説明

プライマ、樹脂付き導体箔、積層板並びに積層板の製造方法

【課題】 絶縁体層と表面が比較的粗化されていない導体箔とを十分強力に接着できる樹脂プライマ、樹脂付き導体箔、積層板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の樹脂プライマは、フィルム形成能を有し、破断エネルギーが0.15J以上である樹脂を含むものである。また、本発明の樹脂付き導体箔は、導体箔と上記樹脂プライマからなる樹脂層とを備えるものである。さらに、本発明の積層板は、導体箔と、導体箔と対向して配置された絶縁層と、導体箔と絶縁層との間に、これらに接するように設けられた上記樹脂プライマからなる樹脂層を備えるものである。この積層板は、上記樹脂付き導体箔と、その樹脂層上に積層されたプリプレグとを備える積層体を、加熱及び加圧することによって製造可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマ、樹脂付き導体箔、積層板並びに積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ及び携帯電話等の情報端末機器の小型化及び軽量化に伴い、これらの機器に搭載されるプリント配線板には、さらなる小型化及び配線の高密度化が要求されている。これらの要求に対応するためには、配線幅を細くし、各配線間の間隔を密にする必要がある。また、電子機器の処理の高速化に対応するために、電子機器に備えられるデバイスの入出力数を増大することも求められている。
【0003】
これらの要求に応じるために、プリント配線板上への素子の実装形態は、ピン挿入型から表面実装型へ、さらにはプラスチック基板を使用したBGA(ボールグリッドアレイ)に代表されるエリアアレイ型へと進んでいる。BGAのようなベアチップを直接実装する基板において、チップの接続は、熱超音波圧着によるワイヤボンディングで行われるのが一般的である。そして、上述したような要求に応じるためには、このワイヤボンディングにより接続する端子数を増加させるか、或いは、その端子幅を狭小化させる必要がある。
【0004】
従来、これらのプリント配線板の基板としては、電気絶縁性を有する樹脂をマトリックスとするプリプレグ等を所定の枚数重ねて、これを加熱圧着して一体化させることにより得られた積層体が用いられる。電気絶縁性を有する樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂が一般的に用いられる。また、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂等も用いられる場合がある。
【0005】
プリント配線板における導体回路を形成する方法としては、サブトラクティブ法が広く用いられている。この方法においては、上述した積層体の表面(片面又は両面)に金属箔等の導体箔を積層し、加熱加圧して一体化させた導体張積層板が用いられる。そして、この導体張積層板における導体箔をエッチングにより除去することによって回路パターンが形成される。
【0006】
導体張積層板においては、回路パターンの剥離等を防ぐために、導体箔とプリプレグの積層体からなる絶縁体層とが強固に接着していることが望ましい。このため、従来では、下記特許文献1や下記非特許文献1に記載されているように、導体箔の表面を粗化して、絶縁体層中の樹脂とのアンカー効果を発現させることによって、導体箔と絶縁体層との接着力を向上させていた。
【特許文献1】特開平4−211941号公報
【非特許文献1】「高密度プリント配線板技術」(電子材料編集部編、工業調査会、昭和61年5月20日、p149−157)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、上記従来の方法により接着力の向上を図った導体張積層板は、エッチングにより導体箔の一部を除去しようとした場合、除去したい部分の導体箔が残存し易いことを見出した。これは、粗化された導体箔表面の凹部にまでエッチング液が進入し難く、その部分の導体箔の除去を十分に行うことが困難であるためであると考えられる。このように除去したい部分の導体箔が残存すると、回路の短絡等を引き起こすおそれがあるため、好ましくない。
【0008】
また、表面が粗化された導体箔を用いて得られたプリント配線板には、表皮効果に起因して、伝達信号の高周波数化が困難であるという問題もあった。ここで、「表皮効果」とは、導体を流れる信号の周波数が高くなるほど、その導体の中心部に生じる磁力線の干渉が大きくなるため、導体中心部で電流が流れ難くなる一方、導体表面付近に流れる電流が増加することをいう。この表皮効果が生じた場合に導体箔の表面が粗化されていると、かかる表面付近においても電気抵抗が増加するため、電流が流れ難くなる傾向にある。このように、導体箔の表面を粗くするほど信号の高周波化を妨げることになる。
【0009】
さらに、上述したようなプリント配線板における配線の高密度化、或いは、この配線板上に実装される素子の端子数の増加及び端子幅の狭小化を行うと、回路パターンと基材との接触面積が小さくなることになる。こうなると、この接触面積の低下に伴って、回路パターンと基材との接着性が低下するため、導体箔が基材から容易に剥離する傾向にある。よって、上記従来技術を適用した場合、小型化や配線の高密度化の要求に十分応え得るプリント配線板を得ることが困難であった。
【0010】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、絶縁体層と表面が比較的粗化されていない導体箔とを十分強力に接着できる樹脂プライマ、樹脂付き導体箔、積層板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂プライマは、樹脂を含有するものであって、この樹脂は、フィルム形成能を有し、破断エネルギーが0.15J以上のものであることを特徴とする。
【0012】
ここで、樹脂の「破断エネルギー」とは以下のとおりに定義され測定されるものである。まず、樹脂を、幅10mm、厚み50μmの短冊状フィルムに成形する。続いて、その短冊状フィルムを長さ方向に5mm/分の速度で破断するまで引っ張る。この際、短冊状フィルムに与えた引張り応力と該フィルムの歪み(伸び率)との関係は、図1に示すような応力−歪み曲線で表すことができる。この図1中の斜線部、すなわち短冊状フィルムが破断するまで(破断点まで)の引張り応力の積分値を「破断エネルギー」として定義するものとする。
【0013】
本発明者らは、このような特性を有する樹脂を含有することにより、本発明のプライマが導体箔と絶縁体層との接着力を高めることを見出した。その原因は、現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0014】
すなわち、この樹脂プライマから得られる樹脂を導体箔と絶縁体層との間に備える積層板から、導体箔が剥離するパターンとしては、(1)樹脂が凝集破壊を起こすことにより導体箔が絶縁体層から剥離する場合、及び、(2)導体箔と樹脂との間で剥離が生じる場合が考えられる。しかし、上述したような特性を有する樹脂は凝集破壊に対する耐性が高いものと考えられるので、かかる樹脂によれば、上記(1)のような剥離が起こり難くなるものと考えられる。
【0015】
さらには、このような特性を有する樹脂は、引っ張られることによりその内部に発生する応力が広範囲に分散するものと考えられる。したがって、このような樹脂によれば、導体箔を剥離しようとする力が加えられても、導体箔との接触面積当たりに受ける力が小さくなるため、上記(2)のような剥離も十分に抑制されるようになるものと考えられる。
【0016】
また、本発明の別の樹脂プライマは、樹脂を含有するものであり、この樹脂を膜状に成形した場合において、その膜(図2中の符号2)表面の十点平均粗さを0.1μm以下に調整し、室温環境下でこの膜の表面上にホルムアミド液(図2中の1)を滴下すると、そのホルムアミド液の膜表面に対する接触角(図2中のθ)が60°以下となるものである。
【0017】
このような特性を有する樹脂を含有することによっても、本発明のプライマが導体箔と絶縁体層との接着力を高めることを、本発明者らは見出した。その原因は、現在のところ詳細には明らかにされていないが、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、上述したような特性を有する樹脂の成形物は、高い表面自由エネルギーを有すると考えられる。したがって、その樹脂を導体箔に接着させた場合、その樹脂と導体箔との間の界面の相互作用(引力)が大きくなると考えられる。その結果、導体箔と絶縁体層との間の接着力が高くなると本発明者らは考えている。
【0018】
これらのプライマから得られる樹脂膜は、積層板からの導体箔の剥離を十分に抑制することができる。よって、これらのプライマを用いることで、より高密度であってより高周波特性に優れたプリント配線板を製造することが可能となる。特に、これら二つの特性を同時に有する樹脂を含有するプライマによれば、個々の特性を有するプライマと比較しても、絶縁体層と導体箔との間の接着力を更に高めることができる。
【0019】
上記本発明のプライマは、イミド結合、カルバミン酸エステル結合及び芳香族カルボン酸エステル結合からなる群より選ばれる一種以上の結合を、そのプライマに含有される樹脂の質量基準で6質量%以上含有する樹脂からなると好ましい。このようなプライマを用いることにより、導体箔と絶縁体層との間の接着力が一層高くなる。
【0020】
さらに、本発明の別の樹脂プライマは、樹脂を含有するものであり、当該樹脂として、主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドを含んでおり、当該樹脂中に含まれる全てのアミド基の含有量をA重量%、前記樹脂中に含まれる全てのケイ素原子の含有量をC重量%としたときに、以下の式(a)及び(b);
3≦A≦11…(a)
1≦C≦16…(b)
を満たすものである。主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドを含み、上記条件を満たす樹脂プライマは、比較的平滑な表面を有する金属箔に対しても、優れた接着性を示すものとなる。
【0021】
かかる形態の樹脂プライマとしては、上記樹脂を含有しており、且つ、当該樹脂が、フィルム形成能を有し、破断エネルギーが0.15J以上のもの、及び/又は、十点平均粗さが0.1μm以下である膜を形成したときに、その膜の表面に対する室温におけるホルムアミドの接触角が60°以下となるものであってもよい。
【0022】
さらにまた、本発明の別の樹脂プライマは、樹脂を含有するものであり、当該樹脂は、主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドと、このポリアミドイミドの有するアミド基と反応を生じる官能基を有しており、且つ、アミド基及び/又はケイ素原子を有していてもよい反応性化合物とを含有するものであり、樹脂中における、ポリアミドイミド100重量部に対する反応性化合物の重量部Bは、ポリアミドイミド中のアミド基の含有量をPa重量%、反応性化合物中のアミド基の含有量をEa重量%、ポリアミド中のケイ素原子の含有量をPc重量%、反応性化合物中のケイ素原子の含有量をEc重量%としたときに、下記式(I)及び(II);
3≦(Pa×100+Ea×B)/(100+B)≦11…(I)
1≦(Pc×100+Ec×B)/(100+B)≦16…(II)
を満たすものであってもよい。
【0023】
主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドに加え、上述のような反応性化合物を更に含有させることにより、樹脂プライマからなる樹脂層の接着性を更に高めることができるほか、耐熱性も向上させることが可能となる。また、この反応性化合物の配合量を上述のように調整すれば、樹脂中に含まれるアミド基の含有量及びケイ素原子の含有量が上述した好適範囲となり易くなる。その結果、更に優れた接着性を発揮し得る樹脂プライマが得られる。
【0024】
このような形態の樹脂プライマとしては、上記樹脂を含有しており、且つ、当該樹脂が、フィルム形成能を有し、破断エネルギーが0.15J以上のもの、及び/又は、十点平均粗さが0.1μm以下である膜を形成したときに、その膜の表面に対する室温におけるホルムアミドの接触角が60°以下となるものであってもよい。
【0025】
より具体的には、上述した主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドとしては、芳香族ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる下記一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸、及び、シロキサンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる下記一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物と、下記一般式(3)で表される芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られるものが好ましい。
【化1】


[式中、Rは、下記一般式(4a)又は下記一般式(4b)で表される2価の基、R21はアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基、R22は、2価の有機基、Rは少なくとも一つの芳香環を有する2価の有機基、nは1〜50の整数を示す。
【化2】


ただし、式(4a)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合である。なお、複数存在するR21及びR22はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、また、それぞれの化合物における芳香環は更に他の置換基を有していてもよい。]
【0026】
また、このポリアミドイミドは、ジイミドジカルボン酸混合物の合計モル量に対して、1.0〜1.5倍モル量の芳香族ジイソシアネートを反応させて得られたものであると好ましく、この場合、ジイミドジカルボン酸混合物は、芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンを含むジアミン混合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られたものであり、しかも、このジアミン混合物においては、芳香族ジアミン/シロキサンジアミンが、モル比で、0/100〜99.9/0.1であることがより好ましい。
【0027】
さらに、本発明の別の樹脂プライマは、樹脂を含有するものであり、当該樹脂としてポリアミドイミドを含有しており、このポリアミドイミドが飽和炭化水素からなる構造単位を有するものであることを特徴とする。ここで、飽和炭化水素からなる構造単位としては、下記化学式(5)で表されるものが好ましい。
【化3】

【0028】
このような樹脂プライマにおいても、上記樹脂は、フィルム形成能を有し、破断エネルギーが0.15J以上のもの、及び/又は、十点平均粗さが0.1μm以下である膜を形成したときに、その膜の表面に対する室温におけるホルムアミドの接触角が60°以下となるものであってもよい。
【0029】
この形態の樹脂プライマにおける樹脂に含まれるポリアミドイミドとしては、ジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートとを反応させて得られるものであり、ジアミン化合物として、下記一般式(6a)、(6b)又は(6c)で表される化合物を用いたものが好ましい。
【化4】


[式中、R61は水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基、R62は、下記一般式(7a)、(7b)、(7c)及び(7d)のうちのいずれかで表される基、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合、R63は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基又はカルボニル基を示す。
【化5】


ただし、式(7a)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合を示す。なお、複数存在するR61はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0030】
また、このポリアミドイミドとしては、上記ジアミン化合物として、下記一般式(8)で表される化合物を更に含有して得られたものがより好ましい。
【化6】


[式中、R81は、メチレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合、R82及びR83は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示し、mは1〜50の整数を示す。]
【0031】
さらに、このポリアミドイミドにおいて用いるジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネートが好ましい。
【0032】
さらにまた、かかる形態の樹脂プライマにおける樹脂は、ポリアミドイミドのアミド基と反応を生じる官能基を有する反応性化合物を含むものであると一層好ましい。
【0033】
本発明の樹脂プライマは、上述したような樹脂を含有するものであるが、この樹脂に加えてゴム成分を更に含んでおり、このゴム成分の含有量は、樹脂の質量基準で40質量%以上であるとより好ましい。このようなゴム成分を含む樹脂プライマにより、導体箔と絶縁体層との接着性を更に向上させることが可能となる。
【0034】
本発明による樹脂付き導体箔は、導体箔とこの導体箔上に設けられた樹脂層とを備えるものであって、導体箔はその表面の十点平均粗さが3μm以下であるものであり、且つ、樹脂層は上記本発明の樹脂プライマが塗布されてなるものであることを特徴とする。また、本発明の樹脂付き導体箔としては、導体箔とこの導体箔上に設けられた樹脂層とを備えるものであって、導体箔が金属箔であり、且つ、樹脂層が上記本発明の樹脂プライマからなるものであることを特徴とするものであってもよい。
【0035】
これらの樹脂付き導体箔は、上記本発明の樹脂プライマからなる樹脂層を有するものであるため、導体箔の表面が十分に平滑であるにもかかわらず、導体箔と絶縁体層との間の接着力が十分に高い。よって、かかる樹脂付き導体箔は、高密度のプリント配線板を製造するのに適したものとなる。しかも、このように導体箔の表面が平滑であることから、かかる樹脂付き導体箔によれば、上述した表皮効果による表面付近の電流増大が少なく、そのため伝達信号の高周波数化にも十分対応できるプリント配線板を製造することが可能となる。
【0036】
また、本発明は、プリント配線板の基板として使用可能であり、上記樹脂プライマを用いて得られる積層板を提供する。すなわち、本発明の積層板は、上記本発明の樹脂付き導体箔と、この樹脂付き導体箔における樹脂層上に積層されたプリプレグとを備える積層体を、加熱及び加圧して得られたことを特徴とする。
【0037】
こうして得られた積層体は、すなわち、導体箔と、この導体箔と対向して配置された樹脂を含む絶縁層と、導体箔と絶縁層との間に、これらに接するように設けられた上記本発明の樹脂プライマからなる樹脂層とを備えるものとなる。よって、この積層体においては、導体箔として、少なくとも樹脂層に接する面の十点平均粗さが3μm以下であるものを好ましく適用できる。
【0038】
これらの構成を有する積層体は、上記本発明の樹脂付き導体箔と、この樹脂付き導体箔における樹脂プライマが塗布してなる層上に積層されたプリプレグとを備える積層体を、加熱及び加圧することによって好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、絶縁体層と表面が比較的粗化されていない導体箔とを十分強力に接着できる樹脂プライマ、樹脂付き導体箔及び積層板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[樹脂プライマ]
【0041】
まず、本発明の樹脂プライマについて説明する。本発明の樹脂プライマは、樹脂を含有するものである。かかる樹脂としては、まず、フィルム成形能を有し、0.15J以上の破断エネルギーを有するものが挙げられる。
【0042】
ここで、樹脂の「破断エネルギー」を測定する方法は以下のとおりである。まず、樹脂を幅10mm、厚み50μmの短冊状フィルムに成形する。具体的には、例えば、まず1種類または2種類以上からなる樹脂溶液を銅箔の光沢面(Rz=2μm)上に、乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し乾燥する。
【0043】
次に、この樹脂付銅箔の、まだ銅箔と接していない側の樹脂面にもう1枚の銅箔を光沢面と向かい合うようにして積層し、その銅箔の樹脂層と接していない側からプレスを行う。そして、この樹脂層の両面の銅箔をエッチングで除去し、10mm幅を有するように切断して短冊状フィルムを得る。この際、フィルムの長さは、当該フィルムを引っ張る前のつかみ具間の距離、すなわち60mmより長ければよい。
【0044】
続いて、二つのつかみ具を長さ方向に60mmの距離をおいてフィルムを挟んで配置する。そして、二つのつかみ具を、このフィルムの長さ方向に5mm/分の速度で、互いに離れるように移動させて、フィルムを引っ張る。この引っ張りをフィルムが破断するまで続ける。
【0045】
この際、短冊状フィルムに与えた引張り応力とこのフィルムの歪み(伸び率)との関係を図1に示すような応力−歪み曲線で表すことができる。この図1中の斜線部、すなわち短冊状フィルムが破断するまで(破断点まで)の引張り応力の積分値を求め、この値を「破断エネルギー(単位:J)」と定義する。
【0046】
このような測定法は、例えばオートグラフAG−100C(島津製作所社製、商品名)を用いて行われ、その結果として得られる応力−歪み曲線から破断エネルギーを算出することができる。
【0047】
また、樹脂としては、当該樹脂を膜状に成形した場合において、この樹脂膜(図2中の符号2)表面の十点平均粗さ(Rz)を0.1μm以下に調整し、室温環境下で樹脂膜表面上にホルムアミド液(図2中の1)を滴下すると、そのホルムアミド液の樹脂膜表面に対する接触角(図2中のθ)(以下、単に「ホルムアミド接触角」という。)が60°以下となるようなものも好適である。
【0048】
このホルムアミド接触角は、従来の方法で測定することができ、例えば接触角測定器CA−DT(協和界面科学株式会社製、商品名)を用いて測定することができる。
【0049】
ここで、上述した樹脂膜表面の「十点平均粗さ」は、例えば市販の触針式表面粗さ測定器等を用い、JIS B0601−1994に準じた測定法により導出することができる。
【0050】
実施形態の樹脂プライマに含有される樹脂としては、上述したようないずれかの特性を有しているものを、特に制限なく適用できる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂及びビスマレイミド−トリアジン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、フッ素樹脂及びポリフェニレン樹脂等の熱可塑性樹脂も挙げられる。これらは1種類を単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、樹脂としては、イミド結合、カルバミン酸エステル結合及び芳香族カルボン酸エステル結合からなる群より選ばれる一種以上の結合を、その樹脂の質量基準で6質量%以上含有するものが好適である。なお、本発明において、「質量%」又は「質量部」とは、重量基準値(「重量%」又は「重量部」)と実質的に同等である(以下同様)。
【0052】
ここで、上記各結合の含有量について説明する。「イミド結合」とは一つの窒素原子と二つのカルボニル結合(C=O)からなるものとし、「カルバミン酸エステル結合」とは一つの窒素原子と一つのエステル結合(COO)からなるものとし、「芳香族カルボン酸エステル結合」とは一つのエステル結合(COO)からなるものとする。
【0053】
各結合の質量は、各結合を構成する原子の原子量合計に、その結合のモル数を乗じて算出される。各結合を構成する原子の原子量合計は、上記より、イミド結合については70となり、カルバミン酸エステル結合については58となり、芳香族カルボン酸エステル結合については44となる。各結合の含有量(質量%)は、樹脂の反応(縮合反応或いは重縮合反応等)が完了した場合の、樹脂固形分の総質量に対する各結合の割合(質量%)で表され、樹脂の配合から算出される。なお、樹脂成分と反応しない溶剤や充填剤は、この樹脂固形分に含まれないものとする。
【0054】
このような結合を有する化合物(樹脂)は、上述したホルムアミド接触角を低下させる性質を有するものである。かかる樹脂としては、具体的には、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリアリレート及びこれらを変性した樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、それ自身が0.15J以上の破壊エネルギーを有するものであってもよく、60°のホルムアミド接触角を有するものであってもよい。
【0055】
さらに、樹脂プライマに含有させる樹脂としては、以下に示す第1の樹脂及び第2の樹脂、並びにその他の樹脂も好適である。なかでも、第1の樹脂及び第2の樹脂のような、ポリアミドイミドを含むものが好ましい。これらの樹脂は、上述した破断エネルギーの特性、及び/又は、ホルムアミド接触角の特性を合わせて具備していると一層好ましい。また、樹脂は、以下に示すものをそれぞれ単独で含有するものであってもよく、複数種組み合わせて含有するものであってもよい。
【0056】
以下、実施形態の樹脂プライマに含有させる樹脂として好適な、第1の樹脂、第2の樹脂及びその他の樹脂、並びに、樹脂以外の他の成分について説明する。
(第1の樹脂)
【0057】
まず、第1の樹脂について説明する。第1の樹脂は、主鎖にシロキサン結合を有するポリアミドイミドを含むものである。このような樹脂としては、樹脂中に含まれている全てのアミド基の含有量をA重量%、樹脂中に含まれている全てのケイ素原子の含有量をC重量%としたときに、上記式(a)及び(b)を満たすものが好ましい。
【0058】
ここで、アミド基及びケイ素原子の含有量が上述した範囲を満たさない場合、これらを用いて得られる導体張積層板の接着強度が低下するほか、耐熱性も不充分となる傾向にある。上記Aの好ましい範囲は、6以上9以下であり、上記Cの好ましい範囲は5以上12以下である。
【0059】
このような第1の樹脂は、主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドに加え、このポリアミドイミドのアミド基と反応性を有する官能基を含む反応性化合物を含むものであるとより好ましい。
【0060】
反応性化合物を更に含有する場合、この反応性化合物の含有量は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。すなわち、ポリアミドイミド100重量部に対する、反応性化合物の重量部Bは、ポリアミドイミド中のアミド基の含有量をPa重量%、アミド反応性化合物中のアミド基の含有量をEa重量%、ポリアミドイミド中のケイ素原子の含有量をPc重量%、反応性化合物中のケイ素原子の含有量をEc重量%としたときに、上記式(I)及び(II)を満たすことが好ましい。
【0061】
樹脂の各成分の配合量が上記式(I)及び(II)を具備する場合には、全アミド基量及び全ケイ素量が上記式(a)及び(b)の範囲内に含まれるようになり、この樹脂を用いて得られる導体張積層板における、導体箔と絶縁層との接着強度がより向上するほか、耐熱性も優れるようになる。一方、各成分の配合量が上記式(I)及び(II)を満たさないと、これらの特性が不充分となる傾向にある。かかる特性を更に向上させる観点からは、上記式(I)における(Pa×100+Ea×B)/(100+B)の下限は6が好ましく、上限は9が好ましい。また、同様の観点から上記式(II)の(Pc×100+Ec×B)/(100+B)の下限は5が好ましく、上限は12が好ましい。
【0062】
このような条件を満たす樹脂を含む樹脂プライマは、金属箔との優れた接着性のみならず、優れた耐熱性を有するものとなる。これは、主に耐熱性の高いポリアミドイミド中にシロキサン構造を導入したポリアミドイミドに起因するものである。このような構成のポリアミドイミドは、金属箔等との高い接着性を有しているばかりでなく、樹脂を硬化しない温度において、その樹脂中に含まれる残存有機溶媒成分を極めて容易に5重量%以下にまで低減することができるという特性を有する。このように樹脂中の残存有機溶媒量が5重量%以下に低減されると、後のはんだ等の工程で接着層が高温に晒された場合であっても、有機溶媒の揮発によるふくれ等が極めて生じ難くなる。
【0063】
主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドとは、すなわち、その主鎖にシロキサン構造、アミド結合及びイミド結合を有するものである。ここで、シロキサン構造とは、その構造中に−SiO−結合を有している構造をいう。なお、シロキサン構造としては、ケイ素原子に1価の有機基が2つ結合している構造が好ましい。
【0064】
このようなポリアミドイミドとしては、芳香族ジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる上記一般式(1)で表されるジイミドジカルボン酸(以下、「第1のジイミドジカルボン酸」という)、及び、シロキサンジアミンと無水トリメリット酸とを反応させて得られる上記一般式(2)で表されるジイミドジカルボン酸(以下、「第2のジイミドジカルボン酸」という)を含むジイミドジカルボン酸混合物と、上記一般式(3)で表される芳香族ジイソシアネートとを反応させて得られるものが好ましい。
【0065】
ここで、第1のジイミドジカルボン酸としては、上記一般式(1)においてRで表される官能基が、上記式(4a)で表される2価の基であるものが好ましい。この場合、上記式(4a)におけるRで表される官能基としては、−C(CH−で表される基、又は−C(CF−で表される基が好ましい。
【0066】
このような第1のジイミドジカルボン酸を形成するための芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4´−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(アミノフェノキシ)ベンゼンが例示できる。なかでも、BAPPが特に好ましい。
【0067】
また、第2のジイミドジカルボン酸としては、上記式(2)において、R21が好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であるもの、R22が好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基であるものが挙げられる。
【0068】
これらの第2のジイミドジカルボン酸を形成するためのシロキサンジアミンとしては、ジメチルシロキサン系両末端アミンが好ましい。かかる化合物はアミノ変性シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)(以上、信越化学工業社製)、BY16−853(アミン当量650)、BY−16−853B(アミン当量2200)(以上、東レダウコーニングシリコーン社製)等として商業的に入手可能である。なお、これらは単独で、または組み合わせて用いることができる。
【0069】
これらの第1及び第2のジイミドジカルボン酸を含むジイミドジカルボン酸混合物は、(A)予めそれぞれのジイミドジカルボン酸を合成した後、両者を混合することにより調製してもよく、また、(B)それぞれのジイミドジカルボン酸を形成するための芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンを混合させてジアミン混合物とした後、この混合物に無水トリメリット酸を反応させて調製してもよい。
【0070】
(B)の方法を採用する場合、芳香族ジアミン、シロキサンジアミン及び無水トリメリット酸の配合量は、以下の条件を満たすようにすることが好ましい。すなわち、芳香族ジアミンのモル数をD、シロキサンジアミンのモル数をE、無水トリメリット酸のモル数をFとしたとき、(D+E)/Fの値が1.0/2.0〜1.0/2.2の範囲となるように各成分を配合することが好ましい。
【0071】
この際、DとEとの混合比率D/Eは、Eのアミン当量に応じて決定することが望ましく、通常99.9/0.1〜0/100とされる。具体的には、例えば、シロキサンジアミンのアミン当量が400〜500の場合、D/Eは99.9/0.1〜0/100、アミン当量が800〜1000の場合、D/Eは99.9/0.1〜60/40、アミン当量が1500〜1600場合、D/Eは99.9/0.1〜60/40とすることが好ましい。D、E及びFをこのような範囲内とすることによって、ジイミドジカルボン酸混合物における第1及び第2のジイミドジカルボン酸の成分比が良好となり、ポリアミドイミド中のアミド基及びケイ素原子の含有量について上記式(a)及び(b)の条件を具備させやすくなる。
【0072】
そして、(B)の方法においては、上述したジアミン混合物に、無水トリメリット酸を反応させることによってジイミドジカルボン酸混合物を得ることができる。この反応は、例えば、両者を非プロトン性極性溶媒に溶解又は分散して50〜90℃で反応させた後に、反応後の溶液に水と共沸可能な芳香族炭化水素を加えて、120〜180℃で更に反応させて脱水閉環反応を生じさせるようにして実施することができる。
【0073】
ここで、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、4−ブチロラクトン、スルホラン等が例示できる。なかでも、N−メチル−2−ピロリドンが特に好適である。
【0074】
また、水と共沸可能な芳香族炭化水素としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン等が例示でき、トルエンが好ましい。この芳香族炭化水素は非プロトン性極性溶媒に対して、重量比で0.1〜0.5となる量を加えることが好ましい。なお、この脱水閉環反応の終了後、後述する芳香族ジイソシアネートとの反応を行う前には、溶液の温度を約190℃程度に上昇させて、水と共沸可能な芳香族炭化水素を除去しておくことが好ましい。
【0075】
主鎖にシロキサン構造を有するポリアミドイミドは、上述のようにして得られたジイミドジカルボン酸混合物に対して、上記一般式(3)で表される芳香族ジイソシアネートを反応させることにより合成することができる。このような芳香族ジイソシアネートとしては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、2,4−トリレンダイマー等が例示できる。
【0076】
このようにして得られるポリアミドイミドとしては、下記一般式(9a)で表される繰り返し単位、及び、下記一般式(9b)で表される繰り返し単位を有するものが例示できる。これらの繰り返し単位は、ブロック的に結合していてもよく、ランダム的に結合していても構わない。なお、式中のR、R21、R22、R及びnは、上記と同義である。
【化7】

【0077】
ジイミドジカルボン酸混合物と芳香族ジイソシアネートとの反応は、例えば上述したように芳香族炭化水素を除去するためにジイミドジカルボン酸を含む溶液を加熱した場合などには、反応後の溶液を一旦室温まで冷却してから行うことが好ましい。こうして冷却された溶液に芳香族ジイソシアネートを加えた後、温度を約190℃程度に上昇させ、2時間程度反応させることによってポリアミドイミドを得ることができる。
【0078】
かかる反応においては、ジイミドジカルボン酸混合物の合計モル量に対する芳香族ジイソシアネートの添加量は1.0〜1.5倍モル量とすることが好ましく、1.1〜1.3倍モル量とすることがより好ましい。芳香族ジイソシアネートの添加量が1.0倍モル量未満であると、樹脂プライマからなる樹脂層の可撓性が低下する傾向があり、また1.5倍モル量を超えても、同様に樹脂層の可撓性が低下する傾向がある。
【0079】
また、第1の樹脂に含有させる反応性化合物としては、上述したポリアミドイミドのアミド基と反応を生じる官能基を備えた熱硬化性樹脂が例示できる。この反応性化合物は、分子中にアミド基及び/又はケイ素原子を有するものであってもよい。
【0080】
このような熱硬化性樹脂としては、多官能エポキシ化合物、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアジン−ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。なかでも、多官能エポキシ化合物が好ましい。反応性化合物として多官能エポキシ化合物を用いると、これらを含む樹脂プライマにより形成される樹脂層は、導体箔との接着性が向上するほか、耐熱性、機械的特性及び電気的特性も優れるようになる。このような多官能エポキシ化合物としては2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が好ましく、3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物がより好ましい。
【0081】
2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ樹脂;1,4−ブタンジオール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させてなるエポキシ樹脂;フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとを反応させてなるポリグリシジルエステル;アミン、アミド又は複素環式窒素塩基を有する化合物のN−グリシジル誘導体;脂環式エポキシ樹脂等が例示できる。
【0082】
また、3個以上のグリシジル基を有する多官能エポキシ化合物としては、ZX−1548−2(東都化成社製)、DER−331L(ダウケミカル社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、YDCN−195(東都化成社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)等が商業的に入手可能であり、好適に用いることができる。
【0083】
ポリアミドイミドを含む樹脂中における、上述した反応性化合物の配合量は、当該化合物が有している、アミド基と反応を生じる官能基の数に応じて決定することが好ましい。すなわち、ポリアミドイミド100重量部に対する反応性化合物の重量部Bは、ポリアミドイミド中のアミド基の含有量をPa重量%、反応性化合物中のアミド基の含有量をEa重量%、ポリアミドイミド中のケイ素原子の含有量をPc重量%、反応性化合物中のケイ素原子の含有量をEc重量%としたときに、上記の式(I)及び(II)を満たすように決定する。
【0084】
このように、樹脂中に、反応性化合物として多官能エポキシ化合物を含有させる場合には、当該多官能エポキシ化合物の硬化剤や硬化促進剤を更に加えることが好ましい。硬化剤及び硬化促進剤としては、公知のものを適用できる。例えば、硬化剤としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、グアニル尿素等のアミン類;イミダゾール類;ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及びこれらのハロゲン化物、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等の多官能フェノール類;無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、メチルハイミック酸等の酸無水物類等が挙げられる。また、硬化促進剤としては、アルキル基置換イミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。
【0085】
硬化剤の配合量は、多官能エポキシ化合物におけるエポキシ当量に応じて決定することができる。例えば、硬化剤としてアミン化合物を添加する場合、その配合量は、アミンの活性水素の当量と、多官能エポキシ化合物のエポキシ当量が等しくなるように配合することが好ましい。また、硬化剤が多官能フェノール類又は酸無水物類である場合、その配合量は、多官能エポキシ化合物1当量に対して、フェノール性水酸基又はカルボキシル基が0.6〜1.2当量となるようにすることが好ましい。さらに、硬化促進剤の配合量は、多官能エポキシ化合物100重量部に対して、0.001〜10重量部とすることが好ましい。
【0086】
これらの硬化剤又は硬化促進剤の配合量が上記範囲より少ないと、多官能エポキシ化合物の硬化が不充分となって、樹脂を含む樹脂プライマにより得られる樹脂層のガラス転移温度が低下する傾向にある。一方、上記範囲よりも多いと、残存の硬化剤又は硬化促進剤によって、樹脂プライマにより得られる樹脂層の電気的特性が低下する傾向にある。
【0087】
なお、ポリアミドイミドを含む樹脂は、上述したポリアミドイミド、反応性化合物、硬化剤等に加え、充填剤、カップリング剤、難燃剤等をその他の成分として更に含有していてもよい。
(第2の樹脂)
【0088】
次に、第2の樹脂について説明する。第2の樹脂は、ポリアミドイミドとして、飽和炭化水素からなる構造単位を有するものを含有している。このような構造単位としては、シクロアルキレン基を有するものが好ましく、シクロへキシレン基を一つ又は二つ有するものがより好ましく、上記化学式(5)で表されるものがさらに好ましい。このようなポリアミドイミドを含む樹脂プライマによれば、導体箔との接着性に優れるのみならず、Tgが高く、耐湿性及び耐熱性に優れる樹脂層を形成することができる。
【0089】
第2の樹脂に含まれるポリアミドイミドとしては、2つのアミノ基の間に上述したような構造単位を有するジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートとを反応させて得られるものが好ましい。
【0090】
このようなジアミン化合物としては、上記一般式(6a)、(6b)又は(6c)で表される化合物が好ましい。具体的には、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]プロパン、ビス[4−(3−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]メタン、4,4´−ビス[4−アミノシクロヘキシルオキシ]ジシクロヘキシル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]エーテル、ビス[4−(4−アミノシクロヘキシルオキシ)シクロヘキシル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノシクロヘキシルオキシ)ベンゼン、2,2−ジメチルジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、2,6,2´,6´−テトラメチル−4,4´−ジアミン、5,5´−ジメチル−2,2´−スルホニル−ジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、3,3´−ジヒドロキシジシクロヘキシル−4,4´−ジアミン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルスルホン、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルケトン、(3,3´−ジアミノ)ジシクロヘキシルエーテル、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン等が例示できる。なかでも、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタンが好ましい。これらのジアミン化合物は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0091】
第2の樹脂におけるポリアミドイミドは、ジアミン化合物として、上述したものに加え、更に上記一般式(8)で表されるジアミン化合物を用いて得られたものであるとより好ましい。上記一般式(8)で表される化合物において、R82及びR83としては、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基が好ましい。この置換フェニル基における置換基としては、炭素数1〜3のアルキル基やハロゲン原子が挙げられる。
【0092】
特に、上記一般式(8)で表される化合物としては、R81で表される基がエーテル基であるものが好ましい。かかるジアミン化合物を含有させることによって、ポリアミドイミド、ひいてはこれを含む樹脂プライマが、低弾性率及び高Tgの特性を有するようになる。このようなジアミン化合物としては、ジェファーミンD−400、ジェファーミンD−2000(以上、サンテクノケミカル社製)等が、商業的に入手可能であり、好適である。
【0093】
第2の樹脂におけるポリアミドイミドは、ジアミン化合物として、上述したものに加え、更に芳香族ジアミンやシロキサンジアミン等を含有させて得られたものであってもよい。この場合、芳香族ジアミン及びシロキサンジアミンは、特に制限されないが、例えば上述した第1の樹脂におけるポリアミドイミドの合成に用いたものが例示できる。芳香族ジアミンの添加により、ポリアミドイミド、ひいては樹脂プライマを高Tg化して耐熱性を高めることが可能となる。また、シロキサンジアミンの添加により、樹脂プライマの低弾性率化が可能となる。
【0094】
第2の樹脂におけるポリアミドイミドは、例えば、以下に示すようにして合成することができる。すなわち、まず、上述したジアミン化合物と無水トリメリット酸とを、非プロトン性溶媒中、70〜100℃で反応させる。ここで、非プロトン性溶媒としては、上記第1の樹脂におけるポリアミドイミド合成に用いたのと同様のものが挙げられ、NMPが好ましい。
【0095】
ここで、非プロトン性極性溶媒の含有量は、溶液の全重量に対して、固形分重量が10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%となる量とすることが好ましい。溶液中の固形分が70重量%を超える場合、固形分の溶解性が低下して反応が不十分となる傾向にある。一方、10重量%未満である場合、溶媒使用量が多くなりすぎ、コスト的に不利となる。
【0096】
上記反応後、得られた溶液中に、上記第1の樹脂のポリアミドイミド合成と同様に、水と共沸可能な芳香族炭化水素を加えて150〜200℃に加熱し、これにより脱水閉環反応を生じさせてジイミドジカルボン酸を得る。この際、水の流出と同時に芳香族炭化水素が留出して所望の量から不足する場合があるため、例えば、留出した液体から水を除去して、再び反応溶液に戻す等して、溶液中の芳香族炭化水素の濃度を一定に保つようにするとよい。なお、脱水閉環反応の終了後には、溶液を加熱する等して芳香族炭化水素を留去することが好ましい。
【0097】
こうして得られるジイミドジカルボン酸としては、下記一般式(10a)で表されるものが挙げられ、上記一般式(8)で表されるジアミン化合物を併用した場合、下記一般式(10b)で表されるものも併せて生成する。なお、下記式中、R10は、上記一般式(6a)、(6b)又は(6c)で表される化合物からアミノ基を除いてなる2価の基を示し、R81、R82、R83及びmは上記と同義である。
【化8】

【0098】
そして、ポリアミドイミドは、上述のようにして得られたジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートとを反応させることによって得ることができる。このようにしてポリアミドイミドを合成する場合、ジアミン化合物、無水トリメリット酸及びジイソシアネートの配合量は、ジアミン化合物:無水トリメリット酸:ジイソシアネートが、モル比で、1:2〜2.2:1〜1.5となるようにすることが好ましく、1:2〜2.2:1〜1.3となるようにすることが好ましい。こうすれば、ジイミドジカルボン酸、さらにポリアミドイミドの合成反応が効率良く生じるようになり、より高分子量であり、フィルム形成性に優れるポリアミドイミドを得ることが可能となる。
【0099】
ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートの両方を適用できる。例えば、下記一般式(11)で表されるものが好適である。下記式中、R11としては、−Ph−CH−Ph−で表される基、トリレン基、ナフチレン基、ヘキサメチレン基又はイソホロン基が挙げられる。
【化9】

【0100】
芳香族ジイソシアネートとしては、上述した第1の樹脂におけるポリアミドイミド合成に用いたのと同様のものが好適であり、なかでも、MDIが好ましい。MDIを含有させることにより、樹脂プライマのフィルム形成性が向上するほか、かかるプライマからなる樹脂層の可撓性が向上するようになる。また、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が例示できる。
【0101】
ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートのいずれか一方を単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよいが、少なくとも芳香族ジイソシアネートを含んでいると好ましく、両者を併用することがより好ましい。
【0102】
両者を併用する場合、これらの配合比は、芳香族ジイソシアネートに対して、脂肪族ジイソシアネートの含有量が5〜10モル%程度となるようにすると好ましい。このように芳香族ジイソシアネートと脂肪族ジイソシアネートとを併用することによって、ポリアミドイミド、ひいては樹脂プライマの耐熱性を更に向上させることができるようになる。
【0103】
ジイミドジカルボン酸とこれらのジイソシアネートとの反応は、上記反応後のジイミドジカルボン酸を含む溶液中に、ジイソシアネートを添加するようにして行うことが好ましく、その反応温度は、130〜200℃とすることが好ましい。
【0104】
かかる反応は、塩基性触媒の存在下で行うとより好ましく、この場合、反応温度は、70〜180℃、好ましくは120〜150℃とすることができる。これにより、例えば、ジイソシアネート同士による反応等の副反応を抑制でき、より高分子量のポリアミドイミドが得られるようになる。
【0105】
塩基性触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリ(2−エチルヘキシル)アミン、トリオクチルアミン等のトリアルキルアミンが挙げられる。なかでも、トリエチルアミンは、反応を好適に促進でき、反応後の除去も容易であるため好ましい。
【0106】
こうして得られたポリアミドイミドは、例えば、分子中に下記一般式(12a)で表される繰り返し単位を有するものとなり、好適な場合、下記一般式(12b)で表される繰り返し単位を併せて有するものとなる。なお、下記式中、R10、R11、R81、R82、R83及びmは、上記と同義である。
【化10】

【0107】
このようして得られる第2の樹脂におけるポリアミドイミドとしては、その重量平均分子量が、20,000〜300,000であるものが好ましく、30,000〜200,000〜であるものがより好ましく、40,000〜150,000であるものが更に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算して得られた値である。
【0108】
第2の樹脂も、上記第1の樹脂と同様に、ポリアミドイミドに加え、このポリアミドイミドにおけるアミド基と反応性を有する官能基を含む反応性化合物を更に含有するものであると好ましい。このような反応性化合物としては、上述した第1の樹脂に好適なものを適用でき、その配合量は、樹脂プライマの総量に対して5〜25重量%とすることが好ましい。
【0109】
反応性化合物の配合量が5重量%未満であると、第2の樹脂を含む樹脂プライマのフィルム形成性が低下する場合がある。一方、25重量%を超えると、樹脂プライマからなる樹脂層が脆くなるほか、導体箔との接着性が低下する傾向にある。なお、このように反応性化合物を含有させる場合には、上記第1の樹脂におけるのと同様の硬化剤及び/又は硬化促進剤を更に含有させるとより好ましい。
【0110】
なお、第2の樹脂中には、その他の成分として、充填剤、カップリング剤、難燃剤等を含有していてもよい。
(その他の樹脂)
【0111】
実施形態の樹脂プライマに含有させる樹脂としては、上記第1又は第2の樹脂以外に、以下に示すその他の樹脂も適用できる。その他の樹脂としては、まず、構造中にヒドロキシル基を有する樹脂とイソシアネート類を反応させて得られるカルバミン酸エステルが挙げられる。ここで、イソシアネート類としては、フェニルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フルオロフェニルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、ブロモフェニルイソシアネートなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0112】
また、その他の樹脂としては、構造中にヒドロキシル基を有する樹脂と芳香族カルボン酸またはその誘導体とを反応させることによって得られる芳香族カルボン酸エステルも挙げられる。この反応としては、例えば、鉱酸を触媒とした芳香族カルボン酸とヒドロキシル基との直接エステル化が例示できる。
【0113】
芳香族カルボン酸誘導体としては、安息香酸クロライド、安息香酸ブロマイド、メチル安息香酸クロライド、メチル安息香酸ブロマイド、エチル安息香酸クロライド、エチル安息香酸ブロマイド、プロピル安息香酸クロライド、プロピル安息香酸ブロマイド、ブチル安息香酸クロライド、ブチル安息香酸ブロマイドなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0114】
芳香族カルボン酸エステルの合成において、芳香族ジカルボン酸エステル結合を形成する方法としては、上記以外にヒドロキシル基のトシル(パラトルエンスルホン)化を経由する方法も挙げられる。例えば、ヒドロキシル基とトシルクロライド(塩化パラトルエンスルホニル)を反応させて、構造中にトシル基(パラトルエンスルホン酸イオン)を付与させることができる。このトシル基は優れた脱離基であり、カルボン酸イオンと容易に入れ替わることができる。
(その他成分)
【0115】
このように、実施形態に係る樹脂プライマは、上述した各種の樹脂を含むものであるが、これらの樹脂に加えて、他の成分を更に含有するものであってもよい。かかる他の成分としては、まず、ゴム成分が挙げられる。樹脂プライマがゴム成分を更に含有していると、樹脂プライマからなる樹脂層の金属箔に対する接着性が更に向上するようになる。
【0116】
ここで「ゴム成分」とは、ゴム状弾性を有する高分子のことをいうものとする。ゴム成分としては、例えば、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このゴムは、樹脂中に40質量%以上含有されると、より好ましい。
【0117】
また、その他の成分としては、ゴム成分のほかに、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアリレートなどといったエンジニアリングプラスチックなどが含有されてもよい。これらのものが添加された樹脂は、さらに大きな破断エネルギーを有するようになり、これより得られる樹脂層は、金属箔に対する更に強力な接着性を有するものとなる。
[樹脂付き導体箔]
【0118】
次に、好適な実施形態に係る樹脂付き導体箔について説明する。樹脂付き導体箔は、導体箔に、上記樹脂プライマが塗布されてなるものである。図3は、実施形態に係る樹脂付き導体箔の断面構造を模式的に示す図である。図示された樹脂付き導体箔10は、導体箔12と、この上に形成された、上述した実施形態の樹脂プライマからなる樹脂層14とを備えている。
【0119】
ここで、導体箔12としては、少なくとも樹脂プライマが塗布される側の表面の十点平均粗さ(Rz)が3μm以下であるものが好ましく、2μm以下であるものがより好ましい。
【0120】
なお、導体箔12表面のRzは、樹脂膜表面の「十点平均粗さ」と同様のものであり、JIS B0601−1994に準じた測定法を用いて導出され、例えば市販の触針式表面粗さ測定器等を用いて測定することができる。
【0121】
導体中を流れる電流付近には磁力線が発生するが、導体の中心部ほど磁力線の干渉が大きいため、電流は周辺とコーナーに集中する。これを表皮効果と呼び、周波数が高いほどこの傾向は強まる。これに対し、上述した導体箔12から得られる導体回路は、そのRzが3μm以下と十分円滑であるので、上記表皮効果による抵抗の増加を抑えられると考えられ、高周波信号の伝送に有利と考えられる。
【0122】
導体箔12としては、上述のような特性を有していれば、特に限定されることなく用いられるが、良導性の観点から金属箔であると好ましく、銅箔であるとさらに好ましい。銅箔としては、電解銅箔や圧延銅箔等を用いることができ、表面に粗化処理等により凹凸が形成されていないものが好ましい。
【0123】
通常の電解銅箔の光沢面は、これらの条件を満たしており、このような銅箔を用いる場合、その光沢面をそのまま樹脂プライマの塗布面とすることができる。このような条件を満たす銅箔としては、F0−WS(Rz=1.2)、F1−WS、F2−WS(Rz=3.0)、GTS、GTS−MP、GTS−FLP、GY、GY−MP、TSTO、DT−GL、DT−GLD(以上、古河サーキットフォイル社製)、3EC−VLP(三井金属社製、Rz=3.0)、SLP、YGP(日本電解社製)等が挙げられる。これらの市販の銅箔の光沢面は、1.5〜2.0μmのRzを有しており、特に表面粗さの小さい銅箔としては、F0−WS(古河サーキットフォイル社製、Rz=1.2μm)が商業的に入手可能である。これらの銅箔の厚さは9〜18μm程度が好ましい。
【0124】
また、キャリア銅箔の表面に離型処理を施し、この上に極薄の銅箔を積層したピーラブル銅箔も使用可能であり、この場合の銅箔としては、3μmや5μmの厚みのものを用いることができる。このような銅箔としては、例えば、MTS(三井金属社製)、NAP(日本電解社製)、FCF(古河サーキットフォイル社製)等が商業的に入手可能である。
【0125】
また、銅箔は、必要に応じて適当な厚みを有するものを用いることができる。市販の銅箔は約10〜150μmの範囲の厚みを有するが、回路基板用途としては18μm及び35μmの厚みを有する銅箔が一般に用いられる。しかしながら、より微細な回路パターンを形成する観点から、本発明においては12μm或いは9μmの厚みを有するものなど、比較的薄膜の銅箔を用いることがより好ましい。
【0126】
銅箔以外の金属箔としては、厚さ5〜200μmのアルミニウム箔、厚さ0.5〜15μmの銅箔層と厚さ10〜300μmの銅箔層の間に、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等からなる中間層を設けた3層構造の複合箔や、アルミニウムと銅箔を複合した2層構造の複合箔等が挙げられる。これらの金属箔も、その表面粗さが上述の条件を満たしていることが好ましい。
【0127】
これらの導体箔12上への樹脂プライマの塗布は、公知の方法により実施することができ、例えば、コンマコータ、ディップコータ、キスコータや自然流延塗布等による方法が挙げられる。かかる塗布は、樹脂プライマを有機溶媒等に溶解又は分散させて、樹脂プライマの濃度が0.1〜10%、好ましくは2〜6%であるワニスとした状態で行うことが好ましい。
【0128】
ワニスに用いる有機溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、シクロヘキサノン等が挙げられる。なお、樹脂プライマをワニスの状態で塗布した場合、塗布後、樹脂プライマの硬化が生じない程度に加熱等することにより有機溶媒を揮発しておくことが望ましい。
(導体張積層板)
【0129】
図4は、実施形態に係る導体張積層板(積層体)の断面構造を模式的に示す図である。導体張積層板20は、絶縁体層26、接着層24及び導体箔22をこの順に備える構造を有している。
【0130】
絶縁体層26としては、導体張積層板に通常用いられるものであれば、特に制限なく適用できる。すなわち、絶縁体層26としては、強化繊維を備えていないBステージ状態の硬化性樹脂からなるプリプレグや、強化繊維を備えたBステージ状態の硬化性樹脂からなるプリプレグからなるものが挙げられる。なかでも、強化繊維を備えたBステージ状態の硬化性樹脂からなるプリプレグからなるものであると好ましい。
【0131】
前者の強化繊維を備えていないBステージ状態の硬化性樹脂からなるプリプレグは、硬化性樹脂をフィルム状に成形した後に半硬化状態(Bステージ)にすることにより得ることができる。また、後者の強化繊維を備えたBステージ状態の硬化性樹脂からなるプリプレグは、強化繊維に硬化性樹脂を含浸させた後、その含浸させた樹脂を半硬化状態(Bステージ)にすることにより得ることができる。
【0132】
硬化性樹脂は、樹脂プライマを構成する樹脂と同一であってもよく、異なっていてもよい。硬化性樹脂としては、具体的には、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等が好ましい。
【0133】
また、強化繊維としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等からなるガラス繊維、ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン等からなる有機繊維、及びこれらを混合した繊維を例示することができる。これらの繊維は、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等の形状を有する強化繊維として用いることができる。
【0134】
強化繊維を備えたプリプレグにおける硬化性樹脂と強化繊維との配合比は、質量比で、硬化性樹脂/強化繊維=20/80〜80/20であることが好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。
【0135】
このようなプリプレグとしては、市販されているプリプレグを用いることもできる。例えば、エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂をガラス繊維織布であるガラスクロスに含浸させたプリプレグ(GEA−67、GEA−679、GEA−679F;日立化成工業株式会社製)、低誘電率の樹脂を含浸した高周波対応プリプレグ(GEA−LX−67;日立化成工業株式会社製)、ポリイミドに熱硬化成分を配合した樹脂をガラスクロスに含浸させたプリプレグ(GEA−I−671;日立化成工業株式会社製)が挙げられる。なお、絶縁体層26は、これらのプリプレグを一層のみ用いたものであってもよく、複数枚重ねて得られたものであってもよい。
【0136】
接着層24は、上記本発明の樹脂プライマからなる層である。具体的には、上記樹脂プライマを乾燥させて形成された層であると好ましい。また、導体箔22としては、上述した樹脂付き導体箔10において用いられるものを好ましく適用でき、接着層24との接着面のRzが3μm以下であるものがより好ましい。
【0137】
このような導体張積層板20は、以下に示すようにして製造することができる。すなわち、まず、上述したプリプレグを単層又は複数層重ねた後、これに、上述した樹脂付き導体箔10を、その樹脂層14が接するように積層して積層体を得る。この場合、樹脂付き導体箔10における樹脂層14の厚みは、プリント配線板、ひいてはそのプリント配線板が備えられる機器の薄型化及び乾燥時間の短縮化の観点から、導体箔表面の凸部を基準として、5μm以下であると好ましく、4μm以下であるとより好ましく、3μm以下であると特に好ましい。
【0138】
その後、この積層体を、所定の条件で加熱及び/又は加圧して導体張積層板20を得る。これにより、プリプレグにおける樹脂及び樹脂付き導体箔10における樹脂層14が硬化して、それぞれ絶縁体層26及び接着層24となる。加熱は、160〜250℃の温度で実施することが好ましく、加圧は、0.1〜8.0MPaの圧力、特に真空下で実施することが好ましい。加熱及び加圧は真空プレス等を用いて同時に行うことが好ましい。この場合、これらの処理を10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上実施することで、導体箔22と絶縁体層26(プリプレグ)との接着性に優れた導体張積層板20を製造することができる。
【0139】
なお、本発明の導体張積層板は、絶縁層の両面に接着層を介して導体箔を備えるものであってもよい。このような導体張積層板は、プリプレグ又はその積層体の両面に、上述した樹脂付き導体箔を積層するようにして製造することができる。
【0140】
このような構成を有する導体張積層板においては、導体箔が、本発明の樹脂プライマの硬化物からなる接着層を介してプリプレグの硬化物(絶縁体層)に接着されており、また硬化により絶縁層と接着層の硬化物が一体化された状態となっている。このため、導体張積層板における導体箔は、絶縁層と強固に接着されている。
【0141】
よって、この導体張積層板を用いて微細な回路パターンを有するプリント配線板を形成させた場合であっても、強固に接着された導体箔から形成される回路パターンは、基材から剥離することが極めて少ないものとなる。また、接着層の硬化物は、上述したような樹脂を含む樹脂プライマから形成されるものであるため高い耐熱性も有している。このため、かかる接着層は、導体張積層板がめっき等において高温に晒された場合であってもふくれ等を生じることが極めて少ない。
【実施例】
【0142】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<樹脂プライマの調製>
(実施例1〜3)
【0143】
表1に示した各原料を配合し、撹拌することにより溶解して、実施例1〜3の樹脂プライマを得た。なお、表1中、ビスフェノールA型エポキシ樹脂として、DER−331L(エポキシ当量=184、ダウケミカル社製、商品名)を用い、ノボラック型フェノール樹脂として、HP−850N(ヒドロキシル基当量=106、日立化成工業株式会社製、商品名)を用い、アクリルゴムとして、W−248DR(新中村化学工業株式会社製、商品名)を用いた。
【表1】


(実施例4)
【0144】
還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた1リットルセパラブルフラスコにフェノキシ樹脂(YP−50、ヒドロキシル基当量=284、東都化成株式会社製、商品名)100g及びシクロヘキサノン330gを入れ、加熱撹拌して溶解させた。次いで、フェニルイソシアネート41.9g、トリエチルアミン0.3gを添加し130℃で3時間反応させた。続いて、エタノール中で再沈後、乾燥させて、フェニルカルバメートが付加したフェノキシ樹脂を得た。そして、この樹脂を濃度が30質量%になるようにジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させることにより、実施例4の樹脂プライマを得た。
(実施例5)
【0145】
市販の接着シートAS−3000E(日立化成工業社製)を、その濃度が30質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)に溶解することにより実施例5の樹脂プライマを得た。
(比較例1〜3)
【0146】
表2に示した各原料を配合し、撹拌することにより溶解して、樹脂プライマを得た。なお、表2中、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂及びアクリルゴムとして、実施例1〜3において用いたものと同じものを採用した。
【表2】


(比較例4)
【0147】
ポリスルホン樹脂(コーデルP−1700、アモコ社製、商品名)をその濃度が30質量%になるようにDMFに溶解させることにより樹脂プライマを得た。
(比較例5)
【0148】
ポリエーテルスルホン樹脂(5003P、住友化学工業株式会社製、商品名)をその濃度が30質量%になるようにDMFに溶解させ樹脂プライマを得た。
<破断エネルギーの測定>
【0149】
破断エネルギーの測定はオートグラフAG−100C(島津製作所社製、商品名)を用いて行った。
【0150】
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた樹脂プライマについては、まず、樹脂プライマを、銅箔(GTS−18、古河サーキットフォイル社製、商品名)の光沢面(Rz=2μm)上に、乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し、120℃に熱した温風循環型乾燥機中で10分間乾燥した。次いで銅箔に備えられた接着層の、まだ銅箔と接着していない側の面に、もう1枚の銅箔を光沢面と向かい合うようにして積層し、その銅箔の接着層と接していない側から、170℃、3.0MPaの条件下で1時間プレスを行った。続いて、両面の銅箔をエッチングで除去した。これにより、実施例1〜3及び比較例1〜3にかかる破断エネルギー測定用の試験片(樹脂フィルム)を得た。
【0151】
実施例4及び比較例4,5の樹脂プライマについては、まず、樹脂プライマを、キャリアフィルム上に乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し、120℃に熱した温風循環型乾燥機中で10分間乾燥することによって破断エネルギー測定用の試験片(樹脂フィルム)を得た。
【0152】
また、実施例5のプライマについては、接着シートAS−3000Eを硬化させることによって破断エネルギー測定用の試験片(樹脂フィルム)を得た。
【0153】
次いで、二つのつかみ具を、長さ方向に60mmの距離をおいて、上記各試験片を挟んで配置した。そして、二つのつかみ具を、この試験片の長さ方向に5mm/分の速度で、互いに離れるように移動させ、この試験片を引っ張った。この際、歪みと引っ張り応力値を上記装置により測定した。そしてフィルムが破断した時点でこの引っ張りを終了した。得られた応力−歪み曲線中の、試験片が破断するまでの引張り応力の積分値を破断エネルギーとして求めた。結果を表3に示す。
【表3】


<ホルムアミド接触角の測定>
【0154】
ホルムアミドの接触角測定は協和界面科学社製の接触角測定器CA−DTを用いて以下のようにして行った。実施例1〜3及び比較例1〜3の樹脂プライマについては、この樹脂プライマを銅箔(GTS−18、古河サーキットフォイル株式会社製、商品名)の光沢面(Rz=2μm)上に塗布し、120℃に熱した温風循環型乾燥機中で10分間乾燥した後、170℃の環境下で1時間硬化させて得られた樹脂フィルムの表面におけるホルムアミドの接触角を測定した。
【0155】
実施例4及び比較例4,5のプライマについては、このプライマをキャリアフィルム上に塗布し、120℃に加熱した温風循環型乾燥機中で10分間乾燥することにより得られた樹脂フィルムの表面におけるホルムアミドの接触角を測定した。
【0156】
また、実施例5のプライマについては、接着シートAS−3000Eを硬化させることにより得られた樹脂フィルムの表面におけるホルムアミドの接触角を測定した。結果を表3に示す。
<銅箔引き剥がし強さの測定>
【0157】
一般に配線板分野では、樹脂と金属箔との間の接着性評価に銅箔引き剥がし強さを測定するピール試験が用いられている。そこで、本発明の導体張積層板におけるプライマから得られる樹脂と導体箔との間の接着性を評価するために、銅箔引き剥がし強さを以下のようにして測定した。
【0158】
まず、上述のようにして得られた実施例1〜4及び比較例1〜5のプライマを銅箔(GTS−18)の光沢面(Rz=2μm)上に乾燥後の膜厚が5μmになるように塗布し、120℃に熱した温風循環型乾燥機中で、10分間乾燥させることにより樹脂付銅箔を作製した。次いで、低誘電率プリプレグ(GEA−LX−67、日立化成工業株式会社製、商品名)を5層積層し、その両側に、上記樹脂付銅箔を、樹脂(接着層)とプリプレグが向かい合うようにして重ね、230℃、3.0MPaの条件下で90分間プレスを行うことにより両面銅張積層板を得た。
【0159】
また、実施例5のプライマについては、まず、AS−3000Eをその濃度が30重量%になるようにメチルエチルケトン(MEK)に溶解させ、得られた樹脂溶液をキャリアフィルム上に乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し、120℃に熱した温風循環型乾燥機中で10分間乾燥することにより樹脂付銅箔を作製した。次いで、低誘電率プリプレグ(GEA−LX−67、日立化成工業株式会社製、商品名)を5層積層し、その両側に、上記樹脂付銅箔を、樹脂(接着層)とプリプレグが向かい合うようにして重ね、230℃、3.0MPaの条件下で90分間プレスを行うことにより両面銅張積層板を得た。
【0160】
さらに、比較例6として、低誘電率プリプレグ(GEA−LX−67)を5層積層し、その両側に、銅箔(GTS−18)を光沢面(Rz=2μm)とプリプレグが向かい合うようにして重ね、230℃、3.0MPaの条件下で90分間プレスを行うことにより両面銅張積層板を得た。
【0161】
そして、各両面銅張積層板上の1cm幅の銅箔を、5cm/分の速度で引き剥がすことによって銅箔引き剥がし強さを測定した。結果を表3に示す。
<銅箔/樹脂界面の剥離強度測定>
【0162】
プライマから得られる樹脂と導体箔との間の接着界面が平滑になればなるほど接着面積は減少するため、プライマを構成する樹脂物性のみならず、その樹脂と導体箔との間に働く化学的な相互作用が重要になってくる。そこで、樹脂物性による影響を取り除いて、化学的な相互作用にかかる接着性を評価するために、金属箔から樹脂を削り取ることによって接着力を測定する切削法を用いて、導体箔と樹脂からなる接着層との界面における剥離強度を測定した。
【0163】
まず、銅箔引き剥がし強さの測定のために用いた実施例1〜5及び比較例1〜5にかかる樹脂付銅箔とおなじものを、樹脂からなる接着層が上になるようにして支持基板に固定し、これを測定用サンプルとした。この樹脂付銅箔の銅箔/樹脂界面の剥離強度を、ダイプラ・ウィンテス株式会社製サイカスCN−100型を用いて測定した。
【0164】
具体的には、水平速度10μm/秒、垂直速度0.5μm/秒の速度で、接着層に幅2mmの刃を切り込み、その刃が接着層と銅箔との界面に達した時点で刃の進行方向を水平移動のみにすることによって、銅箔/樹脂界面の剥離強度を測定した。結果を表3に示す。
【0165】
破断エネルギーが0.15J以上である実施例1〜3及び5にかかるものは、十点平均粗さが2μmと平滑な銅箔を用いても、0.9kN/m以上の銅箔引き剥がし強さが得られた。ホルムアミド接触角が60°以下である実施例4,5にかかるものは、十点平均粗さが2μmと平滑な銅箔を用いても、その銅箔と樹脂との間の界面における剥離強度は0.9kN/mであった。
【0166】
一方、破断エネルギーが0.15J未満であり、ホルムアミド接触角が60°を超える比較例1〜5にかかるものは、銅箔引き剥がし強さが0.5kN/m以下であり、銅箔/樹脂界面の剥離強度は0.3kN/m以下となり、共に低い値を示した。さらに、銅箔とプリプレグを直接積層した比較例6は、その銅箔引き剥がし強さが0.1kN/mであり、実施例1〜5と比べて低い値を示した。
<ポリアミドイミドの合成>
(合成例1)
【0167】
還流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、芳香族ジアミンとして2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)57.5g(0.14mol)、シロキサンジアミンとして反応性シリコーンオイルKF8010(信越化学工業社製、アミン当量421)50.5g(0.06mol)、無水トリメリット酸(TMA)80.7g(0.42mol)、非プロトン性極性溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)580gを仕込み、80℃で30分間攪拌した。
【0168】
攪拌終了後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを加え、温度を160℃に上昇させて2時間還流させた。水分定量受器に水が約7.2mL以上たまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上昇させて、トルエンを除去した。
【0169】
フラスコの溶液を室温まで戻した後、芳香族イソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイイソシアネート(MDI)60.1g(0.24mol)を加え、温度を190℃に上昇させて2時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷却して、アミド基含有量8.05重量%、ケイ素原子含有量8.68重量%のポリアミドイミドのNMP溶液を得た。
(合成例2)
【0170】
還流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、芳香族ジアミンとしてBAPPの41.1g(0.10mol)、シロキサンジアミンとして反応性シリコーンオイルKF8010の84.2g(0.10mol)、TMAの80.7g(0.42mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMPの494gを仕込み、80℃で30分間攪拌した。
【0171】
攪拌終了後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを加え、温度を160℃に上昇させて2時間還流させた。水分定量受器に水が約7.2mL以上たまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上昇させて、トルエンを除去した。
【0172】
フラスコの溶液を室温まで戻した後、芳香族イソシアネートとしてMDIの60.1g(0.24mol)を加え、温度を190℃に上昇させて2時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷却して、アミド基含有量7.38重量%、ケイ素原子含有量13.26重量%のポリアミドイミドのNMP溶液を得た。
(合成例3)
【0173】
還流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、芳香族ジアミンとしてBAPPの41.05g(0.10mol)、シロキサンジアミンとしてジメチルフェニル型反応性シリコーンオイルX−22−9409(信越化学工業社製、アミン当量679)135.8g(0.10mol)、TMAの80.7g(0.42mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMPの590gを仕込み、80℃で30分間攪拌した。
【0174】
攪拌終了後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを加え、温度を160℃に上昇させて2時間還流させた。水分定量受器に水が約7.2mL以上たまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上昇させて、トルエンを除去した。
【0175】
フラスコの溶液を室温まで戻した後、芳香族イソシアネートとしてMDIの60.1g(0.24mol)を加え、温度を190℃に上昇させて2時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷却して、アミド基含有量6.12重量%、ケイ素原子含有量10.99重量%のポリアミドイミドのNMP溶液を得た。
(比較合成例1)
【0176】
還流冷却器を連結したコック付き25mLの水分定量受器、温度計、攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、シロキサンジアミンとしてジメチルフェニル型反応性シリコーンオイルX−22−161A(信越化学工業社製、アミン当量805)161.0g(0.10mol)、TMAの40.34g(0.21mol)、非プロトン性極性溶媒としてNMPの430gを仕込み、80℃で30分間攪拌した。
【0177】
攪拌終了後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン100mLを加え、温度を160℃に上昇させて2時間還流させた。水分定量受器に水が約3.6mL以上たまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上昇させて、トルエンを除去した。
【0178】
フラスコの溶液を室温まで戻した後、芳香族イソシアネートとしてMDIの30.1g(0.12mol)を加え、さらにトリエチルアミン1.0gを投入して、温度を110℃に上昇させて4時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷却して、アミド基含有量4.07重量%、ケイ素原子含有量27.96重量%のポリアミドイミドのNMP溶液を得た。
<樹脂プライマの調製>
(実施例6)
【0179】
合成例1で得られたポリアミドイミドのNMP溶液63.3g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるDER331L(ダウ・ケミカル社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)2.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾールの0.02gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量7.65重量%、ケイ素原子含有量8.25重量%の樹脂プライマを得た。
(実施例7)
【0180】
合成例2で得られたポリアミドイミドのNMP溶液63.3g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるDER331Lの2.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾールの0.02gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量7.38重量%、ケイ素原子含有量12.56重量%の樹脂プライマを得た。
(実施例8)
【0181】
合成例3で得られたポリアミドイミドのNMP溶液60.0g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるYDCN500−10(東都化成社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)4.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.04gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量5.81重量%、ケイ素原子含有量10.44重量%の樹脂プライマを得た。
(実施例9)
【0182】
合成例1で得られたポリアミドイミドのNMP溶液63.3g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるNC3000H(日本化薬社製、ザイロック型エポキシ樹脂)2.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾールの0.02gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量7.25重量%、ケイ素原子含有量7.81重量%の樹脂プライマを得た。
(実施例10)
【0183】
合成例2で得られたポリアミドイミドのNMP溶液63.3g(固形分30重量%)にジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量7.38重量%、ケイ素原子含有量13.26重量%の樹脂プライマを得た。
(比較例7)
【0184】
合成例2で得られたポリアミドイミドのNMP溶液26.7g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるDER331Lの24.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾールの0.24gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量2.95重量%、ケイ素原子含有量5.30重量%の樹脂プライマを得た。
(比較例8)
【0185】
比較合成例1で得られたポリアミドイミドのNMP溶液60.0g(固形分30重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるDER331Lの4.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、2−エチル−4−メチルイミダゾールの0.04gを配合し、組成物が均一になるまで約1時間攪拌した。その後、ジメチルアセトアミドを加えて固形分を5重量%に調整した後、脱泡のため2時間室温で静置して、アミド基含有量3.66重量%、ケイ素原子含有量25.16重量%の硬化性樹脂のワニスを得た。
<銅箔引き剥がし強さの測定>
【0186】
実施例6〜10及び比較例7〜8の樹脂プライマを、電解銅箔(厚み12μm)の光沢面(Rz=1.5μm;Rzは、JIS B0601−1994に準拠した表面粗さである。)にそれぞれ自然流延塗布した後、130℃で20分間乾燥させて樹脂付き銅箔を作製した。乾燥後の樹脂層の厚みは1〜2μmであった。
【0187】
次いで、低誘電率プリプレグ(日立化成工業社製、GEA−LX−67)を所定の枚数重ねてなる基材(以下、「低誘電率系基材」という。)又はイミド系プリプレグ(日立化成工業社製、GEA−I−671)を所定の枚数重ねてなる基材(以下、「イミド系基材」という。)の両面に、上述した各樹脂付き銅箔を、それぞれの樹脂(接着層)が接するようにして重ね、230℃、3.0MPa、90分のプレス条件で圧着して、両面銅張積層板を作製した。
【0188】
さらに、比較例9として、上述のプリプレグを所定の枚数重ねた積層体に、樹脂(接着層)を有しない電解銅箔を圧着して両面銅張積層板を作製した。
【0189】
得られた各両面銅張積層板における銅箔を、それぞれ90度方向に引き剥がす際の引き剥がし強さ(90°剥離強さ、JIS C6481に準拠)を測定することにより銅箔引き剥がし強さ(kN/m)の測定を行った。得られた結果を表4に示す。
<はんだ耐熱性評価>
【0190】
上記各両面銅張積層板を20mm×20mmに切断して、はんだ耐熱性試験用の試料を作製した。この試料を260℃のはんだ浴にそれぞれ浸漬して、銅箔と基材との接着界面におけるふくれや、基材からの金属箔の剥がれが生じていないかを目視により確認してはんだ耐熱性の評価を行った。はんだ浴に浸漬してから180秒以上ふくれ及び剥がれの発生が見られなかったものを、はんだ耐熱性に優れるものとして○で表し、180秒以内にふくれ又は剥がれの生じたものを、はんだ耐熱性に劣るものとして×で表した。得られた結果を表4に示す。
<接着界面の形状評価>
【0191】
上記各両面銅張積層板における垂直方向(厚さ方向)に、FIB(フォーカスド イオン ビーム)により穴加工を施し、形成された穴の45度方向から走査イオン像(イオンビームで放出される2次電子の画像)を観察した。図5は、実施例7の樹脂プライマを用いて得られた両面銅張積層板におけるFIB加工断面図であり、図6は、市販の両面銅張積層板におけるFIB加工断面図である。
【表4】

【0192】
表4より、実施例6〜10の樹脂プライマを用いて得られた両面銅張積層板は、銅箔の接着強度が全て0.8kN/m以上であった。また、はんだ耐熱性試験においてもふくれ及び剥がれが生じていなかった。よって、良好な接着強度及びはんだ耐熱性を有していることが判明した。
【0193】
また、図5より、実施例にかかる銅張積層板は、銅箔A、接着層B及び基材Cが一体化した積層体との接着界面が、従来の積層板である図6における銅箔Dと基材Eとの接着界面と比較して極めて平滑になっていることが判明した。なお、図5に示す銅張積層板における銅箔1と基材3の間の接着層2の厚みは1〜2μmであった。
【0194】
これより、実施例6〜10の樹脂プライマによれば、平滑な表面を有する金属箔を用いた場合であっても、金属箔と基材との接着性に極めて優れた導体張積層板を得ることができることが判明した。このため、この導体張積層板を用いることにより、微細な回路パターンを有するプリント配線板を製造することができることが確認された。
【0195】
また、実施例の導体張積層板は、金属箔と基材との間に極めて耐熱性の高い接着層の硬化物を有していることから、はんだ等において高熱に晒された場合であってもふくれ等を生じることが極めて少ない。これより、このような特性を有する導体張積層板から形成されるプリント配線板は、平滑な表面の配線回路を有することができるため、伝達信号の高周波数化、ひいてはこのプリント配線板を用いた電子機器の動作の高速化も可能となることが確認された。
<ポリアミドイミドの合成>
(合成例4)
【0196】
還流冷却器を連結した水分定量受器、温度計及び攪拌器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、ジアミン化合物として、(4,4´−ジアミノ)ジシクロヘキシルメタン(ワンダミンHM(略号WHM):新日本理化社製商品名)140mmol、及び、ジェファーミンD−2000(サンテクノケミカル社製商品名)35mmol、TMAの368mmol、非プロトン性極性溶媒としてNMPの413gを仕込み、80℃で30分間攪拌した。
【0197】
攪拌終了後、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてトルエン120mLを加え、温度を160℃に上げて2時間還流させた。水分定量受器に理論量の水がたまり、水の留出が見られなくなっていることを確認したら、水分定量受器中の水を除去しながら温度を190℃まで上げて、トルエンを除去した。
【0198】
フラスコの溶液を室温まで戻した後、ジイソシアネートとしてMDIの210mmolを加え、温度を190℃に上げて2時間反応させた。反応後、溶液を室温まで冷却して、ポリアミドイミドのNMP溶液を得た。
<樹脂プライマの調製>
(実施例11)
【0199】
合成例4で得られたポリアミドイミドのNMP溶液76.0g(樹脂固形分25重量%)、反応性化合物としてエポキシ樹脂であるDER331Lの2.0g(樹脂固形分50重量%のジメチルアセトアミド溶液)、反応性化合物に対して1重量%の2−エチル−4−メチルイミダゾールを配合し、この組成物を、均一になるまで約1時間攪拌した。その後、脱泡のため2時間室温で静置して樹脂プライマを得た。
(実施例12及び13)
【0200】
DER331Lの配合量を、4.2g(実施例12)及び9.5g(実施例13)としたこと以外は、実施例11と同様にして樹脂プライマを得た。
(比較例10〜12)
【0201】
ポリアミドイミドとして、PAI−100(日立化成社製商品名、ポリアミドイミド樹脂、樹脂固形分30重量%)の63.3gを用い、反応性化合物であるDER331Lの配合量を、それぞれ2.0g(比較例10)、4.2g(比較例11)、及び9.5g(比較例12)としたこと以外は、実施例11と同様にして樹脂プライマを得た。
<銅箔引き剥がし強さの測定>
【0202】
まず、実施例11〜13及び比較例10〜12の樹脂プライマを用い、以下に示す(1)〜(3)の方法にしたがって各種の両面銅張り積層板を製造した。
【0203】
(1)の方法においては、まず、各樹脂プライマに、ジメチルアセトアミドを加えて固形分7重量%となるように調整した後、これを、電解銅箔の光沢面(Rz=2μm)に自然流延塗布し、更に、温風循環型乾燥機中で、160℃、10分間乾燥して樹脂付き導体箔を得た。
【0204】
次に、低誘電率プリプレグGXA−67N(日立化成工業社製)を4枚重ねて基材とし、その両面に、上述した各樹脂付き銅箔を、それぞれの樹脂(接着層)が接するようにして重ね、230℃、3.0MPa、90分のプレス条件で圧着して、両面銅張積層板を作製した。
【0205】
(2)の方法においては、まず、各樹脂プライマをPETフィルム上に塗布し、これを、温風循環型乾燥機中で160℃、10分間乾燥して樹脂付きフィルムを得た。なお、乾燥後の樹脂層の厚みは8μmとした。
【0206】
次に、低誘電率プリプレグGXA−67Nを4枚重ねた基材の両側に、上記樹脂付きフィルムからPETフィルムを除いてなる樹脂層、及び、電解銅箔を順に重ね、230℃、3.0MPa、90分のプレス条件で圧着して、両面銅張積層板を作製した。なお、電解銅箔は、その光沢面が樹脂層が接するように配置した。
【0207】
(3)の方法においては、まず、上記樹脂プライマを、低誘電率プリプレグGXA−67N上に自然流延塗布し、これを、温風循環型乾燥機中で160℃、10分間乾燥して樹脂付きプリプレグを得た。なお、乾燥後の樹脂層の厚みは1〜2μmとした。
【0208】
次に、低誘電率プリプレグGXA−67Nを4枚重ねた基材の両側に、上記樹脂付きプリプレグを、プリプレグ層が基材に接するように重ねるとともに、外側の樹脂層上に電解銅箔を重ね、これらを230℃、3.0MPa、90分のプレス条件で圧着して、両面銅張積層板を作製した。なお、電解銅箔は、その光沢面が樹脂層に接するように配置した。
【0209】
また、比較例13として、上述のプリプレグを所定の枚数重ねた積層体に、樹脂(接着層)を有しない電解銅箔を圧着して両面銅張積層板を作製した。
【0210】
得られた各両面銅張積層板における銅箔を、5mm幅、5cm/分の条件でそれぞれ90度方向に引き剥がす際の引き剥がし強さ(90°剥離強さ、JIS C6481に準拠)を測定することにより銅箔引き剥がし強さ(kN/m)の測定を行った。また、同様にして得られた両面銅張積層板を、121℃、100%RHの恒温恒湿槽に2時間静置した(PCT処理)のちの銅箔引き剥がし強さについても同様に測定した。得られた結果を表5に示す。
<はんだ耐熱性の評価>
【0211】
上述した各両面銅張積層板を、5mm×5mmに切断し、更に両面の銅箔を、その半分の面積が残るようにエッチングしたものを、260℃のはんだ槽に20秒間浸漬した。このときに、銅箔と基材との接着界面にふくれが生じるか否かを目視により確認した。また、PCT処理後の各両面銅張積層板についても同様の試験を行った。ふくれの発生が見られなかったものを、はんだ耐熱性に優れるものとして○で表し、ふくれの発生がみられたものを、はんだ耐熱性に劣るものとして×で表した。得られた結果を表5に示す。
【表5】

【0212】
表5より、実施例11〜13の樹脂プライマを用いて得られた両面銅張積層板においては、平滑な表面を有する銅箔であっても、基材との接着性が極めて良好であることが判明した。また、これらの両面銅張積層板は、はんだ耐熱性に優れていた。さらに、はんだ耐熱性は、高温高湿下に保管した場合であっても良好に維持されることが判明した。
<内層接着層のはんだ耐熱性の評価>
【0213】
まず、上記(1)の方法と同様にして各種の両面銅張積層板を得た後、この積層板における銅箔をエッチングにより除去して内層板を得た。次いで、各内層板の片面に、実施例11〜13及び比較例10〜12の樹脂プライマのうち、内層板の表面に露出している樹脂層と同様の成分のもの(すなわち、同じ種類の樹脂プライマ)を、それぞれ自然流延塗布して、160℃で10分乾燥した。なお、乾燥後の樹脂プライマからなる樹脂層(内層接着層)の厚さは、2〜3μmであった。
【0214】
次いで、内層板表面に形成された樹脂層(内層接着層)上に、プリプレグであるGEA−679(日立化成工業社製)を一枚重ねた後、得られた積層体を180℃、70分、2.5MPaのプレス条件で圧着して、内層接着層の耐熱性を評価するための積層体を得た。
【0215】
また、比較例14として、GEA−679を4枚重ねた基材に、樹脂(接着層)を有しない電解銅箔を圧着して両面銅張積層板を形成した後、この両面銅張積層板の銅箔をエッチングし、さらに、片面にGEA−679を積層して上述したプレス条件で圧着した積層体を作製した。
【0216】
これらの積層体を5mm×5mmに切断してはんだ耐熱性評価用のサンプルを作製し、得られた各サンプルを、260℃のはんだ槽に20秒浸漬した場合に、外層のプリプレグ(GEA−679)と基材との間の界面にふくれが生じているか否かを目視により確認した。また、また、PCT処理1時間後及び2時間後の各両面銅張積層板についても同様の試験を行った。ふくれの発生が見られなかったものを、はんだ耐熱性に優れるものとして○で表し、ふくれの発生がみられたものを、はんだ耐熱性に劣るものとして×で表した。得られた結果を表6に示す。
【表6】

【0217】
表6より、実施例11〜13の樹脂プライマは、積層板において、内層の接着層として用いた場合であっても優れたはんだ耐熱性を発揮し得ることが確認された。
<プリント配線板の伝送損失の測定>
【0218】
実施例11の樹脂プライマを用いて上記(3)の方法により得られた両面銅張積層板における銅箔をエッチングして、直線状のパターンを有する導体を備える配線板を得た。この配線板の導体に、0.1〜10GHzの周波数を有する信号を伝送し、このときの伝送損失を測定した。
【0219】
また、銅箔としてRzが5.0μmであるものを用いたこと以外は、上記と同様にして得られた配線板についても、同様に伝送損失を測定した。
【0220】
図7は、これらの配線板を用いた場合の、信号の周波数に対する伝送損失の値を示すグラフである。図7中、実線がRz=2.0μmの銅箔を用いた場合を示し、点線がRz=5.0μmの銅箔を用いた場合を示している。図7より、Rzが2μmである銅箔を用いて得られた配線板は、Rzが5μmである銅箔を用いた場合に比して、伝送損失が小さいことが確認された。
<微細パターンの形成性の評価>
【0221】
実施例11〜13及び比較例10〜12の樹脂プライマを用いて上記(1)〜(3)の方法により得られた各種の両面銅張積層板、並びに、比較例13の両面銅張積層板について、微細パターンの形成性の評価を行った。すなわち、まず、各両面銅張積層板における回路形成を形成すべき銅箔上に、レジストとしてNIT−215(日本合成化学社製、厚さ15μm)をラミネートにより積層した。次に、露光・現像によりライン/スペースがそれぞれ20/20、30/30、50/50、75/75、100/100である櫛型パターンを有するエッチングレジストを形成した。次いで、塩化第二鉄水溶液により銅箔の不要部分をエッチングした後に、エッチングレジストを剥離して、櫛型回路パターンを形成した。得られた回路パターンにおける、回路のトップ間隔、ボトム間隔、及びエッチング残りの有無を、光学顕微鏡により観察した。
【0222】
その結果、実施例11〜13の樹脂プライマを用いて得られた両面銅張積層板は、ライン/スペース=20/20(μm)のパターン形成が可能であった。これに対し、比較例10〜12の樹脂プライマを用いて得られたもの、及び、比較例13のものは、このようなパターンを形成しようとした場合、導体パターンの剥離が生じる結果となった。このように、実施例11〜13の樹脂プライマによれば、微細なパターンを有する導体箔であっても、基板に対して十分に接着できるようになることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】樹脂の応力−歪み曲線を示す図である。
【図2】樹脂表面上のホルムアミド液の接触角を表す図である。
【図3】実施形態に係る樹脂付き導体箔の断面構造を模式的に示す図である。
【図4】実施形態に係る導体張積層板(積層体)の断面構造を模式的に示す図である。
【図5】実施例7の樹脂プライマを用いて得られた両面銅張積層板におけるFIB加工断面図である。
【図6】市販の両面銅張積層板におけるFIB加工断面図である。
【図7】信号の周波数に対する伝送損失の値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0224】
1…ホルムアミド液、2…樹脂膜、10…樹脂付き導体箔、12…導体箔、14…樹脂層、20…導体張積層板、22…導体箔、26…絶縁体層、24…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含有する樹脂プライマであって、
前記樹脂は、ポリアミドイミドを含有しており、且つ、
前記ポリアミドイミドは、ジアミン化合物と無水トリメリット酸とを反応させて得られるジイミドジカルボン酸と、ジイソシアネートと、を反応させて得られるものであり、
前記ジアミン化合物として、下記一般式(6a)、(6b)又は(6c)で表される化合物を含有させる、樹脂プライマ。
【化1】


[式中、R61は水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基、メチル基又はハロゲン化メチル基、R62は、下記一般式(7a)、(7b)、(7c)及び(7d)のうちのいずれかで表される基、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合、R63は、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基又はカルボニル基を示す。
【化2】


ただし、式(7a)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3のハロゲン化アルキレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合を示す。なお、複数存在するR61はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記ジアミン化合物として、下記一般式(8)で表される化合物を更に含有させる、請求項1記載の樹脂プライマ。
【化3】


[式中、R81は、メチレン基、スルホニル基、エーテル基、カルボニル基又は単結合、R82及びR83は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を示し、mは1〜50の整数を示す。]
【請求項3】
前記ジイソシアネートとして、芳香族ジイソシアネートを含有させる、請求項1又は2記載の樹脂プライマ。
【請求項4】
前記ポリアミドイミドのアミド基と反応を生じる官能基を有する反応性化合物を更に含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂プライマ。
【請求項5】
ゴム成分を更に含有し、該ゴム成分の含有量は、前記樹脂の質量基準で40質量%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂プライマ。
【請求項6】
導体箔と、該導体箔上に設けられた樹脂層と、を備える樹脂付き導体箔であって、
前記導体箔は、その表面の十点平均粗さが3μm以下であるものであり、
前記樹脂層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂プライマが塗布されてなるものである、樹脂付き導体箔。
【請求項7】
導体箔と、該導体箔上に設けられた樹脂層と、を備える樹脂付き導体箔であって、
前記導体箔が、金属箔であり、
前記樹脂層が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂プライマからなるものである、樹脂付き導体箔。
【請求項8】
請求項6又は7記載の樹脂付き導体箔と、該樹脂付き導体箔における前記樹脂層上に積層されたプリプレグと、を備える積層体を、加熱及び加圧して得られた、積層板。
【請求項9】
導体箔と、
前記導体箔と対向して配置された樹脂を含む絶縁層と、
前記導体箔と前記絶縁層との間に、これらに接するように設けられた請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂プライマからなる樹脂層と、
を備える、積層板。
【請求項10】
前記導体箔は、少なくとも前記樹脂層に接する面の十点平均粗さが3μm以下である、請求項9記載の積層板。
【請求項11】
請求項6又は7記載の樹脂付き導体箔と、該樹脂付き導体箔における前記樹脂層上に積層されたプリプレグと、を備える積層体を、加熱及び加圧する、積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−132929(P2009−132929A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318803(P2008−318803)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【分割の表示】特願2005−511783(P2005−511783)の分割
【原出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】