説明

パワートレインの支持装置

【課題】この発明は、トルクロッドの軽量化を図り、油温センサやハーネス接続部を異物や雨水等から保護し、排気管からの熱害を抑制することを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンとトランスミッションとトランスファとを有するパワートレインをエンジンルーム内に搭載し、トランスファにプロペラシャフトを連結し、排気管をプロペラシャフトの側方に配設し、パワートレインを車体にトルクロッドで連結し、トランスファに油温センサを取り付けたパワートレインの支持装置において、トルクロッドをプロペラシャフトの軸線方向に沿うようにプロペラシャフトの真下に配設し、油温センサをトランスファの外壁面のうちトルクロッドとプロペラシャフトとに上下方向を挟まれる空間部内に面する部分に取り付け、トルクロッドの本体部に油温センサの配設される空間と排気管の配設される空間とを区画する遮蔽部を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はパワートレインの支持装置に係り、特に、エンジンとトランスミッションとトランスファとを有するパワートレインの変位を規制するトルクロッドの軽量化を図り、トランスファに取り付けた油温センサを異物や雨水から保護することができるパワートレインの支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、前部のエンジンルームに搭載されるパワートレインとして、車両幅方向にエンジン及びトランスミッションを連結し、このエンジン及びトランスミッションの後部寄りにトランスファを連結し、トランスファに後輪へ駆動力を伝達するプロペラシャフトを連結したFF方式の4輪駆動車両がある。この車両のパワートレインの支持装置は、パワートレインの車両幅方向両端部をマウント装置によって車体に連結し、パワートレインの車両後側部を車両前後方向に延びるトルクロッドによって車体に連結し、パワートレインの変位を規制している。
前述FF方式の4輪駆動車両に搭載されたパワートレインに使用されるトルクロッドは、エンジンのクランク軸周りにおけるエンジンの回転揺動を押さえる為に、車両レイアウト上、エンジン後方に配置する場合が多い。このとき、エンジン後方の都合のよい位置に取り付けてしまうと、トルクロッドはエンジンの回転揺動を支持するだけでなく、エンジンの上下方向を回転軸とした回転モーメントを受け止める必要が生じる為、トルクロッドの強度アップが必要であった。
一方で、トランスファの下部には、4輪駆動システムの制御上、油温センサの取り付けが必要とされる場合がある。この油温センサは、トランスファの地上高が低い位置にある為、他のセンサと比べて、飛び石や被水等の外的要因を受けやすく、プロテクタ等の設置が必要であった。
【0003】
従来、4輪駆動車におけるセンサの取付構造としては、特開平11−115537号(図9)に記載のように、トランスファに形成される取付ボスを利用して、この取付ボスの上方にセンサを取り付けて、センサを飛び石などから保護するものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−115537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記エンジンの上下方向を回転軸とした回転モーメントを受け止めるためのトルクロッドの強度アップには、大型化や厚肉化により重量が大きくなる虞があった。
一方、前記特許文献1のような構造では、異物(石や泥など)や雨水等にセンサが晒され易い位置にあるため、センサやセンサのハーネス接合部などが異物や雨水等に接触する虞があった。また、前記特許文献1のような構造では、ハーネス接続部やハーネスの上流部(センサ側)が露出しているため、異物等がハーネス接続部やハーネスの上流部に接触して、ハーネス接続部に大きな荷重が負荷して応力集中が生じて、センサの検出信頼精度の低下を招く虞があった。
さらに、4輪駆動車両は、エンジンから車両後方へ延びる排気管がトランスファに連結されるプロペラシャフトの側方に配設されていることから、トランスファに取り付けたセンサが排気管からの熱害を受けて、センサの検出信頼精度の低下を招く虞があった。
【0006】
この発明は、パワートレインの支持装置において、トルクロッドの軽量化を図りつつ、油温センサやハーネス接続部を異物や雨水等から保護するとともに排気管からの熱害を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、エンジンと、このエンジンの車両幅方向端部に連結するトランスミッションと、このトランスミッションの後部かつ前記エンジンの後部寄りに連結されるトランスファとを有するパワートレインを車両のエンジンルーム内に搭載し、前記トランスファに後輪へ駆動力を伝達するプロペラシャフトを連結し、前記エンジンから車両後方へ延びる排気管を前記プロペラシャフトの側方に配設し、前記パワートレインを車体にトルクロッドで連結し、前記トランスファに油温センサを取り付けたパワートレインの支持装置において、前記トルクロッドを前記プロペラシャフトの軸線方向に沿うように前記プロペラシャフトの真下に配設し、前記油温センサを前記トランスファの外壁面のうち前記トルクロッドと前記プロペラシャフトとに上下方向を挟まれる空間部内に面する部分に取り付け、前記トルクロッドの本体部に前記油温センサの配設される空間と前記排気管の配設される空間とを区画する遮蔽部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、パワートレインが横置き状態になるようにエンジンルーム内に搭載され、トランスミッションの後部かつエンジンの後部寄りにトランスファが連結されているため、重量物であるトランスファによって、パワートレインの重心は、車両幅方向でパワートレインの中央からトランスファ寄りに移り、プロペラシャフトの軸線上または、その軸線近傍にパワートレインの重心が位置する。
そして、この発明は、トルクロッドをプロペラシャフトの軸線方向に沿うようにプロペラシャフトの真下に配設することで、車両幅方向でトルクロッドをパワートレインの重心近傍に配置でき、重心を通り鉛直方向に延びる軸回りのパワートレインの変位を規制できる。
このため、この発明は、トルクロッドがパワートレインの重心から車両幅方向に離れた構造に比べて、パワートレインの振動によって重心を通り鉛直方向に延びる軸回りに生じるオフセットモーメント(または、曲げモーメント)の荷重のトルクロッドヘの入力を低減できるとともに、プロペラシャフトでもパワートレインの振動(変位)を抑制するため、パワートレインの振動(または、変位)からトルクロッドが受ける負荷荷重を低減できる。
さらに、この発明は、トルクロッドの本体部に遮蔽部を形成することで、本体部の曲げや捩じれ剛性が高めることができる。
これらにより、この発明は、トルクロッドを過剰に大きく設定する必要がなくなるため、トルクロッドを軽量化できる。
また、この発明は、車両走行中に車両下方から飛び込んでくる異物(例えば、石や泥など)をトルクロッドの本体部や遮蔽部で遮断できるとともに、車両上方から落下する雨水をプロペラシャフトで遮断でき、油温センサやハーネス接続部およびハーネスの上流部(油温センサ側)を異物や雨水等から保護できる。
さらに、この発明は、排気管からの熱害を遮蔽部で遮熱して、油温センサおよびハーネス接続部への熱害を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】車両の平面図である。(実施例)
【図2】車両前部の後面図である。(実施例)
【図3】図2のトランスファ周辺の拡大側面図である。(実施例)
【図4】図2のトランスファ周辺の拡大後面図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。図1・図2において、1は車両、2は車体、3は右側サイドメンバ、4は左側サイドメンバ、5はサブフレーム、6はダッシュパネル、7は右側サイドパネル、8は左側サイドパネル、9はエンジンルーム、10は車室である。車両1は、右側サイドメンバ3、左側サイドメンバ4を連結するサブフレーム5上のダッシュパネル6の前側に右側サイドパネル7、左側サイドパネル8で囲まれるエンジンルーム9を有し、ダッシュパネル6の後側に車室10を有している。エンジンルーム9には、横置きされたエンジン11と、このエンジン11の車両幅方向左側の端部に連結されるトランスミッション12と、このトランスミッション12の後部且つ前記エンジン11の後部寄りに連結されるトランスファ13とを有するパワートレイン14を搭載している。
前記トランスファ13は、本体部15の車両前側部左右に右前輪側ドライブシャフト16、左前輪側ドライブシャフト17を連結する右側連結部18(図3参照)、左側連結部19(図4参照)を備え、本体部15の車両後側部にプロペラシャフト20を連結する後側連結部21を備えている。右前輪側ドライブシャフト16、左前輪側ドライブシャフト17は、右前輪22、左前輪23へ駆動力を伝達する。プロペラシャフト20は、後輪側差動機24を介して右後輪側ドライブシャフト25、左後輪側ドライブシャフト26により右後輪24、左後輪28へ駆動力を伝達する。したがって、この車両1は、4輪駆動車両である。
【0012】
前記パワートレイン14を車体2に支持する支持装置29は、車両幅方向両端部を右側マウント装置30、左側マウント装置31によって車体2に支持し、車両幅方向後端部を車両前後方向に延びるトルクロッド32によって車体2に支持している。右側マウント装置30は、エンジン11の車両幅方向右端部を右側サイドパネル7に支持している。左側マウント装置31は、トランスミッション12の車両幅方向左側を左サイドパネル8に支持している。
前記トルクロッド32は、図3・図4に示すように、本体部33の車両前後方向前端部に前側ブッシュ34を備え、本体部33の車両前後方向後端部に後側ブッシュ35を備えている。トルクロッド32は、前側ブッシュ34、後側ブッシュ35によりパワートレイン14をサブフレーム5に連結し、右側マウント装置30、左側マウント装置31によって支持されたパワートレイン14の車両前後方向の揺動を規制する。
前記エンジン11は、車両1の後方に延びる排気管36を備えている。排気管36は、プロペラシャフト20の車両幅方向の右側方に車両1の後方に延びるように配設している。前記トランスファ13は、図3に示すように、本体部15の外壁面37の下部に取付部38を備えている。取付部38には、4輪駆動システムの制御に使用する油温センサ39を取り付けている。油温センサ39は、ハーネス取付部40にハーネス41を接続している。
【0013】
前記パワートレイン14の支持装置29は、図3・図4に示すように、前記トルクロッド32をプロペラシャフト20の軸線C1方向に沿うように、プロペラシャフト20の真下に配置している。前記油温センサ39は、トランスファ13の外壁面37のうち、トルクロッド32とプロペラシャフト20とに上下方向を挟まれる空間部S内に面する部分に設けた前記取付部38に取り付けている。トルクロッド32の本体部33の上面には、油温センサ39の配設される空間と排気管36の配設される空間とを区画する遮蔽部42を形成している。
このように、パワートレイン14の支持装置29は、パワートレイン14が横置き状態になるようにエンジンルーム9内に搭載され、トランスミッション12の後部かつエンジン11の後部寄りにトランスファ13が連結されているため、重量物であるトランスファ13によって、パワートレイン14の重心Gは、車両幅方向でパワートレイン14の中央からトランスファ13寄りに移り、プロペラシャフト20の軸線C1上または、その軸線C1近傍にパワートレイン14の重心Gが位置する。
そして、このパワートレイン14の支持装置29は、トルクロッド32をプロペラシャフト20の軸線C1方向に沿うようにプロペラシャフト20の真下に配設することで、車両幅方向でトルクロッド32をパワートレイン14の重心G近傍に配置でき、重心Gを通り鉛直方向に延びる軸回りのパワートレイン14の変位を規制できる。
このため、このパワートレイン14の支持装置29は、トルクロッド32がパワートレイン14の重心から車両幅方向に離れた構造に比べて、パワートレイン14の振動によって重心Gを通り鉛直方向に延びる軸回りに生じるオフセットモーメント(または、曲げモーメント)の荷重のトルクロッド32ヘの入力を低減できるとともに、プロペラシャフト20でもパワートレイン14の振動(変位)を抑制するため、パワートレイン14の振動(または、変位)からトルクロッド32が受ける負荷荷重を低減できる。
さらに、このパワートレイン14の支持装置29は、トルクロッド32の本体部33に遮蔽部42を形成することで、本体部33の曲げや捩じれ剛性が高めることができる。
これらにより、このパワートレイン14の支持装置29は、トルクロッド32を過剰に大きく設定する必要がなくなるため、トルクロッド32を軽量化できる。
また、このパワートレイン14の支持装置29は、図3の矢印Aのように車両走行中に車両下方から飛び込んでくる異物(例えば、石や泥など)をトルクロッド32の本体部33や遮蔽部42で遮断できるとともに、図3の矢印Bのように車両上方から落下する雨水をプロペラシャフト20で遮断でき、油温センサ39やハーネス接続部40およびハーネス41の上流部(油温センサ39側)を異物や雨水等から保護できる。
さらに、このパワートレイン14の支持装置29は、図4の矢印Cのように排気管36からの熱害を遮蔽部42で遮熱して、油温センサ39およびハーネス接続部40への熱害を抑制できる。
【0014】
前記遮蔽部42は、図3・図4に示すように、上壁部43と右側壁部44と左側壁部45とにより縦断面が逆U字状に形成し、その車両幅方向両端部の右側壁部44と左側壁部45とがトルクロッド32の本体部33の上面に連結されるとともに内周にトンネル部46を有している。前記油温センサ39とこの油温センサ39に設けられるハーネス接続部40とは、遮蔽部42のトンネル部46内に配設している。
これにより、パワートレイン14の支持装置29は、遮蔽部42のトンネル部46によって、トルクロッド32または本体部33の剛性をさらに高めることができる。そして、パワートレイン14の支持装置29は、油温センサ39とハーネス接続部40をトンネル部46内に配設することで、車両下方からの異物(石や泥など)から油温センサ39やハーネス接続部40を保護できるとともに、万一、車両上方から雨水などが油温センサ39やハーネス接続部40の上方に落下したとしても、トンネル部46によって油温センサ39やハーネス接続部40を保護できる。
また、このパワートレイン14の支持装置29では、ハーネス接続部40から車両後方に位置する前側ブッシュ34の位置までハーネス41をトンネル部46で被覆することができるため、ハーネス41の上流部側(油温センサ39側)を含めてハーネス接続部40の周囲を一体的に異物や雨水などから保護できる。
【0015】
前記トランスファ13は、図3・図4に示すように、右前輪22に駆動力を伝達する右前輪側ドライブシャフト16の右側連結部18、左前輪23に駆動力を伝達する左前輪側ドライブシャフト17の左側連結部19を備え、この右前輪側ドライブシャフト16の右側連結部18、左前輪側ドライブシャフト17の左側連結部19よりも車両上方にプロペラシャフト20の後側連結部21を配置している。
このように、パワートレイン14の支持装置29は、車両上下方向でプロペラシャフト20を右前輪側ドライブシャフト16、左前輪側ドライブシャフト17の上方になるようにトランスファ13に取り付けたことで、プロペラシャフト20下側の空間を拡大できる。
これによって、パワートレイン14の支持装置30は、トルクロッド33を確実にプロペラシャフト20の真下に配置できる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明は、トルクロッドの軽量化を図りつつ、油温センサやハーネス接続部を異物や雨水等から保護するとともに排気管からの熱害を抑制することができ、エンジン等のパワーユニットを搭載した自動車以外の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1 車両
2 車体
9 エンジンルーム
11 エンジン
12 トランスミッション
13 トランスファ
14 パワートレイン
15 本体部
20 プロペラシャフト
29 支持装置
30 右側マウント装置
31 左側マウント装置
32 トルクロッド
33 本体部
34 前側ブッシュ
35 後側ブッシュ
36 排気管
37 外壁面
38 取付部
39 油温センサ
40 ハーネス取付部
41 ハーネス
42 遮蔽部
46 トンネル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンの車両幅方向端部に連結するトランスミッションと、このトランスミッションの後部かつ前記エンジンの後部寄りに連結されるトランスファとを有するパワートレインを車両のエンジンルーム内に搭載し、
前記トランスファに後輪へ駆動力を伝達するプロペラシャフトを連結し、
前記エンジンから車両後方へ延びる排気管を前記プロペラシャフトの側方に配設し、
前記パワートレインを車体にトルクロッドで連結し、
前記トランスファに油温センサを取り付けたパワートレインの支持装置において、
前記トルクロッドを前記プロペラシャフトの軸線方向に沿うように前記プロペラシャフトの真下に配設し、
前記油温センサを前記トランスファの外壁面のうち前記トルクロッドと前記プロペラシャフトとに上下方向を挟まれる空間部内に面する部分に取り付け、
前記トルクロッドの本体部に前記油温センサの配設される空間と前記排気管の配設される空間とを区画する遮蔽部を形成したことを特徴とするパワートレインの支持装置。
【請求項2】
前記遮蔽部は、縦断面が逆U字状であり、その車両幅方向両端部が前記トルクロッドの本体部の上面に連結されるとともに内周にトンネル部を有し、
前記油温センサと前記油温センサに設けられるハーネス接続部とを前記トンネル部内に配設したことを特徴とする請求項1に記載のパワートレインの支持装置。
【請求項3】
前記トランスファは、前輪に駆動力を伝達するドライブシャフトの連結部を備え、このドライブシャフトの連結部よりも車両上方に前記プロペラシャフトの連結部を配置したことを特徴とする請求項1に記載のパワートレインの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51432(P2012−51432A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194191(P2010−194191)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】