によるパネルの搬送経路の前記スチーム噴射装置を配置した側とは反対側に、このパネルに冷却用流体を噴射する冷却ノズルを配置する構成としたことを特徴とする請求項7または請求項8記載のパネルの洗浄装置。
【請求項10】
前記スチームノズルは前記搬送手段による前記パネルの搬送経路の前後の位置に2箇所設けられ、一方のスチームノズルは前記パネルの上方からスチームを噴射するものであり、他方のスチームノズルは前記パネルの下方からスチームを噴射するものであることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載のパネルの洗浄装置。
【請求項11】
前記パネルの上方からスチームを噴射させる前記一方のスチームノズルには、前記搬送経路を挟んで下方位置に冷却ノズルを対向配設し、また前記パネルの下方からスチームを噴射させる前記他方のスチームノズルには、前記搬送経路を挟んで上方位置に冷却ノズルを対向配設する構成としたことを特徴とする請求項10記載のパネルの洗浄装置。
【請求項12】
前記ブラシ洗浄手段を構成するブラシは、前記パネルの表裏両面を擦動可能とするために、前記搬送手段の搬送経路を挟んで上下に配置されており、これら両ブラシは前記パネルに対して擦動可能な作動位置と、前記パネルに対して非接触状態となる退避位置とに変位可能な構成としたことを特徴とする請求項10または請求項11記載のパネルの洗浄装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のパネルの洗浄方法により洗浄したパネルを用いてフラットパネルディスプレイを製造することを特徴とするフラットパネルディスプレイの製造方法。
【請求項14】
請求項8乃至請求項12のいずれかに記載のパネルの洗浄装置により洗浄したパネルを用いてフラットパネルディスプレイを製造することを特徴とするフラットパネルディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−212862(P2008−212862A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55333(P2007−55333)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】