ブレーキ装置の制御装置
【課題】 ブレーキ装置の制御装置において、負圧センサ、マスタシリンダ圧センサやバキュームブースタにバラツキがあっても、その影響をできるだけ抑制して、ブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることである。
【解決手段】制御装置26は、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段と、を有することである。
【解決手段】制御装置26は、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段と、を有することである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置の制御装置の一形式として、特許文献1に示されているものが知られている。特許文献1の図6に示されているように、ブレーキ装置の制御装置は、S4において、ブースタ12が助勢限界にあるか否かを判定する。制御装置は、ブースタ12が助勢限界状態にあると判定すれば、増圧制御を行う(S8−S13)。具体的には、制御装置は、ブレーキ操作中、ポンプ112を作動させてマスタシリンダ液圧PMより差圧ΔPだけ高い液圧をブレーキシリンダ50に発生させ、それにより、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ブレーキシリンダ液圧PBの時間的変化勾配である増圧勾配が一定になるように制御している。
【特許文献1】特開平11−20671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したブレーキ装置の制御装置においては、ブースタ圧力スイッチ304からのブースタ圧力信号に基づいてバキュームブースタ12が助勢限界状態にあるか否かを判定するようになっている。この場合、ブースタ圧力スイッチ304の出力(検出)にバラツキがあったり、バキュームブースタにメカ的なバラツキがあると、実際にはバキュームブースタ12が助勢限界に到達していないのに誤ってポンプ62を作動させることでブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができないおそれがあった。
【0004】
そこで、本発明は、ブレーキ装置の制御装置において、負圧センサ、マスタシリンダ圧センサやバキュームブースタにバラツキがあっても、その影響をできるだけ抑制して、ブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキ操作部材の操作に応じたブレーキ液圧を形成するマスタシリンダと、負圧が供給されその負圧を利用することでブレーキ操作部材の操作力を助勢してマスタシリンダに出力するバキュームブースタと、マスタシリンダから供給されるブレーキ液圧の供給を受けて車両の各車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、マスタシリンダとホイールシリンダを繋ぐ油圧経路に設けられ、ホイールシリンダ側の圧力をマスタシリンダ側の圧力より制御差圧分だけ高く制御可能な差圧制御弁と、マスタシリンダとホイールシリンダを繋ぐ油圧経路に接続され、電動モータの出力により駆動されてブレーキ液圧を形成してマスタシリンダと独立してホイールシリンダに供給する油圧ポンプと、バキュームブースタに供給されている負圧を検出する負圧検出手段と、マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧検出手段と、を備えたブレーキ装置に適用される制御装置において、制御装置は、バキュームブースタに供給されている負圧を負圧検出手段から取得する負圧取得手段と、マスタシリンダの圧力をマスタシリンダ圧検出手段から取得するマスタシリンダ圧取得手段と、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段と、を有することである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定されることである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定されることである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定されることである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、助勢制御手段が、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う。
【0010】
これにより、取得したマスタシリンダ圧が助勢限界圧を超えた助勢限界圧付近では、すなわち助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインを小さく抑えることで目標助勢圧を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることができる。したがって、ブレーキ操作部材の操作中(車両制動中)において、バキュームブースタが実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合であっても、その到達する前の助勢ゲインより小さい助勢ゲインで助勢制御を開始することができる。すなわち、従来では助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲインより大きい助勢ゲインで助勢制御が行われていたが、これに対し本願発明によれば、助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲインより小さい助勢ゲインで助勢制御が行わる。これにより、負圧センサ、マスタシリンダ圧センサやバキュームブースタのバラツキに起因して、実際にはバキュームブースタが助勢限界に到達していないにもかかわらず誤って助勢制御を開始させたとしても、従来助勢制御開始から大きくなっていた助勢制御による加圧量を小さく抑制することで、前記ばらつきの影響をできるだけ排除してブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができる。
【0011】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定される。これにより、助勢制御開始直後(すなわち差圧0から大きくなり始めた直後)では助勢ゲインを小さく設定し時間経過に伴って(すなわち差圧の増大に伴って)助勢ゲインを大きく設定するので、ブレーキフィーリングを損なうことのない滑らかな助勢制御を行うことができる。
【0012】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される。これにより、急制動など踏込速度が速い場合には、遅い場合と比較して、助勢開始時点から基準助勢ゲインに到達する時間が短くなり、急制動に必要な加圧ひいては制動力を得ることができる。
【0013】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定される。これにより、助勢限界に到達した時点以降において、助勢限界に到達する前と比較して必要以上に加圧されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るブレーキ装置の制御装置を適用した車両の一実施の形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の構成を示す概要図であり、図2はブレーキ装置の構成を示す概要図である。この車両Mは、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が後輪でなく前輪に伝達される形式のものである。なお車両Mは前輪駆動車でなく、他の駆動方式の車両例えば後輪駆動車、四輪駆動車でもよい。
【0015】
車両Mは、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを備えており、エンジン11の駆動力は、変速機12で変速されディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを経て駆動輪である左右前輪Wfl,Wfrにそれぞれ伝達される。エンジン11は、エンジン11の燃焼室内に空気を流入する吸気管11aを備えており、吸気管11a内には、吸気管11aの開閉量を調整して同吸気管11aを通過する空気量を調整するスロットルバルブ15aが設けられている。
【0016】
スロットルバルブ15aは、アクセルペダル16とスロットルバルブ15aがワイヤによって繋がれたワイヤ式でなく、電子制御式である。すなわち、スロットルバルブ15aは、エンジン制御ECU17からの指令によるモータ15bの駆動によって開閉され、スロットルバルブ15aの開閉量はスロットル開度センサ15cによって検出されその検出信号がエンジン制御ECU17に送信されており、エンジン制御ECU17からの指令値となるようにフィードバック制御されている。エンジン制御ECU17は、基本的にはアクセル開度センサ16aが検出するアクセルペダル16の踏込み量を受信してその踏込み量に応じたスロットルバルブ15aの開閉量に相当する指令値をモータ15bに送信する。また、エンジン制御ECU17は、検出されたエンジン11の状態を受信してその状態を勘案して決定したスロットルバルブ15aの開閉量に相当する指令値をモータ15bに送信する。
【0017】
変速機12は、エンジン11の駆動力を変速して駆動輪に出力する自動変速機であり、複数段(例えば4速)の前進段と後進一段の変速段を有するものである。変速機12は、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷と車速に基づき、変速を行うようになっている。
【0018】
また、車両Mは、車両Mを制動させる液圧ブレーキ装置(ブレーキ装置)Aを備えている。液圧ブレーキ装置Aは、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrr、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル21、バキュームブースタ22、マスタシリンダ23、リザーバタンク24、液圧自動発生装置であるブレーキアクチュエータ25、およびブレーキ装置の制御装置であるブレーキECU26を備えている。
【0019】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転をそれぞれ規制するものであり、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられている。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに第1液圧である基礎液圧、第2液圧である補助液圧または第3液圧である制御液圧が供給されると、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrの各ピストン(図示省略)が摩擦部材である一対のブレーキパッド(図示省略)を押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転する回転部材であるディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。
【0020】
バキュームブースタ22は、負圧供給装置であるエンジン11からの圧力である負圧の作用でブレーキペダル21の操作力に応じてブレーキペダル21の操作力を倍力することにより補助液圧(パワーピストンに生じた力により形成される液圧)を形成し、その補助液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、その補助液圧によって車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第2摩擦制動力を発生させ得る装置である。
【0021】
具体的には、バキュームブースタ22は、図2に示すように、パワーシリンダ22aと、このパワーシリンダ22a内に往復動可能に収納されたパワーピストン22bと、パワーシリンダ22aとパワーピストン22bとの間に介在されたダイヤフラム22cと、パワーシリンダ22a内をパワーピストン22bおよびダイヤフラム22cで区画されたパワーシリンダ負圧室22dおよびパワーシリンダ大気圧室22eを備えている。パワーシリンダ負圧室22dは接続管22fを介してエンジン11の吸気管11aが接続されており、負圧が供給されるようになっている。パワーシリンダ大気圧室22eは大気に選択的に開放可能となっている。これにより、バキュームブースタ22は、パワーピストン22bの両側に気体の圧力差(負圧と大気圧との差)を生じさせ、この圧力差をパワーピストン22bを押す力に変換し、これをプッシュロッド22gを通してマスタシリンダ23のピストンに作用させて倍力作用を行うものである。なお、接続管22fには、バキュームブースタ22から吸気管11aへの気体の流れのみを許容する逆止弁22f1が設けられている。
【0022】
また、液圧ブレーキ装置Aは、バキュームブースタ22に供給されている負圧すなわちエンジン11の吸気管11a内の負圧(接続管22f内の負圧)を検出する負圧センサ(負圧検出手段)22f2を備えており、この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。
【0023】
マスタシリンダ23は、プッシュロッド22gからの入力を液圧(基礎液圧+補助液圧)に変換し、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給する。すなわち、マスタシリンダ23は、ドライバによるブレーキペダル21の操作力(踏力)とその操作によりバキュームブースタ22のパワーピストン22bに発生する力との合力(バキュームブースタ22により倍力されたブレーキ操作力)を入力し、基礎液圧と補助液圧からなる液圧に変換して出力している。基礎液圧は、ブレーキペダル21の操作力(踏力)により形成される液圧分であり、補助液圧は、パワーピストン22bに発生する力により形成される液圧分である。なお、基礎液圧によって車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第1摩擦制動力が発生される。
【0024】
リザーバタンク24は、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するものである。
【0025】
ブレーキアクチュエータ25は、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられて、ブレーキペダル21の操作の有無に関係なく自動的に形成した制御液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、対応する車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第3摩擦制動力を発生させ得る装置である。
【0026】
図2を参照してブレーキアクチュエータ25の構成を詳述する。ブレーキアクチュエータ25は、独立して作動する液圧回路である複数の系統から構成されている。具体的には、ブレーキアクチュエータ25は、X配管である第1系統25aと第2系統25bを有している。第1系統25aは、マスタシリンダ23の第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通して、左後輪Wrl,右前輪Wfrの制動力制御に係わる系統である。第2系統25bは、マスタシリンダ23の第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通して、左前輪Wfl,右後輪Wrrの制動力制御に係わる系統である。
【0027】
第1系統25aは、差圧制御弁41、左後輪液圧制御部42、右前輪液圧制御部43、および第1減圧部44を含んで構成されている。
【0028】
差圧制御弁41は、マスタシリンダ23と、左後輪液圧制御部42の上流部および右前輪液圧制御部43の上流部との間に介装されている常開リニア電磁弁である。この差圧制御弁41は、ブレーキECU26により連通状態(非差圧状態)と差圧状態を切り替え制御されるものである。差圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることによりホイールシリンダWCrl,WCfr側の液圧をマスタシリンダ23側の液圧よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。これにより、ポンプ44a,54aによる加圧を前提に制御差圧に相当する制御液圧が形成されるようになっている。
【0029】
左後輪液圧制御部42は、ホイールシリンダWCrlに供給する液圧を制御可能なものであり、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁42aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁42bとから構成されている。増圧弁42aは、差圧制御弁41とホイールシリンダWCrlとの間に介装されており、ブレーキECU26の指令にしたがって差圧制御弁41とホイールシリンダWCrlとを連通または遮断できるようになっている。減圧弁42bは、ホイールシリンダWCrlと調圧リザーバ44cとの間に介装されており、ブレーキECU26の指令にしたがってホイールシリンダWCrlと調圧リザーバ44cとを連通または遮断できるようになっている。これにより、ホイールシリンダWCrl内の液圧が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0030】
右前輪液圧制御部43は、ホイールシリンダWCfrに供給する液圧を制御可能なものであり、左後輪液圧制御部42と同様に増圧弁43aと減圧弁43bとから構成されている。増圧弁43aおよび減圧弁43bがブレーキECU26の指令により制御されて、ホイールシリンダWCfr内の液圧が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0031】
第1減圧部44は、ポンプ(油圧ポンプ)44a、ポンプ用モータ(電動モータ)44b、調圧リザーバ44cを含んで構成されている。ポンプ44aは、調圧リザーバ44c内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を差圧制御弁41と増圧弁42a,43aとの間に供給するようになっている。このポンプ44aは、ブレーキECU26の指令にしたがって駆動されるポンプ用モータ44bによって駆動されるようになっている。
【0032】
調圧リザーバ44cは、ホイールシリンダWCrl、WCfrから減圧弁42b、43bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。また、調圧リザーバ44cは、マスタシリンダ23と連通しており、調圧リザーバ44c内のブレーキ液が所定量以下である場合には、マスタシリンダ23からブレーキ液が供給される一方で、所定量より多い場合には、マスタシリンダ23からのブレーキ液の供給が停止されるようになっている。
【0033】
これにより、差圧制御弁41によって差圧状態が形成されるとともにポンプ44aが駆動されている場合(例えば、横滑り防止制御、トラクションコントロールなどの場合)、マスタシリンダ23から供給されているブレーキ液を調圧リザーバ44c経由で増圧弁42a,43aの上流に供給することができるようになっている。
【0034】
第2系統25bは、差圧制御弁51、左前輪液圧制御部52、右後輪液圧制御部53、および第2減圧部54を含んで構成されている。
【0035】
差圧制御弁51は、マスタシリンダ23と、左前輪液圧制御部52の上流部および右後輪液圧制御部53の上流部との間に介装されている常開リニア電磁弁である。この差圧制御弁51は、差圧制御弁41と同様に、ブレーキECU26によりホイールシリンダWCfl,WCrr側の液圧をマスタシリンダ23側の液圧に対してよりも所定の制御差圧分高い圧力に保持できるようになっている。
【0036】
左前輪液圧制御部52および右後輪液圧制御部53は、ホイールシリンダWCfl,WCrrに供給する液圧をそれぞれ制御可能なものであり、左後輪液圧制御部42と同様に、それぞれ増圧弁52aと減圧弁52b、増圧弁53aと減圧弁53bから構成されている。増圧弁52aと減圧弁52b、増圧弁53aと減圧弁53bがブレーキECU26の指令によりそれぞれ制御されて、ホイールシリンダWCfl内およびホイールシリンダWCrr内の液圧がそれぞれ増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0037】
第2減圧部54は、第1減圧部44と同様に、ポンプ(油圧ポンプ)54a、ポンプ用モータ44b(第1減圧部44と共用)、調圧リザーバ54cを含んで構成されている。ポンプ54aは、調圧リザーバ44cと同様な調圧リザーバ54c内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を差圧制御弁51と増圧弁52a,53aとの間に供給するようになっている。このポンプ54aは、ブレーキECU26の指令にしたがって駆動されるポンプ用モータ44bによって駆動されるようになっている。
【0038】
このように構成されたブレーキアクチュエータ25は、通常ブレーキの際には全ての電磁弁が非励磁状態にされて、ブレーキペダル21の操作力に応じたブレーキ液圧、すなわち基礎液圧+補助液圧をホイールシリンダWC**にそれぞれ供給できるようになっている。なお、**は、各輪に対応する添え字であって、fl,fr,rl,rrのいずれかであり、左前、右前、左後、右後を示している。以下の説明及び図面において同じである。
【0039】
また、ブレーキアクチュエータ25は、ポンプ用モータ44bすなわちポンプ44a,54aを駆動するとともに差圧制御弁41,51を励磁すると、マスタシリンダ23からの基礎液圧+補助液圧に制御液圧を加えたブレーキ液圧をホイールシリンダWC**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0040】
さらに、ブレーキアクチュエータ25は、増圧弁42a,43a,52a,53a、および減圧弁42b,43b,52b,53bを制御することでホイールシリンダWC**の液圧を個別に調整できるようになっている。これにより、ブレーキECU26からの指示により、例えば、周知のアンチスキッド制御、前後制動力配分制御、横滑り防止制御(具体的には、アンダステア抑制制御、オーバステア抑制制御)、トラクションコントロール、車間距離制御等を達成できるようになっている。
【0041】
また、ブレーキアクチュエータ25には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサ(マスタシリンダ圧検出手段)25a1が設けられており、この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。本実施の形態では、圧力センサ25a1は、第1系統25aであってマスタシリンダ23と差圧制御弁41との間に設けるようにしたが、第2系統25bの同等の位置に設けるようにしてもよい。
【0042】
また、液圧ブレーキ装置Aは、図1,2に示すように、ブレーキペダル21のストローク量を検出するペダルストロークセンサ21aを備えている。この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。ブレーキペダル21のストローク量はブレーキペダル21の操作状態を示すものであり、ペダルストロークセンサ21aはブレーキ操作状態検出手段である。
【0043】
また、液圧ブレーキ装置Aは、図1に示すように、車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrを備えている。車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転に応じた周波数のパルス信号をブレーキECU26に出力している。
【0044】
ブレーキECU26は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図11〜図14のフローチャートに対応したプログラムを実行して、バキュームブースタ22に供給されている負圧が、所定制動力を発揮させる所定圧力に対して不足している場合、ブレーキアクチュエータ25を制御してその不足分を補ってブレーキペダル21の操作に応じた目標ブレーキ液圧をホイールシリンダWC**に供給する。
【0045】
ブレーキECU26は、液圧ブレーキ装置Aを制御する制御装置である。図3に示すように、ブレーキECU26は、バキュームブースタ22に供給されている負圧を負圧センサ22f2から取得する負圧取得部(負圧取得手段)26aと、マスタシリンダ23の圧力をマスタシリンダ圧センサ25a1から取得するマスタシリンダ圧取得部(マスタシリンダ圧取得手段)26bを有している。ブレーキECU26は、バキュームブースタ22に供給されている任意の負圧と、その負圧における該バキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ23の圧力である助勢限界圧との関係を示す負圧−助勢限界圧マップが記憶されている第1記憶部(第1記憶手段)26cを有している。
【0046】
第1記憶部26cに予め記憶されている負圧−助勢限界圧マップは、図5に示すような初期マップである。初期マップは、設計値であり、シミュレーションで求めたり、実際の実験値に基づいて求めたりすることができる。負圧−助勢限界圧マップは、図6に示す負圧毎における操作力F1に対するマスタシリンダ圧の関係により求めることができる。
【0047】
バキュームブースタ22は、ブレーキペダル21の操作力F1がある値まで増加すると、大気圧室22eの圧力が大気圧に達してしまい(大気圧室22eに外気を導入しても負圧室22dと大気圧室22eの圧力差が増加しなくなるため)、パワーピストン22bに生じる力F2のさらなる形成(増加)は行われなくなる。すなわち、大気圧室22eの圧力が大気圧に到達するまでは、ブレーキペダル21の操作力F1にパワーピストン22bに生じる力F2を加えた合力が、バキュームブースタ22から出力される。一方、到達時点以降においては、その到達時点の力F2にブレーキペダル21の操作力F1の増加分のみを加算した合力が、バキュームブースタ22から出力される。大気圧室22eの圧力が大気圧に到達した時点が、バキュームブースタ22が助勢限界に到達した時点である。換言すると、助勢限界とは、バキュームブースタ22が助勢機能をそれ以上発揮できなくなる限界(限度)のことであり、大気圧と負圧室22dの圧力差である負圧により決定される。
【0048】
このことから、任意の負圧において操作力F1を変化させてバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ圧を取得することで、その負圧における助勢限界圧を演算することができる。例えば、負圧がPnn(本実施の形態のブレーキ装置の目標ブレーキ液圧を得るための負圧)のときの助勢限界圧はPmc(n)であり、負圧がPnnより小さいPn3のときの助勢限界圧はPmc(3)であり、負圧がPn3より小さいPn2のときの助勢限界圧はPmc(2)であり、負圧がPn2より小さいPn1のときの助勢限界圧はPmc(1)である。なお、負圧が0のときには助勢限界は生じないで操作力F1がそのままマスタシリンダ圧となるので助勢限界圧は存在せず、すべての領域で助勢を行うことができない。
【0049】
このように演算された負圧とその負圧における助勢限界圧は一対一に関連付けができるので、関連付けられた複数のデータ(負圧,助勢限界圧)から図5に示す負圧−助勢限界圧マップを得ることができる。なお、助勢限界圧は、任意の負圧において操作力F1を変化させてバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ圧のことである。
【0050】
さらに、ブレーキECU26は、負圧取得部26aで取得された負圧と第1記憶部26cで記憶されている負圧−助勢限界圧マップとから求められる助勢限界圧を判定用助勢限界圧として演算する判定用助勢限界圧演算部(判定用助勢限界圧演算手段)26dを有している。なお、判定用助勢限界圧は、マスタシリンダ圧に基づいて助勢制御を開始するか否かを判定する際に使用する判定値である。
【0051】
さらに、ブレーキECU26は、マスタシリンダ圧取得部26bで取得されたマスタシリンダ圧が判定用助勢限界圧演算部26dで演算された判定用助勢限界圧以上である場合、ポンプ44a,54aを駆動させその駆動により形成されるブレーキ液圧をブレーキペダル21の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧することで、ブレーキペダル21の操作に応じた目標ブレーキ液圧をホイールシリンダWC**に供給する助勢制御を行う助勢制御部(助勢制御手段)26eを有している。
【0052】
助勢制御部26eは、図4に示すように、助勢開始圧取得部26f、差圧演算部26g、第2記憶部26h、目標助勢ゲイン演算部26i、目標助勢圧演算部26j、目標電流値演算部26k、ポンプ駆動制御部26lおよび差圧制御弁駆動制御部26mを有している。
【0053】
助勢開始圧取得部26fは、判定用助勢限界圧演算部26dから演算された判定用助勢限界圧を入力し助勢開始圧Pstとして取得する。差圧演算部26gは、マスタシリンダ圧取得部26bで取得したマスタシリンダ圧Pmcと助勢開始圧取得部26fで取得した助勢開始圧Pstとの差である差圧ΔP1(=Pmc−Pst)を演算する。
【0054】
第2記憶部26hは、差圧ΔP1と助勢ゲインGとの関係を示すマップ(差圧−助勢ゲインマップ)または演算式を記憶するものである。差圧−助勢ゲインマップは、第2記憶部26hに予め記憶されている。このマップは、図7に示すように、差圧ΔP1が大きくなれば助勢ゲインGも大きくなる関係である。すなわち、助勢ゲインGは、差圧ΔP1が大きくなれば大きくなるように設定されている。また、助勢ゲインGは、その最大値は基準助勢ゲインGstdと同一となるように設定されている。基準助勢ゲインGstdは、図7にて破線で示すように、差圧ΔP1の値に関係なく一定値である。基準助勢ゲインGstdは、バキュームブースタ22が助勢限界に到達するまでのバキュームブースタ22のサーボ比を示す(に相当する)ゲインである。サーボ比は、ブレーキペダル21の踏力に対するバキュームブースタ22の出力の比であり、換言すると、基礎液圧に対する基礎液圧と補助液圧の合計液圧の比である。助勢ゲインGは、加圧量(助勢圧量)を差圧ΔP1から算出するために使用するゲイン(比)である。加圧量は、本来ならバキュームブースタ22により助勢されるべき液圧をホイールシリンダWC**に形成させるべく、助勢開始圧Pstに加圧される圧力量である。この加圧量は、下記数1で算出することができる。
(数1)
加圧量=(Pmc−Pst)×G
ホイールシリンダ圧は、助勢開始圧Pstに加圧量を加えれば算出できるので、下記数2で算出することができる。
(数2)
ホイールシリンダ圧=Pst+(Pmc−Pst)×G
【0055】
図7においては、次のような一例を示している。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、助勢ゲインGはG1であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、助勢ゲインGはG2であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、助勢ゲインGはG3であり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、助勢ゲインGは基準助勢ゲインGstdである。G1は基準助勢ゲインGstdの1/4に設定されており、G2は基準助勢ゲインGstdの1/2に設定されており、G3は基準助勢ゲインGstdの3/4に設定されている。各ゲインG1,G2,G3,Gstdは、G1<G2<G3<Gstdなる関係にある。なお、図7では横軸に差圧ΔP1を示し、縦軸に助勢ゲインGを示している。
【0056】
また、図8には、ブレーキペダル21(ブレーキ操作部材)の踏込速度が速い場合の差圧−助勢ゲインマップを示している。ここで、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合とは、その踏込速度が所定値より大きい場合のことである。踏込速度が所定値より小さい場合は踏込速度が遅い場合である。踏込速度が遅い場合の差圧−助勢ゲインマップは、図7に示すものである。なお、ブレーキペダル21の踏込速度は、マスタシリンダ圧の増大率(増加速度)と非常によい相関関係がある。
【0057】
図8に示す差圧−助勢ゲインマップは、図7に示す差圧−助勢ゲインマップと比較して、差圧が同一である場合に助勢ゲインが大きくなるように設定されている。具体的には、図8においては、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、助勢ゲインGはG1より大きいG2であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、助勢ゲインGはG2より大きいG3であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、助勢ゲインGはG3より大きい基準助勢ゲインGstdであり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、助勢ゲインGは基準助勢ゲインGstdのままである。なお、図8では横軸に差圧ΔP1を示し、縦軸に助勢ゲインGを示している。
【0058】
このように、踏込速度が速いと、助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達する差圧が小さくなっている。踏込速度が遅い場合(図7)には差圧ΔP1がΔP13のときに助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達するようになっているが、踏込速度が速い場合(図8)には差圧ΔP1がΔP13より小さいΔP12のときに助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達するようになっている。これにより、後述する目標助勢ゲインG*は、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインGstdに早期に戻すように設定される。
【0059】
目標助勢ゲイン演算部26iは、差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1と差圧−助勢ゲインマップとから差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1に対応する助勢ゲインGを目標助勢ゲインG*として演算する。例えば、図7に示すように、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG1であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdである。
【0060】
目標助勢圧演算部26jは、目標助勢ゲイン演算部26iで演算された目標助勢ゲインG*と、差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1とから目標助勢圧Past*を演算する。目標助勢圧Past*は、助勢圧の制御目標値であり、助勢圧は加圧量と同じものであるので、下記数3で算出することができる。
(数3)
目標助勢圧Past*=(Pmc−Pst)×G*=ΔP1×G*
【0061】
図9に、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果)を示す。図8では、目標助勢ゲインG*が基準助勢ゲインGstdで一定である場合の演算結果f(Gstd)、目標助勢ゲインG*がG3で一定である場合の演算結果f(G3)、目標助勢ゲインG*がG2で一定である場合の演算結果f(G2)、および目標助勢ゲインG*がG1で一定である場合の演算結果f(G1)を示している。これら演算結果は、破線で示されている。演算結果f(G1)、演算結果f(G2)、演算結果f(G3)は、演算結果f(Gstd)に対してそれぞれ傾きが1/4、1/2、3/4である。
【0062】
さらに、図9には、図7に示す差圧−助勢ゲインマップによって演算された、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果:f(Gmap))が、実線で示されている。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG1であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G1)と同じ傾きである。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G2)と同じ傾きである。ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G3)と同じ傾きである。そして、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdであるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(Gstd)と同じ傾きである。さらに、各範囲の境界では、各演算結果が連続(接続)するようになっている。
これによれば、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる。
【0063】
さらに、図10には、図8に示す差圧−助勢ゲインマップによって演算された、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果:f(Gmap))が、実線で示されている。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G2)と同じ傾きである。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G3)と同じ傾きである。そして、ΔP1がΔP12より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdであるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(Gstd)と同じ傾きである。さらに、各範囲の境界では、各演算結果が連続(接続)するようになっている。
【0064】
これによれば、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる。これに加えて、目標助勢ゲインG*は、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、助勢制御を開始する前の基準助勢ゲインGstdに早期に戻されることとなる。
【0065】
目標電流値演算部26kは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*に応じ、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに供給すべき電流値Iを演算する。目標助勢圧Past*とソレノイド電流値Iとの関係がブレーキECU26の記憶部(ROM)に記憶されており、その関係に従って目標助勢圧Past*に対応するソレノイド電流値Iが決定される。
【0066】
ポンプ駆動制御部26lは、ポンプ用モータ44bにそれをオンにする信号を出力して、ポンプ44a,54aを駆動制御する駆動制御部である。
【0067】
差圧制御弁駆動制御部26mは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*となるように、差圧制御弁41(または/および51)を駆動制御(差圧制御)する駆動制御部である。この結果、各ホイールシリンダWC**に助勢開始圧Pstより目標助勢圧Past*だけ高い液圧が発生させられる。
【0068】
なお、目標電流値演算部26kは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*に応じ、ポンプ44a,54aのポンプ用モータ44bに供給すべき電流値Iを演算するようにしてもよい。このとき、ポンプ駆動制御部26lは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*となるように、ポンプ用モータ44bを制御し、差圧制御弁駆動制御部26mは、差圧制御弁41(または/および51)を閉状態とするように制御する。
【0069】
次に、上記のように構成した液圧ブレーキ装置の作動を図11〜図14のフローチャートに沿って説明する。
【0070】
ブレーキECU26は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間(例えば10ミリ秒)毎に実行する。ブレーキECU26は、マスタシリンダ圧センサ25a1からマスタシリンダ圧を示すマスタシリンダ圧信号を取得し(ステップ102)、負圧センサ22f2から負圧を示す負圧信号を取得する(ステップ104)。そして、ブレーキECU26は、ステップ104で取得された負圧と第1記憶部26cで記憶されている負圧−助勢限界圧マップとから求められる助勢限界圧を判定用助勢限界圧として演算する(ステップ106)。
【0071】
続いて、ブレーキECU26は、バキュームブースタ22が助勢可能な状態にあるか否かを判定する(ステップ108)。具体的には、ブレーキECU26は、ステップ102で取得されたマスタシリンダ圧がステップ106で演算された判定用助勢限界圧以上であれば、バキュームブースタ22が助勢可能な状態ではないと判定し(「YES」と判定し)、逆に判定用助勢限界圧未満であれば、バキュームブースタ22が助勢可能な状態であると判定する(「NO」と判定する)。ここで、助勢可能な状態とは、バキュームブースタ22に供給されている負圧の作用により助勢が可能な状態のことをいう。
【0072】
バキュームブースタ22が助勢可能な状態である場合には、ブレーキECU26は、ステップ108で「NO」と判定し、終了処理を行う(ステップ110)。具体的には、ブレーキECU26は、図12に示すフローチャートに示すサブルーチンである終了処理に沿って増圧制御の終了処理を実行する。この終了処理ルーチンにおいては、ステップ202において、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドにそれをオフにする信号が出力されて、差圧制御弁41(または/および51)がオフされ(開状態とされ)、ステップ204において、ポンプ用モータ44bにそれをオフにする信号が出力されてポンプ用モータ44bがオフされポンプ44a(または/および54a)の駆動が停止される。以上でこの終了処理ルーチンの一回の実行が終了し、それにより、図11に示す助勢制御ルーチンの一回の実行も終了する。なお、図12に示す増圧制御の終了処理は、増圧制御を終了させる終了処理という作用だけなく、ブレーキペダル21の踏込開始から助勢限界に到達するまでの通常ブレーキの処理という作用も有する。通常ブレーキの処理とは、マスタシリンダ23からの液圧をホイールシリンダWC**にそのまま供給するため、差圧制御弁41(または/および51)の前後で差圧が生じないように開状態とすることである。
【0073】
一方、バキュームブースタ22が助勢可能な状態ではない場合には、ブレーキECU26は、ステップ108で「YES」と判定し、助勢制御を行う(ステップ112)。助勢制御は、マスタシリンダ圧取得部26bで取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得部26aで取得された負圧におけるバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタ22のサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインG*で得られる目標助勢圧Past*となるようにポンプ44a,54aを駆動させるとともに差圧制御弁41,51を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダWC**に供給する制御である(助勢制御手段)。
【0074】
具体的には、ブレーキECU26は、図13に示すフローチャートに示すサブルーチンである増圧制御に沿って助勢制御を実行する。ブレーキECU26は、ステップ302において、ステップ106で先に演算した判定用助勢限界圧を読み込み助勢開始圧Pstとして取得する(助勢開始圧取得手段)。ブレーキECU26は、ステップ304において、ステップ102で先に取得した今回のマスタシリンダPmcに対応した差圧ΔP1を演算する(差圧演算手段)。すなわち、ブレーキECU26は、ステップ102で取得したマスタシリンダ圧Pmcとステップ302から取得した助勢開始圧Pstを減算することで差圧ΔP1(=Pmc−Pst)を演算する。
【0075】
続いて、ブレーキECU26は、ステップ306において、ステップ304で演算された差圧ΔP1と第2記憶部26hに記憶されている差圧−助勢ゲインマップとからステップ304で演算された差圧ΔP1に対応する助勢ゲインGを目標助勢ゲインG*として演算する(目標助勢ゲイン演算手段)。具体的には、ブレーキECU26は、図14に示すフローチャートに示すサブルーチンである目標助勢ゲイン演算に沿って目標助勢ゲイン演算処理を実行する。本サブルーチンにおいては、ブレーキペダル21の踏込速度(マスタシリンダ圧の増大速度)が遅い場合と速い場合の2つの場合に応じた差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインを演算している。
【0076】
ブレーキECU26は、ステップ402において、マスタシリンダ圧の増大速度を演算する。マスタシリンダ圧の増大速度は、今回取得したマスタシリンダ圧Pmcから前回取得したマスタシリンダPmcを減算した値ΔPmcとして得ることができる。ブレーキECU26は、ステップ404において、マスタシリンダ圧増大速度が所定値Dpmchより小さい場合にはブレーキペダル21の踏込速度が遅いと判定し、大きい場合にはブレーキペダル21の踏込速度が速いと判定する。
【0077】
ブレーキペダル21の踏込速度が遅い場合、ブレーキECU26は、ステップ404で「YES」と判定し、図7の差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインG*を演算する。ブレーキECU26は、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、ステップ406で「YES」と判定し、G1を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ408)。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、ステップ406,410で「NO」,「YES」と判定し、G2を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ412)。ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、ステップ406,410,414で「NO」,「NO」,「YES」と判定し、G3を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ416)。ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、ステップ406,410,414でそれぞれ「NO」と判定し、Gstdを目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ418)。
【0078】
ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合、ブレーキECU26は、ステップ404で「NO」と判定し、図8の差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインG*を演算する。ブレーキECU26は、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、ステップ420で「YES」と判定し、G2を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ422)。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、ステップ420,424で「NO」,「YES」と判定し、G3を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ426)。ΔP1がΔP12より大きい範囲内であれば、ステップ420,424でそれぞれ「NO」と判定し、Gstdを目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ428)。
【0079】
続いて、ブレーキECU26は、ステップ308において、ステップ306で演算された目標助勢ゲインG*と、ステップ304で演算された差圧ΔP1とから上記数3を用いて今回のマスタシリンダ圧Pmcに対応した目標助勢圧Past*を演算する(目標助勢圧演算手段)。
【0080】
そして、ブレーキECU26は、決定された目標助勢圧Past*に応じ、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに供給すべき電流値Iを決定する(ステップ310)。目標助勢圧Past*とソレノイド電流値Iとの関係がブレーキECU26の記憶部(ROM)に記憶されており、その関係に従って目標助勢圧Past*に対応するソレノイド電流値Iが決定されるのである。続いて、ブレーキECU26は、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに、決定されたソレノイド電流値Iで電流を供給させることにより、差圧制御弁41(または/および51)を制御(差圧制御)する(ステップ312)。
【0081】
その後、ブレーキECU26は、ポンプ用モータ44bにそれをONにする信号を出力する(ステップ314)。それにより、ポンプ44a(または/および54a)は、調圧リザーバ44c(または/および54c)から作動液を汲み上げ、作動液を各ホイールシリンダWC**に吐出し、その結果、各ホイールシリンダWC**にマスタシリンダ圧より目標助勢圧Past*だけ高い液圧が発生させられる。以上でこの増圧制御ルーチンの一回の実行が終了し、それにより、図11に示す助勢制御ルーチンの一回の実行も終了する。
【0082】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態によれば、助勢制御手段(26e、図11のフローチャート)が、マスタシリンダ圧取得手段(26b、ステップ102)で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段(26a、ステップ104)で取得された負圧におけるバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインGstdより小さい目標助勢ゲインG*で得られる目標助勢圧Past*となるようにポンプ44a,54aを駆動させるとともに差圧制御弁41(または/および51)を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材(ブレーキペダル21)の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダWC**に供給する助勢制御を行う。
【0083】
これにより、取得したマスタシリンダ圧が助勢限界圧を超えた助勢限界圧付近では、すなわち助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることができる。したがって、ブレーキ操作部材(ブレーキペダル21)の操作中(車両制動中)において、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合であっても、その到達する前の助勢ゲイン(基礎助勢ゲインGstd)より小さい助勢ゲインで助勢制御を開始することができる。
【0084】
ところで従来では、助勢制御の開始直後から、その開始時点でのマスタシリンダ圧である助勢開始圧Pstとマスタシリンダ圧Pmcとの差圧ΔP1に助勢制御を開始する前の助勢ゲインと同じ助勢ゲインを乗算して得た加圧量(助勢圧量)の液圧をブレーキアクチュエータ25で形成して助勢開始圧Pstに加圧している。したがって、助勢開始圧Pstが実際の助勢限界圧と同じであれば、助勢制御開始以降においても差圧ΔP1は実際の助勢限界圧に基づく差圧となるので、この差圧に前記同じ助勢ゲインを乗算して助勢開始圧Pstに加圧すれば所望のホイールシリンダ圧となる(図15の一点破線で示す)。これに対し、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合には、助勢開始圧Pstが実際の助勢限界圧より小さい値となるため、図15に示すように、助勢制御開始直後において差圧ΔP1は実際の助勢限界圧に基づく差圧より大きい差圧となるので、この差圧に前記同じ助勢ゲインを乗算して助勢開始圧Pstに加圧すれば所望のホイールシリンダ圧より大きい値をとることとなる(図15の破線で示す)。
【0085】
なお、助勢制御開始直後において差圧ΔP1が実際の助勢限界圧に基づく差圧より大きい差圧となる理由は次のとおりである。基礎助勢ゲインGは、上述したようにバキュームブースタ22が助勢可能な状態にあるときのサーボ比を示している。これを利用して、バキュームブースタ22が助勢可能な状態にない状態にあっても踏力分で形成されるマスタシリンダ圧(すなわち差圧ΔP1)に基礎助勢ゲインGを乗算することで所望のホイールシリンダ圧を得ることができる。しかし、図15に示すように、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合には、開始された直後から、踏力分だけでなくバキュームブースタ22による助勢分もマスタシリンダ圧に含まれており差圧ΔP1には助勢分が上乗せされるからである。
【0086】
これに対し、本願発明によれば、助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲイン(基礎助勢ゲインGstd)より小さい助勢ゲイン(目標助勢ゲイン演算部26iで演算された目標助勢ゲインG*)で助勢制御が行われる。これによれば、上述したように、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる(図15で細い実線で示す)。
【0087】
したがって、負圧センサ22f2、マスタシリンダ圧センサ25a1やバキュームブースタ22のバラツキに起因して、実際にはバキュームブースタ22が助勢限界に到達していないにもかかわらず誤って助勢制御を開始させたとしても、従来助勢制御開始から大きくなっていた助勢制御による加圧量を小さく抑制することで、前記ばらつきの影響をできるだけ排除してブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができる。
【0088】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧(助勢開始圧Pst)との差である差圧ΔP1が大きくなれば大きくなるように設定される(図7、図8)。これにより、助勢制御開始直後(すなわち差圧0から大きくなり始めた直後)では助勢ゲインを小さく設定し時間経過に伴って(すなわち差圧の増大に伴って)助勢ゲインを大きく設定するので、ブレーキフィーリングを損なうことのない滑らかな助勢制御を行うことができる。
【0089】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、ブレーキ操作部材21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される(図7、図8、図14のフローチャート)。これにより、急制動など踏込速度が速い場合には、遅い場合と比較して、助勢開始時点から基準助勢ゲインに到達する時間が短くなり、急制動に必要な加圧ひいては制動力を得ることができる。また、ブレーキペダル21を速く踏んだ時は、助勢限界が下がることもあり、早期に基準助勢ゲインに戻すことで制動力を得るようにすることができる。
【0090】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定される。これにより、助勢限界に到達した時点以降において、助勢限界に到達する前と比較して必要以上に加圧されるのを抑制することができる。
【0091】
なお、上述した実施の形態では、目標助勢ゲインG*を演算するときにブレーキ操作部材21の踏込速度の遅い場合と早い場合の2つのマップを使用したが、これに限らず、踏込速度毎の差圧−助勢ゲインの関係を示す3次元マップを使用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明による液圧ブレーキ装置の制御装置を適用した車両の一実施の形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す液圧ブレーキ装置の構成を示す概要図である。
【図3】図1、図2に示す制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】図3に示す助勢制御部の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】負圧−助勢限界圧マップ(初期マップ)を示す図である。
【図6】負圧毎におけるブレーキペダルの操作力とマスタシリンダ圧の関係を示す図である。
【図7】ブレーキペダルの踏込速度が遅い場合の差圧−助勢ゲインマップを示す図である。
【図8】ブレーキペダルの踏込速度が速い場合の差圧−助勢ゲインマップを示す図である。
【図9】ブレーキペダルの踏込速度が遅い場合の差圧に対する加圧量(演算結果)を示す図である。
【図10】ブレーキペダルの踏込速度が速い場合の差圧に対する加圧量(演算結果)を示す図である。
【図11】図1に示す制御装置にて実行される制御プログラム(助勢制御)のフローチャートである。
【図12】図11に示す終了処理ルーチンのフローチャートである。
【図13】図11に示す増圧制御ルーチンのフローチャートである。
【図14】図13に示す目標助勢ゲイン演算ルーチンのフローチャートである。
【図15】本発明による作用効果を示す操作力と液圧(マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、Pst+(Pmc−Pst)×Gstd、Pst+(Pmc−Pst)×G*)の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
11…エンジン、12…変速機、13…ディファレンシャル、15a…スロットルバルブ、15b…モータ、15c…スロットル開度センサ、16…アクセルペダル、16a…アクセル開度センサ、17…エンジンECU、21…ブレーキペダル、22…バキュームブースタ、22f2…負圧センサ(負圧検出手段)、23…マスタシリンダ、23a,23b…第1および第2液圧室、23c,23d…第1および第2出力ポート、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、25a1…マスタシリンダ圧センサ(マスタシリンダ圧検出手段)、26…ブレーキECU(制御装置)、26a…負圧取得部(負圧取得手段)、26b…マスタシリンダ圧取得部(マスタシリンダ圧取得手段)、26c…第1記憶部(第1記憶手段)、26d…判定用助勢限界圧演算部(判定用助勢限界圧演算手段)、26e…助勢制御部(助勢制御手段)、26f…助勢開始圧演算部(助勢開始圧演算手段)、26g…差圧演算部(差圧演算手段)、26h…第2記憶部、26i…目標助勢ゲイン演算部(目標助勢ゲイン演算手段)、26j…目標助勢圧演算部(目標助勢圧演算手段)、26k…目標電流値演算部(目標電流値演算手段)、41,51…差圧制御弁、42a,43a,52a,53a…増圧弁、42b,43b,52b,53b…減圧弁、44c,54c…調圧リザーバ、44a,54a…ポンプ(油圧ポンプ)、A…液圧ブレーキ装置、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置の制御装置の一形式として、特許文献1に示されているものが知られている。特許文献1の図6に示されているように、ブレーキ装置の制御装置は、S4において、ブースタ12が助勢限界にあるか否かを判定する。制御装置は、ブースタ12が助勢限界状態にあると判定すれば、増圧制御を行う(S8−S13)。具体的には、制御装置は、ブレーキ操作中、ポンプ112を作動させてマスタシリンダ液圧PMより差圧ΔPだけ高い液圧をブレーキシリンダ50に発生させ、それにより、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ブレーキシリンダ液圧PBの時間的変化勾配である増圧勾配が一定になるように制御している。
【特許文献1】特開平11−20671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したブレーキ装置の制御装置においては、ブースタ圧力スイッチ304からのブースタ圧力信号に基づいてバキュームブースタ12が助勢限界状態にあるか否かを判定するようになっている。この場合、ブースタ圧力スイッチ304の出力(検出)にバラツキがあったり、バキュームブースタにメカ的なバラツキがあると、実際にはバキュームブースタ12が助勢限界に到達していないのに誤ってポンプ62を作動させることでブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができないおそれがあった。
【0004】
そこで、本発明は、ブレーキ装置の制御装置において、負圧センサ、マスタシリンダ圧センサやバキュームブースタにバラツキがあっても、その影響をできるだけ抑制して、ブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ブレーキ操作部材の操作に応じたブレーキ液圧を形成するマスタシリンダと、負圧が供給されその負圧を利用することでブレーキ操作部材の操作力を助勢してマスタシリンダに出力するバキュームブースタと、マスタシリンダから供給されるブレーキ液圧の供給を受けて車両の各車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、マスタシリンダとホイールシリンダを繋ぐ油圧経路に設けられ、ホイールシリンダ側の圧力をマスタシリンダ側の圧力より制御差圧分だけ高く制御可能な差圧制御弁と、マスタシリンダとホイールシリンダを繋ぐ油圧経路に接続され、電動モータの出力により駆動されてブレーキ液圧を形成してマスタシリンダと独立してホイールシリンダに供給する油圧ポンプと、バキュームブースタに供給されている負圧を検出する負圧検出手段と、マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧検出手段と、を備えたブレーキ装置に適用される制御装置において、制御装置は、バキュームブースタに供給されている負圧を負圧検出手段から取得する負圧取得手段と、マスタシリンダの圧力をマスタシリンダ圧検出手段から取得するマスタシリンダ圧取得手段と、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段と、を有することである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定されることである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定されることである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定されることである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、助勢制御手段が、マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段で取得された負圧におけるバキュームブースタの助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように油圧ポンプを駆動させるとともに差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダに供給する助勢制御を行う。
【0010】
これにより、取得したマスタシリンダ圧が助勢限界圧を超えた助勢限界圧付近では、すなわち助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインを小さく抑えることで目標助勢圧を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることができる。したがって、ブレーキ操作部材の操作中(車両制動中)において、バキュームブースタが実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合であっても、その到達する前の助勢ゲインより小さい助勢ゲインで助勢制御を開始することができる。すなわち、従来では助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲインより大きい助勢ゲインで助勢制御が行われていたが、これに対し本願発明によれば、助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲインより小さい助勢ゲインで助勢制御が行わる。これにより、負圧センサ、マスタシリンダ圧センサやバキュームブースタのバラツキに起因して、実際にはバキュームブースタが助勢限界に到達していないにもかかわらず誤って助勢制御を開始させたとしても、従来助勢制御開始から大きくなっていた助勢制御による加圧量を小さく抑制することで、前記ばらつきの影響をできるだけ排除してブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができる。
【0011】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定される。これにより、助勢制御開始直後(すなわち差圧0から大きくなり始めた直後)では助勢ゲインを小さく設定し時間経過に伴って(すなわち差圧の増大に伴って)助勢ゲインを大きく設定するので、ブレーキフィーリングを損なうことのない滑らかな助勢制御を行うことができる。
【0012】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される。これにより、急制動など踏込速度が速い場合には、遅い場合と比較して、助勢開始時点から基準助勢ゲインに到達する時間が短くなり、急制動に必要な加圧ひいては制動力を得ることができる。
【0013】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、助勢制御手段で使用される目標助勢ゲインは、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定される。これにより、助勢限界に到達した時点以降において、助勢限界に到達する前と比較して必要以上に加圧されるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るブレーキ装置の制御装置を適用した車両の一実施の形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の構成を示す概要図であり、図2はブレーキ装置の構成を示す概要図である。この車両Mは、前輪駆動車であり、車体前部に搭載した駆動源であるエンジン11の駆動力が後輪でなく前輪に伝達される形式のものである。なお車両Mは前輪駆動車でなく、他の駆動方式の車両例えば後輪駆動車、四輪駆動車でもよい。
【0015】
車両Mは、エンジン11、変速機12、ディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを備えており、エンジン11の駆動力は、変速機12で変速されディファレンシャル13および左右駆動軸14a,14bを経て駆動輪である左右前輪Wfl,Wfrにそれぞれ伝達される。エンジン11は、エンジン11の燃焼室内に空気を流入する吸気管11aを備えており、吸気管11a内には、吸気管11aの開閉量を調整して同吸気管11aを通過する空気量を調整するスロットルバルブ15aが設けられている。
【0016】
スロットルバルブ15aは、アクセルペダル16とスロットルバルブ15aがワイヤによって繋がれたワイヤ式でなく、電子制御式である。すなわち、スロットルバルブ15aは、エンジン制御ECU17からの指令によるモータ15bの駆動によって開閉され、スロットルバルブ15aの開閉量はスロットル開度センサ15cによって検出されその検出信号がエンジン制御ECU17に送信されており、エンジン制御ECU17からの指令値となるようにフィードバック制御されている。エンジン制御ECU17は、基本的にはアクセル開度センサ16aが検出するアクセルペダル16の踏込み量を受信してその踏込み量に応じたスロットルバルブ15aの開閉量に相当する指令値をモータ15bに送信する。また、エンジン制御ECU17は、検出されたエンジン11の状態を受信してその状態を勘案して決定したスロットルバルブ15aの開閉量に相当する指令値をモータ15bに送信する。
【0017】
変速機12は、エンジン11の駆動力を変速して駆動輪に出力する自動変速機であり、複数段(例えば4速)の前進段と後進一段の変速段を有するものである。変速機12は、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷と車速に基づき、変速を行うようになっている。
【0018】
また、車両Mは、車両Mを制動させる液圧ブレーキ装置(ブレーキ装置)Aを備えている。液圧ブレーキ装置Aは、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrr、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル21、バキュームブースタ22、マスタシリンダ23、リザーバタンク24、液圧自動発生装置であるブレーキアクチュエータ25、およびブレーキ装置の制御装置であるブレーキECU26を備えている。
【0019】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転をそれぞれ規制するものであり、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられている。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに第1液圧である基礎液圧、第2液圧である補助液圧または第3液圧である制御液圧が供給されると、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrの各ピストン(図示省略)が摩擦部材である一対のブレーキパッド(図示省略)を押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転する回転部材であるディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。
【0020】
バキュームブースタ22は、負圧供給装置であるエンジン11からの圧力である負圧の作用でブレーキペダル21の操作力に応じてブレーキペダル21の操作力を倍力することにより補助液圧(パワーピストンに生じた力により形成される液圧)を形成し、その補助液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、その補助液圧によって車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第2摩擦制動力を発生させ得る装置である。
【0021】
具体的には、バキュームブースタ22は、図2に示すように、パワーシリンダ22aと、このパワーシリンダ22a内に往復動可能に収納されたパワーピストン22bと、パワーシリンダ22aとパワーピストン22bとの間に介在されたダイヤフラム22cと、パワーシリンダ22a内をパワーピストン22bおよびダイヤフラム22cで区画されたパワーシリンダ負圧室22dおよびパワーシリンダ大気圧室22eを備えている。パワーシリンダ負圧室22dは接続管22fを介してエンジン11の吸気管11aが接続されており、負圧が供給されるようになっている。パワーシリンダ大気圧室22eは大気に選択的に開放可能となっている。これにより、バキュームブースタ22は、パワーピストン22bの両側に気体の圧力差(負圧と大気圧との差)を生じさせ、この圧力差をパワーピストン22bを押す力に変換し、これをプッシュロッド22gを通してマスタシリンダ23のピストンに作用させて倍力作用を行うものである。なお、接続管22fには、バキュームブースタ22から吸気管11aへの気体の流れのみを許容する逆止弁22f1が設けられている。
【0022】
また、液圧ブレーキ装置Aは、バキュームブースタ22に供給されている負圧すなわちエンジン11の吸気管11a内の負圧(接続管22f内の負圧)を検出する負圧センサ(負圧検出手段)22f2を備えており、この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。
【0023】
マスタシリンダ23は、プッシュロッド22gからの入力を液圧(基礎液圧+補助液圧)に変換し、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給する。すなわち、マスタシリンダ23は、ドライバによるブレーキペダル21の操作力(踏力)とその操作によりバキュームブースタ22のパワーピストン22bに発生する力との合力(バキュームブースタ22により倍力されたブレーキ操作力)を入力し、基礎液圧と補助液圧からなる液圧に変換して出力している。基礎液圧は、ブレーキペダル21の操作力(踏力)により形成される液圧分であり、補助液圧は、パワーピストン22bに発生する力により形成される液圧分である。なお、基礎液圧によって車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第1摩擦制動力が発生される。
【0024】
リザーバタンク24は、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するものである。
【0025】
ブレーキアクチュエータ25は、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrとの間に設けられて、ブレーキペダル21の操作の有無に関係なく自動的に形成した制御液圧をホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与し、対応する車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに第3摩擦制動力を発生させ得る装置である。
【0026】
図2を参照してブレーキアクチュエータ25の構成を詳述する。ブレーキアクチュエータ25は、独立して作動する液圧回路である複数の系統から構成されている。具体的には、ブレーキアクチュエータ25は、X配管である第1系統25aと第2系統25bを有している。第1系統25aは、マスタシリンダ23の第1液圧室23aと左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWCrl,WCfrとをそれぞれ連通して、左後輪Wrl,右前輪Wfrの制動力制御に係わる系統である。第2系統25bは、マスタシリンダ23の第2液圧室23bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通して、左前輪Wfl,右後輪Wrrの制動力制御に係わる系統である。
【0027】
第1系統25aは、差圧制御弁41、左後輪液圧制御部42、右前輪液圧制御部43、および第1減圧部44を含んで構成されている。
【0028】
差圧制御弁41は、マスタシリンダ23と、左後輪液圧制御部42の上流部および右前輪液圧制御部43の上流部との間に介装されている常開リニア電磁弁である。この差圧制御弁41は、ブレーキECU26により連通状態(非差圧状態)と差圧状態を切り替え制御されるものである。差圧制御弁41は非通電して通常連通状態とされているが、通電して差圧状態(閉じる側)にすることによりホイールシリンダWCrl,WCfr側の液圧をマスタシリンダ23側の液圧よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキECU26により制御電流に応じて調圧されるようになっている。これにより、ポンプ44a,54aによる加圧を前提に制御差圧に相当する制御液圧が形成されるようになっている。
【0029】
左後輪液圧制御部42は、ホイールシリンダWCrlに供給する液圧を制御可能なものであり、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁42aと2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁42bとから構成されている。増圧弁42aは、差圧制御弁41とホイールシリンダWCrlとの間に介装されており、ブレーキECU26の指令にしたがって差圧制御弁41とホイールシリンダWCrlとを連通または遮断できるようになっている。減圧弁42bは、ホイールシリンダWCrlと調圧リザーバ44cとの間に介装されており、ブレーキECU26の指令にしたがってホイールシリンダWCrlと調圧リザーバ44cとを連通または遮断できるようになっている。これにより、ホイールシリンダWCrl内の液圧が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0030】
右前輪液圧制御部43は、ホイールシリンダWCfrに供給する液圧を制御可能なものであり、左後輪液圧制御部42と同様に増圧弁43aと減圧弁43bとから構成されている。増圧弁43aおよび減圧弁43bがブレーキECU26の指令により制御されて、ホイールシリンダWCfr内の液圧が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0031】
第1減圧部44は、ポンプ(油圧ポンプ)44a、ポンプ用モータ(電動モータ)44b、調圧リザーバ44cを含んで構成されている。ポンプ44aは、調圧リザーバ44c内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を差圧制御弁41と増圧弁42a,43aとの間に供給するようになっている。このポンプ44aは、ブレーキECU26の指令にしたがって駆動されるポンプ用モータ44bによって駆動されるようになっている。
【0032】
調圧リザーバ44cは、ホイールシリンダWCrl、WCfrから減圧弁42b、43bを介して抜いたブレーキ液を一旦溜めておく装置である。また、調圧リザーバ44cは、マスタシリンダ23と連通しており、調圧リザーバ44c内のブレーキ液が所定量以下である場合には、マスタシリンダ23からブレーキ液が供給される一方で、所定量より多い場合には、マスタシリンダ23からのブレーキ液の供給が停止されるようになっている。
【0033】
これにより、差圧制御弁41によって差圧状態が形成されるとともにポンプ44aが駆動されている場合(例えば、横滑り防止制御、トラクションコントロールなどの場合)、マスタシリンダ23から供給されているブレーキ液を調圧リザーバ44c経由で増圧弁42a,43aの上流に供給することができるようになっている。
【0034】
第2系統25bは、差圧制御弁51、左前輪液圧制御部52、右後輪液圧制御部53、および第2減圧部54を含んで構成されている。
【0035】
差圧制御弁51は、マスタシリンダ23と、左前輪液圧制御部52の上流部および右後輪液圧制御部53の上流部との間に介装されている常開リニア電磁弁である。この差圧制御弁51は、差圧制御弁41と同様に、ブレーキECU26によりホイールシリンダWCfl,WCrr側の液圧をマスタシリンダ23側の液圧に対してよりも所定の制御差圧分高い圧力に保持できるようになっている。
【0036】
左前輪液圧制御部52および右後輪液圧制御部53は、ホイールシリンダWCfl,WCrrに供給する液圧をそれぞれ制御可能なものであり、左後輪液圧制御部42と同様に、それぞれ増圧弁52aと減圧弁52b、増圧弁53aと減圧弁53bから構成されている。増圧弁52aと減圧弁52b、増圧弁53aと減圧弁53bがブレーキECU26の指令によりそれぞれ制御されて、ホイールシリンダWCfl内およびホイールシリンダWCrr内の液圧がそれぞれ増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0037】
第2減圧部54は、第1減圧部44と同様に、ポンプ(油圧ポンプ)54a、ポンプ用モータ44b(第1減圧部44と共用)、調圧リザーバ54cを含んで構成されている。ポンプ54aは、調圧リザーバ44cと同様な調圧リザーバ54c内のブレーキ液を汲み上げて、そのブレーキ液を差圧制御弁51と増圧弁52a,53aとの間に供給するようになっている。このポンプ54aは、ブレーキECU26の指令にしたがって駆動されるポンプ用モータ44bによって駆動されるようになっている。
【0038】
このように構成されたブレーキアクチュエータ25は、通常ブレーキの際には全ての電磁弁が非励磁状態にされて、ブレーキペダル21の操作力に応じたブレーキ液圧、すなわち基礎液圧+補助液圧をホイールシリンダWC**にそれぞれ供給できるようになっている。なお、**は、各輪に対応する添え字であって、fl,fr,rl,rrのいずれかであり、左前、右前、左後、右後を示している。以下の説明及び図面において同じである。
【0039】
また、ブレーキアクチュエータ25は、ポンプ用モータ44bすなわちポンプ44a,54aを駆動するとともに差圧制御弁41,51を励磁すると、マスタシリンダ23からの基礎液圧+補助液圧に制御液圧を加えたブレーキ液圧をホイールシリンダWC**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0040】
さらに、ブレーキアクチュエータ25は、増圧弁42a,43a,52a,53a、および減圧弁42b,43b,52b,53bを制御することでホイールシリンダWC**の液圧を個別に調整できるようになっている。これにより、ブレーキECU26からの指示により、例えば、周知のアンチスキッド制御、前後制動力配分制御、横滑り防止制御(具体的には、アンダステア抑制制御、オーバステア抑制制御)、トラクションコントロール、車間距離制御等を達成できるようになっている。
【0041】
また、ブレーキアクチュエータ25には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサ(マスタシリンダ圧検出手段)25a1が設けられており、この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。本実施の形態では、圧力センサ25a1は、第1系統25aであってマスタシリンダ23と差圧制御弁41との間に設けるようにしたが、第2系統25bの同等の位置に設けるようにしてもよい。
【0042】
また、液圧ブレーキ装置Aは、図1,2に示すように、ブレーキペダル21のストローク量を検出するペダルストロークセンサ21aを備えている。この検出信号はブレーキECU26に送信されるようになっている。ブレーキペダル21のストローク量はブレーキペダル21の操作状態を示すものであり、ペダルストロークセンサ21aはブレーキ操作状態検出手段である。
【0043】
また、液圧ブレーキ装置Aは、図1に示すように、車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrを備えている。車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの付近にそれぞれ設けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転に応じた周波数のパルス信号をブレーキECU26に出力している。
【0044】
ブレーキECU26は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図11〜図14のフローチャートに対応したプログラムを実行して、バキュームブースタ22に供給されている負圧が、所定制動力を発揮させる所定圧力に対して不足している場合、ブレーキアクチュエータ25を制御してその不足分を補ってブレーキペダル21の操作に応じた目標ブレーキ液圧をホイールシリンダWC**に供給する。
【0045】
ブレーキECU26は、液圧ブレーキ装置Aを制御する制御装置である。図3に示すように、ブレーキECU26は、バキュームブースタ22に供給されている負圧を負圧センサ22f2から取得する負圧取得部(負圧取得手段)26aと、マスタシリンダ23の圧力をマスタシリンダ圧センサ25a1から取得するマスタシリンダ圧取得部(マスタシリンダ圧取得手段)26bを有している。ブレーキECU26は、バキュームブースタ22に供給されている任意の負圧と、その負圧における該バキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ23の圧力である助勢限界圧との関係を示す負圧−助勢限界圧マップが記憶されている第1記憶部(第1記憶手段)26cを有している。
【0046】
第1記憶部26cに予め記憶されている負圧−助勢限界圧マップは、図5に示すような初期マップである。初期マップは、設計値であり、シミュレーションで求めたり、実際の実験値に基づいて求めたりすることができる。負圧−助勢限界圧マップは、図6に示す負圧毎における操作力F1に対するマスタシリンダ圧の関係により求めることができる。
【0047】
バキュームブースタ22は、ブレーキペダル21の操作力F1がある値まで増加すると、大気圧室22eの圧力が大気圧に達してしまい(大気圧室22eに外気を導入しても負圧室22dと大気圧室22eの圧力差が増加しなくなるため)、パワーピストン22bに生じる力F2のさらなる形成(増加)は行われなくなる。すなわち、大気圧室22eの圧力が大気圧に到達するまでは、ブレーキペダル21の操作力F1にパワーピストン22bに生じる力F2を加えた合力が、バキュームブースタ22から出力される。一方、到達時点以降においては、その到達時点の力F2にブレーキペダル21の操作力F1の増加分のみを加算した合力が、バキュームブースタ22から出力される。大気圧室22eの圧力が大気圧に到達した時点が、バキュームブースタ22が助勢限界に到達した時点である。換言すると、助勢限界とは、バキュームブースタ22が助勢機能をそれ以上発揮できなくなる限界(限度)のことであり、大気圧と負圧室22dの圧力差である負圧により決定される。
【0048】
このことから、任意の負圧において操作力F1を変化させてバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ圧を取得することで、その負圧における助勢限界圧を演算することができる。例えば、負圧がPnn(本実施の形態のブレーキ装置の目標ブレーキ液圧を得るための負圧)のときの助勢限界圧はPmc(n)であり、負圧がPnnより小さいPn3のときの助勢限界圧はPmc(3)であり、負圧がPn3より小さいPn2のときの助勢限界圧はPmc(2)であり、負圧がPn2より小さいPn1のときの助勢限界圧はPmc(1)である。なお、負圧が0のときには助勢限界は生じないで操作力F1がそのままマスタシリンダ圧となるので助勢限界圧は存在せず、すべての領域で助勢を行うことができない。
【0049】
このように演算された負圧とその負圧における助勢限界圧は一対一に関連付けができるので、関連付けられた複数のデータ(負圧,助勢限界圧)から図5に示す負圧−助勢限界圧マップを得ることができる。なお、助勢限界圧は、任意の負圧において操作力F1を変化させてバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダ圧のことである。
【0050】
さらに、ブレーキECU26は、負圧取得部26aで取得された負圧と第1記憶部26cで記憶されている負圧−助勢限界圧マップとから求められる助勢限界圧を判定用助勢限界圧として演算する判定用助勢限界圧演算部(判定用助勢限界圧演算手段)26dを有している。なお、判定用助勢限界圧は、マスタシリンダ圧に基づいて助勢制御を開始するか否かを判定する際に使用する判定値である。
【0051】
さらに、ブレーキECU26は、マスタシリンダ圧取得部26bで取得されたマスタシリンダ圧が判定用助勢限界圧演算部26dで演算された判定用助勢限界圧以上である場合、ポンプ44a,54aを駆動させその駆動により形成されるブレーキ液圧をブレーキペダル21の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧することで、ブレーキペダル21の操作に応じた目標ブレーキ液圧をホイールシリンダWC**に供給する助勢制御を行う助勢制御部(助勢制御手段)26eを有している。
【0052】
助勢制御部26eは、図4に示すように、助勢開始圧取得部26f、差圧演算部26g、第2記憶部26h、目標助勢ゲイン演算部26i、目標助勢圧演算部26j、目標電流値演算部26k、ポンプ駆動制御部26lおよび差圧制御弁駆動制御部26mを有している。
【0053】
助勢開始圧取得部26fは、判定用助勢限界圧演算部26dから演算された判定用助勢限界圧を入力し助勢開始圧Pstとして取得する。差圧演算部26gは、マスタシリンダ圧取得部26bで取得したマスタシリンダ圧Pmcと助勢開始圧取得部26fで取得した助勢開始圧Pstとの差である差圧ΔP1(=Pmc−Pst)を演算する。
【0054】
第2記憶部26hは、差圧ΔP1と助勢ゲインGとの関係を示すマップ(差圧−助勢ゲインマップ)または演算式を記憶するものである。差圧−助勢ゲインマップは、第2記憶部26hに予め記憶されている。このマップは、図7に示すように、差圧ΔP1が大きくなれば助勢ゲインGも大きくなる関係である。すなわち、助勢ゲインGは、差圧ΔP1が大きくなれば大きくなるように設定されている。また、助勢ゲインGは、その最大値は基準助勢ゲインGstdと同一となるように設定されている。基準助勢ゲインGstdは、図7にて破線で示すように、差圧ΔP1の値に関係なく一定値である。基準助勢ゲインGstdは、バキュームブースタ22が助勢限界に到達するまでのバキュームブースタ22のサーボ比を示す(に相当する)ゲインである。サーボ比は、ブレーキペダル21の踏力に対するバキュームブースタ22の出力の比であり、換言すると、基礎液圧に対する基礎液圧と補助液圧の合計液圧の比である。助勢ゲインGは、加圧量(助勢圧量)を差圧ΔP1から算出するために使用するゲイン(比)である。加圧量は、本来ならバキュームブースタ22により助勢されるべき液圧をホイールシリンダWC**に形成させるべく、助勢開始圧Pstに加圧される圧力量である。この加圧量は、下記数1で算出することができる。
(数1)
加圧量=(Pmc−Pst)×G
ホイールシリンダ圧は、助勢開始圧Pstに加圧量を加えれば算出できるので、下記数2で算出することができる。
(数2)
ホイールシリンダ圧=Pst+(Pmc−Pst)×G
【0055】
図7においては、次のような一例を示している。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、助勢ゲインGはG1であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、助勢ゲインGはG2であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、助勢ゲインGはG3であり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、助勢ゲインGは基準助勢ゲインGstdである。G1は基準助勢ゲインGstdの1/4に設定されており、G2は基準助勢ゲインGstdの1/2に設定されており、G3は基準助勢ゲインGstdの3/4に設定されている。各ゲインG1,G2,G3,Gstdは、G1<G2<G3<Gstdなる関係にある。なお、図7では横軸に差圧ΔP1を示し、縦軸に助勢ゲインGを示している。
【0056】
また、図8には、ブレーキペダル21(ブレーキ操作部材)の踏込速度が速い場合の差圧−助勢ゲインマップを示している。ここで、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合とは、その踏込速度が所定値より大きい場合のことである。踏込速度が所定値より小さい場合は踏込速度が遅い場合である。踏込速度が遅い場合の差圧−助勢ゲインマップは、図7に示すものである。なお、ブレーキペダル21の踏込速度は、マスタシリンダ圧の増大率(増加速度)と非常によい相関関係がある。
【0057】
図8に示す差圧−助勢ゲインマップは、図7に示す差圧−助勢ゲインマップと比較して、差圧が同一である場合に助勢ゲインが大きくなるように設定されている。具体的には、図8においては、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、助勢ゲインGはG1より大きいG2であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、助勢ゲインGはG2より大きいG3であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、助勢ゲインGはG3より大きい基準助勢ゲインGstdであり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、助勢ゲインGは基準助勢ゲインGstdのままである。なお、図8では横軸に差圧ΔP1を示し、縦軸に助勢ゲインGを示している。
【0058】
このように、踏込速度が速いと、助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達する差圧が小さくなっている。踏込速度が遅い場合(図7)には差圧ΔP1がΔP13のときに助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達するようになっているが、踏込速度が速い場合(図8)には差圧ΔP1がΔP13より小さいΔP12のときに助勢ゲインGが基準助勢ゲインGstdに到達するようになっている。これにより、後述する目標助勢ゲインG*は、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインGstdに早期に戻すように設定される。
【0059】
目標助勢ゲイン演算部26iは、差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1と差圧−助勢ゲインマップとから差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1に対応する助勢ゲインGを目標助勢ゲインG*として演算する。例えば、図7に示すように、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG1であり、ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であり、ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であり、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdである。
【0060】
目標助勢圧演算部26jは、目標助勢ゲイン演算部26iで演算された目標助勢ゲインG*と、差圧演算部26gで演算された差圧ΔP1とから目標助勢圧Past*を演算する。目標助勢圧Past*は、助勢圧の制御目標値であり、助勢圧は加圧量と同じものであるので、下記数3で算出することができる。
(数3)
目標助勢圧Past*=(Pmc−Pst)×G*=ΔP1×G*
【0061】
図9に、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果)を示す。図8では、目標助勢ゲインG*が基準助勢ゲインGstdで一定である場合の演算結果f(Gstd)、目標助勢ゲインG*がG3で一定である場合の演算結果f(G3)、目標助勢ゲインG*がG2で一定である場合の演算結果f(G2)、および目標助勢ゲインG*がG1で一定である場合の演算結果f(G1)を示している。これら演算結果は、破線で示されている。演算結果f(G1)、演算結果f(G2)、演算結果f(G3)は、演算結果f(Gstd)に対してそれぞれ傾きが1/4、1/2、3/4である。
【0062】
さらに、図9には、図7に示す差圧−助勢ゲインマップによって演算された、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果:f(Gmap))が、実線で示されている。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG1であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G1)と同じ傾きである。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G2)と同じ傾きである。ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G3)と同じ傾きである。そして、ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdであるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(Gstd)と同じ傾きである。さらに、各範囲の境界では、各演算結果が連続(接続)するようになっている。
これによれば、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる。
【0063】
さらに、図10には、図8に示す差圧−助勢ゲインマップによって演算された、差圧ΔP1に対する目標助勢圧Past*(加圧量)の関係(演算結果:f(Gmap))が、実線で示されている。ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG2であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G2)と同じ傾きである。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はG3であるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(G3)と同じ傾きである。そして、ΔP1がΔP12より大きい範囲内であれば、目標助勢ゲインG*はGstdであるため、この範囲の演算結果f(Gmap)は演算結果f(Gstd)と同じ傾きである。さらに、各範囲の境界では、各演算結果が連続(接続)するようになっている。
【0064】
これによれば、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる。これに加えて、目標助勢ゲインG*は、ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、助勢制御を開始する前の基準助勢ゲインGstdに早期に戻されることとなる。
【0065】
目標電流値演算部26kは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*に応じ、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに供給すべき電流値Iを演算する。目標助勢圧Past*とソレノイド電流値Iとの関係がブレーキECU26の記憶部(ROM)に記憶されており、その関係に従って目標助勢圧Past*に対応するソレノイド電流値Iが決定される。
【0066】
ポンプ駆動制御部26lは、ポンプ用モータ44bにそれをオンにする信号を出力して、ポンプ44a,54aを駆動制御する駆動制御部である。
【0067】
差圧制御弁駆動制御部26mは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*となるように、差圧制御弁41(または/および51)を駆動制御(差圧制御)する駆動制御部である。この結果、各ホイールシリンダWC**に助勢開始圧Pstより目標助勢圧Past*だけ高い液圧が発生させられる。
【0068】
なお、目標電流値演算部26kは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*に応じ、ポンプ44a,54aのポンプ用モータ44bに供給すべき電流値Iを演算するようにしてもよい。このとき、ポンプ駆動制御部26lは、目標助勢圧演算部26jで演算された目標助勢圧Past*となるように、ポンプ用モータ44bを制御し、差圧制御弁駆動制御部26mは、差圧制御弁41(または/および51)を閉状態とするように制御する。
【0069】
次に、上記のように構成した液圧ブレーキ装置の作動を図11〜図14のフローチャートに沿って説明する。
【0070】
ブレーキECU26は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間(例えば10ミリ秒)毎に実行する。ブレーキECU26は、マスタシリンダ圧センサ25a1からマスタシリンダ圧を示すマスタシリンダ圧信号を取得し(ステップ102)、負圧センサ22f2から負圧を示す負圧信号を取得する(ステップ104)。そして、ブレーキECU26は、ステップ104で取得された負圧と第1記憶部26cで記憶されている負圧−助勢限界圧マップとから求められる助勢限界圧を判定用助勢限界圧として演算する(ステップ106)。
【0071】
続いて、ブレーキECU26は、バキュームブースタ22が助勢可能な状態にあるか否かを判定する(ステップ108)。具体的には、ブレーキECU26は、ステップ102で取得されたマスタシリンダ圧がステップ106で演算された判定用助勢限界圧以上であれば、バキュームブースタ22が助勢可能な状態ではないと判定し(「YES」と判定し)、逆に判定用助勢限界圧未満であれば、バキュームブースタ22が助勢可能な状態であると判定する(「NO」と判定する)。ここで、助勢可能な状態とは、バキュームブースタ22に供給されている負圧の作用により助勢が可能な状態のことをいう。
【0072】
バキュームブースタ22が助勢可能な状態である場合には、ブレーキECU26は、ステップ108で「NO」と判定し、終了処理を行う(ステップ110)。具体的には、ブレーキECU26は、図12に示すフローチャートに示すサブルーチンである終了処理に沿って増圧制御の終了処理を実行する。この終了処理ルーチンにおいては、ステップ202において、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドにそれをオフにする信号が出力されて、差圧制御弁41(または/および51)がオフされ(開状態とされ)、ステップ204において、ポンプ用モータ44bにそれをオフにする信号が出力されてポンプ用モータ44bがオフされポンプ44a(または/および54a)の駆動が停止される。以上でこの終了処理ルーチンの一回の実行が終了し、それにより、図11に示す助勢制御ルーチンの一回の実行も終了する。なお、図12に示す増圧制御の終了処理は、増圧制御を終了させる終了処理という作用だけなく、ブレーキペダル21の踏込開始から助勢限界に到達するまでの通常ブレーキの処理という作用も有する。通常ブレーキの処理とは、マスタシリンダ23からの液圧をホイールシリンダWC**にそのまま供給するため、差圧制御弁41(または/および51)の前後で差圧が生じないように開状態とすることである。
【0073】
一方、バキュームブースタ22が助勢可能な状態ではない場合には、ブレーキECU26は、ステップ108で「YES」と判定し、助勢制御を行う(ステップ112)。助勢制御は、マスタシリンダ圧取得部26bで取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得部26aで取得された負圧におけるバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタ22のサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインG*で得られる目標助勢圧Past*となるようにポンプ44a,54aを駆動させるとともに差圧制御弁41,51を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダWC**に供給する制御である(助勢制御手段)。
【0074】
具体的には、ブレーキECU26は、図13に示すフローチャートに示すサブルーチンである増圧制御に沿って助勢制御を実行する。ブレーキECU26は、ステップ302において、ステップ106で先に演算した判定用助勢限界圧を読み込み助勢開始圧Pstとして取得する(助勢開始圧取得手段)。ブレーキECU26は、ステップ304において、ステップ102で先に取得した今回のマスタシリンダPmcに対応した差圧ΔP1を演算する(差圧演算手段)。すなわち、ブレーキECU26は、ステップ102で取得したマスタシリンダ圧Pmcとステップ302から取得した助勢開始圧Pstを減算することで差圧ΔP1(=Pmc−Pst)を演算する。
【0075】
続いて、ブレーキECU26は、ステップ306において、ステップ304で演算された差圧ΔP1と第2記憶部26hに記憶されている差圧−助勢ゲインマップとからステップ304で演算された差圧ΔP1に対応する助勢ゲインGを目標助勢ゲインG*として演算する(目標助勢ゲイン演算手段)。具体的には、ブレーキECU26は、図14に示すフローチャートに示すサブルーチンである目標助勢ゲイン演算に沿って目標助勢ゲイン演算処理を実行する。本サブルーチンにおいては、ブレーキペダル21の踏込速度(マスタシリンダ圧の増大速度)が遅い場合と速い場合の2つの場合に応じた差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインを演算している。
【0076】
ブレーキECU26は、ステップ402において、マスタシリンダ圧の増大速度を演算する。マスタシリンダ圧の増大速度は、今回取得したマスタシリンダ圧Pmcから前回取得したマスタシリンダPmcを減算した値ΔPmcとして得ることができる。ブレーキECU26は、ステップ404において、マスタシリンダ圧増大速度が所定値Dpmchより小さい場合にはブレーキペダル21の踏込速度が遅いと判定し、大きい場合にはブレーキペダル21の踏込速度が速いと判定する。
【0077】
ブレーキペダル21の踏込速度が遅い場合、ブレーキECU26は、ステップ404で「YES」と判定し、図7の差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインG*を演算する。ブレーキECU26は、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、ステップ406で「YES」と判定し、G1を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ408)。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、ステップ406,410で「NO」,「YES」と判定し、G2を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ412)。ΔP1がΔP12〜ΔP13の範囲内であれば、ステップ406,410,414で「NO」,「NO」,「YES」と判定し、G3を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ416)。ΔP1がΔP13より大きい範囲内であれば、ステップ406,410,414でそれぞれ「NO」と判定し、Gstdを目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ418)。
【0078】
ブレーキペダル21の踏込速度が速い場合、ブレーキECU26は、ステップ404で「NO」と判定し、図8の差圧−助勢ゲインマップを使用して目標助勢ゲインG*を演算する。ブレーキECU26は、ΔP1が0〜ΔP11の範囲内であれば、ステップ420で「YES」と判定し、G2を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ422)。ΔP1がΔP11〜ΔP12の範囲内であれば、ステップ420,424で「NO」,「YES」と判定し、G3を目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ426)。ΔP1がΔP12より大きい範囲内であれば、ステップ420,424でそれぞれ「NO」と判定し、Gstdを目標助勢ゲインG*として演算する(ステップ428)。
【0079】
続いて、ブレーキECU26は、ステップ308において、ステップ306で演算された目標助勢ゲインG*と、ステップ304で演算された差圧ΔP1とから上記数3を用いて今回のマスタシリンダ圧Pmcに対応した目標助勢圧Past*を演算する(目標助勢圧演算手段)。
【0080】
そして、ブレーキECU26は、決定された目標助勢圧Past*に応じ、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに供給すべき電流値Iを決定する(ステップ310)。目標助勢圧Past*とソレノイド電流値Iとの関係がブレーキECU26の記憶部(ROM)に記憶されており、その関係に従って目標助勢圧Past*に対応するソレノイド電流値Iが決定されるのである。続いて、ブレーキECU26は、差圧制御弁41(または/および51)のソレノイドに、決定されたソレノイド電流値Iで電流を供給させることにより、差圧制御弁41(または/および51)を制御(差圧制御)する(ステップ312)。
【0081】
その後、ブレーキECU26は、ポンプ用モータ44bにそれをONにする信号を出力する(ステップ314)。それにより、ポンプ44a(または/および54a)は、調圧リザーバ44c(または/および54c)から作動液を汲み上げ、作動液を各ホイールシリンダWC**に吐出し、その結果、各ホイールシリンダWC**にマスタシリンダ圧より目標助勢圧Past*だけ高い液圧が発生させられる。以上でこの増圧制御ルーチンの一回の実行が終了し、それにより、図11に示す助勢制御ルーチンの一回の実行も終了する。
【0082】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態によれば、助勢制御手段(26e、図11のフローチャート)が、マスタシリンダ圧取得手段(26b、ステップ102)で取得されたマスタシリンダ圧が負圧取得手段(26a、ステップ104)で取得された負圧におけるバキュームブースタ22の助勢限界に対応したマスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までのバキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインGstdより小さい目標助勢ゲインG*で得られる目標助勢圧Past*となるようにポンプ44a,54aを駆動させるとともに差圧制御弁41(または/および51)を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧をブレーキ操作部材(ブレーキペダル21)の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧してホイールシリンダWC**に供給する助勢制御を行う。
【0083】
これにより、取得したマスタシリンダ圧が助勢限界圧を超えた助勢限界圧付近では、すなわち助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることができる。したがって、ブレーキ操作部材(ブレーキペダル21)の操作中(車両制動中)において、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合であっても、その到達する前の助勢ゲイン(基礎助勢ゲインGstd)より小さい助勢ゲインで助勢制御を開始することができる。
【0084】
ところで従来では、助勢制御の開始直後から、その開始時点でのマスタシリンダ圧である助勢開始圧Pstとマスタシリンダ圧Pmcとの差圧ΔP1に助勢制御を開始する前の助勢ゲインと同じ助勢ゲインを乗算して得た加圧量(助勢圧量)の液圧をブレーキアクチュエータ25で形成して助勢開始圧Pstに加圧している。したがって、助勢開始圧Pstが実際の助勢限界圧と同じであれば、助勢制御開始以降においても差圧ΔP1は実際の助勢限界圧に基づく差圧となるので、この差圧に前記同じ助勢ゲインを乗算して助勢開始圧Pstに加圧すれば所望のホイールシリンダ圧となる(図15の一点破線で示す)。これに対し、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合には、助勢開始圧Pstが実際の助勢限界圧より小さい値となるため、図15に示すように、助勢制御開始直後において差圧ΔP1は実際の助勢限界圧に基づく差圧より大きい差圧となるので、この差圧に前記同じ助勢ゲインを乗算して助勢開始圧Pstに加圧すれば所望のホイールシリンダ圧より大きい値をとることとなる(図15の破線で示す)。
【0085】
なお、助勢制御開始直後において差圧ΔP1が実際の助勢限界圧に基づく差圧より大きい差圧となる理由は次のとおりである。基礎助勢ゲインGは、上述したようにバキュームブースタ22が助勢可能な状態にあるときのサーボ比を示している。これを利用して、バキュームブースタ22が助勢可能な状態にない状態にあっても踏力分で形成されるマスタシリンダ圧(すなわち差圧ΔP1)に基礎助勢ゲインGを乗算することで所望のホイールシリンダ圧を得ることができる。しかし、図15に示すように、バキュームブースタ22が実際の助勢限界に到達する前に、助勢制御が開始された場合には、開始された直後から、踏力分だけでなくバキュームブースタ22による助勢分もマスタシリンダ圧に含まれており差圧ΔP1には助勢分が上乗せされるからである。
【0086】
これに対し、本願発明によれば、助勢制御の開始直後から、助勢限界に到達する前の助勢ゲイン(基礎助勢ゲインGstd)より小さい助勢ゲイン(目標助勢ゲイン演算部26iで演算された目標助勢ゲインG*)で助勢制御が行われる。これによれば、上述したように、差圧ΔPに対して目標助勢ゲインG*が一定である場合と比較して、助勢制御を開始した直後から、目標助勢ゲインG*を小さく抑えることで目標助勢圧Past*を小さく抑え、助勢制御による加圧を小さく抑えることとなる(図15で細い実線で示す)。
【0087】
したがって、負圧センサ22f2、マスタシリンダ圧センサ25a1やバキュームブースタ22のバラツキに起因して、実際にはバキュームブースタ22が助勢限界に到達していないにもかかわらず誤って助勢制御を開始させたとしても、従来助勢制御開始から大きくなっていた助勢制御による加圧量を小さく抑制することで、前記ばらつきの影響をできるだけ排除してブレーキ装置に所望のブレーキ性能を発揮させることができる。
【0088】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、取得されたマスタシリンダ圧と助勢限界圧(助勢開始圧Pst)との差である差圧ΔP1が大きくなれば大きくなるように設定される(図7、図8)。これにより、助勢制御開始直後(すなわち差圧0から大きくなり始めた直後)では助勢ゲインを小さく設定し時間経過に伴って(すなわち差圧の増大に伴って)助勢ゲインを大きく設定するので、ブレーキフィーリングを損なうことのない滑らかな助勢制御を行うことができる。
【0089】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、ブレーキ操作部材21の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される(図7、図8、図14のフローチャート)。これにより、急制動など踏込速度が速い場合には、遅い場合と比較して、助勢開始時点から基準助勢ゲインに到達する時間が短くなり、急制動に必要な加圧ひいては制動力を得ることができる。また、ブレーキペダル21を速く踏んだ時は、助勢限界が下がることもあり、早期に基準助勢ゲインに戻すことで制動力を得るようにすることができる。
【0090】
また、助勢制御手段(26e、ステップ112)で使用される目標助勢ゲインG*は、その最大値は基準助勢ゲインとなるように設定される。これにより、助勢限界に到達した時点以降において、助勢限界に到達する前と比較して必要以上に加圧されるのを抑制することができる。
【0091】
なお、上述した実施の形態では、目標助勢ゲインG*を演算するときにブレーキ操作部材21の踏込速度の遅い場合と早い場合の2つのマップを使用したが、これに限らず、踏込速度毎の差圧−助勢ゲインの関係を示す3次元マップを使用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明による液圧ブレーキ装置の制御装置を適用した車両の一実施の形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す液圧ブレーキ装置の構成を示す概要図である。
【図3】図1、図2に示す制御装置の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】図3に示す助勢制御部の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】負圧−助勢限界圧マップ(初期マップ)を示す図である。
【図6】負圧毎におけるブレーキペダルの操作力とマスタシリンダ圧の関係を示す図である。
【図7】ブレーキペダルの踏込速度が遅い場合の差圧−助勢ゲインマップを示す図である。
【図8】ブレーキペダルの踏込速度が速い場合の差圧−助勢ゲインマップを示す図である。
【図9】ブレーキペダルの踏込速度が遅い場合の差圧に対する加圧量(演算結果)を示す図である。
【図10】ブレーキペダルの踏込速度が速い場合の差圧に対する加圧量(演算結果)を示す図である。
【図11】図1に示す制御装置にて実行される制御プログラム(助勢制御)のフローチャートである。
【図12】図11に示す終了処理ルーチンのフローチャートである。
【図13】図11に示す増圧制御ルーチンのフローチャートである。
【図14】図13に示す目標助勢ゲイン演算ルーチンのフローチャートである。
【図15】本発明による作用効果を示す操作力と液圧(マスタシリンダ圧、ホイールシリンダ圧、Pst+(Pmc−Pst)×Gstd、Pst+(Pmc−Pst)×G*)の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
11…エンジン、12…変速機、13…ディファレンシャル、15a…スロットルバルブ、15b…モータ、15c…スロットル開度センサ、16…アクセルペダル、16a…アクセル開度センサ、17…エンジンECU、21…ブレーキペダル、22…バキュームブースタ、22f2…負圧センサ(負圧検出手段)、23…マスタシリンダ、23a,23b…第1および第2液圧室、23c,23d…第1および第2出力ポート、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、25a1…マスタシリンダ圧センサ(マスタシリンダ圧検出手段)、26…ブレーキECU(制御装置)、26a…負圧取得部(負圧取得手段)、26b…マスタシリンダ圧取得部(マスタシリンダ圧取得手段)、26c…第1記憶部(第1記憶手段)、26d…判定用助勢限界圧演算部(判定用助勢限界圧演算手段)、26e…助勢制御部(助勢制御手段)、26f…助勢開始圧演算部(助勢開始圧演算手段)、26g…差圧演算部(差圧演算手段)、26h…第2記憶部、26i…目標助勢ゲイン演算部(目標助勢ゲイン演算手段)、26j…目標助勢圧演算部(目標助勢圧演算手段)、26k…目標電流値演算部(目標電流値演算手段)、41,51…差圧制御弁、42a,43a,52a,53a…増圧弁、42b,43b,52b,53b…減圧弁、44c,54c…調圧リザーバ、44a,54a…ポンプ(油圧ポンプ)、A…液圧ブレーキ装置、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材(21)の操作に応じたブレーキ液圧を形成するマスタシリンダ(23)と、
負圧が供給されその負圧を利用することで前記ブレーキ操作部材の操作力を助勢して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタ(22)と、
前記マスタシリンダから供給されるブレーキ液圧の供給を受けて車両(M)の各車輪(W**)に制動力を付与するホイールシリンダ(WC**)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダを繋ぐ油圧経路(25a,25b)に設けられ、前記ホイールシリンダ側の圧力を前記マスタシリンダ側の圧力より制御差圧分だけ高く制御可能な差圧制御弁(41,51)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダを繋ぐ油圧経路(25a,25b)に接続され、電動モータ(44b)の出力により駆動されてブレーキ液圧を形成して前記マスタシリンダと独立して前記ホイールシリンダに供給する油圧ポンプ(44a,54a)と、
前記バキュームブースタに供給されている負圧を検出する負圧検出手段(22f2)と、
前記マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧検出手段(25a1)と、
を備えたブレーキ装置(A)に適用される制御装置(26)において、
前記制御装置(26)は、
前記バキュームブースタに供給されている負圧を前記負圧検出手段から取得する負圧取得手段(26a、ステップ104)と、
前記マスタシリンダの圧力を前記マスタシリンダ圧検出手段から取得するマスタシリンダ圧取得手段(26b、ステップ102)と、
前記マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が前記負圧取得手段で取得された負圧における前記バキュームブースタの助勢限界に対応した前記マスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までの前記バキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように前記油圧ポンプを駆動させるとともに前記差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧を前記ブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧して前記ホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段(26e、ステップ306(図13のフローチャート))と、を有することを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と前記助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定される(図7の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、前記ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、前記基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される(図7および図8の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、その最大値は前記基準助勢ゲインとなるように設定される(図7および図8の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項1】
ブレーキ操作部材(21)の操作に応じたブレーキ液圧を形成するマスタシリンダ(23)と、
負圧が供給されその負圧を利用することで前記ブレーキ操作部材の操作力を助勢して前記マスタシリンダに出力するバキュームブースタ(22)と、
前記マスタシリンダから供給されるブレーキ液圧の供給を受けて車両(M)の各車輪(W**)に制動力を付与するホイールシリンダ(WC**)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダを繋ぐ油圧経路(25a,25b)に設けられ、前記ホイールシリンダ側の圧力を前記マスタシリンダ側の圧力より制御差圧分だけ高く制御可能な差圧制御弁(41,51)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダを繋ぐ油圧経路(25a,25b)に接続され、電動モータ(44b)の出力により駆動されてブレーキ液圧を形成して前記マスタシリンダと独立して前記ホイールシリンダに供給する油圧ポンプ(44a,54a)と、
前記バキュームブースタに供給されている負圧を検出する負圧検出手段(22f2)と、
前記マスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧検出手段(25a1)と、
を備えたブレーキ装置(A)に適用される制御装置(26)において、
前記制御装置(26)は、
前記バキュームブースタに供給されている負圧を前記負圧検出手段から取得する負圧取得手段(26a、ステップ104)と、
前記マスタシリンダの圧力を前記マスタシリンダ圧検出手段から取得するマスタシリンダ圧取得手段(26b、ステップ102)と、
前記マスタシリンダ圧取得手段で取得されたマスタシリンダ圧が前記負圧取得手段で取得された負圧における前記バキュームブースタの助勢限界に対応した前記マスタシリンダの圧力である助勢限界圧以上になった時点から、その時点までの前記バキュームブースタのサーボ比を示す基準助勢ゲインより小さい目標助勢ゲインで得られる目標助勢圧となるように前記油圧ポンプを駆動させるとともに前記差圧制御弁を制御することにより形成されるブレーキ液圧である助勢圧を前記ブレーキ操作部材の操作に応じて形成されたマスタシリンダ圧に加圧して前記ホイールシリンダに供給する助勢制御を行う助勢制御手段(26e、ステップ306(図13のフローチャート))と、を有することを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、取得されたマスタシリンダ圧と前記助勢限界圧との差である差圧が大きくなれば大きくなるように設定される(図7の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、前記ブレーキ操作部材の踏込速度が速い場合には、その踏込速度が遅い場合と比べて、前記基準助勢ゲインに早期に戻すように設定される(図7および図8の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記助勢制御手段で使用される前記目標助勢ゲインは、その最大値は前記基準助勢ゲインとなるように設定される(図7および図8の差圧−助勢ゲインマップ)ことを特徴とするブレーキ装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−116048(P2010−116048A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290726(P2008−290726)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]