説明

ブレーキ装置のパッドクリアランス調整方法

【課題】ディスクブレーキの組み付け時におけるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランス調整を精度良く行えるようにする。
【解決手段】ある態様のブレーキ装置においては、クリアランス調整時に制御部がホイールシリンダへ供給される実液圧を監視しながら液圧制御を行う。クリアランス調整当初においては、液圧を本来収束させるべき基準液圧に目標値を調整し、液圧勾配が大きくなると液圧の落ち込みを考慮して目標値をそれより高めの超過液圧に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキの組み付け時におけるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスを調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキペダルの踏み込みに応じた液圧を液圧回路内に発生させ、その液圧を各車輪のホイールシリンダに供給することにより車両に制動力を付与するブレーキ装置が知られている。ディスクブレーキ式のブレーキ装置においては、ホイールシリンダに液圧が供給されると、ピストンが駆動されてブレーキパッドを車輪と一体のディスクロータに押し付け、その摩擦力によって車輪に制動力を付与する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ブレーキ装置には、このような車両走行時に制動力を付与する液圧式作動機構のほか、車両を駐車した際にその制動状態をロックする機械式作動機構からなるパーキングブレーキ(以下、「PKB」という)も設けられている。省スペース化等の観点から、ディスクブレーキにPKBを一体化したいわゆるビルトインディスクブレーキとして構成されたものもある。このビルトインディスクブレーキにおいては、ホイールシリンダの背面側に押圧機構が配置されている。サイドブレーキレバーの操作によりPKBワイヤが牽引されると、押圧機構が駆動されてピストンをディスクロータに押し付け、その圧接状態を保持する。それにより制動状態がロックされる。
【特許文献1】特開2007−131247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなビルトインディスクブレーキにおいても、ブレーキパッドとディスクロータとのクリアランスを最適に調整することで、車両駐車時にはPKBを確実に機能させるとともに、車両走行時にはブレーキパッドの引きずりを防止する必要がある。このため、車両組立工場においてPKBワイヤの引き代を調整する際には、その前工程として、作業員がエンジン停止のブーストがかからない状態でブレーキペダルを数回操作することにより、そのブレーキパッドのクリアランス調整(ガタ詰め)を行っていた。しかしながら、クリアランスそのものは目視することができず、しかもこのようなマニュアル操作ではホイールシリンダにどの程度の液圧が供給されたのかも不明であるため、そのクリアランス調整が正常になされたか否かの判断が難しいという問題があった。なお、このようなクリアランス調整の問題はビルトインディスクブレーキに限らず、他のディスクブレーキにおいても同様に発生しうるとも考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、ディスクブレーキの組み付け時におけるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランス調整を精度良く行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のパッドクリアランス調整方法は、車輪とともに回転するディスクロータと、ディスクロータの摩擦摺動面に対向配置されるブレーキパッドと、液圧源と液圧回路を介して接続されたホイールシリンダと、ホイールシリンダに対して摺動可能に配置されたピストンを有し、液圧源からホイールシリンダに供給された液圧によりピストンが駆動されてブレーキパッドをディスクロータに押し付けるように動作するキャリパと、液圧回路に設けられて通電制御により開度が調整され、液圧源からホイールシリンダへの液圧供給を許容または遮断する制御弁と、液圧回路の制御弁とホイールシリンダとの間に設けられた圧力センサと、圧力センサにより検出された液圧値に基づいて制御弁への通電制御を実行する制御部と、を備えたブレーキ装置において、非制動時におけるブレーキパッドとディスクロータとのクリアランスを調整するパッドクリアランス調整方法であって、ブレーキパッドがディスクロータに対向配置されるように組み付けられた後、制御部が、制御弁への通電制御を実行してホイールシリンダの実液圧を設定回数繰り返し昇降させてクリアランスを徐々に小さくする調整処理を行うとともに、その調整処理の少なくとも初回においては、ブレーキパッドとディスクロータとの当接が規制される基準液圧を目標値に設定して液圧制御を実行する一方、実液圧の時間変化量である液圧勾配が予め定める調整基準値以上となるときには、目標値を基準液圧を超える超過液圧に設定変更する。
【0007】
このパッドクリアランス調整方法は、ディスクブレーキに適用され、特にその組立当初におけるいわゆるガタ詰めを行うものである。ホイールシリンダの実液圧(「ホイールシリンダ圧」ともいう)を設定回数繰り返し昇降させることで、クリアランスを狙い通りの値に徐々に近づける。「調整基準値」については、液圧勾配と液圧の落ち込みとの関係から、各回において液圧を適正に収束させることが可能な限界値を実験等を通じて取得することにより設定することができる。
【0008】
この態様によれば、クリアランス調整時にブレーキ装置が作動し、制御部がホイールシリンダへ供給される実液圧を監視しながら液圧制御を行うため、その液圧を適正値に確実に近づけることができる。液圧供給の当初においてはブレーキパッドの変位量が大きく、ホイールシリンダの実液圧もその変位とともに緩やかに立ち上がるため、その液圧供給を解除したときの液圧の落ち込みも小さい。しかし、液圧供給を繰り返すことによりクリアランスが小さくなると、ブレーキパッドの変位が規制されるようになる。このため、液圧供給を再開したときの実液圧の立ち上がりが急峻になり、その液圧供給を解除したときの液圧の落ち込みも相対的に大きくなる。そこで、クリアランス調整当初においては、液圧を本来収束させるべき基準液圧に目標値を調整し、液圧勾配が大きくなると液圧の落ち込みを考慮して目標値をそれより高い超過液圧に設定する。それにより、調整処理の過程で液圧を常に基準液圧またはその近傍に収束させることができ、クリアランスを適正に調整できるようになる。
【0009】
具体的には、液圧源としてポンプの駆動によりアキュムレータに作動液を供給して蓄圧する動力液圧源と、そのアキュムレータの液圧(「アキュムレータ圧」ともいう)を検出する第2の圧力センサを有し、アキュムレータに蓄圧された液圧をホイールシリンダに供給して制動力を発生させるブレーキ装置に対して本方法を適用してもよい。制御部は、ホイールシリンダ圧の液圧勾配が上記調整基準値へ到達したことを推定するために予め設定された基準値(推定基準圧)を予め保持してもよい。そして、アキュムレータ圧がその推定基準圧よりも低いときには目標値として上記基準液圧を設定し、アキュムレータの液圧が推定基準圧以上となったときに目標値として上記超過液圧を設定してもよい。この態様では、ホイールシリンダ圧そのものではなく、その上流側に設けられた液圧源の液圧をもってクリアランス調整が行われる。
【0010】
あるいは、制御部は、予め定める閾回数未満の調整処理においては目標値として上記基準液圧を設定し、閾回数以降の調整処理においては目標値として上記超過液圧を設定するようにしてもよい。この「閾回数」については、実験等を通じて適正値を設定すればよい。この態様によれば、調整処理の回数に応じて目標値の設定を切り替えるため、クリアランス調整における制御アルゴリズムが簡素化される。
【0011】
キャリパにおけるホイールシリンダの背面側に、液圧とは別にピストンをブレーキパッド側へ付勢可能なパーキングブレーキの押圧機構が組み込まれたビルトインディスクブレーキとして構成されたブレーキ装置に対して本方法を適用してもよい。その場合、基準液圧は、押圧機構の押圧力をピストンを介してブレーキパッドに伝達可能とするとともに、ディスクロータによるブレーキパッドの引き摺りを防止可能な有効液圧範囲内に設定してもよい。
【0012】
この態様によれば、実液圧を収束させるべき基準液圧が有効液圧範囲内に設定されるため、ブレーキパッドとディスクロータとの引きずりを防止しつつ、そのクリアランスを詰めることができる。この適正なクリアランス調整により、ビルトインディスクブレーキの作動確実性および作動応答性を確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブレーキ制御装置によれば、ディスクブレーキの組み付け時におけるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランス調整を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るブレーキ装置20を示す系統図である。
ブレーキ装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。ブレーキ装置20は、例えば走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。
【0015】
ブレーキ装置20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ液圧回路とを含む。
【0016】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0017】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれディスクロータ22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。以下の説明においては適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。また、ディスクブレーキユニット21FR〜21RLを総称して「ディスクブレーキユニット21」という。
【0018】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、ホイールシリンダ23内のピストンが駆動され、車輪と共に回転するディスクロータ22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。本実施形態においては、この4つのディスクブレーキユニット21うち、後輪側のディスクブレーキユニット21RL,21RRがビルトインディスクブレーキとして構成され、そのホイールシリンダ23RL,23RRの背面側にパーキングブレーキ(PKB)の押圧機構が配置されている。このビルトインディスクブレーキの構成および動作については後に詳述する。
【0019】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0020】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0021】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギとして、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0022】
上述のように、ブレーキ装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0023】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0024】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0025】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0026】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0027】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0028】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0029】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0030】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0031】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0032】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0033】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0034】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。以下の説明においては適宜、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を総称して単に「リニア制御弁」ということがある。
【0035】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0036】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0037】
ブレーキ装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0038】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
【0039】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0040】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0041】
上述のように構成されたブレーキ装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は目標制動力を演算し、目標制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧である目標ホイールシリンダ圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0042】
その結果、ブレーキ装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。具体的には、ブレーキECU70は、ABS保持弁51〜54の上流圧(「保持弁上流圧」ともいう)の目標値である目標液圧と、その実際の液圧である実液圧との偏差に応じ、増圧モード、減圧モード、及び保持モードのいずれかを選択し、その保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を通電制御することにより保持弁上流圧を制御する。ブレーキECU70は、偏差が増圧必要閾値を超える場合に増圧モードを選択し、偏差が減圧必要閾値を超える場合に減圧モードを選択し、偏差が増圧必要閾値にも減圧必要閾値にも満たない場合すなわち設定範囲内にある場合には保持モードを選択する。なおここで偏差は例えば目標液圧から実液圧を差し引いて求められる。実液圧として例えば制御圧センサ73の測定値が用いられる。目標液圧としては保持弁上流圧、すなわち主流路45における液圧の目標値が用いられる。
【0043】
いわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合、ブレーキECU70は、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を閉状態とし、マスタシリンダ32およびレギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。一方、ホイールシリンダ圧の制御応答に異常があると判定された場合には、マニュアル液圧源を用いたフェイルセーフ処理が行われる。その場合、ブレーキECU70は、全ての電磁制御弁への制御電流の供給を停止する。その結果、マスタシリンダ圧が前輪用のホイールシリンダ23FR及び23FLへと伝達され、レギュレータ圧が後輪用のホイールシリンダ23RR及び23RLへと伝達される。
【0044】
次に、本実施形態のビルトインディスクブレーキの構成および動作について説明する。図2は、ビルトインディスクブレーキの構成を模式的に表す部分断面図である。
上述のように、後輪側のディスクブレーキユニット21RR,21RLは、ビルトインディスクブレーキとして構成され、車輪とともに回転するディスクロータ22、ディスクロータ22の摩擦摺動面に対向配置されるブレーキパッド102、およびブレーキパッド102をディスクロータ22に押し付けるように動作するキャリパ104を備える。
【0045】
キャリパ104は、ホイールシリンダ23(23RR,23RL)と、そのホイールシリンダ23に対して摺動可能に配置されたピストン106を含み、車体に固定された図示しないマウンティングに公知のスライドピン機構等を介して支持された浮動型キャリパとして構成されている。ホイールシリンダ23の内部は、図示しない配管チューブを介して液圧アクチュエータ40に接続され、その液圧回路を介して動力液圧源30およびマニュアル液圧源に接続されている。ブレーキパッド102は、ディスクロータ22の摩擦摺動面に接触する摩擦材と、これを背面側で支持する裏金とを組み付けて構成されている。液圧源からホイールシリンダ23に液圧が供給されると、その液圧によってピストン106が駆動され、ブレーキパッド102を背面側から押圧してディスクロータ22に押し付けるように動作する。
【0046】
ホイールシリンダ23の内周面には環状溝が形成され、その環状溝に角リング108が嵌着されている。これにより、ピストン106がホイールシリンダ23内を液密に保ちながらその軸線方向、つまりブレーキパッド102に近接または離間する方向に摺動可能となっている。ホイールシリンダ23におけるピストン106の背部には、作動液が導入される圧力室110が形成されている。
【0047】
キャリパ104におけるホイールシリンダ23の背面側には、パーキングブレーキの押圧機構120が組み込まれている。押圧機構120は、ピストン106の背面側に順次配置されるプッシュロッド122、伝達ロッド124、およびカム126を含んで構成されている。ホイールシリンダ23の背面側には、カム126を収容するカム室128が形成され、ホイールシリンダ23とカム室128とがガイド孔130を介して連通している。
【0048】
プッシュロッド122は、ガイド孔130に摺動可能に配設され、その先端部がピストン106の軸線に沿って螺合している。この螺合部には、図示しない一定のクリアランス(ビルトインクリアランス)が設けられているため、ピストン106は、後述するクリアランス調整の後、そのクリアランス分だけ戻ることができる。それにより、ブレーキパッド102とディスクロータ22との間に適切なクリアランスを与えることができるようになっている。プッシュロッド122は、その外周面にシール用のOリング132が嵌着されており、圧力室110とカム室128との間のシールを保ちながら摺動する。伝達ロッド124は、プッシュロッド122とカム126との間に挟まれるように支持されている。図示のように、ピストン106、プッシュロッド122および伝達ロッド124は、同一軸線上に配置されている。
【0049】
カム126は、円板の一部が切り欠かれたような形状をなすとともに、その回動軸が伝達ロッド124の軸線から離間した位置にある。カム126からはその半径方向外向きにレバー134が延出し、そのレバー134の先端部にPKBワイヤ136の一端が接続されている。PKBワイヤ136の他端は図示しないサイドブレーキレバーにつながっている。したがって、図中一点鎖線矢印にて示すように、そのサイドブレーキレバーの操作によってPKBワイヤ136が引かれると、カム126が回動して伝達ロッド124および
プッシュロッド122を介してピストン106をブレーキパッド102側へ押圧駆動する。それによってピストン106の先端面がブレーキパッド102の背面に当接してこれを押圧し、ブレーキパッド102をディスクロータ22の摩擦摺動面に押し付ける。その結果、ディスクロータ22に制動力が付与される。
【0050】
キャリパ104とピストン106との間には、可撓性を有する防塵部材138が設けられており、ホイールシリンダ23内への異物の侵入を防止している。また、上述した角リング108は弾性部材からなり、ピストン106を摺動可能に支持しつつ、液密を保持するシール部材として機能するとともに、ピストン106をブレーキパッド102から離間させる方向に付勢する付勢部材としても機能する。このため、サイドブレーキレバーの操作が解除されると、この角リング108の付勢力によりピストン106、プッシュロッド122、伝達ロッド124およびカム126が上記と逆の動作をし、ブレーキパッド102によるディスクロータ22への制動力が解除される。
【0051】
次に、ビルトインディスクブレーキにおけるクリアランス調整方法について説明する。 上述のように構成されたビルトインディスクブレーキは、車両組立工場においていわゆるガタ詰めが行われ、非制動時におけるブレーキパッド102とディスクロータ22とのクリアランス(以下、「パッドクリアランス」ともいう)を適正値に保持している。そのパッドクリアランスが大きすぎると、制動時にピストン106を大きくストロークさせなければならず、車両走行時の液圧制御であれ、パーキングブレーキによる制動保持時であれ、その作動応答性を低下させてしまうからである。特にパーキングブレーキを効かせる場合、クリアランスが大きすぎると、サイドブレーキレバーを操作しても十分な制動保持力が得られなくなる可能性がある。そこで、車両組立工場においてはそのクリアランス調整を精度良く完了させておく必要がある。本実施形態では、液圧制御を利用してホイールシリンダ圧を監視しながらそのクリアランス調整を実現している。
【0052】
図3は、第1実施形態にかかるクリアランス調整方法を表す説明図である。同図には上段から制御圧センサ73により検出される保持弁上流圧、増圧リニア制御弁66の開閉状態、減圧リニア制御弁67の開閉状態がそれぞれ示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。パッドクリアランスの調整時においては、ABS保持弁53,54が全開状態に保持され、ABS減圧弁58,59が閉弁状態に保持される。このため、保持弁上流圧は実質的にホイールシリンダ圧に等しくなる。
【0053】
本実施形態では、車両組立工場においてディスクブレーキユニット21が組み付けられた後、図示のように保持弁上流圧を昇降させる処理を設定回数繰り返し行ってパッドクリアランスを徐々に小さくする。ここで、同図上段に示す「調整停止液圧」は、パーキングブレーキが機能可能となる程度にまでパッドクリアランスを詰めるために最低限必要な液圧を示している。また、「ゼロラッシュ液圧」は、車両走行時においてブレーキパッド102の引きずりを発生させる程度にまでパッドクリアランスが詰められる可能性がある液圧を示している。したがって、これら調整停止液圧とゼロラッシュ液圧との中間の液圧を負荷してクリアランス調整を行うことにより、パッドクリアランスが適正値に保持されるようになる。各液圧は、実験等を通じて取得される。
【0054】
本実施形態では、これら調整停止液圧とゼロラッシュ液圧との間の安定領域に基準液圧を設定し、これを目標液圧として液圧制御を実行する。図示の例では、時刻t1に増圧リニア制御弁66を開弁させている。そして、時刻t2に保持弁上流圧が基準液圧に達したため、増圧リニア制御弁66を閉弁させ、その状態を所定時間保持した後、時刻t3に減圧リニア制御弁67を開弁させて保持弁上流圧を低下させている。そして、時刻t4に保持弁上流圧がゼロとなったため、減圧リニア制御弁67を閉弁させている。同図には液圧を1回昇降させた様子が示されているが、本実施形態では、この液圧の昇降を設定回数(例えば5回)繰り返して実行する。
【0055】
このように保持弁上流圧の昇降を設定回数繰り返す過程でブレーキパッド102が徐々にディスクロータ22へ近づき、そのパッドクリアランスが適正値に設定される。そして、そのクリアランス調整が完了した後にパーキングブレーキの押圧機構を組み付けてPKBワイヤ136の引き代を調整する。これにより、ディスクブレーキユニット21の組み付け直後においてはパッドクリアランスが数mm程度形成されていたところ、車両走行時のパッドクリアランスまで詰められる。その結果、車両駐車時においてサイドブレーキレバーを操作すると、パーキングブレーキが確実に効くようになる。
【0056】
図4は、クリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。
ブレーキECU70は、所定の調整処理開始指示が入力されると、同図に示される処理を実行する。この調整処理開始指示は、例えば車両組立工場の作業員等が外部設備の所定のツールを使用して入力することができる。
【0057】
ブレーキECU70は、まず、本処理のためにRAM上の所定領域に設定したカウンタが示す調整回数Nをゼロクリアする(S12)。この調整回数Nは、クリアランス調整処理においてホイールシリンダ23に供給する液圧の昇降回数、つまり同処理の繰り返し回数を表している。同処理の実行プログラムにはその調整完了を示す完了回数Nset(例えば5回)が設定されているため、調整回数Nが完了回数Nsetに達したときに本処理は終了されることになる。
【0058】
ブレーキECU70は、続いて、増圧リニア制御弁66への通電を行ってこれを開弁させる(S14)。ABS保持弁53,54は開弁状態にあるので、これによって動力液圧源30からホイールシリンダ23RR,23RLへ向けて液圧が供給される。そして、制御圧センサ73の出力に基づき、保持弁上流圧Pfrが目標値Psetに達すると(S16のY)、増圧リニア制御弁66への通電を停止してこれを閉弁させる(S18)。なお、目標値Psetには、上述のように調整停止液圧とゼロラッシュ液圧との間の安定領域にある基準液圧が予め設定されている。そして、その状態を設定時間Δt保持した後(S20)、減圧リニア制御弁67への通電を行ってこれを開弁させる(S22)。これによって保持弁上流圧Pfrがゼロになると(S24のY)、減圧リニア制御弁67への通電を停止してこれを閉弁させる(S26)。そして、調整回数Nを1インクリメントする(S28)。ブレーキECU70は、このS14からS28の処理を繰り返し実行する(S30のY)。そして、調整回数Nが完了回数Nsetを超えると(S30のN)、本処理を終了する。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態においては、クリアランス調整時にブレーキ装置20が作動し、ブレーキECU70が保持弁上流圧Pfrを監視しながら液圧制御を行っている。保持弁上流圧Pfrが実質的にホイールシリンダ圧を示すことから、ホイールシリンダ23RL,23RRへ供給される実液圧を監視しながら液圧制御を行うことになり、その液圧を適正値に保持することができる。これにより、ブレーキパッド102とディスクロータ22との引きずりを防止しつつパッドクリアランスを適正に調整でき、ビルトインディスクブレーキの作動確実性および作動応答性を確保することができる。
【0060】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、クリアランス調整処理の内容が異なる以外は第1実施形態とほぼ同様である。このため、第1実施形態と同様の構成部分および処理部分については必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。
【0061】
すなわち、第1実施形態では、保持弁上流圧Pfrを一定のパターンで繰り返し昇降させながらクリアランス調整を行う例を示した。しかし実際には、液圧供給当初においてはブレーキパッド102の変位量が大きいのに対し、処理を繰り返す過程でパッドクリアランスがある程度詰まると、調整するブレーキパッド102の変位量も小さくなる。つまり、クリアランス調整過程の当初においては保持弁上流圧Pfrの液圧上昇が緩やかであるものの、調整回数を経るごとに液圧制御の応答が敏感になり、それが目標値の設定に影響するようになる。本実施形態では、この点を考慮した液圧制御を行う。
【0062】
図5は、第2実施形態にかかるクリアランス調整方法を表す説明図である。同図(A)はクリアランス調整処理の開始当初の導入処理を示し、同図(B)はそのクリアランス調整処理開始後の定常処理を示している。各図には上段から制御圧センサ73により検出される保持弁上流圧、増圧リニア制御弁66の開閉状態、減圧リニア制御弁67の開閉状態がそれぞれ示されている。各図の横軸は時間の経過を表している。
【0063】
本実施形態では、クリアランス調整処理の1回目の調整処理においては、同図(A)に示すように、調整停止液圧とゼロラッシュ液圧との間の安定領域に基準液圧を設定し、これを目標液圧として液圧制御を実行する。図示の例では、時刻t11に増圧リニア制御弁66を開弁させている。そして、時刻t12に保持弁上流圧がその目標液圧に達したため、増圧リニア制御弁66を閉弁させ、その状態を所定時間保持した後、時刻t13に減圧リニア制御弁67を開弁させて保持弁上流圧を低下させている。そして、時刻t14に保持弁上流圧がゼロとなったため、減圧リニア制御弁67を閉弁させている。
【0064】
そして、続く2回目以降の調整処理においては、同図(B)に示すように、ゼロラッシュ液圧を超える超過液圧を設定し、これを目標液圧として液圧制御を実行する。図示の例では、時刻t21に増圧リニア制御弁66を開弁させた結果、時刻t22に保持弁上流圧がその目標液圧に達したため、増圧リニア制御弁66を閉弁させている。この場合、保持弁上流圧は、その目標液圧をオーバーシュートした後に図示のような落ち込むが、その後、安定領域にて収束している。同図には、このときの後輪側のホイールシリンダ圧の変化の様子が二点鎖線にて示されている。図示のように、保持弁上流圧に対してそのホイールシリンダ圧の上昇が遅れる理由として、後輪側のホイールシリンダ23RR,23RLが液圧アクチュエータ40から配管チューブを介して離れた位置にあることが挙げられる。このため、保持弁上流圧が一旦上昇しても、ホイールシリンダ圧との間で液圧が平均化されるため、図示のような落ち込みを示すことになる。本実施形態では、この落ち込みを見越して目標液圧を高めに設定している。
【0065】
すなわち、クリアランス調整当初においてはブレーキパッド102の変位量が大きいため、同図(A)に示したように保持弁上流圧も緩やかに立ち上がって目標値に近づくため、液圧供給を解除したときのその液圧の落ち込みも小さい。しかし、液圧供給を繰り返すことによりパッドクリアランスがある程度詰まると、液圧供給を再開したときに保持弁上流圧が過敏に応答して急峻に立ち上がるようになり、液圧供給を解除したときには逆に保持弁上流圧の落ち込みが大きくなる。一方、ホイールシリンダ圧はそれに遅延して上昇する。したがって、保持弁上流圧の目標値が十分に高くなければ、ホイールシリンダ圧が十分に高まるまでに時間を要し、クリアランス調整の完了までに長時間を費やす可能性がある。
【0066】
そこで、ブレーキパッド102の変位量が小さくなり液圧勾配が大きくなる2回目以降の調整処理においては、その液圧の落ち込みを考慮して目標値をある程度高めの超過液圧に設定する。それにより、調整処理の過程でホイールシリンダ圧を基準液圧に収束させることができ、パッドクリアランスを適正に調整できるようになる。同様の理由から、3回目以降の調整処理においても2回目と同様の処理を行う。これにより、クリアランス調整が安定かつ速やかに完了するようになる。その完了後にパーキングブレーキの押圧機構120を組み付けてPKBワイヤ136の引き代を調整する。
【0067】
図6は、第2実施形態に係るクリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。本処理において図4に示した第1実施形態と同様の処理部分については同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
ブレーキECU70は、調整回数Nをゼロクリアして液圧制御を開始すると(S12)、調整回数Nが予め設定した閾回数Npに達するまでの間(S210のN)、保持弁上流圧Pfrの液圧勾配が小さいとみなして目標液圧を基準液圧Paに設定する(S212)。一方、調整回数Nが閾回数Npに達すると(S210のY)、液圧勾配が大きいとみなして目標液圧を超過液圧Pbに設定する(S214)。本実施形態では、上述のように閾回数Npとして2回が設定されているが、実験等を通じて他の値を設定してもよい。
【0068】
ブレーキECU70は、続いて第1実施形態と同様のS14〜S28の処理を実行する。そして、S210〜S28の処理を調整回数Nが完了回数Nset(例えば5回)に達するまで繰り返し実行し、調整回数Nが完了回数Nsetを超えると(S30のN)、本処理を終了する。
【0069】
本実施形態によれば、クリアランス調整過程における保持弁上流圧の落ち込みが考慮された適正な液圧制御が実行されるため、その調整処理の過程で保持弁上流圧を基準液圧に収束させることができ、パッドクリアランスを安定かつ適正に調整できるようになる。
【0070】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、クリアランス調整処理の内容が若干異なる以外は第2実施形態とほぼ同様である。このため、第2実施形態と同様の構成部分および処理部分については必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。すなわち、上記第2実施形態では、クリアランス調整処理においてその繰り返し回数により目標液圧の設定を変更する例を示したが、本実施形態では、動力液圧源30の液圧値に基づいて目標液圧の設定を変更する。
【0071】
図7は、第3実施形態に係るクリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。本処理において図6に示した第2実施形態と同様の処理部分については同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
本実施形態において、ブレーキECU70は、調整回数Nをゼロクリアして液圧制御を開始すると(S12)、アキュムレータ圧センサ72により検出されたアキュムレータ圧Paccが予め設定した閾圧Ppに達するまでの間(S310のN)、保持弁上流圧の液圧勾配が小さいとみなして目標液圧を基準液圧Paに設定する(S212)。一方、アキュムレータ圧Paccが閾圧Pp調整回数Nが閾回数Npに達すると(S310のY)、その液圧勾配が大きいとみなして目標液圧を超過液圧Pbに設定する(S214)。本実施形態では、上述のように閾圧Ppとして液圧の落ち込みを発生させる可能性のある値が実験等を通じて設定されている。このように、保持弁上流圧のさらに上流側の液圧源の液圧に基づいて保持弁上流圧の液圧勾配を推定し、その目標液圧の設定を変更してもよい。
【0072】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0073】
上記実施形態では、後輪側のビルトインディスクブレーキのクリアランス調整方法について説明したが、前輪側のディスクブレーキについても同様のクリアランス調整処理を行うようにしてもよい。パッドクリアランスの初期値を適正に調整する観点からは、同様の方法を利用することができる。
【0074】
上記実施形態では、4つのホイールシリンダ23の上流側の保持弁上流圧を共通に制御するリニア制御弁(増圧リニア制御弁66、減圧リニア制御弁67)を設け、その保持弁上流圧を制御するブレーキ装置に対して本発明のクリアランス調整方法を適用した例を示した。変形例においては、各ホイールシリンダ23ごとにその上流圧を制御するブレーキ装置に対して同様のクリアランス調整方法を適用してもよい。具体的には、上記実施形態の増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を省略し、ABS保持弁51〜54およびABS減圧弁56〜59をリニア制御弁として構成してもよい。そして、クリアランス調整処理において、その増圧用のリニア制御弁の通電制御を行うことにより上述の液圧制御を実行するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係るブレーキ装置を示す系統図である。
【図2】ビルトインディスクブレーキの構成を模式的に表す部分断面図である。
【図3】第1実施形態にかかるクリアランス調整方法を表す説明図である。
【図4】クリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】第2実施形態にかかるクリアランス調整方法を表す説明図である。
【図6】第2実施形態に係るクリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第3実施形態に係るクリアランス調整処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
10 ブレーキ装置、 21 ディスクブレーキユニット、 22 ディスクロータ、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 35 アキュムレータ、 60 分離弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 102 ブレーキパッド、 104 キャリパ、 106 ピストン、 110 圧力室、 120 押圧機構、 122 プッシュロッド、 124 伝達ロッド、 126 カム、 128 カム室、 130 ガイド孔、 132 Oリング、 134 レバー、 136 PKBワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転するディスクロータと、
前記ディスクロータの摩擦摺動面に対向配置されるブレーキパッドと、
液圧源と液圧回路を介して接続されたホイールシリンダと、前記ホイールシリンダに対して摺動可能に配置されたピストンを有し、前記液圧源から前記ホイールシリンダに供給された液圧により前記ピストンが駆動されて前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押し付けるように動作するキャリパと、
前記液圧回路に設けられて通電制御により開度が調整され、前記液圧源から前記ホイールシリンダへの液圧供給を許容または遮断する制御弁と、
前記液圧回路の前記制御弁と前記ホイールシリンダとの間に設けられた圧力センサと、
前記圧力センサにより検出された液圧値に基づいて前記制御弁への通電制御を実行する制御部と、
を備えたブレーキ装置において、非制動時における前記ブレーキパッドと前記ディスクロータとのクリアランスを調整するパッドクリアランス調整方法であって、
前記ブレーキパッドが前記ディスクロータに対向配置されるように組み付けられた後、前記制御部が、前記制御弁への通電制御を実行して前記ホイールシリンダの実液圧を設定回数繰り返し昇降させて前記クリアランスを徐々に小さくする調整処理を行うとともに、その調整処理の少なくとも初回においては、前記ブレーキパッドと前記ディスクロータとの当接が規制される基準液圧を目標値に設定して液圧制御を実行する一方、前記実液圧の時間変化量である液圧勾配が予め定める調整基準値以上となるときには、前記目標値を基準液圧を超える超過液圧に設定変更することを特徴とするパッドクリアランス調整方法。
【請求項2】
前記液圧源としてポンプの駆動によりアキュムレータに作動液を供給して蓄圧する動力液圧源と、そのアキュムレータの液圧を検出する第2の圧力センサを有し、前記アキュムレータに蓄圧された液圧を前記ホイールシリンダに供給して制動力を発生させるブレーキ装置に適用され、
前記制御部は、前記アキュムレータの液圧が前記実液圧の液圧勾配の前記調整基準値への到達を推定するために予め設定された推定基準圧よりも低いときには前記目標値として前記基準液圧を設定し、前記アキュムレータの液圧が前記推定基準圧以上となったときに前記目標値として前記超過液圧を設定することを特徴とする請求項1に記載のパッドクリアランス調整方法。
【請求項3】
前記制御部は、予め定める閾回数未満の調整処理においては前記目標値として前記基準液圧を設定し、前記閾回数以降の調整処理においては前記目標値として前記超過液圧を設定することを特徴とする請求項1に記載のパッドクリアランス調整方法。
【請求項4】
前記キャリパにおける前記ホイールシリンダの背面側に、液圧とは別に前記ピストンを前記ブレーキパッド側へ付勢可能なパーキングブレーキの押圧機構が組み込まれたビルトインディスクブレーキとして構成されたブレーキ装置に適用され、
前記基準液圧は、前記押圧機構の押圧力を前記ピストンを介して前記ブレーキパッドに伝達可能とするとともに、前記ディスクロータによる前記ブレーキパッドの引き摺りを防止可能な有効液圧範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパッドクリアランス調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−127313(P2010−127313A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299794(P2008−299794)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】