説明

ブレーキ制御装置

【課題】増圧制御弁の個体差による昇圧性能バラツキに起因して、所望の制動力が得られなくなることを抑制する。
【解決手段】高μ路側の前輪FR、FLと対応する増圧制御弁17、37にて第1差圧Plowを第1時間Tlow継続し、第2差圧Phighを第2時間Thigh継続することを繰り返すことで、高μ路側の車輪のW/C圧を緩増圧する。したがって、W/C圧の昇圧性能のばらつきを抑制することができ、左右前輪FR、FLのW/C圧の差圧を一定範囲に抑えることが可能になる。これにより、車両に加わるヨートルクを抑制でき、スピンを防止することが可能になる。そして、第1差圧Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきを緩増圧中に更に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各車輪に対応して備えられた増圧制御弁を制御することにより、マスタシリンダ(以下、M/Cという)側とホイールシリンダ(以下、W/Cという)側との間に発生させる差圧を調整し、W/Cに発生させられるブレーキ液圧(以下、W/C圧という)を制御するブレーキ制御装置に関する。例えば、ブレーキ時に車輪がロックすることを防止するアンチスキッド制御(以下、ABS制御という)や、前輪と後輪との間の制動力配分を調整する前後制動力配分制御(EBD制御)が行われるブレーキ制御装置に対して本発明を適用すると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、車両の走行路面の摩擦係数(以下、路面μもしくはμという)が左右車輪間において異なるμスプリット路面において、路面μが高い側(以下、高μ路という)の前輪を独立制限制御とセレクトロー制御とを切替えて実行することにより、スピン発生を抑制しつつ、できるだけ大きな制動力を得るための制御が開示されている。独立制限制御とは、スリップの大きい前輪により他方の前輪のブレーキ力増加傾向を制限する制御のことを言う。また、セレクトロー制御とは、路面μが低い側(以下、低μ路という)の車輪に対してアンチスキッド制御が開始されたときに高μ路側の車輪がアンチスキッド制御の開始条件を満たしているか否かに関わらず、低μ側の車輪と共に高μ側の車輪もアンチスキッド制御における減圧制御を開始させる制御のことを言う。
【0003】
独立制限制御は、スプリット路面において低μ路側の車輪の制動力よりも高い制動力を高μ路側の車輪に発生させることで、高μ路側の車輪でできるだけ制動力を稼ぐようにできるが、左右の路面μの差が大きい場合、左右前輪のスリップ率差が大きくなるために車両に加わるヨートルクを抑制しきれず、スピンの可能性がある。このため、左右前輪のスリップ率に大きな差があるような場合には、独立制限制御と比べて制動力を稼ぐことができなくなるものの、セレクトロー制御を選択することで左右前輪に発生させる制動力を同じにし、車両に加わるヨートルクを抑制してスピンを防止している。
【0004】
また、特許文献2において、制動効率の向上等のために、各車輪に対応して備えられた電磁弁をオンオフして連通・遮断させ、対象車輪のW/C圧をパルス増圧させることで、後輪のW/C圧をM/Cに発生したブレーキ液圧(以下、M/C圧という)からあまり乖離させない範囲で前輪のW/C圧より低くするという制動力配分制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−107156号公報
【特許文献2】特開2001−260838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ABS制御における増圧制御時や制動力配分制御における増圧制御時に増圧制御弁を単に連通・遮断させると、必要以上に大きな差圧を発生させるため、音や振動が発生するという問題があった。このため、増圧制御弁への指示電流を変化させることで増圧制御弁の上流位置と下流位置との間(本明細書および特許請求の範囲では上下流間という)の差圧を線形的に変化させるリニア駆動を行うことにより、必要以上に大きな差圧が発生させられることを防止し、音や振動の発生を抑制するということを可能にしている。
【0007】
しかしながら、増圧制御弁をリニア駆動するにあたり、増圧制御弁自体の個体差により、指示電流値に対する発生差圧特性にバラツキが生じる。
【0008】
このため、例えば、特性がばらついた増圧制御弁が左右輪それぞれに取り付けられていると、それら左右輪のW/Cに発生させられるブレーキ液圧(以下、W/C圧という)の差圧が所望値に対してばらつくことになる。このため、μスプリット路においてセレクトロー制御を行っても、左右輪のW/C圧の差圧を一定範囲に抑えることができない可能性がある。したがって、車両にヨートルクが生じることになり、特に、スプリット路面を走行する際には車両に加わるヨートルクが十分に抑えられなくなり、スピンを効果的に防止できないという問題がある。
【0009】
また、例えば、制動力配分制御等のように、増圧制御弁にて所望の差圧を発生させるべく、その差圧に対応した指示電流を増圧制御弁のソレノイドに流しても、個体差によって指示電流に対して発生させられる実際の差圧が期待する差圧からずれていると、所望の差圧を発生させられなくなる。さらに、後輪のW/C圧を徐々に前輪のW/C圧に近づけて行くときに、増圧制御弁の個体差に起因して発生させられる差圧がばらつくため、後輪のW/C圧を差圧のバラツキ分だけ上昇させられなくなり、所望の制動力を得ることができなくなる。また、最終的に、後輪のW/C圧を前輪のW/C圧に一致させようとしても、一致させられなくなる。このため、制動力配分制御時に所望の制動力配分となるように前輪および後輪の制動力を制御することができないという問題もある。
【0010】
なお、ここではμスプリット路においてセレクトロー制御を行うABS制御や、制動力配分制御を例に挙げて説明したが、増圧制御弁をリニア駆動することで所望の差圧を発生させてW/C圧を制御するようなブレーキ制御装置であれば、どのようなものについても、上述した増圧制御弁の個体差に起因したW/C圧の昇圧性能バラツキの問題が発生する。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、増圧制御弁の個体差による昇圧性能バラツキに起因して、所望の制動力が得られなくなることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ブレーキ制御の対象車輪に対して増圧制御を実行する際に、該対象車輪に対応する増圧制御弁(17、18、37、38)の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧(Plow)と該第1差圧よりも高い第2差圧(Phigh)に繰り返し切替えるように、該増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御する通電量制御手段(425〜465、520〜560)を備え、通電量制御手段は、要求差圧として第1差圧と第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、第1差圧を段階的に低下させて設定する第1差圧設定手段(440、535)を備えていることを特徴としている。
【0013】
このように、第1差圧と第2差圧とを切替えて設定することを繰り返すことでW/C圧を緩増圧している。したがって、ブレーキ制御の対象車輪に対応する増圧制御弁の個体差による昇圧性能バラツキに起因して、所望の制動力が得られなくなることを抑制できる。そして、第1差圧を一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、増圧制御弁の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきを緩増圧中に更に低減することができる。
【0014】
例えば、請求項2に記載したように、第1差圧設定手段は、予め決められた第1勾配(α)で第1差圧を低下させて設定することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、通電量制御手段は、要求差圧として第1差圧と第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、第2差圧を段階的に低下させて設定する第2差圧設定手段(450、545)を備えていることを特徴としている。
【0016】
このように、第2差圧についても段階的に徐々に低下させることで、第2差圧を対象車輪と対応する増圧制御弁の上下流間の差圧を保持するために最低限必要となる値となるようにでき、必要以上に差圧を発生させることによる音や振動の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、通電量制御手段は、要求差圧として第1差圧と第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、第2差圧を段階的に低下させて設定する第2差圧設定手段(450、545)を備え、第2差圧設定手段は、第1勾配よりも大きな勾配として予め決められた第2勾配(β)で第2差圧を低下させて設定することを特徴としている。
【0018】
このように、第2差圧を第1勾配よりも大きな勾配として予め決められた第2勾配で低下させるようにすれば、M/C圧とW/C圧との差が小さくなったときに、よりW/C圧を早くM/C圧に近づけることが可能となる。
【0019】
このようなブレーキ制御は、例えば、請求項5に記載したように、ブレーキ時に車輪のロックを防止するためのアンチスキッド制御において、車両の左右で路面摩擦係数μが異なるμスプリット路面を走行する際に、路面摩擦係数μが低い低μ路側の車輪に対してアンチスキッド制御が開始されたときに路面摩擦係数μが高い高μ路側の車輪がアンチスキッド制御の開始条件を満たしているか否かに関わらず、低μ側の車輪と共に高μ側の車輪もアンチスキッド制御における減圧制御を開始させるセレクトロー制御を実行し、アンチスキッド制御の増圧制御を行う際に対象輪のホイールシリンダの増圧を制御する増圧制御弁のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、ホイールシリンダの増圧を行うものとすることができる。
【0020】
このようなアンチスキッド制御を実行するブレーキ制御装置では、左右前輪それぞれの推定ホイールシリンダ圧を演算する演算手段(115)と、左右前輪それぞれの推定ホイールシリンダ圧の差に基づいてμスプリット路面であること、および、高μ路側と低μ路側との判定を行う判定手段(120)と、を備え、通電量制御手段は、μスプリット路面において高μ路側の車輪に対してアンチスキッド制御の増圧制御を実行する際に、該高μ路側の前輪(FR、FL)に対応する増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御し、該増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧と第2差圧とに繰り返し切替えるようにすることができる。
【0021】
これにより、高μ路側の車輪のW/C圧を緩増圧することができ、W/C圧の昇圧性能のばらつきを抑制して左右前輪のW/C圧の差圧を一定範囲に抑えることが可能になるため、車両に加わるヨートルクを抑制でき、スピンを防止することが可能になる。
【0022】
また、請求項6に記載したように、ブレーキ制御は、前輪(FR、FL)と後輪(RR、RL)に発生させる制動力の配分を制御し、前輪に対応するホイールシリンダ(14、34)よりも後輪に対応するホイールシリンダ(15、35)に発生させるホイールシリンダ圧を低下させることで、後輪のロックを防止するための制動力配分制御を行い、該制動力配分制御の増圧制御を行う際に後輪のホイールシリンダの増圧を制御する増圧制御弁のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、ホイールシリンダの増圧を行うものであっても良い。このような制動力配分制御を実行するブレーキ制御装置では、通電量制御手段は、制動力配分制御の増圧制御を実行する際に、後輪に対応する増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御し、該増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧と第2差圧とに繰り返し切替えることができる。
【0023】
これにより、後輪のうちの対象車輪に対応するW/C圧を緩増圧することができ、後輪と対応する増圧制御弁に個体差に起因したW/C圧の昇圧勾配のバラツキを抑制することができるため、後輪に対して所望の制動力を発生させることが可能となる。
【0024】
請求項7に記載の発明では、制動力配分制御を実行するブレーキ装置において、制動力配分制御の対象車輪に対して増圧制御を実行する際に、該対象車輪に対応する増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧(Plow)と該第1差圧よりも高い第2差圧(Phigh)に繰り返し切替えるように、該増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御する通電量制御手段(425〜465、520〜560)を備えていることを特徴としている。
【0025】
このように、通電量制御手段にて第1差圧と第2差圧とを繰り返し切替えるようにすることで、制動力配分制御の対象輪となっている後輪のW/C圧の差圧として想定される値と実際の差圧とのバラツキを低減することが可能となる。これにより、後輪のうちの対象車輪に対応するW/C圧を緩増圧することができ、後輪と対応する増圧制御弁に個体差に起因したW/C圧の昇圧勾配のバラツキを抑制することができるため、後輪に対して所望の制動力を発生させることが可能となる。
【0026】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるブレーキ制御装置1の各機能のブロック構成を示したものである。
【図2】図1に示すブレーキ制御装置1を構成する各部の詳細構造を示した図である。
【図3】μスプリット路面における制御も含めたABS制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【図4】推定W/C演算の詳細を示したフローチャートである。
【図5】μスプリット判定の詳細を示したフローチャートである。
【図6】制御中ヨーコン制御の詳細を示したフローチャートである。
【図7】μスプリット路面でABS制御が実行された場合のタイミングチャートである。
【図8】第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した要求差圧または指示電流に対する差圧特性を示したグラフである。
【図9】第1、第3増圧制御弁17、37に対する要求差圧(または指示電流)を線形的に徐々に低下させたときの各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。
【図10】要求差圧が第2差圧Phighのときに両前輪FL、FRのW/C圧が双方共に所定値まで減圧されたあと、要求差圧を第1差圧Plowに切替えたときの各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。
【図11】要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighとに交互に繰り返して切替えた場合の各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。
【図12】図7に示すタイミングチャートの一部を取り出した拡大図である。
【図13】要求差圧もしくは指示電流に対して第1、第3増圧制御弁17、37で発生させられる差圧の関係であるIP特性を示した図である。
【図14】本発明の第2実施形態で説明する制動力配分制御処理のうち後輪RR、RL側に対して実行される部分の詳細を示したフローチャートである。
【図15】制動力配分制御が実行された場合のタイミングチャートである。
【図16】要求差圧もしくは指示電流に対して第2、第4増圧制御弁18、38で発生させられる差圧の関係であるIP特性を示した図である。
【図17】後輪RR、RLのW/C圧がM/C圧に近づいてきたときの様子を拡大して表したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0029】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるブレーキ制御装置1の各機能のブロック構成を示したものである。
【0030】
まず、本実施形態のブレーキ制御装置1について説明する。図1に示されるように、ブレーキ制御装置1には、ブレーキペダル11、倍力装置12、M/C13、W/C14、15、34、35およびブレーキ液圧制御用アクチュエータ50が備えられている。また、ブレーキ制御装置1にはブレーキECU70が備えられており、このブレーキECU70が様々な制御手段の一部として機能することで、ブレーキ制御装置1が発生させる制動力を制御するようになっている。具体的には、ブレーキ制御装置1には、各車輪FL、FR、RL、RRの車輪速度に応じたパルス信号を検出信号として出力する車輪速度センサ81〜84が備えられ、各車輪速度センサ81〜84の検出信号や後述する他のセンサの検出信号がブレーキECU70に入力され、ブレーキECU70が入力された検出信号に基づいて各種演算を行うことにより、制動力の制御を行っている。
【0031】
図2は、ブレーキ制御装置1を構成する各部の詳細構造を示した図である。この図に示されるように、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0032】
ここで、M/C13は、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eを備える。
【0033】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0034】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0035】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0036】
管路Aは、2つの管路A1、A2に分岐している。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0037】
第1、第2増圧制御弁17、18は、上下流間に発生させられる差圧を線形的(リニア)に制御するリニア弁として機能する。第1、第2増圧制御弁17、18も、基本的には連通・遮断状態を制御できるノーマルオープン型の電磁弁により構成されており、ブレーキECU70から要求差圧に応じた指示電流がソレノイドに流されることにより、第1、第2増圧制御弁17、18をリニア弁として機能させることができる。
【0038】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間とリザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0039】
リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cにはリザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。
【0040】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御装置1の制御系を司る部分であり、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従ってABS制御等のブレーキ制御にかかわる各種演算などの処理を実行する。例えば、ブレーキECU70は、図1および図2に示した各車輪速度センサ81〜84の検出信号を受け取って車輪速度を求め、車輪速度から車速を求めたり、車速を時間微分することにより車両の減速度を求めたりしている。また、ブレーキECU70にはストップランプスイッチ(STP)85の検出信号も入力されており、これにより制動中であるか否かの判定も行えるようになっている。
【0041】
このブレーキECU70からの電気信号に基づいて、上記のように構成されたブレーキ液圧制御用アクチュエータ50における各制御弁17、18、21、22、37、38、41、42への電流供給制御及びポンプ19、39を駆動するためのモータ60への電圧印加制御が実行されるようになっている。これにより、各W/C14、15、34、35に発生させられるW/C圧が制御され、各車輪FL〜RRの制動力の制御が行われる。
【0042】
具体的には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50では、ブレーキECU70からモータ60に対して駆動電圧が印加されると共に各制御弁17、18、21、22、37、38、41、42に備えられたソレノイドに対して指示電流が供給されると、その指示電流に応じてブレーキ液圧制御用アクチュエータ50内の各制御弁17、18、21、22、37、38、41、42が駆動され、ブレーキ配管の経路が設定される。そして、設定されたブレーキ配管の経路に応じたブレーキ液圧がW/C14、15、34、35に発生させられ、各車輪FL〜RRに発生させられる制動力を制御できるようになっている。
【0043】
続いて、上記のように構成されたブレーキ制御装置1のABS制御の詳細について説明する。図3は、μスプリット路面における制御も含めたABS制御処理の詳細を示したフローチャートである。また、図4〜図6は、ABS制御処理内で実行される個々の処理の詳細を示したフローチャートである。以下、図3〜6を参照してABS制御処理について説明する。なお、図3に示すABS制御処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンされたときに各車輪それぞれに対して制御周期毎に実行される。
【0044】
まず、図3に示すステップ100において、入力処理を行う。具体的には、車輪速度センサ81〜84やストップランプスイッチ85の検出信号を入力する。そして、ステップ105において、各車輪の車輪速度の演算を行ったり、各車輪速度を微分することで車輪加速度を演算する。続いて、ステップ110では、各車輪の車輪速度から周知の手法により推定車体速度を演算すると共に、演算した推定車体速度を微分することで各車輪の推定車輪加速度を演算する。
【0045】
次に、ステップ115では、推定W/C圧演算を行う。図4は、この推定W/C演算の詳細を示したフローチャートである。
【0046】
まず、ステップ200では、ABS制御中であるか否かを判定する。後述する図3中のステップ125の制御モード設定においてABS制御開始判定を行っており、ここでABS制御開始条件を満たしたときにABS制御中であることを示すフラグがセットされるため、このフラグがセットされているか否かに基づいてABS制御中か否かを判定することができる。ここでABS制御中ではなく、ABS制御前と判定された場合にはステップ205に進む。
【0047】
ステップ205では、ストップランプスイッチ85が押されているか否かを判定する。そして、ストップランプスイッチ85が押されていなければ、制動中ではないため、ステップ210に進み、推定車体減速度(推定車体加速度の負値)から推定W/C圧PWCを求める。なお、推定車体減速度と推定W/C圧PWCとの関係は周知のマップもしくは演算式により表すことができるため、これを用いて推定車体減速度から推定W/C圧PWCを求めることができる。ただし、一応推定W/C圧PWCを求めているが、この場合には制動中ではないため、基本的には推定W/C圧PWCは0となる。
【0048】
逆に、ステップ205でストップランプスイッチ85が押されていれば、制動中であるため、ステップ215に進み、制動開始時間から推定される値と推定車体減速度から求められた値のいずれか小さい方を推定W/C圧PWCとする。なお、制動開始時間からW/C圧を推定することに関しても周知であるため、詳細については説明を省略する。
【0049】
一方、ステップ200でABS制御中と判定された場合には、ステップ220に進み、制御モードが減圧モードと増圧モードのいずれであるかを判定する。制御モードに関しては、後述する図3のステップ125の制御モード設定において設定されるものであり、その設定されているモードを読み出すことにより本ステップの判定を行う。そして、減圧モードであればステップ225に進み、ABS制御前にステップ215で求められていた推定W/C圧PWCを基準値として、その基準値からABS制御の減圧時間分で減圧されるであろう値を差し引くことにより推定W/C圧PWCを求める。また、増圧モードであればステップ230に進み、ステップ225で求められていた推定W/C圧PWCを基準値として、その基準値にABS制御の増圧勾配から求められる増圧されるであろう値を足し込むことにより推定W/C圧PWCを求める。以上のようにして、図4に示した推定W/C圧演算が行われる。
【0050】
そして、図3のステップ120に進み、μスプリット判定、つまり走行中の路面がμスプリット路面であるか否か、および、左右車輪いずれの走行路面が高μ路であるかの判定を行う。図5は、μスプリット判定の詳細を示したフローチャートである。
【0051】
まず、ステップ300では、ABS制御中であるか否かを判定する。上述したステップ200と同様の手法により判定する。そして、ここで否定判定された場合には、ステップ305に進み、μスプリット状態ではないと判定する。この場合には、仮にμスプリット路面を走行していたとしても、左右車輪間での路面μの相違によるスピンが発生する状況ではないため、μスプリット状態ではないとしている。また、ステップ300で肯定判定された場合には、ステップ310に進む。
【0052】
ステップ310では、右前輪FRの推定W/C圧を求める。右前輪FRの推定W/C圧は、右前輪FRの増圧時間と右前輪の減圧時間の差に比例する値となるため、この差を簡易的に右前輪FRの推定W/C圧とする。なお、右前輪FRの増圧時間と右前輪の減圧時間とは、右前輪FRに対してABS制御の増圧モードおよび減圧モードの際に設定される増圧時間および減圧時間のことを意味している。
【0053】
同様に、ステップ315では、左前輪FLの推定W/C圧を求める。左前輪FLの推定W/C圧は、左前輪FLの増圧時間と左前輪の減圧時間の差に比例する値となるため、この差を簡易的に左前輪FLの推定W/C圧とする。なお、左前輪FLの増圧時間と左前輪の減圧時間とは、左前輪FLに対してABS制御の増圧モードおよび減圧モードの際に設定される増圧時間および減圧時間のことを意味している。
【0054】
続いて、ステップ320に進み、ステップ310およびステップ315で求めた右前輪FRの推定W/C圧から左前輪FLの推定W/C圧を引いた差が閾値(所定値)以上であるか否かを判定する。ここで肯定判定されれば、右前輪FRの推定W/C圧が左前輪FLの推定W/C圧よりも大きくなっていることを意味しているため、ステップ325に進み、μスプリット状態であり、かつ、右車輪FR側が高μ路であるとして処理を終了する。
【0055】
また、ステップ320で否定判定された場合には、逆に、ステップ330において、ステップ315およびステップ310で求めた左前輪FLの推定W/C圧から右前輪FRの推定W/C圧を引いた差が閾値(所定値)以上であるか否かを判定する。この閾値は、ステップ320で用いた閾値と同値とされる。ここで肯定判定されれば、左前輪FLの推定W/C圧が右前輪FRの推定W/C圧よりも大きくなっていることを意味しているため、ステップ335に進み、μスプリット状態であり、かつ、左車輪FL側が高μ路であるとして処理を終了する。
【0056】
そして、ステップ320でもステップ330でも否定判定された場合、μスプリット路面と呼べるほど左右の車輪FR、RLの推定W/C圧に差が無いため、ステップ305に進んでμスプリット状態ではないとする。このようにしてμスプリット判定が行われる。
【0057】
続いて、図3のステップ125に進み、制御モード設定を行う。制御モード設定では、ABS制御の開始条件を満たすか否かの判定、ABS制御が開始された場合の減圧モード、保持モード、増圧モードの設定、ABS制御の終了条件を満たすか否かの判定などが行われる。これらに関しては既に周知となっているため、詳細に関しては省略するが、本実施形態では、低μ路側の車輪のスリップ率がABS制御開始しきい値を超えたときに、高μ路側の車輪のスリップ率に関わらず、低μ側の車輪と共に高μ側の車輪もABS制御における減圧制御を開始させるセレクトロー制御を行っている。そして、ABS制御の開始条件を満たすとその旨のフラグをセットし、ABS制御の終了条件を満たすまでそのフラグをセットしたままとしている。また、各モードが設定されると、後述するステップ165の出力処理に基づき各モードに対応する制御が実行され、減圧モードが設定されると減圧制御、保持モードが設定されると保持制御、増圧モードが設定されると増圧制御が実行される。
【0058】
減圧制御のときには、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38を遮断状態とし、第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を連通状態とする。そして、モータ60を駆動することでポンプ19、39を作動させる。これにより、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38とW/C14、15、34、35の間において、管路A、E内のブレーキ液が第1、第2リザーバ20、40に逃がされる。そして、そのブレーキ液がポンプ19、39によって吸入・吐出され、管路A、EのうちのM/C13と各増圧制御弁17、18、37、38の間に戻される。これにより、各W/C14、15、34、35のW/C圧が減圧される。
【0059】
保持制御のときには、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38を遮断状態、第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42も遮断状態とする。これにより、各W/C14、15、34、35のW/C圧が保持される。
【0060】
増圧制御のときには、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38への通電を開始すると共に、第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を遮断状態とする。第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38に関しては、まず、増圧制御が実行される直前に第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38の上下流間に発生させられていた差圧とされ、それから徐々にその差圧が小さくなるように、ソレノイドへの通電量(指示電流)が制御される。これにより、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38の下流に位置するW/C14、15、34、35に発生するW/C圧と高圧な第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38の上流側のブレーキ液圧、つまりM/C圧との差圧が小さくなり、W/C14、15、34、35のW/C圧が増圧される。
【0061】
次に、ステップ130に進み、μスプリット状態であるか否かを判定する。この判定は、ステップ120で行ったμスプリット判定の結果に基づいて行われる。つまり、ステップ325もしくはステップ335でμスプリット状態であるとされた場合には本ステップで肯定判定され、ステップ305でμスプリット状態でないとされた場合には本ステップで否定判定される。
【0062】
ここで、μスプリット状態でなければステップ135に進み、一般的なスプリット路面ではない場合のABS制御が各車輪FL〜RRに対して独立的に行われる独立制御を行う。また、μスプリット状態であればステップ140に進み、今回のABS制御処理が実行されているのが前輪FL、FRであるか否かを判定する。ここで前輪FL、FRであればステップ145に進み、前輪FL、FRでなければステップ135に進んで独立制御を行う。
【0063】
ステップ145では、今回のABS制御処理が実行されているのが右前輪FRであるか否かを判定したのち、右前輪FRであればステップ150に進んで右車輪FR側が高μ路であるか否かを判定し、左前輪FLであればステップ155に進んで左車輪FL側が高μ路であるか否かを判定する。そして、高μ路であると判定された車輪に対してステップ160に進んでABS制御中におけるヨーコン制御(以下、制御中ヨーコン制御という)を実行し、高μ路と判定されなかった車輪についてはステップ135に進んで独立制御を実行する。
【0064】
図6は、制御中ヨーコン制御の詳細を示したフローチャートである。まず、ステップ400では、微小スリップが発生しているか否かを判定する。ここでいう微小スリップとはABS制御の開始条件として用いられる閾値よりも小さい閾値を超える程度のスリップのことを示しており、推定車体速度と車輪速度との偏差として表されるスリップ率が閾値を超えていれば、微小スリップが発生していると判定される。この場合、ステップ405に進み、緩減圧制御が行われる。ここで言う緩減圧制御は、上述した減圧制御における減圧時間をより短くすることで、短時間だけ減圧制御を実行することを意味している。そして、ここではこの緩減圧制御を実行するために第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38および第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42のソレノイドに流す指示電流を求めている。このような緩減圧制御により、微小スリップが発生した場合に、それに対応して高μ路側の前輪FR、FLのW/C圧を減圧することが可能となり、スリップを低減できる。この後、後述するステップ470に進む。
【0065】
一方、ステップ400で否定判定された場合には、ステップ410に進み、対称輪が減圧モードとなっているか否かを判定する。ここでいう対称輪とは、制御中ヨーコン制御が実行されているのが右前輪FRであれば左前輪FLのことを意味しており、左前輪FLであれば右前輪FRのことを意味している。
【0066】
ここで肯定判定されればステップ415に進んで保持制御を実行する。具体的には、ここでは保持制御を実行するために第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38および第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42のソレノイドに流す指示電流を求めている。すなわち、対称輪が減圧モードであった場合にまで増圧制御を行ってしまうと左右前輪FR、FLのW/C圧の差が大きくなり、車両が不安定になりかねない。このため、対称輪が減圧モードであった場合には保持制御を実行することで左右前輪FR、FLのW/C圧の差が大きくなり過ぎないようにする。この後、後述するステップ470に進む。
【0067】
また、ここで否定判定されればステップ420に進んで左右前輪FR、FLの推定W/C圧PWCの差の絶対値が閾値Phold(例えば1〜5MPa)を超えているか否かを判定する。ここで左右前輪FR、FLの推定W/C圧PWCの差の絶対値が閾値Pholdを超えていなければ、左右前輪FR、FLの推定W/C圧PWCの差がまだ大きくないが、超えていれば左右前輪FR、FLの推定W/C圧PWCの差が大きいと言える。
【0068】
このため、ステップ420で肯定判定された場合には、ステップ415に進み、上記と同様の保持制御を行う。これにより、左右前輪FR、FLの推定W/C圧PWCの差が大きくなり過ぎることを防止できる。
【0069】
そして、ステップ420で否定判定されている期間中は、ステップ425に進んで緩増圧制御を実行する。具体的には、この緩増圧制御を実行するために第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38および第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42のソレノイドに流す指示電流を求めている。ここでいう緩増圧制御とは、比較的緩やかな増圧勾配によって高μ路側の車輪のW/C圧を増圧することを意味している。緩増圧制御による増圧の形態は上述した通常の増圧制御と変わらないが、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38のソレノイドに対する通電量の変化のさせ方を緩やかにすることで緩増圧を行うことが可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態では、この緩増圧制御において、高μ路側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間に発生させる要求差圧が比較的低い第1差圧Plowとそれよりも高い第2差圧Phighとに短時間毎に繰り返し設定されるようにしている。具体的には、第1差圧Plowを第1時間Tlowの間継続した後、第2差圧Phighを第2時間Thighの間継続することを繰り返すように、要求差圧およびそれに対応する指示電流がパルス波形とされる。
【0071】
ここで、第1差圧Plowとは、高μ側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37を連通状態(全開状態)にしたときに発生させられる差圧(=0)かそれよりも高い差圧のことを意味している。この第1差圧Plowを発生させるためには、高μ側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37のソレノイドに対する通電量を最小値(=0)もしくはそれよりも高い値にする。また、第1時間Tlowに関しては、第1時間Tlowを長くし過ぎるとW/C圧が増圧され過ぎ、第1時間Tlowを短くし過ぎるとW/C圧があまり増圧されないことになるため、緩増圧の昇圧勾配に応じた時間に設定される。例えば、第1差圧Plowは2MPaに設定され、第1時間Tlowは12msに設定される。
【0072】
また、第2差圧Phighとは、高μ側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37を遮断状態(全閉状態)にしたときに発生させられる差圧かそれよりも小さな差圧のことを意味している。この第2差圧Phighを発生させるためには、高μ側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37のソレノイドに対する通電量を最大値、つまり第1、第3増圧制御弁17、37を遮断状態にする通電量とするか、もしくはそれよりも低い値にする。また、第2時間Thighに関しては、第2時間Thighを長くし過ぎるとW/C圧の増圧が遅くなり過ぎ、第2時間Thighを短くし過ぎると第1差圧Plowにする割合が多過ぎてW/C圧が増圧され過ぎることになるため、緩増圧の昇圧勾配に応じた時間に設定される。例えば、第2差圧Phighは25MPa、第2時間Thighは60msに設定される。
【0073】
そして、このように高μ路側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37にて第1差圧Plowを第1時間Tlow継続し、第2差圧Phighを第2時間Thigh継続することを繰り返すための処理を行う。
【0074】
このとき、第1差圧Plowを一定値にしたとしても、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因して要求差圧に対して発生させる差圧が大きくなる側にばらついた場合には急増圧を抑えることが可能になり、逆に、差圧が小さくなる側にばらついた場合にはある程度増圧を確保することが可能になる。しかしながら、実M/C圧と実W/C圧の差が差圧特性のバラツキ量と同等か小さい領域において第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のバラツキにより増圧させ難くなる事への対策が望まれる。このため、第1差圧Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくようにする。
【0075】
一方、第2差圧Phighについては、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧を保持するために十分な値に設定されている。ところが、緩増圧が進むに連れて第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が低下していくため、それを保持するために必要な値も低下していくことになる。このため、第2差圧Phighを一定値にしていると、高い差圧を保持するために必要な値を満たす値に設定し続けることになり、緩増圧が進んだ後に差圧を保持するために必要な値よりも高い値となる。したがって、第2差圧Phighも一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくようにする。
【0076】
また、W/C圧がM/C圧に近づくと、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が小さくなるため、第1差圧Plowを第1時間Tlow継続しただけではW/C圧をM/C圧まで上昇させ難くなる。その反面、W/C圧がM/C圧に近づくと、第2差圧Phighによって第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧を確実に保持する必要はなく、多少は第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が低下していく状態になっても急激にW/C圧が増圧されることはない。このため、第2差圧Phighと第1差圧Plowとの差が徐々に小さくなり、第2差圧Phighが第1差圧Plowに近づくようにすることで、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が第2差圧Phighとされているときにも、徐々にW/C圧が増圧させられるようにすることで、より早くW/C圧をM/C圧に近づけられるようにする。
【0077】
このような処理が行われるように、ステップ430以降の処理を実行する。具体的には、まず、ステップ430において、出力状態が第2差圧Phighの出力中、つまり高μ路側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37の要求差圧が第2差圧Phighとされているか否かを判定する。この判定は、後述するステップ445、455、475において出力状態が示されるため、その設定を確認することにより行われる。
【0078】
ここで否定判定されると、ステップ435に進む。ステップ435では、要求差圧が第1差圧Plowとされている時間が第1時間Tlow経過したか否かを判定する。例えば、このステップを始めて処理した時に要求差圧が第1差圧Plowとされてからの経過時間を計測する図示しないカウンタによるカウントをスタートさせ、そのカウント値が第1時間Tlowに対応する値に達したときに肯定判定されるようにすることができる。
【0079】
ここで否定判定されれば、ステップ440に進んで要求差圧を第1差圧Plowに設定する。これにより、第1時間Tlowが経過するまで、要求差圧が第1差圧Plowとされる。このとき、第1差圧Plowの演算手法は、後述するステップ465で設定されるパルス数に基づいて行われるが、初めて第1差圧Plowが設定されるときにはパルス数が0とされているため、要求差圧は第1差圧Plow(初期値)とされる。そして、ステップ445に進み、出力状態が第2差圧Phighが出力中ではないことを示す。例えば、出力状態は第2差圧出力中フラグにて表され、このフラグをリセットすることで、第2差圧Phighが出力中ではないことが示される。そして、処理を終了し、再び制御中ヨーコン制御処理が繰り返され、要求差圧が第1差圧Plowに設定されている時間が第1時間Tlow経過するまで、ステップ435〜445の処理が繰り返し行われる。
【0080】
また、要求差圧が第1差圧Plowとされている時間が第1時間Tlow経過すると、ステップ435で肯定判定され、ステップ450に進んで要求差圧が第2差圧Phighに切替えられる。このとき、第2差圧Phighの演算手法は、後述するステップ465で設定されるパルス数に基づいて行われるが、初めて第2差圧Phighが設定されるときにはパルス数が0とされているため、要求差圧は第2差圧Phigh(初期値)とされる。そして、ステップ455に進み、出力状態が第2差圧Phighの出力中であることを示す。例えば、出力状態は第2差圧出力中フラグをセットすることで、第2差圧Phighが出力中であることが示される。そして、処理を終了し、再び制御中ヨーコン制御処理が繰り返される。
【0081】
このように、出力状態が第2差圧Phighが出力中とされると、その後更に制御中ヨーコン制御が繰り返されたときにステップ430で肯定判定される。このため、ステップ460に進み、要求差圧が第2差圧Phighとされている時間が第2時間Thigh経過したか否かを判定する。例えば、このステップを初めて処理した時に要求差圧が第2差圧Phighとされてからの経過時間を計測する図示しないカウンタによるカウントをスタートさせ、そのカウント値が第2時間Thighに対応する値に達したときに肯定判定されるようにすることができる。ここで否定判定されたときには、ステップ450、445を経て処理が終了され、要求差圧が第2差圧Phighに設定されている時間が第2時間Thigh経過するまで、制御中ヨーコン制御処理が繰り返される。
【0082】
そして、要求差圧が第2差圧Phighに設定されている時間が第2時間Thigh経過するとステップ460で肯定判定されるため、ステップ465に進み、要求差圧を第1差圧Plowとする処理や第2差圧Phighとする処理を完了した回数を意味するパルス数を1つインクリメントする。この後、ステップ440に進み、再び要求差圧を第1差圧Plowに切替える。このとき、第1差圧Plowの演算は、ステップ465で設定されるパルス数に基づいて行われる。すなわち、上述したように、第1差圧Plowを段階的に徐々に低下させるように、第1差圧Plow(初期値)から予め決められた第1勾配に相当する減少勾配αにパルス数を掛け合わせた値を差し引くことで演算される。減少勾配αに関しては任意に設定できるが、例えばパルス数が所定数に達したときに、バラツキ公差から逆算してバラツキ最大のものでも0MPaの差圧になる指示電流相当になる要求差圧の最小値Pminとなる勾配に設定される。
【0083】
さらに再び要求差圧が第1差圧Plowに設定されている時間が第1時間Tlow経過するとステップ435で肯定判定されるため、ステップ450に進み、再び要求差圧を第2差圧Phighに切替える。このとき、第2差圧Phighの演算も、ステップ465で設定されるパルス数に基づいて行われる。すなわち、上述したように、第2差圧Phighを段階的に徐々に低下させるように、第2差圧Phigh(初期値)から予め決められた第2勾配に相当する減少勾配βにパルス数を掛け合わせた値を差し引くことで演算される。減少勾配βに関しても任意に設定できるが、減少勾配αよりも大きな勾配とされ、例えばパルス数が所定数に達したときに、バラツキ公差から逆算してバラツキ最大のものでも0MPaの差圧になる指示電流相当になる要求差圧の最小値Pminとなる勾配に設定される。
【0084】
このようにして、要求差圧が第1差圧Plowと第2差圧Phighとに繰り返し切替えられると共に、設定される第1差圧Plowと第2差圧Phighが段階的に徐々に低下させられるようにして緩増圧制御が実行される。
【0085】
なお、上述したように、ステップ405で緩減圧処理が実行された場合、もしくは、ステップ415で保持制御が実行された場合は、緩増圧制御が行われていないという意味であるため、ステップ470に進んでパルス数を0にリセットする。さらに、ステップ475に進んで出力状態が第2差圧Phighの出力中ではないことを示すべく、例えば第2差圧出力中フラグをリセットし、処理を終了する。また、ステップ435やステップ460で肯定判定されたときに、第1時間Tlowや第2時間Thighを計測するためのカウンタのカウント値をリセットしておくことで、再び要求差圧として第1差圧Plowや第2差圧Phighが設定されたときに、改めて零から第1時間Tlowや第2時間Thighを計測することが可能になるようにしている。
【0086】
このようにして制御中ヨーコン制御が行われると、図3のステップ165に進み、出力処理が実行される。これにより、ステップ135で実行される独立制御や制御中ヨーコン制御で設定された緩減圧制御、保持制御、緩増圧制御を実行すべく、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38および第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42のソレノイドに対して指示電流を流す。これにより、各種制御が実行される。
【0087】
以上のようなABS制御が実行された場合の効果について、図7に示すμスプリット路面でABS制御が実行された場合のタイミングチャートを参照して説明する。
【0088】
まず、制動が開始されて時点T1において低μ路側の車輪がABS制御開始条件を満たしてABS制御が開始されると、セレクトロー制御により低μ路側と高μ路側共に減圧モードが設定され、減圧制御が開始されてW/C圧が減少していく。そして、高μ路側では推定車体速度と車輪速度との偏差が殆ど発生していないため、時点T2において、直ぐに減圧モードが解除されて増圧モードが設定され、増圧制御が開始される。このため、高μ路側の推定W/C圧と低μ路側の推定W/C圧との差が大きくなっていき、この差が時点T3において閾値Pholdを超える。このため、μスプリット判定(ステップ120)においてμスプリット路面であると判定され、左右車輪FR、FLのいずれが高μ路であるかも判定される(ステップ325、335)。
【0089】
そして、μスプリット路面と判定されると、高μ路側の車輪に対して制御中ヨーコン制御(ステップ160)が実行される。これにより、対称輪が減圧モードである場合(ステップ410)、もしくは、左右前輪FR、FLの推定W/C圧の差の絶対値が閾値Pholdを超えていれば(ステップ420)、時点T3において高μ路側の車輪のW/C圧が保持される(ステップ415)。このため、高μ路側の車輪のW/C圧を保持して制動力を稼ぎつつ、高μ路側と低μ路側とでW/C圧の差が大きくなることによる左右の制動力差の発生を抑制できる。
【0090】
次に、低μ路側の車輪の車輪速度が復帰し、保持モードを経て、時点T4において増圧モードが設定されると、再び左右前輪FR、FLの推定W/C圧の差の絶対値が閾値Phold以下になる。このため、時点T5から高μ路側の車輪のW/C圧が緩増圧される。
【0091】
このとき、高μ路側の前輪FR、FLと対応する増圧制御弁17、37にて第1差圧Plowを第1時間Tlow継続し、第2差圧Phighを第2時間Thigh継続することを繰り返すことで、高μ路側の車輪のW/C圧が緩増圧される(ステップ430〜465)。つまり、高μ路側の前輪FR、FLと対応する増圧制御弁17、37に対する要求差圧(および指示電流)がパルス波形とされる。このため、増圧制御弁17、37に個体差に起因して要求差圧に対して発生させる差圧が大きくなる側にばらついたとしても、急増圧を抑えることが可能になり、逆に、差圧が小さくなる側にばらついたとしても、ある程度増圧を確保することが可能になる。
【0092】
また、第1差圧Plowや第2差圧Phighを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させるようにしている。このため、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のバラツキを緩増圧中に更に低減することが可能となる。さらに、第2差圧Phighの減少勾配βを第1差圧Plowの減少勾配αよりも大きくしているため、第2差圧Phighと第1差圧Plowとの差が徐々に小さくなり、第2差圧Phighを第1差圧Plowに近づけられる。このため、高μ路側の前輪FR、FLのW/C圧がM/C圧に近づいてきたときに、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が第2差圧Phighとされているときにも、徐々にW/C圧が増圧させられるようにでき、より早くW/C圧をM/C圧に近づけられるようにできる。
【0093】
以下、これらの効果が得られる原理について、図8〜図11を参照して説明する。
【0094】
図8は、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した要求差圧または指示電流に対する差圧特性を示したグラフである。また、図9は、図8に示したような個体差がある場合に、従来のように各増圧制御弁17、37に対する要求差圧(または指示電流)を線形的(リニア)に徐々に低下させたときの各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。
【0095】
図8に示されるように、増圧制御弁17、37の個体差により、要求差圧や指示電流に対して実際に発生させられる差圧特性が異なっている場合があり、例えば増圧制御弁17、37のうちの一方が実線で示した特性、他方が破線で示した特性となることがある。この場合、要求差圧や指示電流が同じであっても実際に発生させられる差圧にバラツキが発生する。このため、図9に示されるように、増圧制御弁17、37に対する要求差圧や指示電流を線形的に徐々に低下させた場合には、一方のW/C圧は要求差圧の低下に伴って徐々に増加し、他方はそれに個体差に起因した遅れをもってW/C圧が増加することがある。
【0096】
したがって、要求差圧や指示電流を徐々に低下させていく際に常に両W/C圧間に個体差に起因した差が生じる。そして、減圧制御から増圧制御に切替えられたときに、増圧制御弁17、37に対する要求差圧は、増圧制御弁17、37を遮断状態とする最大値から、減圧制御から増圧制御に切り替わるときに実際に発生しているM/C圧とW/C圧の間の差圧に対応した値まで瞬間的に低下させられ、その後徐々に線形的に低下させられる。このとき、減圧制御から増圧制御に切り替わるときに発生しているM/C圧とW/C圧の間の差圧は、増圧制御弁17、37に個体差があれば異なった値となるが、個体差を考慮せずに推定W/C圧を演算し、その推定W/C圧を用いてM/C圧とW/C圧の間の差圧を演算している。このため、減圧制御から増圧制御に切り替わるときに、図9に示されるように、要求差圧や指示電流が個体差を考慮した値にならず、増圧制御弁17、37の一方に関しては要求差圧が減圧制御から増圧制御に切り替わるときに発生しているM/C圧とW/C圧の間の差圧となって要求差圧や指示電流の低下に伴って直ぐにW/C圧を増圧させられたとしても、他方は直ぐにW/C圧が増圧させられないことが有る。
【0097】
このため、増圧制御弁17、37の個体差によってW/C圧を上昇させるのに差がでて、両車輪FL、FRのW/C圧の差が大きくなる。
【0098】
これに対し、本実施形態では、要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighとに切替えている。図10は、図8に示したような個体差がある場合に、要求差圧が第2差圧Phighのときに両前輪FL、FRのW/C圧が双方共に所定値まで減圧されたあと、要求差圧を所定期間T1の間第1差圧Plowに切替えたときの各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。また、図11は、図8に示したような個体差がある場合に、本実施形態のように要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighとに交互に繰り返して切替えた場合の各車輪FL、FRのW/C圧の変化を示したグラフである。
【0099】
図10に示されるように、増圧制御弁17、37に個体差があるため、要求差圧を第1差圧Plowにしたときに各増圧制御弁17、37の上下流間に実際に発生させられる差圧に所定期間T1が経過することで誤差が生じ、各車輪FL、FRの増圧勾配に差が生じる。しかしながら、各増圧制御弁17、37の上下流間に実際に発生させられる差圧の誤差は、第2差圧Phighから第1差圧Plowに切替えた後の経過時間の長さに対応して大きくなるため、経過時間が短時間であればあまり大きくならない。
【0100】
このため、本実施形態のように要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighとに短時間で交互に繰り返して切替えた場合、図10の一点鎖線で囲んだ領域A内に対応する短期間Plowが継続することになり、増圧制御弁17、37の個体差に起因して発生する両W/C圧の差はあまり大きくならない。つまり、図11に示されるように、要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighとに短時間で交互に繰り返して切替えた場合、第1差圧Plowに切替えられた瞬間から各車輪FL、FRのW/C圧が共に増加する。このとき、増圧制御弁17、37の個体差に起因して図10に示したように増圧勾配に差が生じる。しかしながら、要求差圧を第1差圧Plowに切替えてから第2差圧Phighに切替えるまでの時間が第1時間Tlowと短時間であるため、要求差圧(指示電流)をパルス波形としない場合に比して両W/C圧の差はあまり大きくならない。
【0101】
これにより、増圧制御弁17、37の個体差に起因して両W/C圧に差が生じても、その差を小さくすることができる。そして、増圧制御弁17、37の個体差があっても要求差圧を第1差圧Plowという低い値まで低下させているため、減圧制御から増圧制御に切り替わるときに、発生しているM/C圧とW/C圧の間の差圧に対応する要求差圧を出す場合のように、いずれかのW/C圧が直ぐには増圧されないような状況(図9参照)を避け、ある程度の増圧を確保することができる。また、要求差圧を第1差圧Plowという低い値にしているが、短時間で第2差圧Phighに切り替わるようにしているため、急増圧を抑えることも可能となる。
【0102】
ただし、高μ路側の前輪FR、FLと対応する第1、第3増圧制御弁17、37の要求差圧として設定される第1差圧Plowや第2差圧Phighを一定値にした場合、個体差に起因して発生させられる差圧のバラツキをより十分に低減できない。このため、図7に示されるように、要求差圧として設定される第1差圧Plowや第2差圧Phighを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させるようにしている。この効果について、図12〜図13を参照して説明する。
【0103】
図12は、図7に示すタイミングチャートの一部を取り出した拡大図である。図13は、要求差圧もしくは指示電流に対して第1、第3増圧制御弁17、37で発生させられる差圧の関係であるIP特性を示した図であり、実線が想定しているIP特性、破線が実際のIP特性の一例を示している。
【0104】
図12に示したように、第1差圧Plowについては、段階的に減少勾配αずつ低下させている。これは、図13に示すように、要求差圧もしくは指示電流に対して第1、第3増圧制御弁17、37で発生させられる差圧に関して、想定しているIP特性と実際のIP特性との間にバラツキが生じるために行っている。
【0105】
例えば、実際のIP特性が想定しているIP特性と比べて、大きい差圧を発生させる側にずれている場合、つまり同じ第1差圧Plowに対応する指示電流を流した時に発生させられる差圧が想定される差圧よりも大きい場合、その差だけ高μ路側の車輪のW/C圧を上昇させることができなくなる。このため、左右前輪FR、FRのW/C圧の差が想定している値にできなくなる。このような場合に、第1差圧Plowを段階的に減少勾配αずつ低下させることで、徐々に実際に発生させられる差圧を想定しているIP特性に基づいて発生させられる差圧に近づけることが可能となり、左右前輪FR、FRのW/C圧の差を想定している値に近づけることが可能となる。
【0106】
このように、第1差圧Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきを緩増圧中に更に低減することができる。
【0107】
また、第1差圧Plowを低下させることは、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のバラツキに対してだけではなく、他にも効果を得ることができる。
【0108】
例えば、上記とは逆に、実際のIP特性が想定しているIP特性と比べて、小さい差圧を発生させる側にずれている場合、つまり同じ第1差圧Plowに対応する指示電流を流した時に発生させられる差圧が想定される差圧よりも小さい場合には、その差だけ高μ路側の車輪のW/C圧を上昇させることができる。しかしながら、M/C圧とW/C圧との差が小さい場合には、早くW/C圧を高くすることができない。このため、このような場合は、実際に発生させられる差圧が想定されるIP特性に基づいて発生させられる差圧から更にずれることになるが、第1差圧Plowを段階的に減少勾配αずつ低下させることで、より早くW/C圧をM/C圧に近づけることが可能になる。
【0109】
さらに、大きなブレーキペダル踏込みによって大きなM/C圧が発生させられているときに緩増圧制御に移行して第1差圧Plowが設定された後、ブレーキペダル踏込みが弱められてM/C圧が小さくなった場合、先に設定された第1差圧Plowが大きな値になり過ぎていることがある。このため、第1差圧Plowを徐々に低下させることにより、小さくなったM/C圧に対応した第1差圧Plowとすることが可能となる。
【0110】
なお、M/C圧とW/C圧の差が大きい場合において、実際のIP特性が想定しているIP特性と比べて、小さい差圧を発生させる側にずれている場合には、想定している差圧よりも実際に発生させている差圧が大きくなる。この場合においても、第1差圧Plowが更に低くされることで、想定している差圧よりもさらに大きな差圧を発生させることになる。しかしながら、M/C圧とW/C圧との差が大きい場合には、元々、第1、第3増圧制御弁17、37で発生させられる差圧が第1差圧Plowに設定されたときにW/C圧が大きな勾配で増圧される状態になっているため、第1差圧Plowが低くされても、W/C圧の増圧の勾配はほとんど変化しない。このため、一律に第1差圧Plowを低下させていっても問題は発生しない。
【0111】
このように、第1差圧Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のバラツキを緩増圧中に更に低減することができる。また、M/C圧とW/C圧との差が小さい場合には、よりW/C圧をM/C圧に近づけることが可能となる。さらに、第1差圧Plowが設定されてからM/C圧が低下したような場合にも、低下したM/C圧に対応した第1差圧Plowにすることが可能となる。
【0112】
さらに、本実施形態では、第2差圧Phighについても段階的に徐々に低下させるようにしている。すなわち、第2差圧Phighは、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧を保持するために十分な値に設定されている。ところが、緩増圧が進むに連れて第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧が低下していくため、それを保持するために必要な値も低下していくことになる。このため、第2差圧Phighを一定値にするのではなく、段階的に徐々に低下させていくようにすることで、第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧を保持するために最低限必要となる値となるようにし、必要以上に差圧を発生させることによる音や振動の発生を抑制することが可能となる。
【0113】
また、第2差圧Phighの減少勾配βが第1差圧Plowの減少勾配αよりも大きな勾配となるようにし、例えばパルス数が所定数に達したときに、要求差圧の最小値Pminとなる勾配としている。このため、徐々に第1差圧Plowと第2差圧Phighとの差を小さくすることができ、M/C圧とW/C圧との差が小さくなって第1差圧Plowを設定しただけではW/C圧を早く増加させることが難しくなってきたときに、第2差圧Phighが設定されたときにもW/C圧を増加させることが可能となる。これにより、M/C圧とW/C圧との差が小さくなったときに、よりW/C圧を早くM/C圧に近づけることが可能となる。
【0114】
このように、制御中ヨーコン制御を実行することで、W/C圧の昇圧性能のばらつきを抑制することができ、左右前輪FR、FLのW/C圧の差圧を一定範囲に抑えることが可能になる。これにより、車両に加わるヨートルクを抑制でき、スピンを防止することが可能になる。
【0115】
この後、再び低μ路側の車輪が減圧モードに切り替わると、高μ路側の車輪のW/C圧が保持され、上記のような動作が繰り返されることになる。
【0116】
以上説明したように、本実施形態では、高μ路側の前輪FR、FLと対応する増圧制御弁17、37にて第1差圧Plowを第1時間Tlow継続し、第2差圧Phighを第2時間Thigh継続することを繰り返すことで、高μ路側の車輪のW/C圧を緩増圧している。したがって、W/C圧の昇圧性能のばらつきを抑制することができ、左右前輪FR、FLのW/C圧の差圧を一定範囲に抑えることが可能になる。これにより、車両に加わるヨートルクを抑制でき、スピンを防止することが可能になる。
【0117】
そして、第1差圧Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、第1、第3増圧制御弁17、37の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきにより増圧され難くなる影響を小さくすることができる。
【0118】
また、第2差圧Phighについても段階的に徐々に低下させることで、第2差圧Phighを第1、第3増圧制御弁17、37の上下流間の差圧を保持するために最低限必要となる値となるようにでき、必要以上に差圧を発生させることによる音や振動の発生を抑制することが可能となる。さらに、M/C圧とW/C圧との差が小さくなった時に第2差圧Phighの領域でも増圧可能となる。
【0119】
さらに、第2差圧Phighの減少勾配βが第1差圧Plowの減少勾配αよりも大きな勾配となるようにすることで、M/C圧とW/C圧との差が小さくなったときに、より早くW/C圧を増圧することが可能となる。また、最終的に、第1差圧Plowと第2差圧Phighが要求差圧の最小値Pminとなるようにすることで、より確実にW/C圧をM/C圧に近づけることができる。
【0120】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してブレーキ制御装置1にて実行するブレーキ制御を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態に対して異なる部分についてのみ説明する。
【0121】
本実施形態は、第1実施形態に示したブレーキ制御装置1を用いて前後輪に発生させる制動力の配分を調整する制動力配分制御を実行する。ブレーキ制御装置1の構成については第1実施形態と同様であり、ブレーキECU70にて実行される制動力配分制御処理が異なっている。このため、ここでは制動力配分制御処理についてのみ説明する。
【0122】
制動力配分制御は、ブレーキペダル操作時に前輪と後輪の車輪速度の差に応じて後輪の制動力を前輪の制動力に対し所定の関係に調整するものである。この制御は、例えば車輪速度の差が規定値よりも高くなったことを開始条件として行われ、前輪の制動力配分に対して後輪の制動力配分が規定範囲内に入るように後輪のW/C圧を調整することで、後輪の早期ロックを防止する。例えば、制動力配分制御を実行するために行われる制動力配分制御処理は、制動時に制御周期毎に実行され、車両が停止したこともしくはブレーキペダル操作が止められたことを終了条件として完了する。この制動力配分制御処理のメインフローについては従来と同様であるため、ここでは、制動力配分制御処理のうち後輪RR、RL側に対して実行される部分について説明する。
【0123】
図14は、制動力配分制御処理のうち後輪RR、RL側に対して実行される部分の詳細を示したフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、各後輪RR、RLそれぞれに対して所定の制御周期毎に実行される。以下、この図を参照して説明する。
【0124】
まず、制動力配分制御が実行されると、ステップ500において、後輪車輪速度が保持開始閾値を下回ったか否かを判定する。ここでいう保持開始閾値とは、前輪車輪速度(≒推定車体速度)に対して後輪車輪速度が所定の割合で落ち込んだことを想定した値である。例えば、前輪車輪速度に対して一定割合(1未満の値)を掛けた値が保持開始閾値とされる。この判定は、後輪RR、RLにおける保持制御の開始条件を満たすか否かを判定するために行われるものであるが、制動力配分制御の開始条件も同じ条件になっている。
【0125】
ここで肯定判定されると、ステップ505に進んで保持制御を実行する。具体的には、ここでは保持制御を実行するために後輪RR、RLに対応する第2、第4増圧制御弁18、38のソレノイドに流す指示電流を求めている。そして、求めた指示電流を出力することにより、後輪RR、RLのW/C圧を保持し、後輪RR、RLの車輪速度が落ち込むことを抑制する。この後、前回出力が保持であったこと、つまり前回保持制御を行ったことを示すフラグをセットしたのち、後述するステップ565に進む。
【0126】
一方、ステップ500で否定判定されると、ステップ510に進む。ステップ510では、前回出力が保持であったか、つまり前回保持制御が実行されたか否かを判定する。ここでは、ステップ505で保持制御を行ったことを示すフラグがセットされているか否かを判定し、セットされていればステップ510で肯定判定される。そして、ステップ515に進み、後輪車輪速度が緩増圧開始閾値を超えたか否かを判定する。緩増圧開始閾値とは、緩増圧を開始できるまで後輪車輪速度が復帰したことを判定する閾値である。例えば、前輪車輪速度に対して一定割合(1未満の値、但し保持開始閾値の演算に用いられる値よりも小さい値)を掛けた値が緩増圧開始閾値とされ、上述した保持開始閾値よりも大きな値とされる。ここで肯定判定されるまでの間は、ステップ505に戻って保持制御が繰り返され、後輪RR、RLのW/C圧が保持され続ける。そして、ステップ515で肯定判定されると、ステップ520に進み、前回出力が保持であったことを示すフラグをリセットすると共に、緩増圧制御を実行する。
【0127】
具体的には、緩増圧制御を実行するために第2、第4増圧制御弁18、38のソレノイドに流す指示電流を求めている。ここでいう緩増圧制御の意味は、第1実施形態と同様であり、緩増圧制御の手法も第1実施形態と同様である。
【0128】
このようにして緩増圧制御が開始されると、その後はステップ525〜560において、第1実施形態で説明した図6のステップ430〜ステップ465と同様の処理を行うことで、緩増圧制御中に後輪RR、RLのうち対象車輪となるものについて、対応する第2、第4増圧制御弁18、38の上下流間に発生させる要求差圧およびそれに対応する指示電流が求められる。すなわち、比較的低い第1差圧Plowを第1時間Tlowの間継続した後、それよりも高い第2差圧Phighが第2時間Phighの間継続することが交互に繰り返され、かつ、第1差圧Plowと第2差圧Phighが段階的に徐々に低下していくように、要求差圧およびそれに対応する指示電流が求められる。
【0129】
このようにして、第1実施形態と同様の緩増圧制御が実行される。なお、上述したように、ステップ505で保持制御が実行された場合は、緩増圧制御が行われていないという意味であるため、ステップ565に進んでパルス数を0にリセットする。さらに、ステップ570に進んで出力状態が第2差圧Phighの出力中ではないことを示すべく、例えば第2差圧出力中フラグをリセットし、処理を終了する。
【0130】
以上のような制動力配分制御が実行された場合の効果について、図15に示す制動力制御が実行された場合のタイミングチャートを参照して説明する。
【0131】
まず、ブレーキペダル操作が為されると、時点T1に示されるようにM/C圧の上昇に伴って後輪のW/C圧が上昇し、前輪および後輪車輪速度が低下していく。なお、前輪のW/C圧に関しては、図中に示したM/C圧とほぼ同じ値になる。そして、前輪車輪速度に対して後輪車輪速度が落ち込み、制動力配分制御の開始条件保持開始閾値を下回ると、後輪RR、RLのうちの対象車輪について保持制御が開始される(ステップ500、505)。これにより、制動力配分制御の開始要求がオンされると共に、後輪RR、RLのうち対象車輪のW/C圧を保持すべく、第2、第4増圧制御弁18、38のソレノイドに流す指示電流が第2、第4増圧制御弁18、38を遮断状態にするときの大きさとされる。
【0132】
この後、後輪RR、RLのうち対象車輪のW/C圧の保持状態が続けられると前輪車輪速度に対する後輪車輪速度の落ち込みが軽減される。これにより、時点T3において後輪車輪速度が緩増圧開始閾値を超える。これにより、緩増圧制御が開始され、後輪RR、RLのうちの対象車輪のW/C圧が緩増圧される(ステップ515、520)。
【0133】
このとき、後輪RR、RLのうちの対象車輪と対応する増圧制御弁18、38にて第1差圧Plowを第1時間Tlow継続し、第2差圧Phighを第2時間Thigh継続することを繰り返すことで、後輪RR、RLのうちの対象車輪に対応するW/C圧が緩増圧される(ステップ525〜560)。このため、増圧制御弁18、38に個体差に起因したW/C圧の昇圧勾配のバラツキを抑制することができる。すなわち、要求差圧に対して発生させる差圧が大きくなる側にばらついたとしても、急増圧を抑えることが可能になり、逆に、差圧が小さくなる側にばらついたとしても、ある程度増圧を確保することが可能になる。これにより、後輪RR、RLに対して所望の制動力を発生させることが可能となる。
【0134】
また、第1差圧Plowや第2差圧Phighを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させるようにしている。このため、第2、第4増圧制御弁18、38の個体差に起因した発生させられる差圧のバラツキを緩増圧中に更に低減することが可能となる。
【0135】
図16は、要求差圧もしくは指示電流に対して第2、第4増圧制御弁18、38で発生させられる差圧の関係であるIP特性を示した図であり、実線が想定しているIP特性、破線が実際のIP特性の一例を示している。
【0136】
図16に示されるように、実際のIP特性が想定しているIP特性と比べて、大きい差圧を発生させる側にずれている場合、つまり同じ第1差圧Plowに対応する指示電流を流した時に発生させられる差圧が想定される差圧よりも大きい場合、その差だけ後輪RR、RLのW/C圧を上昇させることができなくなる。
【0137】
したがって、図16のようにPlowを段階的に減少勾配αずつ低下させることで、徐々に実際に発生させられる差圧を想定しているIP特性に基づいて発生させられる差圧に近づけることが可能となり、後輪RR、RLのW/C圧を想定している値に近づけることが可能となる。このように、Plowを一定値にせずに、段階的に徐々に低下させていくことで、第2、第4増圧制御弁18、38の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきの影響を緩増圧中に更に低減することができる。
【0138】
なお、実際のIP特性が想定しているIP特性と比べて、小さい差圧を発生させる側にずれている場合においても第1差圧Plowを段階的に減少させることになる。しかしながら、この場合にはより早く後輪RR、RLのW/C圧を前輪FR、FLのW/C圧(=M/C圧)に近づけることができるし、仮に再び後輪車輪速度が保持開始閾値を超えたとしても、再び保持制御が開始されるだけであるため、特に問題は発生しない。
【0139】
また、本実施形態では、第2差圧Phighについても段階的に徐々に低下させるようにしている。すなわち、第2差圧Phighは、第2、第4増圧制御弁18、38の上下流間の差圧を保持するために十分な値に設定されている。ところが、緩増圧が進むに連れて第2、第4増圧制御弁18、38の上下流間の差圧が低下していくため、それを保持するために必要な値も低下していくことになる。このため、第2差圧Phighを一定値にするのではなく、段階的に徐々に低下させていくようにすることで、第2、第4増圧制御弁18、38の上下流間の差圧を保持するために最低限必要となる値となるようにし、必要以上に差圧を発生させることによる音や振動の発生を抑制することが可能となる。
【0140】
また、第2差圧Phighの減少勾配βが第1差圧Plowの減少勾配αよりも大きな勾配となるようにし、例えばパルス数が所定数に達したときに、要求差圧の最小値Pminとなる勾配としている。このため、徐々に第1差圧Plowと第2差圧Phighとの差を小さくすることができ、M/C圧とW/C圧との差が小さくなって第1差圧Plowを設定しただけではW/C圧を早く増加させることが難しくなってきたときに、第2差圧Phighが設定されたときにもW/C圧を増加させることが可能となる。これにより、M/C圧とW/C圧との差が小さくなったときに、よりW/C圧を早くM/C圧に近づけることが可能となる。
【0141】
図17は、後輪RR、RLのW/C圧がM/C圧に近づいてきたときの様子を拡大して表したタイミングチャートである。
【0142】
この図に示すように、第1差圧Plow、第2差圧Phighが一定値の場合には、想定しているIP特性に対して実際のIP特性に個体差に起因するバラツキがあるため、後輪RR、RLのW/C圧がM/C圧に一致するまで増圧させられなくなる。これに対して、本実施形態のように第1差圧Plowを変化させるようにすることで、第2、第4増圧制御弁18、38の個体差に起因した発生させられる差圧のばらつきを緩増圧中に更に低減することができる。さらに、本実施形態では、第2差圧Phighも一定値にせずに段階的に徐々に低下させるようにし、かつ、第2差圧Phighの減少勾配βを第1差圧Plowの減少勾配αよりも大きくしている。このため、第1差圧Plowが設定されているタイミングに加えて、第2、第4増圧制御弁18、38の上下流間の差圧が第2差圧Phighとされているときにも、徐々にW/C圧が増圧させられるようにでき、より早くW/C圧をM/C圧に近づけられるようにできる。
【0143】
(他の実施形態)
上記第1、第2実施形態ではμスプリット路においてセレクトロー制御を行うABS制御や制動力配分制御を例に挙げて説明したが、増圧制御弁をリニア駆動することで所望の差圧を発生させてW/C圧を制御するようなブレーキ制御装置であれば、どのようなものについても、上述した増圧制御弁の個体差に起因したW/C圧の昇圧性能バラツキの問題が発生する。このため、上記各実施形態のように、緩増圧制御を行うと共に、緩増圧制御時に対象車輪に対応する増圧制御弁17、18、37、38の要求差圧を第1差圧Plowと第2差圧Phighを交互に繰り返して設定し、これらを段階的に徐々に低下させるようにすることで、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0144】
また、上記実施形態では、第1差圧Plowを減少勾配αで均一に減少させているが、減少量を徐々に増加もしくは減少させることも可能である。同様に、第2差圧Phighを減少勾配βで均一に減少させているが、減少量を徐々に増加もしくは減少させることも可能である。上記実施形態では、減少勾配α<減少勾配βになっているが、減少勾配α=減少勾配βもしくは減少勾配α>減少勾配βとすることも可能である。また、第1差圧Plowと第2差圧Phighを規定パルス数繰り返したのちに、第1差圧Plowと第2差圧Phighが要求差圧の最小値Pminとなるように減少勾配α、βを決めているが、別の方法で減少勾配α、βを個別に決めても良い。
【0145】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、ブレーキECU70のうち図6のステップ425〜465や図14のステップ520〜560の処理を実行する部分は通電量制御手段、図6のステップ440や図14のステップ535の処理を実行する部分は第1差圧設定手段、図6のステップ450や図14のステップ545の処理を実行する部分は第2差圧設定手段に相当する。
【符号の説明】
【0146】
1…ブレーキ制御装置、11…ブレーキペダル、13…M/C、14、15、34、35…W/C、17、18、37、38…第1〜第4増圧制御弁、19、39…ポンプ、20、40…リザーバ、21、22、41、42…第1〜第4減圧制御弁、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、50a、50b…第1、第2配管系統、60…モータ、70…ブレーキECU、81〜84…各車輪速度センサ、85…ストップスイッチ、A〜C、E〜F…管路、FL〜RR…各車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ制御の増圧制御中に該増圧制御の対象車輪のホイールシリンダ圧の増圧を制御する増圧制御弁(17、18、37、38)のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、前記増圧制御弁の下流側に位置する前記ホイールシリンダ(14、15、34、35)の増圧を行うブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ制御の対象車輪に対して増圧制御を実行する際に、該対象車輪に対応する前記増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧(Plow)と該第1差圧よりも高い第2差圧(Phigh)に繰り返し切替えるように、該増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御する通電量制御手段(425〜465、520〜560)を備え、
前記通電量制御手段は、前記要求差圧として前記第1差圧と前記第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、前記第1差圧を段階的に低下させて設定する第1差圧設定手段(440、535)を備えていることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記第1差圧設定手段は、予め決められた第1勾配(α)で前記第1差圧を低下させて設定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記通電量制御手段は、前記要求差圧として前記第1差圧と前記第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、前記第2差圧を段階的に低下させて設定する第2差圧設定手段(450、545)を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記通電量制御手段は、前記要求差圧として前記第1差圧と前記第2差圧とが切替えられて設定されることが繰り返されるたびに、前記第2差圧を段階的に低下させて設定する第2差圧設定手段(450、545)を備え、
前記第2差圧設定手段は、前記第1勾配よりも大きな勾配として予め決められた第2勾配(β)で前記第2差圧を低下させて設定することを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキ制御は、ブレーキ時に車輪のロックを防止するためのアンチスキッド制御を行い、車両の左右で路面摩擦係数μが異なるμスプリット路面を走行する際に、路面摩擦係数μが低い低μ路側の車輪に対して前記アンチスキッド制御が開始されたときに路面摩擦係数μが高い高μ路側の車輪が前記アンチスキッド制御の開始条件を満たしているか否かに関わらず、前記低μ側の車輪と共に前記高μ側の車輪も前記アンチスキッド制御における減圧制御を開始させるセレクトロー制御を実行し、前記アンチスキッド制御の増圧制御を行う際に対象輪の前記ホイールシリンダの増圧を制御する前記増圧制御弁のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、前記ホイールシリンダの増圧を行うものであり、
左右前輪それぞれの推定ホイールシリンダ圧を演算する演算手段(115)と、
前記左右前輪それぞれの推定ホイールシリンダ圧の差に基づいてμスプリット路面であること、および、高μ路側と低μ路側との判定を行う判定手段(120)と、を備え、
前記通電量制御手段は、前記μスプリット路面において前記高μ路側の車輪に対してアンチスキッド制御の増圧制御を実行する際に、該高μ路側の前輪(FR、FL)に対応する前記増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御し、該増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を前記第1差圧と前記第2差圧とに繰り返し切替えるものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記ブレーキ制御は、前輪(FR、FL)と後輪(RR、RL)に発生させる制動力の配分を制御し、前記前輪に対応するホイールシリンダ(14、34)よりも前記後輪に対応するホイールシリンダ(15、35)に発生させるホイールシリンダ圧を低下させることで、前記後輪のロックを防止するための制動力配分制御を行い、該制動力配分制御の増圧制御を行う際に前記後輪の前記ホイールシリンダの増圧を制御する前記増圧制御弁のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、前記ホイールシリンダの増圧を行うものであり、
前記通電量制御手段は、前記制動力配分制御の増圧制御を実行する際に、前記後輪に対応する前記増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御し、該増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を前記第1差圧と前記第2差圧とに繰り返し切替えるものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前輪(FR、FL)と後輪(RR、RL)に発生させる制動力の配分を制御し、前記前輪に対応するホイールシリンダ(14、34)よりも前記後輪に対応するホイールシリンダ(15、35)に発生させるホイールシリンダ圧を低下させることで、前記後輪のロックを防止するための制動力配分制御を行い、該制動力配分制御の増圧制御を行う際に前記後輪の前記ホイールシリンダの増圧を制御する前記増圧制御弁のソレノイドへの通電量を線形的に変化させることで該増圧制御弁の上下流間の差圧を制御し、前記ホイールシリンダの増圧を行う制動力配分制御を実行するブレーキ装置において、
前記制動力配分制御の対象車輪に対して増圧制御を実行する際に、該対象車輪に対応する前記増圧制御弁の上下流間に発生させる要求差圧を第1差圧(Plow)と該第1差圧よりも高い第2差圧(Phigh)に繰り返し切替えるように、該増圧制御弁のソレノイドへの通電量を制御する通電量制御手段(425〜465、520〜560)を備えていることを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−254029(P2010−254029A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104168(P2009−104168)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】