説明

ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットとその製造方法、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材ならびに成形品

【課題】ミクロフィブリル化セルロース同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散されたミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を得ることができるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットとその製造方法、当該ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから得られるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材ならびに成形品を提供する。
【解決手段】本発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットは、ミクロフィブリル化セルロースおよび樹脂ナノファイバー不織布からなり、樹脂ナノファイバー不織布にミクロフィブリル化セルロースが分散付着していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットとその製造方法、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材ならびに成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の補強材としてミクロフィブリル化セルロース(Micro-Fibrillated Cellulose:MFC)を用いたMFC/樹脂複合材が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
このMFC/樹脂複合材では、MFCの補強材としての機能を発揮させるために樹脂中にMFCを均一に分散させることが重要である。すなわち、樹脂を繊維で補強する場合、一般に繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)が大きいほど補強効果は大きくなる。MFCはその原料となる植物単繊維と比較して2桁ほど大きいアスペクト比を有しているが、MFCが樹脂中で均一に分散せずにMFC同士が凝集した状態で存在すると、MFCが有する高いアスペクト比に由来する樹脂への高い補強効果を発揮させることができない。
【0004】
しかしながら、MFCは樹脂と複合化する工程において凝集し易いため、樹脂中にMFCが均一に分散した複合材を得ることは難しい。これは、以下に説明するように、MFCはナノオーダーの繊維(ナノファイバー)であること、およびMFCを構成する分子が極めて親水性の高いセルロースであることが主な要因となっている。
【0005】
一般にナノファイバーの3大効果として、(1)超比表面積効果、(2)ナノサイズ効果、(3)超分子配列効果が挙げられる。この中で繊維同士の凝集に主として関わるのは、超比表面積効果である。ナノファイバーはその極めて細い直径のために、単位質量当たりの表面積が極めて大きい。大きな表面積は繊維同士の相互作用を強め、繊維表面に極性の高い官能基を有する場合には、繊維同士を凝集し易い状況へ導く。そして、MFCは表面に極性の高い水酸基を多数有する化学構造を有している。
【0006】
すなわち、MFCは多糖のセルロースから構成されており、セルロースは多数の水酸基を有している。水酸基は極性の高い官能基であり、これを多数有するセルロースから構成されるMFCは非常に極性の高い親水性に富む成分となる。
【0007】
MFCは製造工程上、多量の水分と共存する形で生成される。共存する水分をMFCから除去すると、MFC同士が凝集し、互いに強固な水素結合を形成する。一旦水素結合により結びついたMFC凝集塊を、再度個々の繊維に分離することは極めて難しい。
【0008】
MFCを樹脂と複合化する際には、複合化の過程でMFCと共存する水分を除去することが必要になる。MFCと水分が共存したままでは水分がMFCの非晶領域に浸透し、非晶領域を構成するセルロース分子鎖の結合力を緩めるため、MFC自身の強度が低減される。その結果、樹脂に対する補強効果が弱まることになる。また、複合材中の水分が材料の使用過程で抜けると、材料が収縮し、乾燥に伴う内部応力が発生するなどの問題が発生する。
【0009】
MFCを樹脂と複合化する際には、MFCが樹脂中に分散した状態を保ちながら両者を複合化することが重要な鍵となる。しかしながら、MFCの凝集発生を阻止することは非常に難しい。これは、樹脂の大部分はMFCほどの大きな極性を有しないためである。MFCと樹脂を単純に混合するのみでは、MFC同士の凝集は避けられない。
【0010】
MFC/樹脂複合材の従来技術として、特許文献1には、混練機内にMFC原料の植物繊維と樹脂を同時に投入し、混練機内において植物繊維の解繊を進めながら、生成するMFCと樹脂を複合化することが提案されている。
【0011】
特許文献2には、MFC/樹脂複合シートを作製し、複数枚のMFC/樹脂複合シートを積層成形することによりMFC/樹脂複合材を作製することが提案されている。
【0012】
特許文献3には、MFCと熱可塑性樹脂との混合物を加熱溶融して成形することが提案されている。
【特許文献1】特開2005−42283号公報
【特許文献2】特開2003−201695号公報
【特許文献3】特開2006−312281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、MFCの含有率が高くなると、混練物の粘度が過剰に高くなり混練不可能な状態になると推測され、MFCの含有率が低い場合でないと適用が困難である。
【0014】
また、特許文献2に記載の方法では、MFC/樹脂複合シート間の層間剥離によりMFC/樹脂複合材が破壊するため、MFCの補強効果が十分に発揮されない。
【0015】
また、特許文献3には、MFCと熱可塑性樹脂を具体的にどのように複合化するかについての記載はなく、さらに、特許文献3に記載されている方法でMFCを樹脂中に均一に分散させることは困難である。
【0016】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、ミクロフィブリル化セルロース同士が凝集することなく樹脂中に均一に分散されたミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を得ることができるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットとその製造方法、当該ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから得られるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材ならびに成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0018】
第1に、本発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットは、ミクロフィブリル化セルロースおよび樹脂ナノファイバー不織布からなり、樹脂ナノファイバー不織布にミクロフィブリル化セルロースが分散付着していることを特徴とする。
【0019】
第2に、上記第1のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットにおいて、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースを樹脂ナノファイバー不織布に濾取した後、乾燥して得られたものであることを特徴とする。
【0020】
第3に、上記第1または第2のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットにおいて、シランカップリング剤を含有することを特徴とする。
【0021】
第4に、上記第3のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットにおいて、シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取した後、乾燥して得られたものであることを特徴とする。
【0022】
第5に、本発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材は、上記第1ないし第4のいずれかのミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを1枚で、または複数枚を積層して圧縮成形したものであることを特徴とする。
【0023】
第6に、本発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材は、上記第3または第4のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを裁断加工した後、混練してペレット状にしたものであることを特徴とする。
【0024】
第7に、本発明の成形品は、上記第6のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を用いて射出成形したものであることを特徴とする。
【0025】
第8に、本発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットの製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースを樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、ミクロフィブリル化セルロースを含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを含むことを特徴とする。
【0026】
第9に、上記第8のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットの製造方法において、シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、ミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
上記第1の発明によれば、樹脂材として樹脂ナノファイバー不織布を用いることで、凝集せずに解繊されたミクロフィブリル化セルロースが樹脂ナノファイバー不織布に均一に分散付着した混抄マットとすることができる。そのため、ミクロフィブリル化セルロースが有する高いアスペクト比に由来するミクロフィブリル化セルロースの補強材としての機能が発現され、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度を向上させることができる。
【0028】
上記第2の発明によれば、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させてミクロフィブリル化セルロースを樹脂ナノファイバー不織布に濾取し、次いで乾燥する方法でミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを作製することで、ミクロフィブリル化セルロースを凝集せずに解繊された形態で樹脂ナノファイバー不織布中に均一に分散付着させることができる。そのため、ミクロフィブリル化セルロースが有する高いアスペクト比に由来するミクロフィブリル化セルロースの補強材としての機能が発現され、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度を向上させることができる。
【0029】
上記第3の発明によれば、シランカップリング剤を含有しているので、シランカップリング剤によりミクロフィブリル化セルロースと樹脂との界面結合が強化され、上記第1および第2の発明の効果に加え、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0030】
上記第4の発明によれば、シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させてミクロフィブリル化セルロースと共にシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取し、次いで乾燥する方法でミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを作製することで、シランカップリング剤によるミクロフィブリル化セルロースと樹脂との界面結合の強化作用が十分に発現し、上記第3の発明の効果に加え、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0031】
上記第5の発明によれば、上記第1ないし第4の発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを圧縮成形することにより、樹脂ナノファイバーが溶融してミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット内部の空隙部に行き渡ると共に、ミクロフィブリル化セルロースも樹脂と連動して拡散し、樹脂中にミクロフィブリル化セルロースが凝集せずに解繊された形態で均一に分散する。そのため、ミクロフィブリル化セルロースが有する高いアスペクト比に由来するミクロフィブリル化セルロースの補強材としての機能が発現され、高い機械的強度を得ることができる。
【0032】
また、シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを圧縮成形することにより、ミクロフィブリル化セルロースに結合したシランカップリング剤と樹脂との相互作用により界面結合が強化され、さらに高い機械的強度を得ることができる。
【0033】
上記第6の発明によれば、上記第3または第4の発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを裁断加工したものを混練することで、樹脂ナノファイバーが溶融してミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット内部の空隙部に行き渡ると共に、ミクロフィブリル化セルロースも樹脂と連動して拡散し、樹脂中にミクロフィブリル化セルロースが凝集せずに解繊された形態で均一に分散する。また、シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを用いることで、混練によるミクロフィブリル化セルロースの凝集を十分に抑制することができるため、ミクロフィブリル化セルロースが有する高いアスペクト比に由来するミクロフィブリル化セルロースの補強材としての機能が発現され、さらにミクロフィブリル化セルロースに結合したシランカップリング剤と樹脂との相互作用により界面結合が強化される。そのため、得られたペレット状のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を原料とする成形品に高い機械的強度を付与することができる。
【0034】
上記第7の発明によれば、上記第6の発明のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を用いて射出成形したものであるので、凝集せずに解繊されたミクロフィブリル化セルロースが補強材として樹脂中に均一に分散し、さらにシランカップリング剤によりミクロフィブリル化セルロースと樹脂との界面結合が強化されており、高い機械的強度を得ることができる。
【0035】
上記第8の発明によれば、ミクロフィブリル化セルロースを凝集せずに解繊された形態で樹脂ナノファイバー不織布中に均一に分散させることができる。そのため、ミクロフィブリル化セルロースが有する高いアスペクト比に由来するミクロフィブリル化セルロースの補強材としての機能が発現され、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度を向上させることができる。
【0036】
上記第9の発明によれば、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液にシランカップリング剤を含有させ、ミクロフィブリル化セルロースと共にシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取し、次いで乾燥する方法でミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットにシランカップリング剤を導入することで、シランカップリング剤によるミクロフィブリル化セルロースと樹脂との界面結合の強化作用を十分に発現させることができ、上記第8の発明の効果に加え、ミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットから作製されるミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材の機械的強度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0038】
本発明に用いられる樹脂ナノファイバー不織布は、繊維直径が好ましくは1000nm以下、より好ましくは1〜500nm、さらに好ましくは50〜500nmの樹脂繊維である樹脂ナノファイバーからなる不織布である。樹脂ナノファイバー不織布の製法としては、特に制限はないが、例えば原料の熱可塑性樹脂を溶剤に溶解したものを用意し、これにエレクトロスピニング法を適用することにより均質な樹脂ナノファイバー不織布を得ることができる。製造条件を適宜に変更することにより、所望の繊維直径を有する樹脂ナノファイバーからなり所望の繊維密度と厚さを有する樹脂ナノファイバー不織布を得ることができる。
【0039】
樹脂ナノファイバーに用いる樹脂の種類は、特に制限はないが、熱可塑性樹脂が好ましい。また、樹脂ナノファイバーとして植物由来樹脂を用いた場合、植物繊維であるミクロフィブリル化セルロース(以下、「MFC」ともいう。)と共にMFC/樹脂複合マット全体として環境調和型の材料となり、樹脂ナノファイバーとして石油系樹脂を用いた場合と比べてMFC/樹脂複合マットの製造に要する石油系資源の量を低減することができる。従って、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の発生抑制に繋がると共に、枯渇が懸念されている石油系資源を節減する効果も期待できる。
【0040】
樹脂ナノファイバーに用いる植物由来樹脂の具体例としては、ポリ乳酸(Poly Lactic Acid:PLA)、ポリブチレンサクシネート、デンプン系樹脂などが挙げられる。特に、植物由来樹脂がポリ乳酸のように生分解性を有するものであれば、植物繊維であるMFCとの複合材も生分解性の高い材料となる。
【0041】
本発明に用いられるミクロフィブリル化セルロースの懸濁液(以下、「MFC懸濁液」という。)は、極性溶媒中にMFCを分散させたものである。極性溶媒としては、水が好ましい。
【0042】
MFCは表面に多数の水酸基を有するため、互いに凝集する力が大きい。これはMFC表面の水酸基同士が水素結合を形成しようとするためである。ただし、水などの極性溶媒を分散媒として用いた場合には、MFC間に極性溶媒が入り込み、MFC間の水素結合生成を抑制するため比較的分散し易い。
【0043】
極性溶媒として水を用いた場合、例えば、MFCを多量の水中で長時間攪拌することにより、MFCが水中に完全に分散したMFC懸濁液を得ることができる。
【0044】
本発明では、MFC懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、MFC懸濁液中のMFCを樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、MFCを含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを経てMFC/樹脂複合マットが製造される。
【0045】
このように樹脂ナノファイバー不織布を濾紙の代替として使用し、樹脂ナノファイバー不織布の不織布面にMFC懸濁液を流し込むことにより、MFCが樹脂ナノファイバーの形成する網目構造に取り込まれ、当該網目構造の表層部にMFCが膜状に分散付着したMFC/樹脂複合マットが生成される。MFC/樹脂複合マット内部は互いに連結した小孔が存在する形態となる。次いで、適宜に加熱しながら乾燥し水分を除去することにより、MFC/樹脂複合マットの製造が完了する。
【0046】
本発明における好ましい態様では、シランカップリング剤を含有するMFC懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、MFC懸濁液中のMFCおよびシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、MFCおよびシランカップリング剤を含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを経てMFC/樹脂複合マットが製造される。
【0047】
シランカップリング剤としては、例えば、(RO)3−Si−Xの構造式を有する化合物などを用いることができる。ここで官能基ROは、湿気などの水分により加水分解してシラノール基を生成するメトキシ基、エトキシ基などの加水分解性基であり、一方、官能基Xは、マトリックスを構成する樹脂相に配位し、化学結合の形成などを通じて界面結合を強化するビニル基、メタクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基などの官能基である。
【0048】
シランカップリング剤として、具体的には、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0049】
例えば、MFC懸濁液と、シランカップリング剤溶液とを別個に調製し、次いでMFC懸濁液とシランカップリング剤溶液とを混合し、攪拌後、予め作製しておいた樹脂ナノファイバー不織布の不織布面にこのシランカップリング剤を含有するMFC懸濁液を流し込むことにより、MFC懸濁液中のMFCとシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取する。これにより、MFCとシランカップリング剤が樹脂ナノファイバーの形成する網目構造に取り込まれたMFC/樹脂複合マットが生成される。次いで、適宜に加熱しながら乾燥することにより、水分が除去されると共に、MFCのセルロース水酸基とシランカップリング剤との結合反応が進行する。
【0050】
このようにして得られた乾燥後のMFC/樹脂複合マットを熱圧締または加熱混練することにより、MFCに結合したシランカップリング剤と樹脂との相互作用により界面結合が強化され、高い機械的強度を発現させることができる。
【0051】
一般に、シランカップリング剤による無機繊維補強材の表面処理法としては、シランカップリング剤を溶解した水溶液に無機繊維補強材を短時間浸漬した後、無機繊維補強材を取り出し、次いで加熱処理して無機繊維補強材とシランカップリング剤との結合形成を促進する浸漬加熱法(湿式);高速攪拌混合機の中に無機繊維補強材を入れ、シランカップリング剤を滴下し均一に分散させた後、乾燥する浸漬攪拌法(乾式);無機繊維補強材とマトリックス樹脂成分の混練時にシランカップリング剤を同時に添加して処理する直接法の3種類が知られているが、本発明のMFC/樹脂複合マットの製造においてシランカップリング剤の導入のためにこれらの従来の方法を直接適用した場合、MFCはナノファイバーであるため表面積が極めて大きく、さらにMFC同士が凝集し易いこともあり、MFC表面の多数の水酸基とシランカップリング剤とを均一に反応させることは困難であり、シランカップリング剤によるMFCと樹脂との界面結合の強化作用を十分に発現させることには困難が伴う。
【0052】
これに対して上記した本発明の方法によれば、シランカップリング剤の処理効果の最も高い浸漬加熱法を応用してその要素を適切に取り入れることで、MFC表面の多数の水酸基とシランカップリング剤とを均一に反応させることができ、シランカップリング剤によるMFCと樹脂との界面結合の強化作用を十分に発現させることができる。
【0053】
以上のようにして、凝集せずに解繊されたMFCが樹脂ナノファイバー不織布に均一に分散付着した混抄マット状のMFC/樹脂複合マットが得られる。なお、MFC/樹脂複合マットにおけるMFCと樹脂の配合比率や厚さなどは、樹脂ナノファイバーの繊維径、樹脂ナノファイバー不織布の空隙率、樹脂ナノファイバー不織布の厚さ、樹脂ナノファイバー不織布に流し込むMFC懸濁液の濃度および液量などを適宜に変更することにより制御することができる。
【0054】
このようにして得られたMFC/樹脂複合マットを1枚で、または複数枚を積層して圧縮成形することにより、板状またはシート状のMFC/樹脂複合材を得ることができる。圧縮成形時における熱圧締により、樹脂ナノファイバーが溶融してMFC/樹脂複合マット内部の空隙部に行き渡ると共に、MFCも樹脂と連動して拡散し、樹脂中にMFCが凝集せずに解繊された形態で均一に分散したMFC/樹脂複合材が得られる。
【0055】
また、シランカップリング剤を含有するMFC/樹脂複合マットを圧縮成形することにより、MFCに結合したシランカップリング剤と樹脂との相互作用により界面結合が強化され、高い機械的強度を有するMFC/樹脂複合材を得ることができる。
【0056】
また、MFC/樹脂複合材からなる成形品の形状の自由度を高めたい場合には、MFC/樹脂複合マットを裁断加工した後、混練し、ペレット状のMFC/樹脂複合材を作製することもできる。このペレット状のMFC/樹脂複合材を原料として射出成形することにより、所望の3次元形状を有する成形品を得ることも可能である。
【0057】
このように混練および射出成形工程を適用する場合には、シランカップリング剤の使用が必須となる。シランカップリング剤を用いない場合、混練過程においてMFC部と樹脂部が分離し、MFCの凝集塊が発生することにより成形品の機械的強度が低下してしまう。これに対してシランカップリング剤を化学結合させたMFC/樹脂複合マットを用いて混練する場合には、MFC間にシランカップリング剤が介在するためMFC同士の結合が抑制され、さらにシランカップリング剤による樹脂との相互作用形成能がMFC同士を引き離す方向に作用するため、MFCの凝集塊が発生することがなく、MFCによる高い機械的強度を発現させることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
ポリ乳酸(LACEA H−100、三井化学(株)製、以下「PLA」という。)の濃度を10質量%に調製したPLA/クロロホルム溶液を用い、(株)フューエンス社製の電界紡糸装置を用いて、ノズル−基板間距離12cm、印加電圧 20kV、押出量 50μl/minの条件にて、エレクトロスピニング法により、PLAナノファイバー不織布を作製した。
【0059】
PLAナノファイバー不織布中の繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、直径約300nmのPLAナノファイバーが生成していることが確認された。
【0060】
一方、市販の水分含有MFC(セリッシュ KY−100G、ダイセル化学工業(株)製、固形分 10質量%)を用いて、濃度0.2質量%のMFCを含有する水懸濁液を調製した。このMFC懸濁液をスターラー(HERACLES−20G、Koike Precision Instruments社製)により48時間攪拌処理し、水中にMFCが均一に分散する状態とした。
【0061】
上記のPLAナノファイバー不織布を、吸引瓶に接続したブフナーロート上に配置し、攪拌処理済のMFC懸濁液をPLAナノファイバー不織布に上面部より流し込んだ。なお、後述する圧縮成形後のMFC/PLA複合材におけるMFCとPLAの質量比、およびMFC/PLA複合材の厚さが所定の値となるように、PLAナノファイバー不織布の質量、使用するブフナーロートの平面寸法、およびPLAナノファイバー不織布に流し込むMFC懸濁液量を調整した。
【0062】
このようにして、MFC懸濁液中のMFCをPLAナノファイバー不織布に濾取した後、このMFCを含有する濾取後のPLAナノファイバー不織布を105℃で24時間乾燥し、水分を除去した。これにより、PLAナノファイバーとMFCとが互いに絡まりあった混抄マット状のMFC/PLA複合マットを得た。
【0063】
次いで、このMFC/PLA複合マットを成形用の型枠に配置し、成形温度200℃、圧締圧力2MPa、成形時間10分の条件にて熱圧締して圧縮成形を行い、MFCとPLAの質量比がMFC10質量%、PLA 90質量%である厚さ3mmのMFC/PLA複合材を得た。
【0064】
得られたMFC/PLA複合材から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
また、MFC/PLA複合材の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
<実施例2>
次の手順によりシランカップリング剤溶液を調製した。pH5.3の酢酸水溶液を十分に攪拌しながら、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、KBM403、信越シリコーン社製)を滴下した。攪拌は、液を跳ね上げない状態となる範囲内でできるだけ速い速度で行った。また、ゲル状物の生成が適切に抑制される程度に滴下時間を十分に長くした。シランカップリング剤の濃度が1.0質量%となるまでシランカップリング剤の滴下を行い、滴下終了後も60分間攪拌を継続した。
【0066】
このようにして得たシランカップリング剤溶液と、実施例1と同じ方法で調製した濃度0.2質量%のMFC懸濁液とを混合し、スターラーにてさらに3時間攪拌した。
【0067】
一方、実施例1と同じ方法で作製したPLAナノファイバー不織布を、吸引瓶に接続したブフナーロート上に配置し、上記において調製したシランカップリング剤を含有するMFC懸濁液をPLAナノファイバー不織布に上面部より流し込んだ。なお、後述する熱圧成形後のMFC/PLA複合材におけるMFCとPLAとシランカップリング剤との質量比、およびMFC/PLA複合材の厚さが所定の値となるように、PLAナノファイバー不織布の質量、使用するブフナーロートの平面寸法、およびPLAナノファイバー不織布に流し込むMFC懸濁液量を調整した。
【0068】
また、濾取操作の過程でシランカップリング剤の一部は濾液中に流れ出すが、最終的なMFC/PLA複合マット中のシランカップリング剤濃度が所定の値となるように、使用するシランカップリング剤溶液の量を決定した。
【0069】
このようにして、MFC懸濁液中のMFCおよびシランカップリング剤をPLAナノファイバー不織布に濾取した後、このMFCおよびシランカップリング剤を含有する濾取後のPLAナノファイバー不織布を105℃で24時間乾燥することにより、水分を除去すると共にMFCの水酸基とシランカップリング剤との化学結合形成を進行させた。このようにして、PLAナノファイバーとMFCとが互いに絡まりあった混抄マット状のMFC/PLA複合マットを得た。
【0070】
次いで、このMFC/PLA複合マットを成形用の型枠に配置し、成形温度200℃、圧締圧力2MPa、成形時間10分の条件にて熱圧締して圧縮成形を行い、MFCとPLAとシランカップリング剤との質量比がMFC10質量%、PLA 89質量%、シランカップリング剤 1質量%である厚さ3mmのMFC/PLA複合材を得た。
【0071】
得られたMFC/PLA複合材から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
また、MFC/PLA複合材の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
<実施例3>
実施例2で得られたシランカップリング剤を含有するMFC/PLA複合マットを二軸混練機に投入可能な大きさに裁断し、650gの短冊状の混練用試料を作製した。この混練用試料を二軸混練機に投入して混練し、混練処理後のコンパウンドをストランドにしてペレタイザーによりペレット化し、射出成形用原料としてのMFC/PLA複合材を得た。二軸混練機は、同方向回転完全噛合型でスクリュー径15mm、L/D=45のものを用いた。混練条件は、混練温度 100〜170℃(温度はフィーダー側より段階的に上昇するように設定した。)、吐出量500g/hr、スクリュー回転数 700rpmとした。
【0073】
このMFC/PLA複合材を用いて射出成形し、成形品を得た。射出成形条件は、シリンダー温度150〜180℃、金型温度 30℃、射出圧力 70kgf/cm、射出速度80%、保圧 60kgf/cm、保圧時間 15s、冷却時間 15sとした。
【0074】
得られた成形品から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0075】
また、成形品の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
<比較例1>
PLA(LACEA H−100、三井化学(株)製)をステンレス型枠内に配置し、圧縮成形機(ASFV−25、(株)神藤金属工業所製)を用いて真空下にて圧縮成形を行った。成形条件は温度200℃、圧力 1MPa、時間 10分とし、ステンレス型枠内を充填するために必要な量の1.1倍のPLAペレットを用いて圧縮成形した。
【0076】
得られた成形品から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
<比較例2>
押出方向に沿って順にセグメント1〜セグメント8までの8セグメントを有する二軸混練機を用いて、水分含有MFC(セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業(株)製、固形分 10質量%)50gと、PLA(LACEAH−100、三井化学(株)製)450gとの混合物をセグメント1に投入して混練を行った。混練条件は、混練温度 180℃、送り速度 3.7kg/hr、スクリュー回転速度 100rpmとし、セリッシュと共存する水分を水蒸気としてセグメント3とセグメント4から除去した。
【0077】
混練処理後のコンパウンドをストランドにしてペレタイザーにより裁断し、長さ5mmのペレットを調製した。得られたペレットを105℃のオーブン(PV−220、エスペック(株)製)で恒量に達するまで乾燥した。
【0078】
このペレットを成形用の型枠に配置し、成形温度 200℃、圧締圧力 2MPa、成形時間 10分の条件にて熱圧締して圧縮成形を行い、MFC/PLA複合材を得た。
【0079】
得られたMFC/PLA複合材から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
また、MFC/PLA複合材の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
<比較例3>
比較例2で用いた8セグメントを有する二軸混練機を用いて、水分含有MFC(セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業(株)製、固形分 10質量%)50gと、PLA(LACEAH−100、三井化学(株)製)445gと、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、KBM403、信越シリコーン社製)5gとの混合物をセグメント1に投入し、比較例2と同じ条件にて混練、水分除去を行い、ペレットを調製した。このペレットを用いて比較例2と同様にして圧縮成形を行い、MFC/PLA複合材を得た。
【0081】
得られたMFC/PLA複合材から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
また、MFC/PLA複合材の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
<比較例4>
実施例1で得られたシランカップリング剤を含有しないMFC/PLA複合マットを二軸混練機に投入可能な大きさに裁断し、650gの短冊状の混練用試料を作製した。この混練用試料を二軸混練機に投入して混練し、混練処理後のコンパウンドをストランドにしてペレタイザーによりペレット化し、射出成形用原料としてのMFC/PLA複合材を得た。二軸混練機は、同方向回転完全噛合型でスクリュー径15mm、L/D=45のものを用いた。混練条件は、混練温度 100〜170℃(温度はフィーダー側より段階的に上昇するように設定した。)、吐出量500g/hr、スクリュー回転数 700rpmとした。
【0083】
このMFC/PLA複合材を用いて射出成形し、成形品を得た。射出成形条件は、シリンダー温度150〜180℃、金型温度 30℃、射出圧力 70kgf/cm、射出速度80%、保圧 60kgf/cm、保圧時間 15s、冷却時間 15sとした。
【0084】
得られた成形品から試験片を切り出し、試験片の曲げ弾性率、曲げ強さ、およびアイゾット衝撃値をASTM規格に準拠した試験により測定した。その結果を表1に示す。
【0085】
また、成形品の拡大像を観察し、PLA中でのMFCの分散状況を把握した。
【0086】
【表1】

【0087】
表1より、実施例1で作製したMFC/PLA複合材は、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値のいずれも高いものであった。また、MFC/PLA複合材においてMFCがPLA中で凝集塊を形成することなく均一に分散し、MFC同士がウェブ状構造を形成していることが確認された。
【0088】
実施例1では、シランカップリング剤の配合によりMFCとPLAとの界面結合を強化していないにも関わらずMFCが高い補強効果を示した一因として、MFC/PLA複合材においてMFCがPLA中で凝集塊を形成することなく均一に分散し、MFC同士がウェブ状構造を形成していることが挙げられる。すなわち、MFCとPLAとの界面結合が弱くとも、MFCが単独でPLA中より引き抜かれる状況は発生せず、MFCが一体となって負荷を受けるために高い補強効果を示したと考えられる。
【0089】
実施例2では、シランカップリング剤の配合により、MFC/PLA複合材の強度性能は実施例1に比べてさらに向上した。また、MFC/PLA複合材においてMFCがPLA中で凝集塊を形成することなく均一に分散し、MFC同士がウェブ状構造を形成していることが確認された。実施例2では、MFCによるウェブ状構造の形成に加え、シランカップリング剤の配合によりMFCとPLAとの界面結合が強化されたことがMFC/PLA複合材の強度性能を大幅に向上させたものと考えられる。
【0090】
実施例3では、シランカップリング剤を配合した実施例2のMFC/PLA複合マットは混練しても混練過程においてMFCの凝集が発生しないことを示した。一方、シランカップリング剤を配合しない実施例1のMFC/PLA複合マットを混練した比較例4では、実施例3に比べてMFC/PLA複合材の強度性能が大幅に低下した。これらの結果より、実施例3では、シランカップリング剤の配合により混練過程でのMFC間の凝集が抑制されてMFC/PLA複合材に高い強度性能が発現したものと考えられる。
【0091】
一方、PLAとMFCを複合材の作製に通常用いられる二軸混練機に投入し混練した比較例2では、PLA単体の比較例1に比べて曲げ弾性率の向上は認められるものの、曲げ強さとアイゾット衝撃値は寧ろ低下した。また、MFC/PLA複合材においてPLA中にMFCの凝集塊が多数形成されていることが確認された。すなわち、混練過程において水分を除去する際にMFC同士が互いに引き寄せ合うためにMFCがPLA中に均一に分散しなかったものと考えられる。
【0092】
比較例3では、比較例2と同様の方法により、さらにシランカップリング剤を投入し混練を行ったが、MFC/PLA複合材の強度性能の向上は認められなかった。また、比較例2と同様に、MFC/PLA複合材においてPLA中にMFCの凝集塊が多数形成されていることが確認された。この結果より、MFC/PLA複合材中でMFCが凝集している場合には、シランカップリング剤によりMFCとPLAとの界面結合の強化を図っても強度性能の向上には繋がらないことが分かる。
【0093】
以上より、MFCと樹脂ナノファイバー不織布とを本発明の方法に従って複合化することにより、樹脂中にMFCが均一に分散し、機械的強度に優れたMFC/樹脂複合材を得ることができることが明らかとなった。
【0094】
さらに、シランカップリング剤を実施例2に示したような適切な方法でMFC/樹脂複合材に導入することにより、MFCと樹脂との界面結合が強化され、MFC/樹脂複合材の機械的強度がより向上することが明らかとなった。そしてこのシランカップリング剤を導入したMFC/樹脂複合材は混練処理を経てもMFCの凝集が発生せず、混練処理後にペレット状に加工し射出成形することで、機械的強度に優れた3次元形状の成形品を得ることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化セルロースおよび樹脂ナノファイバー不織布からなり、樹脂ナノファイバー不織布にミクロフィブリル化セルロースが分散付着していることを特徴とするミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット。
【請求項2】
ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースを樹脂ナノファイバー不織布に濾取した後、乾燥して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット。
【請求項3】
シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット。
【請求項4】
シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取した後、乾燥して得られたものであることを特徴とする請求項3に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マット。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを1枚で、または複数枚を積層して圧縮成形したものであることを特徴とするミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材。
【請求項6】
請求項3または4に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットを裁断加工した後、混練してペレット状にしたものであることを特徴とするミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材。
【請求項7】
請求項6に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合材を用いて射出成形したものであることを特徴とする成形品。
【請求項8】
ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースを樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、ミクロフィブリル化セルロースを含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを含むことを特徴とするミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットの製造方法。
【請求項9】
シランカップリング剤を含有するミクロフィブリル化セルロースの懸濁液を樹脂ナノファイバー不織布に通過させることにより、ミクロフィブリル化セルロースの懸濁液中のミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を樹脂ナノファイバー不織布に濾取する工程と、ミクロフィブリル化セルロースおよびシランカップリング剤を含有する濾取後の樹脂ナノファイバー不織布を乾燥する工程とを含むことを特徴とする請求項8に記載のミクロフィブリル化セルロース/樹脂複合マットの製造方法。

【公開番号】特開2009−263495(P2009−263495A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114543(P2008−114543)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】