説明

パワーウインドウ装置

【課題】 算出処理時間のかからない簡単な方法で、電気式駆動手段が発熱したか否かをより忠実に検出することができるパワーウインドウ装置を提供する。
【解決手段】 パワーウインドウ装置1のROM12には、CPU11が温度カウンタ22のカウント値を加減算する際の加算値及び減算値を、温度演算のその時々の駆動モータ5の状態に応じた値で複数記憶したマップ23が組み込まれている。CPU11は、バッテリ電圧+B、モータ通電状態、モータ作動状態及びその時の温度カウンタ22のカウント値をパラメータとして、その時の駆動モータ5の条件に見合った加算値又は減算値を選定し、その加算値又は減算値を基に温度カウンタ22のカウント値を加算又は減算することにでモータ温度を算出する。CPU11は算出したカウント値が閾値以上になったと判断すると、駆動モータ5の発熱を抑えるべく駆動モータ5への通電を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作手段の開閉操作により窓部材を自動で昇降させるパワーウインドウ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、ドアのウインドウガラスを自動で昇降(開閉)させるべくパワーウインドウ装置が搭載されている。パワーウインドウ装置は、車内(例えばドア内側面)に設置された昇降スイッチが操作されると、同装置のECU(Electric Control Unit) がDCモータ等の駆動モータを駆動してウインドウガラスを昇降させる装置である。例えば、昇降スイッチが下降操作されると、駆動モータが正転してウインドウガラスが下降し、ウインドウガラスが開いた状態で昇降スイッチが上昇操作されると、駆動モータが逆転してウインドウガラスが上昇する。
【0003】
通常、パワーウインドウ装置1は、駆動モータ通電時に駆動モータが異常過熱しないように過熱保護機能を備えている。この過熱保護機能は、駆動モータの近傍にPTC(Positive Temperature Coefficient Thermistor) 等の過熱保護部品を取り付け、駆動モータが過熱状態になるとPTCがモータ回路に流れる電流を強制的に遮断することにより駆動モータの駆動を停止し、駆動モータの温度上昇を抑制する機能である。駆動モータの通電が遮断された場合、PTCが温度低下を検出すればパワーウインドウ装置が通常状態に復帰する。
【0004】
しかし、PTCによる過熱保護機能はECUが直接関与していないため、PTCによってモータ電流の通電が遮断された際、ECUはその通電遮断状態を認識できず、駆動モータが低温に収まるまでこの状態が続くことになる。このとき、昇降スイッチが操作されると、ECUは駆動モータに対して電流を流すが、駆動モータの回転を検出するパルスセンサからはパルス信号を入力しない状態となり、ECUはこれをフェール状態と判定してしまう。ECUはフェール状態と判定した際、パワーウインドウ装置1の機能に制限をかけるため、PTCを用いた過熱保護ではパワーウインドウ装置1の機能が低下する問題がある。
【0005】
そこで、ECUに過熱保護機能を持たせた技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1の技術では、モータに回転検出部、電圧検出部及び電流検出部を設け、これら検出部の検出値から求まるモータの回転数、印加電圧及び電流を基に、駆動モータのモータ温度(モータ巻線の巻線温度)を計算により算出する。そして、そのモータ温度が保護温度を超えた際には、駆動モータへの通電を止めて駆動モータを停止し、駆動モータの温度上昇を抑制する。
【特許文献1】特開平11−289790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、実際のモータ温度の温度上昇波形や温度下降波形には多数の変極点が存在するため、計算によりモータ温度を忠実に算出しようとすると複雑な計算式が必要になり、温度算出に時間がかかる。また、限られた時間の中で温度上昇波形や温度下降波形を計算によって忠実に算出するには限界があり、計算でモータ温度を算出した際にはモータ温度に誤差が生じる可能性は高い。また、モータ温度の温度上昇波形及び温度下降波形は、その時々のモータ周囲温度にも影響されるため、このことも計算では正確なモータ温度を導出できない要因になる。
【0007】
本発明の目的は、算出処理時間のかからない簡単な方法で、電気式駆動手段が発熱したか否かをより忠実に検出することができるパワーウインドウ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明では、窓部材を昇降する際に操作する操作手段と、前記操作手段の操作時に入力する操作信号を基に電気式駆動手段を駆動して前記窓部材を昇降する制御手段とを備えたパワーウインドウ装置において、前記電気式駆動手段の温度を算出する際に用いる加減算値を記憶したマップと、前記電気式駆動手段の通電状態、前記電気式駆動手段の作動状態、及び前記電気式駆動手段へ印加された電圧値の少なくともいずれか1つを検出する検出手段と、当該検出手段により検出された通電状態、作動状態及び電圧値を検出項目ごとにそれぞれパラメータとして前記加減算値を導き、該加減算値を基に温度カウンタのカウント値を加減算することにより前記電気式駆動手段の温度を算出する算出手段と、前記カウント値と予め設定された閾値とを比較して、前記カウント値が前記閾値以上となった際に、前記電気式駆動手段への通電を禁止する禁止手段とを備えたことを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、窓部材を昇降すべく操作手段が操作されると、操作手段がその操作信号を制御手段に出力し、制御手段が操作信号を基に電気式駆動手段を駆動して窓部材を昇降させる。このとき、算出手段は、検出手段が検出する電気式駆動手段の通電状態、作動状態及び電圧値の少なくともいずれか1つの項目をパラメータとしてマップを参照し、そのマップから導かれる加減算値を基に、自身の温度カウンタのカウント値を加減算することによって電気式駆動手段の温度を算出する。そして、禁止手段はそのカウント値と閾値とを比較し、カウント値が閾値以上となると電気式駆動手段が発熱していると判断して、電気式駆動手段への通電を禁止する。
【0010】
ところで、電気式駆動手段の温度算出が例えば計算により行うとすると、電気式駆動手段の温度波形は種々の要因が複雑に絡み合って多数の変極点をとる波形となるため、複雑な計算式が必要となる。このため、忠実に温度算出しようとすると、複雑な計算式が必要となり処理時間が長くかかり、最悪の場合には温度算出が電気式駆動手段の制御サイクルに間に合わない可能性もでてくる。
【0011】
そこで、本発明においては、複雑な計算式を用いなくとも短い時間で忠実な温度算出が可能なマップを用い、同マップを参照することで温度カウンタを増減して、そのカウント値を電気式駆動手段の温度(絶対温度)として算出する。従って、電気式駆動手段の温度算出を行うに際して算出処理に時間のかからない簡単な方法で、より忠実に電気式駆動手段が発熱したか否かを検出することが可能となり、温度算出が電気式駆動手段の制御サイクルに間に合わない状況が発生し難くなる。また、例えば計算式を用いて電気式駆動手段の温度算出を行う場合、計算式を簡素化して温度算出を制御サイクルに合わせることも可能であるが、この場合には忠実な温度値を算出することができない問題が生じる。しかし、本発明のようにマップを用いて温度算出を行えばこの種の問題も生じない。
【0012】
また、温度カウンタを用いた温度算出に際しては、電気式駆動手段の発熱や冷却に関して影響を及ぼし易い電気式駆動手段の通電状態、作動状態及び電圧値の少なくともいずれか1つをパラメータとしているため、電気式駆動手段の温度をより忠実に算出することも可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記パラメータは、前記電気式駆動手段への通電状態と、前記電気式駆動手段の作動状態と、前記電気式駆動手段へ印加された電圧値と、前記算出手段が前記電気式駆動手段の温度を算出する際の前記温度カウンタのカウント値とのうちの少なくともいずれか一つであることを要旨とする。
【0014】
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、電気式駆動手段の温度算出に際して、電気式駆動手段の通電状態、作動状態及び電圧値に加え、算出手段が電気式駆動手段の温度を算出する際の温度カウンタのカウント値もパラメータとして用いられる。従って、電気式駆動手段の温度算出に当たってパラメータが増えることになり、電気式駆動手段の温度をより一層忠実に算出することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、前記電気式駆動手段の周囲温度を検出する周囲温度検出手段を備え、前記算出手段は、前記周囲温度検出手段から求まる前記電気式駆動手段の周囲温度を、前記パラメータの一つとして前記電気式駆動手段の温度を算出することを要旨とする。
【0016】
この発明によれば、請求項2に記載の発明の作用に加え、電気式駆動手段の周囲温度を温度算出の際のパラメータとして用いるので、電気式駆動手段の温度をより一層忠実に算出することが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のパワーウインドウ装置において、前記禁止手段は、前記カウント値が前記閾値に到達する温度上昇過程で第2閾値以上になった際、前記電気式駆動手段が作動中であれば、引き続き当該電気式駆動手段への通電を許可して当該電気式駆動手段の作動を継続させ、その温度状態で当該通電が一旦停止した後であれば、その時点で前記電気式駆動手段への通電を禁止して当該電気式駆動手段の再作動を禁止することを要旨とする。
【0018】
この発明によれば、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、電気式駆動手段が発熱状態(算出温度が第2閾値以上)となっても、電気式駆動手段が作動中であれば、その時点で途中停止しない。従って、電気式駆動手段が作動途中で発熱しても、窓部材を全開状態又は全閉状態にすることが可能となり、ユーザが窓部材の開閉操作を行う際に窓部材が途中で止まってしまうような状況を発生させずに済む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、算出処理時間のかからない簡単な方法で、電気式駆動手段が発熱したか否かをより忠実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化したパワーウインドウ装置の一実施形態を図1〜図6に従って説明する。
図1は、パワーウインドウ装置1の電気構成を示す回路図である。本例のパワーウインドウ装置1は、車両2(図2参照)のサイドドア3のウインドウガラス4を、駆動モータ5の駆動力によって自動で昇降させる装置である。パワーウインドウ装置1は、窓開閉時に操作するパワーウインドウスイッチ(以下、PWスイッチと記す)6と、PWスイッチ6の操作に基づき駆動モータ5を駆動してウインドウガラス4を昇降するパワーウインドモータ(以下、PWモータと記す)7とを備えている。PWスイッチ6及びPWモータ7は、車両2のサイドドア3ごとに配設されている。なお、ウインドウガラス4が窓部材に相当し、駆動モータ5が電気式駆動手段に相当する。
【0021】
PWスイッチ6は、例えば下降機能、上昇機能、自動下降機能(オート下降機能)、自動上昇機能(オート上昇機能)等を有するスイッチである。即ち、PWスイッチ6は2段クリック式の中立位置自動復帰型揺動スイッチであり、スイッチ部8が一端側(下降側)又は他端側(上昇側)が一段押圧されると、そのスイッチ操作されている間でオン状態となってウインドウガラス4が下降又は上昇する。また、スイッチ部8が更に深く押し込まれて2段押圧されると、その押された側のスイッチがオート状態となり、再スイッチ操作されるまでウインドウガラス4が連続下降・連続上昇する。
【0022】
PWスイッチ6は、スイッチ部8が下降操作された際には、スイッチ回路9を介してDOWN信号SDNをPWモータ7に出力し、スイッチ部8がオート下降操作された際、スイッチ回路9を介してオートDOWN信号SATDNをPWモータ7に出力する。PWスイッチ6は、スイッチ部8が上昇操作された際には、スイッチ回路9を介してUP信号SUPをPWモータ7に出力し、スイッチ部8がオート上昇操作された際には、スイッチ回路9を介してオートUP信号SATUPをPWモータ7に出力する。
【0023】
PWモータ7は、駆動モータ5にECU(Electric Control Unit) 10を一体に取り付けたECU内蔵のモータユニットである。ECU10は、PWスイッチ6から入力する各種操作信号を基に駆動モータ5を駆動制御してウインドウガラス4を昇降させるデバイスである。ECU10は、CPU(Central Processing Unit) 11、ROM(Read-Only Memory)12及びRAM(Random-Access Memory)13及びEEPROM(Electronically Erasable and Programmable ROM)14等を備えている。なお、ECU10が制御手段に相当し、CPU11が算出手段及び禁止手段を構成する。
【0024】
ROM12には、ウインドウガラス4を昇降する際に実行される昇降制御プログラムが記憶されている。昇降制御プログラムは、PWスイッチ6が下降操作された際に駆動モータ5を所定速度で他方向に回転させてウインドウガラス4を下降させ、PWスイッチ6が上昇操作された際に駆動モータ5を所定速度で一方向に回転させてウインドウガラス4を上昇させるプログラムである。CPU11はECU10を統括制御するデバイスであり、ROM12の昇降制御プログラムを実行することによってウインドウガラス4の昇降制御を行う。
【0025】
車両2は、車載アクセサリを使用する際やエンジンを始動する際に操作されるIGスイッチ(イグニッションスイッチ)15を備えている。IGスイッチ15は、例えばOFF位置、ACC位置、IG位置及びSTART位置の4位置をとり、操作位置がIG位置(START位置も含む)にある際にIG信号SIGをPWモータ7に出力する。CPU11は、IGスイッチ15からIG信号SIGを入力している際にウインドウガラス4の昇降操作を許可し、IGスイッチ15がIG位置以外の操作位置にある際には、IG信号SIGを入力しないことからウインドウガラス4の昇降操作を不許可とする。
【0026】
ECU10は、駆動モータ5に流れる電流の向きを変えるリレー16と、駆動モータ5の駆動数(回転数)を検出可能なホールIC17と、CPU11の指令を基にリレー16及びホールIC17を制御する制御回路18と、車載バッテリ(図示略)のバッテリ電圧+Bを検出するバッテリ電圧検出回路19とを備えている。なお、ホールIC17及びバッテリ電圧検出回路19が検出手段を構成する。
【0027】
制御回路18は、例えばCPU11からウインドウガラス4を下降操作すべき旨の指令を受けると、リレー16の接点状態を下降操作側にして、駆動モータ5に一方向側の向き(図1に示す電流Ia)の電流を流す。制御回路18は、例えばCPU11からウインドウガラス4を上昇操作すべき旨の指令を受けると、リレー16の接点状態を上昇操作側にして、駆動モータ5に他方向側の向き(図1に示す電流Ib)の電流を流す。制御回路18は、CPU11から駆動モータ5の作動を停止すべき指令を受けると、リレー16を非接点状態にして、駆動モータ5に電流が流れない状態にする。制御回路18は、CPU11から下降操作又は上昇操作すべき旨の指令を受けた際、ホールIC17に電圧を印加してホールIC17をモータ駆動数監視状態とする。
【0028】
ホールIC17は磁気により駆動モータ5の駆動数を検出する素子であり、駆動モータ5の駆動数に応じたパルス信号(検出信号)SxをCPU11に出力する。CPU11は、ホールIC17から入力したパルス信号Sxを基に駆動モータ5の駆動速度(回転速度)や、ウインドウガラス4の現在位置を算出する。駆動モータ5の駆動速度はパルス信号Sxの単位時間当たりのパルス数を求めることで算出され、ウインドウガラス4の現在位置は窓全閉状態又は窓全開状態からのパルス信号Sxのパルス数をカウントすることで算出される。
【0029】
CPU11は、ホールIC17からのパルス信号Sxを基に、駆動モータ5の作動状態(定常作動状態又はロック状態)を認識する。即ち、駆動モータ5の回転速度が速いとパルス信号Sxのパルス周期幅は短く、反対に駆動モータ5の回転速度が遅いとパルス信号Sxのパルス周期幅は長くなることから、このパルス周期の変動を利用して駆動モータ5の作動状態を判定している。CPU11は、パルス信号Sxの周期幅が所定周期に収まっていれば駆動モータ5が定常作動状態であると判定し、パルス信号Sxの所定の設定周期より周期幅が長くなっていれば駆動モータ5がロック状態であると判定する。
【0030】
また、CPU11は、ウインドウガラス4が全閉位置や全開位置に到達したことを、パルス信号Sxを基に行う。ところで、ウインドウガラス4の位置はパルス信号Sxのパルスをカウントすることにより認識可能であり、しかもウインドウガラス4が全閉位置や全開位置に到達すると、その位置から駆動モータ5は回転しないため、ウインドウガラス4の停止はパルス信号Sxのパルス周期が長くなることで認識可能である。従って、CPU11は、全閉位置又は全閉位置となるパルス数付近でパルス信号Sxのパルス周期が第2設定周期Tb(>Ta)より大きくなると、これにより全閉位置又は全開位置に到達したと判断して駆動モータ5を停止させる。
【0031】
バッテリ電圧検出回路19は、車載バッテリのバッテリ電圧+Bに応じた電圧信号(アナログ信号)をCPU11に出力する。CPU11は、バッテリ電圧検出回路19から入力する電圧信号を基に、車載バッテリのバッテリ電圧+Bを算出する。車載バッテリのバッテリ電圧+Bは、PWモータ7の各種デバイス(CPU11、リレー16、制御回路18等)の電源となる。
【0032】
CPU11は、リレー出力モニタ用の2つの入力ポート(第1入力ポート20a及び第2入力ポート20b)を備え、第1入力ポート20aが信号線21aを介して駆動モータ5の一端(例えば+端子)に接続され、第2入力ポート20bが信号線21bを介して駆動モータ5の他端(例えば−端子)に接続されている。CPU11は、第1入力ポート20a及び第2入力ポート20bを介してリレー出力、つまり駆動モータ5の端子間電圧Vmtを入力する。なお、第1入力ポート20a及び第2入力ポート20bが検出手段を構成する。
【0033】
CPU11は、リレー出力(駆動モータ5の端子間電圧Vmt)をモニタして駆動モータ5の通電状態を認識する。即ち、駆動モータ5に電流が流れていれば駆動モータ5に端子間電圧Vmtが生じ、駆動モータ5に電流が流れていなければ駆動モータ5には端子間電圧Vmtが生じないことから、この端子間電圧Vmtをモニタすることで駆動モータ5の通電状態を判定している。CPU11は、端子間電圧Vmtが「0」以上であれば駆動モータ5が通電状態であると判定し、端子間電圧Vmtが「0」であれば駆動モータ5が非通電状態であると判定する。
【0034】
昇降制御プログラムには、CPU11(ECU10)が駆動モータ5のモータ温度を算出し、そのモータ温度が一定温度値以上に上昇した際に駆動モータ5の作動を禁止するモータ過熱保護制御プログラムが含まれている。本例のモータ過熱保護制御プログラムは、CPU11内のカウンタ(以下、温度カウンタ22と記す)のカウント値Ctmp をモータ温度として算出すべく、駆動モータ5に関する各種使用条件によって温度カウンタ22を加減算し、カウント値Ctmp が第1閾値Cmax 以上となった際に駆動モータ5の作動を禁止するプログラムである。なお、第1閾値Cmax は絶対的な許容温度上限である。
【0035】
モータ過熱保護制御プログラムには、CPU11が温度カウンタ22のカウント値Ctmp を加減算する際の加減算値を、温度演算のその時々の駆動モータ5の状態に応じた値で複数記憶したマップ23が組み込まれている。マップ23は、バッテリ電圧+B、モータ通電状態、モータ作動状態、及びモータ温度算出時のその時の温度カウンタ22のカウント値Ctmp をパラメータとして加算値及び減算値を選定するデータマップである。ここで、マップ23に組み込まれた加算値及び減算値は、CPU11により算出されるモータ温度が実際の駆動モータ5のモータ温度を忠実に表し得るように、好適な値とする必要がある。なお、温度カウンタ22はソフトウェアで設定されるカウンタであり、検出手段も構成する。
【0036】
CPU11は、バッテリ電圧+B、モータ通電状態、モータ作動状態及びその時の温度カウンタ22のカウント値Ctmp をパラメータとして、その時の駆動モータ5の条件に見合った加算値又は減算値を選定し、その加算値又は減算値を基に温度カウンタ22のカウント値Ctmp を加算又は減算することにでモータ温度を算出する。本例では、CPU11は駆動モータ5が通電中であれば温度カウンタ22を加算し、その時の加算値をバッテリ電圧+B、モータ作動状態及びその際のカウント値Ctmp に応じて可変させる。また、CPU11は駆動モータ5が停止中であれば温度カウンタ22を減算し、その時の減算値をその際のカウント値Ctmp に応じて可変させる。
【0037】
次に、本例のパワーウインドウ装置1の作用を説明する。
図3は、モータ温度の計時変化を記した温度グラフである。PWスイッチ6が操作されると、ウインドウガラス4を昇降すべく駆動モータ5が駆動状態となることから、これによってモータ温度は定常温度から上昇する。特に、モータ作動時に駆動モータ5がロック状態(以下、モータロック状態と記す)となると、負荷がかかった状態で駆動モータ5を駆動する状態となるため、駆動モータ5の発熱度合いが大きくなる。一方、PWスイッチ6が操作されていない状態では、駆動モータ5が作動停止状態となっているため、駆動モータ5が冷却されてモータ温度が低下する。
【0038】
CPU11は、運転者が車両に乗り込んで最初にパワーウインドウ装置1を操作した時点からモータ過熱保護制御を実施して、駆動モータ5の発熱を監視する。このとき、CPU11は駆動モータ5が通電中であれば温度カウンタ22に加算処理を施すが、この加算処理時においては、バッテリ電圧+B、モータ作動状態及びその時々の温度カウンタ22のカウント値Ctmp に応じて決まる加算値を温度カウンタ22に逐次加算する。
【0039】
ここで、バッテリ電圧+Bに応じて加算値を可変とするのは、駆動モータ5に印加される電圧はバッテリ電圧+Bに相当し、駆動モータ5に印加される電圧値に応じて駆動モータ5の温度上昇勾配が決まってくるからである。従って、高いバッテリ電圧+Bが印加されれば、その分だけ駆動モータ5の温度上昇勾配が大きくなるため、加算値はバッテリ電圧+Bが高くなるに連れて大きくなるように設定されている。本例の加算値は、例えばバッテリ電圧+Bが第1設定電圧V1以下、第1設定電圧V1〜第2設定電圧V2、第2設定電圧V2〜第3設定電圧V3、第3設定電圧V3〜(図5参照:V1<V2<V3)となるに連れて順に大きくなるように段階的に設定されている。
【0040】
また、モータ作動状態に応じて加算値を可変とするのは、駆動モータ5が定常状態で作動している場合と、モータロック状態となった場合とでは、駆動モータ5にかかる負荷の違いから、駆動モータ5の温度上昇勾配が変化するためである。従って、駆動モータ5がモータロック状態であれば、その状況下では駆動モータ5の温度上昇勾配が大きくなるため、加算値は駆動モータ5が定常状態のときよりもモータロック状態のときの方が大きくなるように設定されている。
【0041】
更に、温度算出時のカウント値Ctmp に応じて加算値を可変とするのは、モータ温度が低い際に駆動モータ5が過熱されると、温度上昇に上がり目があるため温度上昇勾配が大きく、モータ温度が高い際に駆動モータ5が過熱されると、大きな温度上昇の見込みがなく温度上昇勾配が小さいからである。従って、駆動モータ5のモータ温度とその時々の温度上昇値との関係を鑑みて、加算値はカウント値Ctmp が大きくなる(モータ温度が高くなる)に連れて小さくなるように設定されている。本例の加算値は、例えばカウント値Ctmp が第1設定値Ca1以下、第1設定値Ca1〜第2設定値Cb1、第2設定値Cb1〜第3設定値Cc1、第3設定値Cc1〜(図5参照:Ca1<Cb1<Cc1)となるに連れて順に小さくなるように段階的に設定されている。
【0042】
一方、CPU11は駆動モータ5が停止中であれば温度カウンタ22に減算処理を施すが、この減算時においては、温度算出時のカウント値Ctmp に応じて決まる減算値で温度カウンタ22を減算する。これは、駆動モータ5のモータ温度が高い際には、温度下降の下がり目が大きいことからモータ温度の温度下降勾配が大きく、駆動モータ5のモータ温度が低い際には、温度下降の下がり目が小さいことからモータ温度の温度下降勾配が小さいからである。
【0043】
従って、駆動モータ5のモータ温度とその時々の温度下降値との関係を鑑みて、減算値はカウント値Ctmp が大きくなる(モータ温度が高くなる)に連れて大きくなるように設定されている。本例の減算値はカウント値Ctmp に対して値が段階的に設定され、例えばカウント値Ctmp が第4設定値Cd以下、第4設定値Cd〜第5設定値Ce、第5設定値Ce〜第6設定値Cf、第6設定値Cf〜(図6参照:Cd<Ce<Cf)の各場合に応じて、d,c,b,a(d<c<b<a)に各々設定されている。
【0044】
本例のモータ過熱保護制御プログラムは、モータ過熱を検出した場合、ウインドウガラス4が開閉動作途中で停止せずに全開操作又は全閉操作が可能となるように、温度カウンタ22の閾値を第1閾値Cmax の他にもう1つ(第2閾値Cth)用意して、温度上昇を2レベルで判定する。図3に示すように、第2閾値Cthは第1閾値Cmax よりも低い値であり、その時点から駆動モータ5を再作動させたとしても、1往復のガラスストロークが可能な許容温度上限の値(即ち、カウント値Ctmp が第1閾値Cmax に至らない値)に設定されている。
【0045】
パワーウインドウ装置1が作動した際、まずCPU11は算出したカウント値Ctmp と第2閾値Cthとを逐次比較し、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上になったと判断すると、駆動モータ5の作動域がモータ作動許可域からモータ継続作動許可/再作動禁止域に移ったと判定する。このとき、CPU11は駆動モータ5の端子間電圧Vmtをモニタし、端子間電圧Vmtが「0」以上であれば、モータ作動域がモータ継続作動許可/再作動禁止域に移ったとしてもPWスイッチ6が続けて操作されていると判断し、駆動モータ5の継続作動を許可する。
【0046】
駆動モータ5が継続作動されると、図3に示すように駆動モータ5は更に温度上昇する状態となる。駆動モータ5が継続作動されている際、CPU11はカウント値Ctmp と第1閾値Cmax を逐次比較し、カウント値Ctmp が第1閾値Cmax 以上となったと判断すると、駆動モータ5の作動域がモータ継続作動許可/再作動禁止域からモータ作動禁止域に移ったと判定する。このとき、CPU11は駆動モータ5を発熱から保護するために、駆動モータ5を強制停止させるべく駆動モータ5への通電を禁止する。
【0047】
一方、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上となってモータ作動域がモータ継続作動許可/再作動禁止域にある際、駆動モータ5が停止状態となると、CPU11はその時点からの駆動モータ5の再作動を禁止する。即ち、モータ作動域がモータ継続作動許可/再作動禁止域に移って駆動モータ5が一度停止された後は、駆動モータ5の再作動が禁止される。CPU11は駆動モータ5の再作動を禁止した後、その再作動禁止により駆動モータ5のモータ温度が低下してカウント値Ctmp が第2閾値Cthを下回れば、駆動モータ5の再作動を許可する。CPU11は再作動を許可した時点でバッテリ電圧+Bをモニタし、その電圧値に応じた値に第2閾値Cthを更新する。
【0048】
次に、CPU11がモータ過熱保護制御のメインルーチンを実行する際に行う処理を図4のフローチャートに従って説明する。
ステップ100では、PWスイッチ6から入力があったか否かを判断する。ここで、CPU11がPWスイッチ6から各種信号を入力していればステップ101に移行し、各種信号を入力していなければステップ103に移行する。
【0049】
ステップ101では、第2閾値Cthを算出する。即ち、CPU11はその時のバッテリ電圧+Bを基に、その電圧値に応じた値に第2閾値Cthを設定する。
ステップ102では、駆動モータ5への通電が許可されているか否かを判断する。即ち、モータ作動域がモータ作動許可域やモータ継続作動許可域にあってモータ通電が許可されていればステップ103に移行し、モータ作動域がモータ再作動禁止域やモータ作動禁止域にあってモータ通電が許可されていなければステップ105に移行する。
【0050】
ステップ103では、駆動モータ5が通電中であるか否かを判断する。ここで、駆動モータ5の端子間電圧Vmtをモニタし、端子間電圧Vmtが「0」以上であれば駆動モータ5が通電中であると判断してステップ104に移行し、端子間電圧Vmtが「0」であれば駆動モータ5が停止中であると判断してステップ105に移行する。
【0051】
ステップ104では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp の加算処理を行う。
ステップ105では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp の減算処理を行う。
ステップ106では、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上であるか否かを判断する。ここで、カウント値Ctmp が第2閾値Cthを下回っていればステップ107に移行し、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上となればステップ108に移行する。
【0052】
ステップ107では、駆動モータ5の作動を許可して駆動モータ5を通電状態とする。従って、駆動モータ5に電流が流れてウインドウガラス4が昇降する。
ステップ108では、カウント値Ctmp が第1閾値Cmax 以上であるか否かを判断する。カウント値Ctmp が第1閾値Cmax を下回っていればステップ109に移行し、カウント値Ctmp が第1閾値Cmax 以上となっていればステップ110に移行する。
【0053】
ステップ109では、モータ作動域がモータ継続作動許可/再作動禁止域にあると判断して、駆動モータ5が作動中がときは引き続きモータ作動を許可して駆動モータ5への通電を継続する。一方、駆動モータ5が一度停止された後には駆動モータ5への通電を禁止して、カウント値Ctmp が第2閾値Cthを下回るまで駆動モータ5の再作動を禁止する。
【0054】
ステップ110では、駆動モータ5の作動を禁止して駆動モータ5を停止状態とする。駆動モータ5が停止状態となるとその停止期間において駆動モータ5が冷却され、このモータ冷却に伴ってカウント値Ctmp が第2閾値Cthを下回ると駆動モータ5の作動が許可される。
【0055】
次に、CPU11がステップ104で行うカウント値Ctmp の加算処理を図5のフローチャートに従って説明する。
ステップ200では、モータロックを検出したか否かを判断する。即ち、ホールIC17のパルス信号Sxのパルス周期幅が所定の周期幅よりも大きいか否かに基づきモータロックの有無を判定し、駆動モータ5の作動状態がモータロック状態であればステップ201に移行し、駆動モータ5の作動状態が定常作動状態であればステップ214に移行する。
【0056】
ステップ201では、バッテリ電圧+Bが第1設定電圧V1よりも高いか否かを判断する。バッテリ電圧+Bが第1設定電圧V1よりも高ければステップ202に移行し、バッテリ電圧+Bが第1設定電圧V1以下であればステップ213に移行する。
【0057】
ステップ202では、バッテリ電圧+Bが第2設定電圧V2(>V1)よりも高いか否かを判断する。バッテリ電圧+Bが第2設定電圧V2よりも高ければステップ203に移行し、バッテリ電圧+Bが第2設定電圧V2以下であればステップ212に移行する。
【0058】
ステップ203では、バッテリ電圧+Bが第3設定電圧V3(>V2)よりも高いか否かを判断する。バッテリ電圧+Bが第3設定電圧V3よりも高ければステップ204に移行し、バッテリ電圧+Bが第3設定電圧V3以下であればステップ211に移行する。
【0059】
ステップ204では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第1設定値Ca1よりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第1設定値Ca1よりも大きければステップ205に移行し、カウント値Ctmp が第1設定値Ca1以下であればステップ210に移行する。
【0060】
ステップ205では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第2設定値Cb1(>Ca1)よりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第2設定値Cb1よりも大きければステップ206に移行し、カウント値Ctmp が第2設定値Cb1以下であればステップ209に移行する。
【0061】
ステップ206では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第3設定値Cc1(>Cb1)よりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第3設定値Cc1よりも大きければステップ207に移行し、カウント値Ctmp が第3設定値Cc1以下であればステップ208に移行する。
【0062】
ステップ207では、今現在のカウント値Ctmp に第1加算値α1を加算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
ステップ208では、今現在のカウント値Ctmp に第2加算値β1(>α1)を加算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
【0063】
ステップ209では、今現在のカウント値Ctmp に第3加算値γ1(>β1)を加算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
ステップ210では、今現在のカウント値Ctmp に第4加算値δ1(>γ1)を加算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
【0064】
ステップ211では、図5に示すFrame Aと同様の処理が行われ、Frame Aに対してCa1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の値が異なっている。即ち、第1設定値がCa2(<Ca1)、第2設定値がCb2(<Cb1)、第3設定値がCc2(<Cc1)、第1加算値がα2(<α1)、第2加算値がβ2(<β1)、第3加算値がγ2(<γ1)、第4加算値がδ2(<δ1)に設定されている。Ca2,Cb2,Cc2,α2,β2,γ2,δ2は、Ca1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の相関関係(大小関係)と同じである。
【0065】
ステップ212では、図5に示すFrame Aと同様の処理が行われ、Frame Aに対してCa1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の値が異なっている。即ち、第1設定値がCa3(<Ca2)、第2設定値がCb3(<Cb2)、第3設定値がCc3(<Cc2)、第1加算値がα3(<α2)、第2加算値がβ3(<β2)、第3加算値がγ3(<γ2)、第4加算値がδ3(<δ2)に設定されている。Ca3,Cb3,Cc3,α3,β3,γ3,δ3は、Ca1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の相関関係(大小関係)と同じである。
【0066】
ステップ213では、図5に示すFrame Aと同様の処理が行われ、Frame Aに対してCa1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の値が異なっている。即ち、第1設定値がCa4(<Ca3)、第2設定値がCb4(<Cb3)、第3設定値がCc4(<Cc3)、第1加算値がα4(<α3)、第2加算値がβ4(<β3)、第3加算値がγ4(<γ3)、第4加算値がδ4(<δ3)に設定されている。Ca4,Cb4,Cc4,α4,β4,γ4,δ4は、Ca1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の相関関係(大小関係)と同じである。
【0067】
ステップ214では、図5に示すFrame Bと同様の処理が行われ、Frame Bに対してCa1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の値が異なっている。即ち、第1設定値がCa5(<Ca4)、第2設定値がCb5(<Cb4)、第3設定値がCc5(<Cc4)、第1加算値がα5(<α4)、第2加算値がβ5(<β4)、第3加算値がγ5(<γ4)、第4加算値がδ5(<δ4)に設定されている。Ca5,Cb5,Cc5,α5,β5,γ5,δ5は、Ca1,Cb1,Cc1,α1,β1,γ1,δ1の相関関係(大小関係)と同じである。
【0068】
次に、CPU11がステップ105で行うカウント値Ctmp の減算処理を図5のフローチャートに従って説明する。
ステップ300では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第4設定値Cdよりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第4設定値Cdよりも大きければステップ301に移行し、カウント値Ctmp が第4設定値Cd以下であればステップ306に移行する。
【0069】
ステップ301では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第5設定値Ce(>Cd)よりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第5設定値Ceよりも大きければステップ302に移行し、カウント値Ctmp が第5設定値Ce以下であればステップ305に移行する。
【0070】
ステップ302では、温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第6設定値Cf(>Ce)よりも大きいか否かを判断する。カウント値Ctmp が第6設定値Cfよりも大きければステップ303に移行し、カウント値Ctmp が第6設定値Cf以下であればステップ304に移行する。
【0071】
ステップ303では、今現在のカウント値Ctmp から第1減算値aを減算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
ステップ304では、今現在のカウント値Ctmp から第2減算値b(<a)を減算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
【0072】
ステップ305では、今現在のカウント値Ctmp から第3減算値c(<b)を減算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
ステップ306では、今現在のカウント値Ctmp から第4減算値d(<c)を減算して、その値を新たなカウント値Ctmp として算出する。
【0073】
本例のパワーウインドウ装置1の場合、CPU11はマップ23を参照して駆動モータ5のモータ温度を算出し、駆動モータ5の発熱が一定温度値以上(温度カウンタ22のカウント値Ctmp が第1閾値Cmax 以上)となった際に、駆動モータ5を冷却すべく駆動モータ5の通電を禁止する。このように、CPU11がモータ温度を算出してモータ過熱保護を行う構成であっても、その温度算出はマップ23を用いて行われるため、マップ23の加算値及び減算値を各パラメータに応じて細かく設定しておけば、忠実なモータ温度の算出が可能である。
【0074】
また、マップ23を参照してモータ温度を算出する方法は、例えば計算式を用いる場合に比べて、短い処理時間でモータ温度を算出することが可能である。特に、モータ温度はその温度上昇波形又は温度下降波形の何れにも多数の変極点が存在し、計算式でモータ温度を忠実に算出するには複雑な計算式が必要となり、その分だけ温度算出処理に長い時間がかかることになる。従って、本例のようにマップ23を用いて温度算出を行えば、忠実なモータ温度を短時間で算出することが可能となり、温度算出処理が駆動モータ5の制御サイクルに間に合わない状況も発生し難くなる。
【0075】
ところで、背景技術でも述べたように、PTCを用いたモータ発熱保護方法を用いると、モータ通電禁止はCPUが直接関与しないため、CPUはモータ通電カットを認識できない。このため、通電禁止状態でPWスイッチ6が操作された際、CPUは駆動モータに電流を流そうとしても駆動モータには電流が流れず、駆動モータがフェール状態であると誤認識する。しかし、本例はCPU11(ECU10)がモータ過熱保護制御を直接実施する構成であるため、このような問題が生じない。また、本例のモータ過熱保護方法を用いれば、PTC等の過熱保護部品が不要となり、PWモータ7の小型化や軽量化も可能である。
【0076】
また、ECU10にサーミスタ等の感温素子24を搭載し、この感温素子24で検出される駆動モータ5の周囲温度を、モータ温度算出時のパラメータに加えてもよい。これは、モータ温度の温度上昇波形及び温度下降波形の各波形は、その上昇傾きや下降傾きが駆動モータ5の周囲温度に影響されるからである。従って、モータ温度の算出のパラメータにモータ周囲温度を加えれば、モータ温度(カウント値Cth)をより一層正確な値で算出することが可能となる。なお、感温素子24が周囲温度検出手段に相当する。
【0077】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)CPU11が行うモータ温度算出はマップ23を用いるので、駆動モータ5が発熱したか否かをより忠実に検出することができる。
【0078】
(2)CPU11がモータ過熱保護制御を行うので、CPU11がモータ過熱保護に直接関与することになり、PTCを用いてモータ過熱保護を行っていた場合に生じていた駆動モータ5のフェール状態誤認識を防止できる。また、CPU11でモータ過熱保護制御を実施すれば、モータ過熱保護に際してPTC等の過熱保護部品が不要になり、PWモータ7ひいてはパワーウインドウ装置1の小型化や軽量化を図ることができる。
【0079】
(3)CPU11がモータ温度算出を行う際、モータ温度の変動に関して関係性の高いバッテリ電圧+B、モータ通電状態、モータ作動状態及びその時々のカウント値Ctmp を算出パラメータとする。従って、駆動モータ5のモータ温度をより実測値に近い状態の値で算出することができる。
【0080】
(4)ECU10に感温素子24を搭載した場合、駆動モータ5の周囲温度がモータ温度算出のパラメータとして加えられるので、駆動モータ5のモータ温度をより一層忠実に算出することができる。
【0081】
(5)温度カウンタ22の閾値が2レベル(第1閾値Cmax 及び第2閾値Cth)設定され、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上となって駆動モータ5が発熱状態となっても、駆動モータ5が作動中のときは全開状態又は全閉状態となるまで引き続きモータ作動が許可される。従って、ウインドウガラス4がその開閉途中で停止することを防止できる。また、カウント値Ctmp が第2閾値Cth以上となった際、駆動モータ5が一度停止した後は、駆動モータ5の再作動が禁止されるので、駆動モータ5の冷却期間も確保することができる。
【0082】
(6)モータ通電状態はリレー出力をモニタすることで行われているが、このリレー出力は駆動モータ5の故障有無の判別にも用いることが可能である。従って、モータ通電状態をリレー出力モニタで行うようにすれば、1つの信号ラインでモータ通電状態の確認と、駆動モータ5の故障有無との両方を監視することができる。
【0083】
なお、本実施形態は上記構成に限定されず、例えば以下の態様に変更してもよい。
・ 温度カウンタ22のカウント値Ctmp が閾値Cmax 以上となった際、必ず駆動モータ5の通電を禁止することに限定されず、ウインドウガラス4が全開状態又は全閉状態になるまで駆動モータ5への通電を許可し、ウインドウガラス4が全開状態又は全閉状態となった時点で駆動モータ5の通電が禁止されてもよい。
【0084】
・ モータ温度算出時のパラメータは、バッテリ電圧+B、モータ通電状態、モータ作動状態及びその時々のカウント値Ctmp の全てであることに限らず、これらの項目のうち少なくとも何れか一つであればよい。
【0085】
・ 第2閾値Cthは、モータ通電禁止状態の駆動モータ5が再作動許可となった時点から1往復のガラスストロークが可能な値であることに限定されない。例えば、全開操作及び全閉操作の一方のみが操作可能となるように、第2閾値Cthは1往動のみに対応した値としてもよい。
【0086】
・ 閾値は必ずしも2レベル設定する必要はなく、第1閾値Cmax のみ設定された構成としてもよい。
・ CPU11が算出したカウント値Ctmp をEEPROM14に逐次書き込み、パワーウインドウ装置1の電源が不意に電源オフ状態となっても、算出したモータ温度(即ち、カウント値Ctmp )がリセットされてしまうことを回避する方法を採用してもよい。
【0087】
・ モータ作動状態はホールIC17のパルス信号Sxで認識することに限らず、例えば駆動モータ5のモータ回路上に設けたシャント抵抗でもよい。この場合、シャント抵抗から検出される電流値でモータ作動状態を監視する。
【0088】
・ PWスイッチ6は、スイッチ部8を長押ししたこと条件にオート機能が作動する構成でもよい。
・ パワーウインドウ装置1は、CPU11がPWスイッチ6からLレベルの操作信号を入力した際にウインドウガラス4を昇降するローアクティブ駆動でもよいし、逆にHレベルの操作信号の入力をした際にウインドウガラス4を昇降するハイアクティブ駆動のどちらを採用してもよい。
【0089】
・ 電気式駆動手段は駆動モータ5に限定されず、例えばシリンダ等の他の駆動源を用いてもよい。
・ 本例のパワーウインドウ装置1は、車両のウインドウガラス4に採用されることに限定されず、例えば住宅等の各種建物の窓ガラスに採用してもよい。また、車両であっても、それは自動車に限らず、例えば電車や産業車両等の各種車両を含むものとする。更に、本例のモータ過熱保護制御はパワーウインドウ装置1に採用することに限定されず、この種のモータを搭載する装置であれば、その搭載対象は特に限定されない。
【0090】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)請求項1〜4のいずれか一項において、前記カウント値が記憶可能であり、装置電源がオフされても当該カウント値の記憶状態を保持可能なメモリを備えた。この場合、例えばパワーウインドウ装置の電源が不意に電源オフ状態となったとしても、電源再投入後、オフ状態前の温度算出の続きを継続して行うことができる。
【0091】
(2)請求項4において、前記禁止手段は、前記再作動を禁止した後、前記カウント値が前記第2閾値を下回れば前記電気式駆動手段への再通電を許可する。この場合、電気式駆動手段の発熱を防止すべく電気式駆動手段の作動を停止した場合であっても、電気式駆動手段の温度が低下したとみなし得る条件(カウント値が第2閾値を下回る条件)を満たせば、電気式駆動手段を再作動することができる。
【0092】
(3)前記技術的思想(2)において、前記禁止手段は、前記電気式駆動手段への再通電を許可した際、前記検出手段の検出値に基づき、その再通電許可時から窓部材を少なくとも全開又は全閉状態とすることが可能な許容温度の上限値に前記第2閾値を再設定する。
【0093】
(4)可動部材を可動する際に操作する操作手段と、前記操作手段の操作時に入力する操作信号を基に電気式駆動手段を駆動して前記可動部材を可動する制御手段とを備えた駆動制御装置において、前記電気式駆動手段の温度を算出する際に用いる加減算値を記憶したマップと、前記電気式駆動手段の通電状態、前記電気式駆動手段の作動状態、及び前記電気式駆動手段へ印加された電圧値の少なくともいずれか1つを検出する検出手段と、当該検出手段により検出された通電状態、作動状態及び電圧値を検出項目ごとにそれぞれパラメータとして前記加減算値を導き、該加減算値を基に温度カウンタのカウント値を加減算することにより前記電気式駆動手段の温度を算出する算出手段と、前記カウント値と予め設定された閾値とを比較して、前記カウント値が前記閾値以上となった際に、前記電気式駆動手段への通電を禁止する禁止手段とを備えたことを特徴とする駆動制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】一実施形態におけるパワーウインドウ装置の電気構成を示す回路図。
【図2】車両のサイドドアの正面図。
【図3】モータ温度の計時変化を記した温度グラフ。
【図4】モータ過熱保護制御のメインルーチン実行時のフローチャート。
【図5】カウント値加算処理のフローチャート。
【図6】カウント値減算処理のフローチャート。
【符号の説明】
【0095】
1…パワーウインドウ装置、4…窓部材としてのウインドウガラス、5…電気式駆動手段としての駆動モータ、6…操作手段としてのPWスイッチ、10…制御手段としてのECU、11…算出手段及び禁止手段を構成するCPU、17…検出手段を構成するホールIC、19…検出手段を構成するバッテリ電圧検出回路、20a,20b…検出手段を構成する入力ポート、22…検出手段を構成する温度カウンタ、23…マップ、24…周囲温度検出手段としての感温素子、Ctmp …カウント値、Cmax …閾値としての第1閾値、Cth…第2閾値、+B…電圧値としてのバッテリ電圧、DDN,DATDN,DUP,DATUP…操作信号を構成する各種信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓部材を昇降する際に操作する操作手段と、前記操作手段の操作時に入力する操作信号を基に電気式駆動手段を駆動して前記窓部材を昇降する制御手段とを備えたパワーウインドウ装置において、
前記電気式駆動手段の温度を算出する際に用いる加減算値を記憶したマップと、
前記電気式駆動手段の通電状態、前記電気式駆動手段の作動状態、及び前記電気式駆動手段へ印加された電圧値の少なくともいずれか1つを検出する検出手段と、
当該検出手段により検出された通電状態、作動状態及び電圧値を検出項目ごとにそれぞれパラメータとして前記加減算値を導き、該加減算値を基に温度カウンタのカウント値を加減算することにより前記電気式駆動手段の温度を算出する算出手段と、
前記カウント値と予め設定された閾値とを比較して、前記カウント値が前記閾値以上となった際に、前記電気式駆動手段への通電を禁止する禁止手段と
を備えたことを特徴とするパワーウインドウ装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記算出手段が前記電気式駆動手段の温度を算出する際の前記温度カウンタのカウント値を含むことを特徴とする請求項1に記載のパワーウインドウ装置。
【請求項3】
前記電気式駆動手段の周囲温度を検出する周囲温度検出手段を備え、
前記算出手段は、前記周囲温度検出手段から求まる前記電気式駆動手段の周囲温度を、前記パラメータの一つとして前記電気式駆動手段の温度を算出することを特徴とする請求項2に記載のパワーウインドウ装置。
【請求項4】
前記禁止手段は、前記カウント値が前記閾値に到達する温度上昇過程で第2閾値以上になった際、前記電気式駆動手段が作動中であれば、引き続き当該電気式駆動手段への通電を許可して当該電気式駆動手段の作動を継続させ、その温度状態で当該通電が一旦停止した後であれば、その時点で前記電気式駆動手段への通電を禁止して当該電気式駆動手段の再作動を禁止することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のパワーウインドウ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−37311(P2007−37311A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218006(P2005−218006)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】