説明

プラズマによる表面処理方法及び表面処理装置

トリアセチルセルロースフィルム(10)の表面処理方法及び表面処理装置。表面処理装置は、第1と第2の電極(16、17)の間の処理空間(15)内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるための第1の電極(16)及び第2の電極(17)を有する。電極(16、17)は、処理空間(15)に向けられた表面に誘電体障壁を備える。表面処理装置は、処理空間(15)内の実質的に無酸素の雰囲気中に大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の表面処理、特にトリアセチルセルロースフィルムの表面処理方法に関する。別の態様では、本発明は表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の表面処理方法及び表面処理装置が米国特許第6512562号に開示されており、同特許は偏光板用の保護フィルム、並びにこのようなフィルムを製作する方法及び装置を開示している。例示的な一実施形態では、保護フィルム表面を処理するのに大気圧グロー放電プラズマが使用される。
【0003】
例えば液晶ディスプレイの生産に使用できる偏光フィルムは、ポリビニルアルコール(PVA,polyvinyl alcohol)などの偏光フィルムを2枚のトリアセチルセルロース(TAC,triacetyl cellulose)フィルムと貼り合わせて製作することができる。これは、例えば米国特許出願公開第2005/0063057号に記載されている。
【0004】
TACフィルムをPVAフィルムに適切に付着させるために、TACフィルム表面をアルカリで前処理(けん化)することがある。こうすると、2つの材料の適切な結合を得るための、ポリマーによるH架橋の形成が可能になる。このプロセスの欠点は、ウェット材料を使用することであり、取扱い及び廃棄物の問題が伴う。特願2004−272078に記載の代替プロセスでは、PVAフィルムは、2枚のTACフィルムと貼り合わせる前に前処理される。
【0005】
TACフィルムをPVAフィルムに結合させるための別法が特願2000−214329に開示されており、この別法では、ポリオール含有接着層が使用される。しかし、これには追加の材料及び加工ステップが必要である。
【0006】
特願2002−155371は、半導体デバイスを製造する方法及びシステムを開示している。アルゴン、ヘリウム、ネオン、及び/又はキセノンを含む雰囲気中で発生させたプラズマを使用して、半導体基板上に透明な導電膜を堆積させる。
【特許文献1】米国特許第6512562号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0063057号
【特許文献3】特願2004−272078
【特許文献4】特願2000−214329
【特許文献5】特願2002−155371
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特にトリアセチルセルロース(TAC)フィルム用の、上述した既知の方法及びシステムの欠点がない処理の方法及び装置を提供しようとするものである。特有の欠点は、酸素の存在下でのTACフィルムのAPG処理により白い堆積物が形成されることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、トリアセチルセルロースフィルムの表面処理方法が提供され、この方法は、処理空間内で大気圧グロー放電プラズマを発生させること、及び処理空間内でトリアセチルセルロースフィルムの表面を大気圧グロー放電プラズマに所定の時間さらすことを含み、大気圧グロー放電プラズマが、処理空間内で、アルゴンなどの希ガスと例えば窒素である不活性ガスとの混合物を含む実質的に無酸素の雰囲気中に発生する。この雰囲気は、少なくとも2%の窒素、例えば20%の窒素を含んでよい。
【0009】
米国特許第6512562号は、大気プラズマグロー放電が発生する雰囲気の様々な組成を開示しているように見えるが、驚くべきことに、本発明の特徴を用いて、白い堆積物をまったく形成することなく基材の水接触角を大幅に減少できることが見出された。このような処理は、トリアセチルセルロースフィルムの水接触角を顕著に減少させ、それによってトリアセチルセルロースフィルムが、ポリビニルアルコールフィルムなどのポリマーフィルムに実質的に貼り合わせて偏光板フィルムを実現するのに適したものになる。アルゴン雰囲気中で処理することにより、すでにトリアセチルセルロースフィルムの表面の水接触角が減少しているが、窒素を追加することによりこの効果が強まる。試験では、20%窒素の雰囲気が、2%窒素の雰囲気よりも良好な結果をもたらすことが示された。米国特許第6512562号からは、当業者は、これらの場合にあるような窒素(例えば表2参照)を使用しないことを学ぶことになり、水接触角は、長時間の処理の後でも高いままである。
【0010】
トリアセチルセルロースフィルムが大気圧グロー放電プラズマに4秒未満、例えば0.1秒間さらされたときには、すでに水接触角の減少を測定することができる。種々の可能な実施形態により非常に小さな水接触角(WCA,water contact angle)に達することができるが、これは処理時間、及び使用されるガスの組成にもよる。したがって、窒素だけを使用して4秒後に12°のWCAに達することができるのに対し、同じ条件のもとでArを使用すると29°のWCAを得る。
【0011】
別の一実施形態では、トリアセチルセルロースフィルムは、例えば米国特許第6774569B号、又は欧州特許出願公開EP−A−1383359に記載の方法により安定化された大気圧グロー放電プラズマにさらされる。
【0012】
別の一実施形態では、トリアセチルセルロースフィルムは、例えばLC整合回路によって安定化された大気圧グロー放電プラズマにさらされる。
【0013】
別の一実施形態では、トリアセチルセルロースフィルムは、パルス大気圧グロー放電プラズマにさらされる。パルス放電プラズマは、プラズマの形成及び均一性を制御するもう1つの方法であり、また、プラズマ発生がセットアップされた状態で得られる例えば必要な処理時間、又はライン速度範囲と関連してプラズマ効率を制御する方法も提供する。
【0014】
この方法はさらに、各フィルムのさらなる処理を必要とせずに偏光板フィルムが効率的に得られるように、処理されたトリアセチルセルロースフィルムをポリビニルアルコールフィルムなどの偏光フィルムに貼り合わせることを含む。付着、接触、接合など、トリアセチルセルロースフィルムを偏光フィルムに結合する他の方法もまた用いることができる。
【0015】
別の態様では、本発明は、第1と第2の電極の間の処理空間内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるための第1の電極及び第2の電極を備える表面処理装置に関し、第1及び第2の電極が、処理空間側の表面に誘電体障壁を備え、表面処理装置がさらに、処理空間内の実質的に無酸素の雰囲気中に大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成される。電極には、様々な構成で誘電体障壁を設けることができる。1つの構成では、少なくとも第2の電極の誘電体障壁は、トリアセチルセルロースフィルムで形成される。別の構成では、両方の電極にTACフィルムが誘電体障壁として設けられる。さらに別の構成では、ポリエチレンテレフタレート(PET,polyethyleneterephthalate)、ポリエチレンナフタレート(PEN,polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE,polytetrafluoroethylene)、ポリエチレン(PE,polyethylene)、シリカ又はアルミナなどのセラミック、又はこれらの組合せなどの誘電体障壁を電極に設けることができ、また電極に取り付けられる微孔質の誘電体材料を使用することもできる。
【0016】
トリアセチルセルロースの場合には、そのフィルムは、裸電極又は誘電体を設けた電極とすることができる、関連する電極の上で移動可能とすることができ、それによって連続処理工程が可能になる。他方の電極にも、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)又は他のポリマーからなる固定又は可動のフィルムを誘電体障壁として設けることができる。別の一実施形態では、両方の電極でトリアセチルセルロースフィルムを誘電体障壁として使用し、それによってより高い処理能力が得られる。
【0017】
別の一実施形態では、表面処理装置は、上記の方法の実施形態で定義した雰囲気中で大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成することができる。
【0018】
別の一実施形態では、表面処理装置は、電極にわたってトリアセチルセルロースフィルムを給送するための給送デバイスを備えることができる。また、給送デバイスは、トリアセチルセルロースフィルムを電極と密接させておくための引張機構を備えることができる。
【0019】
別の一実施形態では、表面処理装置はさらに、処理空間の下流に配置された貼合せユニットを備え、この貼合せユニットは、処理されたトリアセチルセルロースフィルムと、ポリビニルアルコールフィルムなどの偏光フィルムとを貼り合わせるように構成される。こうすると、例えば液晶ディスプレイの製作に使用できる偏光板フィルムを非常に効率的に製作することができる。
【0020】
本発明はまた、第1と第2の電極の間の処理空間内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるための第1の電極及び第2の電極を備える表面処理装置にも関連し、第1及び第2の電極が、処理空間側の表面に誘電体障壁を備え、表面処理装置がさらに、処理空間内の実質的に無酸素の雰囲気中に大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成され、表面処理装置が、安定化した大気圧グロー放電プラズマを処理空間内で発生するように構成される。処理空間内での実質的に無酸素の雰囲気の使用と、安定化した大気圧グロー放電プラズマの発生とを組み合わせることによって、処理表面の水接触角は、基材上に白い堆積物をまったく形成することなく減少する。
【0021】
別の一実施形態では、プラズマを制御する手段は、整合インダクタンスと2つの電極及び放電空間で形成されたシステム容量とによって形成されたLC整合回路網と、電極のうちの少なくとも1つと直列のパルス形成回路とを備える。こうすると、いっそう良好なグロー放電プラズマの安定化が実現し、それによって表面処理の効率がさらに向上し、白い堆積物の形成がさらに抑制される。
【0022】
本発明を、添付の図面を参照し、いくつかの例示的実施形態を用いて以下でより詳細に論じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に、本発明の第1の実施形態による表面処理システムが示されている。このシステムは、第1電極すなわち上側電極16、及び第2電極すなわち下側電極17を有する平行板二誘電体障壁放電構造を備える。電極16、17は、特定の要件に応じて構成できる処理空間15を画定する。両電極16、17とも、幅が例えば1cm、2cm、3cm、及び4cm以上であるとともに、互いに直列な様々な電極も使用し、それによって、実現可能な処理時間を増大させることができる。この点において、その長さは、処理されるウェブ10の処理方向に垂直の、すなわち図1の作図面に垂直の、電極16、17の長さとして定義される。良質で均一なプラズマを得るために、電極16、17は、その全長にわたって厳密に平行でなければならず、こうしないと安定したプラズマを得ることができない。各電極が平行であり、また使用中に平行のままである限り、長さに制限がない。その長さは主に、処理されるべきウェブ10の幅で決まり、したがって、10cm(試験目的)から1.5m、さらには2.0mや2.5m以上に至るほどの長さでも使用することができる。
【0024】
電極16、17は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、シリカ又はアルミナなどのセラミック、或いはこれらの組合せのような誘電体放電障壁で覆うことができる。
【0025】
上側電極16には、処理空間側の表面に誘電体障壁層又は箔が設けられる一方、下側電極17には、電極17に取り付けられた任意選択の誘電体層に加えて、誘電体障壁層がトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、すなわち処理されるウェブ10によって設けられる。電極16、17の誘電体箔間の電極ギャップは、どんな特定の間隔にも限定されないが、好ましくは5mm未満、より好ましくは2mm未満又は1.5mm未満にすべきであり、一般には1mm以下にすることもできる。
【0026】
TACフィルム10は、供給ロール20及び巻取ロール21を含む給送デバイスを使用し、付加ローラ22〜25を経由して給送される。付加ローラ22〜25は、下側電極17の両側にS字巻付構成で設けられて引張機構を形成し、これにより下側電極17の上のTACフィルム10の位置合わせ調整が可能になる。
【0027】
図2に概略的に示された別の一実施形態では、上側電極16もまた、供給ロール20’から巻取ロール21’まで給送されるフィルム10’を誘電体障壁として有するように構成される。
【0028】
両方の構成で電極16、17は、プラズマの安定性を維持するために誘電体箔10、10’で覆われる。したがって箔10、10’の機能は、プラズマの安定性を制御すること、及びこれらの箔10、10’を処理空間15内でプラズマにさらすことである。
【0029】
一般に使用される誘電体箔の厚さ、とりわけTAC箔の厚さは、どんな特定の値にも限定されず、それが使用される用途だけで決まる。一般にこれらの箔は、厚さが150マイクロメートル未満であり、好ましくは100マイクロメートル未満の、例えば90又は80μmの厚さである。
【0030】
大気圧グロー放電プラズマは、当業者に周知の方法により発生させることができる。好ましいプラズマは、例えば米国特許第6774569B号、又は欧州特許出願公開EP−A−1383359に記載の原理により安定化されるものである。プラズマの安定化及び制御装置の好ましい実施形態の一例が図6に示されている。この図では、電極16、17から電源(すなわち交流電源手段35及び中間トランス段36)に戻る電力の反射を低減するために、プラズマ制御装置内にインピーダンス整合構成が設けられている。インピーダンス整合構成は、既知のLC並列又は直列整合回路網を使用して、例えばインダクタンスがLmatchingのコイルと、構成の残りの部分の静電容量(すなわち、主に並列インピーダンス43(例えばコンデンサ)及び/又は電極16、17間の放電空間15の静電容量によって形成される)とを使用して、実施することができる。しかし、このようなインピーダンス整合構成は、プラズマブレークダウン時に発生することがある高周波電流発振をフィルタリングすることができない。
【0031】
高周波電源35は、中間トランス段36と、インダクタンスがLmatchingの整合コイルとを介して電極16、17に接続される。さらに、下側電極17にパルス形成回路40が接続される。電極16、17とパルス形成回路40の直列回路に並列に、付加インピーダンス43が接続される。パルス形成回路40は、パルスブレークダウン(プラズマパルスの開始)時に生じる可能性がある不安定性を抑制(又は増大)するための、またプラズマパルスの末端(プラズマパルス最大の後)での不安定性も抑制(又は増加)するための所望のパルス整形を行うように構成される。主要な発想は、パルス形成回路40をLC直列共振回路と直列に使用することである。このようにすると、(持続時間が交流印加電圧の正弦波の半周期よりもずっと短い)プラズマパルスが形成されたとき、直列共振回路は、(電源35に大電流を供給させることによる)大きな周波数電流が必要なことによって不平衡になり、電源から供給される置換電流は低下する傾向がある。パルス形成回路40の最も簡単な実施は、プラズマ電極16、17に直列のコンデンサである。その静電容量は、効率的になるようにプラズマリアクタの静電容量と同等でなければならない。
【0032】
パルス形成回路40は、いくつかの構成要素で形成することができる。したがって例えば、これはコンデンサと並列のチョークコイルで構成することができる。 コンデンサとチョークからなる回路40は、電源35の周波数で共振するように選択される。別の実施形態では、回路40は、LC直列共振回路と並列のコンデンサで構成され、したがってチョーク及び付加コンデンサを備える。この場合も、構成要素の特性は、回路が電源35の周波数に共振するように選択される。
【0033】
一般に基材10の、とりわけTACフィルムすなわち箔の表面処理を実施するために、単ガス又は混合ガスが電極ギャップ15内に導入されなければならない。混合ガスの場合、この混合物はあらかじめ混合され、その後電極ギャップ15間(処理空間)に注入される。本発明で好ましく使用されるガスは、例えばネオン、アルゴン、ヘリウムのような希ガス、並びに例えば窒素のような不活性ガスである。例えば希ガスと不活性ガスの混合物のような、ガスの混合物もまた使用することができる。驚くべきことに、TAC上での最小水接触角は、窒素を単独で使用することによって得られることが見出された。希ガスと例えば窒素との混合物を使用した場合にもまた、良好な結果が得られた。これらの実施形態では、窒素の量を増加すると、処理時間は同じままでWCAは小さくなった。さらに驚くべきことに、酸素と希ガスの混合物を使用すると、結果的にWCAは低下せずに、代わりにTAC上に白い堆積物が形成された。
【0034】
ウェブ10の連続処理が好ましく、したがって、処理されるべきウェブは、好ましくは電極16、17上である連続速度を有する。この速度は、電極の幅、電極の配列、及び達成したい処理時間によって決まる。したがって、より多くの電極が互いの後に配置される場合では、1つだけの電極を用いるのと同じ処理時間を与えながらライン速度を高くすることができる。4秒ほども長い処理時間では非常に良好な結果が得られるが、有意な結果はすでに1秒以下の処理時間で得ることができる。
【0035】
図2の二層システムの場合、下側ウェブ10のライン速度と、上側ウェブ10’のライン速度とは同じでもよく、異なってもよい。ライン速度は使用される構成に依存し、上述のように10cm/分〜1m/分を超え30m/分以上が可能である。安定で均一なグロー放電を維持するための条件が、関連する電極16、17との均一で緊密な接触を箔10、10’が有すべきということであるので、箔10、10’のうちの一方にしわがよることは防止される。
【0036】
図2の二層システムでの別の留意点は、使用されるウェブ材料から揮発する揮発性物質の量である。PET、PEN、TACなどの産業用に利用可能なウェブ材料を使用して安定した大気圧グロープラズマを得ることができ、水蒸気、又は誘電体障壁(電極16、17表面の箔)から揮発する溶剤の存在によって劣化が起きないことが観察された。図2の二層構造の上側電極にあるウェブ材料を変更する際、一方のPET又はPEN箔10’を第2のTACフィルムすなわち箔10’で置き換えることによって、プラズマ安定性を劣化させなくてよい。このような場合、誘電体障壁放電ギャップの絶縁能力はいくぶん変化しており、したがってパルス回路網制御をいくらか調整しなければならない。
【0037】
本発明の実施形態の1つによって処理されたTACフィルムは、WCAが非常に小さい。このように小さなWCAには、一般に使用可能な技法を用いて達することができない。
【0038】
小さな接触角はまた、数日間のエージング後にも存続し、これは、処理された材料を次の加工まで保管できることを意味する。
【0039】
この処理されたTACフィルムを好ましくは使用できる1つの応用例は、偏光フィルムの製作にある。このような製作についての特定の実施形態が図5に概略的に示されている。この図の実施形態によれば、図5の簡略図に示されるように、処理TACは偏光フィルム11と結合される。偏光フィルム11は、例えばポリビニルアルコール(PVA)フィルムとすることができる。このフィルムは供給源ロール31から供給される。処理TACフィルム10、10’は、それぞれ供給ロール32、33から供給され、或いは上述の処理装置から直接供給することもできる。次に、3枚のフィルム10、11、10’を貼合せユニット30で貼り合わせて偏光板フィルム12を生成する。TACフィルム10、10’をAPG処理するので、PVAフィルム11への接着が、TACフィルム10、10’又はPVAフィルム11のそれ以上の前処理なしで実現する。貼合せユニット30は既知のタイプでよく、圧力及び/又は熱を用いて3枚のフィルム10、11、10’を一緒に接合することができる。
【実施例1】
【0040】
構成は、電極の全長が15cm、電極の幅が4cm(処理方向の寸法)である平行板二誘電体障壁放電構造(図2)からなる。誘電体箔間の電極ギャップ15は、典型的には1mmである。電極16、17の両方が、プラズマの安定性を維持するために誘電体箔で覆われる。前述の説明を参照されたい。したがって、箔の機能はプラズマの安定性を制御すること、及びこれらの箔をプラズマにさらすことである。
【0041】
使用される上側電極箔は、90μmのPET箔からなるのに対して、下側箔は80μmのTACフィルムである。TACフィルムを下側のロールツーロールシステムに装着するように選択するのは人間工学による。
【0042】
この誘電体障壁放電(DBD,dielectric barrier discharge)システムでは、金属電極16、17は高周波電力発生器35から電力供給され、この発生器35は、インピーダンス整合トランス36に接続されたRFPP発生器LF10aからなる。整合トランス36の出力は、前に図6を参照して説明した構造と類似の直列共振回路網に接続される。APGリアクタ15、16、17は、コンデンサ43と並列に接続される。システムの共振周波数は約120kHzに調整される。APG分岐と直列に接続された置換パルス回路網40を調整することによって、プラズマの安定性は、グロープラズマモードが増強され、フィラメント放電が抑制されるように制御される。置換電流制御は、電界の各半周期内(パルス列内)で働く。発生器35はスレーブモードに設定され、外部パルス制御ユニット(図示せず)によって駆動される。外部パルス制御ユニットは、コンピュータ制御にすることができ、或いは2つの機能発生器で構成することができ、これらの発生器の一方が他方の発生器にパルス列のトリガリングを行う。パルス列は、無電界の期間Toffが後に続くTonと定義される一連の交流パルスからなる。本実施例の場合、パルス列持続時間は、10マイクロ秒から1秒までに設定することができる。この特定の場合では、パルスのオン時間はミリ秒の範囲に選択した。
【0043】
ガスを混合し、続いて左側から電極ギャップ間に注入する。
【0044】
下側のロールツーロールのライン速度(TACフィルム使用)は変化させたのに対して、上側のロールツーロールのライン速度は10mm/分の最低ライン速度に設定した。まずプラズマを特定のガスに対して安定化させ、次に、ライン速度を7段階で2倍ずつして15mm/分から960mm/分までライン速度を増加させながら箔をプラズマにさらす。
【0045】
アルゴン、2%及び20%の窒素を含むアルゴン、2%の酸素を含むアルゴン、及び窒素中での4つの異なる試行を行う。表面活性化のために用いたプロセスパラメータを下の表に一覧表示してある。
【0046】

【0047】
特定のガス(混合物)中での各試行後に、7つの異なる処理物が得られ、続いてそれらを接触角測定によって解析する。水接触角は、当業者に周知の接触角計を用いて測定する。こうしてTAC箔10は、処理時間(曝露量)及びプロセスガスに応じてプラズマにさらされる。図3は、種々の試験での水接触角の測定結果を示す。
【0048】
参考実施例1
TACフィルム10は、当業者に周知の、6つのアルミニウム電極を備えたテーブルコロナ(table corona)ユニット内で処理した。TACフィルム10を、速度Vで回転するアルミニウム被覆ドラム電極上に置いた。付加的なパラメータを下の表に一覧表示してある(No.revは、単位が秒の総処理時間内に生じた被覆ドラム電極の回転の数を示す)。
【0049】

【0050】
再度、表面の水接触角を測定した。結果は図4のグラフに示してある。
【0051】
アルゴン及びアルゴン/窒素処理の場合では、TAC箔10、10’の視覚的な劣化は、最長の処理の場合でも認められない。箔10、10’は(視覚的に)もとのままである。しかし、アルゴン/酸素混合物の場合には、(図3に示すように)約5秒を超える処理時間で、拭き取ることができる明瞭な白い堆積物が基材上に形成される。この現象は、箔10、10’のTAC表面をエッチングする結果になる非常に強い表面酸化によって引き起こされる。少量の有機化合物が連続的に酸化され、基材上に低分子量酸化物質(LMWOM,Low Molecular Weight Oxidized Material)として再堆積される。LMWOMはまた、ポリエチレンの非常に困難なコロナ処理からも知られている。通常これは望ましくない。というのは、LMWOMが表面を覆ってそれ以上の活性化が阻止され、原理的に脆弱な境界層が形成されるからである。コロナ放電によりTAC箔10を処理する場合にも、図4のグラフに示されるように、約5秒よりも長い処理時間ではLMWOM堆積物が生じる。
【0052】
図3で分かるように、アルゴン及びアルゴン/窒素混合物では、水接触角の顕著な減少を実現することができる。X軸に示した処理時間は、デューティサイクルについて補正した実プラズマ曝露時間であることに注意されたい。
【0053】
アルゴン/酸素処理の場合には、WCAの減少は観察されなかった。LMWOMが最短の処理時間ですでに形成されて、薄い堆積物をすでに生成している可能性がある。これで、なぜ酸素中でのプラズマ処理がWCAに対し効果がないのかを説明することができる。
【0054】
酸素の存在下でのプラズマ化学(空気コロナ中)は酸素によって決定されることが知られているので、同様な結果がアルゴン酸素混合物中でのAPGプラズマ処理の場合にも予測された。実際に、コロナ処理を用いるとWCAの減少が観察されなかった。図4を参照されたい。最強のコロナ処理の場合だけに、WCAのわずかな減少が観察された。これはおそらく、非常に強く酸化されたLMWOMによるものであり、これもまた、5秒を超える処理時間ではTACフィルム上で明瞭に目に見える。4秒未満の処理時間では、このようなLMWOM堆積物は観察されない。
【実施例2】
【0055】
図5の簡略化した概要図に示すように、前述の実施形態の1つによって得られた処理TACフィルム10、10’を偏光フィルム11と結合した。偏光フィルム11はポリビニルアルコール(PVA)フィルム11であり、供給源ロール31から供給する。処理TACフィルム10、10’は、それぞれ供給ロール32、33から供給する。3枚のフィルム10、11、10’を貼合せユニット30内で貼り合わせ、偏光板フィルム12を製作した。TACフィルム10、10’をAPG処理するので、PVAフィルム11への接着が、TACフィルム10、10’又はPVAフィルム11のそれ以上の前処理なしで実現した。貼合せユニット30は、圧力及び熱を用いて3枚のフィルム10、11、10’を一緒に接合する既知のタイプであった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による表面処理装置の第1の実施形態の概略図である。
【図2】本発明による表面処理装置の第2の実施形態の概略図である。
【図3】本発明による表面処理法を用いたいくつかの試験での水接触角測定の結果を示すグラフである。
【図4】空気コロナ表面処理法を用いたいくつかの管理試験での水接触角測定の結果を示すグラフである。
【図5】処理フィルムを使用して偏光板を製作する装置の概略図である。
【図6】本発明の一実施形態で使用される安定化装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセチルセルロースフィルム(10)の表面処理方法であって、処理空間(15)内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるステップと、前記処理空間(15)内で前記トリアセチルセルロースフィルム(10)の表面を前記大気圧グロー放電プラズマに所定の時間さらすステップとを含み、前記大気圧グロー放電プラズマが、前記処理空間(15)内で、希ガスと不活性ガスの混合物を含む実質的に無酸素の雰囲気中に発生し、前記雰囲気が、少なくとも2%以上の窒素、例えば20%の窒素を含む表面処理方法。
【請求項2】
トリアセチルセルロースフィルム(10)が、大気圧グロー放電プラズマに0.1秒を超え4秒に満たない間さらされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トリアセチルセルロースフィルム(10)が、安定化された大気圧グロー放電プラズマにさらされる、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
処理されたトリアセチルセルロースフィルム(10)をポリビニルアルコールフィルムなどの偏光フィルム(11)に貼り合わせるステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第1と第2の電極(16、17)の間の処理空間(15)内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるための前記第1の電極(16)及び前記第2の電極(17)を備える表面処理装置であって、前記第1及び第2の電極(16、17)が、前記処理空間(15)側の表面に誘電体障壁を備え、前記表面処理装置がさらに、前記処理空間(15)内で、希ガスと不活性ガスの混合物を含む実質的に無酸素の雰囲気中に前記大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成され、前記雰囲気が少なくとも2%以上の窒素、例えば20%以上の窒素を含む表面処理装置。
【請求項6】
少なくとも第2の電極(17)の誘電体障壁がトリアセチルセルロースフィルムを含む、請求項5に記載の表面処理装置。
【請求項7】
電極(16、17)にわたってトリアセチルセルロースフィルム(10)を給送するための給送デバイス(20〜25)をさらに備える、請求項5又は6に記載の表面処理装置。
【請求項8】
給送デバイスが、トリアセチルセルロースフィルム(10)を電極(16、17)と密接させておくための引張機構(22〜25)を備える、請求項7に記載の表面処理装置。
【請求項9】
表面処理装置がさらに、トリアセチルセルロースフィルム(10)を大気圧グロー放電プラズマに0.1秒を超え4秒に満たない間さらすように構成される、請求項5〜8のいずれかに記載の表面処理装置。
【請求項10】
表面処理装置が、安定化した大気圧グロー放電プラズマを処理空間(15)内で発生するように構成される、請求項5〜9のいずれかに記載の表面処理装置。
【請求項11】
処理空間(15)の下流に配置された貼合せユニット(30)をさらに備え、前記貼合せユニット(30)が、処理されたトリアセチルセルロースフィルム(10)と、ポリビニルアルコールフィルムなどの偏光フィルム(11)とを貼り合わせるように構成される、請求項5〜10のいずれかに記載の表面処理装置。
【請求項12】
第1と第2の電極(16、17)の間の処理空間(15)内で大気圧グロー放電プラズマを発生させるための前記第1の電極(16)及び前記第2の電極(17)を備える表面処理装置であって、前記第1及び第2の電極(16、17)が、前記処理空間(15)側の表面に誘電体障壁を備え、前記表面処理装置がさらに、前記処理空間(15)内の実質的に無酸素の雰囲気中に前記大気圧グロー放電プラズマを発生するように構成され、前記表面処理装置が、安定化した大気圧グロー放電プラズマを前記処理空間(15)内で発生するように前記プラズマを制御する手段を備える装置。
【請求項13】
プラズマを制御する手段が、整合インダクタンス(Lmatching)と2つの電極(16、17)及び放電空間(11)で形成されたシステム容量とによって形成されたLC整合回路網と、前記電極(16、17)のうちの少なくとも1つと直列のパルス形成回路(40)とを備える、請求項12に記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−525381(P2009−525381A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553191(P2008−553191)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050040
【国際公開番号】WO2007/089146
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(505232782)フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ. (50)
【Fターム(参考)】