説明

ポリ乳酸樹脂シートの製造方法及びそれに使用する製造装置

【課題】本発明は、耐熱性及び印刷性に優れたポリ乳酸樹脂シートの製造方法及びそれに使用する製造装置を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶質シートを得る工程(1)、非晶質シートを冷却媒体に圧着しながら該ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷する工程(2)、非晶質シートを加熱媒体で該ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱して結晶化シートを得る工程(3)及び結晶化シートを単位面積当たり3J/cm2 以上のコロナ放電処理量でコロナ放電処理する工程(4)からなるポリ乳酸樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び印刷性に優れたポリ乳酸樹脂シートの製造方法及びそれに使用する製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸系樹脂は生分解性樹脂であり、自然界で殆ど分解されないポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂とは異なり、土壌中、海水中等に放棄された場合1〜数年で乳酸、炭酸ガス、水等に分解されてしまうので、環境に優しい高分子樹脂として盛んに研究されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は硬くて脆く、可撓性が不足しており、シートやフィルムの製造には適していなかったので、この欠点を改良するため種々の提案がなされている。例えば、ポリ乳酸樹脂と、可塑剤と、結晶核剤とを含有する樹脂組成物から、シート又はフィルムを成形する生分解性樹脂成形品の製造法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【特許文献1】特開2007−130893号公報
【0004】
上記製造方法では柔軟性、感温性及び耐熱性に優れた生分解性樹脂のシート及びフィルムを生産性良く製造することができると記載されている。しかし、上記製造方法では第1ロールからのシートの剥離性が十分ではなく、より安定的にポリ乳酸樹脂シートを連続成形することが求められていた。又、上記ポリ乳酸樹脂シートは印刷性能が十分ではなく、印刷の必要な用途には更なる改善が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、耐熱性及び印刷性に優れたポリ乳酸樹脂シートの製造方法及びそれに使用する製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造方法は、ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を用いるポリ乳酸樹脂シートの製造方法であって、下記工程(1)〜(4)からなることを特徴とする。
工程(1):ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポ リ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶 質シートを得る工程。
工程(2):工程(1)で得られた非晶質シートを冷却媒体に圧着しながら該ポリ乳酸 樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷する工程。
工程(3):工程(2)で得られた非晶質シートを加熱媒体で該ポリ乳酸樹脂のガラス 転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱して結晶 化シートを得る工程。
工程(4):工程(3)で得られた結晶化シートを単位面積当たり3J/cm2 以上の コロナ放電処理量でコロナ放電処理する工程。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造方法の構成は上述の通りであり、耐熱性及び印刷性に優れたポリ乳酸樹脂シートを連続的に製造することができる。又、本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造装置の構成は上述の通りであり、耐熱性、印刷性及び透明性に優れたポリ乳酸樹脂シートを連続的に製造するのに好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[ポリ乳酸樹脂]
本発明で使用されるポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。好ましいポリ乳酸の分子構造は、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位20〜100モル%とそれぞれの対掌体の乳酸単位0〜20モル%からなるものである。又、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%とヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%からなるものである。これらのポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0009】
市販されているポリ乳酸系樹脂としては、例えば、三井化学社製、商品名「レイシア」シリーズ、ネイチャーワークス社製、商品名「Natureworks」シリ−ズ、トヨタ自動車製、商品名「U’z」シリーズ等が挙げられる。
【0010】
[可塑剤]
本発明に用いられる可塑剤としては、一般に乳酸系樹脂に用いられる可塑剤であれば特に限定されないが、分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜9、更に3〜9の化合物が好ましい。このような化合物としては、多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル、多価アルコールのアルキルエーテルエステル等が挙げられる。
【0011】
又、可塑剤の平均分子量は、耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、250〜700が好ましく、より好ましくは300〜600であり、更に好ましくは350〜550であり、特に好ましくは400〜500である。尚、平均分子量はJIS K0070に従って鹸化価を求め、次の式で計算する。
平均分子量=56108×(エステル基の数)/鹸化価
【0012】
上記可塑剤の中では、ポリ乳酸樹脂シートの成形性、耐衝撃性に優れる観点から、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜4のエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とベンジルアルコール、メチルジグリコールとのエステル、アジピン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル等の多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル;酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜9モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜9のポリエチレングリコールとのエステル等の多価アルコールのアルキルエーテルエステル等がより好ましい。ポリ乳酸樹脂シートの成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性に優れる観点から、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜6モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜6のポリエチレングリコールとのエステルがさらに好ましい。生分解性樹脂成形品の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性、耐揮発性及び耐刺激臭の観点から、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜6モル付加物とのエステルが特に好ましい。これらの可塑剤は単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
尚、本発明のエステルは、可塑剤としての機能を十分発揮させる観点から、全てエステル化された飽和エステルであることが好ましい。
【0014】
[結晶核剤]
本発明に用いられる結晶核剤は、結晶化速度と耐熱性、透明性の観点から、結晶核剤分子中にエステル基、水酸基及びアミド基から選ばれる少なくとも1種の基を2つ以上有する脂肪族化合物が好ましく、水酸基を1つ以上有し、エステル基又はアミド基を1つ以上有する脂肪族化合物がより好ましく、水酸基を2つ以上有し、エステル基又はアミド基を1つ以上有する脂肪族化合物が更に好ましく、水酸基を2つ以上有し、エステル基又はアミド基を2つ以上有する脂肪族化合物が特に好ましい。
結晶核剤の融点は、65℃以上が好ましく、70℃〜220℃が好ましく、80〜190℃がより好ましい。
【0015】
上記脂肪族化合物によって、本発明の効果がより向上する理由は定かではないが、上記の官能基を2つ以上有すると、ポリ乳酸樹脂との相互作用が良好となり、相溶性が向上する結果、樹脂中で微分散することによるものと考えられ、恐らく、水酸基を1つ以上、好ましくは2つ以上有することによりポリ乳酸樹脂への分散性が良好となり、エステル基又はアミド基を1つ以上、好ましくは2つ以上有することによりポリ乳酸樹脂への相溶性が良好となるものと考えられる。結晶核剤の融点は、熱処理温度より高く、樹脂組成物の混練温度以下であると、混練時に結晶核剤が溶解することによってその分散性が向上し、熱処理温度より高いと結晶核生成の安定化や、結晶化速度向上の観点でも好ましい。また、上記好ましい結晶核剤は、樹脂溶融状態から冷却過程で速やかに微細な結晶を多数析出するものと考えられ、透明性、結晶化速度向上の観点でも好ましい。
【0016】
本発明に用いられる結晶核剤としては、脂肪族エステル、脂肪族アミド等が挙げられ、脂肪族エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド等の脂肪酸エステル、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等のヒドロキシ脂肪酸エステル;脂肪族アミドとしては12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド等の脂肪族ビスアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド等の脂肪族トリアミドなどが挙げられる。ポリ乳酸樹脂シートの成形性、耐熱性、耐衝撃性及び結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミドが好ましく、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、エチレビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミドがより好ましく、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドがさらに好ましく、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0017】
本発明の結晶核剤をポリ乳酸樹脂に添加する場合、優れた透明性を維持することができる。
【0018】
[ポリ乳酸樹脂組成物]
本発明で使用されるポリ乳酸樹脂組成物は、上記ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するものである。
【0019】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上である。
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、十分な結晶化速度と耐衝撃性を得る観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、5〜70重量部が好ましく、7〜50重量部がより好ましく、10〜40重量部がさらに好ましい。
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中の結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.1〜5重量部が好ましく、0.2〜4重量部が更に好ましく、0.3〜3重量部が特に好ましい。
【0020】
上記ポリ乳酸樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、滑剤等が添加されてもよい。
【0021】
上記無機充填剤としては、例えば、タルク、スメクタイト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等のケイ酸塩、シリカ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物を含有することができる。これら無機充填剤の平均粒径は、分散性の観点から0.1〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。これらの無機充填剤の中でも、ポリ乳酸樹脂シートの成形性及び耐熱性の観点からケイ酸塩が好ましく、タルクおよびマイカがより好ましい。
これら無機充填剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.1〜30重量部が好ましく、0.5〜20重量部が更に好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。
【0022】
上記加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられる。ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられ、モノカルボジイミド化合物としては、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0023】
上記カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸樹脂シートの耐久性を満たすために、単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)はカルボジライトLA−1(日清紡績(株)製)を、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド及びポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミドはスタバクゾールP及びスタバクゾールP−100(Rhein Chemie社製)を、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドはスタバクゾールI(Rhein Chemie社製)をそれぞれ購入して使用することができる。
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物中の加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂シートの成形性および透明性の観点から、ポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.05〜7重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましい。
【0024】
上記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、フォスファイト系の酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0025】
上記滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス等の炭化水素系ワックス類、ステアリン酸等の脂肪酸類、グリセロールエステル等の脂肪酸エステル類、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸類、モンタン酸ワックス等のエステルワックス類、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の芳香環を有するアニオン型界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のアルキレンオキサイド付加部分を有するアニオン型界面活性剤等が挙げられる。これら滑剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0026】
本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外の他の成分として、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤等を、本発明の目的達成を妨げない範囲で含有することができる。
【0027】
[ポリ乳酸樹脂シートの製造法]
本発明における最初の工程は、ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶質シートを得る工程(1)である。溶融押出温度はポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を均一に溶融混練してシート状に溶融押出できる温度であり、ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度であればよいが、ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)は一般に約165℃なので、170℃〜220℃が好ましい。又、溶融押出方法は特に限定されず、一般に熱可塑性樹脂シートの押出成形に使用されている押出機で溶融押出するのが好ましい。
【0028】
本発明における2番目の工程は、溶融押出された非晶質シートを冷却媒体に圧着しながら該ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷する工程(2)である。
【0029】
溶融押出された非晶質シートを急冷するので、ポリ乳酸樹脂は結晶化されることなく非晶質のまま冷却され、溶融混練時に溶解され均一に分散されていた結晶核剤は冷却された非晶質のポリ乳酸樹脂中に均一に分散された状態で固体化される。また、本発明において、非晶質の状態としては結晶化度において5%以下が好ましい。
尚、ポリ乳酸樹脂シートの結晶化度は、広角X線回折測定装置(理学電機製 RINT2500VPC ,光源CuK α,管電圧40kV,管電流120mA )を使用し、2θ=5〜30°の範囲の非晶及び結晶のピーク面積を解析し、それぞれの面積比から求められる。
【0030】
冷却された非晶質シートの温度はポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度であればよいが、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)は約60℃であるので、15〜50℃が好ましく、より好ましくは15〜30℃である。又、処理時間は非晶質シートの温度がポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度になる時間であれば特に限定されないが、非晶質を維持する観点から、短時間で冷却するのが好ましく、1〜60秒が好ましく、より好ましくは3〜45秒である。
【0031】
溶融押出された非晶質シートを冷却媒体に圧着させる方法としては、ロール、金属ベルト、エアーナイフまたは静電印加等が挙げられ、シートの冷却媒体への圧着性および温度上昇抑制の観点から、静電印加が好ましい。
【0032】
工程(2)で、溶融押出された非晶質シートを冷却媒体に圧着することにより、シートの冷却効率が向上するとともに、冷却された非晶質シートの冷却媒体に対する密着性が向上するため、ポリ乳酸樹脂シート中の組成物がシート表面に析出することが防止され、冷却ロール3へのプレートアウトが抑制される。その結果、シートの剥離性が向上し、連続生産が可能となる。尚、プレートアウトとは、冷却ロール3へ組成物が堆積することを表す。
【0033】
本発明における3番目の工程は、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に冷却された非晶質シートをポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱して結晶化シートを得る工程(3)である。
【0034】
上記冷却された非晶質シートをポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱するとポリ乳酸樹脂が結晶化し耐熱性に優れたポリ乳酸樹脂シートが得られる。加熱温度はポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の範囲であればよいが、連続的に製造するには結晶化速度が速いほうが好ましいので70〜110℃が好ましく、より好ましくは75〜95℃である。又、処理時間は非晶質シートの温度がポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱される時間であれば特に限定されないが、短時間で加熱するのが好ましく、5〜60秒が好ましく、より好ましくは8〜45秒である。
【0035】
結晶化されたポリ乳酸樹脂シートの結晶化度は、耐熱性の観点から、広角X線回析法で測定される結晶化度において20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。又、上記冷却された非晶質シートにおいては、非晶質のポリ乳酸樹脂中に結晶核剤が均一に分散されているので、ポリ乳酸樹脂は速やかに結晶化され、結晶は微細であり、シート中に均一に分散しているため、得られたポリ乳酸樹脂シートは透明性が優れており、ヘイズ値が20%以下のポリ乳酸樹脂シートが得られる。
【0036】
本発明における4番目の工程は、工程(3)で得られた結晶化シートを単位面積当たり3J/cm2 以上のコロナ放電処理量でコロナ放電処理する工程(4)である。通常、結晶化されたポリ乳酸樹脂シートは印刷性が悪いが、上記コロナ放電処理量で処理することにより改善される。
【0037】
上記コロナ放電処理は、絶縁された電極と対極が設置されたコロナバーとの間にポリ乳酸樹脂シートを通し、この間に高周波、高電圧を印加することにより行われる。コロナ放電処理は、空気雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、窒素酸素混合ガス雰囲気下等で行うことができる。
【0038】
コロナ放電処理条件は、結晶化されたポリ乳酸樹脂シートの印刷性が改善させる観点から、単位面積当たりのコロナ放電処理量が多いほうが好ましく、3J/cm2 以上が必要であり、好ましくは4〜10J/cm2 であり、より好ましくは5〜10J/cm2 である。
【0039】
尚、コロナ放電処理条件はコロナバーの長さを含め同じ装置を使用している限り、コロナ出力、処理速度の2つのパラメーターで略決定できる。コロナ放電処理量は次の式により計算できる。
コロナ放電処理量(J/cm2 )=コロナ出力(W)÷コロナバー長(cm)÷処理速度(cm/sec)
【0040】
結晶化されたポリ乳酸樹脂シートの印刷性は、急冷する工程(2)においてシートを冷却ロール等へ圧着する方法および工程(4)においてコロナ放電処理する方法を組み合わせることにより、さらに向上させることができる。
【0041】
上記の方法を組み合わせることにより、結晶化されたポリ乳酸樹脂シートの印刷性がさらに向上する理由は定かではないが、急冷する工程(2)においてシートを冷却ロール等へ圧着することにより、ポリ乳酸樹脂組成物中に含まれる結晶核剤がシート表面に析出することを抑制されるため、また、工程(4)においてコロナ放電処理すると、シート表面の極性が向上し易くなり、その結果、インキのシート表面への印刷性(着肉性)が向上するものと考えられる。
【0042】
本発明の製造方法で製造されるポリ乳酸樹脂シートに使用できる印刷用インキは、特に限定されないが、例えばトルエン等の溶剤含有またはノントルエンのグラビアインキまたはフレキソインキ、大豆油インキまたはUV硬化型インキ及びそれらの水なしインキ等のオフセットインキまたはスクリーンインキ等が挙げられる。
【0043】
本発明の製造方法で製造されるポリ乳酸樹脂シートに使用できる印刷方法は、特に限定されないが、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷およびインクジェット印刷等が挙げられる。
【0044】
本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造方法では、上記溶融押出する工程(1)、急冷する工程(2)、結晶化シートを得る工程(3)及びコロナ放電処理する工程(4)を組み合わせることにより、耐熱性、印刷性および透明性に優れたシートを安定的に連続生産することが可能となる。
【0045】
上記溶融押出する工程(1)、急冷する工程(2)、結晶化シートを得る工程(3)及びコロナ放電処理する工程(4)において使用される押出機、冷却装置、圧着装置、加熱装置及びコロナ放電装置は従来公知の装置が使用されればよく、本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造装置は、ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を用いるポリ乳酸樹脂シートの製造装置であって、下記装置(1)〜(4)からなることを特徴とする。
装置(1):ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポ リ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶 質シートを得るための押出機。
装置(2):装置(1)の下流側に設置され、装置(1)で得られた非晶質シートを該 ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷するための冷却 媒体及び非晶質シートを冷却媒体に圧着するための圧着装置よりなる冷却 装置。
装置(3):装置(2)の下流側に設置され、冷却された非晶質シートを該ポリ乳酸樹 脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸系樹脂の融点(Tm)の温度に 加熱して結晶化するための加熱装置。
装置(4):装置(3)の下流側に設置され結晶化されたシートをコロナ放電処理する ためのコロナ放電装置。
【0046】
装置(1)は、熱可塑性樹脂の押出成形の際に使用されている従来公知の任意の押出機が使用可能であり、例えば、一軸押出機、二軸押出機等があげられ、ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を、該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融混練し、シート状に溶融押出して非晶質シートを製造する。
【0047】
装置(2)は、押出機の下流側に設置された冷却媒体と圧着装置よりなる冷却装置であり、押出機から押出成形された非晶質シートを圧着装置により冷却媒体に圧着し、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷する。
【0048】
装置(2)における、冷却媒体としては、冷却ロールまたは冷却金属ベルト等が挙げられ、冷却効率の観点から、冷却ロールが好ましい。また、冷却効率の観点から、送風装置や水槽等を併用しても良い。
【0049】
上記冷却媒体の温度はポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度であればよいが非晶質シートを効率よくポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に冷却するには15〜50℃が好ましく、より好ましくは15〜30℃である。
【0050】
装置(2)における、圧着装置としては、ロール、金属ベルト、エアーナイフ、静電圧着装置等が挙げられる。シートのロールへの圧着性および温度上昇抑制の観点から、静電圧着装置が好ましい。
【0051】
装置(3)は冷却された非晶質シートを該ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱して結晶化するための装置であり、非晶質シートを該ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱しうる加熱装置であれば、特に限定されず、例えば、ロール、金属ベルト等があげられ、ロールが好ましい。
【0052】
上記加熱装置がロールの場合は、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱されている結晶化ロールとガイドロールよりなり、ガイドロールで冷却された非晶質シートを押圧することにより、非晶質シートが初めて結晶化ロールに圧着されるようになされているのが好ましい。即ち、非晶質シートが結晶化ロールに同時に且つ均一に圧着されないと(非晶質シートの一部が浮いていると)ポリ乳酸樹脂の結晶化速度が異なりフレアーが発生して均一なシートが得られないので、ガイドロールを非晶質シートの送り方向に対して垂直方向に設置し、ガイドロールで非晶質シートを結晶化ロール方向に押圧し、非晶質シートを初めて結晶化ロールに接触するように圧着するのが好ましい。
【0053】
上記結晶化ロールの温度はポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度であればよいが、連続的に製造するには結晶化速度が速いほうが好ましいので70〜110℃が好ましく、より好ましくは75〜95℃である。
【0054】
次に、本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造装置の一例を図面を参照して説明する。図1は本発明のポリ乳酸樹脂シートの製造装置の一例を示す説明図である。図中1は押出機であり、2は押出機1の吐出口に接続されシートを押出すためのTダイである。Tダイ2の下方前方にポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に設定されている冷却ロール3が設置されている。冷却ロール3に対向して静電圧着装置4が設置されており、Tダイ2から供給された高温のポリ乳酸樹脂の非晶質シート10を冷却ロール3に圧着することが可能になっている。
【0055】
7は、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に設定されている結晶化ロールであり、結晶化ロール7に対向してガイドロール6が設置されている。ガイドロール6は冷却ロール3で冷却された非晶質シート11を結晶化ロール7に一定圧力で押圧できるように賦勢されている。従って、冷却された非晶質シート11をガイドロール6で結晶化ロール7に押圧することにより、非晶質シート11は初めて結晶化ロール7に圧着されるようになされている。
【0056】
8は、結晶化ロール7の下流側に設置され、結晶化されたシート12の表面をコロナ放電処理するためのコロナ放電装置であり、コロナ放電処理することにより印刷性が向上した結晶化されたポリ乳酸樹脂シート13が得られる。
【0057】
5、51、52は非晶質シート11及び結晶化されたポリ乳酸樹脂シート12を送るためのガイドロールである。尚、冷却ロール3、結晶化ロール7、ガイドロール5、6、51、52及び静電圧着装置4はポリ乳酸樹脂シート12(非晶質シート11)の送り方向と直角になるように設置されている。
【0058】
押出機1においてポリ乳酸樹脂組成物をポリ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融混練し、Tダイ2からシート状に溶融押出することにより加熱された非晶質シート10を得る。次に、加熱された非晶質シート10を静電圧着装置4で冷却ロール3に圧着して、冷却ロール3によりポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷して冷却された非晶質シート11を得る。
【0059】
次いで、冷却された非晶質シート11をガイドロール5、51、6により下流側に送って結晶化ロール7に供給する。冷却された非晶質シート11をガイドロール6で結晶化ロール7に均一に圧着して結晶化ロール7により非晶質シート11をポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜ポリ乳酸系樹脂の融点(Tm)の温度に加熱してポリ乳酸樹脂を結晶化して結晶化されたシート12を得る。非晶質シート11はガイドロール6により初めて接するように結晶化ロール7に均一に圧着されるので、非晶質シート11はその幅方向において均一に加熱されフレアーが発生することがなく、均一に結晶化が進み、シート全体の透明性のばらつきがない。
【0060】
結晶化されたシート12をガイドロール52で下流側に送り、その表面をコロナ放電装置8によりコロナ放電処理することにより印刷性が改善されたポリ乳酸樹脂シート13を得る。
【実施例】
【0061】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0062】
以下の実施例及び比較例で用いる生分解性樹脂組成物をまとめて表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
*1:ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製、LACEA H−400)
*2:グリセリンのエチレンオキサイド平均6モル付加物のトリ酢酸エステル
*3:エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド
(日本化成(株)製、スリパックス H)
*4:コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル
*5:ポリカルボジイミド(日清紡績(株)製、カルボジライトLA−1)
*6:ポリ乳酸樹脂(トヨタ自動車(株)製、Eco Plastic U’z S-09)
*7:モノカルボジイミド(Rhein Chemie社製、スタバクゾール−1)
*8:アジピン酸とベンジルアルコールおよびメチルジグリコールとのエステル
(大八化学工業(株)製、DAIFATTY−101)
*9:ステアリン酸モノアミド(花王(株)製、脂肪酸アマイドS)
【0065】
実施例1〜6、比較例1〜7
ポリ乳酸樹脂組成物として表1に示すA〜Fを、2軸押出機(ベルストルフ ZE40A)を使用して、シリンダーおよびダイの温度が180〜190℃の条件で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0066】
得られたペレットは、70℃、減圧下で1日乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
そのペレットを図1に示したポリ乳酸樹脂シートの製造装置を用いてポリ乳酸樹脂シートを製造した。
【0067】
押出機1(直径70mmの一軸押出機)に上記ペレットを供給し、180℃で溶融混練して厚さ0.3mmの非晶質シート10をT−ダイ2から押出し、表2に示す表面温度(25℃)に制御した冷却ロール3に接触させた。このとき非晶質シート10を静電圧着装置4で冷却ロール3に圧着した場合(実施例1〜6及び比較例5〜7)または圧着しなかった場合(比較例1〜4)に分けて、冷却ロール3からの非晶質シート11の剥離性を下記の方法で評価した。
【0068】
剥離性の良好な非晶質シート11については、表2に示す表面温度(85℃または26℃)を有する結晶化ロール7により熱処理を行い、結晶化ロール7からのシート12の剥離性を下記の方法で評価した。
【0069】
剥離性の良好なシート12については、表2に示すシートのライン速度で、そのシート表面をコロナ放電処理装置8により、表2に示す処理量で処理を行った。
【0070】
各ポリ乳酸樹脂組成物の成形性(冷却ロール3からの非晶質シート11の剥離性及び結晶化ロール7からのシート12の剥離性)の評価結果を表2に示す。
また、実施例1〜6、及び比較例4〜6で得られたシートについて下記の方法で測定した結晶化度、透明性、耐ブロッキング性、耐熱性及びインキ着肉性を表3に示す。
【0071】
<冷却ロール3からの非晶質シート11の剥離性>
冷却ロール3からの非晶質シート11の剥離性評価については、剥離不良が発生した時間間隔を基に下記の基準により評価した。
○:剥離不良が発生しない。
△:数分〜十数分間隔で剥離不良が発生する。
×:数秒で剥離不良が発生する。
【0072】
<結晶化ロール7からのシート12の剥離性>
結晶化ロール7からのシート12の剥離性評価については、下記の基準で目視により評価した。
○:結晶化ロールから均一に剥離する。
△:部分的に結晶化ロールに粘着し、均一に剥離し辛い。
×:結晶化ロールに粘着して成形不可能。
【0073】
<結晶化度>
成形後のシートについて、広角X線回折測定装置(理学電機製 RINT2500VPC,光源CuKα,管電圧40kV,管電流120mA)を使用し、2θ=5〜30°の範囲の非晶及び結晶のピーク面積を解析し、それぞれの面積比から結晶化度を求めた。
【0074】
<透明性>
成形後のシートについて、JIS−K7105規定の積分球式光線透過率測定装置(ヘイズメーター)を用い、ヘイズ値を測定した。数字の小さい方が透明性が良好であることを示す。
【0075】
<耐ブロッキング性>
成形後のシートを縦6cm×横6cmの大きさに切り取り、2枚のサンプルを貼り合わせて10cm×10cm×厚み5mmのガラス板2枚に挟み込み、ガラスの上から1kgの錘で荷重をかけ、80℃に管理したオーブンに入れて4時間処理し、室温で放冷した後に、サンプルの剥離試験を行い、下記の基準で評価した。
◎:サンプル同士が粘着することなく、容易に剥離する。
○:サンプル同士が若干粘着するが、剥離後は再度粘着しない。
×:サンプル同士が粘着してしまい、剥離できない。
【0076】
<耐熱性>
成形後のシートについて、熱機械分析装置(島津製作所製、商品名「TMA−60」)を用い、JIS-K7196「熱可塑性プラスチックフィルムおよびシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」で規定される方法により軟化温度を測定し、下記の通り評価して耐熱性の指標とした。
○:120℃を超える温度で軟化する。
△:120℃〜70℃の範囲で軟化する。
×:70℃以下で軟化する。
【0077】
<インキ着肉性>
インキ展色装置((株)明製作所製、商品名「RIテスター RI-2型」)を用いて、成形後のシートに紫外線硬化型インキ((株)T&K TOKA製、商品名「ベストキュアーUV−VP藍」)を厚さ1μmに塗布し、紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、型番「UE031-361−01C」)により150mJ/cm2 のエネルギー量の紫外線を照射してインキ層を硬化させた。
24時間室温で養生した後、インキ塗布面に12mm幅の粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を手で押し付けて貼付し、直後に同一速度で一気に剥がした。 その際のインキ層の剥離状態を目視により観察し、下記で評価した。
× 完全にインキ層が剥離する。
△ 半分程度インキ層が剥離する。
○ 殆ど剥離しないが、微小な範囲で剥離が発生することがある。
◎ 剥離しない。
【0078】
【表2】



【0079】
表2のように本発明に用いるポリ乳酸樹脂組成物(A、B、C及びD)を、本発明の製造方法で図1に示した製造装置を用いてポリ乳酸樹脂シートを製造した結果、実施例1〜6が示すように、冷却ロール3および結晶化ロール7からのシートの剥離性は良好であり、シートを安定的に連続成形することができた。
【0080】
一方、本発明に用いるポリ乳酸樹脂組成物(B及びC)を、本発明の製造方法から冷却ロール3で静電圧着を行わずに製造した結果、比較例1及び2が示すように、冷却ロール3への非晶質シート10の密着性が悪化するため剥離不良が頻発し、シートの連続成形が不可能となった。また、本発明に使用しないポリ乳酸樹脂(E)では、冷却ロール3で静電圧着を行わなくてもシートの剥離性は良好であったが、比較例3が示すように、結晶化ロール7で85℃に加熱して製造した結果、シートが粘着し成形が不可能となった。さらに、本発明に使用しないポリ乳酸樹脂組成物(F)においても、結晶化ロール7で85℃に加熱して製造した結果、シートが粘着し成形が不可能となった。
尚、比較例4では、ポリ乳酸樹脂(E)のシートが結晶化ロール7に粘着しないように、結晶化ロールを加熱せず25℃で成形し、シートを得た。また、比較例5及び6では、本発明に使用するポリ乳酸樹脂組成物(A及びC)を、コロナ放電処理を行わないか、本発明のコロナ放電処理量以下の処理量で処理した以外は、本発明の製造方法でシートを得た。
【0081】
【表3】


【0082】
表3の実施例1〜6が示すように、本発明に使用するポリ乳酸樹脂組成物(A、B、C及びD)を、本発明の製造方法で図1に示した製造装置を用いて製造したポリ乳酸樹脂シートは、ポリ乳酸が微結晶化しているため、優れた透明性を維持したまま、結晶化度30%以上の結晶化を達成した。また、その結果、耐ブロッキング性や耐熱性も良好となった。
さらに、本発明のコロナ放電処理量で、シート表面を処理しているため、インキの着肉性も良好であった。
一方、比較例5及び6では、本発明に使用するポリ乳酸樹脂組成物(A及びC)を、コロナ放電処理を行わないか、本発明のコロナ放電処理量以下の処理量で処理した以外は、本発明の製造方法でシートを得たが、インキの着肉性のみ低下した。
また、比較例4では、ポリ乳酸樹脂(E)のシートが結晶化ロール7に粘着しないように、本発明の加熱温度範囲に該当しない温度(25℃)で成形しシートを得たが、本発明のコロナ放電処理量でシート表面を処理したため、インキの着肉性は良好であった。しかし、得られたシートの透明性は良好であったものの、ポリ乳酸が結晶化していなかったため、耐ブロッキング性や耐熱性が不良となった。
【0083】
以上、本発明に用いるポリ乳酸樹脂組成物(A、B、C及びD)を、本発明の製造方法で図1に示した製造装置を用いてポリ乳酸樹脂シートを製造することにより、表2および表3の実施例1〜6に示すように、耐熱性、耐ブロッキング性およびインキ着肉性に優れた透明性の良好なシートを連続的に製造できるこが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のポリ乳酸系樹脂シートの製造装置の1例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1 押出機
2 Tダイ
3 冷却ロ−ル
4 静電圧着装置
5、6、51、52 ガイドロール
7 結晶化ロール
8 コロナ放電装置
10、11 非晶質シート
12、13 結晶化されたポリ乳酸樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を用いるポリ乳酸樹脂シートの製造方法であって、下記工程(1)〜(4)からなることを特徴とするポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
工程(1):ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポ
リ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶
質シートを得る工程。
工程(2):工程(1)で得られた非晶質シートを冷却媒体に圧着しながら該ポリ乳酸
樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷する工程。
工程(3):工程(2)で得られた非晶質シートを加熱媒体で該ポリ乳酸樹脂のガラス
転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸樹脂の融点(Tm)の温度に加熱して結晶 化シートを得る工程。
工程(4):工程(3)で得られた結晶化シートを単位面積当たり3J/cm2 以上の
コロナ放電処理量でコロナ放電処理する工程。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂組成物が、ポリ乳酸樹脂100重量部、可塑剤5〜70重量部及び結晶核剤0.1〜5重量部を含有することを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
急冷する工程(2)において、溶融押出された非晶質シートを15〜50℃に冷却することを特徴とする請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
結晶化シートを得る工程(3)において、冷却された非晶質シートを70〜110℃に加熱することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
コロナ放電処理する工程(4)において、単位面積当たりのコロナ放電処理量が4〜10J/cm2であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
可塑剤が、分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜9の化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
結晶核剤が、分子中にエステル基、水酸基及びアミド基から選ばれる少なくとも1種の基を2つ以上有する脂肪族化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリ乳酸樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を用いるポリ乳酸樹脂シートの製造装置であって、下記装置(1)〜(4)からなることを特徴とするポリ乳酸樹脂シートの製造装置。
装置(1):ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物を該ポ
リ乳酸樹脂の融点(Tm)以上の温度で溶融し、シート状に押出して非晶
質シートを得るための押出機。
装置(2):装置(1)の下流側に設置され、装置(1)で得られた非晶質シートを該 ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に急冷するための冷却 媒体及び非晶質シートを冷却媒体に圧着するための圧着装置よりなる冷却 装置。
装置(3):装置(2)の下流側に設置され、冷却された非晶質シートを該ポリ乳酸樹
脂のガラス転移温度(Tg)〜該ポリ乳酸系樹脂の融点(Tm)の温度に
加熱して結晶化するための加熱装置。
装置(4):装置(3)の下流側に設置され、結晶化されたシートをコロナ放電処理するためのコロナ放電装置。
【請求項9】
冷却媒体が、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)未満の温度に冷却されている冷却ロールであることを特徴とする請求項8記載のポリ乳酸樹脂シートの製造装置。
【請求項10】
圧着装置が、ロール、金属ベルト、エアーナイフ又は静電圧着装置であることを特徴とする請求項9記載のポリ乳酸樹脂シートの製造装置。
【請求項11】
装置(3)が、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)の温度に加熱されているロール又は金属ベルトよりなることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂シートの製造装置。
【請求項12】
装置(3)が、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)の温度に加熱されている結晶化ロールとガイドロールよりなり、冷却された非晶質シートをガイドロールで結晶化ロールに押圧することにより、非晶質シートが初めて結晶化ロールに圧着されるようになされていることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項記載のポリ乳酸樹脂シートの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−62410(P2009−62410A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229130(P2007−229130)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000198802)積水成型工業株式会社 (66)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】