説明

マスクの製造方法およびマスク製造装置

【課題】マスクの品質を向上させ欠陥を防止するとともに、マスクの生産性を向上させることができるマスクの製造方法およびマスク製造装置を提供する。
【解決手段】原子層堆積法を用い、基板S上にマスク材料の原子を堆積させて原子層堆積膜Aを形成する第一工程と、基板S上の原子層堆積膜Aを選択的に酸化または窒化する第二工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マスクの製造方法およびマスク製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属、酸化物、窒化物系の無機材料等により基板の表面を覆うマスクが知られている。このマスクは、基板をエッチングするエッチング液やエッチングガスに対する耐性を有するものである。このようなマスクの製造方法としては、例えば、約300℃以下の低温成膜条件においては、スパッタ法、蒸着法、プラズマCVD法等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−297516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のマスクの製造方法は、上記のような低温成膜条件において成膜されたマスクにピンホール等の欠陥を生じやすいという課題がある。マスクにピンホール等の欠陥を生じると、基板をエッチングする際にマスクの欠陥部にエッチング液やエッチングガスが浸透し、基板を浸食してしまう。
また、上記従来のマスクの製造方法は、マスクの材料が成膜装置のチャンバーの内壁等に付着しやすいという課題がある。このため、マスク材料の歩留まりの低下や、装置のメンテナンス頻度の増加等により、マスクの生産性を向上させることが困難であった。また、チャンバーの内壁に付着したマスク材料が剥がれてパーティクルを発生させ、マスクの品質を低下させる虞がある。
【0004】
そこで、この発明は、マスクの品質を向上させ欠陥を防止するとともに、マスクの生産性を向上させることができるマスクの製造方法およびマスク製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明のマスクの製造方法は、基板上にマスクを形成する方法であって、原子層堆積法を用い、前記基板上にマスク材料の原子を堆積させて原子層堆積膜を形成する第一工程と、前記基板上の前記原子層堆積膜を選択的に酸化または窒化する第二工程と、を有することを特徴とする。
このように製造することで、第一工程において基板上にマスク材料を一原子分堆積させ、従来、低温成膜条件において用いられていた成膜方法と比較して、緻密なマスク材料の膜を形成することができる。そして、基板上に形成された原子層堆積膜のみが、第二工程において酸化または窒化されて緻密なマスクとして形成される。また、原子堆積法においては、一原子分の原子層堆積膜が形成された後は、マスク材料の原子の堆積が進行しない。これにより、チャンバーの内壁等にマスク材料が堆積することが防止され、堆積したマスク材料が剥がれてパーティクルを発生することを防止できる。
したがって、本発明のマスクの製造方法によれば、従来の成膜方法と比較して緻密な原子層堆積膜を形成してマスクの品質を向上させ、欠陥を防止することができる。また、従来の成膜方法と比較してマスク材料の使用量を削減し、生産性を向上させることができる。
【0006】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第一工程と、前記第二工程とを交互に複数回行うことを特徴とする。
このように製造することで、第二工程で酸化または窒化された原子層堆積膜上に、続く第一工程でマスク材料をさらに一原子分堆積させることができる。このとき、上述のように、第二工程においては基板以外の場所に堆積した原子層堆積膜は酸化または窒化されないので、マスク材料は基板以外の場所に一原子分以上堆積されることがない。
さらに、続く第二工程で、基板上の酸化または窒化された原子層堆積膜上に堆積した新たな原子層堆積膜が酸化または窒化される。このように、第一工程と第二工程を交互に繰り返し行うことで、基板上に酸化または窒化された原子層堆積膜が積層されていく。また、万一原子層堆積膜に欠陥があった場合でも、原子層堆積膜を積層することで、欠陥にマスク材料の原子が充填されて補修される。
したがって、本発明のマスクの製造方法によれば、基板上の原子層堆積膜を選択的に酸化または窒化させ、マスクの膜厚をマスク材料の一原子分よりも大きい所望の膜厚に形成し、欠陥のない緻密なマスクを形成することができる。
【0007】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第二工程は、前記基板上にプラズマを生成することにより行うことを特徴とする。
このように製造することで、基板上の原子層堆積膜を酸素または窒素のイオンやラジカルと反応させ、基板上の原子層堆積膜を選択的に酸化または窒化することができる。
【0008】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記プラズマは、13.56MHz以上の周波数の交流電圧により生成することを特徴とする。
このように製造することで、プラズマを基板から離れた位置に生成させ、基板表面の電子温度を低下させることができる。これにより、原子層堆積膜に欠陥が発生することを防止し、緻密なマスクを形成することができる。
【0009】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第一工程の後、前記第二工程の前に、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガスにより置換する工程を有することを特徴とする。
このように製造することで、第一工程において使用したマスク材料の原子を含むガスを基板の周囲から確実に排除し、第二工程において基板上の原子層堆積膜を確実に酸化または窒化することができる。
【0010】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第一工程および前記第二工程は、1000Pa以下の圧力で行うことを特徴とする。
このように製造することで、マスクの品質を向上させることができる。また、蒸着法等、従来の成膜方法と比較して高い圧力を用いることで、マスクの製造を容易にして生産性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第一工程および前記第二工程は、前記基板の温度が−150℃以上300℃以下の温度範囲で行うことを特徴とする。
このように製造することで、基板上の原子層堆積膜の欠陥を防止し、マスクの品質を向上させることができる。
【0012】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記第二工程において、前記基板の表面の電子温度を5eV以下とすることを特徴とする。
このように製造することで、基板上の原子層堆積膜の欠陥を防止し、マスクの品質を向上させることができる。
【0013】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記マスク材料は、SiH、SiCl、SiCl、Si、Si2n+2(n>2)、Si−N結合を有するアミノシラン、アルキル・アルコキシド系の有機材料の中から選択される一種以上であることを特徴とする。
このように製造することで、第一工程において基板上にマスク材料のSi原子を堆積させて原子層堆積膜を形成することができる。また、第二工程において原子層堆積膜を酸化または窒化して、シリコン酸化物またはシリコン窒化物によりマスクを形成することができる。
【0014】
また、本発明のマスクの製造方法は、前記基板は、シリコンによって形成されていることを特徴とする。
このように製造することで、シリコン基板上に、従来の成膜方法と比較して欠陥のない緻密なマスクを形成することができる。したがって、シリコン基板をエッチングする際に、基板を高精度にエッチングすることができる。
【0015】
また、本発明のマスク製造装置は、基板上にマスクを形成するマスク製造装置であって、前記基板を載置する載置台と、前記載置台を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にガスを供給するガス供給装置と、前記チャンバー内を所定の圧力に維持する排気装置と、前記載置台上にプラズマを生成するプラズマ源と、を備え、前記ガス供給装置により前記チャンバー内に第一のガスを導入する処理と、前記排気装置により前記チャンバー内の前記第一のガスを排出する処理と、前記ガス供給装置により前記チャンバー内に第二のガスを導入する処理と、前記プラズマ源により前記第二のガスをプラズマ化する処理と、を実行する制御部を備えていることを特徴とする。
このように構成することで、第一のガスとしてマスク材料の原子を含むガスを用い、基板上にマスク材料を一原子分堆積させることができる。このため、CVD装置等、従来の成膜装置と比較して、基板上に緻密なマスク材料の膜を形成することができる。そして、第二ガスとして酸素または窒素を含むガスを用いることで、基板上の原子層堆積膜のみを、酸化または窒化させて緻密なマスクを形成できる。また、チャンバーの内壁等、基板以外の箇所には一原子分の原子層堆積膜が形成された後は、マスク材料の原子の堆積が進行しない。
したがって、本発明のマスク製造装置によれば、従来の成膜装置と比較して緻密な原子層堆積膜を形成してマスクの品質を向上させ、欠陥を防止することができる。また、従来の成膜装置と比較してマスク材料の使用量を削減し、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を適宜変更している。
【0017】
(マスク製造装置)
図1(a)に示すのは、本実施形態のマスク製造装置1の概略構成を示す断面図である。マスク製造装置1は、原子層堆積法を用い、基板S上に後述するエッチング用のマスクMを製造する装置である。
マスク製造装置1は、基板Sを載置するための載置台2を備えている。載置台2はチャンバー3に収容され、チャンバー3内に形成された基台4上に配置されている。載置台2にはシャフト5が固定されている。シャフト5は、駆動装置6により、図1(b)に示すように、軸方向に移動可能に構成されている。また、載置台2には、例えば、冷媒循環システム等の冷却手段ないし加熱手段(ヒータ等)を備えた温度調節手段が設けられている。
【0018】
チャンバー3には、チャンバー3内にガスを供給するためのガス供給口7と、チャンバー3内の気体を排出する排気口8が設けられている。チャンバー3は、ガス供給口7と排気口8を除いて密閉構造を有している。ガス供給口7は、配管9を介してガス供給装置10に接続されている。ガス供給装置10は、チャンバー3内に所望のガスを供給可能に構成されている。排気口8は、配管11を介して排気装置12に接続されている。排気装置12は、チャンバー3内の気体を排出し、チャンバー3内を所望の圧力に維持可能に構成されている。また、チャンバー3には、チャンバー3内の圧力を測定する圧力計Pが備えられている。また、図示は省略するが、チャンバー3には、チャンバー3を加熱するヒータ、基板Sの温度および電子温度を測定する温度計等が備えられている。
【0019】
チャンバー3内の載置台2に対向する領域には、電極13が形成されている。電極13は接地され、載置台2は13.56MHz以上の周波数の交流電圧を供給する交流電源14に接続されている。電極13および載置台2によって、載置台2上にプラズマPLを生成する平行平板型のプラズマ源が形成されている。
駆動装置6、ガス供給装置10、排気装置12、交流電源14、圧力計P、ヒータ、温度調節手段および温度計は、マスク製造装置1の制御部CTLに接続されている。制御部CTLは、記憶部Mおよび演算部CPU等を備え、圧力計Pおよび温度計からの信号を受信し、駆動装置6、ガス供給装置10およびプラズマ源を駆動させる交流電源14等に信号を伝送可能に構成されている。
【0020】
制御部CTLの記憶部Mには、図2に示すように、以下の(a)〜(f)の処理が記憶されている。
(a)排気装置12によりチャンバー3内を所定の圧力にする処理。
(b)ガス供給装置10によりチャンバー3内にマスク材料を含む原料ガスを導入し、原子層堆積法により基板S上に原子層堆積膜Aを成膜する処理。
(c)排気装置12によりチャンバー3内の原料ガスを排出するとともに、ガス供給装置10によりパージガスを供給してチャンバー3内をパージする処理。
(d)ガス供給装置10によりチャンバー3内に処理ガスを導入する処理。
(e)交流電源14によりプラズマ源に交流電圧を供給し、処理ガスをプラズマ化し、原子層堆積膜Aを酸化または窒化する処理。
(f)基板S上に形成されたマスクMの積層数Nを更新し、目標とする積層数Nと比較する処理。
これら(a)〜(f)の各処理は、マスク製造装置1の制御部CTLおよび上述の各装置により実行される。
【0021】
(マスクの製造方法)
次に、本実施形態のマスク製造装置1を用いたマスクの製造方法について説明する。
まず、図1(a)に示すように、載置台2に基板Sを載置し、載置台2に基板Sを固定する。基板Sは、例えば、シリコン(Si)によって形成されている。基板Sは、例えば、載置台に設けられた基板固定手段により、載置台2に固定する。
次いで、制御部CTLにマスクMの膜厚を入力する。演算部CPUは入力された膜厚に基づいて原子層堆積法による原子の積層数Nを算出する。
【0022】
次に、制御部CTLにより、図2に示す処理を開始する。まず、マスクMの積層数Nの初期値としてN=0が入力される(ステップa0)。次いで、演算部CPUは、図1(a)に示す排気装置12を駆動させ、チャンバー3内の気体を排気する(ステップa1)。そして、圧力計Pによりチャンバー3内の圧力を測定し(ステップa2)、予め設定されたチャンバー3の設定圧力と比較する(ステップa3)。ここで、設定圧力は、例えば、約1×10−5Pa以下とされている。制御部CTLは、チャンバー3内の圧力が設定圧力に達するまでチャンバー3内の気体を排出し、所定の圧力に達したときに排気装置12を停止させ、排気を停止する(ステップa4)。
また、制御部CTLは載置台2に設けられた温度調節手段により、基板Sの温度が−150℃以上300℃以下の温度範囲となるように制御する。
【0023】
次に、図3(a)に示すように、原子層堆積法を用いて基板S上にマスク材料の原子を堆積させ、原子層堆積膜Aを形成する(第一工程)。まず、制御部CTLによりガス供給装置10を駆動させ、マスク材料を含む原料ガスを生成する。原料ガスは、例えば、SiH、SiCl、SiCl、Si、Si2n+2(n>2)、Si−N結合を有するアミノシラン、アルキル・アルコキシド系の有機材料の中から選択される一種以上のマスク材料を昇華させることにより生成する。
【0024】
そして、図2に示すように、制御部CTLによりガス供給装置10を駆動させ、図1(a)に示すように、原料ガスを、配管9を介してガス供給口7からチャンバー3内に導入する(ステップb1)。このとき、制御部CTLによって原料ガスの流量および流入時間が制御され、流入時間が所定の値に達したときに、図2に示すように、原料ガスの供給を停止する(ステップb2)。また、制御部CTLはチャンバー3内の圧力が、約1000Paとなるように制御する。
これにより、図3(a)に示すように、基板S上にマスク材料の原子が一原子分堆積され、原子層堆積膜Aが形成される。
【0025】
上述のように、マスク材料としてSiを含む材料(Si化合物)を用いることで、原子層堆積法により、基板S上にSi原子を一原子分堆積させてSi化合物からなる原子層堆積膜Aを形成することができる。また、原子層堆積法を用いることで、従来の300℃以下の低温成膜条件において用いられていた成膜方法(スパッタ法、蒸着法等)と比較して、緻密なマスク材料の膜を形成することができる。
【0026】
また、載置台2に設けられた温度調節手段により、基板Sの温度が−150℃以上300℃以下の温度範囲となるように制御することで、基板S上に緻密な原子層堆積膜Aの欠陥を防止し、マスクMの品質を向上させることができる。
また、チャンバー3の内部の設定圧力を1000Pa以下とすることで、基板S上の原子層堆積膜Aを形成でき、欠陥を防止し、マスクMの品質を向上させることができる。また、蒸着法等、従来の成膜方法と比較して高い圧力を用いることで、マスクMの製造を容易にして生産性を向上させることができる。
【0027】
次に、図2に示すように、制御部CTLによりガス供給装置10および排気装置12に信号を伝送し、ガス供給装置10により、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスをパージガスとしてチャンバー3内に導入するとともに、排気装置12により、チャンバー3内の気体を排出する(ステップc1)。そして、圧力計Pの信号を制御部CTLにより受信し、チャンバー3内の圧力を測定する(ステップc2)。そして、測定した圧力を、予め設定された所定の圧力と比較する(ステップc3)。ここで、設定圧力は、例えば、約10−3〜10−6Pa程度とする。
【0028】
チャンバー3内の圧力が設定圧力に達したら、制御部CTLによりガス供給装置10に信号を伝送し、パージガスの導入を停止する(ステップc4)。
これにより、チャンバー3内の原料ガスを不活性ガスにより置換し、原子層堆積膜Aを形成する工程において使用した原料ガスを、基板Sの周囲から確実に排除できる。
【0029】
次に、図3(a)に示す基板S上の原子層堆積膜Aを選択的に酸化または窒化する(第二工程)。
まず、図2に示すように、制御部CTLによりガス供給装置10に信号を伝送し、配管9およびガス供給口7を介してチャンバー3内に処理ガスを導入する(ステップd1)。処理ガスとしては、原子層堆積膜Aを酸化させる場合は、例えば、O、O等を用い、原子層堆積膜Aを窒化させる場合は、例えば、N、NH等を用いる。また、制御部CTLによって処理ガスの流量およびチャンバー3内の圧力を制御し、チャンバー3内が所定の設定圧力に達したときに、制御部CTLによりガス供給装置10を停止させ、チャンバー3内への処理ガスの導入を停止する(ステップd2)。ここで、設定圧力は、例えば、約1000Pa以下の圧力とする。
【0030】
次に、図2に示すように、制御部CTLにより交流電源14に信号を伝送し、図1(b)に示すように、載置台2と電極13とにより構成されるプラズマ源に交流電圧を印加してプラズマPLを生成させる。これにより、基板S上の原子層堆積膜AをプラズマPLによるイオンやラジカルと反応させ、選択的に酸化または窒化させる(ステップe1)。ここで、プラズマ源には交流電源14により13.56MHz以上の周波数の交流電圧が印加される。
【0031】
このとき、制御部CTLによりプラズマPLの状態を制御することで、基板Sの表面の電子温度が5eV以下となるようにすることが好ましい。例えば、図1(b)に示すように、駆動装置6を駆動させて載置台2を昇降させ、電極13と載置台2との間隔Dを調整する。あるいは、交流電源14の電源周波数やチャンバー3内の圧力により調整してもよい。また、制御部CTLは載置台2に設けられた温度調節手段により、基板Sの温度が−150℃以上300℃以下の温度範囲となるように制御する。
【0032】
これにより、図3(a)に示すSiからなる原子層堆積膜Aが酸化または窒化され、図3(b)に示すように、シリコン酸化物またはシリコン窒化物からなるマスクMが形成される。
上述のように、原子層堆積膜Aを酸化または窒化する際に、基板S上にプラズマPLを生成することで、基板S上の原子層堆積膜Aを酸素または窒素のイオンやラジカルと反応させ、基板S上の原子層堆積膜Aを選択的に酸化または窒化することができる。
【0033】
次に、図2に示すように、制御部CTLはマスクの積層数Nに、上述の工程によって形成されたマスクの一層分を加えたN+1を積層数Nとして記録する(ステップf1)。次いで、制御部CTLはこの積層数Nと、入力された膜厚に基づいて算出した最終的な積層数Nとを比較する(ステップf2)。そして、制御部CTLは、積層数Nが最終的な積層数Nと等しくなるまで、図2に示す(a)〜(f)の処理を繰り返し実行する。
これにより、原子層堆積法を用い、基板S上にマスク材料の原子を堆積させて原子層堆積膜Aを形成する工程(第一工程)と、基板S上の原子層堆積膜Aを選択的に酸化または窒化する工程(第二工程)とが交互に複数回行われる。
【0034】
このように製造することで、図3(b)に示すように第二工程で原子層堆積膜Aが酸化または窒化され形成されたマスクM上に、続く第一工程で、図3(c)に示すように、さらにマスク材料を一原子分堆積させ、原子層堆積膜Aを積層することができる。このとき、上述のように、第二工程においては基板S以外の場所に堆積した原子層堆積膜Aは酸化または窒化されないので、マスク材料は基板S以外の場所に一原子分以上堆積されることがない。
【0035】
さらに、続く第二工程で、図3(d)に示すように、基板S上のマスクM上に堆積した新たな原子層堆積膜Aが酸化または窒化され、マスクMが形成される。このように、第一工程と第二工程を交互に繰り返し行うことで、基板S上にマスクMが積層されていく。また、マスクMに欠陥があった場合でも、マスクMを積層することで、欠陥にマスク材料の原子が充填されて補修される。したがって、マスクMの膜厚をマスク材料の一原子分よりも大きい所望の膜厚に形成し、欠陥のない緻密なマスクMを形成することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態のマスクMの製造方法によれば、従来の成膜方法と比較して緻密な原子層堆積膜Aを形成してマスクMの品質を向上させ、欠陥を防止することができる。また、従来の成膜方法と比較してマスク材料の使用量を削減し、生産性を向上させることができる。
【0037】
また、基板S上の原子層堆積膜Aのみを選択的に酸化または窒化することで、基板S上に形成された緻密な原子層堆積膜Aのみが酸化または窒化されて緻密なマスクMとして形成される。原子堆積法では、原子層堆積膜Aが一層ずつ堆積されるので時間がかかるが、緻密な原子層堆積膜Aが得られるので、マスクMを従来よりも大幅に薄くすることができる。したがって、マスクMの生産性を低下させることがない。また、マスク材料の使用量を削減することができる。
【0038】
加えて、原子堆積法においては、一原子分の原子層堆積膜Aが形成された後は、マスク材料の原子の堆積が進行しない。このため、チャンバー3の内壁等にマスク材料の原子が堆積した場合であっても、一原子層分以上は堆積しないので、従来の成膜方法と比較して、チャンバー3の内壁に付着するマスク材料を減少させることができる。
これにより、チャンバー3のメンテナンス頻度を低下させ、ほぼメンテナンスフリーとすることができる。また、マスク材料の歩留まりを向上させることができる。また、パーティクルの発生を防止することができる。
したがって、マスクMの製造における生産性を向上させ、製造コストを低下させ、品質を向上させることができる。
【0039】
また、プラズマPLを13.56MHz以上の周波数の交流電圧により生成することで、プラズマPLを基板Sから離れた位置に生成させ、基板Sの表面の電子温度を低下させることができる。これにより、原子層堆積膜Aに欠陥が発生することを防止し、緻密なマスクMを形成することができる。
特に、基板Sの表面の電子温度を5eV以下とすることで、基板S上の原子層堆積膜Aの欠陥をより確実に防止し、マスクMの品質をより向上させることができる。電子温度は、さらに低くすることが好ましい。3.5eVがより好ましく、2eV以下がさらに望ましい。電子温度を低下させることで、より緻密な原子層堆積膜Aを得ることができる。
【0040】
また、上述のようにチャンバー3内の原料ガスを不活性ガスにより置換した後に反応ガスを導入することで、基板S上の原子層堆積膜Aを反応ガスにより確実に酸化または窒化することができる。
また、シリコンによって形成された基板Sを用いることで、シリコンの基板S上に、従来の成膜方法と比較して欠陥のない緻密なマスクMを形成することができる。したがって、MEMS等の電子デバイスに広く用いられるシリコンの基板Sをエッチングする際に、基板Sを高精度にエッチングすることができる。
【0041】
(マスクの応用例)
次に、上述の実施形態のマスクの製造方法およびマスク製造装置1により製造したマスクMの応用例について説明する。本応用例は、インクジェット式記録ヘッドの製造に上述のマスクの製造方法およびマスク製造装置1を適用したものである。
図4は、インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。図5は、インクジェット式記録ヘッドの主要部一部断面図である。
【0042】
図4および図5に示すように、インクジェット式記録ヘッド100は、ノズル板110、圧力室基板120、振動板130および筐体140を備えて構成されている。
圧力室基板120は、キャビティ121、側壁122、リザーバ123および供給口124を備えている。キャビティ121は、圧力室であってシリコン等の基板をエッチングすることにより形成されるものである。側壁122は、キャビティ121間を仕切るよう構成され、リザーバ123は、各キャビティ121にインク充填時にインクを供給可能な共通の流路として構成されている。供給口124は、各キャビティ121にインクを導入可能に構成されている。
【0043】
振動板130は、圧力室基板120の一方の面に貼り合わせ可能に構成されている。振動板130には圧電体素子150が設けられている。圧電体素子150は、ペロブスカイト構造を持つ強誘電体の結晶であり、振動板130上に所定の形状で形成されて構成されている。ノズル板110は、圧力室基板120に複数設けられたキャビティ121の各々に対応する位置にそのノズル穴111が配置されるよう、圧力室基板120に貼り合わされている。ノズル板110を貼り合わせた圧力室基板120は、さらに、図4に示すように、筐体140嵌められて、インクジェット式記録ヘッド100を構成している。
【0044】
圧力室基板120は、上述の実施形態において説明したシリコンの基板Sに、上述のマスクの製造方法および製造装置によりマスクMを形成し、次いで、基板S上のマスクMをパターニングし、基板Sを、例えば、KOH(水酸化カリウム)水溶液等を用いてエッチングすることにより製造されている。このエッチングによって、シリコンの基板Sの(110)面が優先的にエッチングされ、圧力室基板120にキャビティ121、側壁122、リザーバ123および供給口124が形成される。
【0045】
この圧力室基板120の製造に上述の実施形態において説明したマスクの製造方法およびマスク製造装置1を適用することで、基板S上に従来の成膜方法と比較して緻密で高品質な欠陥のないマスクMが形成される。したがって、KOH等のエッチング液が、マスクMの欠陥から浸透することを防止し、基板Sを精密にエッチングすることができる。これにより、圧力室基板120の製造における加工精度を向上させ、欠陥を防止して、インクジェット式記録ヘッド100の性能を向上させ、生産性を向上させることができる。
【0046】
尚、この発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、プラズマ源としては、上述の平行平板型のプラズマ源以外にも、電極に波長の1/4のアンテナを備えた誘導結合型のプラズマ源や、スロットアンテナプラズマ源等、公知のプラズマ源を用いることができる。
【0047】
また、上述の第一工程の後に、基板の周囲の雰囲気を不活性ガスにより置換する工程は、処理ガスとして窒素ガス等、窒素を含む不活性ガスを用いることで省略してもよい。
また、基板の材料はシリコンに限られず、マスク材料は上述の実施形態で説明した材料以外の材料を用いてもよい。
また、本発明のマスクの製造方法および製造装置は、上述のインクジェット式記録ヘッド以外にも、エッチング工程を有する種々の電子機器、電子基板の製造に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)および(b)は、本発明の実施の形態におけるマスク製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるマスク製造装置の処理を示すフローチャートである。
【図3】(a)〜(d)は、本発明の実施の形態におけるマスクの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における応用例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図5】同、インクジェット式記録ヘッドの主要部一部断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 マスク製造装置、2 載置台(プラズマ源)、3 チャンバー、10 ガス供給装置、12 排気装置、13 電極(プラズマ源)、14 交流電源(プラズマ源)、A 原子層堆積膜、M マスク、S 基板、PL プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にマスクを形成する方法であって、
原子層堆積法を用い、前記基板上にマスク材料の原子を堆積させて原子層堆積膜を形成する第一工程と、
前記基板上の前記原子層堆積膜を選択的に酸化または窒化する第二工程と、
を有することを特徴とするマスクの製造方法。
【請求項2】
前記第一工程と、前記第二工程とを交互に複数回行うことを特徴とする請求項1記載のマスクの製造方法。
【請求項3】
前記第二工程は、前記基板上にプラズマを生成することにより行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスクの製造方法。
【請求項4】
前記プラズマは、13.56MHz以上の周波数の交流電圧により生成することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項5】
前記第一工程の後、前記第二工程の前に、前記基板の周囲の雰囲気を不活性ガスにより置換する工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項6】
前記第一工程および前記第二工程は、1000Pa以下の圧力で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項7】
前記第一工程および前記第二工程は、前記基板の温度が−150℃以上300℃以下の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項8】
前記第二工程において、前記基板の表面の電子温度を5eV以下とすることを特徴とする請求項3ないし請求項7のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項9】
前記マスク材料は、SiH、SiCl、SiCl、Si、Si2n+2(n>2)、Si−N結合を有するアミノシラン、アルキル・アルコキシド系の有機材料の中から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項10】
前記基板は、シリコンによって形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のマスクの製造方法。
【請求項11】
基板上にマスクを形成するマスク製造装置であって、
前記基板を載置する載置台と、前記載置台を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にガスを供給するガス供給装置と、前記チャンバー内を所定の圧力に維持する排気装置と、前記載置台上にプラズマを生成するプラズマ源と、を備え、
前記ガス供給装置により前記チャンバー内に第一のガスを導入する処理と、
前記排気装置により前記チャンバー内の前記第一のガスを排出する処理と、
前記ガス供給装置により前記チャンバー内に第二のガスを導入する処理と、
前記プラズマ源により前記第二のガスをプラズマ化する処理と、
を実行する制御部を備えていることを特徴とするマスク製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−62606(P2009−62606A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233874(P2007−233874)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】