説明

プラズマ点火装置を備える内燃機関

【課題】冷間始動時に必要な放電電圧を低くして電源部の小型化を可能としたプラズマ点火装置を備える内燃機関を提供する。
【解決手段】機関温度が設定温度以下である場合の冷間始動時において(ステップ102)、燃料噴射を開始する前にプラズマ点火装置の放電を開始するモータリングを実施し(ステップ104)、モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気量を減少させる(ステップ103)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ点火装置を備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、点火装置により気筒内全体の均質混合気又は気筒内の一部に存在する混合気を確実に着火させなければならない。しかしながら、点火ギャップに火花を発生させる一般的な点火装置は、混合気の一点を着火させるものであり、それほど高い着火性を有してはいない。
【0003】
着火性に優れた点火装置として、プラズマジェットを噴射するプラズマ点火装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。プラズマ点火装置は、絶縁体側壁により形成されたチャンバと、チャンバの一端側に配置された中心電極と、チャンバの他端側に配置された接地電極とを具備し、中心電極と接地電極との間に電圧を印加して発生させた放電によってチャンバ内のガスをプラズマ化させ、こうしてチャンバ内の高温高圧のプラズマをプラズマジェットとしてチャンバと気筒内とを連通する噴孔から噴射するものであり、プラズマジェットの断面積に相当する混合気の所定面積を同時に着火させることによって、高い着火性を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−066236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなプラズマ点火装置において、冷間始動時にはチャンバ内の温度が低く、確実に放電を発生させるためには非常に高い放電電圧が必要とされ、この非常に高い放電電圧を発生させるためにプラズマ点火装置の電源部は大型化されていた。
【0006】
従って、本発明の目的は、冷間始動時に必要な放電電圧を低くして電源部の小型化を可能としたプラズマ点火装置を備える内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関は、機関温度が設定温度以下である場合の冷間始動時において、燃料噴射を開始する前にプラズマ点火装置の放電を開始するモータリングを実施し、前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気量を減少させることを特徴とする。
【0008】
本発明による請求項2に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関は、請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関において、前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較してスロットル弁の開度を小さくして吸気量を減少させることを特徴とする。
【0009】
本発明による請求項3に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関は、請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関において、前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気弁の閉弁時期を遅角して吸気量を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明による請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関によれば、機関温度が設定温度以下である場合の冷間始動時において、燃料噴射を開始する前にプラズマ点火装置の放電を開始するモータリングを実施し、モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気量を減少させるようにしている。モータリング中は燃焼が実施されないために吸気量を減少させても特に問題はなく、吸気量の減少により圧縮行程末期の筒内圧力が低くなって放電し易くなり、冷間始動時であっても、放電のために非常に高い電圧は必要なく、モータリング中の比較的低い電圧での放電によってプラズマ点火装置が暖機されれば、燃料噴射が開始されて吸気量が増量されても、放電電圧は比較的低いままで確実な放電が可能となるために、冷間始動時のための非常に高い放電電圧は必要なく、プラズマ点火装置の電源部の小型化が可能となる。
【0011】
本発明による請求項2に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関によれば、請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関において、モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較してスロットル弁の開度を小さくして吸気量を減少させている。
【0012】
本発明による請求項3に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関によれば、請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関において、モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気弁の閉弁時期を遅角して筒内へ吸入された吸気の一部を吸気ポートへ戻すことにより吸気量を減少させている。また、吸気弁の閉弁時期の遅角により実圧縮比も低下するために、圧縮行程末期の筒内圧力はさらに低下し、モータリング中に必要な放電電圧をさらに低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による内燃機関に取り付けられるプラズマ点火装置を示す概略縦断面図である。
【図2】図1のプラズマ点火装置の先端部の拡大断面図である。
【図3】機関始動時の制御を示す第一フローチャートである。
【図4】機関始動時の制御を示す第二フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明による内燃機関に取り付けられるプラズマ点火装置を示す概略縦断面図である。同図において、1は点火装置の軸線方向に延在するように絶縁体2の側壁により形成されてプラズマを生成する円筒状のチャンバであり、3はチャンバ1の基端側に配置された中心電極であり、4はチャンバ1の先端側に配置された接地電極である。5はチャンバ1と気筒内とを連通する噴孔である。6は、接地電極4を電気的及び機械的に固定すると共に絶縁体2を覆う金属製のハウジングである。
【0015】
本実施形態においては、噴孔5は、接地電極4に形成されているが、これは本発明を限定するものではなく、絶縁体2とハウジング6とを貫通するように形成することも可能であり、また、接地電極4又は絶縁体2の形状によってはハウジング6だけを貫通するように形成することも可能である。
【0016】
中心電極3及び接地電極4は、耐熱性と高い導電性とを有する金属、例えば、ステンレス等の鉄系金属、ニッケル系金属、又は、イリジウム系金属又はイリジウム合金とすることができる。中心電極3に対して接地電極4を絶縁するための絶縁体2の材質は、セラミックス(例えばアルミナセラミックス)とすることが好ましい。7は絶縁体2とハウジング6との間の隙間を密閉するための金属ガスケットである。
【0017】
図2は図1の点火装置のチャンバ1近傍の拡大図である。チャンバ1内のガスをプラズマ化させるには、先ずは、中心電極3と接地電極4との間に高電圧を印加し、絶縁体2の側壁内面上に沿面放電S1を発生させる。こうして、チャンバ1内の沿面放電近傍のガス(混合気)をプラズマ化してイオン及び電子が生成されると、プラズマ化されたガスを通って比較的低い電圧での気中放電が可能となり、次いで、この気中放電S2を発生させる。
【0018】
こうして、気中放電S2によってチャンバ1内のガスの大部分がプラズマ化されると、チャンバ1内のガスは高温高圧となってプラズマジェットとして噴孔5から噴射され、気筒内の混合気を良好に着火させる。
【0019】
ところで、沿面放電及び気中放電のいずれにおいても、冷間始動時のようにチャンバ1内の温度が低いと必要な放電電圧が非常に高くなり、前述のように沿面放電及び気中放電によりチャンバ1内のガスをプラズマ化する場合だけでなく、沿面放電又は気中放電だけによりチャンバ1内のガスをプラズマ化する場合においても、一般的には、冷間始動時に備えて非常に高い放電電圧を発生可能とするようにプラズマ点火装置の電源部は大型化されていた。
【0020】
これに対して本実施形態の内燃機関は、始動時において図3に示す第一フローチャートの制御を実施することにより冷間始動時に必要な放電電圧を比較的低くしてプラズマ点火装置の電源部の小型化を可能としている。第一フローチャートを以下に説明する。先ず、ステップ101において、始動時であるか否かが判断される。この判断が否定される時にはそのまま終了するが、肯定される時には、ステップ102において冷却水温THWが設定温度THW1以下であるか否かが判断される。
【0021】
ステップ102の判断が否定される時には温間始動時であり、プラズマ点火装置においてチャンバ1内に放電を発生させるのにそれほど高い電圧は必要なく、ステップ105において、スロットル弁の開度Aは通常の始動時開度A1とされ、ステップ106において、最初に始動する気筒から燃料噴射を開始し、燃料噴射を開始した気筒から点火時期においてプラズマ点火装置による点火を開始する。ここで、最初に始動する気筒とは、例えば、吸気非同期ポート噴射の場合には最初に膨張行程となると判断された気筒であり、吸気同期ポート噴射の場合には最初に吸気行程となると判断された気筒であり、吸気行程筒内噴射の場合には最初に吸気行程となると判断された気筒であり、圧縮行程筒内噴射の場合には最初に圧縮行程となると判断された気筒である。
【0022】
しかしながら、ステップ102の判断が肯定される時には冷間始動時であり、チャンバ1内の温度が低いために、そのままでは小型化された電源部により発生可能な電圧ではチャンバ1内に放電を発生させることはできない。それにより、本フローチャートでは、ステップ103において、スロットル弁の開度Aを通常の始動時開度A1から設定量aだけ小さくし、ステップ104において、燃料噴射を開始することなくスタータモータにより機関駆動して点火時期においてプラズマ点火装置のチャンバ1内の放電を開始するモータリングを実施する。
【0023】
モータリング時においては、燃焼が実施されないためにスロットル弁の開度を小さくして吸気量を減少させても特に問題はなく、吸気量の減少により圧縮行程末期の点火時期における筒内圧力が低くなって放電し易くなるために、冷間始動時であっても、小型化された電源部により発生可能な電圧によりプラズマ点火装置のチャンバ1内に放電を発生させることができる。
【0024】
こうして、各気筒において数回の点火時期での放電が実施されれば、各プラズマ点火装置のチャンバ1内の温度が高まり、筒内圧力が高くても小型化された電源部により発生可能な電圧でプラズマ点火装置のチャンバ1内に放電を発生させることができるようになり、ステップ105において、スロットル弁の開度Aは通常の始動時開度A1とされ、ステップ106において燃料噴射時期(例えば、吸気非同期ポート噴射の場合には膨張行程、吸気同期ポート噴射の場合には吸気行程、筒内噴射の場合には吸気行程又は圧縮行程)となっている気筒から燃料噴射を開始し、圧縮行程末期の点火時期においてプラズマ点火装置の点火を開始する。
【0025】
このような制御により、冷間始動時であっても、放電のために非常に高い電圧は必要なく、プラズマ点火装置の電源部の小型化が可能となる。第一フローチャートにおいて、スロットル弁の始動時開度A1は、早期暖機のために、温間始動時に比較して冷間始動時(THW<=THW1)には大きくするようにしても良く、また、冷却水温THWが低いほど大きくするようにしても良い。
【0026】
図4は、図3に代えて実施される第二フローチャートであり、第一フローチャートとの違いについてのみ以下に説明する。第二フローチャートにおいては、ステップ203において、吸気弁の閉弁時期VCは、通常の始動時閉弁時期VC1から設定値bだけ遅角しており、また、温間始動時及びモータリングの終了後には、ステップ205において、吸気弁の閉弁時期VCは通常の始動時閉弁時期VC1としている。
【0027】
それにより、モータリング時においては、吸気弁の閉弁時期の遅角により、一部の吸気が吸気ポートへ戻されて吸気量が減少し、圧縮行程末期の点火時期における筒内圧力が低くなることに加えて、実圧縮比も低下して圧縮行程末期の点火時期における筒内圧力がさらに低くなって、さらに放電し易くなるために、冷間始動時であっても、さらに低い電圧でプラズマ点火装置のチャンバ1内に放電を発生させることができる。こうして、第二フローチャートの制御によれば、プラズマ点火装置の電源部のさらなる小型化も可能となる。
【0028】
第二フローチャートにおいて、可変動弁機構によっては、吸気弁の閉弁時期VCの遅角と同時に吸気弁の開弁時期も遅角されることとなるが、例えば、吸気弁が電磁又は油圧アクチュエータ等により駆動される場合には、吸気弁の閉弁時期だけを遅角するようにすることも可能である。
【0029】
第一及び第二フローチャートの制御において、モータリング中におけるプラズマ点火装置の放電は、圧縮行程末期の点火時期だけとしたが、さらに、圧縮行程末期以外の時期(吸気行程、末期を除く圧縮行程、膨張行程、排気行程)は点火時期より筒内圧力が低く放電し易いために、追加してプラズマ点火装置の放電を実施しても良く、それにより、プラズマ点火装置のチャンバ1内の温度を早期に高めることができ、モータリング期間を短縮することができる。
【0030】
また、モーリング中においては、排気弁を閉弁させたままとすることが好ましい。それにより、圧縮行程において圧縮して温度を高めた筒内の吸気は、排気系に排出せず、排気行程末期の吸気弁の開弁により吸気系へ逆流するが、吸気行程において再び筒内へ吸入され次の圧縮行程において再び圧縮されて温度がさらに高められ、このように高められた吸気温度によりプラズマ点火装置のチャンバ1内の温度を早期に高めることができ、モータリング期間を短縮することができる。
【0031】
また、モータリング中において吸気弁及び排気弁がいずれも開弁するバルブオーバーラップ期間を長くするようにすれば、圧縮行程において圧縮により温度が高められた吸気は、吸気系へ逆流して再び筒内へ吸入され、また、排気系へ排出しても一部は筒内へ戻され、筒内へ残留する量が増大するために、次の圧縮行程において再び圧縮されて温度がさらに高められ、このように高められた吸気温度によりプラズマ点火装置のチャンバ1内の温度を早期に高めることができ、モータリング期間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 チャンバ
2 絶縁体
3 中心電極
4 接地電極
5 噴孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関温度が設定温度以下である場合の冷間始動時において、燃料噴射を開始する前にプラズマ点火装置の放電を開始するモータリングを実施し、前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気量を減少させることを特徴とするプラズマ点火装置を備える内燃機関。
【請求項2】
前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較してスロットル弁の開度を小さくして吸気量を減少させることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関。
【請求項3】
前記モータリングの実施中には燃料噴射の開始後に比較して吸気弁の閉弁時期を遅角して吸気量を減少させることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ点火装置を備える内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−180788(P2010−180788A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25313(P2009−25313)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】