説明

レーザ加工機用機上計測装置

【課題】レーザ加工用光源の微弱光を測定用光源に用いたレーザ加工機用機上計測装置を提供する。
【解決手段】機上計測装置は、台座上に移動自在に設けられた機上計測装置用ステージ6を備え、機上計測装置用ステージ6には、微弱連続光を分光して基準光軸とする分光手段及び前記基準光軸により機上測定装置の位置決めを行う位置決め機構2と、微弱連続光の加工対象物7からの反射光を分光する分光手段4、5及び前記分光された反射光により加工対象物の表面形状の変位を検出する変位検出機構3とを備え、加工時には機上計測装置用ステージ6を移動して加工用レーザ光から前記両分光手段4、5を退避させ、測定時には機上計測装置用ステージ6を移動して微弱連続光からの前記基準光軸を用いて位置決め機構2により機上計測装置用ステージ6を照射光軸に対して位置決めし、変位検出機構3により加工対象物7の表面形状の変位を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機に関し、特に、レーザ加工機用の機上計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工において、例えば、製造した半導体集積回路の配線ショート欠陥を、短パルスレーザで除去するレーザリペア加工は、製造ミスによりそのままでは使用できない製品を短時間の作業で修復することが可能であるため、その重要性は大きい。近年、ますます高密度化する半導体産業の現状にあわせ、レーザリペア加工技術も高精度化することが望まれる。
加工対象となる配線の場所を特定し、加工量を精密に評価するためには、従来用いられてきた顕微鏡下での観察だけではなく、機上計測技術を適用した計測装置を加工システムに組み込むことが望ましい。
【0003】
レーザ加工機において、高速で機上計測を行うためには、光を用いた非接触測定が効果的である。これまでの一般的なレーザ加工機用の機上計測装置のアイディアとしては、特許文献1、2のように、加工用レーザとは別の測定用光源をシステムに付加し、加工した形状を測定する例が挙げられる。
一方、特許文献3〜6のように加工光を利用する場合であっても、加工表面あるいは加工状態を観察するためのモニタリング機能を持たせたものに留まり、表面形状変位を数値的に測定する手法には適用されておらず、また、加工時に計測装置を一時退避させるものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−245059号公報
【特許文献2】特開2008−209299号公報
【特許文献3】特開平5−228671号公報
【特許文献4】特開2001−179470号公報
【特許文献5】特開2007−54881号公報
【特許文献6】特開2008−290117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ微細加工機による機上計測において、加工光と測定光の加工対象上の照射点を一致させなければ、加工位置と測定位置の誤差を生じてしまう。この誤差は本来意図しない点を誤って加工してしまう原因になる。予め調整を済ませている場合であっても、経時的あるいは加工熱によって照射点がずれる可能性があり、頻繁な調整を必要とするという問題点があった。そのため、加工光と測定光に別の光源を利用するより、加工用レーザ光の微弱連続光を光源として測定を行った方が有利である。
一方、さらなる高精度測定を行うためには、加工対象近傍に計測装置を設置することが望ましいが、加工時に数百MW/cmに達するといわれるリペア加工レーザにより、計測装置が容易に破壊されるおそれがある。破壊を避けるためには、形状測定を行った後、加工する前に計測装置を一度退避、加工後に再度この装置を設置して測定評価する必要がある。ところがこの場合、計測装置の正確な位置決めを行わなければ測定のゼロ点の誤差が生じ、加工前後における加工量の高精度な比較測定を行うことができないという問題点があった。
本発明の目的は、上記問題点を解決し、加工と計測用光源の同一化によって加工点と測定点の位置誤差をなくしながら、加工時の強力なレーザ光による計測装置の破壊を避け、かつ加工点近傍における高精度形状測定を行うことが可能となるレーザ加工機用機上計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ加工機用機上計測装置は、加工用ステージに載置した加工対象物にレーザ光源からの加工用レーザ光を照射して加工するレーザ加工機に用いる機上計測装置において、前記レーザ光源は、加工用レーザ光と測定光として用いる微弱連続光とを同一光源から選択的に同一照射光軸上に照射するものであり、機上計測装置は、台座上に移動自在に設けられた機上計測装置用ステージを備え、機上計測装置用ステージには、微弱連続光を分光して基準光軸とする分光手段及び前記基準光軸により機上測定装置の位置決めを行う位置決め機構と、微弱連続光の加工対象物からの反射光を分光する分光手段及び前記分光された反射光により加工対象物の表面形状の変位を検出する変位検出機構とを備え、加工時には機上計測装置用ステージを移動して加工用レーザ光から前記両分光手段を退避させ、測定時には機上計測装置用ステージを移動して微弱連続光からの前記基準光軸を用いて位置決め機構により機上計測装置用ステージを照射光軸に対して位置決めし、変位検出機構により加工対象物の表面形状の変位を検出することを特徴とする。
さらに、本発明は、レーザ加工機用機上計測装置において、上記台座は、加工用ステージ上に設けられていることを特徴とする。
さらに、本発明は、レーザ加工機用機上計測装置において、上記台座は、加工用ステージ以外の固定部分に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
高度に集積化された半導体をリペア加工する際、事前の測定によって加工場所を選定、その後加工を行い再度測定評価する必要がある。その際、意図した点と異なる場所に加工レーザを照射してしまうと、隣接する回路を誤って破壊してしまう可能性がある。加工光と別光源の測定光を用いる従来技術の場合、この誤差をなくすためには頻繁な調整が必要であった。
本発明では、加工用光源の微弱光を測定用光源に用いることから、加工点と測定点の位置誤差が発生せず、これらの調整が不要である。また加工対象に近い場所で測定を行うため、空気揺らぎなどによる影響を受けにくく、高精度な測定が可能となる。また、加工・計測用光軸を基準として機上計測装置自体の位置決めを行うことができるため、加工前後の測定のゼロ点誤差が発生せず、加工量の精密な測定評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例の概要を説明する図である。
【図2】図1の実施例における、測定時の概観を示す図である。
【図3】図1の実施例における、計測装置を退避した加工時の概観を示す図である。
【図4】本発明の他の実施例の概要を説明する図である。
【図5】実験システムの概観図。
【図6】位置検出の結果のグラフ(センサをx軸方向に移動)。
【図7】位置検出の結果のグラフ(センサをy軸方向に移動)。
【図8】再位置決めの結果のグラフ。
【図9】オンマシン測定システム出力結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0009】
(実施例1)
図1に本発明の一実施例を示す。加工対象である集積回路7は加工用ステージ8上に設置されている。加工用レーザ照射口1とステージ8の間に機上計測装置2〜6が設置される。この機上計測装置は位置決め機構2、変位検出機構3、ビームスプリッタ4、5、機上計測装置用ステージ6からなる。
図2に、本実施例の測定時の概観を示す。
加工前後に集積回路7の表面形状を測定するときは、まず加工用レーザを微弱連続光にして出力を弱めた上で、ビームスプリッタ4によって分光された光を基準光軸にして、位置決め機構2の受光素子の出力を元に機上計測装置の位置決めを行う。受光素子には4分割フォトダイオードやPSD、CCDなど、光スポットの位置を検出できるものを使用する。その後、集積回路7からの反射光をビームスプリッタ5で折り曲げて変位検出機構3に導き、この機構中の変位検出用光学系と受光素子により表面形状の変位を測定する。図1の実施例では、シリンドリカルレンズと2つの凸レンズによる非点収差法を測定原理としているが、三角法やナイフエッジ法で測定してもよい。
ステージ8を動かして集積回路7の表面をスキャン測定する場合においても、位置決め機構2とステージ6を用いて光軸に追従させることで表面形状の変位を測定することが可能である。
図3は加工時の概観を示しており、機上計測装置用ステージ6により機上計測装置を退避させ、加工光による受光素子の破壊を避ける。
【0010】
(実施例2)
図4に、本発明の他の実施例を示す。この実施例においては、機上計測装置をステージ8以外の固定部分に設置した点で、図1の実施例と異なっており、それ以外の部分は図1の構成と同様である。図4に示すように、機上計測装置をステージ8以外の固定部分に設置する場合は、加工前後に光軸を基準とした位置決めを行うだけで表面のスキャン測定は可能となり、ステージ6の追従動作は不要となる。
【0011】
本発明の機上計測装置における再位置決めの再現性を確認するために、図5に示す実験システムを組み上げて、以下の実験を行った。
加工用パルスレーザの微弱連続光の代わりにHe−Neレーザ(メレスグリオ05LHP171,波長632.8nm,出力7.0mW)を使用した。レーザヘッド直下に焦点距離200mmの凸レンズを設置し、試料表面上に焦点を結ぶよう高さを調整している。オンマシン測定システム本体はTholabsレンズチューブを利用して構築した。受光素子の4分割フォトダイオードは浜ホトS4349を使用している。
x−yステージは粗動用ステッピングモータステージ(シグマ光機SGSP20−20)上に圧電アクチュエータ駆動微動ステージを設置した。このステージの上に機上計測装置が固定されている。ステージの動きはレーザリニアエンコーダ(Renishow RLE10−DX−XG)で測定し,センサシステムの特性評価に利用した。
zステージ(シグマ光機OPT−MIKE)上に試料としてアルミ蒸着平面ミラーを乗せ、zステージの駆動で模擬的な形状変位を与えた。
本来の加工システムでは、試料とレーザ光とのx−y面内相対変位を与えるため、さらに平面駆動ステージが必要である。しかし本実験では、機上計測装置の基本特性を調べることが目的であるため、この部分は省略した。
【0012】
図6、7は光軸を基準にして機上計測装置をx−y方向にそれぞれ駆動したときの各軸方向検出変位を調べたものである。図6はセンサをx軸方向に移動させたときの出力、図7はy軸方向に移動させたときのものをそれぞれ3回繰り返したものを示してある。4分割PDの各出力を測定用パソコンに取り込み、プログラム上で各軸方向の移動量を計算した。変位にしてサブミクロンオーダーの繰り返し性があることが確認できる。この関係を用いれば、レーザが試料表面をスキャンする際、横方向の試料位置を測定することが可能である。
【0013】
図8はレーザによるリペア加工前後の状況を想定し、機上計測装置の再位置決め実験を行った結果である。
ここでは粗動ステージを用いて機上計測装置を一度光軸から5mm移動させてから再び元に戻し、センサの位置検出センサ出力が一定になるようステージをフィードバックさせることを繰り返した。そのときのレーザリニアエンコーダ読みのずれをプロットしてある。x方向、y方向ともに±0.7μm以内の再現性で計測装置を固定されることが確認できた。
機上計測装置の出力を調べた結果を図9に示す。光学系の調整不足とz軸ステージの送り精度が良好でないといった理由により、出力の線形誤差がやや目立つが、本センサで表面形状の測定が可能であることは確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
以上では、本発明のレーザ加工機用機上計測装置をICリペア装置に組み込むことで、高精度な計測システムの実現手段を提供できることを説明したが、一般のレーザ加工機に本発明を適用することで、安価に高精度機上計測手段を提供することも可能となる。
さらに紫外線レーザなど、不可視光レーザであるためにカメラによる照射光観察ができない場合であっても、本発明によって加工点と一致した機上計測が可能であるため、高精度なリペア加工を実現できる。
【符号の説明】
【0015】
1 加工用レーザ照射口
2 位置決め機構
3 変位検出機構
4 位置決め機構用ビームスプリッタ
5 変位検出機構用ビームスプリッタ
6 機上計測装置用ステージ
7 集積回路(加工対象)
8 加工用ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用ステージに載置した加工対象物にレーザ光源からの加工用レーザ光を照射して加工するレーザ加工機に用いる機上計測装置において、
前記レーザ光源は、加工用レーザ光と測定光として用いる微弱連続光とを同一光源から選択的に同一照射光軸上に照射するものであり、
機上計測装置は、台座上に移動自在に設けられた機上計測装置用ステージを備え、
機上計測装置用ステージには、微弱連続光を分光して基準光軸とする分光手段及び前記基準光軸により機上測定装置の位置決めを行う位置決め機構と、微弱連続光の加工対象物からの反射光を分光する分光手段及び前記分光された反射光により加工対象物の表面形状の変位を検出する変位検出機構とを備え、
加工時には機上計測装置用ステージを移動して加工用レーザ光から前記両分光手段を退避させ、測定時には機上計測装置用ステージを移動して微弱連続光からの前記基準光軸を用いて位置決め機構により機上計測装置用ステージを照射光軸に対して位置決めし、変位検出機構により加工対象物の表面形状の変位を検出することを特徴とするレーザ加工機用機上計測装置。
【請求項2】
前記台座は、加工用ステージ上に設けられていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工機用機上計測装置。
【請求項3】
前記台座は、加工用ステージ以外の固定部分に設けられていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工機用機上計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−58118(P2012−58118A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202682(P2010−202682)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】