説明

パルス中性子透過法による非破壊分析方法及び装置

【課題】 核種を同定できると共に含有量を定量化できるようにする。
【解決手段】 分析対象試料18に、外部中性子源からパルス中性子を照射し、透過する中性子のエネルギー分布を中性子検出器22で検出し、飛行時間測定法によって核種毎に依存する中性子共鳴ピークの凹みを観測することにより、前記試料中に含まれる核種の同定と含有量の定量を行う。分析対象試料を1次元あるいは2次元の試料駆動台16に載せて、試料を移動してコリメートされたパルス中性子を照射し、遮蔽体によりバックグラウンドを除去した状態で透過中性子を中性子検出器によって測定すると、試料中に含まれる核種の種類と含有量の位置依存性も求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス中性子透過法による非破壊分析方法及びそれに用いる装置に関し、更に詳しく述べると、パルス中性子を分析対象試料に照射し、透過する中性子のエネルギー分布を飛行時間測定法によって測定することにより、非破壊で核種と量を分析する技術に関するものである。この技術は、例えば核燃料の検査や原子力分野で使用する再処理機器などの非破壊分析などに有用である。また、本発明は医療分野や材料分野などにおける非破壊分析にも利用可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、低除染燃料中のマイナーアクチニド(MA)含有量や照射済み燃料の燃焼度を非破壊且つ高精度で分析するニーズが高まっている。核燃料物質の非破壊分析技術として、熱中性子を分析対象試料に照射し、この分析対象試料に含まれる核分裂性物質の核分裂反応により放出される即発中性子の強度を測定する一方、分析対象試料を透過する前の熱中性子の強度と透過した後の熱中性子の強度を測定して透過率を求め、この透過率により上記即発中性子強度を補正し、補正後の即発中性子強度から核分裂性物質量を求める方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、熱中性子は平均エネルギーが20〜50meV程度であり、従来の非破壊分析技術は中性子のエネルギーを測定するものではないため、核分裂性物質の量を求めることはできても、核種を区別することはできない。また、放射能の強い環境下での核燃料物質の分析は困難である。
【特許文献1】特開平2−222828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術では核種を同定できない点である。また本発明が解決しようとする他の課題は、核種の種類と含有量だけでなく、その位置依存性も求めることができるようにすること、あるいは放射能の極めて強い環境下での核燃料物質の高精度分析を非破壊且つ遠隔で行えるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、分析対象試料に、パルス中性子を照射し、透過する中性子のエネルギー分布を飛行時間測定法によって核種毎に依存する中性子共鳴ピークの凹みを観測することにより、前記試料中に含まれる核種の同定と含有量の定量を行うようにしたことを特徴とするパルス中性子透過法による非破壊分析方法である。
【0006】
ここで、分析対象試料を1次元あるいは2次元の試料駆動台に載せ、該試料を移動してコリメートされたパルス中性子を照射し、遮蔽体によりバックグラウンドを除去した状態で透過中性子を中性子検出器によって測定すると、前記試料中に含まれる核種の種類と含有量の位置依存性を求めることができる。
【0007】
本発明は様々な材料や機器の分析に適用できるが、典型的な分析対象試料は、固体状あるいは液体状の核燃料物質である。粉末状あるいは液体状の核燃料物質の場合には、それらを試料容器に収容して測定を行う。
【0008】
また本発明は、パルス電子線を発生する電子線加速器と、そのパルス電子線照射によりパルス中性子を発生するパルス中性子発生用ターゲットと、発生したパルス中性子をコリメートする第1の遮蔽体と、分析対象試料を載せる1次元あるいは2次元の試料駆動台と、試料を透過した透過中性子のみの透過を許容する第2の遮蔽体と、その透過中性子を検出する中性子検出器を具備しているパルス中性子透過法による非破壊分析装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るパルス中性子透過法による非破壊分析技術は、パルス中性子を分析対象試料に照射し、透過する中性子のエネルギー分布を飛行時間測定法で計測するものであるから、分析対象試料に含まれる核種の種類と量を非破壊で精度よく分析することが可能となる。また、分析対象試料を1次元あるいは2次元の試料駆動台に載せ、移動させながら測定するように構成すると、核種の種類と量のみならず、その位置依存性も求めることが可能である。
【0010】
更に本発明は、外部の中性子源で発生するパルス中性子を遮蔽体により分析対象試料の前後でコリメートするため、透過中性子は効率よく通るものの、分析対象試料からの放射線は遮蔽することができる。そのため、従来技術では困難であった放射能の極めて強い環境下での核燃料物質の分析を非破壊で且つ遠隔で行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るパルス中性子透過法による非破壊分析装置の概略構成を図1に示す。小型の電子線加速器10によりパルス電子線を発生させる。このパルス電子線をパルス中性子発生用ターゲット12に照射して、パルス中性子を発生させる。パルス中性子発生用ターゲット12としては、TaやWなどの原子番号が大きく且つ融点の高い重金属を用いる。このパルス中性子発生用ターゲット12中では、パルス電子線照射による制動放射過程によりガンマ線が発生し、このガンマ線によって該ターゲット中で光核反応により広いエネルギー分布をもつ中性子が発生する。この中性子のエネルギー分布は、分析に最適となるように重金属の周りに配した水などで減速し、調整する。このようにして、中性子の共鳴エネルギー領域に十分な強度を持つエネルギー分布のパルス中性子が発生する。因みに、従来技術で用いていた熱中性子は平均エネルギーが20〜50meV程度であるのに対して、本発明で用いる最適化した中性子の平均エネルギーは10〜50keV程度と大きく異なる。
【0012】
発生したパルス中性子を、第1の遮蔽体14でコリメートし、試料駆動台16の上に載せた分析対象試料18に照射する。分析対象試料18は、典型的には試料容器に収容された粉末状あるいは液体状の核燃料物質である。分析対象試料18を透過した透過中性子のみが透過するように、第2の遮蔽体20を設け、その透過中性子を中性子検出器22で検出する。第1及び第2の遮蔽体14,20としては、コンクリート、鉛、(ボロン入り)ポリエチレンブロックなどを組み合わせて構成する。中性子検出器22としては、例えばLi−6シンチレーション検出器や比例計数管(BF3 やHe−3検出器)などが使用できる。
【0013】
分析は、透過中性子のエネルギー分布を飛行時間測定法で測定することにより行う。パルス中性子の発生時点を起点とし、中性子が観測された時点を終点とする時間間隔により中性子の速度が求まり、これにより中性子エネルギーを決定する。分析対象試料中に含まれる核種に応じて中性子の共鳴エネルギーが異なることを利用して核種が同定される。
【0014】
また、共鳴エネルギーにおいて、中性子の減衰が試料に含有される核種の量に依存することを利用して、含有量を定量化することができる。入射する中性子の数をN0 、透過する中性子の数をNとすると、試料中の核種の単位断面積当たりの個数aと原子核の全断面積sを用いて、
N=N0 exp(−a・s) …(1)
の関係が成り立つ。sは既知の核データ値なので、N、N0 を計測することにより、aが求まる。
【0015】
ここで、試料駆動台16により分析対象試料18を上下左右に移動させることにより、該試料中に含まれる核種の種類と含有量の位置依存性を求めることができる。第2の遮蔽体20は、ガンマ線及び中性子を遮蔽するものであり、バックグラウンドを除去し、測定精度を高めるために設置されている。
【0016】
ところで、従来技術で用いている熱中性子のエネルギー分布(20〜50meV程度)では、エネルギーが低すぎ共鳴エネルギー以下であるため、共鳴ピークの凹みを観測できない。また、従来技術では、中性子のエネルギーを測定しないため、そもそも共鳴ピークによる凹みの観測はできない。それに対して本発明では、最適化する中性子の平均エネルギーは10〜50keV程度と大きく、しかも飛行時間測定法を利用しているため、共鳴ピークの凹みを観測でき、中性子のエネルギーを測定することができる。
【0017】
測定により得られる中性子エネルギー分布スペクトルは、例えば図2のようになる。横軸に中性子エネルギー、縦軸に中性子束分布をとったとき、照射する中性子のエネルギー分布スペクトルに対して、試料を透過した中性子のエネルギー分布スペクトルは共鳴ピークによる凹みが観測される。この凹みの位置から核種を同定し、凹みの深さによってその核種の含有量を特定する。
【実施例】
【0018】
本発明方法による測定結果の一例を図3に示す。ここで用いた分析対象試料は、Mn,Co,Ag,In,Cdを含む混合試料である。Mn−55同位体は、336eVに大きな中性子共鳴ピークが存在することが分かっているが、このエネルギー位置に大きな凹みが観測されている。図2の横軸は、中性子発生から中性子検出までの時間間隔であり中性子エネルギーに相当する。縦軸はチャンネル毎の計数値であり中性子束分布に相当する。Mn−55以外の他の核種に対しても、固有の中性子共鳴ピークの位置に凹みが観測されている。
【0019】
また、Ag−109同位体では、5.19eVに存在する大きな共鳴ピークの他にも、30.4eVや40.1eVに小さな共鳴ピークが存在する。分析対象核種の量が大きすぎる場合には、大きな共鳴ピークでは凹みが飽和するため含有量の定量化が困難となるが、このような場合でも小さな共鳴ピークを利用することにより定量化が可能となる。前記の(1)式で、a・sが1よりも遙かに大きくなると、Nはほぼゼロとなるため、aの下限値しか求まらない。1つの核種にはsの小さなものから大きなものまで多くの共鳴状態が存在する。よって、aが非常に大きな試料については、sの小さな共鳴ピークを用いることで、定量化が可能となるのである。これらによって、どの核種がどれだけ含まれているかを求めることができる。
【0020】
ところで、分析対象試料が照射済み核燃料物質の場合、試料からの強い放射能は等方的に放出される。本発明方法によれば、外部中性子源で発生するパルス中性子を第1及び第2の遮蔽体により試料の前後でコリメートするため、透過中性子は効率よく通るものの、試料からの放射線を遮蔽することができる。従って、従来困難であった放射能の極めて強い環境下での核燃料物質の分析を、非破壊且つ遠隔で、高精度で行うことができる。また中性子検出器も小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るパルス中性子透過法による非破壊分析装置の概念図。
【図2】エネルギー分布の説明図。
【図3】測定結果の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0022】
10 電子線加速器
12 パルス中性子発生用ターゲット
14 第1の遮蔽体
16 試料駆動台
18 分析対象試料
20 第2の遮蔽体
22 中性子検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象試料に、パルス中性子を照射し、透過する中性子のエネルギー分布を飛行時間測定法によって核種毎に依存する中性子共鳴ピークの凹みを観測することにより、前記試料中に含まれる核種の同定と含有量の定量を行うようにしたことを特徴とするパルス中性子透過法による非破壊分析方法。
【請求項2】
分析対象試料を1次元あるいは2次元の試料駆動台に載せ、該試料を移動してコリメートされたパルス中性子を照射し、遮蔽体によりバックグラウンドを除去した状態で透過中性子を中性子検出器によって測定することにより、前記試料中に含まれる核種の種類と含有量の位置依存性を求める請求項1記載のパルス中性子透過法による非破壊分析方法。
【請求項3】
分析対象試料が、固体状あるいは液体状の核燃料物質である請求項1又は2記載のパルス中性子透過法による非破壊分析方法。
【請求項4】
パルス電子線を発生する電子線加速器と、そのパルス電子線照射によりパルス中性子を発生するパルス中性子発生用ターゲットと、発生したパルス中性子をコリメートする第1の遮蔽体と、分析対象試料を載せる1次元あるいは2次元の試料駆動台と、試料を透過した透過中性子のみの透過を許容する第2の遮蔽体と、その透過中性子を検出する中性子検出器を具備しているパルス中性子透過法による非破壊分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−10356(P2006−10356A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184237(P2004−184237)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【Fターム(参考)】